黄金の日々 第1部 第4話 前編

第1部 第4話 前編

 ヘルウェティアの都、フローレンス。

 朝早くに教会を訪れたのは、王国騎士団に所属するひとりの女騎士。そして、その後ろに従っているのは、ふたりの少女。
 女騎士は、その同行者を教会の者に引き渡す。

「それでは、私は騎士団に復命の報告をしなければならないので。彼女にはまた後日、騎士団、もしくは王宮の方から聴取があるかもしれませんので、その時は協力をお願いします」

 そう言って一礼すると、女騎士は立ち去っていく。
 ふたりの少女の姿も、朝靄に霞む中、教会の建物中に消えていった。

「もう少しの間、こちらの部屋でお待ち下さい」

 対応に出た助祭に案内されて来客用の小部屋に通されたのは、金色の髪に濃緑の瞳、教会の司祭衣を着た若い女性。
 言うまでもなく、キエーザの司祭であった、いや、その任は解かれていないので、今でも司祭であるはずのアンナ。

 そして、彼女の隣に座っているもうひとりの少女。まだ、半分子供といってもいい年頃だろうか。司祭衣を着ているために少し大人びた雰囲気のあるアンナと比べると、そのあどけなさがいっそう際だっている。腰までの丈の黒髪が印象的で、椅子にちょこんと座っている姿がまるで人形のような印象を与えるのは、可愛らしいが、色白で童顔のその顔に、表情というものがあまり見られないせいだろう。
 ただ、本来ならチャーミングな印象を与えると思われる黒く大きな瞳が、時おり怯えたように気ぜわしく動いている。

「うまく入り込めましたね、シトリー様」

 声をひそめて、アンナが少女に話しかける。
 すると、おどおどとした様子で座っていた少女の瞳に鋭い光が宿った。

「この姿の時はシトレアと呼べって言っただろう」
「あ、申し訳ありません」
「それと、今の僕は話すことができないということにしているんだからな。あまり会話をしている姿を人前で見られたくない。話をするのは主に夜とか、他の人間がいない時に限るぞ。お前も気付かれないように僕に接するんだ」
「はい、わかりました」

 外に聞こえないように小声で、自分よりだいぶ年上の女司祭を叱りつける少女。
 そう。その少女の正体はシトリーであった。

 ――昨夜。

「エミリア、お前にもうひと仕事してもらうぞ」
「あたしに?」
「ああ。僕を女の子の姿に変えてくれ」
「女の子に?」
「そうだ。僕は、アンナと一緒に助けられた村の娘ということにする。女の子の姿ならまず疑いをかけられることはないだろう。そうしておいて、保護されるという形で教会に潜り込む。話を聞いた限りでは、教会が一番抑えやすそうだからな。それに、魔導院は、すでにこうして魔導長が僕たちの手にあることだし」

 そう言ってシトリーがちらっと見遣ると、ピュラは頬を赤らめて頷く。

「というわけだから、頼むぞ、エミリア」
「ま、そういうことなら、腕によりをかけて可愛らしい女の子にしちゃうからね!」

 エミリアが近寄り、手を触れて集中するように目を閉じると、シトリーの体が少しずつ小さくなっていく。

「身長はこれくらいかしら。髪は、このくらい長くして、と。ああ、瞳が金色なのはやっぱ怪しいから黒くしておくね。シトリーって顔立ち整ってるから、そんなに手を加えなくても十分可愛らしくなるんだよね~」
「なんかお前、楽しそうじゃないか?」
「うんっ、すっごく楽しい!うんうん、声帯もちゃんと女の子らしい声が出るようになってるわね。で、胸もまだまだふくらみはじめみたいな控えめな感じで、きゃっ、可愛い!」
「もう満足か、エミリア?」
「うん、あとはここを変えないとね」
「いや、そこはいい」
「え、でも、女の子にこんなモノが付いてたらおかしいじゃない」

 そう言って、エミリアは少女の股間の、本来女にあるまじき物を軽く触る。

「そこは普段見えないからいいんだよ。それに、これは使う予定だから」
「ええっ!その姿で!?シ、シトリーのどスケベ!」
「お前、僕らが悪魔だってこと忘れてないか?」
「悪魔でもスケベなものはスケベよっ!そんな可愛らしい顔しといて、そんな物付けて女の子をアハアハ言わせるなんて、お姐さんが許さないんだから!」
「誰がお姐さんだ、誰が」
「その姿で甘えるように見せかけておいて、それを女の子のアソコにぶすって突き立てるのねっ!もうっ、シトリーったら、ホントにエッチなんだから」

「ああもう、さっさと行くぞ!」

 ひとりで盛り上がっているエミリアを無視して、少女が一堂に向き直る。

「じゃあ、ピュラ。こいつらを頼む」
「はい、シトリー様」
「ああ、それだけどな。みんなにも言っておくけど、この姿の時はシトレアと呼んでくれ」
「シトレア、ですか?」
「ああ、だって、女の子の名前が男性形だったらおかしいだろう」
「それもそうですね」
「そういことだ。僕とアンナ、エルフリーデは夜が明けてから都に入ることにする。エルフリーデが救出した村の司祭と、村人の子供としてね」
「わかりました。それでは行きましょうか。みなさん、私の方に体を寄せて下さい」

