第二話 「詩桜里(1)」
俺の『力』は相当強い。
ほとんど無制限に、相手の感情、記憶、思考――そういったものをひっくるめて俺は『心のカタチ』と呼んでいるが――を読み取り、さらにそれを作りかえることもできる。
しかし、だから俺がどんな奴でも即座に自由に操れる、というわけではない。皮肉なことに、この『力』が強すぎることが原因だ。
人の『心のカタチ』は人それぞれ千差万別であり、しかも非常に繊細で移ろいやすい。本来の『心のカタチ』の一部を無造作にいじってしまうと、その部分は無骨な形状に変わってしまい、他の部分と整合性が取れなくなる。つまり、矛盾する。
人の心はそれなりに柔軟だから、ある程度までの矛盾は自動的に修復される。だが、俺から見てはっきり目立つほどの不整合が生じると、その修復力の限界を超えてしまう。こうなると、人はもう自分の『心のカタチ』を保てなくなる。
『心のカタチ』を保てなくとなると、人はどうなるか……。
俺はそれを既によく知っている。
そんなわけで、『心のカタチ』をいじる際には、細心の注意を払う必要がある。
本当ならいじらないで済ますのが一番いいのだが、目的のためにはそういうわけにもいかない。そこで、どうしてもいじらないといけない場合は、本来の『心のカタチ』のほんのごく一部を、しかも元の形からほんのわずかだけいじるのが望ましい。
もし、それなりの大きさでいじる必要がある場合は、対象の『心のカタチ』を十分に観察して、いじるべき部分とそこから生じる矛盾の影響範囲を見定め、矛盾を前もって抑えるように、さらに深く『心のカタチ』をいじらないといけない。
当然ながら、そうやってさらにまた矛盾が生じ、どんどん規模が大きくなっていって、結局『心のカタチ』を壊してしまうというリスクもある。
以上のような、慎重さ、精密さ、緻密さを要求されることから、俺はこれを『操作』と呼んでいる。
ただ、俺の『力』は『操作』だけではない。相手の『心のカタチ』に影響を与えないままで『心のカタチ』を読み取ることもできる。事前に、広く深く『心のカタチ』を『読』むことによって、実際の『操作』の前に十分に予測とシミュレーションを行うことができる。
また、『読』んだ内容を元に通常の言動を重ねることで、効果は限定的になるが『操作』抜きで人の心を動かすこともできる。これはつまり普通の人と人とがコミュニケーションするのと同じことをするだけだが、『力』を使って相手を『読』めば、相手の考えていることを誤解することはない。そのため、普通よりは効果的にコミュニケーションを行うことができる。
『操作』は無条件に相手の『心のカタチ』を変えてしまうが、普通に言葉と態度を使って相手に示せば、それは相手が自分で受け取って消化することができる。だから『心のカタチ』に矛盾を生じにくい。
そんなわけで、俺は普段は相手の『心のカタチ』を直接『操作』することは滅多にない。いや、それどころか、『読』むことも滅多にない。
昔から多くの人間を『読』みながら表情や態度を観察してきたため、今ではもう表情と態度を観察するだけで、相手の『心のカタチ』の動きやありようがある程度創造できるようになってきた。
今、俺は間嶋を言葉だけで軽く追い詰めたわけだが、ここまでの過程では俺は一度も『力』を使っていない。無論相手の性格にもよるが、一般的な心の強さの人間が相手なら、この程度のことは俺にとってはもう難しくはない。
だが、これ以上の効果が必要となると、いよいよ『力』が必要になる。
そして、今、おれはそんな効果を求めている。
目の前でうなだれる間嶋を見下ろしつつも、俺の頭の一部は急速に回転し、間嶋の『心のカタチ』を『読』み取っていく。
俺は間嶋の『心のカタチ』の大まかなスケッチを頭の中に描き出した。
間嶋を『読』んだのはこれが初めてだ。従って、すぐには詳細を掴むことはできない。せいぜいラフなスケッチといったところだ。だが、今やろうとしている『操作』に関してはこの程度で十分だ。
間嶋と知り合ったのは今朝のことだが、それから今までに、普通の人間がやっているような観察から、かなり間嶋という人物像が見えてきている。そうやって得た情報を、『読』んで手に入れたスケッチと重ね合わせる。いわば、外部から見た“間嶋の人物像”と、内部から見た“間嶋の人物像”を比較しているわけだ。こうやって、この二つの像に大きなズレがないことを確認する。
当初の観察では、間嶋は高飛車で自分勝手な傾向が強いと感じていたのだが、『心のカタチ』によれば、本来の間嶋はそれほど高慢なわけでもないらしい。観察からも薄々気付いてはいたが、あれは意図的にそう振舞っていた部分もあったのだろう。
間嶋の『心のカタチ』の基層部分にあるのは、むしろ自分に自信を持ちきれない弱い心である。あの生意気な態度は、それを隠して打ち消すためのものだったようだ。
『心のカタチ』とその『操作』に関して、俺は今までの経験から幾つかの法則を学び取ってきた。
その一つに、『心のカタチ』を不安定な状態にいったん追い込んだ方が、『操作』後に生じる矛盾は少ない、というものがある。『力』のない人間用にわかりやすく言い換えると、人に不安を感じさせた状態の方が『操作』が簡単になる、ということになる。
人の心にストレスを与えると、つまり人に不安を感じさせると、『心のカタチ』は普段の状態から歪められる。ストレスによって無理に歪められているのだから、『心のカタチ』は絶えず本来の状態に戻ろうとして、不安定にそこかしこで反発する。「心が千々に乱れる」というやつだ。
この時、『心のカタチ』は歪みのせいでそのところどころに矛盾を生じさせている。ここからそのストレスを取り除くと、つまり不安を解消してやると、『心のカタチ』はほぼ元の状態に戻る。
この時、歪んでいる間に抱えていた矛盾は元の状態に戻る過程で自然に解消していく。
この、人の『心のカタチ』が本来持つ復元力を利用して、『心のカタチ』が歪んでいる間に目的とする『操作』を滑り込ませる。
