第10話 疑惑
邪水晶達が狂宴に耽る頃、沙夜子はメイデン・フォース本部に居た。
メイデン・フォース本部は四方を、四神の巫女の破邪の力によって守られている。
それぞれの巫女が霊力を練り込んだ石製の小さな石柱、『結界子』が敷地境界に張り巡らされ、妖魔の侵入を防いでいるのだ。
「・・・」
沙夜子は己が担当する北側の結界子の一つ一つに触れては、呪を唱えてゆく。
結界子のメンテナンスは、巫女の重要な任務である。
だが、沙夜子が唱えているのは結界を強めるものではない。
沙夜子が呪を唱える毎に、
ピシッ
石が弾ける音ともに、微かなヒビが結界子に走る。
「・・・」
そして沙夜子が再び呪を唱えながら、
「んっ・・・」
秘所に手を遣り、
ピチャッ
愛液を結界子のヒビにそれを塗り込めた。
ミチッ
すると結界子のヒビが黒く輝き、そのヒビを綺麗に埋めてゆく。
そして三度目に沙夜子が呪を唱えると、結界子は何事もなかったかのように、元の姿を取り戻していた。
この微細な変化は例え高位の巫女であっても、結界を張った本人以外には、察知することは難しいだろう。
「これで全部ね・・・」
沙夜子は最後の結界子から手を離すと、そう言って薄く笑う。
これで北面の結界子は全て自分が穢した。
個々の影響は微々たるものだが、結界に過度の負荷をかければ致命的な結果をもたらしうるものだ。
雪が担当する西側にも同様の処置を取れば、本部の結界は砂楼の如く脆いものとなるだろう。
それほど遠くない将来この本部を、邪界の走狗と化した自分達が破壊し、穢し尽くす様を想像して、沙夜子はその身を震わせるのだった。
キュッ
沙夜子は、黒革の手袋を右手に填めると、ライダー・スーツのジッパーを上げた。
夜半過ぎの地下駐車場。
駐車中の車も少なく、無機質な打ち放しのコンクリートが寒々しさを増幅させる。
沙夜子は人と会うことを避けるため、常日頃から本部へは深夜に訪れる。
今日も誰とも会わず帰宅する、はずだった。
カツ、カツ
誰も居なかったはずの無機質な空間に、甲高い足音が響く。
カツカツカツ
その足音は確実に自分へと向いている。
徐々に近づいてくるその足音に沙夜子は、姿勢を低くして身構えた。
「沙夜子、こんな時間にどうしたの?」
そう言いながらコンクリートの柱の影から姿を現したのは、蒼乃であった。
蒼乃は射貫くような視線を沙夜子に向けながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「・・・」
空色のシャツにジーンズ、というラフな格好でありながら、腕を組み沙夜子に相対する姿は、威圧感すら漂わせていた。
ジワリ
沙夜子の背中に、嫌な汗が流れる。
『自分の工作そのものが露見した?』
最悪の事態を想起し、沙夜子は蒼乃に気取られぬよう、
ジャリ
半歩下がって戦闘態勢を取る。
蒼乃がこの時間に本部に来ることなど、滅多にないことだ。
沙夜子は動揺を表情に出さぬよう繕いつつ、蒼乃の真意を窺うため、
「結界子のメンテよ・・・蒼乃こそ、どうしたの?」
そう問い返した。
その間もライダー・スーツの中に隠し持った獲物に手を遣りながら、蒼乃に対する警戒は緩めない。
その沙夜子の問いに蒼乃はふっ、と苦笑を浮かべると、
「私?・・・ええ、ちょっと眠れなくてね・・・」
そう言い淀むのだった。
『工作そのものがばれた訳ではないようね・・・』
工作が露見したわけではないことに安堵した沙夜子だったが、
「・・・何か気になることでもあるの?」
蒼乃の言の葉に感じた不自然さに、そう鎌を掛ける。
「ええ、ちょっと、ね。大したことではないわ・・・沙夜子、お疲れ様」
だが蒼乃は強張った笑顔を無理矢理沙夜子に向けると、そう言って逃げるようにその場を後にしたのだった。
カツカツカツ
足早に駐車場を去りながら蒼乃は、
「・・・」
強い違和感を感じていた。
それはどこがおかしい、と具体的に指摘できるものではないが、胸の奥がチリチリするような感覚だ。
ここ最近になって、感じることが増えた嫌な感覚。
今日も就寝前に胸騒ぎがし、感覚の赴くまま本部までやって来たのだった。
「まさか・・・」
その感覚は沙夜子と会った時、胸を締め付けんばかりに強まった。
沙夜子が自分の分担である北面の結界子をメンテナンスすることは義務であり、矛盾することではない。
だが、彼女は積極的にそれを果たすような人間だったろうか?
