変えられた常識、変わる私

 ふと窓の外を見ると、すっかり暗くなっていた。
(……あれ? 私、なんでこんな遅くまで残ってるんだろ?)
 椅子に座ったまま周囲を見回してみると、教室には誰もおらず、運動場の方から活動している運動部の掛け声が響いているくらいで、静かなものだった。
 特に部活にも委員会にも入っていない私は、授業が終われば即帰る毎日で、夜遅くまで学校に残る理由は何もないはずだった。
(やだ……寝てたのかな。誰か起こしてくれてもいいのに)
 そう思って涎が垂れていないか確かめるために口元を手で拭う。

――ねちゃり、と粘っこい感触がした。

(ん?)
 最初は涎かと思ったけど、どうやら違うみたいだった。
 見た目は妙に白くて、指を鼻に近付けて臭いを嗅いでみると、ちょっと生臭い。
(なにこれ? ……まあいっか)
 私は机の脇にかけてあった鞄を手に取り、教室を後にした。

 翌日。
 私は授業が始まる時間に間に合うように家を出て、始業開始15分前に学校に着いた。
 もう少し早く着くかと思ったけど、案外ギリギリになってしまった。
(あー、かったるい……眠いし、寒いし……)
 膝上まで丈があるコートの中に首を引っ込めるようにしつつ、私は校門を潜る。
 服装検査のために待ち構えていた先公が、私を見てなぜか驚いた。
「お前、こんな時間に来るなんて、今日はどうしたんだ?」
 どうしたんだ、とはまたご挨拶だと思う。単に始業に間に合うように来ただけなのに。
「いけませんか?」
 そう問いかけると、先公は少し慌てつつ、咳払いをする。
「いや、問題ない。これからもその調子で来るように」
 私が先公の前を通りすぎようとすると、そこで思い出したように声を上げる。
「待った! 服装チェックを忘れてた! コートを脱いでスカートの丈を見せなさい!」
 めんどくさい。
 無視して行ってやろうかと思ったけど、まあいいか。
 私はコートのボタンを開けて左右に開く。
 だって。
「はい、どうぞ」

 丈も何も、そもそもスカート自体身に付けてないし。

 コートの前を開いたことで、冷たい風が直接股に当たって寒い。上の制服と下着は着ているからまだマシかな。先公に下着を見られるなんて朝から最悪だけど。
 私の服装を見た先公は大きく目を見開き、それから、なんとなく釈然としない顔をした。
「ん、まあ、いいだろう。問題ない、か……?」
 まるで『それ』がおかしいことのように先公は首を捻る。そんなに私がスカートをちゃんと『着てこなかったこと』が納得いかないんだろうか? 本当に失礼な話だ。
「何か問題でも? 委員会から私に対しては『登校時のスカート着用は禁止』って通達があったんですけど」
 そう言ってやると、服装が問題ない相手を引き留めて置くことは出来なかったみたいで、慌てて応える。
「いや、すまん。そうだな。そうだった。うん。なんの問題もない。引きとめて悪かった。行きなさい」
 最初からそういえばいいのに。全く先公というのは本当に鬱陶しい。
 私はあくびをしながら校舎の中に入る。
 上履きに履き替えようとして下駄箱を開けると、中には手紙が入っていた。
 私は一瞬それが何なのかを考えて。すぐに思い出す。
(ああ、そっか……今日は何なのかな……面倒な物じゃなければいいけど)
 そんな風に思いながら手紙を開けて読む。
 手紙には以下のように書かれていた。

