恋色ビーナス物語物語 1 Real

1Real 空町翔太と不思議なローソク

「うーん」

 俺の目の前に、ロウソクが置いてある。
 置いてある、というか、俺が机の上に置いたんだけど。
 ロウソクはめらめらと燃え盛っている。俺はじーっと、飽きることなくその炎を見ていた。

 10分ほど経っただろうか、何の変哲もない真っ白なロウソクは、とうとう最後まで燃え尽きてしまった。

「全然かかんないじゃん」

 先日NOZAMAで丸富印の催眠導入蝋燭、という商品が売っていたので、つい衝動買いしてしまった。1ダース3030円という中々学生には手を出しづらいお値段だったけど、限定1ケース限りって書いてあったし。

 さっき同じページを確認してみたけど、例によって404が表示された。おいおい。0101。

「こりゃ詐欺られたかなぁ」

 早速丸いに抗議の電話を入れなきゃな、と思ったところでインターホンが鳴った。やべ。

 俺は自室から、外を窺う。

「……あー。やっぱ朱音かぁ」

 そりゃそうだ。俺が呼んだもの。
 灯里朱音(ともざと あかね)。俺の幼馴染、筋金入りの腐れ縁だ。同じ病院で同じ日に産まれた事もあって、昔から家族ぐるみで仲がいい。まぁ家が隣同士で、じいちゃん達が子供の頃から仲良かったらしいし、自然と俺たちも仲が良くなるわ。

 彼女は俺から見ても可愛い。目がくりくりで、身長が小さくて大人し『そう』に見える。髪も、ザ・清楚。みたいな黒髪セミショートヘア。右側の額が程よく見えるような髪型だ。唇もみずみずしくてぷっくりしてるし、顔のパーツがバランスよく配置されている。まさしく学年一の美少女の呼び声が高い。それが俺の幼馴染の朱音だ。

 そんな朱音は俺が知ってるだけでも、20人に告白されてる。
 全員玉砕してるけどね。朱音は皆の前じゃ猫被ってるけど、本当は怖いから。ラノベで言うと、暴力系Sヒロイン。

 クラスメートからは、清楚、おとなしい、かよわい、守ってあげたい……etc、なーんて評価を受けている。正直俺からしたら爆笑もんだけど。本人を目の前にその事で爆笑したら、鳩尾に正拳突きを食らった。くそう恍惚とした顔しやがって。あのドSめ好きだ。俺はあん時呼吸できずに、死にそうだったんだぞ!

 そういや朱音は20才になるまで誰とも付き合わないらしい。らしいってか自分でそう言ってた。まぁ好きな人がいないって分かるから幼馴染としてはほっとする。
 いや、幼馴染としてではなく男として、だ。なんてったってその後の、あんたに女ができなかったらハタチで貰ってやる、という朱音の発言を真に受けてるからな。

 そりゃ可愛い女の子に欲情するのは普通の青年なら普通の事。いくら暴力振るうからって、彼女のことを何年も見てればいいところだっていっぱいあるの知ってるし。
 顔とか。さらさら黒髪セミショートとか。縦へそとか。細いようで少しむちむちしてる太ももとか。意外と普通ぐらいあるおっぱいとか。この間風呂場を覗き見した時に、ちらりと見えたピンクの突起とか。薄い茂みとか。素晴らしいね!

 ……まぁ俺に恋愛感情がないことも知ってるわけだが。
 でも俺は星の数ほどいる負け幼馴染のように、ぽっと出の転校生に奪われる的な展開は正直ごめんなので、今日勝負をかけるつもりだった。

 いや実際イケメンの転校生が来たんだよ。先週。俺自身漫画の読み過ぎで頭おかしくなったかと思ったわ。確かに朱音と転校生はお似合いだと思ったけど。うちの学園で転校生以上のルックスいないと思うし。
 朱音のやつ、デレデレしやがって。

 だから今日、催眠状態になるローソク使って乱暴するつもりだった。エロ同人のように。

 え? 催眠術で人の心を操るなんて汚い? うるせぇこちとら限界で必死なんだよ。手段なんてもう選んでられるか! 

 俺はこれまでの朱音への告白、そして見事玉砕してきた事を思い出す。全く実らなかったな。泣きそう。

 まぁ俺らは婚約者同士なんだから催眠術使ってもいいだろう婚約は幼稚園の頃だしあっちは覚えてないだろうし催眠術に関しては無許可だけど! 

 ……ああ、朱音めっちゃ苛立ってる。腕組んで足バタバタしてる。踵つけてバタバタさせるのって意外と疲れると思うんだけど。

 どうしようか。折角朱音を催眠にかけようと思ったのに。

 そうだ、全部インチキロウソクが悪い。誰だこれ作ったのクーリングオフしてやる。
 だってAMA……NOZAMAの商品説明には『ロウソクの火を見るだけで深い催眠状態に陥るんじゃ! 気になるあの子に見せてあんなことやこんなことを……』って書かれたら買うしかないじゃん
 だって末期色のサイトで良く、そんな感じの導入でエロエロな展開になってるじゃん! 俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇっ!
 折角あいぽんに、自分の声を録音したのに。全く意味ない。内容が「俺は天才になる」って……。はぁ、馬鹿な発言に苛々させられる。そんな事あり得るわけないだろアホか。

 ……ってそんなことよりも朱音だ朱音。どう追い払おうか。あの傍若無人な幼馴染の事だ。呼んでみただけ♪ なーんて言ったら殴られる。マッ○フル―リーおごらされる。

 どうしようかなー。

 まぁ普通に考えて、なかったことにするのが一番だよね。
 よし、そうしよう。居留守しよう。俺が朱音を呼んだ事実なんてなかった。今日は親もいないし誰かが出ることもあるまい。

 そうと決めたら話は速い。俺は八つ当たりでパソコンのお気に入り一覧から、催眠関連のページを全削除する。
 制服脱ぎ捨てて、スエットハーフパンツとシンプルなTシャツに着替えた後、ベットに横になって、寝た。熟睡した。夏って素晴らしい。

