Bloody heart 五話

五話

「一点、一点、一点、こちらが二点……以上、一二点で合計、二千飛んで三四円になります」
 精一杯の営業スマイルを浮かべながら、夕食の買出しに来たオバハンから、千円札二枚と五〇円玉を受け取る。
「ありがとうございます、二千と五〇円、お預かりします。
 えーおつりが、一六円のお返しになります。ありがとうございました、またお越しくださいませ~♪」
 愛想笑いを浮かべつつ、手元はすばやく、かつ正確にバーコード読み取り機を通す。
 重たいものや頑丈なモノは底に、柔らかいもの、壊れやすいものは上に、籠の中に積み上げる。
 一人一人に時間をかける余裕は無い。
 何しろ今は、夕方の書き入れ時。主婦を中心とした買出し軍所属の混成部隊が、次から次へと波状攻撃を仕掛けてくる正念場だ。
「伊藤さん、すいません、レジがバーコード読んでくれないんですけど!?」
 つい昨日入った、新人君の女の子――と、言っても俺より年上なのだが――が、泣きそうな顔で、行列の『早くしろ』プレッシャーの中、バーコード読み取り機と悪戦苦闘していた。
「あーそれ、型が古いし、前から少しオカしいから、読み取りにコツが要るんだ」
 目線と会話は新人君に向けながらも、手元はバーコード読み取り機に正確に商品を通し続ける。
 一応、手元には事務所直結の応援ボタンが存在するが、人手不足&後日の商品発注がデッドラインの今、レジに裂く増援は期待できない。
「はい、二三点で、合計三二五〇円のお買い上げになります。あ、丁度お預かりします。ありがとうございました、またお越しくださいませ♪ ……あ、お客様、少々お待ちください」
 軽く拝み手で客に断ると、新人の人の入ってるレジに向かう。
「田辺さん、レジ交代しよう。そっちじゃまだ無理っしょ」
「すいませーん!」
 半泣き入った新人君と、レジの位置を交代。
 ぶっちゃけ、エラーでよく止まる1番レジなんざ使いたくないのだが、この状況じゃ流石に新人に任せるワケにもいかない。
 ……いい加減、買いなおすか修理に出せよ、このレジ。
 たどたどしいながらも、何とかマニュアル通りに仕事をこなす田辺さんを尻目に、俺はやたらと読み取りにコツと熟練を要するポンコツを相棒に、客の行列を処理しにかかった。

「あー……疲れた」
 バックヤード……いわゆる、倉庫の端っこが、俺こと伊藤清吾のバイト先である、スーパー『マルトミ』の店員の休憩室だ。
 時刻は買い物タイムが終わり、そろそろボツボツと売り切りの値引き品が出始める頃合。
 そんな中、俺はビールケースを逆さにした椅子に座り込み、立ちっぱなしだった足を放り出して、休憩をとっていた。
「お疲れ様~大家さん~♪」
 ひょい、と頬に当てられる、冷たいトマトジュースの缶詰と間延びした声。
「あ、お疲れ様です。ありがとうございます」
 俺の後ろに居たのは、白衣の作業着姿にアップに纏めた髪の毛を三角巾で覆った、ぱっと見二〇台とも四〇台とも取れる年齢不詳の女性……惣菜売り場の調理主任、海野 栄子(うんの えいこ)さんだった。
 浅黒い肌に一本線の細い目で、いつも笑顔を絶やした事が無く、少し間延びしたユーモラスな口調が特徴的な彼女だが、彼女の惣菜は近所でも評判で、このスーパー『マルトミ』の売り上げの一角を占めている。
「って、栄子さん。『大家さん』ってのは……ここじゃちょっと」
 苦い顔を浮かべながら、貰ったトマトジュースのプルトップを空けて、軽く一飲み。
「あら~ごめんなさい~ここじゃ『伊藤君』だったわね~♪
 でも~偉いわよ~伊藤君~。
 両親が残した~土地建物の家賃だけで食べて行けるのに~わざわざアルバイト止めないで~学校にも真面目に通ってるなんて~。
 まったく~ウチの娘にも見習わせたいわ~」
「いや、それでも色々あって以前に比べれば、大幅にバイトの時間削ってもらってますし……って、娘さん、居たんですか?」
 初耳である。
 そういえば彼女の正確な年齢を、俺は知らない。多分知っているのは履歴書に目を通した店長くらいだろうか?
