グノーグレイヴ2 第四話

―第四話 孤狐魔術師フォックステイル―

[0]

――「お母さんが待っている家に帰りたい」

 そんな当たり前で小さな願いも、私の声は届かなかった。

 ドウロをヒロクシヨウ
 トチをフヤシテ、イエをモチタイ
 シンキカイタクでオミセをヒラコウ

 どこからか聞こえてくる大きな声が、私の声をかき消した。神は願いを叶え、彼らの言うままに庭を削り、家を壊して、彼らの夢を建てた。コンクリートが地面を固め、折れた木材がそのまま別荘の材料として使われる。

 山は平野になり、ここに一つの街が生まれた。

「…………」

 私の家は跡片もなくなり、変わりに土地には街の案内所みたいな、十畳に満たない小さな貸し物件が建った。小太りな男が椅子に座って、まだ誰も来ないのに、期待に胸を膨らませてぐふふと笑っているのを見ると、悔しくて涙が止まらなかった。

――男の下には、私の帰りを待っていたお母さんがいるのに……。

 私は野から駆け下りていた。

――もう私の家はない。私の居場所はない。誰も私の帰りを待っていない。

 どうしてこうなったの?私は変わらない平穏があれば他に何もいらなかった。お母さんの待つ小さな家でも、不便なものは何一つなかった。どうして私の幸せを壊されなくちゃいけないの?
 どうして人間に壊されなくちゃいけないの!?

――幸福になれるのは、人間だけなの!!?

 ぎりっと唇をきつく噛みしめた。口の中に血の味が広がった。
 …………わかった。なら、私は神に望む。切望する。誰よりも幸福になりたいから。

――人間になりたい。

「……わかった」

 ……えっ?何処からか声がした。それは私に向けられた声だった。
 神はようやく私の声を聞き入れた。遂に私の願いは受け入れられたのだった。

[1]

 採魂の女神―ブリュンヒルド―が狐孤魔術師―フォックステイル―の元へ降り立つ。再会も久しい二人であったと同時に、フォックステイルにとって誰かと会うことがなにより久しいことだった。
 フォックステイルが拠点としていたのは、天まで聳え立つ塔だった。そう、握出が消えた塔である。ブリュンヒルドはドアを叩くと扉は開き、フォックステイルが姿を見せる。

「よくやりました、フォックステイル」
「当然じゃ。童と悪魔の波長は良く合った。心地よかったぞ」

 奥へ案内するフォックステイルだが、ブリュンヒルドは辞退した。

「私はマスターへ報告してきます。三人の安否をまかせましたよ」
「ああ、ちと待たぬか」

 羽ばたく前にフォックステイルが声をかける。白い翼を開いたブリュンヒルドの動きが止まる。

「マスターは元気か?」
「はい。いま、『時の振子』と供に旅に出ている最中ですが」

 旅に出ている……新世界を作り出したマスターが何処でなにを目的に行くのか想像も出来ない。それも『時の振子』を連れて行っているということは大掛かりな何かを計画しているということだ。千村拓也も新世界で理想を持って行動したのは間違いなかった。

「ならば童が叶えてやろう。童にかかればマスターならすぐに理想郷に辿り着くだろう」
「いいえ、結構です」

 ブリュンヒルドが今まで聞いたことのないくらい冷たい声を発した。千村拓也に最も近く、お互いが寵愛している分、フォックステイルの提案はブリュンヒルドの嫉妬故の拒否かと思い鼻で笑った。
 今度こそブリュンヒルドが天高く跳び上がった。

「――あなたでは、マスターの願いは叶えられない」

 捨て台詞を残して消えていく。時間にして五十秒。それでもフォックステイルにしては十分だった。会話があまり好きではないからか、それとも長話が出来ないせいか。
 フォックステイルは扉を閉めて塔内に戻っていった。扉の奥へ進み、地下へ続く階段を下りた先、牢屋に閉じ込められた正義の使者―デモンツールズ―三姉妹がいた。

「さあ、三姉妹。飯じゃ。たらふく食え」

 監視役も兼ねているのか、三姉妹に飯を差し出すが、当然三姉妹は受け取らない。フォックステイルを睨み続けるだけだ。フォックステイルの釣り目が嗤う。

「マスターを何処に送ったの?」
「上級悪魔をマスターと言うなど相当イカレタな、ヒルキュア。忘れたか?汝のマスターは誰だったのか」
「マスターは――」
「ヒルキュアの名は捨てた。今は『吸血鬼―ツキヒメ―』だ」