「・・・」
蒼乃は歩みを止め、柱で見えなくなった沙夜子の方を見つめる。
しかし、仲間を疑う愚かしさに首を振ると、再び柱に背を向けて歩き出した。
「勘の良い女ね・・・」
沙夜子は蒼乃が去った方向に視線を向けながら、苦々しげにそう呟いた。
恐らくこの本部で生じている異変を、感覚的に感じ取ったのだろう。
『蒼乃さんには、気を付けたほうが良いと思います』
蒼乃と親しい雪が危惧した通りだ。
沙夜子が雪達と別動していた理由の一つはそこにある。
四人の窮地を度々救ってきた蒼乃の『直感』だが、邪水晶達の作戦遂行には邪魔な存在。
メイデン・フォース内部への浸透作戦を行っている今、彼女の疑念の目をそこから逸らす必要があるのだ。
だからリスクは高いものの囮として沙夜子は、本部に直接気取られない程度の、そして蒼乃が『違和感』を感じる程度の工作を繰り返していたのだった。
だが想像以上に彼女の『勘』は鋭いようだ。
『工作』の度合いも、変更する必要があるかもしれない。
沙夜子は蒼乃の消えた柱の影に目を遣る。
「・・・ふふ、まあいいいわ。目的は果たせたのだから・・・後は・・・」
そう言って口の端に邪な笑みを浮かべると、ヘルメットを被り、本部を後にしたのだった。
コンコン
「三島さん?どうぞ」
社長室の扉を叩く音に明日香がそう答えると、
カチャ
「失礼します」
一礼して秘書の三島佳代が社長室に入ってきた。
濃紺のスーツを完璧に着こなすその姿は、キャリアウーマンそのものだ。
実際、その怜悧な頭脳もあって、明日香の優秀な秘書であることは間違いない。
「社長、東河さんがお見えです」
その彼女が告げた来客の名は、明日香にとって意外な人物であった。
対妖魔戦が人間側に有利になってからは、四神の戦士達の裁量に任せることが多くなっている。
それに反比例するように、オフィス・アワーでもあるこの時間帯に蒼乃が尋ねてくることは少なくなっていたのだった。
わざわざ彼女がここにやって来るには、特別な理由があるはずだ。
「東河さんが?・・・わかったわ、通して頂戴」
明日香はこの訪問を怪訝に思いながらも、佳代にそう命じた。
「突然押し掛けて申し訳ありません・・・今、お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
「余り時間は取れないけれど・・・いいわ、どうぞ掛けて」
明日香は柱時計に一瞬目を遣って蒼乃にそう言うと、応接セットのソファーを勧めた。
『有り難う御座います』と言いながら蒼乃は、神妙な面持ちで明日香の正面に腰を下ろす。
そして膝の上に置かれた手を、ぎゅっと握った。
この状況をどう伝えるべきか-
沙夜子との一件以降も『違和感』を感じ続け、それは強まるばかりだ。
明日香への報告を躊躇っていた蒼乃だったが、これ以上事態が進展することを恐れ、ここへとやって来たのだった。
しかしそれは根拠のあることではなく、軽々しく口を開くとことはやはり躊躇われる。
その思いは明日香を前にしても尚、蒼乃を俯かせる。
「それで、今日はどんな用件かしら?」
言い辛そうに眉を顰める蒼乃に明日香は努めて、微笑みながらそう切り出した。
蒼乃はその声に、伏した顔を上げる。
微笑みを浮かべ、紅茶を悠然と飲む明日香。
だがその目は、決して笑ってはいなかった。
当然の言葉と反応。
蒼乃は意を決して、重い口を開いた。
「・・・先日からこの本部に、違和感を感じるんです」
「違和感?」
蒼乃の言葉に明日香は表情を強張らせる。
東河は神凪に連なる一族の中でも、祭事を取り仕切る役割を果たしており、代々霊感が強い者を輩出してきた。
蒼乃はその中でも特に霊感が強く、所謂『感が強い』人間である。
度々彼女の助言を受けることがあるがそれはいずれも結果として、正鵠を得たものであった。
「・・・それで、どこに違和感を感じるの?」
はやる気を押さえきれず、若干身を乗り出ながら明日香はそう、蒼乃に尋ねた。
「・・・」
その問いに、一瞬沙夜子の顔が浮かぶ。
「どこだ、と具体的に指摘できる程ではないのですが、違和感、だけは感じるんです・・・今はそれだけしか申し上げられません。申し訳ありません・・・」
だが蒼乃は沙夜子の名をすんでのところで飲み込むと、歯切れ悪くそう、明日香に答えたのだった。
沙夜子に疑念は残るが、確たる証拠があるわけではない。
それに、沙夜子は死命を共にする仲間であり、無闇に疑うことは躊躇われる。
明日香にその疑念を伝える意味の重さを考えると、蒼乃にはどうしても沙夜子の名を告げることはできないのだった。
その歯切れの悪い答えに明日香は、じっと蒼乃の瞳を見つめた後、
「・・・ふぅっ・・・わかったわ。調査部に調査を命じましょう・・・それに、本家にも耳に入れておいたほうが良いわね」
溜息をつきながらそう、蒼乃に諭すように告げた。
「本家、ですか・・・」
その言葉を聞いた蒼乃はそう言いながら、表情を翳らせる。
神凪本家-
霊力に優れた巫女や退魔師を大量に抱え、圧倒的な力を有するメイデン・フォースの強力な後ろ盾。
しかし強力であるが故に今、彼等が介入することに蒼乃は戸惑いを感じる。
己の能力は十分に把握している積もりだが、それを過信する積もりもない。
あくまで感覚的なものである以上、自分の勘違いである可能性も否定できないのだ。
だが本家が一度動き出してしまえばその性格上、徹底的に対処してしまうことだろう。
「・・・」
