光の満ちた部屋

 強く思い続けた願いはいつか叶う。

 毎日が平和だが平凡だと嘆く普通の少年の生活にも当たり前の様に転機が訪れる。

 どんなに平凡な少年が主人公でも見飽きるほどお決まりの法則が当てはまってしまう四角い二次元な世界。

 その世界に憧れていつまでも眺め続ける俺は、平和だが平凡な世界にちっぽけな存在だが確かに存在している。

 そして物語の中の主人公みたいな転機が訪れることはない、と知りながらもどこかで待ち望ぞみ、「もしこの世界で魔法が使えたら俺だって努力の1つや2つぐらいしてるさ」と言い訳じみた嘆きを漏らしている。

 どこまで行っても普通で、最後まで普通なことも知っている。

 ほんの少しだけ大人になって、世界の常識ってやつを知ってしまった。
 薄っぺらな世界を夢見る子どもに「頑張れば夢は叶うよ」と夢は見せてあげることもできるようになった。

 ・・・それでも、それでも、心の奥底で待ち望んでいる。

     乾いた世界を潤す一雫を。

 足りないジグソーパズルを埋めるための一かけらのピースを。

     物語に転機をもたらすいくつもあるなかの最高の一ページを。

 そんな時偶然にも舞い降りた、もしかしたら必然的に届いたあの時のきっかけ。

 あれはまるで夢でも見ていたような・・・今となっては、本当に夢だったんじゃないのかと思ってしまうほど非日常的な、いや、それはいい過ぎか。

 ともかく、僕の人生の中ではとても大きな、そしておろかしくも今の自分が自分であるためには必要不可欠だったあの時の出来事を話させて欲しい。自分自身の心の整理のためにも。
 だから、少しばかりお時間をいただけないだろうか?
 その代わりと言っては何ですがちょっとだけ不思議な世界に浸ってもらいましょう。

 夢か幻か、はたまたありきたりな現実か。
 えっ?長ったらしい前置きはもういいって?
 はいはい、じゃあさっそく始めましょうか。泡沫の様に儚いあの夢見たいな偶然の産物を・・・

-1-

 窓の外には雲一つない晴れ渡った空が広がり、静かな教室には乾いたチョークの音に少し遅れていくつものシャーペンを走らせる音とたまに野郎共の馬鹿話とセットに馬鹿笑いが聞こえるだけで、そろそろ俺の腹の虫がなり始めそうないつも通りの平和な12時30分を過ぎた6組の教室。

 通路側の窓際の一番前という以外と注目されない席で図書館で借りた文庫本を読みながら暇をもてあます俺の横を、トイレにでも行くのだろうか、一人の女子が通り抜けていく。
 俺好みのかわいい女の子が歩きながらうちのクラスをちらちらと覗いている。
 目線からすると俺のちょうど反対の逆の窓の一番後ろにいる学年でも1,2位を争うであろう美形の小鳥遊のことでも見てるようだ。まぁもてるからなあいつ。
 確かあの子は3組の子だったかな?と思い出そうとしていたが、女の子交流がない俺にはどうせ関係ないことなのでその思考を打ち切り目線を文庫本に戻す。

 ちなみに読んでいるのは涼宮ハル○の憂鬱である。某電気街の趣味に没頭しまくっている人たちの間では結構流行ってるらしい。
 そういえば深夜の番組ではアニメに出てくるセーラー服がコスプレの売り上げでいいところまで行ってるとか言ってた気もするな。

 それはさておき、俺の読んだ感想だがヒロインであるハル○は、まぁ実際いたら確実に近寄りたくない危険人物ではある。
 でも、非日常的なことを求めているだけでなく自分から導こうとするあの奇怪的な行動力は、待ち続けてる他の連中よりは見習いたいぐらいだ。

 でもあんなキョ○みたいにハル○が気付いてない所で不可思議なことに巻き込まれているというのは結局小説だ。俺が生きてる三次元の世界では最後に何か起こってくれるなんてそうそう都合よくいってはくれない。

 そんな常識的な世界で生きてる俺はどうすればいい?
 そりゃ行動するしかないだろう?
 小説や漫画みたいに運や運命まかせじゃ絶対に死んでも非日常的なことになんて出逢えるはずがない。
 せいぜい一生に一度前後賞合わせて3億円にあたるか毎日サッカー選手にテレビの前で拝んで6億円当てられるのがいいところだろう。
 ・・・まぁそれはそれでいい気もするがそれはひとまずおいといて、と思わず両手でジェスチャーしてる俺に数学の先生である明以子ちゃんが大丈夫?、と本当に心配そうな目を向けているので右手を差し出して、どうぞ先に進めてくださいと合図した直後に机に貼りついたゾンビたちを解放へと誘うベルが静かな教室に鳴り響いた。

 そうそう、自己紹介がまだだった。
 俺の名前は黒崎 武(くろさき たけし)。
 よくいる彼女いない歴=年齢の普通の学校に通っている普通の学生だ。
 どちらかというと明るい方ではなくむしろクラスに一人二人はいる暗いやつで、もちろん友達は少ない方だろう。
 だからといって真面目かと言われればそうでもない。少なくとも銀のやつに俺の事を聞けば真面目とは言わないだろうな。
 成績は上の中ってところだ。俺の性格で頭が悪かったら取り柄が本当に無くなるからな。

 昼休みに入って銀と一緒に飯を食いながらも、これからどうしようかと授業なんてそっちのけで考えていた。

 学校休んでしばらく旅にでも出てみようか?
 面白いモノの一つや二つぐらいには遭遇するだろう・・・でも、金銭的にも法律的にも移動手段は自転車しかないしな・・・却下。

 現世を捨てて坊さんにでもなってみるか?
 いやいや、ある意味非現実的なモノには出会いそうだけど俺の求めるものじゃないから、却下。

 いっそどっかの宗教団体みたいに地下鉄をどうのこうのして新聞の一面にでも載ってみるか?
 非日常的な扱いを受けることになりそうだから、却下。

 ・・・ん?宗教?そうかその手があったか!
 思いついたらあとは早い。
 放課後実行に移すべく『きっかけ』をくれた文庫本を枕代わりにして一時の休息をとることにした。

 机を動かす音で眠りから覚めるとさっそく実行に移ることにした。今日は掃除当番に当てられてるが大丈夫だろ、影薄いから消えてもばれないさ。
 心の中で何度も使った自虐的な言い訳をしてから教室を抜け出し図書館へと急いだ。

 図書館に並べらたパソコンの電源を入れてから起動するまでの間しばらく目を瞑って思いついた計画を思い返すことにした。
 計画といってもそんな具体的なことは考えちゃいない。
 ただやりたいことを思いついただけだ。

 俺が思いついたモノ、それは・・・催眠術だ。俺の知識の中じゃ一番浮き世離れした不可思議な領域だし、何より前々から興味があったことなのだ。
 小さい頃のテレビでヒロインのお姫様が敵に操られて味方の前に立ちはだかるという感じの番組をやっていた。その時なぜか興奮していたのを覚えている。
 幼かった俺はその興奮の正体なんて知るよしもなかったが、今にしてみれば性的な何かを感じていたのだろう。
 まぁ素人の精神分析じゃ当てにならないけどな。

 催眠術が使えるようになったら女の子にでも催眠術かけたりしてエッチなことしちゃったりして、おまけにハーレムなんかつくったりなんかしてね。
 うへへへへ。

 その頃の俺は催眠が万能なモノだと思ってたし、相手を無条件に従わせられると思ってたのだ。
 実際は相手の嫌がることをやらせることはなかなか出来ないんだけどね。
 それに思春期の男の子だったらみんなそう風に考えるんじゃないだろうか?

 目を開けると目の端に準備万端で待っている画面が映ったので、さっそく計画の下調べに移ることにした。

-2-

 必要としている知識は思いのほか簡単に手に入った。
 複雑に入り組んだこの広く深い海の中から情報を探し出すのは難しいように思えるが、表面的な浅い知識ならば意外と簡単に手に入れることが出来る。

 いわゆる凝視法とイメージ深化などなど。
 本当に簡単なやり方と解説を見ただけだが何となく理解は出来た。
 重要なのは相手をよく観察すること。

 そして、俺みたいな初心者に必要なのはかかる人の催眠の被暗示性、ようはかかりやすさだ。
 技術を磨くのも大事だがそれは経験を積めばなんとかなる。
 というか経験を積まなければどうにもならないだろう。まずはかかりやすそうな人を探さなきゃな。

 そしてなによりも大事なのは催眠にかかってみたいという人を見つけるということで、これが一番大事なことなのだ。
 かかりたくないという人に催眠をかけることは出来ない。
 経験を積めばどうにかこうにか出来るかもしれないがどちらにしろ今の俺には無理だ。

 まずは実験台探しなのだが、俺の狭い交友関係では難しいな。
 この手の話題を話すと危ないやつと思われる危険性があるしな・・・駄目だったときに笑って流せそうな奴・・・とりあえず銀の奴を実験台にしてみるか。
 あいつなら笑って次の日には忘れてそうだしな。
 もう5時か。
 この時間ならまだ銀の奴は教室にいるかもしれないな。
 抑えきれない興奮のせいか早足で銀の奴がいるであろう教室へと向かった。

 予想通り銀の奴は教室にいた。
 とりあえず名前を呼んでみるが全く起きる気配がない、爆睡中のようだ・・・誰か起こしてやれよ・・・

「あっ、あんなところに明以子ちゃんのパンチラが」

 がばっ。

「明以子ちゃんのパンチラはどこだ!!?」

 とくに体調がどうのこうのでもなくいつも通りの銀だ。
 というかこいつは本当に寝てたのか?

「もうとっくに授業終わってんだけど何してんの?」
「寝てた」
「んなこと見りゃわかるよ!ちゃっちゃとお家に帰りなさい」
「あぁそうだな。そういや今日は彼女の家に行く予定があったな」

 本当羨ましいこと言ってくれるじゃないっすか、この野郎め。

 こいつは銀 一(しろがね はじめ)。
 学校ではまぁ明らかに変人だが、私生活ではそれなりにモテてるらしい、自称だが。
 年上の彼女もいるらしいけどあったことも写メも見せてもらったこともないから実際の所は分からない。
 あいつは自分でも認めてるが8割方嘘と作り話で出来てるからな。
 あまり深くプライベートを語るつもりはないと自分で言ってたからな。のわりには、あいつの話が本当のことなら結構喋ってたりするんだよね。
 俺から見たら一匹狼に憧れてるって感じか。まぁ、ようは変わり者の変人だ。
 そんなこいつと連んでる俺もきっと変わり者なんだろうな。

 銀が帰ろうとしてるのも見て催眠の実験台にしようとしていたのを思い出して呼び止めた。

「なぁ銀、ちょっと時間あるか?」
「あぁ?何か用があんのか?」
「実はさ、催眠を練習してるんだけどさ、ちょっと付き合ってくれない?」
「却下だ」
「即答っすか。なぁ、少しの間でいいから?」
「んな怪しげな黒魔術みたいなもんに付き合ってられねぇよ」

 こいつの言うことももっともだ。
 催眠なんて全く知らない奴からすれば妖しげな呪術や氣術とかと同類に思われても仕方がない。
 実際俺もほんの数時間前までそう思ってたし。

「まぁ、それもそうだな。今のは無かったことにでもしといてくれ。彼女さんと元気にヤれよ」
「言われなくても夜はいつも元気さ!」

 明るくにやけた笑顔で返してくる。くそっ、こいつ殺しちゃってもいいですか?

「冗談だよ冗談、マジで返してくんなよ、流せよ」
「そうひがむなよ、チェリーボーイ!」

 パシーンッ。
 大阪のお笑い芸人並のスナップを効かせて奴の頭を全力で叩く。

「うぐっ・・・ぶっ、ぶったね親父にもぶt」

 パシーンッッ。

「もうええわ!帰れ、帰れ!」
「なんだよ、つれないな~。さすがに彼女に怒られそうだから帰るは。じゃな~」
「おぉ、じゃあな」

 ・・・何でこんな奴に彼女が・・・まぁ、俺よりはいいだろうけどさ。
 そんな事を考えてると虚しくなって来るので早々に思考を切り上げた。

 さぁ、どうしたもんかね。他に実験台になってくれそうな奴なんていないんだけど・・・
 いないなら仕方ない。
 さてどうしたもんか・・・しばらく考えてみるが妙案は浮かばず時計を見てみると既に30分も過ぎたことに気づき、誰もいない教室を抜け出した。

 3組の前を通り過ぎるときに一人教室に女の子が残っていることに気がついた。
 身長は155cmぐらいだろうか?少し小柄で肩の少し下まで伸ばした黒髪がとても艶やかで綺麗だ。
 どこかおっとりした雰囲気を醸し出していて思わず護りたくなるような妹タイプだ。
 あくまで見た感じの話しだがおそらく天然モノだろう。
 胸はそれなりにあるようでCぐらいだろうか?
 小柄な体格のせいかすこし大きめに見えた。

 教室へ向かうときは気がつかなかったが一人でベランダから運動場を見ているようだ。
 どうせサッカー部の期待の新星でエースストライカーの小鳥遊くんのことでも見てるのだろう。
 さっきも言ったかもしれないが奴はモテるからな。
 結構練習を見に来た女子で取り巻きが出来たりするのだ。

 何を思ったか俺はその女の子に後ろからこっそり近づいていった。
 ずいぶん大胆な変態さんになったな俺。

「何見てんの?」

 ビクッ。
 振り返ると女の子は驚いたような顔で頬を少し赤らめていた。
 あっ、昼飯前にトイレに行ってた彼女じゃないか?
 まだクラスの女子の名前をほとんど覚えてないというのによく覚えてたな。
 まぁ、かわいいと思った女の子は勝手に覚えてしまうものさ。
 だって男の子だもん♪