 ヒルキュアの叫びを掻き消すようにポリスリオンが叫ぶ。フォックステイルの目が細くなる。

「そのような名で呼ばれたいのであれば、童が汝を罰するぞ」

 上級悪魔に力を貸すと言うのは、既に正義ではなく悪だ。悪魔の道具となったモノは新世界に必要ないのだ。しかし、三姉妹は断じてひるまない。

「私たちはマスターと同じ運命をたどります」
「堕ちたものだな、ジャッジメンテス」

 フォックステイルに臆することなくジャッジメンテスが反論を続ける。かつて正義の名のもとに悪しき犯罪者を断罪していた者が何を其処まで必死になり握出をかばうのか分からない。だが、その行為自体がフォックステイルを苛立たせる。

「いいだろう。ボスに頼めば汝の代わりなど簡単に作れる。反旗を翻したと言えばボスも分かってくれるだろう」

 鉄格子を開ける。三姉妹を外に出し、フォックステイルは戦闘態勢に移る。尻尾を九つに広げて魔力を感じ取ると三姉妹も身構える。

「かつての仲間?かつての同胞?はっ、くだらない。――来るが良い三姉妹。束になっても勝てない力を見せてやろう」

 フォックステイルの抱くものは絶望に彩られた正義。
 常に独り。失うものなど何もない。

――願い、望み、夢、欲、

 抱かなければ辛い思いはしなくていい。常に変わらないテンション。
 与えたからといって見返りはいらない。
 正義という信念があれば、応援してくれる観衆も、追っかけてくれるファンもいらない。
 誰かの為ではなく、自分の為だけの、純粋の正義だ。

(童が欲すのは、希望が塗れ絶望に変わった瞬間なのだ)

― グノーグレイヴ スピンオフ作品
 握出紋の憂鬱『第四話 孤狐魔術師―フォックステイル―』―

[プロローグ]

 追い求めるものに苦労を感じてはいけない。
 頑張る必要はない。
 『やる』か『やらない』かの極論世界。

 『やる』と決めたのなら、九つの試練を与えよう。

 逃げ道を塞がれようと、
 身体を傷つかれようと、
 精神を痛められようと、
 心が荒もうと、
 絆を分けられようと、
 仲間を裏切ろうと、
 味方を敵に回そうと、
 親友を倒そうと、
 孤独になろうと……

 『やる』と決めたのならやってもらう。汝の求める理想郷の為に。

 逃げ出すことなど出来やしない。童は理想郷にとり憑く孤狐魔術師―フォックステイル―

[2]

「うわあああああ!!!」
「いやあああああ!!!」
「くらええええ!!!」

 三姉妹が一斉に襲いかかる。だが、襲いかかる先は三姉妹同士だった。ツキヒメが『たゆたう快楽の調合薬』をポリスリオンに振り下ろすが、ポリスリオンは回避して『逃げ場なき断崖絶壁の場』へ追いこむ。と、二人が固まっている所にジャッジメンテスの『裁きの光―エル・トール―』が落ちる。
 誰かどう見ても三姉妹は同士討ちをしている。いったい何が起こったのか。

「理想郷は人の数だけある。マスターと同じ世界に行ったとしても隣に付くのが違うのなら、理想郷は別―パラレルワールド―となる。
――叶えてやろう。汝の求める理想郷を。さすれば邪魔者を倒せ」

 孤狐魔術師がつぶやく、これが現状である。三姉妹は引くことの出来ない理想郷の果てに、姉妹同士で戦っていた。『たゆたう快楽の調合薬―ナース・エクスポートレーション―』、『逃げ場なき断崖絶壁の場―クォッド・イーラ・デモンストレイド―』、『清き大多数の票―ディティアレンス・システム―』を惜しみなく使い
 、相手に絶対的勝利を突きつける。
 傍観するフォックステイル。『数珠つなぎの隠し財宝―ワンピース・オブ・ナイン・タワーズ―』の力を発動させた今、九つの尻尾を撫でながら笑っていればいい。

