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 時代はバーチャル。
 ……そんなSFめいたお伽噺が流行り文句になった頃もあったようだけど。
 まさに今がその時代と言っても過言じゃない。
 仕事はどれもこれもオンライン。寧ろスピードを重視する業務でオフラインな事が既に希少価値だ。
 PC関連技術もムーアの法則宜しく発達の一途を遂げて、3Dリアルタイム映像の配信は言うまでもなく、ゲームの世界じゃ疑似体感用ボディスーツも普及した。
 それは社交関係や恋愛の世界でも言うに及ばず。
 気がついたら誰もがオンラインで会話をして当たり前の時代が生まれていた。学校もオンライン、仕事もオンライン、だったらそもそも外出る必要無いじゃん、という話で。
 外観チート? 性別偽装? そこに何の意味があるってんだ。セックスですらバーチャルで済ませて、出産を人工受精で済ませるのが当たり前になれば「会ってみてがっかり」の前提そのものが成立しないじゃないか。となれば、がっかりさせる面白味自体も霧消して結果的に悪戯も減少せざるを得ない。

 とはいえ、収入格差は只今なおも絶賛展開中。
 肌の色合いや鼻の高さ、睫毛の長さに髪の色、瞳の色や足の長さなど、あらゆるオンライン上の自己代理存在(アバター)の外観要素が、課金アイテムとして切り売りされるご時世だ。どんなブサメンでもブスでも、アイテムを買い漁ってしまえばモデル同然。これが本当のアバターもエク……。
 閑話休題。

 そんなご時世だというのに、この俺はニートって奴になってしまった。
 ほんの数か月前は中央管制サーバの管理スタッフとして高給取りを自認していたのに、うっかり悪戯心でサーバ内データに手を出したのがバレて、懲戒免職。
 身元保証の一切が失われて、この時代に裸一貫で放り出されてしまったというワケだ。
 口座に入っていた貯蓄も差し押さえで奪われ、そもそもオンラインに入るべき機材もアカウントごと没収。更に収入の途が断たれたという事で、ローンの残ってた住居からも放逐。
 バカバカしいにも程がある。こんな時代にホームレスだなんて。

 とはいえ、このまま俺だって腐っている積もりも無い。
 日雇い仕事でかつての技能を無駄遣いしてみせて、やっとオンライン機材も揃った。バーチャルに潜入(ダイブ)する道具も、中古品だらけだが整った。
 これで──……。準備は、完了だ。
 浮浪者対策の福利厚生とやらで都市圏に矢鱈と増えたカプセルホテルの中で、俺はセッティングを終えて、三世代前の遺物と覚しき寝袋状の体感マットに身を沈める。
 仮想体感マスクを装着して、新規アカウントでログイン開始────。

 見事だね。この素敵アバターはある意味芸術だ。
 チビ、デブ、ハゲの三拍子。見たところ腕にも脚にも筋肉らしき存在すら感じない。
 顔は一度だけショーウィンドウを鏡代わりにして見たけれど、もう二度と結構だ。
 細くて小さい目、上に向かって開いた鼻腔、パペットのように横長の口には、閉じていても存在感を主張しまくる突き出た前歯。我が事ながら、吐き気がする。オプションを一切除外したアバターって、こんなに酷いモノだったのか。
 周囲を見回すと、辺りの人々はまるで俺の存在なんてゴミやチリも同然のように、俺から距離を置いて無視してくれてやがる。かつての自分がそうだったから分かっちゃいるけど、堪えるねなかなか。

 だけど。
 俺はそんな挫折感を味わいに『ここ(オンライン)』に戻ってきた訳じゃない。

 改めてバーチャル・モールの中を見回してみる。
 かつての繁華街のショッピングモールを巨大化して派手にしたような街並み。店の一軒一軒が、バーチャルなのをいい事に、建築基準法も安全基準も全く度外視した、派手さ最優先のディスプレイを競い合っている。人が行き交う道のど真ん中に、いきなりホログラム状の広告が出る事も珍しく無い。勿論安全性対策に手抜かりがある筈もなく、何らかのトラブルが生じれば、監視している中央管制サーバでマイクロ秒の速度で対応策が施され、各アバターやプレイヤーには一切の傷害も障害も生じないシステムになっているのだが。
 そんな街の中を、今日も様々に装った人々がそぞろ歩いている。
 程々にオプションでアバター改造をした連中が大半だが、そんな中で──。

