モリ男の夏

 俺は激怒した。必ずや童貞を捨てねばと決意した。

 きっかけはいつものインターネットだ。そう、この世の不幸はだいたいこのインターネットってやつが始めるんだ。

 先日、通販サイトのタイムセールで購入したドールで体験したからもう童卒っすよねってことを知恵袋で聞いたら、「童貞こじらせて人と人形の区別がつかなくなったの?」って笑われたのだ。

「おまえがそう思うなら……ねーよwww」

「わりと真剣に頭が心配」

「これが今の若者のリアル」

「ドールを購入する資金で風俗に行けばよかったのでは?」

 ヤツらは好き勝手に嘲笑しやがった。

 もう許さねえ。絶対に今日中に童卒してやる。

 この、ドールと一緒にタイムセールで買ったMC装置を使ってな!

「モリ男くん、ちょっといい?」

 部屋の扉が開かれる。青い顔をした義母の香澄さんが、死体のようなものを小脇に抱えていた。

 というか、俺の抱いたドールだった。

「これ、モリ男くんのでしょ……脱衣場にいきなりあったから悲鳴をあげてしまったんだけど」

 しまった。事後シャワーの気分でドールの全身を洗ったあと、洗濯機の上でM字開脚させたままだった。

 よりによって父の再婚相手である義母に見つかってしまうとは、なんていう失態だ。

「ママ、知ってるよ。これって男の人が女の人の代わりに抱く人形さんでしょ?」

 俺の愛したドール(千代子52才)のパーマ頭が、香澄さんの胸にぎゅっと食い込む。深い谷間を覗かせるニットが持ち上げられ、餅のような肌がくっきりとYの形を見せた。

 再婚してすぐにシベリアに単身赴任した親父と離れて以来、その豊満な肉体を持て余し気味らしく、こうしてむやみに色気を撒き散らす罪作りな義母なんだ。

「こんなものなんか使って、どういうつもりなの?」

 千代子を床に投げ捨て、香澄さんは不機嫌な顔を隠そうともせず、俺の首に腕を回す。

「言ってくれればいいのに……ママ、いつでもモリ男くんの欲望を全身で受け止めてあげるよ?」

 俺も彼女も、性欲の行き先がない迷子だ。だから、いつからか自然と慰め合う関係になっていた。

 香澄さんは俺がオナニーなんてしなくてもいいようにと、朝と晩に手コキしてくれてるし、お風呂では泡踊りもしてくれる。逆に俺も香澄さんのために泡踊りしてやってる。

 フェラもクンニもシックスナインも日常だし、バイブやローターで互いの急所を責め合うのも茶飯事だし、昨夜も首輪一つの格好で深夜散歩させた名残りが彼女の首にアザとなって残っている。

 その首輪は今日は俺がしていた。犬は交代制だからな。

「でも、さすがに親子ックスはないっすよね?」

「もう! モリ男くんってどうしてそうなのっ。なんでここまでしておいてセックスだけ躊躇できるの。いっそ早く抱いてってママは思ってるのに!」

「超えちゃいけない一線もあるかなって」

「とっくに超えてると思うけどっ。私、あなたの前では犬のようにバンバン放尿してるけど、あなたのお父さんはそんな私を知らないからっ。ネットの名前が『隷母かすみ』だっていうことも!」

 確かに挿入してはいけない禁忌の関係だと思えば思うほど、俺たち親子の行為はエスカレートしていって、今じゃウェブSMサークルの常連投稿者になっていた。

 ぶっちゃけドールも、彼女のエロ動画で稼いだギフトポイントで買った。

 でも、さすがに元グラビアアイドルの29才でB89W60H90の奴隷美母とセックスして童卒なんて言ったら、今度は「マザコン」って笑われそうだしな。知恵袋の知恵どもに。

 遠慮しとくわ。

「そうだ。そんなことよりも香澄さん、試してもいい?」

「なに、モリ男くん。義理の息子に真剣に抱いてって迫ったのを『そんなこと』呼ばわりされたのはショックだけど、ママはあなたの言うことならなんでも聞いちゃう」

 俺はさっそくMC装置を試してみることにした。

 ローターの電源みたいに適当なスイッチと、先っぽにはビヨンビヨンの細いアンテナが立った機械だ。

 単二電池を3個も使う。単二ってだけでも面倒くさいのに3個ってなんだよ。

 しかしこのアンテナを向けてスイッチを押しながら命令すると、誰でも洗脳されて言いなりになるらしい。定価の95%オフだったからついつい買っちゃったけど、これで本当に洗脳できなかったら訴えてやるからな。アマゾンめ。

「なあに、これ?」

「MC装置だって。アンテナを向けて命令したら、誰でも俺の言いなりになるらしいんだ」

「わかった。まずは脱げばいいのね」

 香澄さんは嬉しそうに脱ぎ始めた。

 紫色のブラに持ち上げられた張りのあるおっぱい。くびれのはっきりしたボディ。そして色っぽいレースの下に翳る茂み。大人の女の匂いをムンムンにさせ、その完ぺきな肉体を誇るように見せつけ、下着にも手をかけていった。

 ブラを外せば、飛び出るように現れるロケット型のおっぱい。元グラビアアイドルなんて肩書きがなくても、彼女がとびきりの女だっていうのはその身体でわかる。

 男も女も釘付けにするボディだ。それを18才の童貞にたっぷりと拝ませ、蠱惑的な微笑みで悩殺する。まさにエロスの化身。思わず口笛を鳴らした。こんなのたまんねえよ。

 そしていよいよ、薄いレースの高級そうな下着に手をかける。義理の息子に見せるためにわざわざ履いてきたエロ下着だ。それを指にひっかけて、引っ張って弄ぶ。

 我慢できないなら引き千切ってもいいよって言っているようだ。俺は喉を鳴らしてこらえる。股間が熱を帯びていく。そんな俺に、彼女は挑発的な手招きをする。悪いママだぜ。

 そうしてダンスするみたいに腰をくねらせながら、尻を向けて桃のような割れ目を見せたあたりで、「ちょっと待てや」とツッコんだ。

「俺はまだ何も命令してないんだけど」

「え、でも10代の童貞にそんな装置を見せられて使い方まで説明までされたんだから、事実上命令されたようなものじゃない?」

「もー。香澄さん、全然わかってない!」

 誰がアメリカ人のセックスみたいにパーティー気分で脱げって命令したんだよ。それこそ10代童貞の繊細なメンタルが怖じ気づくわ。

「いや、そもそも俺はもう童貞じゃないんだ。そこのドールとやったから、童貞は卒業した」

「え、この老け顔の人形と?」

「やった。リアルに愛し合った。終わったあとは愛をささやきながら一緒にシャワーも浴びた。盛り上がっちゃって洗濯機の上でクンニもした。その後、忘れて寝たけど。とにかく俺は愛を知った大人の男なの」