 その言葉に従って、エミリアとニーナ、メリッサがピュラを取り囲む。
 そして、ピュラがなにやら呪文を唱えると4人の姿がかき消えた。

「行ってしまったのですか?」
「ああ。そうみたいだな」

 アンナの問いかけに、少女が素っ気なく答える。
 気配が完全に消えたことから、姿を隠したのではなく瞬間的に移動したのだと判断できた。

「さてと、僕たちは小屋の中で夜明けを待つことにするか」
「はい」
「おい、エルフリーデ。お前も少しは体を休めておけ。……エルフリーデ?」

 この時になって、初めてシトリーは呆けた表情で突っ立ったままのエルフリーデに気付く。

「おい、エルフリーデ?」
「かっ」
「かっ?」
「かわいいっ!」
「うわっ!」

 いきなりエルフリーデに抱きしめられて少女が目を白黒させる。

「おいっ、なんだいきなり!」
「すごい可愛らしいですっ!シトリー様!」
「だから、この姿の時はシトレアだって!ていうかシトリー様って、おまえ、僕の下僕になった覚えはなかったんじゃないのか!?」

 予想もしていなかったエルフリーデの反応に、少し狼狽えながらも少女姿のシトリーはつっこみを入れる。
 
「いえっ!今のシトリー様、いや、シトレア様にならどんな命令でも従います!」
「うわっ、くっ、苦しいだろっ!おいっ、こらっ!」

 その、頑強な体できつく抱きしめられてもがきながらアンナの方を見ると、彼女も少し驚いた表情で肩をすくめる。

「わかったから離せって!」

 エルフリーデに抱き上げられて、手足をばたつかせて抵抗する少女。 

 結局、興奮したエルフリーデをなんとか落ち着かせて、その後の手筈を理解させた頃には、夜明けも近い時間になっていたのだった。

 はぁ、だから人間は度し難いんだ。

 教会の小部屋の中で昨夜のことを思い出しながら、シトリーは大きくため息をつく。
 こういう場合、悪魔の方が行動原理がはっきりしている分、その思考や行動を御しやすい。そういう点では人間の方が反応が複雑なので、ちょっとしたことが思いもよらない結果を及ぼすこともある。
 どのみち、エルフリーデがすでに快楽に溺れ、ほとんど堕ちかけているのはシトリーもよくわかっていた。もう、あと一押しするだけだった。

 まだ、最後の一押しはしてないんだけどな。まさか、あいつがそういう趣味だったとは。
 ひょっとして、あいつを堕とすときに、アンナと絡ませ過ぎたせいか?

 内心、舌打ちをするシトリー。
 しかし、自分が少女の姿になっただけであの騒ぎようなのは少し辟易するが、この状態だとこっちの言うことには素直に従うから、まあいいか、とも思う。
 ともかく、今はの前の状況に専念すべきだろう。

「打ち合わせたとおり、しっかり頼むぞ、アンナ」

 再び少し怯えた雰囲気を漂わせながらも、低く押し殺した少女の声には鋭い響きがあった。

「はい、任せておいてください」

 アンナの能力は、相手がアンナのことを信頼していればいるほど効果は大きくなる。

 まあ、それだけそのシンシアとかいう教会の幹部の信頼は絶大ってことなんだろうな。

 アンナが見せた自信満々の表情がそれを物語っていた。

 うん。どうやら、アンナの力に任せておいて問題はなさそうだ。
 
 シトリーは満足げに頷き返すと、すぐにもとの怯えた少女の表情に戻り、教会からの対応を待つ。
 部屋の中には、真冬にしては穏やかな日差しが注ぎ込み始めていた。

* * *

 教会の一室。

 机に肘をつき、なにやら考えに耽っているひとりの女性。
 見た感じでは、30歳前後といったところだろうか。その、本来なら知的な印象を与えるであろう黒い瞳はぼんやりと宙を見つめ、アンバーの長い髪が机の上に垂れ下がっている。

「シンシア様。シンシア様?」

 自分の名を呼ぶ声に我に返ると、ひとりの助祭が部屋の入り口に立っていた。

 私ったら、また考え込んでしまっていたのね。

 ふう、とため息をひとつつくと、シンシアと呼ばれた女性は助祭の方に向き直る。

 このところ、彼女は物思いに耽ることが多くなっていた。そういう時、彼女が考えているのは、辺境の村に司祭として赴いている愛弟子のことだった。
 輝くような金色の髪に、人懐っこい光を湛えた濃緑の瞳、そして、生真面目で、優しい心を持った少女。
 その少女は、この春から、キエーザという村で司祭を務めているはずだった。

 だが、近頃、巷では不穏な噂が流れていた。その、キエーザの村で邪教が蔓延している、と。

 あの子がいる限り邪教などがはびこるはずはないわ。

 シンシアはそう堅く信じていた。
 だから、もしその噂が本当なら、彼女の身に危険が及んでいるかもしれない。そんな思いがシンシアを不安にさせる。

 お願い。無事でいて、アンナ……。

 シンシアは、祈るような思いで愛弟子の名を呟く。

「あの、シンシア様?」

 気付けば、助祭が困ったような表情で突っ立ている。

「ああ、ごめんなさい。それで、いったい何の用かしら?」
「はい。先程、王国騎士団から使者の方が来られたのですが、それが、邪教徒に囚われていたキエーザの司祭のアンナ様を救出したと」
「ええっ!それでアンナは!?」
「はい。騎士団の者に保護されてこちらに参られましたので、来客用の間にお通ししてありますが……。あっ、シンシア様!」

