星辰の巫女たち 第10話

第10話

 かつて邪神を崇めた神殿。いまその祭壇で、復活した邪神の前に巫女が跪いていた。
 
 星の巫女プリムローズは幸せそのものの顔でタローマティを見上げていた。
 うれしい。ご主人様がわたしをしもべとして認めてくださった。愚かにもご主人様に楯突こうとしたわたしを寛大にも受け入れてくださった。
 もっとご主人様のお体に触れたい……。
 その疼きを収めないと、どうかなってしまいそうだった。プリムローズは膝をついたままタローマティの脚に抱きついた。ふくよかな頬とさらさらの髪がタローマティの膝をくすぐる。
「ああ……ご主人様……ご主人様……」

 タローマティがプリムローズの肩を掴み、立ち上がるよう促す。彼女ははにかみながら立ち上がり、タローマティの胴に自分の体を押し付けた。
「んっ……」
 巫女装束越しに形の良い胸を当て、顔を厚い胸板にうずめる。
 
 幸せ……。夢みたい……。
 ご主人様がこんなに近くにいらっしゃるなんて……。
 プリムローズは高まる鼓動を押さえられず、その音が主人に聞こえやしないか心配した。
 最初、彼女は恥じらいの表情のまま顔を俯けていたが、すぐに我慢しかねたようにタローマティの胸板に喉を擦り付ける。少しでも主人と密着間を得たかった。胸の疼きは、収まるどころかさらに強くなる一方だ。
 彼女は胸板のあらゆるところに頬を触れさせんばかりに顔を擦りつけ、あらゆるところを撫でまわした。

 ただし、その様子はどこか、恋人の戯れというよりも、まるで幼い子供が親に甘えるようであった。
 その通り。幼くして父に死に別れ、父に存分甘えることができなかったという欲求不満を長年持っていたプリムローズは、その補償行為をいまタローマティに求めたのだった。父に抱いていた思慕のすべてがタローマティにそのまま転移していた。
 本来なら父に向けるはずだった愛情を、プリムローズは嬉々として父の仇に注いだ。

「いい子だ、プリムローズ。ようやく素直になったな」
 ほめられた。
 ご主人様にほめられた……!
 タローマティは自らの腕でプリムローズの背中を抱き寄せる。
「ぁ……」
 ご主人様がわたしの背中に手を回している、ご主人様が抱いてくださっている、ご主人様が、わたしを、求めてくださっている!
 どんどん気持ちが高まっていく。鼓動はさらに早くなり、身体は熱くなり、頬は緩みっぱなし。タローマティに体を支えられていなければ眩暈のためにその場に倒れていただろう。プリムローズは全身の筋肉を弛緩させたまま主の抱擁に身を任せようとした、そのとき――。
「お前は優れた娘に成長した。お前の父親は類いまれな種を残したな」
 幸福そのものだったプリムローズの顔が不意に曇った。

「あの、畏れながらご主人様。あの男のことを話すのはおやめになってくださいませんか?」
「なぜだ?」
「だって……あの男のことを考えると、わたし、ご主人様の前でひどく醜い顔をしてしまいそうなんですもの」
 父はプリムローズの中で忌むべきものの極みだった。その言葉を口にするだけで胃液が逆流するようなむかつきを感じた。

 父。最悪の存在。唾棄すべき敵。彼女の人生の最大の汚点。
 もしご主人様が殺してくださらなかったら、わたしは今もなおあの男に縛られたままだったかもしれなかった。
 ああ、いやだ……。
 可能性の世界とはいえ、あの男といまだ一緒にいる自分がありえると思うと虫唾が走った。

「ご主人様、あんな男のことは忘れましょ!」
「そうだな。あの男のことを話すよりも、今はやることがある」
「――え」
 タローマティは不意に彼女の唇を奪った。
「ぅん……ぁ」
 突然の口付けに彼女は反射的に身を強張らせた。が、それも一瞬。すぐに全身の力が抜け、タローマティに抱かれるまま両手をだらんと垂らした。
 邪神の舌は巫女の唇を舌でこじ開け、粘液に覆われた敏感な部分を舌で愛撫する。唇の裏、歯茎。舌。喉の奥。舌でプリムローズの口を蹂躙し、唾液を流し込む。
「……ぁんっ……」
 プリムローズの鼻から甘い息が漏れ始める。食物を摂取するための器官としか思っていなかった口腔が、犯されるための性対象となり、主人の愛撫に従順な性感帯になっていく。その喜びに彼女の体はひとりでに震えた。
 最初戸惑っていたプリムローズはやがて積極的に自分から舌を絡ませはじめた――というわけにはいかなかった。彼女は一切の思考を停止させ、体の動かし方さえ忘れた。それほどタローマティの口付けは彼女にとっての大事件だったのだ。蕩けた頭で、彼女はクリームになって溶けていくような錯覚を味わっていた。
 ようやく体が動くようになって彼女が最初にしたことは、注ぎ込まれる唾液をこくこくと飲み干すことと、主人の舌が愛撫をしやすいようにより口を開くことだった。やがて、自分の舌をあわせて動かすことも覚え、たどたどしい動きで舌をより奥に招き入れようとする。
 だが初めてなので要領がわからず、もどかしい思いをしては、何度もすまなそうにタローマティのほうを見上げる。
「ん……あ……はぅ……ぁ……く……」
 プリムローズは涙目になりながらも懸命に舌を操ろうとした。鼻にかかった声に混じって、ぴちゃぴちゃと互いの粘液の音が響く。
 口付けなどしたことがない初心な少女がいじらしく舌戯に答えようとするさまは健気だった。