『真辺和恵
  本日の制服は下半身無着衣である。
                生徒管理委員会』

 私はそれを読んで、少しだけほっとした。下を脱ぐだけなら難しいことも面倒くさいことも何もない。運が良い。
 その時、丁度私の隣で同じように下駄箱を開いた女子が「げっ」という少し品のない呻き声を漏らした。
「どうしたの?」
 気になって私が訊くと、その子は嫌そうな顔で答えてくれる。
「私の今日の制服、アームバインダー着用、だって! 超最悪……」
 そう言ってその子が下駄箱に入っていた皮の袋みたいなものを取り出して来る。それは両手を後ろで拘束するためのものだった。なるほど、こんなバリエーションもあるんだ。色んな征服のパターンがあるのは知ってたけど……これはその中でも難易度の高い制服だ。
「上半身裸になんないといけないから寒いし……もー。委員の奴ら、もっと考えてよねぇ……」
「大変ねぇ……手伝おうか?」
 私はショーツを脱いで下駄箱に放り込みながら言う。私の方はこれだけだから準備の時間も要らない。
 アームバインダーを装着するのは大変なはずだ。私の申し出に、その子は申し訳なさそうな顔をしながらも、どっちにせよ一人じゃ着れないから、受け入れた。
「うん、ごめんね。お願い」
 彼女は一端着て来ていた制服を脱いで、それを靴と一緒に下駄箱に放り込む。裸の上半身が寒そうだ。正直これに当たらなくて良かったと思う。
 私は彼女からアームバインダーを受け取り、それをその子が後ろ手に真っ直ぐ伸ばして重ねた両手に被せていく。ラバー製のそれは、摩擦力が凄くて着せるのにも中々苦労した。彼女のサイズにぴったり合わせてあるのか、これならよほどのことがない限り抜けないだろう。それでも一応手首、肘、肩口の近く辺りに付けられているベルトを締め、万が一にも勝手に脱げないようにする。彼女は少し窮屈そうに身体を捩らせながらも、私に向かって笑顔でお礼を言ってくれる。
「ありがと」
「うん。似合ってるわよ」
「あなたも」
「それは皮肉?」
 似合うも何もない。私の制服は『下半身無着衣』なのだから。その子なりのジョークだったらしい。
「冗談よ、冗談」
「そんな暇ないわよ。早く教室行かないと」
 いくら校舎に入っているとはいえ、授業開始までに自分の席にいなければ遅刻と同じだ。遅刻になった場合のペナルティはなるべく受けたくない。
 両手が使えない彼女の代わりに鞄を持ち、私と彼女は一緒に階段を上がる。もうちょっとで教室、というところで私達は呼び止められた。
「おい! 真辺! ちょっと待て!」
 げっ、先公だ。呼びとめられるなんて、ついてない。
 私が足を止めると、声をかけて来た先公は厳しい顔で私の足元を指さす。
「おい、制服を改造しちゃいけないだろう」
「してませんよ」
「お前の今日の制服は『下半身無着衣』の筈だろう。なのになんで、靴下と上履きを履いているんだ?」
 あ。しまった。
 ついアームバインダーの装着の手伝いをしている内に、うっかり忘れてしまっていた。
「すいません。忘れてました」
「忘れてたで通るか! いますぐ脱げ! 没収だ! それと、校則違反の罰を受けてもらうぞ!」
 もう、面倒だなぁ。
 私は手に持ていた鞄をここまで一緒に来た彼女に差し出す。
「教室はすぐそこだし、取っ手を咥えれば持って行けるでしょ?」
「で、でも……」
 私が靴と靴下を脱ぎ忘れた原因が、自分だという自覚があるようで躊躇っている。私は半ば無理やり鞄の取っ手を咥えさせ、押し出すように送りだした。
「いいからいいから」
「ふぇも……」
「行った行った」
 それでも躊躇う彼女を追いやり、私はまず上履きと靴下を脱ぐ。それを先公に渡した。偉そうにふんぞり返る先公は、それを手に提げていた袋に入れる。
「よし、では校則違反の罰を受けてもらうぞ。壁に手を突いてお尻を突きだしなさい」
「はいはい……」
「態度がなっとらん!」
 いきなり来た。
 掌をお尻に叩きつける、いわゆる『お尻ぺんぺん』。正式にはスパンキング。
 この歳にもなってこんな罰を、と思うけど下半身裸でこれを受けるのは想像以上の屈辱だった。
 おまけに音を聴き付けた男子が、教室の窓から身体を乗り出してこちらを見ている。最悪。
「どんどんいくぞ! 制服改造の罰は二十発だ!」
 無駄に気合いを入れて叩いてくれるもんだから、物凄く痛い。
「くぅ! ぅんっ! あっ!」
 勝手に身体が動きそうになるのを必死に抑える。腰を引いたら、きっと「腰が引けるなどなっとらん!」とか言って追加で叩くに決まっている。それは避けないと。
 私が叩かれるのを堪えている内に二十回が終わったのか、先公が私から離れる。
「よし、それでは行ってよし。今後制服改造などしないように。ああ、あとそれと、ちゃんとお礼を言いなさい」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 正直こっちはじんじんする痛みでそれどころじゃないんだけど、言わないとまたそれを理由に罰を与えられてしまう。
 私は何とか言葉を絞り出す。
「この、馬鹿な雌豚に、罰を与えていただき……ありがとう……ございました……」
 凄く屈辱だ。言ってることは普通の謝罪とお礼の言葉なのに……なんで罰を受けた後に言うと、こんなにも屈辱なのだろう?
 ようやくそれで満足したのか、先公はどっかに行ってしまった。私は上手く動かない脚を動かして、教室まで移動する。ところが、その途中でチャイムがなってしまった。
 教室の中から私のことを見ていた男子達が俄かに活気づく。
「おいおい真辺! 遅刻だぞー!」
 はやし立てる声。わかってるってば。
 私はどうやら遅刻の罰まで受けなければならなくなったみたいだった。もう、本当に最悪だ。
 なんとかして教室に辿り着いた私を待っていたのは、ミニスカナースの格好で仁王立ちになっている担任だった。今日はナースデーだったっけ。教師の側にも制服の着用義務がある学校は珍しい。それが日替わりで変わるともなれば、うちくらいのものじゃないだろうか?
 現実逃避気味にそんなことを考えていると、担任の嫌味な声が飛んできた。
「真辺さん。遅刻ですよ」
 インテリなことを象徴したいのか、メガネをくいっと中指で押し上げる担任。ノーブラなのか無駄に大きいおっぱいが僅かな動きに従って揺れる。ミニスカの丈は股上になっていて、あそこを覆う剛毛が見えてしまっている。なんていうか、これが女の先公に与えられた制服なんだけど……こんなのを男は喜ぶんだろうか。同じ女性の私からすればだらしないという印象しかないんだけど。
「なんですかそのへっぺり腰は」
 さっきまで廊下でスパンキングを受けていたからだ、と言いたくなったけど我慢。この担任には何を言っても無駄だ。自分が三十路目前ということもあってか、女子生徒に対する当たりが妙に厳しいことで有名な先公だし。
「荷物と着ている物を全部そこにいれなさい」
 そう言って担任は教室の隅においてある箱を指さす。仕方なく、私はそれに従って箱に上半身の衣類や持ってきた鞄を放り込んだ。全ての持ち物を入れたことを確認すると担任はその箱の蓋を締めて鍵をかけてしまう。そしてその鍵を私の左手に握らせた。
「放課後までこの手を開いてはいけません。いいですね?」
「はい」
 鍵を罰を受けてる張本人に持たせるなんて、と思われるかもしれないけど、放課後まで手は開けないのだから一番確実な保管場所だと言える。
 それから担任は窓際の教室の隅に私を連れて行った。
「いいですか。これからあなたはマネキンと同じです。基本体勢は崩さず、私がいいというまでその体勢のままでいてもらいます。いいですね?」
「わかりました」
「それから、途中であなたの身体が完全に固まってしまわないように、男子生徒が『手入れ』をするかもしれません。その際にはきちんと感謝を込めてお礼をいうこと。わかりましたか?」
「はい」
「では……そうですね……」
 基本姿勢は担任が決めることになっている。
 少し担任は考えてから、私の左足を大きく上げさせ、そのふくらはぎに左手を絡ませ、Y字バランスのような格好にさせた。右手はある程度遊びを持たせ、右のおっぱいを下から持ち上げて先端を強調するような――そんな格好にさせた。
「これでいいでしょう。それでは、頑張ってください。私語はもちろん厳禁ですよ」
 そう言って担任は私から離れ、ホームルームを開始する。
 また無理なポーズで固めてくれたものだ。動かずにいることは出来るけど、翌日凄く筋肉痛になるから止めて欲しい。それでもまあ、首ブリッチでおっぱいを揉む格好にさせられた時よりはマシかな。あの翌日は首が痛くて痛くて仕方なかった。
 私は微動だにしないまま、この罰が終わる時を待った。基本的に遅刻した罰の内、この状態でいなければならないのは昼休みの前くらいで終わる。もっとも、放課後まで服は取り出せないから、ずっと裸でいなければならないけど。
 なんにせよ、微動だにせずにただ時間を待つというのは物凄く暇だった。

