営業活動記録 File1-2

File1 監視カメラ①(中編)

 薫は私を自室に向かい入れようとしてくれましたが、その前に悠様のTシャツを脱がなければなりません。家の中でコートをずっと着ている訳にもいきませんし。
 先に薫を2階にある自室に向かわせ、私は1階の脱衣所でお着換えをしました。
 この家は別にお屋敷みたいに豪邸ではなく、普通の2階建ての一軒家なので、すぐ脱衣所に着きます。
 正面の脱衣所の鏡を見ると、悠様のお洋服を着ている自分が映ります。
 
「はぁぁぁ……………」

 脱ぎたくない、シンプルにそう思います。
 ずっとここで悠様のシャツを着ている自分を見続けたいです。

 でも私がこのままミッションを失敗してしまったら、悠様はどう思うでしょうか。

「いけないいけない! 悠様を悲しませる訳にはいきません!」

 あえて口に出して、決意を新たにします。
 Tシャツの首元に手をかけて、するすると脱いでいきます。洋服の首部分の繊維が私の鼻先に当たります。

 あっ悠様の香り……。生の悠様の香り……。

 こんなの耐えられる訳ありません。思い切り匂いを嗅いでしまいました。薫ならこれで100回ぐらい記憶消されてます。

 さっ、とシャツを元の位置に戻しました。

「そういえば特待生の特典のこともおさらいしてませんでしたよね、悠様……」

 そうです。悠様に舞専女学園のことをもっとご説明差し上げなればなりません。
 これは悠様のため、悠様のためなんです。

「薫は私の親友だっただけのことはあり、って言い方をすると嫌味に聞こえますが、私はこれでも舞女のトップオブトップにして特待生の人間だったので……」

 鏡を見ながら、鏡の悠様のTシャツをガン見しながら、私はご説明差し上げました。

「……私から11カ月後のあなた様へのメモリレター(脳記憶手紙)をどうか受け取ってください」

 あぁ終わってしまいます。やっぱり文香のことを詳しくご説明差し上げるべきでした。

「私は真摯に貞淑に淑やかに、性欲を一切排除して、清廉潔白に全てを悠様に捧げてお仕えしている美少女男の娘メイド、天城院 詩奈です♪」

 私は鏡の前でくるっと回り、舌をぺろっと出しました。右手を目の付近で横ピース、アイドル張りの笑顔を見せつけました。悠様、きゅん、ってしてくれるといいなぁ。

――脳みそ握りつぶそうかしら――

「きゅんっ!!?」

 いま、脳に鋭い痛みが走りました。あ、これヤバい奴です。脳みそこねこねされる奴です。

「う゛ううううう……やっぱり着替えないとダメかぁ……」

 私は断腸の思いで、元々用意していた男物のシャツに着替えました。

 私は丁重にお洋服を畳み、ジップロックをします。

――いやぁぁぁぁああああやめてくださいやめてくださいなんてたたみかたしてるんですかちゃっくかんでますわたしのかほうがぁ!?――

 私のぱーふぇくとな畳み方の何が悪いんでしょうか。邪念を振り払い、脱衣所を後にしました。
 私はキャリーバックをひょいと持ち上げ2階に昇ります。普段は力ないアピールをしてひたすら悠様に甘えているのですが、悠様がいない今そんな事する意味がありません。

 すたこら運んで薫の部屋をノックすると、彼女は丁重に自室に向かい入れてくれました。
 薫の部屋は、実に薫らしいといいますか、シンプルイズベストを体現したかのようなスッキリした部屋です。流石に優子様のお部屋ほどではないですけれど、殺風景な部屋という印象を持ちました。ザ・一人の部屋って感じです。
 

 ……う゛う゛ん。そろそろ本気出さないと。

 ……僕たちが今いる場所は薫の殺風景な自室だ。
 僕はガラガラとキャリーケースの中身をぶちまけた。SRだ。

 『Surveillance Virtual Reality Camera』……略してSR。和訳すると監視仮想現実カメラ。沙雪様曰く『目の前にある現実とは違う現実へ洗脳できる機能が付いている監視カメラ』らしい。

 説明を受けた限り、つまるところただの常識改変装置型の洗脳バイザーだと思う。

 僕は簡素な机の上にγ(がんま)SRとΔ(でるた)SRの二機を置いた。
 γは僕が被る方。黒いゴーグル型の、いわゆるVRとそっくりの造りをしている。
 Δは薫に被らせる方。同じくVRそっくりの白いゴーグルは、目の部分だけガラス張りで透明になっている。

 超絶美人な校長先生よりも更に顔面偏差値が高い薫は、興味津々といった感じで二つのSRを眺めていた。無機質なSRと超超絶イケメン美人の薫。バえるなぁ。
 薫はこの学園にしては控えめなEカップなんだけど、それが不思議な事にイケメン度を上げている。
 ……舞女の平均バストがFカップって絶対おかしいと思う。みんな細いし。

 そんな貧乳コンプレックスはさておき、これ以外に実はもう3つ、SRがある。元クラスメート3人用のε(いぷしろん)SRだ。

 このεSR、実はγを被って命令すると、自動で動き回る、εのゴーグル部分からの映像がγに映し出されるという、監視カメラ的役割、機能があるんだ。今回はその機能を使う必要もない。こっちはあくまで補助的要素。本命はΔとの連携だ。εの本命の機能については、実際に使うときにまた説明しようと思う。

「で、ゲームしたいって突然連絡してきたと思えば、なんだよこれ? ほぇー」
「僕だって旧友と遊びたい時ぐらいあるんだよ」

 ごめん、ぶっちゃけないです。永遠に悠様にお仕えしてたいです。
 そして僕もVRって良く知らないです。

「これ、VRって知ってる?」
「あー。仮想現実にフルダイブするやつだろ? 夏に詩奈が言ってた」
「現代の科学ではそこまで出来ません」

 ハカセ様はできちゃってたけど。
 あははーと笑うと薫はこう言った。

「ごめん、VRってなんだ?」

 そう、舞女の女学生は皆とんでもない世間知らずなんだ。ここ、陸の孤島だから。
 なぜ陸の孤島かっていうと、外部からの情報を12年間完全にシャットダウンして、悠様専用のメイドを育てるための場所だから。
 そういう訳でトップオブトップの薫も例外ではなく、最近の流行物を何一つ知らないのである。薫たちはスマホすら持たされていないのだ。

「VRって言うのはバーチャルリアリティーっていって、現物・実物(オリジナル)ではないが機能としての本質は同じであるような環境を、ユーザの五感を含む感覚を刺激することにより理工学的に作り出す技術およびその体系のことを言うんだよ」
「お前、何を読み上げてんだ?」

 僕は悠様とお揃いのあいぽんを仕舞った。

「別に。とにかくこれでゲームができるんだよ! やってみようぜ!」
「やり方が分かんねーよ……」 

 さりげなく白いΔSRを渡す僕。

「これ被ってみて」
「ぅい。被るだけでいいのか?」
「そそ」

 薫がよいしょっ、とSRを装着した。ポニテのお陰でセミロングの金髪も邪魔じゃないみたいだ。

「うぉぉぉ! すげーーー!! こっちから何も見えねーーー!!」

 外からだとガラス張りなのに内側から見ると視界が真っ黒という謎技術に驚く薫。
 縦横無尽に動き回ってるけどそんなに動くとスカート捲れるよ。
 
 今彼女が着ている服は舞女の制服なんだ。白いワイシャツに赤いネクタイを着けて、黄色がかった黄土色のブレザーを着ている。ミニスカートは赤を基調とした黒と白のチェック柄。太ももまで伸びている黒いニーソックスと絶対領域が、少々筋肉質な薫の足と良くマッチしている。

 さらに言うと薫は舞女生徒代表の癖に恰好が緩い。
 赤のネクタイはきついのがやだからって、ゆるゆるだし、ワイシャツは第三ボタンまで開けてる。ブレザーは前のボタンを付けずに羽織るだけ。