「モリ男くん、かわいそうに。いい? 人と人形を同じに考えちゃだめなの。人の形をしているだけと書いて人形なの。本当のセックスっていうのはね……」

「その狂った常識を書き換えてやるんだぁ!」

「きゃあああああ!?」

 アンテナから強烈な電波が照射されて、香澄さんはビリビリしびれた。

 これ本当に電波か? なんて疑問もあったけど、このしびれっぷりは確かに洗脳というか改造に近い破壊力を感じる。

 脳ぐらいどうにかできそうな手応えがある。俺はもしかして義母を焼き殺してるのかもしれないと心配になるほどの威力だ。単二電池を3個も使うだけある。

「人間もドールも抱けば童卒。これが新しい世界の常識だ!」

「ああああああ」

 クラゲのように揺れる香澄さんと香澄さんのおっぱい。

 本当たまんねえ身体をしているな。まったく、彼女がドールだったらよかったのに。どうして血の繋がらないスケベな美熟義母として出会ってしまったんだろう。セックスしたかったな。

 たっぷりと電波を浴びせてスイッチを解除する。香澄さんはうつろな瞳で言った。

「はい……モリ男くんは童卒しました……」

「やったぜ!」

 このMC装置は本物だ。母親に童卒を認めさせた。

 これで一歩、本物の童卒に近づいた。あと75億人に認めさせればいいだけだ!

「よおし、出かけてくるね、香澄さん!」

「あ、んんっ、ぶちゅ、モリ男くん、んん、ちゅぶっ、れろ、いってらっしゃい、んんっ、もっとぉ」

 いつものお出かけのディープキスと手マンを義母と交わし、俺はMC装置を持って外へ飛び出した。

 今日中に童卒してみせる。世間様の承認をいただいてな!

「こら、そこのモリ男っ。やらしい顔して歩かないでよ!」

「む?」

 外に出たとたん、キンキンした声で呼び止められた。

 振り返ると、隣の家の凜子がいた。休みの日だっていうのに制服を着てやがる。お堅い風紀委員長め。

「なんだよ、凜子。俺がどんな顔して歩こうと勝手だろ。スケベなことを考えるのだって自由だ」

「考えるな! まったく、あんたみたいな男子が歩いてたら街の風紀が乱れるの。休みの日ぐらい家に引きこもってなさい」

「俺みたいな男ってどういう意味だよ?」

「鏡を見なさい、鏡をっ。もう、そんな風に女子の目を真っ直ぐ見るのも禁止っ。刺激が強すぎる!」

 なんなんだよ、こいつは。真っ赤になって怒っちゃってさ。

 凜子は、小さい頃は「俺のお嫁さんになる」とか「大好き」とかしょっちゅう言っていたくせに、大人になるにつれてツンツンするようになったんだ。

 あげく風紀委員なんかになって、「問題人物の俺の行動を監視する」とか言い出して、学校でもうるさく付きまとってきて迷惑してるんだ。

「まさか、香澄さんと変なことしたりしてないでしょうね。義理とはいえ母親なんですからねっ。いくらあの人がモリ男目当てでお父様と再婚したからといって、勝手なこと――」

「はいはい、してません。つーか、まだそんなこと言ってるの? あの人は親父と結婚したんだぞ。普通に親子だっつーの」

 もちろん、義母と複雑なプレイを楽しんでSMサイトに投稿してるなんてことは凜子には言うわけない。こいつも香澄さんが俺目当てで家庭に入ったとかわけわかんなこと言って警戒してるし。

 元グラビアアイドルが、なんで人気絶頂だった仕事を辞めてまで、当時中学生の俺なんか目当てで中年親父と籍入れるんだっての。

「まあ確かに、義母がセクシーすぎて危機を感じることはよくあるけどな」

「なっ、だ、だめよ、そんなのっ。そういうときはすぐに私の家に避難して!」

「冗談だって。ははっ、焦った顔して可愛いな、おまえ」

 頭をポンポンと叩いてやった。からかわれたことに腹を立てたのか、湯気が立ちそうなくらい凜子の顔は熱そうだった。

 

「あっ……あんたっててば、本当――いいかげんに自覚してよね! 女殺し!」

 人聞きの悪いことを言うな。童貞に向かって。

 いや、もうすぐ童貞ではなくなるんだけどさ。

 凜子はくやしそうに唇を噛む。最近すぐ怒るよな。さらっとしたボブカットの髪を片耳にかけて、俺と目が合うと俯く。きっちりと着た制服。スレンダーな足。白いソックスにローファー。生徒手帳に載せたいくらいの完ぺきなガチ校則ファッションだ。

 そんな彼女が、小さな声で言う。

「香澄さんや、他の女でやらしいこととか考えないでよ。どうしてもって言うなら、私だけにして……」

 まったく、またそれかよ。

 俺は何度も聞かされた説教にため息をつく。

「いくら幼なじみだからって、俺のやらしい妄想の餌食にするわけにいかないだろ。それくらいの遠慮はしてるって」

「あ、あんたって…ッ!」

「おまえだって、童貞の妄想力の恐ろしさを知らないだろ。すっげぇこと想像の中でやられちゃうんだぞ?」

「あれだけのことをしておいて、今さら何言ってるのよ!」

「え、あれだけとは……?」

「中学のときのこと、忘れたとは言わせないわよ!」

 あぁ、あれな。あれは焦ったよな。

 凜子とは小さいときから風呂も一緒に入ったり、お医者さんごっこもする仲だった。まだセックスの知識とかないから、異性の体への好奇心と意味のわからない興奮だけで、いろんなことをしてしまった。

 ふくらみかけたおっぱいを触ったり吸ったり、アソコを指で開いたり。舐めたり舐めさせたりした。

 シックスナインもそのときはまだ俺たちのオリジナルの必殺技だと思っていたし、チンコから白いのが出たときも、医者気取りで「薬だから飲め」って飲ませていた。凜子も喜んで飲むものだから、毎食後に飲ませていた時期もあったな。

 そのうち注射だっつって、凜子のアソコにチンコを入れたりとかして。最初は痛がっていた凜子も、そのうちに「あんあん気持ちいい」って言い出すもんだから、何回も出し入れして遊んだっけ。で、薬も凜子のアソコで飲ませるようになった。

 知らないってのは恐ろしいもので、たまたま俺も性の授業のときに限って腹痛で休んだり、他の男子のエロい話に混ぜてもらえなかったりで、「セックス」っていうのを中学生のときは知らなかったんだ。

