サタナエル賛歌

 聖天使博士大学付属学校には、中等部と高等部がある。
 中等部はあまり人がいないが、一般的に、高等部は、この地方でも割と有名な進学校だ。
 しかし、高等部の中でも、中等部からエスカレーター式にあがってきた人が在籍するクラスは違う。
 通称、Fクラス。正式名称は、六組だけど、すくなくともわたしたちは自分たちのことをあまりそう呼ばない。
 F。
 ファンタスティックのFじゃないのだけは確かだ。ファナティック(狂信者)とかフェイル(落第する)とかのほうがはるかに適切な形容だろう。
 このクラスだけ、他のクラスとは離れたところに建てられている。
 昔、「荒れていた」ときに、他のクラスへの影響を低くするために移転されたらしい。
 中等部からエスカレーター式に上がってきても、成績が優秀な人たちは、このクラスには進学せず、他のクラス――たいていは、志願制の進学集中コース――へ行く。
 あるいは、他の高校へと行く。
 要するに、ここは、一般的に優秀だとされている聖天使博士大学系の教育機関の中で、唯一のゴミだめ――というわけだ。
 まあ、実際のところ、わたし以外の人間にとっては、そこまでゴミだめではないのかもしれない。
 ここは、聖天使博士大学系列の教育機関に寄付している人を親に持つけれど、あまり成績のよろしくない人が来ている。
 成績のよろしくないといっても、本物のバカというより、中途半端な能力といったほうがいいか。
 暴力的に荒れることはないけれど、どこかひねくれている人格の人間がいる――というのは偏見だろうか。
 劣等感は、みんなそれなりに持っていると思う。
 でも、わたしにとってここをゴミだめにしているのは、そういう環境というよりも、わたしが出会ってしまった人間にあるのだろう。たぶん。

 だれもわたしに声をかけない教室で、わたしは自分の机へと向かう。
 机の中には、いつものようにメモが入っていて、「ブス」と書かれている。
 なんて程度がひくいんだろう。
 高等部にもなって、こんなことをやっているのか。
 子供じゃないのかと、小さなイライラがつのる。
 昼休みは、だいたい、図書館に行く。
 こんなレベルの低い争いにつきあっている暇はないから。
 無視して、本を読んでいると、金本東子が、机にぶつかってきた。
 無言で机を直す。
 顔はあげない。
 一瞬、わたしは緊張する。
 戦闘準備だ。
 でも、何事も起こらず、そのまま時間は流れる。
 わたしは、教科書を開いて、予習をする。
 理数系の科目は、苦手だ。
 文系科目は、予習しなくてもなんとでもなるが、理系科目は駄目だ。
 予習をしても、うまくいかないこともある。
 休み時間になっても、わたしの周りには人がいないし、わたしもだれのところにもいかない。
 わたしはいわば、世界の流れから外れている。
 昼休みは、お弁当を食べるが、普通に食べていると、すぐに昼休みが終わってしまう。
 空いた時間は、図書室で過ごすのがふつうだ。
 図書室の本で、読みたいと思う本は、だいたいすでに読んでしまっていた。
 いつもわたしは、適当に本を流し見て、時間をつぶしている。
 見知った本棚。
 昼休み、図書委員も来ていない。
 本来なら、ちゃんと来ないといけないんだけど、Fクラスが担当のときは、こういうことがある。
 もっとも、昼休みに図書館に来る人間は、ふつうはわたしだけだから、今まで問題になってはいない。
 図書準備室は、今は使われていないから、実質、わたしだけの空間になっている。
 こういう場所はいい。
 世界が、完全に自分とつながっている気がするから。
 これは、見渡す限りの半径三十メートルくらいの世界に、自分と、人工物しかないような場所で、起こる現象だ。
 本は他人がいなくてはできあがらないから、わたしは他者の存在を感じる。
 しかし、生身の人間は存在しない。
 そして、わたしがいる。
 わたし、生身の人間の不在、人工物。
 この三位一体が引き起こす、世界とつながっているという感覚に、わたしはまだ、名前をつけていない。