 ・・・自分で言ってて気持ち悪いな。

 脳内で自分にツッコミ入れてる俺を不思議そうに見てる彼女。
 完璧に危ない人全開だったよ。

「何か面白いモノでもあるの?」

 と同じようなことを聞き直してみた。

「べ、別に・・・ただ、景色を眺めてただけだよ・・・?」
「あっ、そうなんだ。見てて楽しい?」

 彼女の眺めていた方向を見てみると案の定サッカー部が練習していた。

「暇つぶしにはなる、かな?」
「そっか。ちなみにきみじっ・・・」
「じ・・・?」
「いや、何でもない。気にしないで」

 また不思議そうな顔で俺の顔を見ている彼女。
 危ない危ない。
 いくら何でも見ず知らずの人にいきなり実験台になってなんて言えるはずがない。
 それぐらいの常識は心得てますよ。

 メールでも来たのだろうか携帯を取り出しチェックしているのを見て、誰とメールしてるんだろうと気になりつつもここが潮時だと思い教室を出ようと一人教室を出ようとしていると、

「あっ、待って!」
「?何かよう?」
「・・・名前聞いてなかったから、教えて欲しいなって・・・」
「あっ、言ってなかったっけ?俺は武。黒崎 武」
「黒崎くん、か。私は鳳 香(おおとり かおる)、よろしくね、黒崎くん」
「あぁ、よろしくな、鳳」

 あっ、やっぱり彼女・・・鳳かわいいな。
 二人っきりで俺に向けられた笑顔なんて見せられたら惚れちまいそうだよ。
 まぁ、俺が小鳥遊に勝てる確率なんてド○えもんがたぬきって言われて怒らない上にネズミが好物なぐらい皆無に等しい確率だ。

「それじゃあ、俺は帰るわ」
「うん、じゃあね、黒崎くん」
「鳳も早く帰りなよ。小鳥遊は今日は練習に参加しないらしいしな」

 鳳は少し頬が赤んだ気がする・・・もしかして本当に図星ですか?

「別に小鳥遊くん見てたわけじゃないよ!!」
「まぁ、そういうことにしとくよ。変人とかには気をつけろよ、じゃあな」

 俺みたいな、と心の中で付け加えつつ苦笑しながら鳳とのやりとりで思いついたことを試してみるために早々と学校を出て家路へとついた。

-3-

 ブーッ、ブーッ、ブーッ。
 昼休みにはまだ早く睡魔がこっちおいでと手招きしている11時過ぎ。
 携帯のバイブを感じとりまずは素早くバイブを消す。
 ちょうど横に先生が構えていらっしゃるからね。
 まぁ、明以子ちゃんのことだからどうどうと使っても取り上げられるということはないだろうけど、でも触らぬ神に祟りなしですよ。
 いくら頼りない神様だけど、神様であることには変わりないからね。

 昨日思いついたこととは出会い系サイトでの勧誘だ。
 鳳が携帯でメールをしてるのを見てわざわざ俺の知り合いじゃなくてもいいことに気付いたのだ。
 それに地域を限定すれば割と簡単に会って実験台になってもらえる。
 少しの間実験台になってくれる人なら誰でもいいのだ。
 それに失敗したりしても笑ってその場を誤魔化せば縁などすぐに切れるし、何より向こうから興味を持ってメールしてくるのだから少なくとも銀よりはかかりやすいはずだ。

 鳳と出会った日、帰宅後すぐに書き込みをしてから4日たつ。
 今来たメールも含めるとその数は6通。
 うち3通は興味を持ってメールをしてくれたらしい女の子で、2,3回メールをしただけで終わった。まぁそんなモンだろう。
 1通は30代の男性からメールだったが、俺が下心丸出しにしていたせいか女の子と勘違いしてしまっていて、あっちが新手の誘い文句だったんだろう?ってことになり駄目になりましたとさ。人としてちょっと恥ずかしかったな。
 そして、あと一通は催眠かけてエッチなことして欲しいと言う男の子からのメールだった・・・俺にはそういう趣味はないから勘弁してください。

 そう小説みたいは上手くいかないか。
 昨日は1通も届かず諦めかけていた今になって新たなメールが1通・・・半分諦めかけてたし誰か知り合いからかもしれないと思い俺は昼休みになるまで携帯を放置していた、というか忘れてしまっていた。

 このメールが、この出来事の始まりを告げるものだとも知らずに・・・

 昼休みに入りいつものように銀と飯を食っているとメールが来てたことを思い出しさっそく携帯を開いてみる。
 知らないメールアドレスだった。まさかと思い急いで中身をチェックしてみる。

 『始めました。催眠に興味あります』

 短文だ。絵文字も顔文字もなくあまりにも簡素だった。男だな、と判断し返信してみる。

 『メールありがとうございます。催眠に興味おありなんですね。催眠についてお話しましょうか? その前に何てお呼びしたらよろしいでしょうか?』

 まずは信用を築くために普通の話から入っていく。
 いくら催眠に興味を持ってくれたからって、いきなりがっついて催眠のことから話ちゃさすがいひいちゃうよね。

 5分くらいすると早くも返信が届いた。

 『はい、催眠ってどういうモノなんですか? のんって呼んでください。 私は何て呼べばいいでしょうか?』
 『そうですね、リラックスしているんだけど普段とは違う感じに集中してるんです。やってみたら分かると思いますが意外と普段と変わらない感じという人もいるみたいですよ。かかってたのかよく分からなかったってこともあるぐらいですから。
 じゃあ、clownって呼んでください。のんさんは女の人なんですか? 今の時間はお仕事とかお忙しいのでは?』
 『そうなんですか。ちょっとわかりづらいですね。 お昼をとってるんで大丈夫ですよ』
 『実際にかかってみるのが一番てっとり早いですね。 私もちょうど昼休みですよ』

 ちょっと探りをいれつつ会話をしてみる。
 分からないところはアドリブでなんとかしてるが大丈夫だろう。
 あっちは俺より素人なのだから。
 嘘をつく能力も催眠術には必要な能力なのだ、きっと。
 少なくとも詐欺師には必要だ。

 そうやってしばらく話していてどうやら同い年らしいことがわかった。
 お互いそろそろ授業が始まりそうなので話を打ち切ることにした。
 お互い暇になる夜にまたメールをすることを約束したところで終わりと始まりを告げるベルが鳴り響き、俺は再び睡魔との戦いを始めたのであった。

-4-

 あれから五日後の夜。まだのんとのメールは続いている。
 今日やっと催眠の練習をすることになった。長かったが、まぁ、のんと普通にメールしてるのも楽しかったからよしとするか。
 ネットで調べたりのんから聞いたところからすると、のんはどうやら催眠にかかりやすいらしい。
 チャットなどの文章でかけたというものをネットで見たことがあったのでそれでチャットで何度か試してみたが、どうやらかかっているらしい。
 ボーッした感じになったらしい。
 それが催眠にかかっているのかもしくは嘘をついてるのか実際のところは全く分からないんだけどね。

 といろいろあって今日初めて電話で催眠かけることになった。
 住んでるところも近いみたいだがさすがにまだ早いだろうと思い俺から会おうという提案はしていない。
 こういうことに焦りは禁物だ。

 俺の電話番号を教えてのんからは非通知でかけてもいいよと言っておいた。
 これも相手への気遣いってやつだ。
 怪しまれたくないし、それよってのんに嫌われるというのは避けたかった。

 トゥルルルル、トゥルルルル。
 着信が鳴ったので急いで電話に出る。

「はい、のんさんですか?」
「はっ?のんって誰よ?俺だよ、俺」

 ・・・お前か銀。
 何故にこのタイミングで電話かけてこれるんだよ!
 俺の部屋を盗聴でもしてるのか?

「知り合いだよ、知り合い。でなんのようなんだ?」
「あぁ、なんだったっけ。そうそう、明日学校休むから先生に言っといてな。それじゃ」

 ツーツーツー。
 ・・・・・ぶっ殺してもいいですか?
 本当に何がやりたかったんだ、そうか嫌がらせか。
 明日豆腐の角で頭叩き割ってやる。

 トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル・・・
 さっきのイタデンのせい電話に出るのが億劫になってとるのが遅れたが登録外の電話番号だとわかると安心して電話に出た。
 それはそれで変だと思うが。

「はい、のんさんですよね?」

 じゃなかったら理不尽だろうけど怒鳴りちらして一方的に切ってやる。

「・・・はい、clownさんですか?」

 ん?何か聞き覚えがあるような・・・まぁ、女の子の声なんて知り合い以外は基本みんな同じに聞こえる俺だから、きっと気のせいなんだろう。

「そうですよ。イメージ通りの声ですね?」
「そうですか?それは幼いってことですか?気にしてたりするのであんまり言わないで欲しいんですが・・・」

 どこか自信なさげなその声は男なら誰もが護りたくなるような天使のような声だった。

「別に悪いことではないと思いますけど、わかりました。それじゃあ、さっそく始めましょうか?」
「よろしくお願いします」
「あんまり期待も緊張しないでくださいね?それではまず力を抜いて深呼吸してみてください」

 ・・・・・5分ほどで凝視法を使って眼を閉じさせた。
 やりすぎると催眠とは別の集中力に変わるらしく眠気になるそうだ。
 既に長すぎかもしれないけどね。

 さぁ、ここからイメージ深化というやつで催眠を深めていく。
 問題はちょっと声が聞こえずらくて彼女が本当に眠ってしまわないか心配なことだ。
 そもそも、声だけで相手を観察するのは難しい。
 基本的に彼女しだいになるだろう。

「眼を閉じていても俺の声は聞こえるから心配せず、俺の声に身を任せて。この声に身を任せればとっても気持ちいい世界に連れて行って貰うことができます」
「・・・はい・・・」
「ではもっと気持ちいい世界へ行きましょう。そこへ行くためにまず階段を上らなければなりません。あなたには目の前の階段が見えますか?」
「・・・はい・・・」
「どんな階段ですか?」
「・・・赤い絨毯が敷かれた白い階段です・・・」

 お城にあるようなやつをイメージしてるのだろうか?
 メルヘン思考の持ち主らしい。女の子なら普通なのかもしれないな。
 彼女が描きたいモノが一番いいだろうしな。

「とっても綺麗な階段ですね。それでは一緒に登っていきましょう。私が一段ずつ数えていきますから、一段数えるごとに一段登ってください。一段登っていくたびに気持ちよくなっていきます。では、階段を上るとどうなるんでしたか?」
「・・・気持ちよくなります・・・」
「そうですね。では、一緒に登っていきましょう・・・1段・・・2段・・・3段・・・どんどん気持ちがよくなっていきます。体中から無駄な力が抜けてとってもリラックスしています。階段も楽に登る事が出来ます」
「・・・」

 反応が無いので相手の状況がよくわからないが、大丈夫なのだろうか?
 初心者の俺にはどうにもよく分からないが。

「・・・4段・・・5段・・・6段・・・だんだん頭がぼんやりしてきましたね。それでいいんです、素直にこの声にその身を任せて・・・・・7段・・・頭が階段の綺麗な白色と同化したように真っ白になっていきます・・・ここがどこかも何で階段を登ってるのかもわかりません・・・ただ気持ちいいだけ・・・とっても体が軽くて今にもとんで行きそうなくらいです・・・・・8段・・・真っ白な雲のように見も心も軽くなってきました・・・階段と合わさって綺麗な真っ白な心になっていきます・・・何も考えなくていい・・・ただこの気持ちよさを感じてください・・・全てを忘れて何もかも抜けていきます・・・・・9段・・・10段・・・もう何もわからない・・・ただ気持ちがいいだけ・・・この声に身を任せていればいいんだ・・・」

 声が全く聞こえない。
 あまり喋りすぎるとあんまりかかってないそうだからこれでいいのだろう。
 もちろんこちらから相手に受け答えが必要なことを言ってのなら別だろうが。
 それにしても電話で一方的に話すってのは虚しいことこの上ないな。

「のんさん、私の声が聞こえますか?聞こえたら返事をしてみてください」
「・・・・・はい・・・」
「今はどんな気分ですか?」
「・・・とっても気持ちいいです・・・」

 大丈夫みたいだ。
 演技だったりするかもしれないけど、それはそれで練習にはある意味なるからよしとしますか。

 まぁまぁ深くなったから一旦解くことにした。
 催眠は一度解いてまた深めるともっと深まっていくらしい。

「とっても気持ちがいいですね。もっと気持ちよくなるために一度催眠を解きます。私が三つ数を数えたらあなたは催眠から説けます。催眠が解けたらとっても気持ちがよく眼が覚めます。目が覚めると催眠をしてる間に勝手に眠ってしまったことに気がつくんだ。そのことがとても悪いことのような気がして謝らなくてはいけない気がしてきます。そして自分からかけて欲しいと言うよ。あと、俺が催眠という言葉を口にしたらあなたはまた催眠の素晴らしい世界に落ちていきます。わかりましたか?」
「・・・はい・・・」
「では、わたしが催眠と口にしたらあなたはどうあんりますか?」
「・・・催眠の世界に落ちます・・・」
「そうですね。では、一度催眠から眼を覚ましましょう。3、2、1、はい」

 これで解けるはずなんだけどな。
 ちゃんと覚醒させることが出来るかちょっと不安だ。
 それに、いきなり忘却暗示や後催眠を入れてみたが大丈夫なんだろうか?
 被催眠性が相当高くなければ無理な気がするんだけど。