 毎日、凜子とそんなことして、注射のポーズも研究して四十八種類もの体勢を編み出したりしていた。

 薬物の過剰摂取は危険だよなってことで、彼女の太ももに薬を飲ませて回数を「正」の字を書いて管理した。

 体育でマラソンする日も、隠すことないじゃんって、そのまま凜子にショーパンで校庭を走らせたりしていた。

 しかも俺もバカなもんだから、「あいつの太ももの『正』と『正』と『T』、昨日俺にチンコを突っ込まれた回数だぞ」ってクラス中に吹聴しちゃった。「学校では優等生ヅラしてるくせに、お医者さんごっこ大好きで俺にあんなの書かれてるのウケね?」ってさ。

 凜子もマラソンでのぼせたのか、みんなに指さされながらゴールした後も、熱っぽい顔でずっとヘラヘラ笑ってたっけ。

 そのあたりから凜子も吹っ切れたのか、お医者さんごっこにドハマリしてることを隠さなくなって、自分からよく求めてきたし、口で飲むのも大好きだしで、そのうち学校でもするようになった。

 そんで修学旅行のときだな。

 凜子と相部屋の他の女子数名ともお医者さんごっこしちゃって、全員のアソコに薬を飲ませたんだ。旅行中は毎晩やりまくってしまった。

 それが噂になっちゃって、なぜか学校の女子みんなが俺とお医者さんごっこしたいって言い出すものだから、バカみたいに俺も喜んじゃって。

 やりまくったよな。お医者さんごっこ。研修医並の激務だったよ。

 下級生にも噂は広がって、放課後になると患者が列を作って待っていた。どうしようもないから凜子を看護師ってことにして、手伝わせながら学校中の女子とやった。教師ともした。

 近くの女子校にまで噂は届いていたらしく、往診に来てっていうから、行ったら先輩たちがお尻を出して並んでいたこともあったっけ。ブラックジャックかよって言いながら、全員のオペを成功させたけどな。

 そのときにはもう「正」の字がブームになっちゃって、このあたりの女の子はみんな俺に書かれたがったし、凜子なんて舌にまで書かせて、のぼせた顔でヘラヘラしていたし。

 それでまあ、なんだかんだで俺も名医として地域に貢献して、次年度入学予定の新入生女子とまで全員お医者さんごっこを済ませて、無事に高校進学して。

 初日で仲良くなった隣の席のスケベな男子としゃべってて、ようやく『セックス』というものを知ったのだった。

「本当、焦ったよな。俺たち、うっかりセックスしちゃうとこだったな」

「したよね! めちゃくちゃしてたよね、私たち! 中学のときの記憶、ほとんどあなたのアレなんだけどっ。毎日イキっぱなしで学校生活送ってたから、それすらもおぼろげなんだけどっ。あのとき、女子はみんなあなたに処女をあげたんだよっ。なんで自分だけ童貞なんて言えるわけ!?」

「あのさ、凜子。セックスって、心を通わせた二人がするからセックスなんだよ。子どものころのお医者さんごっこは、やっぱりただのごっこ遊びだから。本当のセックスはしてないし、俺はまだ童貞だし、なんならおまえもまだ処女?」

「処女なんでしょうね、あなたしか知らないし! お尻の穴まで犯されたけどまだ処女なんでしょうね! どうしてそんな理屈があるのよっ。あの三年間で誰も妊娠しなかったのは奇跡だったと思うし、じっさい理科の先生に協力してもらってあなたの精液を検査したこともあるよ。精子ぴんぴんしてたよ、よかったね。奇跡だよ、バカ!」

 何をかりかりしてんだよ。セックスなんてしてないんだから妊娠も何もないだろ。

 それよりも中学の話は本当に勘弁してほしいぜ。恥ずかしい黒歴史だから。

 あれからすっかり俺は萎縮しちゃって女子とはあまり話せなくなったし、お医者さんごっこも卒業した。凜子も大人になったのか、俺が「二度と乱れた行為をしないように」って風紀を監視する子になったんだ。

「だから、もう俺たちも正しい性知識を持った大人なんだから、あんまり中学のときの話はしないでくれって。いろいろ思い出して妄想しちゃうだろ。ほら……文化祭で浴衣を着たおまえと、雰囲気に流されて思わず教室でキスしちゃったこととか、覚えてるか? もしもさ、あの俺たちが正しい性の知識を持ってて、そんで流れで付き合ってたりしたら、今ごろどうなってただろうなとか考えて恥ずかしくなったりない?」

「私の記憶では、あのときはアナルにねぶるようなキスをされたし、挿入もされたし、その感触もまだ私のお尻の穴は鮮明に思い出せますけど! なんで自分だけ童貞ぶって爽やかな思い出で甘酸っぱい妄想をしちゃえるのっ。そのあと私を男子トイレに引っ張っていって何をさせたか覚えてるっ!?」

「大便な。それよりもさ、おまえに聞いてほしいことがあるんだけど」

「それよりもっていうからには、多感な中学時代に幼なじみの目の前で浴衣まくって大便させられた以上の事件があなたにはあるってこと? いいよ、聞く。これに匹敵する悲惨な体験が戦後の今にもあるっていうなら言ってみて!」