 助祭の言葉を最後まで聞かずに部屋を飛び出すと、シンシアは来客の間へと急ぐ。

 来客の間。

 部屋の中に駆け込むと、司祭衣を着たひとりの少女が立ち上がった。その、見間違えようのない金色の髪とダークグリーンの瞳。

「アンナっ!」

 シンシアは、愛弟子に駆け寄ると、力一杯抱きしめる。

「良かった。本当に無事で良かった」

 アンナを強く抱きしめ、何度も良かったと繰り返すシンシアの目から安堵の涙が溢れてくる。

「そんな、シンシア様。私の方こそ、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」

 おとなしくシンシアに抱かれたままで詫びの言葉を口にするアンナも、感極まったのかその目から涙がこぼれ落ちていた。

「すみません。私の力が至らないばかりに、こんなことになってしまって」

 小さく体を震わせ、何度も嗚咽しながら、アンナは謝罪の言葉を繰り返す。

「本当なら、私が村人を誤った信仰から救わなければならなかったというのに」
「いいの。いいのよ、アンナ」

 アンナの言葉を遮ると、シンシアは優しくその頭を撫でてやる。

 もし、街に流れている噂の通りに、村人がみな邪教に靡いていたのなら、まだ若い、しかも女のアンナではどうしようもなかったことだろう。現に彼女は、邪教に堕ちた村人によって囚われていたのだ。

 それがわかるだけに、シンシアはアンナを責めなかった。
 むしろ、囚われの身にありながらも邪教徒に屈しなかったことは称賛に値するとさえ考えていた。

「アンナ、もう自分を責めるのは止しなさい。私はあなたがこうして無事戻ってきただけで充分なんだから。後のことは私たちに任せて、さあ、こちらにいらっしゃい」
「あの、シンシア様」
「ん、どうしたの?あら、その子は?」

 アンナの肩に手をかけて部屋を出ようとしたシンシアは、この時になって初めて、部屋の中にもうひとり、黒髪の少女がいることに気付いた。
 シンシアに見つめられて、少女は怯えたようにアンナの背後に隠れる。

「はい。この子の名前はシトレアといいます。キエーザの農夫の娘なのですが、やはり邪教徒に囚われていたところを私と一緒に助け出されたのです」
「そうだったの。こんな子供まで、可哀想に」
「それで、あの、申し上げにくいのですが、この子は邪教徒どもに、その、慰みものにされていたみたいで」
「なんですって……」

 表情を曇らせてアンナが告げた内容に、シンシアは思わず言葉を失う。

「その時のショックで、この子は言葉が話せなくなってしまったのです。なにしろ、先頭に立ってこの子を嬲ったのが、実の両親なのですから」
「そんな。なんてひどい!」
「春に私が村に赴いた頃は、明るくてよく喋る子で、私によくなついてくれていたのに……」

 そのことを思い出したのか、アンナは顔を押さえて泣き崩れる。それを、すぐにシンシアが助け起こした。

「わかったわ、アンナ。この子も教会で引き取って、私たちで面倒を見てあげましょう。大丈夫よ、暖かく見守っていれば、きっとまた話せるようになるわ」
「ありがとうございます、シンシア様」
「さあ、だから、こちらにいらっしゃい」

 アンナは、少女の手を取り、シンシアの後について来客の間を出ていく。

 そして、アンナが連れてこられたのは、教会に付属する、女性聖職者たちが生活している建物の一室。

「あの、この部屋は?」
「そうよ。この春まであなたが使っていた部屋。たまたまだけど、その後にこの部屋を使う人がいなくて。あなたも、使い慣れた部屋の方が落ち着くでしょ」
「ありがとうございます、シンシア様」
「いいのよ。多分、これから邪教への対策を練らなければならないし、あなたへの聴取もしなければならいでしょうけど。少しでもゆっくりしていなさい。大丈夫よ、きっと悪いようにはならないはずだから」
「はい」
「ああ、後でこの部屋にもうひとつベッドを運んできた方がいいかしら?」
「いいえ、大丈夫です。この子はまだひとりで寝られる状態ではありませんから。きっと、私から離れるのも嫌がるはずです」
「そう。わかったわ。でも、何か必要なものがあったら遠慮なく言ってちょうだいね」
「はい。ありがとうございます」

 深々と頭を下げたアンナを励ますように、もう一度優しく抱きしめるとシンシアは部屋を出ていく。
 残されたのは、アンナと黒髪の少女のふたり。

「こんなものでいかがですか、シトレアちゃん」

 アンナが少女の方に振り返り、満面の笑みを見せた。

* * *

 その日の午後、キエーザの邪教に関して、早くも大主教によるアンナへの聴取が行われることになった。
 そのことを告げに来たのはシンシアだった。

「でも、どうしましょう。この子はきっと私の側を離れないですよ」
「そうね、この部屋で待っていてくれたら私が付き添っていてあげるんだけど」
「ええ?でも、シンシア様も聴取に参加されるのではないのですか?」
「聴取の後の会議には参加するけど、聴取自体は大主教様とおふた方の幹部の3人で行われる予定なの。私は聴取のメンバーには入っていないから」
「そうなのですか。それでは、お願いしてよろしいですか?」
「もちろんよ」

 柔らかな笑みを湛えてシンシアがシトレアの付き添いを引き受ける。
 それでもまだ少し不安そうに、アンナは隣に座っている少女の方に向き直る。

「シトレアちゃん。私は大切な用事があってちょっと出て行くけど、ひとりでお留守番できる?」

 アンナの言葉に、少女は黙ったまま大きく頭を振る。

「お願い、シトレアちゃん。私がいない間、シンシア様、こちらのお姉さんが一緒にいてくれるから。シンシア様は私の先生で、とても優しい方だから何も心配は要らないわ。だから、お願い。私もすぐに戻ってくるから、ちょっとの間だけお留守番していてちょうだい」

