充、後催眠を試す
「おはよう」
翌朝、教室に入った充が声をかけると彩の顔に動揺が走った。
「あ・・・おは・・・よう・・・」
彩は目を合わせようとしない。
その頬が赤くなったのを充は見逃さなかった。
「で、内容は確かめたんだよね?」
「えっ・・・?」
「DVDだよ。ちゃんと資料だっただろ?」
「う・・・うん・・・」
彩の頬がますます赤くなる。
「だったら返してよ」
「うん・・・」
彩はカバンを開けると、かわいらしい封筒を取り出して充に渡す。
「岸本のせいで台本の仕上がりが丸一日遅れちゃったよ」
「ごめん・・・」
充がそう言うと、彩は消え入りそうな声で答えた。
「ところで、今日の放課後、時間ある?」
「えっ?」
「また予備校?」
「あっ・・・うん・・・でも、下校時間までなら・・・」
「だったら部室に来てよ。待ってるから。昨日読んでもらった台本について聞きたいんだ」
「わかった。生徒会の用事を済ませたら行くね」
彩が答えたとき始業のチャイムが鳴った。
昨日、充は家に帰ってから彩のことを考えて何度もオナニーをしてしまった。まるで、自分の暗示が自分にかかってしまったようだと思いながら、彩がオナニーをしているところを想像すると際限なく勃起してしまったのだ。
岸本彩。典型的な優等生。成績はいつも学年でトップクラス。身長は165センチくらいでやせ形。制服は校則どおりに着こなし、他の女生徒みたいにスカートをウエストのところで捲り上げてミニなんかにはしていない。しかし、かえってそれが丸いヒップを強調することを充は昨日知った。ストレートのロングヘアーは肩から30センチほど下へ伸びている。染めていない黒髪は艶やかで美しい。細面で涼やかな目元は美少女だと言っていい。ただ、真面目すぎて面白味に欠ける性格から、充はいままで彩を女として意識したことがなかった。
しかし、いま、彩は自分の手中にある。そう思うだけで、充は妄想を抑えることができなかった。
催眠術を利用すれば岸本彩を抱けるかもしれない。いや、抱きたい。抱けるはずだ。妄想はどんどん膨らんでいく。
台本を書くために、充は催眠法の本を何冊も読んでいた。多くの本には、被験者が本当に嫌なことは、いくら暗示をかけてもできないと書いてあった。根気よく時間をかけて誘導していけば人格さえも変えられると書いてある本もあった。
後先を考えなければ、催眠状態の彩とセックスするのは簡単だろう。しかし、それは充の美意識に反した。できれば彩が自分を望むかたちで抱いてみたい。そして、小生意気な彩を奴隷にしたい。何度も抜いて賢者タイムになった頭で、充はこれからどうしたらその望みを叶えられるのか計画を練った。
「ごめん。待った?」
5時過ぎに彩が息を切らして部室へやって来た。
「いや。台本直してたから」
部室といっても道具と机があるだけで、他の部員は体育館などで発声練習などをしている。台本が完成したら、ここで打ち合わせや練習をすることになるが、それまでは誰も来ない。
「で、台本についてってなに?」
「うん。昨日見せたのは誘導する言葉とかがちょっと弱いかなって思ってたんだ。だから、あのDVDを借りたんだ。そのへんのことを岸本に聞きたいなって。あのDVD見たんだろ?」
「あっ・・・」
瞬時に彩の顔が赤くなった。
だいたい、無理をしてここへ来る義理など彩にはない。それなのに来てしまったのは昨日の暗示が通常の彩にも影響を与えているのだ。充は、それを確かめたくて彩を部室に呼んだ。もちろん、それだけで済ますつもりは毛頭ない。
「なあ、岸本。本当の気持ちを教えてくれよ」
「はい・・・」
彩の目つきが変わった。真っ直ぐに前を見ているようで、どこにも焦点が合っていない催眠状態独特の目つきだった。
「僕は誰?」
充は「僕」と「俺」という一人称を使い分けている。
「わたしの・・・心の声・・・です・・・」
「そう。僕は心の声。僕と話をしていると、あなたはどんどん幸せな気持ちになっていく」
「はい」
彩は歓喜の表情を浮かべて答える。
「昨日、DVDを見たね?」
「はい」
そう答える彩は若干恥ずかしそうだ。
「どうだった?」
「男子って、こんなのが好きなのかなって・・・」
