コウモリ男の夏 (4)

(4)

「お兄ちゃん、私にも仕事を手伝わせて? お兄ちゃんを守るくらいのことは出来るよ」

 僕はうんざりした気持ちで、季依が作る子猫のような表情を見下ろす。
 主張。反抗。そして媚び。
 少女が大人の女になる課程というのを、とても分かりやすく体現してくれる季依は、僕が頭から血を流して帰ってきたのを何か勘違いしていようで、ここぞとばかりに、やたらとまとわりついてくる。
 
「何でもないって言ってるだろ。蚊に刺されたのを掻きすぎたんだよ」
「どうして? そんなのウソだよ。曜子にやられたんだよね? お兄ちゃんを傷つけるやつなんて許せない。私に仇を取らせてよ!」

 イライラする。探られたくもない腹を探られている気分だった。
 僕の女にでもなったつもりか。

「何度も言わせるなよ。僕一人で十分なんだ。季依はまだ待機」

 それでも、親切に接してやってるつもりだ。
 季依みたいな子供は、甘やかしすぎてもダメだし、突き放しすぎてもダメ。
 苛立ちを堪えて、子育てでもしてる気持ちで、僕は季依の髪をくしゃくしゃに撫でてやった。
 季依は、じっと僕の顔を見上げている。

「じゃあ、どうしたら私のこと使ってくれるの?」

 決まり切った質問に、僕は決まり切ったセリフで答える。

「自分で考えろよ」

 依存から自立へ。
 その先は季依に自分で選ばせる。
 何度も繰り返したやりとりだ。そして、季依の言うこともいつもと同じだ。
 
「……曜子を倒して、お兄ちゃんの役に立ちたい」

 頑迷に勝負にこだわる季依。
 でも僕は根気よくこれを続けるつもりだ。
 清香のこともブラックのこともあるし、すでに僕らの方に堕ちてる季依にまで、余計な手間をかけたくはない。
 
「やめときなよ。あんたが曜子に勝てるわけないじゃん」

 風呂上がりの髪を、カプリに整えてもらっている最中の清香が笑う。
 季依の顔がみるみる赤くなり、清香をきつく睨みつける。

「……はぁ? 何言ってんのよ」
「聞いてのとおりよ。季依が曜子とケンカしても勝てるわけないんだから、やめときなって言ってるの」
「ッ、そんなわけないじゃん! ふざけないでよ!」

 ぴりぴりと空気が痺れる。
 清香の後ろでブラシを持ったカプリがオロオロしている。

「や、やめようよー。仲良しこよしがあたしたちシグエレメンツの売りじゃない? じつは険悪なのバレたら、ファン減っちゃうってばー」
「カプ姉も黙ってて。私は、もうお兄ちゃん側の人なの。シグエレなんて関係ない。清香、あんた最近、調子のりすぎ」
「あ、そう? それは失礼。ただ、わざわざ負けに行くことないのになーって思って、忠告しただけなんだけど」
「……清香、私を怒らせたいの? いいよ、それじゃあんたからやってあげる」

 部屋に戻り、イエローとブルーのブレスレットを持ってきて季依は言う。

「お兄ちゃん、清香の体を自由にして。私、こいつと決着つけたい!」

 僕は無言で、清香を見る。
 清香はブレスレットをチラ見して、フンと鼻を鳴らす。

「決着はつけてもいいけど、ブレスレットはいらないよ。スーツなんてなくても、あんたには負けないから」
「ふざけんな! 負けたときの言い訳だろ! いいからお兄ちゃん、早くこいつを自由にして!」

 機嫌が悪いときに限って、くだらないことで騒ぎまで起こる。
 僕は季依の頬を張った。

「頭を冷やせ。清香に乗せられてるのが分からないのか? そんなんだから、季依に仕事は任せられないんだよ」 
 
 季依の目にじわりと涙が浮かび、ポロポロと頬を伝っていく。
 カプリは「あ~あ」と目を覆って、清香は知らんぷりしてる。気まずい沈黙を残して、季依はまた部屋に閉じこもりを始めた。

「カプリ。後ろ、はねてない?」
「んー、超サラサラでムカつくけどー」
「そ、ありがと」

 カプリに髪を梳かせ、清香は鏡の前で機嫌良さそうに鼻歌を口ずさむ。
 僕と季依の仲がこじれていくのを、楽しむように。
 裸で暮らすことも、身の回りの世話を委ねることも、そして僕に犯されること屈辱も、彼女は克服していた。
 じっと見つめる僕に、挑発的な笑みを浮かべる。

「何? またあたしとしたいの?」

 勝ち気で男まさりだった彼女も、僕に幾度となく抱かれるうちに、女性としての魅力も使いこなすようになり、それを武器とするようにもなった。

「いいよ。これが終わったらね」

 蠱惑的、と言ってもいい表情だ。
 彼女の女性としての資質が完全に目覚めたとき、それはきっと世の男どもを悩ませる、破壊的なスマイルになるだろう。
 僕は目を逸らして、季依とは別の部屋に引っ込む。

「カプリ、あたしアイス食べたい」
「だめ。一日一本だけです」
「ケチだなー」

 二人の他愛のない会話を壁越しに聞きながら、今後のことを考える。
 今の生活に馴染み、内部からかき回すことでチャンスを作ろうと企む清香。
 自分の存在意義を賭け、一人で空回りを続けて孤立を深めていく季依。
 どちらもブラックの存在を意識しているからこそだ。
 この場にいない彼女が、今も夜の闇の向こうから僕らの関係を支配している。
 彼女に殺された怪人はすでに20を越え、カプリのリサイクルも間に合わなくなってきている。組織には強力な新怪人を要求しているが、そう次から次へというわけにはいかない。彼らも必死だった。

 なんだかとても愉快に思えた。
 僕らはみんな、彼女に振り回されている。
 あの無口で不器用な剣士ただ一人に。

 僕はまぶたを閉じて、彼女の姿を思い浮かべる。

「―――元気だせよ、キー坊。次の試合ではゴール決めてやろうぜ?」

 勝手に外に出て、負けて帰ってきた季依が、部屋のすみっこで小さくなっている。
 カプリがその背中を優しくさする。もちろん、僕も彼女に優しい言葉をかけてやる。

「季依、ブラックには会えなかったんだって? 良かったじゃないか。会えば殺されるか、連れ戻されるか、どちらにしろただじゃ済まないところだったね? ハハッ」

 季依は鼻をすするだけで、返事も返してこない。
 さすがに相当こたえているようだ。落ち込みすぎてて笑える。
 子供の出る幕なんてないって、さんざん教えてやったのにな。

 街は今、静かな戦場と化していた。
 真夜中の商店街で、路地裏で、ビル地下で、怪人と正義の味方の殺戮ゲームは粛々と行われている。
 戦績は今のところ、僕らの0勝29敗。
 悪の組織VSシグエレメンツ・ブラックただ一人の戦争は、まだまだ終わりそうもなかった。

「ブラックは、足手まといの他のシグエレメンツがいないことで、本来の実力を思う存分発揮できているようだ。手がつけられないとはこのことだね。僕らも全力だよ」

 一度に投入する怪人をじわじわ増やし、なおかつ、新型の怪人を定期的に加えている。
 ブラックの強さに対抗するため、うちの組織も不眠不休で研究を続けているが、それでも彼女に追いつく気配はまるでなかった。
 
「でも、僕らの怪人も強かっただろ?」

 一人でブラックを探しに出た季依は、シグエレメンツ・イエローの格好をしていたせいで、うちの怪人に襲われた。
 蝉ネットワークで聞きつけた僕の指示でカプリが助けに行かなかったら、季依は今頃、トカゲの怪人に殺されていただろう。
 僕だって、それなりに焦った。もしも季依がブラックと会っていたら全て台無しだ。怪人にやられて死んでくれた方がまだマシなくらいだ。
 バージョンアップとリサイクルを重ねて、うちの怪人たちもそれなりの進化を遂げている。おそらく対マンなら、シグエレメンツ5人中4人には勝てるくらいに。
 その最後の砦となっているブラックを、どう切り崩すかの問題だ。
 烈士も、もちろん紀州さんも、彼女に比べれば全然怖い敵じゃない。

 蝉が、ひときわ高く鳴く。

「……連絡が来たよ。季依をいじめたトカゲの怪人くんは、シグエレメンツ・ブラックに殺されたって」

 季依の肩が小さく震える。
 僕は聞こえよがしにため息をつく。

「これで30連敗か。まいったね。とりあえずカプリ、蝉が細胞運んでくるから、リサイクルできるようにしといて」
「あいあーい」

 僕らが怪人を次々投入するのは、ブラックをこの近辺に足止めしておくためにすぎない。だからいくら殺されても構わないし、むしろこのバランスが理想的だ。
 拮抗した戦闘が続いている限り、彼女は他のメンバーをこの区域に呼び寄せたりしないだろう。いない方が彼女にとっては戦いやすいし、危険が少ない。
 彼女が足止めされてることに気づくまでは、この作戦を続けるつもりだ。
 いずれ隙を作り出して、僕が仕留める。あとはそのタイミングだけ。

