はじまり
「これ、落としませんでした?」 家へと足早にむかうはるかの後ろから、呼びかける声が聞こえる。
振り返ると、顔立ちのきれいな女性が何かを手に持って立っている。 なんだか怪しいほどに美しく背の高い女性だ。
何か落としたかなと思いつつ、女性の手の中にある何かを覗き込む。 それは小ぶりの赤い石のついたペンダント。
「あぁ、きれいなペンダント…」 そう思った瞬間、石が鈍く光り、はるかの目がうつろで平坦なものに変わる。
「これ、あなた落としたわよね」
はるかは、ペンダントに見覚えがないがどうしても違うと言えず、思わず 「はい…」と答える。
「あなたの大事なペンダント。いつもしっかり身につけておかないとだめじゃない。 お風呂の時も、寝る時もいつもつけてるんでしょう?」
言い返せないのを知っているかのように、女性は続ける。
「あ、そうだった。大切なペンダント、ちゃんとつけておかなきゃ…」
うつろな頭ではるかは答え、女性からペンダントを受け取る。
「ありがとう」
そういって立ち去るはるかを女性は微笑みながら見送る。
これから起こることを楽しむように。
< つづく >