 わたしが教室へと帰ると、わたしの机は一番後ろなのだが、本がご丁寧に椅子に置いてある。
 ここまで来るとわらってしまうな。
 あー、なんでだっけ、金本東子と仲が悪くなったのは。
 好みの男がかぶったから?
 わたしの運動神経が悪かったから?
 なんかあいつがいきなりつっかかってきたんだったよな。
 わかるわけないか、それなら。
 もう、覚えていない理由によって、戦争をしているようなもので、それはなんとも、バカらしい。

 放課後は、学校付属の教会で祈りをささげる。
 キリスト教系の宗教組織を母体とする学校組織だから、こういうものがあるのだ。
 それに、わたしも、キリスト教徒だし。
 わたしは聖書が好きだ。
 イエス様が好きだ。
 だから、イエス様のことを思ってオナニーもする。
 バイブルオナニー。
 教会の長椅子で、だれもいない中、十字架に見下ろされながらするオナニーは、とても気持ちがいい。
 イエス様に見られている気がするから。
 イエス様に見られちゃう。
 恥ずかしいところ、はしたないところ、いっぱい見られちゃう。
 でも、イエス様は許してくださる。
 だって、あんなに素晴らしい方だから。
 最高善である、あの方は、すべてを赦し、すべてを天国へと導く。
 わたしは、地獄を信じている。
 だけれど、永遠の地獄は信じていない。
 だって、イエス様ほどのお方が、地獄に落ちた人間たちを、永遠に放っておくなどなさるだろうか?
 とんでもない!
 あの方は、とてもお優しい方なので、きっと最後にはすべての人間たちを救ってくださるだろう。

「イエス様……どうかはしたないわたしをお許しください……イエス様のことを考えて、オマンコに指をいれて気持ちよくなっているわたしを、どうかお許しください……んんっ、イエス様、見ていらっしゃいますか、わたしのオナニーを……イエス様のことを、神さまのことを考えてオナニーしています……あなたはとてもすばらしい方だから、わたしは本当にあなたのことが大好きです、イエス様……あなたとセックスしたい……ああっ……」

 わたしは、絶頂してしまう。
 教会の静謐な空気が、わたしの性欲を包み込むのを感じる。
 イエス様に見守られているのがわかる。
 エッチなわたしを、イエス様が見ていらっしゃる。
 ああ、イエス様……。

 そのとき、わたしの隣に、人が立っていることに気づき、心臓が止まる。
 彫りの深い顔立ちは、異国人のように思えるが、どこの国なのかよくわからない雰囲気をたたえている。
 つやのある黒髪に、青い目がまぶしい。

「お続けなさい、お嬢さん」
「あなたは、だれですか?」

 わたしは、警戒して聞く。

「私は、キリストの兄弟、サタナエル」

 ああ、その名前は聞いたことがある。
 サタンに堕天するキリストの兄弟。

「あなたは、悪魔なのですか?」
「そういう言い方も、できるかもしれませんね。しかし、ベルゼブブがバアルからキリスト教によって悪魔におとしめられたように、わたしもまた、悪魔におとしめられたのでは?」
「そうかもしれませんね」

 不思議とおそれはなかった。
 なぜなら、ここは教会であり、イエス様が見守っていてくださるのだから。

「しかし、あなたが悪魔であっても、あなたをイエス様は助けてくださるでしょう」

 サタナエルは、優しく笑って、わたしに口づけをした。
 唾液が流し込まれ、そのとたん、急に体が熱くなる。

「ああっ……これは……」
「抵抗しては駄目ですよ」

 甘い言葉で言われると、なぜだか、抵抗する気も失せていく。
 制服のボタンを、ゆっくり丁寧に外されるのを、わたしはうるんだ目で見つめていた。
 サタナエルの腕は、少し硬くて、ああ、これが男の腕なのか。

「そんなに、うっとりした顔をされると、うれしいですね」

 その言葉に、わたしの頬に朱が差す。
 その朱を、赤色のままにして元に戻さないでおくように、サタナエルの指が器用にスカートの留め具を外し、ジッパーをおろす。
 重力に逆らうことなく落ちるスカートと、その帰結として外気にさらされる下着。