 そのスタイルは今でも変わってないんだなーと思った。
 妹たちからは、ワイシャツの間から見える美しい鎖骨が大人気だ。

「はいはい、イヤホンつけてね」
「いやほんってなんだ?」

 ぽけっとした顔で言う薫。
 がくっ。そっか、それすら知らないんだよねー。

「動かないで、耳にイヤホン入れるから」
「お、おう……あっ……んっ……しいなおね……しいな……近いよ……」

 耳に手が触れたぐらいでいちいちエロイ声出さないで欲しい。

 薫は僕が側にやってきて、薫の耳に手が触れたから真っ赤になってもじもじして大人しくなっている。薫、ぴゅあ過ぎるよ……。昔の薫はノリノリで僕の頬すりすりしてくれたのに。ふざけてちゅーもしてくれたのに……。

「……何も聞こえないぜ?」
「まだ起動してないもん。僕も装着して電源ボタン押さないと」

 テンションがあがっている元親友にして現妹。
 僕は無言でγの黒いSRを装着する。
 γは逆に、何もつけていないかのように、視界が大きく開けている。

 何気に悠様からのご命令ということもあり緊張してきた僕。昨日のフェムトカメラに続いて今日もミッション失敗したら、悠様もっと落ち込んじゃう。明日の主の体調がかかっているというプレッシャーを実感して、心臓が高鳴ってくる。

 先に説明しておくと、γからΔへの命令には段階がある。
 大きく分けて、アーリーモード(初期状態)、ウェイトモード(待機状態)、シンクロモード(同調状態)、ナップモード(半覚醒状態)の4モードがある。もう一つ、僕も説明されていないもう一つの状態があるらしいけど、必要になった時に分かる。その時はイヤホンを付けるな、とは沙雪様の言だ。

 アーリーモードは初期状態のとおり、ゲームを起動したらこのモードになる。きちんと起動したよ、って意味でしかないモードだ。
 ウェイトモードはΔを被った人間が人形状態になるらしい。このモードが基本状態なんだと。

 頭の中の常識を書き換えることができるのはシンクロモードから。同調状態の名の如く、γからΔへの強い命令が可能になるのだとか。
 書き換えた命令を実行するのがナップモード。

 やってみないと良く分からない部分があるから、やりながら覚えるように、と悠様直々にお教えいただいたので、その通りに行動してみる。

 僕は側頭部に付いているSRの起動ボタンを押した。

 ボタンを押して2秒ほど経つと、ブウン、と低い起動音が鳴った。
 僕は意識を集中させてメニューを開くよう念じる。すると、僕の目の前の空間に文字が現れた。

・SRを起動しました。連携確認……連携確認……

・Δを感知しました

 
 赤い矢印が薫にちょんちょんと向けられている。
 薫は視界が闇に包まれているので、むやみやたらに動くのは危険だ、と気づいたのだろう。体育座りになっていた。見えそうで見えないのは流石に隠し方が上手いと思う。

 矢印がその薫に向いている。ということは空間に描かれた文字通り、ちゃんとΔとγで相互認証が出来ているようだ。

・アーリーモードからウェイトモードに移行しますか? はいorいいえ

 僕は左手を伸ばして、左の選択肢、『はい』をタップした。僕のバイザーの耳元が、かちゃりと鳴った。

「お!? ウェイトモードってでた……ぞ……?」

 薫は、僕に顔を向けて目の前に浮かんだ文字を読み上げた。
 薫の顔から表情が徐々に抜け落ちていくのが、ガラス越しに分かる。
 僕の方からでは見えないけれど、沙雪様の説明によると、人間には知覚できない特殊な音波がΔSRの後頭部部分から発生しているらしい。更にイヤホンからも同様の音波が発生していてより効果を高めているのだとか。
 その特殊音波によって、ごく簡単な行動を取らせることができるらしい。

 そして、Δのバイザーからは1秒間隔で白い光がちかっ、ちかっ、と光っている。
 決してまぶしいものではない。白というよりは薄白い光だ。バイザー全体から放出される光は薫の視界全て黒一色から白一色へ、黒一色からから白一色へ、と切り替わる。

「………見る。……集中して見る。私は、光を集中して見る。私は、白い光を集中して見る」

 薫は体育座りからゆっくりと仰向けに寝転がると、やがて白い光を見る、と繰り返しつぶやくようになっていた。
 その表情は機械のように感情を失っていて、ただただ白い光を一心不乱に見続けている。

「私は、白い光を集中して見る。私は、白い光を集中して見る私は、白い光を集中して見る私は白い光を集中して見る私は白い光を集中して見る私は白い光を集中して見る」

 時折瞬きをしながら、白い光を見つめる様子が、ガラス越しにありありと見える。
 
 やがて白い光が小さくなっていき、左側の視界、5分の1程度の大きさとなって、丸い白い光が照射されるようになる。次は右から。左、右、左、右。やがて音波の影響で瞬きのタイミングと照射のタイミング合っていく。目を開けていると常に光を追いかけている。

「白い光を集中して見る私は白い光を集中して見る……んっ。……私は白い光を集中して見ると気持ちいい私は白い光を集中して見ると気持ちいい私は白い光を集中して見ると気持ちいい私は白い光を集中して見ると気持ちいい」

 暗示が更に深化した。薫が光を追うごとに、呟く声も表情も、身体全体が気持ちよさそうに弛緩していく。薫の両腕両足も気持ちよさそうにほんの少し開いた。

 すると、ぴくっ、と薫の身体が反応した。後頭部から発出される音波の種類が変わったようだ。

「私は白い光を集中して見ると気持ちいい私は白い光を集中して見ると気持ちいい私は白い光を集中して見ると気持ちいい………。んっ。……わたしは白い光にすべてをわたす、わたしは白い光にすべてをわたすわたしは白い光にすべてをわたす……わたしは白い光にすべてをわたす……」

 彼女の声はもうSRに掌握されている。左へ右へと入れ替わる白い光は徐々に照射されるタイミングが遅くなっていく。
 光が照射され、薫がつぶやく。

「わたしは、白い光にすべてをわたす……」

 薫が言い終わると、光が消える。

「………………………………」 

 気持ちよさそうな顔が少しづつ無表情に戻っていく。白い光が照射される。

「……わたしは……白い光にすべてをわたす……」

 薫が心を奪われたかのように呆けている。気持ちよさそうに、唇の端から涎が垂れた。
 先ほどよりかなり長めに、10秒ほど光が照らされ、また消える。
 薫の視界は闇一色になった。

「………………………………………………………………」

 白い光に意識の全てを渡している薫。暗闇に囚われている薫の瞳は徐々に何も映さなくなっていく。それと同時に、身体全体が真っすぐに伸びていき、手足が一直線になった。

 その後も何度も何度も繰り返される、光と闇の時間。

 白い光が照射されている間は身体が弛緩し、気持ちよさそうに表情を崩す。
 暗くなると身体が硬直し、ピンと一本の線のようになる。

 照射されていくうちに光は更に小さくなっていき、薫はその小さな点に近づく光を凝視している。

「…………わ……たし…………は……しろ………い……」

 最後の豆粒のような白を見ている破顔した表情の薫。意識は完全に白に持っていかれ、身体全体の支配権を奪われつつある。

 白い光が消えた。

「………………………………………………………………………」

 そのまま永遠に固まるかと思われた薫だったが、後頭部からの音波がそれを許さない。
 綺麗にそろえられた手足の先が僅かにぴくりと震えた。

「……あっ……。よむ……」

 もはや言葉の意味など理解できていないだろう。
 白い光が浮かび上がり、形を変化させ、待機モードと恐らく闇の中に大きく字を描いている。

「うぇいと……もーど……」

 間延びした、感情のない声で待機モードと読み上げた薫。
 ただし、ゆっくりと再び表情を変え、僅かに虚ろな笑みになる。実際は相当な幸福感に包まれているだろう。だけどそれを表に出すことは、もうSRが許さない。
 表示が、光が消えた。

「…………」

 薫は光がなくなったことで彼女の意識がすーっと落ちていく。表情が消えた。
 再び光が灯る。

「…………………………」

 薫の無機質な顔が変わらない。声も発さない。

「…………………………」

 光が消える。表情が変わらない。確認のためだろうか、再び光が灯った。

「…………………………」

 何も変わらない。
 薫が人形になった瞬間だった。

「………………」

 完全にアーリーモード(初期状態)からウェイトモード(待機状態)に移行した、薫。
 手足は棒のようにぴったりとくっついている。時折瞬きをするけれど、それは無意識の肉体的な行動で、既に薫の意識はSRに囚われた。

 まっすぐな薫の体。呼吸でわずかに上下する胸。

「…………」

 ウェイトモード、薫人形の完成だ。
 きちんと意識が消えたことを確認し、再び念じる。

・文字を書いてください。
・それともウェイトモードからシンクロモードに移行しますか?  はい
・設定を保持してゲームを終了し、アーリーモードに移行しますか?

