四神戦隊メイデン・フォース 第15話

第15話 羽化(前)

 巫女衣装に身を包んだ朱美を、淡い燐光が照らしている。
 10畳ほどの無機質な空間に満ちているのはその光と、
「・・・」
 涼やかな詠唱の声音だけ。

 彼女の眼前にあり、光源となっているのは、明日香が瑠璃から託された『鏡』だ。
 神器であるこの『鏡』のお陰でメイデン・フォース本部には、莫大な量の霊力が供給されている。
 瑠璃が明日香に『鏡』を託した意図や、四神の巫女の中でも筆頭を務める立場を勘案し明日香は、この『鏡』の管理一切を朱美に委ねていた。
 それ故、今この『鏡』に触れられるのは瑠璃を除き、朱美一人だけだ。
 巫女の資格を失った明日香はもとより、他の四神の巫女すら触れることのできない神器を前に朱美は、普段見せることない神妙な面持ちで、祭事を進めてゆく。

 シャン
 二種類のみだった要素に、神楽鈴の澄んだ音色が加わった。
 シャン、シャン
「・・・」
 朱美は詠唱を続けながら、神楽を舞う。
 それと同時に、
 キィィン
 『鏡』の燐光が明るさを増し、神気が溢れんばかりに部屋へ満ちた。

 如何に神器と雖も、高い『神性』を持続させるためにはメンテナンスとしての、『祭事』が必要となる。
 邪界との闘いの最中である今、この『祭事』は特に欠かすことのできないものなのだ。

 袴を靡かせ、神楽鈴を奏でながら朱美は、
 シャンッ、シャンッ・・・シャラララララッ・・・シャンッ
 一際激しい鈴の音を鳴り響かせ終わるのと同時に、
 タンッ
 踏鞴を踏む。
 すると、一時の情熱を冷まされたかの如く『鏡』の輝きが収まり、祭事の前と同様に、静謐な燐光を放つだけとなった。

 それを確かめながら朱美は、『鏡』に礼をしたまま後ずさると、『鏡の間』の前室へと退く。
 プシュッ
 コンプレッサーが乾いた音を立て、扉が閉まるのを合図に、朱美は漸く、
「・・・ふぅっ」
 安堵の溜息をついた。
 それと同時に、
 ジワッ
 全身に汗の玉が浮かぶ。
 祭事の舞は文字通り『体得』しているものの、神器を前に舞う事は一方ならぬ緊張を朱美に強いるのだ。
 だがその分、充実感もある。

 闘いだけではなく、四神の『巫女』としての役割-
 朱美はタオルで汗を拭いながら飲み慣れたスポーツ・ドリンクをあおると、
「んっ・・・」
 心地良い疲労感にその身を浸すのだった。

 グチュッ、グチュッ、グチュッ
 豪奢な調度品に囲まれた薄暗い部屋の中に、湿った肉の音が響く。
 その部屋の中心にある、矢張り豪奢なベッドの上で、背に漆黒の翼を持つ女が覆い被さるように、一人の女を犯している。

「・・・ふふふ、『元』親友に犯されて、恥ずかしくはないの?」
 邪水晶はそう、言葉で明日香を責めながら、彼女の子宮の奥深くを、 
 ズヌッ、ズヌッ
 禍々しい凶器で抉る。
 それに、組み敷かれた明日香は、
「ひゃぁっ!・・・ああっ、はぁっ!」
 意味をなさない嬌声をあげ、熟れきった肉体を弾ませるばかりだ。
 だが、言葉で答える代わりに、
 プリュッ、プリュッ
 卵巣から穢らわしい妖魔の卵を吐き出して、『元親友』の問いに答える。
 妖魔の『孵卵器』と化した明日香にとってそれは、最上級の悦びを表すに等しい。

 その痴態に邪水晶は、明日香を抱き寄せると、
「・・・ふふふ、本当に妖魔の子袋へ堕ちたのね、穢らわしい・・・ふふ、でも素敵よ、明日香・・・んっ、はむっ・・・」
 徐に、明日香の唇を奪う。
 クチュ、グチュッ
 そして強力な媚薬でもある己の唾液を、明日香の舌に塗り込むかの如く、多量に流し込みながら、
 ズンッ、ズンッ、ズンッ
 抽送の勢いを強めた。

 明日香はそれに堪らず、喘ごうとするが、
「むぐぅっ!?・・・ふぐぅっ!」
 邪水晶の唇がそれを許さない。
 それどころか、
「・・・がぼっ・・・ぐぼへぇっ!!」
 絶え間なく流し込まれる邪水晶の唾液が気管を塞ぎ、明日香を苦しめる。

 しかしそれは、
 ギュゥゥ
 プリュプリュブリュリュッ
 本人との知覚とは逆方向の悦楽を、肉体にもたらしたようだ。

 肉棒を食いちぎらんばかりに締め上げる膣肉と、穢らわしくもひり出された卵の感触は、性の愉悦に慣れた邪水晶ですら、
『・・・ふふ、明日香、矢張りあの時から、マゾに目覚めていたのね・・・それにして、も、卵の弾力が、気持ち良い、わ・・・あんっ・・・』
 言葉を紡げなくなる程、淫猥で、下半身全体に絡み付く様な快感を送り込んでくる。
 そして、
 グニッ・・・プチュッ、プチュッ
 邪水晶が子種のカクテル・グラスを肉のマドラーで掻き回す度、生命の炎が一つ、また一つと消されてゆく感覚もまた、邪水晶の昂ぶりを誘うのだった。

 邪水晶は、明日香から唇を離すと、熱っぽい息を吐きながら、
「・・・明日香、中々、良かったわ・・・うふふ、お礼に、一杯貴女に、注いで、あげる・・・」
 そう囁くと、
 グチュッ、グチュッ、グチュッ
 陵虐のピッチを上げる。

 漸く呼吸を許された明日香の声音が、
「・・・うぇっ、げほっ、げほっ・・・んっ、はぁぁっ!」
 噎せ返りの呻きから嬌声へ転じるタイミングを見計らった様に邪水晶は、
「・・・うふふ、マゾ明日香、闇の悦楽に、溺れなさい」
 そう嘯くと、
 ドクッッ、ドクッッ、ドクッッ
 明日香の奥底へ、魔素の塊を叩き付けた。

 子宮を揺さぶられる様な激流を感じながら明日香は、
「いっ、ひゃぁあぁっ!・・・イク、イクゥッ!」
 ビクンッ、ビクンッ
 絶頂に達し、
 プリュプリュブリュリュッ、ブリュンッ
 歓喜の証として穢らわしい妖魔の素を、吐き出し続ける。

 涎を垂らし悦楽に緩むその顔は、
「うはぁっ・・・赤ちゃんの素っ、ぶりゅぶりゅいってりゅぅ♪」
 彼女の子宮が示す通り、『牝』そのものであった。

「・・・んふっ・・・チュパッ、チュパッ・・・」
 邪水晶の肉棒では、うっとりした表情で明日香が交合の残滓を浅ましくも貪り続けている。
 明日香に情事の後始末をさせながら邪水晶は、優しく明日香の髪を梳き続けていた。
 だがその視線は、かつての『対等』な関係のものではなく、『主従』のものである。

「ふふふ・・・」
 近しい者を堕落させ、己に従属させることに、邪水晶はこの上ない愉悦を感じていた。
 沙夜子を堕落させた時に、勝るとも劣らない愉悦-

 『友』であっても、これだけの快楽を得ることができるのだ。
 あの女を犯す時、どれ程の悦楽を感じることができるのか-
 それを想像するだけで、邪水晶の肉棒は猛り立つ。
「ふふっ・・・」
 邪水晶は明日香の頭を掴むと、
 ズヌッ
 その喉奥へ肉の楔を打ち込んだ。

 明日香は突然の蹂躙に、一瞬、
「んぐぐっ!?・・・んぷっ、んふっ・・・」
 咽せかえるが、手慣れた仕草で鼻から息を抜くと、
「ちゅぱっ、ちゅぱっ・・・」
 肉棒への奉仕を再開する。
 彼女の『主』となった妖魔の、調教の成果に邪水晶は目を細めながらやがて、二度目の精を、明日香の中へ放つのだった。