「・・・のんさん、大丈夫ですか?」
「・・・あっ、はい、大丈夫です・・・あの・・・すいません・・・途中で寝ちゃって・・・」
「あっ、やっぱり寝ちゃってたんですか?集中していて気づきませんでしたよ。どんな感じでしたか?」
「何かとっても気持ちよかったですよ。気持ちよすぎてねちゃいました」
「それならよかった。じゃあそろそろ終わりますか?時間も時間ですし」
「あっ・・・あの途中で寝ちゃったのでもう一度かけてもらえませんか?今度は寝ませんから!」

 けなげなやる気が感じ取れてとても断ることなんて出来ない・・・自分でそうなるよう仕向けたんだけどね。
 ちょっとだけ胸が痛むな。
 後悔させないぐらい彼女に素晴らしい世界を体験してもらおうじゃないか!
 もちろん実験も兼ねてだけどね♪

 それにしても彼女はかなり被催眠性は高いらしい。
 忘却暗示なんてそうそうかかるものではないんじゃなかったんだろうか?
 まぁ、上手くいったんだしそういうのは後回しだ。

「のんさんが大丈夫ならこちらは喜んで。大丈夫ですか?」
「あっ、はい!最悪明日学校休めばいいですし!」
「そこまでしなくてもいいんじゃないですか?まぁ、いいです。では催眠の世界へ落ちましょう」
「・・・・・はい・・・」
「どんな気分ですか?」
「・・・とっても気持ちいいです・・・」
「ではまた階段を登って行きましょう。今度はあなたが数を数えながら登っていきましょう。大丈夫、私が一緒についてますから。安心して登っていきましょう。登って行くためにとっても気持ちよく、とっても真っ白になって行きます。では、数えてください」
「・・・はい・・・1・・・・・2・・・・・3・・・・・」

 彼女が一人で深い世界へ落ちていく。階段を上っていく間に彼女が更に深く催眠にかかるように暗示を入れていく。
 ここまでやればあとは勝手に深まっていくんじゃないだろうか?
 50まで数えた当たりから台所へ麦茶を飲むためにちょっとの間放置していた。

 眠ってないか心配になり戻るってみるとまだ数えていた。
 既に95段目だ。
 かなり声も小さくなっていて聞き取るのもやっとという感じだ。

「100数えたら階段の一番上に到着します。到着するとあなたの全ては真っ白になります。何もかもわかりません。名前も年齢の記憶も理性も全てが真っ白です。生まれたままの本当のあなたになります」
「・・・・・・・・・・96・・・・・・・・・・97・・・・・・・・・・98・・・・・・・・・・99・・・・・・・・・・100・・・・・」
「一番上に到着しました。素晴らしい世界です。目の前には一つの扉があります。どんな部屋ですか?」
「・・・・・大きな木製の扉・・・・・・」
「そうですか。そこはとっても素晴らしい世界の入り口です。開けてみようとしても開きませんよね?その扉には鍵がかかってるのです。鍵は私が持っています。あなたにこの鍵を貸してあげることも出来ますが、あなたはこの部屋の鍵を借りて入りたいですか?」
「・・・・・入りたいです・・・・・」
「鍵が欲しいですか?」
「・・・・・欲しい・・・・・」
「ではあなたには特別にこの大切な鍵を貸してあげます。この鍵の名前は『光の満ちた部屋の鍵』というんです。あなたは私がこの言葉を聞くといつでもどこでもこの素晴らしい部屋の中に入ることができます。いつでもこの気持ちいい世界に来ることが出来ます。わかりましたか?」
「・・・・・わかりました・・・・・」
「この部屋を出るときには鍵はいつでも勝手に私の所に帰ってきています」
「・・・・・・」
「この鍵は私しかあなたに渡せません。他の人が渡したとしてもそれは偽物なのでこの扉を開けることは出来ません。あなたをこの部屋に入れることが出来るのは私だけです。それと普段のあなたはこの鍵の存在を忘れています。でも私が差し出したらあなたはその存在を思い出してこの部屋に入れます。普段は覚えてないですが心の奥底にはそれが残っています。わかりましたか?」
「・・・・・はい・・・・・」
「では『光の満ちた部屋の鍵』を私があなたに貸すとあなたはどうなるんですか?」
「・・・・・私は鍵を借りるといつでもこの部屋に入れます・・・・・」
「そうです。では『光の満ちた部屋の鍵』をお貸しします。どうぞ入って下さい」
「・・・・・はい・・・・・」

 無事キーワードまで入れ込むことが出来たが果たして上手くいくのだろうか?
 ちゃんと暗示が入っているのか分からないけど、きっと大丈夫だろう。

「どんな部屋ですか?」
「・・・・・真っ白で光り輝いてます・・・・・」

 まぁ『光の満ちた部屋』だからな。
 彼女のイメージというよりは俺のキーワードから連想した感じなんだろう。

「とっても綺麗で落ち着きますね」
「・・・・・はい・・・・・」
「では、三つ数えると一旦催眠が解けます。3、2、1、はい」
「・・・・・」
「大丈夫ですか?」
「はい」
「『光の満ちた部屋の鍵』をお貸しします」
「・・・・はい・・・」

 ここまででかなり深化を深めた。
 後は彼女のためになることをしてからちょっと遊ばせてもらおう。

「今あなたは光の満ちた部屋の中にいます。そこはあなただけの世界です。心配することは何もありません。ただこの声に身を任せてこの気持ちよさを感じましょう」
「・・・・・・」
「この部屋はとっても暖かいですね。まるでお母さんのお腹の中みたいに優しい温かみと安心が満ち足りています。さぁ、何も考えずただこの空間に身を任せて。ほらとっても安心できます」

「私の指は魔法の指なんですよ。私の指で触った部分はとってもぽかぽかしてきて力も抜けてとってもリラックス出来ます。ほらまずは足からマッサージしていきましょうね。ほら今右足に触れました」
「あぁ・・・・・」

 おぉ、本当に触られているように感じてるんだ。
 今更だけど催眠ってすごいな。

「ゆっくり揉んでいきます。とっても気持ちがよくて、もっといろんなところを触って欲しくなってきちゃいましたね。もっと触って欲しいですか?」
「・・・はい・・・・・」
「ではマッサージしていきますね?次は左足をマッサージしますよ。ほら、もみもみもみ」
「はぁ・・・・・」

 ・・・何かもみもみって言葉にだして言うのはちょっと空しいな。
 本当に気持ちよさそうで俺も誰かにやってもらいたいぐらいだ。

「どんどん上え登っていきます。太ももからお腹に登っていくようにマッサージしていきます。次に肩を揉みます。お客さんこってますね?ちょっとお疲れですか?」
「・・・・・いろいろ忙しくて・・・・・」
「そうなんですか~。では今日は疲れをとっていってくださいね?」
「・・・はい・・・」

 本当にお金でももらおうかな~。
 意外といい商売になるかもしれないな。

「どんどん上に上がっていきます。今度は首筋からほっぺたを通って頭の上に上がっていきます。頭がほぐれていってどんどん頭で考えていることや日常の嫌なことが抜けていきます。今はただ気持ちよくなりましょう」
「・・・・・」

 これでいつもより疲れがとれて精神的にも肉体的にも気分が楽になったはずだ。
 こちらの練習台になってくれた・・・いやなってくれるお礼だ。

 さぁ、あとは俺の時間だ♪
 ちょっとして、本当ちょっとお遊び・・・じゃなくて実験をやらせてもらおう。
 もしこれでまた疲れたりしたら同じことをやってあげればいいわけだし♪
 ふぇっふぇっふぇっ。
 怪しげな笑い声が静かな部屋に小さく響いた。
 もしかしたら電話の向こうにも聞こえたかもしれないが、その時はその時さ。

「では、今度は下に下りていきます。こんどは触ったところが暖かいというより熱くなってきます。火傷するような熱さではなく暖かい感じです。では下に下りていきます。まずは鼻筋を通って唇に、そして唇をなぞるようにゆっくり触れていきます」
「あ・・ふぅ・・・・・」

 彼女が熱く甘ったるい吐息を漏らした。
 幼い天使のような彼女の声が幼さとは裏腹に艶を帯びて不思議な魅力に満ちていた。

「指が口の中に入ってきます。口の中も暑く蕩けそうな気持ちよさに満たされます。口の中を舐め取るようになぞっていきます」
「・・ふぁぁ・・・・」
「舌に絡めるように指が動いていきます。舌全体を舐めるとるように優しくマッサージしていきます」
「くふぅ・・・・あぁ・・・」

 気持ちよさそうに喘ぐ彼女の声を来ているとこっちも興奮してくる。

「ほらとっても気持ちよかったでしょう?もっと気持ちよくなりたいですか?」
「ふぁ、ふぁい・・・・・」

 舌足らずに彼女が答えた。
 これぐらいで感じてしまうものなのだろうか?

 そこで気付いたのだが、俺は彼女をまだ何も知らない無垢な女の子と勝手に思っていたがもしかしたら男をしってるかもしれない。
 今どきの女の子だし経験は早かったのかもれしれない。
 俺の知り合いの中学生ぐらいのぽっちゃりな女のこもあまり可愛いとは思えないがもう2、3回付き合っているらしい。(俺が)悲しいことだが。

 思いつくやいなやさっそく聞いてみることにした。
 深く催眠状態に落ちてるだろうし、プライバシーに関わることじゃなかったらある程度は答えてくれるんじゃないだろうか?

「ではもっと気持ちよくしてあげますね。私が触ってところはとっても気持ちよくてとっても素直になります。頭や口は素直になっていて私の言うとおりになってしまいます。そうですね?」
「・・・はい・・・」
「では今から私が質問しますのであなたは素直に答えてください」
「・・はい・・」
「では質問しますが、あなたは学生ですか?」
「・・はい・・」
「好きな食べ物は何ですか?」
「・・アイスです・・」

 まぁ、ここまでは既に聞いていることだから問題なく答えるだろうな。
 それじゃあ、本題だ。

「あなたは今付き合っている人がいますか?」
「・・・いいえ・・・」
「では今まで付き合ったことはありますか?」
「・・・はい・・・」

 俺の彼女への妄想は脆くも儚く崩れさってしまった。
 ふっ、ここまでは想定内のことだから別に気にしてないもん!
 それに付き合ってるわけでもないし、ましてやあったこともないのだから。

 更に深く話を聞こうとしたが彼女への配慮と聞くのが馬鹿馬鹿しくなりやめにした。

「それでは、あなたは今好きな人はいますか?」
「・・・はい・・・」

 そりゃそうだよな。女の子は恋を餌に大きくなる生き物なんだから♪あはっ♪

「その好きな人は誰ですか?」
「・・・た・・くんです・・・」

 小さくて聞こえずらかったがたかしと言ってた気がするな・・・何ともありきたりな名前だな。
 うちのクラスにも1人いるし学年だと何人いるだろうか?
 ついついけなしのようになってしまっているが、そろそろ本題に戻ろう。

「じゃあ、さっきのマッサージの続きです。さぁ、指がどんどん下に向かっていきます。首筋を通りあなたの心臓の方へ。胸をマッサージしていきます。どんどん胸がき持ちよくなってきて熱くなってきます」
「あぁ・・・いやぁぁ・・・んん・・・」

 わずかだがこれは拒絶の意か?
 恥ずかしいことの裏返しという説があるが、万一拒絶だったらやばい。
 催眠にかかっているから理性は薄れているだろうが嫌なものは嫌だろうし。
 しょせんは現実、そう簡単にはいかない。
 それに何より彼女との関係を悪化させたくなかった。
 ひどいことをしてることには変わりないだろうが・・・
 でも、性的なモノを感じるという暗示はいれてないし、ギリギリセーフってことにはならないかな?