 確かに、顔だけを見れば二〇台とも四〇台とも判別はつきにくいが、よく見れば地味で質素な白衣の作業着の上からも熟れた肉体の膨らみが見て取れるし、彼女は既婚『だった』のだから不思議ではない。
 そう、過去形で語った通り、彼女は未亡人であり……俺が心から尊敬した人物の細君でもあったのだ。
「知らなかった~? こっちであの人と『一緒に暮らそう』って言ったのに~私が家を継ぐんだ~って言って~。
 本当に世話の焼ける娘だったわ~」
「へー? 栄子さん、何か由緒ある旧家の出なんですか?」
「まあ~そんなものよ~」
 彼女の回答に、さもありなんと俺は思った。
 このおっとりした言動と、折々に見せる上品な立ち振る舞いは、そういった生活の賜物なのだろう。
「それより~試しに作ってみたの~。新作のお惣菜~」
 差し出された発泡スチロールのトレイに乗っていたのは、トマトホールと何かのハーブを使った肉炒めだった。
「あー、ありがたく頂戴します」
 一口、つまむ。
 ……美味いな。
 人外に成り果てた俺の味覚だが、それでもこの惣菜は口に合った。
「美味しいです」
「本当ー? おうちで試作したんだけど~評判聞いて回ってるの~」
「あー、でも、俺の意見はあまり参考にしないほうが。味音痴だし」
 というか、既に人間じゃあないし。
「大丈夫よ~♪ じゃあ~私はこれで~……あ、その料理、全部食べちゃって~」
 既に惣菜コーナーの商品たちには、値引き札が貼られ始めている。
 栄子さんたち調理師の人たちは、もう後片付けに入る時間帯だ。
「うーい、ありがたく頂戴しまーす」
 久方ぶりの『固形物』を胃に収める。
 味に関しては血を啜るのとは比にならないが、それでも『モノを喰っている』という感覚が久しぶりなため、味覚とは別の感動があった。
 で、ペロッと一皿平らげて、時刻を見ると、休憩時間もそろそろ終わりだった。
「さーて、ラスト二時間ちょい、気合いれていきますか!」

「んっ……んっふ……ちゅばっ……」
 アルバイトを終えて家に帰った俺は、机に向かって教科書を開いて今日やった授業内容の復習のペンを走らせながら、現時点で唯一の奴隷に『餌』を与えていた。
 股間のジッパーからいきり立った肉竿に、机の下からしゃぶりつくセラが、両手をつかって肉竿をしごきながら、必死になって精を求めてくる。
「ご主人様……」
 完全に情欲に支配された表情で、潤んだ目線を机の下から向けてくる。
「ああ、あと三ページな」
「あ……あの……おねがいします……もう」
「誰もお前を抱く、とは言って無いぞ?」
「そう、ですけど……」
 かといって不躾に跨ってきたりはしない。何故なら、彼女は奴隷だからだ。少なくとも……自分を『そう思い込もうとしている』のは、かなり問題だ。
 ……なんとかしないとなぁ。
 ペンを走らせ終えて、机の下に目をやると我慢の限界に達したのか、片手では奉仕を続けながらも、もう片手で自らを慰め始めていた。
「なあ、セラ。
 正直、俺にはお前をどう扱っていいのか分からん。俺は基本的に奴隷など望んではいないし持ちたくも無い……というかだなぁ」
 立ったものをズボンの中に強引におさめると、ため息をつき、すぅっ……っと大きく息を吸い込んで
「いい加減自立しろ、このNEETォォォォォォ!」
 思わず叫んでしまった。
 そう、精気だけではなく俺の血も少し分け与え、今ではちゃんと自我が『無くてはいけない』状態なハズなのである。
 だと言うのに『私はご主人様の奴隷です』などと未だに言い張って居座っているのだ。
「……下僕に『自立しろ』ってのも、随分変わった吸血鬼ですね、ご主人様」
 いろいろな意味で正論な突っ込みだが、それには理由がある。
「お前が変なんだよ!
 魔眼も強化されてるし! 主の血も分け与えられて、今は自分の意思で、夜を歩けるようになってるはずなのに! 一体、あと何が足りないんだ!?」
「ご主人様の愛でしょうか?」
「ネェよ! そんなもん!」
 『さあ、森へお帰り』と放しても戻ってきてしまう珍獣相手に、本気で痛くなってきた頭をかかえる。
 ……失敗した。本気で失敗した。
 後悔先に立たず、とはこの事だろう。
「ご主人様……私、その、そんなに下手ですか?」
「いや、悪くは無いんだけど……って、そーじゃなくて、いろいろ困るんだけど、例えば」
「やっほー、セイくーん♪」
 ニコニコ笑顔のまま、ベランダから淫魔姿で入ってくる佐奈を前に、俺は硬直した。
「……お、おいっす」
「おいっす♪ で……なんでまだ『これ』が居るのかな? 捨てておくって話じゃなかったっけ?」
 笑顔のままの佐奈だが、足取りは大魔神(あるいはガ●ダム)のソレだ。
 ……怒ってる。あれ、絶対怒ってるぞ。
「いや、ちゃんと『森へお帰り』と放流したんだが、そのたびに帰ってきちゃって」
「ほほう♪ 『弁当』と『地図』を持たせて?」
「いや、それくらいはしとかんと無責任だろ?」
「ふーん? つまり、セイくんはこれから何百年か何千かダークストーカーとして生きてる間、食事した相手全部に、そこまでしてフォローしていくつもりなんだ?」
 笑顔のままでゴリゴリと怒った声音で、ずいずいと迫ってくる佐奈。
「いや、最近、『ツマミ食い』を覚えてきたから、そこまでなる事は多分無いと思うけど……」
「『作っちゃったものはしょうがない』とでも言いたいのかな? かな?」
 顔はあくまで笑顔のまま。
 だが……佐奈の翼の禍々しさが増して、微妙にギラリと硬質な光りを放ちはじめたのは、気のせいだろうか?