――――――――――――――――――――――――

 気づいたら、俺は幼稚園の砂場にいてあぐらをかいて座っていた。うん。これは夢だな。自分の体が異常に小さくなっている事にも気づいた。

 どうやら俺は幼稚園生のようだ。
 そして俺の背中には何かが引っ付いていた。十中八九朱音だろう。当時は俺に抱き着いてばかりだったからなぁ。
 昔の朱音に声を掛けようとしたけど、その声が出ない。どうやら俺はただの傍観者みたいだ。

「ねー。しょーたぁ―」
「なにー?」

 これは懐かしい。まだ俺たちが幼稚園生だった頃、俺も幼馴染も素直で明るくて可愛げがあった(過去形)。

「すきー」
「……ぼくもすきー」

 当時から積極的だったんだなぁ、俺。2秒で答えを切り返し、今の俺もご満悦だ。

 ショタ俺はにっこりと笑い、朱音に顔を向けた。朱音はきらきらとした目で強く抱き締め直し、キスをする。ああ、俺のファーストキスがぁ。

「んー。……ぷはー。それじゃあやくそく! けっこん! おとなになったらけっこんね!」
「……けっこん?」
「パパとママになってこどもうむの! いいでしょー?」
「……うん!」

 じゃーゆびきりねー……と、この後は続くんだよなー。今時アニメでも流行んないんじゃないか? いやぁ良い夢見れた。俺はその後地獄を見るんだけどね! この約束を信じて朱音に何度振られたことか。

――――――――――――――――――――――――

「……ろ……のか……」

 なんか遠くで声が聞こえる。眠いので無視する。

「…………」

 嫌な予感しかしない。殴られる前に起きるか。

「起きろっつってんだろうが! このクソ翔太ぁあ!!」

 とりあえず腹パンされたところで起床した。流石幼馴染、加減を分かっている。
 10秒ほど悶絶したところで、ぷるぷる震えている最愛の朱音が話しかけてきた。

「あんたさぁ……人を呼びつけておいてさぁ……」

 俺はこの場を治めるのに最も適した解を、知っている。伊達に9才まで一緒のお風呂に入っていない。
 俺は頭に疑問符を浮かべるふりをしながらこう言った。

「……あれ? 呼んだっけぇ?」
「ふざけんなぁーーー!!」

 怒りは発散させるのが一番だよ兄貴。ここで下手に謝ったら朱音のフラストレーションのが溜りにたまって後でもっとひどいことになる。小6の頃にそれをやって、10日ぐらい無視されたのが一番効いたね。

「……で、空町 翔太(そらまち しょうた)君は、どういったご用件で私を呼んだのかしら?」

 落ち着いたところで朱音が切り出した。
 俺はベットの上で寝そべってる。朱音は、朱音が持参した朱音専用座布団の上に正座している。家が隣同士って楽でいいよね。

「何その話し方」
「おいこら」

 にしてもやっぱり朱音がいるだけでこの部屋の印象も大分変わるな。机とベッドしかない我が部屋も、学校指定のワイシャツと赤の細い線が入った緑のスカート、藍色のハイソックスを履いている幼馴染がいるだけでなんだか華々しくなった気がした。
 朱音は制服似合うなー。胸元の赤いリボンタイはスカートと上手く調和しているし、全く制服に負けていない。寧ろ制服の良さを、朱音の美貌とオーラが引き出していると思う。
 そんな風に朱音を観察してるとまずバレルので、彼女の体はなるべく見ずに、妄想で補う。朱音は結構下着を見せてくれるから(盗み見)、在庫はたっぷりある。

「朱音こそどうやってウチに侵入してきたのさ。けーさつ呼ぶよー」
「あんたがそれを言うか。翔太が自分の部屋の窓の鍵を掛けてないのが悪い」
「まーた俺の窓から入ってきてしまったのか。なんか俺の窓って言い方いやらしくない?」
「死ね。死んでしまえ」

 そう。俺らの部屋同士は本当に近いんだ。大体距離は40センチぐらい。絶対民法とか条例に違反してると思うんだけど。ま、建っちゃったものは仕方ないよね。
 普通は窓に格子があったりするんだけど、俺が5年前に外した。だから俺達は時々、お互いの部屋に出入りしている。

「で、何の用?」
「私がそれを聞きに来たんでしょうが!」
「はぁー」
「なんでため息吐くのよ! おかしくない!?」

 まぁ来ちゃったもんは仕方ないか。一時期俺が浮かれてたことは認めるよ。これで朱音は俺のもんだ! てさ。冷静に考えたら催眠術で人の心を自在に操るなんて無理だよね。でも、ここまで来たらしょうがない。

「いやさ、実はローソクを買ったんだよ」
「うん」

 こくりと頷く朱音。いつもこう素直ならもっと可愛いんだけどなぁ。野郎が騙されるのも分かる。

「で、そのローソク、癒し効果があるらしくて」

 勿論嘘。ロウソクはただのロウソクだ。朱音が割り込む。

「え、それじゃもしかして、くれるの?」
「まぁ……うん」

 あげるはつもりないです。けど、あのロウソク使えないしあげてもいっか。

「ヘー見せて見せて!? あんたがアロマキャンドルを買うなんて似合わないけど、正直見直した。何の香りするの?」

 急に乗り気になる朱音さん。俺アロマなんて一言も言ってないんですが。

「……後ろに、あるけど」
「? 蝋燭しかないけど」
「だからローソクだって言ってるじゃん」
「……はぁ?」

 もうこうなったらヤケだ。必死に説き伏せて、癒し効果のある(大嘘)ロウソクに火を点けた。

「ほら、見てみてよ。癒されるでしょ?」

 俺は朱音を椅子に座らせて、勉強机の上にあるロウソクに集中させた。
 なんだかんだで律儀な性格の朱音は腕組みをして、ピンと背筋を立てて、じっとそれを見る。

「どこからどう見ても、ただの蝋燭なんだけ……ど……」

 朱音の瞳がぐらついた。あれ、もしかして。

「……朱音?」
「…………これ、けっこう、いいね……」

 嘘だろ……。
 口を開けば罵倒。何か行動を起こせば暴力。そんな、あの朱音が、脱力してただのロウソクを力なく見つめてる。ぼーっとした顔は掛け値なしに可愛い。寝起きの顔や寝てる時の無防備な顔みたいだ。ああいつもこうなら本当に可愛いのに。
 
