魔少年 Side:B 第05話

第05話

(ああ! どうしよう! どうしよう! 私……言っちゃった!)

 雅人が浴室に消えたのを確認すると同時に、聖美はへなへなとその場に崩れ落ちる。
「マー君も『お願いしますっ!』って……それって、つまり、こ、これから、私と……マー君が――」

 かちかちかちかちかちかち。

 小さく歯が鳴る。
「バカだわ、私。大バカよ……信じられない。どうして、そんな……自分から――」
 紅く染まった頬に手を当て、呆然とした表情で床を見つめる聖美は、ついさっきのセリフを正当化しようと懸命に言い訳を探す。
「……で、でも、ホラ! あのままじゃ、やっぱりいけないわよ! うん! 最初に
あんなイヤラシい女と『経験』しちゃったままだと……えっと、その――」

 ――悔しいじゃない?

「……え?」
 心の声が妖しく聖美に囁く。

 ――だって、あの子が本当に欲しいのは『私』なんですもの。あんなに求めているのよ? ちゃんと応えてあげなきゃ。

「でも……でも――私、ママなの。マー君の……」
 今にも泣きだしそうな表情で、おろおろと口元に手を当てる。

 ――バカね。いいかげん素直になりましょ? それとも、“キヨミ”に譲ってあげる?

「いやよ! それだけは絶対にイヤ!」

 ――そうよね? マー君だって、『私』を求めてるわ。さぁ、立ち上がって、その目で確認してごらんなさい? あの子が本当に抱きたいのは“キヨミ”なんかじゃないわ。この『私』なのよ?

「そう、よね……『私』なの――よね?」

 今日は短い時間にたくさんのショックを受け、あまりに感情の振れ幅が大きすぎて、目の前に雅人本人がいないと、なんだか急に不安になってくる。

(……ホントかな? ホントのホントに――『私』でいいのかな?)

 想像を越えた出来事の連続で、聖美はすっかり『現実感』を喪っていた。
 つい先程の会話は本当にあった事なのだろうか?
 自分に都合の良い白昼夢を見ているのではなかろうか?
 だいたい、ほんの少し前までは『おぞましい悪夢』と思っていたのに、どうして自分はこんなにも心変わりしてしまったのだろう?
 今こうして感じている『喜び』は、いつの間にか、また、クルリと『絶望』にすり変わってしまうのではないだろうか?
 例えば――そう。『もしも、雅人に拒まれたら?』。

「……い、イヤ。そんなの、もう耐えられない!」

 想像するだけで、背筋が凍る。
 何か、証しが欲しかった。雅人が自分を求めている証し――自分と雅人の想いをつなぐ『印』が。

「そう……だわ――」

 ふらふらと立ち上がり、居間の壁にある鏡の前に立つ。
 二階の寝室の鏡の前で怯えうろたえながら、裸身を晒したのがずいぶん遠い昔の事のように思える。
 聖美は震える小さな声で鏡に向かって問いかける。

「ね……ねぇ、マー君……私、綺麗――かな? マー君の目にはホントに……素敵に見えてるの、かな?」

(大丈夫だよね? マー君、『好き』って言ってくれたもの。『私』で……いいんだよね?)

 バスローブの紐を解き、その場にハラリと脱ぎ捨てる。
 美しく整った裸身が、午後の光を浴びて金色に輝く。

「ああ――」

(なんて……なんて、いやらしい顔……いやらしいカラダ――)

 あれからわずかな時間で、聖美は大きく変わっていた。
 夢見るように潤んだ瞳。バラのように染まった頬。紅い唇はキスをせがむように、小さく開かれ、濡れたほつれ毛が額を飾る。
 普段は慎み深い服装の奥に隠されている、雪のように純白の双乳はズンと張り出し、二つのピンクの頂きは欲情のおもむくまま、すでに硬く尖り、その存在を主張し始めている。今にも折れそうなほどくびれたウェストと、そこから張り出した充実感溢れるヒップラインは生唾を呑みたくなるほど蠱惑的だった。

 恋する乙女のように可憐でありながら、見る者の心に淫らな想像をかき立てずにはおかない『魔性の美女』がそこに居た。

「……そうよ。私、さっきは『マー君のお話は信じない』なんて言ったけど、“コレ”は間違いなく、マー君の仕業だわ」
 ツルリと無毛になった下腹部を愛しげに指先でなぞる。
「ああ。ほんとに――イケナイ子」
 椅子に片足をのせ、ほっそりとした指先で、見せつけるように秘裂を開いてみせる。
「ヒドいわ、マー君。こんなにツルツルにしちゃうなんて……まるで赤ちゃんみたいじゃない。おまけに、こんなイタズラ書きまでして――」

    『ママ』  『アイシテル』

 最初に確認した時とはまるきり違う、うっとりと喜びに満ち溢れた表情で、小さな文字を指で辿る。
「そうよ。私達――『相思相愛』なんだわ」
 鏡に映った美女が陶然と微笑む。
 冷たい湖水に浸かり蒼ざめていた肌が、内側から立ち昇る熱気にどんどん目覚めていく。まるで今まさに花開かんとしているつぼみのようだ。
 ずっしりと量感を湛えた紡錘形の美しい乳房も、明らかに先程より、大きさを増していた。
「こんなに尖って……疼いてる。――んんっ!」
 そっと優しく乳首に触れると、ゾクゾクした快感が伝わり、思わず身震いする。

(期待……してるのね? ううん、『私のカラダ』はもう知ってるんだわ。マー君がどんな事をするか、どんな風に愛してくれるのかを――)

「……そうよ。ヒドいわ。知らないのは『私』だけじゃない。これまでは、ずーっと“キヨミ”ばっかり――」
 ふと、聖美はイタズラな微笑みを浮かべ、モデルのように頭の後ろで手を組み、胸を突き出して見せつけるポーズを取ってみる。
「ふふ……残念ね、“キヨミ”さん。『偽物』のアナタはもう用済みなの。今度は――
ううん、これからは、ずーっと『私』の番なのよ」

(……そうよ。マー君は『私』が一から全部教え直してあげるの。アナタの事なんか、すっかり忘れるくらい夢中にさせちゃうのよ)

「ふふふ」
 気の迷いを一蹴した聖美は楽しげにクルリと鏡の前で廻ってみせる。
 フルフルと柔らかく乳房が揺れる。まるで、目の前にいる誰かに見せつけるようにゆっくりと両手で全身を撫でさする。

(もうすぐよ。もうすぐ――触れてもらえるのね? ココも……ココも……全部)

 敏感な首筋、形の良い鎖骨の辺り、絶妙のカーブを描く魅惑的な胸、くびれたウェスト――指先が触れる場所一つ一つが、やがて訪れる悦びへの期待に小さく震える。
 なだらかなカーブを描く『女の部分』も、こころなしかいつもより、ふっくらと盛り上がっているようだ。
「ああ。もう……こんなに――」

 クチュリ。

 花弁に軽く指を這わせるだけで、おびただしい愛液が小さな水音を立てる。

(……あ!)

