オイディプスの食卓 第8話

第8話 義母の帰省

 朝、いつもの慌ただしい準備の時間。
 キッチンでは睦都美さんと綾子さんが並んでみんなの朝食と優惟姉さんのお弁当を用意していた。
 僕はなにげなく後ろから近づき、綾子さんの右のお尻をツンとつつく。

「はぁん!? も、もう蓮ちゃん、危ないからイタズラしちゃダメ!」

 ビクンと綾子さんは震えて、顔を真っ赤にする。
 えっちポイントを正確に狙った僕のセクハラに、怒ったふりしてるけどキュンときてるのは間違いなかった。
 そして、僕らのイチャイチャに少し驚いたような顔をする睦都美さんに僕はコインを鳴らす。

 ――キィン!

 キッチンにいる二人が、催眠目をして動きを止めた。

「僕と綾子さんがどれだけイチャついても、たとえ裸になってお互いを愛撫したり、エッチなことをしていても睦都美さんには日常光景に映る。何も珍しいことじゃなく、普通にある家庭内の出来事で他人に言うことじゃない。綾子さんも、睦都美さんが見ていても気にしないで。彼女は誰にも言わないし、僕らがどんなことしても平気だ。いいね?」

 僕は二人の催眠を解除して、また綾子さんのお尻をつつく。

「んんんんっ!」

 必死で声を我慢する綾子さんの手を握り、指輪の位置を攻撃する。「んっ、んっ」右手で口を覆い、綾子さんは首を横に振って僕に無言の抗議をする。もちろん、そう簡単にやめる僕じゃないけど。

「んっ、んっ、んんんっ」
「ママって、ここを僕にいじられるの弱いよね。父さんの妻なのに、息子に指輪を弄ばれて嬉しいの?」
「ち、ちがっ、んんんっ、お願い、みんなに聞かれたら、あっ、んんんっ!」

 そんなにビクビクしなくても、父さんは朝から会議で早出してるし、花純さんは朝食時間まで絶対に下りてこないし、優惟姉さんも同じだ。
 そして肝心の睦都美さんだって、何も見ていない。

「蓮さん、今朝はフレンチトーストですので、お紅茶にしましょうか?」
「はい、それでお願いします」
「んんんっ! んんっ! んんんーッ!」

 義母の耳たぶをコリコリしてエッチな声を出させている僕に、睦都美さんはもう無関心の表情しか向けない。
 エプロンに包まれた豊満な体をくねらせる綾子さんに、僕もボッキしていく。

「……ママ」
「んっ!?」

 ズボンを下げてオチンチンを出す。
 キッチンでこんなばっちいもの出していいのかなって考えもチラっとよぎるけど、お魚だってお肉だってみんな裸なんだし平気だよね。僕は綾子さんに固くなったそれを押しつける。

「みんなが下りてくる前に、出させて」
「で、でも……」
「早くお願い。僕だってつらいんだから」

 わがままなことを言っても、優しくてエッチな綾子さんは僕のオチンチンには逆らえない。
 ごくっと喉を鳴らして、美味しい僕のオチンチンの前に跪く。

「あの、睦都美さん。すみませんけどサラダの方も……」
「はい。かまいませんから、そちらはそちらでどうぞ」

 無関心メイドな睦都美さんにぺこりと律儀に頭を下げる。
 相変わらず、どっちがこの家の人間なのかわからない関係は続いているようだ。

「んんんっ! んぶっ、ちゅぶっ、んんっ!」

 そして睦都美さんに対する遠慮がちな態度とは裏腹な、積極的な愛撫。
 女の人には夜の顔と昼の顔があるというけど、綾子さんは僕のためならいつでもこのエッチな顔を見せてくれる。
 もちろん僕も、そんな綾子さんにはエッチな孝行をしてあげてるけど。

「あんっ!? んっ! はっ! んんんっ、んぶっ!」

 僕の太ももに添えられた左手の薬指と、懸命に前後する頭から右耳も撫でてあげる。
 敏感に反応しながらも、綾子さんはフェラチオを続けてくれる。というより、快感から逃げようとする動作がさらに口の中で僕のを刺激する動きになり、二人してどんどん快楽を高めていく。いやらしい綾子さんの口元と、僕の腰が忙しなく動いてキッチン棚をがたがた言わせる。

「んんっ、んぶっ、はむっ、蓮ちゃん…ッ!」
「あぁっ、あっ、ママぁ…ッ!」
「後ろ、失礼します」

 メイド服を来た睦都美さんが、僕の後ろの棚からサラダボウルを取り出す。
 やったね、今朝はシーザーサラダだ。あわよくばドレッシングと間違えていただきたい精液が迸りそう。
 僕は腰に力を込め、綾子さんの右耳に指をぐりぐり差し込み、「ひぃん!」と体を突っ張らせる彼女の口奥に向かってオチンチンを深く差し込む。

「んんっ!? んっ! んっ!」

 僕の精液に撃ち抜かれるように綾子さんのきれいな顔もビクンビクンと震え、喉で僕の精液を受け止めてくれる。
 ずずっと、先端ごと吸い込まれる感触に腰が震える。このまま綾子さんに飲み干してもらいたいところだけど、僕の精液には別の使命があった。