 ごくり、と喉が鳴る。俺は高鳴る胸を無理やり押えつけた。
 そして俺は、朱音の思わず舐めたくなるような耳に顔を近づける。

「朱音、良く聞いて。君は炎を見るんだ。ほら、火が揺れ動く。根本の青い炎に朱音はどんどん吸い込まれていく」

「……あおい……ほの……お……」

 朱音の目がどんどん虚ろになっていく。少しずつ彼女の体から力が抜けていくのが分かる。
 俺は口から心臓が飛び出そうになりながら、ネットで仕入れた、うろ覚えの催眠術の誘導法を仕掛ける。

「さぁまばたきをして……そう。今度は少し上を見よう。ろうそくの火が赤くなっていくよ。君は赤いゆらめきから目を離せない。赤い炎が君の瞳に癒しを与えてくれる。暖かくで気持ちよくて、幸せなぬくもりが君を包んでいく。とても暖かい、気持ちいい、もっと浸っていたい……。目からおでこに幸せが広がっていく……」

 朱音の表情が微かに緩む。彼女の瞳には、既にロウソクの火しか目に入っていない。

「おでこから頭いっぱいに、温かいぬくもりが広がっていくよ……なんて気持ちいいんだろう……もっと委ねたい、この気持ちに素直になりたい。受け入れれば受け入れるほど君は幸せになれる……」

 自分でも何を言っているのかよく分かっていないけど、とにかく口を動かし続けた。
 俺の乾いた唇が唾液で湿っていく。高揚する頭に喝を入れる。
 注意深く朱音を見た。

「……しあ……わせ…………。……受け……入れ…………る…………」

 朱音はぼそぼそ俺の言葉を反芻させて、口元をだらしなく伸ばす。恍惚した状態とは、今の朱音みたいな表情の事を言うんだろう。
 朱音の目は半開きになっていて、今にも瞼を閉じてしまいそうだ。思わず吸い込まれそうな黒目はただロウソクの火だけを映し出している。

 うろ覚えの知識だけど、ここまで心を開いてくれているなら、ちょっとぐらい無理な暗示でも聞いてくれるんじゃないかな。

「君は俺の声に従いたい。俺の声に従うともっと幸せになれる。君は俺の声だけに集中するんだ。君は目を閉じると更に素晴らしい世界に入ることができるんだ。ほら君の瞼は少しずつ重くなってきた、もう目を開けていると疲れちゃう。ゆっくりゆっくり目が閉じていくよ」
「ぇ……ん……ふぁ……ぅ」

 朱音は少し抵抗を示したものの、重力に逆らうことができないのか、一段、また一段と目を閉じていく。彼女はまるで眠っているかのように静かに、そして体全体が脱力している。
 椅子に座っている朱音の体が動いた。自分がリラックスできる態勢になろうとしているみたいだ。
 朱音は深く背もたれに寄りかかり、その分下半身が前に滑る。両足が開く。先ほどまで引き締まっていた太ももから、力が抜けているのがよく分かる。腕組みしていた両の手は既に解かれ、左手は股の間に入るように、右手は丁度股間の真上に乗っかっていた。
 彼女の顔は俯き加減の姿勢を取り、表情は夢見心地の世界の中にいるような弛緩した笑みを浮かべている。

「君はもう俺の声しか聞こえない。俺の声が心地いい。もっともっと聞いていたい。君は俺の声に従いたい。朱音、これから俺が君の体に触るとその部分の力が抜ける。それはとても気持ちよくて、ずっとその感覚に浸っていたくなる」

 とうにリラックスしているけど、もう少し深い催眠状態まで落とそうと暗示をかけてみた。正直催眠を通り越して、寝てしまうんじゃないかと不安だったけど、ロウソクのお蔭か、朱音が催眠にかかりやすい体質なのかは分からないけど、きちんと俺の声を聴いてくれているようだった。

 ためしに、朱音の両肩に触ってみた。朱音の体がぴくっと震えた後、さらに彼女の力が抜けたようだった。

「朱音、気持ちよかったり、俺が質問したら声出していいよ」
「……あ……気持ちいい……です……」

 抑揚のない声で、まるで無機質な機械のような声で彼女は応答する。普段では絶対見ることのできない姿、敬語で話す彼女の声に俺は興奮する。 

「朱音、この状態の時は、常に敬語で話すんだ。いいね?」
「……はい、わかりました……」

 俺は、彼女に語りかけながら、次々と彼女の体を触った。こんなにベタベタ触っていたら、いつもなら殴られるか蹴られるんだけど、今の朱音は借りてきた猫のようにおとなしい。

「さぁ、俺が君の体を触ると更に気持ちよくなる。リラックスするよ。肩の次は右腕だよ。ほら、俺が触ると安心する。力が抜ける。気持ちいい。気持ちいい。君の二の腕はもう動かない。動かすつもりもない。だってこんなに気持ちいいんだもの。前腕も気持ちいい。力が抜ける。手も握られたね。もう右腕は全然動かないね。でもそれが気持ちいい。ずっとこの状態でいたい」

 うわぁ朱音の腕やわらかい。彼女に密着してるから、朱音の、女の子特有のいい香りがめちゃくちゃ伝わってくる。彼女の吐息も、それに合わせて朱音の胸が上下しているのも、こんなに間近で、好きに見ているのはいつ以来だろう。

 彼女の隙だらけの顔、身体を眺めていたら、思わず朱音の無防備な体を正面から抱きしめてしまった。
 俺の腕は彼の背中に。どさくさに紛れて顔を胸に埋めて少し強めに抱き着いた。やべえ、いい匂い過ぎる。くんかくんかくんか。
 普段の朱音なら、身体をこわばめて、俺の太もも辺りを思い切り膝打ちしているところだ。だけど今の、催眠状態の朱音は、抱きしめた俺が驚くぐらい、何もしなかった。
 何もしないどころか、もうこれ以上ないぐらい蕩けた表情を見せ、猫撫で声の彼女は俺に抱かれるがままになっていた。