「愉快じゃ。かつての仲間でありながら力比べを見られるなど相相あるものではない」

 フォックステイルは名の通り孤独だった。仲間といえど供に行動したことはない。狐の耳と尻尾を持つ妖怪と言われたこともあった。故にフォックステイルは他人だろうが仲間だろうが平等に力を使うことが出来る。
 その行動は強ち間違っていない。人の抱く理想郷に差別はない。誰かはいけないこともなければ誰かならいけるというものではない。
 平等に試練を与え、苦労を乗り越えた者だけが理想郷に行けるのだ。

――正義に区別はない。正義を名乗るのなら、自分だけは正義を名乗る裏切り者にならなければいけないから。

「うわあああああ!!!ひれ伏せええ!!!」

 決着はついた。『逃げ場なき断崖絶壁の場―クォッド・イーラ・デモンストレイド―』に追いこまれたジャッジメンテスは頭を下げてポリスリオンに敗北を認めた。フォックステイルが拍手で迎える。

「おめでとう、ポリスリオン。よく頑張ったのぅ」
「マスター。私、やりました」

 感無量になっているポリスリオンに、

「では、次の試練じゃ」

 さらっと流すように話すフォックステイルに、ポリスリオンは絶望した。

「!そんな!?」

 ポリスリオンの表情にフォックステイルが嘲笑う。

「まだ第一の試練じゃぞ。『数珠つなぎの隠し財宝―ワンピース・オブ・ナイン・タワーズ―』はあと八つの試練が残っておる」

 そう、今までがすべて第一の試練。ポリスリオンが理想郷へたどり着くには最低でもあと十年はかかる。
 ツキヒメ、ジャッジメンテスをやっつけてでも得たかった理想郷に辿り着けないという絶望感は計り知れない。
 ポリスリオンの希望が絶望に変わる。

「マスター……私……」

 フォックステイルのつり目がさらに細くなった。

「降参するか?……なら、ここまでじゃ」

 闘う気力も起こらない。勝敗は決したのだ。理想郷へ辿り着くか、否か。ポリスリオンは諦めたのだ。

(夢を何時まで経っても追い続けていたら恥さらしだ。ならばトドメを刺してあげなければ可愛そうじゃ。そう思うだろう、追撃剣士よ?――)

 九尾から青い炎が立ち上る。

(――叶わぬ理想と供に、峯良く果てるがいい!)

 『九つの霊弾―ナインボール―』が放たれる。ポリスリオンに降り注ぎ、囲う様に燃え盛る。

「ああ!熱い」
「汝じゃ何時まで経っても理想には追いつけん。夢は追い求めるものだからのぅ」

 夢を追う側と夢を追いかける側。どちらが理想郷に早く辿り着けるかなんて小学生でもわかる。この勝負はポリスリオンに不利な勝負だったのだ。かけっこでも絶対一番になれないポリスリオンが、理想郷に誰よりも先に辿り着くなど夢のまた夢。

(――身の丈を知れ。知ったら新世界から消えるがいい。次に現れてくる時はボスに忠実を誓う『アンドロイド』として生まれ変わるがいい)

 ポリスリオンは既に炎の壁に遮られ、逃れることが出来なかった。動かない身体に九つの焔が魔法円を描きポリスリオンは灼熱の呪縛に囚われる。

「ごほっ、息が……できない……」

 煙を吸う度に意識が朦朧とする。
 業火に焼かれるほど身体が熱く、息苦しい。
 呪怨を受けたように身体が重く、肌寒い。
 九つの呪いそのものに囚われ、まるで、身体を誰かに奪われるように身動きが出来ず、茫然となってきた。

――「『それは全て真実か?いいや、真っ赤なウソである』」

 誰かの声が搭内に響いた。すると、『九つの霊弾』は嘘のように消えていった。ポリスリオンを捕えた呪縛すら消された。そんなこと出来る者がいるとしたら新世界で只一人、呪いも占いも魔法も信じない、働くことだけが生き甲斐のツマラナイ人生そのもの――

「……ありえない。おまえは確かに消したはず――!!」

 フォックステイルが動揺する。背後を向くと、長い螺旋階段をまるで理想郷の思い出を壊さぬようにゆっくりと降りてくる影が見えた。コツッと革靴を鳴らしながら最後の一段を踏み終え、その人物は静かに孤狐魔術師と対峙した。
――握出紋が降り立った。

