魔少年 Side:B 第02話

第02話

 ちゅぽ。ちゅぽ。ちゅぱ。ちゅぷ。

『んふぅ、おいひぃ』
 液晶画面の向こうで、両手で捧げ持った棒状の“ナニカ”を美女が頬ばる。
 恍惚とした表情で、モゴモゴと口元をうごめかせ、上目使いにカメラに微笑む。

(……なんて――バカみたいな顔! 喋り方一つとっても、知性のカケラも感じられないじゃない! 何よ、このインラン女!)

 心底軽蔑しきった表情で聖美は眉をひそめる。

『あ! ママ……そこ、いい!』
『ここれひょ、マーふん?』
『あっ! あっ!』

 カメラが大きく揺れる。

「ああ、もおっ! マー君に何するのよ! いやらしいっ! いいかげん、口を放したらどうなのっ!?」

 ぶるん。
 聖美の声に反応したかのように、画面の美女の口元から、雄大な肉塊が飛び出す。

「『あっ!』」
 期せずして、画面の外と中で声が同期する。

(……ウソぉ)

 聖美はぽかんと口を開け、画面を凝視してしまう。

『うふっ。おっきいねぇ、マーくん』
『ママが知ってる中で何番目くらい?』
『いちばんめっ! いっちばん、スゴいよ!』

「――た、確かに……そう、ね」
 思わず相槌を打ってしまう。
 少女と見紛う優しげな顔立ちの美少年の股間から生えているにしては、その肉棒はグロテスクに巨大だった。ゴツゴツとエラが張り、長さもやたらな成人男性の平均を遥かに越えている。

(マー君たら、まだ*学生なのに、いつの間にこんなに――)

『マーくんのコレねぇ、ママのいちばんふかぁいトコまでとどくの』
『痛くないの、ママ? 大丈夫?』
『うん! すっごくきもちいいよ、マーくん! ママね、いちばんおくのきもちいいとこ、クリクリされると、なきそうになっちゃう――ううん、ないちゃうの。ママをなかせるなんて、ホント、いけないコ』

“キヨミ”は肉棒に愛しげに頬を寄せる。

(……あんなスゴいので、いちばん深いところを――)

「そ、そんなの……怖いわ」
 口元に手を当て、うろたえるように呟く。
 ほとんど男性経験無く結婚してしまったため、夫の洋三のサイズが普通だと思っていた聖美にとって、それはまさに驚愕の大きさだった。

(『奥』って……そんなに気持ちいいの? “泣いちゃう”って、まさかそんな――)

 ごくり。

 聖美は無意識のうちにツバを飲み込み、モジモジと太股をすり合わせる。
 頬は紅潮し、呼吸も少し荒くなり始めている。

『このオ○ンチンはねぇ、きっと“まほうのかぎ”なのね。ママのきもちいいとこに、ぜーんぶとどいて、ココロのナカまで“あけちゃう”の』

 雅人からビデオカメラを手渡された“キヨミ”が、そそり立つ肉の棒を舐めるように接写する。
 ついさっきまで丹念にしゃぶられていた“ソレ”は、ヌラヌラと唾液にまみれ、湯気を立てんばかりに熱くたぎっている。

『それじゃあ、ママのオ○ンコは“魔法の鍵穴”だよ。ヌルヌルなのにザラザラで、僕のオ○ンチンをキュッキュッって締めつけて、溶けちゃいそうなくらい気持ちいいんだ』
『そぉ? うふ。うれしいな。やっぱり、ママとマーくんはピッタリさんなのね』

「な、何を――勝手な事言ってるのよ……『魔法の鍵』? バカじゃない、この女! マー君も調子合わせないでよ!」
 隠し切れない悔しさのにじむ声で呟く。

(何よ! 何よ! ラブラブじゃないっ! もぉ!)

 聖美の予想に反し、画面に映る二人は常に仲睦まじく、愛を交わす喜びを全身で表し続けていた。『何かを強制されている』雰囲気や、『逃げ出したい』感じはどこにも見当たらない。会話一つとっても、ゆったりと満ち足りた空気が伝わって来る。

(そういえば……私、あの人とベッドでこんな風に話した事があったかしら?)