 コンコン
「・・・邪水晶様、準備が整いまして御座います」
 明日香が二度目の『後始末』を終えた頃、控え目な訪問者が邪水晶の私室を訪れた。
 邪水晶は、
「・・・直ぐ行くわ」
 短くそう答えると、
 キィッ
 汚液に塗れ眠る明日香を残し、寝台から降りる。

 邪水晶は部屋の外の気配を、反射的に探るが、
「・・・」
 ノックの主は『主人』の意を汲み取ったのか、既にその姿を消したようだ。
 邪水晶は、
 キュッ
 放恣な肉体を強調する淫らな衣装を纏うと、
 パチン
 未だ硬度を失わぬイチモツを、ペニス・バンドに収める。
 そして、
 ファサッ
 その美しい髪を、手櫛で梳くと、
「すぅっ、すぅっ・・・」
「・・・ふふっ」
 未だ眠る明日香を一瞥して、自室を後にした。

 カツン、カツン
 魔力を込めたランタンで照らされた岩肌の階段に、ヒールの音だけが響く。
 邪水晶が向かったのは皇宮の地下に位置する、皐月の『ラボ』と呼ばれる空間だ。
 長い階段を突き当たり、
 キィィ
 重厚な鉄の扉を開くと、眩い光が邪水晶の目を射貫く。

 それに邪水晶は一瞬、目を細めるが、
「・・・無事、連れてきたわね」
 やがて像を結んだ視界の中に、目当ての人物を認めると、口の端を歪めた。

 今邪水晶の眼前には、一人の女性の姿がある。
 その女性は、深紅のボディー・スーツとフレア・スカートを纏い、朱雀をあしらったヘルメットを装着した人物-朱美、であった。
 ヘルメットのバイザーは解除され、朱美の顔は『ラボ』特有の、ひんやりとした空気に晒されている。
 だがその瞳からは光が失せ、能面の様な表情を虚空に向けているだけだ。

 邪水晶はその様子に酷薄な笑みを浮かべると、朱美の元へ歩み寄る。
 そして、掌で朱美の顎を掬い、己の方へ向かせると、
「・・・ふふ、メイデン・レッドもこうなってしまえば可愛いわね・・・それで、洗脳と改造はどの程度進んでいるの?」
 傍らに控える皐月にそう、尋ねた。

 その邪水晶の問いに皐月は、
「・・・はっ・・・メイデン・フォースの装備を通じた肉体の淫乱化は、目標の7割程度完了しております。ただ・・・」
 苦し気に答えると、邪水晶の顔色を窺う様に、言い淀む。

 邪水晶はその様子に不首尾の色を認め、
「・・・報告を続けなさい」
 そう、僅かに声のトーンを低めると、顎で皐月に先を促した。

 皐月はそれに緊張した面持ちになりながらも、
「はっ・・・洗脳ですが、所々思考の植え付けはできても、全面的な塗り替えをすることができません・・・よって、邪界への忠誠を擦り込むことは・・・できませんでした・・・現況はメイデン・レッドの思考に何か、プロテクトが掛かっているような状態です・・・」
 邪水晶への報告を続ける。
 そして朱美のヘルメットに視線を遣ると、
「・・・それどころかメイデン・レッドの催眠状態も、『洗脳器具』を装着して
いないと・・・持続できません」
 そう言って、再び視線を下げた。

「矢張り、南原の秘術か・・・」
 邪水晶はそう忌々しげに呟くと、朱美から手を離し、己の長い爪を噛んだ。

 南原の秘術-
 それは、南原家固有の秘技である。
 南原家は代々、戦闘に長けた一族でありその長となる者は、潜在能力を最大限に生かすため、戦闘時に『余計』な意識をシャット・ダウンする術を伝授され る。
 次代当主である朱美には当然、その術が伝承されている筈だ。

 嘗て神凪の一族であり、その存在を認知していた邪水晶は朱美の調教に先んじて、肉体改造と『南原の秘術を封じるための洗脳』を、皐月に命じていた。
 朱美が潜在的にでも『違和感』を感じた場合、調教が不首尾に終わる可能性が高い。
 しかも瑠璃が動き出した今、彼女の調教に掛けられる時間はそれほどないのだ。

 邪水晶の意図を汲んだ皐月は促す様に、
「・・・強制的に洗脳することは不可能ではありませんが、ただの『人形』にしてしまう危険性を否定できません・・・如何なさいますか?」
 そう、再び主に問いを投げかける。
 だが、その答えは聞かずとも解っていた。

「・・・」
 果たして、その問いに邪水晶は答えず、右手に顎を載せ厳しい表情のまま、部屋の中をゆっくりと歩き出す。
 『・・・ある程度の想定はしていたけれど、南原の秘術・・・厄介ね』
 神凪家に属していた者としてその存在は認知していたが、『敵』側として相対した今、それが武器として役立つことを十二分に思い知るとは、皮肉なことだ。
 しかも、それに輪を掛けて面倒な『条件』も上乗せされてしまっている。
 明日香から聞き出した情報では、神凪家の神器である『鏡』を朱美が管理している、というのだ。
 この娘を『人形』にしてしまっては、それを邪水晶が望む形で『回収』することはできないだろう。

 半ば手詰まりな状況の中、邪水晶は、重い空気の漂う空間を彷徨い続けるが、
 『・・・所々』
 その時、皐月の言葉に一つの光明を見つけた。
 邪水晶はさっと振り返り、鋭い視線を投げ掛けながら、
「・・・皐月、『所々』ならば、思考の植え付けは可能なのね?」
 そう含みのある言葉で、皐月に問う。

 皐月は、
「はい、有る条件に対して、特定の行動を取らせることは可能です。・・・ただし、それほど多くの条件付けをすることはできませんが・・・」
 そう答えると再び、主の表情を窺い見る。
 だが、
「・・・ふふっ、それで十分よ・・・」
 そう言って朱美に歩み寄る邪水晶の表情は、先程とは打って変わって、軽く、邪なものだった。

「・・・ふふ、私はお前を、『人形』などにしないわ・・・」
 邪水晶はそう言うと、朱美の胸を軽く揉みしだく。
 それに朱美は、
「・・・あぁっ・・・」
 意識を混濁させながらも、艶やかな声を上げた。
 なおも、マシュマロを転がすように、
 フニッ、フニッ
 邪水晶が絶妙なタッチで双丘を責め続けると、
 ジワッ
 牝の香りとともに、朱美の股間が潤む。

 それに邪水晶は、
「ふふ、中々良い反応ね・・・」
 そう微笑むと、朱美の背後に回り込み、朱美を軽く抱き寄せると耳許に口を寄せ、その長い舌で、
 ピチャリ
「あふっ・・・」
 朱美の耳朶を舐る。 
 そして言の葉を朱美に塗り込む様に、
「・・・お前を、とっても淫らで残虐な、メイデン・フォースのリーダーに作り替えてやるわ・・・ふふふ、楽しみでしょう?」
 そう言うと、邪に口の端を歪めるのだった。

 ザシュゥゥッ!
 朱美の両腕に、肉を切り裂き骨を断つ、
 ゴリッ
 嫌な感覚が伝わってくる。
 如何に『敵』とは言え、殺生であることに変わりはない。
 『敵を打ち倒す』ことには何ら躊躇いのない朱美ではあるが、『命を絶つ』この感覚だけは、好きになることができなかった。

「・・・どおりゃぁっ!」
 だがその嫌な感覚を振り払うように朱美は
 ダンッ
 多々良を踏み、勢いのままに、刀を横へと薙ぎ払う。

 それに、
「ギシャァァッ!」
 妖魔は断絶魔の咆哮を上ると、
 ブシュゥッ!
 切断面から盛大に血飛沫を撒き散らしながら、
 ズルッ
 上半身をスライドさせる様に、斃れた。