「俺、童貞捨てたので」

「は?」

「俺はもう女性の柔らかさと優しさを知ってしまいましたので」

「こんなこと2度も言いたくないけど、私に大便までさせた男の口から今さら女性へのリスペクト聞かされるの気が狂いそう。でもどういうこと? まさか香澄さんと寝たの?」

「違うって。じつはドールを買ったんだよね。千代子52才っていうやつ」

「52才!?」

「あぁ。彼女を抱いたから、もう俺は童貞じゃないんだ。悪いな」

「いや謝る前に病院に行ってほしいし、もしかしたら除霊もしてほしい。何があったの? 千代子の霊に取り憑かれたの?」

「何を言ってるんだよ。だから、俺はもうセックスを体験したって話。通販で買ったドールで」

「心を通わせた二人が、とか偉そうに言ってたさっきの話はどうなったの?」

「そこはドールだからさ。人形に心なんてないじゃん。ただの道具なんだから」

「あのね。中学生のときのほうが、まだあなたにまともな部分はあったと思う。人を人として見ていたもの」

「バカ。勘違いするなって。ドールってあれだぞ。本物の人形のことだぞ」

「待って、混乱してきた。千代子とかいう人形を? 抱いて? 童貞を卒業したって言ってるの?」

「千代子52才な」

「52才やめて。その部分がいちいち喉にひっかかる。つまり本物の人形ってことでいいのね? あなたは初めてのセックスを人形としたのね?」

「あぁ、そう言っている」

 凜子は頭痛でもしているのか、こめかみをぐりぐりしながら唸り、やがて結論を得たように顔を上げる。

「わかるか!」

「やっぱり? 香澄さんも、ほぼそんなリアクションだったな」

「そりゃそうよっ。香澄さんのことだから、人形とするくらいなら自分を抱けって言ったんでしょ。言うよ、私だって。人形とするくらいなら、私を抱けばいいでしょ!」

「えー。幼なじみのおまえとかぁ?」

「その幼なじみに自分が何をしてきたのか、これだけ回想を重ねてもまだ足りないの!?」

「でも俺、おまえのそういう反応も想定のうちなんだよね。ちょっとこれ見て。ドールと抱き合わせで最新のマインドコントロール機械を買ったんだぜ!」

 俺は凜子にMC装置を見せた。

 適当に貼ったっぽいシールに、『MCの新しい設備。脳を渡され、みんながくぉとけぷっぷ』と機械翻訳された売り文句が書かれている。

「いや、翻訳できてないから。今どきグーグルも訳せない言語の国から何を買ったの?」

「大丈夫。こっちには『わたしたつは日本のメぃカーでぬ』って書いてるし安全だ。これを使って、今からおまえを俺の言いなりに洗脳しちゃうぞ」

「えっ」

 凜子は頬を染め「ここじゃちょっと」と俺を自宅に案内した。

 久しぶりに入る凜子の部屋。相変わらず女子っぽさのないシンプルな部屋で、本棚も哲学書とか海外の写真集とか、そういう意識の高い学生みたいなものばかりだった。

 幼なじみの俺の写真があちこちにある以外は、まるっきり男の気配もない。まったく、これだから処女は。

 凜子って可愛い顔してるんだし、モテるはずなんだけど、風紀委員なんかやって、学校でも俺の監視とかいって口うるさいしな。もう少し愛想よくすりゃいいのにね。

「じゃ、脱ぐね……」

 そう言って凜子は『風紀委員』という堅苦しい腕章を付けたままのセーラーを、彼女らしからぬ無造作な脱ぎ方で床に落とした。(中略)そして深呼吸を何度かして「えいっ」と勇気を振り絞りグレーの下着を掴んだ手を下ろし、雪のように真っ白い尻をぷりんと見せたあたりで、俺は「ちょっと待てや」とツッコんだ。

「誰が脱げって言ったんだよ」

「その前に止める時間はいくらでもあったよね!?」

「あのさあ。おまえも香澄さんも、どうしてMCと聞いただけで脱がされる前提なの。男ってそこまでスケベだと思ってんの?」

「男がみんなそうなのかは知らないけど、モリ男なら脱がすとそりゃ思うよ。というかさんざん調教されてるし、あなたにそういうの期待しちゃう自分がどうしようもないというか……」

 俺は、数日ぶりに海面に上がったシロナガスクジラのようなため息をついた。

 まったく、凜子も大人ぶって風紀がどうとか精液検査がどうとか言っても、結局のところお医者さんごっこを抜け出せていないんだからな。ガキのまんまだぜ。

「人の心を弄んでセックスしようなんて最低だろ。俺はそんな男じゃない」

「ネットでMC装置を買う人の言うことっ!?」

「恋人になる人には、できれば俺の内面を好きになってほしいと思うし」

「じゃあその顔も体も声もさっさと整形しろっ。あなたの外見がもうMC装置なの! どんだけの女を狂わせてきたと思ってんのよ!」

 手のひらサイズのおっぱいを震わせて、凜子は俺に詰め寄る。なんなんだよ。俺の顔に何かついてるわけ?

 相変わらずイケてない顔しかないけどな。

 せめて童貞だけはさっさと捨てて、自分に自信をつけたいところだ。

「そんなわけで、今日はおまえの常識だけ書き換えるから」

「きゃあああああああっ!?」

 ビリビリと凜子は全身をしびれさせる。

 すごい電波力だぜ。

「人も人形もセックスは平等だっ。ドールは立派な人間で、俺はもう童貞じゃない!」

「ああああああああ」

 スイッチを切ると、凜子はうつろな瞳でつぶやいた。

「はい……モリ男はもう童卒しました……」

「やったぜ」

 頑固な幼なじみも一発だ。これは本当にすごい機械を手に入れてしまったな。というかドールを買う必要すらなかったのでは?

 この調子で全人類をMCして、俺が童貞ではないことを認めさせてやる。

「でも、こんな小さな機械1個で世界を洗脳できるかな。電池交換も面倒そうだし。凜子、いいアイディアを出して」

「だったら……もっと大きなアンテナを使えばいいんじゃない……」

「なるほど」

 なにしろ相手は全人類だしな。よぉし、でっかいアンテナを使うぜ。

 俺はタクシーを捕まえてNASAへ行くように言った。「そんなのムリ」っていうから「いいから行けよバカヤロウ」ってMC装置を使った。

 NASAに着いて、さっそく全てを掌握して、MC装置の電波を人工衛星を介して地上全域に放射させた。

 よく聞け人類。俺はもう童貞じゃない。人形で童貞を捨てる男がいて何が悪い。

 あと、おまえらは俺のいいなりなんだから、なんでも言うことを聞けと言った。

 最初は童貞問題だけ解決できればいいと思ってたけど、やっぱりこのMC装置で世界を支配することにしたんだ。

 初めての海外体験とNASAの技術。あと、そこに保存されていた宇宙人の死体とかに感銘を受け、いろいろ考えさせられた。

 人生って、地球ってなんだろう。俺は童貞の何をそんなに恐れていたんだろう。この広い宇宙の片隅で。

 むしろ地球の1個くらい、俺が個人的に好き勝手いいんじゃないかというグルーバルな思考を今回の旅で手に入れたんだ。

 そうして日本に帰ってきてから、俺は世界を自分のために作りかえることにした。

「じゃあ、まずは学校編だ」

 高校に戻って、とりあえず生徒会長に就任した。前の会長さんには辞任していただき、副会長さんは美人だったので犯し、書記は巨乳だったのでパイズリをお願いし、会計は真面目な人だったので引き続き仕事をお願いした。

 そうして俺は、まずは全委員を集めて話し合いを始めた。

「あっ、あぁ、あんっ、モリ男っ、あん、嬉し……また、抱いてくれるなんて、あんっ」

「じゃあ、全委員が集まったので役員会を始めます。議題は校則の改正について」

 風紀委員長の凜子を膝に座らせ、下から突き上げながら議事を進行する。

 もちろん、俺のこの傲慢な振る舞いに異論を挟む者などいない。俺を挟んでいいのは書記の乳だけと掲示板で周知してある。

「俺にとってよりよい高校生活にするために、校則をいくつかっていうか、ほとんど改正したいと思う。おまえたちには家畜以下の学校生活を送らせてしまうかもしれない。だけど、そんな不満も幸福感に置き換えるようなMCを、俺は会長して責任を持って行う。信じてついてきてほしい」