 体の中心から、透明な液体がツーッと糸を引いて落ちる。

「いけない……床を汚しちゃうわ。早く、お風呂に入らないと――」
 そう呟いた聖美は、ふと、唇に指を当て、考え始める。

(そうだわ! いっそ――)

 目を輝かせ、頬を紅潮させる。
 鏡の中の裸の美女がとろけるように淫蕩な微笑みを浮かべる。

「そうよね。私、あんな、『一人じゃ消せないイタズラ書き』をされちゃったんですもの。『犯人』にはキチンと責任取ってもらわなきゃ! うふ!」

(マー君と一緒に、お風呂……ああ――)

 夢見るような表情を浮かべた美母は、全裸のまま、まるで何かに操られるかのようにフラフラと浴室に向かう。おびただしい愛液の洪水が太股を伝い、床にキラキラと筋を引く様にも、もはや気付いてはいなかった。

 ザーッ!

 浴室からシャワーの音が聞こえる。
 ちょうど雅人は体を洗っているようだ。上機嫌で鼻歌を歌っている。
 水音にかき消され、脱衣所に聖美が入った事には気付いていないらしい。

(マー君――)

 浴室のすりガラスの向うにぼんやりと肌色の人影が見えた。

(裸……なのよね? マー君も……私も。そして、これから二人で……ああ――)

 ドキドキと鼓動が高鳴る。まるで少女の頃に戻ってしまったようだ。
 このドアの向うに雅人がいるのだ――聖美と同じく、何も身に纏わぬ生まれたままの姿で。

「ね……ねぇ、マー君?」
 すりガラスの向こうの人影に、微かに震える声で呼びかける。

(ああ……呼んじゃった。どうするの? 私ったら、本当に――)

「え? ……な、何、ママ!?」
 すっとんきょうな声で、雅人が応える。

 ごくり。

「わ、私も――入って、良いかしら?」
「……えっ!?」
 肌色の人影がこちらを向いて固まる。
 ぽかんと口を開けたままなのが、それとなく分かる。
 こうして、今、自分に見えているのと同じくらい、雅人からもこちらの様子が分か
るはずである。
(やだわ……そんなに、見つめないで)
 急にたまらなく恥ずかしくなり、棚からバスタオルを取って、裸身を覆い隠す。

「ほ……ほら、ここのお風呂って、二人で入れるくらい十分広いでしょ? それに私、体が冷えきってるから……待ってたら、風邪ひいちゃうかも? それと、えと……あ! 確か、リンスがもう切れてるでしょ? ちゃんと替えがここにあるの。……ね?」

 言い訳じみた言葉ばかりが口をついて出る。
 先ほどまでの勢いはどこへやら、聖美はまた急に怖じ気づいていた。
 自分がこれからしようとしている行為の罪深さに怯え、逃げ出したい気持ちと、今すぐ雅人の胸に飛び込みたい気持ちの狭間で足が震える。

「ダメ……かな?」
「い……いい、よ」

(マー君も……緊張してる。そうよね。だって、ここに入ったら……私達、もう引き返せない。この、たった一枚ドアを隔てた向う側で――)

「ありがと。それじゃ……は、入るわね?」
「う、うん!」

 まるで中学生同士のカップルのように、震える声でぎこちない会話を交わし、いよいよ聖美は覚悟を決める。

(そうよ。『私』がマー君に『教えて』あげなきゃいけないの。『ホントの女の子の気持ち』を――『一番大切なものを一番好きな人に受け取って欲しい』って、この気持ちを……)

「そ、それじゃ、お邪魔……します」

 洗面台にあったヘアピンで髪をアップにまとめた聖美は、まるで『身を守る最後の砦』とでも言うように、裸身にバスタオルをギュッと巻き付け、浴室のドアを開ける。

 ――キィ。

「あ……ちょ、ちょっと待って、ママ! うわあっ!」

 ドブン!

 洗い場にいるのが急に恥ずかしくなったのか、慌てて湯舟に入ろうとした雅人の足もとが滑べり、倒れ込むようにお湯の中にダイブする。四~五人は同時に入れる立派な湯舟に盛大な水しぶきが上がる。

「……だ、大丈夫!? マー君っ!」
「ぶはっ!」

 慌てて湯舟の縁に近寄った聖美の目の前で、雅人が水面に顔を出す。

「平気?! どこか打ったりしてない?」
「だ、大丈夫。全然、平気! だいじょ……」

 笑いながら答えを返そうとした雅人が、目を大きく見開き固まる。

(……え? あっ!)

 雅人の視線を追って、下を向いた聖美は思わず目を剥く。
 慌てて急に動いたため、体に巻いていたタオルが剥がれ、美しい曲線を描く豊かな乳房が雅人の目前に晒されていた。
「きゃあっ!」
 反射的に胸を押さえる聖美から視線を反らすため、慌てて雅人が後ろを向く。
「ご、ごめんねっ! わざと見たんじゃないんだよ……その、ごめんなさいっ!」

(……マー君)

 背中ごしに必死で謝る雅人のいじらしい姿に、また、聖美の胸がキュンと疼く。
 今の場面で、迂闊なのは明らかに自分の方だった。

(謝るのは、こっちだわ。しっかりしなさい、聖美! こんな事くらいで驚いてどうするの? あなたはマー君をちゃんとリードしてあげなきゃいけないのよ?)

「……そうだわ。こんなもの身に付けてるからいけないのよね?」
 口の中で小さく呟き、ハラリとバスタオルを落とす。反射的に胸と下半身を隠そうとした腕を途中で止めてわざと両脇に垂らし、少し震えながら声をかける。
「あの……マー君。み、見ても、いいわよ?」
「……えっ?」

 背中を向けたまま、ビクン!と雅人が硬直する。

「だって……その、見たいんでしょ?」
「う……うん。それは、確かにそうなんだけど……ねぇ、ママ、どうしてなの?」
「え? 何が?」
「どうして……その、急に『こんな事』を言い出したの? だって、ママは僕の事を、『嫌い』――なんでしょう?」
 雅人の声には当惑と苦悩の色が滲んでいた。

(……あ)

 確かに幾度も叫んだ――『マー君なんて大嫌い!』と。

「僕……その、まるで夢を見てるみたいで、すごくすごく嬉しくて、さっきはつい、『お願いしますっ!』って言っちゃったけど、でも、もしママが……僕を傷付けないように無理してるんだったら……ホントはイヤなのに『こんな事』しようとしてるなら――」

(マー君――)

「僕ね……もう、イヤなんだ。ママ、さっき泣いてたよね? あんな風に泣く程イヤなんだって分かったら、僕――」
 雅人の背中が震えている。後悔と恥ずかしさにうなだれる姿は、幼い頃から変わらなかった。

(ホントに――バカね。優しい……私の、おバカさん)

 愛しさが胸に溢れ、臨界を越える。
「マー君」
「……は、はい?」
 聖美の声の調子が変わったのを敏感に感じとった雅人が背筋を正す。
「こっちを向きなさい。最初の『レッスン』よ」
「え? れっすん?」
「向きなさい」
「……はい」

 おそるおそる振り返ると、まっすぐに自分を見つめる聖美と目が合う。
 聖美は湯舟の中にしゃがんだ雅人に目線を合わせるように、立て膝で身を乗り出していた。

「……!!」

 雅人は目前の美母の裸身に声も無く見惚れる。
 優しく、だが、凛としたまなざしで自分を見つめる母は、記憶にあるどの姿よりも美しく、神々しいまでに気品に溢れていた。
「ママ……」
 まるで美の女神に魅入られた神話の若者のように、雅人はそのまま言葉を失う。

「さあ。『女の子の正しい知識』の最初のレッスンは『キス』よ。マー君」

 聖美は、まぶしげにボーッと自分を見つめる雅人に優しく微笑む。
「え? ……『キス』?」
「そう。女の子はね、時々、『言葉に出せない気持ち』になる事があるの。そんな時、男の子はちゃんとキスから女の子の気持ちを読み取ってあげないといけないのよ」
「言葉に出せない……気持ち?」
「さ、それじゃ、さっそく実践よ」
「え? じ、実践?」
「そうよ。ちゃんと読み取ってね」
「……えっ? ええっ?」
 慌てる雅人の肩をそっと押さえ、聖美は愛しい息子に唇を寄せる。
「わわっ!」
 雅人は思わず反射的に、のけぞろうとする。

(もぉ、マー君の……バカ!)