 「・・・」
 朱美はそれを無表情に見送ると、
 ヒュンッ
 刀を一閃させてから、粒子化させる。

 するとその時、
 ヒュゥッ
 死の臭いを運ぶ生臭い風が、朱美の鼻を撫でた。
 見れば辺りは、妖魔の死骸と死臭で充ち満ちている。
「・・・」
 朱美はそれを忌むような視線で一瞥すると、
 タンッ
 メイデン・レッドのコスチュームのまま跳躍し、森の奥へと消えた。

 ピッ
 バシャンッ
 短い笛の音に合わせ、濃紺の競泳水着を纏う女性が、水の中へ飛び込む。
 バシャッ、バシャッ
 力強く水を掻き分け進むその様は、彼女の均整の取れた肉体美と相まって、イルカを連想させた。

 無駄なく水面を跳ねた彼女はやがて、プール・サイドに手をつくと、
「・・・プハッ」
 その端正な顔を上げる。
「朱美、結構いいタイム出たよ」
 同じく競泳水着を纏う、前田明里(まえだあかり)がそう告げると朱美は、肩で息をつきながらも、満面の笑顔を浮かべた。

 火照った体に、水の冷たさが心地良い。
 血生臭い戦いの後では塩素の鼻を突く臭いさえ、朱美に安らぎ与える。
 朱美は僅かに息を吸い込むと、漂うように水面へ身を預けた。

 その時、
 バシャッ
 少し離れたレーンから水音が聞こえた。
 朱美は反射的に、その方向へ視線を滑らせる。

 ザブンッ、ザブンッ
 朱美がイルカなら、シャチの様な獰猛さで水を押し分ける『彼』の姿に、朱美は思わず目を奪われた。
 彼女より力強く、それでいてより、しなやかなフォーム。
 彼は昨年のインカレで準優勝した実力者だが、そのような肩書きを付けなくとも、その姿はスイマーとして惹き付けられるものだった。

「・・・朱美ぃ、なぁに、星野先輩のことばっか見ちゃって?」
 だが、その朱美の姿を見た彼女の友人は、そうは思わなかったようだ。
 明里は、ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべながら、朱美の方へ身を乗り出してきた。

「・・・違うわよ、もう」
 朱美はそう言うと、明里の追及から逃れるように、ぶくぶくと泡を吐きながら水の下へ沈む。
 己の吐いた言葉とは裏腹に、明里の言葉は一片の真実を含んでいる。
 一人の『女』として、彼を見ていることは、確かなのだ。
 だが、メイデン・フォースの一員である以上、この淡い恋は実ることなどない。
 『でも今だけは-』
 朱美は、肉体的な高揚とは別の熱で火照る顔を冷ますように、プールの底へと沈んでいった。

 キィンッ!
 甲高い金属音とともに、
「グェェェッ!」
 妖魔の群れがなぎ倒されてゆく。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・何よコレ、数多すぎ・・・」
 雲霞の如く襲い掛かる妖魔の攻撃に、朱美は疲弊していた。
「朱美さんっ、右翼から中魔が一体、接近中です!」
 だが彼女に、休息の間はない。

「・・・ったく・・・了解っ!・・・どおりゃぁっ!!」
 朱美は半ば苛立ち紛れに、接近してきた大型の中魔へと刃を突き立てると、
 ガッ
 刀が、妖魔の骨を砕く感触が伝わる。
 朱美はそのまま体重をかけ、
 ゴリィッ
 ぶつ切りでも作るかの如く、妖魔を両断した。

 スローモションで斃れ行く妖魔を眺めながら朱美は、
「はぁっ、はぁっ・・・やった・・・」
 そう独りごちる。
 だが、その瞬間、
 ゾクッ
 背筋に悪寒にも似た感覚が走った。

『何、今の感覚?』
 朱美はその『感覚』に混乱する。
 しかしその混乱すらも許さぬとばかりに、
「・・・朱美さん、もう一体行きます!」
 通信機へ雪からの通信が入った。

「・・・ちっ」
 朱美は軽く舌打ちすると、忌まわしい『感覚』を振り払う様に、
「破ぁぁっ!」
 ダンッ
 今度は飛び上がって勢いのままに、
 ザシュゥゥッ!
 森の奥から現れた中魔を、袈裟掛けに切り裂いた。

 だが、
 ゾクゾクッ
 その行為は先程にも増して、朱美に強烈な『感覚』を送り込んでくる。
 それに朱美は堪えきれず、
「ううっ・・・」
 呻き声を上げ、刀を杖にして、へたり込んだ。 

 彼女の眼前では、下半身だけとなった妖魔の骸が、
 ブシュュウ
 噴水の様な血飛沫をあげている。
 それが視界に入った瞬間、先程妖魔を裁ち切った手の感覚が蘇るとともに、
 ゾクゾクゾクッ
 一際激しい『感覚』が全身を走った。

 その刹那、
「!?」
 ジワッ
 女芯から何かが溢れ出す感触に朱美は、
 ギュッ
 反射的に股を締める。
 だがそれは本人の意志とは裏腹に止まることなく、
 ヌルッ
 ボディー・スーツの股布を、濡らしてゆく。

「・・・お願い、止まって!・・・」
 退魔師として、苦痛への耐性は鍛錬を積んでいる。
 だが、性経験のない朱美にとって、苦痛と相反する『快楽』への耐性は、無きにも等しい。
 困惑する朱美を嘲笑うかの様に、彼女の肉体は、
 ヌルッ・・・ツゥッ
 処女地から感涙を溢れさせ続けながらやがて、内股を『穢れ』で蹂躙し始めるのだった。
「・・・う、あ・・・」
 妖魔との戦闘では圧倒的であった朱美が為す術もなく、己に敗北してゆく。
 そんな朱美に、
「ザッ・・・朱美さん、戦闘終了です・・・朱美さん?」
 雪の声が、届くことはなかった。 

 シャァァッ 
「はぁっ・・・」
 朱美は、メイデン・フォース本部内のシャワー・ルームで壁に手を突きながらそう、深い溜息を吐く。
 最近肩口まで綺麗に刈り揃えた髪が、水流で額に貼り付き、彼女の鬱陶しさを増していた。

「・・・くそっ!」
 朱美はそう叫ぶと、
 ガンッ
 シャワー・ルームの壁を叩いた。
 だがそれは、右手に感じる鈍い痛み以上に感じる胸の鈍痛を、決して晴らすものではない。

 妖魔を斬り伏せる度に、感じてきた嫌悪感-
 メイデン・フォースとしての使命と背反するそれは、『人』として当然感じるべきもの、と朱美は考えている。
 だが今日は、それを感じないばかりか、あの様な感覚まで抱いてしまったのだ。
 
 その感覚を思い出した朱美の胸に、吐き気にも似た感情が込み上げる。
 しかし、朱美の感情とは裏腹に、
 トロッ
 肉体は嫌悪の象徴たるべき、悦楽の滴を吐き出した。

「・・・イヤッ!」
 朱美は零れ続けるる醜悪なそれを、手で堰き止めようとするが、彼女の浅はかさを嘲笑うかのように止まらぬそれは、
 トロォッ
 指間から糸を引いて、床へと落ちる。

 ガタンッ
 朱美は床に尻餅をつくようにへたりこみ、
「お願い、止まってよぉ・・・」
 そうすすり泣くが、
 ジワッ
 溢れ出した淫液は、小便を漏らしたかの如く広がっては、シャワーの水流に流されてゆく。

 その変容に気付いたのか、
「・・・あの、朱美さん、どうかしたんですか?」
 一つ離れたブースに入っていた雪が遠慮がちではあるが、壁越しにそう、声を掛けてきた。
 彼女なりに、自分の事を心配してくれているのだろう。

 だが、
『この恥辱を気取られてはいけない』
 そう断じた朱美は慌てて、
「な、何でもないわ・・・ちょっと、転んだだけ」
 そう取り繕うと、
 シャァァアッ
 シャワーの水勢を強め、恥辱の証を押し流そうとする。