既に『心のカタチ』が歪んで矛盾を含んでいる場合、そこに『操作』によって新たな矛盾が加わっても、それがさほど大きくなければ『心のカタチ』は崩壊までには至らない。
ここでストレスを取り除いていやると、元々あった矛盾に加えて、『操作』によって入り込んだ矛盾も、程度にもよるが、それなりに自然に解消される。
さらに、その『操作』がストレスを取り除く行為にうまく重なる場合、『操作』による矛盾を自然解消できる度合いも大きくなる。つまり、より大きな『操作』が可能になる。
つまり、誰かを『操作』したいなら、まずその相手の弱点をつくなりなんなりして、相手の心に大きくストレスをかけるといい。そうすると、通常時よりも容易に『操作』を加えることができる。その後に『操作』の効果も生かしながらそのストレスを軽減してやれば、実にうまく相手を意のままに従わせることができる。
間嶋の『心のカタチ』をある程度の精度と深さで捉えたところで、今度は今現在間嶋の『心のカタチ』に加えられている歪みと、その影響の度合いを『読』む。
現在、間嶋にかけられているストレスは、言うまでもなく、俺に対する弱み、だ。自分の非が原因で俺に迷惑をかけてしまい、それを責められている。
今回は、思っていた以上にうまくそれが間嶋の『心のカタチ』の基層部分をついているため、意外なほど大きく間嶋の『心のカタチ』に歪みを生じさせている。
ここで俺がこのストレスを解消してやれば、当然、間嶋の『心のカタチ』の歪みも解消されるだろう。しかし、ただ単に俺が間嶋に「許してやるよ」と言ったとしても、その効果はおそらくたかが知れている。
本当の問題は、間嶋が自分自身の中で俺に対して非を感じていることでる。俺がその非を責めていることは、実は間嶋にとってはそんなに重要な問題ではない。俺が間嶋を許せば後者の問題は取り除かれるが、それで前者の問題が消えるわけではない。問題の一部が消えることによって、多少は歪みも軽減されるだろうが、本当の問題が残っている限りは、歪みが完全に消えることはない。
その歪みは時間が経つにつれて徐々に軽減されてはいくが、それまでの間は、間嶋の『心のカタチ』はストレスを受け続けるだろう。言い換えるなら、間嶋はしばらくは俺に対して勝手に引け目を感じ続け、そしてその引け目に気付くたびに、自分の奥底にある弱い心を見せ付けられ続けることになる、ということだ。
従って、間嶋のストレスを解消する本当の方法は、間嶋が俺に対して非を感じなくていいようにしてやる、ということになる。具体的には、間嶋が自分で「ここまでやればもう十分だ」と思えるだけの何かをすればいい。この、「自分でそう思う」ということが重要なのであり、俺や他人が「もういいよ」とどれだけ言ったところでほとんど意味はない。
さて、間嶋は何をすれば自分の中でこの問題を清算できるだろうか。
既に本人も気付いているが、俺に対して自分から謝るだけではちょっと弱い。
自分からは思いつかないだろうが、例えば土下座して謝れば、「もうこれで十分だ」と思えるだろう。しかしこれは今度は今回の問題と比べると逆に譲歩しすぎていて釣り合いが取れてない。仮に思いついても間嶋が自分から土下座をするのは無理だろう。
長々と説明してきたが、意外なほど大きい歪みだ、と言っても、実のところはせいぜいこの程度である。後は間嶋がほどよく釣り合いの取れた何かを思いついて、それを実行すればいい。たぶん単なる「ごめんなさい」以上で、かつ、土下座ほどではない謝罪の提示、ということに落ち着くだろう。
……俺が『力』を使わなければ。
俺はいよいよ詩桜里の『心のカタチ』に『操作』を始めた。
まず、俺に対して感じている非は、実は非常に大きなものであり、俺の人格全体を否定するほどの強いものだった、という印象を加える。
これはけっこう強めの『操作』になる。しかし、既に俺が“落とし前”という言葉を使ったお陰で、間嶋の中にはこの問題が自分が当初感じた以上に大きな失態だったのではないかという思いが生じている。そのため、さほど矛盾を生じさせずにこの『操作』は間嶋の『心のカタチ』に受け入れられていく。
続いて、今度はこの“落とし前”としては何が適当か、ということを間嶋に刷り込むことにする。
間嶋は誤って俺の人格全体を否定してしまった(ということになった)。ということは、逆に俺の人格を全肯定し、それを身を持って示すことが、「落とし前」として妥当ということになる。
俺は間嶋の『心のカタチ』の表面を軽く『操作』して、こうした発想を間嶋に刷り込む。これで間嶋は今“自発的に”俺の人格を全肯定しなければいけない、という思いを抱いたことになる。
これで『操作』はほぼ完了した。後は実際に間嶋のストレスを取り除きながら、微調整をしていくことにする。
***
「間嶋……、いや、詩桜里」
いきなり名前で呼びかける。
「え?」
詩桜里が驚いて顔を上げる。だが、親しくもない俺に名前で呼ばれたことに抗議はしない。今はそれどころではないのだ。
「お前に何をしてもらえば“落とし前”になるのか考えてみたんだが……」
「……」
詩桜里はやや脅えた表情を俺に向ける。
今や、詩桜里は俺の人格を全肯定しなければいけないことになっている。従って、俺の要求が自分一人で実現可能な範囲を超えない限り、なんであろうと従わなければいけない。
詩桜里の心はそれを理解している、というかさせられている。だからこそ、俺が今から何を要求するのかが恐ろしいのだ。
「詩桜里、俺の奴隷になれ」
「……え?」
一瞬の空白の後、詩桜里は言葉の意味を理解して愕然とする。
奴隷。
そう、確かにそれは今回の“落とし前”としてはもっともふさわしい。
俺という存在を絶対的に認め、俺の発する命令に従い、俺の求める全ての奉仕を行う。
これこそまさに全肯定、だ。