 いた。
 どっから見ても全身オプションまみれの奴が。
 軽くウェーブさせたブロンドを肩まで伸ばし、くっきりとした瞳に白い肌。流行りなんてどこ吹く風のシックなスーツは、明らかにブランドもののオートクチュール。スタイルなんて見なくたって、服のシルエットだけでメリハリのつき具合は分かる。
 極上の……。金持ちの、女だ。

 女は周囲に取り巻きを引き連れながら歩いてくる。
『みさおさん、今日はどちらにショッピング?』
『良かったら今日、僕とバーにでも行きませんか? いいお店が最近できたんですよ』
『いやいや、あそこのホビー・ショップで最新のバーチャル・ドラッグを……』
 どいつもこいつも、全身隈無く弄りまくった金持ちの若い男だらけ。
 その内の一人の肘が、俺の肩にドンと突き当たる。
 忌々しげに睨んでやるが、そいつらは俺の存在をガン無視して歩き過ぎて行きやがった。
 
 へっ。
 そんなに大事な〝お姫様〟かよ。
 だったらそいつを、俺が貰ってやるよ。てめーらの目の前でな。

 慌てて駆け出して、彼らの道中を先回りする。
 相変わらず連中は俺の存在に視線すら向けやしない。
 無茶を承知で、俺はその中に飛び込んでいく。
 失敗すれば間違いなく袋叩きにされた挙げ句、道端にゴミのように捨てられるだろう。
 だけど俺には勝算がある。

 当惑する男たち。その一瞬の隙が命取りだって事をこいつらは知らない。
 俺は女の真正面に立ちはだかる。
『…………………』
『……………』
『………………』
 男たちも、女も、不快感に眉根を寄せて睨んでくる。だからどうした。
 俺は奥歯をギリリと噛み締める。
 舌先で奥歯の位置を調整しながら力を入れていくと、カチリと内耳に音が響く。
 ──加速……そう……ち!
 俺は昔のカートゥーンのように、心の中で叫んでみた。

 加速装置なんて言った所で、実際に加速出来る程この世はお伽噺にゃなってない。
 第一、現実に加速なんてしても、空気圧で歩くのにも苦労するだろうし、腹圧が呼吸に耐えきれなければ絶命コースまっしぐら。それらの条件をクリアしたって、摩擦熱で大気圏突入宜しく『助けてください! 熱が……下がりません』とか呻きながら燃え上がるのがオチだ。
 しかもここはバーチャル。妙な動きをしたり改造アバターが存在していたりといった問題が発覚すれば、即刻アカウントごと接続を切られてしまう。

 だからこれは、先のトラブルの際に俺が遊びで管制サーバに仕掛けたオモチャだ。
 銀行の口座や管理サーバのデータを弄り回した件はすぐに発覚したが、こればかりは実地試験すらしていなかったからトラブル報告も無く、気づかなかったんだろう。

 女と俺の回線を同調させ、双方の通信速度が数値となって視界の隅に現れる。
 まずは、二人のオープン・アクセス回線を超低速にして事実上封じてしまう。たったこれだけの事で、二人はモールの中の誰の視界にも入らなくなってしまう。
『……な、なに? これ、一体どうしたの? まさかシステムのバグ!?』
 ──バグじゃねーよ。
 当惑の色を帯びた女の顔を睨み付けて、女の通信速度に意識を集中させる。
 女の対サーバ送信回線のビットレートを一気に落としていく。秒速数億ビットから、数千万、数十万、数万……と視界の数値が変動していく。
 勿論通信速度が常時全地域で安定している訳ではないので、こんな場合にはシステムが自動描画処理最適化を行って、タイムラグを生じないように対応していく。
 女の3DCGのハイライトやシャドウのグラデーションがガタつき、肌や服のテクスチャが単調なものに変わっていく。
 更に落とす。
 ポリゴン数が限られてきて凹凸がブロックのようになって……、とうとう3D描画すらシステムが諦めたのか、女の表示が古典的2DのCGに変わっていく。
 使用色数が16万色から6万色に、3万色に、そして……。256色のドット・グラデーションにまで化けていってしまう。
 それでも最高級オプションだらけのアバターの見栄えをなんとか維持しようとしている所は、実に大した話だ。無駄な努力と言いたい所だが。
 まだまだ落とす。

 ……そうして。
 目の前にいる女は、『O』だの『/』だの『;』だのといった記号で描かれた疑似CGにまで落ちぶれてしまった。
『ナニ? コレ、イッタイドウイウコト?』と、女の叫びまで全て半角カナになってしまっている。

