茶室の花 1.きっかけ

1.きっかけ

 ―――小さく、暗い部屋で最後の日記を書く男、
 『――――共に生きて行こうと思う』
 書き終えた男はペンを置き考える。
 俺は間違っていたのか、と。
 美しい女性が部屋に入ってくる。
「行きましょう、あなた」
「あぁ」
 男は、ペンをもう一度持つと、日記に何かを書き残す。
「なにをしているんだろうな、俺は」
 男は女と共に部屋を出ていく。
 …それから十数年の時が流れた――――

 人間だれしも生まれ持ったものがあり、平等なんて言葉は嘘っぱちだ。
 僕は平凡な顔、運動能力、学力…突出した才能は持って生まれなかった。
 ただ伝統があることだけが取り柄の共学市立学校で、僕の名前を知らない人はおそらくほとんどいない。
 僕は茶道の権威でTV出演もしている、あいつの息子だったからだ。

 ―――入学して2週間ほどのホームルーム―――
「おい!お前の親父またTV出てたぞ!」
 というクラスメートからの嘲笑を軽く流しながら、入部部活希望用紙を眺めていた。
 野球部、サッカー部…おなじみの部活の一番下、担任の手書きで加えられた茶道部の文字。
「希望の部活と名前書いたら教卓に提出して帰っていいわよ」
 担任の川上まひるの声だ。
 26歳で身長は低め、なめられたくないのか、きっちりとしたパンツスーツに身を包んでいる。
 ただ、ショートカット、童顔に大きめの胸の彼女には似合っているとは言いがたい。
「せんせー!帰宅部希望はー?」
「提出せずに帰っていいわよ。ただ、推薦進学を考えるなら何かしら入っていた方がいいと思うわ」
 三年前にも聞いたような会話を背景音に茶道部にチェックを入れる。
 僕に自由はないのだ。
 …いや、ないのは自由じゃなくて勇気か…。
 そのまま提出すると、用紙を見てほっとした顔の担任から声をかけられる。
「茶道部は部員が居なくなって廃部になっていたからよかったわ。部員が集まるまでは私が仮顧問になると思うから、よろしくね。じゃあ、明日の放課後からでも離れにある茶室で始めましょう」
 我が校の歴史は古く、立派な茶室は校舎の中にはない。
 だが、“始めましょう”なんて、部員一人相手にどうするつもりなのか…。
 憂鬱な気分のまま帰路についた。

 次の日の放課後、入学後初めての部活動に活気づく生徒たちをしり目に、離れの茶室へ向かう。
 校舎から歩きながら、本でも読んで時間を潰すしかないな…と考えていると、茶室の周りに真っ白な花が咲き誇っているのが目に入った。
 赤い斑点がついた綺麗な花。
 ユリに似ていたが、知らない花だった。
「花、好きなの?」
 後ろから川上先生に話しかけられる。
「別に、そんなことないです」
 と言いながら、横引きの茶室入口をくぐった。

 中は立派な造りだったが、ほこりだらけだった。
「廃部になって久しいからかしら」
 涼しい顔をして中に入ろうとしない先生。
「…茶道部の入部希望は今のところあなただけ、私も心当たりに声をかけているけれど、今のところ良い返事はもらってないわ。今日は和室の掃除からね…悪いのだけど、今日私は吹奏楽部の方にも顔出さなきゃいけないから…ごめんなさいね」
「そうですか」
 よくそんな言葉を平然と言えるな、と先生の背中を見送りながら返事をする。
 彼女は吹奏楽部の副顧問でもあり、おそらく、そちらにしか興味がない。
 ただ父の影響で茶道部を再開し、形だけの仮顧問になっているだけなのだ。
「掃除か…どうしようかな…」
 別に茶道部を活気づけたいわけでは無いから勧誘はしないが、今から三年間過ごす部屋が埃だらけなのは気にくわない。
 三十畳を超える広間、四畳半の小間、ちょっとした料理なら出来そうな水屋など、軽く小さな家を一人で掃除することに辟易しつつも、少しずつ掃除を始めた。

 二時間も掃除したころだろうか、そろそろ帰ろうかと考えていた時、掃除していた座敷奥の壁、掛け軸横の木目に違和感を覚えた。
 軽くノックしてみる。
 …音が高い。
 気になってあちこち触っていると、ガコッと音を立てて地下への階段が現れた。
 ワクワクする。
 こう言った秘密基地の匂いのする場所に弱いのだ。
 すっかり日が暮れているのも忘れ、階段を下りていくと、そこには茶室には似つかわしくない部屋が待っていた。