 と、
「そんなにご主人様を取られるのが、不安なんですか?」
 これまた、ニコニコ笑顔のまま、無用な挑発をするセラ。
「っ!! だっ、誰が! あんたなんか、コイツの所有物なんだからね! モノよ、モノ! 人形と一緒よ?」
「ええ。だから、ご主人様好みに、弄って作り変えていただけるの。この体をご主人様の欲望に染めていただけるの。
 ……奴隷じゃない貴方には、理解できないでしょうね、この悦楽」
「……ふーん。つまり、今の貴方の姿は、セイくんの『理想像』ってわけ?」
「ええ、私はご主人様の物ですから」
 だんだんと、硬直した笑顔すらも維持できなくなってきたのだろう。ギギギギギ、という音を立てそうな首の動きでこっちに向き直る佐奈。
 いかん……このまま顔の前で両腕を交差させたら、大魔神の本性が現れそうだ。
「待て、佐奈! その、なんだ……あー」
「ん、なあに? セイくん? 言いたい事はハッキリと」
 さて、どうしたものか。
 暫し、頭を巡らせて、何とかこの場を収める言葉を考える。
 とはいっても、嘘はよろしくない。こういう場合についた嘘は、闇金の利息以上に高くつくのが相場だ。
「あー、なんだ。お前は凄い女だ。俺の想像もつかないような」
「……だから?」
「えーと、だからな、要は……そう、誰かが言ってたんだが、『理想』ってのは『最高』足り得ないって事だ。
 あれだよ、ほら。頭の中でアレヤコレヤ想像してソレを具現化した所で、それはあくまで『理想』でしかなくて、『最高』ってのは常に現実の予想もつかない中からしか、生まれないっていうか……あー、要するにアレだ、オナ○ーだけじゃイクだけ空しいっつーか、同じ出すならお前の中でというか……」
 しどろもどろのアレヤコレヤの弁明をしながら後退する俺を、佐奈は笑顔のまま壁際まで追い詰め……どん、と壁に手をついてキスをしてきた。
「分かってるのならよろしい♪」
 ニッコリと、天使のような笑顔を浮かべる悪魔。
 ……良かった、何とかソレナリの回答だったようだ。
「じゃ、たっぷり絞ってあげるね♪」
「え、いや……あの」
 潤んだ目で俺たちをセラが見つめていた。
「なにか気になるものが?」
「いや、第三者がいると、俺が落ち着かないんだけど」
「アレはモノで、お人形でしょ? だったら気にならないわよね? ね?」
 ぐぐいっ、と押し倒してくる佐奈。眼鏡越しに輝く瞳が……まじで怖い。
「それじゃあ……『最高』を味あわせてあげる」
 ズボンのチャックを下ろして、ぴょん、と反り返った俺の竿に、佐奈が舌を絡ませる。
 長く伸びた舌が二枚、そのまま押し包むように……って!!
「っ、さっ! 佐奈! そっ」
 鈴口から進入する、三本目の細長い舌が、肉竿の芯を直接刺激してきた。
「んふ……んっ……ちゅぼっ! ちゅぼっ!」
 さらに、豊かな胸の谷間に挟みつつ、陰嚢までやわやわと刺激してくる。何より、二枚……いや、三枚に増やした舌を使ってのフェラチオは、強烈なまでの刺激と淫猥さだ。
 完全に脈打つスジを表面に浮き立たせ、自分でも見た事が無いほどの長さと太さまで勃起していた。
 と、同時に……猛烈な欲求が訪れる。
 射精の衝動だけではなく……ああ、そう。支配欲、という奴だろうか?