 と、僕の視界の前に浮かんだ。
 このモードでは、肉体を自由に操作することができる。流石におっぱい大きくさせるだとか身長大きくさせるだとかは無理らしいけど。
 
 適当な場所に、とある文字を空中に書いた。

「立て……」

 再びぴくっ、と薫の身体が反応した。どうやらまた後頭部から音波が出て、僕の命令をこなすよう脳内に指令しているのだろう。
 ガラス越しに、白い光が表示される。僕が空間に書いた文字、『立て』と。

「……………………」

 緩慢な動きで立ち始める。
 完全に立った後は先ほどと同じ、ピシッと直立不動になった。
 導入は成功したみたいだ。さて、ここからが本番だ。再度念じる。

・文字を書いてください。
・それともウェイトモードからシンクロモードに移行しますか?  はい
・設定を保持してゲームを終了し、アーリーモードに移行しますか?

 僕は迷わずはい……をタップしようかと思ったけど、ちょっと悪戯心が沸き、文字を書いてみる。

 「スカートをめくって僕にパンツを少し見せて」
 「…………」

 薫が無表情で画面に浮かんだ文字を見た。
 直立不動の状態から、両手を前に回し、スカートの裾をつまんだ。

 ゆっくり、ゆっくりと捲られていく。その瞳には、白い文字しか見えていない。

「…………」

 少しずつ、少しずつ、めくりあげられていく。
 下着が見えるか見えないか、ぎりぎりのところで動きが止まる。
 黒のニーソの上に少し筋肉質な太ももが乗り、更にその上に黒色が僅かにちらちらと僕の視界に映った。
 ここまでされて見ないのも失礼なので、しゃがんで堂々と拝見した。

「黒の紐ね……」

 僕のための勝負下着なのだろう。派手な装飾とレース、そして紐の付いた、ミニサイズのパンツだ。既に下着はぐっしょり濡れている……かと思ったのだけど、意外にも新品のように綺麗だった。……ほんの少しだけ湿り気があるようには見受けられるけども。それでも予想とは全然違った光景だった。
 あれだけ頭を撫でたのだから愛液が出ていないことはないと思うのだけど。

 しかし昔の薫ならスカート捲って、なんて言ったら真っ赤な顔して殴りがかってきただろうな。今の薫なら恥ずかしがりながら表面上は怒るけど、内心は嬉々として捲ってくれるんだろうけど、機械のように無表情な薫が無理やり捲らされているのも乙なものがあるね。
 
「…………」

 薫は次の命令はあるまで、パンツを僕に見せ続けなければならない。

・文字を書いてください。
・それともウェイトモードからシンクロモードに移行しますか?  はい
・設定を保持してゲームを終了し、アーリーモードに移行しますか?

「右手でそのままスカートを押さえて。左手でワイシャツのボタンを全て外して、ブラジャーを見せつけて」

 長文でも言うことを聞いてくれるらしいので、本番に入る前に悪戯を重ねてみる。

 先ほど同様、薫は無表情で画面に浮かんだ文字を見た。右手はスカートの正面で同じ位置を保つ。左手はゆっくりと清潔感のあるシャツの白いボタンを外していく。

「…………」
「そりゃ黒で揃えるよね」

 薫はワイシャツの下はランジェリーショップで売られているような黒いブラジャー以外何も着ていなかった。
 理由は想像つくけどね。僕にいつ襲われてもいいように準備万端ってこと。薫は奥手だから、僕を襲うなんて無理だろうし。

 薫は左手でワイシャツを大きく捲り、左側の上半身を見せつけた。
 ブラどころか、綺麗な肌色が丸見えだ。

「…………」
「うわぁ。エッ」

 中々にエッ、な光景だ。
 欲情した雌猫ならここで色々薫の肉体をもてあそぶんだろうけど、今は彼女の深層心理を探らないとね。大分遠回りしちゃったけど、今回の目的は、薫が有栖達と不仲になっている原因を探って解決することだから。

「…………」

 彼女の意識を半分だけ覚醒させる。シンクロモードからのナップモードだ。

・文字を書いてください。
・それともウェイトモードからシンクロモードに移行しますか?  はい
・設定を保持してゲームを終了し、アーリーモードに移行しますか?

 空間に浮かぶ文字『はい』をタップし、シンクロモードに移行した。
 僕の視界が一気に暗くなる。

「…………」

 僕は今、薫の思考と繋がっている。
 このモードで、薫の思考を直接上書きすることが出来るんだ。
 

「薫は、天城院 詩奈の質問に正直に本心で答える。嘘は絶対つけないし、ごまかすこともできない。正直に答える事、答えた事に対して、何の疑問も違和感も持たない。薫はこのことを覚えていないけど、心の奥深くに刻まれて、絶対にその通りになる」

 先ほどみたいに文字を書くのではなく、意識を強く持ち口に出した。

・成功しました。ナップモードに移行しますか。はい
・続けて、命令を重ねますか。
・設定を保持してゲームを終了し、アーリーモードに移行しますか?

 暗闇に白い文字が二行浮かび上がった。

 僕は、はいをタップしナップモードに移行する。
 ナップモードはすぐにシンクロモードに戻れるので、命令を修正したい、別の命令をかけたいと思ったらすぐに空中に浮かぶ文章をタップすればいい。

 僕の目の前が明るくなり、意識のない薫が目の前にいるのを確認する。

「ん……」

 そして久しぶりの人間らしい薫が起動した。

「しいな……。おい! ちょ、ちょっと待て!」
「どうしたの?」

「い、いや、身体が動かねぇんだ! なんか固まったみ……たい……で?」

 それは”半”覚醒状態なんだから当然だ。
 ウェイトモードの時点で、薫の身体はSRが掌握している。今の彼女は顔や声は自由に動かせるけど、首から下は全く動かせない。

「あー?」

 薫が違和感に気付いた。

「あ」

 自分がスカートを捲っている感覚。ワイシャツを大きくはだけている感覚。何を今更、と思うかもしれないけど。彼女の視界は今も真っ暗なままだ。

 肉体的な感覚は薫も知覚出来ているから、自分の違和感に気付くことが出来た。

「あああ!??」

 僕へ黒のパンツやブラを見せつけていることに気付いた。
 僕を慕っている薫が、片思い相手に痴女ってるのだ。恥ずかしくないわけないだろう。

「エロイ下着だね?」
「見んな! バカ!! なんで動かねぇんだよなんだこの機械!!??」

 薫は大声をあげて喚き散らす。

「薫」
「ふざけんなマジでぶっ殺すぞごらぁ!!」

 僕からしたら薫の顔はガラス張りだからバイザー越しの彼女の表情が良く見える。 
 恐い声とは裏腹に、恥ずかしそうな真っ赤な顔。そして。

「僕に見てもらえて興奮する?」
「当たり前だボケ! 私が心の底から愛してる詩奈お姉様に私のはしたない姿を見てもらえて興奮しねーわけねーだろうが!!」

 彼女は答えたことに対して、何の疑問も違和感も持てない。だから自分の正直な気持ちが筒抜けになってもおかしいと気付けない状態になっている。
 これは頭なでなでじゃ無理な芸当だね。ちょっとSな気持ちになってきた僕は追撃をした。