 素早くツッと身を乗り出し、唇と唇を触れさせる。
「……んんんっ?!」
 目を丸くする雅人に構わず、ゆっくりと心を込めて、唇を密着させていく。

(『嫌い』なハズないでしょ! 本当にイヤなら、こんな事言い出すと思う!? 『無理してる』なんて、一体、どの口が言うのよ!? バカバカバカ!)

「……ん、ふぅ。ん」
 触れ合う唇と唇がゾクゾクするような喜びをもたらす。

(ね、分かる? マー君と『私』のファーストキスよ? 『私』、こんなに喜んでるの。ホントはちょっと泣きそうなの。……好きよ、マー君。好きなの。愛してるの)

「ん……んん」
 最初は戸惑っていた雅人も、徐々に緊張を解きほぐしていく。陶然とした表情で、愛しい母の唇の感触を味わい始める。
 雅人の肩に置かれていた聖美の手が徐々に、首の方へと巻き付き始め、雅人もそれに応えるように、美母のたおやかな腰におずおずと手を回し始める。

(もう、許さないんだから! “あんな女”と、『あんな事』して! おまけに『私』にそれを見せつけるなんて! 悲しかったのよ! 悔しかったのよ! 絶対に許さない! いい? あの百倍も千倍も『私』の事、愛してくれなきゃ許さないんだから!)

 雅人をギュッと強く抱きしめる――雅人も抱きしめ返す。

(ああ、マー君! マー君! マー君!)

 まるで映画の一シーンのように、情熱的なキスだった。
 自然と溢れた涙が聖美の頬を伝う。

「はあぁ……」
 唇を放した後も、ため息と共に、潤んだ目で見つめ合う。
「……ママ」
「……マー君」

(ちゃんと……伝わったかしら?)

 ソッと目を閉じた聖美は雅人に顔を向け、キスのお返しを待つ。

(ね。応えて、マー君――)

 まるではじめてキスした少女の頃に戻ったように胸がときめく。

(あ……)

 ちょんちょんと小鳥がついばむような軽いタッチの後、触れるか触れないかのぎりぎりで互いの濡れた唇が柔らかくすり合わせられる。

(ああ……上手。素敵よ、マー君)

 聖美は目を閉じたまま、うっとりとした表情で身を委ね、雅人のなすがままに任せる。やがて、ようやく勇気を奮い起こしたのか、早熟な少年の舌先は美母の朱唇の間に、チロチロと忍び入り始める。

(――そうよ。嬉しいわ。ちゃんと分かってくれたのね、ママの気持ち。ママは……もう、マー君のモノなの。好きにしていいのよ。あなたに抱かれたいの)

「ん、んく……んぅ――」
 唇を割り裂いて忍び込む雅人の舌を吸い、ちろちろと舌先で応える。
 雅人は次第に大胆に美母の口中を舌で弄び始める。聖美も情熱を込めて舌を絡める。

 ピチュ。クチュ。チュパ。ピチュ。

 二人の間で、徐々に淫らな水音が立ち始める。

(……ああ。マー君。こんなに素敵なキス――ママ、初めてよ)

「はぁ。はぁ。はぁ。はぁ……」
 長い長い、心を込めた『最初のレッスン』を終えた二人は、すでに興奮で息が荒くなっていた。互いの額と額を合わせ、息を整える。

「ちゃんと……伝わった、みたいね?」
「う……うん。ママの、教え方がうまいから」
「ふふ。じゃあ、最初の『レッスン』は無事終了ね?」

 微笑む聖美に、少し甘えるような表情で雅人が尋ねる。

「ねぇ、ママ。僕……もっとママの色んなトコにキスしたいなぁ」
「え? 『色んなトコ』?」
 ドキリと心臓が音を立てる。

(ああ……もぉ、マー君のエッチ!)

 驚きというより、むしろ、胸の高鳴りが鼓動を早めていく。
「そ、それは……そうね、ママが体を洗って綺麗にしたら、ね?」
「あ、それなら僕が洗ってあげるよ! ね、いいでしょ?」

(ええっ!? 洗う? マー君が?)

 瞬間、びっくりして固まった聖美の表情を見て、雅人が残念そうな顔になる。
「……ダメ?」
 まるで急に叱られた子犬のように、シュンとしおれる姿に聖美の心が揺れる。

(うーーーー、マー君のバカバカバカ! すぐ調子に乗るんだから! どうしてそんな事思い付くのよ!)

「もぉ! バカ!」
 YESの代わりに、チョンと軽く口づけすると、雅人にボディソープのボトルを手渡し、くるりと背中を向けて、風呂場用のプラスチック椅子に座る。
「私……ここに座るけど。あとは……し、知らないっ!」
 顔を背け、座ったままシャワーを浴び始める。
 口では知らないと言いながら、すっかり『洗ってもらう』態勢だった。
「……ふふ」
 雅人は湯舟から出ると、ボディソープを浴室用スポンジにまぶして盛大に泡立てながら、後ろからゆっくりと聖美に近寄る。

(マー君のエッチ! 『洗う』って――一体、ドコを洗うつもりよ? もぉ!)

 後ろから聞こえるシャワシャワという泡の音に、背筋がむず痒くなるような感覚を覚える。期待と不安にドキドキと鼓動が高まり、知らぬ間に両の乳首がツンと硬く尖る。

「嬉しいなぁ。ママのカラダ、こうして洗ってみたかったんだ。“キヨミ”の奴は、くすぐったがって絶対洗わせてくれなかったから」
「こら! “あの女”の事を言うのは禁止よ!」
「……あ、ゴメン!」
「もおぉ!」

 怒ったふりをしながらも、聖美は小さな喜びに心踊らせる。

(そうなの? じゃあ、これは“キヨミ”も知らない、『私』とマー君だけの『初めての経験』なのね?)