 世の中には他人と比べてみて初めてハッキリと分かる事がある。
 聖美はこの十*年間で初めて、これまで漠然と感じていた夫への不満を露わにし始めていた。
(だって……パパったら、終るとすぐ寝ちゃうんですもの)
 口を尖らせ、不満げに眉をしかめる。
 洋三はセックスの面でも自分勝手で、いつもお世辞にもうまいとは言えないおざなりな前戯の後、すぐに挿入して勝手に果ててしまう。今でも二~三ケ月に一度くらいの頻度で求められるが、聖美は半ば義務感で応じていた。
 性の悦びを十分に開発される前に『一児の母』となった聖美にとって、『夫婦の夜の営み=セックス』とはその程度のものだ、という認識しかなかったのである。

『ママ――可愛くて、すごくキレイだ……』

 そう言って、“キヨミ”に手を伸ばす雅人の顔をカメラが大写しで捉える。憧れと優しさと誇らしさの混ざったその表情は聖美の見た事の無いものだ。

(マー君……まぶしそうな目をしてる。そんな優しい目で見つめられたら――)

「だ、ダメよ――そんな顔しちゃ! その女は……『ニセモノ』なんだからっ!」
 とげとげしい声で呟き、無意識にキュッと唇を噛む。
 聖美は次第に苛立ちはじめていた。
(どういうつもりなの……マー君!?)

『ふふ。ココにあかちゃんのもと――マーくんのミルクがたっぷりつまってるのねぇ』

“キヨミ”はプラプラとゆれる袋をビデオカメラで接写しながら、優しくさする。

『……う、うん。そ、そうだよ――あっ!』
『ねぇねぇ、マーくん。ママね、マーくんのあついミルクがビュクッてでるとこ……みてみたいなぁ。おねがい、みせてっ!』
『え? えぇ!?』

「い、イキナリなんて事言い出すのよ、このインラン女は!」
(この、マー君のスゴイのから……ビュクッって――)

「……そ、そんなとこ見たがるなんて、やっぱり変態だわ。変態よっ!」
(――見たいわ)

 突然、降って湧いた心踊る提案に、先ほどまでの苛立ちを忘れ、思わず口元が緩みそうになる。

「変態……だけど、でも……えっと、『マー君が断り切れない』なら、まぁ、しょうがないんじゃないかしら? ……しょうがないわよね? うん。だってだって、私、コレを“最初から最後までキチンと”見なくちゃいけないんですもの」

 誰ともなく言い訳しながら、画面に目が釘付けになる。
 まるで性への好奇心旺盛な思春期の少女に戻ってしまったかのように、期待にウキウキと胸が弾む。

(私、『男の人のアレ』って本当は苦手なハズなのに――)

 何故か、画面狭しと吃立する肉棒から目が放せない。『ヘビに睨まれたカエル』といった風情で、思わず吸い込まれるように見つめてしまう。

(ううん。他の男の人のは“見たい”なんて絶対に思わない。だけど……)

『どうしてさ?』
『どうしてもっ! マーくんのだから、みたいのっ! ね、いいでしょ? おねがい、イクとこみせて!』

(そうよ。見せて、マー君)
 画面に向かって小さくうなずく。

『さー! それじゃ、カメラはここにおいて――ほらほら、はやくこっちむいて!』
『なんか、恥ずかしいよママ……』
『んもおっ!』
『あっ! やっ!』

 少女のような悲鳴を上げる雅人を、“キヨミ”が襲う。

『さ! キモチよくなろうねぇ、マーくん』
『ふっ! くうぅっ!』

 カメラの前に立たされた雅人の欲棒を優しくさすりながら、“キヨミ”はまた、ピンク色の乳首を舌先で転がす。

『ふふ。ママねぇ、ちゃんとしってるんだよぉ。マーくん、オッパイよわいよねぇ?』
『あ! ああっ!』
『あはっ! かわいいこえ!』

 雅人の胸にツンと尖る小さな突起にチロチロと舌先を這わせながら、“キヨミ”ははちきれんばかりに充血した“オトコ”に指を絡め、愛しげにゆっくりとしごく。

『きもちいい、マーくん?』
『う、うん!』

(ああ。マー君たら、あんなに甘えるみたいに――)