 「ぁ……ふぁぁぁぁ……ぁふぅ……気持ちいい……ですぅ……。……しあわせぇ……れひゅぅ……」

 俺は夢中で一気に彼女の体を触った。すべすべしててやわらかい太もも、ふくらはぎ、お腹。脇腹、腕、首筋、股間。朱音は俺が触るたびに、ぴくぴく身じろぎして、もっと触ってほしいと催促する。勿論俺は思い切り触る。
 俺の足で朱音の足や足の裏に触れ、後触っていないところは頭と顔だけになった。
 すっかり全身とろとろになった朱音は涎を垂らしている。丁寧に舐めとってあげるとまた体を震わす。

 いい加減彼女も、座ったままでは態勢を維持できなさそうだったので、ベットに移すことにした。

「朱音、これから俺は君をベットに移動させるけど、君は一切抵抗できないよ。だって俺に触られると幸せになれるから。君は俺に触ってほしくて仕方ないんだ」

 俺は頑張ってお姫様抱っこをして、彼女を俺のベットの上に横たわらせた。
 一見寝ているように見える朱音は天使みたいに可愛い。手を胸の上で組ませたら聖女と見間違うほどだ。
 今までキスをしなかったのが、自分でも意外だった。もうここまで来たし、と思って彼女の体に覆いかぶさった。
 俺の唇が朱音の綺麗な唇に近づいていく。
 もう5センチ……というところで、俺の心の中にもやもやした気持ちが浮かび上がった。

 どうせなら彼女が覚醒した状態でキスしたいな、と。
 今の朱音は官能的で今すぐにでもむしゃぶりつきたい。だけど俺とのキスが、朱音の中では朱音の妄想上の奴とキスしているように考えるんじゃないかと、俺は疑っているのだ。

 あくまで俺は俺の声だけで、彼女を支配しているに過ぎないし。想像するのは彼女の自由だから。

 そう考えると面白くない。ていうか朱音が性のはけ口にしてる奴って誰だ? 好きな人はいないって言ってたけど、誰でオナニーしてるんだろう。……気になる。ぜひ聞いてみようそうしよう。

「朱音は今、とても気持ちのいい空間にいる。暗くて、暖かくて、気持ちのいい、俺が一緒にいる幸せな空間だ。朱音はもうこの場所が大好きだよね?」
「……はい」

 朱音は相変わらず抑揚のない声で肯定する。なんか興奮するな。

「朱音がここまで来るには俺の声が必要だよね。俺が一緒にいて、俺の声に従って目を閉じると、君はこの場所に来ることができる。これは俺じゃないとダメなんだ。朱音一人じゃ絶対に味わえない感覚」

 俺は朱音から距離を取った。あえて朱音から離れて声をかける。

「……ほら、俺が離れると朱音はどんどん不安になってくる。さっきまであんなに居心地の良かった場所は途端に落ち着かなくなる。緊張して、安心できない」
「あっ……ぃ、ぃ……や……」

 朱音は露骨に不安がってる様子だ。力が抜けて動けない暗示はそのままだから碌に動けもせず、泣きそうな顔をして顔をいやいやと振っている。
 俺はすぐに朱音に近寄り、またがり抱きしめ、彼女の耳元に口を近づけた。

「安心して、俺がそばに来たよ」
「……ああ……はぁ……」

 その一言だけで、彼女の顔はピタリと動きを止め、どこが安堵したように息を吐く。えろいな。続けざまに俺は囁いた。

「この場所に来るには俺の声が絶対必要だ。俺の声が君をここまで連れてきた。君は俺の声に従ってここまで来れた。君はもうこの大好きな場所を絶対失いたくない。君にとって大切なところ。ここに来るには俺が必要。君には俺が必要だ。俺がいなければここには来れない。分かったね?」
「……私は……翔太がいないと……」
「ダメなんだ」
「…………はぃ……」

 なんか朱音が俺以外の男を妄想していると考えたら、いらっと来たので独占欲が滲み出てしまったけど気にしない。
 朱音はすっかり安心しきった様子で、まるで寝息を立てているかのように呼吸を繰り返している。

「朱音にとってこの場所は、一番安心できる場所。朱音はここにいると素直になれる。俺に質問されたら朱音は素直に答える。嘘なんてつけないし、つくつもりもない。だって俺に嫌われたらもうこの場所には二度と来れないから。そんなの嫌だよね?」
「……はい……はい……!」
「それじゃあ朱音はもう俺には素直になる。分かった?」

 必死に頭を振る朱音。可愛いなぁ。ここまで予防線を張っておけばもう大丈夫だろう。なんだか1流の催眠術師になった気分で、仰々しく朱音に尋ねる。だけど尋ねる内容はどうしようもない。

「それじゃあ、朱音。朱音の好きな人を教えて?」

 さぁどんな答えが返ってくるかな? 確かこの前聞いたら、いないって言われたけど、ほんとかどうか分かんないし!
 朱音は好きな人を思い浮かべたのか、にやける。なんかムカつく。

「私の……好きな人は……翔太……」

 えぇ!?
 俺、何度も告白してるじゃん!! なんで!? 俺の知らない翔太か!?

