「なあなあ、今日の騒動、メチャクチャ凄かったよな!」
更衣室。体操服に着替えるために下半身の制服を脱ぎながら、未だに興奮冷めやらぬ様子で浩一に話しかけてきたのは、同じクラスの岬(ミサキ)だった。
「騒動……って、なんのこと?」
「とぼけんなって……今日の女子たちの集団ストリップだよ、あれお前が催眠術でやったんだろ?」
鼻息を荒げながら熱を吹く岬。その瞳は興奮に輝いていた。浩一は若干困ったように鼻を掻きながら目を泳がせる。
「ああ、あのことね……本当はあそこまで脱がせるつもりはなかったんだけど、ついエスカレートしちゃってさ」
「でも、本当にすごいよね、浩一の催眠術。浩一が命令するだけで、女子が本来ならありえないことでもあっさり信じ込んじゃうんだから……」
制服の袖から腕を引き抜きながら感心したように会話に混じってきたのは、クラスメイトの七緒(ナナオ)だ。
「うまく言えないけどさ、催眠術でクラスの女子を操るのってまさに『男の夢』って感じだよね」
「マジそれな!」
意気投合している岬と七緒を横目に、やれやれと肩をすくめる浩一。
「そんなもんかね……それより、次の時間って体育だろ? 早く着替えて体育館に──」
「おいおいてめぇら、何エロい話してるんだぜ? 俺も混ぜろよ!」
下着姿でのしのしと大股で歩きながら3人の会話に割り込んできたのは、悠也(ユウヤ)だった。
「マジで浩一のおかげでオカズに困らねーよな! 俺なんて昨日、興奮しすぎて10発は抜いちゃったぜ!」
大口を開けてガハハと笑う悠也の態度に七緒は思わず顔を赤らめ、少し戸惑うように目を泳がせる。
「ま、まあ……僕も同じ男だし気持ちは分かるけどね……?」
「だろぉ? 特にさ、悠麻のやつ! あいつ、おっぱいデカくて俺様好みのエロい体してるんだぜ! この前の野球拳でバンザイした時の光景なんて、未だに何度も夢に見ちまうぜ……」
どうやら、悠也は臆面もなく下品な話題を振るタイプの男のようだ。逆に七緒はあまりこういったノリに免疫がない健全な男子らしく、ばつが悪そうにしながら仕方なく話題を合わせる。
「あ、あはは……僕はどっちかというと七海ちゃんみたいな、大人しくてスレンダーな感じの子が保護欲っていうか、父性本能くすぐられるかな……? 岬はどう、好きな女子とかいる?」
「っぱ、俺は美沙だなー! こう、なんていうか気が強くてツンとしてる感じがさぁ……」
「……え、岬って、もしかして尻に敷かれたいタイプだった……?」
意外そうに目を丸くする七緒の反応を、岬は笑って切り伏せる。
「っかー! 分かってねーな、逆だよ逆! ああいう芯の強い女のプライドをへし折って屈服させるのがたまんねーんだろ! こう、抵抗できずに屈辱的な目に遭わされて泣いてるところとか、想像するだけでゾクゾクするっていうかさぁ……!」
「ぶはっ……!」
恍惚とした表情を浮かべて力説する岬の横で、思わず堪えきれずに吹き出してしまったのは浩一だ。
「……んだよ浩一、人の趣味笑うなんて失礼だな」
「っく……ごめんごめん。いや、みさっ……岬にも意外な一面があるんだ、って思ってさ……もちろん、そういう趣味も全然アリだと思うよ」
素直に謝る浩一だったが、よほど岬の発言が面白かったのか、その肩はぷるぷると震えていた。気を悪くしそうな岬の反応を見て、横から七緒がフォローに入る。
「ま、まあ僕も、気が強い女の子ほどいじめたくなっちゃう男心はすごく分かるな! もちろん、悠麻ちゃんみたいなちょっと抜けてる感じの女の子も可愛いし──」
「あ? てめぇ今なんつった!?」
「お、おい悠太、落ち着けって……! 別にお前のことじゃないだろ」
「俺は悠也だ!」
悠麻を悪く言われたことがよほど気に障ったのだろう、突然ぶち切れて七緒に掴みかかろうとする悠也を慌てて制止する岬。パニックに陥っている3人の様子を見て流石にまずいと思ったのか、浩一が見かねて仲裁に入る。
「まあまあ悠也、僕の声を聴いて落ち着いて。……ほら、一度ゆっくり深呼吸してみよう。吸って、吐いて……こうすると、悠也の今の感情も呼吸と一緒に吐き出されて、気持ちがリセットするよ……」
「……あ、ああ……。……悪い、ちょっとカッとなっちまったぜ」
浩一が声をかけるままに深呼吸すると先ほどまでの激昂が嘘のように収まった悠也は、七緒に向かって振り上げた拳を収める。
「そうだね……感情に任せて誰彼構わず暴力を振るうのは男じゃなくてただの野蛮人だよ。言葉遣いが乱暴なのは構わないけど、すぐにカッとなったり暴力を振るうのは絶対ダメ。それに、こうやって男同士で腹を割って話すのってお互いの新たな一面を知ることができて楽しいだろ?」
「そう、だな……ありがとだぜ、浩一」