「……お兄ちゃん」

 季依は、泣き濡れた顔で僕に這い寄り、腰にしがみついてきた。

「お兄ちゃん」

 小さな手が僕のファスナーを下げ、だらりとしたペニスを取り出し、舌でペロペロと舐める。
 子猫のような舌触りに、ぞくりと背中が痺れる。

「ごめんなさい、お兄ちゃん。季依のこと嫌いにならないで? お兄ちゃんのそばにいさせて? 何でもするから。お兄ちゃんの言うとおりにするから」

 柔らかい舌が僕のペニスやその付け根を這い回る。むずむずとする心地よさはあるけど、僕は快楽を意識の外に追いやり、反応をさせなかった。

「季依、どうしたらいいの? お兄ちゃんの役に立ちたいだけなの。どうしたいいか教えて。季依に命令して?」

 季依は行き場のない「自分」を、ひたすら僕に依存して投げ出す。媚びに満ちた上目遣いを見下ろし、僕は笑う。

「じゃあ、10分で僕をイかせてよ。出来なかったら、罰としてまたスカトロダブルピースね」
「……え?」
「はい、今からスタート」

 時計を見ながら僕は言う。季依は唖然とした顔で「……なんで?」と口をぱくぱくさせる。

「大事な仕事を邪魔したんだから、まずは罰だろ。ほら、サボってる暇あるの?」

 僕が本気で言ってることくらい、季依にもわかるだろ。
 勃起する様子のない僕のペニスをぐぢゅりと飲み込むと、すごい勢いで顔を上下させる。
 徐々に僕のも反応してくるけど、焦って乱暴に揺するだけの下手くそなフェラチオなら、あと30分だって我慢できる。

「ほら、がんばれ。あと3分だよ」
「んんっ、んっ、じゅぶ、ぢゅっ、やだっ、じゅぶっ、お兄ちゃん、イって、イって! お願い、んっ、んっ、んっ、じゅぶっ!」

 それから13分後に、僕は射精した。
 風呂場に季依を連れて行って、例の格好をさせる。
 ついでに清香も並べて同じことをやらせた。

 「必殺、ダブルシグエレメンツスカトロピ~ス!」

 カプリも大はしゃぎして、僕らは笑う。
 

 その夜、僕らは床に布団を並べ、睡眠とって休むことにした。
 清香は窓を封じた別室で、イエローのリボンで拘束している。さらに大型犬用のゲージに入れて、逃げればすぐに分かるようにしている。
 僕らも、清香も、季依にも必要な休養だ。怪人も正義のヒーローも体力は無限ではない。
 でも、夜中に物音で目を覚まし、ふと隣を見ると、元気をなくして寝ていたはず季依の布団は、からっぽになっていた。

「……あたしに、何か用?」

 清香のいる部屋から、声が漏れ聞こえてくる。
 開きっぱなしの扉は、僕のコウモリの耳でなくても、彼女たちの声を筒抜けにしていた。

「あんたも眠れないの?」

 季依は無言だった。
 昼間の件でよほど傷ついたのか、ようやく出した声もとても力ないものだった。

「私って、そんなに弱かったかな……」

 今度は清香が黙る番だ。
 季依が自分の強さを誤解していたのは、シグエレメンツのせいだ。
 常に前線を任され、最も多くの敵を倒し、初めは僕もイエローがシグエレメンツの最強なんだと思っていた。
 でもそれは、一番年下の子に花を持たせる、子供達のヒーローごっこと同じ理屈でしかなかった。

「……季依、こっちおいで」

 しばしの無音のあと、清香が再び季依を促す。

「何もしないよ。近くで話そう」

 季依が床を踏む軽い音がして、そして部屋の奥に、小さなお尻が着地する。

「あんたは弱いんじゃないよ。強くなる途中だったんだ」

 季依の身体能力には、確かにずば抜けたものがあった。そして、彼女自身にも強いヒーローへの憧れがあった。
 みんなが季依に期待していたのは本当で、彼女の資質を伸ばそうとしていたのも本当。
 ただ、結果として季依の慢心を誘ってしまったことは、謝ると清香は言った。

「烈士はいつも、褒めることだけ全力だしさ。曜子も人にもの教えるようなタイプじゃないし。本当はあたし辺りが、もっと鬼コーチになんなきゃいけなかったんだろうけど」

 家族ごっこで育った子供達は、年少の季依には優しくなりすぎた。
 でもそこに悪意はないし、本当なら問題になりようもないくらい些細なことのはずだった。
 僕が現れるまでは。

「だから、へこむことないよ。季依はこれから強くなればいい。みんなが季依を頼りにしてたのは本当なんだよ。きっと季依は、あたしたちより強くなるって」
「……でも、曜子には勝てない」
「曜子、ね。あの子の強さは、なんていうか、あたしにもよくわかんないかな」

 アハハ、と力なく笑って、清香はため息をついた。

「あの子は、シグエレメンツになるずっと前の、子供の頃から一人で剣を振り回してて、見えない敵と戦ってる感じだった。あたしたちに対しても壁みたいのがいつもあって、それを崩したくて突っかかったりしてみたけど、やっぱり、曜子は曜子でさ。泰然としてるっていうか、何考えてるのか全然わかんなかった」

 季依は大人しく清香の言葉に耳を貸しているようだ。清香は、ぼそりぼそりと話を続ける。

「烈士は、それが曜子なんだって、あの調子だしさ。変わった子なんだなって、そう思うしかなかった。まさか正義のヒーローなんて仕事することになって、あたしもこんなにハマっちゃうとは思わなかったけど、やっぱり曜子がいなかったら、シグエレメンツは続いてなかったと思うよ。あの子が……あたしたちを守ってくれなかったら」

 そして、二人のため息がシンクロする。
 蝉の声が眠ってしまうと、夜はとても静かだ。
 
「……でも、曜子は味方だよ。あんたの敵なんかじゃない。あたしたちの強い味方。一番頼りになる仲間だ」

 そう言って清香は、ゲージを蹴とばした。

「あんたも今日のでわかっただろ? あいつらは異常だ。あたしたちには絶対に理解できない。仲間になんてなれっこないんだよ。無理だよ」

 興奮してくる清香の呼吸。鼻をすする季依。

「曜子は、必ずここまで助けにくる。でも、それだとあたしたちは曜子に助けられてばっかりじゃん? あんたとあたしなら、あいつらに勝てるよ。一緒に戦おう。そして、家に帰ろうよ」

 夜は深くなっていく。清香は声を沈めていく。

「……家に帰って、あんたもあたしも強くなろう。今度こそ、曜子に負けないくらいに」

 季依は何度も鼻をすすって、喉をしゃくり上げる。
 清香もそれ以上は何も言えず、嗚咽を噛み殺していた。
 そのまま、二人の泣き声がいつまでも続く。

「青春だにー」

 むにゃむにゃと寝言のように呟いて、カプリはだらしなくおへそを掻いた。
 僕も、「青春だね」と相づちを打って、目を閉じた。

 ―――私を怪人にして。

 と、季依の方から申し出てきたのは、次の日の朝食を食べ終えたばかりのことだ。

「いいよ。手術の用意は出来てる」

 昨日、スカトロごっこで遊んだあと、組織には指示を出していた。季依がそう言ってきたら、いつでも施術できるように。

「でも、あの、出来ればその、あんまり気持ち悪いのとか、かっこわるい人にはしないで欲しいんだけど……」
「当たり前だろ。季依の可愛い顔を見れなくなったら僕も悲しいし。特別に、僕たちみたいに人の姿のまま怪人にしてあげるよ」
「ホント!? それでも強くなれる!?」
「なれるよ。今よりずっと強くなる。でも、カプリみたいに角とかそういうのはついちゃうけど、いい?」
「いい。全然オッケーだよ、それくらいなら!」
「やったね、季依ちゃん。カプリ2号の誕生だー」

 わいわいと盛り上がる僕らに、あっけに取られていた清香が、ようやく震える口を開いた。

「待って……何言ってるの、季依? それ、どういうことよ!?」

 季依は、ツンと冷たい顔で清香を睨む。

「うっさいな。清香には関係ないでしょ。黙っててよ」
「関係ないわけないじゃない! あんた、自分が何言ってるのかわかってんの? そんなことしたら……もう二度と戻ってこれなくなるのよ!」

 清香をバカにするように、季依は唇を上げる。

「何それ? 戻るって、あんたたちのところに? なわけないでしょ。シグエレなんて、弱くて惨めったらしいだけじゃん。季依はね、あんたや曜子よりも、ずっとずっと強くなって、お兄ちゃんのために戦うの。それが季依の夢なの」

 清香は、呆然とするだけだった。昨夜の涙も、虚しい空回りに消えていく。
 惨めなヤツだな。
 彼女の中でのヒエラルキーは、とっくに僕たちに都合良く完成されている。僕らに犬のように飼われている女に、仲間と呼ばれて嬉しいわけはないだろう。
 季依は、そんな自分が惨めで泣いてただけだ。そして、どうやったら早く強くなれるか、自分で考えて、自分で決断したんだ。

 僕と季依の幸せのために。

 彼女はこの夏、数々のエキセントリックな体験をして、おかしな熱病に冒されている。夏に落ちてしまった恋は、夏より先に終わらないんだ。
 そういうものらしいよ?
 僕にどれだけひどいことされようが、季依はもう僕から離れられないのさ。

「そうだな。山羊角よりも、尖った耳の方が似合うんじゃないか? 季依って猫っぽい感じだし」

 季依の髪をくしゃっと握って、猫の耳っぽく持ち上げる。
 自分の決意を僕に喜んでもらえて、すっかり舞い上がってる季依は、頬を染めてうっとりと微笑む。

「うん。お兄ちゃんがそう言ってくれるんなら、季依は猫さんでいいよ」
「じゃあさ、じゃあさ、シッポも付けようよ。にょろり~んってしたやつ!」
「えー、お尻に変なの付けるのやだー」
「いや、似合うんじゃないかな。可愛いと思うよ」
「そ、そお? それじゃ、付けてみよっかな……」
「季依、待ちなさい! あなたは自分の言ってること―――」
「清香は黙ってろよ」

