こちら宇宙警察地球派出所 中編

中編 (旧後編のちょこっと修正版)

 宇宙警察の定休日に、外出許可を取った桃華と火煉は、近場にある商店街を並んで歩いていた。
 だが外出の目的はショッピングでは無く、火煉にある特訓をさせる為である。
 石造りの建物が連なる古風な町並みを、獲物を探しながら歩いていると、火煉が小声で話し掛けてくる。
 
「桃華姉様‥‥あの‥‥腕を組んでも良いですか?‥‥」

 人目があるためだろう、少し恥ずかしそうに上目遣いで尋ねてきた。
 そのあまりの可愛さに、桃華は一瞬立眩みを覚えたが、気力を総動員して返事をする。

「二人っきりの外出は初めてですものね‥‥いいわよ、いらっしゃい」

 言うと同時に、組み易いように左腕を少し浮かせた。
 火煉は恥じらいながらも、喜色の浮かんだ顔を桃華の左腕に押し付け、両手を絡ませるようにしっかりと抱き付く。
 桃華の甘い体臭と温かい体温を感じながら、幸せそうに頬を赤く上気させていた。

「さて‥誰が良いかしら‥‥」

 気を取り直して桃華はそう言いながら、品定めをするように鋭い目で周囲を見回す。
 すると、前の通りをバイオリンケースを片手に歩く、品の良さそうなブロンドヘアーの少女を発見した。

「よし、あの娘にしましょう。何かお嬢様っぽい所がリーフに似てるわ」

 火煉に目線でターゲットを伝える。すると火煉は頷き、少し残念そうに組んでいた腕を開放した。
 二人は得物を狙う蛇の様に、人の間をすり抜けながら少女の後方に忍び寄る。
 そして背後まで近付くと、いきなり後ろから肩を抱き桃色吐息を吹き掛けた。

「えっ?‥‥‥‥うっ‥‥‥‥」

 桃色のガスを吸い込んだ少女は、一瞬呻いた後、蒼い目を虚ろにして立ち尽くす。
 すかさず桃華は呆けている少女の手を引いて路地裏に連れて行く。火煉は異変に気付いた人が居ないか確認してから後に続いた。
 人気の無い場所まで来ると、今度は赤紫色の息を吹き掛け少女を眠らせて、持って来た大型のボストンバッグに急いで少女を詰め込んだ。

「ターゲットの拉致完了っと、さて部屋に戻りましょうか」
「はい、桃華姉様」

 右肩で眠り姫の入ったボストンバッグを担ぎ、左腕に恵比須顔で猫のように身体を擦り付けてくる妹を張り付かせて、桃華は目的地に向かった。
 裏通りにある寂れたホテルに到着した桃華達は、事前に準備しておいた部屋に入る。
 ドアを開けた途端、鼻孔に埃とヤニの臭いが入り込み、二人は顔をしかめる。室内を見渡すと元は白かったであろう壁が満遍なく黄ばんでいた。
 入り口の鍵を閉め、窓にカーテンをかけると、ショルダーバッグから取り出した少女を古びたベッドに寝かせる。
 ベッドの錆びたスプリングが耳障りな音を響かせたが、少女は規則的な寝息を立て静かに眠っていた。

 良く手入れされたショートカットのブロンドヘアーに上品な顔立ち、質とセンスの良い衣服‥‥リーフのように良家のお嬢様だけが持つ雰囲気をこの少女も持っていた。
 そんな少女に桃華は、気付け作用をブレンドした桃色吐息を吹き掛ける。

「‥‥‥あふっ‥‥うん‥‥‥」

 少女は桃色吐息を吸い込むと、苦しそうに眉間に皺を寄せ目を覚まし、緩慢な動作で上半身を起こした。
 目を覚ましたものの、少女の目は虚ろで意思が感じられない。

「じゃあ始めましょう、訓練開始よ火煉‥‥まずは名前を聞いてみて」
「はい‥‥」
 
 火煉は少し緊張した面持ちで少女の前に移動し、ゆるやかな調子で話し掛ける。

「貴女の名前を‥‥教えて頂戴‥‥」
「‥あなた‥‥‥誰?‥」

 呆けた顔で、シャロルは首を傾げる。

「え? わ、私は御蓮寺火煉‥‥って名前を聞いてるのはこっち!」
「‥‥‥?‥‥」
 
 出足から躓きしどろもどろになっている火煉の様子を、桃華は微笑みながら見ていた。
 どうして良いか分からず潤んだ瞳を桃華に向ける火煉。
 桃華は微笑みを絶やさずに近付き、火煉に助け舟を出す。

「いい? 火煉‥‥最初はこうするの‥」

 そう言って桃華は少女の後ろに回り込み、耳元で妖しく囁く。

「‥‥私の名前は‥‥‥火煉‥‥」
「‥‥‥かれん‥‥」
「‥貴女の新しい‥‥家庭教師よ‥‥」
「‥‥新しい‥‥‥先生‥‥」
「‥私は誰?‥」
「‥かれん‥‥私の先生‥」
「‥じゃあ先生に‥‥貴女の名前を‥‥教えて頂戴‥」
「はい、かれん先生‥‥私の名前はシャロル‥‥シャロル=ド=ゴールです‥‥」

 目前にいる見知らぬ女性の正体が分かり、シャロルが漠然と抱いていた不安が消えていく。

 見事にシャロルの名前を聞き出した桃華に、火煉は感動にときめいた顔で熱視線をぶつける。
 桃華は火煉の視線にウィンクで応えると作業を再開した。

「‥‥これからシャロルに‥‥先生が‥‥大切な事を教えるわ‥‥」
「‥大切な‥‥事‥‥」
「そう‥‥シャロルの人生で‥‥一番大切な事だから‥‥しっかり聞くのよ‥」
「‥はい‥かれん先生‥‥‥よろしくお願いします‥」

 普段から大人に対して従順な子なのだろう、桃華はシャロルの態度からそれを感じ取った。
 一息ついて、シャロルの後ろから火煉の横に移動した桃華は、そっと耳打ちする。

「私の出番はここまで、後は火煉の好きにやってみなさい」
「はい! 頑張ります桃華姉様」

 無駄に気合いの入った火煉は、瞳の中に炎をたぎらせてシャロルの洗脳を再開した。

 1時間後、すっかり火煉棒の虜になったシャロルが、熱心に舌で奉仕をしていた。
 
「‥チュ‥‥チュプ‥カレン先生‥‥素敵です‥‥‥レロッ‥チュパッ‥‥先生の教え子になれて‥‥チュッ‥私は幸せ者です‥‥」

 シャロルの小さくて苺色の可愛い舌が、熱く反り返る火煉棒の上を這い回る。
 竿全体にくすぐられるような淡い刺激を感じ、火煉は気持ち良さそうに微笑みながら、シャロルの頭を優しく撫でた。

「先生の言った通り、火煉棒はとっても美味しいでしょう‥‥」
「はい‥かれんぼう‥‥美味しいです‥」
「私はシャロルの先生だから本当の事しか教えない、絶対に嘘は教えないんだよ‥」
「‥カレン先生の教えは全て正しい‥‥先生の言葉に嘘は有り得ない‥」

 火煉の一言でシャロルは今まで「カレン先生」から受けた教えや調教を全て正しい物と認識する。
 シャロルは陶然と潤んだ瞳で、自分の命よりも大切な雄々しい火煉棒に頬擦りをした。

「シャロル‥‥先生の事どう思う?‥‥」
「先生は‥‥カレン先生はシャロルに立派なメス奴隷になる為の指導をして下さる偉大な導師です。シャロルは大切な事を教えてくれる素敵なカレン先生が大好きです」

 恩師に対して最大限の敬愛を込めて、しっかりと淀みなく答える。
 シャロルが暗示を受け入れるのに比例して、瞳孔に意思の光が甦っていく、これは桃色吐息特有の効果であった。
 そして、自分の意思で暗示の通りに考え行動するようになるのである。

 コツを掴んでからは順調に調教を進める火煉。いつの間にか口調まで桃華そっくりになっていた。
 桃華は可愛い即席師弟の頭を撫でながら、満足そうな笑顔で火煉に語り掛ける。

「素晴らしいわ、見事な上達よ火煉‥‥では仕上げにもう一度最初からやってみましょうか」
「嬉しいです桃華姉様‥‥今度はもっとしっかりやります」

 幸せそうに熱の籠もった視線を火煉に向けているシャロルに、桃華は青色の息を吹き掛けた。
 これこそは桃華の新必殺技「青息吐息」(あおいきといき)である。
 桃華が丹精を込めて練り上げ調合した、高い性能を誇る記憶操作薬なのだ。

「シャロル‥‥あなたはこの部屋であった事を全て忘れます‥‥」
「‥‥はい‥‥忘れます‥‥」

 シャロルはそう答えると、静かに目を閉じる。
 顔から完全に表情を消し、規則正しく呼吸をしながら、指定された情報をデリートしていく。
 しばらくして目を開けたシャロルに、今度は桃色吐息を吹き掛けた。