「……え、えっと悠也、さっきの発言は謝るから、そろそろ着替えようよ。せっかく女子の体操服が見られるチャンスなのに、遅れたくないでしょ?」
まだ始業まである程度の時間の余裕はあったが、次の授業は男女合同でのバスケットボールだ。そして、そのシチュエーションに男子が期待する光景は言うまでもない。岬、七緒、悠也の三人は体操服姿の女子たちがドリブルで胸を弾ませる姿を想像し、いやらしい笑みを浮かべる。
下着姿の三人が体操服を取り出し、着替えようとする姿を浩一は横から見守っていたが──
「……そう言えばさ、悠也。それ、何でブラジャーなんてつけてるの?」
「は?」
体操服を着ようとしている悠也の姿をニヤニヤと眺めていた浩一が、不意に気付いたかのように訊ねる。浩一の指摘に悠也は自分の体を見下ろし、しばし考え込む。
「……いや、知らないのかよ浩一。これブラじゃなくて大胸筋矯正サポーターだぜ?」
「大胸筋矯正サポーター……って、何それ?」
「ボディービルダーとかが、大胸筋の形を美しく見せるためにつけるやつだぜ……っていうか、普通間違えないだろ」
不満そうに口を尖らせる悠也だったが、先ほどの浩一のアドバイスが効いているのか、特に怒っている様子はない。
「へえ、そうなんだ……道理でというか、悠也の大胸筋って本当にデカイもんね……男として、憧れちゃうよ」
「ガハハ、当たり前だろ! 大胸筋は男のステータスだぜ!」
大胸筋サポーターに包まれた悠也の胸をジロジロ眺めながらしみじみと呟く浩一。自慢の大胸筋を褒められたことに気をよくした悠也は、ダブルバイセップスと呼ばれる両腕で力こぶを作るようなポーズで堂々と胸を張る。
「クスクス……そう言えばさ、ボディビルしてる人は大胸筋を見せつけたり触らせたりするのが好きって聞いたけど、本当?」
「そ、そりゃそうだろ! そのために鍛えてるようなもんだからな! 言っておくけどサポーターを脱いだらこんなもんじゃないから、よーく見てろよ!」
その言葉に気をよくしたのか、浩一がじっと見守る前で胸の前のホックを外し、ウキウキと大胸筋矯正サポーターのフロントホックに手をかける悠麻。
ぷつんとホックが外れたところで一瞬だけ逡巡していた悠也だったが、やがてレモンイエローの大胸筋矯正サポーターの前を悠也自身の手で大きく広げると、戒めから解放された自慢の大胸筋が浩一の前に完全にむき出しになる。
聞きしに勝る大迫力に、浩一も思わず目を丸くして悠也の大胸筋に釘付けになっていた。
「うおっ……でっか……!」
「だろぉ? ほら、見るだけじゃなくてしっかり触ってみろよ」
「え、触るって……本当にいいの?」
「当たり前だぜ! 男同士で何遠慮してんだよ……ほらっ!」
満面の笑みで浩一の手首を取り、半ば強引に自分の大胸筋へと導く悠也。浩一の手が大胸筋に触れると、その刺激に一瞬だけびくりと反応する。
「んっ……ど、どうだぜ……? スゲェ、だろ……?」
「おお……うん、触ってみると大きさだけじゃなくて、しっかりした弾力や、筋肉がビクビクしてる感触も伝わってきて、いくらでもこの感触を味わっていたくなってくるね」
「お、おう! 言ってくれれば、またいつでも触らせてやるからな!」
満足そうに感想を述べる浩一を見て、悠也はほっとしたようにその手を解放する。浩一は手を引っ込めると、横から見守っていた岬と七緒の方を見てふと気づいたように尋ねる。
「そう言えばさ……二人も大胸筋矯正サポーターつけてるんだね。うちのクラスの男子の間でボディビルでも流行ってるの?」
なんの偶然か、岬と七緒もそれぞれ、青い縞模様とパールホワイトの大胸筋矯正サポーターを身に着けていたのだ。浩一の指摘に二人は一瞬戸惑うように互いの顔を見合わせたが、やがて観念したようにどちらともなく頷く。
「え……ああ、まあな……男として、体を鍛えるのは当然っつーか……ほら、見れば分かると思うけど、悠也ほどじゃないけどデカくなってきただろ?」
「えっと……僕も貧相な体してるからさ、もう少し男らしくなるために形から入ろうと思って買ってみたんだ。まだ全然大胸筋ついてなくて恥ずかしいけど、よ……よかったら、触ってみる……?」
同性同士とはいえある程度の恥じらいがあるのだろうか、顔を赤らめながら岬と七緒も背中に手を回し、自分の大胸筋矯正サポーターを外すと、それぞれ浩一の左右の手首を掴んで自分の胸板に押し当てた。
二人の胸に押し付けられた左右の掌から伝わる感触をしみじみと味わいながら、浩一は感心したように呟いた。
「へえ……鍛え方とかによって見た目とか感触もだいぶ変わるんだね。ふふ、よく分かったよ、ありがとね」
「う、うん……こっちこそ、大胸筋を触ってもらえるのは男冥利に尽きるよ……」
「それにしても……大胸筋矯正サポーターって本当にボディビルに効果的なんだね。僕も使ってみようかな?