 僕は超音波を使って、清香の声帯を不能にする。
 パクパクと、むなしい口を開けて清香は、唇を噛む。

「あ、あとね、髪の色とかも変えられる? もっと明るい色にしたいの。その、思いきって金髪とか?」
「もちろん出来るよ。いいね、金色にしちゃおうよ」
「じゃ、目もいい? 季依、青くしたい。あとコウモリのタトゥーも!」
「いいよ、もちろん」
「やったぁ!」
「えー、そこは銀髪オッドアイちゃうんのー?」
「カプ姉のセンス、ちょっと違う」
「じゃ、衣装は黒ゴスにしようよ、黒ゴス。ふはー、萌える!」
「んー、ゴスロリはありえないけど、服も大事だよね。お兄ちゃんはどうしたらいいと思う?」
「さあ。それは任せるよ」
「ん、わかった。じゃあ季依が考えとくから、お兄ちゃんが決めてね?」
「金髪猫耳ゴスロリ少女きたー! あたし得の妹でうれしー!」
「ちょ、なにげにゴスロリ混ぜないでってば!」

 僕らは季依の体をどう改造しようかと、えげつのない話に楽しく盛り上がる。
 清香は、絶望した顔を床に伏せている。

「あのね、お兄ちゃん。季依、絶対強くなって、お兄ちゃんの敵を全部倒してあげる。でね、敵が全部いなくなったら……季依のこと、お嫁さんにしてくれる?」
「あぁ、いいよ」
「ほんと?」
「当たり前だろ。季依が僕のためにそこまでしてくれるんなら、僕も季依のことを幸せにするよ」
「……うれしい!」
「よかったね、季依ちゃん。あたしが女房で、季依ちゃんがお嫁さんで、清香がペットで、幸せ家族だねー」

 僕にしがみついてくる季依を抱きしめ、僕は清香にニヤリと笑う。
 清香は、歯をギリギリと鳴らす。

「それじゃ、早いうちに手術しちゃった方がいいね。手術とリハビリで数日かかるし。カプリ、季依に付き添っててあげて」
「あいあいー」
「……あっ、あと、大事なお願い、もういっこ忘れてた」
「何?」

 季依は自分の小さな胸を両手で握りしめ、真っ赤な顔で言う。

「お、おっぱいも、大きくしてもらっていい?」
「ダメ」
「ダメに決まってんじゃん、バカ」
「なんでー!?」

 季依はきっと、すぐに強くなる。
 自分の意志で踏み出した一歩は、彼女をどんどん強くするはずだ。
 坂道を転げ落ちる速度でね。
 彼女の素質は、恐れを知らない、無謀なまでの“探求”にある。
 自分自身が求める限り、彼女はどこまでも強くなるだろう。子供の好奇心と意地は諦めることを知らず、女のプライドは負けたままの自分を許さない。
 季依が最強の魔人になるのも、きっとすぐだ。
 僕はただ、背中を押してやればいい。
 甘ったるくて反吐の出そうな言葉で。

「愛してるよ、季依。君が強くなって帰ってくるのを待ってる」

 天国に昇りそうな顔で、季依はうなづく。
 瞳の奥には、恋の狂気がきらめいていた。

 というわけで、季依とカプリは出発の準備に慌ただしい。
 僕は清香のそばにしゃがんで、優しく微笑みかける。

「ありがとう。清香が協力してくれたおかげで、季依もようやく決心がついたみたいだ」

 清香は、火花が散りそうなほどキツく僕を睨みつける。
 でも、体の自由も言葉もない彼女には、もう季依を止めることはできない。

「そう言えば、君にまだ教えてなかったよね。僕らがどうして季依の次に清香を攫ったのか」

 僕は清香のさらさらした髪をすくって、その感触を楽しむ。
 肌も髪も、彼女は絶品だ。

「季依に選ばせたんだ。シグエレメンツで一番嫌いな子は誰だって。そうしたら季依は君を指さした。いつも上から偉そうなこと言ってて、いばってるからだって」

 清香の目が丸くなる。視線は行き場を失って彷徨う。

「残念だったね。君の気持ちはまるで季依には届いてなかった。でも、僕にはわかるよ。子供はいつだって、大人の大人ぶった意見には反抗したくなるもんさ。君のせいじゃない。季依にとって、親代わりの反抗相手に君はうってつけだったんだろう。それだけのことだよ」

 そして、子供は親に背いた反動を、恋愛やセックスや、家出とかドラッグあたりに逃がすことで、生きる強さを得たと勘違いする。
 僕が描いたのは、とてもわかりやすい構図だ。
 当の本人たちには、わかりにくかったのかもしれないけど。

「最初から、君と季依の共闘なんてありえなかった。だから僕は君を選んだ。今まで頑張ってきたのに、全部無駄だったね?」

 清香は、瞳に溜まった涙を、まぶたを閉じて流した。
 準備を終えた季依は、カプリと一緒に僕のところへやってくる。

「お兄ちゃん、行ってくるね。なるべく急いで帰ってくるよ」
「あぁ、行っておいで」
「リボン、お兄ちゃんに預けるから。季依だと思って大事にしてね?」
「ありがとう」

 季依の髪をくしゃくしゃに撫でる。季依は背伸びして、僕の頬にキスで返す。

「じゃ、清香も元気でね」

 勝ち誇ったような顔で、季依は清香に手を振った。
 季依の中では、もう清香との確執は消えてしまってるんだろう。
 自分の勝利として。

 出て行く季依と付き添いのカプリを見送ったあと、清香と二人きりになった僕は、リボンで清香の足を縛って、テーブルにくくりつけて大きく開かせる。

「とりあえずセックスしようか。そして、夜になったらデートしよう。せっかくの二人きりなんだし、たっぷり楽しもうね?」

 糸の切れた人形のように、清香は呆然と僕のセックスを受け入れている。
 それでも、清香の体はいつも最高だ。
 僕は心ゆくまで彼女の肌を堪能し、何度も射精した。

 そして、夜は約束どおりのデートだ。

「清香、君は僕から離れられない。歩くことしかできない。もしも君がおかしな行動を取れば、僕は誰であろうと殺して回るよ」

 ブラックや警察の監視をかいくぐるのはそれなりに大変だったけど、昼のうちにルートは完成させていたので、目的地までは何事もなく着くことができるはず。
 夜の散歩は気持ちいい。僕と同い年くらいの女の子たちも、結構街中をフラフラしていた。
 夏休みはそろそろ終盤に向かっていて、僕ら学生を奇妙な焦りに急かしてた。今ならナンパだって出来なくはなさそうな気分だったけど、僕の隣くらいの美人なんて見あたらなかった。
 清香は重たそうに顔を下げ、誰とも目を合わせないよう歩いてる。デートを楽しんでいるようには見えないけど、それはこれからの僕の演出次第だ。
 よく見知っているダーツバーの看板の前に連れてこられ、さすがに清香は絶句する。
 
「ここで清香はバイトしてるんでしょ? 素敵な店だね」

 正直言うと、ウエスタンな外装が安っぽい。
 ダーツなんて、わざわざ店まで行ってすることのようには思えないけど、それがきっと大人のおしゃれというヤツなんだろう。
 清香は、ここでバイトしてる友達が休むときの代打として、たまに手伝っているそうだ。それは大学に行ったときに聞いていた。
 僕は嫌がる清香の腕を引っ張って、店の階段を上がっていく。そして拡声マイクを使って、入るなり超音波を飛ばす。

「みんな、僕の言うとおりにしろ」

 店員のコスチュームまで、ウエスタンなものだった。
 鍔の広い帽子に、開拓時代のカウボーイの着てそうなベスト。しかもその編み込みのブーツに付いてる車輪は何?
 僕にはよくわからないセンスだけど、以上の3点以外の衣装だけ脱がせたら、とてもセクシーなカウガールさんたちが出来上がったので、それなりに満足だ。

「それじゃ、ダーツ大会を始めようか」

 店の女の子たち数名と、同じ格好をさせた清香。ついでにお客さんの女性も裸にして、的の前に並ばせた。
 ダーツは、もちろん本物の矢を飛ばしても面白そうだけど、清香の体に傷がつくのも嫌なので、安全な矢を使うことにした。
 男たちの精液だ。

「的はそれぞれ、女の子の体を使うよ。好きな的を選んで、君たちの精子で撃ち殺してやりなよ」

 男たちの性的興奮を上げて、自制心は低く下げた。
 ギラギラした視線が女たちに殺到する。

「え、それじゃあ……俺はひなちゃんで」
「俺は、カノジョと一緒に来てるから……でも、せっかく誰でもぶっかけられるんなら、みくちゃんがいいかな……」

 なかなかレベルの高い子が揃っているようで、こうして並んでるのを見ているだけでも壮観だ。
 みんな、それぞれ目当ての子がいたみたいで、名前を出された子は、そのたびにビクビクと震える。
 まるで、コヨーテの群れに狙われてる子馬みたいだ。