 “キヨミ”は豊満な胸をすり寄せ太腿を絡め、全身を密着させて雅人を快楽に誘う。
 雅人は目を閉じ、“キヨミ”のなすがままに身を委ねている。

『あぅ、あううぅっ!』
『ふふ。オ○ンチンもピクピクしてる』

(そうなの……そんなに気持ち良いのね、マー君)

 画面を一心不乱に見つめる聖美の右手が何かを包み込むように小さく動く。
「おクチでするのは……まだちょっと抵抗あるけど、手でなら私だって――」
 自分が呟いている内容にさえ気付かないほど、聖美は画面に集中してゆく。

『ま、ママ――ダメだよ。さっき、お口であんなにイタズラされたから、僕、すぐにイッちゃうよぉ!』
『いいよ、マーくん。イッちゃいなさい。ママがみててあげる』
『あっ! ああっ!』

(ああ。イクのね――マー君? イッちゃうのね?)

 ドキドキと胸が高鳴り、興奮に息が荒くなる。
 いまや、聖美の右手の動きは画面と同期し、まるで自らの手で愛しい我が子を絶頂に導いているような錯覚に陥っていた。

『あ! ま、ママッ! ママァッ!』
『マーくん! イッて! ママにみせて! さぁ! ほら!』
『ママっ! ぼ、僕、もう、イキそ……イ……』

(そうよ。我慢しないで、さぁ――)

 最愛の息子が全身で快楽を訴える様に、聖美は思わず叫ぶ。

「イッて、マー君っ!」
『くうううううぅっ!』

 びゅくん! びゅるっ! びゅくびゅくっ!

 二度、三度と全身を痙攣させ、思いの全てを注ぎ込むように雅人が精を放つ。
 コッテリとした練乳のような白濁が、膨れ上がったオスのシンボルから宙に舞う。

(あああっ……スゴい!)

「あ、あんな激しい勢いで……あんなに、たくさん――」
 聖美は興奮に上気した顔で、惚けるように画面を見つめる。
 ビュクビュクと溢れ出た若い牡の『情熱の奔流』に、魂までも射抜かれてしまった気がする。

(もし……もしもアレを、私のナカに……一番奥に注ぎこまれたら――)

 キュウウン。

「ああっ! ダメェッ!」
 体の中心を襲う切なく甘い疼きに思わず腰が砕け、しゃがみこむ。
「いやいやいやっ! ダメよおぉ!」

(ダメよ……ダメなの……イケナイの。そんな事、考えちゃダメえぇ!)

 だが、すでに時遅く、聖美の脳裏には『雅人に組み伏せられる全裸の自分』、『凶器のような肉棒で深々と貫かれ、狂い悶える自分』、『ドクドクと荒々しく放たれる若牡のエキスを膣奥で受け止め、悦びにむせび泣く自分』――そんな浅ましい姿が、ハッキリと浮かんでいた。

「ああ、そんな……違うわ。違うの。私、そんなつもりじゃ――」

 涙を浮かべ、必死で首を振り、なんとか妄想を否定しようとする聖美だが、ひと度内奥に焔を掻き立てられた肉体は容易く心を裏切り、床に接した『オンナ』の中心に、ごまかしようのない『欲情の証し』がトロリと滴る。

(ああ……私、濡れてる――)

■■■■

『マーくん!』
『あ! ママッ! ママァ!』

 聖美の葛藤などそしらぬ顔で、画面の中の二人は激しく求め合う。
 雅人の初々しくも猛々しい射精に昂ぶった“キヨミ”が、雅人を床に押し倒し、胸の上に馬乗りになって、まだ痙攣を続ける欲棒にむしゃぶりつく。

『あぁん! おいひいっ! おっひいよ、マーふん! あふいよ!』
『ま、ママ、ダメえぇ! 僕、今、イッたばかりだから敏感に……あああっ!』

(……どうして? どうして、そんなイヤラシイ事が平然と出来るのよ?)