 それを信じてくれたのか否かはわからぬが、雪は、
「・・・大丈夫ですか、朱美さん?・・・気を付けてくださいね」
 そう言うと、それ以上の詮索をしてくることはなかった。 

 朱美はそれに安堵するが、
 ヌルゥッ
 未だ止まぬ、迸りに屈辱を感じながら、
「・・・くっ・・・うっ・・・」
 指を噛み、嗚咽が漏れぬよう泣く。
 それは、過酷な鍛錬でさえ耐え抜いてきた彼女が初めて、『己』に涙した瞬間だった。

 ジーッ
 しかもその姿が、敵に筒抜けであるなど、彼女が知る由はない。
 
「・・・ふふふ、順調のようね」
 朱美の恥辱を隅々まで堪能した邪水晶は、そう笑みを浮かべた。

 それに皐月は、
「はっ、ご命令のとおり、メイデン・レッドには装備から『調整』を実行中です。他の『調整』についても順次実行しております」
 先日とは打って変わって、安堵と自信の籠もった微笑を浮かべながら、そう答える。

「そう、それは結構・・・」
 邪水晶はそう言うと、椅子の肘掛けに左腕を載せ、鷹揚に脚を組み替えた。
 その動きにあわせ、邪水晶の胸中を表すかの如く、豊かな胸が弾む。
 
 邪水晶は皐月と礼菜に命じ、朱美に2つの『調整』を施している。
 その一つ、『肉を断つことに快楽を覚える』ことについては、単純な『条件付け』であるせいか、極めて順調に進捗しているようだ。

 戦闘時に、ボディー・スーツから少量ずつ媚薬を染み出させ、妖魔を斬った際に、特殊なパルスを肉体に流す-
 手法としては極めて単純なものであるがそれだけに、精神的な防護壁である
『秘術』にかかる可能性は低い。
 それに、スポーツ選手であるが故か、肉体的な学習効果も高いと見える。
 『調整』と同時進行で進めている、肉体の淫乱化と、身体能力を増す肉体改造も、良好な数値を示していた。

「ふふふ・・・」
 邪水晶は確信に満ちた笑みを思わず零す。
 『南原の秘術』により、『人格の上書き』をすることはできないが、巨木が打ち入れられた楔で倒れるように、この娘もやがて堕落する-
 そう彼女は確信していた。

 バシャッ
 波が砕ける音とともに、
 タンッ
 指先へ固い感触が伝う。
 朱美はそれに、流れるような所作で体勢を変え、顔を上げた。
 それと同時に、友人のやや上気した顔が飛び込んでくる。

「・・・朱美、また自己ベストだよ!・・・スゴイ、スゴイ!」
 明里は、自分の事のようにそう、喜んでくれた。
 それに思わず朱美は、
「ふふっ、有り難う、明里」
 そう言って向日葵の様な笑顔を浮かべる。
 その笑顔は、明里の真心によるだけのものではない。
 このところ、すこぶる調子が良いのだ。
 ベストタイムを1月で、3秒近く縮めている。
 このままゆけば、インカレでも十分、好成績を収めることができるだろう。

 バシャッ
 朱美は水を滴らせながら、プール・サイドに上がる。
 そしてキャップを脱ぐと、椅子にかけてあったタオルで軽く体を拭いた。
「あちゃー、やっぱりねぇ・・・」
 水気の引いた水着を見た朱美は、そう独りごちる。

 新素材、と聞いているこの水着は、際どいカットだけではなく、生地が貼り付くようにフィットし、体の線を余すことなく晒していた。
 普段であれば水着用のアンダー・ウェアを着用するところなのだが、今日は部長の指示でやむなく、素肌に着込んでいる。
 男子部員が合宿で居らず、周りは女子部員だけだが、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 見れば明里も自分と同じく、薄い布越しにそのスレンダーな肢体を晒していた。
 その姿に朱美は、
「・・・ねぇ、明里・・・この水着、ちょっと恥ずかしいよね?」
 そっと囁くような声で、そう同意を求める。
 だが、彼女の期待に反して明里は、
「えー、そうかな?・・・別に『仲間』うちだけだし、気にならないよ?」
 口を尖らせながら、そう反論した。

 フワッ
 明里のその言葉を聞いた朱美は一瞬、目眩の様な、そして気の遠くなる様な感覚に陥る。
 しかしそれも一瞬、
「・・・え?・・・ああ、そうだね・・・まあ、みんなと一緒だし、恥ずかしくもないか」
 そう思い直すと、何故この事を疑問に思ったのかも思い出せなくなった。

 そんな朱美に駄目押しするかの如く、明里が微笑みながら、
「そうだよ、『仲間』だけなんだから、いいじゃない」
 そう言うと、朱美も、
「・・・そうだよ、ね」
 自身を納得させるように呟くと、親友に微笑み返す。

 丁度その時、
「・・・全員、集合っ!」
 部長の本多涼子(ほんだりょうこ)のハスキーな声がプールサイドに響き渡った。
 ダッ
 その声を聞いた部員達は慌てて、彼女の許へと走り寄る。

 涼子は、睥睨する様に部員達が揃ったのを確認し、
「・・・インカレも近づいてきたので、今日は、400mリレーの代表選手を発表します」
 そう口を開いた。

 ゴクッ
 その言葉を聞いた部員達は皆、思わず息を飲む。
「んっ・・・」
 それは、朱美も例外ではない。
 有る意味、日々鍛錬を積んでいるのはこの時のためでもあるのだから。

 部員達の注目を一身に集めながら涼子は、
「・・・背泳ぎ、本多、平泳ぎ、藤田」
 そう言葉を紡いだ。
「・・・ふぅっ」
 その途端、嘆息とも、納得とも取れる溜息が皆から漏れた。
 涼子は国の強化選手、藤田絵美(ふじたえみ)も入賞常連の実力者であり、この2人は元から確実視されていたため、意外性はない。
 問題は、その後、だ。

 涼子は部員の視線を一身に浴びながら、手にしたバインダーに目を落とす。
 その次に来る瞬間を、
 ゴクリッ
 先程とは別の音がする息を飲み、皆はその時を待ち構えた。
「・・・バタフライ、前田、自由形、南原・・・以上」
 涼子は、そう言うと、バインダーを閉じた。

 朱美は、己の名が呼ばれた事を一瞬知覚できなかったが、
「良かったね、朱美!」
 明里がそう言いながら抱きついて来て初めて、 
「・・・えっ!?、ええっ!?」
 事の重大さに気付く。

 涼子は、
「そこ、静かに!・・・個人戦については後日別途、発表します・・・解散っ」
 そう言うと、他の部員を散らせ、未だ動揺する朱美の許へやって来た。
 そして、
 ポン
 朱美の肩に手を置くと、
「南原さん、期待してるわよ」
 そう、微笑む。

 それに朱美は慌てて、
「・・・あっ、はいっ、がんばります!」
 不格好なファイティング・ポーズで答えた。
 そんな彼女の様子に涼子は、
「・・・ふふっ、そんなに固くならないでいいわよ」
 苦笑を浮かべるのだった。

 朱美にとって涼子は、星野とは別の意味で、そして或る意味では同一の、憧れの存在であった。
 どこか猫を連想させる、切れ長の目をした彼女はその印象どおり、しなやかで伸びのある泳ぎをする。
 腰に手を当て佇む彼女の姿は、アスリートとして無駄のないその肉体も相まって、朱美には眩しく見えた。

 そんな朱美に涼子は、
「リレーは団体競技だからチーム・ワークが必要なんだけど、そんな固いんじゃ困るわね・・・そうね、まずはお互いを知る事から始めようか」
 そう言うと、やおら朱美の右手を掴み、
 サッ
 己の左胸に当てさせた。

「・・・えっ、ええっ!?」
 朱美の掌からは薄い生地越しに、涼子の体温と確かな鼓動が伝わってくる。
 そればかりか、彼女の乳首の生々しい感触さえも感じ取ることができた。
 涼子は、混乱する朱美の様子に、小悪魔の様な微笑を浮かべると、
「・・・うふふ、どう、私の胸は?」
 そう言って、朱美の掌に己の左手を重ねると、
 ムニィッ
 軽く、己の胸を揉ませる。