「くすくす。それじゃ、さっきまで履いていたパンツはどこ?」
「後ろのクローゼットの中に隠したよ!」

 薫は動けないから、目と顔の動きだけで後ろのクローゼットの方を指した。やっぱり着替えてたんだ。  

「なんで隠したの?」
「詩奈お姉様にお会いできて嬉しすぎて濡れちまって気持ち悪いからだよ! なぁいい加減腕が痺れてきたからこんなゲームやめようぜ? お前だって見たくないだろこんなの!?」

 さっきまでの玄関前でのやり取りは、頭なでなでで全て忘れさせている。
 だから突然濡れた下着に無理くり理由つけたんだと思う。……何もしなくても軽く濡れちゃってた気はするけども。

 っていうか見たくないわけないじゃん。愛妹がもっと恥ずかしがる顔を見たくて仕方ない。

「いや、僕は見たいよ。薫のエッチなパンツ。さて」
「なぁ!?? ま、待てよどこ行くんだよ。身体が勝手に……! ……あ、やめて、あけないで……!!」

 僕は優雅に薫の傍を通り抜け、薫の後ろのクローゼットを開けに行った。すると、ぎぎぎ……と僕の居場所に合わせて、体の向きを変えてくれる。

 律義に僕に向けてパンチラブラ見せの体勢を取り続けてくれているのだ。
 僕はほんの少しだけ見える黒色紐と大胆に見せつけている肌色を横目に見つつ。

「どれどれ」

 クローゼットを開けた。お目当ての物はすぐに見つかる。
 白いポリ袋の中に入っていたけれど、中の物含めて丁寧に畳んで包まれている辺り、育ちの良さというか、メイドとしてのプライドの高さを感じさせた。流石はトップオブトップ。
 中を覗いてみる。

「赤色が一番の勝負下着だったんだね。くんくん。……えっちな匂い……。これ、ぐしょぐしょになってるよ?」
「や、やめて……おねえさま……おねがい……恥ずかしくて死にそう……」
 
 予想通り茹蛸みたいに真っ赤になってくれる薫。女男で男勝りな彼女がこうもしおらしくなるなんて。
 ところでクローゼットにかけられてるこの青い服すごいな……。
 よく閉じられた世界でこの服の知識を得ることが出来たね。

「この青い服は……?」

 僕が問いかけると、薫は恥ずかしそうな顔を一変させ、にへら、と笑った。

「その服を着てる時が一番強く悠様を感じることができるんだ……。私が悠様をお守りできているような気分になって、自分が強くなったような気さえする。悠様のために私は生きているんだって実感できるの。……悠様が私にとって全てであり、悠様専属の雌メイドたる薫を自覚できるんです。私は悠様の忠実なメイドです……。はぁ……悠様……」

 薫はブラパンツを見せつけながら熱くため息を吐いた。完全にトリップしてしまったみたい。これ、薫だから特別にこうなる訳じゃなくて、舞女で教育されたら誰だってこうなるんだ。
 虚像悠様は皆の憧れの存在だからね。心底憧れている人・事の話題になるとついつい熱弁してしまって、うっとりしてしまうようなものだよ。それは恋愛感情や性欲から来るものではなく、ただただ憧れの気持ちだけ。悠様を尊敬し尽してたまらなくなっちゃうんだ。我慢できなくなっちゃうんだよねー。

 って。ああ、薫で遊んでる場合じゃなかった。
 さっさと原因を聞かないと。

「薫。両手を楽にしていいよ」
「悠様……。素敵です悠様……」

 彼女は僕の声などまるで聞こえていないかのようだったけど、薫はお行儀のいい気を付けの姿勢に戻った。ナップモードでも言うこと聞いてくれんだ。
 それじゃわざわざウェイトモードの時、文字書かなくてもよかったんだね。

「最近有栖達と仲悪いの何で?」

 単刀直入に聞いてみた。
 ていうか最初に会った時点で素直に聞けばよかったと軽く後悔した。だってこんな面倒なことしなくても素直に答えてくれそうなんだもん。

 僕が質問をすると、薫はトリップ状態から戻った。現世に戻ってきた薫は面白くなさそうに答える。

「……んん? 私が有栖達と仲悪い理由? だってアイツら詩奈お姉様の事覚えてねーから、話が合わねーんだよ」
 
 いや、と薫は答え直した。

「アイツらだけじゃなくて、学園中の皆、校長や教頭までお姉様の事を忘れてやがる。詩奈お姉様と会う度に言おうと思ってたんだけど……あれ、なんで私言わなかったんだっけ?」

 と首を捻る薫。

「つーかいつの間にか気を付けになってるし……。どちらにしても身体動かねーのな。ずっと同じ体制って辛いぜ……」

 薫が愚痴ってるけど、僕の内心はそれにリアクションするほど余裕がなかった。

 皆が僕の事を忘れてる…………?
 どういうこと…………??

「皆、僕の事全部忘れちゃってるの?」

 転校して1年半年以上経ってるのに今更なにを、って感じだけど初耳だった。

「ああ。みんなに詩奈お姉様の事を話すと、一斉に忘却暗示が始まるんだ。詩奈は悠様に近い存在になっちまったよな?」

 僕は軽く頷く。 

「どうやら私たちにとって詩奈お姉様は知ってはいけない存在になったみたいなんだ」

 さっきの優子様の話をした時の薫みたいになるってこと? 僕という存在は、悠様の価値観にどっぷり触れ、悠様と深くつながりがある。確かに皆にとっては知ってはならない禁断の知識。
 どうして僕はそんな簡単なことに気付かなかったんだろう。

 狼狽えている僕を尻目に、薫は、なんで私だけ覚えてるんだか、と悲しげに笑って答えてくれた。

 ……もしかして薫がクラスの皆と不仲になった理由って僕の所為?
 そんな心情を察してくれたのか、薫がフォローしてくれた。

「これは私自身の問題だ。お前の事が好きすぎて、忘れらんねーのかもな。あっはっは!」

 豪快に笑い飛ばしてるけど、薫の顔は対照的に暗くなっていっている。

「最近じゃもう、みんなから裏切者みたいな目で見られるようになってきたな。私って馬鹿だから、何回も有栖達の前で詩奈お姉様の思い出を話しちまうんだ。皆だって直前の記憶は忘れても、違和感は覚えてる。私が何か戒律を破ったって、分かるんだとさ」

 薫から一筋の涙がこぼれ落ちていく。

「私は、悠様の忠実なメイドだと思ってた。この学園を首席で卒業して、悠様のために何でもやる女になるんだって。そう思ってた」

 薫は姉である私にだって話さないような事を、包み隠さず教えてくれている。

「今日あなたから連絡もらえて、凄く嬉しくて悲しかった。だってお別れを言おうと思ったから。私は悠様の物だから会いにこないで。あなたは私達とは違う世界にいる人だから。このままだと私は戒律を破り続けることになるから。私は詩奈お姉様の事を忘れる……って。でも」
 
 ずっと思い悩んでいたことなのか、その話は止まらない。

「お姉様の事、忘れたくない。アイツらみたいに、忘れたくない……。自分から戒律を破るなんて、私、もうトップオブトップどころか舞女学生失格……。悠様に合わせる顔がないよ……」

 最初は暗示の所為で無理やり話してたけど、最後は自分の意思で僕に伝えてくれたような気がする。
 そこまで僕を想ってくれて凄く嬉しい。

「忘れないと……しいなおねえさまのこと……わすれ、ないと……ゆうさ、ま、うらぎれ、ない、よ……ぉ…………」

 本音を全て出し尽くした薫は、直立姿勢のまま、嗚咽をこらえている。

 薫から今回の事件の原因を聞くことができたけど、どうすれば……。
 いや、こんなの、不仲の原因を取り除く方法って一つしかない。

 薫の記憶から、僕を消すこと。
 僕なら、できる。頭を撫でてあげて、僕の事全部忘れてもらえばいい。

 ふと、バイザーで覆われた薫の顔を見る。
 ……舞女の学生代表として、たった一人でその重圧を背負っている彼女の顔、涙をこれ以上流すまいとしている姿を見ていると、いたたまれない気持ちになる。

 僕の事を覚えているから、こんなに辛いんだ。
 
 頭を撫でてあげて、脳みそぐちゃぐちゃにしてあげて、新しい記憶を埋め込んであげる。僕の事なんてきれいさっぱり忘れてもらって、別のお姉さん――校長先生あたりがいいかな――に愛されてもらおう。

 僕は意識を集中させて、SRのセーブ画面を起動する。

・設定を保持してゲームを終了し、アーリーモードに移行しますか?