 アンナに優しく言い聞かされて、泣き出しそうになりながら、少女はアンナとシンシアの顔を何度も見比べる。
 そして、小さく、だが、はっきりと首を縦に振る。

「ありがとう。いい子ね、シトレアちゃん。あっ、そうだわ。私が留守の間、これを貸してあげるからね」

 アンナが、自分の司祭帽を取って少女に手渡すと、少女は泣きそうな表情のまま、大事そうにその司祭帽を抱きかかえる。

「それでは、聴取に行って来ます。この子のこと、お願いしますね、シンシア様」
「大丈夫よ、任せておきなさい」
「じゃあ、すぐ戻ってくるからね、シトレアちゃん」

 アンナは、シンシアに頭を下げると、不安げな表情の少女に軽く手を振って部屋を出ていく。

 アンナが出ていった後、部屋に残されたのは、シンシアとシトレアという少女のふたりだけ。

 シンシアが見ていると、少女はアンナの司祭帽を固く抱きしめ、ベッドの、さっきまでアンナが座っていた辺りで、その温もりにすがるようにじっとしゃがみ込んでいた。
 そんな少女の様子に思わずシンシアが立ち上がると、少女は表情を強ばらせて後ずさろうとする。

「大丈夫よ。ごめんなさい、怖がらせてしまって」

 こんなに怯えてしまって可哀想に。こんないたいけな子供にまで……許せないわ。

 ぶるぶると震えている少女の姿を見ているうちに、シンシアの胸にふつふつと邪教徒への怒りがこみ上げてきた。
 険しい表情で唇を噛みしめ、固く握ったその拳が小さく震え始める。

 そんな彼女の様子を、怯えた表情を見せながらも少女がじっと見つめていることにシンシアは気付かない。
 ましてや、その少女の正体が悪魔だということに気が付こうはずもなかった。

 その日、アンナが聴取から戻ってきたのは、もう外が暗くなり始める頃だった。

「どうでした、シンシア様の印象は?」

 夜、ベッドの上で体を寄せ合い、小声で囁くふたりの少女。

「人間が甘いな。お前たちはああいうのを、優しい、と言うんだろうけどな」
「あら、でも、ああ見えてシンシア様は気性が激しいところがあるんですよ。曲がったことが大嫌いで、不正や非道は許さないんですから」
「確かに、そんなところもありそうだな。まあ、性格が真っ直ぐで思いこみが激しい人間の方が相手をするのは楽だけどな。それとあの女、子供には大甘だぞ」
「それは、シンシア様は子供が大好きですもの。子供は無垢で汚れを知らないから、守ってあげなければならないと堅く信じていますから」
「ふん、それを利用しない手はないな。アンナ、明日からでも機会があれば仕掛けていくぞ」
「かしこまりました。それにしても」

 アンナが、少女の頭を抱きかかえて、ぎゅう、と自分の胸に押しつけてきた。

「うわっ!なんだ、いきなり?」
「こんなに小さくて可愛らしくなるなんて、なんだか不思議な感じです」

 少女の頭を撫でながら、クスリと笑うアンナ。

「たしかに、エルの気持ちも少しはわかりますけど、私は元のシトリー様の方がいいですね」
「ふん、言ってろ」

 ぶっきらぼうに答えると、少女はアンナの胸に頭を潜り込ませる。

「んんっ、あんっ」
「勘違いするなよ」

 思わず熱い吐息を漏らしたアンナを突き放す少女。

「褒美は、仕事を終えてからだ」
「んんっ。はい、わかっています」

 アンナはその感触を確かめるように、少女の頭を抱く手に軽く力を込めた。
 その心臓が高鳴り、大きく息をする度にゆっくりと胸が上下しているのが伝わってくる。

 まあ、この分ならしっかり働いてくれるだろう。

 ドクンドクンと脈打つ鼓動の響きを聞きながら、少女はゆっくりと目を閉じた。

* * *

 アンナがもたらした情報は、教会に衝撃を与えるには充分だった。
 国境近くの山岳部にある、キエーザという農村が邪教徒に占拠されてしまった。 
 確かに、少し前からそのような噂は囁かれていた。しかし、現実にそのような報告を受けた教会の動揺は少なからぬものがあった。
 そして、調査に赴いた王国騎士団が、邪教徒によって囚われていた村の司祭であるアンナを救出して戻ってきた。だが、調査隊の方も、16人中15人の騎士を失うという多大な犠牲を払うことになったのだ。
 田舎の小村とはいえ、邪教がはびこり、村の司祭を捕らえて幽閉していたことは見過ごすことはできない。当然、教会としては何らかの対処をする必要が出てくる。
 とは言っても、教会のとるべき対応はもとより決まっていた。王宮に上申し、王国騎士団、そして必要とあらば魔導院の支援をうけて邪教徒を討伐するのである。邪教徒は、討ち滅ぼされるべきものであるのだから。

 こうして、教会は邪教徒への対応に追われることになる。

 アンナが都に戻った翌日。

 その処遇が決定したため、夜になってシンシアがそのことを伝えに行った。

「私へのお咎めは無し、なのですか?」
「ええ。もちろんキエーザの司祭の任は解かれるけど。とは言っても、今の状況では村に戻ることもできないから」

 大主教と、シンシアを含む6人の教会幹部たちが下した裁定は、アンナの、キエーザの司祭としての任務を解き、司祭の身分のままで都の教会へ留め置くというものだった。
 邪教が、僅かな時間の間に村中に広まったとは考えにくいので、アンナが赴任する前からキエーザには邪教が存在していたのであろうと考えられた。それに、シンシアもそう考えたように、村に邪教が広まった後では、アンナひとりではいかんともしがたかったであろうことも容易に想像できた。
 ただ、邪教の存在に気付いた後すぐに都に知らせを送らなかったことだけは不手際だと見なされたが、それすらも、村が邪教の手に落ちていた状況では、必ず都に届けられるという保証はなかったという意見が大勢を占めた。
 その結果、アンナ自身には重大な過失は無いと判断され、このような寛容な処分が下されたのである。