 ──これだけ回線に空きを作ったら、大丈夫かな。
 早速俺は、二人の通信回線の実質速度と現時点の実効速度の差分を、全部こちらから女への直接送信回線に振り分けてやる。
「お前は、俺の事が愛しくて堪らない。
 見詰めるだけで、見詰められるだけで鼓動の高鳴りを抑えられない。
 俺に触れられる度に、触れられた箇所がどこもかしこもビリビリとした快感を伝えて、身体の中で響き、反響して、増幅する」
 女の肩と覚しき箇所を撫でてやる。……くそ、CUIだから文字キャラクタのエッジが手に刺さって痛ぇや。
『ア……アフ………フア……』
 ただの一言が何十倍、何百何千何十億倍に膨れ上がって、女の頭に強烈なフィードバックを与えていることだろう。
 それは一種のマインドコントロール。
 意味の無いフレーズでも何千回と耳にすれば脳裏に焼き付いて離れないように、俺の言葉は今、先の触感と合わせて暗示と快感の奔流となって、女の意識を焼き焦がしている事だろう。

 ビットレートを少しずつ緩和してやる。
 ただのキャラクタの集合が、ドットの集合になり、ドットのモワレを利用した中間色表現を身に付け、更に粒子が細かくなって、色数も膨大になっていく。
 この状態の女を、更にあちこち撫で擦る。
 腕を、首を、肩を、脇腹を、脚を、腰を──、そして胸と股間を。
『く……や……そんな……だ、ダメ……っ。こんな、の……』
 俺の手にはザラザラした調味料の粒のような細かい粒子の感触が残る。
「分かってるだろ? 俺のいいなりになってりゃ、もっと凄い思いが出来るって事を」
『も……、もっと……こんな………気持ち……』
 女の頬にうっすらとピンクが載り、次の瞬間肌の白との中間色に滲んでいった。

 ………更にビットレートを戻す。

 潜水から浮上したかのような軽いこめかみの疼きを感じながら、俺と女は戻ってきた。
 女の姿は、今では元のような美麗な3DCGに戻ってしまってる。
 だが、その顔はうっすらと上気しており、熱い眼差しは俺に向かって完全にロックオンされている。
『あ……ふ……』
 周りの取り巻きが、突如消えては戻ってきた二人に当惑を見せる。
『な…なんだ、これ?』
『システム回線に、部分的なラグが発生してるのかな?』
『……と、とにかく。無事にみさおさんが戻って来て何よりだ』
『そうとなったら……。
 そこのキモデブ。醜いからどけよ』
『そうだそうだ。貧乏人の分際で道を塞ぐなよ。
 システム管制に苦情入れて、モールへのアクセス権剥奪して貰ってもいいんだぞ』
『邪魔だな、とっとと退けよブサチビ』
 ──おぉお、酷い言われようだ。
 この『みさお』とかいう女に接する態度とは雲泥の違い。差別主義者は女にもてねーよ?

 だがそれもこれも、全て折り込み済みだ。
 寧ろそうだからこそ、溜飲が下がるってモンだ。
「──んじゃ、退散しますかね……」と、俺は女に精一杯の流し目をくれてやってから振り返る。
『そうだ、とっとと消えろよ貧民風情が』
『生意気な奴は、早死にするぞ』

『────ま、待って!』
 ──フィッシュ! 獲物は釣糸(いと)を呑み込んだ。
 俺は平静を装いながら数歩歩いて、たっぷり間を取った上で振り返る。
「……なんだよ、金持ちのお嬢様さん」
 至極面倒くさそうに、ポケットに突っ込んだ両手の肩を突っ張らかせて口を開く。
『あの……、そ、その……。ど、どちらに行かれるのですか?』
「あんたみたいな人にゃ、関係ねぇだろ」
『……そ、……あ、………あの。
 良かったら……、ご、ご一緒させてくださりません?』
 唖然とする取り巻きたち。
 いい気味だ。俺はフンと鼻を鳴らして腕を差し出してやる。すると女は、すがるように両腕でしがみついてきた。
「──いいか。俺は好き勝手に歩いてるだけだ。どこへ行こうと、俺の勝手だ。
 嫌だったら、とっととお家に帰んな」

 後には、呆然とした表情の取り巻きたちだけが残された。

 繁華街には、歓楽街というのが付き物で。
 このバーチャル・モールですら、それは例外では無い。
 寧ろ人間の欲望が明け透けになってしまう世界だけに、その手の店はどこよりも目立つ看板が掲げられている。厳重な年齢認証とアクセス制限、そして規制を望む人に対する表示レーティング設定によって『見たくはない人』『見せるべきでない人』の視界に、その一切が入らなくなってしまっているに過ぎないのだ。

