部長コレクター 1話

1話

 放課後の放送室で、僕はビデオの編集をしていた。
 つい最近、放課後の放送室は一年生が管理することになったので僕が自由に使ってるのだ。
 他の一年生はなぜかみんな辞めちゃってね。

 画面がちょっと乱れた後、一人の女の先輩のアップが映った。
 ちょうど、録画ボタンを押している自分が映ってしまった感じだ。

 映っている場所は使われていない教室で、使用されていないイスや机が教室の端の方に適当に積み上げられている。
 その教室の中央は広いスペースになっていて、イスが一つだけカメラの方を向いて置いてある。画面はそれと先輩を映していた。
 カメラは固定されているらしく、誰かが撮っているような手ぶれはない。
 また、音も遠くで野球部の練習の声が聞こえるくらいで、教室には先輩以外は誰も居ないようだ。

 先輩はテニスウェアを着ていた。
 画面の端の方に、たたまれた制服が映っている。
 多分、この教室で着替えたんだろう。

 先輩はドアップでカメラの角度を何度か修正した後、前髪を少しなおし、学生証をカメラに映しながら自己紹介をした。

「松平学園3年2組、女子テニス部部長、相原由美(あいはら ゆみ)です」

 先輩はそこまで言うと学生証をその辺に置き、イスに座り自分の両膝を抱え上げた。
 テニススカートの中が丸見えになった。その下は何もはいておらず黒々とした茂みが録画されている。

 先輩は顔を真っ赤にしながらも、カメラ目線で言葉を続けた。
「過去の実績は地区大会シングル準優勝、県大会ベスト4に入り‥」

 先輩は自分の過去の成績を説明しながら、両足を上げたまま、片手で自分のアソコをいじり始めた。

「‥げ、現在、じょ、女子部員22名をま、まとめていま、す。あっ」
 先輩の手が早くなる。
 その後も暫く先輩の活動内容が語られ、最後はこんな言葉でしめられた。

「で、でも本当は、テニ、テニスなんかより、オ、オナ、オナニーが、大好きなんですっ!」

 先輩はそこまで言うと、辛そうに唇をかみ締めた。ただし、カメラから目はそらさない。
 明らかに最後の一言は言わされている感じだ。
 それでも手はスピードを緩めず動き続ける。

「ほ、本当はテニスなんかより、オ、オナニーが‥」
 先輩は最後のセリフを繰り返し言い続けた。
 おそらく、これも強制的に繰り返させられているのだろう。

 そして、しばらくして。

「‥オ、オナっナぁぁっ!」
 膝をガクガク揺らして、イった。

 先輩は、暫く足をピンと伸ばしてぐったりとしていたけど、やがてダルそうにこちらに近づき、カメラに手を伸ばしたところで画像は切れた。

 次の画面になった。
 カメラは全く同じ場所を映している。
 今度はチアリーダーの格好をした別の先輩が録画ボタンを押している所だった。

「松平学園3年6組、チアリーディング部部長、杉山奈央(すぎやま なお)です」
 先輩の手によって、写真入りの名前、住所が記載された学生証が映し出される。

 先輩は画面の外に一度消えると、チアリーダーが持つボンボンを持って現れた。
 そしておもむろに、あのチアリーダー独特のハイテンションで踊り始めた。
「ゴーッ!」
 両手を上げ手拍子のようにボンボンを振り、これ以上ないくらいの笑顔で元気よく足踏みをする。
 BGMも無く、一人だけなのでどこか滑稽だ。

「まつがーく!ファイッ!」
 と、踊りの最中に声を張りながらハイキックをした。
 すると今度もノーパンで、何も隠さない下半身が映し出される。
 こんな大きな声をだして誰かが覗きにでもきたら、このノーパンの先輩の噂は一日にして学校中に広まるだろう。
 しかし先輩は臆することなくノリノリで踊り、時々ゴーッ!とかイェーッ!とか一人で声を張る。
 ‥ま、最初はやる気無さそうに踊ってたんで、僕がダメ出しをしたんだけどね。

「ハーィッ!ハーィッ!ハーィッ!‥」
 ダンスも佳境に入り、画面の先輩は元気よく連続でハイキックをしている。
 顔は無理矢理笑顔だ。

「イェーッ!」
 最後、片膝をついてボンボンを高くあげた状態で小刻みに振った。どうやら終わったらしい。
 するとまた画面の外にボンボンを置いて戻ってくると、前の先輩同様、イスに座ってM字に足を大きく広げ、ゴーッ!と笑顔でコブシを上げた後、オナニーを始めた。
 一心不乱にアソコをいじりながら、時々思い出したように、まつがーく!ファィッ!とか、フーッ!とか高い声を出しながらカメラ目線で笑顔を作る。
 しかし、だんだんその間隔は長くなり、無言が続くようになる。
 その代わり、小さなあえぎ声が漏れるようになった。