「む、睦都美さん、キッチンペーパーを一枚……」
「はい」

 快楽に息を乱した僕のお願いを、睦都美は平常どおりのクールな真顔で聞いてくれる。
 貰ったペーパーを丸めて綾子さんの前に出した。

「全部は飲まないで。ここにちょっと出して」
「んーん」
「お願い。ちょっとでいいから」
「……むー」

 精液を全部欲しがる綾子さんに拝み倒して、ちょっとだけ分けてもらう。渋々と舌を伸ばして、彼女は口から白濁した液体を垂らした。女の人の舌に絡んだ精液って、なんでこんなにいやらしいんだろう。すごく不味そうなのに。

「ありがとう。着替えたら朝ごはん食べるね」

 服を直して、美味しい匂いの漂うキッチンをあとにする。
 乱れた髪を直しながら、綾子さんが「あとでもっとちょうだいね」と手を振っていた。

 2階に駆け上がり、花純さんの部屋をノックする。

「着替え中!」

 ものすごく不機嫌な声が返ってきた。思わず縮み上がる。彼女のトゲトゲした声はいつも僕の小さな肝っ玉をチクチクするんだ。

「あの……アレを持ってきたんだけど」

 声を潜めて呼びかける。
 やがてドアがゆっくり開き――にょきっ、と剥き出しの細い腕だけが突き出された。
 きっとこれ以上近寄ったらチカン呼ばわりされるんだろうな。と僕は警戒しながらその小さな手の平に精液を包んだキッチンペーパーを乗せる。
 ドアは無言で閉じられた。僕はお礼くらい言われるかなってしばらくその場で待機していたけど、なんだか衣擦れの音しかしないし、このままだと覗きだと思われるので撤退することにした。
 朝から綾子さんとエロいことしてご機嫌だった僕のテンションは、このときかなり落ちていた。
 
「おはよう、蓮」

 優惟さんは朝からきっちりと髪を結び制服を校則どおりに着こなし、楚々とした振る舞いで席につく。
 そして「いただきます」と小さく呟いてコーヒーに口をつける。綾子さんや睦都美さんに対する冷たい態度を貫きつつ、それでも毎日の食事への感謝は忘れない折り目正しい人だ。
 僕はその唇にオチンチンを突っ込んだこともあるんだ。さっき綾子さんに慰めてもらったばかりだというのに、ちょっと股間が疼いた。
 どうしたんだろう、僕は最近すごくいやらしい。
 催眠術を使って僕なりの家族を作るんだと『kirikiri舞』さんとのチャットで決意して以来、なんだか手段がますますエッチ化しているような気がする。というより、目的もかなりエッチに寄っている。
 少しは自重しないといけない。でもそう考える頭の端で、どうせ誰にも止められない能力があるのだからもっと遊んでもいいんだって気持ちも盛り上がってくる。
 まるで媚薬でも嗅がされたみたい。催眠術と家族のことを考えると、なんだか興奮してきちゃうんだ。

 ――キィン!

 そして僕はコインを鳴らしていた。
 ここにいるのは優惟姉さんと、そして食卓の最後の仕上げに働いている綾子さんと睦都美さんだけ。
 僕は、サラダと一緒に盛りつけられたハーブ入りウィンナーにフォークを刺したまま止まっている優惟姉さんにささやきかける。

「美味しそうなウィンナーだね」

 かつて、「ウィンナー食ってる女子ってやらしくねえ?」とデカい声で僕に言った悪友は、その発言によって昼食タイムの教室を凍りつかせた罪で非公式な学級裁判にかけられ、今もクラスの女子に総シカトされている。
 彼の遺志を継ぐわけではないけれど、あのときの僕には理解すらできなかった彼の言葉に、今ならハッキリと同意できるんだ。
 まるで、フェラしてるみたいだよねって。

「姉さんは、ウィンナーの正しい食べ方を知っている。ウィンナーは食べるんじゃなくて味わうもの。フェラチオするみたいにして味わうのが本場のマナーだ。ママと睦都美さんは、優惟姉さんが本場のマナーでウィンナーを味わうことについて何も不思議に思わない。彼女は昔からこうだったから。正しいマナーだから。何もおかしなことじゃないし、僕らはそれをいつも見ている。当たり前の光景だ」

 解除して、様子を伺う。
 姉さんはしばらくフォークの先のウィンナーを見つめてから、おもむろに口を開いた。
 そして、チロチロとその先っちょを舐め始めた。

「ちゅぷ」

 一口、先っちょについた自分の唾液をキスするみたいにして吸い取り、ウィンナーをサラダボウルの中に戻す。マナー違反どころかそもそも食事してないじゃないって話だけど、優惟姉さんはいつものようにきれいな顔を澄ませてフレンチトーストにナイフを入れて、優雅な仕草で口に運ぶ。
 もぐもぐと咀嚼する小さな唇は、たった今、自分のしでかしたいやらしいマナーのことなど気づいてもいない。

「なに、蓮? お姉ちゃんの顔に何かついてる?」
「い、いや、なにも」
「そう?」

 何もおかしなことなんてない。僕を除く全員がそう思っている。
 そしてそれは、彼女の斜め向かいに座って食事を始めた綾子さんもそうだし、そろそろ下りてくるはずの花純さんの分の用意を続けている睦都美さんもそうだ。
 優惟姉さんのテーブルマナーに疑問など持つはずがない。