しかし、これは詩桜里という存在にとって大きすぎる代償である。“落とし前”としての相対的な釣り合いとしてはこれがふさわしいことは詩桜里にとっても明白だ。だが、絶対値が大きすぎる。
この大きすぎる代償は、逆に詩桜里の『心のカタチ』に新しい大きな負担をかけてしまう。
というわけで、ここからは俺の技術の見せ所になる。単なる『力』の利用ではなく、繊細な心理操作だ。
「ああ、奴隷といっても、毎日24時間俺に服従しないといけないわけじゃない」
「……」
「まず、お前が俺の奴隷になるのは、学園にいるときだけでいい。
次に、学園にいるときでもいつでも奴隷でいなければいけないわけじゃない。俺もお前を奴隷にしているなんて噂を立てられたくはないからな。
お前が奴隷になるのは、学園にいる時間のうち、俺がお前を『詩桜里』と名前で呼んでから、次にお前を『間嶋』と名字で呼ぶまでの間だけでいい。それ以外の時間はお前は俺に対しても普通にふるまっていい」
「……うん……」
口頭で条件を徐々に緩和してストレスを軽減しつつ、『心のカタチ』の歪みの戻り具合を見ながら、少しずつ『操作』を加えて、詩桜里の心がこの代償を受け入れやすいように導いていく。
「そんなに心配しなくていい。俺もお前が奴隷であることを誰かに言うつもりはなし、ばれないようにしてやる。奴隷じゃない時間帯に俺に対して失礼に振舞っても、クラスメートの戯言の範囲で収まるなら気にもしない」
「うん……」
「ただし、奴隷になっている間は、主人である俺には絶対服従してもらう」
「……わかった……」
詩桜里が、ほっ、と小さく息をつく。
はたから見ればありえない話だが、詩桜里はこれで「安心した」のだ。どう見ても理不尽な要求を呑まされたのに、詩桜里は今、条件を緩和してもらえて、俺に感謝の念すら感じている。
……これが俺の『力』だ。
さて。
俺はあたりを見渡す。相変わらず校舎裏は人気がない上、木立のせいで視界も狭い。とはいえ、誰かが来る可能性はないわけではない。
「詩桜里、こっちにこい」
「はい……」
名前で呼んだので、詩桜里は今は俺の奴隷である。何をされるのか不安はあるだろうが、素直に俺の指示に従う。
俺は先ほど鍵を開けた扉を開いて門をくぐった。詩桜里も俺についてくる。いったん扉を閉めて、念のために鍵をかける。これで門の扉が衝立代わりとなって、学園側からは俺たちは見えなくなった。
もちろん屋敷側からは見えるわけだが、途中の傾斜と竹林のおかげで、離れたところからこちらを除かれる心配はない。誰かが近くまで来れば丸見えになるが、この小道周辺は月に一度庭師が掃除するほかは俺以外誰も来ない。
それでは、と詩桜里の方に向き直ったところで、はたと気付いた。ここは既に学園の外だ。さっきの条件から考えると、詩桜里はもう奴隷ではない。
「あー、詩桜里」
「はい?」
「実はここは学園の敷地外だ」
「……門をくぐったんだから、当然そうですね」
自分なりに“奴隷”のあり方を考えたのだろう。言葉遣いが丁寧になっている。
「で、さっきの条件だと、お前は今は俺の奴隷じゃないということになる」
「……」
「そこでお願いなんだが、さっきの、学園にいるときだけでいい、っていうのは、学園とそのごく周辺だけでいい、ということにしていいか?」
「わかりました」
慌てて付け加えた条件だが、大した違いでもないと考えたのだろう。あっさりと詩桜里は認めてくれた。
聞くところによると、世間にも『洗脳』や『マインドコントロール』という、俺の『力』に似た技術が存在するらしい。その効果も俺の『力』に似た面も多いようだが、『洗脳』などは、どうやらあまり融通が効かないもののようだ。
俺の『力』が『心のカタチ』の繊細さと柔軟さを保ったまま『操作』を加えていくのに対し、『洗脳』などは『心のカタチ』のどこかに、完全に硬直した『指示』を残すらしい。
大抵は、その『指示』の中になんらかのキーワードを入れておいて、そのキーワードを聞かせたらキーワードを解除するまで盲目的な服従状態に置かせるとか、『指示』の中に深層心理(たぶん『心のカタチ』の基層部分だと思われる)に作用する暗示を入れておいて、普段からその暗示に従った行動を取らせるとか、そういうことをするらしい。
しかし、『洗脳』による『指示』は余りに硬直なため、その『指示』から外れたことをさせるのは非常に難しいようだ。
俺は今回詩桜里に、必要に応じて詩桜里を俺の奴隷にするキーワードを仕込んだ。これは『洗脳』でやるやり方に外見上は似ているが、意味はまるで違う。
詩桜里は俺のキーワードを普段の意識の上で理解して、普段の意識を保ったまま俺の奴隷になる。だから、今みたいな俺のお願いに対しても、自分でそのお願いの妥当性を考えて、受け入れられる範囲であれば自分でそれを決断している。つまり、融通が効く。
『洗脳』と『力』とどちらが優れているのかはケースバイケースだと思うが、俺には『洗脳』で他人を完全な人形にするよりは、『力』でほどほどに制御する方が性に合っている。
話が逸れたが、これでこの門のそば程度であれば、詩桜里は俺の奴隷として振舞ってくれることになった。
「じゃあ、そうだな……。まずはちょっとじっとしていろ」
そう言っておいて、俺は詩桜里を抱き寄せた。
いきなりなので詩桜里は一瞬体をこわばらせたが、すぐに力を抜いて俺に身を任せる。
なんとなく、成熟した女性は柔らかくて、幼さの残る女性には硬さがある、というイメージがあったのだが、雪乃よりも詩桜里の方が柔らかい感じがする。雪乃が痩せ気味で華奢なのに対し、詩桜里は雪乃より小柄なのに、より女性らしいスタイルをしているからかもしれない。
「顔を上げろ」
そう言うと、詩桜里は俺に抱きすくめられたまま、おずおずと顔を俺に向ける。やはりいきなり男に抱かれて恥ずかしいのだろう。頬がほんのりと紅潮して、瞳も潤み始めている。そんな詩桜里の様子を観察しながらも、俺は遠慮なく詩桜里の唇を奪う。
