「おはよ」
いつもの交差点でジンを待っていてくれたのは、キリコだ。
長い黒髪に、綺麗な黒い目。
少し暗い雰囲気に、おとなしそうな静かな声。
俺が肩を並べると、ふわっと甘い香りがただよう。
どうして、こんなにいい匂いがするんだろう。
「ね、読んだよ。トーマス・マン。魔の山」
「どうだった?」
「雰囲気がいい。なんか、ペダンチックで、好き」
「俺も、あの閉鎖空間の雰囲気、好きだ」
「あと、装丁もよかった。きれいな青色の」
「うん、わかる」
自分の好きなもののことを、一緒に語れる人がいる。
それだけでも、とっても幸せなことなのに。
自分の好きな人と、自分の好きなもののことを、一緒に語れるなんて。
ジンは自分の幸福に感謝する。
「おーっす」
二人の後ろから、声がかけられる。
ここが自由な校風の学校じゃなかったら、服装検査で一発アウトだろう、金色にかなり近い茶髪をした女の子。
形のきれいな、かっこよく張り出した胸に、短いスカート。
着崩した制服に、どこか不敵に見える笑みを浮かべている。
ジンのクラスメイトで、ジンとキリコの仲をとりもってくれた恩人だ。
その、姉御肌の彼女の名前は、ルネ。
「元気?」
「元気だよ」
「元気ー」
「いいねー! 元気が一番だ! でも、元気ないときはあたしに相談しなー!」
キリコとジンは、ルネとは正反対に思えるような雰囲気だ。
ルネが社交的なら、キリコとジンは個人的。
ルネが明るいとするなら、ジンたちは暗い。
でも、それでも、ジンたちは友だちだ。
というか、ルネに友だちじゃないやつなんていないのだろう。
「じゃ、またね」
お邪魔虫は消えるよ、とばかりに、挨拶だけして、ルネは先に進んでいく。
そして、教室に行く先々で、いろんな人に挨拶しているのが見える。
「ホント、人望が厚いよね」
「ふふっ、そうだね。わたし、ああいうエネルギーがあふれている人って、苦手だったの。……でも、ルネちゃんなら。いいかなっ、て思えちゃう」
「そういうとこ、あるよな」
あいつならしょうがない、で通ってしまうような何かがあるのだ。
殺したって死にそうにないタイプ。
こいつ、絶対神さまに守られているだろ、っていうタイプ。
一緒にいると安心できて、絶対大丈夫だ、って思わせてくれる。
それは、キリコとは逆で、キリコは、危なっかしいところがあった。
ある種、浮世離れしているところがあったし、ふとした拍子に、いなくなってしまうんじゃないかと思えた。
どこか、存在が希薄なところがあって、それは死の世界に近いということなのかもしれない、なんてジンは思う。
そういう独特な雰囲気にも、惹かれたのかもしれない、とジンは思っている。
ルネが死んだ。
ちょっとそれは、ありえない話に思えたし、それはジンだけの感情じゃなくて、みんなもそう思っていた。
教室の女の子たちは、ほとんど泣いていたし、男だって泣いているやつもいた。
お義理じゃなくて、たぶん心から、みんなが葬式に参加した。
ジンのクラスだけじゃなくて、他のクラスや他の学年からも来ていたし、昔の学校の友達とかも来ていたようだった。
そのあと。
確実に、ジンたちのクラスは、暗くなった。
何をやっていても、何か、何かが、まとわりついている。
何かが、心の底に、どこかに、こびりついている。
それは、ある種の死の残り香なのかもしれない。
ジンが、何度、朝に教室に入っても。
どうしても、この人数が正しいとは思えないのだ。
一人、足りない。
そうとしか、思えない空気が、一ヶ月くらいたっても、教室に流れていた。
