監獄の男

―――

 某県某所、根専女子刑務所にて。

 10畳ほどの和式の部屋、鉄格子などはない。一般的な横開きの鍵付きドアが、部屋の唯一の出入り口だ。
 トイレは隣の小部屋に一つ。風呂は別の場所に設置されている。通常ならば、そこには女性しかおらず、男性がいたとしても初老の男性刑務官しかいない。

 そんな閉ざされた空間で、1人の女性囚人がいるはずのない若い男性に奉仕をしていた。
 二人は布団の上で座り、全裸になっている。

 「……ちゅる……ちゅる……はぁっ…ぶちゅっ…はぁぁん。んっんっ……じゅっ」

 奉仕をしている女の名は玉原弥生。
 23歳にして、大規模な詐欺グループの主犯であり、大勢の善人から金銭をせしめていた。
 彼女は、大よそその顔に似つかわしくない犯罪を重ねていたのである。
 初犯ではあるが反省の態度が見えなかったため執行猶予が付かず、刑務所行きとなった。

 弥生は童顔の顔立ちに、大きな目。店の売り子をすればすぐに看板娘になるであろうと思わされる。美しい女性であった。
 女性から見ても低い身長も、あどけない仕草も、そして小さな体に比べれば大きい胸も、全て馬鹿な男をだますための武器だった。
 現在の髪形は黒髪で肩にかからない程度のショートカット。メイクも薄くではあるがしていた。

 メイクは、本来刑務所では御法度のはずだ。しかし、根専女子刑務所B棟173号室ではそれが許されていた。

 弥生に奉仕をさせているのは花田金尾(かなお)という男。20代後半の顔で、身長は平均的である。はたから見ると、何の取柄もなさそうな情けない男にしか見えない。

「弥生、出すぞ」

 その声を聴いた弥生は、ラストスパートと言わんばかりに口淫のスピードを速めた。金尾はたまらず弥生の口に出す。

「…んく…っ……ふ……ごくん……ふっ…ん…んはぁぁ……。ごちそうさまです。ご主人様……」

 その顔と体で多くの男を騙してきた弥生だが、金尾に向ける恍惚とした上目遣いは決して演技ではなかった。
 金尾が頭を撫でてやると気持ちよさそうに喉を鳴らしながら目を細める。

 弥生は、金尾の肉棒にまだ残っている精液を吸い出し始めた。
 金尾は心地の良い快楽に顔を歪めながら、これからどうするか悩んでいた。

 さて、この男は今朝超能力を自認した。
 なぜ能力を得たか、どこから得たか、は金尾にも分からない。起床したら、突然この力を自覚したのである。

 金尾は工場勤めで周りに男しかいない環境で働きつづけて来た。突然超能力を授けられました、と言われても使い道がなかった。
 都合よく美人な女性と知り合いなわけがない。とりあえず金尾は仕事を辞め、女漁りの旅をすることに決めた。

 そうは言っても当てのない旅をするのも嫌だった金尾は、とりあえず洗脳しても罪悪感のなさそうな近くの女性刑務所に訪れた。
 そして都合よく美人な女性がいないか、と一通り探して弥生を見つけ出したのである。

 監視カメラに引っかかることもなく刑務所に入れたのも、能力のおかげだ。
 金尾は、自らの人生に起きた幸運を噛みしめながら呟く。

「うーん。しかしこんな簡単に人生が変わっちまうとはなぁ」

 掃除し尽くしてもなお、男のモノをしゃぶり続けている弥生に尋ねる。

「弥生、美人な女を知らないか? ここで一生のんびり寄生して暮らすのもいいが、折角だし、すぐ豪邸にでも住んで女を囲おうかと考えてる」

 なんとも安直な人生計画である。一通り仕事をし終えた弥生が、金尾の頼りない胸板にしな垂れかかる。そして頬ずりしながら返答した。

「んっ。そうですね、一人だけ美人の女性刑務官がいますよ。ウチの囚人達からおかずにされるほどです」

「刑務官か。立派に仕事してる人を洗脳してもな」
「本当にかなり美人ですよ」
「そうか……」

 しばし金尾は考える素振りを見せた。

「……よし、洗脳しよう」

 金尾は自身の欲望のままに女性を凌辱する覚悟を決めたようだ。

 早速金尾は能力を発動した。
 金尾は大きく分けて、二つの能力を有している。

 一つは透明になり、幽霊のように物質間をすり抜けることが出来る能力。これは空を飛ぶこともできる。歩いたり走ったりするのと似ているので、長い間透明でいると疲れる。
 また、他人に意識して触れることで、その人間も透明状態になることが出来る。

 二つ目は対象の無意識へ、強制的に暗示を埋め込む能力。これは、一度の使用では人格を変えることまではできない。

 人格変換どころか、最初の内は大した暗示を仕込むことはできない。精々身体を動かすことが出来る程度だ。
 ただし何度か根気強く繰り返し能力を繰り返すことで、元の人格が強く拒否するような暗示も受け入れるようになる。

 対象は名前や特徴を思い浮かべれば、勝手に能力が探知してくれる。
 暗示の埋め込みは口頭でも脳内でもどちらでも構わない。

 更に簡単な暗示なら不特定多数の人間にかけることができる。単体多数のどちらも、大体甲子園球場5個分が有効半径である。
 対象が金尾からこの距離を離れてしまうと、能力は届かなくなるし、効果も切れる。効果圏内に入れば、暗示は自動的に発動する。