 一時間目が終わった直後、男子達が揃って寄って来た。
「真辺ー。だいぶ時間経ったけどどうだ?」
「その体勢、苦しくねえ?」
 私語は厳禁、とはいえ、基本的に男子生徒が何かを求めて来た際、女子生徒は答えなければならない義務がある。それは懲罰中でも変わらない。この場合の発言は禁止された私語には当たらないはずだった。
「苦しいわよ。代わって欲しいくらいね」
「いやー、俺達がやっても……なぁ?」
「そうそう。女子がやるからいいんじゃん。男のY字バランスなんてみたくもねえよ。嫌なもんみることになるしなー」
 嫌なもの? 何の話をしているんだろう。
 私がそう不思議がっていると、男子の一人が突然私の股間に触れて来た。思わず体勢を崩しそうになって焦った。
 いきなりなにするのよ!と、叫んでやりたいけどそれは私語に当たるから無理。
「キツイ体勢をしてる身体は、しっかり解しておかないとな」
 その男子は指を使って私の中やクリトリスに執拗に刺激を与えてくる。まるで別の目的があるような触り方だ。
 正直、そこはあまり関係ないのだけど。ふくらはぎとか揉んで欲しいのにな……。
 その男子の行動が合図になったのか、一斉に男子達の手が私の身体に伸びる。
 なのに一番揉んでほしいふくらはぎや足には手は行かず、おっぱいやらお尻やらばかりを揉む。
 でも私からは何も言えない。男子達の行動によって倒れたりしないように、ただ体勢を維持する。
「いやー、おっぱいが硬くなったら困るもんな」
「ほんとにマネキンになっちゃうよな」
「お尻やわらけー。いい感触」
 好き勝手なことを言いながら、男子達は私の身体をまさぐり続ける。刺激を与えられれば、どんな状況であろうと濡れて来てしまうのは生理的な反応だから仕方なかった。なのに、男子達はまるでそれが自分達の手柄のように、喝采して喜んでいた。
「まじですげえよなー」
「こんなにしても、全然体勢が崩れないって凄いよ」
「これが――――の力か……」
 ん? 何だかいま耳が変になったような?
 最後の男子が行った台詞がちゃんと聞こえなかった。喋れないから訊き返しこそしなかったけど、なんだか引っかかる。
「お、俺、もう我慢出来ないぜ。やっちまってもいいかな?」
 ベルトを外しながら男子の中の一人が言う。他の男子はそんな男子に呆れているようだった。
「おいおい。短い休み時間なのにがっつきすぎだぜお前。ゆっくりやれる機会もあるんだしよー。取っておいた方がよくね?」
「いや、もう我慢出来ない!」
 他の男子の抑制も聴かず、その男子はズボンを降ろして『それ』を取り出した。すっかり硬くなって大きくなったそれを震わせながら近づいてくる。なぜだかわからないけど、背筋を嫌な感じが走る。その感覚はもしかすると嫌悪感という感覚なのかもしれない。
 別に、嫌悪感を覚えるようなことじゃないのに。
「前の穴、使うぞ!」
 そういうや否や、その男子は私の身体の中にそれを突き入れて来た。前振りも何もない、唐突な挿入ではあったけど、幸いそれより前に他の男子がそこを解しておいてくれたので痛みはなくスムーズに受け入れることが出来た。
「くぅ、っ、いい、締め付けだぜ、真辺ちゃん!」
 慣れ慣れしく人の名前を呼ぶな!
 と言ってやりたかったけど無理。挿入された時の痛みやら突きあげられる際に体勢が崩れないようにするとかでそれどころじゃない。
「いやあ、しかし、最高だよなあ! ――――は! あの学校内でも有名だったスケバンが、いまやこんな、好き放題できるようになってさ!」
「おい、馬鹿! そういうこと言うな! 気付いたらどうするんだよ!」
「だいじょーぶだって。心配性だなぁ」
 身体の奥を突かれながら、私は彼らの話していることを聴くとはなしに聞いていた。けれど、その内容は今一つ理解できない。スケバン? 誰のことなんだろう。
 やがて何度も挿入を繰り返していたその男子が、一際大きなストロークで前後すると、私の身体の中に熱い物がぶちまけられる。
「っ――ふぅ――っ。あー、出した出した……生で挿入できるとか、ほんと最高だぜ……」
「妊娠しちゃうんじゃね?」
「少子化対策になっていいじゃん」
 男子達が馬鹿な話をしている間に、私の中に自分のモノを突き入れていた男子は、なぜか持っていたバイブらしきものを私のそこに半ば無理やり詰め込んだ。みっちりとそれは私のそこを埋め尽くし、ちょっと油断したら切れてしまいそうなくらいに太くて大きい。
「せっかく出したものが零れたら勿体ないからな……放課後までいれとけ」
 かなり許容量の限界に近いそれのせいで、私はかなりしんどかった。ギリギリだからまだマシと言えるかもしれないけど、いずれにせよ力を完全に抜くと落ちてしまいそうだったので膣内の力を調整してある程度は締めつけなければならなかった。その際、それの形がはっきりとわかってしまい、身体の中に杭でも打ち込まれているような、妙な気分になってしまう。
 さらにその恐ろしさは他にもあった。それをそこに入れた男子が手元で何らかの操作をすると、埋め込まれたバイブが突然動き出す。
「ッ――ぁっ――」
 辛うじて声をあげることは堪えたけど、あそこに差し込まれたバイブの震動に押し出されるように息が零れた。それがまるで感じた結果の喘ぎ声のように自分にも聞こえて、何とも妙な気分になってしまう。
「おー。表情がめちゃ色っぽいぜ」
 男子達が楽しげに笑う。私は恥ずかしさのあまり顔が赤くなるのを自覚した。
 その時、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴った。