 朱美は、
「・・・本多先輩っ、ちょっと何を!?」
 そう叫んで涼子から手を離そうとするが、涼子は、
「あら、私達は『仲間』、チーム・メイトでしょう?・・・こうやって、お互いを知る事は、おかしくないわ・・・そうは思わない?」
 そう言って首を傾げ、朱美に笑いかける。

 朱美はそれに毒気を抜かれたように、
「・・・えっ、ああっ、はい・・・そうですね・・・すみません・・・」
 そう言うと、体の力を抜き、涼子に全てを委ねるのだった。

 涼子はその朱美の反応に満足しながら、
「うふふ、別にいいわよ・・・じゃあ、今度は、南原さんの事、教えてくれるかしら・・・」
 そう言うと、
 スッ
 軽く朱美の胸に触れた。

 ビクンッ
 一瞬、朱美は反射的に体を硬直させるが、
「南原さん」
 涼子がそう短く窘めると、
「・・・はい、先輩・・」
 半ば生気が抜けたような顔で、その行為をただ受け容れるのだった。
 涼子は、
「うふふ、そうよ、いい娘ね・・・」
 朱美が無抵抗である事を確かめつつも、
 フニッ、フニッ
 マシュマロでも転がす様なタッチで、水着の上から朱美の胸を揉む。

「・・・んっ・・・くぅんっ・・・本多、せんぱぁい・・・」
 朱美は微妙な刺激に翻弄されながらも、愚直に耐え続けようとしていた。
 これは『仲間』同士、必要なことなのだから、と。

「うふふ、乳首が立ってきたわ・・・南原さんは、胸が感じやすいのね」
「・・・んんっ・・・はい・・・」
 そして、涼子の異常な質問にも朱美は、素直に答える。
 涼子の指摘どおり、薄い水着を押し上げるようにくっきりと、朱美の乳首はその存在を主張し始めていた。

 プールサイドで繰り広げられる、淫靡で異常な光景-
 だが、他の部員達は、それが自然な行為であるかの如く、誰も朱美達に関心を示さない。
 女子部員達は皆、邪水晶達によって捕らえられ、洗脳処理を施されておりその中でも、涼子達『リレー・チーム』の3人は、『特殊工作用』の『ドールズ』として改造されている。

 朱美の胸を嬲り続けていた涼子の耳骨に、
「・・・ザッ・・・S-1号、今はその程度でいいわ。作戦を終了して頂戴」
 そう、皐月の指令が飛ぶ。
 涼子の頭中には、骨伝導式の超小型通信機が埋め込まれている。
 涼子はそれにただ頷くと、
「・・・うふふ、有り難う南原さん。おかげで貴女の事、少し解る事ができたわ・・・これからも少しずつ、お互いの事、知っていきましょう」
 そう言って、朱美の胸から手を離す。
 
 それに朱美は、
「・・・はい、本多先輩」
 そう答えると、虚ろな瞳のまま、ゆっくりと頷く。
 見れば、涼子の指技から漸く解放された朱美の胸は、乳首が痛いほど立ちその頂きには、湿り気による染みが浮き上がっていた。

 シャァァッ
「・・・」
 朱美は無言で、シャワーの温水に頭を浸しながら苦渋の表情を浮かべていた。
 
 今日の戦闘でも、先日感じたあの『感覚』を、再び感じてしまったのだ。
 それも、より、強く。
 しかも体の火照りは未だ収まらず、股の間から零れ落ちる淫らな牝汁が、朱美の心を苛み続ける。

 その屈辱的な状況に朱美は唇を結び、ただ、この屈辱的な時間が過ぎ去るのを待とうとした。
 だがその時、
 キイッ
 ブースを区切る扉が、開かれる音がする。

「!?」
 朱美はその突然の闖入者を確かめようと、本能的に振り返る。
「・・・あの・・・朱美さん?」
 その視線の先には、タオルに身を包んだ雪の姿があった。
 
「雪っ!?」
 朱美はそう叫び慌てて、左腕で胸を、右腕で秘所を隠す。
 いくらメイデン・フォースの戦友とは言え、人のシャワー中にいきなり入ってくるなど、どの様な了見なのだろうか-
 朱美は当惑しつつも、軽く雪を睨め付けた。

 だがその朱美の反応を無視するかの如く雪は、ブース内に踏み入ると、
「そんなに、怒らないでください・・・だって何だか朱美さん、塞いでいるようだから気になって・・・だって私達、『仲間』じゃないですか」 
 そう言って、朱美に柔らかい微笑みをかける。

 その刹那、
 ドクン
 朱美の心臓が、一際大きく弾んだ。
 そして、
「・・・そう、ね・・・怒ったりして・・・ごめんね・・・」
 朱美はそう言うと、だらり、と左腕を降ろした。
 だが弛緩する肉体とは裏腹に、
 キィィン
 朱美の頭の中では頭痛にも似た、警鐘が鳴り響いていた。
 しかしそれ以上の強さと速さで『仲間』という言葉が染みの様に、朱美の脳内を塗り潰してゆく。

 葛藤を頬に浮かべながらも、徐々に瞳から力を無くしてゆく朱美の様子に雪は、内心ほくそ笑みながら、
「本当に、どうしたんです?・・・私に話してくれませんか?」
 そう言い、朱美の呼吸が聞こえるほどの位置にその身を割り込ませる。
 そして、
 ギュッ
 軽く彼女を抱き締めた。
 
 タオル越しに雪の体温が伝わるとともに、その熱で薄氷が溶けるかの如く、頭の芯が蕩ける感覚がして、朱美の警戒感も融解してしまう。
 そして、
「・・・うん、実は、妖魔を倒す、時に・・・変な、感じがして・・・」
 ポツリ、ポツリと言の葉を零し始めた。 

 雪は己の顔を朱美の耳許に寄せると、温い息を吹きかけながら、
「変な感じ?・・・どんな感じなんですか?」
 そう、囁くように尋ねる。

 それに、
「・・・からだが、しびれて・・・あつく、なって・・・」
 朱美が拙くも、真実を吐露するや否や、記憶が身体反応を再現するかの如く、
 ヌルッ
 秘所から濁った迸りが零れ、腿を伝った。
 腿に感じる不快な感触に朱美は、
「あっ・・・」
 思わずそう声を漏らすと、身を捩る。

 だが雪は、
 ハラリ
 タオルを床に落とし、
 ギュッ
 しっかり朱美を抱き締めると、
「・・・うふふ、朱美さん、ココが熱いんですか?」
 クチュ
 熱を増すためが如く、朱美の秘裂を、人差し指でなぞった。

 それに朱美は、
「んあぁっ!・・・雪ぃ、やめて・・・」
 そう言って、雪の右手首を掴み、その淫猥な行為を止めさせようとする。
 だが、雪は、朱美の哀願を無視し、
「いいんですよ、感じても・・・私のココだってホラ・・・」
 己の腕を握るのとは反対の腕を握り返すと、その腕を己の秘所に導く。
 クチュリ
 そこは朱美と同じく、マグマの様に熱い淫汁を吐き出し続けている。
 その熱に驚いたのか朱美は、
「あ・・・」
 掴んだ雪の腕を思わず離してしまった。

 それに雪は、朱美の両の掌に己の掌を重ねると、ゆっくりと開くように下腹を滑らせ、己の熱き泉へ再び導く。
 そして、
「うふふ、溶けそうなまでに熱いでしょう、私のココも・・・朱美さん、私達は妖魔を倒すことが使命・・・だから、使命を果たすこと・・・妖魔を倒すことに高揚感を抱いても、無理はないんです」
 そう、朱美を諭すように、言の葉を紡いだ。
 朱美は、その言の葉と、掌から感じる熱に浮かされつつも、
「・・・無理は、ない?・・・でも、私は・・・」
 そう言って、逡巡の表情を見せる。