 長いディープキスを終えると、今まで無邪気さがあったプリムローズの様子が明らかに変わった。
 親しみよりも、恥じらいのほうが勝っているようだ。
 さっきまで貪るようにタローマティの目を見ていたのに、いまや目を伏せて決して顔を正視しようとしなかった。
 どうしたの、わたし。ご主人様のお顔が見たいのに、目を合わせられない……。恥ずかしい……。自分がみっともない顔をしていないか恥ずかしい……。
 相変わらず胸は高鳴っているが、それは嬉しさよりも切なさが勝っている。
 少女は、恋する乙女になった。
 ご主人様……ご主人様……。
 子の親への愛情に加え、恋人としての愛情が今の口付けによって芽生えたのだ。
 陰鬱な憎しみと恋の情欲は紙一重だ。10年間憎んだ分の憎悪がそのまま、タローマティを熱烈に恋い慕う感情に裏返っていた。

 タローマティは、プリムローズをからかうために具体的な思考を流し込む。
『ご主人様に、わたしの純潔をもらっていただきたい……』
 その思いつきに、プリムローズは顔を赤らめる。
 いやだ。わたしったら。いやらしい。
 彼女はいっそう顔を伏せ恥じ入る。
 女の方からそんなはしたないこと言い出すなんて、ご主人様に呆れられちゃうわ。……もちろん、して、いただきたいけど、我慢しなくちゃ……。そ、そうよ。こういうのは、きっと時間をかけて、お互いのことをよく知りながら、一段ずつステップを踏んでいくものだって聞いたわ。いきなりだなんてあるわけないじゃない。
 初心な少女は自分の卑猥な想像に顔を赤くするのだった。タローマティはそれを見て、さらなる嗜虐心を掻き立てられたように笑う。
「プリムローズ。俺はお前を立派に育てた父親に感謝をしたいがな」
「な、何をおっしゃいます! ご主人様が人間風情に感謝などする必要はありません! それもよりによって、あのクズ男なんかに!」
 彼女はなぜ主人がまたも父の話題を振るのか理解できなかった。
「そういきり立つな。あの男はお前が考えているよりもずっと優秀な人間だったぞ」
「そんな!」
 プリムローズの中から、マグマのような怒りがこみ上げてきた。最も愛すべき存在の主人が、最も憎むべき父の弁護をするということが信じられなかった。父という存在が、この世でもっとも高貴な主人の心に何らかの位置を占めているなど許せなかった。
「そんなことは断じてありません! あの男は犬畜生以下です! ご主人様のようなお方があんな男にお構いになるべきではありません!」
 プリムローズは口にすればするほど父への怒りがいや増すのを感じた。父の姿を、顔を、声を思い出すだけで腹が煮えくり返るのを抑えきれない。
 ああ、穢らわしいわ。子供のころ、あの男と同じスープを飲み、あの男と同じ水で衣服を濯ぎ、あの男に身体を触れられていたなんて……。いや……。思い出しただけで吐き気がする。この忌々しい過去を払拭できたらどんなにいいかしら。もし過去に戻れるならば今すぐにあの男を矢で射殺してやりたい……。
「あ……。も、申し訳ありません、わたしったらついカッとなってしまって……」
「それほどお前は父が憎いか」
「はい。身を焼くほどに」

 タローマティへの怒りが恋愛感情に裏返ったように、彼女の父に対する思慕は、強い憎しみに裏返っていた。
 どんなに焦がれても手に入らない、愛する人への憧憬は、タローマティに与えられたきっかけによって反転し強い憎悪になった。

「奴はお前を守るために我が身を捨てた勇敢な戦士だったぞ。プリムローズ、『なぜ』父がそんなに憎い?」
「なぜって――」
 プリムローズの口が止まる。
 ――どうして? そういえば、どうしてだったかしら。
 いつからわたしは実の父親が嫌いになったの? そういえば、どうしてわたしはあんな憎い男のために巫女の修行をしたりなんかしたの? どうして毎日祈りをしてきたの?
 プリムローズの記憶が錯綜してきた。大雑把な暗示では、やはり齟齬が生まれている。
 そこでタローマティは、より具体的な思考をプリムローズに流れ込む。
 その偽りの記憶は、彼女にとってまぎれもない本物の記憶として上書きされる。

『あの男は、まだ幼かったわたしを、強姦しようとしたのよ』

 不意に、プリムローズの目がカッと目を見開かれる。
 この瞬間、彼女は思い出したのだ。
「あ、あ、ああ、あああ………………」
 プリムローズは全身を震わせ、床に倒れそうになるところをかろうじてタローマティの胸にすがる。
「お、思い出しました……。わ、わたしっ……ああ、あ、わたし…………っ!」
 プリムローズの膝ががくがく震え、瞳孔が開かれた。
「落ち着けプリムローズ。何があったか、話してごらん」
「ご、ご主人様……っ! わ、たし……あの男に……。あ……の……男は、まだ幼かったわたしを……わたしを……! ………………わ、わたしを……お……か……そと……と……たのです」
 そう口にすると、プリムローズの中に偽りの記憶がたちまち実体化し、どんどん精密に思い出されてきた。

 手足を押さえつけられ、下着をナイフで刻まれ、裸にされて幼い乳首を舐められた。
 体全体に父のザラザラした舌が這った。股間も舐められた。
 厭らしく欲情した息が肌に吹きかけられた。
 父の獣欲に歪んだ顔。すえた男の体臭。黒光りする醜い男性器。
 ああ、あれを、舐めさせられた。口に咥えさせられ、父が満足するまで、ずっと……。そして白く濁った悪臭の液が、喉の中に吐き出された。
 あの男はそれだけでは飽き足らず、わたしの股間に――を――ようとした。
「い、いやああぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」
 プリムローズは気がふれたように声を裏返らせた。