「ついていくよぉ! モリ男に、私は、ついていくっ。これからもあなたの書く乱暴な正の字に埋もれて生きていたいのっ。ねえ、これ、セックスだよね? モリ男は、幼なじみとしてじゃなくて、女として抱いてくれてるんだよね?」

「あぁ。ていうか、前からそうだし」

「嬉しいっ! やっとわかってくれたのね!」

 凜子はアソコをきゅうきゅうしめて『風紀委員会』の腕章をした腕を俺の首に回し、自ら腰を揺すってくる。中学時代にさんざん鍛えてきた腰づかいに衰えはない。風紀委員長の激しく淫らな乱れっぷりに、他の委員さんも圧倒されているようだ。

 そうか。凜子は俺とセックスがしたかったのか。やっぱり俺って鈍感だったよな。幼なじみに迷惑かけてしまったよ。

「今日から学校の風紀は俺が作るから。凜子も一緒に手伝ってくれよな」

「うん!」

 校則の細かな取り決めについて、凜子や他の委員の知恵も借りて考える。真面目にやり出すと結構大変だったけど、ネットなんかを上手く使ってみんなで作っていくことにした。

 参考にしたのは、E=mC^2だ。

 超能力・魔法・妖術・薬物・機械・洗脳・催眠なんかでマインド・コントロール(MC)えっちしちゃう作品専門サイトだ。

 管理人さんと直接メールで自作のエロ小説をやりとりするっていう、クレイジーな奴じゃないと投稿できないシステムになっていて、ちょっと俺みたいにまともな人間には手が出ない。

 でもその中には、学校を思うがままに改変して十代の女子相手に欲望の限りを尽くす小説なんかも、この少子化社会で何してくれてんだよってくらいにあるんだ。勉強になる。

 というわけで第1条、制服について。

 たとえば制服をエロく改造しても登下校が困る。電車やバスで通学している生徒だっているんだからな。

 なので、学校に着いたら玄関でスカートを脱ぐくらいのソフトな改変にした。もちろんスカートを脱ぎたくない子も多いだろうから、その場合はパンツを脱ぐってことにした。

 ただ、そうなると俺以外の男子の視線が気になるって意見も、凜子を始めとする女子委員の中で多かった。

 だから、第2条。男子は全員去勢する。

 もちろん精神的な意味でだぞ。玄関をくぐった瞬間、男子は性欲を忘れることにした。校内ではあらゆる性に対して関心を失う。女生徒に対しては学校を出てからも興味を持たない。教師他の職員も同じくそうした。

 余談だが、その後うちの高校では男子の成績がぐんぐん上昇して偏差値を上げた。

 第3条、生徒会について。

 生徒会長の権限は神の域ということにしたが、独裁的すぎるのもなんか冷たい人って思われそうだから、みんなの意見は聞いていくことにする。

 具体的には、生徒会長にとって気分の良い学校生活を送るためのアイディアを出していただきたい。俺はあんまり思いつかないので。

 ちなみに参考に配布したのは、もちろんE=mC^2のアドレスだ。もうこれ必須科目にしてもいいかもしれない。ていうか、した。

 今後も楽しい学校をよろしくってことで、後の条文は適当に足していくことにして、会議は解散したんだ。

「――おはようございます、会長」

 朝、一年生の女子が、俺に挨拶をしたあと恥ずかしそうに目の前でスカートを脱ぐ。校則どおりに玄関で。

 さわやかな朝の陽光に似合うボーダー柄パンツと、それに包まれた尻。はにかむような笑顔。

 たまんねえなと思って、そのまま立ちバックで挿入した。

「あんっ、あぁーんっ、会長~ッ!」

「こら、モリ男! 玄関でセックスは校則違反っ。会長自ら校則を破ってどうするのっ」

「やっべ、凜子だ」

 俺が会長になってからも、凜子はあいかわらず風紀委員活動を続けている。「あんたが一番問題児なのは変わらない」って、しつこくマークしてくるんだ。

「いいだろ、別に。俺のための校則なんだから俺の都合に合わせろよ!」

「あんたの都合のために作った校則に、玄関前でのスケベは禁止って書いてあるのっ。外から見られたらどうするのよっ」

 玄関前で下級生相手にヘコヘコ腰を使う俺。性欲のない男子生徒は完全に無視しているし、女子は恥ずかしそうにチラ見しては通りすぎていく。

 たしかに今の俺は野良猫みたいだな。

「学校の中ならやりたい放題なんだし、もっと楽しみはあるでしょう。校則第18条。女子生徒は毎朝パンツかノーパンスカートの写真を教室で撮って生徒会のアドレスに送信すること。可愛くてえっちな写真が続々生徒会に溜まってるのよ。朝はまずはそれを楽しむんだって、いずれパンツ当て大会とかも開くんだって、モリ男も綺麗な目をして夢を語っていたじゃない」