[3]

「悪魔……」

 信じられないと言わんばかりにフォックステイルは握出を睨み続ける。理想が叶ったから握出は消えたのだ。だというのに握出は理想郷から戻ってきた。理想郷を捨ててまでなんの未練があると言うのかわからない。
 そうとも知らず握出は三姉妹を発見すると、にっこりと微笑んだ。

「ただ今戻りましたよ、娘たち」
 『マスター!!!』

 三姉妹が顔をあげて喜んだ。対称的にフォックステイルは歯を噛みしめる。

「何故……戻ってきたんじゃ?」

 睨みつける視線を握出はしれっと目を逸らす。

「んー。あれはあなたが見せた幻想ですか?居心地は嫌いではありいませんでしたが……ダメダメ!あんな小さい理想じゃ私の望むものとは程遠い。『絶対の王―ガストラドゥーダ―』がいない世界に興味はありません。結局あなたの見せる理想は偽物。理想は自分が手にしなければ意味がないことを再認識しましたよ。嗚呼、本
 当に面白くない力ですね」

 『数珠繋ぎの隠れ財宝―ワンピース・オブ・ナイン・タワーズ―』を馬鹿にしていることがフォックステイルは我慢できない。だが、そこはグッと堪えて再び笑みを作りだす。

「『絶対の王―ガストラドゥーダ―』のいる理想郷へ行きたいのか。良かろう。汝の理想を成就するために試練を与えよう」

 再び力を解放する。『数珠つなぎの隠し財宝―ワンポースオブナインタワーズ―』への扉を開け、今度こそ握出の望む理想郷への挑戦をさせる。しかし――

「ああ、私はやらないよ」
「なに?」

 握出は拒絶した。……理想郷を前にして初めから『やらない』選択をした者はかつていなかった。

「そんな疲れることしてどうするんです?私は必死こいてまで理想郷を目指している訳じゃありませんから。休日出勤?残業?……ぷはっ!!いけませんね。スマートにいかないと理想は成就しませんよ」

 休む時は誰かなんと言おうと休む。そんなことで、握出の理想とする『絶対の王』は許されるのだろうか?自分勝手の意見を『絶対の王』は許してしまうのか?
 ありえない。ならば握出の言う『絶対の王』とはなんなのか。

「なら、汝の言う『絶対の王―ガストラドゥーダ―』は何処に行くのだ?」
「さあ?現れないだけでしょうね」

 握出のさらっと発した言葉にぶわっと全身の毛が逆立つ。

「なんて勝手なんじゃ、うぬは!!」

 『理想』が形を変えすぎている。理想すら憑いていけない。浮遊しているくらい握出は自分勝手なのだ。だが、握出はしっかりと地に足をつけている。

「社会に出ていればわかります。妥協と怠惰は必要なんですよ。んー、千村くんの生んだ者たちはどうもそれが分かっていないようです。理想を目指すあまり相手に無理を押しつける。思った以上に理想郷はすぐそこにあるんじゃないですか?ほらっ、私が帰ってきたことで彼女たちは理想郷に到達したのです」

 『マスター!!!』

 ちらっと目線を向けると、三姉妹は声を揃えて握出に駆け寄る。そこに戦う意志はない。フォックステイルをそっちのけで、握出に「おかえりなさい」と声をかけていた。握出も三姉妹に「ただいま」と再び声をかけ頭を撫でた。撫でられたのが嬉しいのか、三姉妹は笑顔で握出に抱きついていた。

――孤狐魔術師との戦いは終わったのだ。終わらされたのだ。……孤狐魔術師は負けたのだ。

 フォックステイルの中で信じられないと言う感情と、違う感情が生まれる。
 それはかつて捨てた感情。
 人から逃げ、車を避け、襲いかかる土の波を止められず、結局自分の家を捨てたときに一緒に捨てた感情だ。温かい家はもうない。寒い外の空気と一緒に、自分の心も凍結した。

「……理想郷は遠い。野を削られ、山を追い出され、住む場所の無くなったもの達に帰る場所は何処にある?無くなったものは戻らない。作り変えるには一度死に物狂いで生きなければならないのだ。理想郷を夢見て死んだって、良いではないか」