 こんな記憶、どうして今まで忘れていたのだろう。
 プリムローズはタローマティに抱きすがる。震えが止まらない。目から涙がとめどなく流れる。
 タローマティは、赤子のように泣きじゃくる彼女の背中を優しく撫でてやる。
「泣くなプリム。あの男はもういない。だろう?」
「はい……ご主人様……ご主人様……」
 タローマティに撫でられると、胸が張り裂けるほどのショックが嘘のように癒されていく。

 ああ……。ご主人様はなんてお優しいんだろう。
 泣き腫らし、赤くなった瞳でタローマティを見上げた。
 安心できる。ご主人様に抱いていただくと、あんな苦しいことを思い出したあとでも、とても気持ちが落ち着く。ご主人様なら、わたしの心と身体につけられた傷を、すべて癒してくれそうな気がする……。

 タローマティは、彼女に最後の感情を流し込む。
『いますぐご主人様に、この身体を清めてほしい……』

 やがてプリムローズは決意を固めたような面持ちになり、巫女装束の袖で涙を拭う。涙で腫れた目を真剣そのものにしてタローマティに向き直った。
「お願いします……。はしたない女とお思いになるでしょうが……ご主人様……この身体を清めてください……。あの男の穢らわしい匂いを、わたしの中から拭い去ってください……」
 プリムローズの目には、人生を賭けているような覚悟があった。
 この申し出が受け入れられ自分の過去を清算できるか。それとも、主人に淫乱な女と思われて見放されるか。2つに1つだった。もし申し出が断わられたら、自殺でもしかねないといった様子だった。
 プリムローズは祈るような表情で主人の答えを待った。

「いいだろう。お前の体を俺のものにしてやる」
「!」
 プリムローズの可憐な顔がほころぶ。
 これから主人に抱かれるという決定が、彼女の全身を悦びで満たした。氷の中に閉ざされていたような寒さから一転、まるで春の日の中に飛び出したかのようだ。
 ご主人様……ご主人様……ご主人様!
 嬉しくて、それ以外の言葉が思い浮かばない。プリムローズはそのまま何も言えずに立ち尽くした。
 
 ややあって、プリムローズはようやく物が考えられるようになる。昂ぶった思考は一転して急回転を始める。
 うれしい……! ご主人様に受け入れていただけたんだ! ああ喜んでばかりでもいられないわ、どうすればいいんだっけ? 行為自体は知っているけど、過程はぜんぜん知らないわ。不調法な女だと思われたらどうしよう。ああ、こんなことならもっと勉強してからお願いするべきだったわ。 ええと、まず、わたしを召し上がっていただくんだから、食材を出す側が食べやすいように体裁を整えるのは礼儀だわ。
「あ、あの、ご主人様……その……服を脱いでもよろしいでしょうか?」
「好きにしろ」
「は、はいっ」
 プリムローズはせかせかと巫女装束の帯に手を掛けた。はやる気持ちを宥めながらなんとか帯を解くことに成功すると、次に袴を脱ぐ。生涯の貞潔を約束する純白の巫女装束を何の躊躇いもなく脱ぎ捨てていった。
 純白の袴を取り払うと、それと同じほど白く、ただし生命の暖かい色艶をもった彼女の肌が露わになる。
 プリムローズは帯と袴を丁寧に畳むと、次にブラを外しにかかる。と、ここで初めて彼女の手が淀んだ。背中のホックに両手をかけたまま上目遣いになり、恥ずかしそうにタローマティのほうを見る。
 恥ずかしいのに、プリムローズは自分が衣服を脱いでいく姿を主人に見られていると思うと、彼女の胸のあたりにぞくぞくと、不思議な喜びが湧き上がってくるのだった。
 プリムローズはか細い手を震わせながら、極端にゆっくりとブラを外した。それは羞恥心ゆえではない、タローマティに見られる喜びを1秒でも長く味わっていたかったからだ。彼女は一呼吸おきにタローマティの眼を上目遣いで見ながら、乳房を覆う薄布を取りさらった。
 支えを失った乳房が、待ちかねたようにふるりと外に飛び出す。さほど大きくはないが、形の整った美乳だった。それは支えを失っても少しも垂れることはない張りを保って、完璧なカーブを描いていた。その頂点にある蕾は、まるで愛撫を乞うように隆起し主人の方に顔を向いていた。
 最後は下だった。
 巫女の下穿きは、両端を紐で結わえたショーツになっている。プリムローズはその紐を躊躇なく解いた。プリムローズの恥丘と、茂みの中の割れ目が外気に晒される。そこは、すでにしっとり濡れていた。

 プリムローズは最後に靴とソックスを外し、ついに生まれたままの姿になった。

 美しい裸体だった。少女から女の過渡期にある肉体にだけに許される魅力があった。
 恥ずかしいけど、嬉しい……。
 タローマティの目線が自分の肌の上を滑るのを感じるたび、プリムローズの体に甘い痺れが貫通していく。
「美しい。あの幼い娘が、よくここまで育った」
 ああ! またご主人様にほめられた……!
 その言葉だけで、彼女は身震いを禁じ得なかった。恍惚のためだらしなく歪む顔を引き締めるのが一苦労だった。
 タローマティはその様子を観賞すると、プリムローズの肩を引き寄せる。
「ひ、ひゃんっ」
 タローマティに素肌が剥き出しの肩を触れられると、たったそれだけで彼女の頭は白くはじけ、体が軽く跳ねた。
 まさか、素肌の肩を触れられるだけでこんなに感じてしまうとは思わなかった。
 これがもし、もっと敏感なところだったらどうなるのだろう? 
 その快楽への予感は、期待を超えて恐怖ですらあった。
 しかし、その恐怖よりも、その歓喜を求める心と、忌まわしき父の呪縛から放たれたいという望みのほうが遥かに勝った。
 ご主人様のものになりたい……。父のことを完全に忘れたい……。
 その決意が少女を大胆な行動に駆り立てた。 プリムローズは思い切って自分からタローマティの胸に抱きすがった。
 一糸纏わぬプリムローズの裸体がタローマティの胸に吸い付く。身体を反らし、鎖骨を、乳房を、臍を、秘部を。強くタローマティの体に押し付けた。プリムローズの形のいい胸がタローマティの胸に圧されて形を変える。ふくらみの先端にある蕾が何度も擦れた。
「あ、あう……、ぁぁ、あ、んっ! ……」
 そのたびに、彼女の中でさらなる快楽が目覚めていく。
 鈴の鳴るような可憐な声が、間断なく快楽の喘ぎをもらす。それはまるで厳かな儀式の始まりを告げる賛美歌のようだった。
「ぁあむ……っ……ん!」
 タローマティはもう一度プリムローズの唇を奪う。彼女の口の中を蹂躙すると、舌を彼女の喉に残したまま、彼女の背に手を伸ばし、柔らかい尻を撫でた。
「! んんん」
 プリムローズは痙攣したように震える。喉と尻。上と下で快感の挟み撃ちに合い、行き場を失った快感が彼女の胴震えになって現われる。
 タローマティはもう片方の手で乳房を揉みしだいた。小振りの乳房は手の中でパン生地のように形を変える。