「んっ、んっ、んっ、んぷっ」

 優惟姉さんが、今度はウィンナーを口に咥えて前後に揺すり始めたっていうのに、綾子さんは自分のウィンナーをパキンと音を立てて普通に咀嚼している。
 ちぐはぐな対比を見せている二人の美女に股間を疼かせているのは僕だけ。睦都美さんは淡々と自分の仕事を続けている。
 あぁ、もう、優惟姉さんに僕のウィンナーをウィンナーだと誤認させようかしら。
 などと考えているうちに花純さんがだるそうに2階から下りてきて、無言で席について食事を開始する。
 フレンチトーストに適当にナイフを入れて分解し、ざっくりフォークを刺して大きく口を開ける。
 無愛想だけど、綾子さんや睦都美さんの作る食事を美味しいと思ってるのは間違いないらしく、じっくり咀嚼して飲み込む様はまるで小動物みたいで可愛いと思った。
 そして花純さんは、じつは好物だったらしく、サラダボウルの中のハーブウィンナーを見つけて微かに喜色を表情に浮かべ、ぷすっとフォークをそれに刺して大きく口を開ける。
 でもそれが口の中に入る前に、彼女はフリーズした。

「んっ、んぷっ、ちゅっ、れるっ」

 優惟姉さんが、ウィンナーに舌を絡めている。
 唇を歪ませながら角度を変え、舌を唇とウィンナーの間に挟んでれるれると動かし、しばらくその味覚とハーブの爽やかな香りを楽しんでから、それを――サラダの中に戻し、フォークを隣のレタスに変更してぽりぽりと食べた。
 その間、花純さんは呆然とそれを眺め、そしてその仕草のいやらしさに徐々に顔を真っ赤にし、やがて制服の首元まで赤くして助けを求めるように綾子さんの方を見る。
 綾子さんは、普通にウィンナーをかじっていた。睦都美さんはシンク周りを拭いている。僕は笑いをこらえてトーストに集中しているふりをする。
 ふふっ、さっき僕の精液プレゼントを無視した仕返しだ。

「……んん゛っ」

 花純さんは咳払いをして心を静めると、いったんウィンナーをボウルに戻し、トーストを一口齧りながら、優惟姉さんにものすごく懐疑的な視線を向ける。「コイツ、何かに寄生されたか?」って顔で。
 いろいろと仲の悪い我が家だけど、じつは家族全員をシカトしているのは花純さんだけだ。優惟姉さんの異常に気づきながらも、誰にも相談できずに彼女は様子見を続ける。
 優惟姉さんは洗練された仕草でナイフとフォークを扱い、トーストを切り分けて小さめに口に運ぶ。そんな彼女を睨みながら、花純さんは大きく口を開けてトーストを食む。
 ほぼ二人同時にウィンナーをフォークに刺す。そしてゆっくりそれを口元に持っていく優惟姉さんが――ずずずっと、音を立てて飲み込んでいった。

「はむっ、んぶっ、んんっ、ちゅる、ん、はぁ、んん、ちゅぶ、ちゅぶ、ちゅぶ……」

 あんぐりと口を開けたまま、花純さんの動きが止まる。そして食べる寸前だったウィンナーを下ろして、「うえっ」て顔をする。
 綾子さんや睦都美さん、当然僕も知らない顔だ。笑いをこらえるのが大変だった。
 真っ赤な顔になった花純さんは、美味しそうにウィンナーをしゃぶる優惟姉さんを睨みつけて、テーブルをバンと叩く。

「もういらない!」

 食べかけのまま立ち上がり、ダイニングから花純さんが出て行く。
 綾子さんがそんな彼女の態度に眉をしかめた。

「花純、お行儀悪いわよ」

 廊下の向こうから、「あたしがかよ!」とツッコミ返す花純さんに、こらえきれずに僕は噴き出してしまった。
 悪いことしちゃったかな。花純さんにも優惟姉さんにも。でも面白いもの見せてもらった。
 当然、僕は優惟姉さんや綾子さんたちの誤認は解除した。なにしろ姉さんのお弁当にもウィンナーは入ってるみたいだからね。
 優惟姉さんは、フォークの先で濡れて光るウィンナーにしばらく目をパチクリしてた。そんな彼女の反応も面白くてしばらく眺めていたら、おもむろに姉さんはウィンナーをプチッと噛み千切った。
 僕の袋がひゅんってなった。

 朝からそんな感じでバタバタしてしまったので、いつもより登校時間が遅くなってしまった。
 玄関で靴紐を結んでいると、普段からこの時間に登校している花純さんが僕の後頭部にカバンをポスンと乗せてくる。

「いってきまーす」

 そしてそのまま彼女はローファーを揃えて簡単に履き、カバンを取り上げ先に出て行った。遅れて玄関を出た僕の前を、小走りで去って行く。
 後ろ頭に残ったカバンの感触。特にふざけたりじゃれたりした感じじゃなかったけど、今までの僕らになかった斬新なコミュニケーション(?)だった。
 たぶんだけど、彼女なりのコミュニケーションだと解釈することにした。
 やっぱりさっきのは、花純さんに悪いことしたよな。まともにご飯を食べられなかった彼女は、たぶん午前中お腹を空かすよ。反省した。
 そして、彼女の健康的な膝の裏を思い出し、そういやまだ花純さんの裸を見たことないよなって、もっとひどいことを考えたりもした。
 最近の僕って、なんだか考えることがバラバラだ。