「でもやっぱ、一番はひなちゃんだよな」
「あぁ、俺もひなちゃんが……」

 ひな、という子は目のぱっちりしたお嬢様っぽい子だ。
 普段は愛嬌も良いんだろうが、男たちの視線と固くなったペニスを集中的に向けられ、真っ青になっていた。

「み、みんな待って。落ち着いて、自分のしていることを考えてみて……」

 後ろで隠れるようにしていた清香が、おずおずと、僕の顔色を伺いながら、男たちを止めに入る。
 もちろん、僕は彼女の邪魔なんかしない。季依のリボンで後ろ手に縛られた彼女には、何も出来やしなかった。
 ただ、男たちの目の色は変わった。隠すことの出来ない彼女の体に。

「うそ……清香ちゃん、来てたの?」
「マジ? うわ、マジで清香ちゃん? 何そのボディ!?」

 清香の顔がみるみる赤くなり、そそくさと逃げだす。
 男たちは慌てて彼女を引きだそうとする。でもその前に、僕がそれを止めた。

「清香には指一本触れるな。それは僕の女だ」

 ビリビリと、体を縛る超音波命令に、男たちは悔しそうに顔をしかめる。

「じゃあ、せめて見せてよ、その体! そのくらいならいいでしょ!」
「いいよ。清香、前に出て来いよ」

 清香には超音波を使わない。ただ、この状況で僕に逆らっても良いことがないのは彼女もよく知っている。
 唇を噛んで、男たちの前に歩み出る。

「……すげぇ」
「前から可愛いなぁとは思ってたけど……そのおっぱいは反則っしょ……」

 チャラそうな男も、真面目そうなメガネ男も、清香の前でよだれを流し、勃起したペニスを震わせた。
 清香は顔を赤くして、おろおろと男たちの顔を行ったり来たりさせる。
 そして、よく知ってるらしい顔を見つけて、目を丸くする。

「清香ちゃん……すげぇよ」
「マ、マスターまで、何をしてるんですか!?」
「すげぇよ清香ちゃん。前からその胸には目をつけてたんだけど、こうして生で拝めるなんて、すげぇ嬉しいよ、清香ちゃん!」

 どうやらこの店の責任者らしいヒゲの男性が、逞しい腕で逞しいペニスを擦り出す。清香は短い悲鳴を上げた。

「俺、ずっと清香ちゃんが好きだったんだ! あんまりシフトは入れてないけど、来てくれるときは朝から楽しみでさ! 尻とかすげぇセクシーで、いっつもベスト閉じて隠してたけど、胸でっかいのも知ってたんだって! みんなは、ひな、ひなっていうけど、俺はずっと清香ちゃん推しだったぜ! だからいいよな、君に発射しちゃっても!」
「マスター、ずりぃよ! 俺も! 俺も今日から清香ちゃんひとすじだから!」
「俺もだよ! だからぶっかけていい? 清香ちゃんにぶっかけていい?」
「清香ちゃん、俺のこと覚えてる? 前にデート誘ってフラれた俺だよ! 今日こそ、たっぷりかけさせてもらうからね!」

 店中の男が、清香に向かってペニスを擦りだす。
 逃げ場がないほどペニスに囲まれ、清香はうろたえ、僕に助けを求めるような視線を向ける。

「清香の体には触るな。それ以外なら何をしてもいい。清香も逃げるなよ」

 男たちは歓声を上げ、ますますヒートアップする。
 ひな、という女の子は、清香に対して嫉妬と怒りの視線を向ける。
 これだけ裸の美女の揃った店内で、男たちの視線を一手に集めて囲まれた清香は、ただオロオロとするだけだ。

「清香ちゃん、こっち見て!」
「マジ最高だって。お願い、俺の方も見てよ」
「清香ちゃん、時給上げるよ! お願いだから、俺のチンポを見てくれ!」

 男から投げつけられる賛辞と、正直すぎる興奮の証。
 熱狂した空気に当てられ、清香の頬が、恥ずかしさとは別の色に染まっていく。

「すげえ。あの胸、マジできれいだ……」
「…そ、そんな…ッ」
「尻とかもすげぇよ。こんなきれいな尻、見たことねえ」
「やっ、そんなとこ見ないで……」
「つか、顔可愛いって。やばいって。清香ちゃん、いっつも健康的って感じなのに、あんな……女の顔しちゃってんの。やべぇ」
「いやぁ……」

 清香の顔が興奮していくのが分かる。
 男たちの言葉に喜びを感じている自分に、戸惑っていることも。

「君がひな、だっけ? 残念だったね。男はみんな、清香に夢中みたいだ」

 ひなは、唇をアヒルのように結んで、床をにらみつける。
 僕はその胸を掴んで揉みほぐす。

「やっ、なに!?」
「抵抗するなよ。どうせ君らは蚊帳の外だ。僕と遊ぼう。君らも楽しめよ」

 僕は店の女の子たちをカウンターに並べて、尻を突き出させて次々にセックスしていく。
 ひなのアソコは、清純そうな顔してるわりに結構遊んでるらしく、すぐに僕のに馴染んで大きな声を上げた。でも清香の体と比べてしまうと、やっぱりイマイチな感じはしてしまう。
 顔だけの女。他の女の子たちもそうだ。見た目はレベル高めでも、体やセックスまで最高の女の子ってのは、なかなかいないもんだ。
 でも、清香はそういう女なんだ。
 他の男はそれを知らない。烈士ですら知らない。知っているのは僕だけだ。
 気分がよくなって、カウンターの酒瓶を一本、カウボーイみたいに飲んでみる。それはワインと違って苦いだけで、全然美味しくなかった。
 僕はその瓶をひなのアソコに突っ込んで、別の女の子に甘いお酒を注文する。そしてそれを口移しで飲ませてもらいながら、違う子のアソコに挿入した。
 せっかくの初デートだというのに、他の子たちと乱交なんて失礼な話かも。
 でも清香の方だって、ますます盛り上がっているようだ。
 男たちはもう狂ったようにマスターベーションをして、清香への注文を厚かましくしていく。

「清香ちゃん、お願い! アソコも見せて!」
「ねえ、清香ちゃんって処女じゃないの? 処女だよね? マンコ見せてよ!」
「きーよーかッ!」
「きーよーかッ!」

 男たちの熱狂ぶりにあてられて、清香自身も普通じゃなくなくなりつつあるようだ。
 紅潮した頬。戸惑う瞳。
 やがて求められるまま、彼女は足を開いて、体を晒した。
 獣のような歓声とともに、男たちの精液は一斉に清香の体に襲いかかった。
 清香はそれを、顔や胸、アソコや尻で受け止め、ウエスタンハットからブーツの先まで、全身を真っ白にして立ち尽くす。
 男たちはエクスタシーに気を失って、彼女の足下に転がった。
 清香に撃ち殺されたのは、まるで彼らの方だった。
 

 店のシャワールームの中で、清香と一緒にシャワーを浴びる。
 他の連中には帰るように行って、記憶も消した。今日、この店は臨時休業だったことになっている。
 たくさんの女の子を抱いた心地よい疲労を、清香の体を汚した男たちの精液と一緒に洗い流す。

「清香もずいぶん楽しんでたみたいじゃないか?」

 顔を伏せたまま、清香は無遠慮に体を這い回る僕の手に唇を噛む。
 あのとき、清香は自分から男たちに秘部を晒した。
 男たちの喜びを全身で浴びて忘我した彼女は、明らかに快楽を感じていた。

「どんな気分だった? 他の女たちを出し抜いて、男たちの劣情を独り占めする気分っていうのは?」
「んくっ!」

 僕の手が乳首を掠めると、正直に体を反応させる。
 感度もかなり上がっている。
 
「あれが普通の反応なんだ。普通の男なら清香を選ぶ。だって顔も体も、清香が一番だもんな?」
「んっ、やっ、そんなとこ触るな、バカ……」
「思い出してよ。あの男たちの顔。興奮したペニス。清香を選んだのは彼らの意志だよ。僕は何も強制していない。みんな、清香の体で射精したいって自分で選んだんだよ」
「そんなこと……あたしは、望んでない! 全部あんたのせいだろ! あんな、汚らわしい…ッ!」
「でも気分良かっただろ? 男を手玉にしてるみたいで。清香だって、自分からサービスしてやってたみたいじゃないか?」
「あれは…ッ、だってああしないと、みんな、怖くて……んんっ!」

 清香の中にねじ込む。待ち望んでいたかのように、ギュウギュウと締め付けてくる。

「あっ、あっ、あっ、あっ!」

 壁に押しつけるようにして揺する。後ろ手に縛られたままの清香は抵抗など出来ず、むしろ迎え入れるように足を広げ、だらしなく大きな口を開けた。
 セックスに溺れる。清香の中はやはり気持ちいい。
 僕は彼女の一番奥に向かって射精する。僕の独占している清香の中へ。

「……明日は、近所の中学校に性教育しに行こっか?」

 清香は、信じられないものを見るよう目で僕を見る。
 でも、僕がこんなことでウソを言わないことは、彼女もわかっているはずだ。

 夏休みの野球部の部室は、少年の匂いであふれていた。

「清香、気分はどう?」

 リボンで手を前に縛られた清香が、坊主頭のガキどもの前で股間を広げている。
 僕の声が聞こえていないのか、すでに目は意識を感じさせない。
 でも、それが催眠のせいではなく、恍惚がそうさせていることは、彼女の半開きの唇が浮かべる薄い笑みや、紅潮した頬や、広げられたソコから垂れる透明な液体が物語っている。