 僕は文章をタップして、一旦ゲームを終わらせる。
 薫のバイザーに白い光がぽつんと灯る。 
 半覚醒状態の薫は、その光に吸い込まれるように凝視する。

「ぅ……ん…………? ……ぁ」

 光が、薫の瞳に戻るかのような動きをし出した。
 小さい光が大きい光になり、また小さい光が大きい光になり、を繰り返している。

「……あ……あぁあぁぁあぁ……」

 先ほどまでの辛い表情はどこへやら。
 薫は気持ちよさそうな声を上げて、自分の体の所有権を取り戻していく。

 このSR、一回セーブをしてしまえば、またすぐにナップモードに戻れるらしい。

 ピー、と甲高い音が鳴り、かちゃりと鍵が外れる音もした。
 言い忘れていたけど、ゲームが始まると、SRはロックがかかって簡単には取れなくなる。ゲームを終わらせる権利があるのは黒いγSR側、すなわち僕がアーリーモードに移行しないといけないんだ。

「おつかれさま」

 僕は自分のγを取り、彼女のΔSRも外してあげた。

「…………」

 立ったまま、少し呆けたようにぼーっとしている薫。
 次第に意識を取り戻すと、彼女は大きく伸びをした。僕の顔を見ると、目を輝かせてこう言った。

「んー。あんま覚えてねーけど、なんか楽しいなこれ! もっとやろうぜ!」

 SRの特徴の一つとして、中毒性のある幸福感を脳内に刻みつけることにある。しかもゲーム中の記憶を残さず、次回も絶対にやりたくなるような中毒性を埋め込まれるのだ。

と言ってもゲーム中の記憶はない。幾ら気持ちよかったからと言っても普通は恐がってやってくれないだろう。
 僕を信頼しきっている薫だからこそ、彼女は何の疑いもなくこの中毒性を受け入れてくれている。

 はしゃぐ薫だけど、もうこのゲームできないよ。全部忘れてもらうから。
 真っ新な薫と、またどこかで会えたらいいな。

 SRの力でも同じことはできるけど、できれば僕自身の力でお別れしたかった。
 それに、僕だけの力でミッションをやり遂げたら、悠様はきっと僕の事を見直して、もっと僕に惚れてくれると思うから。 

 僕ははしゃぐ薫の頭に手を乗せようとして……。

――ポンコツッ!――

 僕の頭に女性の声が鳴り響き、そのまま意識を手放した。カチリと、頭のどこかで音が鳴った気がする。

「あ、あれ?」

 意識が戻ると、目の前に僕がいた。
 狂気じみた目をしていて、興奮冷めやらぬ様子で薫の頭に手を伸ばしかけている。
 まさしく今僕がやろうとしていたことだ。

 僕は幽霊みたいに二人の様子を横から見ていた。二人とも僕の事が見えていないみたいだ。

 僕が薫の頭を撫でた。
 調教されつくした薫はあっという間にトランス状態に陥る。
 僕が薫にささやいた。

「薫は僕の事を忘れる……え? ……ぅぐっ!!!?」

 僕の事を忘れる、と口にした途端薫の様子が急変した。激しく暴れ出し、僕を付き飛ばす。距離が開いた僕のことを思い切り前蹴りした。

 蹴りは綺麗に鳩尾辺りに入り、呼吸ができなくなった僕は、くの字に床に倒れこむ。

 薫は僕がうつ伏せに伏せることを許さず、仰向けに押し倒す。膝立ちになって僕の首を絞め始めた。

「わたしの……おねえさま……けす……ころす……」

 僕は苦しそうに薫の手を掴み放そうとするけれど、握力は向こうの方が遥かに上だ。
 薫の腕を爪で引っかくことしかできない。

「が………………やめ……」
「あいしてるのに……おねえさま…………私達を裏切った……! 悠様を裏切る奴……殺す……!!!」

 記憶が混濁していたのか、うわ言のように呟いていた薫だったけど、次第に口調がはっきりしてきた。明確な殺意を持って僕を殺している。

 最期の一瞬だけ、僕は、僕の意識と共有した。苦しい。薄暗い意識の中、死がそこまで迫ってきているのを感じる。

 見上げた先にいる愛しの妹は。

「ぅううぅ……!! ぅぅぅぅうぅうぅああああああああ!!!!」

 慟哭していた。

――どうせこれ忘れてるんでしょ?――

 僕の頭に再び女性の声、怜様の声が鳴り響く。カチリ。

 場面が切り替わり、目の前に怜様がいた。
 厳しい顔つきで隣にいる僕を叱っている。

「もう舞女の女生徒とは決して会わないこと。あなたにとっても向こうの子にとっても、お互い不幸になるだけよ」

 これって、一昨年の冬に言われたセリフだ……。

「……怜様。薫だけは……」

 僕が懇願している。そう。僕は薫との繋がりだけは断ちたくなかった。

「……はぁ……。仕方ない。薫にだけは半年に一回会ってもいいわ。なんとかします。この言葉の真意、良く考えなさい」

 僕はこの言葉の真意っていうのが良く分からずに、ずっと放置していた。
 正直、今でも良く分かっていない。

 僕は本当にポンコツメイドだ。怜様のお言葉を字面だけ受けとって、疑問をそのままにしてあまつさえ忘れていた。
 きっと優子様や沙雪様、クリス様なら理解して、怜様の思うとおりかそれ以上の成果を出せていたと思う。悠様だってきっと考えて分からなければ聞いていたはずだ。それに比べて僕は……。

 カチリ。まだ場面が変わる。
 どうやら場所はここ、薫の自室みたい。

 「これしか解けない……か……。やっぱりハカセみたいに上手くはいかないわね。……プロトタイプと思えば上々かしら」

 怜様だ。彼女に向かい合うように立ち尽くしているのは、薫……?
 薫はΔSRそっくりのバイザーを被らされていて、力なく立っている。

「ま、これで詩奈のお願いは叶えてあげられたでしょ。悠が私のサンタコス待ってるし、さっさと済ませないと!」

 少し浮き立っている様子の怜様。薫に取り付けられたバイザーを素早く取ると、怜様は薫に写真を見せた。
 あの写真に映ってるのは……ぼく?

「さ、見なさい。私の姿を見て正気な時点で人体じっけ……。処置は成功でしょうけどね」
「……しい……な、おねえさま……」

 ぼーっとした目で僕の写真を愛おしげに見つめる、薫。
 怜様はその様子を満足げに見つめる。

「ん。成功ね。10秒後に今起こったこと忘れちゃうから、今のうちに詩奈の姿を目に焼き尽くしておきなさい。……妻としてはこのまま悠専用人形になってもらった方が嬉しいんだけど」

 ため息をつく怜様。きっちり10秒後に意識を失った薫を置いて、その場にいた痕跡を消し足早にその場を立ち去った。
 

 ……ああ。ようやく分かった。
 薫にだけは会っていいって、そういうことだったんだ。薫以外の舞女関係者は、僕の事を忘れてしまう。僕が悠様に近い存在になってしまったから。
 でも薫だけは怜様お手製のプロトタイプSRで、僕の事を覚えたままにしてくれて、僕を見ても忘却暗示が入らないようにしてくれた。
 怜様は舞女の洗脳教育の一部を解除したんだ。

 カチリ。

「……あ…? ……しいな!?」

 はっ、とした。
 薫が心配そうに僕を真上から見つめている。

 少し目を動かすと、薫のベットの上にいることに気付く。そして女性特有の甘い香りと柔らかい感触を後頭部に感じた。
 膝枕だ。僕は薫にベッドの上に運ばれて、膝枕をされているみたい。 