 プリムローズは全身を駆け抜ける快感に翻弄された。前から、後ろから、上から、下から。あらゆる場所から快感が彼女の中を走り抜けていく。
 その快感は自分の中にあったものというより、外からやってきた暴力的な何かのような気がする。この嵐のような快楽が自分の中に侵入することを許したら、今までとまったく違う人間になってしまいそうな気がした。怖い。
 こわい。
 でも、
 う れ し い。
 変わるなら、ご主人様のお望みになるままに変わりたい。
 ご主人様に喜んでいただけるように変わりたい。
 ご主人様の手で変えていただきたい。
 プリムローズは全身を麻痺させる快楽に耐えながら、健気にタローマティの舌戯に答え始めた。二度目の舌同士のコミュニケーションに落ち度はなかった。舌を招き入れ、舌尖をぶつけあい、ざらざらした舌腹をなぞるように舐める。主人からの唾液を受け取ると、入れ替わりに自分の唾液を送る。
 タローマティはその技術に満足したのか、ご褒美に花弁への愛撫を開始する。
「!!!」
 今までと比較にならない猛烈な快感がプリムローズの中で爆発した。開き始めた花弁の間に優しく指を這うたび、彼女の全身が無重力になるようだった。

 いっぽう、唇に吸い付いていた舌は唇から離れ、うなじの上を這い回り始めた。
「! はぁぁ……」
 邪神の舌は特別だ。皮膚を舐めるだけで、まるでそこが性感帯のような快感を引き出していく。
 うなじから耳へ、額へ、目元へ。
 首へ、肩へ、脇へ。
 少女から女性への過渡期にあるプリムローズの肢体は、主人の愛撫に従順に花開いていった。
「ぁ……あんん……やぁ……」
 プリムローズは快楽とも苦痛ともつかぬふうに顔を歪め、拳を握って快楽に耐え、大きく身をくねらせる。

 と、その拍子に臍の辺りに何か固い物が当たった。
 彼女は下を見る。
 それはタローマティの股間から伸びていた男性器だ。赤黒く太いそれは、鎌首をもたげ、高らかに自己主張を始めている。
 あ……!
 プリムローズは歓喜に胸をときめかせた。 
 ご主人様が、興奮してくださっている……!
 自分の存在が主人に十分な愉悦を与えられたことが嬉しくてたまらなかった。
 うれしい……うれしい。……これが……わたしの中に……。
 それを眺めながら、これから訪れる至高の瞬間に思いをはせる。

 受身ではなく、もっとご主人様に気持ちよくなっていただきたい。彼女はそう思った。
 プリムローズは膝を折り、聳えたつ肉茎の前に跪く。

 彼女は目と鼻の先に見る男性の性器にどぎまぎした。
 幼いころ見たあの男のものは吐き気がするくらい醜悪な物だったけど、それとは全然違う……。ううん、ご主人様の物とあの男なんかの物を比較してはご主人様に失礼だわ。すごく……すてき……。
 彼女にはそれはとてもとても美しく、崇高な物に見えた。その色形も、匂いも、とても好ましい物に思えた。
 プリムローズはその先端に恭しく口付けをした。
「ご主人様……ご奉仕させていただきます……」
 タローマティの許可が下りると、いままで光の弓を握っていた手がタローマティの肉棒を包んだ。白い手がおそるおそる凶悪な肉棒をしごき始める。
 浮き上がる血管に沿って愛撫し、時には強く握り、時には回転を加え、竿に丹念に刺激を与える。プリムローズの手は、そこに強い脈動と血が滾る熱さを感じた。
「ん……っ」
 彼女はそのどんな反応も見逃すまいと、手の神経と五感をそこに集中させた。
 ややあって、おずおずと、しかし恍惚の表情で、亀頭の先端を口に含んだ。
 亀頭の周りを、円を描くように舐め、先端を舌先で撫でる。
「はむ……」
 そして、やがてこらえきれなくなったように、かぽりとカリの部分を丸ごと口に含んだ。
 プリムローズは唇の中と口腔の中、舌の先と裏側の粘液で優しく亀頭を刺激し始めた。間違っても歯を立てないように慎重にだ。
 その技術は初めてとは思えないほど的確だった。
 アールマティ大聖堂にいる間、強姦された女性たちのケアをするなかで知った知識を一杯総動員して、タローマティが喜ぶ方法を考え、ためらいなく実行した。
 あるときは吸ってみたり、またあるときは口全体を回転させてみたり。舌先で鈴口を叩き、じらしてみたり。彼女はそのたび上目遣いで主人の反応を確かめるのだった。