しばらく前から、キリコの様子がおかしいことには、ジンも気づいていた。
でも、何を聞いても、大丈夫だとか、心配しないで、の一点張りだった。
だから、急にキリコが、うちに来てくれ、と言ったときには、ジンは、一も二もなく同意した。
「あのさ。話があるんだ」
深刻そうに切り出したキリコは、なにかを迷っているように見えた。
これを言ったら、何かが決定的に変わってしまうような何かを、言おうとしているように見えた。
「あのね。わたし。幽霊が見えるの」
「うん」
本当かよ、と思ったが、ジンは黙っておいた。
「それで、わたし、ルネちゃんのことが見えるの」
ジンの表情が、ネガティヴな方向に変わったのが、キリコにもわかったのだろう。
少しだけ、おびえたような顔をする。でも、また平静に戻して、キリコは話を続ける。
「証拠は、あるよ。ルネちゃんがね、これを言えば大丈夫だって言ってることがある」
「なんだよ」
確かに、ルネと自分とは、小学校からクラスも一緒だから、何かと共通の話題はあるだろうけど……。
ジンの思いとは関係なく、キリコは言葉をつづける。
「小学校の遠足で、ルネちゃんが吐いたときに、ずっとそばにいてくれて、バカにする人たちに怒ってくれて、絶対大丈夫だよって言ってくれて――」
そこで、ぴた、とキリコは口を閉じた。
なぜか、複雑な表情をしている。
「それで、結婚できるときまでに、他に好きな人がいなかったら、結婚しようって言った、って」
ああ。
そういえば。
そう言う約束は、していた。
というか、ルネは、もう忘れたものだと思っていたけど。
「ルネは、忘れたものだと思っていたけどな。覚えていたのか。俺はてっきり、すっかりクラスの人気者になっちまって、忘れているのかと思っていたよ」
本当にびっくりした。
「信じるよ。それは、確かに、あいつしか知らなそうなことだ」
それから、すうっと息を吸って、キリコは話を続ける。
「うん、それでね。わたしが、ルネちゃんをおろすから。つまり、憑依させるから」
え? 憑依?
「ルネちゃんと、ちょっと、お話、してみない?」
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わたしは、小さいころから、「見える」人だった。
だから、ルネちゃんが、学校の教室で、見えたときも、別段おどろきはしなかった。
ただ、やっぱりもう死んでしまったのだなあと思って、とても悲しくなった。
ふらふらと、宙をただようルネちゃんは、わたしの彼氏の方ばかり見るものだから、知りたくなくてもわかってしまった。
ああ、この人は、ルネちゃんは、あの人のこと、好きだったんだなあって。
全然タイプが違うから、そんなこと、思いつきもしなかったけれど。
教室で、ルネちゃんは、彼氏を見ていて、わたしは、そんなルネちゃんを見ていた。
ふ、とルネちゃんがこちらを振り向いた拍子に、思わず笑いかけてしまう。
ぎょっとしたような顔をして、ルネちゃんが後ろを振り向いて、だれもわたしを見ていないことを確かめたあと――。
ルネちゃんは、真っ赤になった。
それは、生前に、一度も見たことがない姿だった。
「うん、わかってる。わたしの彼氏が好きで、それが未練みたいになってるんだよね、きっと」
わたしの部屋。
そこに、幽霊のルネちゃんと、わたしがいる。
こくり、とルネちゃんがうなづく。
まさか、話まで出来るとは思わなかったな。
せいぜい、姿が見えるだけだと思っていたけれど。
「あのさ、キリコちゃん。よければ、体、貸してくれない?」
ノート、貸してくれない?