「……うふ」
 ささいな事なのに、心が弾み、微笑みがこぼれる。

「ねぇ、ママ。『レッスンその二』は『女の子のカラダについて』だね? いっぱい教えて欲しいなぁ」
「こ、コラ……何を勝手に――きゃうっ!」

 ぬるん。

 泡だらけになった雅人の手が、背後から聖美の両方の脇の下を通過する。
 てっきりスポンジを使われるものとばかり思いこんでいた聖美は驚いて脇を締め、結果的に雅人の腕をしっかり挟みこむ形になる。

「ちょ、ちょっと、マー君?! 何するのっ?!」
「ふふ」

 聖美の目の前で、うねうねと雅人の両手が指をくねらせ始める。
 乳房を下から覆うように――だが、決して直接は触れない位置で、泡にまみれた繊細な指先が、何か得体の知れない生き物の触手のように蠢く。

(私に――見せつける気っ!?)

 そう。息子は、これから自分の指が愛する母の柔肌の上で、どんな淫らな動きをするかを予告しているのだ。

「じっくり、丁寧に、隅から隅まで洗ってあげるからね――ママ」
 熱い期待を込めた囁きが、耳元に流し込まれる。

(――ああ。どうしよう?)

 少し泣きそうな顔で、蠕動を繰り返す雅人の指先を見つめる。
 この淫らな指先が触れた後に起こる『表面的な出来事』は容易に想像出来る。

 コリコリとつまみ、さわさわと撫で、ふるふると揺らし、ヤワヤワと指を滑べらせ、ニュルニュルと引張り、くりくりと押し潰し――そして、ゆっくりと揉みしだく。

 決してあせらない息子の指の動きに合わせて、自分の乳房は様々に形を変える事だろう。あらかじめ『動き』を理解させる、という意味では、それは極めて効果的なデモンストレーションだった。
 だが、『動き』が分かっても、『ソレ』が自分に与える『結果』までは分からない。

 一体、どれほどの快楽が待っているのだろう?
 果して自分はそれに耐えられるのだろうか?

(うう。マー君てば……私が考えるより、全然『エッチ』だわ)

 これではどちらが『教えて』いるのか分からない。
 怖さと期待でどんどん鼓動が早まっていく。
 すでに雅人は『デモンストレーション』から、じわじわと次の段階に進みつつあった。

(――あ)

 いつのまにか、さっきより指が近付いている。
 聖美の肌に触れるか触れないかの距離まで近付いた雅人の指が、細かく泡立てられたボディソープの泡を、ソッとなすりつけてくる。無論、直接触れるのに比べれば、刺激はほとんど無いに等しいのだが、逆にほんの小さな違いゆえ、未知の感覚に怯える聖美のカラダはその差位を敏感に感じとろうとしてしまう。

「……ふっ! くううっ!」
 ゾクゾクと震える体を懸命に抑え込む。

(どうして?! どうして、こんなに――)

 これが本当に、つい先程『キス』に怯えていた*学生の子供のする事だろうか? 
 一度こうして身を重ね始めると、雅人の行動は急に自信に満ち溢れだし、聖美の予想を遥かに越えたテクニシャンぶりを発揮しはじめていた。
 今も、明らかに『期待感』――『快楽の予兆』を聖美の身の裡に生じさせようとしている。決して性急に攻めたてようとはせず、予告し、じらし、必ず『結果』を想像させるだけの余地を残す――つまり、一方的な関係ではなく、聖美自らが快楽を待ち望み、受け入れるよう仕向けているのだ。
 それは老練で繊細で、悪辣なほど女性のツボを知り尽くした手管だった。
 まるで幼い少女のように怯えながらも、敏感な聖美のカラダは、目から耳から肌から届く刺激に素直に反応し、徐々に官能の感度を上げていく。

「そ、そんなの……見せたって、私、ちっとも――きゃああっ!」

 虚勢を張ろうとした声が裏返る。
 突然、背後からうなじをペロリと舌が襲ったのだ。聖美は完全に虚を突かれ、大声で叫んでしまう。

「あ! やっ! やああっ!」

 だが、そんな叫びなどまるで気にせず、雅人の舌先はチロチロと首筋を這い上がる。
 
「ね……ねぇ、お願い! 待って、マー君!」
「ん? 何が?」
 そう問い返す間にも、雅人の舌は頬を越え、容赦なく耳たぶ近くまで侵行する。
「い、一体どうするつもりなの!? 私のカラダを『綺麗に洗ってくれる』んじゃ――あんっ! ダメよ、舐めたりしちゃ! まだ洗ってないから、汗臭いし、汚いわ!」
「ううん。ママのカラダに汚いトコなんか無いよ。それに――すごくいい匂い」

 ちゅっ! ちゅっ!
 わななく白い肌が、わざと大きめの音を立てて吸われる。

「ば……バカバカバカバカあああ!」
 必死で身をくねらせ、雅人の唇を避けようとするのだが、雅人の腕を自らの両脇で挟み込み固定しているため、どうにも逃げられない。

 ぬるり。

「は……ああんっ!」
 ついには耳の穴の中にまで、淫らな舌先をねじ込まれてしまう。

「あっ! ああっ! ……ひああっ!」

 そのままカジカジと耳たぶを甘噛みされた聖美は、思わず、引き締めていた両脇の力を抜いてしまい、雅人の両手が自由になる。
 途端にペチョリと音を立て、両の乳房が泡だらけの手に包み込まれる。

(ああ、捕まっちゃった! ……どうしよう? どうしよう!?)

「……ねぇ、ママ?」
 耳元で雅人がゆるりと囁く。

(くうぅっ! 耳に――息、吹きかけないでぇ!)

「な……何、かしら、マー君?」
 再び脇の下にガッシリと雅人の腕を挟むと、必死で虚勢を張り、何事もなかったかのように振舞おうとする。

「ほら……見てごらん? すごく、可愛くて――キレイだよ」
「え?」

 雅人があごで前方を示す。釣られてそちらに視線をやると、羞恥と快感にぼうっと霞んだ目に、『頬を寄せ合う美女と美少年』が映る。

「……あっ!」

 目の前の鏡に、背後から豊満な乳房を揉みしだかれる自分の姿が余すところなく映し出されていた。頬を紅潮させ、虚ろな目であえぎながら、最愛の息子に身を委ね、快感に身悶えている。

「や、やあぁ!」

(こんな……こんなの、『私』じゃないっ!)

 涙を浮かべ、力無く首を振る。

「さあ、それじゃあ教えてもらおうかな。ねぇ……ママ、ココは『どこ』?」

 にゅるん。にゅるるん。

「はうぅ!」

 たっぷりとボディソープの泡をまぶされた十本の指が、ピアノを奏でるように油ののった柔らかな曲面の上を、繊細なタッチでなぞっていく。触れるか触れないかの微妙な距離をかすめたかと思うと、不意に張りのある肌に指先を埋め、また、リリースする。

「ね。見えるでしょ? 教えてよ。僕はママの『どこ』を洗ってるの?」
 聖美の耳元に口を寄せて囁く雅人の声は、甘く優しい。

「あ! はああぁっ!」

 鏡の中で泡にまみれた指の一本一本が淫らな動きを見せる度に、聖美のカラダがビクビクと反応する。

(ああ、嘘よ。私、こんな……)

 貞淑で慎み深い聖美にとって、こうして『自分の淫らな姿』を生で目にするのは、生まれて初めての経験だった。先程DVDで見た“キヨミ”の恥態は、自分の記憶には無い事で、どこか『他人事』のように感じられたが、今、目の前の光景を否定する事は不可能だった。

(なんて……いやらしい姿なの。私、触られて……感じてる。マー君の指で――)