 家に帰ると、地下室から持ち帰った日記を読みふける。

 両親は仕事の関係もあり、東京に家をもうひとつ買ってそこに住んでいる。
 僕はどうしても今通っている高校を受験したいと言ってここに残った。
 ついて行きたくなかったというのが本音だった。
 結果、この広い家に住んでいるのは僕一人だ。
 父は僕に茶道をさせたいみたいだけど、一度だって教えようとしたことはない。
 そもそも茶道に興味はないし、作法も全くと言って知らない。

 一通り目を通した日記の最後にはこう書いてあった。

 『この花の研究を通して判ったことを箇条書きにしてまとめておく。
 ・葉を煎じて飲ませる、花を香として焚く、そうすれば催眠効果がある。
 ・催眠状態では、理性の低下、感度の上昇、筋肉の弛緩等の変化が見られた。
 ・効果持続時間は個人差がある。
 ・根を煮て、汁を飲んでおけば、しばらくそれらの効果を防ぐことができる。
 ・中毒性・副作用・その他、人に対する害は見つからなかった。
 ・この花はこの茶室の周り以外では育たない。
 俺は、この花の使用はやめて、憧れの人に宿った命と共に生きて行こうと思う』

 僕の中になにかが芽生え、決意した。
 茶室を僕の楽園にする。
 茶道部を僕の為の部員たちでいっぱいにする。
 この窮屈な生活を、自分の手でかえてみせる。

 ―――本来なら文を書くような場所ではないが、日記の背表紙の裏、いわゆる効き紙のカバーに隠れた部分に、彼が目を通さなかった場所があった。そこには―――

 やっとのことで
 目当ての人を
 手に入れた。
 俺のこれまでの努力と
 研究は間違っていなかった。
 この日記を
 運よく手にした奴、
 書き記したことをよく読んで
 意中の人を手に入れてくれ。
 好きなことに使って構わないが
 流布だけはやめてくれ。