 そういえばそうだ。女子たちが自ら文字やスタンプで可愛い感じにして送ってくるソフトなエロ写真をオカズに、書記にパイズリさせるのを俺の朝の習慣にするんだった。

「そこまで綿密に計画してたのに、なんで毎朝一人目の女子をそっこーでレイプしちゃうのよっ。書記の子、毎朝おっぱい出して生徒会室で待ってるのにかわいそうっ」

「だ、だってよぉ」

「だってじゃないのっ。その子も朝練のために早くから来てるんだから離してあげなさい。学校の中がどうなってるのか、ちゃんと自分の目で見てみたらどうなのっ」

 俺は凜子に連れられて、しぶしぶと学校の中に案内される。

 そこで見たパンツ姿の女子にあふれている廊下は、壮観の一言だった。

「やっべえ。みんなめっちゃ可愛いじゃん」

「ええ。あなたがいつも玄関先でセックスして満足して『じゃっ』て帰っちゃったあとも、学校はこんなに楽しいことになってたの。知らなかったでしょうけど!」

 女子は俺の視線を意識してチラチラと恥ずかしげに尻を揺らす。

 パンツ見放題じゃん。意外とみんなエロいパンツ穿いてんじゃん。男子マジで去勢されてかわいそうだな。

 お尻の大きさも様々で、パンツの柄も様々だ。そんな女の子たちが楽しそうに自撮りしたり撮影し合ったりして、アプリで可愛く加工したりして。

 女子がエッチな格好でわいわいしている光景って、なんでこんな興奮するんだろう。

「それじゃ、次はこっちに来て。いいもの見せてあげるから」

 凛子に連れられてやってきたのは学校のプールだ。

 なんだよ、いいものって。カッパでも捕まえたのかよ。

 しかし、そこには予想と違った光景が広がっていた。

 裸になった女子生徒たちが、スタート台の上で股を広げて水のないプールのほうを向いている。

 そして俺が凛子に渡された笛を吹くと――黒い欲望(BLACK DESIRE)へと続くアーチを一斉に描き出したのだ。

「あっ!? これ、E=mC^2で見たやつだ!」

「そうよ。みんな真面目に勉強しているんだから。ちゃんと感謝して、毎日学校に来なさいよ」

 俺はなんて愚かだったんだ。

 せっかくMCパラダイスを築いたというのに、校門ックスで満足しておうちに帰ってゲームして寝るだけの自堕落な毎日を繰り返していたなんて。

 それはそれで最高だったけどな。

 でもそんな程度で満足してちゃダメなんだ。セックスして終わりなんて、E=mC^2じゃあんまり評価されないやつなんだし。

 もっと俺は楽しまないといけない。

 俺のためにある世界を!

「よぉし、それじゃ次は町内編だ!」

 義母の香澄さんを始めとするご近所の美人妻たちを集めて、MCでエロいことをやらせる。

 男の夢だよな。

「まずは全員、スクール水着に着替えてくれ。そして今日から人間をやめてもらう」

 MC装置によってうつろな目をしている人妻たちに生唾を飲みこみながら、俺は命じた。

「おまえたちはミミズだ――雨降ったあとにアスファルトの上でのたうち回っているミミズだ! 踊れ踊れっ。惨めな姿をさらしやがれ!」

 いやらしい体をスク水で締め付けられた若妻どもが、歩道をゴロゴロと転がっている。

 濡れた水着が朝日を照り返し、白い肌をじりじりと焼かれる音まで聞こえてきそうだ。

 尻に食い込む生地の匂いをムンと想像させる艶めかしい格好で、香澄さんは「あぁ…!」と悶えながら叫んだ。

「ここからどうしていいかわからない…!」と。

 義母の無様な姿に、俺は高笑いして答える。

「それは俺にもわからんなあ!」

「だから、どうしてあんたのやることって全部つまんないのよ!」

 凛子のキックがスパンと俺の尻に決まった。

「センスの問題か、それとも知能かっ。たぶん知能よね! エロといえばセックスしか思いつかないし、無理してひねり出しても意味がわかんないことするっ。せっかくのMC装置が泣くわよ!」

「痛ってぇな……尻もプライドもズタズタだよ! ったく、なんなんだよ! じゃあ、そんなに言うなら助けてくれよっ。おまえがいないと俺はダメなんだよっ。俺、俺、ちゃんとしたMC能力者になりたい…ッ!」

「しかたないわね。よく見てなさいよ」

 

 凛子は、スゥと息を吸い込むと叫んだ。

「ガツン!」

 あぁ。みんな大阪編が最高っていうけど、ねぎ星人編よかったよな。

 と、マンガの話かと思ってニコニコしてたら香澄さんがいきなり水着を脱いで「シテシテ」としがみついてきた。

 豊満な胸をぶりぶりさせて、セックスしないと死ぬのかと思う勢いだ。

 じゃあしてやるかと思ってチンコを出したら、他にも水着の若妻たちが群がってくる。

「ガツンなのっ。早く私のオマンコを舐めて!」

「私は脇の下よっ。剃り跡もなくなるまで舌でなぶってぇ! ガツンガツン!」

「あの、これが私の義母の写真です。どうですか? 今夜、3人でガツンとどうですか?」

「ミミズがお好きなんですよね? 私の中には千匹います!」

「私はカズノコ!」

「私はダイソン!」

 おかしいぞ。どう見ても異常な興奮だし、ちょっと変なことも口走っている。

 しかしこの現象は、俺にも心当たりがあった。

「わかった! これもE=mC^2で見たやつだ!」

 いっぱいありすぎてどれが本家かわからないやつ。

 タグ検索できるようになって初めて1作目を見つけることができた伝説の名シリーズだ。

「そうよ。あなたの好きなタイミングでパニック系のMCエロを楽しめるようにって、香澄さんとも相談して町内会の皆さんを洗脳させてもらったの。女性部副部長の香澄さんも自ら率先してガツン体質に染め上げたのよ。興奮した?」

「やべえよ。最高に興奮する。高い会費を払って町内会に入っててよかった……」

 俺のチンコにむしゃぶりつく若妻たちを見下ろしながら、幸福感に満たされる。

 そうだよ。こういうのでいいんだよ。

 素肌でアスファルトはないよなと思って水着を着せるとか、でも意外とどんな水着を持っているとかでご近所さん同士の生活格差が見えちゃったりするからスクールで統一するとか、余計なこと気にしないで自分の欲望を解放するべきだったんだ。

 みんなが期待していたのはそういうことだし、なにより俺が楽しまないとみんなが楽しめない。

 まあ、そういう不満も結局MC装置で黙らせればいいだけなんだけど、とにかくもっとテンションを上げて一緒にバカやっていかないと。

 俺という男のスケールも小さくなってしまうだけだぜ。

「よぉし……次はいよいよ、宇宙編だ!」

 もう一度NASAに行って今すぐ光速超えろっつって超えさせた。

 どうせなら宇宙空母だよなっつって、バカみたいにでかい宇宙船に仕上げさせた。

 大統領に見送られて俺は宇宙に来た。もちろん近所の美女美少女たちを引き連れてだ。

 肩からかけた上着を宇宙風にはためかせ舳先に立つ俺に、凛子は問う。

「私たち、なんで宇宙に来たん……?」

「まあ確かにインフレの単位を間違った気がしないでもないけど、宇宙で見せたい男の成長っつーか、地球の未来とかも考えた結果というかな。これからどうしよ?」

「いや、私も次は都かなと思って知事にミニスカ条例を作らせたぐらいだったし。宇宙相手になんの準備もできてないよ」

「マジですか……」

 光を超える速さで地球から離れていってるっていうのにノープランなんて、俺たちは一体どうしたらいいんだ。

 そのとき、香澄さんが血相を変えて走ってきた。

 無重力バイブでも抜けなくなったのかな?