 ふと聖美は、先程、液晶画面を通して見せつけられた“キヨミ”と雅人の睦み合いに、涙を流して悔しがった事を思い出す。
 切なく、苦しく、見ているだけで胸が張り裂けそうだった。
 だが、今、自分が目にしている光景は違う。
 鏡の向こうの『淫らな情景』の主役は『自分』なのだ。
 雅人のいたずらな指が動く度、快楽に身悶えるのは聖美本人なのだ。

「ふふ。コリコリしてるね?」

 敏感なピンク色の頂きは、這い廻る指先に幾度も幾度も執拗になぶられ、これ以上はないほど硬くツンと突き出ている。

「あ! や! ……あああっ!」

 指が通過する度、電流が流れたようにビクビクとカラダが跳ね廻る。
 まるで壊れかけたロボットのようだ。

(いやらしいおっぱい……ああ、マー君の言う通り、乳首もあんなに硬く尖って――)

 恥ずかしさに頬を染め、悶え叫びながらも、不思議な悦びが胸にこみ上げるのを感じる。目の前の光景は確かに自分が望んだものなのだ。

(そうよ……見てるだけなんてイヤだったわ。『私』も……して欲しかったの)

 鏡の向こうの淫らなシーンを認める事は『快楽を受け入れる事』と同義だった。聖美は次第に緊張をほぐし、雅人に身を委ね始める。

「ほら、教えてくれないの? ココだよ? ココ」

 散々刺激され続けて硬く尖りきり、切なく疼く乳首が、二本の指でつままれ、何かのスイッチのように弄ばれる――いや、それらは実際に、聖美に甘い声を上げさせる『スイッチ』なのだ。

「はぅんっ! あうぅんっ!」

 本人も気付かぬうちに、聖美の上げる声は次第に変化し始めていた。
 もはや抗いの気配は薄れ、甘えるような声音が無意識のうちに混ざりかけている。

「……ふふ」
 雅人はまるで楽器でも演奏するかのように余裕たっぷりで、自分の指使いに合わせて変わりゆく美母の反応を楽しんでいる。
 あらかじめ指の動きを予告し、期待感を盛り上げた後は、聖美自身に『自分が快楽に溺れていく姿』を見せつける――あざといほど見事な誘導ぶりだった。

(ああ、イジワル! イジワル! マー君のイジワル!)

 恥ずかしさに耐えられなくなった聖美は、ついに『声を上げないよう耐える事』を諦め、代わりに肩越しに自分の反応を覗き込む雅人の顔を両手で無理矢理引き寄せて、唇を奪う。

「んんんん!?」
 急にキスされた雅人は、一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐに指の戯れを再開する。

「~~!!」

 雅人の顔を捉えるため、聖美の両手が上に伸ばされた結果、もはや雅人のいたずらな指先を阻むものは何も無い。

(もう……いいわ。どうにでもしてっ!)

 それは事実上、『無条件降伏』の合図だった。
 興奮を抑えきれない様子で、雅人は美母の豊かな双乳を思うままに蹂躙する。

 つまみ、撫で、さすり、握り、弾き、引張り、押し……また、つまむ。

 まるで何かに取り憑かれたように、雅人の指は、ただただ、胸のみを攻め続ける。
 思いもよらぬ角度、思いもよらぬタッチで責められ続け、聖美は声を上げる代わりに、夢中でキスにのめりこむ。

(ああ、スゴい。私、こんなの初めて。胸だけで、こんな――)

 次第に目の焦点がトロンと合わなくなり、キスの主導権も雅人がとり始める。
 舌先を遠慮無く伸ばして美母の唇を犯し、トロトロと唾液を流し込む。

「んく。ん! んうぅ……」

(私……私……もう――)

 聖美の変化を敏感に感じとった雅人は、徐々に勢いを上げ、ラストスパートに入る。

 ぬるん。ぺちゃ。にゅる。ぷちゅ。ぴちゃ。こりこり。むにゅ。

「う、うう……。ううぅ……」

 もはやキスする力さえ失い、ひくひくと体を痙攣させながら、聖美は雅人の指に全てを委ねる。

(ああ……もう、ダメ。マー君、私、イクわ。もう、イッ……ちゃ――)

 涙を流し、ギュッと雅人の首にしがみつくように抱きつきながら、聖美は全身を小刻みに震わせて絶頂を迎える。

「~~~~!!」

 はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。

「ふふ」
 雅人は頬をすりよせ、まるで幼い子供をあやすように、優しくぽんぽんと聖美の頭を叩く。
「胸だけでイッちゃうんだ? ママって、スゴく敏感なんだね? “キヨミ”だって、あんな風にはならなかったよ」
「ば、バカぁ……」

 抗議の声も弱々しい。聖美自身、自分のカラダが信じられなかった。こんな風に胸だけを刺激されて絶頂を迎えるなど、生まれて初めての事である。

「すっごく可愛いよ」
 シャワーでボディーソープを洗い流しながら、雅人が聖美の頬に軽くキスをする。

「うーーーーー!」

 聖美は今さらのように両手でしっかり胸を隠し、雅人を睨みつける。
「も……もう、おしまい! 後は……自分で洗うわ!」
「ん? いやいや。遠慮しないで」
「あ! こ、こらっ!」

 雅人は風呂場用のプラスチックの椅子の上で小さく縮こまった聖美の真横から手を伸ばし、背中と膝の裏に手を回して、美母の体をヒョイと担ぎ上げてしまう。
 俗に言う『お姫様だっこ』の体勢である。

「きゃあ!」
「ほらほら、暴れないの。まだ、洗ってないところがあるでしょ? 僕がちゃーんと『隅々まで』洗ってあげるからね? それにママってば、悶えてばっかりで、ちっとも僕に『教えて』くれなかったよね? 次こそ、色々『教えて』もらうよ。さあ、まずは一緒にお風呂に入ろうね?」

 そう言って、雅人は聖美を抱えたまま、一緒に湯舟に浸かる。

 ザバーッ!
 二人分の湯が押し退けられ、湯舟から溢れる。

「ああ、嬉しいなぁ。ママとこうして一緒にお風呂に入れるなんて。……なんか、子供の頃に戻ったみたいだね。ママはどう? 赤ちゃん気分?」
「バカバカバカバカバカ! 知らないっ!」

 雅人の腕に抱かれたまま湯舟に浸かった聖美は、ぷいと顔を背ける。

(もぉ! エッチなんだから! これじゃあ、どっちが教えてるのか分からないわ!)