 そんな歓楽街の愛の交歓所──ぶっちゃけ、かつて『ラブホテル』と呼ばれていたそれの、内装に特筆すべきところはない。
 会計を持たせていた女がカードで先払いをしていたところからすると、この施設自体相当に高級ランクに位置付けられてはいるんだろう。そのためか、客の趣味嗜好に合わせた特殊オプションを有効にしていなければ、オプション無しのアバターも同様、室内は簡素な設備だけのシックな作りになってしまうらしい。

 まるで生身の肉体でもあるかのようにシャワーを浴びたがる女の手首を引っ張って、俺は無理矢理ベッドに押し倒す。
『ぁん……。アバターも出歩いている間に細かいノイズを拾ってしまいますから、清潔にしておきたいんですの』
「んなモン要らねえよ。俺なんざ滅多にクレンジングもやってねぇんだ。
 ──ほら、嗅いでみろよ。このノイズまみれの体臭をよ」
『スン……ス………スン……。
 あ……あぁっ、……はあぁぁぁっ……。とても、汚くて、臭いですわ……』
 臭いのも汚いのも、貧乏人でも手に入るアカウントで初期状態のアバターを使っているからに過ぎない。比較的安価なオプションで脱臭設定だって可能だ。
 だが──。お高く留まってやがる女なら、寧ろ気持ちの落差が大きい方が効果的だろう。

 乱暴に女の服を引き剥がす。ボタンが幾つもプチプチと弾け飛んでいるが、どうせ事が終わる頃には元に戻っているだろう。女も乱暴な扱いを喜んでいる節があるから、気にする事も無い。
 露になった白磁の肌には、染みどころか黒子すら見当たらない。
 その鎖骨に沿って舌を這わせ、ねっとりとした唾液の跡を着けていく。
『あ……きた、な……。………んふぅううぅっっ……はぁぁっ……』
 頭を振りながら身悶えする女を組み敷いて、ブラを剥ぎ取っていく。
 丸みを帯びた二つの肉塊が弾むように飛び出してくる。先端の乳輪は小さく、色素を抜いたかのように薄いピンク色をしていた。
 その乳輪を摘まみ、親指を押し付けて人差し指との間で擦り上げる。
『……ふっ………っくぅぅっ……っ。
 胸っ、が……。いた、くて……、ジクジク来て……』
 女の意識が胸に向けられている隙にパンティを引き下ろしてしまう。

 と。
『ここからは年齢認証と犯罪歴確認が必要です。
 IDをネットワーク送信して宜しいですか?』
 無味乾燥なウィンドウが突如現れて、女の裸体に覆い被さるように表示された。
 ふざけんな。
 新規に取得したアカウントだから『洗浄』なんてしなくても綺麗なモンだが、ここまでの自分の成り行きを考えると、一々管制サーバに繋げなきゃならない事態が無性に腹立たしい。

 ならば、やる事は一つ。
 加速────。

 ビットレート変更。システムの認証及び入力インプットの情報量を削っていく。
 ウィンドウが皮膜のように女を覆っていたのが、凹凸を失っていき、空中に浮き上がって固定され。
 更に角に丸みを失って、フォントを構成するドットが視認できるようになっていく。
 更に加速。
 漢字の数が見る間に減っていき、ウィンドウが単色になって。

『Are you ready to access informations only for adults?(Y/n)』

 単色黒地の窓に白いドットで入力を求める画面になった。
『Y』の部分をタッチしてやると、ブロックパズルが分解するようにウィンドウが消失していく。

 ビットレート復帰。
 一瞬映像がぼやけたかと思うと、眩い程に白く輝く女の裸体が現れた。
 肌の上には汗の雫が浮かび、湯気が立っているかのように熱く火照っている。

 ひくついた陰唇に顔を寄せ、舌を踊らせる。
『あ……んっ……。そ、そこ……です、わ……。と、とても……』
 ──フン。まだこまっしゃくれてやがる。
 鼻をグリグリとクリトリスに押し付けて、肺活量の限界まで愛液を吸い上げてやる。
 ズチュル、ズズチュルルルッッ……。
『あっ、はっ、あふっ、くっ、ダメ、ダメです、もう、くっ、
 ──くっ……ふあぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁっっつっっ!!』
 身を仰け反らせてビクリビクリと痙攣させる女。
 尿道から前立腺液が透明な雫になって勢い良く迸り、俺の顔にへばりつく。
『………あ………ふぁ…………ひぇ………ひふぅ……』
 女は、グッタリと四肢を投げ出したままになる。……これなら十分にこなれたかな。
 俺は服をはだけ、唯一アバターをオプション改造した箇所を晒け出す。
 その場所──俺のぺニス──は、黒々と隆起しており、淫棹には小さな疣(いぼ)のような凹凸がついている。
 これだけで日雇い仕事丸三日分の給与が吹き飛んでしまうんだから笑えない。