「‥ぁ、あっ、あぁっ、ぁっ」

 だんだん高まってきたようだ。

「‥ぁっ。ハーィッ!ハーィッ!ハーィッ!」
 先輩が突然ハイキックの時の掛け声を出した。
 それに合わせて、イスの上でM字に広げられた膝を曲げたり伸ばしたりしている。
 そして、手の動きが一段と早くなった。

「まつがーくぅっ!ファーぁああッ!」
 先輩は片手だけコブシを作り手をピンと伸ばした。
 チアリーダがやるキメポーズの手だ。眉間に皺をよせながら無理矢理笑顔を作っている。
 もう片方の手は激しくまさぐり続てたが、だんだんゆっくりになり、やがて止まった。
 暫くイスにもたれてぐったりしていたけど、グランドの方から野球部の金属バットの快音が聞こえ、はっと顔を上げると慌てて足を閉じ、小走りにカメラの方に向かってくる。
 そこで映像は終わった。

 最近の僕の趣味。部長狩り。
 こうやって女子部長のコレクションを作ってるんだ。

 どうやってるのかって?
 それはね、と、ちょっと待って。

 僕は次に、昨日録画さればっかりの新しいテープをデッキに入れた。
 次は今回初撮影の生徒会長なんだ。
 え?部長じゃない?うん、これは単に生徒会長が僕好みでキレイだから。

 映像が始まった。
 背景は例によっていつもの教室。

 録画ボタンを押したのは生徒会長の山川由理(やまかわ ゆり)先輩だ!
 山川先輩はカメラをじっと見ながらこう言った。

「誰だか知らないけど!こんな悪質なイタズラして!これ‥放送部のカメラね‥?絶対犯人を突き止めますからね!」

 ブツッ。

 あれ?
 僕は慌てて学校にこっそり持ち込んでいるノートパソコンを開いた。
 とあるプログラムを立ち上げる。
 先輩に取り付けた発信機を見ると‥あ。電源が切れている。うっかり。

 実はタネを明かすとこれが全てなんだ。
 骨伝導ってしってる?骨を通して鼓膜に音を伝えるって技術なんだけど。
 あれを使って、人には認知できない音域で情報を流すんだ。
 それで、特定の音域で特定のパターンを使うと、脳内のある神経伝達物質に変化が現れる事を知ったんだ。
 で、この物質ってのが人の感情と密接に繋がっていていたりするんだけど、この辺を上手く調節すると、大雑把にだけど人の感情を操作できることに気づいたんだ。
 もちろん、個人差はあるんだけどね。
 大学教授の父の影響で人の脳について興味があって、色々調べてるうちにこの装置を思いついたんだ。
 簡単に説明すると、今できる事はこんな感じ。

 ・不安、恐怖を感じさせる。
 ・幸福感を感じさせる。
 ・(問題解決に対して)やる気を出させる。失わせる。
 ・感情的にさせる。無感情にさせる。

 とても抽象的なんだけど、やりようによってはさっきのようなビデオも撮れちゃうってわけ。
 例えば、匿名でこんな手紙を用意する。

「私はアナタの秘密を知っています。
 ばらされたくなかったら3日後、屋上でショーツを脱いで置いてください。」

 とかなんとか。自宅を外から撮影した写真なんかを同封しておくと効果的。
 この3日、というのがミソで、その間感情をコントロールし、ずっと不安にさせておく。
 そうすると、こんな適当な文でも手紙の相手は自分の最悪の秘密を握られているんじゃないか、と悪い想像ばかりをし、言うとおりにしてしまう。
 たまに屋上まで行って迷ったりする場合もあるけど、その時はやる気を出させてあげる。
 更に終わった後には幸福感を感じさせて、問題を解決した達成感を与える。
 これを繰り返していくと、相手は辛い事だけど乗り越えられなくはない、と学習するみたい。
 そして、その時の痴態を盗撮して更に脅しのネタを増やし、少しずつ要求を過激にしていく。
 これを繰り返していくと、いずれはあんなビデオが撮れるようになる、と。
 ちなみにチアリーディング部の部長に送った最後の手紙はこんなだ。