 私に群がっていた男子達は、一斉に自分の席へと戻っていく。
「中々良かったぜ」
「じゃあ頑張れよー」
「また次の休み時間にな」
 口々に言う男子達。私は彼らに向かってお礼を言う。
 身体を解してくれて。中出しをしてくれて。バイブを入れてくれて。
「ありがとう、ござい、ました」
 罰則をやり抜けられるように協力してもらったんだから、お礼を言うのは当然だ。
 仮にそうでなくても、男子がやってくれたことに対してお礼を言わないという選択はない。
 授業が始まっても、私はやることがなくなって退屈になるというわけではなかった。特にこれからは、前の穴に埋め込まれたそれが定期的に動くからだ。
 静かな授業中、突然ぶいーんというバイブの動く音がすれば誰だってこちらを見る。私はその度にクラスメイトの視線を全身に浴びることになって、無性にいたたまれない気持ちになった。罰を受けている姿を見られるのだから平静ではいられない。
 身体は全く動かせないけれど、バイブが動くせいで膣内の力で何とかバイブが抜け落ちないようにしなければならず、私にとっては気持ちいいやら苦しいやらで大変な時間だった。
 やがて二時間目の授業も終わると、次の授業が体育だからクラスメイト達はいなくなってしまう。私は誰もいない教室でY字バランスを続けなければならなかった。
 バイブを入れた男子は体育の授業に行く前に、リモコンをランダムパターンにしておいたのか、一人でいる間もバイブはONになったりOFFになったりを繰り返し、私は自動的に責められ続けていた。
 勝手に感じてしまう身体は、あそこからの分泌液を多く出し、そのせいで気合いを入れて力を込めないとバイブが自重でずりおちてしまいそうになる。
「うぅ……」
 私はもうすぐこの罰が終わることを信じて耐え続けた。
 何とかその時間は耐えきったが、その次の休み時間。再び私のところに集まってきた男子は、今度は後ろの穴を使ってセックスを行った。前がバイブで塞がれている関係上、かなりきつかったとおもうのだけど、彼は無理やり突破して私の中を堪能していた。ちなみに、毎朝浣腸をして直腸内を空にしてきているので汚くはない。
 どろりと零れる精液の感触を覚えながらも、私はY字バランスを保ち続けた。ところが――想定外の事態が起きた。
 昼休みが始まっても担任が私のところにやってこなかったのだ。心配してくれたのか、女子の一人が職員室に話を聴きに行ったところ、急な出張で放課後まで帰って来ないという。
 私が罰則を受けていることを忘れて行ってしまったのだ。忘れた、のかわざとなのかはわからない。
「ありゃりゃー。こりゃ大変じゃね?」
「放課後になったら帰って来るんだから大丈夫だろ」
「まー、運がなかったってことで。頑張れよ、真辺さん」
 男子達はそんな勝手なことを言って、私の身体を解す。
 私はその手に翻弄されつつ、前に入れられたバイブが抜けそうになるのを必死に堪えていた。
「あれ? 真辺さん、もしかしてバイブが抜けそうになってる?」
「長時間入れ過ぎて穴が広がっちゃったんじゃねえの?」
「そろそろ抜いてやってもいいんじゃね?」
「ダメダメ。放課後まで入れとけって言ったんだから。言ったことは守らないとな」
 そんな会話を経て。
 私はY字バランスを維持し、あそこにバイブを突きいれられた状態のまま、放課後まで耐えなければならなくなった。
 でも、体力的にはかなり限界が近づいている。放課後まではあと2、3時間も耐え中ければならなかった。なのに、昼休みが過ぎた時点ですでに限界近かった。度重なる男子達の行為のために、全身の疲労も相当なものがある。いますぐにでも倒れて動けなくなりそうだ。
 身体が勝手に細かく痙攣し始める。
「頑張れよー。体勢崩したりバイブ落としたりしたら懲罰だぜー」
 ただでさえ余計に罰を受けているようなものなのに、これに加えてさらに懲罰なんて耐えられない。
 私はなんとか耐えきろうと心を決めた。
 しかし、現実は無情なもので、いくら硬く心に誓ってもダメな物はダメだった。
 しかも限界が訪れたのは、よりにもよって最後の授業中のことだった。
 静かな国語の授業中、それより前から無理な感じはしていたけれど、身体の痙攣が大きくなりすぎて、とうとう太股の筋肉が限界に達してつってしまった。
「~~~~~~~~ッッ!!!」
 その痛みは足が取れてしまいそうになるほどの激痛で、いかに罰則で動かないように言われていても我慢しきれなかった。バランスを崩して床に倒れ、ポーズを崩してのたうちまわる。
 授業中だったから、限界に達してのたうちまわるまでの過程は全部見られていた。さらに悪いことに、限界を越えた身体の制御が上手く出来ず、そのまま失禁までしてしまった。もっとも考えてみれば一日中ここから動けなかったんだからトイレに行けていたはずがなく、溜まり溜まっていたそれを出してしまったのは必然でもあった。
「うわぁ、こいつ漏らしやがった!」
「くせえ! おい、誰かモップ持ってこい!」
「女子、連帯責任で掃除しろよー」
「えー、最悪ー」
「ほら、モップ持ってきたよ」
「水を汲んでくる!」
 俄かに騒がしくなる教室内。私はそれを聴きながら、床に倒れていた。とても起きあがれる状態じゃない。起き上がらなかったせいで身体が尿に塗れて臭くなった。
「やれやれ……授業妨害もいいところですねぇ……このことは生徒管理委員会にきちんと報告しますよ」
 授業を行っていた国語の先公が呆れ顔で私のことを見ている。
 私は女子の手を借りてなんとか立ち上がり、尿まみれになった身体をトイレで簡単に荒い、雑巾で拭いてもらった。
 ああもう、最悪だ。