「それだけ?」
「あ・・・あの・・・」
「ちゃんと答えなさい。そうすると気持ちがよくなるから」
「はい・・・あなたの言うとおり・・・吉川君におんなじことをされることを想像して興奮しました」
「僕は心の声。それは、あなた自身の気持ちです。だから興奮したんです。わかりますね?」
「はい・・・」
「いま、あなたがいるのは夢の中です。そして昨夜のことを思い出しています。あなたはDVDを見てなにをしましたか?」
「自分で・・・あそこをいじって・・・何度も、何度も・・・」
「気持ちよかったんですね?」
「はい。すごく・・・」
「どんなシーンを想像したんですか?」
「吉川君が、わたしに命令するんです」
「なんて?」
「目の前で裸になってオナニーしろって・・・」
「で、そうしたんですね?」
「はい」
話を聞いているだけで充は暴発しそうになる。それでも施術者として醒めたところがあって言葉を続ける。
「どこで?」
「ベッドの上です」
「本当に裸になってしたんですか?」
「そうです」
彩が全裸でオナニーをするところを想像すると充は暴発寸前になった。
「いま、あなたはどこにいるか、わかりますか?」
「夢の・・・中です・・・」
「そうですね。あなたは夢の中で昨夜のことを思い出しています。そうすると昨夜に戻っていきます」
「あっ・・・」
彩がビクンと震えた。
「ここはベッドですよ」
部室にあるボロボロのソファーを充は指さす。
「時間が戻りました。あなたは自分の部屋にいてDVDを見ました。そして、吉川君に命令されるところを想像しています。僕がみっつ数えると、そこから、また時間が流れはじめます。ひとつ・・・ふたつ・・・みっつ」
彩は無言で制服を脱ぎはじめた。
彩にとって今の自分は心の声だから平気で服を脱ぐんだと充はわかっている。だから、触りたいのを我慢して彩の身体を鑑賞するだけにする。
さすがに真面目なクラス委員だけあって、彩は脱いだ制服を丁寧にたたんで机の上に置いている。いまどき、どこで売っているのかプレーンな白の下着姿になった彩のバストは想像よりずっとボリュームがあった。
彩は躊躇うことなくブラジャーのホックを外す。
白い豊かなバストの頂にある可憐な乳首。そのピンクがかった薄茶の蕾にむしゃぶりつきたいという衝動を抑えている自分が不思議に思える。
そして、ついに最後の一枚を脱いで生まれたままの姿になった彩はネットなんかで見る女の裸より数百倍も美しいと思った。控えめに生えているヘアーの奥のスリットまではっきりと見える。
彩はソファーに横になると右手の指先を股間へと滑り込ませた。
左手はバストを持ち上げるように動いて、親指と人差し指で乳首を挟むようにしてしごいている。
彩の口から甘いため息のような喘ぎが漏れる。
充はカバンからiPhoneを取り出して動画モードにした。目的があったわけではないが、どうしても彩のこの姿を残しておきたかった。
「なにを想像しているんですか?」
充は裏返りそうになる声を抑えて、心の声を演ずる。
「吉川君が・・・DVDみたいに・・・見せろっていうんです・・・」
喘ぎながら彩が答える。
「吉川君に見られると感じてしまう・・・そうですね?」
「はい・・・そう・・・ああっ・・・」
喘ぎとともに彩がビクンと震える。
「では、このiPhoneを吉川君だと思いましょう。吉川君はもっと見たがっています。脚を開いて自分でエッチしているところを見てもらいましょう」
充は彩の下半身側に移動して股間へiPhoneを向けた。
「は・・・はい・・・ああっ・・・はずかしいのに・・・」
ピンク色の秘肉が露わになった。そこを弄る彩の指先が蜜で濡れている。
「普段のひとりエッチより何倍も感じてしまいますね。ほら、もうイってしまいそうだ」
「ああんっ・・・いやっ・・・いやぁぁぁっ!」
大きく身体を震わせながら彩は絶頂を迎えた。
充は我慢ができなくなった。ここまま彩を抱いてしまおうと思った。そのとき、無常にも下校時間を告げるチャイムが鳴った。
もっと時間が欲しい。充は唇を噛んだ。
「はい、吉川君も満足したようです。服を着ながら聞いてください」
「はい・・・」
彩は指示に従う。