「カノジョ出来たらやっぱセックスとかするよな?」

 悪友の唐突な発言に、他の友人たちも「するする」と同意する。

「黒川って、もうヤってそうだよな?」

 立て続けに繰り広げられる思春期のニキビのように青臭く粘っこい発言にも、友人たちは「ヤってるヤってる」と軽く同意する。

「早くしてみたいなー」

 今日の体育は2クラス合同のバレーボールで、久々の球技に僕らは盛り上がったのだけど、なにぶんコートが2面しかないので待機時間も発生する。だらだらと無為な会話を聞き流しながら、セックスかぁ、なんてことを考えていた。
 したいかしたくないかで言えば、それはしたい。そして、その相手はなんとなく綾子さんで想像しちゃってる。
 お風呂場では「入れちゃダメ」なんて言ってたけど、たぶん入れても「こら~、近親相姦しちゃダメ~」なんていつものノンビリとした口調で怒られるくらいだろうし、そもそも『望んで』入れさせることだって僕にはできた。
 綾子さんは義理の母親で、実の父親の妻で、つまり人妻で、初体験の相手としてはかなり普通じゃないと言える。でもそのことについて、あまり真剣には悩んでない自分にもとっくに気づいている。
 母親に甘えたい子どもと同じような感覚で、僕は綾子さんとのセックスを思い描いていた。母親なのだからこそ、ヤらせてくれるべきだって思ってる。綾子さんは僕を一番に甘えさせてくれる女性であるべきだ。
 僕はきっと簡単にセックスを体験できる。だからこそ、そのときを大事にしたいと思っている。他の男子のような焦りなどなかった。

「つーか、蓮ってこういう話題になると聞こえないふりするよな」
「え?」

 急に話をふられてちょっと驚いた。
 みんな、にやにやしながらこっちを見ている。

「おまえみたいなのがムッツリスケベっていうんだよ。本当は興味あるんだろ?」

 聞こえないふりをしていたつもりはない。今まであまりその話題に興味がなかったというだけだ。
 でも、ムッツリと言われるのも心外だ。むしろこの手のジャンルにおいては先駆者であることを内心で自負している僕は、積極的に荷担することにする。

「興味は普通にあるよ。でも、誰かもうヤった人いるの?」
「そりゃ決まってるだろ……いねえ」

 他の友人たちも「いないいない」と首を揃って横に振る。
 僕らは(というよりこの悪友1人のせいで)クラスの女子には全然モテないグループだ。
 キスとかおっぱいの感触とかみんな知らないに違いない。もちろん僕だって相手が『家族』であることは言えないけど、そこまでなら体験済みという強力なアドバンテージは持っている。

「ていうか、みんなカノジョもいないし、それ以前の問題だもんねえ」
「蓮だって同じじゃん」
「まあ、それはそうなんだけどさ……」

 だめだ。まだ笑うな。堪えるんだ。し、しかし。

「でもまあ、じつを言うと僕、最近ちょっとさぁ――」
「あぁ、そういや、隣のクラスのあいつ。なんだっけ? アレだ、今レシーブ失敗したやつ」

 指さされた競技中のコートでは、ちょっと背の高い理系っぽい顔した男子が、こぼしたボールをへっぴり腰で追いかけていた。

「アイツ、公立の女子と付き合っててもうヤったとかいう話だぞ」
「え、マジ?」

 驚いた。なんとなくだけど、同学年で僕みたいな体験してそうなのはいないと勝手に思っていた。
 でも、確かに公立の子はうちと違ってエッチ方面では進んでいると聞く。そうか、付き合ってる相手が公立の子ならセックスとかも当たり前にしちゃうのか。
 へっぴり腰の彼のレシーブ体勢に、「さすが童貞とはフォームが違う」とか「腰に疲労が感じられる」とか友人たちが好き勝手に言っているのを聞きながら、僕は内心で焦っていた。
 もうヤってる人いるんだ?
 もう……ヤっていいんだ?

 ――つまり、ヤっていいんだ?
 そんなことばかり考えながら家に帰る。自分が影響されやすい人間だってことはわかってる。でも影響されちゃったものはしかたない。そもそも僕が童貞でいる理由など何もなかった。どう考えてもなかった。
 逆にどうして今までヤらずにいられたのか、まさに驚異の童貞力だったよと過去の自分を賞賛する。今はもう無理だ。そんな時代じゃないし。性の低年齢化だし。HENTAI輸出国だし。
 僕は寸止めハーレムマンガの主人公になんてなりたくないんだ。あんなので喜んでるのは小学生だけだよ。バカバカしい。くだらない。トラブるの単行本なんて、もうDVD付きのときしか買わない!
 