 思いがけない人物に焦った俺。俺は小学生の頃から年に一度は朱音に告白して、その度に振られているので、小中はもちろん高校でもみんなにバカにされ、時には生暖かい目で見られているのだ。それでついたあだ名が、鉄の男。ふざけんなサッチャー。おふざけの告白なら最早、月一ペースでdoしている。そりゃ最近は真面目な告白してないけども。
 俺が好きなら、そんなら最初から俺の気持ち受け取れよ! どんだけ捻くれてるんだよこの女!
 という内心激しいつっこみを入れつつ、朱音の次の発言に俺は更に驚くことになる。

「……ママ……パパ……おばさま……熱海……光……です……」

 5秒ほど固まる俺。

 ……ああ、そうか、『異性として』好きと限定しなかったから、こういう返しになったのか。やっぱり催眠術は難しいな。

 おばさまは俺の母だろう。……父さんは好きじゃないんだ……。どんまい父さん。
 光は伝導 光 (でんどう ひかり)で、熱海は島縞 熱海(しまじま あたみ)の事だな。
 二人とも朱音の本性を知ってる彼女の親友達だ。小学一年生からの仲で、必然的に俺とも幼馴染ということになるけど、小4ぐらいから俺はそんなに伝導や島縞とは喋らなくなった。俺が女子と喋ると、後で朱音が殴るからだ。じゃあ俺と付き合えよ。

 というか面白いこと聞いたな。朱音は全然素直じゃないから親友なんてワードは絶対使わない。精々腐れ縁とでも称すだろう。そんな朱音が俺を含め堂々と好きな人に挙げる辺り、催眠術って素晴らしい。後でからかってやろう。
 てかどうやって好きな人聞けばいいんだろうか? えーと。

「えっと……朱音が……エ……エロいと思う人はいますか?」

 うーん。なんか違う気がする。あ、普通に『異性として好きな人は?』って聞けば良かった。まぁいいや。今度はどうだ。

「……いません……」

 きっぱりとした口調で話す朱音。ふむ、これは本当のようだ。……って、え? じゃあこの質問はどうだろう。

「芸能人とか、スポーツ選手とかで性的魅力があると思う人は誰ですか?」
「……いません……」

 うーん。なんかおかしいな。女子って、テレビなんかで出てくるイケメンに食いつくもんじゃないの?

「……あなたがイケメンだと思う人は?」
「……いません……」

 ますます頭に疑問符がつく。もう少し突っ込んで聞いてみる。

「今まで性的魅力があると思った人はいますか? あえてイケメンだとすれば誰ですか?」
「……今まで…………ありません。……あえてイケメン……翔太……です」

 この返しで、ちょっと俺が今まで壮大な勘違いをしてきたことに、なんとなく気づいた。
 お世辞じゃないけど、俺はイケメンじゃない。人によっては中の上という人はいるかもしれないけど、大多数の顔面評価は中の下といったところだろう。というわけで、彼女は不細工専ではない。

 もしかしたら、朱音は好きな人がいないんじゃなくて、できないんじゃないか?

 そう考えると合点がいく事がいくつかある。どんなイケメンでも魅力を感じない。どんな男に言い寄られても付き合わない。そして恋をしたことがない、という発言。
 そもそも普通に考えて、好きな人は? と尋ねられたら恋心を抱いている人間をあげるだろう。小学校低学年じゃないんだから。

 これは詳しく問い詰める必要があるみたいだ。催眠状態では会話がしづらいので、一旦彼女を覚醒させる。

「朱音、俺が3つ数を数えて指を鳴らすと、全身に力が戻り、君は頭がすっきりして目が覚めるよ。絶対そうなる。いくよ。1、2、3、はい!」
「……ぁ」

 ふぅ。とりあえず、上手く目を覚ますことができたみたいだ。
 朱音は数度瞬きをして、俺と目を合わせる。

「近すぎ。きもいんだけど死ね。てかずっと胸触んな」

 第一声がそれかよ。やれやれ。
 俺が身を引くとお互いあぐらをかいて座る。南国柄か。

「ぱんつ見ないでくんない? 死ね」
「じゃあその格好で座るなよ」
「ちっ」

 舌打ちされた!? 朱音は女の子座りに変え、腕を組み、黙って俺を見る。

「そんなに見られると、穴が開きそうなんだけど」
「10個ぐらい開けとけば? もともとスポンジ脳なんだから身体も合わせればいいじゃん。死ね」

 二言目には俺死にますね。朱音の秘密を暴いちゃったからこの反応も仕方ない、というかこの反応も生温いけど。多分今までの流れ全部覚えてるもんなぁ。
 こんなにいらいらしているいつもの朱音なら、既に2,3発ブロー入ってるはずなんだけどな。

「なんで?」
「あんたがそうしたんでしょうが」

 ?……ああ、俺に嫌われたら……って暗示かけたやつか。それじゃあ都合いいな。早速聞いてみよう。

「最後にオナニーしたのはいつ?」
「死ね死ね死ね死ね」

 酷い呪詛を唱えてくる美少女。心外だ。男ならだれでも気になるというのに。

「俺に嫌われたくないんじゃないの?」
「はっ。答えなきゃいけないわけじゃないし」

 素直に答えろって暗示掛けたんだけどな。ある意味素直だけど。

「いいから質問に答えろ」

 強めの口調で言ったら、彼女の様子が変わる。まるで俺がこの世のゴミの塊であるかのような表情、目つきをしていた朱音だけど、腕組みを解き、こちらにすり寄ってきた。

 俺が足を伸ばすと間に入り込む。朱音の両手が俺の両肩を掴み、不安げに俺を上目使いで見つめ、身体を密着させた。誘ってんの?

「ごめんなさい。嫌わないで。捨てないで下さい」

 ……どうやら、俺に嫌われたら~の暗示がようやく効いたみたいだ。こんな朱音久しぶりに見た興奮した。
 朱音は一度俺の胸に顔を押し付け、再度俺と顔を合わせる。

「あのね、私は、非性愛者なの。その中の、私はパンロマンティック・アセクシャル」

 ひせいあいしゃ? パンツロマ? 初めて聞いたぞ、それ。そんな俺の様子を一目で察したのか、彼女はすぐに説明してくれた。

「えっと、私、一応性欲はあるけど。そんなにムラムラ? っていうのしたことないの。だから一人でしたことはないよ」

 それとは別に……と朱音は話を続ける。

「パンロマンティック・ノンセクシャルっていうのは、好きな人は出来る。男も女も関係なく好きな人は出来る。恋愛感情は持てるの。でも欲情はしない。皆がイケメンだー、って言う人にも、私からしたらその人に対して性的魅力を全然感じないの。勿論あんたにも欲情しないわ」