 放課後。
 私は生徒指導室に呼び出され、全裸になって土下座をしていた。
「もう一度、内容報告を」
「はい。私は遅刻という違反を犯し、罰則を与えられたにも関わらずそれを順守出来ず、授業妨害までしてしまいました」
 私の前に座っているのは、生徒管理委員の委員長。実質的にこの学校の支配者だった。校長ですら、彼の前では一人の熟女でしかないという。
 校内において、最大の権力を持つその男は、私を見て溜息を吐いた。手にしている鞭を軽く弄んでいる。
「やれやれ……まさか君がさっそく問題を起こすとは思ってなかったよ……昨日性格矯正した直後だというのにね……」
 性格矯正? 何の話だろうか。
「あの……」
 そのことについて私が聞こうとすると、彼は手にしていた鞭で床を打った。鋭い音がなって、私は思わず身体を竦ませる。
「黙れ。やっぱり、不良は不良ってことなんだろう。異常な常識の中でも、結局外れてしまうってわけだ……考えてみれば、不良というのは、個人差はあるにしろ常識に反する行動を取る奴らのことだもんな……君が昨日まで『ルール』に反抗的だったのも、それが起因しているんだろうし」
 昨日? 昨日、何かあったかな……? 普段より遅い時間に学校を出たことは覚えているけど。
「これで性格を変えても、やっぱり根本のところは変わらないってわけか……仕方ない。手間だけど、時間をかけて強制することにしようか」
 そういう生徒管理委員長が指を鳴らした。
 その瞬間、私は何も考えられなくなる。
「真辺和恵。昨日の人格変更の命令を取り消す。元の人格に戻れ。それから――」
 何か委員長が言っている。その内容は私の中に入り込んで、まるで毒のように全身に回っていくような感触があった。けれども私はそれについて何も思わない。ただ言われるままに受け入れる。空っぽの私に彼の言葉が満ちていく。
 パチン。
 再び彼が指を慣らす音が響いて、私は意識を取り戻す。
 全てがはっきりしていた。
「やあ、真辺和恵。気分はどうだい?」
 目の前に座る委員長に、気楽な風に尋ねられた私は――いや、あたしは。
「――この野郎!!」
 土下座の姿勢から立ち上がって、固めた拳を全力で委員長の顔に向けて振るう。
 だけど。
 その拳はまるで壁にでもぶち当たったかのように弾かれた。反動で腕全体が痛む。
「ぐっ――!」
 手を抑えて、一時後退。身体をなるべく手で隠す。
「おいおい、野蛮だなぁ。やっぱりさっきみたいにお淑やかにしておいた方がいいかな?」
「何がお淑やかだ――クソが」
「女の子らしからぬ言葉遣いだよねえ」
 余裕綽々なコイツの顔が酷く憎たらしい。あたしは敵意を必死に剥き出しにしながら、委員長に向かって問いただす。
「あたしに何をした?」
「別に君だけってわけじゃないけどね。したっていうなら学校全部にだけど」
「そういうことを聴いてるんじゃねえんだよ!」
 マジでムカツク。こいつを本気で殺したい。命に関わりかねないヤバいことを経験しているあたしでも、ここまでの殺意を抱いたことはなかった。断言できる。
 そんなあたしの殺意を意に介さず、悠々とした態度で委員長は口を開いた。
「まあ、ちょっとしたMCってところかな。異常な常識を常識に。普通の常識を非常識に。ってな感じでさ。君に対してはその凶暴で品のない人格を、極普通の慎みある女の子っぽくしたけど。基本的には常識の書き換えが主だね」
 マインドコントロール。確かに、それくらいじゃないとあたしの行動の理由も、周りの奴らの行動の理由も説明がつかない。
 けれど疑問は他にもある。
「どうやって」
 覚えている話じゃ、催眠術だってそんな万能なものじゃないはずだ。人格まで書き換えられるような技術があれば、犯罪者なんてこの世からいなくなる。
 あたしの疑問に対し、委員長は嫌味な感じに笑った。
「言うと思う?」
 悔しさに奥歯を噛み締める。そんな簡単に口にすることはないと思っていたけど、どうやって自分が操られていたかもわからないというのは不安過ぎる。
 いまこの瞬間だって、元のように操られない保証はない。
「……解放しろよ」
「してもらえると思う?」
「じゃなきゃ、殺す」
「やれやれ……本当に思考が短絡的っていうか……無理だって。殴りかかったのにわからないわけ? 君は僕や他の男子に危害を加えることは出来ない。それくらいわかっていると思ったけどねえ」
 あたしの拳は弾かれたように見えたけど、あれはあたしが自分自身で拳を引いてしまったからだったみたいだ。
 本気で殴りかかった勢いを自ら逆方向に動かしたのだから、腕全体に走ったあの痛みも納得出来る。
「……他の男子も、共犯なわけ?」
「んー。その問いに対しては、YESでもあるしNOでもあるかな。彼らが好き勝手に君達女子を嬲るのも、結局はMCの結果だからねえ。そうでなきゃ、正義感に燃える生徒の誰かが僕を殺しに来てるって」
「白々しい……殺しに来たところで、同じように操れるんじゃねえの?」
 にやり、と委員長は嫌らしい笑みを浮かべた。その通りだと言っているんだろう。全く、なんて奴。
 あたしはどうすればいいのか考える。コイツに対して危害を加えられないというのなら、あとはもう逃げるしかない。けれど、逃げてそれでどうなるかわからない。そもそも、指先一つであたしを無効化することは出来るはず。なら逃げる余裕なんてあるわけない。
 八方塞がりの状況だった。
「くっくっくっ……この状況でも諦めてないところは、やっぱり普通より気丈だねえ。……よし、その意気に免じて一つゲームをしようか」
「ゲーム、だって……?」
「うん、そう。なあに、簡単なゲームだよ。これから僕が君の身体に触れるから、それで五分間イかなかったら解放してあげる。でも、僕の愛撫に負けて絶頂したら……君は一生僕の奴隷だ。性奴として、一生使わせてもらう」
 あたしは言葉に詰まった。最悪だ。最低の提案。だけど。
「君は呑むしかない」
 そう、わかっている。こんなのは単なるこいつの遊びでしかない。
 約束を守るとも限らない。記憶も人格も、マインドコントロールとやらでどうとでも出来るのだろうから。
「…………約束だ」
 だから、私は提案を呑むしかない。
「ああ、わかっているよ。大丈夫。僕はこれでも約束を守る男だ。君一人逃がしても代わりはいくらでもいるしねえ」
 委員長が立ち上がってあたしの傍に近づいてくる。それだけで不快だった。歯を食いしばって、耐える体勢を作る。耐えて見せる。
「それじゃあ、行くよ」
 いきなりだった。
 委員長の右手が、あたしの胸をわしづかみにする――と同時に、その胸が爆発するような熱さを発し、掌に押しつぶされた乳首から稲妻のような快感が全身を駆け巡る。
「いっ――――ぎぎぎいいいいいいいいッッッッ!!!?」
 あたしは一瞬で達していた。それほどまでに胸から生じた快感は強く、頭の芯を震わせるほどの凄まじさを伴っていた。
 膝が笑って震え、腰が抜けて、腕に力が入らなくなり、眼球が回転して、口から泡を吹き、あそこからは大量の愛液が零れ、尿まで垂れ流し、倒れた。
 仰向けに倒れたあたしは、天井を見上げながら全く動けずにいた。
 まだ快感の余韻が頭の中を震わせている。
 そんなあたしの視界に、そいつは割り込んで来た。
「おやおや、ちょっと胸に触れただけなのに、もうイっちゃったのかい? 案外あっけなかったね」
「ふぁ、ふぁにぉ、ゆってぇ……」
 こんなの、絶対普通じゃない。マインドコントロールとやらで、何か仕掛けていたに決まってる。
 回らない舌でなんとか抗議をするけど、委員長は意に介さない。
「使わないとは一言も言ってないよね? そもそも、ゲームを提案する前から、あらかじめ使っておいたんだし? ルール違反じゃないよねえ」
 今度は靴先だった。仰向けになっていたわたしの乳房に靴先で触れる。上から踏みにじるように。
 踏みにじるように、とはいえ実際は触れるか触れないかの位置だった。なのに。
「ッ――ァアアアアアアアアアッ!!!」
 身体が逃げようとするけど、地面とのサンドイッチになっているので逃げられない。快感の渦があたしをばらばらにしそうになる。
 あたしにとっては永遠にも感じられる時間が経って――それが唐突に止んだ。
 快感が凄過ぎて息すら出来なかった。なんとかあたしが自分の状況を確認してみると、身体が感じ過ぎてすごいことになっていた。飛び散った愛液やら汗やらが酷い。むせるような女の匂いが周囲に漂っている。
「僕が触れると、イキ狂う直前の強い快感を与えられるようにしたんだけど……いやぁ、効果てきめんって言うか、てきめんすぎてちょっと怖いな……大丈夫かい?」
 あたしは本気でこいつを殺したくなった。やってる張本人がよくもいけしゃあしゃあと。
 睨みつけるものの、委員長は全く怯まなかった。
「そんな涙目で見つめられても、全然怖くないよ」
 とにかくさ、と委員長は言う。
 楽しげに。
「ゲームは僕の勝ち。残念だったねえ。堪え切れたら解放してあげようと思ったのに」
 全くそんなことは考えていなかっただろうに、残念そうな声をあげる。
 殺してやりたい。もしも身体が自由に動いたなら、あたしは絶対にこいつを殺すだろう。
「じゃあ、早速遊ばせてもらおうかな。とりあえず感じる快感の強さはリセットして……」
 委員長の手があたしの頭に伸びる。