「さあ火煉‥準備完了よ」
「はい‥‥‥シャロル‥‥‥私の名前は火煉‥‥‥シャロルの新しい家庭教師よ‥‥‥」

 ここ、逮捕術訓練場では二人の少女がアクロバティックな組み手をしていた。

「烈風! 正拳突きぃー」
「真空跳び膝キィーック!」

 強烈な闘気を放つ二つの影が交錯する。超高速の攻防を繰り広げる二人を、桃華は頼もしそうに眺めていた。
 影の正体は火煉とアービスであった。

「‥‥‥お主‥‥腕を上げたな‥‥‥」
「アービスの方こそ、でも負けないよ」
「‥‥‥ふっふっふ‥‥‥そうはイカのキンニク‥‥‥」

 この二人の身体能力は驚異的で、僅かの期間で驚くほどの上達を果たしていた。
 戦闘技術に関して火煉とアービスには何の問題も無い、問題が有るのはリーフだけである。
 今も二人とは別メニューで、基礎体力トレーニングを行っていた。

「よーし、休憩!」
「え? もうそんな時間?」
「‥‥‥むぅ‥‥‥残念無念‥‥‥」

 桃華の声に一人だけ反応しない者がいた。リーフである。
 まるで桃華の声が聞こえなかったかのように黙々とトレーニングを続けるリーフに、少し困ったような顔で桃華は話し掛ける。

「休憩よリーフ‥聞こえなかった?」
「‥‥どうか‥‥お構いなく‥‥」

 そう答えながらも、苦痛に顔を歪めて、懸命にダンベルを持ち上げる。
 明らかに無理をしているリーフを、火煉とアービスも心配そうに見ていた。

「私が休憩をさせるのは、別に上達を阻害しようとか楽をさせようとか思っているからでは無いのよ。必要だから休ませるの」
「‥‥私だけ‥‥訓練が‥‥遅れて‥‥います‥‥こうでも‥‥しないと‥‥追いつけ‥‥ません‥‥」

 桃華はやれやれといった感じで、以外と頑固なリーフの説得を続ける。

「競技会とかを前に、上達を焦った人が無茶なトレーニングをして、結局身体を壊して出遅れる。そういうのはよく有る事なのよ」

 リーフは桃華の目をじっとを見詰めた。その目は桃華の瞳を中身まで見通す。

「リーフの為に言っているのよ、気持ちは分かるけどそれは危険な事なの、だから休みなさい‥‥ね?」

 本来は怒鳴っても良い立場なのだが、桃華はそれをせず優しく諭す。
 それは、リーフの向上心を尊重しているからである。
 桃華もまた、三人のやる気を維持し、努力を正しい方向に向けさせるのに必死であった。

「分かりました御蓮寺1尉。指示に逆らい申し訳ありません」
「軽くストレッチをしてから汗を拭いてね、深呼吸も大事よ」

 この時桃華は三人をどう扱うか迷っていた。才能溢れる火煉とアービスを徹底的に鍛えるか、それとも弱点であるリーフを何とか使えるようにするか。
 これは重要な決断になる、桃華は三人を慎重に見定めねばならなかった。

 訓練終了後、桃華は自室で熱心に連携攻撃の戦術シミュレーションを行っていた。
 やはりリーフの動きが悪い、火煉とアービスの動きに全く付いて行けて無いのだ。これでは高度な連携など不可能である。

「リーフにもリスクを承知で肉体改造薬を使うしか無いかな‥‥あるいはサポート役と割り切るか」

 試しにリーフを完全にサポート役と割り切って使ってみる。その方向で戦術を組み直すと思いの外上手くいった。

「さて‥‥どうしましょうか‥‥」

 桃華はそう呻きながら、苦悩の表情でモニターを見詰めた。

 
 思考の煮詰まった桃華は、気分転換も兼ねて火煉の部屋へ遊びに行く事にした。
 そして、訓練場の前に差し掛かった時、中の照明が点灯している事に気付く。
 中を覗くと、リーフが基本動作を反復練習している姿が見えた。

「ハッ‥‥‥フッ‥‥‥ハッ‥‥」
「こんな時間まで訓練なんて‥‥本当にリーフは頑張り屋ね」

 訓練場に入って来た桃華は、リーフに優しい笑顔で声を掛けた。

「御蓮寺1尉‥‥‥私には才能が無いから‥‥二人に追い付くには努力するしか無いんです」
「リーフ、もし良かったら私が訓練指導をしましょうか?」
「え?‥‥嬉しいですけど、忙しい御蓮寺1尉にそんな事頼めません」
「気にする必要は無いのよリーフ、サンバーンのレベルアップは私の仕事。それに私は頑張るリーフの力になりたいの」

 リーフはまた桃華の瞳を見詰める。すると何か納得した様子で嬉しそうに微笑んだ。

「御蓮寺1尉のお気持ちとても嬉しいです。どうか宜しくお願いします」

 そう言ってリーフは深々と頭を下げた。
 ここまで本人にやる気が有るなら、しっかりした指導をすれば必ずレベルアップする。
 これからはリーフを徹底的に鍛えて、三人組をチームとして完成させる。この時桃華はそう決心した。

 リーフの訓練指導も終わり、シャワーで汗を流した桃華は、これからの訓練計画を見直す為モニターに向かう。
 端末のスイッチを入れた所で、コンコンとドアがノックされた。
 今日は構ってやれなかったから、寂しくなった火煉が甘えに来たのだろう、と桃華は思っていた。
 だが、ドアの向こうから聞こえてきたのはリーフの声であった。

「御蓮寺1尉‥‥リーフです、あの‥‥入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、鍵は掛かってませんよ」
「はい、失礼します‥‥」

 桃華が入室を許可すると、ゆっくりドアが開き、若葉色のパジャマを着たリーフが少し躊躇いながら入って来た。

「あの‥‥私、前に火煉から、御蓮寺1尉がマッサージをしてくれると聞いたもので‥‥その‥‥」
「私にマッサージをしてもらいに来たの?」
「はい‥‥もしご迷惑で無かったのなら、お願いしたいのですが‥‥」

 リーフは期待と不安が入り混じった目で桃華を見詰めた。
 ついに獲物が罠にかかった! 桃華は心の中で小躍りしながらも、冷静に対処する。

「‥‥寝ても、溜まった疲れが取れなくて困っていたのでしょう‥‥」
「‥!‥‥どうして分かるのですか?」
「分かるわよ、自分では気付かないでしょうけど、トレーニングのペースが徐々に落ちていたのよ」
「そうだったんですか‥‥」

 桃華の指摘を受けてリーフの顔が暗く沈む。しかし、直ぐに真剣な表情に変わり桃華に頭を下げる。

「お願いします御蓮寺1尉。私にマッサージをして下さい」

 もう、こうなったら何が何でもマッサージをしてもらうしかない。そんな気迫が言葉に込められていた。

「いいわよ‥‥でも一つだけ条件があるの‥‥」
「はい、私に出来る事でしたら、何でも言って下さい」
「今後私の事を御蓮寺1尉では無く桃華さんと呼んで欲しいの。そうすれば親近感も湧いて、もっと仲良くなれるでしょう」 
「そんな事でよろしいのでしたら‥‥分かりました桃華さん‥‥」

 何か気恥ずかしいのか、リーフは薄っすらと頬を染めて恥ずかしそうに答えた。

「私もこのままだとリーフが怪我をしそうで心配だったの。素直に私を頼ってくれて本当に良かったわ」
「桃華さん‥‥‥」

 桃華の気遣いに満ちた言葉に、リーフは嬉しさと感動で目を潤ませる。

「じゃあ早速始めましょう。リーフはパジャマを脱いでベッドの上にうつ伏せで寝て頂戴」
「はい」

 丁寧な動作でパジャマを脱ぐリーフを、桃華はじっくりと観察した。
 色が薄く銀の様にも見えるカールのかかった金髪のロングヘアー、温和な感じのする蒼い瞳を収めた少し垂れ気味の目、鼻や口は整っているが線が細く肉感が少ない、身体も全体的に華奢で手足も細いのだが、胸だけは火煉よりも大きかった。
 肌は透き通るように白く少々生気に欠ける、まるで人形のように儚げで美しい少女であった。

 指示通りにベッドでうつ伏せに寝るリーフを嬉しそうに眺めていた桃華は、完全に無防備なリーフの背後から桃色吐息を吹き掛けた。
 リーフは息を吸い込むと、一瞬痙攣してから直ぐに脱力する。
 そんなリーフに桃華は、マッサージをしながらゆっくりと言葉を送り込む。
 