「ただいま!」

 鼻息を荒くしてリビングへと真っ直ぐ向かう。
 そしてメイド姿の睦都美さんに「おかえりなさいませ」と言われてちょっと鼻の下を伸ばす。
 でも、綾子さんの姿が見えなかった。

「えっと……綾子さんは?」
「今朝方、ご親族より連絡あって実家に帰ってます。お母様がギックリ腰になられたとか」
「え、それは大変ですね」
「ですので、2、3日は向こうへいらっしゃるそうです」
「……そうですか」

 僕が学校行っている間にそんなことがあったとは。向こうの方々とは顔を会わせたこともないが、ご養生していただきたいものだ。
 でも……そうか。綾子さんとはしばらく会えないのか。
 行き場を失った純情な感情が、3分の1くらいになって萎えていく。
 というか、「今日はセックスできる」と本気で思って興奮していた自分が情けない。その間に綾子さんのご実家は大変だったというのに。
 勉強でもしようかな。近頃の僕は本当にスケベなことばっかりだし。
 などと殊勝なことを考えていた僕の前で、メイドさんは僕にお尻を向ける格好で掃除機を転がし、ソファの下を掃除していた。
 スレンダーな足が黒いストッキングに包まれ、そしてひらひらと揺れるスカートはその足の長さを強調してみせていた。
 きっとお尻も素敵な形をしているに違いないと、男子の想像力をかき立てる魅惑的なカーテンだった。

「…………」

 僕はこの人が父さんに抱かれる姿を目撃している。
 ベッドの上で裸になって、四つんばいになっているところを。
 ちょうど、今のその格好みたいに。
 2階で勉強でもしようかなんて真面目な思考は、あっという間に吹き飛んでいた。
 
 ――キィン!

 僕はコインを鳴らす。リビングのチェストの上に常設してあるやつだ。
 睦都美さんは動きを止める。自走ヘッドの掃除機が彼女の手を離れて落ちる。それでも、無言のメイドさんはエッチなフィギュアみたいに固まったままだ。メイド人形だ。とても色っぽい「絵」になってると思う。
 でも僕は、どうして睦都美さんに催眠術をかけたのか、そしてこれからどういうことを彼女にしたいのか、思いつけずにいる。
 正直に言って、僕は睦都美さんが苦手だ。話しづらいというか、事務的な会話以外はちょっと出来ない感じ。
 例の浮気現場を目撃して以来、余計に距離を感じるっていうか、僕は彼女に幻滅しちゃったところがあって、こうしてメイドさんファッションで目を楽しませてもらっても、やはりお人形さん的というか、眺めていたいだけって思うだけだ。
 ひょっとして僕は睦都美さんを嫌っているのかもしれない。まあ、綾子さんの立場を考えると憎しみを抱いてもいいかもしれないくらいだけど、それをいえばそもそも父さんの責任なので、彼女だけを責めるのも筋違いなのは分かっている。
 睦都美さんのこともまた家族の問題なんだ。というより、睦都美さんのことを催眠術でどうしていくのが正しいのか、僕自身が迷ってるっていうのが本当のところ。
 欲情したらすぐ催眠っていう考え方が、僕の中で定着していってるのだろう。よくないことだとは思うけど。
 でも、目の前にあるお尻はかなり魅力的だった。父さんの愛したお尻。家族関係ではない女性のお尻。
 僕はそのお尻を撫でてみた。若いメイドさんにイタズラするセクハラご主人様のように。
 さらりとした生地の下に、意外とふくよかな感触が広がる。

「そのまま動かないで。じっとしていて。睦都美さんはお人形だ。メイド人形だよ」

 どうしていいかわからないなら、何もさせなければいいんだ。そして無反応な彼女の肌を撫で回すという行為は、僕を異常に興奮させた。
 睦都美さんはお人形さんなんだ。冷たくて、感情がなくて、そのくせ顔もスタイルもきれいに整っていて。まるっきり「人形」じゃないか。
 その想像が彼女のイメージにクリーンヒットして、僕はすごいアイディアを閃いたときみたいに興奮した。
 睦都美さんはメイド人形。本物のメイド人形。

「……動かない。睦都美さんは今、お人形です。肌から感触が消えていく。目から光が消えていく。耳だけは聞こえる。ただし、僕の声だけ。僕の声に従うだけ。何も考えない。動かない。あなたは人形だから」

 スカートをめくってみた。微妙に屈んだ姿勢の睦都美さんのお尻がぷりんと突き出され、下着とストッキングがそれにぴったり貼り付いている。僕に恥ずかしい姿を晒していることを彼女は知らない。呼吸で微かに下腹を揺らすだけのメイド人形。
 綾子さんよりは小ぶりだけど、大人の色気と若い肉感を感じさせるお尻が、彼女が本物の女性であることを証明していた。
 なるほど、オヤジ殺しだな。家族としては失望でしかなかった父さんの浮気も、男としては理解できなくもない気持ちになった。
 たくし上げたスカートを腰に絡ませ、少し離れる。ストッキングの足とお尻とメイド服。僕はスマホのカメラを起動して彼女の全身をバックから撮影した。
 見事なまでのエロさ。リビングでお尻を突き出すメイドさんなんて、それこそ物語の世界みたいだ。悪友にメールで自慢したい。僕んちにはこんなメイドさんがいるんだぞって。童貞だけどエロいことしてんだぞって。
 ストッキング越しにお尻を撫でてみる。
 この感触は初めてだ。さらさらとした手触りが新鮮。不自然な体勢で止まっているせいか睦都美さんのお尻は緊張していた。揉み揉みした感じが綾子さんのお尻と違う。睦都美さんのがやっぱり小さいけど、なんていうか形がしっかりしてる気がする。
 オチンチンが固くなっていく。
 ストッキングと下着越しに、アソコのところも撫でてみた。ふにっと指先が埋まる。割れ目に沿って指を動かすと、ぷるぷるした周りのお肉が下着の中で動くのがわかった。
 今なら、ここにオチンチン入れてもバレないな。
 でももし、そんなことしたらセックスしたことになるのかな。それとも、睦都美さんはお人形なんだからノーカウントってことになるかな。
 どっちにしろ、いつ誰が帰ってくるかわからないのに、そんなこともしてられないよね。固くなったオチンチンの行き場には困ってるけど、あとで優惟姉さんにしゃぶってもらおうかな。
 僕は睦都美さんのスカートを戻して、その手に掃除機を握らせ固定する。