「かわいらしい下着をはいていらっしゃる」

 サタナエルの口づけが、下着ごしに、わたしの秘密の場所にあてられる。
 そのまま、口がわたしの股間にはりついたまま、舌がチロチロと出てきて、執拗に下着をなめる。
 下着の上から、あの場所をなめられている感覚に、わたしは身もだえする。
 もっとしっかり舐めてほしい。布越しではなく、じかに。
 そう思うものの、少しだけ残った羞恥心が、その言葉を言うのをためらわせる。
 唾液と、おそらくは愛液でしめったその部分を、指でぐちゅぐちゅと押すサタナエル。

「どうして欲しいですか?」

 ああ、そんな低い、甘い声でささやかないでください。
 はしたないことを、言ってしまいそうだから。

「……ください」
「何をですか、かわいいお嬢さん」
「わかっていらっしゃるくせに」
「いいえ、わかりませんね。浅学菲才の身には、乙女心は複雑怪奇ですから」

 嘘ばっかり。
 首筋に繰り返されるキス、外されるブラジャー、乳首を意地悪に避けてついばまれる胸へのキスとしなやかな指の愛撫。
 それでも、「そこ」は断固として触らない姿勢に、わたしの理性も、夕日が沈んで夜が来るように、淫欲の闇の中へと沈んでしまう。

「ふふっ、かわいらしいですね。そのまま、ずっと身もだえているのを見るのも、とても楽しそうです」
「ああ、お願い……」

 わたしは、サタナエルの股間をにぎりしめる。
 そこには、熱く、硬い、男性のシンボルが存在感をもって自己主張していた。

「これを……これを、入れてください」
「どこに、なにを、ですか?」
「わたしのあそこに……それを、です」
「それではだめですね。教えてあげましょう」

 サタナエルは、そっと、いやらしい言葉を、わたしの耳にささやく。
 そのいやらしさに、かあっと体中が熱くなり――期待する。
 わたしは、まるで魔法にかけられたかのように、その言葉を復唱する。

「わたしの、オマンコに、サタナエル様のオチンポを、入れてください」
「よくできました」

 にゅるん、と入ってきたペニスが、わたしの膣を貫き、粘膜の快楽が、わたしの神経を浸す。

「あっ……あぁ」 
「気持ちいいですか?」
「き、きもち、いい、ですっ……」
「じゃあ、イエス様にも、見ていただきましょうか」

 ぐちゅぐちゅと、後ろから、おちんちんで、あそこをかきまわされながら、よろよろと四つん這いにも似た形で、十字架の前へと歩く。
 後ろから、子宮めがけて放たれた衝撃が、脊髄を通って、脳天まで、甘い快楽刺激を叩きこんでくる。
 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、と肉と肉が当たってたてる性行為の音が、教会に響く。
 もしかしたら、誰かがやってくるかもしれないということさえ、快感を増大させて、背徳感と、神への愛で、わたしの心は満たされてゆく。
 イエス様のことを考えながら、下腹部にうずく、甘いたぎりに集中する。
 男の人のあれが入っている、その部分は、わたしの柔らかい肉と男の人の硬い肉がこすれあって、得も言われぬ甘い快感をかもしだす。
 わたしの足の付け根にある口は、その味をかみしめ、そのおいしさに、よだれをだらだら流している。
 ああ、なんて男の人のお肉はおいしいのでしょうか。
 いいえ、きっとこれは、サタナエル様のお肉だから。
 神さま、イエス様のご兄弟の肉が、神聖で美味でないことがありましょうか。
 わたしは十字架を見る。
 十字架にわたしが見られる。
 イエス様がわたしを見ている。
 十字架を見ながら、イエス様と視線をからめながら、わたしはセックスをしている。
 ああ、わたし、イエス様の前で、セックスをしているんだ!
 感動と、快楽が、一気に押し寄せてきて、わたしを天上の高みへと押し上げる。