「だから、しばらくはここでゆっくりと体を休めるといいわ。もっとも、これから教会では、王宮や騎士団と邪教への対策を練らないといけないから、その時にはあなたにも必要な情報の提供などの協力はしてもらうわよ」
「もちろんですとも。それが今の私にできる最大限の務めですから」
「そういうことね。じゃあ、おやすみなさい」
「あ、お待ち下さい、シンシア様」

 部屋を出ていこうとしたシンシアを、アンナが呼び止める。

「どうしたの、アンナ?」
「あの、まだ、誰にも話していないことがあるのです。いえ、別に隠していた訳ではなくて、このことを相談できるのはシンシア様だけだと思って……」
「え?なにかしら?」
「はい。さあ、こちらにいらっしゃい、シトレアちゃん」

 アンナが手招きすると、ベッドに座って、不安げにふたりを見ていた少女がおずおずと近寄ってくる。

「いい、シトレアちゃん。シンシア様は、本当にお優しくて、徳のあるお方だから、きっとシトレアちゃんの体を元に戻してくれると思うの。だから、いい?あのことをシンシア様にお話しして」

 諭すように優しく話しかけられて、少女は泣きそうな表情をしながらも、こくりと首を縦に振る。

「ありがとう、いい子ね。じゃあ、ごめんね、シトレアちゃん」

 そう言うとアンナは、少女の服を脱がせていく。

「ええっ!?」

 裸になった少女の姿を見て、シンシアは絶句する。

 子供から大人へと移りゆこうとしている、まだ、幼さを残した、少しふっくらとした体。その胸の、いまだささやかながらも、確かにふくらみつつあるふたつの盛り上がりは、少女がこれから大人の女になる階段を登り始めていることを示していた。
 だが、少女の股間にあるそれは、本来、女にはあってはならないもの。

「そんな。これは!?」

 驚愕に声をうわずらせたシンシアの視線の先にあるそれは、紛れもなく男性器であった。

「ええ。見ての通りです。この子は、邪教徒の呪いによってこのようなものを生えさせられ、毎日、男だけでなく女の相手もさせられていたのです」
「そんなっ、なんて酷い!」

 少女は、恥ずかしさからなのか、それとも恐怖からなのか、固く目を瞑って震えている。

 こんなこと、決して許されないわ。こんな醜いものを女の子に付けて、大勢でいたぶるなんて。それも、ショックで言葉を話せなくなるくらいに。

 そんな少女の姿を見ていると、邪教徒への怒りが燃え上がってくる。

「邪教徒め、決して許さないわ」

 シンシアが、低く鋭い声で呟く。

「ええ、その通りです、シンシア様。でも、今はこの子の体を元に戻すのが先決です」

 アンナの言葉に、シンシアももっともだと頷く。今ここで激したところで、邪教徒をどうすることもできない。

「元に戻すって言っても、どうすればいいの?」
「聖職者が、この子のここから邪教の呪いによる毒を吸い出せばいいのですが」

 そういって、アンナが少女の股間から下がったものを掌に載せる。すると、少女がビクッと体を震わせる。

「え?でも、そんなこと……」
「いいですかシンシア様。これは治療であり、解呪なのです。邪教徒の毒を浄化できるのは女性の聖職者だけ。私たちが直接毒を吸い出して、体の中で浄化するしかないのです」

 真剣な表情で言葉を重ねるアンナ。もとより、彼女がいい加減なことを言う娘ではないことはシンシアが一番よく知っていた。だから、その言葉は真実だと思える。

「で、でも、吸い出すといっても、どうやって」
「では、まず私がやって見せます。いいですか、シンシア様。重ねて言いますが、この子を元に戻すのはこれしか方法がないのですよ」

 そう言うと、アンナは、少女をベッドの所に連れていき、その上に座らせると、自分は跪くようにして低い姿勢をとる。シンシアに説明している間に、アンナの手で軽く握られていた少女のそれは、さっきよりも少しふくらんでいるように見えた。
 そして、おもむろに舌を伸ばすと、少女の股間のものを舐め始める。

「んふ、ぺろろ、くちゅ、んちゅ、ぴちゃ」

 舌の上で転がすようにして、丁寧にそれを舐め回していくアンナ。
 すると、少女のそれが、少しずつ太く、大きくなっていくのがシンシアにもわかった。

「ん、あふ、じゅるる、じゅっ、ちゅるる、ぺろ、れろ」

 アンナがじっくりと舐めているうちに、それは見違えるように太く逞しくなっていく。赤黒く不気味にふくらんだ、その全体がアンナの唾液でヌラヌラと光っていた。そして、まるで棒のようにすっかり大きくなったその先っぽに、また時にはその側面に、アンナは舌を伸ばしてしゃぶりつく。
 少女は相変わらず固く目を瞑ったままで、何かを我慢するように体を小さく震わせている。
 ひとしきりそうやって舐めた後にようやく口を離すと、アンナはシンシアの方を向く。

「いいですか、シンシア様。こうしてこれを大きくした後に、こうやって毒を吸い出すのです」

 そう言うと、再び少女の方を向いて、股間のものを口の中に入れていく。

「ん、んくっ、むふう、むぐ、あふ、えろ、んっ」

 もう、少女のそれはアンナの口の中に収まりきらないほどに大きくなっていた。口一杯でそれを受けとめているアンナの頬のうねるようような動きで、シンシアにも、彼女が舌で、唇で、そして口腔全体を使っているのがわかる。

 これが、毒を吸い出すということなの?