「……」
 調子が狂っているのは分かる。分かるんだが……もうどうしようもなかった。
 気がつくと、俺は肉竿を咥えている佐奈の頭を両手で掴み、強引に喉までいちもつをねじ込んで、腰を動かしていた。
「んんんーっ!! んぶぶうぅ!!」
 目から涙を流しながら、それでもなお佐奈の舌は竿を刺激し、受け入れようと喉奥まで飲み込もうとする。
「っ……おぉぉぉぉぉっ!!」
 程なく訪れた射精の衝動。
 口にぶちまけた精液の勢いが止まらず、おもわず口を外した佐奈の顔を、はねた肉竿から飛び出した。
 ぶちまけた精液の一部が、鼻まで逆流したのだろうか、白いものが混ざって、それが酷く淫猥に顔を彩る。
「んっ……はぁ、はぁ……せ、セイくん……」
「佐奈……お前が……お前が悪いんだぞ!」
 自分の服をひきむしり、ついでに佐奈のボンテージまで引き裂いてうつぶせに転がすと、腰を抱き上げて出したまま収まらないものを背後から中まで、一気に突き入れた。
「っあああああああっ! せ、セイくっああああああああ!!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ! お前が、お前が!!」
 己の中に足りない欲望を満たすために、俺はそのまま佐奈の首筋にかぶりつく。
「っあああああ!! ひいぃぃぃぃぃ!!」
 目を白黒させながら、それでも佐奈の肉ひだは、俺のモノをしゃぶりつくすように絡み付いてくる。
 程なく達した肉竿から溢れる精液が、佐奈の中を蹂躙する。
 そのまま、口と後ろと前と、合計で十三回ほど欲望の滾りをぶちまけ、その倍以上の数の絶頂に上り詰めて、気絶と覚醒を繰り返した挙げ句、目を虚ろに開けたまま完全に反応しなくなった佐奈を放り出し……ふと、目をやると、セラが切なそうな顔で涙を流していた。
「這いつくばって、尻を上げろ」
「はい、ご主人様」
 嬉々とした顔で尻を持ち上げるセラの中に、俺は佐奈が受けきれなかった欲望の余りを叩き込んだ。

「………………………………………………………………」
 非常な後悔と共に、目が覚めた。
 大の字に寝てる俺の両腕を枕にして、セラと佐奈が左右でスースーと寝息を立てながら、寄り添うように寝ている。
 ……どーしょーもねーな、俺って奴は。
 二人とも、精液まみれで服は手荒に引き裂かれ、まるでレイプされたような……というか、レイプそのものの有様だ。
 特に佐奈は酷い。精液のプールで溺れたかのような白濁まみれに、引き裂かれた黒のボンテージ姿が……まあ、我が身の所業の痕跡をガッツリ主張していた。
「……ごめんね」
 ふと……意識が戻ったのか、頼りなげに俺の胸を撫でる佐奈。
「……最後まで満足させられなかった……」
 その言葉に、俺は思わず口走っていた。
「馬鹿。なに言ってるんだ」
「……気持ちよかったの。気持ちよすぎて……もっと欲しくなっちゃって」
「しっかりしろって」
「無理……こんなに激しくて気持ちいいの。これが、セイくんの欲望なんだね」
 淫猥に蕩けた顔のまま、佐奈はズレたメガネを外すと、そこにこびりついた生乾きの精液を舐る。その姿が……また、そそった。
「でもね……とりあえず、セイくんの『理性』には勝ったから良しとするわ」
「ん?」
 体を寄せて、胸を押し付けてくる佐奈。その顔が酷く魅力的な笑顔を浮かべている。
「セイくんって、セイくん自身を支配する力が凄く強いから、欲求はあってもソレをコントロールする事に慣れているじゃない」
「そりゃ、俺だって聖人君子ってワケでもないしなぁ。欲望が無いワケじゃないし、っつーか、そーいうのが『無い』ってのは人間としてどーかと思うし」
 支配欲やら、性欲やら、あれやこれや醜い欲望……今の佐奈の有様が、それを如実に示していた。
「そう、セイくんはセイくん自身に手綱を強く持っている。でも……」
 そのまま、甘やかな舌づかいで、首筋から舐ってくる。
「私は、その手綱を断ち切れる。セイくんを『伊藤清吾』じゃなくて制御不能のケダモノに作り変えられる」
「馬鹿、こら」
 押しのけようとするが、佐奈は構わず体ごと摺り寄せてくる。
「問題はそのケダモノが底なしだって事なんだけどね……まあ、ダークストーカーの生涯は長いって言うし」
 唇を寄せてくる。
 俺の精液に蹂躙されたはずの口は、しかし確かに濃厚な佐奈の味がした。
「一生をかけて飼い慣らしてあげる、私だけのケダモノに」
 サディスティックな光が、その目に浮かび……次の瞬間、俺は佐奈を押し倒し、いきり立った下半身を目の前の雌に突き入れていた。
「っあああああっ!! やあっ!! そんな、激っあああああ!!」
 雄に蹂躙され、雌が啼く。
 二頭のケダモノが、再び夜に吼えた。
 ……つくづく、どーしょーもねーな、俺って奴は。

 拳を突き出し、腕を振るう。
 夜の公園で、動き易い姿のまま、俺は想乱……ボクシングで言うところのシャドーを続けていた。
 あの後、佐奈は再び気絶してしまい、再度自己嫌悪に陥った末に、とりあえず邪念を払おうと、体を動かしにかかったのだ。
 健全な肉体に健全な精神が宿る……とは限らないが、とりあえず精神力を鍛えるのに体を鍛えるのが、一番手っ取りい手段なのは事実である。何しろ、あまりの手っ取り早さのために、それが『万能』だとか『唯一絶対』などと勘違いする大馬鹿様が絶えないため、確かに酷くイメージが悪い思想ではあるのだが……『他人を支配するより、己を支配せよ』という、俺自身の理想からしても、自分の体を自分で思うように動かせる事は重要だった。
 今、イメージしている対戦相手は、俺にとって尊敬する『兄貴』であり、俺が通っていた道場の兄弟子で師範代だった人物。
 無論、もうこの世に居ない相手だが……それでも技の見事さ、いや、そんなもの全て含めた『立ち振る舞い』が、目に焼きついている。
 強い、だけではない。華麗さとか、見事さとか……そういったのも全部含めて『凄い』としか言いようの無い相手だった。
 そんなイメージの中の相手に向かって、延々と想乱を続けること、一時間。
「ふぅ……ダメダコリャ」
 ……結局、空想の中ですら、一本も取れなかった。
「参ったな」
 ベンチに腰を下ろすと、手をかざして月にむかって延ばす。
 なんとなく、手が届きそうだったのだが、そんなわけはなかった。
 と……
「こんばんは、いい月ね」
 一人の女の子が、そこに居た。
 年の頃は俺たちと同じ年くらいだろうか?