 例えば弥生が金尾から遠く離れたら、洗脳が解けてしまう。その後弥生が金尾の効果範囲内に入ったら弥生はまた、自動的に洗脳されてしまうのだ。
 洗脳が解けた後は元の人格に戻る。記憶がなくなることはない。

 金尾はこれらの能力を組み合わせ、刑務所に侵入した。
 首尾よく弥生という美女を見つけ出した後、同室の、他の受刑者を透明の状態で追い出し、戻ってこれないようにしたのである。
 受刑者たちは、隣室に詰め込まれている。
 金尾は、お世辞にもルックスが良いとは言えない囚人達に、自らの情事を聞かせるのが不愉快だったようで、彼女たちにはそれを聞こえない様にもした。

 そして満を持して、弥生への調教を誰にも邪魔されずにすぐ完了したのである。今の弥生は人格が根底から覆され、金尾に隷従する哀れな奴隷と化していた。

 この弥生が金尾から離れ洗脳が解かれたとしても、弥生は金尾に与えられた快楽と幸福を生涯忘れることはできないだろう。
 金尾の調教はまるで底なしの麻薬のようだった。今の弥生が効果圏内から出てしまっても、必ず主人の元に戻ってしまうほど、身も心も金尾に捧げてしまっている。

 ついでに金尾は弥生に戯れで、金尾がお礼を言うと絶頂するという暗示をかけた。

「あ、その女の名前はなんだ?」
「茅野杏珠(かやのあんじゅ)です」
「茅野杏珠な。分かった。『ありがとう』」

 金尾は嗜虐的な笑みを浮かべて、礼を言った。
 弥生は大きく体を震わせると、強く金尾に抱きつく。

「あぁん! …はふぅ…。…逝かせていただきありがとうございます…。ご主人様」

 うっとりとした弥生はそのまま、金尾の首筋を舐める。

 そんな弥生を尻目に金尾は目を閉じ、意識を集中させる。

 名前だけ知れば後は能力が見つけてくれる。茅野杏珠、茅野杏珠、茅野杏珠、と呟きながら対象を探る。

 ……見つけた。金尾の意識上に杏珠が現れた。

 金尾は頭に浮かんだ女性に見とれてしまった。
 杏珠は凹凸のあるグラマラスな体系をしていた。彫りの深い顔は沖縄の美女を思わせ、少し日焼けた美貌も刑務官の彼女に似合っている。

 美しい。
 それが金尾の正直な感想であった。化粧をせずにここまで美しい女もそうはいない。
 彼女の姿を見て、金尾は笑みがこぼれる。

 ――こんないい女を奴隷にできるなんて。

 更に金尾は彼女の脳に、より意識を集中させ、彼女に語りかけるように命令を出す。

「『茅野杏珠、お前だけには根専女子刑務所B棟173号室の周辺、その部屋をうろつくことができないという命令を解除する。お前はこれからすぐに根専女子刑務所B棟173号室に来い。お前は人に助けを求める事が出来ない。なぜ行くかは疑問に持つことはない』」

 金尾の意識の中の杏珠は、一瞬目が虚ろになった。そしてピクっと震えた後、動きだす。杏珠は忠実に命令を聞いたようだった。
 弥生は不安げな顔で、金尾を見つめた。
 気づけば上目遣いで金尾の乳首を舐めている。

「れろ…んむ…。ご主人様、いかがでしたか……?」

 一見成功したように見える。しかし金尾の手ごたえは違ったようだ。
 金尾は少し顔をしかめ、言葉を返す。

「多分成功。でも最後の暗示は、効かなかったかもしれん」

 実際その通りだった。
 まだあまり、杏珠に対して能力を使っていないので、精神操作までは効かなかったのである。
 弥生は表情を変えず、彼女がずっと疑問に思っていた事を口に出した。

「あの、ご主人様。ご主人様の御力では、見回りに来る刑務官を誤魔化せませんよね…?  この部屋付近に近づけず、不審に思った刑務官がどういう行動を取るのでしょうか…」

 知能犯として牢屋に入っただけの事はあり、弥生は頭が回るようだ。

「……あ。やべっ」

 金尾は全く考えてなかった。
 少し取り乱す金尾に、弥生は冷静に助言する。

「大丈夫です、ご主人様。弥生に考えがあります。時間はかかりますが囚人や刑務官に対し、暗示をかけ続けるのです。そうすれば私も怪しまれずに脱獄できますし、茅野杏樹もスムーズに刑務官を辞めることができます」

 問題は…と金尾の顔をおずおずと見ながらこう言った。

「ご主人様に負担を強いてしまうことと、しばらくここに住むことになるのですが……」

 暗示は口に出してもいいし、頭で命令してもいい。
 ただ、遠距離で能力を使うのと目の前で暗示を仕込むのでは、疲労度が異なる。目の前でかけた方が疲れないし、より速く色々な暗示を掛けることができるのである。

 金尾の能力は見かけ上隙の無いように思える。が、彼にとって大人数の精神状態に影響を与えるほどの暗示を仕込むのは、かなり骨が折れる作業になるのだ。数日は刑務所から出られないだろう。