「ケダモノだわ――けがらわしい」
 弱々しく呟く。
 だが、聖美はとうに気付いていた。
“けがらわしい”と思う自分こそ、けがれているのだ、と。

『ママ! 愛してるよ! 愛してる! んんっ!』
『あ! ああんっ! ま、マーくん、だいすき! あいしてるっ! はむぅ!』

 床に寝転んでいる雅人が首を上げて、目の前の“キヨミ”の秘裂にむしゃぶりつき、“キヨミ”は“キヨミ”で雅人の肉棒を喉の奥まで迎え入れる。
 忘我のシックスナイン――二人はただ無心にお互いを貪り合う。

(マー君のママは、この私よ! 『私』なのにっ!)

「どうして、私……眺めてるだけなの?」
 聖美は涙を浮かべ、身悶えするように自分の肩を抱きしめる。

(――悔しい。悔しい。悔しい。悔しい)

 触れたかった。触れられたかった。
 心が、体が、熱く叫んでいる。
 これほどまで情熱的に愛し愛された経験は自分には無い、と。

「……マー君のバカ。どうして“この女”なのよ? どうしてよ?」

 画面の向こう側から、二人が互いに抱く想いの深さが伝わって来る。
 そこには決して『代替品』などではない、本物の愛情が感じられた。

(こんなに似てるのに……マー君だって、この女の事、『ママ』って呼んでるくせに)

「どうして……『私』じゃ、ダメなの?」
 大粒の涙がこぼれて落ちる。
 切なかった。寂しかった。

 これがもし、『これまで一度も顔を見た事の無い女』だったなら、まだ少しは納得出来たかも知れない。
 けれど、聖美は知ってしまった――雅人が抱く禁じられた想いの強さと深さを。
 本来なら最愛の息子のあの情熱の全ては『自分』に向けられていたはずなのだ。
 画面の向こうの“キヨミ”と自分に、一体、どんな違いがあるというのだろう?
 だが、偽物のはずの『あの女』は雅人に選ばれ、『本物の自分』はこうして独り、二人の仲睦まじさをただ見守るしかない。
 まるで『雅人に選ばれなかった自分』の全てが否定されてしまった気がする。

「いつも一番そばに居たのに――マー君の事、私が世界で一番よく分かってたはずなのに……」

 心にぽっかりと穴が空いていた――いや、それは常に聖美の中にあったのだ。
 雅人の笑顔がその空虚を満たしていたため、今まで気付かなかっただけなのだ。

(惨め……だわ。何が『救い出してみせる』よ! 私なんか――要らないじゃない!)

 今だかつて、これほど自分を『孤独でちっぽけな存在』に感じた事はなかった。
 怒りにも悲しみにも増して、ただただ寂しかった。ぬくもりが欲しかった。

「ひどいわ、マー君。こんな気持ち……私、気が付きたくなんかなかった」

 震える両手で顔を覆う。
 指の隙間から、抑えようのない嗚咽が洩れる。

(――抱かれたい)

 それは罪深く、おぞましく、そして抗いがたい、途方も無く甘美な想い。
 自分で意識した事はおろか、これまで一瞬たりとも想像した事の無い激しい渇望が聖美の身の裡を焦がす。

『あは。すっごいよぉ、マーくん。またカチンコチン。……ねぇ、いれていい?』
『いつもみたいにおねだりしてくれたらね』
『んもぉ! えっち!』

 悲しみの淵に沈む聖美を置き去りに、画面の向こうではイチャイチャとした会話が続いていた。画面が切り替わり、全裸のまま、ちょこんとベッドの上にヒザを抱えて座る“キヨミ”の姿が正面から映し出される。

『……えー!? ホントにこんなトコとるのぉ? はずかしいよぉ!』
『ふふ。さっきは僕の恥ずかしいトコ撮ったんだから、これでおあいこだよ。さぁ、ママ早く。いつもの可愛い“おねだり”してくれないと、入れてあげないよ』
『うーーー、イジワルっ!』