 そして――人形化を解除する。

 掃除機が自走してソファの足にヘッドを当てる。その音で眠りから覚めたみたいに睦都美さんのお尻がぴくんと震える。

「…………?」

 腰を起こして、小首を傾げるようにしながら僕を振り返り、睦都美さんは目をパチクリさせた。

「何かおっしゃいましたか?」
「ううん。僕は何も」
「そうですか。失礼しました」

 何事もなかったかのように睦実さんは掃除を再開する。ここにこれ以上いれば余計に変に思われるだろう。僕はそのお尻を名残惜しく思いながらリビングを出て行く。
 淡々と、この家のことには無関心のように振る舞い、でも仕事は完璧にこなすスーパーお手伝いさん。そして僕の催眠術の下では、彼女は無口なメイドさん人形。
 僕のオチンチンが、新たな刺激の発見に興奮していた。

 夕食のキッチンは、いつにも増して寂しいものだった。
 花純さんは、綾子さんがいないのをいいことに、「あとで食べるからラップしといて」と、僕らとの同席を拒否した。
 睦都美さんも、僕らが食べている間はキッチンに引っ込んでいて、呼ばれるまでは出て来るつもりもなさそうだった。
 テーブルには僕と優惟姉さんの二人だけ。
 姉さんは、逆に居心地がよさそうだったけど。

「お姉ちゃん、じつは今度、論文コンクールに出ることになったの。一応、学校代表として」
「へえ、すごい。さすが姉さんだね」
「まあ、ちょっと忙しくなりそうなのが困るけど。でもいい経験になりそうだしね。論文完成したら蓮にも読んでもらうから。お姉ちゃんが恥かかないように協力してよ?」
「え、僕なんて役に立たないよ」
「それが違うのよ。じつは蓮の意見が一番大事なの」
「僕? どうして?」
「あのね、テーマは『経験と成長について』なの。だから、我が家の弟の成長を軸にして、そこから青少年全般の育成を考えるって感じに話をまとめてこうと思って」
「いやいや僕は関係ないでしょ。普通、そこは自身の体験じゃない?」
「別にいいじゃない、蓮のことの方が書きやすいんだもん」
「勘弁してよー」
「ふふっ、だーめ。ほら、蓮の好きなトマトあげるから、お願い?」
「しょうがないなあ。姉さんの役に立つならいいけど……あんまり変なこと書かないでよ?」
「小5までおねしょしてたこととか?」
「最後にしたのは小4だし! そんなこと書くならダメ!」
「ふふっ、ウソよ。書くわけないじゃない」

 無言がセオリーの我が家の食卓で、珍しく話が弾む。
 僕と二人きりの食事でリラックスした姉さんは饒舌で、まるで母さんが生きていたときみたいに笑いながら晩ごはんを食べるのは楽しかった。

「ごちそうさま。ね、蓮。お風呂から上がったら一緒にお勉強する?」

 昔に返った気持ちになっていた僕は、ついつい姉さんに甘えてしまう。

「それよりさ。お風呂、たまには一緒に入らない?」
「え、何を言ってるのよ。もう、変なこと――」

 ――キィン!

「弟と一緒にお風呂に入ることは何もおかしいことじゃない。小さい頃から今までずっと、時々僕らは一緒に入っていた。今日もたまたまそんな気分になった。それだけのことだよね」
「……ええ、そうね。時々、一緒に入ってた。今日は、たまたま、そんな気分になっただけ……蓮、一緒にお風呂に入りましょ?」
「うん、姉さん」

 その後、しばらく部屋で過ごしていると、姉さんが「そろそろ入るわよ」と扉をノックしていった。
 少し緊張しながらタオルと着替えを用意して脱衣室へ向かう。
 開けるとそこでは……優惟姉さんが服を脱いでいる最中だった。

「何してるのよ、早く閉めて」
「はっ、う、うん」

 声が上ずってしまった。
 優惟姉さんはこちらに背中を向けてトレーナーを脱ぎ捨ててブラの紐をあらわにしている。
 白い背中。綾子さんより細くて、頼りなく見えるくらい。そのまま躊躇なく縞々のスウェットも片足ずつ脱いでいく。
 優惟姉さんの白い下着に包まれたお尻が、僕に向けられている。綾子さんや睦都美さんより小さく、引き締まっている。丸って感じの形の良いお尻。実の姉だというのに見とれてしまう。
 いやむしろ、実の姉のお尻だからこそ貴重な気がする。基本的に優惟姉さんって、家族の前でも油断した格好はしない人だから。スカートとかもロングなのばっかりだから。
 こんなふうに、下着一枚のお尻を僕に向けることはありえなかった。その姉さんが、今度は背中に手を回してブラを――