 かなり面倒ではあるが、金尾は弥生に対する評価を改めていた。
 ただ何となく、美人だから、という理由で手籠めにした女が予想以上に使える。
 金尾は弥生に飽きたらすぐに棄てるつもりだったが、今後は彼のブレインとして今後の計画を任せる事に決めたようだ。
 金尾は特に深く考えることもなく、許可をだす。

「いいぞ」

 こんなにすんなり、許諾を得れると思ってなかった弥生は驚いた。

「えっ? い、いいんですか?」
「ん。お前に任せた」

 事もなげに言う金尾に、弥生は深く感銘を受けた。
 これからの事をあっさり任せられるほどに信頼を寄せられていた事。
 そして、すぐ豪邸に住むという予定を少々狂わせてでも、金尾が弥生の案を飲んだという事実に弥生の胸は高鳴った。

 ――ご主人様に信用されている。

 そう感じた弥生は居ても立ってもいられずに、金尾に抱きついた。忠誠の証に、丹念に首筋に吸い付き、舐める。

「ご主人様ぁ…。ありがとうございますぅ……ご主人様……。ちゅ、ん……」

 金尾は少し悪戯することにした。弥生に囁く。

「こっちこそ、『ありがとうな』」

 ビクン、と弥生の体が跳ねた。いきなりの快楽に弥生は頭が真っ白になる。

「!? …っ! …ん。……ちゅ…ぷ」

 弥生はだらしのない笑みを浮かべ、主人への奉仕を続ける。
 金尾の調教はまだ終わっていない。

「弥生、『ありがとう』。『感謝する』。『礼を言うよ』」

「ちゅ……んんぅ!? ……ぎぃぃ!? ――!!?」

 連続で逝かされる弥生。大きく体を揺らす。
 あまりの衝撃に言葉を失う。
 弥生は目がぐるん、と裏返ると、主に抱きついたまま、意識を手放した。

「……っ。……」

 ぴく、ぴく、と震える弥生だが、金尾はまだ終わらせない。

「『起きろ、弥生』」

 すぐに起こされる。弥生は連続絶頂の影響で、頭に痛みを覚えながら覚醒する。

「んっ……ふぁ? いっ……ご…主人様」

 痛みと快感の板挟みになっている弥生の様子を見て、金尾は心の底から黒い感情が湧き出た。

「『逝け』」

 強制的に達する体。弥生は痛みと共に最高の絶頂を体験する。

「ぐ!? ぁ゛あ゛ぁ……!」
「『逝け』」

 絶え間なく逝かされる。弥生は普通ではありえない性感を覚えさせられる。金尾でないと経験できない享楽に弥生はどこまでも溺れていく。

「ひぃ゛ぃ゛ぃぃぃ!」

 意識が朦朧としている。表層意識を刈り取られる弥生。弥生の深い、深いところに、主への絶対的な忠誠心が刷り込まれる。

「『逝け』」

「がぁぁあぁぁ!!」

 ガクガクと体全体が打ち震える。生涯忘れることのない圧倒的な悦び。
 弥生は心の中で何度も何度も主人に感謝していた。
 もっと主人のモノになりたい。主人の役に立ちたい。
 激しい頭痛と幸せを感じながら、弥生の意識は落ちて行った。

「『逝…』。なんだ。もう気絶したのか。……まぁいいや」

 ビクンビクンと跳ねる弥生を尻目に、念のため金尾は今のうちに、杏珠への暗示を仕込む。
 杏珠がこの部屋に来た時には、彼女の思考をある程度変えれるぐらいの被暗示性にしておこうと考えたようだ。

(『杏珠、お前は俺に止まれ、と言われたら自分の意思で動けなくなるし、大声を出せない。お前は俺を傷つけることができない。俺に抵抗できない。自分を傷つけることができない。お前は仲間を呼べない。お前は俺から逃げ出せない』)

 金尾の能力は、暗示を仕込めば仕込むほど、更に強い洗脳を施すことが可能になる。

 しばらく金尾が弥生の頭を撫でていたり、再度弥生を起こして、適当にお礼を言って逝かせたりしていると、廊下から足音が聞こえた。
 部屋の周りは誰も近づけないように暗示をかけている。来る事ができるのは例の女性だけだ。

――――――――――――――――――――――――

「ちょ……何よこれ……」

 私は、刑務所内を歩いていた。
 意識して歩いているのではない。むしろ逆で、体が勝手に動くのだ。
 止まれ、止まれと念じても、足はどこかに向けて歩み続けている。

「何なのよ……」

 私、茅野杏珠は、なぜか体が勝手に動いて、どこかへ歩かされている。
 同僚に助けを求めようにも、声が出なかった。相手は不思議な顔をして、私を見送る。
 誰にも異変を察知してもらえなかった。自分の身に何があったのかも分からない。内心恐怖しながらも、足取りは確かだった。

「ここは……」

 コツ、コツ、と、黒のローファーの音が鳴る。
 この辺りは驚くほど人気がない。
 不自然なほど静まり返り、刑務官も周りにいない。明らかにおかしい。

「何が起こってるの……?」

 私の呟きに答える者は誰もいない。
 その内、私の足は止まった。

「173号室……」

 確かここには詐欺グループで起訴、有罪にされた玉原弥生がいたはずだ。
 だからどうしたという訳でもない。私なりに自身の身に何が起きたのか、をずっと考えているけど、何も分からない。