「すげえ、お姉さんのおっぱい、超でけえ! 最高っすよ!」
「生マンコ…!」
「あー、もうダメ! 出る、出るぅ!」
「やべー。全然、勃起おさまんね。もう一回ッ」
「お前どけよ。そろそろ俺も出そうだ」
「てかこれ、お兄さんの彼女っすよね? いいんすか? 俺ら、こんなことさせてもらって」
「いいんだよ。彼女、こういうプレイが大好きだから」

 当然、こんなガキどもに清香の体は指一本触らせない。
 だが昨夜よりも本数の増えたペニスと、無尽蔵かと思えるような彼らの射精欲を一身に浴びせられ続け、清香はすでに気を失っていた。

「お兄さん、陸上部の連中にも声かけていいっすか?」
「あぁ、いいよ。どんどん呼んできなよ」
「それじゃ俺、相撲部のやつらも呼んでくる」
「部屋入んねぇだろ」
「おい、サッカー部の連中には絶対教えんなよ!」
「わかってるって!」

 次から次へと少年たちは増えていく。いちいち記憶を消すのが面倒だ。でも、せっかくの夏休みなんだし、彼らにもこんな日があってもいいだろう。
 顔がわからなくなるくらい、精液まみれになった清香を洗うのは大変だったけど。

 シャワーの浴びせながら、僕は清香の体を抱く。

「すごかったな、今日も。あいつら限度ってものを知らない。何十人分の、何百回分の精液がかかったんだろうね。清香?」
「あっ、あぁっ、あぁぁッ」
「最高だったろ? あいつら、清香の体をすごい褒めてた。今日も精液、いっぱいもらっちゃったな?」
「んんっ、くっ、あぁぁんッ!」

 リボンごと僕の背中に回った腕が僕を抱きしめ、腰が大胆にグラインドしてリズムを合わせてくる。
 セックス。清香も待ち望んでいたセックスだ。

「あのガキどもにも、やらせてやりたかった? あんなに夢中になってるんだから、一人一回ずつくらい、やらせてやればよかったかな?」
「んっ、あぁ! あぁ! あぁ!」

 ますます声を大きくして、清香のアソコが締め付けてくる。僕は自分の限界が近づいてきていることを悟る。

「想像するだけで感じたか? いいよ、想像するだけなら。あいつらにマワされる自分を想像してみなよ、シグエレメンツ・ブルー。きっと最高の気分だろうね」
「うっ、んっ、んんっ」
「……彼女のこと、思い出してたんだろ? 君のサークルの、ぽっちゃりした子。あのビデオ観てたとき、清香は濡れてたよね。知ってるよ。本当は、男どもを独り占めしている彼女が羨ましかったんだよね?」
「んんんんんッ!?」

 清香の膣が痙攣のように震え、きつく絞り上げてくる。僕はその快楽の渦の中心めがけて、ありったけの精液を放出した。
 中学生のガキどもより、よっぽど大量のやつを。

「……いやらしいな、清香は」

 シャワーの中でへたりこんでしまった清香を、僕は見下ろす。
 清香は呆然と、顔を伏せる。

「男の視線は気持ちいいかい? 男の精液がそんなに好きかい? まるで牝犬だね」
「――うるさい!」

 侮蔑の言葉を浴びながら、清香はぎりりを歯を鳴らした。

「あんたに抱かれるより、よっぽどマシじゃん! あんたを喜ばせるくらいなら、どっかその辺の男に抱かれた方がマシ! どうせあたしは、もう汚れた体なんだ……。男なんて、裸になればみんな同じだよ。もう、誰だっていいのよ!」

 捨て鉢な言葉を吐いて僕を睨みつける。僕は「ふぅん」と鼻で笑って、清香の顔を見下ろす。

「やっぱり清香は、お母さんそっくりなんだね?」

 清香は、ビクンと体を震わせた。
 そして大きく見開いた目で、口をぱくぱくさせた。

「違っ……あたしは……」

 でも、その後の言葉は続かない。自分が口にしたことは、いくら悔いても元には戻らない。
 僕は清香の髪に向かってペニスの先を向け、おしっこをかけてやった。

「口を開けて、そのまま僕の尿を受け止めろ」

 強制的に、口の中にも出してやった。清香はえずきながらも僕のおしっこを受け止め、ダラダラと喉元に流す。

「公衆便所になりたいんだったら、そう言ってよ。達磨にしてホームレステントにでも放り込んであげるからさ。僕もそんな清香には用はない。いつでも捨ててあげる」

 そして、清香は僕のおしっこと一緒に、ボロボロと涙を流し始めた。
 僕は、黙ってその髪も体も尿で汚す。どんな侮蔑の言葉よりも汚く。

「季依が君を嫌ってた理由がわかるよ。そんな母親、好きになれるわけないもんな。捨てられて当然だ」

 僕のおしっこが切れたあとも、清香はその体勢のまま仰いでいた。
 彼女のトラウマは剥き出しになり、無防備に晒されている。
 捨てないでくれと、請うように。

「さて、明日は僕らの壊したマンションに行って、工事現場のおじさんたちをねぎらってあげようか?」

 清香の顔が絶望に歪み、また下を向く。

 真夜中、清香と僕は泥を混ぜあうような濃厚なセックスをして、体を投げ出す。
 街中の男たちの性液を浴びるために出かけるデートと、休まることのないセックス。
 否応もなく、男ばかりの毎日。
 ぼんやりと間接照明に浮かぶ、清香の裸体。
 それでも抱かれるたびに、彼女は美しくなっていく。

「……あたしは……きっともうすぐ、あんたに負ける」

 心は、すでに限界だった。
 セックスの誘いを発する顔。
 精液の味を覚えてしまった肌。
 もう、正義の味方の影は、その体には見あたらない。
 溌剌とした勝ち気な少女は、女になって、男に屈していく。

「でも……あたしが負けるのは、あたしが弱かったからだ。正義が負けるわけじゃない。あたしがあんたの手下に成り下がったとしても、シグエレメンツは絶対に負けない。あんたもあたしも、曜子が必ず殺してくれる」

 そして、清香に残った最後の希望は、やはり彼女。
 それが彼女の心を繋ぎ止める、最後の糸だった。

「きっと、殺してくれるよ……」

 かつての仲間に無残に殺され、そして平和が守られる姿を思い浮かべ、清香は微笑みを浮かべた。
 とても美しい横顔だった。

「……そうなったらいいだろうね。僕もそう思うよ、本当に」

 シグエレメンツ・ブラックの剣が夜闇に瞬く。清香の首が飛ぶ。僕の首も転がる。
 素敵な光景だと思う。
 でも僕には、そんな幸せを甘受する権利もない。
 清香との甘い二人暮らしも、そろそろ終わりに近づいていた。

「清香」

 運命は、すでに僕の方に転がっている。
 あとは終末めがけて、みんなで堕ちていくだけだ。

「明日、君に僕たちの秘密を教えてあげる」

 ―――『子犬を見に来ませんか?』

 僕のメールに対する返事は、『忙しいので遠慮する』だったが、当然、そのくらいの返答は予想していた。

『夏休みが終われば実家に連れていくので、なかなか会えなくなると思います』

 彼女は子犬が苦手と言っていたけど、嫌いだとは言っていない。
 むしろ、上手く表現が出来ないだけで、本当は大好きなんじゃないかと思う。

『では、10分だけ』

 彼女の返答にガッツポーズを取って、僕はマンションの場所を連絡する。
 そして遠足前の子供のような気持ちで、シグエレメンツ・ブラックをエントランスで待つ。
 彼女は、例のごとく黒いコートで登場した。

「……なんだか、久しぶりな気がしますね」
「そうか?」

 ほんの数日の間に、彼女は多くの怪人を手に掛け、そして殺気と美しさを増したと思う。
 いや、ますます研ぎ澄まされたというべきか。まるで彼女自身が一振りの銘刀のようだ。
 ヒリヒリとした空気が僕の体毛を逆立てる。見つめられただけで、肌のどこかが切れてしまいそうだ。
 美しい強さだ。

「懐かしいですよ、洋子さん」

 会いたかった。
 あなたが僕らの怪人を殺すたびに、僕は股間に疼くような喜びを感じているんですよ。
 シグエレメンツ・ブラック―――いや、曜子さん。
 一日でも早く、僕はあなたを早く手に入れたい。
 今はまだ、その時ではないけれど。

「仕事、忙しいんですね」
「ん。まあ、な。だが少しくらいなら大丈夫だ。……私も、たまには一息つかないとな」

 こないだよりも、曜子さんの僕に対する警戒は薄れているようだが、それでも少しも気を抜けない空気だった。
 見えない刀は、今も僕の喉元に押し当てられている。

「すごいところに住んでいるんだな?」
「借りてるだけですけどね。どうぞ。ここの12階です」

 彼女をエレベーターに案内して、先に乗り込んだ彼女の前に立つ。扉はゆっくりと閉まり、二人を閉じ込める。
 僕は12階のボタンを押し続けた。
 曜子さんは後ろの壁に背中を預け、腕を組んでいる。
 彼女には隙なんて絶対にない。僕なんかが戦って勝てる相手でもない。
 こんな狭いエレベーターの中で、おかしな動きをすれば僕は寸断されるだろう。
 だから、僕はおかしな真似はしない。しなくて済むような準備をしていた。
 12階のボタンを5秒間押してから、手を離す。
 上昇を始めるエレベーターのスピーカーから、メッセージが流れる。

 “この音声に耳を澄ませて最後まで聞くこと。音声の指示には絶対に従うこと。そして、終われば音声を聞いたことは忘れること”