 そんなことを考えながら、口全体で、熱心にそれをしゃぶっているアンナの様子を見つめるシンシア。
 見ていると、そのおぞましさといかがわしさに気持ちが悪くなってくるが、この少女を元に戻すにはこうするしかないとアンナが言うのだから間違いはないのだろう。

「えろ、れろ、んふっ、んむ、じゅるっ、ふうううう」

 少女のそれを口一杯に頬張ってしゃぶっていたアンナが、いったん大きく息をつく。

「はむっ、んっ、んふっ、んっ、んむっ、んんんっ」

 そして、今度は大きく頭を前後に動かし始めた。
 頭を振る度に、ヌラッと光るそれが、アンナの口許から出入りしていく。

「んんっ、んっ、んっ、んっ、んっ、ふうんっ、んむっ、んくっ」

 時々息を継ぎながら、アンナは、それを口に咥えたまま頭を動かし続ける。

 気が付けば、さっきまで固く閉じていた少女の目が開かれていた。その目は、今にもこぼれそうなくらい涙で一杯になっている。
 だが、その表情には、不思議と苦痛とか哀しみというものは感じられなかった。
 むしろ、真っ赤に頬を染めて、だらしなく口を開き、どこか恍惚としているようにすら見えた。

「んっ、んっんっんっんっんっ!んふうっ、んくうっ、あふっ、んっんっんっ!」

 頭を前後に揺らすアンナの動きが、次第に激しくなってくる。
 それに合わせるように、少女の、呆けたように大きく開けた口からは、それとわかるくらいに熱い息が漏れるようになっていた。

「んぐっ、ぐっぐっぐっ!んんっ、んっ、んふっ、んんんっ!んぐぐぐぐぐぐっ!」

 アンナの動きが一際激しくなったかと思うと、今度は、思い切り口を寄せて、咥えているそれを奥深くに飲み込む。
 あんなに大きくなっていたものが、いったいどこに入っているのかというくらい、根元まですっぽりとアンナの口の中に収まった。

 すると、見開かれていた少女の目が、またもやぎゅっと閉じられて、その弾みに大粒の涙がこぼれ落ちる。

「んぐっ、ぐうううっ、ぐっ!」

 それを飲み込んだまま、アンナは苦しげに呻いている。
 しばらくそうしていた後、ようやく口を少女の股間から離すと、立ち上がってシンシアに向きなおる。

「ん、これ、が、じゃきょうとの、どく、です」

 口を大きく開き、聞き取りにくい声でそう言ったアンナの舌の上には、白く濁った、どろりとした液体がいっぱいに溜まっていた。
 そのまま口を閉じると、ゴクリと喉を鳴らしてそれを飲み込む。

「んんんっ、ああっ、あああっ!」

 すると、いきなりアンナは膝を折り、両手を床について体を悶えさせた。

「どっ、どうしたの、アンナっ!?」

 驚いてその体を抱きかかえるシンシア。

「いえ、だっ、大丈夫です、シンシア様。今、私の体の中で、邪教の毒を浄化しただけのことですから」

 そう言って、シンシアに微笑みかけたアンナの瞳は潤み、頬を染めて、肩で大きく息をしていた。

「浄化って、なんだか苦しそうよ、アンナ」
「本当に、大丈夫です。これは、私たち神に仕える女にしかできないことなのですから」

 そう答えてようやく立ち上がると、アンナはベッドに座ったままの少女のもとに歩み寄る。

「でも、私では何度やっても、後から後から毒が出てきて。ごめんね、シトレアちゃん。私の力が足りないばっかりに、体を元に戻すことができなくて」

 アンナが、申し訳なさそうに少女に謝ると、少女はとんでもないという風に、黙ったままで思い切り首を横に振る。

「ありがとう、シトレアちゃん」

 愛おしげに少女の頭を撫でると、アンナは再びシンシアの方を向く。

「私では力不足ですけど、シンシア様なら。聖職者としての力においても、徳においても、私など足元にも及ばないシンシア様なら、きっと邪教の毒を完全に浄化して、この呪いを解くことができると思います」
「そ、そうなの?」
「ええ、きっと。ほら、見て下さい。まだ、毒が出きっていないのがわかるでしょう」

 そう言ってアンナが視線を向けた先にある少女のそれは、いまだ大きく突き立ったままだった。

「お願いします、シンシア様」
「で、でも」

 シンシアがたじろぐのは、邪教の毒を吸うことが恐ろしいからではない。今、目の前でアンナがやって見せた行為に、直感的ないかがわしさと嫌悪感を感じたからだ。
 だが、躊躇している彼女にアンナの言葉が追い討ちをかける。

「シンシア様はこの子を救いたくはないのですか?」
「そんな、救ってあげたいに決まっているじゃないの」
「だったら!この子を邪教の呪いから救うにはこれしか方法がないんですっ」

 語気を強めてシンシアに迫るアンナ。その目からは涙が溢れそうになっていた。

「お願いします、シンシア様。この子を救うことができるのはシンシア様だけなんです」

 それがだめ押しになった。
 愛弟子に、今にも泣きそうな顔で懇願されて、無下に断ることなど彼女にはできなかった。ましてや、少女を邪教の呪いから救ってあげたい思いはシンシアとて同じだったのだから。