蒼乃の脳裏に沙夜子の姿が浮かぶ。
もし、彼女にあらぬ嫌疑がかかれば、チームとしてのメイデン・フォースは-
自分の軽はずみな一言で迎えうる最悪の結末を想像し蒼乃は、明日香から視線を逸らすように再び顔を伏せた。
その蒼乃の姿を見た明日香は、思わず苦笑を浮かべた。
蒼乃の様子から察するに、彼女に何か思うところがあるのだろう。
だがそれを今聞き糾すべきではない。ここは蒼乃を信じよう-
そう断じた明日香は、
「東河さん、心配しないでいいわ。瑠璃様には報告するけど、深刻なものではない、と説明するから・・・寧ろこちらで動いているところを咎められないために連絡する、そう思って頂戴」
そう言って不安を紛らわせるように、蒼乃の肩をポンと軽く叩いた。
「司令・・・有り難う御座います」
明日香の心遣いに、蒼乃は頭を下げ謝意を示す。
疑心で苦しむ蒼乃に、明日香の信頼は何よりも有り難いもの。
そして、これで幾許かの責任は果たせた-そう蒼乃は感じることができたのだった。
その蒼乃の様子に、明日香は己の決断が正しかった、そう確信した。
いずれ時が来れば、彼女から話してくれることだろう。
そう考えた明日香は、再び蒼乃の肩を叩き、
「いいのよ、お礼なんて言わないで・・・暫くは私達だけで動きましょう。他に気付くことがあったら遠慮無く言って頂戴」
そう励ましながら、本家へこの件をどう伝えるべきか、思案を巡らすのだった。
ファサ
巫女装束に薄い羽織を纏った瑠璃は草履に足を通すと、縁側から前庭に歩み出る。
青白い光に染められながら瑠璃は、頭上の月を見上げた。
瑠璃が暮らす別邸は本家の中でも奥まった場所にあり、限られた者しか出入りを許されない。
夜半を過ぎたこの時間では尚の事、静寂が辺りを支配しているはず、であった。
「瑠璃様、どちらにお出かけですか?」
静寂を破るように、凛とした女性の声がそう、瑠璃に問い掛ける。
「摩耶・・・」
いつの間にか縁側の端に、侍女である上月摩耶が姿を現していた。
巫女としても優秀な彼女は、瑠璃の右腕と言っても良い存在だ。
「・・・少し、外に出てくるわ」
誰にも見咎められず外出することを望んでいた瑠璃は、振り返りもせずやや苛立った声でそう短く答えると、生け垣の戸に手を掛ける。
「・・・わかりました。いってらっしゃいませ」
それに摩耶は深く尋ねることもなく、そう言って主に頭を下げた。
摩耶は常日頃から主の雰囲気を察し、余計な言葉を差し挟むことはない。
普段感情を露わにすることの無い瑠璃がそれをぶつけてくるのは信頼を得ている証、そう心得てもいる。
表層的には冷たい印象すら与える主従ではあるが、その奥底では深い信頼で結ばれているのだった。
キイ
その従者の心中を知ってか知らずか、僅かに戸の軋む音を立て、瑠璃は闇の中へその姿を消した。
リーリーリー
別邸から少し離れた丘の上は、虫の声で満たされていた。
サァッ
その丘を、涼しい風が吹き抜け、瑠璃の漆黒の髪を揺らす。
彼女の眼下には、宝石箱を散りばめたような街の灯りが広がっている。
「・・・」
それを瑠璃は言葉もなく、ぼんやりと眺めていた。
ここは学生の時分、姉の翡翠と学校の帰りに時折立ち寄った場所だ。
瑠璃は己の悩みをよくここで翡翠に相談していた。
それ故に、という訳ではないが、未だに悩みがあると一人、この丘にやってくる。
『東河蒼乃が違和感を訴えている』
電話で聞いた明日香の話は雲を掴むような話ではあるが、瑠璃は深刻なものと受け止めていた。
瑠璃も明日香と同様、東河の祭司としての実力を認めている。
今、人間界の最大の矛であるメイデン・フォースに何かあれば、邪界と人間界のバランスは大きく崩れてしまう可能性があるのだ。
メイデン・フォースが致命的なダメージを受ける前に、何か手を打たなければならないが・・・
しかし、取り得る選択肢は限られている。
どの選択肢を選ぶべきか、瑠璃は考えあぐねていたのだった。
サァッ
眼下に広がる街の灯りを眺めていた彼女の髪を、生ぬるい風が撫でる。
「・・・虫の声が、消えた?」
それと時を同じくして、目に見えるまでに濃厚な邪気が、辺りに漂い始めた。
「・・・っ!」
瑠璃は懐の短刀に手を遣り、警戒の姿勢を取る。
邪気は渦巻くように一点に集中し、形を取り始めた。
そしてそれは女妖魔の形となり、瑠璃の眼前に現れる。
「姉、様・・・」
その姿を見た瑠璃は絞り出すような声でそう、短く呟いた。
妖魔は擬態することもあるが、目の前の妖魔からは僅かだが確かに、姉の波動を感じる。
この眼前の淫魔は姉の翡翠そのものに違いない。
予測され得た中でも最悪の事態。
邪悪な淫魔へと変じた姉の姿を前に瑠璃は、困惑しながらも気を緩めず対峙し続ける。
「久しぶりね、瑠璃」
それを関しないかのように邪水晶はそう言って、妖艶な笑みを瑠璃に向けた。
だが、その瞳に表情のような緩みはない。
両者の間に、氷のように冷たい緊張が走る。
「姉様、そのお姿は・・・」
邪水晶から視線を離さず瑠璃はそう詰問する。
それに対し邪水晶は、
「ふふふ、邪淫皇様の御手で真の姿に目覚めさせて頂いたの。そして邪水晶という名に、この体も頂いたの・・・どう、素敵でしょう?」
そう誇らしげに豊満な胸を両腕で挟み、淫らに変容した己の肉体を瑠璃に見せつけた。
その表情には曇りなど見られず、心の底から愉しんでいる気色さえ感じられる。
「・・・姉様、外道に墜ちてしまわれたのですね・・・」