「‥リーフ‥‥私の事‥‥どう思う?‥‥」
「‥‥桃華さん‥‥顔は笑ってるけど‥‥目は笑ってない‥‥視線も冷たい‥‥こういう人は‥‥信用出来ない‥‥」

 桃華はリーフの鋭い洞察力に驚いていた。

「演技は完璧だと思っていたんだけど‥‥随分と勘の良い娘ね‥‥でもリーフはもう私を疑う事はしなくなる‥‥フフ」

 リーフに聞こえないように、小声で独り言を喋っていた桃華は、最後に妖しく笑う。
 一方リーフは濁った目を壁に向け、半開きの口から涎を垂らし枕を濡らしていた。

「‥じゃあどうして‥‥信用出来ない私に‥‥マッサージを頼んだの?‥」
「‥‥最近の桃華さん‥‥‥火煉を見る目‥‥とても優しくて‥温かい‥‥訓練の時も‥‥とても真剣な目‥‥だから信じた‥」
「‥リーフも火煉のように‥‥私に優しい目で‥‥見られたい?‥」
「‥‥はい‥桃華さんに‥‥優しい目で‥‥‥見られたい‥」

 裕福な名家の一人娘としてリーフは生を受けた。
 幼少時貧困に喘いでいたアービスと違い、家は裕福だったが決して幸せという訳では無かった。
 リーフが3歳の時に両親が離婚。父方に引き取られたリーフは、実父から虐待まがいの厳しい躾を受け続ける事になる。
 本当は親に甘えたい年頃なのに、父からは叱責と体罰しか与えられなかった。
 父に仕えていた使用人達も、必要以上の事は喋らず、リーフとは一定の距離を保つよう指示されていたのである。

 大人に愛されたい優しくされたいと思う反面、大人に対する強烈な不信感と嫌悪感がリーフの根底にしっかりと根付いていた。
 しかもある身体的な特徴により、同年代のクラスメートからも迫害を受けていたのである。

「‥‥分かったわ‥‥リーフを優しい目で見てあげる‥‥‥これから私がリーフに向ける視線‥‥全部が慈愛に満ちた‥‥温かい視線よ‥‥」
「‥ああ‥‥嬉しい‥これから‥‥ずっと‥桃華さん‥‥視線‥優しくて‥‥温かい‥」

 この時リーフの抱いた幸福感が、マッサージと桃色吐息の相乗効果で増幅される。
 熱い血が全身に行き渡る快感に、枕の上にある顔をほてらせて、悩ましく吐息を漏らしていた。

「‥‥マッサージを私に頼んだのは‥‥何故?‥‥」
「‥桃華さんを‥‥信用したからです‥」
「そうよ‥‥私はリーフにとって‥‥信頼出来る唯一の大人‥‥この世で最も大切な‥‥心から信頼出来る大人よ‥‥」
「‥‥桃華さんは‥私の一番大切な‥‥信頼出来る唯一の大人‥」
「そしてリーフを愛してくれる‥‥優しくしてくれる大人も‥‥私だけよ」
「‥私を愛して優しくしてくれる大人は‥桃華さんだけ‥‥」

 リーフの大人に愛されたいという願望を、桃華は巧みに利用し暗示を刻み込んでいく。
 自分の願望を叶えてくれる暗示を、リーフもまた積極的に受け入れていた。

「‥どう? 私のマッサージは‥気持ち良い?‥」
「はい‥気持ち良いです‥‥」

 桃華はマッサージで気持ち良くなるポイントを重点的に攻めながら暗示を加える。
 心と身体が完全に弛緩し、さらけ出されたリーフの深層心理に、桃華の言葉が流れ込んでいく。

「リーフが心から信頼出来る私と居ると‥安心出来て気持ち良いでしょう‥‥」
「‥信頼出来る桃華さんと居ると‥心が安らぐ‥気持ち良い‥」

 マッサージ特有の頭の芯が痺れる様な快感と、耳に心地良い桃華の言葉により、リーフの心は温かい幸福で満たされた。
 
 もうそろそろマッサージも終わりにするかな、と思った所でリーフがもう眠ってしまってる事に気付く。
 その寝顔はとても幸せそうで、母の胸に抱かれているような安心感が漂っていた。
 桃華が下半身の方に目を移すと、若草色のショーツが、真ん中あたり一部湿っているのを発見し、妖艶にほくそ笑む。

 もう疲れていた桃華は、リーフに布団を掛けてやり、自分もその横で眠る事にした。

 桃華が朝目を覚ますと、いつの間にかリーフが居なくなっていた。
 代わりに置手紙が残してあるのを見付けたので、軽く目を通す。
 手紙の内容は、基本的にマッサージに対するお礼と、桃華のベッドで寝てしまった事への謝罪なのだが、途中から恋文の様な内容に変わっていた。

「もうリーフは私の虜ね‥‥」

 そう言って桃華は満足気に笑い、舌なめずりをした。

 朝礼時のリーフは、態度や仕草が今までとまるで別人のようであった。
 大きなライトグリーンのリボンで髪を結び、頬を赤らめながら恋に恥じらう乙女の様に甘い吐息を漏らす。

「‥あっ‥桃華さん、おはようございますっ!」

 リーフは桃華の姿を見付けると、元気良く挨拶をして嬉しそうに駆け寄る。

「おはようリーフ‥‥あら、そのリボン可愛いわね。とても良く似合ってるわよ」
「あっ‥あのっ‥ありがとうごいます‥‥凄く‥‥嬉しいです‥」

 言いながらリーフは顔を真っ赤にして俯く。まるで出合った時の火煉を見ている感じがして、桃華は微笑んだ。
 そんな可愛らしく豹変してしまったリーフを、火煉は嫉妬の眼差しで睨み、アービスは無表情で見詰め、男打は羨ましそうに見蕩れた。

「‥‥‥どうしたリーフ‥‥‥今日はかなり変だぞ‥‥‥もしかしてアノ日か?‥‥‥」
「私‥‥やっと桃華さんの優しさや思いやりに気付く事が出来たんです。これからは素直に桃華さんの想いを受け止めます」
「‥‥‥そうか‥‥‥僕を差し置いて幸せになるんだぞ‥‥‥人の恋路を邪魔する者に、神の祝福があらんことを‥‥‥」

 アービスはそう言って、嫉妬の炎を燃やす火煉を見ながら、楽しそうに笑みを浮かべた。

 桃華は正直、リーフの変わり様から洗脳を疑われるのではないかと危惧していた。
 だが、リーフの過去を知っている男打は、桃華がリーフにとって理想の保護者になった事を、素直に喜んでいる様子であった。
 なんて甘い奴なのだろう、桃華は心の中で嘲笑した。

 逮捕術の訓練中、桃華はリーフに付きっ切りで実技指導をしていた。

「‥こうやって‥相手の突きを受け流して‥‥そのまま肘を‥こう相手にぶつけるの‥‥いい? 行くわよ」
「はい‥‥はっ‥‥‥たあっ!‥‥」
「そうそう今の感じ、じゃあもう一度」
「はいっ!」

 桃華の熱心な指導を受けているリーフを、横で組み手をしている火煉が、羨望の眼差しで眺める。
 その時、他所見をしている火煉の鳩尾に、アービスの正拳突きがめり込み、とたんに火煉は悶絶した。

「‥‥‥隙だらけの火煉は好き? 嫌い?‥‥‥答えは嫌い‥‥‥これでは訓練にならん‥‥‥」
「‥‥あぅ‥ごめん‥‥‥アービス‥‥」
「‥‥‥桃華とリーフが気になるか?‥‥‥安心しろ火煉‥‥‥桃華はきっとお前を選ぶ‥‥‥」

 アービスはそう言って、無表情のまま親指を立てる。

「‥‥うん、きっとそうだよね‥‥ありがとうアービス」
「‥‥‥訓練が終わったら直ぐに確認しろ‥‥‥マグマのように熱い思いをぶちまけて‥‥‥桃華をエレクトさせるのだ‥‥‥」
「分かった、私‥‥頑張る!」

 目を輝かせながら気合いを入れる火煉を、アービスは笑顔で見詰めていた。

 逮捕術の訓練が終わり、ヒールを規則的に鳴らしながら自室へ向かう桃華を、火煉が呼び止める。

「桃華姉様‥‥あの‥‥」
「あら‥‥何? 火煉」

 呼び止めたのはいいものの、どう話を切り出せば良いのか分からない火煉は、何かもどかしそうにしながら桃華に媚びた目を向ける。
 自分にとって重要な話があるのに、緊張で頭が空回りし、気持ちだけが焦っていた。

「もしかしてリーフの事かしら?」
「え‥‥どうして分かるの?‥‥‥はい、その通りです」

 妹の考えなんてお見通しといった感じで、桃華はピタリと言い当てた。
 考えを見抜かれた火煉は、桃華に敬意を込めた視線を送るが、直後に表情を曇らせて俯く。

「‥‥桃華姉様、リーフと突然仲良くなって‥‥私‥その‥‥」

 火煉は視線を彷徨わせながら、言い辛そうに喋った。
 そんな火煉に、桃華は突然温もりの消えた声で話し始める。

「私が誰と仲良くしようと私の勝手、火煉がどうこう言う事では無いわ。違う?」
「ひっ‥‥ごめんなさい‥桃華姉様‥‥私‥グスッ‥そんなつもりじゃ‥‥」

 大粒の涙を流しながら、くぐもる様な嗚咽を洩らしていた火煉が、振り向いて走り去ろうとする。
 桃華はすかさず火煉を後ろから抱き締め、耳に息を掛けながら甘く囁く。

「バカね、そんな下らない事気にして‥‥私にとって火煉はたった一人の妹なのよ。だから、火煉よりも大切な人なんて存在しないの。それとも火煉は私の想いを疑うの?」
「ああ‥‥嬉しい‥‥桃華姉様の事信用しないなんて‥‥自分の愚かさがとても恥ずかしいです。心の底から反省します。私はもう絶対に桃華姉様の愛を疑がったりしません」