「ふ………あ………あ……ふぅ……あ……くふ……」
 プリムローズのかわいらしい形の鼻腔から熱の籠もった息が漏れる。
 自分の口の中でタローマティの剛直が脈動していると思うと、幸福で息もできないほどだった。先行液が付着した部分が、まるで性感帯になったかのようにプリムローズに快感を与えた。
 くちゅ……。くちゅ……。
 彼女の口から先行液と唾液の混じった卑猥な音が響き始める。その潤滑油に助けられ、彼女の動きが徐々に速くなっていく。
「ふ………あ………あ……ふぅ……あ……くふ……」
 彼女の目は弾根に釘付けだった。取り付かれたように自分の行為に没頭し続けた。

 ご主人様……わたし……もう我慢できません……。
 プリムローズは首を上下に振り、ストロークを始めた。
「んっ、んっ、んむっ……あ、あぁ………んん!」
 プリムローズの動きがさらに速くなる。太い肉茎を喉の奥まで飲み込んだまま、まるで何かに取り付かれたように、桃色の髪を振り乱して首を上下に振る。プリムローズの口の中でタローマティの剛直がさらに硬さを増すのがわかった。
 プリムローズは自分の股間から愛液が滴っていることに気付けなかった。口の中のタローマティの一物以外に彼女の意識に入る物は中にもなかった。だから、彼女は自分が両足の太腿をすり合わせているのも気付かなかった。
 と、タローマティの剛直が一瞬大きな震えを起こす。
 あ、出るんだ……。プリムローズは知識でそう思った。
 ご主人様! どうぞいっぱい出してください!
 プリムの口の中にご主人様のお恵みをたくさん出してください!
 
 直後、プリムローズの口の中に、勢いよく白い精液が注がれた。
「あ、ひふああっ……!」
 同時に、彼女は絶頂に押し上げられた。
「く、くふぁあああぁぁ!」
 肉棒をくわえたまま、彼女の全身がピンよ伸び上がった。
 視界が真っ白になった。
 全身の筋肉が痺れ、血液が沸騰し、思考は真っ白の闇に染まった。

 プリムローズはあまりの多幸感のためしばらく物が考えられなかった。身動きもできなかった。
 絶頂の声を上げた拍子に精液の多くを漏らしてしまった。
 彼女の唇を、桜色に染まった頬を、白い精液が濡らしている。
 喉を精液の一筋二筋が胴に流れていく。その一筋は、彼女の乳房を伝い、ふくらみの頂点にある蕾を濡らした。もう一筋は、双丘の合間を抜け、臍のくぼみに吸い込まれていった。
「ああ……あたたかい……」
 プリムローズはそれを手ですくう。唇と舌の先でその味を味わい、唇の周りについた精を残さず口に含む。飲み込んだ精液が、食道から体全体に拡散していくのがわかった。

 ご主人様の精液がわたしの中に……。
 外皮に触れるだけでもこんななのだから、もしこれが膣に直接注ぎ込まれたらいったいどうなるのだろう? プリムローズはその期待に恐怖さえ覚えた。

 プリムローズはたったいま彼女に精液を放り込んだ肉棒を愛おしそうに見つめる。亀頭の周りには精液がまとわりついている。それを見ると、いま絶頂を迎えたばかりにもかかわらず、再び奉仕の気持ちが湧き上がってきた。
「ご主人様、お清めをさせてください」
 プリムローズは再びタローマティの肉棒に顔を近づけ、丁寧に精液を舐め取ろうとする。

 プリムローズのその行為に、肉棒はたちまち硬さを取り戻し、高くそそり立ち始めた。十分な固さになると、タローマティは彼女の顔を股間から引き離す。
 プリムローズに名残惜しさはなかった。これからもっと素晴らしいことをしてもらえると知っていたからだ。

「行くぞ」
「はい……ご主人様」
 タローマティは彼女の体を仰向けに横たえ、足を開かせる。
 彼女の胸を愛撫し、乳首を口に含み、舌で転がす。スジを撫で、プリムローズの体を柔らかくほぐしてやる。
「はぁ……はぁ……ひふぅ……」
 彼女はその快感に、たちまち二度目の絶頂の予感を感じ始めていた。秘部は男根を受け入れる準備がすでに万端だ。タローマティが指で押し開くと、そこにサーモンピンクの媚肉が見えた。

 タローマティはそこに自分の物をあてがうと、徐々に体重を開放し、中に沈めていく。
 プリムローズは目を瞑り至福のときが訪れるのを待った。
 くる。
 くる。
 くる!
 来てください、ご主人様!
 わたしの中に……!

 ずぶ……。
 プリムローズの下半身に強い圧迫感が生まれた。
「あっ、あああぁぁっ!」
 プリムローズはいやいやをするように首を振った。
 しかしそれは拒絶の意ではなく、体をひねり肉棒に擦り付け快感を増すためのものであることは疑いがない。
 タローマティの剛直が、ゆっくりとプリムローズの体の奥を切り開いていった。男のものを受け入れたことのない膣内を進行し、その奥の聖地を目指す。プリムローズの淫裂から溢れる蜜が進入を手助けする。
「くぅっ……! くっ! きゅう……」
 タローマティの剛直の先が肉襞と擦れるたびに強烈な快感が襲う。しかもそれはカリが通過しても過ぎ去ることなく、プリムローズの体の中に蓄積していく。プリムローズの中で溜まった快感が爆発しそうだった。
「あ、あ、ああ…………いい……すてきです、ご主人様……!」
 これを受け入れて、新しい自分になる。プリムローズはそう確信した。彼女の媚肉はうねり、蠕動し、肉棒の侵入を助ける。それは、ぎこちない動きで主人の一物に精一杯の歓迎をしようとしていた。
 