“キヨミ”はしばし逡巡していたが、徐々に淫蕩な色を瞳に浮かべ始める。
 やがて、小悪魔めいた表情でカメラに向かってささやき始めた。

『ねぇ、マーくん。ママね……あかちゃんがほしいの』
 あどけない少女のような媚態。だが目には抑え切れない興奮が浮かぶ。

『ふぅん。ママは誰の赤ちゃんが欲しいのかな?』
『……マーくん。ママはマーくんのあかちゃんがうみたいの』

“キヨミ”はチロリと舌なめずりしてみせる。

『他の人じゃダメなの?』
『イヤイヤ、ほかのヒトじゃイヤ。マーくんじゃなきゃダメなの。ママはマーくんのあかちゃんがほしいの』
『そう。それじゃ、僕はどうしたらいいのかな?』

 すでに何回も繰り返している儀式めいたやりとりのようで、徐々に二人が昂ぶって行く様がカメラを通して伝わってくる。

『おねがい。ママのココに……マーくんをちょうだい』

“キヨミ”はスラリとした足を大きく開き、ピンク色の秘所を指で広げて見せる。
 そこはもう溢れんばかりの蜜でヌラヌラと光っていた。

『マーくんのカタくてアツぅい“オトコのコ”で、ママの“オンナのコ”をいじめてほしいの』

 カメラを見つめる美しい瞳が、淫らな想像で潤んでいく。
“キヨミ”は陶然とした表情を浮かべ、見せつけるように、ピンクの真珠にも似た肉の芽をゆっくりと指先でこね回しはじめる。

『おナカのいちばんおくふかぁくまでくしざしにして――』

 耐え切れなくなったかのように、目を閉じ、ブルッと全身を震わせる。

『あたまのなかがまっしろになるまでぐちゃぐちゃにしてほしいの。ママがないてさけんで、マーくんのミルクをおねだりするまでやめないで』

 ハァハァと小さくあえぎながら、豊かな乳房を自ら揉みしだきはじめる。

『ママ、なきながら、うんとかわいくおねだりするから……そしたら、いちばんおくに、あつぅい“オトコのコのミルク”をビュクビュクしてほしいの』

 やがて、ゆっくりと目を開けた美女は、はにかむように、目の前の欲情に猛り狂う若牡に告げる。

『まさとさん、おねがい。わたし……あなたのあかちゃんが、うみたい』

『ママッ!』
 耐え切れなくなった少年は、襲いかかるように一気に肉棒で“キヨミ”を貫く。

 じゅぶり!

『はうううぅっ!』
『ママッ! ママッ! ママあああっ!』

 脇に放り出されたカメラが、荒々しく打ち振られる引き締まった臀部を写し出す。
 たくましさとしなやかさを秘めた肉体が画面一杯に躍動する。

『あおおおっ! ふ、ふかいぃっ! アツいのおおぉ! すごいのおおおぉっ!』
『いじめるよっ! ママをめちゃくちゃにするよっ! いいねっ?!』
『い、いじめて、マーくんっ! ああ、めくれるっ! めくれちゃうううぅっ!』

 ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん!

 リズミカルに肉と肉とを打ち合わせる音が響く。
 二人とも最初から全速力だった。
 まるで二匹の獣が互いを貪るように、情欲の炎に呑み込まれていく。

「イヤ……イヤイヤ、お願い。私のマー君を奪らないで――」

 聖美は泣きながら、弱々しく画面に向かって懇願する。
 愛しい者が、心の支えが、希望が目の前で奪われていく――なのに、自分は目をそらす事さえ許されず、ただただ見つめ続けるしかない。
 それはまさしく地獄のような責め苦だった。

『マ、ママっ! 愛してる! ずっとずっと好きだったんだっ! ママああッ!』
『ああ、マーくん! あいしてる! せかいでいちばんあいし……きゃううぅっ!』

「……いやよ! こんなの――もう、イヤあああぁっ!」

 涙で画面が滲む。視界がぼやけ、もはや何を見ているのかも分からない。だが、耳に届く二人の悦びの叫びが、聖美の胸を引き裂き続ける。

(ヒドいわ、マーくん。こんなの、ヒドすぎる……)

 どれほどの時間、身を引き裂かれるような責め苦に耐え続けただろう?
 やがて、聖美は虚ろな声でぽつりと呟いた。

「分かった、わ。お別れ……なのね?」

(……もう、『私』なんか要らない――そういう事なんでしょ?)