 桃華の言葉に安堵した火煉は、泣き笑いの表情で嬉しそうに反省する。

「本当に火煉は泣き虫ね。でもそういう所も可愛いわ‥‥」

 期待通りの言動をする火煉の横顔を、優しい眼差しで見ていた桃華は、火煉の頬に舌を這わせ残った涙を舐め取った。
 ただそれだけの事に、火煉は顔を真っ赤にして幸せに浸る。

「火煉、私がリーフと仲良くするのは彼女を洗脳する為よ。前に話したでしょう、今夜は火煉にも手伝ってほしいの、特訓の成果をリーフに味わってもらいましょう」
「桃華姉様‥‥はい、喜んでお手伝いします」

 火煉は桃華の目的を思い出し、喜色満面で明るく返事をした。
 今、火煉の心の中には、自分の嫉妬が勘違いだった事への安心感と、桃華の役に立てる事への幸福感しか無く、他の感情は一切芽生えなかった。

「フフ‥‥火煉の手腕に期待してるわよ」

 桃華は素直で可愛い理想の妹を撫でながら前に移動し、火煉の頭を両腕で優しく抱きかかえ口付けをした。火煉もそれに応えて両手を桃華の背中に回し抱き付く。
 二人はほぼ同時に口を開け舌を絡ませる。目を瞑り愛し合う姉妹は淫猥な音を立てながら一心不乱に熱い舌と息を交換していた。

 秘め事に夢中になっている桃華と火煉は、物陰から二人を盗み見る人影が居るのに、全く気付く事が出来なかった。

 桃華の自室では、桃色吐息を吸って被催眠状態のリーフが、桃華のマッサージを受けていた。

「ここは気持ち良い?」
「‥‥はい‥‥気持ち良いです‥‥」

 その時、突然部屋のドアが開き、紅葉色のパジャマを着た火煉が入って来た。
 リーフに桃色吐息を嗅がせた時点で、桃華が呼んでいたのである。
 ノックをしなかったのは、以前桃華から「私達は姉妹なのだから、私の部屋へは自分の部屋の様に自由に出入りしても良いのよ。ノックも要らないわ」と言われていたからであった。

「桃華姉様、お手伝いに来ました」
「ようこそ火煉、こっちの準備はほぼ終わってるわ」

 桃華はリーフを仰向けにして上半身を起こす。リーフの顔はマッサージの気持ち良さで桜色に上気していた。
 一方火煉は壁掛け用の大きな鏡を外して、リーフのいるベッドへ向かう。

「さて、リーフに本当の姿を晒して貰いましょうか」

 桃華はリーフの右目にスポイトを慎重に近付ける。そして、瞳にスポイトを付け蒼色のレンズを吸着させると、そっと外した。
 蒼いレンズを外すと、そこには澄んだエメラルドグリーンの瞳が現れた。
 桃華と火煉は、綺麗な緑色の右目と蒼色の左目を持つ、どこか現実離れした美しさを湛える少女をうっとりと眺めた。

 この左右で目の色が違うという特徴のせいで、リーフは学校で酷い迫害を受ける事になる。
 家庭にも学校にも、頼れる人や信頼出来る人が居ない、楽しく話したり遊んだりする友人も居ない。
 3歳の時からずっと続いた孤独。その原因の一端である緑色の右目を、リーフは父と同じ位嫌悪していた。

「さて、ここからは火煉の仕事よ」

 桃華の言葉に火煉は真面目な表情で頷くと、ベッドに座っているリーフに目線を合わせて話し始める。

「‥リーフ‥‥私は火煉よ‥‥分かる?‥」
「‥‥分かるわ‥‥火煉‥‥」

 火煉は持って来た鏡をリーフの眼前に置く、鏡に写る自分の顔を見せられたリーフは、苦渋の表情を浮かべた。

「い‥嫌っ!‥‥こんなの‥‥見たくない‥‥」
「‥どうして‥‥そんなに嫌うの?‥」
「‥‥違うの‥‥お父様も‥お母様も‥‥目は青いの‥‥私の右目だけ‥違うの‥‥クラスのみんなも‥‥気持ち悪いって‥‥だから‥‥嫌い‥‥」

 目に涙を浮かべながらリーフは苦しそうに話す。それに合わせるように火煉は声を優しい物に変える。
 もう必要の無くなった鏡を床に置き、リーフの横に座って話を続けた。

「‥その目‥‥とても綺麗‥‥素敵だよリーフ‥」
「え?‥‥本当に?‥‥」
「‥うん‥‥私は友達に‥嘘は吐かない‥‥リーフの事‥もっと好きになったよ‥」

 火煉の言葉を聞いてる内に、リーフの辛そうだった顔が微笑みへと変わっていった。
 リーフの反応から暗示の浸透を感じ取った火煉は、乾いた唇を一舐めして次の段階に進む。

「リーフは私の事‥‥どう思う?」
「‥‥裏表が無い良い人‥‥私の最初に出来た‥大切な友達‥‥」
「‥じゃあリーフは‥‥その大切な友達を‥‥ずっと騙してたんだ‥」
「‥‥え?‥‥それは‥‥あの‥‥」
「ずっと右目が青いって‥‥友達を騙し続けてたんだね‥‥酷いよリーフ‥そんなの友達じゃ無いよ‥‥」

 リーフの微笑みが消えて、主人に叱られる子犬の様に、悲しそうな目で媚を売る。
 火煉は自分の言葉でころころと表情の変わるリーフを見て、楽しんでいる様子だった。

「‥あぅ‥御免なさい‥‥火煉‥許して‥‥お願い‥」
「‥駄目‥‥もう遅いよリーフ‥‥本当の友達だと思っていたのに‥‥裏切るなんて‥‥凄く悔しいよ‥‥凄く悲しいよ‥」
「ああ‥‥私ったらどうして‥‥お願い火煉‥本当に反省してます‥‥もう二度と騙したりしないと誓います‥‥だから‥許して‥‥」

 涙で瞳を潤ませながら、リーフは必死に許しを請う。
 別に個人的な秘密を守るのは悪い事ではない。だが桃色吐息の影響下にあるリーフに、そんな理屈を考える事は出来なかった。
 それにリーフは、自分の全てを受け入れてくれる友人を結局は信用していなかった事に、少なからず罪悪感を抱いていたのである。

「じゃあ‥‥リーフがきちんと罪を償ったら‥許してあげる‥‥罪を償う為だったら‥‥何でも出来る?」
「ええ‥もちろんよ‥‥許してもらえるのだったら‥‥私何でもするわ‥」 

 リーフは大切な友人に嫌われたくない一心で、火煉への贖罪を強く望んだ。
 すると、火煉は太陽のように明るい笑みを浮かべて、最終目的を口にする。

「リーフが‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥私と桃華姉様の『奴隷』になってくれたら許してあげる」
「‥‥ど‥‥奴隷?‥‥」

 いきなり出てきた意味不明の単語に、リーフは困惑の表情を浮かべる。

「‥もし奴隷になってくれたら‥‥私達ずっと大親友だよ‥‥桃華姉様もリーフの事大好きになるよ‥」
「‥‥桃華さんも‥‥な‥なります‥‥私‥奴隷になります‥‥」

 桃華と火煉に好かれる、この一言が決定打となり、リーフは心の底から奴隷になりたいと願った。

「‥よく決心したね‥‥これでリーフが奴隷でいる限り‥‥私はずっと親友だよ‥」
「奴隷でいる限り‥‥火煉は私の親友‥‥」
「‥リーフは奴隷になれて‥‥嬉しい?‥」
「ええ‥‥凄く嬉しいわ‥‥」

 リーフは幸せそうな声で答え、入隊前の様な辛い孤独から逃れられる事に歓喜した。

「‥ところでリーフ‥‥奴隷って何だか知ってる?」
「‥‥えっと‥‥その‥‥‥‥」
「‥‥信じられない‥奴隷の事分からないのに‥なりたいと言ってるの‥‥」
「うぅ‥‥御免なさい‥‥」

 火煉に重大な問題を指摘されて、悲しそうに俯くリーフ。
 そんなリーフをなだめるように、火煉は優しく丁寧に解決策を伝える。

「‥大丈夫、安心してリーフ‥桃華姉様は奴隷についてとても詳しいの‥リーフが一生懸命お願いすれば‥きっと教えてくれるよ‥」
「あぁ‥良かった‥‥私は桃華さんに一生懸命お願いして‥奴隷について教えてもらいます‥」