その姉の様子に瑠璃は苦痛に満ちた表情を浮かべ、短剣を握る手の力を一層強めた。
上魔、しかも貴族階級であることを示す『邪』の名を戴いていることは即ち、肉体だけではなく精神まで屈従してしまったことに他ならない。
蒼乃が言っていた違和感とはこのことか、そう瑠璃は断じた。
神凪の気配を漂わせつつ邪気に満ち溢れた妖魔、これほど矛盾に満ちた存在などないのだから-
ジャリ
瑠璃は殺気を発しながら、邪水晶との間合いを探る。
完全に妖魔と化してしまった以上、言葉だけで彼女を説き伏せることは不可能だ。
力でねじ伏せ、こちらの世界に引き戻すしかない。
「・・・姉様、私が目を覚ませて差し上げますわっ!」
タッ
瑠璃はそう叫ぶと地面を蹴り、邪水晶との間合いを一気に詰め、
ヒュンッ
短剣を薙ぐ。
月明かりに照らされ青白い軌跡を描きながら、鋭い剣筋は邪水晶へと襲いかかる。
その剣戟は例え上級妖魔であっても、容易に避けることは困難なものだった。
だがそれを邪水晶は、
ヒュッ
風のように避けるとそのまま後方に飛び退き、金属製の手摺りの上に降り立つ。
腰に手を当て瑠璃を見下ろすその表情は、憎らしいほど涼しげだった。
「ふふふ、瑠璃、腕を上げたようね・・・でも、剣筋に躊躇いがあるわよ」
「くっ・・・」
邪水晶に核心を突かれ、瑠璃は唇を噛む。
姉を討つ決心を固めた積もりでも心の奥底には、非情に徹しきれない己の甘さがある。
瑠璃は厳しい表情で、邪水晶を睨め付ける。
「ふふふ、瑠璃、そんな怖い顔をしないで・・・今日は挨拶だけにしておくわ。また会いましょう・・・」
微笑みながら邪水晶がそう言うと、彼女が現れた時のように邪気が再び渦巻き始めた。
「姉様!」
瑠璃は正面から猛烈な邪気を受けながら、その渦の中心にそう叫ぶ。
「ふふふ、瑠璃、貴女も私が目覚めさせてあげるから・・・その日を楽しみに待っていなさい・・・愛しているわ、瑠璃・・・」
だが邪水晶はそう言い残し、姿を消した。
再び静寂を取り戻した丘の上には、
「姉様・・・」
ぎゅっ
向ける先の無くなった短剣を強く握り締める、瑠璃だけが取り残されたのだった。
3日後-神凪家本家-
「よくいらっしゃいました、九重司令」
「瑠璃様、直々のお呼び出しとはどの様なご用件でしょうか?」
明日香は瑠璃に頭を下げながら僅かに身を固くし、そう尋ねた。
本家とは連絡を密にしてはいるが、直接本家に呼び出されることはそう多いことではないのだ。
それに、先日の蒼乃の件がある。
どのような話を切り出されるか、明日香は息を飲んで瑠璃の言葉を待った。
「渡したいものがあるのです・・・摩耶」
瑠璃が摩耶にそう声をかけると、
「畏まりました、瑠璃様」
彼女はそう短く言って、奥の間へと消えた。
渡したい物?
明日香はそう訝しむ。
だが明日香が思い悩む間もなく、
「お持ちしました、瑠璃様」
摩耶がその『渡したい物』を持って現れた。
それは明日香が予想だにしない物であった。
「瑠璃様、これは・・・」
「ご存じかとは思いますが、我が神凪家に伝わる神器の一つ、『鏡』です。九重司令にこれをお預け致します」
神凪本家が管理する神器の中でも別格、3種の神器の一つである『鏡』。
その力は絶大であり、強力な霊力の供給源たり得るもの。
だが、それを何故今になって?
明日香は瑠璃の真意を測りかねていた。
戦況的に、今よりも遙かに苦しかった時にさえ貸与されることのなかったそれを、何故この状況下で貸し与えようというのか?
蒼乃が訴える『違和感』は確かに不安要素だが、そこまで致命的なものであるとは思えない。
「・・・お借りして、よろしいのでしょうか?」
しかしこれがメイデン・フォースの大幅な戦力向上に繋がることは間違いない。
瑠璃の真意は兎も角、得ておくことに越したことはない、そう考えた明日香は不安を飲み込みつつ、恐る恐る瑠璃にそう尋ねた。
「良いのです・・・今メイデン・フォースに今何かがあれば、人間界の優勢が揺らぎます。それを防ぐためにも、万全の備えをしておくことに越したことはありません」
瑠璃はその明日香の不安をはね除けるように力強くそう言い切ると、
「これで本家とメイデン・フォース本部の霊脈を結び、霊力の供給を強化しましょう。九重司令、鏡の警護と管理をお願いします」
明日香に深々と頭を下げたのだった。
瑠璃に頭まで下げられては受け容れざるを得ない。
「・・・勿体ないお言葉です、瑠璃様。鏡は我が身に替えて、厳重にお守り致します」
釈然としない気持ちを抱えつつも明日香はそう言うと丁重に、瑠璃に頭を下げるのだった。
『これで良い、これで・・・』
眼前で深々と頭を下げる明日香を見ながら瑠璃は、己にそう言い聞かせる。
明日香に言った言葉に、偽りはない。
だがこの神器を彼女に託す事に、言外の意味がある。
翡翠-
彼女が敵に回った以上、手段を選ぶなど許されないだろう。
打てる手は全て打つ-
そして、
『姉様・・・』
ぎゅっ
明日香に気取られぬよう拳を密かに握ると、この問題は己の手で解決するのだ、そう瑠璃は決意を新たにしたのだった。
「・・・ねえ、雪」
「何ですか、蒼乃さん?」
同じ高校の先輩と後輩であった蒼乃と雪は、姉妹のような関係にある。
仲の良い二人は互いを家に招き、お茶を共にすることがあった。
今日は蒼乃が雪に声を掛け、ささやかなお茶会を開いている。
ティー・カップに映る自分の顔を見つめていた蒼乃は、思い切ったように、
「・・・沙夜子の事なんだけど・・・最近、何か感じることはない?」