また詩桜里の体がこわばるが、抵抗はせずに目を閉じて俺のキスを受け入れる。舌を口内に滑り込ませると、さすがに驚いたようだが、やはり抵抗はしない。口腔をゆっくりとぬめ回してやると、詩桜里も徐々に自分の舌を俺の舌に絡めてきた。
たっぷり時間をかけて詩桜里の口内を味わってから、俺はようやく唇を離してやった。キスの間息を止めていたのだろう。詩桜里はようやく解放されてはぁはぁと息をついている。その息が漏れる詩桜里の唇は二人の唾液に濡れており、やや幼さの残る顔つきとのアンバランスが淫靡さを醸し出している。
「キスの経験はあるみたいだな」
「……はい」
「初めてキスしたのはいつだ」
「……」
答えにくいらしい。そりゃそうだろう。
とはいえ、これからもっと答えにくいことも聞くつもりなので、この程度のことを容赦する気はさらさらない。
「詩桜里、奴隷は主人である俺の質問に必ず答えないといけない」
「はい……」
「もう一度聞くが、初めてキスしたのいつだ」
「……2年くらい前のことです」
「相手は?」
「その時付き合ってた、同級生の子です」
「そいつとは今も付き合ってるのか?」
「いえ、その後すぐに別れました」
「その後は他の男と付き合ったりしてるのか?」
「いえ、してません」
ということは、俺は詩桜里とキスした二人めの男、ということか。
そういえば雪乃にとっても俺は二人目の男だった。いつもお下がりばかりのようでなんだか悔しい。少々ムッとしながら質問を続ける。
「じゃあ、そいつとセックスはしたのか?」
「!?」
「したのか?」
「……」
「詩桜里、お前は俺のなんだ」
「……奴隷です」
「じゃあ、俺の質問に答えろ」
「……してません」
「念のために聞くが、他の男とは?」
「してません」
「じゃあ、お前は処女か」
「……はい」
口調がきつくなって詰問調になってしまった。無理矢理答えさせたせいで詩桜里が涙目になっている。
泣いてる美少女を見ると、より嗜虐心が刺激されるわけではあるが、あまり苛めても可哀そうではある。軽く『操作』を加えながら、再び詩桜里にキスをする。髪をそっと撫でながら軽いキスを繰り返すと、徐々に詩桜里も落ち着いてきた。
「詩桜里、お前は俺の奴隷だ」
「はい」
「奴隷は身も心も全て、主人である俺のものだ」
「はい」
「だから、お前の処女を今から貰う」
「……わかりました」
もうここまでで覚悟はできていたのだろう。詩桜里は全てを受け入れたように頷いた。
そろそろ日も傾き始めてきた。まだまだ初春ということで、夕方になると気温は急激に下がる。
本当は詩桜里に服を脱がせて、詩桜里の体をじっくりと鑑賞したいのだが、さすがに入学早々風邪で欠席するはめになるのは嫌だろう。それに、明日以降もいろいろ楽しませてもらおうと思っているのに、詩桜里に学園を休まれるとそれができなくなる。
俺は詩桜里を脱がせるのは諦めて、ブラウスの前のボタンだけ外して左手を中に滑り込ませた。ブラジャーをたくし上げると、思いのほか大きい乳房に直に手が触れた。
……これは、間違いなく雪乃の胸より大きい。思わず聞いてしまう。
「胸のサイズは?」
「……83の、Cです」
少し顔を背けながらも、詩桜里は正直に答えた。
雪乃は確かBカップだったと思う。俺は雪乃のこじんまりとしてすっぽり手のひらに収まる胸も気に入っているのだが(本人は小ささを気にしているようだが)、詩桜里の胸もなかなかに魅力的だ。ゆっくりとその膨らみを揉みあげる。ほどよい弾力を持った柔らかさで、揉んでいるだけでもその感触が心地よい。
詩桜里の表情を見ると、羞恥、快楽、そして僅かの苦痛が入り混じって、なんとも言えず艶らしい。
「……うっ……くっ!」
おそらく我慢してはいるのだろうが、早くも吐息が荒くなり始めた。どうやら感じやすい体質のようだ。もっと詩桜里の感じる声を聞きたい気もしたが、たまらなくなって俺は再び詩桜里の唇を吸った。詩桜里の口腔を舌で蹂躙しながらも、胸を揉む手は休めない。詩桜里ももう抵抗せず、口と胸で俺の行為を受け入れていく。
と、俺の手が詩桜里の尖った乳首に触れた。俺は迷わずにその先端を軽く弾く。
「むぅっ……はぁっ!」
唐突に体を駆け抜けた鋭い快感に、俺にふさがれたままの口から声が漏れる。俺は唇を離し、詩桜里の表情を観察しながら胸を愛撫することに専念する。
「はぁっ、はぁっ、あん、はぁっ!」
一度声を漏らしてしまうと、もう詩桜里はこらえられなくなった。乳房に、乳首に、刺激を加えるたびに、半開きになった詩桜里の口からあえぎ声が漏れる。
もう詩桜里の潤んだ瞳は何も見えておらず、ただただ与えられる快感に翻弄されているようだ。そんな詩桜里の痴態を見ていると、ますます詩桜里を乱れさせたくなってくる。
俺は詩桜里の腰に回していた右手を離して、詩桜里を門扉に押し付けた。左手で胸を掴んだまま、自由になった右手でスカートをたくし上げると、太ももの間にその手を突っ込む。意識的にか無意識的にか、詩桜里が両脚で俺の手を挟んで止めようとするが、かまわずその手を上に向かわせる。
滑らかな太ももを擦り上げるように手が動き、そして柔らかい布地に突き当たった。
「あっ、いやっ!」
詩桜里が声を上げる。しかしそれは意識的な抵抗というより、処女の本能による無意識なものだろう。その証拠に、俺の手が触れている布地は、既にしっとりと濡れていた。
濡れたショーツの上から、詩桜里の大事なところを軽く撫でる。
「はぁぁ、んんんっ!」
沸き上がる快感のせいで一瞬太ももの内側が硬直し、次の瞬間にはわなわなと脱力する。その脱力の瞬間にさらに深く手を差し込み、もっと大胆に詩桜里を刺激していく。
「あぁぁ、あんっ、はぁっ、はぁっ、あんっ、あぁぁっ!」
もう俺の右手は止まらない。詩桜里の体ももう逆らわない。
どんどん俺の右手の動きは大きくなり、加速し、加える力も増していく。それに応えるように、詩桜里のショーツの湿り気も増していく。
「はぁっ、はぁっ、あぁっ、あんっ、こ、こん、なのっ、はじ、はじめて、なのっ!