 洗脳の第一段階が終了し、一息ついた火煉の鼻がかぐわしい香りを嗅ぎ取る。いつの間にかすぐ横に桃華が移動していたのだ。
 桃華がご褒美とばかりに、自分の恥液が付いた指を差し出して、その指で火煉の唇をゆっくりとなぞる。
 恍惚の表情で桃華の匂いを堪能していた火煉は、口元の指を美味しそうに舐めながら口に含んだ。

「頑張ったわね火煉、完璧な仕事振りだったわ。後は私に任せて」

 姉妹はお互いに笑いながらハイタッチをする。
 事情を知らない者が見れば、本当に仲の良い姉妹に見えるほど、二人の息は合っていた。

「‥リーフ‥‥私に聞きたい事があるのでしょう‥‥火煉からそう聞いているわ‥」
「はい‥お願いします桃華さん‥‥私に奴隷が何なのか教えて下さい‥‥私‥奴隷にならないといけないんです‥」

 リーフの声には気迫が込められていた。一度思い込むと止まらないタイプなのだろう。
 突き刺さる位の真摯な眼差しを受け止めていた桃華は、昨日埋め込んだ暗示が浸透しているかを確認する。

「‥教えてもいいけど‥‥リーフは私の言葉を‥‥信用してくれるの?」
「桃華さんは‥私にとって唯一の信頼できる大人です‥私は桃華さんの言葉を疑う事はありません‥」
「ありがとうリーフ‥私の事を誰よりも信頼してくれるリーフに‥私は絶対に嘘は吐かない‥私の言葉は全て真実よ‥」
「はい‥‥桃華さんは嘘を吐かない‥桃華さんの言葉は全て真実です‥‥」

 桃華はリーフの反応に満足すると、頭をやんわりと撫でてやる。
 両親が離婚してから優しく撫でられた事の無いリーフは、桃華を敬愛の眼差しで見詰める。
 そして、桃華の瞳から慈愛に満ちた視線を感じ取り、さらに幸福感を増加させるのであった。

「分かったわリーフ‥それじゃあ今から奴隷について教えるわね‥‥でも、それは多分リーフにとって簡単な事よ‥」
「‥私にとって簡単‥」
「‥リーフの家には使用人がいたでしょう?‥」
「はい‥いました‥」
「‥奴隷というのはね‥主に身も心も全てを捧げて‥主のためなら喜んで何でもする‥使用人の事よ‥」
「‥身も心も全てを捧げて‥喜んで何でもする‥使用人‥」
「どう? 奴隷の事理解出来た?」
「‥はい、桃華さんのおかげで奴隷が何なのか分かりました、ありがとうございます‥」

 リーフは問題の解決を喜び、奴隷について教えてくれた恩人に、華の咲いた様な笑顔を向ける。

「これでリーフはいつでも奴隷になれるわね。じゃあこれが最後よ‥‥同じ事はもう聞かないわ‥‥リーフは私と火煉の奴隷になりたい?」
「はい、私は桃華さんと火煉の奴隷になりたいです、心からお仕えしたいです」

 自分の腹はもう決まっている、そういう顔付きでリーフは桃華の質問に答えた。
 リーフの口調もほぼ普段通りに戻っている、これは暗示が完全に浸透した証拠であった。

「合格よリーフ‥‥これで貴女は晴れて私と火煉の奴隷よ」
「はい、桃華さん、私奴隷になれて嬉しいです」

 その時、桃華の瞳が鋭く冷たい光を放つ。

「‥‥リーフ、貴女は使用人にそんなに馴れ馴れしく呼ばれていたの?」

 桃華の怒気とその理由を瞬時に理解したリーフは、記憶力を総動員して自分に仕えていた使用人達の態度や言葉を思い出し、それを急速にコピーしていく。

「も‥申し訳ありません桃華様‥どうかご無礼をお許し下さい‥」

 そう言ってリーフは恭しく頭を下げる。
 これはホーリーウッド家に仕えていた使用人と全く同じ態度であった。

「もういいわ、次からは気を付けるのよ」
「はい、肝に銘じます。申し訳ありませんでした」

 突然桃華はリーフの小さい顔を両手で掴み、かつてリーフが他人にしていたように左右色の違う神秘的な瞳を覗き込む。
 リーフは桃華の温かい視線に包まれるような感じがして、幸せそうな顔で頬を朱色に染めた。

「上手く仕上がったようね。リーフがちゃんと大事な事を覚えてるか確認するわね‥‥奴隷とは何? 言ってみて」
「奴隷とは、お仕えする主様に身も心も全てを捧げて、主様のためなら喜んで何でもする使用人の事です」
「その通りよ、記憶力が良いのねリーフ」
「有り難う御座います桃華様‥‥」

 ここで桃華は少し会話の方向を変えて話し始める。

「リーフ、奴隷が仕えるべき主に出会うのはとても幸せな事なのよ」
「はい、私もそう思います」
「フフ‥‥そうね、リーフは大好きな私と火煉に仕えているのですもの、これ以上幸せな事なんて無いわ。きっとリーフは奴隷の中で一番の幸せ者ね」
「ああ‥身に余る光栄です桃華様‥‥」

 桃華はここが見せ場とばかりに、急に声のトーンを落として、不安感を煽るような話し方に変える。

「でもね、逆を言うと主の居ない奴隷は不幸‥‥いや存在価値の無いゴミ屑同然なのよ」
「‥‥ゴミ屑‥‥‥同然‥‥」

 桃華の声につられてリーフは最悪の想像をしてしまう。
 顔面は蒼白になり、膝がガクガクと震えていた。

「そう‥‥もし奴隷が主に見捨てられたら、世界中の人がその奴隷を畜生以下のゴミ屑として扱うわ。それは死ぬよりもずっとずっと辛い事よ」
「あぅぅ‥‥嫌‥‥そんなの絶対嫌です‥‥」

 リーフの顔がさらに蒼くなり、震えも大きくなる。かつてクラスで迫害されていた記憶が甦り、恐怖に拍車をかけていた。
 ここまで怖がればもう十分だろう、そう判断した桃華は、リーフを恐怖の世界から安堵の世界へ引き上げる。

「安心してリーフ、私も火煉もリーフの事が大好き。だからリーフが奴隷として仕えている限り、見捨てたりなんかしないわ。リーフがいつも私達の事を第一に考えて命令に絶対服従していれば良いの。どう? とても簡単な事でしょう。そうしている限り不安が無くて幸せなのよ。分かった?」
「はい、私は常に桃華様と火煉様の事を第一に考え、ご命令には絶対服従いたします」

 先程の態度が嘘のように、リーフは安心しきった表情で、そうするのが当然の様に絶対服従を誓った。

「もうリーフは完全に桃華姉様と私の奴隷だね。嬉しいな」

 火煉は満悦の表情でリーフの後ろから抱き付き、首筋に息を掛けながら程よいサイズの胸を揉みしだく。
 リーフは気持ち良さそうに身体をくねらせ、悩ましげに吐息を漏した。

「ああ‥火煉様‥‥気持ち良いです‥あんっ‥」

 桃華もリーフの股間に顔を埋めて乱交に参戦する。リーフの桜色をした花弁の皺を舌で一つ一つ丁寧になぞった。
 上半身と下半身を同時に責められて、リーフは蒼と緑の瞳を蕩けさせるながら悶える。

「もう下準備は出来たみたいだし、リーフにも私達の下準備をしてもらいましょうか」

 そう言って桃華は下半身に力を込める。すると、女性器の上に立派な男性器が出現した。

「‥‥えぇっ?‥‥‥」

 リーフは桃華の異様な下半身を驚愕の眼差しで凝視しながら、素っ頓狂な声を上げる。
 眼前にそそり立つ女性にある筈の無い男性器を見て、普段は速い頭の回転が完全に停止した。

「火煉も火煉棒を出しなさい」
「はい♪」

 桃華の命令に元気良く返事をして、火煉も桃華と同じ物を股間に生やす。
 リーフはもう何が何だか分からないといった顔で立ち尽くしていた。

「リーフ、命令よ。私のペニスを舐めなさい」
「はい、畏まりました桃華様」

 桃華に命令された瞬間、リーフの頭から一切の疑念が消え去る。
 リーフは服従出来る悦びに震えながら、桃華の前に膝をつき、命令通り肉棒を丹念に舐め始めた。

「せっかくだから、奉仕の仕方も教えてあげる。火煉も手伝って」
「はい、桃華姉様」

 桃華と火煉は性に関する知識の全く無いリーフに、一から奉仕を教え込む。
 そして、真面目で物覚えの良いリーフは急速に上達していった。

「さて、準備万端整ったみたいだし、そろそろ本契約に入りましょうか」
「‥本契約‥‥ですか?‥‥」

 桃華の言っているのが何の意味か分からず、リーフは聞き返す。

「身も心も全てを捧げる証として、処女を差し出すの。それが奴隷の本契約よ」

 リーフは本契約の意味を理解すると同時に、忠誠心で凝り固まった目を輝かせる。
 これで心も身体も本当に主の物になる、奴隷の証を身体に刻んで貰える、リーフはそう思うと魂からの喜悦に震えた。
 
