コップノチヅコ
独白2。
原田千鶴子。36歳。
外資系企業の日本支社長の秘書をしていた。
2年前に失踪していたが突然実家に戻ってきた。
『ゴシュジンサマ』の関与が疑われるが詳細は不明。
あの日、ご主人様がいなくなった。
『コップ』である私はもう『あの館』に必要ないものだ。
使ってくれる人のいない道具などに意味はない。
そう思った私は『あの館』を出て2年ぶりに実家に帰ってきた。
両親には2年間どこでなにをしていたのかと問い詰められたけど笑ってごまかした。
それから半年。
生きる意味を見失い、アルコールに逃げた。
もうほとんどアルコール中毒だ。
もしご主人様が戻ってきて私を迎えに来てくれても、こんな酒臭い『コップ』では使ってもらえないかもしれない。
いや、ビアジョッキやワイングラスでなら使ってくれるかもしれないか。
ご主人様に不要とされる恐怖も強いが、ご主人様がいなくなってしまった喪失感の方が強い。
私はこんなに弱かったのだろうか。
ご主人様と出会う前の私はもっと強く、自立していた気がする。
ご主人様は私に何を与えて何を奪っていったのか。
ウォッカをラッパ飲みする。
ウィスキーだって、ワインだってラッパ飲みだ。
『コップ』である私がコップを使うのは何かおかしい気がするから。
そう、私は『コップ』なのだ。
それもからっぽの『コップ』。
満たされていない『コップ』。
私を満たすものはご主人様。
・・・ご主人様。
私が壊れる前に戻ってきて・・・。
< 続く >