「前回のダンスを拝見しました。
 全くやる気が感じられません。普段の練習以上に声を出してください。

 今回、もう一度あのカメラの前でダンスをしてもらいます。
 今回も部活の時と同じ格好で、スカートの下は何も履いてはいけません。
 流れは前回同様ですが、もう一度記載しておきます。

 1.学生証を掲示して学校名、学年、名前、所属部と部長である旨を自己紹介して下さい。
 2.ダンスを披露して下さい。声は大きく、ハイキックを必ず入れて下さい。
 3.イスに座り、局部を大きく開いて自慰をして下さい。
   その時、カメラから目をそらしてはいけません。
   イク直前には、ハイキックで場を盛り上げて下さい。
   最後は松平学園を応援しながらイッて下さい。

 撮影中はチアリーディング部であることを忘れず、常に笑顔で大きな声での応援を欠かさないで下さい。

 こちらが望むものができなければ、過去の写真の一部を学校の掲示板に公開します。
 一時だけ恥ずかしいダンスを踊るのと、学校中に写真がばら撒かれるのを、どちらが自身にとって有益か、よく考えて撮影に挑んでください」

 とまー、その結果があれなんだ。今回は上出来。
 あの先輩には相当色んな事させてきたけど、今回はかなり面白いのが撮れた。

 山川先輩も同じ手で行こうと思ってたんだけど、不安に思わなきゃ、事実無根の脅迫だよね。
 しかも先輩には今回初めて手紙を送ったんで、過去の弱みもない。
 このビデオを回収は今日の朝だから、即座に行動を起しているとなると、今頃は犯人探しの真っ最中か。

 ガチャガチャ!

 などと考えているそばから乱暴にドアを開けようとする音が聞こえた。
 誰が来たか予想のついていた僕は、慌てて山川先輩にとりつけた発信機を遠隔操作でONにし、編集中のビデオを停止し、室内にあったカメラの1つを録画にした。

「あけなさい!」
 ドアの向こうから山川先輩の厳しい声が届く。

「あ、はい」
 更に携帯でアプリを1つ起動させた。そしてようやく鍵をはずす。

 ガラガラ。

 山川先輩は僕を押しのけるように入ってくると、放送室をぐるっと見回し
「あなただけですか?」

 と聞いた。その表情は初めて会話するのに親の敵でもみるような感じだ。

「あ、はい」

「そもそも、こんな時間に何やってるですか?」
 先輩は疑うように見る。嫌悪感を隠そうともしない。

「は、はい、放送室の管理は一年の仕事でして‥」
 僕はもごもごとしてしまう。実は人と話すのはあまり得意ではないんだ。

「一人で?」
「はい」

「あなたがイタズラの犯人ね!」
 先輩が不意に声を荒げた。
 その指摘、当たってはいるけど、現段階ではあまりにも証拠不足じゃないですか?先輩。感情が先行して、やや理性的で無くなっているようですね。

「え‥な、何がですか?」
 と、思いつつも、ズバリ言われて動揺した僕がヘタクソなとぼけ方をする。

「何とぼけてんのよ!アンタ、一年のクセに生意気よ!デブ!アンタみたいのがいるから学校の品位が下がるのよ!同じ空気を吸ってると思うだけで気持ち悪い!」

 先輩はいきなり爆発した。

 痛たた、たしかに僕は太め(中肉くらい?)だけどそんな言い方はないよね。
 そんな事を思っている間も先輩の罵詈雑言は続いた。
 普段の先輩だったら決して言わないだろう、こんなこと。
 そう、感情的になって我を忘れてるかのようだ。

「ちゃんと謝りなさいよ!スケベな変態ですみませんって!聞いてんの?ねぇデブ!」
 先輩に肩を押され、少しよろけてしまった。
 それを見て先輩は怒涛の言葉攻めに突き飛ばしを加わえるようになった。
 その突き飛ばしはだんだん強くなり、僕のスネを蹴るようになり、最後は

「アンタなんか死んじゃいなさいよ!害虫!」
 と、きつめのビンタを一発。
 そろそろいいかな。これ以上やると、僕の心が折れそうだ。
 そう、この先輩の激情は僕が作ったものだ。
 携帯のアプリから発信機を操作して感情をコントロールしてたんだ。
 僕は罵倒を続ける先輩にばれないように、ポケットに入れていた携帯で先輩の感情をかなり低めにし、不安と恐怖をじょじょに上げながらポツリと言った。