「私の質問に正直に答えてください。あなたはこうされるのは嫌ですか?あなたが嫌なら私は止めますよ?」
「・・・・・嫌じゃありません・・・・・」
「嫌じゃないということはやらない方がいいんですか?」

 彼女に止めて欲しいと言って欲しかった。
 彼女が止めてと言ったなら俺の理性を全部寄せ集めてギリギリの所で踏みとどまることが出来たかもしれない。

「・・・・・やって欲しいです・・・・・」

 ・・・・・プチンッ。
 俺の頭の中で何かが切れるような音が聞こえた。

「では胸をマッサージしていきます。ゆっくりゆっくり揉みこむようにマッサージこしていきますよ。ほらとってもとっても気持ちがいいですよ」
「あぁ・・・いやぁ・・・んぁ・・・」
「どんどん強く揉んでいきます。ほらどんどん熱く気持ちよくなっていくよ。気持ちいいって自分で言ってごらん?言うたび気持ちよさはどんどん強くなっていくよ」
「くふぅ、あっ、あっあっ・・・き、気持ちぃ・・・気持ちいぃ・・・気持ちいい!!」
「ほらどんどん気持ちよくなっていくよ。今まで感じたこと無いぐらい気持ちがいい。乳首を触ってあげるね。触るたび今までの気持ちよさが2倍、4倍になっていくよ。ほら、乳首を触ったよ。ピンッ」
「ひゃっ!!!」
「飛んじゃいそうになるときはイクって言うこと。イクって言わないと飛んじゃうことが出来ないよ」
「くひゃぁ、あっ、い、いっ、いく!いくー!いくっ!いくぅーーー!」

 飛んじゃったようだ。
 あぁ、やばい止まらない、止められない。

「もっと揉んでいくよ。ほらさっき飛んじゃったときの10倍の気持ちよさだ」
「あ゛ぁ、い゛いーー!!!」
「飛んじゃうとその気持ちよさが心に刻まれるよ。とっても気持ちよくて忘れられなくなるよ。さぁ、飛んじゃえ!」
「ひぁ、いっ、いっ、いぐっ!いぐぅーーーー!!!!!!」

 電話から思わず耳を離してしまうほどの声で雄叫びをあげた・・・あっ、彼女の両親とかに気付かれなかったんだろうか?
 そのことに気付くと興奮が一気に冷めて、彼女のことが心配になった。
 念のために聞いてみる。

「大丈夫ですか?」
「・・・ふぅ、ふぅ・・・大丈夫です・・・」
「今日家に親とかはいますか?」
「・・・いえ、いません・・・」
「もしかして一人暮らし?」
「・・・いえ、二人ともお出かけしてます・・・」

 とりあえずよかった。
 もしかしたらこの親がいない日を狙っていたのかもしれない。
 まぁ、親に催眠かけてもらってるって言いづらいもんな。

 さすがに遊び過ぎたような気がするしそろそろ終わりにしよう。彼女の懐にも悪いし。

「とっても気持ちよかったですよね」
「・・・はい・・・」
「アソコはどうなっていますか?」
「・・・・・ぐしょぐしょに濡れちゃってます・・・・・」
「じゃあ、次はどこを触って欲しいですか?」
「・・・・・・・・・・あそこ・・・・・・・・・」

 さすがに恥ずかしかったのだろう、すこし返事が遅かったがすでに気持ちよくなりたいという気持ちが理性を上回ってしまっているらしい。
 別にいやらしいことを言わせるために聞いたんじゃないぞ?
 ちょっと必要だったからなわけで。
 それに調教してるわけじゃないからおまんこなんてわざわざ言わせません。
 さすがにそこまでしません。

 もう十分やってしまった気もするが。

「それじゃあまた今度気持ちよくしてあげます。でもそのためにはまたこの部屋の中にこなくてはいけませんよね?どうすればこの部屋に入ることが出来るんでしたっけ?」
「・・・鍵を借ります・・・」
「誰からどんな鍵をですか?」
「・・・clownさんから『光の満ちた部屋の鍵』を借りなければいけません・・・」
「そうですね。では催眠から解けます。催眠からとけると今日催眠中起こったことは忘れてしまいます。ただなんとなく気持ちよかったことだけ覚えています。でも、今日感じた気持ちよさは心の奥底に深く刻まれています。だから記憶では忘れていますが体は覚えています。そうですね?」
「・・・はい、気持ちいいの忘れてるけど、体が覚えてます・・・」

 どうせだからちょっとした悪戯をしてみようか♪

「そして正午になると体がそれを思い出してとってもとっても気持ちよくなってきます。それを納めるには一回飛んじゃわないと駄目です。それは思い出すことが出来ませんが体がそうなっていまします。でももしそのことで本当に困ったなら私に相談しましょう。そしたら解決してあげますから」
「・・・はい・・・」

「では、下着を着替えたら催眠から解けます。そしたらさっき言ったとおりになって目覚めます。とっても爽快な気分で目覚めます。そしたら後はゆっくりお休みなさい、のんさん」
「えっ・・・?」
「?どうかしましたか?」
「・・・いえ、何でもないです・・・」
「それでは着替え初めてください。いい夢を」

 何かひっかかる気がしたがまぁ、いいだろう。
 今日は本当貴重な体験ができた。
 そして催眠が意外に疲れることに気付いた。
 暗示を考えたり相手を観察したりと思ったより集中力が必要で正直しんどい。

 俺の言葉を素直に実行する彼女にすごい征服感を感じ異様に興奮していた。
 ここまで自分の征服欲が強いとは思っても見なかった。

 それと同時に彼女には悪いことをしてしまったという後悔と催眠が解けて全てが壊れてしまうのがとても怖くなった。
 果たしてこれでいいのだろうか?
 今日の出来事をがとても悪いことのように感じた。

 今日あったことが瞼の裏に浮かんでは消えを繰り返してる間に俺は深い眠りへと落ちていった。

-5-

 次の日。
 あの夢のような出来事を思い返すために学校を休みたかったがどうせ家でごろごろしてても親がうるさくて妄想に浸ることすら出来ないだろうと判断して結局登校した。

「何かあったのか?顔がニヤケてたぞ?」

 教室にいた銀が話しかけてきてやっと自分が危ない人オーラを発していることに気付いた。
 それはいつものことか。

「まぁ、いろいろあってな」
「なんだよ、彼女でも出来たか?卒業したのか?」
「そうだといいんだけどな。ぜひ卒業させてくれそうな子いたら紹介してくれよ」
「そいつはいくらモノ好きでも無理があるだろう?」
「・・・何故だかお前には言われたくねぇな」

 そうこう話してる間に担任が入ってきて銀も席についた。
 こうしていつもの長い一日が始まった。

 今の空っぽな俺の思考と同じぐらい晴れ渡った青空が広がる12時過ぎ。
 いつもと同じように腹の虫が鳴るが、それは1度じゃなく2度3度とリフレインしてる。
 周りに聞こえないように必死で腹に力を込めてみたりするが結局は同じこと、生理現象を止めることなど出来ない。

 ぼーっと空を見上げていると廊下を歩いていく女の子がいる。
 あれは3組の鳳だったような・・・1週間ぐらい前の同じ時間とデジャブだ。
 違うところと言えば教室をちら見していないことと、必死で何かを我慢していることぐらいだろうか?

 待て、あれはかなり辛そうだけど大丈夫なんだろうか?
 トイレより保健室に行った方がいい気がする。
 助けてやろうとも思ったが何とか大丈夫そうだったので放課後に会ったらどうしたのか効いてみよう。
 うまくいけば持てない男子の憧れである、女の子との二人きりの帰宅という夢を叶えることが出来るかもしれない。
 本当に気分が悪ければ早退するだろうけど。

 そうこう考えているうちに終業を告げるベルの音と腹が一緒に鳴った。

 放課後になり軽音部に銀とバンドの練習をしに行った。
 練習がやっと終わり、教室に体育着を忘れていたことを思い出して教室へと向かった。
 明日持って帰ってもいいが、あれは一日放置すると結構破壊力のある凶器になったりするので迅速に処理することにした。

 教室に向かう途中3組の前を通ろ気になって覗いて見るとまた鳳がいた。
 本日二度目のデジャブを体験で、一週間前と全く同じ場所につったっていた。
 昼のことも気になったので声をかけてみることにした。

「何見んてんの?」

 ビクッ。
 急に声をかけられて驚いたらしく軽く跳ねてから後ろを振り向いた。

「あっ、黒崎くん・・・ちょっと考え事してただけ・・・」

 鳳の横に並んで運動場を見てみたが今日はサッカー部の練習はやっていないようだ。
 顔を見た限りじゃ多少疲れてるようにも見えるが健康そうだ。
 安心したが好奇心に負けて昼のことを聞いてみることにした。
 レディーには失礼な質問になるかもしれないけど。

「そっか。今日はサッカー部の練習もないみたいだしね。そういや昼頃に気分悪そうに廊下歩いてたけど大丈夫か?」

 ビクンッ。
 さっきよりも大きく跳ねたうえに少し頬が赤らんでいる。

「・・・見てたの?」
「・・・いや、空眺めてたら目に映ってさ。体調悪いのかなって思って」
「そっ、そうなんだ・・・大丈夫だから気にしないで?・・・でもそんなの見てるなんて何か黒崎くん変体っぽいよ?」

 照れを隠すようにおちょくるように笑いながら言った。
 とりあえず大丈夫ならよかった。

 言われなくても解ってたが確かに女の子にトイレへ行く話をする男子はちょっと変態さんの匂いがするな。

「そんな当たり前のこと言われても困るな~」
「・・・黒崎くん、変体なの?」

 真に受けられても困るんだけど・・・事実ではあるけどさ。

「変態というよりは変人かな~?ところで鳳はいつも放課後ここにいんの?」
「いつもじゃないけどたまにいるかな~。暇なときとか」
「一人で暇じゃない?あっ、サッカー部見てたら暇なんて感じないか♪」
「もう、だからサッカー部を見てるわけじゃないんだってば!」

 拗ねてふくらんだほっぺも潤んだような瞳も手足の細やかな動作一つをとっても全てが優雅である。

「だって実際前見てたじゃんか。そんなに小鳥遊が好きなの?」
「だから小鳥遊くん見たわけじゃないんだってば!それには小鳥遊くんが好きなんて言ってないよ!」
「だけってことは、小鳥遊を見てるのは否定しないのな~。かわかりやすいな、鳳は」
「もう!知らない!」

 ちょっと怒らせてしまっただろうか?
 まぁ、これで終わるようならここまでの関係だ。
 俺の性格だからどうしても相手をいじるのを止めることは出来ないだろうし、どんなに好きな人にでもいつでも優しくなんてなれやしねぇよ。
 それでも鳳のことを考えると意地悪したりこの場にいる事を躊躇ってしまう。

「そっか・・・じゃあ、そろそろ邪魔者は消えとくは。惚けるのもほどほどにして帰れよ」
「あっ・・・」
「?どうかしたの?」
「もう・・・帰っちゃうの?」
「いや、だって鳳がもう知らないって言ったんだろう?」
「そうだけど・・・暇だから・・・」
「暇だから話し相手になって欲しいってこと?」
「うん!」

 本当に嬉しそうに笑う鳳を見てるだけで何だか俺も嬉しくなった。
 ありきたりな表現かもしれないけど、それはまさに太陽が微笑むようという言葉がぴったりだった。

 何より俺も鳳と話したかったし。
 彼女のためというよりそれを理由に彼女と二人きりでいたかった。

「俺でいいならいくらでもお相手させていただきますよ、お姫様。私のお話はつまらないかもしれませんがそこはお許しくださいね?」
「もうそんないい方しないでよぉ!それに私お姫様って感じじゃないし・・・」

 戯けた道化師のように言った冗談を彼女が笑って返してくれる。
 謙遜してるがそれはまさにお姫様という言葉が相応しい。
 俺みたいなのが彼女と話していられるなんてまさに夢のようだ。
 身分違いな俺が見ているこの夢がいつまでも続いてくれたらいいのに。

 鳳と話してる間の時間の流れは速いく二人で話している間にあっという間に時が流れ下校を告げる放送でやっと時計を見上げた。

「あっ、もうこんな時間だね。ごめんね?付き合わせちゃって」
「別にいいって。俺も楽しかったしさ!外は暗いし家まで奥っていこうか?」
「そこまでしてくれなくていいよ。そんなに遠くないし」
「・・・そっか」

 ただ鳳との時間を少しでも長く過ごしたかっただけだったのだが、それはお断りらしい。
 2回しか話してないから仕方ないよな。
 俺なんかと過ごしたいわけないし、とどんどんマイナス思考になっていくので深く考えないことにした。

 さっきまでとは打って変わって終始無言で校門まで二人で歩いていく。
 そういえば女の子と並んで歩くなんて生まれて初めてのことだ。
 ちっさいことはちらほら遊んでた気もするがそんなの今となっては大昔の話だ。

 それに女の子とこんな緊張せずに話せたことなんてあっただろうか?
 女の子と話すときどうしても固くなってしまうことが多かったが、何故か彼女と話す時は力を入れずに話すことが出来た。

 そんな鳳のことだからきっとモテるとだろうな。
 実際うちのクラスでも彼女のことをかわいいと言ったり好きだとか告白したけど振られたとかいう噂をちらほら聞いていた。
 まぁ、一週間前まで鳳という名前は知っていたが誰のことだかさっぱり分からなかったのだが。

 なにより彼女には好きな人がいる・・・それも俺が勝てる要素が全くと言っていいほどないの・・・俺にどうしろと言うのだ?

 でも今は彼女と話せるだけで、彼女が笑っていのを見てるだけで嬉しかった。
 今はこの学校という狭い空間の中にいても名も知らない大多数の中に彼女が含まれてなかったことに、彼女と出逢えたことが何よりも幸せだった。

「黒崎くん?」

 声をかけられ思考を切り上げて空を映していた視線を下に下げると、不思議そうに俺の顔を覗き込む鳳の顔が映った。

「いや、何でもない。話してて本当楽しかったよ。気をつけて帰れよ?じゃあさよならだ、香」
「えっ?あっ、じゃあまたね!」

 少し驚いたようだが、屈託のない笑顔で微笑みかける彼女に心が満たされ、そして胸がいたんだ。
 俺の思いと言葉の意味をきっと彼女は知らない。
 きっと知ったとしても彼女の生活になんの影響を与えはしない 。

 彼女の声に答えることなく後ろに振り向き、振り返ることなくそのまま早足で自宅への歩を進めた。

-6-

 彼女に・・・のんに電話で催眠をかけてから5日がたつ。
 あれからメールで話をしたりたまに催眠をかけたりしている。
 どうやら『光の満ちた部屋の鍵』を貸すときにわざわざ電話する必要はないらしい。
 あれ以来あの日のようなことはしていない。
 くだらない話をしてるときに感じる彼女への罪悪感が踏みとどまらせるのと何よりもそういうことをやる気になれなかった。

 一体どうしたというのだろうか?
 せっかく女の子を好き放題出来るチャンスを得たというのに健全な男子の反応じゃないぜ?
 何をしてるんだ俺は?