 ボイスレコーダーの僕の声は、高周波の波長も正確に再生されて、曜子さんの立っている位置に流れる。
 僕は黙って階数表示を見上げている。
 メッセージは短いものだ。彼女の常識と認識を、多少いじるだけ。
 攻撃的な言葉もできるだけ控えた。肉体を支配するようなメッセージも含んでいない。彼女の研ぎ澄まされた神経には、できるだけ触れないように。
 あとは、このメッセージの最後まで、自分の首が繋がっていることを祈るだけだ。

 12階に着いて、後ろを振り返る。
「ここですよ」と努めて平静を装い、微笑む。
 曜子さんは、腕組みをしたまま僕を見て、「あぁ」と頷いた。

「ところで、子犬には名前を付けたのか?」
「えぇ。キヨって呼んでます」
「キヨ?」
「昔飼ってた金魚の名前です。本当の飼い主が見つかるまでなんで、適当に付けちゃいました」
「……そうか」

 ブラックは、「キヨ、か…」と、繰り返すように呟いた。
 僕は心の中でガッツポーズをとる。

 犬の用サークルの前に立つ、シグエレメンツ・ブラック。

「ッ!?」

 そして中には、イエローのリボンに両手を縛られ、ボールギャグを噛まされた清香がいる。
 ブラックの顔を見て目を丸くし、そして、理解を超えた状況にひたすら呆然としていた。
 犬のような格好で裸のまま檻にいるシグエレメンツ・ブルーと、それを見下ろすシグエレメンツ・ブラック。
 しばらく見つめ合ったあと、曜子さんはぎこちなく微笑み、清香に語りかけた。

「久しぶりだな、キヨ。元気だったか?」

 “僕の部屋で檻の中に飼われているのは、こないだの柴犬だ。あなたには犬にしか見えない”

 どれほどの衝撃が清香の身に起こっているのか、想像しただけで僕は笑える。
 昨夜、教えると言った僕らの秘密。
 僕に連れられてやってきた、シグエレメンツ・ブラック。
 そして彼女にかけられる、いたわりの言葉。
 清香は、全身を爆発させるように、檻に体をぶつけた。

「フーッ! ンーッ!?」

 疑問。怒り。否定。否定。否定。
 不自由な体を懸命にぶつけて、清香は無言の抗議を続ける。
 でも、無駄なんだ。曜子さんは、僕の30分間の中にいる。
 清香の攻撃的な振る舞いに、今の彼女は戸惑うだけだ。

「……やはり嫌われてしまったようだな、私は」
「そんなことありませんって。キヨ、大人しくしろよ。洋子さんのこと、忘れたわけじゃないだろ?」
「ンーッ!」

 僕が髪に伸ばした手を、清香は首を振って払う。自分の仲間だったはずの女性に向かって、必死でくぐもった声を上げる。
 まるで本当の犬みたいに。

「すみません。普段はもう少し大人しいんですけど。しつけが足りなかったかな?」
「いや、気にすることはない。昔から犬には嫌われる体質だ」

 僕たちの会話に、清香はますます興奮する。
 丈夫な檻にしておいてよかった。
 曜子さんは、暴れる清香に困ったように笑い、膝を屈める。

「何をそんなに怒っているんだ、キヨ? 拾ってやった恩を忘れたか?」

 ―――清香は、絶望の表情で口を開けた。
 僕は、声を上げて笑いたいのを堪えるのに必死だった。
 かわいそうな清香。
 最後の糸も、切られちゃったね。

「ンンンン~~~ッ!!」

 がつん、と床に頭を打ち付け、清香が口の中で絶叫する。
 がん、がん、と何度も叩きつけ、そしてまた体を檻にぶつける。
 剥き出しの敵意と怒りに、ブラックはますます戸惑い、僕は我慢できずにキッチンに逃げ込む。
 激しい怒りに我を忘れた清香は、多少の矛盾にもウソにも気づかない。僕はやかんを火にかけ、声が震えるのを堪えながら、リビングに声をかける。

「洋子さん、コーヒーでいいですか?」
「……いや、かまわないでくれ。私はそろそろお暇するよ。どうも、私がいるとキヨが落ち着かないようだ」
「コーヒーくらい、いいじゃないですか? もっとゆっくりキヨと遊んでやってください。久しぶりに」
「いいんだ。仕事もあるしな。まあ、キヨが元気そうで安心した」

 そう言って、清香の檻から顔を上げ、ため息をつく。

「……じゃあな、キヨ。私は帰るから、ちゃんと言うことを聞いて良い子にしてるんだぞ?」

 僕はリビングに戻って、もてなせなかったことを詫びる。
 曜子さんは、「いいんだ」と微笑み、清香の世話をみていることに、改めて感謝された。
 清香は泣いて、檻の中で暴れた。
 でも、僕たちの体が近づき、そして唇が重なりあってキスをしたとき、息を呑んで固まった。

 “別れ際の挨拶はキスだ。それは昔からの常識で、あなたは疑問を持たずにキスを行う”

「ん……」

 体温が低いのか、彼女の唇は少し冷たく感じた。
 わずかな時間だったけど、僕は彼女の体に触れたことに素直に感動していた。
 触れるだけの簡単なキス。離れがたいと思うほど素敵な時間だった。

「……玄関まで送っていきます」
「そうか。すまないな」

 自然と見送りを申し出ていた。
 曜子さんも、素直に僕についてきてくれた。

 清香は呆然としたままだった。

「今日はありがとう」

 玄関先で、彼女は僕を振り返り、微かに笑ってくれた。

「いえ、本当におかまいできなくて」
「そんなことはない。キヨに会えて、私は満足だ」

 曜子さんは首を振って、「来てよかった」と言った。

「早く飼い主が見つかるといいと思ってたが……このまま君に飼われているのも、あの子にとっては幸せかもな」

 僕は、吹き出してしまいそうなのを堪えて、「出来ればそうしたいです」と頷いた。
 
「キヨ、か」

 物憂げな横顔を僕に見せて、少し遠くを見つめる。
 そして長い髪をかき上げ、足下に視線を落として言う。

「じつは、今は遠くにいる友人で、すごく犬好きなやつがいる」

 それは清香のことだと、僕にはなんとなくわかった。
 曜子さんは、言いづらそうに唇を噛む。きっと、人に頼み事をするのも苦手なんだろう。

「……彼女が帰ってきたら、キヨに会わせてやってもらえないだろうか?」

 僕は、「もちろん、いいですよ」と笑ってみせる。
 断る理由もないし、不可能だ。

「ありがとう」

 僕の前で、初めて曜子さんは優しく笑った。

 ―――そして、部屋に戻った僕を、狂ったように暴れる清香が出迎える。

「やめてよ、清香。せっかくいい気分だったのに」

 僕は清香を檻から出して、ボールを外してやる。
 清香は、後ろ手に縛られ、お尻を突き出すみっともない格好のまま、目を血走らせて叫ぶ。

「お前ッ! お前、曜子を連れてこい! 殺してやる! 殺してやるぅぅッ!」

 おかしくって、笑ってしまう。
 哀れで惨めでバカな清香。みんなに裏切られる清香。

「曜子も、お前も……季依も、あたしが殺してやる! ぶっ殺してやる!」

 彼女の中の正義は死んだ。
 シグエレメンツ・ブルーにさよならだ。
 でもまだ終わりじゃない。僕はもっと、彼女のぶっ壊れた顔が見たい。
 その怒りにすら、裏切られる彼女の顔が。
 僕は清香の体を仰向けに転がす。
 そして、その上に跨る。
 
「教えてあげる。じつは曜子さんは前から僕らの協力者だったんだ。彼女は正義とか悪とか関係ないからね。自分が強くなれればそれでよかったんだよ。だから足手まといの季依や清香を、うちで引き取ってやることにしたんだ。リサイクルは僕らも得意だからさ。いらない正義の味方、引き取りますってやつ」
「ふざけんな…ッ! 曜子を連れてこいって言ってんだろ!」
「そんなにカリカリしないでよ。もちろん、僕は清香のこと好きだよ。悪いことしたと思ってる。その証拠にさ、君にプレゼントがあるんだ」

 僕はポケットから新聞のコピーを取り出した。
 古い日付けも彼女に見えるように。

「君のために、お母さんを探してきた。大変だったんだよ。この人が清香のお母さんで、間違いないよね?」

 僕は清香の眼前に突きつける。
 見出しには、『山中に女性死体。男二人を逮捕』と書かれている。
 そして被害者の女性の写真には、わずかだが清香に似た面影もあった。

「清香もまだ子供だったし、施設の人もお母さんのこと知らなかったんだよね。だったら、こんなニュースなんて見過ごすのも無理はない。見てよ。君のお母さんで間違いないよね?」

 逮捕された男は二人。
 清香のお母さんの彼氏と、共犯とされている借金相手の若い男。

「どうやら清香のお母さんは、清香を捨ててすぐに借金の肩代わりに売られそうになったみたいだ。そのときに抵抗したら、マワされて殺されたんだって」

 清香は、被害者女性の写真に釘付けになっている。
 大きな目に血管が浮き出て、じわじわと涙が溜まっていく。

「実行犯は、彼氏とこの借金相手の男ってことになってる。でも本当はもっと大勢いたんだろうね。まあ、よくある話だよ」

 清香には、もう僕の言葉は届いてないのかもしれない。
 お母さんも捨てられた。男に殺され、捨てられた。
 僕は彼女に顔を近づけて、耳元で笑う。

「よかったね、清香。大嫌いなお母さんが最低の死に方をしてくれて。胸がスッとしたろ?」

 ぐにゃ、と、清香の端正な顔が歪み、大きな口を開けた。
 そして幼子みたいに声を張り上げ、泣き出した。

 ひとりぼっちの清香。
 捨てられっ子の清香。
 かわいそうな清香を、誰か拾ってあげて?