「モリ男艦長! 近くの惑星で無数の生命反応を発見しましたっ。都市を思わせる光源も確認できます!」

「なにィ!?」

「香澄さんが宇宙艦生活に適応しているぅ!?」

 俺たちは香澄さんからさらに詳しいデータとパネル操作で証拠を見せられ、空いた口がふさがらなくなった。

「――このことから、対象の惑星生命は、人類と同程度かそれ以上の知性と文明を有するものと推察できるわ。モリ男艦長!」

「香澄さんからも私以上の知性を感じる……」

「宇宙で一番成長したのがまさかの義母だったとはな。いや、香澄さんがそこまでノリノリなら仕方ない。不時着でも決めてやろうぜ、やっこさんたちの星によ」

「わかったわ。モリ男艦長ならそう言うと思ってすでに広域探査用ドローンを積んだ人工衛星を射出しているの。着陸するならその前に大気や気候も分析しないとならないしね。そろそろ軌道に乗って展開を始めているはずだから、現地の映像を観てみましょう」

「なんか、ミニスカ条例とか作ってた私って本当にバカみたいね……」

「俺は好きだぜ、ミニスカ条例。意味わからんけど」

「み、見て、艦長! この星は!?」

「あぁ!?」

 条例で決まってるのかと思うくらい短い制服スカートを穿いて走る少女。そして犬耳がツノが生えた同級生たち。追いかけるロボット。そしてなんだかエロい子ばっかりの巨大学校。

「た、たった1人のための理想郷だーっ!?」

「E=mC^2で見たやつね!」

「なんてこった! 実在したなんて! 俺たちは遙か宇宙まで来たっていうのに、まだあのエロサイトを超えることができないというのか!」

「大気も気候も問題なし。でも、全て停止したまま。宇宙の片隅で時間を止めて眠り続けていたなんて……エタるって、こういうことなのね」

「どうする、モリ男? 私たちで勝手に続きを始めちゃう?」

「やめろ! 俺は田中健一じゃないっ。この理想郷に住む男は田中健一だけなんだ。俺みたいなぺーぺーに、田中健一を名乗る資格はない…ッ!」

 とりあえず理想郷で眠る田中健一に「早く起きろや」と打電して、俺たちは地球に帰ることにした。

 宇宙は永遠だった。欲望に満ちた虚無だった。それがわかっただけでも来たかいがあったというものさ。

 そして地球に着いた俺たちを迎えてくれたのは、大気圏外に浮かぶ巨大な宇宙港からの通信だった。

『そちらの不明機は一時停船してください。ただいま所属を検索します。該当。2百年前に飛び立った宇宙空母【スペースラブホテルモリ男号】確認しました。お帰りなさいませ、モリ男様!』

 衝撃の事実に艦内が動揺する。

 俺たちが宇宙へ飛び立って数ヶ月くらいと思っていたが、どうやら地球では2百年も経っていたらしい。

「これ本物のE=mC^2じゃん!」と、俺たちは腹を抱えて爆笑した。

『お待ちしておりました。我らの王。全ての亜種生命の親であるモリ男様のご帰還を心より嬉しく思います。この感動に震える心を、私たちに授けてくださったあなたに感謝を』

 しかもドールとセックスしたら童卒と言い残した俺の言葉から技術は発展し、人間を模して製造された亜種とよばれる擬似生命体が地上を支配してしまい、今や地底で迫害を受けている人類の中で唯一、俺だけが『亜種王』と呼ばれ崇められているらしい。

「そっちのE=mC^2もまだやんのかよ!」と、俺たちは腹筋バキバキになるくらい爆笑し、彼ら亜種の歓待を受けた。

 享楽の限りを尽くし、地球最高って叫び、これからも人類は迫害でよろしくっつって久しぶりの我が家に帰った。

 亜種だか何だか知らないけど王の家だからって大事にされていたらしく、ゴミ箱にみっちり詰めたティッシュまでそのままですっげえバッドスメルだったけど、なつかしき自分の部屋に帰ることができた。

「ふぅ、やれやれ。童貞捨てたかっただけなのに、なんだかえらい騒ぎになっちゃったな」

 オナニーでもして寝るかと思って引き出しに隠した香澄さんの下着を出そうと思ったら、机の上に書き置きを見つける。

 見覚えのない、やけにきれいな字でこう書いてあった。

『おかえりなさい、モリ男さん。あなたがいつ地球に帰ってきてくれるのかわからないから、手紙を残していきます。私は千代子です。あなたに抱かれたドールの千代子52才。M字開脚させられたまま床に捨て置かれたせいで椎間板の少しイカれたあの女です』

 なんだと……?

 手紙にはこう書かれていた。

 亜種どもの王になった俺の最初のドールである千代子は、亜種の女王として地球に君臨しているということ。NASAに宮殿を建てて住んでいるということ。だけど自分の娘たちの美しさに引け目を感じて表には出れないらしい。

 美しい亜種たちをたくさん製造するから俺に楽しんでくれと。そして、時々でいいから――安い金で買った自分のことも思い出してくれると嬉しい。千代子はいつもあなたのことを想っていますと、その手紙は結ばれていた。

 チンポを握りしめ、俺は泣いていた。

 そして、その格好のまま外に飛び出していた。

「待って、モリ男! そんな格好で外に出るつもり!?」

「ダメよモリ男くんっ。千代子のとこへ行く気なんでしょう? あなたをドールなんかに渡すものですかっ。義母の私を差し置いて!」

「幼なじみがいるでしょうっ。抱くなら私を抱いてっ。千代子なんかよりもずっと若くてかわいい私を!」

「うるせぇっつの! 男なんてなあ、美人のスケベ義母だの美少女のツンデレ幼なじみだの言っても、結局は最初にやらせてくれた女が一番なんだよっ。セックスが全てなんだよ! おまえらなんてダッチワイフ以下だわ。オナニーでもして寝ろブース!」

「ひどすぎない!?」

 俺は走った。千代子の名を呼んで走った。タクシーを呼び止めてNASAに行けって言って、車内でも千代子の名を叫んでチンポをこすり続けた。

 これまでの全てが脳裏を駆け巡る。真実の愛を見つけるための旅だったと知る。

 愛してる。千代子。今すぐ行くから待っててくれ。俺たちは永遠だ。

 あと、言おう言おうと思っていて忘れていたこともついでに思い出したから言っとくわ。

 ちょっと遅くなったけど、E=mC^2開設220周年、本当におめでとさん!