そういう文と、文法的には同じでも、全然違う重みをもって、それでも、ルネちゃんはその質問をわたしにしてきた。
体を貸す、か。
やったことないけど。
別に、それくらいなら。
してもいいかな、と思ってしまった。
体を乗っ取られたら怖いな、とも一瞬思ったけれど。
不思議と、ルネちゃんの霊にとりつかれる、悪いことをされる、という感じはしなかった。
悪霊、みたいなやばそうな雰囲気が、なかったからかもしれない。
「できるかどうか、わからないよ」
だから、わたしは。
消極的な肯定を、ルネちゃんに返した。
「うん、ありがと」
「でも、ひとつ聞いていい?」
「なあに?」
少し、不安そうな顔で、ルネちゃんが言う。
こういう表情も、あまり見たことがなかったな。
「貸した体で、どうするの?」
「…………告白、したい。……駄目、かな」
告白、か。
「いや、駄目じゃないよ」
「そ、そっか! よかったぁ~……」
そのよかったぁ、が、あまりにもほっとした様子だったので、笑ってしまう。
「な、なんだよう! あ、あたし何か変なことした!?」
恥ずかしさと怒りを混ぜて、笑いでごまかしたような声でルネちゃんが言う。
それもまたおかしくて、わたしはまた笑ってしまう。
「う、ううん! 全然。ただ、あんまりそういう表情、見たことなかったから」
「え?」
驚いたような顔を、ルネちゃんはした。
「いつも、元気いっぱいで、自信たっぷりだったから。今、はじめて、ちゃんと同じ人間なんだなあって思った」
「あたし、スーパーマンじゃないよ」
女の子なんだから、スーパーウーマンだよ、とは言わないでおいた。
「超人じゃないっていうの、今更ながらにわかったよ」
わたしは、気合いを入れるために、ぱんっ、と手を叩く。
「よし! それじゃあ、うまくいくかわからないけど、体を貸してあげるから。告白、してきなよ」
「うん」
その照れくさそうな顔は、恋する乙女なんだなあと思った。
ちょっとした嫉妬と、ちょっとした可愛さを、わたしは感じた。
「ルネちゃんと、ちょっと、お話、してみない?」
そう言ったとき、彼は、やっぱり驚いたみたいだったけれど。
そのあと、ゆっくりと、首を縦に振った。
わたしは、もちろん、霊媒師の真似事なんかやったことはなかった。
しかし、準備はまったく必要なかったようだ。
彼が首を縦に振った瞬間、体の自由が、奪われたのだから。
(ち、ちょっと! 急ぎすぎじゃない!?)
(ご、ごめん、なんかうれしくて、入っちゃった……)
頭の中で声がする、というのは、やっぱり不思議な感じだ。
ぐー、ぱー、ぐー、ぱー、と手をにぎったりとじたりする。
「お、おお、キリコ、どうした?」
「違う、違うよ! あたしはルネ!」
「も、もう憑依したの?」
「な、なんか、入っちゃってさ、うん……」
(ほら、ほら、話して話して)
(うん、わかった……)
わたしの言葉に、ルネは、オドオドとして従う。
こんなのは新鮮だなあ。
「あ、あのさ。実は、あたし、あんたのこと、けっこう好き、だった、んだよね……」
「お、おう……でも、あれだな。俺のことなんて、眼中にないかと思ってた。なんつーか……やる前からあきらめてたっつーか、高嶺の花になったように感じてた」
「そっか……あのね。実は、あたし、後悔してる。さっさと、あたしの方から、告白すればよかったなって」
「うん」
「もし、そうしたら、断らなかった?」
「たぶん、受けてたよ」
わたしの心は、少しだけ痛む。でも、だれのことも責める気にはなれない。
わたしの心は痛んだけれど、もしかしたら、それはルネの痛みも入っていたのかも。
「あのさ。なんか、あたし、成仏できないんだよね」
「え? それって、まずいんじゃない?」
「うん、たぶん、まずいんだ。未練があるから、だと思う」
「未練、って何?」
「うん……自分の気持ちを伝えること、だと、思ったんだけど……」
まあ、普通に考えればそうだ。
「でも、あたしに、変化ないんだよね……」
確かに、わたしの体から、ルネちゃんの魂が出ていく感じはない。
「だから、もう一つ、未練が残っているのを、消化しなくちゃ、って思う、んだ」
わたしの声で、なにかとんでもないことを言おうとしている。
という予感があった。
「実は、さ。あたし――君と、セックスしたい」
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「実は、さ。あたし――君と、セックスしたい」
(うわぁ、マジか、ルネ……)
(ごめん、キリコ。駄目、だよね……)
(…………………………………………)
なんてこった。
ジンは、呆然と立ち尽くす。
いや、それはまずいだろう、と思うが、体がキリコのだから、別にいいのか?
いやいや、心が違うんだから駄目じゃない?
でも、ずっと成仏できなかったら、それもまずくない?
完全に心がフリーズしたジンの声に、キリコの声が響いてきた。
キリコの声音をしたルネの声じゃない。
本物のキリコの声だ。
憑依されたときには、声音が変わるという話はジンも聞いたことがあった。
確かに、憑依されているときの声は、「声が同じだけど、違う」。
それを、ジンは、はっきりと感じる。
「いいよ。やってあげよう」
「でも――いいの?」
「まあ、わたしの体だしね。わたしたちで、供養しよう」
(―――いいの? キリコ?)