 両手で胸を隠し、膝を丸め、固く身を縮めたポーズで必死にガードする。

「ふぅん」
 広い湯舟にあぐらをかき、横抱きにした聖美を太股に乗せた雅人は、楽しげにニヤニヤと笑う。
「アタマ隠して……ナントカ、だね?」
 雅人はこっそり聖美の太股の下側に手を伸ばし、剥き出しの敏感な花弁を、チョンチョンとつつく。両手を胸に当てているため、聖美の下半身は全くノーガードだった。

「きゃあっ!」

 驚いた聖美は、丸めていた体を反射的に伸ばし、慌てて両手で股間の前後を覆う。

「アレアレ? ……いいのかな、それで?」

 当然、それまで両手で覆い隠されていた豊かなバストは剥き出しになる。
 すかさず、雅人はニヤニヤ笑いながら、水面下に伸ばされた聖美の体を押し上げた。

「あっ!」
 ほぼ水面に水平な位置まで体が持ち上げられた結果、見事なラインを描く美母の双乳がフルフルと揺れながら水面にそびえ立つ。

「いただきまーす!」

 ちゅぽ。
 雅人は嬉しそうに目の前のピンク色の乳首をくわえる。

「は、あああん!」

 思わず声を上げる聖美に構わず、ベロベロと舌で攻めたてる。

「……あ! や! ダメッ!」
「ふふ。『ココ』はもう洗った後だから、キスしていいんだよね? 今度は指じゃなくて、舌でイかせてあげようか?」
「ま、待ってっ! お願い、マー君待ってっ!」

 もう恥も外聞もなかった。必死で雅人を止める。

「ん? どうしたの?」
「……お、お願い。その……あんまり急過ぎて、『私』怖いの」
「ふぅん。そう?」

 雅人はニヤニヤと笑いながら、聖美の顔を覗き込む。

「そ……そうよ。女の子には優しくしなきゃ……ダメ、よ」

 おどおどと目を反らす。
 実際、今雅人に強引に迫られたら、拒みきれる自信は無い――だが、決して『抱かれる事』自体がイヤなのではなかった。
 今も乳房が切なく訴えている――もっと触られたい、揉みしだかれ、音を立てて吸い付かれ、淫らな舌で舐め回されたい、と。
 成熟したオンナの部分も甘い期待に疼き、とめどなく熱い蜜を溢れさせている。
 だが、その一方であまりの快感の大きさに戸惑い怯える自分も確かにいた。
 まだ心の準備がうまく出来ていないうちに、ただただ『肉欲』だけに押し流されたくないのだ。

(マー君の……イジワル)

 まるで、ココロとカラダの狭間で危うく揺れる思春期の少女のように、矛盾した気持ちを抱え、聖美は戸惑う。

「そっか。ごめんね、ママ。『優しく』だね? 分かったよ」

(あ……)

 優しく、そっと唇が塞がれる

「んっ! んく、んうぅ……」

(もぉ! キスで誤魔化すなんて! 生意気よっ!)

 だが、そう思いながらも、うっとりと目を閉じて従順に雅人の舌先を受け入れる。
 長くて短い『心を込めた謝罪』が終り、互いの唇が離れる頃には、すっかり聖美の目はとろけきっていた。

(ああ……イケナイ子。ホント、生意気……すぎるわ)

「それじゃあ、ママのペースでいいよ。『急がない』って約束するから、僕にキチンと『洗って欲しいトコ』を『教えて』くれる?」
「……え?」

 ぼぉっと宙空をさ迷っていた視線が、雅人に戻る。

「僕、ママが『教えて』くれたトコロを、うーんと丁寧に洗ってあげるね。それでママに一通り『教えて』もらい終ったら、もう、『どこにキスしてもOK』って事になるよね?」
 爽やかに、にこやかに、雅人が提案する。

「そ、そんな!」
「さ! それじゃ、さっそく質問です。僕はさっき、ママのカラダの『ドコ』を洗ってあげたんだっけ? 教えてくれる?」
「それは――」
「ん? もしかして、教えるの『イヤ』なの? だったら――」
「あっ! ま、待ってっ! 教えるっ! 教えるわ! お……『おっぱい』よ! 『私』、マー君に『おっぱい』を洗ってもらいましたっ!」
「そうそう。ココもちゃあんと洗ってあげたよねぇ?」
「う……」

 乳首を優しくつままれ、触れるか触れないかの微かなタッチで刺激される。
 先程絶頂を迎えたばかりで、まだまだ敏感になっている聖美のカラダには、ほんのわずかな刺激だけで十分だった。途端にうつむいて小さく震えながら唇を噛みしめ、何も言えなくなる。

(ヒドいわ。『優しくする』って言いながら、また私をオモチャにする気なのね?)

 ハァハァと熱い吐息が自然に洩れる。悔しいが、絶妙の指遣いだった。
「……ふふ」
 雅人は『新たに手に入れた美しい女奴隷を愛でる若主人』といった風情で、悠然と尋ねる。
「ねぇ、ママ。ココは……何て言うんだっけ?」
「ち、『乳首』……あんっ!」
「スゴく敏感だねぇ。もうこんなにカタくなって……可愛いよ」

(あ、マー君――)

 雅人は聖美と視線を合わせたまま、ゆっくりとピンク色の乳首に舌先を伸ばす。
 確かに約束通り『急いで』はいないが、逆にじっくりと自分の行為を見せつける事で、聖美の意識に『いつ訪れるか分からない快楽』への怯えと期待を刻み込もうとしているようだ。

 ぴちゃ。

「あううっ!」
 またしても、ゾクゾクとしたものが背筋を走る。

(――どうしてなの? どうしてこんなに上手なのよおぉ!?)

「さ、次はどこを洗って欲しいのかなぁ? 教えてくれるまでは――」

 ちゅぷ。

「はうぅ!」
 ミリ単位で優しくチロチロと動く舌の感触が聖美の知覚を支配する。決して急ごうとはしないかわり、これ以上はないほど繊細なタッチで刺激を与え続けている。指先との違いを、柔肌にじっくり教え込もうとしているかのようだ。

「せ、『背中』! 『背中』を、お願いっ!」

 必死で『影響の少なさそうな場所』を選び、叫ぶ。
「了解。よーく洗ってあげるね。じゃ、いっぺん出ようか? のぼせちゃうもんね」
 軽くキスするとまた『お姫様だっこ』で抱き上げられる。

(うう……くやしい。すっかり、マー君のペースだわ)

 結局、急ごうと急ぐまいと、雅人の手の内で弄ばれている事に変わりはなかった。

            ■■■■

「ああ。ちょうど、さっきママが巻いてたバスタオルがあるね。これを床に敷いて、うつぶせで寝てくれる?」
 聖美を降ろした雅人はテキパキと指示しはじめる。
「……えっ? 寝る? うつぶせ?」
「うん」
 にこやかに雅人が微笑む。
「あの……何するつもりなの? 私、ただ『背中を洗って欲しい』って……」
「もちろん、背中を洗ってあげるつもりだよ」
「……嘘よ! 何なの、その変な液体はっ!?」

 見た事の無い透明のポリ容器から、トロリとした得体の知れない透明な液体を洗面器に流し込む雅人に、聖美が怯えながら尋ねる。
 徳用シャンプーほどの大きさのその容器にはラベルが無く、中身の見当がつかない。
どうやら“キヨミ”と使うために、昨日のうちに用意されていたもののようだ。

「ん? これはねぇ、ローションだよ、ママ」
「ろーしょん? ……って、お化粧の?」
「ああ、違う違う。実は僕も使うのは今日が初めてなんだけどね。インターネットの通販サイトで買ったんだ。代引で受け取る時だけ“キヨミ”にやってもらって――あ、もちろんお金は僕のお小遣いから出したよ」
「……だ、だから、何なのよソレはっ!?」
「ふふ。『とってもイイもの』だよ。さぁ、うつぶせになって」

 洗面器にさらにお湯とボディーソープを注いで撹拌しながら、雅人は聖美が床に敷いたバスタオルを指さす。

「また、変な事……する気なのね?」
「ううん。ちっとも変な事じゃないよ。ちゃあんと洗ってあげるだけだよ」
「嘘よ! 絶対、嘘! 顔が笑ってるわ!」
「はは……そう?」
 嬉しげに微笑みながら、雅人は撹拌を続ける。

(バカバカバカバカ! 今にみてらっしゃいよ! もおぉ!)