「僕、警察にいきます」

「‥え?」
 先輩の顔が強張る。

「名誉毀損と傷害罪で訴えます」
 僕は早歩きで放送室を出ようとする。もちろん本気じゃない。

「!!」

 先輩は無言で僕の腕を掴み、放送室の中にひっぱり戻す。
 その遠慮の無い力加減から先輩の必死さが伝わる。
 そして、ドアに鍵を掛けると言った。

「しょ、証拠がないわよ。無駄じゃない?」

 先輩は気持ち悪いのをこらえるかのように、大きく息をしている。
 僕はゆっくり一台のカメラに近づき、撮影していたテープを取った。

「ここに全部あります」

 そして、編集用の画面に一部始終を流してみせた。
 先輩は目を大きく開き、口をパクパクさせて、言葉を捜しているようだった。
 冷静になって、あらためて自分のやったことを客観的に見てみると全く弁解のしようがないただ加害者だ。それも悪質な。
 そんな先輩を横目に、僕は携帯で不安をどんどん高める。
 感情の起伏が低く、常に大きな不安を感じる状態。
 これはいじめなどで自信をなくしている状態に近い。

 先輩立っていられなくなったのか壁にもたれて苦しそうに深呼吸をする。
 不安は人の視野を狭め、ネガティブな未来を予想させる。
 今、先輩の頭の中では、自分が想像できる限りの今後の悲惨な人生が走馬灯のように流れているに違いない。

「あっ。あっ」

 先輩が何かを喋ろうとして、それだけを発した。
 僕はちらっと携帯を覗いてみた。液晶画面には先輩の脳内物質の状態が表示されていて、γアミノ酪酸、セロトニンの値が極端に低い。
 今、先輩は強いストレスでうつ病一歩手前くらいの状態だ。
 
「止めて欲しいですか?警察行くの」
 僕が意地悪く聞く。多分顔がにやけてる。
 先輩は目を大きく開いたままコクコクと頷いた。

「先輩の人生、終わっちゃいますもんねー」

「ご、ごめんね!ほんとごめんね!私すごい勘違いしてたみたいでっ」
 先輩先ほど想像してしまった悲惨な未来を思い出したのか、まくし立てるように謝る。
 僕は近くにあったイスに座ると、しばらく溜めを作ってから言った。

「これから卒業するまで、僕からどんな罰でも受けるって言うなら今日の事は黙っててあげてもいいですよ?」

「も、もちろん最初からそのつもりだった。罪は償わないとって思ってた!」
 先輩は必死に話を合わせる。

「じゃあ決まりですね。先輩、まず最初の罰です。僕の上履きにキスして誓って下さい。どんな屈辱的な罰でも受け入れますって」

 先輩は黙っていた。
 僕は足を組んで待った。先輩にはそうする以外に道がないことを知っていたから。

 やがて、先輩は僕の前で土下座するように上履きに口をつけ、小さな声で
「どんな屈辱的な罰でも受け入れます」
 と誓った。

 そうして。

 2日後。
 新しいビデオができた。

 再生してみる。

 例の教室で、山川先輩はカメラをじっと見ながらこう言った。

「誰だか知らないけど!こんな悪質なイタズラして!これ‥放送部のカメラね‥?絶対犯人を突き止めますからね!」

 そこで画面が切り替わる。

「松平学園3年8組、生徒会長、山川由理です」
 自身のアナウンスと共に、画面いっぱいに先輩の学生証が映し出される。
 先輩がカメラから少し離れてイスに座る。

 スカートをめくり足をM字に開くと、他の先輩同様、何も履いていなかった。
 先輩はアソコをゆっくりいじり始め、カメラを真っ直ぐ見ながらこんな口上を述べた。

「せ、先日、私宛に、卑猥な事を強制する手紙が届きました。
 私は、それが、欲求不満な私の事を思った良心的な手紙と理解できず、悪質ないたずらと誤解してしまいました。
 そのことについて、生徒会長として、深く反省し、このような過ちが2度と起きないよう、この場で、オ、オナって欲求不満を解消しようと思います。
 ご迷惑をかけた方、本当に申し訳ありませんでした」

 先輩はちょっと涙目になりながら淡々と喋る。
 この文章は、先輩自身が考えたものだ。
 もちろん僕のチェックが何度も入ったけど。

「そもそも、欲求不満のオナニー生徒会長のクセに、ひ、卑猥な文で腹を立てるのが間違いでした。これからは率先してオナり、生徒会長としての職務をまっとうしていこうと思います。
 これからも、オ、オナニー生徒会長、やっ山川由理をよろしくお願い致します」

 その後、先輩は校歌を熱唱しながら果てた。

 上出来。

 次は何部にしようかな。

< 続く >

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