(いいよ。わたし、もう何度かしてるし、やるとしたらこの体だし――――大切な、友だちの頼みだしね)
(――――ありがとう。本当に)
ジンは、少しだけ考えて、言った。
「わかった。やろう」
キリコとジンが「する」のは、これが初めてじゃない。
でも、ルネと「する」のは初めてだ。
でも、この体はキリコのもので……。
ああ、もう、なんだかわけわかんなくなってきたぞ。
だが、混乱しているのは、ジンだけではないようだった。
「あ、あのさ。あ、あたし――はじめてで、どうやっていいのか、よく、わかんないんだけど」
「お、おう」
(わたしは、何度もしたことあるけど)
(むっ)
キリコの言葉に、ルネがちょっとだけ嫉妬する。
だが、そんなことには、もちろんジンは気づかない。
心の中を、ジンはのぞけないから、二人の会話はわからない。
どうやっていいのかわからない、という言葉だけしか、ジンには聞こえていないのだ。
そうだ、そうだな。
俺がリードしなきゃ。
未経験のルネを見て、ジンの心が落ち着いていく。
「じゃ、キス、しよっか」
「ぁ……」
(キス、だ…………)
(ルネ、もしかして初めて?)
(うん……はずかしい……でも、うれしい……)
一瞬、ぽうっ、とした顔をする。
そんな顔をするキリコを、ジンは今まで見たことがない。
いや、そもそも、ここにいるのは、今ルネなのか。
「ファースト、キス、だね……」
よく知っている顔のはずなのに、まるで別人のようで、俺はびっくりする。
すっごくかわいい。
そう思ってしまうと同時に、キリコに悪いな、という罪悪感が心の中で、鎌首をもたげてくる。
もう一度、目を合わせると、キリコが、すっ、と瞳を閉じた。
俺は、一度、大きく深呼吸すると、キリコのくちびるに、自分のくちびるをつけた。
「んっ、ちゅっ、ちゅっ、んふっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅ、ちゅはぁ……」
(ルネちゃん、エロいよ……)
(だ、だって、これ、きもち、いい、よ……)
俺が舌を入れると、キリコの舌も、積極的に絡んでくる。
不思議だ。
キリコの舌なのに、キリコがこの舌を使っている感じがしない。
いつものキスとは、微妙に違うのだ。
やっぱり、ここにいるのは、別人なんだ、という思いを、強く感じる。
「ちゅっ、じゅっ、ちゅるっ、ぢゅちゅるっ、ちゅっ、ちゅぱっ、ちゅうっ」
(あぁ、あぁ、音すっごくたてちゃってまぁ……)
(は、恥ずかしいこと言わないでよ!)
(いつも勝気なルネちゃんをからかえるの、こーゆーときだけみたいだもんね)
どんどんと、水音が激しくなる。
たくさん出た唾液を交換して、最初は優しくお互いを確かめ合うようなキスが、徐々に、お互いをむさぼるようなキスに変わっていく。
相手の舌をなめる。
くちびるの表側に舌をはわす。
歯茎とくちびるの間に、舌を入れて動かす。
口蓋をねぶる。
どんどんと出てくる唾液が、俺たちのつながった口の中を行ったり来たりする。
いつの間にか、俺の手が、キリコの胸のほうへと伸ばされる。
やわらかな感触を手に感じる。
そして、それとは対照的な緊張が、キリコの体へと走る。
だが、それは、キスと、ゆっくりとした胸への愛撫で、徐々におさまっていく。
「じゅるっ、じゅぷっ、じゅるるっ、じゅぽっ、じゅちゅっ、ぢゅるるっ、ぢゅぽっ、ぢゅっ!」
キスの音が、どんどんといやらしくなっていく。
それに従って、俺の股間のものも、どんどんと硬さを増していく。
キリコの手を取って、股間に当てる。
びくん、と、キリコの体が痙攣するのがわかった。
俺たちは、どちらからともなく、体を離す。
「…………すごい、かたぁい……」
何も知らない子どものように言うものだから、なんだかゾクゾクしてしまう。
(お、おちんちんって、こんなになってるんだ……)
(早くおまんこに入れたい?)