 雪は、そんな朱美の苦悩を焼き切るかの如く、
「・・・朱美さんは、優しいんですね・・・でも、ココも、ココも辛いんでしょう?」
 そう囁くと、
 クチュリ
 右手を朱美の秘所に、
 クニッ
 左手を朱美の乳首へと這わせるのだった。

「ふあぁっ!」
 その刺激に堪らず朱美は、嬌声をあげてしまう。
 そしてそれだけで、
 ビクッ、ビクッ
 軽い絶頂に達してしまった。

 抑圧された性への悦びを強制的に解放された朱美は、
 ズルッ
 魂を引き摺り出されたかの如く弛緩し、シャワー室のタイルを滑るようにしてへたり込む。
 だが雪は、そんな彼女ですら、許さなかった。

「うふふ・・・」
 雪は一度朱美から体を離すと、惚けた表情を浮かべる戦友へ、今度は腹這いで躙り寄る。
 それはまるで、獲物を狙う猛獣の様にも見えた。
 そしてそれは、これから朱美に訪れる事態を考えれば強ち、的外れなものではない。

 雪は放心状態の朱美の足許までやってくると、
「朱美さんのココ、可愛い・・・」 
 そう言って、
「ちゅっ・・・じゅるるっ・・・」
 一度、朱美の中心にキスをしてからやおら、音を立てつつ、一気に啜り上げる。

 朱美は、突如訪れた悦楽に、
「んっ、はぁっ・・・雪ぃっ!・・・そんなとこ、汚いっ」
 そう叫び、雪の頭を押し戻そうと藻掻くが、雪はそれを無視し、かつ朱美の羞恥心を一層煽るように、
「むふふっ・・・じゅるじゅるじゅるっ!」
 下品な音を響かせて恥汁の吸引を続ける。
 更には、
「はむっ・・・レロォッ」
 舌先を伸ばして、朱美の中を穿り始めた。

 性経験の乏しい、子兎の如き朱美が、既に『性獣』と成り果てた雪に敵うはずもなく、
「んはぁっ!・・・ああっ!」
 ただ、蹂躙されるままとなる。
 クチュッ、グチュッ
 雪は舌先に緩急を付け、鼻面を押しつけながら、
『はあぁっ・・・朱美さんのオマンコ汁、とってもいやらしい味がする・・・なんて美味しいの・・・』
 朱美の全てを絞り出すかの如く、貪り続けるのだった。

 散々に朱美の味を堪能した雪はやがて、
 ヌチャァッ
 粘つく朱美の淫液で顔中をベトベトにしながら、
「・・・んふふ、素敵でしたよ、朱美さん・・・」
 そう言って、
 チュッ
 朱美の涎塗れの口にキスをする。
 そしてそのまま、
 ドロォッ
 唾液とも愛液ともつかぬ粘液を、朱美の口内に流し込んだ。

 それを朱美は、生気のない顔で受け容れる。
 だが、口内に広がる淫猥な味に、
「・・・ん・・・あ・・・」
 頭の芯が暖められるような感覚がすると、頬を朱に染めながら、
「・・・んく、んく・・・」
 唾液とともに飲み込み始めた。

 それを図っていたかの如く雪は、
「・・・朱美さんは、もっと自分の感覚に素直になっていいんです・・・だから、妖魔を倒して、いっぱい感じてください。私がお手伝いしますから・・・うふふ・・・ちゅっ」
 そう朱美に囁きかけると言の葉を、朱美の頭中に押し込むかの如く、濃厚なキスをする。

 それを朱美は、
「・・・んふっ・・・ちゅくっ、ちゅくっ・・・」
 舌を絡め積極的に受け容れる。
 その朱美の表情は、娼婦の様に淫蕩なものだった。

 ヒュンッ
 朱美が刀を一閃させると、
 ザンッ、ドシュッ
 鈍い音を立て、最後の妖魔が斃れた。

「はぁっ、はぁっ・・・」
 朱美は、肩で息をしながら、
 ブンッ
 刀を粒子化させる。

 その途端、緊張の糸が切れたのか、
「はぁっ、はぁっ、はぁんっ・・・」
 朱美から甘い声が漏れた。
 見れば額には激戦からのものだけではない汗が滝の様に流れ、太股からブーツまでは矢張り、汗ではない筋が伝っている。

 朱美は淫らに打ち震える体を支えようと、
 ブルブル
 脚を震わせながら辛うじて、重力に逆らい続けた。
 しかし、耐えようとすれば耐えようとするほど却って、
「・・・あん・・・」
 快楽が知覚され、甘い疼きに朱美は苛まれる。
 精神的均衡が崩れ、胸甲すら維持できなくなった朱美は今や、ボディー・スーツとフレア・スカートのみ、という戦場にあるまじき軽装であった。

 朱美が孤独な戦いに苦しむ中、
「・・・うふふ、朱美さん、お疲れ様です・・・」
 ヘルメットと武装を解除しながら悠然と、雪が姿を現した。

 朱美は湿った吐息を零しながら、
「・・・雪・・・」
 戦友に、縋るような視線を送る。
 雪が近づくと、倒れ込むように朱美は崩れ堕ちた。

「うふふ・・・」
 ボディー・スーツ越しにすら朱美の双丘の頂は、肉感的な感触を雪に伝えてくる。
 妖魔を斬り伏せることで幾たび、絶頂に達したのだろうか。
 それを想像するだけで雪も、軽い絶頂を得そうになった。
 だが、今果たすべき目的を思い起し直すと雪は、彼女が望む回答を朱美の口から吐かせるべく、
「・・・朱美さん、やっぱり、妖魔を斬るのは気持ち良かったでしょう?」
 そう諭すように囁きかける。

 それに朱美は、
「・・・うん・・・」
 短くそう答えるが、例えそれだけであっても、雪には十分過ぎる成果であった。
 それは朱美が初めて、『殺生』を『快楽』と認めた、決定的な証明だったからだ。
 だが雪は、妖魔との戦闘と快楽を朱美に一層関連づけさせるため、次の段階へと移る。

 己へともたれ掛かる朱美を、近くにあった杉の木に寄り掛けさせると雪は、
 ファサッ
「うふっ、朱美さんの中、凄い臭い・・・」
 メイデン・レッドのコスチュームである深紅のフレア・スカートに頭を潜り込ませ、朱美の秘所に顔を近づける。
 雪の言葉通り朱美のスカートの中は、溢れ出した滴で濡れそぼり、戦闘の熱気も相まって蒸れた女の臭いが充満していた。
 その臭いの中心である女芯は、
 ヒクッヒクッ
 戦闘の余韻に酔いしれるように蠢動を繰り返しては、
 ヌルゥッ
 淫らな樹液を吐き続ける。
 湿り気でぴったりと貼り付いた薄手のボディー・スーツは、女の象徴を浮かび上がらせ、淫猥な景色を際だたせていた。
 
 朱美は、羞恥に頬を染め、
「・・・嫌っ、雪、そんな事言わないで・・・」
 そう言い、股を閉じようとするが、雪は、
「うふふ、素敵ですよ、朱美さん・・・ちゅっ」
 花弁の中心に、軽く啄むようなキスをする。
 その途端、
「ひゃんっ!?」
 これまでに感じたことのない雷撃が朱美を襲った。

 朱美の強ばりを唇に感じた雪は、その反応にほくそ笑みながら、
「うふふ、可愛い声ですね・・・ちゅっ、ちゅっ」
 キスの雨を、潤んだ花弁に降らせる。
 その刺激に堪らず朱美は、
「あっ・・・はぁんっ!」 
 スカートで包み込む様に、雪の頭を掴む。
 だが、
「うふふ、ホント、朱美さん可愛い・・・ちゅっ、レロッ」
 雪はキスだけでなく舌を伸ばし、閉じた花弁を解すように舐めあげ続けるのだった。