 長年心に閉まってきたことを吐き出す朱音。ちくり、と針を刺してくれるな。

 でも、やっぱりな。
 ピンときた。彼女は嫌に無防備なところがある。
 それは誰にでもそうなんじゃなくて、俺や伝導、島縞に対して無防備なんだ。朱音は他社への性欲をいまいち実感しづらいから、信頼を寄せている人にはガードが甘くなるんだろう。性欲に関しては知識はあるけど幼稚園生がそのまま成長したみたいな。
 例えば、TPOに寄るけど、男が半裸になってもあまり羞恥心を感じないのと似た感じなんだと思う。

「あの、好きにしていいよ。私をめちゃくちゃにして。もう我慢できないでしょ? あんたが性欲魔人なのはずっと前から知ってたから。私が医千学園に進学したのも無性愛を自力で治すためだったけど、あんたが私のノンセクシャルを治せるなら、全部、任せるから」

 朱音は今凄いことを言っている。
 自分に置き換えて考えてみると、俺は男に欲情しない。だけど俺が男に欲情出来るように、ずっと努力し続けてきた、と言っているようなものだ。しかも朱音は、まるで無性愛を病気のように言っている。そんなの普通ありえないはずだ。多くの男が女に欲情するように、無性愛者は欲情しないのだ。

 朱音は何かを訴えかけるかのように俺から目をそらし、ぶっきらぼうに言う。

「あんたは……やっぱいい。でも責任取りなさいよね。あんたは余計なこと考えなくていいから」

 そう言うと、彼女は俺から離れ、仰向けに寝て、目を瞑った。
 朱音は何を言いたいか、鈍い俺でも分かった。彼女はずっと、幼稚園の頃の約束を守ろうとしてくれていたんだ。大人になったら結婚すること、そして子供を産むこと。

 朱音はどれだけ苦労し続けてきたんだろう。
 恐らく自分がマイノリティーであることに悩んで。俺の想いに、約束に応えようとしてくれていたなんて。
 朱音は性欲があまりない上に、俺に付き合うために欲情をしたいけどしたくないという複雑な状況。ロウソクの力を借りてもうまくいくかどうか。
 それに俺は朱音を変えて、はいおしまい、とはしたくない。
 というか、余計なこと考えるなと言われても、俺の所為で悩ませてしまったのは間違いないから、まずそれを謝らなきゃいけない。
 今まですまなかったと。無理して約束を守らなくていいと。

 もし、彼女が俺の説得に絆されて、朱音が無性愛者としての人生を歩み、俺との約束もなかったことになったら……。

 なんだか怖くなったので、朱音からそっぽ向いて、彼女の癖みたいに腕を組む。

「あか……うぉ!?」

 突然背中に衝撃が走った。驚いて振り向くと幼馴染が目の前にいた。
 そして、なんだか懐かしい感触を覚え、彼女は離れた。

「……あ」
「ふふ、あんたは忘れてるでしょうけど、私たち、婚約してるのよ?」

 もう一度、彼女は俺の唇に吸い付く。その穏やかな表情に、思わず俺は見とれてしまった。

「あんたの告白を断り続けてきたのは、昔の私は恋愛感情すら持てなかったから。自覚できなかったから。今の私があんたに告白しなかったのは、性欲がなくてあなたの希望に応えられそうもなかったから。心は付いていけても体はどうしても……。だからね。私は恋人としてあなたが好きよ」

 彼女のまっすぐな目に、恥ずかしい気持ちになり、俺は目をそらす。

「でも……」
「じゃない。私がそうしたいの。あんたもそうしたいんでしょ。つーか私の努力無駄にする気? 余計なこと考えるなっての」

 彼女は本当に自己中だ。今まで何の相談もせずに、俺を振り続けて。勝手に決めて勝手に走り出す。

 俺たちは手を取り合って、再び彼女を押し倒した。彼女が目を閉じ、俺が導く。俺たち二人だけの秘密の場所。
そこで十分お互いの心をほぐす。彼女を変えるためには、もっと彼女のコアとなる部分に誘導しなければならない。

「朱音、あのローソクの火を思い出して。青い炎、赤い炎。ゆらめく炎。君をとらえて離さない。君の心は沈み込む。どこまでもどこまでも降りていく。とても気持ちいい。朱音はすーっと落ちていく。朱音は非性愛の根源に落ちていくよ。朱音が朱音でいるために、ずっと隠しておいた場所。安心して、朱音は俺といっしょならどこまでも落ちていける。」

 朱音の催眠深度を更に深め、彼女を構成している核の部分に連れていけるように誘導する。
 彼女の安らかな顔を見る。上手い塩梅に到達することができたようだ。
 俺は彼女の手を解き、抱きしめる。

「朱音、朱音の目の前には俺がいるよ。全部俺に任せてしまおう。ほら、俺に抱き着いて。小さい頃、俺に抱っこされていたでしょ? あの頃を思い出して。俺に抱き着いて」

 朱音の腕が俺の首の後ろに回る。彼女の両足も、俺の背中、お尻の少し上辺り、に回り交差する。強く抱き着かれ息苦しいぐらいだけど、朱音の自由にさせてあげた。

「朱音は何も心配しない。朱音は全部俺に任せるんだ。朱音は俺の事を信じる。朱音の心を全部俺に差し出して。朱音は俺に変えられたい、変えてほしい。俺に心をいじられるのは嬉しい」

 朱音の頭をなでながら、一つ一つ、噛みしめるように言葉を選ぶ。さっきから彼女の心音は、俺の爆音とは正反対に落ち着いていた。朱音は、ただ家族に抱き着くかのように、純粋な気持ちで目を閉じているのだろう。

 さて、ここからどうしよう。どうすれば性欲を増幅し、性的対象を俺に向けさせられるだろうか。

 少し考えて、思いついた。朱音と伝導と島縞は、定期的に少女漫画を貸し借りしているらしい。少女漫画って結構エグイからな。俺も朱音が読んだ後に読ませてもらってるからよく分かる。