 彼女とメールをしているとふと彼女の住んでる所が家の近くだと言っていたことを思い出したので、さっそく思いついた悪戯を実行することにした。

 『『光の満ちた部屋の鍵』をお貸しします』

 数分で返事が返ってきた。

 『はい』

 短文なところを見るとどうやら催眠にかかったらしい。

 『では今から火華公園に来てください。親には友達と遊びに行くとでも言って来てください。あるくたびに催眠は深くなっていきます。とっても夢心地です。もしついたらベンチに座っていてください』
 『はい、わかりました』

 5分くらいして返事が来た。
 自分でやっといて何だが本当に来るのだろうか?
 さすがに催眠からとけているのではないだろうか?
 けれども本当に来てしまって俺がいなかったら彼女に失礼だろう。
 でももし彼女が催眠から解けてしまっていたら、警察にでも訴えられて法の門の下をくぐる羽目になりかねない。

 ・・・まぁ、いいか。
 なるようになるさ。
 彼女にそれだけのことをしたのだし、捕まっても悔いはないさ。
 でもせめて一度でいいから彼女とか作ってみたかったな。
 このさい彼氏でも・・・いや、さすがに男であることは捨てたくないな。

 心地よいベットの感触にそのまま吸い込まれそうになるのを体の一部を切り離すよう無理矢理ベットから離すと、安物のTシャツと少し大きめのジーンズというラフな恰好で指定した火華公園へと向かった。

 真っ昼間だというのに人っ子一人いなくて小鳥のさえずりだけが聞こえる午後三時の公園のベンチの前。
 ベッドに横になっていたら寝てしまと思ってあの後すぐ家を出てきたがさすがに早くきすぎた。
 コンビニで立ち読みでもしてくればよかった。

 ふぁ~・・・それにしても暇だ。
 本当に何もない。
 あるのは目の前のベンチと昼寝のためにあるといってもいいこの陽気。
 この昼寝のためにあるような時間を寝ずに過ごしていいものだろうか?
 更に木々の間をそよぐ風の気持ちよさもついてくるのだから眠らずにいていいはずがない

 よし寝よう。時間はたっぷりある、はずだ。
 そう決めるたら早くさっそくベンチに横になると暇つぶしに持ってきた文庫本を開いて目隠しにして片膝を立てたら、そよぐ風の音を子守歌にして眠りの世界へと向かっていった。

 熟睡していた俺の足に何か当たる感触がした。
 人が気持ちよさそうに熟睡しているのだから座りたいのを我慢するのが常識ってもんだろう?

 人の眠りを妨げる非常識な奴の顔を見てやろうと思い、目を瞑ったまま目隠しを取ってポケットにつっこんでからベンチに座り直して横を振り向きながら目を開けた。

 何でここに鳳がいるんだ?俺が待ち合わせてたの・・・
 でも何度目を擦って見てみても、そこにいるのは緑のノースリーブワンピースを履いた鳳だ。
 急いで来たのだろうか、すこし寝癖が残っている。
 何時まで寝てたんだ?

 よく見てみると鳳の表情はいつもと違ってどこか虚ろだ。
 どこか遠くを見ているかのように焦点が定まっていない瞳は意志を感じさせない。
 唇はゆるみ顔に表情というものを映し出していない。
 コロコロ変わる普段の表情とは違うがこれはこれでそそる表情だった。

 ・・・って違う違う!まずは現状確認だ。
 ここまで来たらほぼ確実だろうが万が一ってことがないわけではないしな。

「鳳、目を瞑って立ち上がってみて」
「・・・はい」

 素直に目を瞑り立ち上がる鳳。
 鳳が俺の言葉に従っているというその事実が抑えきれない興奮を生みだし理性を少しずつ削りとっていく。

「鳳・・・パンツ脱いで?」
「・・・はい・・・」
「待て!鳳、ストップ、ストップ!」

 嫌なことはやらないはずなので冗談で言ってみたが本当にスカートの中に手をかけたのに驚き急いで止めさせた。
 正直のところこの状況に混乱している。
 あまりにも無防備な鳳にも、鳳が今ここにいることも、のん=鳳であったこにも、その鳳に俺はひどいことをしてしまったことにも。

 とりあえずは、この状況を打開しないと。

「質問するから正直に答えろよ?」
「・・・はい・・・」
「それじゃあ、俺がメールしてからここに来るまでに誰かにあったか?」
「・・・いいえ・・・」

 とりあえずは誰にもバレてはいないようだ。
 今の鳳様子を見たら誰でもおかしいと気付いただろうし、今の鳳は恰好は露出も多く男を欲情させるような不思議な魅力を帯びていた。

 だが今はそんな鳳を見ていても全くその気にならない。
 それほどまでに今ここで起きているこの状態が想定の範囲外すぎた。
 そりゃちょっとばかり過ぎた妄想をしていたさ?でもその妄想の中に通行人だろうがなんだろうが鳳の姿なんて1秒も出てこなかったし、もちろんメインが鳳であるはずがなかった。

 今起きていることが出来すぎた夢にしか思えなかった。

 何をどうすればいいのか思いつかず鳳を帰すことにした。
 どうすればいいかはそれから考えるさ。

「鳳、俺の聞こえるか?」
「はい・・・」
「鳳は今日公園に来ていない、家でずっとぼーっとしてたんだ。催眠にもかかってないしメールもしていない。今まで家にいたんだ。そうだよな?」
「・・・はい」
「それじゃあ、家に帰って。家についたら催眠がとけてさっき俺が言ったことをしていたことを思い出す。それじゃあ家に帰って」
「・・・はい」

 小首を傾げるようにうなずいてからふらふらと歩きだす、鳳。
 何だか来たときより深く催眠にかかっているように見える。見ていて危なっかしい。

 ということで、一緒についていくことにした。もちろん鳳が心配だからだ。
 途中で電信柱に当たってもらっても困るしな・・・すみません、半分嘘です。でもちょっとぐらいならいい思いしてもいいだろう?

 既に10mほど先にいる鳳に追いつくとさりげなく手を握ってみる。
 女の子の手ってこんなに柔らかいんだな~、って違う違う!あくまで危なっかしいから家まで送ってあげるのが目的なわけで、鳳の手を握っているのは仕方ないのなことであって・・・説得力ないか。
 そんな俺を不思議そうな目で少し見つめて少し微笑んだような気がしたが、まぁそれは気のせいだろう。
 素直に手を握り返してそのままもたれかかって来た、というか倒れてきた。
 ふぅ、危ない危ない。本当に家まで送ってやらないとどっかでぶっ倒れそうだな、こりゃ。

 幸運なことに鳳の家までの道のりで誰かに出会うことはなかった。
 送るといっても鳳の家がどこなのかわかるはずもなく案内してもらった形になるのだが。役得ということにしておいてくれ。

 意外なことだが鳳の家は俺の家のすぐ近くだった。俺の住んでいるところの200mぐらい先から隣の中学の校区だったため中学校は別々だたらしい。俺はもう200m先に家を建てなかった両親を軽く怨んだ。

「家の中に入ったらずっと家にいたことを思い出します。そしてとっても気分爽快で催眠から目覚めます。それじゃあまた明日な、香」
「うん、また明日ね・・・」

 何だかすでに催眠から解けているような気がしないでもないがその時はその時さ。明日までにどうするかは決める。
 家に入る鳳を見届けずそのまま後ろに回れ右をして家に帰りながらどうすればいいのか考えていた。

 家についてからもこれから鳳とどんな顔をして話せばいいのか考えていた。

 そして気付いた。

 俺って鳳と話したこと2回しかないのだから普段の生活に支障はないのではないだろうか?少なくとも俺は。
 ネットの小説で女の子を洗脳して虜にするというものがあったが、そんな気分にはなれない。
 何より催眠で誰かを洗脳なんてそうそう簡単に都合よく出来るはずがない。
 小説では薬やら魔術やらを使うから出来ることなのであって、そうそう現実は甘くない。
 それに自分が作り変えたお人形に好かれてもたりしてもきっと何か物足りなく感じるだろう。そしていつか飽きて捨ててしまうだろう。そんなことを鳳にしたくはない。

 考えていることは自分に都合のいいことばかりで、そんな自分に吐き気すらした。鳳の催眠を解いてしまえばいいだけの話なのにそのことを躊躇っている自分がいる。
 こんな鳳を手に入れるチャンスは二度とないかもしれない。普通に接していても小鳥遊・・・鷹志を差し置いて鳳に振り向いて貰えることなんて出来るだろうか?

 自分の器の小さい葛藤はずっと続いていた。答えは出てるはずなのに・・・どうしても正しい方を選ぶことが出来ない。
 人間であるが故の迷いか、人間以下のクズであるが故の迷いか・・・そんなことは分からないけど、俺という人間にとっては人生さえ左右しかねない重要な問題だった。

 答えの出ない自問自答の無限ループはいつまでも俺の頭の中で渦巻き続けていた。
 いつまでも考えている間にさすがに燃料不足だったのだろうか、いつのまにか思考回路が停止していてそのまま深い眠りへと落ちていった。

-7-

 次に目覚めた頃にはどうあがいても遅刻確定の時間になっていた。
 普段なら登り坂だろうが下り坂だろうが赤信号だろうが全力で自転車のペダルをこいでいるいる時間だろうが今日は久しぶりにゆったりと自転車をこいでいく。
 出せるだけの最高速度で風を斬る冷たさも爽快だが、たまにはゆらりとそよぐ風を背中に受けながらボーっとしていつのまにか学校についているっていうのもいいかもしれない。
 でもどうせなら学校休みたいよな~、って駄目だ、駄目だ。
 今日きっちり答えを出すって決めたんだから、せめてそれが終わってからにしなければ・・・終わったら旅にでも出てみようかな。

 幾度となく思考がずれていき連想ゲームのように俺の頭の中が広がりを見せている間に、いつのまにか学校についてた。
 本当に不思議なことにすでに三組の前まで来ていた。人間の無意識とはすごいものだ。

 すでに一時間目は始まっているらしく、一応進学校を名乗ってるだけあり女子は真面目に黒板とノート交互に睨めっこしているが、男子は・・・言わなくてもわかるだろう?

 鳳のことが気になって通りすぎながらちらりと見てみると例外なく黒板と睨めっこしている。
 ふと横を振り向く。たまたま廊下を通り過ぎる男子生徒が目に映ったのだろう。

 俺と目が合うと笑顔で手を振ってきた。そんなに俺たちって仲よかったっけ?
 前も言ったがまだ2・・・鳳が知らないのも合わせれば4回しか話してないんだけど?きっと鳳はみんなにあんな感じなんだろう。
 恥ずかしかったが一応顔の横の高さまで手を挙げてそれを返してみる。
 それを見て鳳が笑顔になってくれた。ただそれだけのことが嬉しかった。

 香の笑顔を見たこの時、既に答えは出ていたのかもしれない。

 少し軽くなった体で教室に向かった。
 こういう時一番前の席は辛い。どうあがいても完全犯罪を実行出来ないからだ。

 ここは腹をくくっていくか。

 堂々と前の戸を開ける。固まっている新米教師の明以子ちゃんを無視して席に着く。そして右手を差し出してどうぞお先に進めてくださいとお決まりのジャスチャーをしてみる。
 教室の空気が凍り、何もなかったかのように動きだしてから数秒ほど困った顔で固まっていた明以子ちゃんだがそのまま授業を再開した。

 ・・・本当に俺を無視しちゃっていいのか?先生としての将来性がちょっとばかり不安だな。
 原因をつくった俺が言うのもなんだと思うが。

 さすがに一時間目は明以子ちゃんが可哀想なので真面目に授業を受けてあげることにした。
 俺の得意な数学だと言うこともあるのだけど。

 特に何も無く一時間目が終わった。
 教室を出ようとする明以子ちゃんがちょっと俺を見ているようなので、謝罪も込めて頭を軽く下げた。
 ちゃんと気持ちが伝わったのだろう、少し安堵した明以子ちゃんはそのまま教室を出ていった・・・だからいいのか、明以子ちゃん?何か言うことあるでしょう?

 休み時間の間に鳳の奴が好きらしい元に鳳のことをさり気なく聞いてみた。
 元から見た鳳は男女問わず人気がありちょっと恥ずかしがりやで天然な誰にでも好かれる小動物みたいな女の子、だそうだ。

 いろんな奴から告白されているらいがそれを全部断っているらしい。
 そりゃ小鳥遊に勝てるやつはそうそういないだろう。

 最近は何をするにもどこか上の空でどうやら好きな人が出来たのではないだろうかと専門家の元大先生は推測しているらしい。
 何でそこまでお前は知ってるんだ?ストーカーか何かか?

 それに好きな人が出来たせいだろうか最近は明るくなったらしい。
 恋の・・・小鳥遊の力はすごいな。女の子一人を変えることなんかそうそう簡単に出来ることじゃない。

 次の休み時間に元大先生にならって鳳を見に行ってみる。
 元大先輩直伝のトイレに行くという大義名分を忘れない。

 ちらりと友達と楽しそうに話している鳳が目に映った。鳳の回りには女子が集まっていた。
 でも女子のリーダー的存在というよりは何か遊ばれているような気がするんだけど・・・

 楽しそうに笑い和やかな雰囲気が流れる鳳の回りは、俺が住んでる世界と何か壊すことの出来ない壁で隔たりが出来ているように感じてしまう。
 見ていて彼女の世界の中に催眠のさの字も必要ないことが嫌でも理解出来てしまう。
 そんな俺が彼女に出来ることなどはたしてあるのだろうか?