 侵入は、処女膜の寸前で、止まった。
 膜は、前夜の自慰で一部を傷つけられたものの、大部分はまだタローマティに奪われるために残っていた。
「いくぞ、プリムローズ」
「は、はい……っ」
「歯を食いしばれ……」
 タローマティが体重をかけるとともに、プチプチ、と何かが破れる音がした。
 傷つけられた処女膜が、今完全に引き裂かれた。
「!!! ひっいいいい……!!!!」
 痛みがプリムローズの体を引き裂かんばかりに責める。
「くぁあああぁぁぁぁぁぁっ!」
 プリムローズは無意識の内にタローマティの背中に爪を立てる。
「心配するなプリム、傷みはすぐに快感に変わる」
「は、はいっ……あ……」
 タローマティに言われると、その通り、強烈な痛みが消え、かわりにそれに相当する量の快感が彼女を襲った。
 破瓜の血と愛液の混合物が潤滑油となり、タローマティの肉棒を柔らかく包む。肉棒の動きがより速さを増す。
「ひ! ふ、ひゃあああぁぁん」
 亀頭の先が彼女の最奥部、子宮の壁に当たる。
 彼女の全身が歓喜の震えを起こす。媚肉の壁がひときわ激しく震え、蠢動し、くわえこんだ肉棒を離すまいと収縮する。
 タローマティはその動きを裏切るように、激しく抜き差しを繰り返す。
「はぁんんっ! はぁっ! ふうううっ!」
 その律動がプリムローズを翻弄する。彼女の心が、体が、その動きに合わせてたちまち別の物に変わっていきそうだった。
 なぜだかわからないが、タローマティの竿が動くたびに、自分の大切なものが引き抜かれていく気がした。それが何なのかプリムローズにはわからない。しかし、ずっと胸のうちで大切にしていたものが永遠に失われてしまう冷たい喪失感があった。
 だが、その喪失感も、今のプリムローズにとっては快感を強くするスパイスにしかならない。彼女は自分からその快楽を切望した。
「ご主人様、ご主人様ぁ……ご主人様……い、いいですぅ……」
 彼女は処女を失ったばかりだというのに、腰をタローマティの動きに合わせて上下させ始める。
「はぁああっ! くうう……! ご主人様……! ご主人様ぁ……!」
 昨晩の自慰とは比べ物にならないほどの快楽だった。
 そんなものより、もっと強烈で、もっと熱く、もっと幸福だった。
 彼女の中を主人の肉棒が埋まっていると思うと、幸福でたまらなかった。彼女はその肉棒を1ミリでも深く飲み込もうと、挿入に合わせ体を沈める。
 結合部がクチュクチュと淫らな音が響き、その音が徐々に滑らかに激しくなっていく。
 幸せ、幸せ、幸せ……。
 プリムローズは目を閉じ、その幸せをかみ締める。
 なのに……。
 なのに……どうして?

 なぜか、父のことを想起してしまう。

 父のことなど考えるのもいやなはずなのに、行為の真っ最中に父のことを考えてしまう。不可解で不快ながら、それがプリムローズに激しい高揚感を与えていた。
 なぜ……? どうしてこんなときに……。

 その疑問に答えるようにタローマティが囁いた。
「最後のステップだ。プリムローズ」
「え? ん……んぁ……! あ……?」

 タローマティはゆっくりと肉棒を引き抜くと、プリムローズに何かを指差した。
「見ろ」
 タローマティが指差したのは、祭壇前の鏡だった。
 抱き合う2人の背後に、人影が映っていた。
 それは、プリムローズがこの世でもっとも憎む人間だった。
「!」
 父が立っていた。右手に剣を持って、全裸で醜悪な男性器を露出させ、虚ろな目でプリムローズを見ていた。

 父がゆっくりと近づいてくる。股間の上の勃起した男性器が足の動きに合わせて揺れる。
「い、いや……! 来ないで……」
 体中がペキペキといやな音を立てて凍りつく。幸福の絶頂から、急転直下で地獄に落ちたようだった。
「ひ……ご、ご主人様!」
 プリムローズはタローマティに抱きすがる。
「怖い……怖いです……」
 恐ろしくて恐ろしくて仕方がないのに、目は父から離れない。わずかでも目を背けようなら、その隙に彼女の幸福を奪いさらってしまう剣戟が飛んできそうな気がして目が離せない。怖いのに、目を瞑ることさえできない。
「ご、ご主人様! どうか殺してください、あの男を!」
「そう急くな。この男に何ができる? この男など、俺がすこし念ずれば首を跳ねられる」
「で、でも……」
「俺が少しでもこの男に後れを取ると思うのか?」
「い、いえ、そんなことは滅相もございません! ですが……」
「なら安心しろ。俺が守ってやる」
 タローマティはプリムローズの父を無視し、プリムローズの体を愛撫し始める。秘裂からにじみ出る愛液を指ですくい、彼女の乳房を揉みし抱きながら塗り付ける。恐怖にこわばる彼女の顔をキスで慰めていく。
「はぁ……っ……はぁ……っ! ご主人様……」
「泣くな。俺を信じろ」
 タローマティは彼女の頬を濡らす涙を舌で舐めとった。

 しかし、なおもプリムローズは父から目が離せない。幸福感に身を任せることができない。主人の愛撫に感ずることはできても、それに応え自分から動く余裕はとてもない。
 父がそこに居て、父に見られていると思うと、悪寒のような、寒々としたものが彼女の芯に走る。それが快感に名状しがたい風味を与えた。最大の恐怖と最大の快感が綯い交ぜになった波に彼女は翻弄された。