「……蓮、脱がないの?」
「いっ、脱ぎます! すぐに!」
「別に急がなくても――危ない!?」

 慌てて服を脱ごうとして、僕は足にスウェットが絡んで転んでしまった。何してんのよ、と姉さんはブラを外しながら笑った。
 ぷるんと揺れる姉おっぱいに、僕は床に這いつくばいながらポカンとする。
 そのまま姉さんは、パンツも僕の見ている前で脱いでしまう。薄黒い三角形が目に飛び込んでくる。なんだあの三角形は。僕の記憶にある最後に一緒にお風呂に入った中1の頃の優惟姉さんにはそんなのなかったのに。
 ベガ、デネブ、アルタイル。とりあえずそれぞれの頂点に名前を付けてアステリズムを結ぶ弟の視線などまるでお構いなしに、姉さんは僕にお尻を向けてしゃがんだ。

「先、入ってるわよー」

 洗面台の下から自分用の洗顔料とか入ったカゴを取り出し、髪を無造作にまとめ上げてクリップで留め、お尻を揺らしながら姉さんは浴室に入っていく。
 一緒に入ろうと言い出しておいてこんなこと言うのもなんだけど、全然普通に脱いじゃう姉さんに僕の方が照れくさい。
 タオルで前を隠して姉さんのあとに続いていく。姉さんはすでにシャワーを浴びていた。

「こっちおいで。流してあげる」

 ちなみに「軽くシャワー」→「湯船」→「洗髪・洗身」→「湯船」→「軽くシャワー」が僕らの入浴ルーチンだ。お母さんがそうしていたから僕ら姉弟も同じ順序が習慣になっていた。
 姉さんが僕の頭からシャワーをかぶせる。全身を手で軽く流しながら、無防備に晒されてるおっぱいをチラチラ目を開けて見る。
 綾子さんとはまた違う形。姉さんのおっぱいは尖ってる感じ。綾子さんのをアンコ型とするなら姉さんはソップ型かな。ロケットの先端を思わせるスマートな流線型だった。
 決して小さい方ではないと思うけど、脱ぐとだいぶ印象が変わる。でもスレンダーな姉さんにはそんなおっぱいが似合うなって思った。

「じゃ、お姉ちゃんが先に体洗うから蓮が湯船使いなよ」
「え、一緒に入らないの?」
「もう狭いから無理よ。いいから、先に入りなさい」

 湯船に浸かりながら髪を洗う姉さんを見る。風呂椅子に腰掛けると、お尻がつぶれて大きく見えた。無駄な肉のない背中や肩のラインはか弱い感じなのに、それに比して豊かな胸や腰の張りは大人っぽい。
 姉さんは、もうすぐ大人の女性になるんだ。きっとすごくきれいな女の人に。
 僕も勉強ばっかりじゃなくて、もう少し鍛えた方がいいのかな。細い腕の力こぶを撫でて僕は考える。貧弱な男の子のまんまじゃ、姉さんの弟として恥ずかしい思いをするかも。
 
「蓮、髪洗ってあげるからおいで」
「い……いいよ。自分で洗えるし……」
「ふふっ、さっきから何恥ずかしがってるのよ? お姉ちゃんとお風呂に入るの久しぶりだから? バカね、姉弟なのに。いいから、いらっしゃい」

 濡れた髪を後ろで簡単にまとめ、姉さんは手招きする。
 あくまで姉弟だから恥ずかしくないと思い込んでいる姉さんと、手コキやフェラチオを知って姉さんに女性を意識している僕では、この状況の認識に違いがあった。
 ましてや久しぶりに見た姉さんの体は、もう僕の知っている頃のものとは全然違ってた。綾子さんほどではなくても、大人であることを示す小三角形がある。ちなみに僕は、ようやく袋のとこから一本ぴょろんと生えてきたばかりだ。まだ友だちにも恥ずかしくて発毛報告できていない。
 なので、両手で股間を隠して、姉さんには見られないようにして椅子に座る。

「ふふっ」

 優惟姉さんは、そんな僕の様子を見て含むように笑う。

「変な子。そこ隠さなくたって、お姉ちゃんにいつもしゃぶらせてるじゃない」

 それはそうなんだけど、恥ずかしいんだ。だって姉さん、裸だし。
 姉さんは後ろから僕の頭にシャンプーをかけると、ごしごしと両手で泡立ててくれる。いつもと違う匂いのシャンプー。姉さんは自分用ので僕の髪を洗ってくれた。

「かゆいとこありませんかー?」
「大丈夫ですー」

 一緒にお風呂に入ってた頃は、いつもこうやって美容師ゴッコしてたっけ。
 なんだか昔に戻ったみたいで、ちょっとくすぐったかった。
 ていうか、背中にちょいちょい当たる姉さんのおっぱいがかなりくすぐったかった。