「『殺意は好意に変われ』」

 ぞわり、と背筋が泡立った。
 その意味がわからないほど、馬鹿じゃない。
「あ、ああ……」
「ねえ、真辺さん。僕のことを殺したいかい?」
 殺したいに決まっている。
 決まっている。
 なのに。
「……うぁ、あ……ぁあ……ッ」
 こいつのことが、委員長のことが、愛しくて仕方ない。
 感情が、逆方向に振り切れていた。あたしが彼に対して抱いた強力な殺意は、彼の言葉一つでとんでもなく大きい好意に変わっていた。
「ちなみにさ」
 声が聞けることが嬉しい。
「殺意を好意に変えてるだけで……考えとかはそのままなわけだよ」
 まるで片思いの相手に対するみたいに。
「つまり」
 彼の足があたしの胸を踏みつける。
 それは、あたしの人としての尊厳を無視して、女の子の大事な部分を踏みにじる最低の行為。
 なのに、あたしが抱くのは感激だった。
 彼があたしに触れてくれている、という歓喜。
「酷いことをすればするほど、君は僕をむしろ好きになる、ってことなんだよね」
 そんなの、異常すぎる。異常過ぎるのに、あたしは彼に対して殺意を抱くことが出来ない。殺意とは別に感じているはずの嫌悪感も、それ以上の好意に押し流されてしまう。
 おかしな感情の動きを強要されたあたしの心は、バラバラになってしまいそうだった。
「あぁ、ああっ、うぁぁっ」
 こんな風にする彼のことが――好き。
 人の心に土足で入り込んでぐちゃぐちゃに踏み荒らされているのに、彼が好き。
 わけがわからなくなる。やられていることはどうしようもなく嫌なことなのに、彼が好きだという感情が湧く。
 心が、壊れる。
「やめて欲しい?」
 あたしは全力で頷いた。この無茶苦茶な感情をどうにかして欲しい。やっているのは彼だけど、そんなことはもうどうでもいい。この感情をどうにかしてくれるなら、いくらでも彼に頭を下げる。
「君が僕を満足させてくれればいいよ。殺意を好意に変えるのは止めてあげる」
 満足させろと。そうすれば止めてくれると。
 実に恩着せがましい言葉だった。
 それが彼の狙いなんだろう。
 感情を逆撫でして、逆流させてくる。
 こいつに対して苛立てば苛立つほど、あたしはこの人が好きになる。
 委員長は悠然と机に腰かけ、上履きと靴下を脱ぐ。
「それじゃあまずは、足を舐めてもらおうか」
 感情が波打つ。
 わざわざそんな屈辱的なことをさせる目的なんて決まってる。
 あたしに殺意を抱かせて、さらに好きにさせている。
 わかっているのに。
「うぅ……!」
「ほら、舐めさせてやろうって言ってんだ。……なあ? 早く舐めろよ」 
 甘い声で、むかつく言葉を。
 あたしの中でさらに『好意』が育つ。
 さらに強められると、心が壊れてしまう。
 あたしは急いで彼の元に這って行き、その足の傍に顔を持って行く。当然、臭い。臭いを嗅ぐだけで不快だった。
 けれど。
 不快に思えば思うほど、あたしはこの男が好きになってしまう。
 あたしはもう無心になって、舌を出し、彼の足に近づけて行った。
「おやおや、真辺さんともあろう方が、あさましい雌犬のようじゃないかい。ツンケンした態度の不良だったとは思えないねえ」
 何も考えるな。何も想うな。何も感じるな。
 とにかく事を済ませるんだ。
 あたしは自分自身に何度も念じて、舌を委員長の足に触れさせる。