 フォックステイルの力は握出の言うとおり偽物に満ちていた。理想郷には届かない。過去は戻りやしない。地面の中で眠る母は一生蘇りやしない。

 『――あなたでは、マスターの願いは叶えられない』

 ブリュンヒルドが残した捨て台詞の意味がようやく分かる。努力した先に辿り着いた理想郷こそ気休めでしかないのだ。辿り着いたらそこがゴール。そこから後には空しい現実しか待っていないというのに。
 そう、フォックステイルの力は彼女が望んだとおり、死を招く呪われた力だった。

[4]

「……そういうことですか」

 握出が何もかも理解したようにつぶやいた。三姉妹を身体から放すと、再びフォックステイルと対峙した。
 母親の死は終点ではなく通過点にしなければ孤狐魔術師に未来はない。絶望に満ちている力は握出と共鳴できるが、叶わぬ理想郷にとり憑いたばかりに千村拓也に操られている彼女に我慢できなくなったのだ。
 握出が指を鳴らした。

――営業部長の名の元に、仕事を取り逃すわけにはいかない。

「孤狐魔術師―フォックステイル―。あなたの理想郷を魅せて差し上げましょう。なに、グノー商品もグノーグレイヴも使う必要はない。三姉妹、手伝ってください」

 三姉妹は握出―マスター―の命令に忠実に従った。

[5]

 既に戦う気力もないフォックステイルに、ジャッジメンテスが近寄る。目で追いながらも逃げることも戦うこともしない。

「なんだ?もう争いは終わったぞ。早ぅとどめを刺せ」

 無気力の彼女は既に死を望んでいた。だからこそジャッジメンテスは彼女に判決を下す。
 検察官が孤狐魔術師の生い立ちや事件当日の流れを説明し、犯行した動機を聞かされる。ファイル名:『握出紋の消失』は、刑事事件で到底許される事ではない。有罪判決が濃厚だった。
 それでも――

――『狐の耳と尻尾を持つ妖怪と言われたこともあった』
――『名の通り孤独だった』

 供述以外にも、今まで母親を失い、生き辛かった新世界を懸命に過ごしてきた一週間を――

――ジャッジメンテスは称えようと。

 『清き大多数の票―ディティアレンス―』も一致の無罪判決。十二単に包まれたフォックステイルの身体を優しく抱きしめた。

「おかえりなさい」

 ジャッジメンテスの声がフォックステイルの狐耳を震わす。母親の温かさを持つジャッジメンテスにフォックステイルは目から涙を流した。

「た、ただいま!!!」

 そこには孤独に生きる気品漂う釣り目の女性はいなく、幼さを残した真の姿を曝した狐耳の少女がいた。遂にフォックステイルは自分の家に帰って来たのだった。

[6]

 温かい家、土の毛布と木の香りが漂う自分の家が好きだった。
 そこにはお母さんと、お父さんと、双子のお姉ちゃんがいる。お母さんに抱きつき甘える私に、お母さんは唇を合わせる。これがスキンシップだ。自分が家族の一員だと確認してもらう大事な行為だ。

「ん、ん、、んんん……」
「ん、くちゅ、ぴちゃ、ぴちゃ……」

 お母さんはキスだけじゃなく私の口の中に舌を入れてくる。涎が絡み合い、舌の硬いけど軟らかい触り心地が繋がっている安心感に変わっていく。
 一度唇を放すと、私もお母さんも蕩けた顔で高揚とした表情ではにかんでいた。

「んふふ。じゃあ私たちも」
「参加させてもらっちゃおう」

 お姉ちゃんたちが私の身体に触る。ぶかぶかになった十二単を脱がそうとしている。

「い、いやじゃ!恥ずかしい」
「大丈夫。お姉ちゃんに任せて」
「フォックステイル。お姉ちゃんを信頼して」
「ぅ、うん……」

 お母さんの助けもあって、私はお姉ちゃんに身体を預ける。十二単ははぎ取られ、人間と言われる身体を家族に見せる。十二単以外何も穿いていない私の身体は全体的にピンク色に染まり、特に胸部の左右につく乳首は、幼いながらもしっかりと存在感を見せるように勃起していた。