 心の中で罵声を浴びせながら、聖美はしぶしぶ指示に従い、床に敷いたバスタオルの上に寝そべる。

「さ。それじゃ、洗いますよー。いいですか、お客さん?」
「……ど、どうぞ」

 さきほど、ボディシャンプーの泡立つ音にドキドキしたように、背後から聞こえる『中身の分からない液体を撹拌する音』に、また聖美の鼓動が早くなる。『ローション』という代物が実際にどんな場所でどんな事に使われるか知らない聖美にも、その用途が『イヤラシイもの』である事は容易に想像出来た。

(どうしよう? あんなに……トロトロしてたら、きっと――)

 雅人の手にかかると、たかが『ボディシャンプーで胸を洗う』という行為でさえ、あれほどの『威力』を自分のカラダにもたらすのだ。

(ああ。私、また――狂わされちゃうのね?)

 おぞましく、恐ろしく……そして、否定のしようもなく、胸がときめく。

「あ、そうそう。コレ、床にこぼれると後で危ないし、洗うのが大変そうだから、あんまり動かないでね。それと今度は『声出しちゃダメ』ってルールにするよ。背中を洗い終るまで声を出さずに耐えられたら、何でも一回、ママの言う事聞くね。反対に、もし声を出しちゃったら……ふふ。おしおきだよ」
「お、おしおき!? ルール!? そんな、急にっ!」
「はい、始めるよ。もう、喋っちゃダメだからね?」

(ヒドイっ! 優しくするって言ったのにっ!)

「じゃ、お客さん、行きますよー」
 まるでガキ大将のように、雅人は無理な提案をそのまま押し通す。

 ――トロリ。

 聖美の背中に、生暖かく粘度の高い液体が細い流れとなって滴る。

「っ!!!!」

 途端に、思わず大きな声を上げそうになり、聖美は慌てて手で口元を押さえる。

(……何なの!? 一体、何なのよ、コレぇ!?)

 トロリトロリと細い流れで滴り落ちる生暖かな粘液は、しばし背中の筋の真ん中に溜ったかと思うと、すぐに境界を越えて溢れ、ヌメヌメと肌を伝って脇から滴り落ちていく。

 ぞわぞわぞわっ!

 全身に鳥肌が立つ。気持ち悪いのではない。逆に気持ち良すぎるのだ。
 さきほどから強制的に感度を上げられ続けている聖美のカラダが、声にならない悲鳴を上げている。

(そんな……そんな……そんな……)

 粘液の伝う場所に全身の神経が集中していく。
 まるで背中全体が敏感な女性器にでも変わってしまったようだ。

「!」

 初めは背中のほぼ中心を的にしていた粘液の流れがゆるりと動き始めた。トロトロと滴り落ち、最初に肌に触れる『落下地点』がじわじわと背骨に沿って上に向かう。

「~~~~~!!」

 まるで細い細い穂先で背中を撫でられているようだ。形容しようのないゾクゾクとしたものが背筋を走る。普通ならほんの一瞬で電気のように過ぎ去るその感覚がゆっくりと、たまらない速度で背中をよじ登って来る。

(こんな……こんなの知らない! こんな、エッチな……あああ――)

 ひたすら必死で口元を押さえ続ける。
 そうでもしないと大きな声で叫んでしまいそうだ。
 まだ雅人の指先は何もしていない。ただただ、生暖かい粘液を滴り落とすだけで、聖美を欲情の渦に叩き込んでしまった。

「……もういいかな?」

 雅人は少し離れると、聖美の体全体を見渡す。
 ヌメヌメとテラテラと背中全体をまんべんなく粘液が覆っている。
「さ、それじゃ洗うよ」
 サラリと告げる雅人の言葉に、聖美は目を剥く。

(……えっ!? まだなの!? まだこれから――ひっ!)

 ぺちょり。

 ぬるぬるとした粘液の中心に、雅人の手の平が着地する。
 さきほど乳房を攻められた時は、十本の指先が各々バラバラに動いていたが、今回は少し様子が違う。背中に乗せられた手の平全体が、まるで一つの大きな吸盤のように統一された動きをみせている。

(何なの!? 何なのよおぉ!)

 聖美の白く滑らかな肌の上を、決して急ぐ事の無い悠然としたペースで淫らな手の平が這い廻る。
 指と指の間を隙間無く閉ざし、空気が逃げないようにしているためか、雅人の手の平は聖美の背中にぴったりと吸い付いている。しかも、さらにその状態で微妙に各々の指を蠢かせているため、聖美にはまるで二匹の大きなかたつむりが這っているように感じられた。

「~~~~~!!」

 手の平の当たった場所全てがヌルヌルとした粘液の感触に包まれ、細胞の一つ一つが一斉に快感の信号を送り込んで来る。
 毛穴の一つ一つがピンと突き立つほど激しい鳥肌が全身に生じる。
 懸命に頭を巡らし、『影響の少ない場所』を選んだつもりだが、それは無駄な努力だったようだ。雅人の手にかかると、『背中を洗う』という行為さえ、これまで一度も味わった事の無い『性の饗宴』と化すのだ。

(気持ちいいわ! 気持ちいいの! 気持ちいいのよおおぉっ!)

 荒い鼻息で、必死で口元を押さえ、なんとか声を漏らさないようにするのだが、無意識に足先がバタバタと暴れる。
 これほどの快楽を与えられ、声を出せない、というのは拷問に等しかった。

(どうしてっ?! マー君、どうしてこんなに上手なのっ?!)

 雅人は一体どこでこれほどのテクニックを学んだのだろう?
 じらし方、触り方……キスの仕方ひとつとっても、*学生とはとても思えない。

(すごくイヤラシくて、すっごく上手――もしこれが普通の大人の男の人だったら、私、きっと疑っちゃうわ。“凄いプレイボーイなのね。よっぽどたくさんの女の人と経験したのね?”って。でも、マー君はまだ*学生だし、女の人を誘うなんて――)

 ……ハッ!

 どうして『実例』を目のあたりにしながら、今まで気付かなかったのだろう?
 雅人にはすでに『手段』があるではないか。その気になれば、どんな相手も意のままに操れる『魔性の業』が。

「まさか、マー君……」
「ん?」

「――あっ!? ああああっ!」
 せっかくここまで無言で快楽に耐えていたのに、うっかり思った事を呟いてしまったのに気付き、愕然とする。

(バカバカバカバカ! 私、つい――)

「ふぅん。あとちょっとで洗い終ったのにね」
「や、ヤダッ! お願いっ! 今の無しっ!」
 後ろを振り向き、必死で頼み込む。
「ダーメ。ちゃんと聞いたもん」
 雅人は楽しげにクスクスと笑う。
「あの……あのねっ! 私、今、ちょっと考え事してて、その……」
「残念だけど、『ルール』だからねぇ」
「ヒドいっ! ヒドいわよ、そんなのっ!」
「ふふ。さ、流すよ」

 雅人は抗議に一切耳を貸さず、背中に無造作にシャワーを浴びせてくる。

(ヒドイヒドイ! ヒドイわ! マー君のイジワル!)