――カシャ。

 突然響いた電子音に、あたしが驚いて顔を上げると、委員長がいつの間に取り出したのか携帯のカメラをあたしに向けていた。嫌らしい笑みを浮かべて、その画面をあたしに向ける。
 そこには、委員長の足に舌を伸ばして触れている、あたしの姿があった。
「結構良く取れてるでしょ? ほら、いいものは皆に見せたいじゃん? だからこれをいまから全校生徒に添付して送ろうと思うんだけどさ。どう思う?」
 頭の中が煮えたぎる。
 しかしそれは、彼を愛しいという感情によって、だった。
「ぎ、ぃ、ぅあ、うぅ……ッ!」
 頭の中がぐちゃぐちゃだ。いま自分が何を考えているのかもわからなくなってくる。
「あらら……僕のことを好きって感情を受け入れれば楽になれるのに。好意は殺意に変わらないんだからさー。感情に流されないのは立派だけど、そんな風に意地を張ってるとほんとに心が壊れちゃうよ?」
 いけしゃあしゃあと彼は言う。
 その言葉一つ一つが、嬉しい。
 実におかしなことだと、それは理解出来るのに、その通りに感情が動いてくれなかった。
 あたしは荒い呼吸を繰り返し、それに集中して気を落ちつけることで何とか自我を保つ。
 これ以上は本気でまずい。頭が破裂してしまう。
 あたしは委員長の足を舐める。身体がガクガク震えるけど、何とか堪えて、舐め続ける。噛み千切ってしまいたい。けど、そんなことをすればこの苦しみからは解放されなくなることは想像に難くない。
 だからあたしは全力で堪えながら委員長の足を舐め続けた。
 入念に足の指を舐めていると、不意に委員長が足を引く。
「OK。とりあえず、第一段階はクリアってことにしてあげる」
「……っ」
 まだ第一段階。これ以上屈辱を何度も与えられたら、感情の動きに負けて、あたしは本当にこいつを好きになってしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
 委員長は机の上にねっ転がって、あたしの方を見る。
「さあて、それじゃあご奉仕してもらっちゃおうかな。僕のペニスに直接、ね」
 つまりそれは、委員長のペニスを取り出してそれにしゃぶりつけと言っているんだろう。
 本当に、最悪で、最高だ。
「頑張って」
「ぐ、ぐうぅっ……」
 あたしは震える手を動かして、彼の腰のベルトを掴む。何度か失敗した後、ベルトのバックルを外し、ズボンのホックを外し、チャックを下げる。そしてズボンと一緒にトランクスも下げ、それを目の前にした。
 臭くて気持ち悪い。男のそれを見るのは初めてではなかったけれど、こんなに間近で見るのは初めてだ。グロテスクで、気持ち悪くて。
 そそり立つそれをへし折ってやれたら、どんなに爽快かと思う。
「ほら、口に含むんだよ」
 嫌悪感を感じるほど、委員長に対して苛立つほど、あたしの中で好意は増して行く。
 あたしは意を決して彼のペニスを咥えた。苦い。微かに香るアンモニアの臭い。汗の味。
 吐きそうなほどに気持ち悪いのに、あたしの心は喜びに震える。
「……いい、顔だよ……屈辱に震えて、涙を浮かべるその顔! 男のものを咥え込んだ間抜けな状態も相成って、最高だ!」
 あたしは最悪だ。
 最悪なほどに、こいつが愛しい。
 委員長はあたしの後頭部を掴んで、さらに奥へとペニスを突きいれる。喉の奥に先端が触れて苦しい。
「イラマチオって奴だよ! どうだい!? 苦しいかい!?」
 何度も繰り返し訊きながら、彼のペニスはあたしの喉の奥を突く。
 当然苦しいに決まっている。わかりきったことをあえて訊くことであたしの神経を逆撫でしている。
「う、うぅ……ッ!」
「おっ!? 急に、舌使いが上手く、なったじゃない、か……っ」
 早く終わらせたかった。あたしは出来る限りのテクを持って、彼のペニスを舐めまわす。彼の動きが止まる。
「くうっ……そんなに尽くしてくれるなんて……ツンデレだなぁ。僕のことがそんなに好きかい?」
 無視して、とにかく舐める。全体を撫でまわすように舌を動かし、先端のみを含んで切れ目を舌先でなぞり、吸いこむ動作と合わせながら全体をしごきあげる。
 動く余裕がなくなったのか、委員長はされるがままだった。
「くっ、け、結構な……テクニックじゃない……っ」
 そろそろ限界か、というところで、髪の毛を掴んで無理やり引きはがされる。
「――ぎゃっ!」
「ふぅっ、ふぅっ。危ない危ない……もうちょっとで出しちゃうところだった」
 彼は机に少し深めに腰かけながら、余裕の笑みを浮かべて言う。
「さて、それじゃあ仕上げだ。下の口で僕のを受け入れてもらおうか」
 そうくるとは思っていたので、あたしは観念して机の上に昇る。ここの机は無駄にがっしりした机で、二人が乗った程度じゃびくともしなかった。
 あたしはそそり立つ委員長のペニスの先端に合わせて、腰を落として行く。
 先端があたしの中に潜り込んで来た。
「おお、ずいぶんスムーズな挿入だねえ。真辺さんも感じてくれていたなんて嬉しいよ」
 それ以前にイキ狂う直前まで感じさせてたくせに。本当に、どこまでも憎らしい男だった。
 自分の中を委員長のペニスが満たして行く。最後まで腰を落とすと、丁度先端が子宮の入り口に届いているのか、身体の中が押し上げられるような感覚があった。