「朱音の中で、とびっきりいやらしい少女漫画の主人公を想像して。いつも発情していて、淫乱で、人生恋で生きているような、そんな女の子」

 朱音の表情が少し険しくなる。やっぱり彼女にとっては受け入れがたい存在のようだ。

「どんな子を想像した?」
「……はい。『恋色ビーナス物語』の主人公を想像しました」

 うわ、『恋ビナ』か。少女漫画の中では俺が一番お世話になってる奴……。週刊少女『けぇき』が全盛期だった頃に颯爽と現れた、突っ込みどころ多数の伝説の糞漫画。
 作者の『はりぜ』は、あの子絶対少女漫画嫌いになっただろうな。まぁ作品の出来が酷いのは作者の理世ちゃんが悪いのではなく、そのお姉さんの理緒さんのせいだろうな。
 恋ビナの内容はもう掲載する雑誌を間違えたと言う他ない。編集仕事しろ、とでも言いたくなる。同人誌なら良かったのに。
 この漫画は過激すぎてPTAが猛抗議したとか何とか。結果数話で打ち切りになった。あの雑誌、最低でも20話は続けさせてくれるところなのに。

 ストーリーは、金髪お嬢様が主人公。彼女は外では品行方正、内では我儘高飛車女。でも旦那に対してはドMでメロメロ……と、いかにも甘ったるいお話に見える。
 でも実はその旦那が機械でお嬢様一家を洗脳していて、お嬢様も洗脳された挙句、旦那に捧げるためにお嬢様が色々な女性を堕とす……というトンでもなストーリーを展開。

 あの主人公はエロい。二面性があるところが朱音そっくりで、何度も朱音と主人公を重ねた。何度も俺は賢者になった。主人公が堕ちて奴隷になった瞬間は最高だった。でもどんな終わり方したんだっけ? 朱音から毎回借りてたけど最終話は覚えてないな。まぁお気に入りのシ-ンは2話3話4話辺りだからどうでもいいけど。理世ちゃんごめん。エロかったです。

 主人公の名前は確か、北丞院 瑛梨香だ。

「じゃ、じゃあ……そうだね、君は俺に抱っこされている。朱音の後ろに、その主人公、瑛梨香が現れるよ。」
「……はい」
「瑛梨香は手を伸ばして、朱音の頭のてっぺんに手を乗せた」

 朱音は少し不機嫌そうな顔をする。さぁ上手くいくかな?

「朱音、旦那様は覚えてる?」
「……はい」
「その旦那様は俺ね。俺と重ねて」
「……」

 朱音は凄い嫌そうな顔をしている。でもこれは受け入れてくれなきゃ駄目だ。申し訳ない気持ちになりつつも、強い語調で彼女を諭した。
 朱音が俺に抱き着いている。この密着状態が長引くと、俺の息子が暴発しそうだという意味で、あまり時間がないのだ。ああ、いい匂いだなぁ。柔らかいなぁ。

「朱音、俺の言うことを聞け」
「…………は……い」

 いい子いい子、と頭を撫でてあげる。

「さぁ。朱音の頭のてっぺんの瑛梨香の手から、瑛梨香の気持ちが入ってくる」

 そう言い切った瞬間、朱音の体が大きく跳ねた。朱音は苦い顔をしている。そりゃそうだ。だって朱音と瑛梨香は、性格は似てるとこがあるけど全然違うもの。朱音の中では、既に旦那に卑屈になり、服従している瑛梨香を想起しているはず。最初にいやらしい女の子と指定したからね。

「朱音の中に瑛梨香が入っていくよ。とってもエッチで旦那様にいつも恋していて、旦那様の事しか考えられない淫らな雌の瑛梨香が朱音の中に入ってくる」

 どくんどくん、と朱音の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。初めての感覚に戸惑っているのだろうか。肩で息をし始め、顔が朱に染まりつつある。

「君の旦那様は誰?」
「……あ……ぅぁ……はぁ……はぁ……」

 吐息も熱を持ち、彼女は早くも快楽を感じ始めているのか、身体を俺に擦り付け始めた。どうやら暗示は上手くいったらしい。
 その様子を肌で感じている俺は、とてもじゃないけど我慢できない。俺も自分の感情に従って、彼女を支配し始める。

「答えろ」
「あぁ……はい……旦那様…………翔太、様……です……」
「今から君は俺にキスされるよ。俺にキスされたら朱音は当然気持ちいい。でも今までの気持ちいいとは全然違う。『思い出して』。朱音は瑛梨香、瑛梨香は朱音。朱音は瑛梨香と混じり合った。朱音はもう、何度も大好きな旦那様とキスしてるね。その感覚を『思い出して』」

 実際には勿論朱音の記憶にない感覚だ。でも今の朱音は瑛梨香。旦那様である俺に何度も調教され、接吻されている。

「翔太様……翔太様……」
「いくぞ朱音。朱音はもうとっくに俺の物だ」

 キスしようとしたとき、生意気で毒舌家で、暴力ばかり振るっていた女が俺の脳裏に浮かんだ。もう、彼女とは会えないかもしれない。

「……朱音……」
「……なに……ですかぁ……翔太さまぁ」
「……好きだ」
「!……わらひ、もぉ……んんんぅぅぅぅ!!」

 俺は彼女の唇を奪った。朱音の全身が痙攣する。涙が零れだす。朱音が、人生初めての絶頂を味わっている。

 処女どころが、今まで快楽のかの字も知らなかった美少女が、開発しつくされた女の快感を得ているのだ。あくまで想像に過ぎないとはいえ、ショック療法には充分すぎるだろう。
 未だ絶頂の渦に取り込まれている朱音に、更に暗示という名の杭を打ち込み、覚醒させる。

「よく聞け朱音。お前はもう全部思い出している。俺への気持ちも俺に対する快楽も全部思い出している。お前は俺の物だ。もう目が覚めてもその気持ちが消えることは絶対ない。お前は永遠に俺の奴隷だ。お前の心の奥深くに刻まれる。もう朱音は戻れない、戻りたくない。1、2、3、はい!」