「はい、分かりました。桃華様‥‥火煉様‥‥どうか私の処女を受け取って下さいませ」

 リーフは全く迷う事無く処女を捧げる事を望み、二人に深く頭を下げる。
 この人形のように従順で美しい奴隷を、桃華は愛おしそうに見詰めて、鎮痛作用をブレンドした上に崔淫効果をMAXにした桃色吐息を吹き掛けた。
 桃色のガスがリーフの鼻孔から体内に入り込むと、とたんに目を熱く潤ませ、陶然とした顔を桜色に染めて、はぁはぁと甘い息を吐く。股間の蜜壷からは大量の愛液が流れ落ち、大洪水を起こしていた。
 
「リーフ‥‥貴女は最高の奴隷よ。だから私達も最高のロストバージンをプレゼントしてあげる‥‥火煉、行くわよ」
「はい! 桃華姉様」 

 桃華と火煉は薄笑いを浮かべて、歓喜に震えるリーフの前と後ろに移動して身体で挟み込む。
 姉妹は右手で固く反り返る突起を、期待にひくひくと蠢く花弁と菊門にそれぞれ導き、桃華はヴァギナに、火煉はアナルに、リーフの奉仕で十分に濡れたペニスを突き入れた。

 瞬間リーフの瞳孔と口が大きく開き、小刻みに痙攣しながら顎を天に向ける。
 目の奥では、激しい刺激に回線がショートし、バチバチと火花が散っていた。

 「‥あ゛ぐぅ‥‥‥がはぁ‥‥あ゛っ‥い゛っ‥‥」

 桃華は胸の突起同士を絡ませながら。最初ゆっくりと抽送し、次第にそのスピードを速めた。
 姉の動きに火煉も同調する。その火煉が持つ火煉棒は、リーフの身を案じ太さを三分の一程度に縮小していた。
 それでも、アナルの全く開発されていないリーフにとっては、凶悪な太さであった。
 桃華と火煉は事前の打ち合わせ通りに、乳房を押し付けるようにリーフの胸と背中を執拗に責めながら、左右のうなじを下からなぞるように舐め上げる。

「‥‥い゛い゛っ‥‥‥あ゛うっ‥‥ひぎっ‥‥ん゛っ‥‥うん゛っ‥‥‥‥があ゛あ゛ぁぁ‥」

 あまりの快感に膝の力が入らないリーフを、二人は交互に突き上げながら支えた。
 まるで二つの気筒を持つエンジンの様に、前後の穴を息の合った動きでリズミカルに蹂躙する。
 体内では、姉妹の亀頭がゴリゴリと薄壁越しに擦り合っていた。
 ジュポジュポと湿った音を響かせて、激しく攻撃されている両穴から、泡立った恥液がこぼれ落ち、牡丹色の絨毯を濡らす。

 リーフは理性の光が完全に抜けた目で天井を見ながら、二人の間で激しく揺れ動く。
 宙を掻きながら脱力と痙攣を繰り返す白い手足は、子供に振り回される木人形のそれを連想させた。

 リーフが限界を迎えつつある気配を感じ取った桃華は、かつて火煉に放った例の肉体改造薬をリーフの最奥に勢い良く打ち付ける。
 火煉も姉とほぼ同時に、直腸を埋め尽くすほど大量の淫液を放出した。
 身体から、処理しきれないほどの強烈な電気信号が、一気に脳へなだれ込む。

「‥‥あ゛ごぅぁ‥‥‥う゛ぇぉ‥‥‥‥い゛があ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぉぉっっ‥‥」
 
 直後リーフは絶頂と共に獣の様な断末魔を上げ、意識のブレーカーを切った。
 舌を垂らし弛緩しきった顔で、桃華に抱き抱えられながら、荒い呼吸を繰り返していた。

 普段からは想像も出来ないような、だらしない顔で気を失っているリーフに、桃華は気付け作用をブレンドした桃色吐息を吹き掛けてから呟く。

「今後の事を考えると、火煉にもリーフを大好きになってもらった方が良いわね」

 桃華は桃色吐息の用途を奴隷を作るという目的に限定するつもりは無かった。
 この高性能洗脳薬には他にも使い道がある。効果の実証はもう完全に済んでいるので、後は有効に使うだけであった。

 火煉とリーフをベッドに座らせて、火煉にも桃色吐息を吹き掛けた。
 桃色の息を吸い込んだ火煉の瞳から、快活そうな明るい光が失われていく。
 そんな火煉に、桃華は耳元から小声で囁くように話し始めた。

「火煉はリーフの事どう思っているの?」
「桃華姉様と私の可愛い奴隷です」
「あれ? おかしいわね、さっき火煉はリーフが奴隷になったら大親友になるって、約束していたでしょう?」
「はい、しました‥‥」

 火煉が肯定するのを確認すると、桃華は氷よりも冷たい声を火煉の耳に突き刺す。

「リーフはちゃんと約束を守って立派な奴隷になったわよ。火煉はリーフとの約束を破るの? 私そんな嘘吐きの薄情者大っ嫌いよ」
「あぅ‥‥私は約束を守ります‥‥リーフの大親友になります‥‥だから桃華姉様‥私の事嫌いにならないで‥‥」

 目に涙を溜めながら、火煉は精一杯の媚を声に込めてリーフとの友情を誓った。
 そんな火煉の態度を見てにこやかに頷くと、声を温かい物に戻して作業を続ける。

「火煉にとってリーフは何?」
「リーフは私の大親友です」

 火煉は何の迷いも無く、しっかりとした口調で桃華の思惑通りに即答した。
 桃華は火煉の作業が一段落し深く息を吐くと、今度は標的をリーフに切り替える。

「リーフは火煉の事どう思っているの?」
「私が心からお仕えする主様です」
「それだけ?」
「はい」
「でも火煉はリーフの事、大親友と言っているわよ。リーフは主の想いを無視するの?」
「‥‥あの‥‥ですが‥‥」

 リーフは困った顔をして俯く。
 使用人が主人と友達になるなど恐れ多いと思っているからである。

「じゃあ私が火煉の親友になる事を命じます。火煉もそれを望んでいるし、これで問題無いでしょう?」
「はい、問題ありません」
「リーフにとって火煉は仕えてる主にして大親友よ。分かった?」
「はい、分かりました桃華様」

 本題に入る為の準備が全て終了し、二人の正面に移動した桃華は、大きく深呼吸をして気合いを入れ直す。

「二人共よく聞いて、これから私の言う事は二人の将来に関わるとても大切な事だから、復唱しながらしっかり覚えてね」
「はい、桃華姉様」「はい、承りました桃華様」

「火煉とリーフは大の親友、そしてお互いに信頼し合う最高の仲間」
「「私達は大の親友、そしてお互いに信頼し合う最高の仲間」」

 桃華の厳かな声に、二人の完全に合わさった声が続いてゆく。

「火煉とリーフ、身体は二つだけど心は一つ」
「「私達は、身体は二つだけど心は一つ」」

「火煉とリーフは常に助け合い、協力し合い、高め合う」
「「私達は常に助け合い、協力し合い、高め合う」」

「勘と思い切りの良い火煉と一緒なら、どんな敵も怖く無い」
「勘と思い切りの良い火煉と一緒なら、どんな敵も怖く無い」

「素早い状況判断が出来るリーフと一緒なら、どんな状況も恐ろしく無い」
「素早い状況判断が出来るリーフと一緒なら、どんな状況も恐ろしく無い」

 ここに恐れを知らない最強の兵士が誕生した。
 桃華は自分の最高傑作を眺めながら、深々と愉悦に浸る。

「さぁ二人共もう休みなさい、自分の部屋に帰ってこの部屋での事を思い出しながら眠るのよ。いいわね?」
「「はい」」

 二人は同時に返事をすると、お互いの顔を見ながら微笑み合った。

「行こう、リーフ」

 火煉は言うのと同時に右手をリーフに差し出す。

「はい、火煉様‥‥」

 リーフも嬉しそうに応えて差し出された右手をそっと握った。

「お休みなさい、桃華姉様」「お休みなさいませ、桃華様」

 火煉とリーフは桃華に挨拶をして、手を繋いだまま退室する。

「少し仲良くさせすぎたかしら‥‥」

 桃華は一仕事やり遂げた顔でそう呟きながら、イスに腰を下ろし足を組むと、最後の難関アービス攻略に思いを馳せていた。

「‥‥‥桃華様‥‥‥桃華様‥‥朝で御座いますよ‥‥‥」

 リーフは桃華に呼び掛けながら、優しく揺する。
 朝に弱い桃華は寝ぼけ眼でリーフを見ながらゆっくりと上半身を起こした。

「‥‥ふぁぁ‥‥お早うリーフ‥‥」

 桃華は眠そうに大欠伸をして、寝癖のついた頭をボリボリと掻きながら朝の挨拶をした。

「‥お早う御座います桃華様‥‥お召し替えはこちらに御用意致しました‥‥‥他に何か御用は御座いませんか?‥」

 洗練された態度で挨拶を返したリーフは、寝起きの桃華に気を遣いながら話す。

「‥‥んー‥‥特に無いわ‥‥‥じゃあ朝のキスを‥‥」
「畏まりました桃華様」

 嬉しそうに布団を片付けるリーフの横で、ピンク色のショーツを脱いだ桃華は肉芽を肥大化させた。

「桃華様、失礼いたします‥‥」

 リーフはベッドに座る桃華の前で膝をつき、主を愛せる悦びに陶酔した顔を股間の一物に近付ける。
 色の違う両目を喜び一色に染め上げて、舌で亀頭部分全体を舐め回しながら、竿を柔らかい唇で挟み込むと、竿全体をマッサージするようにゆっくりと前後させた。
 しばらく前後運動を繰り返した後、顔を横に向け、先端を頬の裏に押し付ける。
 片頬をぷっくりと膨らませて、なめらかで弾力のある頬肉で亀頭を包み込んだ。
 ひとしきり頬で愛撫すると、また正面に向き直り、舌と唇を使った竿全体への奉仕に切り替える。
 まだ技術的に未熟な部分もあるが、心の籠もった熱心な奉仕に、桃華は温かくて心地良い悦楽を感じていた。