 女の秘唇が潤っているのを確認すると、俺はそれを深々と突き刺してやる。
『き────ひっ……が、………くぁっ……』
「へへっ。見えるか?
 ──金持ちのお嬢様なお前のマンコに、俺のチンポがズップリと刺さってるぜ」

 グチュッ、グチュッと湿った音を立てて俺は遠慮呵責無しに女を突き上げる。
『あぁっ、くふっ、な、こここんな、そそそんななな、ああぐっ、ぬひぃぃっつっ』
 もう女の言葉は完全に意味を失ってしまい、ただ俺にしがみついている事しか出来ない。
「どうだ? お前の奥を、俺のような貧乏人のチンポが、ゴツゴツと押し上げてる気分は?」
『ぐあっ……、ふふふぉれれっ、しゅしゅしゅごごご、ららられれれれ………』
 すっかり降り切った女の子宮が俺のペニスに突かれて、先端にゴリゴリとした抵抗感を与えてくる。
 軽くビットレートを操作してやり、突き上げの衝撃を幾倍にも増幅させてやる。
『な、ななないじょ、こここわれえれれえっ、ぐ、ぐふぐぐうぐっ……』
「それ、貧乏人のザーメンで、溺れちまえっ!」
『ひ、ひぎゅっ! ふ、ふぬぃうむっぐっ……っ!!』

 ドクッ、ドクッ、ドクッ──ッ。

 事が終わって暫し微睡んでみたが、女は中々忘我状態から戻って来る気配が無い。
『────ふへっ……。おびょれちゃい、まひら……。わらひ、どりょどりょ……』

 これでいい。
 こいつの脳までドロドロにしてやれば、もうこの女は俺の命令通りにする以外の生き方を考えられないだろう。
 なら、思う存分その身体を楽しませて貰い、口座の預金が空っぽになるまで金を吐き出させればいい。

 ニヤリと笑みを浮かべ、俺は再び女に挑みかかった────。

 カプセルホテルの一区画。
 黄色いテープで隔離された中には、捜査員と鑑識がウロウロしている。
「ノブさん、どうだい? ホトケさんの具合は」年配の捜査員が鑑識に尋ねる。
「いやぁ、分かってんだろ? 心臓発作だな。外傷も既往症も見当たらねえなぁ。
 ……ふ、案の定だ。見てみろマットの中。どんだけオナニーやったらこんだけザーメン出せるんだよまったく」
 体感マットをベリベリと音を立てて捲り上げると、中にいた男の下半身は白濁液でドロドロに汚れている。
 既に放出を終えて長い時間が経過している筈なのに、液の粘度が残っている所に、その放出量の異常さが窺える。
「──こりゃ、どっからどう見ても〝テクノブレイク〟ってヤツだ」と鑑識は吐き捨てる。

 若い捜査員が年配に話しかける。
「大成功ですね、おやっさん。
 上の狙い通りに〝ニートホイホイ〟が作動してる証拠ですよ!」
 それをたしなめる年配。
「バカヤロウ! んな事くっちゃべってんじゃねえ!
 ──〝ドリームメイカー〟って正式名があんだろうが。こんなトコで迂闊な事言ってると、組対課に飛ばしちまうぞ」

 管制サーバに、男の想定した仕掛けが本当に存在しているかどうかは定かではない。
 ただサーバは、一定基準を満たしたユーザーのアクセスを感知して、対象プログラムを作動させたに過ぎないのだから。
 バーチャル・モールも一般市民が利用するそれを模倣した構造体に過ぎず、当然街を行き交う人々もまたシミュレーターで作られた仮想人格。それは男が街で出会った女も然り、その取り巻きも然り。男はアクセスした瞬間から、罠の中で監視されていたような物だ。

 ──どこで失敗してしまったのか。
 そんな疑問を抱く余地すら無く、男の意識は闇に呑み込まれてしまい、最早どこにも存在しない。

< 完 >

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