 彼女達の痴態とは対照的に、辺りには妖魔の屍が積み上がり、その死臭が充ち満ちている。
 それらから溢れ、地面に広がる命の染みは、朱美のコスチュームの如く、紅い。
 しかし、その惨状を虚ろな瞳で見つめる度に、
「あっ、はぁっ・・・」
 朱美の秘裂は一層、淫らな蜜を零し始める。

 ピチャ、ピチャ
 雪が己のコスチュームの中で、淫猥な音を立て続けるのを聞きながら朱美は、
「妖魔・・・倒すの・・・気持ち良い・・・」
 そう切れ切れに言葉を零すと、惚けた笑みを漏らした。 

 ピッ
 ザブンッ
 短い笛の音とともに、次々と水音が続いてゆく。
 女子水泳部員が、己の技術を向上させるために研鑽を図る中で朱美達リレー・チームは、
「・・・んっ、はぁっ、ぶちょぉ・・・」
 淫猥な『ストレッチ』に興じていた。
 涼子は朱美に、体を解すための『ストレッチ』として、朱美への陵辱を正当化している。
 朱美は『仲間』のすることに若干の抵抗は感じながらも、当然の行為として、その身を委ねていた。

 涼子はプールサイドに開脚させた朱美の背後から、『ストレッチ』の一環として、水着越しに朱美の胸をねっとりと揉みしだく。
 それに朱美は、
「んっ、んんっ・・・」
 羞恥に頬を朱に染め、声を押し殺しながらもどうにか耐え忍んでいた。

 その反応に涼子は、愛撫を止めると、
「・・・ふうっ・・・南原さん、ストレッチなんだからもっとリラックスしてくれないと」
 そう、嘆息を漏らす。

 朱美は、涼子の嘆息に、
「すみません、部長・・・」
 伏し目で謝罪する。
 だが、未だこの行為は朱美にとって、羞恥心が勝る行為なのだ。
 リレーの『仲間』との『ストレッチ』で快楽を感じてしまうこと-しかもそれが衆目のあるところで行われることに朱美は、羞恥心と一抹の罪悪感を感じてしまう。

 その朱美の心を見透かすように涼子は、
「・・・南原さん、『ストレッチ』を恥ずかしがることはないわ。とっても気持ち良いことだもの・・・それに、他の誰も気にしていないわ」
 涼子の言葉に朱美は、周囲を見遣る。

 バシャンッ、バシャンッ
 涼子の言葉どおり、彼女達を見咎める者は居らず、工場の流れ作業の如く部員達は淡々と、練習メニューをこなしていた。
 朱美はそれにただ、
「・・・すみません・・・」
 と短い謝罪の言葉を口にする。

 涼子はその様子に、
「・・・はぁっ・・・仕方ないわね。私がお手本を見せてあげる・・・練習止めっ。全員集合!」
 溜息をつきながらも、部員達を自分の許へ呼び寄せた。

 半円状に取り囲む部員達に、
「・・・練習を中断させてごめんなさい。ちょっとリレー・チームに協力して欲しいの。・・・藤田、椅子を持ってきてくれる?」
 涼子がそう言うと、絵美は黙って頷き、プール・サイドに置かれていたデッキ・チェアを涼子の前に置く。

 そして涼子が、
「今日はストレッチの見本を、みんなに見せようと思うの。だからしっかりと、私がするところを見て頂戴」
 そう言うと、部員達は何の疑問も持たず、
「「ハイッ」」
 と、口々に答えた。

 それに涼子は頷くと、
「・・・じゃあ南原さんも、よく見ておいてね」 
 そう言って、デッキ・チェアに座り、股を開く。
 そして、
「・・・藤田」
 絵美にそう声を掛けると、目線で『介添え』を促した。

 絵美は涼子の背後に回り込むと、
 ムニィッ
 薄い水着の上から涼子の両胸を揉む。

 それに涼子は、
「・・・んぁっ・・・」
 喉を仰け反らせ微かな喘ぎ越えを零すが、絵美は、
 フニッ、フニッ
 何事もないかの様に、涼子への愛撫を続けるのだった。

 直ぐに、涼子の胸の頂きは張り、開いた股の中心は潤み始め、牝の淫らな臭いを辺りへ振り撒くが、部員は誰一人として目線を逸らさない。
 彼女達にとってこれはあくまで、『部活の一環』でしかないからだ。
 涼子は悶えながらも、
「・・・んっ、はぁあっ・・・南原さん、『ストレッチ』はこうするのよ・・・ちっとも恥ずかしくないでしょう?」
 そう言って、朱美を諭す。

 朱美はその言葉に、涼子と部員達を見比べるが、部員達の表情は至って真剣そのものだ。
 その光景に朱美は、
 『私・・・』
 この行為に気恥ずかしさを感じている自分こそが、どこかおかしいのでは、と思えてきた。

 困惑の表情を浮かべる朱美に涼子は、
「・・・んっ、もういいわ、藤田・・・南原さん、それじゃあ次は、貴女がやって頂戴」
 そう言うとデッキ・チェアを降り、朱美を促した。

 朱美はその言葉に、
「・・・え?・・・あ・・・」
 戸惑いを見せるが、涼子が、 
「大丈夫よ。私が介添えしてあげるから」
 そう言って背を押すと、
「・・・あ・・・はい・・・」
 おずおずとデッキ・チェアに腰を下ろす。

 涼子は朱美の背後に回り込むと、
「・・・じゃあ、さっき私がやった通りにやるわよ・・・南原さん、脚を開いて」
 そう、朱美に指示を出した。
 朱美は、部員達の顔を窺い見るが、誰も皆、表情を変えることはない。
 それに少し安堵しながら朱美は、
「はい・・・」
 ゆっくりと脚を開いてゆく。

 涼子は、
「うふふ、それでいいわ」
 そう言うと、
 ギュッ
 朱美の胸を掴み、
 ムニュッ・・・フニッ、フニッ
 マシュマロを転がす様な愛撫を始めた。

 朱美は、その微妙な感覚に、
「んっ・・・あ・・・」
 遠慮がちな喘ぎ声を漏らすが、涼子は、
「・・・南原さん、気持ち良い事は恥ずかしいものではないの・・・だから、思いっきり声を出してもいいのよ」
 そう囁くと、朱美への愛撫を、
 グニィッ
 より激しいものへと変える。

 朱美は堪らず、
「んはぁっ!?」
 甲高い声を上げてしまったが、部員達は相変わらず能面の様に、同じ表情のままだ。
 涼子の愛撫と部員達の変わらぬ景色に、
「ん・・・はああ・・・」
 朱美の羞恥心はグズグズと崩れてゆく。
 いつしか朱美はあられもなく、
「・・・んんっ・・・はあぁんっ!」
 嬌声を上げるようになっていた。

 涼子は、
「そうよ、南原さん、快楽には素直になりなさい・・・ふふっ、それにこの『ストレッチ』、体が解れるでしょう?」
 そう囁くと、答えを促す様に、朱美をのぞきこむ。
 それに朱美は、
「んっ、はぁっ・・・せんぱいっ・・・はいっ、気持ち、良くって・・・からだが、とけちゃい、そう、です・・・」
 息も絶え絶えになりながも律儀にそう、答えるのだった。
 朱美の言葉を映す様に彼女の中心は、プールの水ではない液体でびしょ濡れになり、際どいカッティングの脇からは恥液が零れ始めている。
 しかし、朱美が羞恥に股を閉じることはない。
 それは彼女が既に、この行為が『恥辱』の対象でないことを受け容れ始めている、証左と言えた。

 涼子は、朱美の反応が上々であることに、邪な笑みを浮かべると、
「ふふ、それは良かったわね・・・それじゃあ南原さん、みんなのお手本として、体が解れたところを見せてくれるかしら?」
 クチュリ
 その指先を股布の中へ潜り込ませ、『解れた』朱美の一番大切な場所へ触れる。

 朱美はその突然の刺激に、
「あひぃっ!?」
 身を強張らせるが、
「駄目よ、南原さん!折角、体を解したのに・・・素直に私を受け容れなさい」
 涼子にそう窘められると、
「す、すみま、せん・・・んっ、んんっ・・・」
 眉根を寄せ、息を一息『すぅ』と吸い込むと、
「んっ・・・はぁっ・・・」
 再び涼子に、己が身を預けた。