「アハハハハッ!」

 僕は腹の底から笑って、清香の体を転がし、足を広げた。

「いいよ、泣きなよ! もう清香を叱ってくれる人なんていない。好きなだけ泣けよ!」

 そして、強引に突っ込む。
 超音波で性感をねじ上げて、セックスの快楽に溺れさせる。

 あとはひたすらヤリ続けた。
 清香の体は、セックスのためにある。
 肉体と心は正しく結びついているべきなんだ。

 僕は清香の体を突き上げ、抱きしめ、舌を吸う。
 快楽を怒濤のように彼女の脳に送り込み、ひたすらセックスをする。
 
 清香は、もう考えることをやめてしまった。
 こんなコピーの新聞記事なんていくらでもウソをつけるのに、そんなことも分からなくなるくらい、ぶっ壊れてしまった。
 何もかもに裏切られ、捨てられた清香は、肉体のみに没頭する。
 彼女の中に残ったのは、ちっぽけな自己愛だけ。快楽だけが彼女の理解者。

「ホラ、もっと尻振れよ」

 目の玉をひっくり返し、涙とよだれできれいな顔を台無しにし、舌を伸ばして清香は喘ぐ。
 もう完全に、セックス豚の顔だ。
 床はとっくに僕らの液体でベトベトで、僕らはその上で獣のように何度も声を上げる。清香の肉体はますます快楽を増し、セックスの深みに向かって途方もない進化を続けていく。

 彼女は、拾われ方を間違えてたんだ。

 ママゴトみたいな家族ごっことぬるい愛情に包まれ、清香の燃えるような肉体と情熱は、窮屈な正義のスーツの中に押し込められていた。
 でも清香はそんな女じゃない。この体は、正義と悪の戦いなどという非生産的なことに削られるべきじゃない。
 彼女の銃口は、怪人ではなく、男に向けるのが正しい。

 僕が、君を壊して捨ててやる。
 そして、正しく拾い直してやるよ。

 すぐに彼女は気づくだろう。
 自分は捨てられる側の人間ではなく、捨てる側の女だと。
 性感的な少女の顔と、男を喜ばせる熟した肉体と、それを使いこなす女のあざとさ。
 彼女が自分の価値を理解したとき、この世で最も美しい悪の華が咲く。
 あんな母親など、清香の敵じゃない。
 烈士など、清香が相手にする価値もないんだ。
 だから正義も恋も理性も捨てて、もっと豚になっちゃよ。

「咥えろ。まだまだこれが欲しいんだろ?」

 唇は僕のにしゃぶりつき、手を股間をまさぐり続けた。
 今はただ貪ればいい。やがて清香の“情念”が肉体と一致したとき、彼女は視線だけで男を焼け焦がすような、超一流の悪女になるだろう。僕はそこまで君を抱く。

「四つん這いになって、尻の穴を広げろ」

 だから堕ちろ。もっと堕ちろ。

 心に地獄を抱えて咲け。

 ―――曜子さんからデートに誘われた。

 場所は、前に彼女が呼び出したときと同じ喫茶店。
 違うのは、客が全員、私服警官だったこと。
 店の周りまで、警官だらけだったこと。
 でも、僕はもちろん、彼女の誘いに乗る。
 卸したばかりのTシャツを着て。

「嬉しいです。洋子さんの方から声をかけてくれて。でも仕事は大丈夫なんですか?」

 善良な少年の仮面を被り、アイスコーヒーにガムシロをたっぷり入れ、隠れた視線がこそこそと肌に絡みつくのも我慢して、僕は笑顔を浮かべる。
 曜子さんは、「うん」と一言呟いただけで、ホットコーヒーに口をつけた。

「……おかげで、もうすぐ解決できると思う」

 ひどく冷たい声だ。節電冷房中だというのに肌寒く感じる。
 せっかくの心浮き立つ逢瀬が、寂しいことにならなければいいのに。

「それは良かったですね」

 僕は精一杯の笑顔を浮かべる。
 でも、彼女は僕と目も合わせてくれず、面白くもなさそうなコーヒーカップに視線を落としたままだ。

「君の家に行ってから、なぜか、妙に心がざわつく」

 そして、ぽつりぽつりと語り始める。

「忘れていることがあるような、見てはいけないものを見たような……あるいは、ひどい嘘を飲まされてしまったような」

 きれいな言葉だと僕は思う。
 彼女の言うことは、ただそれだけで詩のようだ。
 心が美しいから、発する言葉も美しく響くのだろう。
 僕の超音波ですら、彼女の心に傷は穿てないらしい。

「精神科医のカウンセリングも受けたが、疲れのせいだと言われた。でも、私は納得できていない。自分の心は、違うと言っている。あれは何かの間違いだったと警告を鳴らし続けている。……君、正直に答えて欲しい」

 自分でもおかしなことを言っていると思うが、と前置きをして、曜子さんはテーブルの上に手を置いた。

「君が部屋で飼ってた、アレは何だ? 子犬か? それとも……人間、だったのではないか?」

 後ろの席でカップルのふりをしているバカな私服警官が、身じろぎをした。
 僕が怪人だったら、逃げろと指示をされているのだろう。
 恐怖が僕の背中まで伝わってくる。曜子さんは、僕の目をまっすぐに見ている。
 僕は、微笑みを浮かべる。彼女の目を見つめ返して。

「あれは、キヨですよ」

 曜子さんと僕の視線は真っ直ぐに絡み、やがて曜子さんは顔を伏せて、「やはり、そうか」と一言つぶやいた。

 そして、ナイフがいつの間にか僕の喉元に押し当てられていた。

「そのまま動くな。目を伏せろ。口を開くな。手をテーブルの上に置け」

 曜子さんの手から真っ直ぐ伸びるナイフは、さっきまでテーブルの上のコーナーに横たわっていたものだ。
 感心する。さすが彼女は一流の剣士だ。
 でも僕が賛辞を述べようとすると、すぐに曜子さんに「しゃべるな」と念を押される。

「私の質問には、ハイかイイエのみで答えろ。余計なことを言えば殺す。わかったか?」

 ハイ、と僕は答える。
 目を上げようとすれば、ナイフが僕の喉を押す。

「動くな。私は今、本気でお前を殺したいと思っている。余計なことは絶対にしないでくれ。自分を抑えておく自信がない」

 それでも、ナイフはぴたりと止まり、動く気配もない。
 僕は「ハイ」と答える。

「……君は、催眠術を使うのか?」
「ハイ」
「この目隠しをしろ。ゆっくりとだ。私の方を見るな」

 僕は、渡されたアイマスクを静かに被る。
 暗闇だ。
 
「そのまま、私の質問に答えろ」

 曜子さんは、少しの間を置いて言った。

 ……君は人間か、と。

 とても美しい問いだ。

「イイエ」

 店内に、緊張が走った。
 誰も席を立たない。しんと静まりかえるだけ。
 僕が本物なのかどうか、まだ確信を持てずにいるのか。
 人類はまだ、僕たち新しい怪人を知らない。

「季依と清香を……シグエレメンツのメンバーを攫ったのは、お前か?」
「ハイ」

 切っ先が、かすかに震える。
 僕には見えないけど、彼女に動揺が走ったのがわかった。
 予想できる答えだったはずなのに、やはり彼女には辛いのか。
 仲間を攫った男が、ずっと目の前にいた。
 鉄壁の剣士が、揺れている。

「……二人は、無事か?」

 僕は答えない。
 YESかNOの二択の中に、彼女の望む答えはない。

「無事なのかと聞いているッ」

 僕は、ため息とともに答える。

「ハイ。でも……」
「余計なことを言うな! 私の質問にだけ答えろ!」

 乱れる呼吸と、震える声。
 彼女は、揺れている。
 あれほど美しくまっすぐ立っていた彼女が、ほんの数回の言葉のやりとりで、こうまで自滅していくのか。
 だとしたら、なんて儚い。僕は感動すら覚える。

「無事なら……それでいい。今は、それ以上は言うな……」

 曜子さんに、早く教えてあげたい。
 季依は、あなたに勝ちたい一心で、自分から改造を受けたいと申し出て、立派な魔人になってくれました。
 清香は、あなたに捨てられたショックで、一時はセックス豚にまで成り下がりましたが、今はとても美しい妖女に育っています。
 全部、あなたのおかげなんです。

「どうして、裏切った…?」

 言葉もナイフも振るえ、僕の喉に微かな痛みが走る。
 でも、それは彼女の心の痛みに比べれば、とても些細なものだ。
 僕はその程度、いくらでも受け入れられる。

「桃代は、お前を信じると言っていたんだぞ」
「ハイ」
「お前のことを……優しい人だと言っていたんだぞ!」
「ハイ」

 曜子さんが泣いている。
 だから、僕も泣いていた。
 
 彼女の心は、とても強くて、脆かった。
 無表情に隠した心は、いつも誰かのことを思い、誰かの痛みに涙していた。
 彼女は一体、何年、自分の脆さを隠し続けてきたんだろう。
 自分が強くあることで、みんなが救われると信じて。