「ああ……ママの肌って、どこもスベスベだねぇ。しっとりしてすごくいい手触り」
 雅人は、優しく素手でローションを洗い流しながら、うっとりと呟く。

 チュッ! チュッ! チュッ!

「こ、コラッ! あ……やぁん!」
 洗いながら、背中にキスの雨を降らせる雅人にキヨミは慌てる。
「ダメよっ! やめて、マー君っ!」
「ん? どうして? もうココは洗い終ったでしょ? それとも、もう一回じっくり洗って欲しいのかな?」

「う……」

 聖美は思わず言葉に詰まる。
「もう、キスしていいんだよねぇ? ここも、ここも……」

 ちゅっ! ちゅっ!

「……あぅ! そ、そんなトコ!?」
 尾てい骨の辺りをついばむように雅人の唇が襲う。
「美味しいよ、ママの背中。……ほぉら」
 長く伸びた舌がベロリと背筋に沿って這い上がり、聖美はバタバタと身をよじる。
「やっ! やああっ!」
「ふふ。ママ、ココ好きでしょ? それに、ほら、ココも」
「えっ! 嘘っ!? そ……そこ、ダメエェッ!」

 肩甲骨のくぼみ、首の付け根、腰のくびれのあたり――雅人の舌が次々と的確に『弱い場所』にヒットし、自分でも知らない快感の泉が明らかになっていく。

(私……調教されてるっ!?)

 洋三には攻められた事が無いため、これまで気付かなかったのだが、実は背中も敏感すぎるほどの性感帯なのだという事実を、今さらながら気付かされる。

「マー、君……あっ! やっ! いやいやあぁ!」
「ああ。可愛いなぁ」

 叫びながら懸命に身をよじるのだが、腰の辺りをがっしりと両手で掴まれ、後ろからのしかかるように襲われているため、それ以上の抵抗は出来ない。ただただ、雅人のなすがままだった。

(エッチ! マー君のヘンタイ! もおぉっ!)

「……ああ、そうそう」
 楽しげに舌先を美母の柔肌に這わせながら、何気ない口調で雅人が告げる。
「さっきの『声を出しちゃった罰』だけどねぇ、実はもう『おしおき』の内容は決めてあるんだ」
「えっ!?」
「ねぇ、何だと思う?」
 肩越しにニヤニヤとのぞき込む雅人の顔は完全にイタズラっ子の表情だった。
「……わ、分からないわ」
 聖美は少し怯えながら、返事を返す。

(また、私をいじめるつもりなのね? この……いじめっ子!)

「さぁ、立って」
 ローションを落とし終り、聖美を立ち上がらせると、後ろから追いたてるように先程も使った洗い場用のプラスチック椅子の前に連れて来る。
「座って。ただし、あっち向きね」
「……え? あっち?」
 シャワーや鏡が備え付けられた壁側とは反対の、何も無い方向を向いて座らさせられる。
 天井に大きなすりガラスがはめられた浴室は、午後の日差しを受け、まぶしい程に明るい。洗い清められたばかりの聖美の裸身が、日の光を受けつややかに輝く。

「ふふ。綺麗だよ、ママ」
 雅人はまたしても背後に廻り、椅子に座った聖美の肩越しに上から胸の谷間をじっくりと覗きこむ。まるで値踏みするように見つめられ、聖美は頬を紅く染めて、両手で胸と下半身を覆い隠す。

「は……恥ずかしい、わ」

 まだ陽も明るい時間に、全裸で息子と二人きり――そんな異常なシチュエーションを自覚すると、麻痺しかけていた羞恥心がまた甦る。

(……イジワル)

 いっそあのまま攻め続けられていたなら、今ごろはすっかり我を忘れ、官能の渦に身を委ねられていただろうに、こうして中途半端に正気に戻されてしまうのがなんとも恨めしい。

(『おしおき』って……マー君、一体何させるつもり?)

 また、ドキドキと鼓動が早くなる。
 雅人の行動はいずれも聖美の想像を遥かに超えていやらしく、これまで一度も味わった事の無い快楽をもたらし続けている。

(どうせ……またエッチな事なんでしょ? 恥ずかしくて、キモチ良くて、私、頭がトロけそうになって――ああ、もぉっ!)

 しっかり閉ざした両足が、緊張で微かに震えている。
 期待と不安でどうにかなりそうだった。

「ねぇ、ママ。僕、昔から思ってたんだけど、ママってちょっと綺麗すぎるんだよね」
 後ろから聖美の肩に手をかけた雅人が、さりげない口調で語りかける。
「……えっ? ど、どういう意味?」
「そのままだよ。綺麗すぎて、なんだかエッチな目で見たり、エッチな事しちゃいけない気がするんだ。ママの裸を想像しようとするだけで、すごく罪悪感を感じちゃうんだよ僕。まぁ、普通の家の子供だと、そもそもそんな事で悩まないんだろうけどね」
「あ……」

 雅人の手が優しく肩を揉み始める。
 ほどよい力加減のその揉み方は、うっとりするほど心地良かった。

(マー君……マッサージまで上手なのね)

「う……嘘、つき。マー君、“あの女”には、平気でエッチな事してたじゃない」
「うん。不思議だね。顔もカラダも同じなのに、“キヨミ”が相手だと全然そんな風には感じないんだ。もちろん、『最初にあっちの方から誘ってきた』ってのも大きいんだろうけど、“キヨミ”になら、下の毛を剃っちゃったり、外で下着を脱がせたり、幾らでも平気でエッチな事が出来るんだよ。なのに、『ママ』が相手だと急にスゴくやりづらくなるんだ。『触れちゃいけない大切なモノ』に無理やり触るカンジっていうのかな。すごく抵抗があるんだ」

 緊張でこわばった筋肉を、ツボを心得た指先が絶妙のタッチでほぐしていく。
 聖美は今にもとろけてしまいそうな意識を必死で繋ぎ止める。

「お……大嘘つき。それじゃあ、今やってる事はなんなの? さっきから、私に、こんな……あんっ!」
「うん。それはねぇ――『見ちゃった』からだよ、ママ」
「……え?」

 ドキン!

 急に雅人の声のトーンが変わり、聖美の心臓が跳ね上がる。
「な……何を?」

(マー君――まさか!?)

「可愛かったなぁ――スッゴく興奮したんだ。あんなにカチコチになっちゃったの、僕、生まれて初めてだよ。それで、もう『スイッチ』入っちゃった。……全部、ママのせいだよ」
 後ろから覆いかぶさるように、肩を抱きしめられる。
 真綿でくるまれるように、両肩にじわじわと体重が加えられていく。

(ああ、どうしよう――)

「ねぇ……ママ」
 恐ろしい予感に震え慄く聖美の耳元に口を寄せ、興奮でかすれた声で雅人が囁く。

「また、オナニーして見せてよ。今度は……僕の目の前で」

< 続く >

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