(お、おま……)
(あ、かわいー、ドキドキしてるの、わかるよー? ルネちゃーん?)
(む、むっつりスケベ!)
(あはは、ごめんね~)
(で、でも、どうすればいいんだろ、これ……)
(じゃ、体ちょっと返して)
キリコが自由に動きたい、と思っていると、案外すんなりいく。
基本的に、主導権はキリコにあるようだ。
するすると、自分の服を脱いで、ジンにも脱ぐように目で合図する。
「今、体使っているの、キリコだろ」
「!」
「なんでわかるの? って顔してるけど、思い切りよく脱ぎすぎだ。いつものキリコじゃないか」
「―――でも、もう、ルネだよ」
声色が変わった声で、急に言われて、ぞくりとしたものが、ジンの背筋を走った。
裸の女。
自分の恋人の裸。
ジンにとって、それは、ふつう、いきなり興奮するようなものではなかった。
でも、今は違う。
恋人の体。
その中に入っているのは、明らかに、「違う」人間なのだ。
だれか違う人間が、自分の恋人の中に入っている。
そして、体を操っている。
それに、ジンは倒錯的な興奮を覚えた。
(すごいね。ガチガチじゃん)
(え、えと……)
(ほら、おちんちん見てごらんよ。すっごく大きくなってるんだ。悔しいなあ)
(なんで、悔しがるの?)
(だって、恋人のわたしじゃなくて、ルネちゃんの裸を見て興奮してるんだよ?)
(――――)
(恋人の裸だけど、中にいるのは別人だってわかって、興奮してるの。わたしの体で、他の女の子とできる、ってね)
(ごめんね)
(謝ることないって。結局、わたしの体なんだから)
(じゃあ―――遠慮、しないよ)
(うん)
「ちゅっ」
「うおっ」
いきなり、ペニスに口づけされて、びっくりした。
「い、いきなりで、びっくりした」
「だめ、だった?」
チロチロと、そういいながらも、先端をなめることを休めない。
「だ、だめじゃないけど…………」
「はむ」
最後まで男に言わせず、女は、先端を口に含む。
「ちゅっ、ちゅるっ、れろっ、ちゅっ、れろっ、ちゅぷっ、ちゅるっ」
「あ、う、うぁ……」
慣れないその動きは、明らかにキリコのものとは違っていて―――それでも、本能にまかせたその動きは、確実に快楽をペニスに送ってくる。
「じゅぷっ、じゅるっ、じゅっ、じゅるっ、じゅっ、じゅっ、じゅるるっ!」
徐々に、深く咥え込んでいき、先端から根本まで、すっかり飲み込まれる。
また、口をすぼめたまま、引き抜き、先端が口元から離れかけたところで、また根本までずっぽりと飲み込む。
唾液でべとべとになったペニスと、口が、卑猥な音を奏でる。
「じゅるるうっ、じゅちゅっ、じゅるっ、じゅぽっ、じゅぷっ、じゅるるるっ!!」
キリコの手が、自分の股間に触れる。
ぐちゅり。
そこはもう、恥ずかしいほど濡れていた。
「じゅぷっ、じゅっ……ね、ねえ、あたしのも、さ……」
立ったままの男に、しゃがんで奉仕していた女は、そのまま、後ろに手をついて、ぱっくりと股を割る。
「見、見える、かな、その……あそこ、が……」
(あー、ルネちゃん、もうちょっと大胆に言っちゃおうか)
(え、な、なに――)
男の知らないところで、体の主導権が交代する。
ルネの口調をまねて、キリコが話す。ジンに、まるでルネがしゃべっているかのように錯覚させるために。
「お、おまん、こ、が、びしょびしょ、だか、ら、な、なめ、て………」
(うわぁああああっ! うわああああ! ちょ、ちょっとやめてよね、なんでそんな)
(だってルネちゃん、恥ずかしがりやだもん。もっとガンガン攻めればいいんじゃない?)
(い、いつもこんなこと言ってるの!?)