「殺してやりたい……」

 なんて悲しい人なんだろう。
 誰も殺したくないと、彼女のナイフは泣いている。
 裏切られた人たちのために泣きながら、僕の見せた偽りの優しさをまだ信じたいと願っている。
 僕らは、お互いの孤独を理解し合えている。
 自惚れではなく、僕こそが曜子さんの最大の理解者だ。涙と血を流し合い、僕らは、命と愛のやりとりをしている。
 曜子さん。
 あなたは、僕を愛するべきなんだ。

「動くなと言ったはずだ!」

 ナイフが、僕の右手に突き刺さった。
 フォークが、僕の左手の甲も貫いて、新しいナイフが、僕の喉に突き立てられる。
 痛みと喜びで喉が鳴る。
 その手際を、この目で見れなかったことが残念だ。

「何を泣いている? 私を愚弄しているのか!」
「イイエ」

 血が、僕の手を温かくしていく。僕の涙がその上に重なる。
 彼女に刺された手の痛みは、僕に死の過去を思い出させ、少し悲しく、そして嬉しく思えた。
 また彼女に殺されるかもしれない。今度は体中にナイフを突き立てられて。
 胸が苦しくなるくらい、興奮する。

「……あの部屋に、二人はいるのか?」
「イイエ」
「では、別の場所か?」
「ハイ」

 季依も清香も、今は部屋を出てアジトにいる。
 二人とも、あなたに会いたがっている。
 とても楽しみに待ってるんです。

「私をそこへ案内しろ」

 曜子さんのナイフが、逆手に動いて僕のアゴに向けられた。
 彼女の殺気が突き刺さる。ただのテーブルナイフが、まるで100人を斬った妖刀みたいに、僕の皮膚を蝕んでいく。
 曜子さんからの誘いを断るなんて僕にはできっこない。
 でも、今は少しだけ待って欲しい。

「イイエ」
「ふざけるな。立て、案内しろ」

 曜子さんは、僕のアゴにごりごりとナイフを当て、皮膚を裂いた。
 彼女らしからぬ、はしたないテーブルマナーに、僕は声を上げてしまう。

「イイエ」
「なぜだ? 理由を言ってみろ!」

 僕は正直に彼女に答えた。恥ずかしいけれど。

「……あなたの声に勃起してしまって、立てません」

 ナイフは僕の体を離れ、そして僕の喉元をめがけて、素晴らしい速さで戻ってくる。
 でもそれは、僕の体に到達する前に止められた。
 ウェイトレスになってた彼女に。

「エターナルファイナルエディションイチゴパフェ、お待たせしました~」
 
 そう言って、テーブルの上にアホみたいに大きなパフェを置いて、僕のアイマスクを外す。
 カプリの天真爛漫な笑顔は、いつものように僕のそばにある。

「―――ッ!」

 曜子さんは短く息を吐くと、コートの下からカプリに向かって瞬速の刃を抜く。
 短い刃先は空を切った。カプリはそれよりも速く、後ろに下がっている。
 曜子さんはすかさずコーヒーカップを投げた。カプリがそれを避けて体を反らしたところを狙い、床を蹴って刀を切り返す。
 だが、高いヒールを軸にして体をひねったカプリが、彼女よりも速く、回し蹴りでそれを迎えた。
 曜子さんの体は壁まで吹き飛び、叩きつけられる。
 カプリは、おかしなカンフーポーズをしながら笑う。

「ざ~んねん。地上で一番つおいのは、じつはあたしだったのだー。てへぺろ」

 あっけに取られる曜子さんと、客に扮した刑事たち。
 彼女が負けるなど、ありえるはずがなかった。
 僕は手の甲に刺さったナイフを抜き取り、立ち上がる。
 ようやく仕事を思い出した警察が僕らに拳銃を向けるけど、僕はその前に超音波を飛ばす。

「全員、動くな」

 刑事も、喫茶店の従業員たちも、そして虚を突かれた曜子さんも動きを失う。
 ついでに、変なポーズしてるカプリも。

「カプリだけ解除」
「ぷはっ」
「外の警官は?」
「片付けてきたよー。こうやって!」

 動けるようになったカプリが、高速のシャドーボクシングで、曜子さんや警察を威圧する。
 調子に乗るなと言っているのに。おそらく、明日はひどい筋肉痛に彼女は泣くだろう。
 カプリは、僕の超音波で脳のリミッターが外れている。
 筋力と反応速度を限界まで出力できる状態だ。怪人の体でそれをやれば、どんな正義超人にだって勝てるさ。
 ケンカの強さなんてそんなもの。だから僕はどうでもいいって言ったんだ。

「それじゃ、カプリはもう下がっていいよ」
「あたしってば、出番少ねー」

 曜子さんは、床に崩れ落ちたまま僕を唖然と見ている。
 ごめんなさい。あなたの強さを破ってしまって。
 あなたの弱い心を支えていたのは、あなたの強さだけだったのに。

「あ……あ……」

 僕には彼女の悲しみが分かる。
 彼女は一番優しい女性だった。誰よりも愛情深く、誰よりも他人の幸せを願っていた。
 でも愛情表現の下手な彼女は、ただひたすら自分が強くなって、みんなを守ることでしか、愛を示すことができなかった。
 孤立しても、理解されなくても、戦うことで、誰かを守れれば彼女はそれで満足だった。
 それが彼女の愛し方。そうやって彼女は、世界中の人々を一人で愛し続けたんだ。
 だからあの茶番のヒーローごっこも、一番愛していたのはあなたなんですよね。
 烈士もきっと知っていた。みんなと共に戦い、みんなを守るあの場所が、あなたにとっての夢だったことを。
 愛する仲間を失った悲しみは、どれほど彼女を苦しめただろう。たった一人で、怪人だらけの荒野にでも立たなければ気が済まないほど、自分を責めたかったのか。
 でも、あなたの強さは仲間を守れなかった。助けることもできなかった。
 かわいそうな曜子さん。
 僕があなたを、愛してあげるよ。

 超音波で窓にヒビを入れる。外から見えなくなるほど細かくだ。
 彼女のセックスを、僕たちだけのものにするために。

「みんな、服を脱いでセックスしよう。僕と彼女と、曜子さんを除いて全員だ」

 カップルに扮していた刑事たちはそのまま互いの肌を舐め合い、中年の刑事たちはウェイトレスたちと、みんな裸になって交わり出す。
 真昼の喫茶店で、会ったばかり男女が乱交だ。
 ここでのことは、いずれ警察組織の知ることとなるだろう。僕の名前も、正体も、能力も彼らに知れ渡るだろう。
 そして、僕らは戦争だ。
 もういいんだよ。
 戦争しながらでも、僕は曜子さんも紀州さんも手に入れてしまうから。
 僕はもう誰にも負けやしないから。

「曜子さん」

 彼女は、喉が引きつったような小さい悲鳴を上げた。
 そんなに怖がらなくていいのに。
 僕は、あなたを傷つける。あなたをボロボロになるまで凌辱するけど、あなたの美しさはそんなことで変わらない。
 血に汚れた手で彼女の服を脱がす。
 弱々しい声で抵抗し、されるがまま、彼女は裸になっていく。
 蝶の羽を千切るみたいで、心が沸く。
 白く美しい肌が朱に染まり、彼女のシンプルな下着も剥ぎ取れば、そこには桜色の乳首が縮こまって震えている。
 細い体は強く引き締まり、肌は指先を柔らかく弾く。

「曜子さん」

 彼女の名を何度も繰り返し、僕は彼女の乳首を吸う。
 曜子さんは泣いて、何度も烈士の名を呼ぶ。
 僕は刑事たちに命じて、彼女の手足を取り押さえさせる。
 動かない手足を、さらに男たちに押さえ込まれ、曜子さんは恐怖に呻いた。
 脆い。なんて弱い子なんだ。
 最後の下着を僕は脱がせて、彼女の裸身を刑事たちに開かせる。

「すごくきれいだよ、曜子さん」

 屈辱と羞恥が彼女を染める。僕は彼女の肌に舌を這わせる。
 食いしばった歯の下で、彼女が泣き声を上げる。

「曜子ちゃん、おいしそー。あたしも呼ばれちゃお!」

 カプリの舌がそれに加わり、肌を濡らしていく。
 僕はカプリにジーンズを脱がせてもらって、そそり立ったペニスを解放する。
 曜子さんは目を瞑って涙をこぼした。
 僕は曜子さんの足の間に腰を落とした。
 冷え切った彼女の肌に、その先端を這い回させる。ぞわぞわと肌が泡立ち、無敵を誇った肉体が、これからの行為に恐怖する。
 僕は彼女が愛しくてならない。
 曜子さん。あなたの強さは守るためではなく、守られるためにある。あなたの慈愛の心は自己犠牲のためではなく、犠牲を捧げられるためにあるんだ。
 あなたに相応しいのは、孤独ではなく、足下にかしづく万の群衆だよ。
 あなたがあなたのまま悪の華を咲かせるなら、僕は組織の全てを譲ってもいい。

 僕があなたを―――、“君臨”させてあげるから。

「曜子さん……はじめましてから、やり直しませんか? 僕たちの間には嘘が多すぎる。あなたを汚してしまう前に本当の名前をあなたに伝えたい。僕たちの間にもう嘘はいらないんだ」

 僕のペニスが曜子さんのソコに触れる。
 彼女の中に向けて、最後の照準を合わせる。

「はじめまして、シグエレメンツ・ブラック。僕の名前はコウモリ男だ」
「女房のカプリだー」

 えぐり込むように、彼女の中に侵入する。
 曜子さんは、少女みたいに、か細い悲鳴を上げた。

< つづく >

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