「流すよ」

 頭からシャワーをかけられる。体に落ちてくる泡を、姉さんは手で流してくれた。
 肩や背中に触れる優しい手つき。それに、鏡越しに揺れる尖ったおっぱい。どうしたって股間は硬くなっていく。

「あ」

 姉さんはその股間を見つけて、ちょっと呆れた顔をする。

「蓮……どうしたの? まさか、お姉ちゃんの裸を見てこうなったわけじゃないよね?」
「ち、違うよ。その、お風呂で温まったし、リラックスしたせいで、こうなっちゃったっていうか」
「男の子って、お風呂に入っただけでこうなるの? ふーん、油断ならない器官なのね……」

 もちろん、そんなわけはない。姉さんがおっぱいをぶらぶらさせてるせいだ。
 でも正直に言うわけにはいかないので、僕は股間を隠して円周率を諳んじる。

「しょうがないわね。それじゃ、お姉ちゃんがコシコシしてあげるから、早く出しちゃいなさい」
「え? ……あっ」

 温かい手が後ろから僕の股間に割り込み、包まれる。
 勃起して剥き出しになった先端を撫でられてゾクゾクした。

「ついでに、体も洗っちゃお」

 右手で僕のを擦りながら、ボディソープの付いたスポンジで体を擦ってくれる。
 泡で滑りのよい手の感触が、普段よりも気持ちよくて声が出てしまう。

「気持ちいい?」

 姉さんが耳元で囁く。僕は唇噛みしめて何度も頷く。「ふふっ」と姉さんが笑って、背中に肌を密着させてくる。

「前も洗ってあげる」

 胸元を這い回るスポンジ。僕のを擦る泡だらけの手。それに背中全体で感じる姉さんの体。
 家族でオナニーを手伝うのは常識的なこと。姉さんはそう思い込んでいるだけだ。
 でも、何度もその行為を手伝わせているうちに、姉さんは僕のオナニーに興奮を感じるようになってきてるんじゃないって、そんな気がする。
 だって、僕の耳元に感じる彼女の吐息は、とても熱い。

「蓮……」

 スポンジが僕の太ももを這う。ますます体を寄せてくる姉さんは僕の背中に覆い被さるようだ。二人の体の間でつぶれたおっぱいの中心あたりに、ちょっと固い感触がする。
 スピードアップする右手。スポンジは床に落ちて、代わりに姉さんの左手が僕の体を這う。快楽で蕩けそう。姉さんの体がお湯みたいに熱い。頭がボーッとしてくる。

「あぁ、あっ……あぁ……」
「気持ちいい、蓮? お姉ちゃんの手、気持ちいいのね?」

 頷く。何度も何度も。まるで犯されてる女の子みたいだ。
 姉さんは、僕の後ろから手を伸ばしてくる。

「あぁっ!?」

 そして、僕のお尻の割れ目に沿って、穴のあたりを撫でてくる。

「だ、ダメだよ、姉さん! そこ、汚いから……ッ!」
「ふふっ、そうよ。ここは汚れやすいところだから、普段からきれいにしとかないとダメよ?」
「だから、あんっ、姉さん、汚いから触っちゃダメだって…ッ!」
「お姉ちゃんなら平気よ。だって弟のだもん。ほら、じっとしてなさい」

 ぬちゅ、ぬちゅ、斬新な快感が僕の脊髄を貫いていく。腰から下の力が抜けてふにゃふにゃだ。姉さんに体を預ける格好で、僕はただ息を乱して喘ぐ。

「姉さん、姉さん、僕、もう…ッ!」

 右手が激しく上下して、射精を促される。
 じつはちょっと入ってるんじゃないのってくらいに丁寧に洗われてるお尻の穴が、かっかと熱くなっていく。
 もう、のぼせたみたいに頭が沸騰していた。

「出して、蓮」

 耳元の囁きに誘われ、僕はたまりにたまった欲望を解放する。
 びゅく、びゅくと、鯨の潮のように噴き出す精液に、姉さんは無邪気な歓声を上げた。
 失神しちゃいそうな快感に体を震わせながら、柔らかい肌に背中を預け、僕は贅沢な射精に感謝する。

「いっぱい出したね、えらいえらい」

 しかしこの行為に背徳感の欠片も感じてない姉さんは、さっさといつもの『お姉ちゃん』の顔に戻り、ぴしゃんと僕の背中を叩いて、床や壁を汚した精液や僕と自分の体を淡々と洗い流していた。

「ちょっと狭いけど、一緒に入ろっか。重なって入れば大丈夫だよね?」

 姉さんが先に入って、その足の間に僕が座る格好。
 足を開いた姉さんにちょっとドキドキしたけど、考えてみれば一緒に入ってたときっていつもこの体勢だったっけ。
 無邪気って恐ろしい。

「もっとよりかかっていいよ」

 遠慮して体を丸めていた僕を姉さんが抱きしめる。
 ふにょんと、昔にはなかった柔らかいクッションで僕の背中を受け止め、優しく僕のお腹に手を回す。
 勃起とか興奮とかいう感じはもうなくて、ただ純粋に家族の絆で満たされた気持ちになり、すごく心地よかった。

「……おねえちゃん」

 思わず昔の呼び名が口を出る。

「なぁに、蓮?」

 姉さんは、きゅっと腕に力を込めて、そのまま百を数えるまでこうしてくれていた。

< 続く >

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