ただ、どれくらいのサイズが合うのかよく分かってないからさ……試しにうちで一度、色んなサイズの大胸筋矯正サポーターを使わせてもらった上で、どれが一番合うのか考えてみたいんだ。それで『お願い』なんだけどさ、よかったら三人の大胸筋矯正サポーターをしばらくの間貸してくれない?」
「え……」
浩一の『お願い』に3人は不安そうな表情を浮かべて顔を見合わせる。いくら何でも3人分の大胸筋矯正サポーターを借りて持って帰るというのはあまりに厚かましいのではないか──そう頭の片隅では思うのだが、不思議なことにそれを理路整然と伝えるための言葉が浮かんでこない。何より、浩一の『お願い』はできるだけ快く引き受けるのが、男としての正しい生き様であるような気がしてならないのだ。
「……もちろん構わないぜ! 俺様は心が広い男だからな! ガハハ!」
「まあ……悠也もこう言ってるし、俺も構わねえよ。家に帰ればスペアのサポーターなんていくらでもあるからな」
「う、うん……同じ男として、ボディビル仲間が増えることは喜ばしいしね。僕の大胸筋矯正サポーターなんかで良ければ、家で好きに使ってくれて構わないよ」
どこか釈然としない表情を浮かべながらも、快い返答とともに自分たちの大胸筋矯正サポーターを浩一に手渡す3人。まさに、男同士の厚い友情を感じる一幕である。
──次の体育の時間、何故か真っ赤になって胸元を必死に抑えながらバスケットボールをドリブルする美沙、七海、そして悠麻の姿が多くの男子たちに目撃されたのだった。
<おわり>
最近お勧め動画でゴールデンエッグが上がって来てて、なつかしーなー大胸筋矯正サポーターネタ面白かったなーってなってたので笑わせていただきました。
>慶さま
感想ありがとうございます!
実は最初はゴールデンエッグを知らずにネタを書いていて、考えていた「大胸筋矯正サポーターだよ!」のネタがそのままアニメに出てきていると知って驚いたんですよね。
せっかくなので、パロディって感じの形で取り込みました。
軽い読み口のコメディを目指しているので、笑っていただければ幸いです。
ピクシブで見たw
というわけで読ませていただきましたでよ~。
途中まで本当に催眠で操った浩一を英雄視した野郎どもの馬鹿話かと思ってみてたのでぅが、あれ、胸? 大胸筋サポーター? あ、そういうことかと理解しましたでよw
騙されたw
名前は変えるのではなく、男っぽい名前をそのままのほうが良かった気がしないでもないでぅ。
であ、次回作も楽しみにしていますでよ~
感想ありがとうございますー。
まあ、登場人物の名前が催眠によって与えられたものであり、現実の名前と違うっていうのは叙述トリックにしても半ば反則技ですね。
ただまあ、前回登場した女の子たちの名前をベースにしているので、そこはご容赦ください。
蓋を開けてみると、催眠ものに定番(というほど多くもないか)の性別誤認シチュですね。
いつもの席移でいつも、少年わがやがてそしてその少女症状症候群商品賞金商評価もまた褒美もそれが収入でいいね、廃品わ得てしてかたらずも、いつれやもしかしたら、のらが、いつもそこに、がわわ、の程度のなひちゅうである、いづれそばをなれぬもあろう。
だてしんじられなかたから、更衣室え、選ぶなら、の地え、お、なにてね、これもまた、誤認、じゃないが、なんだたかなあ、ありがとうございましたあ。
なんてかむかないじゃないんだよなあ、なんだけなあこの、な、ねえ、て、どこかでなかたかなあ、なにかをちがうじんさくしたのかもしれないよ。