 妙にギラギラした装飾過多な、肌も露なというほどでは無いにせよ露出の多い服を着て、腰には左右に二本の刀を下げている。あまつさえ、頭の上に乗っかっているのは『海賊船の船長』が装備している、あの船形の大きな帽子である。さらに髪の毛は、良く見るとイカの足やら海蛇やらで構成されていて……どう見ても人間じゃあなかった。
「貴方が、伊藤清吾よね?」
「……ああ、そうだが」
 敵か、とも思ったが殺気が無い。
「なら、良かった。パーレイに従って交渉に来たわ」
「パーレイ?」
 聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。
「知らないの? 野蛮人? あ、陸の人だし、海の事は分からないのかな?」
「ちょい待て、パーレイ……ああ、確か……『海賊の掟』だっけ?」
 確か、そんな言葉を何かの映画で見た記憶がある。あれは……なんだったっけ?
「正解。まずは交渉、ってこと。形式だけになるかもだけど、一応ね。海賊って紳士なのよ」
「はあ?」
 髪の毛代わりにウネウネと蠢く、イカの足やら海蛇やらを無視すれば、なるほど顔つきは美少女といっていい相手だ。
 だが、交渉?
「言っておくが、俺の両親が残した遺産なんて、もうあんま無いぞ? 親戚に分けて、ほとんど残ってない」
 それでも、俺一人が『人間として生きた場合』一生食うだけなら困らない程度はあるが……。
「そんなんじゃないわ。私が譲って欲しいのは、あなたが持ってる私のパパの遺産」
「パパ?」
 目の前の人外の少女の問いに、彼女はニタリ、と笑った。
「名乗るのが遅れたわね。
 私は『笑う鮫(ラフィン・シャーク)』海賊団の三八代目船長、ナタリア・M・アルバトロス。あなたが継いだ『遺産』の持ち主……『覇王』の娘よ」

 びっくりである。
 そうか……そりゃ、そうだよな。
 あの赤井美佐が『側室』とか言ってたから、そりゃ例の『覇王様』が子供の一人二人製造してても不思議じゃないよな。……いや、我が身に起こった、あの強烈な衝動を省みるに、ダース単位で製造している可能性だってある。
「まあ、お前さんの動機は分かった。要は、親父さんが残したモノだから自分が継ぎたい、って事か?」
「んー、まあ、それも無いわけじゃないけど……うちの海賊団が、魔界を丸ごと乗っ取ろうかなー、って。んで、その力が必要だから、こうして貰い受けに来たの♪」
「……はあ?」
 どー考えても頭の悪いとしか思えない内容に、俺は疑問符を禁じえなかった。
「……えーと、つまりそれは……パパの後を継ぎたい、って事じゃなくて?」
「違うわ♪ 私が・次の・王国を・作って・初代になるために・パパの力を・丸ごと・略奪しに・来たの♪」
 ……なんというか。イロイロな意味で問題がある本音が聞こえてきた。
「うーん、胸のスケールはともかく、夢のスケールの大きさは認めるけどさ。お前、実はあまり頭良くないだろ? 実際俺、略奪とか支配に興味ないし」
「あら? あなたはそうじゃないの?」
 それが、どんな物なのかと、彼女の興味をそそったらしい。俺は、俺自身の希望を率直に話した。
「どっちかっつーと、他人より自分を支配したい、ってクチでさ。何よりその……なんだ、まあ、イロイロあったのさ」
「……は?」
 何かこう……白けきったような目線を向けてくるナタリア。
「……えーと、ごめん、ちょっと教えて。『自分で自分を支配する』って、何? あなたは何かの奴隷なの?」
「いや、一応、社会的立場は普通の人間で学生、かな。奴隷になった憶えは無いな」
「んー、ごめん。言葉の意味が理解できないというか……それって何の意味があるの?」
「重要な事だろ? 人生において、自分が主役であるって事」
「そんなの当たり前じゃない。誰より笑って誰より怒って、誰より強欲に。それを突き詰めて行けば、自ずと世界の王になれる……ああ、そういう事?」