「‥出すわよ‥‥‥全部飲みなさいね‥‥」

 言った直後、肉棒から大量の粘液が放出され、リーフはそれを目を瞑りながら一生懸命に飲み干した。
 この粘液は精液でも愛液でも無く、桃華が体内で調合した、幸福感を増幅させる薬液である。
 すぐに効果が現れ、心底幸せそうに舌全体を使って残りを舐め取り、甘美な味に酔いしれた。
 こうやって普段の生活でも積極的に洗脳を深めさせる桃華であった。

「あ‥そういえば言い忘れていたわ。リーフが私と火煉の奴隷になった事は他の人には内緒よ」
「はい、心得ております桃華様、ですが‥‥」

 少し俯きながら、リーフは子供が親におねだりをするような仕草をする。
 何を言いたいのか大体想像がついている桃華は先を促した。

「何?」
「右目のコンタクトですが、やはり付けなくてはいけないのでしょうか?」

 リーフの変化を悟られない為には、当然付けた方が良いに決まっている。本人にもそれが分かっているからこその質問であった。

「コンタクトを付けたくないの?」
「はい、私の右目を綺麗だと言って下さる桃華様と火煉様に、ずっと本当の姿を見て頂きたいと思っております」
「アービスに見られても平気なの?」
「はい、別に何と思われようと構いません」

 リーフは真剣な眼差しを桃華に向け、はっきりと答える。
 もうとっくにリーフは覚悟完了していた。
 ここであっさり拒否すればご主人様失格、そう思った桃華はリーフの願いにGOサインを出す。

「もうコンタクトなんかする必要は無いわ。そんな物捨ててしまいなさい」
「桃華様‥‥有り難う御座います‥‥本当に‥有り難う‥御座います‥」

 桃華の言葉に満たされたリーフは、目に涙を溜めて何度もお礼を言った。

 その日の朝礼時、リーフは桃華や火煉と談笑しながら司令室に現れた。
 目の色と雰囲気が激変したリーフに、普段無表情のアービスが驚きの表情で感想を語る。

「‥‥‥リーフ、その目はどうした?‥‥‥すごく格好良いぞ‥‥‥○イエンタールだぞ‥‥‥ファイエルだぞ‥‥‥」

 驚きと興奮にアービスは目を星の様に光らせて、いつものように意味不明の単語を並べた。

「○イエンタール?‥‥ファイエル?‥‥」

 火煉だったらあっさり無視するのだが、生真面目なリーフはついつい聞き返してしまう。

「‥‥‥世界偉人伝を読め‥‥‥多分載ってる‥‥‥」

 本気なのか冗談なのか、その表情からは読み取れない。

「アービスも瞳の色が違うの気にしないんだね。私今まで必死に隠して、本当にバカみたい‥‥」
「‥‥‥昔の私みたいだな‥‥‥本当の自分を受け入れてくれる人が居れば‥‥‥それだけで幸せだぞ‥‥‥」

 黙って二人の様子を眺めていた男打も、嬉しそうな顔でリーフに声を掛ける。

「僕の言った通りだろう? ここにはそんな事を気にする奴は居ないって」
「はい、男打3佐の仰る通りでした。せっかくの助言を無視してしまい、今は申し訳なく思っています」

 そう言って丁寧に謝罪するリーフから、仕える者だけが持つ独特の気品が滲み出ていた。

「‥‥‥‥何か大人っぽいぞリーフ‥‥‥さては女に目覚めたな‥‥‥」
「もう、アービスったら‥‥」

 こう言う事には目敏いアービスの指摘に、リーフは頬を膨らませつつ目線で抗議した。

 某インドの山奥にある火力演習場では、レオタード型のプロテクトスーツ(デザイン:男打)を装着した三人娘が桃華の前に整列していた。

「これから高速で移動する敵を想定した訓練を行います。しっかり身に付くまで帰す気はありませんからね。ではまず火煉から」
「はい!」

 最初に指名された火煉は強風に顔をしかめながらも、元気良く返事をして一歩前に進み出る。
 真紅のプロテクトスーツ装着した火煉は戦士の顔付きで前を見据える。その凛々しい姿を見て、桃華の心臓がキュンと疼いた。

「それでは、訓練開始!」

 桃華は鋭い号令を岩山に響かせ、自動標的機の起動ボタンを押す。
 すると、輸送機のコンテナから一体のドローンが飛び出してきた。

「‥クソッ‥‥こいつ‥‥速いっ‥‥」

 早速、火煉は高速で飛行する皿型の標的に手を焼く。

「火煉‥‥標的の動きをよく見て進行方向を予測するの‥‥射撃訓練の時にやった偏差射撃を思い出して」
「はいっ!‥‥‥‥‥‥‥やった! 当たった!」

 たった一言のアドバイスで見事にプロミネンスショットを当てる火煉。桃華が羨むほどの天賦の才であった。

「凄いわ火煉‥‥‥じゃあ次! アービス」
「‥‥‥‥合点承知‥‥‥」

 桃華に呼ばれて、相変わらずの無表情で蒼いプロテクトスーツ着たアービスが前に出た。 

 三時間後、桃華は顔面蒼白になって呟く。

「ぜ、全滅だと!? 3時間もたたずにか!? 120機の『零式フライングソーサー』が3時間で全滅‥‥ば、化け物かっ!」

「あの、もっと撃ちたいです‥‥」
「‥‥‥‥桃華、もう打ち止めか?‥‥‥」
「桃華さん‥‥お願いします」

 三人が期待の眼差しを一斉に向ける‥‥視線のクロスファイアをまともに食らった桃華は決断した。

「どうやら秘密兵器を出すしか無いみたいね‥‥」

 桃華はそう言うと、乗って来た輸送船の中に入り、暫らくしてお椀を逆さまにしたような物体を抱きかかえて戻って来た。

「最新型の超高速飛行物体『アダムスキー号』よ。これって凄いんだから‥‥フフ」

 自信満々の顔で笑い、先端が丸くて赤い二本のレバーしかないリモコンを操作する。

「うわっ‥‥速い‥‥速すぎるっ‥‥」

 零式フライングソーサーを遥かに凌駕する高速に、火煉は目を丸くする。

「しかも、ただ飛び回るだけじゃないのよ」

 妖しい笑みを浮かべて、桃華は二本の巨大なレバーをガチャガチャと前後に動かす。
 すると円盤は火煉に向かって急降下してきた。

「‥‥え?‥‥嘘っ‥‥」

 火煉は全く予想外の出来事に一瞬硬直するも、直後に桃華の想像を越える反応を見せる。

「ゴッドアルファ・フレアフィンガァー!」

 気合いを籠めて叫んだ火煉は、直視出来ないほどの輝きを放つ右手を、向かって来る円盤に突き刺す。
 超々高温の右手は、戦艦にも使われている多重高強度複合装甲を溶かしながら円盤内に侵入し、内部から燃やし尽くした。

 これは、有効な使い方が思い付かずお蔵入りとなっていた技を元にして、敵に接近された状況での有効な対処方を模索していた桃華のアイデアにより、体術と組み合わせて近接戦闘用に改良した必殺技である。
 火煉は弱点であった近接戦闘を克服し、着実に桃華の望む完成形に近付いていた。