そう切り出した。
そして雪を窺うように、その瞳を見据える。
「沙夜子さんですか?いいえ、特に何も感じはしませんが・・・」
蒼乃の問いに雪は、訝しげに眉根を寄せ、そう答えた。
それに蒼乃は僅かながら安堵する。
次に発する問いが、自分の勘違いである可能性もあるのだ、そう考えられ得るからだ。
「仲間にこんな事は言いたくないのだけれど・・・彼女に少し、違和感を感じるの」
蒼乃はやや語気を強めてそう、雪に尋ねる。
その言葉に、
「どんな違和感ですか?」
雪は僅かに身を乗り出してそう問い返した。
『流石は蒼乃さん・・・ふふ、でもそれも、こちらの想定の範囲内ではあるけれど』
心中ではそうほくそ笑むが、表情はあくまで深刻に殺したままだ。
蒼乃は雪のそんな心中など図れず表層的な反応に、やはり眉を顰めて、
「言葉にするのは難しいけれど・・・気配、と言うのかしら・・・この前も、本部の結界の近くで彼女を見た時、それを強く感じたの・・・」
そう言葉を継いだ。
「結界の管理は巫女の責務じゃないですか。どこかおかしいところがあったんですか?」
雪はそれにそう答えたが、
『そこまで辿り着いていたのね・・・』
想像を上回る蒼乃の鋭さに、先程までの余裕は棄てざるを得なかった。
沙夜子の話では、『駐車場で』蒼乃と出くわした、とのことだった。
しかし蒼乃はそれ以前に沙夜子の姿を認め、それだけで『違和感』を感じ取っていたのだ。
僅かにタイミングがずれていれば、沙夜子の『工作』そのものが見咎められていた可能性すらある。
ここまで核心に近づいているのであれば、時間的余裕はない。
ならば、次の策に移るまでだ-
スッ
そう考えた雪は傍らに置いたバッグに手を触れながら、
「・・・わかりました。私のほうでも気を付けてみます。何かあれば、蒼乃さんに知らせますね」
そう蒼乃に言葉を掛けた。
「有り難う。そうしてくれると助かるわ・・・尤も、私の勘違いであればそれに越したことはないんだけどね」
雪に話したことで、胸にのし掛かっていた重みが軽くなった気がする。
そう思う蒼乃の表情は、自然と明るいものになっていた。
「それにしても久しぶりね。雪とお茶をするのも」
蒼乃はそう言うと、微笑みながらティー・カップに口をつける。
「済みません、私のほうも色々あったものですから・・・」
雪はその蒼乃の言葉に、申し訳なさそうに頭を垂れた。
「いいのよ、謝ることなんかじゃないわ。ただちょっと、私が寂しかっただけだから。ふふふ・・・雪、そのスカーフ、まだ身に着けてくれているのね」
「ええ、私のお気に入りなんですよ」
雪は蒼乃にやわらかい笑顔を向けながら、そう言って襟元に巻かれたスカーフを軽くつまむ。
単純ではあるが上品な色彩に染められたそれは、蒼乃が雪の初陣の際に贈ったものだ。
「そう言ってくれると嬉しいわ・・・そうね、邪界を滅ぼしたら、また、新しいスカーフをプレゼントするわ」
雪のその言葉に蒼乃は、上機嫌にそう言って相好を崩した。
その蒼乃の軽口に雪は、そうですね、と笑って紅茶を口にする。
そして雪の唇が、白いティーカップに触れ、その中から覗く赤い舌が、チロリと紅茶を舐めた。
ザワッ
雪のその仕草に、蒼乃の胸が何故かざわめく。
それは、沙夜子に感じたものと同じものだ。
蒼乃は紅茶のカップで顔隠すようにしつつもまじまじと、雪の顔を見つめた。
しかし、紅茶を優雅に口元へと運ぶ彼女に、普段と異なる様子はない。
だが心のざわつきに突き動かされ、『雪』と口を開きかけた蒼乃だったが、
「・・・蒼乃さん、ちょっと済みません」
雪にそう話の腰を折られてしまう。
バッグを持って立ち上がった雪の姿に、その意図を察した蒼乃は、
「ああ、はい、どうぞ・・・」
少し気が抜けたような声で、そう言葉を返すのが精一杯だった。
雪が会釈をしながら蒼乃の脇を通り過ぎた時、
フワッ
微かな臭いが、蒼乃の鼻を突いた。
彼女がいつもつけている香水とは別種の臭い-
はっとした蒼乃は思わず、雪に顔を向けようとする。
だが、
パタン
乾いた音と共に雪は、磨り硝子の向こうに姿を消してしまった。
蒼乃は半ば放心状態で、雪の消えた廊下へと続く扉を暫し見つめたが、
「まさか、ね」
そう言い首を振ると、温くなった紅茶に口をつけ、ざわついた心を奥底へと押し込むのだった。
パタンッ
風呂場の扉を閉め、風呂椅子に腰を掛けると、
キュッ
蒼乃はシャワーの栓を捻る。
シャァァッ
勢い良く流れ出した適温の湯が、彼女の頭から肢体を伝い、次々と床へ流れ落ちてゆく。
それとともに、先程までの嫌な考えも流れてゆくような気がした。
だが、雪の顔を思い出すと、澱のような気持ちが再び沸き上がってくる。
沙夜子だけではなく、雪にも感じた『違和感』。
それに、微かにだが感じたあの臭い-
今日雪から感じ取ったものは、一体何だったのだろうか?
考え始めると、どうしても悪い方向へと思考が及ぶ。
『きっと私の考え過ぎよ』
半ば希望とも取れるその考えを、無理に信じ込もうとするように蒼乃は、
シャァァッ
シャワーの水勢を増した。
コポッコポッ
「?」
湯が体を温め始めたあたりで、排水口が詰まるような音がした。
「!?」
それと同時に、背中を氷が這ったような冷たい感覚が走る。
「妖魔!?」
それは戦場で感じる、妖魔の気配と同じものだった。
カタンッ
蒼乃は警戒の態勢を取ろうとし、椅子から腰を浮かせようとした。
しかし、
ズヌズヌズヌッ!