(いや、言ってないよ? でも、こういうときじゃないと思いっきり言えないしね、恥ずかしくて)
(やってくれるじゃない!)
(自分の彼氏と、他の女の子とのセックスのために、自分の体を使わせてあげてる、や・く・と・く♪)
からかうようにそう言って、キリコは、もっと挑発する。
ゆっくりと、自分の指を、あそこにあてて、押し広げる。
「ひくひく、してるよ……欲しい、よ……」
ジンが顔を近づけると、そこに開いた穴が、ひくひくと蠢き、呼吸をしているように閉じたり開いたりしている。
ぽっかりと空いた黒い穴が、そこに何かを埋めこんでほしいとささやいている。
「ちゅっ、ちゅるっ、れろっ、れろっ……ぶちゅるるっ、ちゅっ」
ジンは、そのまま顔をあそこに近づけて、舌でなめとっていく。
最初は、舌で優しく。なめるように。
だんだん、口全体を押し当てて、キスするように。
「ぶちゅるっ、ぢゅるっ、ぢゅぢゅぢゅっ!」
「あっ、ああっ、あっ、あああっ……」
がっくりと力が抜けそうなキリコの体を、腰をもってしっかり固定すると、ジンは優しく囁いた。
「入れるよ……」
「はい……」
(がんばってね、ルネちゃん)
思わず敬語になってしまった、ルネの緊張を、入ってくる異物の快感が、押し流す。
「あっ、はああああっ………っ!」
「すご、いつもより、締め付け、つよ……」
「つ、つながってるっ、あたしっ、つながってる……!」
気持ちのままに、二人はキスをする。
「ちゅっ、ちゅるっ、ちゅむっ、ちゅっ、んんんっ、いいっ、いいよおおっ、そこっ、そこ感じるのおっ、いいっ!」
腰をもって、ゆっくりとゆすっていく。
からみつく膣壁が、きゅんきゅんとペニスを締め付ける。
「あああっ、いいっ、おちんちん、出し入れされて、気持ちいいっ、そこっ、奥に、んんっ、感じるっ……」
いつもとは違う、締め付け、快感。
他の女の子とのセックス。
自分の彼女の体で、他の子とセックス。
「ああっ、そこっ、お、おま、おまんこっ、おまんこ感じちゃうっ!」
ルネは、勇気を出して、自分からいやらしい言葉を叫ぶ。
何かを解放するように。
何かから自由になるように。
「俺も、気持ちいいよっ、もう、もう出ちゃいそうだっ……」
「いいのっ、あたしも気持ちいいのっ、すごくいいっ! おまんこいいっ、オチンポいいっ、セックス好きっ、おまんこ好きっ、オチンポ好きっ、大好きっ、みんな好きっ!」
そう言うと、ぴんっ、と足に力が入り―――
「好きっ、あなたが好きっ!! ぁ、あああああああああああああっ!!」
二人だけの部屋で、キリコとジンは見つめ合う。
「行ったのか?」
「うん」
沈黙。
「もう、いない。わたしの体に、ルネちゃんを感じない」
「そっか」
二人は、ただ見つめ合って、ほんのちょっとだけ泣いた。
この世に、彼女は、もういない。
< 完 >
あとがき
憑依をMCだと思っていなかったのが、感想掲示板でそういうのもありなんだと蒙(もう)を啓(ひら)かされ、憑依ものを一本、とりあえず書いてみようと思った。
セックス大好きな恋人が亡くなって、主人公の周りの女性に次々とりついて主人公と楽しむ、みたいな「一人ハーレム」の方がわかりやすく、よりMCっぽかったかも。また、完全に男性一人称で、恋人の意志を完全無視の方がMC感はもっとでたかも。でも、この話で書いたような三角関係は好きだ。
わかるように書いたつもりですが、憑依という特殊条件なので、誰のセリフかが小説だとわかりにくかったか。小説でなく、メッセージウィンドウや音声付きのゲームだと問題ないでしょうけども。
余談ですが、『確かに、憑依されているときの声は、「声が同じだけど、違う」。』とか書きましたが、『憑依されているときの声はまるっきり別人』という話の方をよく聞いた記憶がありますね。声が同じだけど違う感じのほうがより官能的かと思って、こういう風にしました。