 二日後、放課後になると、一昨日とは打って変わって軽い足取りで茶室へ向かい、先生を迎える準備を始めた。
 昨日は、必要なものをそろえるだけで時間が無くなってしまった。
 その分準備はバッチリのはずだ。
 …不安になってくる。
 だけど今日うまく行けば、きっと僕の人生は変わる。
「掃除は進んでるかな?」
 心臓が飛び出るところだった。
 昨日と同じく、入口から顔だけをのぞかせる先生。
「まぁぼちぼちです。そんなことより先生、僕の点てたお茶飲んでくれませんか?」
 ドキドキしているのを悟られない様、普段通りを装う。
「え?うーん…私、作法なんて全く分からないし、吹奏楽部の方も見に行かなきゃいけないし…」
 あからさまに嫌そうな顔をする。
 が、こちらも引き下がれない。
「一杯だけで良いんです。作法も関係ないし…部員がいないからお茶立てても飲んでくれる人がいなくって、小間はきれいに掃除していますし!」
「そう…じゃあ、一杯だけね」
 この人は表情を隠せないのか…そんなイライラも、これからの期待と不安で消えていく。
 準備していた小間へと通す。
「あら、良い香り。何か焚いているの?」
「…えぇこの茶室にお香があったのでそれを…疲れを取る効果があるとか何とか…」
 そう言いながら、慣れない手つきで茶器を扱い始める。
 昨日必死に頭に叩き込んだ作法で、(…多分間違っているのだが、相手も知らないから助かった)お茶をたてる。
 多少まごついていると、先生の顔が少し緩んでいるようにも見える。
「…先生、作法など関係ないので、足を崩してしまってください」
「…えぇそうね」
 正座していた先生は言われるまま足を崩した。
 やっと点てたお茶を目の前に出しても、焦点の合っていない目で眺めているだけだ。
「…先生、お口に合わないかもしれませんが」
 先生ははっとした顔をして、お茶に手を伸ばす―――ひとくち飲むと、また顔がゆるみ始める。
「おいしいですか?」
「えぇ…苦くて、おいしい」
「お茶を飲んで熱くなったんじゃないですか?上着を脱がれてはどうです?」
「そうね…」
 だらだらとスーツの上着を脱いで、白いブラウス姿になる先生。
 すでに僕は先生を一人の女性として見始めていた。
 うまくいきすぎていることにドキドキしながらも続ける。
「先生は今どんな気分ですか?」
「…なんだか体が火照って、ふわふわしてる…」
「心地よいですか?先生はずっと今の心地よい状態でいたいですよね?」
「えぇ…」
「そのためには、先生がいつも今のような幸せな気持ちになりたいと思っていなければなりません」
「なりたい…」
「その調子です。そう念じながらお茶を飲み干してください」
「今の…シアワセ…ゴクッゴク」
喉を鳴らしながら全て飲んでしまう。
「これで先生は表面上忘れていても、心の底では覚えていて、僕から“茶室のひと時”と言われると、今の状態に戻ることができます」
「茶室のひと時…」
「そうです。この幸せは茶道がもたらしてくれます。だから吹奏楽の副顧問をやめて、茶道部の正式な顧問になってもらえませんか?」
「…それは…いや…」
「なぜですか?そうすれば、茶道に向ける時間が増えて、ずっと今みたいな状態になれますよ?」
「だけど…吹奏楽をやめるのは…いや…」
 少し焦りすぎたか…?しかし、ここまで吹奏楽にこだわりがあるとは…。
「…先生は、茶道部の仮顧問なのに、茶道の作法を知りませんよね?だから覚えなくてはなりません」
「えぇ」
「大丈夫、僕が全部教えてあげますからね。ひとつずつ覚えていきましょう。いいですか、先生。僕が教えることはどんなに変なことでも全て事実で、どんなことでも身体は僕の言う通りになってしまいます」
「どんなことも…」
「ところで体が火照っているなら熱いですよね?」
「えぇ…少し熱いけれど…」
「では、服を脱いでしまいましょう」
「でも…」
「大丈夫です。茶道の作法では熱いお茶を飲むときは服を脱いでも良いのです」
「そう…なの?」
「そうです。リラックスしてお茶を楽しむためです。お客の手を煩わせるわけにはいかないので僕が脱がしますね。」
 適当な作法をでっちあげて先生を脱がしていく。
 完全に力が入らなくなった先生は為されるがままだ。
 慣れない手つきで脱がせていくと、不意に、あぁ先生とするんだという実感がわいてくる。
 とうとう下着姿になり、少し汗ばんだ真っ白な肌を晒す先生。
 僕はその姿に見事勃起してしまった…が、まだ我慢だ。
「上下ピンクの下着ですか?スーツの下は随分とかわいらしいんですね」
 先生は恥ずかしそうにうつむくと、顔が赤くなっていく。
「先生は今、教わる立場ですね?作法を教えてくれる僕には敬意を払ってください。…そうですね、敬語を使ってください。敬語を使うたび、僕への敬意の念が増していきます」
「はい」
「茶道はおもてなし…相手をリラックスさせるのが目的です。だから、自分自身がリラックス出来てないと、とてもじゃないけど無理だっていうのが僕の持論なんです。まずはリラックスできるようにマッサージから始めることにしますね」
 …我ながら無茶苦茶言っているな、と思いつつマッサージを始める。
「邪魔だから下着もとっちゃいますね」
「あっ待って…」
 口ではこう言いながらも、ほとんど抵抗することなく、下着を脱がされると仰向けに横たわった。
 ブラジャーを外すと思った以上の大きさだった胸に釘づけになってしまう。
 先生は恥ずかしそうに
「見ないでください…」
 と小さな声で呟いた。
 胸からやっとのことで目を離すと、ゆっくりと心臓に遠い部分から揉んでいく。
 指先、手のひら、腕、二の腕…先生は眠ってしまいそうだ。
「先生、リラックスできていますか?」
「はい…とても…穏やかな気持ちです…」
「僕が胸を揉みはじめるとマッサージの心地よさが、快楽に変わっていきます。この快楽は今までにない気持ちよさで、そんな快楽を与えてくれる僕を一人の男として意識し始めます」