 そう。思えば最初から雅人は言っていたではないか――『自分と彼女の事を認めてほしい』、と。
 もはや疑う余地は無い。これは雅人からの『決別の意志表明』なのだ。
 叶わぬ想い、禁じられた想いを抱き続けた息子は、その歪んだ情欲の全てを受け止めてくれる格好の相手を見つけたのだ。

『ああっ! マ、ママは僕のモノだあっ! 誰にも……誰にも渡さないよおおっ!』
『そうよ! ああ! ま、ママはマーくんのモノなのっ! マーくんだけの“オンナのコ”なの! だから……ああああ! だからおねがい、マーくん! ちょうだい! ママのいちばんおくに、アツいミルクをちょうだい! あなたの! あなたのあかちゃんがほしいっ!』
『イクよ! 一緒にイクよ! ママ! ママ! ママあああああっ!』
『マーくん! マーくん! マーくぅ――うあああああっ!』

 ビクン! ビクン! ビクン! ビクン!

 雅人の臀部が数回、きつく引き締まり痙攣する。
 やがて、雅人は“キヨミ”にゆっくりと覆いかぶさるように画面から消えた。

(ああ……イッちゃったのね、マーくん。そのヒトと――)

 虚ろな表情で画面を見つめる。
 画面はブラックアウトし、黒い液晶画面に、生気を失った美女が写る。

「……アハ。そっか。私――フラれちゃったんだ」
 涙の後も痛々しいまま、無理に微笑んでみせる。
 もはや、自分がどうこう出来る問題ではなかった。画面に写った二人の愛と情熱は本物だった。嫉妬をかきたてられた自分が悔しさに涙するほど、その想いは深く熱い。
 倫理や道徳はどうあれ、これほど愛し合う二人を引き裂く事など、もはや、聖美には出来そうになかった。

(全部……お見通しだったのね、マー君)

 今さらのように雅人のとった行動の巧妙さに気付く。普通に相談されたところで、自分は決して『二人の仲』を認めようとはしなかっただろう。まして相手の容姿が“アレ”では、そもそも話の持って行きようが無い。
 だが、こうして他に頼る者もいない人里離れた別荘で、『ビデオカメラの映像』というショッキングな道具立てを用いる事で、自分は見事に踊らされ、打ちのめされ、最後にはこうして全てを『認め』ざるを得ない状態にまで追い込まれてしまった。

「……分かったわ。ママの負けよ。『認める』わ」

 絶望に打ちひしがれた美母は、もはや抗う気力も無く、疲れ果てた声で呟く。
 自分が『認める』事でこの責め苦から逃れられるならそれもいい――そんな投げやりな態度だった。
(もう、十分でしょ……マー君?)
 自分が『二人の仲』を認めれば、この場はひとまず収まる。望みを叶えた雅人は、それで満足するはずだ――そう思っていた。

 ……だが、聖美は自分の考えが甘過ぎる事をすぐに思い知らされる事になる。

■■■■

 ブゥン。

「――え?」
 数秒間、何も写っていなかった黒い液晶画面にまた光が戻る。
 どうやら、DVDにはまだ続きが残っていたらしい。

(何……コレ?)

 写し出された映像に聖美は戸惑う。
 爽やかな日差しを浴びた林の中の小道――どこの田舎にでもあるようなありふれた風景をカメラは捉えていた。つい先程までの爛れた愛欲の地獄絵図とは、まるで違う穏やかな映像である。

 木々のざわめきと小鳥の声。都会の喧騒とは無縁の、静かで落ち着いた――

 ぞくり。

「えっ!? な、何? ……何なのっ?」

 どうという事のない風景なのに、何故か見ているうちに背筋に寒気が走る。
 見続けてはいけない。このまま見続けると、何か恐ろしい事が起こる気がする。

(……どうして?)

 まだ意識では捉えていない“何か”を、聖美の本能が敏感に嗅ぎとっていた。
 今ならまだ間に合う。引き返せ、と必死に告げているのだ。

「お、おかしいわ。だって……だって、こんな道なんて、どこにでもあるじゃない。……そうよ。例えば――」

(……え?)