「……他人のモノを略奪しようとは思わない。っつか、他人の手垢のついた代物に興味は無いし」
 そう、詰まる所……俺の欲望は、そういう類のものなのだ。エゴイストという点では、目の前の少女と共通している。方向性は少し違うだけで。
「青いわねぇ。そんなの無理に決まってるじゃない。あんたドコの聖人君子?」
「そうか? でも、お前こそ、奪うものや支配するものが無くなったら、どうするんだよ?」
「そんなの『次』の獲物を見つけて襲えばいいだけよ」
 その、頭弱いまでにシンプルな理屈に、思わず俺は笑い出してしまった。
「馬鹿にしてるの? だとしたら、交渉の時間はこれまでよ」
「いや、関心してる。『馬鹿はお利口さんより強し』って格言は、確かに真実だ」
 まさに、『あの人』を彷彿とさせる言葉に、デジャヴを感じてしまった。
 だからこそ……
「ごめん。ナタリア船長。俺は、君のパパの遺産を渡したくはない」
「……なんでそこで謝るのかは分かんないけど、まあ、それは分かってたわよ。パパの遺産の力が無いと殺されちゃうだろうし」
「まあ、それもある。それに何より……一人、な。一人だけ、どうしてもモノにしたい女が居る。そいつは凄い奴でなー」
「えっと、それは人形とか奴隷にするとかじゃなくて?」
「ああ。しかも結構オッカネェ女でなー、情が深くて嫉妬深いから、君と話をしている現場を押さえられただけでも、殺されかねん」
「な、る、ほ、ど。それじゃあしょうがないわね」
 ニッコリ笑うと、少女は両方の腰から刀を引き抜いた。
「じゃ、決闘、しましょうか?」
 笑顔のまま、濃密な霧と共にぬっ、と抜き放たれた二本のカトラスは、血をイメージするほどに禍々しい。
「あ、それと、あなたをブッ叩斬る前にひとつ訊くけど……その女、私と比べて、どう?」
「さあなぁ? 胸じゃお前の負けな事は確かだ」
「……OK、聞いた私が馬鹿だったわ」
 と、次の瞬間に、拳と刃が交錯しようとしたその時だった。
「あら~だめよ~、こんなところで~夜中に決闘なんて~。ご近所迷惑でしょう~♪」
 割り込まれた暢気な声に、思わず振り返ってしまう。
「栄子さん!?」
 お隣近所の栄子さんが、何故か公園の入り口に立っていたのだ。
 だが、目の前の少女はもっと驚愕していた。
「まっ、ママ!!?」
「ぶっ!!」
 ママ……ママですと!?
「ど、ど、どどどどど、どうしてここに!?」
「あら~、可愛い娘が~挨拶にも来ないで~ママ寂しかったのよ~♪」
 ニコニコ笑顔の栄子さんが近づくが、ナタリアは顔面蒼白のまま、まるで絶対恐怖の存在を前にしたかのように、ガクガクと震えはじめた。
「いいいや、あのあのあのあの、ちょっとした用事があって、こっち来ただけだし、すぐ済ませて帰ろうかなー、なんて」
「パパが『戦闘禁止区域』って決めた場所で~次の『覇王』を殺して~力を略奪する事が~『ちょっとした用事』~? ずいぶん大きくなったのね~ナータ♪ ママとっても嬉しいわ~♪ それでこそ~私の娘よ~♪ 『笑う鮫』三八代目を~継がせた甲斐があったわ~♪」
 おっとりした笑顔のまま、あくまで優しくハグする栄子さんの腕の中で、ナタリアがヤバ気なトラウマに、イロイロダダモレ状態でガクガクブルブルと震えていた。
「……あ、あの、栄子さん?」
「大家さん~ごめんなさいね~。この子、躾がなってなくて~。そうね~帰ったらお仕置きかしら~」
「ひっ!!」
 『お仕置き』の言葉に敏感に反応したのか、そのままナタリアは栄子さんを突き飛ばし。
「嫌あああああああああああああああああああ!!」
 ダッシュで泣き叫びながら逃げ出そうとして、栄子さんの服の袖から伸びた、長い大王イカのような触手に絡め取られてしまう。
「……あー、栄子さん。ひとつ聞きたいんですが」
「はい~何でしょうか~?」
「その……こないだ死んだ、兄貴……っつーか、栄子さんの旦那さんって……もしかして」
「ええ~あなたが考えている通りよ~」
 ガーン!!