 考えれば考えるほど分かりきった答えが浮き彫りになってしまう。9割方出ている答えにどうしても納得出来ない自分がいる。

 考えても納得出来ない答えを無駄だとしりつつ窓の外をぼんやり見上げながら考えていると、視界の端に廊下を歩く影が映った。

 そう鳳だった。

 よくトイレに行くなと思いつつもさっきのお返しに手を振ってやろうと手をあげようとしたが、どうやら他の所を見ていることに気付いた。
 どこかぼーっと頬を赤らめた鳳の目線は小鳥遊の方を見ていた。

 やっと決心がついた。

 俺は先生にトイレに行くといって教室を出た後、鳳の後を追った。

 どこかおぼつかない足取りでトイレに入ろうとしている鳳に向かって声をかけた。

「よっ、鳳」
「!?黒崎くん?」

 何でここにいるの?と視線で訴えかけてくる。
 それを無視して一言の鍵を差し出した。

「『光の満ちた部屋の鍵』を貸すよ。とにかくついて来て」
「えっ・・・はい・・・」

 催眠状態に落ちた鳳が素直に俺の後についてくる。
 誰にも見つからないように授業の行われてない教室の前を選んで通って今は使われていない教室へと向かった。
 誰かに見つかったらいらぬ噂を流されかねない。
 俺はいいとしても鳳に迷惑はかけたくない。原因を作ったのは俺だ。謝ってもいいのだが鳳には全く関係ないことなのだから、何も知らないままの方がいいだろう。
 謝ってすっきりしてそれで終わり、と綺麗さっぱり忘れてしまうのは何か違う気がする。俺はこのことを忘れちゃいけないと思った。

 誰もいない教室で沈黙が続いた。
 そりゃそうだ。鳳は催眠にかかってるんだから自分から話しかけてくるわけがない。沈黙に耐えられなくなりさっそくケジメというやつをつけることにした。

「聞こえるか、鳳?」
「・・・はい・・・」
「今さっきトイレに何をしにいこうとしてた?」
「・・・・・あそこを触りに・・・・・」
「この時間帯よくトレイに行ってましたが、それはずっとこのためだったんですか?」
「・・・・・はい・・・・・」

 ・・・・・やっぱりそうだったのか。
 鳳は俺が前冗談半分でいれた暗示によって昼になると毎日体が熱くなっていたらしい。
 それも一回イッてしまわないと収まりつかない、と暗示していたはずだからトイレに行って発散してたというわけだ。
 普段の生活に支障が出ることまでしていたのか・・・本当悪いことをしてしまった。
 だから俺が出来ることをして終わろう。

「・・・ごめんな・・・それじゃあ、今から昼に体が熱くなるという暗示はなかったことになります。これからは昼になっても体は熱くなったりしません。それが当たり前です。そしてclownとメールしていたことは何も覚えてません。clownと交わしたメールなども覚えてません、いや、何もなかったんです。メールも催眠もしていません。全ては何もなかったんです。それが真実です。そうですね?」
「・・・・・はい・・・・・」
「『光の満ちた部屋の鍵』はお貸しすることができません。もう鍵は使うことが出来ません。では、トイレへ行ってください。トイレについたら今言ったとおりになって催眠からとけます。そしたら全て元通りです。それと好きな人に思い切って告白してみたらどうだ?鳳さんならきっと付き合って貰えると思うよ?鳳さんはかわいいんだからきっと大丈夫だよ。俺も手伝ってあげるからさ?その方がいいよ、きっと。それじゃあさようなら、鳳さん」
「・・・・・」

 鳳はそのまま何も言わずぼんやりした顔でトイレへと向かった。少し寂しいような気がしたがこれでよかったのだろう。
 やれることはやったし、もう俺に出来ることは何もない。
 そう思うと教室に戻って勉強する気力が全く湧いて来なかった。

 旅にでも出ようか。そうだ京都だ、京都にでも行こう。舞妓さんでもたぶらかそうかな、そんな訳の分からない計画を思い描きながら、机を8つも使ったある意味豪勢なベッドを作り横になるとすぐさま眠りに落ちた。

「・・・ぃ・・・い、ぉい・・・おい、おい!起きろこの童貞やろう!」
「っっ!ってうるさいな!誰だよ人のこの世で一番健やかな時間を汚すのは!」
「なんだよ、せっかく人が呼びに来てやったのによ!6組の鳳さんがお前のこと探してたぞ?」
「鳳が???」

 鳳が?なぜ俺を?まだ二回しか会話という会話をしてないはずなのに。少なくとも鳳の記憶上は。

 何かあったのだろうか?
 ん、そういえば小鳥遊に告白するよう後押ししたんだったっけか?きっとそのことだろう。他に鳳が俺を探す理由も思いつかないし。

「そうか、わかった。わざわざ伝えてもらってわるかったな、銀。この借りはいつか返すかもしれんぞ」
「そんなあやふやな言い方なら言わない方がマシだぞ」
「冗談だよ、冗談。明日飲み物ぐらいならおごってやるって!じゃあな!」
「おう!鳳さんと上手くいくといいな!」

 といって何か投げて来た。右手でキャッチして見てみると男のマナーであるゴム状の物体がそこにあった。

「そんなんじゃねぇよ、馬鹿野郎!」

 そう、そんなんじゃない・・・

 急いで教室に戻ってみると予想通り静まりかえっていて誰もいなかった。時計を見てみるともう5時だ。
 鳳が俺を探してたと言っていたがさすがにもう鳳も帰ってるんじゃないだろうか?
 ここに鳳がいないということは・・・3組を覗いていくか。
 簡単に帰り支度を済ませて3組へと向かった。

 いつもの場所に鳳がいた。
 ベダンダに一人でぼーっと運動場の方を眺めている。これで二度目のデジャブだ。

 今日も小鳥遊を眺めているのだろうか?
 でも確か今日は重要な事を決める職員会議があるとかで全生徒帰らなければならないことになっていて、サッカー部を含む全部部活動の練習は休みだったはずなんだが。
 考えていてもらちがあかないので声をかけることにした。

「そんなとこで何してんの?」

 ビクンッ。
 これまた毎度同じ反応だ。まるで最初に声をかけたあのときに戻ったような感じだ。

「あっ、黒崎くん!探してたんだよ!!」

 振り向きながらいつもと同じ笑顔を俺に見せてくれた。
 それだけなのに心が満たされていくのが分かった。
 この晴れやかな笑顔がやっと思い切って告白しようと決心したから、と俺が知っていなければ更に嬉しかったのだろうけど。

「どうかしたの?ついに小鳥遊に告白する気になったとか?」

 こちらの後ろめたさを悟られないように出来るだけおちゃらけたように聞いてみる。
 そこでなぜか鳳の表情が曇った。あれ、違ったのだろうか?

「黒崎くん・・・それ本気で言ってるの・・・?」
「そりゃ、鳳がその気なら俺もいろいろ協力してやるよ?といってもたいして小鳥遊と仲いいわけじゃないからたいして役には立てないだろうけどさ」

「・・・・・黒崎くん・・・・・私、小鳥遊くんが好きなんて一言もいってないよ?」
「だけど遠慮しないで・・・・・・はい?・・・・・はいぃ!?」

 えっ、えぇーーー!!?だってたかしが好きって電話で言ってたじゃないか!?たかしって小鳥遊鷹志のことだろう?

「だ、だって、たかしくんって・・・!」
「・・・あっ、あの時は、たっ、たけしくんって言ったの!!!」

 顔を真っ赤にしてそう叫ぶように鳳は言った。
 自分の大きな声にびっくりしたようで更に顔を赤くする。

 鳳の好きな人が小鳥遊じゃなかったことに少しだけ安堵した。
 それなら俺にも確率があるかもしれない。

 ・・・待て、確か鳳はたけしって言ってなかったっけ?
 それに何であの時話したことを覚えているんだ?!

「待て、待て、待て!何で鳳があの時電話で話した時のことを覚えてるんだ!?」
「そりゃ覚えてるよ!まだぼけるほど歳じゃないもん!!」
「問題はそこじゃない!!!だって・・・」
「・・・私、メールしてたことや電話した時のこと・・・覚えてるよ?」
「・・・・・」

 どういうこと何だ?
 俺は確かに昼休み前にに全てを忘れさせたはずだよな?
 まさか、催眠のかかりが浅かったのか!?
 やばいな・・・どうすりゃいいんだ・・・

「お昼にトイレに行こうとしていたところで声をかけられて誰もいない教室に連れ込んだことも、ちゃんと覚えてるよ?」
「いや、それはいろいろ理由があってだな・・・」
「違うの?」
「いえ本当のコトです・・・」

 まるで天使のような美しさを持った笑顔と小悪魔が悪戯するときのような微笑を浮かべる鳳は、有無を言わさない迫力があった。
 下手な言い訳は出来ない、そう思わせるような笑顔だった。

 何と言っていいか分からずに口を閉ざしている間、二人しか居ない教室には沈黙が鎮座する。

「本当はね、ついさっきまでメールのことも催眠のことも忘れてたんだ・・・トイレに言った後急に好きな人に告白しなきゃって思って、朝黒崎くんを見かけたし来てるのは分かってたから授業が終わったら黒崎くん探してて、銀くんが黒崎くん連れてきてくれるって言うから教室で待ってる間、暇だったから携帯いじってたらね、clownって誰だか分からない人とのメールがたくさん残ってたの。誰だろう誰だろうって思い出そうとして見てたらね、『光の満ちた部屋の鍵』ってかかれたメールを見ちゃって・・・そうしたら全部思いだしちゃったんだ・・・黒崎くんとメールしていたことも・・・・・電話したことも・・・・・全部、全部・・・・・」

 捲し立てるように一気に話すと表情を曇らせて俯く、鳳。
 鳳の顔からはいつものコロコロ変わる表情や頬を染める朱色を見ることが出来ない。
 それもそうだろう・・・全てを思い出してしまったのだから・・・

 何をどう話せばいいか分からずさきほどの沈黙が戻ってくる。
 その短い沈黙が三十分にも一時間にも感じられたとよく表現されるがその意味が初めて実感出来た気がした。

 言い訳の言葉、説得の方法いろいろ考えたが最後に出てきた言葉はたった一言だけ、本心からの謝罪の言葉だけだった。

「・・・ごめん・・・」
「ごめん、ってそれはどういう意味?電話であんなことをさせたことにたいして?それとも記憶を消そうとしたことにたいして?」
「そっ、その・・・・・俺がしてきたこと全部に対してかな・・・」

 いつになく強気な鳳の態度と瞳に宿る光に気圧されて後は黙ることしか出来ない。
 俺って絶対尻に敷かれるタイプだな。

 また始まった沈黙に息が詰まりそうになる。
 それは鳳も同じだったらしく、また鳳からポツポツ語りだした。

「私ね、本当は電話で話したとき黒崎くんって分かってたんだ・・・clownさんと黒崎くんが同一人物だって気付いた時は本当に驚いたんだよ?」

 それは俺も同じだよ・・・いや、その時俺は気付いてなかったな。
 どんだけ鈍いんだ俺は?だから女の子にモテないんだよな。

 でも待てよ、俺が鈍いということよりも鳳の記憶力の良さに感銘するべきではないだろうか?あのときはまだ一回しか話してなかったはずなんだけど?

「そのまま電話を切っちゃおうとも思ったけど、黒崎くんが催眠は本当に嫌なことは拒否出来るって言ってたから信じてみようと思ってそのまま催眠にかかってみることにしたの。でもまさか黒崎くんがあんなことしてくるなんて思わなくて・・・それもその記憶を消しちゃうなんて・・・卑怯だよ!!」
「ごっ、ごめん・・・でも、あの時香だって気付いてなかったし・・・それにしてもよく俺だって気付いたよな?あの時は確か一回しか話したことなかったはずだろう?」
「えっ・・・?そっ、それは・・・」

 急に語尾が右肩下がりになり少し顔を赤らめて俯く香。

「それに教室で小鳥遊のこと言ったら恥ずかしそうにしてたのは何だったんだ?今日6組通る時小鳥遊見てただろう?」
「あっ、あれは急黒崎くんが急に声かけてきて小鳥遊くん見てるみたいなことに言うから・・・今日は黒崎くん見てて急に黒崎くんが振り向くから目線を反らしただけだよ・・・」
「あの時は見てなかったの?」
「うぅ・・・見てたけど・・・」
「やっぱり見てたんじゃん!」
「うぅ・・・」

 俺の思わぬ逆襲に口ごもり手の前で指を遊ばせている。
 困って泣きそうに涙を浮かべる瞳を見ていると更に意地悪したくなってしまう。

「へぇ~、そうなんだ。やっぱり鳳は小鳥遊が好きなんだ?」

 ちょっと突き放すような冷たさを帯びさせた口調で言ってみると面白いように慌てて口を開く。

「ちっ、違うよ!あの時は小鳥遊くんが好きだったけど、で、でも今は違うの!!」
「そっか今は違うんだ?じゃあ、今好きな人は誰なの?」
「そっ、そんなの何で黒崎くんに言わなきゃいけないの!!」

 既に言ってるようなもんだと思うんだけど、香はまだ言ってないつもりなのだろうか??
 かなり天然らしいな。天然には意地悪が一番似合う。それがこの世の法則だ。だから虐めぬいてやるぜ♪イヒッ♪

「そうだよな~、香はたけしくんのことが好きなんだもんな~。で、たけしくんって誰のこと?」
「うぅ・・・そっ、それは・・・」
「たけしくんは本当幸せだよな、こんなかわいいこに好かれてるなんて。俺だったら絶対にオーケーするだろうな~」
「えっ・・!?本当!??」
「本当、本当~。ところでたけしくんって誰のこと?」