あぁ、きもち、いいっ! あぁっ、あんっ、きもちいい、のっ!」
初めての圧倒的な快感に、詩桜里はもう何も考えられないのだろう。あえぎ声に混ぜて、ただただ頭に浮かぶ言葉を叫んで自分に与えられた感覚を訴える。
「あぁっ、あんっ、あぁ、なにか、来るっ! なにか、来そう、なのっ!」
早くも詩桜里が絶頂に近づいているようだ。俺は両手の動きを続けたまま、詩桜里を『読』んだ。詩桜里の『心のカタチ』は既にほぼ全体が快楽一色に染まり、俺もそれに引きずられて思わず射精しそうになる。
慌てていったん詩桜里の『心のカタチ』から離れると、自分の頭を冷静にさせてから、再び詩桜里を『読』む。
詩桜里の『心のカタチ』の一番奥、心と体が未分化なところに、その振動があった。
見間違うことのない、快楽の振動。それが詩桜里の『心のカタチ』全体を飲み込みながら、どんどん高まっていく。俺は詩桜里のその振動を『読』みながら、詩桜里に言葉で指示を送る。
「詩桜里、それは来るんじゃない。“イク”んだ。イクときはちゃんと、イキます、と言いながらイけ!」
「あっ、あっ、はっ、はいっ、もうすぐっ、イ、イキますっ、イキそうですっ!」
詩桜里から『読』みとる振動に合わせながら、俺は両手の動きをさらに激しくする。そうしながらも、右手の中指の腹で詩桜里の秘部の先端を探る。
……見つけた。コリっとした感触の、硬く尖った突起。俺はその位置を確認しておいて、今までどおりの刺激を続ける。左手の方は先ほどから詩桜里の右胸のふくらみを鷲掴みにしているが、既に人差指と中指の間で、同じように硬くなっている乳首を挟み込んでいる。
俺は両手の動きを続けながら、頃合を探った。
「あぁっ、イ、イキますっ! イクっ!」
遂に、詩桜里が絶頂に達して叫ぶ。詩桜里から『読』む振動が『心のカタチ』をはみ出して大きく跳ねる。
それに合わせて、俺は右手の親指で詩桜里の股間の尖りを、左手の人差指と中指で詩桜里の乳首を、それぞれ同時に強く押しつぶした。
「くっ、あ、あっ、あぁぁぁぁっ!!!」
いったん絶頂に達したところで最も敏感な部位に容赦のない刺激を加えられ、詩桜里はさらに高みに押し上げられた。もう振動は大きく跳ねすぎて振動ですらなくなっており、『心のカタチ』も真っ白に染まった状態で硬直している。
硬直してるのは体も同じだった。俺の右手を両脚で痛いほど挟みつけ、全身は強く突っ張って、時々ピクッピクッと痙攣しているように震える。
やがて、ゆっくりと『心のカタチ』の硬直は解け、正常な小さな揺らぎが戻ってきた。それに合わせて体の硬直も解け、詩桜里は背中を門扉に預けたまま地面にずり落ちそうになる。俺は慌てて詩桜里を支えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
絶頂からは戻ったものの、まだ詩桜里は体に力が入らず、俺に支えられたまま、荒い息をしている。
「どうだった?」
「はぁ、はぁ、……凄かった、です……」
確かに凄かった。
実際、『読』みながら快感のピークに刺激を合わせるのは、これまでにも雪乃で何度か試している。しかし、雪乃はあそこまでの高い絶頂に上り詰めたことはない。体質というか、快感の受け止め方には個人差があるということだろう。
「こんなに、凄いのが……、気持ちいいのが凄いのがあるなんて、知らなかった……」
「俺も知らなかった」
俺と詩桜里は顔を見合わせて笑った。あれだけの痴態の後で笑いあうのは、奴隷と主人が笑いあうのは、シチュエーションとしては不自然かもしれない。でも、この時の俺たちは自然に笑えたし、それが不自然だとも感じなかった。
「どうだ、一人で立てるか?」
ひとしきり笑った後、俺は詩桜里に聞いた。
「ん……。もう体は大丈夫なんだけど、脚に力が入らないです」
そう言うと、急に詩桜里は下を向いた。どうやら今頃になって、また恥ずかしさが戻ってきたらしい。
俺は詩桜里を扉にもたれかけさせ、その上に覆いかぶさるようにして詩桜里を支えなおした。
自然に詩桜里のお腹の辺りに俺の腰があたる。当然詩桜里には俺の股間が押し付けられる形になり……。
詩桜里は自分のお腹にあたっている硬いものが何であるか気付いた。経験はなくても、知識としては知っているのだろう。既に赤かった顔がますます赤くなる。だが、当然俺はこの状態のままで満足できるわけはない。
「詩桜里」
「……はい」
詩桜里はおずおずと顔を上げた。
高慢にも見える強気な顔、不安に脅える顔、快感に流され痴態を晒す顔、屈託なく笑う顔。短い時間で詩桜里は幾つもの顔を俺に見せてくれた。そのどの表情もそれぞれ魅力的であり、そうした表情の変化それ自体も魅力的だった。
だが、一番は、恥じらいに頬を染めながらも俺に従わされている、この顔だ。
俺は詩桜里にキスすると、詩桜里を目で促した。詩桜里も覚悟ができたのだろう。顔を真っ赤にしたまま、俺の股間に手を伸ばした。カチャカチャと音を立てながら、不慣れな手つきでベルトを外す。
やがて俺のズボンが下げられ、続いて一時の逡巡の後に、そっと俺のパンツも下げられる。当然のように、痛いくらいに勃起した俺の剛直が飛び出す。飛び出したそれは勢い余って詩桜里の手を弾いた。
「きゃっ」と叫んで詩桜里が一瞬手を引く。だが、すぐにまた手を伸ばし、両手でそっとそれを包み込んだ。
「熱い……」
詩桜里が思わず声を漏らす。
詩桜里の指はひんやり冷たく、今の俺の熱さにはちょうど心地よい。
「なんか、弟のと全然違います」
いきなり場違いな比較が始まった。
「ぜんぜん大きくて、なんか凄いゴツゴツしてる」
「お前には弟がいるのか。普段から弟の見てるのか?」
「えっ、違います! ただ、お風呂の後とか、平気で裸で歩き回るから……」