 手が動く。ドアが開いた。

 そこには裸の玉原がいた。ここは共同房で他に7人いるはずだが、一人しかいなかった。
 それに彼女は、汗まみれで、部屋全体がむわっとしている。何とも言えない匂いに思わず顔をしかめながら、玉原を叱った。

「貴様何をしている! 他の受刑者はどこに行った!? っ……ぅん!?」

 胸に違和感を覚えた。何だ?
 そう思って、私は自分の胸元を見る。

 背筋がぞわっとした。手が私の胸を揉んでいた。手だけがあった。

「な……」

 後ろを振り返るけど、何もない。手だけが私の胸を揉み続けていた。

「ひっ……」

 思わず私は後ずさる。手から逃げるように胸を隠し、部屋の中央付近まで下がった。
 すると、誰かの手が私を拘束した。玉原だった。
 私をきつく抱きしめる。

「ようこそ、杏珠さん。一緒にご主人様に尽くしましょう?」

 私は彼女の顔を見た。玉原の顔は常人のそれではなく、明らかに正気を失っていた。
 堕落した表情は決して刑務所にあってはならないものだ。

 私はまるで異世界にでも忍び込んだような、あり得ない現実に口をぱくぱくさせるだけだった。
 不意に正面から男の声がした。

「やっぱり、綺麗だな」

 私は目の前を見た。あり得ない、さっきまでは誰もいなかったのに。
私は女性刑務所にいるはずのない全裸の男、を視界に入れると、警戒心を露わにした。顔をしかめ、男を睨み、問い詰める。

「っ何者だ!? ここはお前のような者が立ち入っていい所じゃない!!」

 相手は私の凄みに少々圧倒されたようだが、男は私の目をじっと見つめた。
 男は何かを呟くと、私の世界が止まった。

 動かない。険しい表情をそのままに動かなくなった。
 こんなの、現実の世界であり得ない。さっきの手も、形からいって、おそらく男の手だろう。

 恐い。
 でも、私は、私の仕事をする。この人間は絶対にまともじゃない。必ず捕まえる。正義の裁きを受けさせる。

「杏珠、『こっちに来い』」

 ショーカットの髪がわずかに揺れる。
 私は何もできずに男のすぐ目の前に立つ。
 そのまま直立した。
 
 この男は、私の名を知っている。
 大方玉原から聞いたのだろう。だが、なんで玉原はこいつに協力している? この男は玉原にとって取るに足らない存在にしか見えない。
 
 男は玉原におとなしくしてろと言うと、舐め回すかのように私の顔を見る。

 私は、男を見るしかない。
 表情は変えられないが、せめて気持ちだけでも負けては駄目だ。思い切り睨めつけた。勿論、一切自分の意思で動かすことはできないが、私の決意だ。

「俺の名は花田金尾だ。お前の主人になる男だ。よく覚えとけよ」

 こいつ、何を言っているんだ。こんなふざけた事を言っている奴に、何の取柄もないような奴に、良いようにされるだなんて、悔しい。
 私は身動きが出来ないため、まばたきをすることも敵わない。やがて、生理的反応により目から涙が流れる。屈辱だ。
 不審者に涙を見せるだなんて……。

 男は、花田は、ああ、と言ってこう続けた。

「そうか。『顔は動いていい。喋ってもいいぞ』」

 私は目を数度、瞬かせた。
 憤怒の表情を隠さず、男を威圧する。

「貴様私に何をした」

 花田は私をせせら笑った。

「へぇ。気が強い女性は好みだ」

 私は腸が煮えくり返りそうだった。必死に感情を抑える。

「私の質問に答えろ……っ、触るな」

 花田は、突然私の胸を揉んだ。
 強烈な嫌悪感が私の身体を駆け巡る。
 声が出ない。大声を出すつもりだったのに、普通のトーンで拒否をした。
 花田は舌なめずりをしながら、こう言った。