 ようやく今になって気付く。
 どこにでもありそうな林の中の小道。ありふれた――見慣れた風景。
 何かがカチリと頭の奥で音を立てる。

「えええっ?!」
(そんなっ! そんなハズないわ! だって……だって――)

『ねぇねぇ、マーくん!』

「!!」
 スピーカーから流れた声に、思わずビクンと飛び上がる。

『もぉ、じゅんびオッケーだよ!』
『そう? それじゃ、始めてくれる?』
『うんっ!』

 くるりとカメラが反転し、いたずらな表情を浮かべた美しい女性の顔を写し出す。

『ジャーン! わたしたちは、いま、やまおくのべっそうにきてまーす!』

 カメラを自分に向けてビデオを撮影している“キヨミ”の肩越しに、青く神秘的な色あいの湖と、大きな二階建ての建物が見える。
 白い屋根、瀟洒な飾り窓、湖に張り出したテラス――山奥の閑静な湖には不釣合いなほど豪華なその建物は、あまりに特徴的で見間違いようがない。

「そ、そんな――」

『あさはやくしゅっぱつして、さっきついたばっかりでーす! じかんは、えーと……ねーねー、マーくん。“じこくひょうじ”って、どのボタンおすんだっけ?』
『ほら、ここだよママ』

 声と共に画面に日付と時刻が表示される。

「……嘘」
(この日付……まさか、そんなっ!!)

 ぞわぞわと背中の産毛の一本一本が逆立っていくのが分かる。
 カタカタと歯が鳴る音が静かな寝室に響く。

『パパはおしごとでかえっちゃったから、もうマーくんとふたりっきりでーす!』
『計画通りだね』
『うんっ!』

(この――髪型! この――ネックレス! この――サマードレス!)

 ――なぜ、画面に写るこの“女”は『昨日の自分』と同じ服装なのだろう?
 ――なぜ、画面に『ここ』、すなわち『姫宮家の別荘』が写っているのだろう?
 ――なぜ、画面に表示されている日付は『昨日の日付』なのだろう?

『最後まで見れば自然と分かるよ』――確かに雅人の言った通りだった。
 最初から明白だった事実――シンプル極まりない『答え』がそこにあった。
 だが、それは受け止めるにはあまりに恐ろしい『悪夢』だった。

『これからマーくんと“たね……”――えと、なんていうんだっけ、マーくん?』
『“種付け合宿”だよ。ママ』
『そうそう! ママとマーくん、ふたりっきりの“たねつけがっしゅく”でーす! だれにもじゃまされずに、たくさんたくさんたっくさ~んエッチして、こんどこそ、かわいいあかちゃんをニンシンしたいとおもいまーす!』
『今回は念入りに計画したもんね。ママ、体の調子はどう?』
『うふ。ママはねぇ、あしたから“きけんび”なの! いっちばんあかちゃんができやすいときなんだよぉ。がんばろうね、マーくん!』
『うん。僕もここ一週間くらい禁欲してたから、すっごく濃いミルクをママの下のお口が溢れるくらい呑ませてあげるよ』
『わーい! たっくさんビュクビュクしてね! マーくんのげんきなオ○ンチンで、しっかり“たねつけ”して、こんどこそママをハラませてっ!』

(……コレハ――ナンナノ? ナニヲハナシテイルノ?)

 真っ白になった頭の中を言葉がすり抜けて行く。
 何か恐ろしい内容なのだ。決して聞き漏らしてはいけないはずなのだ。
 だが、意味を捉える前に言葉はスルリと耳からこぼれ落ちていく。
 聖美は目を見開き、息をする事さえ忘れて、その場に固まり続ける。

『ねぇねぇ、ママ。どうせだから、さっきの“アソコの準備”も撮ろうよ』
『えー、ココでぇ? そんなの……はずかしいよぉ』
『大丈夫大丈夫。だって、僕達しかいないんだからさ。ね?』
『マーくんのえっち! ……あ。コ、コラぁ! ダメだってばぁ!』