「わかったわ、アンナ」
「ありがとうございます!さあっ、こちらに!」

 シンシアがやっと承知すると、アンナが弾けるような笑みを浮かべて彼女の手を取り、ベッドに座った少女の前に跪かせた。そして、まず少女に向かって語りかける。

「いい、シトレアちゃん。シンシア様なら、きっとシトレアちゃんを元に戻して下さるわ。だから、シンシア様に毒を吸い出してもらいましょうね」

 少女は、一瞬不安げな表情を見せる。だが、少し間をおいた後にはっきりと頷いた。

「うん、いい子ね。では、お願いします、シンシア様」

 アンナに促され、シンシアはおずおずと少女のそれに顔を近づけていく。
 もう、躊躇ってはいられない。なにより、この少女を救うことができるのは自分だけだとアンナが言うのだから、それは自分がしなければいけないのだ。
 ゆっくりと舌を伸ばし、屹立したままのそれに絡めていく。

 うっ!

 少女のものに舌が触れた瞬間、シンシアの頭の中に、さっきアンナがそうしていた姿が浮かぶ。同時に、その時感じた、鳥肌が立ちそうな嫌悪感も甦ってくる。
 それに、この味、今まで経験したことのない、なんとも形容のしがたい味。そして、ヌラリとした感触と、鼻腔を刺激する生臭い臭い。
 それら全てがシンシアを不快にさせる。

「んぐ、んふ、うぐっ、ぺろ、ううっ」

 いや、やっぱり気持ちが悪い。でも、こうしないとこの子は……。

 顔を顰め、時々えずきながらも、シンシアはそれに沿って舌を動かしていく。

「頑張って下さい。シンシア様。はじめは苦しいはずですが、もう少しですから」

 その肩をふわりと抱いてアンナが励ます。

「もう少しそうしていたら、私たち神に仕える女は、きっと楽になるはずです。普通の人には邪教の毒を吸い出すのはひどい苦痛ですけど、私たちには主の祝福がありますから、それが美味しく感じられて、毒を吸い出すことが心地よく感じられるようになるのです」

 耳元で優しく囁くアンナの言葉が、心の中に染み込んでいくような気がする。

「んん、んくっ、うぅ、えろ、んふっ、んふうぅ」

 アンナの声に励まされながらしばらくしゃぶり続けていると、不思議と、さっきまでの不快感が消えていくような気がしてきた。
 舌がその味に慣れたのか、初めは得体の知れない奇妙な味と思っていたそれを美味しいと思えるようにすらなってきた。

 本当。アンナの言うとおりだわ。
 これが、主の祝福。邪教の呪いを打ち破るために私たちに授けられた力。

 実際にそれを美味しいと感じ始めたことを、アンナの言葉の通り、主の祝福によるものと信じるシンシアは、勇気を出してそれを口の中に含む。

「んふっ、あふ、ん、んふう、んん、んむ、ふうう」

 ああ、なんていい香りがするの。

 やはり、もうその味も、そして臭いも全く不快には感じられない。むしろ、鼻で息を継いだときに鼻腔をくすぐるその香りに、思わずうっとりとしてくる。

「どうですか?美味しくて、そして、気持ちいいでしょう?」
「んふうん」

 アンナの問いかけに、それを口に含んだままで返事をしようとするシンシア。彼女自身は意識していないが、それは、艶めかしく悩ましげな吐息となっていた。

「そうでしょう。邪教の毒を浄化するのはとても気持ちいいんですよ。それが主の御業なのです。気持ちよければ気持ちいいほど、それだけ邪教の毒の浄化が進んでいる証拠なのですから」
「んふん、んっ、んむ、んふ、れろろ、んむ、あふう」

 アンナの言葉を聞いていると、本当に気持ちよくなっていくように感じられてくる。
 もう、シンシアはアンナの能力にすっかり絡め取られてしまっていた。自分が手塩にかけてきた弟子への信頼が、アンナの言葉を疑うという選択肢をシンシアから奪い去っていたのだ。

「もうすぐ、そこの先から邪教の毒が沁みだしてきます。そうしたら、いよいよ本格的に毒の浄化が始まるのです」
「んむうう、んふ、あふ、じゅる、ちゅるる、えろ」

 アンナの言葉の通り、口の中のそれの先からヌルッとしたものが沁み出てきた。

「じゅるるっ、んんっ!んんん!」
「大丈夫ですよ、シンシア様。私たちには主がついておられます。主の前では、邪教の毒すら美味しく、気持ちの良いものでしかないのですから。だから、安心して浄化を進めて下さい」
「んふっ、んん、あふ、ちゅる、んむむ!」

 ん、体が熱い。それに、なんて心地良いのかしら。

 快感で、喉の奥がひくひくと震えているような気がしてくる。
 もう、シンシアには、初めに感じた不快感や嫌悪感は全くない。今感じているのは、ただただ気持ちよいという感覚。それこそは主だけが為せる業。自分には主の祝福がある。だから、怖れるものは何もなかった。
 それに、自分はこの子を邪教の呪いから救わなければならない。その使命感が、いっそう彼女を恍惚とさせる。

 シンシアは、上目遣いに少女の顔を窺う。
 少女は恥ずかしそうに目を閉じたままで、その長い睫毛が小刻みに震えている。

「さあ、その毒を浄化して下さい。そうすれば、シンシア様はもっと気持ちよくなれるはずです。気持ちよくなれば、それだけ邪教の毒を浄化していることになるんですから。シンシア様ほどの力があれば、もっと、はるかに気持ちよく感じることができるはずなのです」