 ふと父の唇がかすかに動き、何か言ったように見えた。
「あ、あ、あの男は……何と言ってるんです?」
「お前を渡せといっている」
「!」
「自分の娘が男に抱かれているのが許せないそうだ」
 プリムローズはありったけの力でタローマティにすがりつく。
「いや! 行きたくありません! ご主人様のおそばにいさせてください! ごしゅじんさまにずっとおつかえしたい! あんなおとこのところにもどるくらいならわたし、しんだほうがましです!」
 気がつくと、プリムローズは10年前に父と死に別れたときの幼い少女に戻っていた。
 あの日と同じ背丈をし、裸のはずの体にあの日と同じ衣服を纏っていた。

「ごしゅじんさま! わたしをすてないでください! ずっとおそばにおいてください!」
「もちろんだ」
 タローマティは幼い彼女をあやすように額を撫でる。
「あ……」
「安心しろ、お前はずっと俺のものだ」
「ごしゅじんさま……!」
 プリムローズは安堵に頬を緩ませる
「だからプリム。楽しもう。お前の憎き父親にお前の幸福な姿を見せ付けてやれ」
「は……はい……」

 そう……ごしゅじんさまのおっしゃるとおり……。
 みせつけてやるんだから……。あのいまいましいおとこに、わたしがどんなにごしゅじんさまのことをあいしているかみせてやるのよ。

 彼女は積極的に主人に腕を絡め、腰を押し付け、あちこちに口づけをし、もみじのような手で肉棒をしごく。タローマティはそれに応じ、彼女の耳たぶを下で何度も弾き、彼女の背中から、スカートに覆われた尻を撫でる。
「はぁ……ひふ……! くん……」
 プリムローズはもう父のほうを見ていない。でも怖くない。主人にぴったりとくっついていれば主人が守ってくれるという絶対の確信があった。
「プリム、どんな気分だ?」
「はあっ、きもちいいっ きもちちいです……」
「父に教えてやれ」
「はいっ。みて! みて! おとうさん、わたし、こんなに、こんなにきもちいいっ!」
 憎い父に見られているということが、よりいっそう彼女を燃え上がらせた。

 タローマティはブラウスとフリルのついたスカートを脱がす。
 クマのアップリケがついたパンツを下ろす。
 タローマティの足にプリムローズの細く華奢な足を交差させ、彼女の左足だけを掴み持ち上げると、勃起した肉棒を幼い秘所に埋めていく。
「んがぁ! くううぅぅっ! あっ」
 幼い子供に戻ったままでの性行は、プリムローズにまた違う快楽を与えた。
「くっ……はあああっ!」
 ずぶ……ずぶ……。
 肉棒が埋まっていくほどに、彼女の顔が快楽に歪む。

 しかし、体が子供だと錯覚しているプリムローズの膣は、完全に広がりきらず、きつくタローマティの肉棒を締めつける。
「はんっっっっっっん はぐぅ……い……は! ふぁ!」
 彼女は必死に痛みと官能に耐える。しかしそれでも痛みが勝るのか、顔を苦痛に歪めタローマティにしがみつく。
「プリム、舌を噛むなよ」
 タローマティはそう言ってプリムローズの口に指を差し込む。
「ふぁい……はりふぁとうふぉざいます……」
 なんておやさしいんだろう。しもべのわたしのからだのしんぱいまでしてくださるなんて。
 どんなに痛くても、この指に歯を立てることなど考えれない。プリムローズは口をすぼめ、間違っても噛まないように、指から歯を遠ざけた。
「ん……ぅん」
 唇が痺れ、鼻孔からしきりに甘い息が漏れる。
 ふと、口で咥えるそれが、男性器のように感じられる。
 ふぁ……?
 これ……ごしゅじんさまの……?
『ごしゅじんさまの……おちんちんだわ……」
 指の第一関節がカリのように思え、指を濡らすプリムローズ自身の唾液も、先端の先行液のように思えてくる。
 あ……そうだ……。ごしゅじんさまのだ……。うれしい……。
 口と膣を同時に犯される幸福感が彼女の中で炎のように燃え上がる。彼女はその快感に意識をさらわれながらも、半ば無意識のうちに舌を動かし、口内に差し込まれたた指に舌先で刺激を与える。
「はむっ……ふぁ……ん……! んん!」
 上からの快感と下からの快感が胸の奥で出会い、激しく衝突し、爆発的な快感が胸をきゅんきゅん締め付ける。自分の中で新星が誕生したみたいだ。
 その幸福感のため、幼い媚肉は完全に広がり、まるで自ら意志を持っているようにタローマティの剛直を飲み込んでいった。
 子宮の壁に剛直が達し、その壁を突き上げる。痩せた腹部がわずかに押し上げられる。
「んはぁ! はぁぁん! はぁ…… ご主人様……! ご主人様! いいですっ……」
 彼女は完全に快楽に順応していた。もう苦痛の声で舌を噛む心配は皆無だった。タローマティがプリムローズの口から舌を抜くと、彼女は一瞬名残惜しそうにした後、すぐに鏡の父に向かって高らかに叫び始めた。
「み、みてぇええ、おとうさんっっっ! ごしゅじんさまのものがこんなにわたしのなかにはいってるぅぅう! ああっ、くうう! あっ あっ!」
 自ら子宮内をかき回すように、プリムローズは無理な体勢ながらも自分から腰を動かす。
「ほらっ、みて、みてぇ ! こんなにぃ、こんなにぃしあわせ! プリムはせかいいちしあわせなおんなのこですううう!」
 結合部を父に見せつけるように、プリムローズは必死で足を泳ぐように上げてみせる。そのたび彼女の膣内は激しくタローマティの肉棒を圧迫した。
 それを見つめる父は悲しそうな顔をしていた。プリムローズはそれを見て勝利の喜びを感じる。
 ざまみろだわ。わたしはごしゅじんさまのしもべにしていただくんだから。もうあなたなんかにゆびいっぽんふれさせないんだから。
 そう思うと、彼女の中の官能がよりいっそう燃え上がる。
 彼女は自分の穴を埋めている男根がたまらなく愛おしかった。
 それに身を委ねていれば、すべてから救われる気がした。父によって心と身体に穿たれたクレバスのような大穴が、それが埋めてくれる気がした。 