 画面が大きく揺れ、“キヨミ”のスカートをめくりあげようとする雅人の手が写る。
 しばし“キヨミ”は雅人の手を防ごうとじたばたしていたが、不意に画面が途切れ、カットが切り替わる。

『……お! ほらほら、ママ。もう写ってるんだから暴れないの』
『うーーーー!』

 どうやらビデオカメラは三脚にでも固定されたらしく、画面には雅人に背後から抱きしめられた“キヨミ”が写っている。
 木洩れ日の中、ほんのり頬を紅く染めた“キヨミ”は、まるで少女のように可憐に美しかった。

『さーさー、ママ。どうぞ』
『……お、おぼえてろぉ!』

 しばらく恥ずかしげにモジモジしていた“キヨミ”は雅人に促され、しぶしぶ両手でスカートをめくり上げてみせる。

(――あああっ!)
 聖美の目が、これ以上はないほど、大きく見開かれる。

『おやおやぁ? ソレはどうしたんですか、“キヨミ”さん?』
『バカ! マーくんのバカバカバカッ!』

“キヨミ”はスカートの下に何も身に付けておらず、その下半身はむき出しだった。
 そして、本来、つややかな漆黒の茂みがあったはずの場所が、まるで幼女のようにツルリと剃り上げられている。

『うーーー。さっき、この……うしろのバカなコにぜんぶソられちゃいましたっ!』
『ふふ。もう、パパには見せられないね。いいかい? もう、二度とアイツになんか抱かせないよ。アイツがママに触わる、って思うだけでムカムカするんだ』
『んもぉ! “ママにはもう、そんなつもりぜんぜんない!”っていってるでしょ! マーくんのバカ!』

(ワタシの――)

『……ねぇねぇ、マーくぅん。そんなことより、はやくエッチしようよぉ!』

(カラダ――)

 ブルブルと聖美の全身が震える。

『ああ。その前にキチンと許可をもらおうね、ママ』
『“きょか”?』
『そうだよ。僕とママが恋人同士だって事を認めてもらうんだ』
『……え? だれに? えと……パパ?』
『ふふ。違うよ。でも、“認めてもらう”のは大切な事なんだ、僕にもママにもね。だから、カメラに向かって心をこめてお願いしてくれるかな?』
『……うーー、よくわかんないけど、“たいせつなこと”なのね? わかった!』

 うなずいた“キヨミ”はカメラに近付き、まっすぐな視線で『お願い』をする。

『えーとね……そう。わたし、“ひめみやきよみ”は、ひとりむすこのマーくん――“ひめみやまさと”をあいしてます。マーくんもわたしのことをあいしてくれていて、ふたりは“そうしそうあい”なの。だから、おねがい! わたしたちのこと“こいびと”ってみとめてください! わたし、マーくんがすき! マーくんがほしいの! マーくんにあいされて“せかいいちだいすきなひと”のあかちゃんをうみたいの!』

 真剣な眼差しで告げる“キヨミ”の肩をソッと雅人が抱く。

『エラいね。よく言えました』
『マーく……んんっ?!』

 唇を奪われた“キヨミ”は、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに目をとろけさせ、甘えるように情熱的にキスに応える。

 んく……んく……んんぅう――

『はあぁ……ねぇ、マーくん、これでいいんでしょ? ベッドにいこ? ねっ?』
『うん。僕も早くそうしたいけど、一応、答えをもらわなきゃね――【紫の常闇】』
『あ……』

 雅人に耳元で何か囁かれた“キヨミ”の表情が消え、ゆっくりと目が閉ざされる。
 そのまま、まるで電池が切れたオモチャのようにクタリと雅人に身を委ねる。

『ふふ。……可愛いよ“キヨミ”。僕の――僕だけのママ』

 そう言って“キヨミ”を抱きしめ、頬ずりした雅人はカメラに向かって微笑む。

『さあ、もう分かってくれたかな、ママ? 僕達は“相思相愛の恋人同士”なんだよ。“認めて”くれるよね? もし、まだ信じられないなら、これから証拠としてママのアソコにメッセージを残しておくから、確認してみてね。それじゃ!』

 プツン。

 今度こそ本当に『雅人お手製のDVD』は終り、画面はブルーバックに戻る。

< 続く >

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