 なんという事だろうか。
 あの兄貴が……いやまあ確かに、あれほどの『人物』がどっかの王様だったとしても、不思議じゃないっちゃ不思議じゃないんだが。
「それじゃあ~また明日~」
「ひいいいい、ごめんなさいママー!! もうしませーん!!」
 泣き叫ぶ娘を捕獲して、ズリズリと引きずっていく母親の姿に、俺は暫し生暖かい目を向け……
「帰ろ」
 家路へと急いだ。

 そう、その時点でこの一件は終った……と思ってしまったのは、俺(と栄子さん)がさっきの海賊少女を完全に見誤っていたが故の過ちだった。
 そう……仮にも『あの人』の娘を名乗るような人物が、あんなアッサリと引っ込む道理は無かったのである。

「おはようございます~、大家さん~」
「……………あー、その、おはようございます」
 朝起きて、玄関の扉を開けると、サッサカサッサカと、アパートの前の共同スペースをホウキで掃いている、いつもどおりの栄子さんの姿に、俺は暫し鼻白んでしまった。
「えっと……その、イロイロとお伺いしたい事が、山ほどあるのですが」
「はい~なんでしょう? あ~今月の~お家賃~ちゃんと振り込んでおきました~。それと~なんか台所の排水孔から~水漏れがするみたいなんですけど~」
「えっ!?」
 そいつはいけない。
 木造建築のアパートで水関係の漏れは致命傷だ。
「すぐに見ます」
 幸い、今日は日曜日で学校も無い。
 修理道具を担いで、排水孔のパッキンを交換して、ついでに他の部分の点検も……って。
「そうじゃなくて!!」
 修繕を終えて作業着&スパナ姿の我が身に、自分で思わず突っ込む。
「なにか~問題が~?」
 相変わらずのマイペース&すっとぼけたノリに、知らず知らず巻き込まれてしまう自分が、悲しい。
「あー、いや……えーとですね、とりあえず昨日の娘さん、どうなりました?」
「ん? ちゃんとお仕置きして~、お家に帰しましたけど~?」
 ……果たして、その『お仕置き』がどんな内容だったのかは、とりあえず俺は知ろうとは思えないっつうか、知りたく無かった。怖いし。
「……可愛かったなぁ、ふふふふふ」
 ニタリ、と笑う笑顔が……そう、まるで鮫が笑ったような凶悪さをにじませて。
「あら~、ごめんなさい~」
 スッとぼけたいつもの顔に戻る。……オッカネェ。『あの人』はこんな化物、嫁さんにしてたのかよ。
 時折、道場の帰りに『女房にはナイショでな』と、学生の身分では『けしからん場所』に俺や他の門下生たちも連れてってもらったのだが、アレは冗談でも何でも無かったのだろう。バレたらドォなることやら。
「まあ、そりゃ良かった……で、栄子さん。あんた何者なんですか?」
 とりあえず、疑問の核心に切り込んでみる。
「ん~……肩書きだけなら~『元』というのが~イロイロあるんだけど~何から知りたい~?」
「……とりあえず、具体的に、その『イロイロ』ってのを列挙してみせてください」
 その質問が失言だった。
「えっとぉ~、まず、『三七代目『笑う鮫』海賊団船長』でしょぉ~? 魔界の海を荒らしまわって~、『あの人』の膝に乗ってからは~、『私掠船団の船団長』をやって~、結局、最終的に『覇王軍海軍総督』もやったでしょぉ~? 『覇王様の専属シェフ』も務めたしぃ~……ああ今は~『あの人』を~後宮と正妻から~略奪して~『魔界一の賞金首』だったっけ~? 誰も挑戦して来ないけど♪
 あ、修理ご苦労様~。お茶、飲む~?」
「……………………………………とりあえず、いただきます」
 なんというか、肩書き並べただけで立派に恐喝罪が成立しそうな生き物が、目の前でホエホエ笑いながらエプロン姿で緑茶を淹れてる図は……いろんな意味で筆舌に尽くし難いものがあった。
「あ、あの、略奪って……」
「決まってるじゃないの~あの人を~正妻と~側室から~略奪して~このアパートに~移り住んだの~♪」
「……つまり、『失楽園』ってことですか?」
「だって~私~海賊でしょう~? あの人に最初に抱かれた時~『欲しけりゃ奪いに来い』って言われて~それから虎視眈々と~あの人の下でチャンスを狙って~正妻と後宮が揉めた隙を狙って~事を起こしたの~♪ きゃっ♪」
 顔を赤らめて、身もだえする姿は、どう見ても新婚若奥様といった感じだが……やった事の内容が内容なので素直に賛同できない。
「……えーと、つまり、例の『覇王が死んで大混乱』の原因は貴女って事で?」
「それは違うわ」
 ギラリ、と……断固たる口調と真剣な目で、返事が返された。
「いえ、間接的には私にも責任はあるのかもしれない。だって、私と一緒にこっちの世界に逃げなければ、彼は、この町の人たちと会うことは無かったのだから」
「……どういう、事ですか?」
「『あの女』も言ったはずよ……あの人は『殺された』って。その殺した奴はね……おそらくは『人間』よ」
 絶句。
 何者かに殺された、とは聞いていた。だが……イロイロな意味で、その言葉は信じ難かった。
「ごめんなさい、私が分かっているのはそれだけ。でも、状況と証拠を調べる限り、結論はどうしても『ソコ』に行き着くの。
 でも……私は『黙示録のラッパ』を鳴らす気は、毛頭無いわ。彼が最後に愛したこの町とこの世界を、『覇王殺害』を口実に滅ぼすのは、気が引けてね」
 ……と、
「あら~ごめんなさい~、お茶菓子がマダだったわね~」
 いつもの脳天気な声に戻った栄子さんが、冷蔵庫の扉を開けた瞬間……
 ズッガァァァァァァン!!!!