「お前の弟って何歳だ?」
「この前誕生日だったから、11歳です」
「なんだ、それじゃ比べる方が間違ってる」
俺は苦笑する。さすがに、皮をかぶったまぶらさがってるガキのモノと、完全に勃起した俺の剛直を比べられてはたまらない。
もちろん詩桜里は恥ずかしくてたまらなくもあるのだろうが、実際に初めて実物に触れて、どうやら好奇心が羞恥心を上回ったらしい。俺に言われるまま、慣れない手つきでおずおずと俺の肉棒をしごき始める。
初めてなので強弱の加減も何もわかったもんじゃない。動かし方も恐る恐るという感じで全然刺激になっていない。当然、物理的な快感は大したことないのだが、先ほど詩桜里の痴態を見せられて既に十分昂ぶっていたのと、ほんのさっきまで俺を罵倒していたはずの美少女が、恥らいながらそれに触れているいう事実が、俺の肉棒をさらに硬く勃起させる。
詩桜里に両手で奉仕させたまま、俺は再び詩桜里のスカートの中に手を入れた。一瞬詩桜里の手が止まるが、またすぐに動き始める。俺は詩桜里のショーツを引き下げると、詩桜里の右足をいったん持ち上げてショーツから抜かせた。一応、詩桜里の大事なところに手を伸ばして状況を確認する。
「あっ、んっ!」
詩桜里の奥を指で広げてみると、とろりとした液体が指を伝って滴り落ちた。さっきの絶頂の名残か、俺への奉仕でまた濡れ始めたのか、どちらなのかはわからないが、準備が十分整っていることは確認できた。
俺は詩桜里の手を止めさせると、両腕を俺の首に回させた。扉に背中でもたれかかったまま、俺の首に抱きついている形だ。
そうさせておいて、俺は詩桜里の右膝を左手で抱え上げた。詩桜里の右脚に引かれてスカートがまくれ上がる。
「ぁん……」
濡れた部分が外気に触れて刺激されたのだろう。詩桜里が軽く声を上げる。
俺に右脚を高く抱え上げられているせいで、詩桜里のは左足だけで背伸びをするような形になり、詩桜里の体重は、俺の首にかけた腕、門扉にもたれかけた背中、俺に抱え上げられた右膝、の三点で支えられている。一方の俺は、首で詩桜里を支える形になっているので、体をやや前屈させて俯き加減になる。こうした二人の姿勢の違いのせいで、二人の身長差はちょうど打ち消しあうことになる。
俺の顔のすぐ前に詩桜里の顔がある。詩桜里の顔は正面の俺を向いているが、視線は伏せられている。これから為される行為に対しての不安、期待、願望、恥じらい、そんなものが入り混じった複雑な表情だ。
そのまま視線を下に向けると、胸元で結ばれた細い蓬色のリボンと、そのすぐ下ではだけられたブラウスの合間から淡い水色のブラジャーが見える。ブラジャーはたくし上げられているせいでブラウスからはみ出しているが、そのブラジャーが邪魔で肝心の胸がほとんど見えない。
さらにぐっと下を見れば、そこには、詩桜里の一番大切なところが、大きく広げられてさらけ出されている……はずなのだが、これもスカートが邪魔で全然見えない。見えるのはスカートから上に突き出すように抱え上げられた、健康的な肉感の滑らかな太ももだけだ。
相手の身体を目でも味わいながらセックスするのが俺の好みなのだが、今回は肝心な部分がまったく見えない。まあ仕方ないか、これから幾らでも機会はある。そう思いながら視線を詩桜里の顔に戻す。
すると、いつの間にか詩桜里が俺のことを見つめていた。俺と詩桜里の目が合う。詩桜里の瞳が、潤みながらも俺に何かを訴えている。これは……期待、か?
数秒ほど、俺たちはそうやって見詰め合っていた。
照れたのか、焦れたのか、急に詩桜里が視線を外して俺の首を両腕で引く。俺の体と詩桜里の体がぐっと近づく。お互いの上半身が密着し、俺の胸板が服越しに詩桜里の弾力のある膨らみを押してしているのがわかる。
俺の首が詩桜里の肩の上に、詩桜里の首が俺の肩の上に乗っている。俺は何か言おうとしたが、それより先に詩桜里が俺の耳元でかすかな声を上げた。
「お願い、します」
詩桜里は確かにそう言った。“お願い”の意味は明白だ。
俺は右手を二人の下腹部の間に入れて、俺と詩桜里の間に下がっているスカートを跳ね除ける。
俺の肉棒が詩桜里の太ももの内側に直接触れた。詩桜里がはっと息を呑む。
そっと手を伸ばして詩桜里の秘裂の位置を確認する。俺の手が触れたせいで、詩桜里が俺の耳元でわずかに声を上げる。想像したとおり、そこは半ば無理やりに大きく広げられて開かれていた。そしてその中心からは、熱い蜜液が滴り落ちている。
間違いない。詩桜里は今まさに、俺を求めて濡れている。
左腕を動かして詩桜里の足をわずかに下げさせ、詩桜里の腰の高さを調整する。俺自身もすこし左に寄って、左右の位置を合わせる。そして、俺はそっと腰を前に突き出した。
俺の肉棒にぬるっとした感覚が伝わり、それが詩桜里の秘部の中心の、その真下にあたっていることがわかる。俺の肉棒に敏感な部分を圧迫されているせいか、今から起こることに対する期待と不安のせいか、詩桜里の呼吸が短く荒くなる。
準備は整った。あとは角度をわずかに変えて上に持ち上げるだけだ。
「いいな?」
言わずもがなだが、念を押すように確認する。
詩桜里の顔は俺からは見えないが、詩桜里がコクンと頷いたのがわかった。
それと同時に、新しい熱い蜜がまた滴り落ちて、俺の肉棒を伝った。その瞬間、自制心も、初めてである詩桜里への気遣いも、どこかへ吹き飛んでしまった。
俺は一気に詩桜里を貫いた。
「はぅっ!」
詩桜里が短く叫ぶ。
破瓜の抵抗はあったのかもしれないが、詩桜里がこれだけ濡れていたせいか、俺がこれだけ硬かったせいか、それをはっきりと感じることはできなかった。
詩桜里は一声叫んだ後は、息を詰めて必死に痛みをこらえている。俺はそのまま動かずに、肉棒に伝わってくる詩桜里の中の感触を確認する。