「うふふ、そうよ・・・」
 涼子はそう言うと、
 ヌリュッ、クチュッ
 朱美の秘裂を左手の人差し指でなぞるように、そして、
 グニッ
 クリトリスを親指で潰しながら、朱美を高みへと追い遣り始める。

 涼子の指先が、
 ヌルッ
 膣口の中へ僅かに潜り込んだ刹那、
「・・・あっ、はぁんっ!」
 ビクンッ、ビクンッ
 朱美は背を仰け反らせながら、軽い絶頂に達した。

 ビチャッ、ピチャッ
 涼子は、薄布越しではあるが掌に、朱美の潮を感じながら、それを塗り広げる様にじっとりと、朱美の秘所を愛撫する。
 そして涼子が朱美への愛撫を続けながら、
「うふふ、南原さん、とっても気持ち良かったみたいね・・・みんな、『ストレッチ』の仕方はわかったかしら?」
 そう、部員達に問うと皆、
「「はい」」
 と、感情の消えた顔で頷く。
 その中には、
「は・・・い・・・」
 『学習』を終え、絶頂の余韻に震える朱美も含まれていたのだった。

 -都内某所の料亭

 瑠璃は、金箔で彩られた華美な襖絵を、遠い視線で眺めていた。
 だがその視覚情報と、彼女の思考は連携していない。

 瑠璃はこれから話すべき話の内容を、頭の中で何度も何度も推敲する。
 これからここへやって来る人物との遣り取り次第では自分ばかりか、メイデン・フォースの将来さえも大きく変化してしまう可能性があるのだ。
 その重大さを考えると、胃を締め上げられるような感覚とともにじっとりと、嫌な汗が浮かんでくる。

 ツゥッ
 彼女の絹布の如き背を、汗の玉が一粒流れ落ちた時、
 トンッ、トンッ、トンッ
 廊下を歩く足音が聞こえた。
 瑠璃はその音に、居住まいを正し、一つ息を飲む。

 やがて、
 スゥッ
 廊下に面した障子が開かれた。
「・・・お久しぶりです、『御前』」
 瑠璃はそこへ立つ老人に向かって両手をつき、畳に顔を着けるようにして、深々と頭を下げる。

 老人は、
「おお、久しぶりだの・・・息災だったか?」
 そう言うと、部屋の中へ進み、瑠璃の正面に立つ。
 瑠璃はその言葉に顔を上げると、
「・・・はい、御陰様で」
 そう言って、軽く微笑んで見せた。

 瑠璃の眼前に現れたのは、『委員会』の『委員長』を務める老人-大野龍蔵
(おおのりゅうぞう)である。
 『影の天皇』とも呼ばれ、この国の政・官・財いずれにも絶大な影響力を持つ彼は齢80を超えながらも、その矍鑠さと威厳を失うことはない。
 彼は、この国を裏から支える神凪家の、言わば『パトロン』である。

「それでは、ごゆるりと・・・」
 女将が襖を閉めるのを横目で確かめると龍蔵は、瑠璃の前に置かれた座椅子に座った。
「・・・それで、今日わざわざ呼び出した用向きは?」
 その途端、先程の好々爺とした雰囲気とは打って変わって、一種のオーラの様なものが彼を包む。

 その威圧感に瑠璃は気圧されまいと、視線に力を込めながら、
「・・・はい、実はメイデン・フォースに何やら、『違和感』を感じるのです・・・」
 そう言って、
 ギュッ 
 腿の上で拳を握り締めた。
 
 龍蔵は、眉を顰めながらも、
「『違和感』?・・・確たる証拠はないのか?」
 瑠璃の言葉をただ拒絶せず、その先を促す。

 それに瑠璃は拳を握る力を更に強めながら、
「・・・はい、申し訳ありません」
 そう、正直に頭を下げた。
 龍蔵は瑠璃の言葉に何も返さず、ふむ、とだけ呟くと、顎に右手を当て、思案顔になる。
 この老人に、詭弁など通用などしない。
 ならば己の誠意をもってのみあたるだけ-
 瑠璃はそう、腹をくくっていた。

 二人の間に沈黙のみが流れる。
 時間にして数十秒。
 瑠璃には永遠にも感じられるその時を破ったのは、龍蔵であった。 

「・・・まあ、お前さんがわざわざ儂を呼び出して言う事なのだから、余程の事なのだろうて・・・まあ、いいだろう・・・それで、儂にどうして欲しい?」
 龍蔵はそう言うと、表情を和らげつつも真剣な表情で瑠璃にそう、促した。 
 瑠璃とは、幼少のみぎりから見知っている間柄だ。
 彼女の人となりは十分知っている。
 自分を呼び出した事の軽重を弁えていぬ筈がない-
 龍蔵はそう断じたのだった。

 龍蔵の返答に安堵しながらも瑠璃は再度気を引き締め、
「有り難う御座います・・・御前には、3つお願いが御座います」
 そう、切り出した。

 龍蔵は、瑠璃の図々しいまでの要求に却って、
「三つか・・・それは豪気なことだ」
 そう、相好を崩す。
 その顔にはどこか、成長した娘を見遣る様な、満足感が入り混じっていた。
 しかし、再び真剣な顔に戻ると、
「一つは・・・他の二つを成すため、『委員会』を抑えれば良いのだな?」
 そう、瑠璃に尋ねる。

 瑠璃は、深々と頭を下げながら、
「流石は御前・・・左様で御座います」
 そう、肯定した。
 自らが口にした言の葉の通り、この老人の慧眼にはいつもながら感服する。
 『委員会』の面々とは異なり、意思伝達に余計な美辞麗句が必要でないのも、瑠璃にとっては有り難い。

 そんな瑠璃の心中を知ってか知らずか老人は、
「・・・ふむ、それで二つ目は?」
 そう、瑠璃に先を促した。

 瑠璃はその心地良さに背を押されるかの如く、
「・・・二つ目は・・・メイデン・フォース本部を調査するための『調査員』を、お借りしたいのです」
 最も口にし難い『願い』を吐き出す。
 だがそれを聞いた龍蔵は一転、
「・・・うーむ・・・」
 眉根に皺を寄せると、腕を組んで半ば睨む様に、瑠璃を見つめるのだった。

 メイデン・フォース本部への調査員派遣-
 この行為は或る意味、瑠璃が信頼を寄せる者達への裏切りにも等しい。
 万が一、『委員会』にこの事が漏れれば、瑠璃の政治的生命を絶つ可能すらあるのだ。
 それに、龍蔵にとっても極めてリスキーな手段であることに変わりはない。
 そんな重大かつ危険性の高いものを、一人の直感に頼っていいものか-
 一度は認めた『願い』だが、龍蔵は思案に暮れる。

 瑠璃の秀麗な顔を暫く眺めた後、龍蔵は、
「・・・ふうぅー・・・」
 深呼吸するように長く、息を吐き出した。
 『願い』を聞く、と言ったのは自分だ。
 それに、この娘が言う『違和感』に自分も、底知れぬ不安を感じる-
 最後に彼の決断を促したのも矢張り、『勘』であった。

 龍蔵は、強張った眉を緩めると、
「・・・わかった・・・いいじゃろう・・・何名か見繕って、送り込むとしよう・・・それで、最後の一つとは?」
 僅かに座椅子に背を預けながらそう、瑠璃に肯定と問いの言葉を投げ掛ける。
 しかし、形としては『問い』の言葉ではあっても、全てを受け容れる腹がすわった、そういったニュアンスが瑠璃には感じられるものだった。

 瑠璃はそれに安堵し、僅かに頬を緩ませると、龍蔵に頭を下げながら、
「無理を聞いて頂いて、有り難う御座います・・・最後の願いは・・・」
 3つ目の『願い』を口にする。
 だがその声は、丁度鳴り響いた鹿威しによって、龍蔵以外の耳に届くことはなかった。

< 続く >

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