「ああ、イエス様っ! イエス様、愛していますっ、イエス様っ!!」

 熱い濁流が、わたしのおなかの中に入り、わたしの体だけでなく魂を満たすのを感じます。
 いと高きお方に栄光あれ。
 アーメン。

 気がつくと、わたしは、まったく知らない家の中にいた。
 外は暗く、夜になったことを示している。

「目が覚めましたか、お嬢さん」

 見ると、サタナエル様は、目の前で、主婦のような女性を犯していた。
 その女性は、淫欲にとらわれた顔をして、とろけきった雌の顔、というものがあれば、きっとこういうものだろうと思わせるものだった。
 そこには、不思議と、神への愛というものが欠如しているように感じられ、先ほどまで交わっていたサタナエル様はイエス様の系譜に連なる方だと思われたが、今のサタナエルは、まさに悪魔の化身とも見えた。

「ふううっ、ご主人様ぁっ、オチンポいいっ、オチンポいいですぅっ」
「あなたの旦那様よりも、ですか?」
「くらべものに、なりませんわぁっ! この素敵なオチンポのためなら、旦那なんてなんの価値もありませんっ!」

 わたしの思考はフリーズする。
 数秒してから、やっとわたしの頭が動き出して、当然の疑問を口にする。
 その間も、見知らぬ女性は、あんあん喘いでいた。

「あの……。ここはどこで、そちらの方は、いったい……?」
「この女性は、金本東子さんのお母様です」
「え?」
「いじめられているのでしょう? 目には目を、歯には歯を、ですよ。悪には正義の鉄槌を振り下ろさなくてはなりません」

 そのとき、がちゃりとリビングの扉があいた。

「おかあさーん? もう、どこにい……」

 ランドセルを背負った男の子が、自分の母親を見て凍り付く。
 それはそうだろう。
 目の前で、母親が見知らぬ男とセックスしているのだから。

「お、おか、さん、なに、してるの……?」
「何って、もちろんセックスよ? 本当に気持ちがいいの。もう、このオチンポさえあれば、何もいらないわあ……」

 うっとりとした顔で、サタナエルにキスをする母親を見て、少年は泣き出してしまう。
 たぶん、目の前で起こっている現象に、頭がついていかないのだろう。

「あらあら。もう、泣かないの。サタナエル様、どうか息子も、よろしくお願いします」
「少年、こちらへおいで」

 その力強い言葉に、ふらふらと男の子が、歩いていく。

「ほら、お母さんの股をみてごらん。きれいに濡れているだろう?」
「あっ……」

 布の上からでも、わかるくらいのふくらみを、わたしも見た。
 こんな小さな子でも、ちゃんと勃起するんだなあ。
 目の前の現実に圧倒されているわたしの頭の中の冷静な部分が、そんな言葉をつぶやく。

「服を脱いで、こっちにいらっしゃい」

 母親の優しい声に、服をぬいで、大きく股をあけた母の方にふらふらと歩いていくさまは、まるで獲物を待ち構える食虫植物の甘い匂いに誘われて虫が自ら罠にかけられてゆくように見えた。
 皮をかぶったペニスを、優しく口にふくむと、ゆっくり、丁寧に、口を動かす。
 音のならない、しずかな愛撫は、我が子のペニスを傷つけさせまいとする母の優しさなのだろう。
 次に口から出てきたおちんちんは、おちんちんなんてかわいいものじゃなく、オチンポ、といっていいようなものだった。
 こんな年齢でも、もう立派に成長しているんだ。
 勃起したそれは、尿を排出する器官ではなく、メスを孕ませるためのオス生殖器にしかみえない。
 母親が、口を開けて、口の中を見せる。

「うふふ、チンカスがたまっていたから、きちんと掃除したわよ」

 そう言って、ごくん、と飲み込んだ。

「ほら、来なさい。あなたが生まれた穴よ」

 熱にうかされたように、本能に従うように、彼は自分の腰を、みずからの母親の中に埋め込んでいく。

「ぁ……気持ちいいよ、お母さん……」
「お母さんも、気持ちいいわ……おちんちんが痛くないように、ゆっくり動こうね……」
「うん………うぁ、ヌルヌルして、気持ちいいよぅ………」
「お母さんも気持ちいいわ……遠慮なく動いてね。ちゃんとオナニーはしてるの?」
「う、うん……」
「そう、いい子ね。気持ちよくなったら、オナニーしてるときのように、ザーメン出して? ぜーんぶ、受け止めてあげるから」
「あ、ありがとう、お母さん……っ、ああ、これ、気持ちいいよぉ………」
「なに……してるのよ……」