「可愛い身体ね。……ちゅ」
「ひんっ!」

 お姉ちゃんが乳首にキスをすると、私の身体に電流が走った。声をあげてしまうほどの電流は脳を伝い、気持ち良いという信号を全身に送る。

「あっ、凄い。小さいのにちゃんと感じるんだね。じゃあ、もっと可愛がってあげようかな」
「乳首弱そうだもんね」

 お姉ちゃんが二人がかりで左右の乳首を擦る。舐めて、つねって、揉んで、触って……。全く違う快感を左右同時から受けると、気持ち良さが膨らんで涙が流れちゃう。心配になったお母さんが声をかけてくれる。

「泣かないで、フォックステイル。お姉ちゃんのこと嫌い?」
「ううん、嫌いじゃないよ」
「これは普通のことでしょ?スキンシップでしょう?」
「うん。そうなんだけど……きゃんっ!」

 お姉ちゃんが乳首を噛んで意地悪するから、答えられなくなってしまった。でも、お母さんにとっては聞かなくても分かっているという表情で再びキスをしてくれた。やっぱり、お母さんのキスが一番落ち着いた。その間にも、私の股関節から流れるお汁は止めどなく流れ落ちる。
 そして、お父さんが動き出し、股間から逸物を取り出すと、私の濡れたおまんこに宛がった。お母さんがお父さんと顔を見合わせる。

「さあ、フォックステイル。お父さんとスキンシップよ」

 私のおまんこを向けさせると、お父さんは喜んでにおいを嗅いでいた。お姉ちゃんが足を持って私の足をМ字に開く。

「お父さんに挿れやすいように、もっと広げてあげるからね」

 おまんこを擦ってくぱあと開く。愛液の流れるおまんこは、お父さんの逸物を早く受け止めたいようにパクパク動いて見えた。でも、私は怖くなってしまった。

「いや、怖い!怖いよ、お母さん!」

 泣き叫ぶ私はお母さんに甘える。

「安心して。これが家族の契り。絆なのよ。フォックステイルがもう淋しがらないように、私たちがいつまでも一緒にいてあげるおまじないよ」
「えぐっ……、おまじない?」
「うん、フォックステイルはもう一人じゃないおまじない」

 お母さんが後ろから私を抱いてくれているだけで心は安らいだ。

「さあ、お父さん」

 お父さんが腰を前に進めると、私のおまんこは悦ぶように咥えていった。
 ズブズブ……と進むお父さんの逸物。その間も私には電流が流れ続け、息が出来なくなるくらい快楽に呑まれていた。
 逸物を全部呑みこんだ私のおまんこは満たされた満足感に喜んでいた。そして、お父さんは腰を動かし始めた。

「きゃあああああ!!!」

 逸物が膣で擦れる度に気持ち良さがどんどん溢れてくる。涙を流した私に家族みんなで可愛がってくれる。
 お母さんが唇を、
 お姉ちゃんが乳首を、
 お父さんがおまんこを、
 家族に愛される私は、これ以上ない幸福の中で――、

「わたし、い、いっちゃう、いくうううぅぅぅ!!!!」

――人間の身体で気持ち良くいけたのだった。

[エピローグ]

 会社説明会に出かけたまま帰ってこない皆さんを案じて外に出る。夜も暮れ、もうすぐ深夜十一時になろうとしていた時間帯です。寒さも厳しくなってきた日だけになにかあったら大変です。
 心配で外に出て待っていると、遠くの方からようやく皆さんの姿が見えてきました。時間帯を気にせず、仲良く手を繋いで歩く姿はまさしく家族そのものです。と、ジャッジメンテスの片手には小さく蹲る少女の姿がありました。狐耳と尻尾の生えた少女を見て、ジャッジメンテスと少女は優しく微笑んでいました。
 あらあらっ、これは大変。また家族が増えました。今から一つ、ご飯を増やさないといけませんね。でも、大丈夫。そんな気がして料理は不思議と一人分多く作っておきましたからご安心下さい、握出様。
 玄関前でお帰りをお待ちしていた私に、皆さんが声を揃えて、

『ただいま!!!』

 その中睦まじさに、私も自然と微笑んでいました。

「――おかえりなさい、みなさん」

 これが私の、今日を締めくくる日記です。

 新世界11月28日

 センリ

< 続く >

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