 無言で俺の方指をさす香。そんな潤んだ瞳で恥ずかしそうに上目遣いされたら・・・もっと虐めたくなるだよね♪

「そうかそうか、ついに香にも香にしか見えない理想の男の子が見えるようになったか・・・」

 哀れんだ目を香に向けて子どもをあやすようによしよしと髪を撫でてやる。

「違うの!!!私の好きなのは・・・」
「香が好きなのは?」
「・・・もぉ、知らない!!!」

 怒ったような拗ねたような照れたようないろんな感情が入り交じった表情をしたまま、ぷいっ、と効果音が付き添うなくらい顔を背けた。
 意地悪をしながらも、やっとコロコロと表情が変わるいつもの彼女になったことに安堵した。

 拗ねてる鳳には悪いがそんな表情すらかわいらしい。
 鳳には悪いがむしろちょっと拗ねたりしているほうが意地悪したくなるような小動物のようなかわいさがあった。

 更に意地悪したいところだがいつまでも意地悪したくなりそうなので、今回だけは素直に彼女の気持ちに答えよう。

 そっと彼女に近づいて顔をこちらに向けさせて驚いた表情をしている彼女の唇に静かそっと唇を触れさせた。
 大人のマナーって奴に乗っ取って目を瞑ったので、彼女がどんな表情をしているのか全く分からないが、驚いているのは確実だろう。
 コロコロ変わる彼女の表情を観察出来ないのは残念だがこれからいくらでも見ることが出来るのだから、ここは我慢しておくことにしよう。
 まさかここまで来て拒否なんてツンデレでもない限り、いやツンデレでもやらないだろう。

 この部屋の時間だけが大人の魔法で10秒ほど止まっていた。
 唇を離して楽しみにしていた香の表情を見てみると見事にまだ香にだけ魔法がかかったまま、ピクリともしない。
 目の前で手を振ってみるが応答なし。
 ペシペシ頭を叩いてもこれまた応答なし。仕方ない起動ボタンを押してやるか、と顔をまた近づけようと顔を近づける。

「ちょっ、ちょっと待って!!」
「やっと動いたか。俺がせっかく起動ボタンを押してやろうと思ったのに」
「・・・いきなりキスなんて・・・やっぱり黒崎くんは反則だよ!!心の準備も出来てなかったし・・・ムードってものが・・・」

 唇をつきだして拗ねた子どものように反論する香。何か子どものようというより年相応になった気もするが。

「ムードですか・・・そこまで悪いムードではなかったと思うんだけど・・・ところでさっきの話しなんだけど、あれはもしかして告白のつもり?」
「うっ、うん・・・でもいいの?」
「さっきのが答えにならないかな?」
「うぅ、それはそうだけど・・・私はちゃんと黒崎くんの口から答えを聞きたいの!!」
「答えって言われても、俺もまだちゃんと告白されてないんだけど?」
「そっ、そうだけど・・・」
「ごめんごめん、香がかわいいからついつい意地悪したくなっただけだよ。まだ、何回かしか会話してないけど俺と付き合ってくるか、香?」
「かわいいって・・・うん!喜んで!!」

 さっきから赤らんでいる香の顔が更に赤みがます。
 やっと満点の笑顔を見せてくれた香に俺もやっと心から笑えた気がした。
 一週間前までありえないと思っていたことが現実になってる。
 世の中捨てたもんじゃないな。
 まさか神様、これで一生分の運を使い果たしたとか言わないでくれよ?

「でも、私なんかでいいの?」

 ここまで来てそんなこと言い出しますかあなたは?
 普段シャイな俺が恥ずかしいけどあそこまで言ったんだぞ?
 もしかしたら俺の頭がおかしくなってて聞き間違いか幻聴を聞いていたのかもしれないとビンタをされる覚悟もしていたんだぞ?

「いいの!!俺が良いっていうんだからいいの!!どんな顔してもかわいくて意地悪したなる香がいいんだよ!」
「それは微妙に嬉しくないかも・・・」
「それに学校のトイレであんなことしちゃうエッチな香がいいの!!あんなことしちゃう女の子なんてなかなかいないぜ?」
「あっ、あれは、黒崎くんがやらせたんじゃない!!!」
「でもやってたことは事実だろう?」
「そっ、そうだけど・・・」
「それに催眠って本当にやりたくないことはやらないし、香が知らない心の奥底ではそういうことやりたいって願望があったのかもよ?」
「そっ、そうなのかな???」
「それに、電話であんなことされたときも気持ちよくなってたし断りもしなかったじゃん?本当の香はとってもエッチな子なんだな~?」

 ちょっとだけ上から見下すような・・・弱みを握った支配者のような目線を投げかけると、本当に泣き出しそうなほど潤んだ瞳が上目遣いで見つめてきて必死で言い訳の言葉を紡ぐ。

「違うの、違うの・・・あれは黒崎くんだったから・・・黒崎くんじゃなかったら絶対に嫌だったよ・・・黒崎くんだったから・・・だから、だから嫌いにならないで!!」

 元々俺がやらせたんだから香は悪くないというのに必死に謝ってくる香に心が痛くなる。
 と同時にそんな表情で見つめられたらもう我慢の限界ですよ。

「嘘だよ、嘘。俺も意地悪が過ぎたな。素直に謝っちゃうところもコロコロと変わるその表情も少しエッチな所もひっくるめて香の全部が好きなんだ。だからそんな泣きそうな顔すんなよ、な?」
「ほっ、本当・・・?」
「本当、本当!!ここで嘘ついても仕方ないだろう?でも・・・ごめん、そろそろ我慢の限界。止められそうにない・・・」
「えっ?」

 何のことか分からない様子で小首を傾げる彼女の体をぎゅっと抱きしめる。
 思った以上に胸がある。着やせするタイプらしい。
 予期せぬ俺の行動に顔をこれ以上赤くならないだろうと思えるほど真っ赤にさせる。
 完熟トマトさんだ♪

「えっ、くっ、黒崎くん!?」
「香・・・お前見た目より意外と胸あるんだな。若い男女が二人っきりでやることっていったら一つしかないだろう?」
「黒崎くんのエッチ!!って、ここでするの!!!???」
「駄目か?」
「駄目というか・・・初めてはもっと普通な場所でやりたいなって・・・」
「それもそうだよな・・・って初めてなのか!?香あの時付き合ったことあるって言ってたじゃなんか!?」
「あっ、あるけど・・・それ小学生の頃だよ?それに、付き合った子はシャイだったし私も男の子と何話していいか分からなかったから無言になることが多くて・・・だから一週間ぐらいで別れちゃったの・・・」
「そっ、そうだったのか・・・香の言いたい事も分かるけど、俺は初めてはここでやりたいんだ。ここでたまたま香と出会ってなかったら、俺が声をかけてなかったらきっと今ここでこんな話しをすることもなかっただろうし。ここが、始まりな気がするんだ・・・」
「それもそうだね!・・・でも、誰か来ちゃったら・・・」
「大丈夫だろう?今日はみんな帰ったはずだし誰も入れないように門ももう閉まってるし、先生は会議でみんな6時半までは会議室から出ないはずだ」
「・・・何でそこまで知ってるの?」
「そこは深くつっこまないでくれ。ということでいいよな?」

 と言ってそのまま後ろに回りこみ触れるか触れないかのタッチで胸に触れる。
 香も嫌がる様子もなく、むしろ自分からしなだれかかってくる。

「どうせ嫌っていってもやるくせに・・・」
「まぁ、そうだけど・・・本心から嫌って断ったら止めるかもしれないぜ?でも、エッチな香はそんなこと言わないよな?」
「うぅ・・・」

 この場に漂った雰囲気が官能の火種を煽ってもう理性じゃ止めることが出来ないほど燃え上がってしまっているのだろう。

「ここには二人しかいないんだからもっと素直になれよ?」
「んぁ・・・くぅ・・・」

 制服の上からゆっくりと優しく揉み上げていく。
 ただそれだけなのにもうすでに感じ始めているらしい。

「もう感じてるのか?やっぱり香はエッチなんだな?」
「ちっ、違うもひゃっ!」

 香が話し終わる前に耳元に息を吹きかける。
 予想外の刺激に思わず小さな悲鳴をあげる、香。

「なぁ?素直になってくれよ?見ていて俺も辛いから・・・俺に身を任せて、な?」
「うっ、うん・・・あっ、あぁ・・・あんっ」

 俺の切なそうな言葉に香もやっと力を抜いてくれた。それと同時に優しく触れるような触りかたからしっかり揉みこむような愛撫に変えていく。

「あっ、あっ、ぃゃ・・・ねぇ黒崎くん・・・き、きっ、キスして・・・?」

 甘えん坊の子どもがおねだりするように首をいやいやと振りながら小鳥が親鳥から餌を待つように唇をつきだして口づけを待ち望んでいる。
 香の期待に応えてやるためそっと顔を近づけるとその吸い込まれそうな唇がついばむように唇に触れてくる。

 このまま幼稚なキスを続けていてもいいのだがずっとこの先に進めそうにないので、ついばむ香の唇を舌でこじ開ける。
 意外なほど抵抗無く唇を割った。
 ちゅっ、くちゅ、ちゅちゅ。

「んちゅっ、ん、んぁ」

 互いの唾液を交換しあい、まるで相手の全てを体に取り入れようとするかのように飲みこんで行く。
 さすがに息苦しくなったところで唇を離すとお互いの唾液が混じり合った淫らな吊り橋が二人の間にかかった。
 ちょっと名残惜しそうに俺の唇を見つめている香がそれを見て恥ずかしそうに目をそらす。

「服脱がすよ?」
「うん・・・」

 素直に頷いて俺に身を預ける。
 女の子の服を脱がすなんて人形ですらやったことないので、手間取りながらも服を何とか脱がす。
 ブラに手をかけ脱がそうとするが焦りと経験不足からかなかなか上手くいかない。
 すごく長い時間に感じたが何とかブラを脱がすことに成功した。
 前を隠すように両手を交わらせている鳳。女神というよりは天使のようなその体はまるで絵画のような神々しさを感じる美しさだった。

「黒崎くん・・・もしかして初めて?」
「あっ、えっ?そうだけど・・・俺、全く女の子に持てなかったし・・・ごめん・・・」
「そうじゃなくて・・・!!黒崎くんの初めての女の子になれてよかったなって思って・・・」
「俺も香が初めての相手でよかったよ。下手だけど勘弁な?」
「もう、そういことはいいの!せっかく感動に浸ってるのに!!」

 少し怒らせてしまったようだ。
 雰囲気が悪くなる前に滑らせるように香の柔らかな胸に触れる。

「んいゃっ!!!あっ、黒崎くんゃぁん・・・」

 薄い桃色の双山の天辺に触れながらゆっくりと揉んでいく。
 小柄な体格に似合わず大きめの胸は重力に負けることなく形を保っている。
 手に吸い付いてくるような肌の柔らかさと胸の弾力とを兼ね備えており同じ人の肌とは思えないほどの心地よさだ。
 男なら誰もが憧れるようなその夢のような感触にいつのまにか愛撫が激しくなっていく。

「くぅぁん!!黒崎くんはっ、激しすぎるよぉ!!」
「あっ、すまんすまん。香があまりに魅力的過ぎたから。でも本番はこれからだぜ?」

 そう言うと下から持ち上げるような淫らさを加えた愛撫に変えていく。
 時々乳首を弾いてあげるとかわいらしい悲鳴を上げるのが面白くて、何度も何度も執拗に胸を攻めていく。

「やぁ、そんな激しくぅ!!!やぁ、ん!んぁ!!あん♪」

 だんだん艶を帯びてきた声が拒否ではなくもっとしてという欲求に変化してきた。
 毎日お昼にトイレでイッっていただけあり性感はそれなりに開発されているらしい。
 更にトイレというシチュエーションで感じた背徳感による快感というのも既に経験済みだろうから、今ここにある全てのモノが香の性感を高めているはずだ。
 確か前は胸だけでイッていたがあれは催眠の力をつかってのことだが、もしかしたら胸だけでイッてしまうかもしれないが、さすがに時間も厳しいので下の口へと愛撫の矛先を変えた

 スカートをめくりショーツの上からそこへ触れてみると女の臭いをさせる液体が洪水のように漏れだしていた。
 その液体が既にソックスに染みを作ってしまっている。

「やっぱり香はエッチだな。もう、下のお口は物欲しそうに涎垂れ流してるぞ?」
「ぃゃ・・・恥ずかしいからそんなこと言わないで・・・」

 恥ずかしそうに否定の言葉を漏らすがその瞳は既に欲情で潤み、それを隠すことは出来ずに上目遣いをされたら拒否というよりは誘っているようにしか見えない。

「素直になれっていっただろう?ただ感じるだけでいいんだよ?俺は香が感じてくれるだけで嬉しいんだからさ?」
「・・・本当に?いやらしくても嫌いになったりしない?」
「ならいならない!いつでもエッチってのは困りもんだけど、俺だけに見せてくれる、俺だけに向けてくれる表情ならどんなのでも俺は嬉しいんだからさ」
「わかった!」

 羞恥心の中に浮かんだ笑顔の表情で頷く香の前に回りこむとすかさずスカートをはずして足下に落とすと、香らしい純白のショーツが姿を現した。
 大事な部分が隠れてあるであろう部分は香から出た液体で変色しており、触って欲しそうに俺を誘っている。
 そこを優しく触れてみる。