 タローマティの亀頭の先がわずかにすぼみ、射精が近いことを知らせる。
「行くぞ、プリム」
「はいっ! だしてくださいぁいい! だして! わたしのなかに、ごしゅじんさまのぉ! ぅ! ああぁっ!」
「プリム、よく聞け。お前の中に俺の精液を受け止めたとき、お前は完全に俺の物になる。あの父親の娘であることをやめ、俺のものとして生まれ変わるのだ」
「はいっ! プリムは、ごしゅじんさまのものになりますっ! ごしゅじんさまの、ごしゅじんさまのむすめになりますっぅぅうぅ! あ、ぁ、ぁ、ああああああああああ!」
 次の瞬間、子宮の中の亀頭が大きく震えたと思うと、彼女の意識が真っ白にスパークする。
「ふぃ、ひやああああああぁぁぁぁ!」
 子宮の中で、タローマティの肉棒が爆ぜた。プリムローズの幼い子宮の中に納まりきれないほどの精液が震えとともに注ぎ込まれる。
 射精されると同時に彼女は今までで一番の絶頂を迎えた。爪先から頭まで、串刺しにされたようにピンと反り返る。
 勢い良く放たれた支配の液は、子宮を突き抜けて、脳髄まで濡らした気がした。
 主人による心地よい支配が全身に浸透することを確信し、彼女の絶頂がさらなるレベルに達する。
「はぁぁぁんんんん!」

 その快感の波濤を感じると同時に、彼女の体が急激に成長を始めていく。
 手足が伸び、胸はふくらみ、たちまち本来のプリムローズの年齢にまで戻る。
 それと平行して彼女の精神年齢も本来に戻っていく。彼女は10年の歳月を、絶頂の数秒の間に追体験した。

 この絶頂の瞬間に、彼女は10年分を生きた。彼女が父を想いながら生きてきた10年間の歳月が、タローマティに捧げる歳月として、完全に生き直された。
「ご……しゅ……じん……さま……」
 幸福感の波にさらわれ、彼女の意識が薄れていく。

 意識を失う寸前、彼女は倒れたまま顔を父のほうに向けた。
 見て……おとうさん。わたし、こんなにご主人様に愛していただいてるのよ……。そう。わたしはご主人様のもの。わたしはご主人様のもの。わたしはご主人様のもの。わたしはご主人様のもの。わたしはご主人様のもの……。

 父の顔が悲しそうに歪む。やがて、その姿があいまいになって、消えた。

 ドクン……。ドクン……。
 子宮内で、彼女の中にあった闇の種子が、いま精子と出会った。
 邪神の精子を受けて受精したそれは、巫女の体内の豊潤な光の魔力を吸い取って、たちまち生長を始める。
 闇が彼女の全身を浸食し始める。
 闇は、光の祝福を受けた巫女を、闇の巫女に変えていった。
 ドクン……。 ドクン……。

 プリムローズは心地よい疲労感から目が覚めた。

 彼女の主人が傍らで横たわっていた。
「あ……ご主人様……」
 しどけない格好をしていることに気づき、あわてて正座をする。破瓜の痛みが彼女の股間に走ったが、プリムローズはそれを勲章として享受することにした。
「見ろ、プリム」
 プリムローズ 父がいた場所を指差す。
「何か見えるか?」
「……いえ」
 そこには何もなかった。ただ蔦が彫刻された柱が1本立っているだけだった。
「お前はもう自由だ。父の呪縛に悩まされることはない」
「あ……」
 プリムローズの間に、一筋の涙がこぼれた。
 それは喜びの涙。父の呪縛から完全に逃れられたというカタルシスの涙だった。

 この瞬間、プリムローズの中で父は何者でもなくなった。
 暖かい記憶は忌まわしい記憶に改竄され、そして忌まわしい記憶はタローマティとの性交のもとで完全に昇華された。
 もはやプリムローズが父に対して抱いている感情は、愛情の裏返しでもなんでもない。ただ毛虫に対して抱くような即物的な嫌悪だけだ。おそらく明日にはもう顔も思い出せなくなっているだろう。
「ご主人様……ありがとうございます……」
 プリムローズはタローマティに寄り添って体を横たえ、自分から口付けをした。
 昨晩の自慰行為の際は、絶頂の波が去ったあとにやるせない虚無感と喪失感が彼女を襲った。だが今は違う。荒々しい絶頂の波が引いていくと、代わりに穏やかな満足感と安心感が彼女の心を満たしていた。プリムローズは快楽の余韻に浸りながらそれを味わっていた。幸福でたまらなかった。

 タローマティは乱れた彼女の桃色の髪を梳きながら語りかける。
「プリム、俺の為に働くか?」
「はいっ、なんなりとご命令ください」
 プリムローズは、主人の役に立てると思うだけで嬉しくてたまらなかった。
「お前の仲間を引き込むのにも協力してもらうぞ?」
「もちろんです! お姉様たちもきっとご主人様のお気に召すはずです!」
 彼女は溌剌と答えた。

 お姉さまたちにもこの喜びを味わってほしい。
 それに、3人ならもっとたくさんご主人様にご奉仕ができる。
 3人一緒に、ご主人様にお仕えしたい。
 星辰の巫女全員で主に奉仕するときのことに思いを馳せ、プリムローズは胸を高鳴らせた。
 お姉様、ロッテ、早くこっちへ来て……。
 そう思いながら、彼女は再びタローマティの胸に顔をうずめていった。

 人生でもっとも幸せなときはいつか、と訊かれれば、プリムローズは今日だと答えるだろう。
 心から愛する主人に忠誠を誓った日。そして、その主人に隷属の証を刻んでもらった日。

< つづく >

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