「もうDVDはありません。でも、夜になるとどうしても吉川君のことを思い出してしまいます。そして、ひとりでエッチをしてしまいます。いいですね?」
「はい・・・」
「吉川君の台本を読んでどう思いましたか?」
「あ・・・えっと・・・ちょっとビックリしました」
「どうしてですか?」
「不真面目で、いつもおちゃらけている吉川君が、あんなものを書けるのかって思って・・・」
「おもしろかったですか?」
「はい。すごく」
彩が自分の台本を褒めてくれたのは意外だったがうれしかった。
「ならば吉川君に協力してあげましょう」
「はい。どんなふうに?」
「吉川君の台本は実験的な作品です。吉川君は悩んでいます。それは催眠のことだけでなく、女子の心理や行動、生理についてもです。男子にはわからないことがたくさんありますからね。台本の完成度を高めるにはそれが必要なのです。だから、あなたが教えてあげれば吉川君はよろこびます。吉川君のよろこびは、あなたのよろこびでもあります。そして、吉川君のよろこびの大きさだけ、あなたは感じやすい身体を手に入れることになります。ひとりでエッチするときも、もっともっと感じるようになります。わかりましたね?」
「はい。わかりました」
そう答える彩はモジモジしている。
「どうしましたか?」
「あの・・それを考えたら・・・あそこが濡れたままパンツを履いたのに・・・もっと濡れてきて・・・気持ち悪いんです・・・」
「だったら脱いでしまいましょう。僕が処分してあげます。だれも気がつかないから大丈夫ですよ。さあ」
充はそう言いながら、またiPhoneを彩に向けた。
彩はスカートの中へ手を入れてショーツを脱ぎ充に手渡した。
「さて、これからみっつ数えると、あなたは目を覚まして現実に戻ります。ここであったことは忘れて、吉川君と台本について話し合っていました。いいですね?」
充は受け取ったショーツをポケットに入れながら言う。
「はい」
「それでは・・・ひとつ、ふたつ、みっつ」
彩の目に光が宿る。
「だからさ、ここのセリフをどうしようか悩んでるんだよ。なのに、また時間になっちゃった。あれ・・・岸本、どうしたの?」
いままで話をしていたかのように充が言う。
「あっ・・・うん・・・なんでもない」
「もう帰らなくっちゃ。もっと時間があればなぁ・・・」
「あ・・・あの・・・」
「なに?」
「あさっての日曜だったら時間あるよ」
「マジ?」
「うん。予備校ないし、家で勉強するだけだから」
「岸本が協力してくれるなんて、マジでうれしいよ」
演技ではない笑顔を彩へ向ける。台本に協力してくれるのがうれしいのではなく、もっとこの先へ進めるのがうれしいのだ。が、もちろん、そんなことは口にしない。
「うち・・・来る?」
彩が頬を赤らめながら言う。
「いいの?」
「うん。お父さんもお母さんも用事でいないから、なんのおかまいもできないけど・・・」
「やった! 最高だ。岸本、サンキュー」
同時に理想的な場所を確保できたうれしさに充は思わず彩の手を握っていた。
「あっ・・・」
「あ・・・ごめん・・・つい、うれしくて・・・」
「ううん・・・いいの・・・」
「うわっ! やべ! もう6時になっちゃう」
「大変!」
二人は部室から飛び出すように外へ出る。
「そういえば、俺、岸本の携帯知らないんだけど、教えて」
校門を出て充は彩に言った。
「あ・・・」
充が取り出したiPhoneを見て彩が固まる。
「どしたの?」
まだ記憶の片隅にさっきの出来事が残っているのかもしれない。充は脇の下に冷たい汗をかきながら、とぼけることにした。
「ううん・・・なんでもない。えっと、090の・・・・」
彩が11桁の数字を口にする。
「かけていい?」
「うん」
充が発信ボタンをタップすると、彩のカバンの中からかすかにバイブレーターの唸りが聞こえた。
「それ、俺の番号だから。明日の昼頃、電話していい?」
充は彩の番号をアドレス帳に追加しながら言った。
「うん」
「じゃ、これで。岸本、予備校あるんだろ? 俺も、ちょっと急ぎの用事があるからさ。じゃね」
手を振って走り出した充のことを彩は見送った。昨日とは立場が逆になっていた。
< つづく >