「ひゃぁ!!いきなり触らないでよぉ!」
「よく言うよ」

 そんなことを言う割には自分から下腹部を押しつけてきている。
 もうすでに羞恥心が感じたいという体の欲求を制御出来ていないらしい。
 苦笑しつつショーツを脱がしにかかると素直に足を開き俺が脱がしやすいようにしてくれる。
 香のショーツは既に濡れた液体で倍ほどの重さになっている。
 これだけでもかなり発情していることがわかる。

 ショーツを取ると姿を現した香の下のお口。
 おそらく異性には、親以外には見せてないであろう初々しい薄い桃色の唇が男を誘うようにひくひく涎を垂らしている。
 止めどなく流れ落ちる液体を呆然と眺めているとふいに顔を挟まれ上を向かされた。

「恥ずかしいからじろじろ見ないでよぉ・・・」
「はいはい、もっと触って欲しいんだろう?」
「うぅ・・・ぅん・・・・」

 ずいぶん素直になったもんだ。
 ちょっと意地悪しがいがなくなったが、それはそれで香を気持ちよく出来るならいいとも思った。

 くちゅ、くちゅくちゅ、くちゃくちゃぐちゃ。

「き、きもちいいよ、黒崎くん!あふぅ、もっともっと!!気持ちぃの!!」

 一度枷が外れてしまうと止めることが出来ないようで、どんどん要求してくる。
 香の下の口は予想通り狭く俺の指一本でもきつく締め付けてくる。まだ処女ということもあるのかもしれないが、それにしても狭すぎる。
 小説でよく女の子がこんなおっきいの入らないよとよく言うが、男の俺の方が思わず同じことを思ってしまった。まぁ、俺のはそんな大きくないんだけど。
 自分のツッコミで少しトーンダウンしたが、それでも動かす指の激しさは変えないが、大切な香の処女を指で散らさないように気をつけながら感じる場所を探していく。

 ぐちゅっ、じゅぶっ、じゅぶじゅぶ。

「あっ、あっ、あっ、あぁ、くああぁぁあ!!!」

 Gスポットに触れたのか大声を出して快感を表現する香。
 いくら先生たちが会議中だからって気付きそうで怖い。
 ありがたいことに会議室は防音してあり聞こえることはないのだけど、もし聞こえたとしても俺も止めることが出来そうにないし。

「いい、いいっ、いいのぉ!!!もっと、もっとしてぇ!!!」

 ・・・香は俺が思っていた以上にエッチだったらしい。
 香の頭の中にはもうここがどこであるのかなんて関係ないのだろう。
 濁流のように流れこんでくる快楽にその身を預けきっている。

「いぁ、あっ、あっ、いっ、イッちゃう!イッちゃうよぉ!!!いっ、いくぅぅぅぅ!!!」

 折れてしまうのではないだろうかと思うぐらい体を反り返し、糸が切れたかのように体全体から力が抜けていく。
 満足気に口元を緩ませ未だ残る快感に喘いでいる香の視線は惚けたように空を彷徨っていた。

 脱力している香を抱き上げしばらく髪を撫でてやりながら意識がはっきりするまで待っていた。
 気持ちよさそうに顔をすりつけてくる香が本当に愛おしかった。
 しばらくして意識がはっきりしてきたのか、恥ずかしそうに身を離してしまった。
 ちょっとだけ残念であるが仕方ない。

「あっ、ごめんね?私ばっかり気持ちよくなっちゃって・・・」
「俺も香の感じてるかわいい顔見れたからいいんだけどさ、さすがに俺も限界なんだよね?」
「えっ・・・?あっ!」

 何のことかわからなかったようだが、目線が下にいき膨れあがった俺の下腹部で目が止まった。
 香の体が自然と動きだし服を脱がしていく。
 上から制服、Tシャツ、ズボンと手際よく脱がしていく。本当に初めてなんだろうか・・・?
 さすがに最後の一枚を脱がすのは多少躊躇ったようだがすでに味わった快感が理性を上まっているらしくすぐに脱がされた。

「うわぁ・・・これが黒崎くんの・・・」

 驚いたようなものいいだがどこかうっとりとしているような表情で跪く。
 目の前まで来て躊躇うかと思ったがそれもなく、その先端に口づけをする。

「くっ・・・なぁ、別にそこまでしてくれなくていいんだぞ?」
「いいの!私も黒崎くんに感じて欲しいんだから!私がやりたいの!!」

 有無を言わせぬ迫力がその瞳から伝わる。
 女の子って変わるもんなんだな・・・
 俺は女の子を感じさせてそれを見ているのは楽しいんだが、ファラチオをさせるのは特に好きというわけではない。
 まぁ、嫌いではないし香がやりたがってるのでとりあえずされてみることにした。

「あむっ、ちゅる・・・ちゅぷっ・・・じゅっ、じゅるる」

 淫靡な水を含む音が二人しか居ない教室に響き渡る。
 香が見せる熱心さと相まって更にその場を熱くさせる。

「んはっ、あっ、だっ、駄目だよぉ・・・そんな、触られたら出来ない・・・ん・・・じゅつ、じゅる・・・ちゅぷっ」

 香に一方的に攻められるというのは何か癪に触るので、俺も手の届く範囲で愛撫を再会する。
 気持ちよさそうに喘ぎながらもご奉仕とも言える熱心さで俺の肉棒をくわえている。
 高まっていた興奮が香の献身的な奉仕によって勢いよく先端から飛び出しそうなのを必死で堪えて香に告げる。

「そろそろいいから」
「えっ?」
「香を感じたいからさ?もう、それはいいから」
「うっ、うん・・・」

 少し名残惜しそうに口を離すが、俺が見ていることに気付くと恥ずかしそうに俯く。

「なぁ、ところで今日は安全な日?」
「大丈夫だよ・・・でも、さすがに怖いかな・・・」

 至極もっともな意見だ。
 いくら香が好きだからってまだお父さんにはなりたくはない。

 どうしようかと悩んでいたら、銀と分かれたときに渡されたモノを思い出した。
 あいつは予知能力しゃかなんかか?それとも年中発情期やろうなのだろうか?

「それなら大丈夫」

 と、銀がくれたものをポケットから探りだし香に見せる。
 ポカンとしてる香がジト目で一言。

「・・・黒崎くん、何か不潔・・・」
「違う、違う!!これは帰り際に銀に渡されてだな・・・」
「・・・それはそれで、何か恥ずかしいよぉ・・・」

 確かに、銀に間接的にだが助けられたのは癪だが、それ以上に今やっていることを想像されていると思うとちょっと気持ち悪い。

「まぁ、それは置いといて、初めては痛いって言うけど大丈夫?」
「よくわかんないけど大丈夫だと思う!黒崎くんが一緒だし!!」

 健気に両手を握りしめ頑張ると体で表現している。
 そこまで気負わなくてもいいと思うんだが。

 少しずつ腰を進めていく。
 ちゅぷっと、 肉棒の先端が鳳の唇に触れた。

「ふぁっ」

 それだけで感じたらしく快感の声を漏らすのを聞いて更に腰を進めていく。
 くちゅっ、ずぷっ。
 ゆっくりとゆっくりと香の意味が最小限であるようにゆっくり腰を進めていく。

「いっ、いたい!でも入ってる、私の中に黒崎くんが入ってるよぉ!」

 催眠をつかって痛みを消すことも出来たのだが女の子にとって初めての痛みは特別だというのでそれを奪うつもりはない。
 でも出来るだけ香に不可をかけたくないので、快感で今にも暴走しそうな本能を薄れていく理性を総動員して優しく腰を進めていく。

「ふぅ・・・やっと黒崎くんと一緒になれた・・・黒崎くんは気持ちいい?」
「あぁ、香を感じられて気持ちいいよ」

 自分は痛いはずなのに俺のことが気になるらしい。
 本当健気だ。
 俺なんかとじゃ釣り合いがとれないと昔なら考えていたが、今はこの子を全力で幸せにしてあげたいと思う。

 ゆるゆると腰を動かして香のあそこを慣らしていく。
 しばらくして痛みが顔に出る割合が少なくなってきた。

「『光の満ちた部屋の鍵』をお貸しします。香は初めてだから痛みを感じるけど、それ以上に性感が10倍になります。痛みは感じるけどそれ以上にとっても気持ちがよくなります。香と一緒に気持ちよくなることが俺の望みだから、わかってくれるか?」
「・・・うん・・・」
「じゃあ、三つ数えたら催眠から解けるよ、3、2、1、はい!」

 数え終えたと同時に腰を突き上げる。

「うああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 体を思いっきり反り今まで味わったことがないほどの快感に一気に高見に登る。
 それと同時に締め付けも強くなる。
 くっ、きっ、きつすぎる。
 あまりの締め付けに思わず出しそうになるが歯を食いしばり何とか耐えたが、かなり厳しい。そう長くは持たないだろう。
 スパートをかけるようにリズミカルに腰を上下させる。初めての快感にどうにかなりそうなのを必死に堪える。

「んあああぁぁぁ!!気持ちいいよ!!!ひぁぁぁ!!!!イクよ!!!!!イッちゃうよ!!!一緒にイッて黒崎くん!!!!!!!」
「あぁ、一緒にイこう!」
「あああああぁぁぁぁ!!!!いいいいぃぃぃ、いくううぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」
「うああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 そこで意識が途切れ快感と幸福が入り交じる混沌とした世界に香と一緒に身を委ねた。

 髪を撫ぜる感覚に目を覚ます。
 柔らかい枕が頬に当たる。
 目を開けて上を見上げると香の慈愛に満ちた天使のような表情が飛び込んできた。

「あっ、黒崎くんやっと起きたんだ!長い間寝てたんだから足痺れちゃったんだからね!でも、黒崎くんの寝顔見れたからまぁいっか♪」

 本当に幸せそうに微笑む彼女の顔を見てるだけで俺も幸せな気分になってくる。この時間がいつまでも続けばいいな。

 ふと目に映った時計を見ると既に6時25分だ。

「おい、やばいぞ!!!そろそろ職員会議も終わる、先生に見つかったら大目玉どころじゃ済まないぞ!!!」
「あっ、本当だ!!急いで片づけなきゃ、って私こんなに濡らしちゃってたんだ・・・」
「あぁ、もう恥ずかしがるのは後でいいから今はさっさと片づけるぞ!!!」
「はーい♪」

 いや、マジで早く片づけないとやばいですって!天然をこんな所ではっきしないでくださいよ、俺のお姫様。マジで怒りますよ?

 普段の二倍の速度で動いてなんとか6時半までに片づけ終えて教室を出ることが出来た。
 学校の玄関を出るときに会議を終えた先生たちとすれ違ったときは冷や汗をかいたぜ。
 香なんてモロに表情に出てたからな・・・バレなかっただろうか?

「ねぇ、黒崎くん。何で私を好きになってくれたの?」
「それを言ったら何で香は俺を好きになったの?」
「もう!私が聞いてるんだからちゃんと答えてよ!!」

 さすがに誤魔化せないか。

「ん~・・・意地悪しがいがあるところとか?」
「何かひどいな、それ・・・」

 本気で凹んでるよ。このまま帰ったら二回ぐらい事故に遭いそうなので恥ずかしいが言ってやる。

「一目惚れだな、一目惚れ。そしてなにより、気張らずに話せるところか?天然の内気キャラかと思ったら意外と芯もあるし、ある程度意地悪しても大丈夫そうだし」
「最後の理由は何かひっかかるけど、私も同じ。初めて話したときから気になってて・・・それに男の子とあんなに話したことなんてなかったんだよ?それに・・・本当に好きになったのも初めてなんだからね?」

 そんなこと真っ正面から言われたら俺の方が照れるじゃないか。

「俺も女の子を好きになったのは初めてなんだぜ?どんなにかわいい子がいてもそれはかわいいと思うだけで、それけだった。それ以上の思いを持てなかった、どうしても」
「そっか・・・」

 納得したかのようにうなずき神妙な顔で俺を見つめている。
 どうすればいいのか分からずに困り果てた俺は顔を背けて、とりあず手を差し出す。
 嬉しそうな顔で抱きつくようにその手を握り返す香。
 香の男とは明らかに違う柔らかな手の温もりを感じて心まで温まってくる。

 このまま幸せな時がいつまでも続けばいいと思った。
 こうのまま何も変わらず二人だけの時間が続けばいいのにと。
 きっと香も同じことを考えていてくれてると思う。

 手を繋いだ二人がまるで一つであるかのように寄り添い誰もいない一本道を歩いていく。

 周りには夜の闇が迫っているというのにその二人の回りには光が満ちているように輝いて見えた。

 長く伸びる影を追いかけるように歩いていく。

 その影が二人を祝福するように二人の行く道を切り開いていくかのようだ。

 黒い影すら光に照らされ二人を見守る天使のように思えた。

 奇妙な運命によって導かれた二人は奇妙な偶然によって一つの道を歩くことになった。

 いつか分かれる日が来るとしても二人の絆は今と変わらないだろう。

 きっと・・・

 こんなところで話しは終わりです。どうでした?悪くはなかったでしょう?
 えっ?のろけにしか聞こえなかったって?でも事実だから仕方がないじゃないですか。

 今でも香とはいい感じでやっています。
 気を張る訳でもなく、互いに大切に思いそれでいて対等な関係。
 俺が一番求めていたモノでした。
 もちろん意地悪する回数も多いですけどね。

 では、そろそろお別れになります。
 だって、貴方の顔が何だかひくひくしてるんだもん。
 漫画みたいに額に血管浮き出てますよ。

 もしあなたにもそんな不思議な偶然が訪れたら聞かせてくださいね?

 いつかあなたに運命みたいな出来事が起きて、それをあなたからものろけのようなそんな話を聞けることを願ってます。

< おわり >

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