 どうやら僕は、ようやく現実世界に戻ってこれたらしい。

「あ、うん、大丈夫」

 僕が無事だったのがそんなに安心したのだろうか。薫が大きくため息を吐き、胸に手を当てて安堵している。
 彼女の嬉しそうな顔を見て、決心した。

 薫が僕の事を覚えたままで、有栖達との不仲も解消させる、と。
 じゃあその為にどうすればいいだろうかと考えた。
 
 さっきは舞女のやり方で忘れさせようとしたから痛い目にあった。
 冷静に考えれば、元からある方法で姉の事を忘れさせようとしたって何らかのスイッチが埋め込まれているに決まってる。

 僕の想像に過ぎないけど、恐らく舞女の狂育方針から大きく外れた暗示をかけられそうになったらその相手を殺すように仕込まれているんだろう。ここでいう狂育方針から大きく外れた暗示ってのは悠様の雌メイドになるにあたって不利益になる暗示全般を指すと思う。

 今回の件で言えば姉が妹に自分を忘れろっていう暗示。これは舞女の狂育から外れに外れてる。だってそれは悠様への反逆に繋がるから。
 どういうことかって言うと、妹から姉への愛がそのまま悠様への忠誠心になる、ってのは入学後一番最初に教わる常識だ。あくまで舞女の常識だけど。
 その愛を忘れさせるってのは、悠様への忠誠心の転嫁元を忘れさせるってこと。これは悠様に対する裏切り以外の何物でもない。

 忘れちゃいけないのは妹は姉よりも遥かに悠様の事が大切だということ。姉全員分の愛を足してもまだ悠様には足りない。

 順を追って考える。
 初等部入学の頃に、自主的に悠様を敬おうとする子はほぼいない。まだまだ洗脳されていない真っ白な心だからだ。
 だけど一度姉を慕ってしまえば最後。姉を愛すたびに膨らむ悠様への忠誠心。しかも姉は一人じゃなく複数人いる。蟻地獄のように悠様専用の下僕に堕ちてしまうのは自然な流れだ。
 
 中等部に上がる頃には、姉を慕う以外の時間は大抵悠様に心を奪われている。
 姉を愛する理由は、もっと悠様の物になれるからとすら考えている。アンケートを取ったわけじゃないから断言できないけど、全員そう考えていると思う。
 ここまでくると姉関係なしに、悠様に相応しいメイドになれるよう日々努力するようになる。
 自然と膨大する悠様への敬意は凄まじいものがある。高等部に上がるころには、呼吸をしているだけで悠様に感謝するようになるんだ。
 
 そんな盲信する悠様を裏切ろうものなら相手が誰であろうと簡単には死なせない。拷問に次ぐ拷問の末、無残に殺されてしまうだろう。
 あっさり僕を殺そうとした薫が異常なのだ。しかも裏切った僕のために、最後は涙まで流してくれていた。いくら仕込みがあったからとはいえ、迷いなく僕を殺す時点で悠様の方が大事なのは明確なんだけど……。

 でも簡単に殺すだけってのは、それだけ悠様に近い位置で僕を慕ってくれていたってことになる。
 嬉しいんだけど……。薫の僕への愛、重すぎない?

「しいな……?」

 薫は難しい顔をして考えている僕を見て再び心配してくれた。
 頭を優しく撫でられる。薫、下心ありありなのバレバレだよ。
 僕に触りたいだけでしょ。

「ん。もうちょっと考えさせて。頭撫でてていいから」
「ああ!」
 
 嬉しそうな顔して僕の頭を撫で続ける薫。太もも柔らかいなぁ。

 僕が舞女の影響下にあった時は、こんな可愛い愛妹の記憶から僕を消すだなんて思いつきもしなかった。
 狂育から解放された今では、逆にこんなスイッチが埋め込まれていたとは思いつきもしなかった。

 やっぱりこの学園くるってるよ。洗脳教育に洗脳を重ねて僕の事を忘れさせようとしただけで、殺されかけるなんて。

「あっ!!」
「え、どうした?」
「あ……いや気にしないで」

 そこまで考えて僕は、薫が僕の事を覚えたままで、有栖達との不仲も解消させる方法を閃いた。

 洗脳を重ねる。これだ! さっき怜様が、洗脳教育の一部を解いた……いや違う、解いたんじゃなくて、洗脳教育を上書きして更に洗脳した光景を思い出した。
 つまり有栖達の洗脳教育を上書きして僕の記憶を取り戻してあげればいい。不仲の原因は薫だけが僕を覚えている事なんだから。皆も思い出してもらえればいいだけの話。

 別に薫の記憶を消さなくてもいいんだ。
 ミッションだって、『藤原薫を洗脳し、不仲になっているクラスメートを洗脳して原因を取り除くこと』だ。怜様が薫にやったように、このSRを使って僕の事を有栖達に思い出してもらえば万事解決だろう。
 

 有栖達は僕の姿を見たら忘却暗示がかかるから、薫を上手く使って、εSRを付けてもらわないといけない。

 そのためには……薫には僕の都合のいい駒になってもらわないといけない。
 今のままの薫だと、どこにスイッチがあるか分かったもんじゃない。次に地雷を踏んだら、本気で殺されかねない。流石に怜様達ももう助けてはくれないだろう。

 γとΔSRを使って、偽物の悠様の薫じゃなくて、僕だけの薫になってもらわないと。

 でも、ふと考える。
 悠様達が有栖達だけじゃなくて薫もSRを使って洗脳するよう指示した意味って、僕にとって都合のいい人形さんになってもらうためなんだろうか……。あのお人よしの悠様がそんなこと指示するだろうか。

――大分遠回りしましたけれど、ここまで良くできました。優子さんからのご褒美です――

それ以上考えようとした瞬間、優子様の声が耳の奥に響いた。
カチ、という時計のような音が脳内に響く。僕に何かのスイッチが入ったみたいだ。

「あ……」

 悠様がいた。いや、目の前にいるのは藤原 薫だ。でも確かに、薫の中に悠様がいる。悠様がそこにいる。大好きな悠様……。
 頭の中にクラスメートの姿が思い浮かんだ。
 有栖にも、鏡花にも、香奈枝にも……。皆の中に悠様がいる。欲しい。欲しい。欲しい。皆が、悠様達が欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい!!

 息が荒くなる。愛している悠様が目の前にいる。
 本物の悠様じゃないから、いくらでも犯したっていい。
 自分の思うがままに襲っていいんだ。

「やめろ……私はお前とダチでいたいんだよ……お願いだよ……」

 僕は無意識のうちに、薫の手を掴んでいたようだ。
 僕が強い力で腕を取り、更に顔つきが明らかに変わったからだろう。
 そんな僕を見て薫は怖がり始めた。

「うそつき」

 僕の事ずっといやらしい目で見てたくせに。
 僕は身体を起こして、逆に薫を押し倒した。

「あっ、やめて……詩奈……お願い……」
「本音を隠して何が友達だよ。笑わせんな。馬鹿じゃん?」

 必殺の頭なでなでをしてあげる。

「しいなぁ…………ああああああ……。……あぁ……おねえさま……」

 すぐに薫の本音が転がり落ちる。

「薫、可愛い」

 さっきまでは全くやろうとも思わなかったけど、今は薫を食べたくて仕方ない。
 僕は薫の綺麗な首筋をツーっと舐めた。

「んはぁぁぁ……おねえさま……しいなおねえさま……」

 薫はすぐ顔を赤くした。潤んだ瞳からはもっとえっちな事を期待しているのが見え見え。

「ねぇ?」

 ちょっと意地悪を言ってみる。

「最初に外で会った時顔、赤くなってたよね? 言わないでおいてあげてたけど、雌の匂いぷんぷんしてた。直前までオナニー、してたんでしょ?」
「そ、それは……」
「僕に言えないの?」