 耳を聾する轟音が、あたりに響き渡った。

「っ……な、なんだこりゃあ!!」
 町外れにあった、造成中の山の頂上が……というか『山が一つ』まるまる吹き飛び、そこにもうもうと『きのこ雲』が立ち上っていたのだ。
 町そのものが騒然となっているのを、呆然と見ていたその時、ジリリリリン、と我が家の黒電話が鳴り出した音に正気に帰り、家の中にとって返して電話を取った。
「はい、もしもし?」
『やっほー、昨日はどうもー♪』
 昨日の海賊娘からの電話だった。
「お、お前、ゴッツい折檻食らって、家に帰ったんじゃないのか!?」
『おあいにく様。ママに怒られたくらいで、私の野望が折れるとでも思ったの?』
 あの泣きっぷりが嘘のような強気である。
「……どうでもいいが、お前のママが、スゲェ目でこっち見てるぞ」
『いいわよー、べっつにー♪ もうママなんて怖くないもーん♪』
 などと、ヤケに強気な言葉で自信満々である。
「……なんて~言ってる~?」
「いや、その……なんかヤケに強気な事言ってるんですけど」
『ママー、そこにいるんでしょー? とりあえず、ママとパパの町を灰燼に帰す事に決めたからー♪』
「……ナータ、ちょっとオイタが過ぎるわよ。イイカゲンにしないと、ママ本気で怒るわよ?」
 キュッドォォォォォォォォン!!!
 裏山がもう一個、再び消し飛んだ。
『でもそうねー、次期覇王の彼を、私の新しい船に連れてきたら、安全は保証するわよー♪』
「やけに強気ね、今度はどんな玩具を手に入れたのかしら?」
『んー? 東京湾まで来れば分かるわよー♪ 今、停泊してるし。っていうかー、沖縄のあたりで面白い船、拾ったのー♪ これ、スッゴイんだから。じゃあねー♪』
 がちゃり。プーッ、プーッ、プーッ。
「……なんか、スナック感覚で強気モード入ってらっしゃる娘さんなんですけど」
「いつもの事よ。まあ……今回はちょっと、洒落にならないかしら」
 と……
「セイくん!」
「ご主人様!」
 その時、家から慌ててやってきた佐奈と、買い物を抱えたセラの二人が、俺の袖口を掴む。
「テレビ! テレビ!」
「大変です! ご主人様!」
「おい、一体なにがあったんだ?」
「テレビつければ分かるわよ! N●Kから民放まで全部『コレ』しかやってないんだから!」
 電源を入れて、ブラウン管のテレビに光が入り……俺は絶句した。
「っ!!!」
 画面に映っていたのは、濃霧の中におぼろげに浮かぶ『幽霊船』だった。それも、馬鹿馬鹿しいほどに巨大な、鋼で作られた船……いわゆる戦艦だ。船体全部に、びっしりとフジツボやらサンゴやらが張り付き、まるでたった今、海からサルベージしてきたかのような有様であるが、船の機動や旋回する砲身は、驚くほどに滑らかだ。
「あの子ったら……まさか『アレ』を持ち出して来たの?」
「アレ?」
 よくよく見ると……その船は、どこかで見たような記憶があった。あれはそう、何だったっけ?
「全長二六三メートル、全幅三八.九メートル」
「あっ!!」
 何の事は無い……そのスペックを聞いただけで、マニアならずとも少し興味のある人間ならば思い至って当然な船だった。
 特徴的な、三基の三連装四五口径四六センチ砲塔は、世界最強と言わしめた……
「うっ、うっ……」
 テレビモニターに向かって、思わず絶叫。
「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
 艦首に『髑髏にカトラス』の海賊印をくっつけ、あまつさえZ旗と一緒に海賊旗をはためかせた『戦艦大和』が、東京湾のど真ん中に停泊していた。

< 続く >

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