「良くしてやるよ。『お前は全身が性感帯になる』『お前は感じている時は大声を出せる』」

 嫌で嫌で仕方なくて、気持ち悪かった。
 そのはずなのに、花田にそう言われた瞬間、凄まじい快感が私を襲った。

「ふぁあぁぁ!? や、やめろぉ!」

 目の前がチカチカする。胸を揉ませないように、必死に身をよじろうとするけど、体が全然言うことを聞いてくれない。

「あぐ……! くっふぅうぅ! ああっ!」

 息を押し殺そうとする。でも花田の手が、私の胸を、それだけじゃなく、身体全体をまさぐる。
 そして不快になる顔を浮かべながら、花田が私を抱きしめた。

「! っ……ふぁっ! ……やめ……!!??」

 全身が密着する。
 花田に触れられたところから、稲妻のように脳みそへ刺激が送られる。

 私は動けない。通常なら、少しでも快楽から逃れようと、身体を震わせる。
 だけど、それもできず、正面から全ての快感を受け止めてしまった。

 人知を超えた強烈なエクスタシーが私を包む。

「ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛!!!」

 そのまま私は、ホワイトアウトした。

「! ぁ……」

 でも、すぐさま、悪夢のような声が微かに聞こえた。

「『起きろ』」

 意識が戻る。まだ興奮している体。息も上がっている。
 私は花田を睨む。この程度で、犯罪者に屈する訳には行かない。

「はーっ、はーっ。……花田……私、への拘束を……やめろ」
「ん。それじゃあ『動いていいぞ』『全身性感帯も解除』」

 私はあっさりと解放された。こいつの意図が読めない。
 だけど、私は自分の仕事をするだけだ。

「……住居侵入罪、準強制わいせつ罪で貴様を現行犯逮捕する。おとなしく私の命令に従え」

 花田は私の言うことを聞いていないのか、勝手に語り出す。

「何、すぐに終わるさ。俺は女性の幸せな顔を見るのが好きなんだ」
「おい貴様」
「杏珠、俺の奴隷にならないか?」
 
 大声を出して怒鳴りつけてやりたかったが、声を上手く出すことが出来ない。こいつ、私に何をしたんだ。

「いい加減にしろ。貴様、花田金尾と言ったな。花田、妄想を語っていないで私の命令に」
「『お前は、猫になる』」

 私の言葉を遮り、花田は私にこう言った。
 何を戯言を。と、そう思った。だけど。

「にゃう……にゃ!?」

 !?
 そ、そんな……。

 私の頭はパニック状態だった。だって、頭は普通の状態なのに、口では猫の言葉になるだなんて。

 と、私は両足で立っていられず、しゃがんだ。身体も猫みたいになってしまったようだ。

 なぜか私は、玉原をちらりと見た。
 玉原は、花田にうっとりしながら熱い眼差しを送っていた。
 ついさっき、玉原に言われた事を思い出した。

『ようこそ、杏珠さん。一緒にご主人様に尽くしましょう?』

 まさか私も、玉原みたいになる……?

 嫌だ。そんなの、絶対嫌だ。

 花田があぐらをかいて、座る。

「よしよし」

 花田が私の喉元をさする。頭を撫でられる。

 ……気持ちいい。そう感じてしまったことに、絶望した。
 思考は私なのに、猫のように感じさせられている。

「ごろごろ~」

 悔しい。悔しいのに、口から出る言葉は嘘をつけない。
 私で散々遊んで花田は元に戻した。

「『人間に戻っていいぞ』」
「……っ」

 何もできなかった自分に腹が立つ。
 目に涙が浮かぶ。

 明らかに私を見下した表情で、花田が私にこう言った。

「なぁ、俺を尋問するんじゃないのか?」

 そうだ。
 ここは刑務所。最初からこの男は捕まりに来たようなものだ。
 私を拘束したり、猫の真似事をさせたタネを含め、じっくり喋ってもらおう。
 私は立ち上がり、監視棟に連れて行こうとした。

「そ、そうだ。さぁ、付いて来い。話は監視棟で聞く……んっ」

 視界がぼやけた。
 ……監視棟に連れて尋問するつもりだったが、ここで聞いても問題ないだろう。
 どうせ同じ刑務所なのだから。

「……気が変わった。話はここで聞く」

 花田がにやついてるのが気になるが、まぁいい。
 さて、尋問の方法はディープキスをしながら……。

「っ……。え……?」

 確かにそのはずだ。だけど、私は今までキスしたことないのに……。いや、そんなことは……。でも。

「どうした? 俺に何も聞かないのか?」

 花田が私を急かす。つい隙を見せてしまった。

「うるさい。私は、私は……。お前みたいな人間に、せ、接吻なんかしない」
「なんで突然キスの話しをするんだ?」

 痛い所を突かれ、私は狼狽した。しどろもどろになりながら答える。

「え……わ、分からない……が、尋問する時は絶対キスしなきゃいけないんだ」
「ならキスすればいいじゃないか」

 その通りだ。でも。私は何回も尋問してるのに、そんなことやったことが……。

「こんなの…おかしい……。いや、でも……これは、普通の事で…。」
「お前、プロなんだろ? キスをしたくないから仕事をしないのか。情けない」

 花田に煽られて、私はついカッとなってしまった。

「この……言わせておけば……。く……。……んっ」

 挑発に乗る形で、私は尋問を始めた。

 心の底から湧き出る嫌悪の情を押し殺しながら私は唇を重ねる。

 すると、背中に電流が走る。唇から、脊髄から、脳に刺激が送られる。

 気持ちいい。
 思わず涙が出た。それは、あまりに甘美な響きゆえか、犯罪者とキスをしなければならない不条理さからなのか。
 尋問するためには、フレンチキスをしなければならない。
 舌を絡ませると、一段と快楽が私の体を巡る。

「じゅ……ん。はぅ。…む」

 私はまず、ここへ来た目的を尋ねた。

 花田が私の舌を吸う。私の身体が反応する。

「んんっ!? はふ……れろ…じゅむ…」

 私は花田を睨めつけると、追求を重ねる。

 だが、花田は何も答えず、口内をかき回すだけ。

 私は体を震わせながら、更に質問を重ねる。私は快感に負けないように何回も花田を尋問する。でも、質問を交わすごとに、快楽がどんどん増していく。

 花田は激しく私を責める。

 私は体中が火照るのを感じた。下腹部が、今までの人生でかつてないほど、男を求めていた。

「あっぅ…。じゅるるる! んぐ……ん。じぅ、ちゅ……」

 熱い舌と唾液が私達を支配する。いつしか私に明瞭な言葉はなく、ただただ快楽を貪っていた。
 もう、尋問の事などどうでもよくなった。
 目の前の男が欲しい。

 気付けば花田を抱きつき、両手で花田の後頭部を押えて積極的に花田を責める。
 体を押し付ける。先ほどまで、あんなに嫌だった胸を揉まれる行為も、今はもっとして欲しかった。

