Love Is the Plan the Plan Is Death 3

-3-

 円城寺武は夢を見ていた。
 幼い頃より何度も訪れ、よく見知った家の庭先。
 忙しく動き回る可愛らしい子犬。
 その子犬の頭を愛しそうに撫でる少女、吉沢茜。
 それはささやかではあるが幸せな光景。
 円城寺武が守りたいと願っていた日常だった。

 その日、武は茜に家に遊びに来ていた。
 飼い始めた子犬を見せてもらう約束をしていたのだ。
「よ~し、こっちにこい! 名も知らぬ犬!」
 武がおどけながら両手を広げると、尻尾を振りながらじゃれ付いてきた。
「よ~しよしよし」
 楽しげにじゃれ合う様子を見て、茜が驚いた表情を見せる。
「へぇ~、ジロが初めての人に懐いてる……」
「ジロっていうのか?」
 改めて目の前の雑種犬を見る。
「よろしくな、ジロ」
 ジロも嬉しそうに一声鳴き、勢いよくじゃれ付く。
「捨て犬だった所為か警戒心が強くて、初めての人にはまず慣れないんだけど……」
 茜が今までを思い出し言うが、しかし今回は違っていた。
「うん、武の事は大丈夫みたいだね」
 そう言って嬉しそうに笑った。
 茜の笑顔が眩しく見えて、照れ隠しにおどけた。
「な~に、俺の人徳ってヤツだろ」
「武が人間より動物に近いってだけでしょ?」
 2人の笑い声が響く。
 それは、幼馴染と過ごす、何気ない日常だった。

 そう、2人は幼い頃よりずっと一緒に過ごしてきた。
 何をするにも一緒だった。
 特に近所の裏山にある大きな木の下は、2人にとって大事な遊び場だった。
 年が過ぎ、昔の様に遊ばなくなっても、何か大事な事がある時はこの木の下で語り合った。
 この木の下にいると何故か意地も張らず、素直な気持ちになれたのだ。
 正に、2人の思い出の場所だった。

 だが、それらは全て過去の夢。
 二度と戻らない、過ぎ去った思い出だ。
 夢が終わった時、武は自分が無明の闇の中にいる事を自覚した。
 何も見えない。
 何も聞こえない。
 何も触れられない。
 圧倒的な闇。
 武は孤独だった。
「俺は……死んだのか?」
 そう呟いた時だった。
 武の耳に耳障りな声が響いた。
『その通りだ』
「誰だっ!」
 武が誰何するが声は問い掛けを無視し、語りかける。
『円城寺武よ、蘇りたくはないか? 先に見た懐かしき日々を、その手に取り戻したくはないか?』
「……蘇る……だと!?」
 その声に武は激しく動揺する。
 追い討ちをかけるかの様に、声は続ける。
『我と契約せよ。さすれば汝は古き骸を捨て去り、蘇るであろう』
 その声には邪悪な響きがあった。
 どう考えてもヤバイ類の契約だろう。
 同時に堪らなく甘い誘惑でもあった。
 武は迷った。
 だが、武の脳裏に家族や友人、そして何より茜の姿が浮かぶ。
 それが迷いを断ち切った。
「……お前と契約すれば、俺は生き返るのか?」
『いかにも』
 重々しく声が応える。
「……俺は……俺は、まだ死ねないっ! 契約でも何でもしてやるっ! だから、俺を茜のいる世界に帰してくれっ!」
 それは魂の叫びだった。
 武の叫びに、声が満足げな声を出す。
『よかろう。汝が望み、確かに受け取った。新たな体を得て、あるべき世界に帰るべし』
 武の視界に光が溢れる。

 光に目が慣れた時、武は自分が雑踏の中に立っている事に気が付いた。
 茜色に染まる街。
 忙しく行きかう人々。
 そこは見慣れた通学路の商店街だった。
 いきなり街中に出た事で、武は動揺した。
 とりあえず自分の頬をつねってみた。
 痛い。
 その痛みが、これが夢ではない証に思えた。
 街は茜色に染まっている。
 恐らく夕方だろう。
 辺りを見回した時、ふと時計屋が目に入った。
 妙な違和感を感じ、よく目を凝らして見る。
 それは年月日を表示するタイプの時計だった。
 その示す数字は、武の知っている年からきっかり1年が経っていた。
 確認しようと武は時計屋のディスプレイへと駆け寄った。
 その時、ディスプレイのガラスに自分の姿が映りこんだ。
 武は初めはそれが自分だとは思わなかった。
 銀色に輝く長い髪。
 同じく銀の瞳。
 透き通るような白い肌。
 あどけなくも妖艶な、だがそれ以上に冷たい印象が先に立つ美貌。
 小柄でややフラットな身体を包む、クラッシックな白いドレス。
 そのどれもが、円城寺武とはかけ離れていた。
 そう、円城寺武はこの世に帰還した。