 薫は涙目になって弱弱しく首を振る。普段の荒々しくてガサツな様子が鳴りを潜めていた。

 もっと甘えさせてあげる。
 なでなで。

「はぁぁあぁ……」
「言って?」
「うぅぅぅ……」

 僕は薫の耳元に顔を寄せた。
 サービスでぎゅっと、身体も抱きしめてあげる。

「言え」

 びくっと震えた。薫はぽつり、とこぼした。

「…し、しいなおねえさまです…」
「僕で何を妄想したの?」
「ああっ……しいなお姉様に、無理やり押さえつけられて、たくさんキスされて……ぅぅ……」

 僕はその通りにしてあげる。
 両手で薫の両腕を荒々しく掴んだ。

「あっ……いやっ! おねえさまやめてください……」

 抵抗しているのは言葉だけ。
 全く力が伝わってこない両腕。うっとりとした顔は僕の唇を求めるように顎を上げ、おねだりしている。

 僕も我慢が出来なくなってキスをした。

「おねえ……んんんんっ!」

 軽いキスから深いキスへ。気づけば僕たちはお互いの唾液を激しく交換していた。
 両手を離して薫の頭をホールドし、身体を擦り付け合う。僕が満足するまで、薫は嬉しそうになすが儘にされていた。

 しばらくしてようやく顔を離すと、薫が僕を一心不乱に見つめている。まだキスがしたりなさそうな顔だ。

「おねえさま……」

 僕に全てを任せる、という意思表示なのか全身から完全に力が抜けている。
 僕は彼女の体温を感じたまま下へ移動して、制服の中に隠れている、黒いパンツの中、彼女の秘所をまさぐった。
 そこに触れただけで、ぐちゅ、と水気を感じる。

「すごい濡れてる。そんなに興奮したの?」

 僕が直視すると、薫は恥ずかしそうに眼をそらした。

「んっ……はい…………。ずっと、おそわれるの、まっていました」

 そんな可愛いリアクションされたら我慢できなくなる。

「あっおねえさま! だめっ! だめですっ!」

 右手で薫の弱いところをいっぱい責めてあげた。
 すっかり勃起しているクリを優しくつまむだけで絶頂しかけている薫。
 中に指をいれる。

「すごいですっ! おねえさま! おねえさま! いい!」

 それだけで凄い反応だ。
 上のザラザラしたところ、薫が一番弱いところを軽くこするだけで絶頂してしまった。

「イくっ! いくぅぅぅぅぅぅう!!」 

 夢見心地な顔を見せてくれる薫。
 カッコいい顔が台無し。その雌顔、僕にだけ見せて欲しいな。

 薫が欲しい。所有欲に加えて独占欲まで出てきた。
 奪いたい。偽物の悠様から全部欲しい。恋心だけじゃなくて、薫のプラスの感情全部欲しい。

 変な事言って、スイッチを入られてしまう訳にもいかないので、僕は薫から離れた。

「んはぁぁぁ……。……ぇ? し、しいなおねえさま……?」

 不安げな声を出す薫。そんな庇護欲そそられる声出さないでほしい。
 僕はΔとγSRを掴むとすぐにベットの上に乗り、薫の傍に戻る。

「しいなおねえさまぁ……」

 甘えた声で、僕の左手を優しく手に取り、恭しく頬ずりをする薫。

「薫、これ着けろ」
「はい……おねえさま……」

 薫は僕に命令されると嬉々としてΔバイザーを被る。
 バイザーに隠れて、僕の顔など見えていないだろうに、ガラス越しに僕をじっと見ている。命令通りに被った自分へのご褒美を欲しがっている。

 僕は雑に彼女の頭を撫でつつ、自分のγを装着し、電源ボタンを押した。視界の端に薫が身体をくねらせているのが見える。

 空中に文字が浮かんだ。

 
・SRを起動しました。連携確認……連携確認……。Δを感知しました。セーブ直後の状態に復帰します。
 
 赤い矢印が薫にちょんちょんと向けられている。無事成功だ。

 薫のΔバイザーに白い光が灯り、消えた。
 ただそれだけなのに、薫はすぐに無機質な表情になっていく。
 力の抜けた身体が、ぴんと一本の棒のように一直線になっていく。

・アーリーモード(初期状態)からウェイトモード(待機状態)に移行しました。

 二回目の施行なのにすぐにウェイトモードに入ってしまった。
 流石はハカセ様の最新アイテムと言ったところ。

「ごくっ……」

 さっきウェイトモードに入った時にはなんの感情も浮かばなかったのに、無表情な薫、静かに上下する胸を見ていると、心臓が高鳴る。思わず唾を飲み込んでしまった。

「ちょっとだけならいいよね……」

 誰に言い訳をしているのだろうか。僕は素早く薫の唇にキスをした。

「………………」

 最愛の姉からキスを受けているのにも関わらず、何の反応も示さない。
 僕は彼女の、僕からしたらかなり大きい胸に手を伸ばした。

「………………」

 最初は軽く触る程度だったけど、薫が何も気づいてない様子だったから、ちょっと悔しくなって徐々に激しく手を動かしていく。薫の女性らしい潤いのある唇にも何度もキスを重ねた。
 僕は乱暴に、ワイシャツのボタンを外した。折角ボタンを外させたのに、一番上のボタンまで付け直したみたい。
 ああ、もどかしいな。

 ワイシャツをはだけさせ、ブラを上にずらす。綺麗な乳房、小さい乳輪に柔らかそうなピンク色の突起物。

「薫、かわいい……はぁ……はぁ……」

 ずっとこうしていたい。
 僕はすっかり頭に血が上ってしまった。男物のスラックスを脱ぎ捨て、ボクサーパンツを脱いだ。
 僕の、おっきくなっても控えめなおちんちんを薫の口の前に置いてみた。

「………………」

 彼女の鼻息があたってる。口の上で少し擦るとびりびりとした快感がきた。

「あふぅぅ……。かおる……」

 このまま薫の口の中に突っ込んでやろうかと思った。
 でも僕の目の前に文字が浮かんだ。
 

・文字を書いてください。
・それともウェイトモードからシンクロモードに移行しますか?  はい

 前回と同じ文字だ。

「ううぅぅ……、洗脳教育、上書きしないと……」

 獣になりかけた思考を無理やり追い払う。ぶんぶんと頭を振って、いったん冷静になる。
 でもやっぱり名残惜しいので、僕は少し移動して、薫の体を正面から抱きしめ、抱きついた。それから薫のおっぱいに顔を埋めた。

「………………」
「やわらかい……これ好き……」

 とくん、とくん、と穏やかな心音と柔肌が僕を包んだ。
 顔をあげ、柔らかい乳首を吸ってみる。

「………………」

 勿論薫は何の反応も示さない。口から離すと、ぬらぬらと濡れた乳首がいやらしく光った。
 ちょっと上に上がって、鎖骨をなめる、左側の首筋をなめる、ほっぺたも、つーっとひと舐めした。
 すべすべの肌がおいしい。

「はむ……」
「………………」

 バイザーのちょっと下、左耳たぶを甘噛みする。甘い思考の中で、僕はちょっと冷静なことを考えていた。 

 今回は舞女の洗脳教育を上書きするほどの強力なマインドコントロールが必要になる。だけどシンクロモードで”悠様の存在を忘れさせるほどの洗脳ができるだろうか。”/p>

 多分、その思考そのものがキーだったのだろう。
 新しい文字列が、薫の金髪の目の前に浮かんでいった。

・隠しモードが解除されました。ラストリモートコントロールモードに移行する場合は、次に表示される文章を、強い意志を持って叫んでください。

「えっ……と……」

 思いもよらない展開に思わず口に出してしまった。
 次に表示された言葉を見た。

「……いやぁー…………くんくん……」

 こんな、ゲームの必殺技みたいな言葉、叫ばないといけないの?
 まぁ誰かが見ている訳でもないし、薫も意識がない人形状態だし別にいいか……。

 どさくさに紛れて薫を抱きしめ、金髪のいい匂いを嗅ぎつつ、表示された文章を読んだ。

「ら、らすとりもーど……」
「………………」

 人形状態とは言っても、やっぱり薫に抱きついたままで中二病みたいな台詞を言うのはちょっと恥ずかしいので口ごもってしまった。

・だめです

「何でだよっ!」
「………………」

 はっ。つい突っ込んでしまった。ここまでまともに動いていたから油断してたけど、これハカセ様の発明品だった……。

・悠の存在、悠に対する忠誠心を消したいと心の底から願わんと儂は起動せんぞ。あと叫べ。

「ちょっと素が出てるって! 今そういう場面じゃないって!」

 すぐそばには人形状態の薫、虚しく一人でツッコミをしている僕。

 僕は一体何をやってるんだろう。

 ああもう! やるしかない。
 僕は目を閉じて、真剣に、薫の記憶から悠様がいなくなること、虚像の悠様への忠誠心が僕に全て移ることを願った。

「……”ラストリモード!!”」

 半分ヤケになって叫ぶと、薫のΔバイザーのこめかみ付近の部位から、幅5ミリほどの触手みたいなものが出てきた。

 目を凝らしてよくよく見ると、触手というよりかはもっと固そうな、電源コードのような機械感のあるコードだ。コードは少しづつ長さを伸ばしていく。固そうなのに、なんだかうねうねしている。