 アンナの言葉が、シンシアの快感のリミッターを外していく。

「んくうっ、んむむむっ、んふうううっ!」

 んんっ、美味しい。もっと、もっと。

 口の中のそれから沁み出し続けるヌルヌルとした液体が舌に触れると、シンシアの体に痺れるほどの快感が走る。それに、その美味しさといったら、まるでこの世のものとは思えないほどだ。

「さあ、それでは毒を吸い出して下さい、シンシア様」
「んんっ、んっ、んっ、んっ、ぐむっ、んぐっ、はむっ、んんっ」

 その言葉で、さっきアンナがしていた姿を思い出しながら、シンシアは頭を前後に動かし始める。

 ああっ、気持ちいい、とても気持ちいいのっ。

 しゃぶり始めていたときよりもさらに大きくなっていた少女のそれの先が喉の奥に当たり、唇を擦る。その度に襲ってくる強烈な快感に、頭の中がぼんやりしてくる。

「んぐ、んむっ、んっ、んっ、んっ、あふっ、んぐうっ」

 恍惚とした表情を浮かべ、頬を真っ赤に染めながらシンシアは頭を振り続ける。トロンと蕩けたその目は涙で潤んでいた。
 無意識のうちに、もう一度視線を上げて少女の顔を見る。さっきまで目を閉じていたはずの少女が自分の顔を見て微笑んでいるような気がしたが、それすらももう、夢なのか現なのか定かではない。
 だいいち、潤んで緩みきったシンシアの瞳は、焦点すら定まっておらず、ふるふると小刻みに揺れていた。

 背徳の行為を主の御業による浄化と信じ込まされ、淫らな行為に没頭するシンシア。もう、そこには、嫌悪感や不快感はない。いや、少女を救うという使命感すらなくなっていた。いま、そこにあるのは、ただただ快感のみ。
 耳元で囁くアンナの声すら、どこか遠くで話しているように思える。
 シンシアが、高位聖職者の荘厳な衣装を着たままであることが、いっそう淫靡さと背徳感を醸し出していた。

「んむっ、あぐっ、んぐっ、ぐっ、ぐっ、んぐっ、んんんっ」

 自然と、頭を振る動きが大きくなっていき、棒のようなそれの先が喉の奥にゴツゴツと当たる。だが、それももう、全く苦しくない。むしろ、喉の奥を突かれる度に、意識が飛びそうなほどに気持ちがいい。

「んぐっ、ぐうううっ!んんっ?んんん!?」

 自分の口の中のものが、ビクビクビクッと震えた。次の瞬間。

「んぐううぅっ!んむむむむむむむっ!」

 ビュビュッと、口の中に、熱いものが迸り出てきた。さっきまでの滲み出てくるような出方とは全く勢いが違う。
 それと同時に、それまでで最大の快感がシンシアを襲う。

「ぐうううううううっ!ううっ、うぐぐぐぐぐぐっ!んぐっ、ごぐっ!」

 文字通り、快感の奔流に弄ばれながらも、なんとかその熱い液体を飲み込む。
 すると。

「あうううっ!はあああっ、ああっ、んあああああああ!」

 もう限界だと思っていた快感がさらに高まり、全身が燃えるように熱くなる。
 そう。さっきアンナは言っていた。吸い出した邪教の毒は、体の中で浄化される、と。さらには、毒の浄化は主の祝福によって快感をもたらす、とも。

 シンシアの目の前が真っ白になり、頭の中ではぐるぐると光の渦が駆け巡る。

「んぐっ、んっく、こくっ」

 もう、シンシアの思考は完全に停止していた。ごくっと喉を鳴らす度に、その体が快感に震えてビクンと跳ねる。
 それでも、それを口に含んだまま、最後の一滴まで毒を吸い出す。

 そして、ようやく毒の噴出が止まった。

「あうう、うああああぁぁ」

 やっと少女のそれから口を離すと、シンシアはひっくり返るように仰向けに倒れる。
 そして、そのまま白目を剥いて意識を失う。それでもなお、ひくひくと体を震わせ続けていたのだった。

「シンシア様。シンシア様」

 どれぐらいの時間気を失っていたのだろう。
 目を開くと、アンナの心配そうな顔が覗き込んでいた。

「あ、大丈夫ですか、シンシア様」
「ん、ええ、大丈夫」

 アンナに支えられ、体を起こすシンシア。
 部屋を見回すと、いつの間にか服を着てベッドに座っている少女の姿が目に入った。

「どれで、どうなの、シトレアちゃんは?」

 シンシアが尋ねると、アンナは黙ったまま首を横に振る。

「そう……」

 あれだけしても、少女にかけられた邪教の呪いを解くことはできなかった。
 絶望感がこみ上げ、重苦しい空気が部屋の中に漂う。

 だが、その時。

「ア、ンナ、さま。シン、シ、ア、さま……」

 静かな部屋の中でようやく聞き取れる程に小さな声。
 だが、少女が確かにふたりの名を呼んだのだ。

「え?シトレアちゃん?」

 驚いて、思わず立ち上がるアンナ。シンシアもつられて立ち上がった。
 少女は、顔を赤くして俯くと、再び黙りこくる。
 しかし、今、ふたりは確かにその声を聞いた。

「シトレアちゃんが喋った!ありがとうございます、シンシア様!確かにシトレアちゃんは良くなっています!このまま浄化を続けたら、きっと元に戻すことができますよ!」

 嬉し涙を流しながらアンナがシンシアに抱きついてくる。

「うん。うん」

 シンシアも、喜びのあまり、頷くだけで言葉が出て来ない。
 そんな彼女の目からも、思わず涙がこぼれてきたのだった。

< 続く >

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