――銀の女王の姿で。

 混乱する武の傍を、学生服を着た生徒達が歩いて行く。
 下校時間なのだろう。
 よく見れば、かなりの数の生徒が行き来していた。
 武はその中に、一番会いたかった人物を見付けた。
 背中まである黒いナチュラルストレートの髪。
 どこか猫科の動物を思わせる大きな瞳。
 女子としては高めな身長と、均整の取れたスタイル。
 茜だ。
 武は茜の名を叫ぼうとした。
 が、茜の隣を歩く少年を見て、武は凍りついた。
 ツンツンしたザンバラ髪。
 学ランに包まれた長身痩躯。
 やや目付きの悪い双眸。
 そこにいたのは円城寺武――本来の自分の姿だった。
 茜が、自分と同じ姿をした人物と楽しげに話しながら歩いてくる。
 武は呆然とした。
 2人は武のすぐ横を通り過ぎて行く。
 無論、茜は武には気付かない。
 楽しそうにあちこちの店を見て回る茜。
 早く帰って休む様に気遣いながら、強く出られず結局押し切られる武。
 それは正に、自分が過ごしていた日常そのものだった。
 武はかける言葉も無く、項垂れるしかなかった。

 その時ふと、「武」が振り返った。
 その目がはっきりと、項垂れた銀髪の少女を見た。
 そこに込められていたのは、殺意だった。

 武はあまりの事に、力無く跪いた。
 自分は一体どうなってしまったのか……。
 答えが出る筈も無く、これからの事など何も考えられなかった。
「あの~、大丈夫ですか?」
 声を掛けられて、慌てて顔を上げると女性と目が合った。
 時計屋の店員だろう、店のロゴが入ったエプロンをしている。
「気分が悪いなら、救急車呼びましょうか?」
 心配そうな声で言う。
 店先で様子のおかしい武を気遣ってくれていた。
「大丈夫です……か……ら……」
 返事をしようと言い掛けた時、武の中で言いようの無い衝動が生まれた。
 今まで全く感じた事の無い欲求だった。
 武の銀の目が、淡く金色の光を帯びる。
 その目を見た瞬間、女性は吸い込まれそうな感覚に捕らわれた。
 意識が遠のいて行く……。
「店に休める場所はある?」
 武が尋ねる。
 その口調は、外見に相応しいものとなっていた。
「……はい。中に休憩所があります……」
 女性が事務的に答えた。
 その目に、意思の光は感じられない。
「貴女の他に人は?」
「……今は私だけです」
「そう。ならそこに行きましょう」
 武が言うと、女性は先導する様に歩き出す。
 2人は店に入り、扉に閉店の札を掛けた。
 そして休憩所に入る。
「脱いで」
 武が言うと、女性が服を脱ぎ全裸となる。
 武が細い指で女性を撫でる。
「思い切り感じなさい」
 そう言うと、女性は忽ち嬌声を上げる。
「ひぃぃぃあぁあっ! いいっ! ぃひぃぃえぃぃぃぁぁあああぁあっ!」
 武はゆっくりと女性の全身を愛撫する。
 それだけで女性は何度もイッた。
 武が胸を揉み乳首を口に含むと、全身を痙攣させ倒れこんだ。
「あらあら、あぶない」
 武は自分より大きい女性を難なく支え、横にすると更に激しく愛撫する。
 女性はもう何度イッたかわからない。
 その顔はひどく淫蕩な物となっていた。
「もういいわね」
 武が言いながら、女性の膣に口を付けた。
 そして吸い上げる。
「がぁぁああぁああぁあっ! ひっ! ひぃぃあぃあいぁいああいぁひああぃぃぃっ!」
 女性は何も考えられない状態の中で、自分から何かが吸い取られていくのを感じた。
 愛液と一緒に、マナもずるずると吸われていたのだ。
 だが、今の女性にとっては、その全てが快感だった。
 この快感が味わえるなら、全てを吸って欲しかった。
 女性は見る見る内に衰弱していく。
「あ……あうぁ……ぁあぁあ……あ……うぁ……」
 このままでは死んでしまうかと思われた時。
「俺は……何をっ!」
 武の目から金の光が消え、口調が武本来の物へと戻った。
「俺は……いったい……」
 目の前には死にそうな程衰弱した女性が横たわっている。
 セイバーとしての知識が事実を告げていた。
 自分が女性のマナを吸ったのだ。
 そう、武は外見だけ銀の女王になった訳では無かったのだ。

 武は絶叫した。

< 続く >

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