 そのコードが、すっと薫の両耳へ入っていった。
 ああ、だからラストリモードの時はイヤホンしちゃいけないのか。

「…………っ……」

 コードが耳のある程度まで入っていくと、ぴくん、と薫が反応した。今まで無表情だった薫が僅かに引きつる。

 あれ、もしかして、鼓膜を突き破って三半規管から脳内に侵入してる……?

 僕の思考を読み取ったのか、またこめかみ付近の部位からコードが出てきた。
 細いコードの先端から、枝のようにコードが別れて更に細くなる。多分㎜よりさらに細かい。とても人間の目では分からない程の細さで枝分かれした部分から、ばちっと電気が走った。

 この先の展開が何となく想像できてしまった。
 耳の中へ入る勢いが止まらない様子のコード。
 ウェイトモードのはずなのに、薫は先ほどから身体がぴくぴくと震えている。 

「……っ……っ……ぅあっ!?」

 耳元に顔を寄せると、薫の脳からばちっ、ばちっ、と電気が流れる音が聞こえてくる。
 音が爆ぜるたびに薫は声をあげる。

「う゛っ! ……がっ!! ……あがっ!!」

 明らかに痛そうな薫。
 目を見開き、口も大きく開けている。体の震えも更に大きくなった。

「……あ゛っ……」

 これ以上薫を痛めつけないでほしい……。
 僕の気持ちが伝わったのか、薫の様子が変化した。

 電流が流れるたび、今度は気持ちよさそうに、目を上に向ける。

「おっ……おっ……おっおっおっ」

 口を大きく開けたまま、舌を突き出している。
 その様子に耐えられなくなって、僕は舌を絡ませた。

「おっおっ……じゅるぅっぅぅぅれろじゅるむぐ、おおお゛っ!」

 当然僕が薫を食べている間も洗脳施術は進んでいる。
 舌から離れ、彼女の身体をよく見ると、汗がすごい勢いで出だしている。
 さっきまで柔らかかった乳首はピンと張っていて、びくびく震えている。

 更に薫はだらしなく、足を広げていく。
 すると薫の秘所、黒の紐パンからぷしゅ、ぶしゅ、っと愛液が流れ出てきた。
 尋常じゃないほどの快楽の中にいるみたいだ。

 その後10分ほど、僕は薫の身体を楽しんだ。まず薫の服を全て脱がした。

 色んな所を舐めたり吸ったり、揉んだり。薫の喘ぎ声を肴に少し筋肉質だけど柔らかい肉体を堪能した。
 そんな調子で薫で遊んでいると、ひと際大きく電流が流れる音が聞こえた。

 バチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!

 薫の顔に耳を寄せなくとも聞こえるほどの大きな音。 
 薫は涎を、鼻水を、涙を、思い切り流して身体を大きくのけぞらせた。

「おおおおおおお゛お゛お゛お゛お゛っっ!!!?」

 思い切り逝った薫は、激しく息をしながら、落ち着きを取り戻していく。
 処置が終わったみたいだ。

 コードがするすると抜けていき、バイザーの中に収納されていく。
 身体は汗だくだ。心臓に耳をあててみると、彼女の心音もバクバク言っている。少しずつ、彼女の乳首も本来の柔らかさを取り戻していっている。

・ウェイトモードからのラストリモードは完了しました。電源を落とします。

 かちり、と僕のγが外れた。
 薫のΔも外れたようだ。僕は両機をベットの脇に放り投げた。

「………………」

 涎やら涙やら鼻水やらで、すごいことになってる薫。ぼくはシャツを脱いで拭ってあげた。これで薫も僕も全身裸。

「…………んっ……」

 少し経って、薫は徐々に意識を取り戻している。
 目の焦点が僕に合っていく。
 薫の瞳が完全に僕を映した。

「……しいなおねえさま……」

 無表情だった薫の顔が、にへら、と大きく歪んだ。
 今までの感じていた性愛の視線、尊敬の視線だけじゃない。その目に灯る濁った感情は、まるで神様を見ているかのような魂の抜けた目で、僕を見続けている。

 僕は彼女の身体から降りて、何となく彼女の脇に正座してみた。
 薫はその動きを熱のこもった眼で追い続け、僕が正座するとゆっくりと身体を起こし、僕に対して深々と土下座した。

「おねえさま……薫を上書きしていただきましてありがとうございました。薫は生まれ変わりした。詩奈お姉様の忠実なメイドです。何なりとご命令をお申し付けください」
「僕が洗脳したことは覚えてるんだ? どう覚えてる? どう上書きされたの?」

 びくっと彼女の身体が震え、額をベットシーツにめり込むほど力を込めた。
 両手もシーツを握りしめ、ぷるぷると震えている。

「はいおねえさま。薫は、舞女でお山の大将を気取っていたようです。私がこれまで無意味に過ごしてきた人生全てを詩奈お姉様への忠誠心へと上書きしていただきました。愚かな薫は詩奈お姉様の偉大さに気付くことなく、ただいたずらに詩奈お姉様との日々を消化していたことに心の底から怒りが湧いております。大変申し訳ございません。今までのご無礼お許しください。薫風情が詩奈お姉様と対等にぺちゃくちゃ喋っていたことなど恥ずかしくてたまりません。申し訳ありませんでした。私の人生の全てはあなた様に捧げるためにあったと改めて気付かせていただきましてありがとうございました」

 薫は土下座したまま早口で喋り切った。心の底から自責の念に駆られているようで涙を流しているようだ。
 僕はぽんぽんと頭をなでてあげる。

「僕は気にしてないからいいよ。顔をあげて?」
「あはぁ……詩奈お姉様……ありがとうございます……ありがとうございます……詩奈お姉様すてき……」

 薫は媚びへつらうかのように上目づかいで僕に感謝しつづけた。

 もう舞女の洗脳は解いているはずなので、頭を撫でても暗示を入れることはできない。
 だけど、暗示を入れるまでもなく、薫はもう僕だけのものだ。

「これからは悠様じゃなくて僕の為だけに尽くしてね」

 目をぱちくりとする、元不良美少女。
 するとちょっと怒ったみたいに頬を膨らませた。

「ユウサマって誰ですか? そんな誰かも分からない人より詩奈お姉様に決まっています!! 私の全ては詩奈お姉様の物です……」

 そう言い切ると、恭しく僕を見つめる。
 ここまで言うのだから、もう問題ないだろう。

「これから鏡花達を洗脳しに行くけど、手伝ってくれる?」

 薫は再び土下座をした。

「もちろんです。詩奈お姉様、なんなりとご命令をお申し付けください……ですが……」

 薫は顔を上げ、淫靡な雰囲気で、僕の下半身を見やる。

「お姉様はお辛いご様子です」

 薫は正座を崩すと、上半身を少し反らす。足をM字に開いて、手をおまんこに当てて開く。
 ぞっとするほどうっとりとした、表情、声色で僕を誘惑した。

「どうかこの雌メイドをお使いください……」

< 続く >

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