「‥‥‥さて‥‥‥次は僕の番だな‥‥‥」

 鼻息を荒くして前に進むアービスを見て、桃華の目が泳ぐ。

「はい! 訓練終了! みんな帰るわよ」
「‥‥‥桃華、僕の分は?‥‥‥」

 アービスは指を咥えながら、上目遣いで物欲しそうな顔をする。
 そんなアービスを桃華は敢えて無視した。

「今日の夕食はすき焼きだそうよ、楽しみねぇ‥‥」
「‥‥‥桃華、僕の分‥‥‥」

 その日の夜、リーフの身体に異変が起きていた。

「‥‥はぁ‥‥はぁ‥んぐっ‥‥うっ‥‥」

 リーフはベッドの上でシーツを力一杯握り締めて、苦悶に呻きながら、歯を食い縛り必死に耐えていた。
 玉のような汗を額に浮かべて、貪るように呼吸をしながら、激しく頭を左右に振る。
 身体全体が小刻みに痙攣する中、無意識にパジャマの胸元に爪を立て、強引に引き裂きボタンを弾き飛ばした。
 すると形の良い双丘が露出し、胸部のゴッドアルファ・コアが放つ眩い光が部屋を照らした。

 突然リーフの身体が、劇的に変化していく。
 呼吸と共に上下している乳房が次第に膨らんでいき、雪の様に白い美乳が浮き上がる。
 骨が軋むような嫌な音を立てつつ、ほっそりとした手足が伸び、女神像の様に流麗なスタイルを形作った。
 緩やかなカールを描く長髪も、根元から徐々にエメラルドグリーンへと変化し、宝石の様に美しく輝いていた。
 髪と同じ色に染まった淡い茂みの下では、淫核が急速に膨張し若草色のショーツを盛り上げる。
 今まで一度も触った事の無い過敏な肉芽が布地と擦れ合う度に、痺れるような感覚が脳に伝わり、苦痛に眉を寄せながらも官能的な喘ぎ声を漏らしていた。

 身体の変化が終わりコアの発光が収まるのと同時に、嘘のように苦痛が消え、心地良い清涼感に包まれる。
 リーフが股間から這い上がる甘い刺激に心を委ねて、気持ちよくまどろみかけた所で、そのタイミングを見計らったようにインターホンの電子音が鳴った。

 自室で大鳳に関するデータを整理していた桃華は、嫌味なほど高い戦闘能力に溜め息を漏らしていた。
 いくら調べても弱点や死角が見当たらない。やはり彼らを凌駕する圧倒的な力が必要だという結論に至る。

「さて‥‥リーフの方はどうなったかしら‥‥」

 桃華はリーフに肉体改造薬を使った。
 不確定要素が多く実際何が起こるか分からないのだが、サンバーンを宇宙最強のチームに育て上げるには必要だと判断したからである。
 リスクもあるが出来る事は何でもやっておかなくてはならない。そう考えねばならぬほど桃華の睨む仮想敵は強大であった。

 もうすぐ、その結果が部屋に到着する。

 コンコン‥‥‥合成樹脂製のドアから、乾いた音が桃華の部屋に響く。

「‥‥桃華様、リーフで御座います‥‥」

 桃華はリーフ独特の柔らかくて気品に満ちた声を聞くと、期待と不安が混在した声で返答する。

「‥‥いいわよ、入りなさい」
「失礼いたします‥‥」

 ドアがゆっくりと開き、そこから滑らかなエメラルドグリーンの髪としっとりとした真っ白い肌を持つ、神秘的な全裸の美女が現れた。

 スラリと伸びた手足に、肉感溢れる豊満なバスト、身体から放たれる極上の色香は、部屋全体の雰囲気を変えてしまう程であった。
 左右で色の違った瞳は、両方共まるでエメラルドを嵌め込んだかのように変わり、温かく澄んだ光を湛えていた。

 外見は大きく変わったが、リーフの清楚な雰囲気は失われていない。
 纏っているオーラの質も変わり、桃華はリーフの力を本能の部分で感じていた。
 そして肉体改造薬が問題無く作用しているのを確認出来た事に、安堵の溜め息を漏らす。

 桃華は眩しいほどの美しさと、高貴で扇情的な魅力を放つリーフの裸身を見て、森の女神が目の前に降臨したかのような錯覚を覚えた。

「桃華様‥‥あの‥‥全てお言い付け通りに致しました‥‥」

 リーフは何とか声を絞り出し、無言でリーフの観察を続ける桃華に報告した。

 桃華の命令により、何も身に付けずにここまで歩いて来た為、羞恥で顔が桜色に上気しており。
 股間から伸びた肉棒は燃えるような熱を放ち、ビクンビクンと心拍に会わせて跳ね上がっていた。

 この神々しい女と一つになりたいという願望が胸の奥から湧き上がり、桃華は劣情の籠もった熱い息を吐く。
 桃華の身体全体を舐め回すような視姦を受け、リーフは少しうつむきながら火照った身体を震わせていた。

「リーフ‥‥こっちにいらっしゃい‥‥」
「はい、桃華様‥‥」

 桃華は己の欲望を隠しもせずに、艶めかしい舌で桃色の唇を舐めながらリーフをベッドへと誘う。
 主人が自分を求めている事を悟ったリーフは、恥じらいながらも期待に胸を高鳴らせた。

「本当に綺麗‥‥」

 桃華は嬉しそうにそう呟くと、リーフをベッドの上に仰向けで寝かせて、その上から覆い被さるように身体を重ねた。
 お互いに熱を帯びた視線を絡ませながら、乳首同士を円を描く様に捏ね回す。
 リーフは歓喜に震える細い手で桃華の首を抱き、桃華は肉芽を肥大させて亀頭をリーフの腹部に当てる。
 リーフの若くて張りのある乳房と、桃華の淫猥で柔らかい乳房、質の違う互いの双丘が淫らに形を変えながら混ざり合っていた。

「‥‥あぅ‥凄く‥‥気持ちいい‥です‥‥桃華様‥‥素敵‥‥はぁぁん‥‥」

 口の端から涎を垂らし浅ましく嬌声を上げるリーフの様子を、楽し気に眺めていた桃華は、熱い昂ぶりに身悶えるリーフの身体に吸い付くように密着する。
 リーフの肉棒は二人の柔らかい腹部に挟み込まれ桃華の固い肉棒と擦り合う、生まれたての敏感な肉棒から流れる強烈で甘美な刺激に、リーフの脳はどろどろに蕩けた。

「も‥‥桃華‥様‥‥あんっ‥‥」 
「あら‥もう限界?‥‥本番はこれからなのに‥‥フフ」

 自分の下で激しく喘ぐリーフの表情と下腹部で小刻みに痙攣する肉棒から、桃華は限界を感じ取り、さらに腰を強く押し付けて大きくグラインドさせた。
 容赦の無い責めに止めを刺されたリーフは、白目を剥き呼吸すら出来ずに全身を硬直させる。
 肉棒からは大量の白濁液が勢い良く飛び出し、上で絡み合う四つの膨らみを白く染め上げた。

 桃華は舌を垂らして荒く息をするリーフの頬に軽く口付けをして、身体を少し下にずらすと、豊満な乳房に付着した粘液を舐め取り始める。
 いやらしい舌使いで淫液を存分に味わった後、頂上で固く尖っている突起に口を付け、吸い上げながら舌でコリコリと刺激した。
 女の身体を知り尽くした桃華の執拗な攻めに、リーフは胸の奥から次々に官能を引き出され、さえずる様に喘ぎ声を漏らして、手足を小刻みに痙攣させていた。

 大量の欲望を吐き出しても尚、リーフの剛直が固く反り返っているのを確認すると、半身を起こして騎乗位の体制を取り、左手でリーフの亀頭を入り口に誘導しながら一気に腰を沈めた。

「あがっ‥‥‥はひぃ‥‥ぐあぁぁっ‥‥」

 突然に襲い掛かる凄まじい快楽に、リーフは半狂乱になり滅茶苦茶に頭を振る。
 桃華はそんなリーフを見て愉悦に浸り、右手で自分の一物をしごきながら腰を八の字に振って、下半身のバネを目一杯に使い激しく身体を上下に動かす。
 柔らかい乳房を揺らせて、淫らな喘ぎ声を漏らす桃華の下では、結合部から洩れた愛液がエメラルドグリーンの茂みを濡らしていた。 
 卑猥で湿った音が段々と大きくなり、深く交わった主従が今度は同時に昇りつめる。

「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん‥‥」「ひぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ‥‥」

 二人の甲高い悲鳴が室内に響き渡った。
 そして桃華の分身から飛び出た白濁液が、リーフの神々しい顔を汚す。
 リーフは汗で全身を濡らして脱力し、桃華は咥え込んだ肉棒を解放すると、満足気な表情でリーフの横に寝転がった。
 桃華の放出した淫液の温もりを肌で感じて恍惚に浸りながら、リーフは透き通るように白い指で丹念に淫液を掻き取り口に運ぶ。

 桃華は息を整えると首を横に倒しリーフに目を向ける、すると桃華を見詰めているリーフと目が合い、とたんにリーフは赤面した。

「リーフ‥‥凄く気持ち良かったわ‥‥」
「有り難う御座います桃華様‥‥私も‥その‥‥とても気持ちが良かったです‥‥」

 リーフは、主を喜ばせる事が出来た充実感に、心底嬉しそうに微笑む。
 それは、見る者全てを安心させる、豊かで仁愛に満ちた森の女神の微笑みであった。

< 真・後編に続く >

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