 本来ならこいつのものが身体の中に入っているなんて怖気が走ることなのに、あたしの心の中からはそれを喜ぶ感情が噴き出していた。本来造られている殺意から造られた感情だから、それは余計に強くあたしの心を侵食する。
「ほらほら、どんどん動いて」
 歯を食いしばって軽く腰を浮かせると、入っている物が内壁に擦れながら出て行く。感じているつもりはないのに、それだけで逝ってしまいそうになった。
 強い快感を得ているのはあたしだけではないようで、委員長もそれなりに感じているようだった。
「くぅ……やっぱり名器、だな……出し入れするだけで……絞り取られそうだ……っ」
 あたしはこの時間がさっさと終わって欲しくて、一心不乱に腰を振った。ビッチと言われようがなんでもいい。とにかくこの時間を終わらせる。
 意識してあそこの収縮を行い、彼のそれに刺激を与える。
「うぉっ、くぅぁっ」
 責めることでこいつの言葉を封じる。こいつの好きにはさせない。
「いい、じゃないか! 全く、そんなにやりたいなら、素直にいえばいいのにっ」
 無視、無視、無視。
 微かに回転も加えてさらに責め上げる。
「ぐっ、で、出る、出るぞっ。君の中に……出すっ」
 中出し。危険な日ではあったけど、そんなことを気にしている余裕なんてない。
 最後のトドメとばかりに、一番奥まで受け入れる。
 それと同時に、限界に達したのか彼のものから熱いものがあたしの中にぶちまけられた。それの熱はあたしの身体に広がって行って、凄まじい快感を生み出す。
 まるで毒でも回っているかのようだった。
「ッッ、っ、あっ、くあぁっ!」
 感じた身体が絶頂に達し、細かく痙攣する。
 委員長は楽しげな笑みを浮かべていた。
「中出しされると同時に強い快感が暫く続くようにしてあるんだ。エロくていい顔だよ」
 その快感が少し落ち着いて来た頃、委員長が口を開いた。
「いやあ、気持ち良かったよ。中々の名器だった。君も気持ち良かっただろ? 僕達は相性がいいみたいだね」
 どういう手を使っているのかは知らないけど、無理やり感じさせている奴がよく言う。
「……うっさい……私は……気持ち良く、なんて……?」
 それは唐突に生じた違和感だった。
 いま、私は、なんて言った?
「あ、あれ……? わた、し……?」
「おっ、気付いた? いやー、ひょっとしたら気付かないかとも思ったんだけど、察しが良くて助かるよ」
 彼は私の身体を支えて体勢を入れ替え、私を机の上に寝かせる。
 さっきから、『私』は。
「どういう、こと、なの……?」
 問いかけると、委員長は笑顔を浮かべる。
「いや、個性って大事だとは思うよ? だけどさ、僕はやっぱり女性はお淑やかであるべきだと思うんだよねー。乱暴な言葉遣いはもちろん、所作にも気を配って欲しいし……特に、一人称とかは大事だよね」
 だから。
「君はこれから誰かに一回中出しをされるごとに、お淑やかになっていく。徐々に徐々に変化して、最終的には最初からそうだったようになる。最初の一回はその状況をすぐにわかってもらうために、一人称が変わるようにしたけどね。昨日も似たようなことはやったけど、一度にやっちゃうとあまり良くないってことがわかったからねえ」
 つまりそれは。
 これから私は犯されるごとに、身体だけじゃなくて心まで犯されて行くと、そういうことなのか。
 そんな、酷い。酷過ぎる。
「君が僕の理想的な大和撫子になるのはいつかな? 楽しみにしてるよ。そしたらきちんと僕専用の奴隷にしてあげるから」
 にこやかな笑みを浮かべて話す委員長。
 その顔に拳を叩きこめたらどれほどいいだろう。
 視界が真っ赤に染まるほど、私は彼を憎んで、その結果、抑えきれないほどの好意が溢れた。
「う、うう、うぅ、ううぅ、ぅぅ」
 ボロボロと勝手に涙が零れる。自分自身の心の動きが怖い。
 憎きこいつのことをどんどん好きになっている自分の心が、自分自身を苛んでいた。
 机の上で倒れたまま泣き崩れる私を尻目に、委員長は身支度を整える。
「それじゃあ真辺さん。今日はもう帰っていいよ。あー、一応言っとくけど、自殺とか出来ないからね。玩具がそう簡単に壊れちゃ困るし」
 私は、自分で自分の命を断つことさえ出来なくされていることを知り、さらに絶望的な気分になった。
 それでも、彼に対する殺意は、どうしても持てなかった。
 全部好意に変わってしまうから。
 委員長が私に向かって言う。
「さ、立ち上がって部屋を出て行って」
 その言葉に私の身体は操り人形のように緩慢な動きで立ち上がり、ふらつきながらも部屋の外へ出ていく。
「ああ、そうそう。最後に言っとくけど」
 何気ない調子で委員長が言う。
「本来君が受ける懲罰の内容だけどね? 普通、女子生徒を犯すにも罰則を受けてる最中だとか、それ自体が罰の内容だとか、何らかの理由がない限りはダメなんだけど、今日の放課後に限って――」
 ドアを開けると、多数の男子生徒が待ち構えていた。

「いくらでも君を犯していい、ってことにしといたから」

 無数の手が伸びてくる。
 私は悲鳴を上げる暇もなく、男子生徒達の群れに引き摺りこまれた。
「何十人いるかわからないけど、頑張って。明日には完璧にお淑やかになってるかもね」
 誰かの手によって、生徒管理委員会室の扉が閉められる。

 もう委員長の声は聞こえない。

< おわり >

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