「ふぅ……じゅ…る…。んんん……はぁ……んぅ…! ぷはっ!?」

 すると突然金尾が、口を離した。
 私は息を荒げ、ぽーっとした頭で金尾を見つめる。

「んぅ……」

 あそこが男を求めている。
 私は太もも同士を擦りながら、少しづつ冷静になる。そして、ふと、気付く。

 あれ、なんで好きでもない男とキスしたんだろう。

「ん……!? な、私、なにやって…!?」

 私は、花田を睨む。こいつが何かやったに決まっている。

「おい杏珠。もう俺の力、何となく分かっただろ? 俺は人を支配できるんだよ」

 そんなの、あり得ない、とはもう言えない。こんな非現実的な事が連続で起こったら、信じざるを得ない。
 この男はどこまで私を変えることが……。

 私は、ようやく自分の立場を、自身の身の危険を認識した。

 逃げようとした。でも、体が動かない。舌を噛み切ろうとした。できない。
 花田が先に手を打ったようだ。

 私は…。

 不意に花田が、にやつきながら、こう言った。

「そろそろか? 『お前は俺の事が好きになる』」

 心の底から湧き出る恋慕の情。先ほどとは真逆の感情が泉のように噴出する。

「…!? …な、なんで…」

「『俺のことが世界で一番好きになる』」

 追い打ちをかけるかのように、金尾、さんが、私をいじめる。
 私は彼を直視することが出来ず、顔を伏せる。
 恥ずかしい、恥ずかしい。

「ああぁ……やめて。……やめて、くだ、さい。」
「どうした? さっきまでと違って、淑やかになったじゃないか」

 酷いことをされてる。分かってる。相手は犯罪者。分かってる。でもどうしようもない。
 心臓が早鐘のようになっている。彼の声を聴くだけで幸せ。彼に溺れたい。

 そんな考えを、私は必死に振り払う。

「うぁ……駄目、駄目……。はな、れろ…」

 顔を上げられないけど、私は精一杯抵抗した。

「『俺への好意、という暗示を解除』。どうだ?」

 ふっ、と気持ちが入れ替わる。まるで電気のオン、オフのように私が変わる。
 なんで、こんな奴に、私は。

「ぐ……コイツ……」

 この男は、私をどこまで辱めれば気が済むんだろう。色々なことが起こりすぎて、気が遠くなりそうだった。

 私が現実から逃避していると花田は玉原に声を掛けた

「弥生」

「はぁい。杏珠さん、気持ち良すぎて涙出ちゃいましたね~。一緒にご主人様の愛玩奴隷になりましょ?」

 玉原が私にぺたぺた触り出す。
 この子は被害者だ。私が守らないと。絶対に、こんな卑怯な男に屈してはいけない。

「私が必ずお前を更生させる。待ってろ。それとここでは化粧は禁止だ」

 そういうと、花田に笑われた。

「くくっ。この状況でメイクの話しか。真面目だなぁ」

 少し耳が熱くなるのを感じた。

「なんで笑う。お前が全部彼女を狂わせたんだ。必ず法の裁きを……」
「何言ってるんだ杏珠。『ここではメイクをするのが当然だろ? 大人の女として化粧をしないのは恥ずべき行為だ。非常識だ』」

 私は、一瞬気が遠くにいった。

「えっ……あれ、嘘、私、ど、どうしてメイクしてないの!? い、いやっ!」

 私は一見あり得ない常識を当然のこととして受け入れた。
 尋問の際は自身の常識に疑問を持ったのに、今回の暗示は全く疑いを持たなかった。
 つまり、私は先ほどよりも、花田の力に深く浸食されていたのである。

 私は、恥ずかしくて、恥ずかしくて。女性なのに、化粧もしていない女なんて常識外れもいいところだ。

 花田は更に暗示を仕込む。

「おいおい、お前それでも刑務官かよ。あり得ねぇな。『男に媚びへつらいながら生きるしか能のない劣等性が化粧もせずに男と話すなんてありえない。どんな事をしてでも許しを乞わないといけないな』」