 言うが早いか、身体のわりに大きな胸を揉み始める。
 柔らくてスベスベした胸は形を変えては押し返してくる。
 今まで緩んでいただけだった顔が、赤みをおび始め、しだいに艶めかしい吐息をもらしはじめた。
「う…くぅ…あっ」
 先生は顔を手で覆い、恥ずかしそうに声を出すまいと我慢している。
 そんな声が耳に入らないほど夢中になって、僕の手に余る胸を揉んでいると、だんだんと乳首が硬くなっていくのがわかる。
 乳首を少し摘まんでみる。
「ひあっ」
 乳首を指ではじくたびにビクッとなる先生が面白くて、左右交互に何度もはじく。
先生は次第に身体をくねらせ始める。
「ねぇ…お願い…下も…」
 自分で触ろうとする先生にすかさず声をかける。
「自分で触っても快感を得られないっ。代わりに僕に触られると今までの倍の快感を得られるよ」
 動きかけた手が、畳を掴む様なしぐさへと変わる。
 吐息が深くなり、時折ビクッビクッっと身体を震わせる。
 もどかしそうに身体をくねらせる姿が、妙に扇情的で、僕自身も次第に理性を失っていった。
 勃起して痛くなっていたモノをズボンとパンツから解放する。
 少し触れば射精してしまうほど、パンパンに勃起していた。
 僕は先生のダラダラと愛液があふれる膣を愛撫してみることにした。
「はう…んんぁ…」
 ひと撫でしただけで、ビショビショになってしまった指先を見ると、僕の中で何かが弾けた。
「先生、もっと気持ちよくなりたかったら、僕のモノを舐めてください」
 言った後、しまった!と思った。
 全く茶道も、リラックスも関係ないことに気付いたのだ。
「はい…」
 先生はそんな僕の不安をよそに、よろよろと身体を起こすと虚ろな目で、躊躇なく咥え始めた。
「じゅるる…じゅる」
 なめて、とお願いしたつもりだったのに、いきなり咥えられてしまった僕は、思わぬ刺激に腰を引いてしまう。
 先生は足を開いて快感を得られないはずの手でズブズブと膣をいじっている。
 もはや茶道とか、リラックスとか、口実をつけなくても先生は欲望のまま行動しているようだった。
「じゅぽじゅぽ…じゅる…」
 決して上手くはないのだろうけど、先生の痴態をみた今の僕には十分な快感だった。
 もうだめだ…!我慢できない!
「でる…の、のんで」
 ドクッドクッドクッ…
 情けないほど咥えられてすぐの射精だった。
「んぐ…ん」
 惚けた顔で精子を必死に飲み込む先生を眺めながら、気だるい感覚に襲われる。
 今までで一番多く出たんじゃないだろうか?と、ボーっと考えていると、
「あの…約束…」
 という声に我にかえる。
 先生は口元にわずかの精液をつけたまま足を開き、指でビチャビチャの膣をパックリと広げて待っていた。
 その姿に、グググッと元気を取り戻していく。
「お願いしてください」
「え?」
「入れてほしかったらお願いしてください」
 少し躊躇する先生。
「…お願い…早く入れて…ください…」
 小さな声で呟く。
「口でもう一度とは、先生も変わっていますね」
「ち、違う……あそこに…入れてください…」
「……どこにですって?」
「…あそこ…うぅ…おまんこに!お願いです!もう我慢できません!グチョグチョになったおまんこに入れてください!」
 急に大きな声になったその言葉で完全に元気を取り戻したモノを挿入する。
「きた…!これを待ってたの…あ…あぁ…いきなり、そんなにしたら…んん~~~」
 先生は一気に身体をそらせる。
「まだイったらだめだよ!僕がイくまで先生はイケないからね」
 そう言いながら慣れない腰つきで懸命に突く。
「っく!…んん!こんなに気持ちいいのに!なんで…ん…イケないの!?」
 先生は自分から、これでもかと激しく腰を振る。
 目の焦点はあっておらず、口からは涎が垂れている。
 膣からは愛液がダラダラと流れ、畳はぐしゃぐしゃだ。
 僕も同じような顔をしているかもしれない。
「だ…め…もう…これ以上…あぁ…」
 先生は脱水症状を起こすんじゃないか?って位、汗と愛液でびしょびしょになっている。
 二回目だと言うのに、僕は射精が近いことを感じていた。
「先生、あなたは僕がイったら今までで最高の快感と共にイク事が出来る。そしてイった時の快感で頭がいっぱいになっていく。その快感は僕からしか与えられない。それ以降あなたの行動理念は僕にいかに媚、いかにへつらって快楽を与えてもらうかでいっぱいになる!もう、先生は僕のものだ!わかった!?」
 昨日考えたセリフはとうに頭から飛んでいて、頭に浮かんだ言葉を並べていく。
「う…ん…わかったから…早く…」
「敬語で…!!」
 自分自身も余裕がないため、自然と怒ったような口調になる。
「あぁ…ん…わかりました…私は、あなたの、ものです!だから…お願いします!イかせて…イかせてくださいぃ…!!!」
 教室での気を張っていた顔から想像出来ないほど緩み切り、目じりが下がった先生の顔を見ていると、僕ももう限界だった。

「先生気持ち良かった?」
「はい」
「今みたいなこと、していきたいよね?吹奏楽部の副顧問はやめて茶道部の顧問になってくれるよね?」
「はい、もちろんです」
「それと…二人きりの時は僕、いや俺のことはご主人様と呼んで、命令に疑問をもたず、逆らわないこと」
「はい、私はご主人様のものですから当然です」
「よし、じゃあ、ここ片付けたら吹奏楽部に顔だけ出して俺の家に来い。続きをしてやる」
「ありがとうございます!」
「それと、吹奏楽部員の写真付きプロフィールを持ってこい。出来るな?」
「もちろんです!急いで参りますね!」
 片づけと称して奉仕をはじめたまひるを見ながら、茶道、全然関係なかったな…なんて、くだらないことを考えていた。

< 続く >

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