「ひゃぁぁあっ!?」
アヌスから侵入してくる何者かの強烈な刺激に、膝から崩れ落ちる。
グプッグプッグプッ
「ぐぁあっっ!」
直腸に満ちてゆく冷たく、そして苛烈な感触に堪らず、蒼乃は下腹を押さえる。
ボコッボコッ
直腸内に侵入してくるものは、下腹部越しにも感じられるほどだ。
呪を唱える余裕もなく蒼乃は、その責めが過ぎ去るのをただ、待つしかなかった。
ズヌッズヌゥッ・・・チュルンッ
やがてアヌスを滑るような感覚がした後、その『何か』は蒼乃への侵入を漸く止めた。
「はぐぅっ、はあっ・・・」
蒼乃は震える手足を奮い立たせ、四つん這いになりながらもどうにか、立ち上がろうとする。
ニュルンッ
「ひあっ!?」
だがその努力は、股の間を擦り抜けてきた『何か』に阻まれる。
蒼乃は足を滑らせ、
ビタンッ
尻から床に倒れ込んでしまった。
図らずも、M字開脚をしたような姿勢の蒼乃の眼前で、
ニュルニュルッ
漆黒の『何か』が形を取り始める。
「・・・お前はっ!」
その『何か』は妖精のような形をしており、ガラス製の妖精の彫像のようであった。
『何故ここに妖魔が!?』
蒼乃が居住するこの空間には厳重に結界が張られ、妖魔が付け入る隙などない。
だが己の眼前には確かに、妖魔の姿がある。
普段は冷静沈着な蒼乃も、この事態には混乱せずを得なかった。
「んふふ、貴女、とっても霊力があるのねぇ。腸壁からビンビン伝わってくるわ・・・初めまして、私は水妖【すいよう】の流禍(るか)。以後よろしくねぇ」
「・・・このぉっ!」
蒼乃は指先に呪力を込め、その水妖を祓おうとするが、
「あらぁ、貴女巫女なの?・・・ダメよぉ、そんなおいたしちゃあ」
流禍がおどけたようにそう言うと、
グジュッグジュッグジュッ!
肛内に侵入した流禍の体が蒼乃のアヌスを激しく苛んだ。
「ひぎぃぃっ!?・・・嫌ぁっ、裂けちゃうっ、抜いてへぇっ!」
蒼乃の哀願にもかかわらず、流禍の体は前後への運動の他にも伸縮を繰り返し、執拗に蒼乃をいたぶる。
「大丈夫よぉ、ちゃんと加減してあげてるから・・・んふふ、貴女の体、とっても住み心地が良いわぁ・・・アヌスだけじゃ勿体ないわねぇ」
流禍はそう言うと、
ニュルン
自身の体を引き延ばし、蒼乃の股間へ取り付いた。
「んふふ、ここもとってもいい感じ♪」
そして流禍は上機嫌な様子で、
ニュルッニュルッ
股間部分の体を前後に脈動させた。
「あふぅんっ!?」
その突如訪れた刺激に蒼乃は、嬌声とも言えぬ声を上げてしまう。
「あらぁ、良い声で鳴くじゃない。ほら、もっと良い声だして♪」
流禍は調子に乗って更に、蒼乃の秘所をねっとりと嬲りだす。
「あっ、はっ・・・やめっ、やめなさいっ!」
蒼乃は流禍の陵辱に翻弄されながらも、再び対峙しようと態勢を整えようとした。
ビキッ
だが彼女の体は、首から下が石になったかのように、動きを止めてしまった。
「くぅっ・・・どうして!?」
「んふふ、貴女の体はねぇ、私が支配しているの・・・だからこんなこともできるのよぉ」
流禍がそう言うと蒼乃の意志とは別に、彼女の両腕が動き出す。
「な、何を・・・」
蒼乃がおののく間に両手はどんどん下へ降りてゆき、大切な部分へと辿り着いた。
「や、やめ・・・」
蒼乃は動く頭を振り力を込め抵抗するが、動く彼女の指先は震えながらも、
クパァ
秘唇を割り開き、肉壁の奥まで詳らかにしたのだった。
「い、嫌ぁっ!」
その無様で淫靡な姿は、風呂場の鏡に映し出され、蒼乃の視界に入ってくる。
「あらぁ、本当に処女なのねぇ。それに綺麗なピンク色・・・とっても美味しそう」
流禍はそう言って蒼乃に秘裂を広げさせたまま、
クチュ、クチュ
膣口をその粘液質な体で撫で回した。
「ひぃっ!?」
蒼乃はそれに恐怖する。
処女を奪われることは、巫女にとってその資格を失うことを意味するのだ。
それに巫女としての資格を失ってしまえば霊力が高い分、邪気を受け容れる器に堕とされてしまう可能性すらある。
「んふふ、そんなに怖がらなくても大丈夫よぉ。貴女が私の言うことをちゃんと聞いてくれれば、前の処女だけは奪わないから・・・だからぁ、仲良くしましょ?」
流禍はその蒼乃の恐怖を見透かしたように、ニィ、と口を歪めると再び、股間の体を震わせる。
今度は秘所と接した部分を波立たせ、蒼乃の性感をより苛烈に刺激しながら、
「まずは自己紹介からかしらねぇ・・・貴女の名前は?」
まるで友人になろうとするかのように、そう蒼乃に尋ねるのだった。
それに、ビクビクと不自由な体を痙攣させながら蒼乃は、
「だ、誰が答える・・・」
そう意地で反抗しようとする。
だが、
グニッグニッグニッ
流禍の返答は、処女膜への激しい責め。
その責めは絶妙な力加減で処女膜は破らないものの、それを失う恐怖を想起させるには十分なものであった。
「やめてぇっっ!・・・答える、答えるからっ!・・・東河蒼乃、東河蒼乃よっ!」