 今度こそ、私の顔は真っ赤になった。
 殿方様に、私はずっと気持ち悪い顔をさらけ出していた。

 どうしよう。どうすれば許して下さるのだろう。
 途方に暮れた私に玉原が助け船を出してくれた。

「ほら、床に這いつくばって、惨めに土下座しなさいよ。ご主人様に謝るの」

 玉原に深く感謝しながら、私はすぐに、土下座した。

「あぁぁ……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 花田様が冷たい声でこう言った。

「お前の不細工な面を見せろよ」
「くす、ご主人様鬼畜です。でも、そんなところが素敵です」

 その言葉を聞くや否や、条件反射の水準で顔を上げた。
 玉原の言うとおりだ、なんて素敵な方なんだろう。

 私は、こんな顔を見せて、生きていけない……。

 私のどうしようもない顔を花田様は堪能してから、私を変えて下さった。

「そうだな。今度は、『杏珠は俺専用の淫乱な雌犬になる』」

 カチ、と私の中でスイッチが切り替えられる。

 私は犬。

 殿方に媚びへつらうしか能のない雌犬。
 御主人様専用の雌犬。

 人間の女じゃないからメイクしてなくても仕方ない。
 だってただの犬だから。

「わん!!」

 私は仰向けになりお腹を見せた。
 肘を曲げ、手の甲を両肩にくっ付けた。御主人様に服従できたようで嬉しくなって、お尻を振った。

「くぅん……はっはっはっ」

 ベロを出し、御主人様をトロンと見つめて発情していることを示す。

 御主人様の指示を待った。

「くく。あんなに気が強い女がこうなるとはな。じゃあ足舐めろ」

 私は四つん這いで、勢いよく御主人様に飛びついた。
 お尻を高く上げ、御主人様の足にキスをした。

「わぅん! はっはっ。くぅん……ちゅぱ、れろ……」

 御主人様の足を指を、丁寧に舐める。
 美味しい。御主人様大好き。
 鼻先を御主人様の足にこすりつけたり、御主人様の足の匂いを嗅いだり。

 私は御主人様を覚えようと、御主人様の匂いを自分に移そうとしていた。
 その内、太ももに愛液が垂れるのを感じた。パンティーやズボンがぐしゃぐしゃになってしまった。

「れろ……わん……んむ……」

 御主人様、犬が服を着ているなんておかしいです。
 そう言いたくて、両手で御主人様の太ももをさすった。

 その様子に、玉原さんが気づいたのか、気を使ってくれた。

「ふふっ、立派な雌犬になっちゃったね。同じ奴隷だし、弥生って呼んで? って今は人間じゃなくてただの犬だったね」

 弥生さんが私の頭を撫でて、服を脱がす。
 私を助けてくれた弥生さんには、感謝してもしきれない。御主人様に土下座できるだなんて、なんて幸せなんだろう。

 御主人様が座る。

「おい、杏珠。こっちを舐めろ」

 私が顔を上げると、すっかり大きくなっていた御主人様のモノがぴくぴく動いていた。

「わんわん!!」

 御主人様の肉棒を舐める。
 熱くて、エッチな匂いがする。
 夢中になって御主人様のモノを頬張る。

「じゅっぷ! じゅぷぅ…」

 顔ごと上下しながら、御主人様を味わう。

 ああ……素敵……。

 時々竿を口から出して、頬ずりしたり、手で優しくさすると御主人様が悦んだ。
 頭を撫でてくれる。嬉しい、もっとご奉仕したい。

「ぢゅぅぅぅ! じゅぽじゅぽ!」

 裏筋を舐めたり、玉の方を刺激したり、強く吸い付いたり、カリにキスしたり。
 御主人様の感じている御姿を見つめながら、たくさん舐めた。

 私も御主人様にご奉仕することが出来ている、感じて下さっている、それだけで、愛液がだらだら垂れてしまっていた。
 秘部から刺激が走る。

「ちゅば! んんぅ!?」

 どうやら弥生さんが弄ってくれているみたいだ。

「くす。杏珠、気持ちいい? もっとしてあげる」

 加虐的な声で私を責める。

 くちゅ、ぐちゅといやらしく音が響き、性感が高められる。
 私は、御主人様のご奉仕で既に限界に近かったこともあって、達しそうになった。
 どうやら御主人様も、射精が近いようだ。

 更に激しく御主人様を導く。

「じゅぅううぅ! じゅるる!! じゅぼ!じゅぼ!じゅぼ!」

 御主人様が喘ぎ声を上げて、私の頭を掴み奥へと引き寄せる。
 上舌に御主人様のモノが当たる。私で感じてくれているのが嬉しくて涙が零れた。

「くぅ……。杏珠、出すぞ」

 そう言うと、御主人様のモノが大きく震え、粘り気のある液体が放出された。 

「あんたも逝きなさい!杏珠!!」

 同時に弥生さんが思いっきり私の中をかきみだして、陰核を強くつねり、私も逝った。

 「んむぅぅっぅうう!! んぐっ……んぅぅ……」

 数秒間、私は天国に行ったかのような陶酔感を得た。
 御主人様が、私を使って気持ちよくなってくれた。

 こんなに幸せなことはない。
 御主人様のを全て飲み込み、そのまま口を開け、御主人様にアピールした。

「んぁー……。わふぅぅん」

 御主人様は私の頭を乱暴に撫でつけ命令する。

「おら、最後まで吸い取れ」

 嬉しい。もっと命令して欲しい。
 私はまた御主人様を味わえるんだ……。

「くぅん! わん! じゅるるるる!!」

 ひとしきり御主人様を感じさせていただくと、今度は御主人様が仰向けになった。

 御主人様の瞳が、黒く淫靡な炎を宿しているように見えた。

 ああ……、私はどうなってしまうんだろう。

 どう変えられるんだろう。

 想像するだけでゾクゾクする。

 弥生さんが私に覆いかぶさり、耳打ちをする

「あれぇ? 杏珠、逝ったばかりなのにまだ欲しいの? ここ、パクパクしてるわよ?」

 つん、つん、とアソコを刺激してくれる。
 股間の疼きが止まらない。

 元々荒くなっていた息が更に呼吸がおおきくなる。
 
 傍から見たら、一体私はどう見えるんだろう?
 きっと刑務官には見えないはずだ。でも、それでいいんだ。だって私は御主人様の犬なんだから。

 私を視姦していた御主人様が私を、変えた。

「杏珠、良く聞け。『お前は俺のモノを膣の奥に入れると、一生忘れられないほど感じる。俺の性奴隷になる。全ての事よりも俺を優先する。俺に全てを捧げる』」

 御主人様の宣告を聞いた途端、私の中の何かが変わるのを感じた。

 これから私は作り替えられるんだ。
 そう思うと、私の頬に涙が伝った。

 嬉しくて? 悲しくて? 辛くて? 幸せで?