 わたしが振り向くと、金本さんが、呆然とこちらを見ていた。
 あらあら。
 しかも、金本さんの後ろには、お父さんもいるようで、彼も、呆然としていましたが、当然でしょうね。
 サタナエルは、にっこりと笑うと、あなたにとても面白いものを見せてあげましょう、とわたしに言い、パチン、と指を鳴らした。
 

 次にわたしが見たのは、金本さんのことが嫌いなわたしでも、胸が痛くなるような光景でした。

「お願い……お父さん、やめて、やめてよぅ……」

 処女の血をたらしながら、金本さんが涙を浮かべながら、お父さんに覆いかぶさられています。
 そのお父さんの腰は、リズミカルに動き、もしかしなくても、自分の娘の膣内にペニスを入れ、快楽をむさぼっているのです。

「何を泣いているんだ、東子。東子のオマンコは本当に気持ちよくて、お父さんは幸せだ。ほら、お母さんたちも見てごらん。気持ちよさそうだろう?」
「ああっ、オチンポいいっ、息子オチンポいいっ!」
「ママぁっ! ママっ、ママっ、ママのオマンコ最高だよぉ!」
「お、おまんこなんて、エッチな言葉を覚えちゃって、もうっ………最高ねっ! 自慢の息子だわぁ♪」
「ママも、自慢のママだよっ、こんなに気持ちいいオマンコを持っているママなんて、世界中探してもママくらいだっ……!」
「ぁ……あ……な、んで……」
「それは、あなたが悪い人だからですよ」

 とても優しい声で、サタナエルは絶望した声で嘆く金本さんに言います。

「罪には罰を与えなくてはなりませんからね」

 金本さんは、ガクガク震えながら、わたしとサタナエルに言いました。

「ご、ごめんなさい……もう、もうしませんから……た、助けて……こんなの、いやぁ……」

 す、とサタナエルが、金本さんに、顔を近づけます。

「お父さんに、無理やりセックスされるのが嫌なのですか?」
「はい、そうです……」
「そうですか。わかりました。では、助けてあげましょう」
「本当ですか!」

 ぱっ、と輝いた金本さんに向けられたサタナエルのつりあがった笑顔。
 わたしは、いけない、と思いました。

「本当ですよ。あなたが、お父さんのことが大好きで、セックスがしたい女の子にしてあげます。これで、無理やりセックスすることなく、仲良く幸せなセックスになりますね」

 顔が色を失う、というのを、初めて見ました。
 比喩表現だと思っていたのに、本当に、す、と頬から赤みが消えるのを見て、ああ、単に現実にある現象を描写しただけなのだ、と気づきます。
 金本さんの頭が状況に追いついて、悲鳴を上げるその前に、また、指が鳴ります。

「パパぁ! 大好きっ、大好きっ、パパちんぽ大好き~っ! ねぇ、キスしてぇ、東子にキスしてよぉ、ちゅっ、ちゅっちゅっ、ちゅ~っ、ちゅちゅっ、んはぁ~~っ」

 東子さんは、一瞬で、「パパが大好きで、パパとセックスするのが大好き」な娘に変身しました。
 サタナエルは、にっこり笑います。
 これで満足でしょう?と。
 きっと、このまま毎日セックスして、お母さんは、自分の息子のザーメンで妊娠して、東子さんは自分の父親のザーメンで妊娠して学園を去るのでしょう。

「んちゅっ、パパぁっ、すごぉいっ、オチンポ最高~♪」
「おお、やっとわかってくれたか、東子っ、パパはうれしいぞっ! ああ、もう我慢できんっ、膣内に出すぞっ!」
「来てっ、パパぁ!」

 どぴゅるるるるる!!
 腰を気持ちよさそうに震わせながら、金本さんのパパは、自分の娘にたっぷりと精液を注ぎ込みます。

「ママっ、もう、げんっ、かいっ、ああああ!!」
「あひゃあああああああああっ!! くるうううっ! 来ちゃうっ、来ちゃった、あはあっ、中出しっ、息子に中出しされていくううううううううううっ!!」