<おわり>

19件のコメント

  1. タイトルと作者名見てまさか続編か!?と思って読み始めたらもっとまさかな内容でめちゃくちゃ笑いました。
    出てきた作品みんな好きな作品で嬉しかったです(特にBLACK DESIREは一番好き)。

    1. ありがとうございます!
      ある意味、続編ではあります(ないです)
      ブラテザ、久しく更新されていませよね……早く続きを書いてほしい(自分には言いません)
      名作多すぎますよねE=MC2。永遠であれ。

  2. 魔法的な何か少女ぐらい酷すぎて(称賛)笑いました
    香澄さんはともかく散々パコられたのに扱いが雑な幼なじみちゃんかわいそうと思いつつ
    あれだけやりたい放題な主人公が結局香澄さんとは致してないことに驚愕です
    そして内容がモリモリに盛り過ぎだからこのタイトルなんだなと思っていたら急に頭痛がはじまり
    コウ……コウを付け足して……と脳内に声が響いて止まらなくなりました

    1. ありがとうございます!
      香澄さんとは超えちゃいけない一線を保ったままでいたかったんでしょうね。間に合いそうもなくて泣く泣くカットした地球編ではめっちゃパコられる予定でしたが。
      これにコウを足した話も、30周年のときに思いきりイジりたいなと思っています。

  3. 冒頭から、あれ? これMCアイテムいらないじゃんと思ってたら……。
    最初から最後まで勢いがあってぶっとんでて大爆笑しました。
    E=mC^2開設220周年めでたい!

    1. ありがとうございます!
      MCアイテムは本当にいらなかったですね…。
      220周年すごい!20周年でもすごい!

  4. ありがとうございます!
    香澄さんとは超えちゃいけない一線を保ったままでいたかったんでしょうね。間に合いそうもなくて泣く泣くカットした地球編ではめっちゃパコられる予定でしたが。
    これにコウを足した話も、30周年のときに思いきりイジりたいなと思っています。

  5. おお!新作?更新?来たか!と喜んで読ませてもらいました。
    相変わらず謎のテンションの高さでモリ男と一緒にこれE=MC^2で見たやつだ…!ってなって笑いました。ありがとうございました!!

    1. ありがとうございます!
      MC小説の面白いところって作者みんなが「俺のMCを読者の心に刻んでやる!」とばかりに変なシーンやシチュエーションを競って書いているところですよね。知らんけど。

  6. 大好きなコウモリ男の夏が更新した!? っと思ったら違いましたね。
    はじめまして。
    笑いました。タイトルとしては挙がってないけど、玄関でスカート脱ぐとかで個人的に名作だと思っているコウソク思い出したりしてみんな好きなシチュは同じですね。

    戦隊物は完結してないの多くて悲しいので余裕があればぜひコウモリ男も続きを。まぁ、私は読む専門なのであれですが、きっと同じ趣味の多数の方が期待してます。

    1. ありがとうございます!
      コウソクそうでした…なんでここまで忘れてたんだ…。MCの数が多すぎるんですよね……。
      コウモリもはい…お待たせしてすみませんです…。

  7. とんでもないのが来た!?
    なんかもう、すべてがぶっ飛びすぎてどこから突っ込めばいいやらw
    童貞という概念がゲシュタルト崩壊を起こしてしまった……

    >管理人さんと直接メールで自作のエロ小説をやりとりするっていう、クレイジーな奴じゃないと投稿できないシステム
    身も蓋もない!?
    まあ、ある意味ここに投稿している人はみんなクレイジーなのかもしれない……
    何にせよE=mC^2開設220周年、めでたい!

    1. ありがとうございます!
      世の中にはクレイジーな人間がこんなにいるんだとしたら安心しますよね。
      噂では2つも3つも名義を分けて投稿する本物のクレイジーもいるとか……。
      次の330周年までにどんなクレイジーが増えているのか楽しみですね!

  8. 一体みゃふは何を読まされているんだ・・・?

    モリ男の夏、つまりはモリサマー、これは中二病でも恋がしたいだったんだよ!
    な、なんだってー!!
    っていうボケを最初にかまそうとしたのにどっか行ってしまったじゃないでぅか!w

    なんでぅかこのノリw
    勢いだけで突っ走ったものすごい内容じゃないでぅか。

    久しぶりの投稿だからとゆっくり読める時間をつくって全裸待機したみゃふはどうしたらいいんでぅか!?
    亜種王のエルフたちで抜いてくればいいんでぅか!?
    ウラシマ効果で200年も過ぎちゃって人類衰退しちゃってるじゃないでぅか
    E=MC^2の周年も220周年になっちゃって記念すべき百周年過ぎてるじゃないでぅかw

    とにかく、最初から最後まで笑わせていただきましたでよ。
    今度はエロいのが読みたいなーw

    ガツンは一作目のノリが一部(主にEGOに屯してた)の連中に受けて、みんなで無駄に書いたシリーズでぅからね。
    作者の方からじゃどれが最初か分かりづらいでぅよね。

    1. ありがとうございます!
      勢いだけで書くと今でもnakamiだなって思いましたね。ウェルカムトゥnakamiワールド…(中二病のボケ回収しときました)
      でも考えてみたら昔から実用度はそんなに高くないですよねワタクシ。自分のエロいのは自分で書こうぜみゃふ氏!

      ガツン、真面目にタグ検索で初めて始祖を知ったのですが、なるほどEGO……またしてもあの闇の先人たちが……(中二病のボケ回収しときました)

  9. E=MC^2 20年の輝かしい歴史が、シェイクされて圧縮されて、キャトルミューティレーションされたら、
    こんな感じの一本になるのではと、妙な説得をされた気分でした(笑)。
    おちんちん大百科さん、ご無沙汰しております。お久しぶりです。
    楽しませて頂きました!
    やはりどんなことが変態的なんだろうと考えている時、我々はすでに変態なんだと思いました。
    貴方が変態を覗きこんでいる時、変態もまた、貴方を・・・(って、怖っ)。
    タイミング遅れて、真冬に読ませて頂きましたが、読んでる間だけ、真夏でした。ありがとうございました。
    ガツンも懐かしかった。乗り遅れたんだよなー。このへんも(笑)。

  10. ごぶさたしております、永慶さん!
    新システムになれてなくて長いこと返信を放置してしまい申し訳ありません(この返信も見つけてもらえるだろうか…)
    20年、人が生まれて成人になってこのサイトにたどり着くまでと考えたらすごいですよね。つまり人は生まれながらに変態で、知とは性癖より生じるんだとアインシュタインは言ったんですよね、多分。多分ですけど。

    おるすばん、楽しませていただいてます〜。私たちも書き続けましようね!

  11. アインシュタインさんとは確か、全てのおちんちんの長さは相対的なもので、パートナーの短小を嘲る女はむしろ自分の魅力の無さを懺悔すべきと
    論じた偉大な学者さんですよね。沢山勇気をもらいました。
    僕は引退宣言からの復帰後は、相変わらずの半年に一度のペースで投稿しております。気力が尽きるか需要が無くなるまで、やってみようと思います。
    おちんちん大百科さんも、無理せず続けてくださいませ!

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