それに堪らず、蒼乃はそう絶叫した。
グチュッ・・・
流禍は蒼乃の答えに一突きだけし、処女膜への陵辱を中断する。
「そうそう、ちゃんと言うことを聞けばいいの。私、物分かりの悪い子は嫌いよぉ?・・・そうか、蒼乃ちゃんて言うのね、よろしくぅ♪・・・私のことは、『流禍様』って呼んでねぇ」
そう言うと流禍は、喜びを表すかのように、ただ体を震わせる。
それに蒼乃はほっと、安堵の溜息を漏らした。
だがその安堵も束の間、
「・・・だけどぉ、やっぱり私の言うことを聞かなかった罰は受けてもらわないとねぇ・・・んふふ、えい♪」
流禍はそう言うと、
ズニュゥッ
蒼乃の股間にまとわりついた体の一部を変形させ、
ズズズッ
蒼乃の尿道へと侵入する。
「ひぎぃぃっ!?」
そして膀胱まで達すると、
ニュウゥ
侵入した体の中を中空にした。
ブルッ
その途端、蒼乃は下腹部に震えを感じる。
「ま、まさか!?」
すると、
ジョロロォ~
「い、嫌ぁっ・・・とまってぇっ!」
カテーテル状となった流禍の体を通じ、小便が勢い良く流れ出した。
「あははぁっ!蒼乃ちゃんのおしっこ、噴水みたい!」
流禍の嘲笑の通り、蒼乃の小便は噴水のように勢い良く吹き出し、風呂場の床に飛沫をあげて落ち続ける。
忽ちの内に、風呂場はアンモニア臭で一杯になった。
「もう、もうやめてぇっ、お願いだからっ!」
蒼乃は涙を流し、そう流禍に許しを請うた。
だが流禍は、
「だぁめ。今度からぁ、おトイレしたい時は、私に許可を取ってね・・・それに、お願いする時は『お願いします、流禍様』だよ」
蒼乃への陵虐を止めることはない。
「そんな・・・お願いします、流禍様、もう許して・・・」
「そうそう、いい感じだよ、蒼乃ちゃん♪これからは仲良くしようねぇ~」
結局、蒼乃の膀胱が空になるまで、羞恥の責めは留まることはなかった。
ニュルンッ・・・キュッ
「うっ・・・」
蒼乃への陵辱が終わった後、流禍は、尿道へ突き刺した体を引き抜き、蒼乃の股間へ再び巻き付いた。
その姿は傍目には、黒の光沢のある水着にも見える。
しかしその中では、
グニュッグニュッ
「ううっ!・・・」
蒼乃の肛内に深く肉の楔を打ち込み、宿主を苛みながら僅かずつ、霊力を吸収し続けるのだった。
「んふふ~」
上機嫌に蒼乃に寄生する流禍に対し蒼乃は、
『この・・・』
直腸内の圧迫感に苦しみ、悲嘆に暮れながらも、その瞳の奥に意志の炎を宿していた。
この水妖は自分が巫女であることは察しつつも、四神の巫女であることは知らないようだ。
接する態度からして、下級の巫女と侮っている節もある。
ならば、どこかで必ずチャンスはあるはずだ。
『必ず・・・必ず、打ち克ってみせる』
蒼乃は屈辱に耐えながらもそう、雪辱の機を窺うのだった。
「ふふふ、蒼乃さん、今頃どうしているかしら?」
蒼乃の家を辞した雪は帰途の公園の中で、そう邪な笑みを漏らした。
バスルームに水妖を仕掛けたのは他ならぬ、雪である。
だが姉とも言える存在を妖魔に売り渡した彼女に、後悔の色はない。
寧ろ今の彼女は、裏切りの対価を得る悦びで満たされているのだった。
「・・・雪」
「・・・淫亀様っ!」
雪は街灯に照らされる沙夜子の姿を認めると、子犬のように駆け寄った。
そして彼女の元に跪く。
沙夜子が飼い犬の毛並みを整えるように雪の髪を撫でながら、
「・・・人間界では『沙夜子』、と呼ぶのよ、『雪』」
そう諭すと、
「申し訳ありません・・・沙夜子、さん」
謝罪の言葉を履きながらも雪は、沙夜子に褒美をねだるような表情を向けた。
「・・・それで罠はきちんと仕掛けてきたの?・・・ふふ、その顔じゃ聞くまでもないわね」
沙夜子がそう尋ねると雪は、
「ええ、今頃はきっと・・・」
そう言って潤んだ瞳を沙夜子に向ける。
まさにその姿は、餌をねだる雌犬そのものだ。
その雪の様子に沙夜子はふふ、と鼻で笑うと、
「酷い女ね・・・蒼乃は貴女の姉のようなものでしょ?」
そう言いいながらヒールの爪先で、雪の股間を弄んだ。
「そうです・・・だからこそ、はぅっ・・・蒼乃さんにも巫女として、奴隷の悦びを知って欲しいんです・・・あふぅんっ!」
「ふふ、そんな殊勝な事を言って本当は、ただ褒美が欲しいだけなんじゃないの?・・・貴女のココ、こんなにビチャビチャじゃない」
グチュッグチュッ
沙夜子が言うとおり、雪の秘所は下着越しに滴が垂れ落ちるほど潤み、欲情していることは確かだった。
「はぁんっ、意地悪言わないでください、沙夜子、さんっ」
沙夜子に弄ばれながらも雪は、服従の姿勢を崩さない。
その様子を見ながら沙夜子は、
「・・・まずは、貴女の露で汚れたこの靴を綺麗にして頂戴」
そう言って雪の愛液で汚れたヒールの先を、雪の眼前に差し出した。
「はい・・・ちゅっ、れろっ・・・」
雪は沙夜子のヒールを捧げ持つと躊躇わず、丹念に舌を這わせ、ヒールを舐め清めてゆく。