 ママさんも、自分の息子の新鮮なザーメンを注ぎ込まれて、絶頂してしまったようです。
 二匹の雄が、結合を外すると、二匹の雌の足のつけね、黒々とした穴、硬く反り立った雄生殖器を迎え入れた穴から、とろとろと、愛液と精液の入り混じったものがこぼれおちてきます。

「あはぁ………しあわしぇえ………パパしぇっくす、しあわしぇえ…………」

 馬鹿みたいに笑う金本さんは、完全に頭のネジがいかれているように見えました。
 いい気味だ、と思いました。
 しかし―――。
 しかし、あまりにも、むごい、とわたしは思ったのでした。

 結局。
 サタナエルに、元に戻してほしい、と言った途端、わたしはあの教会に戻っていました。時間も巻き戻っているようです。
 金本さんの家にいたときは、外は暗かったのに、ここには明るい光、黄昏になりかけの、オレンジと黄色になりそうな白い光が満ちているのですから。
 ただ、その翌日から、金本さんは、わたしに何もしなくなり、何か怖いものでも見るような目でこちらを見てきます。
 あれがいったい何だったのか、わたしにはわかりません。

 それからしばらくして、ふと、わたしは、トルストイの説話を思い出しました。
 おぼろげな記憶なので、間違っている箇所もあるかもしれませんが、わたしが覚えているのは次のようなものでした。
 今日、あなたに会いに行く、と言ったイエス様を待っていた老人の話です。
 その老人は、いろいろな困っている人に会い、彼らを助けるのですが、とうとう夜が更けるまで、イエス様らしき人には会えませんでした。
 しかし、最後に、その老人は気づくのです。自分が助けた人間たちが、イエス様その人であったのだ、ということを。
 つまり、困っている人を助けるということは、イエス様を助けることになるのです。
 わたしは、思いました。
 サタナエルは、イエス様だったのではないでしょうか。
 あるいは、イエス様の仲間であったのではないでしょうか。
 わたしの悪意を打ち砕き、彼女の悪意を打ち砕き、この学び舎に平和をもたらすために来られたのではないでしょうか。
 わたしには、そう思えてならないのです。

 その日から、わたしは、イエス様ではなく、サタナエル様を思ってオナニーをすることが多くなりました。
 ただひとつ心残りは、処女懐胎ができなかったことで、サタナエル様のお子を授かることはできませんでした。
 マリア様にはなり損ねてしまったのがほんの少しだけ残念です。

< 完 >

あとがき
 サタナエルと主人公の交接が、意外と筆がのりました。ロマンチックな女性一人称、いいですね。あと、一人称と三人称や、「です・ます」と「だ・である」を同一作品内で混同させてはならない、というようなことをどこかで読んだことがあったのですが、もっと創作って自由なものだと思うので、ちょっと文体を自由めにしてみました。
 本当は、「女王の庭」が何の罪もない(ように今のところ見える)女の子を邪悪な女の子がMCするという話だったため、逆に、邪悪な女の子を何の罪もない女の子がMCで断罪する話を書くつもりでしたから、もっともっと金本さんは悲惨な目にあうはずだったのですが、どうも教会やイエス様について書いたためか、こんないい話になってしまいました。天にまします我らが父のご加護かもしれません。
 もしかして勘違いする方もいるかもしれないので一応言っておきますが、この作品はキリスト教を冒涜する意図はまったくないです(そう感じる人もいるかもしれないし、その感性を否定するつもりもないですが、こちらの感性も否定しないでくれると助かります)。むしろその逆です。イエス様がもし本当にいらっしゃるなら、自分のことを考えてオナニーする女の子を地獄に送ったりは絶対にしないと確信しています。イエス様(マリア様でもいいですが)のことを考えてオナニーすることが悪いことだとは全然思わないです。
 もちろん、本当におどろおどろしい、キリスト教のダークサイドたっぷりつめこんだ、神を冒涜する登場人物が出てくる作品がダメだとも思ってません(また、登場人物が涜神的であるだけでなく、作品の意図が涜神的であるものも駄目だと思ってません)。それはそれで芸術作品、創作物としてはありだと思います。思いますが、この作品はそういう意図で作られたわけではないです。

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