 俺は朱音の顔を覗き込んだ。

「…………ぅ…………ぁっ……」

 彼女は息も絶え絶えで、口をパクパクさせている。快楽の波が引くまで待ってやると、直に彼女の体が脱力し、大の字になった。電流を流しこまれているかのように、弱弱しく体が動く。

「……朱音、気分はどう?」

 俺は彼女の涙を舐めとりつつ、聞いてみた。暗示通りに人格が矯正……というか、混合していた場合、俺の理性はもう抑えられない。

 そして、朱音は、朱音だったものは、俺を見つめる。瑛梨香と同一になった雌は、不自然なほど破顔し、開いた口からはよだれが流れ出る。

「……最高の気分です……旦那さまぁ……」

 猫撫で声の主からは、確かな忠誠の意思を感じさせる。
 学年一の美少女が、俺の憧れだった女の子が、生意気だった幼馴染が、目をハートにして、俺を求めている。

 俺は一旦朱音から離れて膝立ちになり、Tシャツを脱ぎ捨てる。
 俺が突然離れたからか、淋しげに俺を見つめていた美少女が、俺の上半身に釘付けになった。
 朱音は恐らく無意識にワイシャツに手をやって、ボタンを一つ、また一つ外す。俺に肌を見せつけた。一目見るだけで滑らかだと分かるその肌は、程よく白く美しい。

 良く見ると、彼女は紐ビキニを着けていた。南国を思わせる派手目な装飾は、パンティーと合わせていて、そこで初めてショーツもビキニであったことに気が付いた。

 俺がハーフパンツを脱ぎパンツも脱ぐと、彼女はスカートを捲りあげ水着をさらけ出す。こちらも紐タイプだ。

 幼馴染はすっかり発情している。目線は先ほどよりも更に下がり、俺の怒張に見惚れているようだ。

「旦那様の……旦那様の……」

 うわごとの様に呟く彼女はとても官能的だった。それは生まれた時からずっと一緒にいた俺でも初めて見る姿だった。

 確か、彼女と一体になった瑛梨香は、ドMになるように洗脳されていたはずだ。命令口調で指示を出すと、もっと堕ちてくれるかもしれない。

「俺の事は翔太様と呼べ」

 俺がそう命令した途端、朱音は背中を反らし、胸を突き出して腰をくねらせた。
 やっぱり朱音はマゾになっている。

「はい……翔太様。あ……あの……」
「どうした?」

 あえて焦らす。せつなそうにお尻を振ってるけど、自分から言い出すまで俺も何もしない。
 沈黙が数秒。耐え切れなくなった朱音が口を開く。

「翔太様……お、お願いします……」

 俺は目で、催促した。俺の意図が伝わったのか、彼女は手を首の後ろに回す。ビキニの紐に手を掛けた。

「翔太様がご覧になっている前で脱ぎます。脱いじゃいます。だから……あぁ……見てください。朱音は翔太様に見られて興奮するメスです……。朱音のおっぱい、見てくださいぃ」

 俺の目論んだ通り、朱音は自分の言葉で性感を高めている。
 彼女は俺が何も言っていないのにビキニの紐をほどいた。
 既に鋭く固い先っぽは、俺に見られてぴくぴく動いている。俺はただ、桜色の突起を見続けていた。

 俺のその反応だけで朱音はたまらなくなったのか、パンティーの紐も外した。彼女はM字に開脚し、俺に性器を見せつける。

「もっと……見てぇ……翔太ぁ」

 朱音の目が、俺を誘っている。俺はその誘いに乗っかってやる。

「朱音。偉そうな口を聞くな」

 俺が軽く彼女の太ももを叩いてやると、彼女の全身がビクっと震える。

「あぁん! ごめんなさい、翔太さま! しょうたさまぁぁ!!」

 ただ太ももを叩いてやっただけなのに、この反応だ。

「俺に罵って欲しかったのか? 俺がきちんとお仕置きできるのか試したのか? この変態め。お前は誰の物だ?」

 朱音は盛った犬のように、ベロを出し、両手で性器を広げる。既にそこは大量の愛液で濡れている。
 そして、朱音は完全に屈服した。

「はふぅ! ごめんなさい。朱音は翔太様に罵られると子宮がきゅんきゅんしちゃうんです。朱音はもうしょうたさまの物なんです……。翔太様、どうか朱音を抱いてください。朱音の愛液ダラダラ流れてるいけないおまんこズブズブして、壊して、翔太様専用おまんこにしてください……」

 俺はその言葉を聞くと、陰茎を彼女の入り口に押し当てる。
 朱音はそれだけで顎が上がり、絶頂する。俺は一気に押し込んだ。

「あふぅぅぅ!? しゅ、しゅご……ぉぉぉ!! 一気にきたぁ! 翔太様のおちんぽ様に屈服しちゃぅのぉぉぉ!」

 初めてなのにも関わらず、痛みなど微塵もないかのように、彼女は俺を飲み込んだ。朱音は積極的に動いて、俺から精液を搾り取ろうとする。
 俺が奥まで打ち付けると、朱音の膣は何度も俺を締め付ける。処女とは思えないほど巧みだ。
 いつの間にか朱音の足は俺の体に絡む。俺達は深い口づけを交わしていた。

 テクニックも何もない。ただ猛獣のように激しく体を重ね合った。
 朱音はもう息も絶え絶えで、未知の感覚に対し限界を超えていた。

「んはぁぁ! 翔太さまぁ!! じゅ……むぅぅぅ!? ちゅぅぅぅ!! えぉ……んふっぅうう! ふぁぁ! しょうたさまのおちんぽ様ビクビクしてますぅ。孕まされちゃうぅぅ。中だしせっくすしちゃうのぉ……。ああ! 来る! 来る! 来ちゃいます!! い、いぐぅぅうぅううう!!!」

 俺が力を振り絞り、最奥に叩き込む。同時に今までで一番の締め付けが俺を襲い、精液を流し込んだ。朱音は獣のような咆哮をあげ、気絶した。

「っあぁあああ!! ……っあ…………ぁ……しょうたさま……の……」

 力なくベットに沈み込む朱音の体。色々とびしょびしょだけど、後片付けは……後でいっか。

< 続 >

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