勢いよく貫いたせいで、俺の亀頭の先端は詩桜里の膣の最奥の子宮口にまで届いていた。慣れないうちは奥は痛いだけだと聞いたことがある。詩桜里がこらえている痛みにはそれも含まれているのかもしれない。
一方、詩桜里の膣壁は、初めて受け入れた異物に抵抗するように、全体で俺の肉棒を押し返そうとする。しかしもちろんその程度の抵抗で押し返せるわけはなく、むしろ肉棒を強く咥え込むことになっている。
詩桜里の中は既にトロトロに熱く熔け切っており、その熱さと熔け具合に締め付けが加わって、俺は動かずにして快感を味わっていた。だが、中が気持ちよければ気持ちいいほど、男は動かずにはいられない生き物である。
息を詰めていた詩桜里の呼吸がまた戻ってきたのを確認すると、俺は腰を振り始めた。
「ひあっ、あぐっ、あふっ!」
悲鳴ともつかない叫びが耳元で上がる。
詩桜里を手早く『読』んでみると、痛み半分、快感半分、といったころのようだ。おそらく抽送が深すぎるのだろうと考え、やや浅めに変えてみる。途端に詩桜里の『読』みに現れる痛みが減少して、快感の振動が一気に跳ね上がり始める。
「はっ、あんっ、あっ、あっ、あんっ!」
耳元の声もトーンが変わり、俺の動きにあわせるように、むせび泣くようなあえぎ声がリズミカルに漏れてくる。その声がまた俺の脳髄を刺激して、俺の興奮と快感を増大させる。俺は発情したサルのように腰を振った。
「あっ、あっ、んっ、もっ、もっと、もっと! あっ!」
徐々に痛みも消えてきたのか、詩桜里が快感に溺れ始めている。おそらく、自分が奴隷であることも、好きでもない男に処女を捧げていることも、もう頭からは消し飛んでいるのだろう。
しかし、初めてなのにこんなに感じられるものなのか、とも思うが、これも体質だろうか。それとも『操作』のおかげで痛みを押し流すほどに性感が高まっているのか。
まあそんなことはどうでもいい。俺は自らも快感に溺れるべく、詩桜里の要求に応えて、剛直を深く速く突き入れた。
二人の体が一点で繋がって溶け合い、区別がつかなくなってくる。もう、どこまでが俺の体でどこからが詩桜里の体なのかわからない。そしてお互いが感じているのはただただ快感だけ。
俺の耳元ではひっきりなしに詩桜里が快感にむせび泣く声が続き、俺もおかしくなりそうになる。あえぎ声に紛れて「またイク」とか「またイッてる」とかいう言葉も混じっているような気がするが、もう俺もそんな余計なことを考える余裕がなくなってきている。
いつの間にか俺は右手でも詩桜里の左膝を抱えあげていた。詩桜里は上半身で俺にしがみつき、俺はその詩桜里を門扉に押し付けて体重を逃がしている。両腕で詩桜里の両足を限界まで開かせ、体重を逃がすことによって生じた余裕を限界以上まで引き出して、狂ったように腰を振る。
詩桜里の中を最奥まで抉りながら、俺は無意識のうちに詩桜里を『読』む。詩桜里は先ほどからイキっぱなしで、『心のカタチ』も快楽の振動もぐちゃぐちゃに入り乱れ、もう何がなんだかわからなくなっている。
そんな詩桜里に引きずられながらも、俺の『力』は何とか詩桜里の振動の周期らしきものを捉えた。俺の動きがその周期と同調し、その結果、振動がさらに高いレベルに押し上げられ、詩桜里が泣きながら何か叫び……。
そしてその振動が今までで一番高くなったその瞬間、俺は大量の精液を詩桜里の最奥にぶちまけた。
「ーーっ!」
その衝撃に、詩桜里はもはや音にならない叫びをあげる。
詩桜里の指が俺の背中に食い込み、詩桜里の両脚が俺の両腕ごと俺の脇腹を挟んで締め付ける。そして、詩桜里の膣壁が俺の肉棒を締め付けながら小刻みに収縮する。その収縮に合わせて、俺の肉棒からしぼりだされた精液が、ドク、ドク、と詩桜里の子宮口に注ぎ込まれていく。その度に詩桜里の子宮が悦びに震え、詩桜里が微かに呻く。
***
カァー カァー カァー……
どこからかカラスの声が聞こえてくる。
空はもうほとんど闇に変わり、ただ西の方の空だけが、沈む太陽の最後の赤い輝きを残している。
俺と詩桜里は門の扉にそれぞれ背中を預け、足を投げ出して、二人並んで座り込んでいた。絶頂の余韻と急激に襲ってきた疲労のために、頭も体も動かずしばらくへたり込んでいたわけだが、俺の方は、どうにか頭も動き始めてきた。
ふと自分の体に目を向けると、ズボンとパンツはだらしなくずり下がり、半立ちになった肉棒がむき出しになっている。詩桜里の愛液と俺の精液がそれにべっとりとまとわりついて、弱くなった日差しを反射してテラテラと光っている。よく見ると、二人の体液によってほとんど流されてしまっているものの、紅い色もわずかに見える。詩桜里の破瓜の証だ。
とにかく、こんなものを出したままではいられないので、慌ててパンツとズボンを引っ張り上げて肉棒をしまい込む。
横を見ると、詩桜里はまだ放心状態のままだった。目は開いているが虚ろで何も見ておらず、唇は半開きのままになっている。髪は乱れて汗のせいで額に貼り付き、頬の辺りは涙のせいでぐしゃぐしゃになっている。最後のあたりはもう快感が限界を超えて本当に泣いていたのだろう。
視線を下に流すと、リボンの下でブラウスのボタンが幾つか外されて開かれ、ブラジャーも荒々しくずり上げられて、両胸のふくらみが半分くらいずつさらされている。片側は桃色に染まった乳首まで見えるが、まだ尖りを残したままになっている。
胸の下は緩い曲線を描く腹部が臍のちょっと上くらいまで見えている。その腹部がかすかに上下しているおかげで、詩桜里がちゃんと呼吸していることがわかる。
さらに下を見ると、黒いスカートがはしたなくめくれあげって、滑らかな太ももをさらけ出している。その太ももの一番奥は陰になっていてほとんど見えないが、そこから流れ出したのであろうドロっとした液体が地面に染みを作っている。