 分からない。

「ほら、ご主人様の上に乗りなさい」

 分からないけど、弥生さんに急かされると私はのろのろと御主人様に跨った。

「くぅぅん……はっ。はぁー」

 私は犬。御主人様だけの淫乱犬。

「はぁー。はぁ―。わふぅん。……ぺロ、ぺロ……」

 御主人様の顔を舐める。御主人様のモノを私の太ももで刺激して、大きくする。
 御主人様はくすぐったそうにしながら、頭を撫でてくれた。

「さぁ、杏珠、俺の物になれ」

 はい、御主人様。私の御主人様。一生あなたに尽くします。

 私は、御主人様のモノを、噛みしめるように、一気に押し込んだ。
 御主人様のは固くて、太くて、私のヒダヒダがきつく締まる。御主人様を温かく飲み込む。
 奥に当たった。
 私の身体が弓なりにのけ反った。

「わん……きゃぅうぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛ん゛!!!」

 刹那、私の心がバラバラになった気がした。

 真っ白。世界が白に染まる。
 純白の世界には御主人様がいた。御主人様はどこまでも私を導く。
 私の中が御主人様でいっぱいになる。
 私の全てが御主人様で支配される。

 ああ、そっか。
 御主人様が絶対なんだ。
 御主人様に逆らっていた私、なんて馬鹿なんだろう。
 御主人様のために色々な女を堕としたい。
 弥生さんや私みたいに。
 御主人様に捧げたい。

 私の意識は、暗闇へ。
 底の見えない真っ暗闇へ。
 私はゆっくりと、確実に御主人様の色に染められていった。

――――――――――――――――――――――――

「あっ? 陽子? 私、よっ! 杏珠…。……くふぅっ」

 杏珠を堕として4、5日が過ぎた。
 俺は相変わらず、根専女子刑務所B棟173号室に住んでいる。
 ただまぁそろそろ刑務官共の洗脳も終わりそうだ。質素な飯ともおさらばだな。

 俺の上で腰を振ってる女も嬉しそうだ。

「ええっ、そう! そうなのぉ! き、気にしないで、ちょ、ちょっと風邪気味、でぇ」

 次の住処として、杏珠の親友の家に泊まることにした。杏珠曰く親友はかなりの美形で、中々の邸館を持っているらしい。

 ぱちゅん、ぱちゅんと水音が響く。
 杏珠はアへ顔を晒しながらも、俺の命令通りに親友へ電話を掛けている。

「え、え。1、2日でいいから……ぁ……ありがと! んぁ! はぁぁあぁ」

 息も絶え絶えになりながら杏珠は電話を切る。

「どうだ? 上手くいったか?」

 俺の方も腰を振り、杏珠の奥に叩きつける。
 一突きごとに、杏珠の腰はうねり、俺のモノを締め付ける。

 すっかり堕ち、下卑た笑みを浮かべた杏珠。
 かつてその眼に有していた正義の光はすでになく、瞳には情欲がありありと支配していた。

「わんっ! はぁい御主人様ぁ。あっ! 杏珠、できましたぁ。御主人様褒めてぇ!! あっぅ! ぁあ!」

 携帯電話を放り投げる。杏珠は俺の腰に両手を置き、上下運動を速めた。
 杏珠自身、雌犬にされていた時の記憶が強く印象に残っているのか、時折俺に対して忠犬のように媚びてくる。

 あの時奥に受けた快楽が忘れられないのか、杏珠は子宮口をこすられたり、叩かれるのが病みつきになったようだ。俺の全てを呑み込んで、膣全体で俺を楽しませる。

「ぁ! くぅん……。御主人様御主人様御主人様……」

 うわごとのように呟き何度も軽く達している。
 杏珠ばかりを見ていたら、首筋から強い刺激を受けた。弥生だ。

「ちゅうぅぅ! んふふ。ご主人様、杏珠凄いですね。れろ」

 弥生は俺の首が好きなようだ。
 杏珠の親友、陽子の家を拠点にするというアイディアも、囚人達を洗脳するという計画も全部弥生が立てた。
 少しは労を労ってやらねばならない。
 俺は弥生の秘部に手を伸ばし、彼女の陰核をつぶした。

「でも弥生も可愛がってください……ぅあ! そんにゃ、ご主人様ぁいきなり、ふぁぁ!!」

 ぴくぴくと可愛らしく体を震わす弥生。また意地悪をしたくなってしまった。

「『ありがとうな』弥生、杏珠」

 例の暗示は杏珠にも掛けておき、二人が意識していない時に言ってやる。
 今回も二人は予想していなかったようで綺麗に声が重なる。

「「ん゛ぐぅ゛!! ――!!??」」
「……っ! 杏珠、出る!」

 きゅうきゅうと締め付ける膣に、俺は遠慮なく精を吐き出した。

 弥生が俺にぴったりと寄り添いキスをしたまま意識を失った。
 杏珠は痙攣しながら俺の顔へ倒れ込んだ。俺は受け止めて、そのまま杏珠の口を犯す。

 杏珠の熱い口内を堪能しながら、俺は次の獲物のことを考えていた。

< 完 >

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