清純だった少女を浅ましい性奴隷にし、己に奉仕させていることに、沙夜子は少なからず興奮を覚えた。
ムクッ
それに反応するように沙夜子のモノも、いきり立つ。
「・・・ちゅっ・・・沙夜子さん、綺麗にしましたぁ・・・」
己の滴を全て舐め取った雪は媚びるようにそう、沙夜子に顔を向けた。
そしてその視線は、ジーンズの上からもわかる程に膨らんだ、ある一点に注がれる。
その視線が注がれる場所を、誇示するようにを軽くさすると沙夜子は、
「・・・いいわ。ご褒美をあげる・・・思う存分、奉仕なさい」
そう言って腰を、雪の方へ突き出した。
「有り難う御座います、沙夜子さん」
雪は喜色を浮かべると、
ジィィッ
口で沙夜子のジーンズのファスナーを下げ、下着越しにも感じられる牡の性臭に気を急かせられながらも丁寧に、『褒美』を覆うラッピングを剥ぐかの如く沙夜子の下着を取り除いてゆく。
ビィンッ
「はぁんっ!」
やがて現れた沙夜子の肉棒は雪の頬を叩き、牡汁をその顔に撒き散らした。
完全に姿を現したそれは、逞しく天頂を向き先端からは牡汁を零している。
強烈な牡臭を放つそれを前にして雪は、陶酔した表情と熱い視線を沙夜子の肉棒に向ける。
そして口の端から涎を零しながら、
チュッ、レロッ・・・
肉棒に絡みつくように舌を這わすのだった。
妖魔の精液奴隷と化した雪にとってそれは、極上の甘露。
「はむっ、あむっ・・・」
口内に広がるその味に、雪の奉仕にも熱が籠もる。
「ふふふ・・・」
眼下に、己の肉棒に奉仕する雪の姿を認めながら沙夜子は、そう満足げに微笑んだ。
戦友を邪界の奴隷に貶め、更に己の従属の対象としたことに沙夜子は充実感を感じている。
邪水晶も自分に対し、このような感覚を得ているのだろう。
最愛の彼女と同様のものを得られたことに沙夜子は、この上ない悦びを感じていた。
それは肉の悦びへのトリガーともなる。
「・・・雪、そろそろ出すわ。全て飲み干しなさい」
昂ぶりを感じた沙夜子は、雪に腰を突き出しながらそう命じる。
「ちゅ、むっ・・・はい、沙夜子、様・・・むぐっ、ちゅうぅぅっ」
それに応えるように雪は沙夜子の肉棒を深く咥えこむと、沙夜子のフィニッシュを迎えるべくストロークを激しいものへ変化させる。
ジュブッジュブッジュブッ
雪の唾液と沙夜子の淫液が混じり合い、雪の口の回りへと飛び散るが、それを本人が気にする気配はない。
寧ろその表情は喜悦に満ちたものだ。
「あっ、ふぅ・・・雪、いいわぁ・・・そんなにご褒美、欲しい、のねっ!・・・」
ニチュッニチュッ
雪は沙夜子の肉棒から口を離すことなく、舌使いを執拗かつ巧みなものにすることでそれに応える。
ねっとりと絡み付き、蛇のようにのたうちまわる雪の舌技に、さしものの沙夜子も忽ちのうちに追い詰められる。
「はぁん、もう我慢できない・・・イ、イクゥッ!」
沙夜子はそう叫び雪の後頭部を掴むと、
ドピュッドピュッドピュッ
ありったけの精液を雪の喉奥深くへ叩き込んだ。
「むぐっ、ぐっ」
粘液質な白濁液を多量に吐き出された雪は一瞬噎せ返るが、その貴重な甘露を無駄にすまいと、
ゴキュッゴキュッ
喉仏を鳴らし、勢い良く胃の腑へとそれを落としてゆく。
上級妖魔さえ比較にならい程魔力に溢れ、精気に満ちたそれは、雪にとってこの上ない『御褒美』なのだった。
レロッ、クチュックチュッ・・・
情事の後雪は、顔の回りに飛び散った沙夜子の精液を舐め取り、口内で転がすように味わっていた。
その表情は恍惚に満ち、菓子の残滓を貪る幼子のようにも見える。
「ふふふ・・・」
その姿を見ながら沙夜子は、雪を傍らへと抱き寄せた。
「あっ・・・」
それに雪は少し驚いたような素振りを見せたが、沙夜子の温もりに包まれるにつれ、表情を綻ばせる。
雪の髪を撫でつけながら沙夜子は、蒼乃に思いを馳せていた。
駐車場で会った時の、怜悧な蒼乃。
あのプライドの高い蒼乃もこの娘のように、淫らで浅ましい存在に堕ちるのだろうか?
プライドを砕かれ、地を這いつくばる蒼乃の姿を夢想しただけで、沙夜子の体は堪らなく昂ぶる。
それを目聡く察知した雪は、
「沙夜子さまぁ・・・」
甘えた声を出しながら、再び硬度を増した沙夜子の肉棒を掴むと、
シュッシュッ
ゆっくり上下に扱き出した。
それに沙夜子は、
「んふっ、いいわ、雪・・・蒼乃を売った記念に、もっと『ご褒美』を味わいなさい」
そう言って肉棒を再び雪へと突き出した。
「・・・有り難う御座います、沙夜子様・・・うふふ、『売った』なんて人聞きの悪い・・・蒼乃さんもきっとすぐ、邪界の素晴らしさに気付きます。私は、そのお手伝いをしただけですよ」
雪はそう言って妖艶に笑うと、沙夜子の肉棒に口づけし、それを飲み込んでゆく。
雪の襟元に巻かれたスカーフは、その送り主の将来を暗示するかのように汚液に塗れ、色彩を失っていた-
< 続く >