その上には、スカートにほとんど隠されているものの、柔らかな繊毛がつつましく茂っているのが見える。
胸も、太ももの奥も、さっきまで散々感触を味わい尽くしていたわけだが、そういえば俺が詩桜里の身体を直接見るのはこれが初めてだった。また俺の股間が硬く始めたのを感じて、慌てて詩桜里の体から目を逸らす。
「おい、しっかりしろ」
俺は月並みな言葉をかけながら詩桜里の肩を掴んで軽く揺さぶった。
「……ん……」
詩桜里がゆっくりと俺に顔を向けた。徐々に目の焦点が合い始める。念のためにちょっと『読』んでみてが、どうやら『心のカタチ』も落ち着いて平常に戻りつつあるようだ。
「あ……」
やがて意識がはっきりしてきた。それで現状がどうなっているのか思い出したようだ。急に顔が真っ赤になり、慌てて顔を下に向ける。
と、今度は自分がどんな姿で座り込んでいるのかが目に入ったらしい。慌ててスカートを直して大事な部分を隠すと、もつれる指でブラウスのボタンを止め出した。
詩桜里はボタンを全て止め終わっても、しばらく両手を胸元で合わせたまましばらく固まっている。今度は自分の足首に辛うじて引っかかっている小さな布切れに気付いたらしい。しばらく逡巡した後、意を決してそのショーツに両足を通して引き上げた。
「うぇ……」
詩桜里が小さな声を漏らす。濡れたショーツの感触が気持ち悪いのだろう。とはいえ、さすがに換えのショーツを持ち歩いてはいないだろうから、ノーパンにするかこれを穿くか、どちらかにするしかない。
結局、ノーパンよりはマシだと思ったのだろう。詩桜里はしばらくは眉をひそめていたが、そのまままた動かなくなった。
とはいえ、もう日もほとんど沈んだ。いつまでも悠長にここでこうしているわけにはいかない。
「おい、もう立てるか」
俺は詩桜里に声をかけると、先に立ち上がった。全身、特に下半身の筋がこわばっているが、体を動かすのに問題はなさそうだ。
俺はまだ座り込んだままの詩桜里に手を差し出した。
「ほら」
俺が声をかけると、詩桜里は俺の手をそっと握った。俺はもう一方の手で詩桜里を支えるようにしながら、詩桜里を引っ張って立ち上がらせた。
「どうだ、大丈夫か?」
「うん……。たぶん、もう大丈夫」
まだうまく足に力が入らずちょっとふらつくようだが、どうにか詩桜里も歩けそうだ。
「ずいぶん遅くなっちまったな」
「……もう帰らないと、お母さんに怒られちゃう……」
詩桜里が自分の足元を見ながら、ポツンと呟く。
その顔を見て、俺はふと思い出して、慌ててズボンのポケットを探った。ハンカチを引っ張り出して、詩桜里に突き出す。
「顔、拭けよ。そのままじゃ帰れないだろ」
「え?」
詩桜里は自分の頬に触れると、自分の顔が涙でぐちゃぐちゃなことに気付いたらしい。慌てて俺の手からハンカチを取って顔を拭いた。
「……どう、かな?」
顔を拭き終わって詩桜里が俺に問いかける。
「ああ、もう大丈夫だ」
「あ、あの、ハンカチ、ありがとう……ございます」
礼を言いかけて、慌てて最後に丁寧語を付け加える。自分が今は俺の奴隷であることを今思い出したのだろう。
「ちゃんと洗って返しますから」
「いや、別にそんなものどうでもいいんだがな」
「いえ、本当に、ちゃんと洗いますから」
そうか、こいつは自分が相手に対して負い目を感じてしまったら、それをどうにかするまで落ち着けない性格なんだった。特に拒む理由もないので、やりたいようにさせてやることにする。
俺はまた鍵を外して扉を開けた。詩桜里を促すようにして二人でまた門をくぐる。
「どうだ、ちゃんと帰れそうか?」
「はい、もう大丈夫です」
「なんなら、途中まで送ってやっても……」
「いえ、本当に大丈夫ですから」
実際、多少ふらつくような感じもあるが、これくらい回復すればもう大丈夫だろう。
「そうか。じゃあ……気をつけて帰れよ、間嶋」
「!」
最後の部分、詩桜里の名字のところを強調して告げる。とたんに、詩桜里の表情が複雑に変化する。この瞬間から、詩桜里はもう奴隷ではなくなったのだ。
奴隷ではなくなった、と言っても、別に今までの記憶がなくなるわけでも、俺に対する感情が変化するわけでもない。ただ、とりあえず奴隷の立場から解放されて、自分の心の持ちようが変化するだけだ。
詩桜里はいったん顔を下に向けた。自分の中で今日の出来事について整理をつけようとしているらしい。さほど時間をかけずに顔を上げ、俺を正面に見据えた。
俺を見る自然は若干憎々しげでもあるが、そんなに酷く怒っているわけでもない。たぶん、ほどほどのところで、俺に対する感情に折り合いがついているのだろう。
「……うん、じゃあね」
詩桜里、いや、間嶋はそう言うと、くるりと俺に背を向けて小走りに駆け出した。
……と思ったら、すぐに立ち止まった。
何か俺に言い忘れたことでもあるのかと思ったが、俺に背を向けたまま、お腹のあたりに手を当てて立ちすくんでいる。気になったので、ちょっとだけ間嶋を『読』んでみた。奥まで入りこまず、表層を波立てている感情をざっと拾い上げる。戸惑い、動揺、軽い怒り、羞恥、わずかな快感、不快感……。
次の瞬間、立ち止まった原因となった現象がまた起こった。感情の波の中から、それに対する間嶋の思考の流れを『読』みとって、何が起こったかを理解する。走り出した拍子に、間嶋の膣口から俺の精液が流れ出したのだ。ショーツで止まって脚まで流れ出すことはなさそうだが、既に濡れているショーツがさらに不快感を増したことは間違いないだろう。
「馬鹿……」
俺には聞こえはしなかったが、間嶋の呟きが『読』めた。
詩桜里はまた走り出し、すぐに木立に隠れて姿は見えなくなった。
< つづく >