華族令嬢変死事件一件書類

前略
 お元気でいらっしゃいますか? 父からお聞き及びでしょうが、私は国立静川大学へ進学します。帝大卒のお祖父様、K大学に通っているお姉様には及びませんが、精一杯頑張ろうと思います。
 先日、お祖母様の遺品を整理しておりましたら、お祖父様のご署名の入ったファイルが混じっておりました。
 生憎、私は楷書が苦手で、内容は理解できませんでした。
 大切な文書かもしれませんので、一応郵送いたします。
草々
昭和四十五年二月十日
畠山津矩子
畠山重矩様

追伸 生前にお祖母様から戴いた脇差ですが、見れば見るほど素敵な品ですね。お姉様が帰省したら、見せてあげようと思います。

――――――

(極秘)
昭和八年九月
華族令嬢変死事件一件書類
静川県警察部特別高等課
課長 畠山重矩

――――――

調書
昭和八年九月三日午前七時三十分
静川高等女学校に於て
男爵梶原景広次女  梶原 津紀子

 早朝からお疲れ様でございます。

 先日は、日那子姉様の葬儀に参列いただきまして、ありがとうございました。

 重矩様が捜査に加わられたのでございますね。特高は、こういう事件は担当しないのだと思っておりましたけれど。

 御承知の通り、姉様の遺体が届いてから、父母は精神状態が不安定でございます。とてもお話できる状態ではございません。

 私? ええ、日那子姉様が亡くなったのは悲しいですけれど、大丈夫でございます。幸か不幸か、姉様の死の事情を聞かされておりませんから。

 きっと、ひどい死に様だったのだと思います。

 姉様の遺体でございますか? そういえば、葬儀の前に火葬を済ませてしまっておりましたね。父母は見せたくなかったようですけれど、遠目に少しだけ見ました。

 相変わらず、妹の私から見ても、とても美しい顔でございました。いいえ、失踪する前よりもずっと綺麗だとさえ思いました。けれど、何かが違ったのです。退廃的というか、官能的というか。以前のような清楚さは失ってしまったようでした。でも、とても幸せそうな表情でした。きっとこの世に未練なく逝ったのでございましょう。

 他に変わったところ? そうですね。顔しか見ていないので詳しいことは……そうだわ。お口の周りに汚れを拭った跡がありました。白っぽい滓が残っていました。それから、髪の毛にもよく似た滓がついていたような……。

 お役に立てなくてごめんなさい。もうすぐ講義の時間なのです。

 きっとまた、家にもお寄り下さいね。私、ずっとお待ちしています。

 まあ、嬉しい。楽しみにしていますね。

 私、重矩様を応援しておりますから!

右、聴取候なり。
静川県警察部特別高等課
課長 畠山重矩

――――――

調書
昭和八年九月七日午後五時
大手町停車場に於て
静川第二中学校生徒  上総 広信

 え? 警察? 特高? 僕、逮捕されるの? そんな、アカ学生と一緒にしないでくださいよ。これでも真面目な学生なんです。

 梶原日那子? どうして警察が日那子さんのことを?

 中学校の他の生徒が話していたって? 参ったな。あいつら口が軽いから。

 はい、確かに僕は、日那子さんと将来を言い交わした仲です。

 でも、最近日那子さんから連絡がなくて、心配していたところで……連絡が取れないことと、捜査と、何か関係があるんですか?

 わかりました。答えられることなら何でもお答えします。

 日那子さんのことは、僕が尋常小学校に通っていたころから知っていました。男爵令嬢でお金持ちなのに、飾らない人柄で、市電以外の乗り物に乗るところを見たことがありません。だから、通学中によくすれ違っていたのです。僕らの仲間内では、日那子さんはとても人気でした。

 僕と日那子さんが互いの気持ちを伝え合い、結ばれたのは、そう、一年ほど前のことでした。僕のことをまだよく知らないのに、あなたが欲しいと言ってくれたのです。天にも昇るような気持ちでした。

 僕も初めてでしたし、日那子さんも処女でした。血が流れて痛いはずなのに、年下の僕を優しく抱きしめて、自分から動いてくれました。気持ちよいと言ってくれました。

 ただ、すべてが終わった後、彼女は泣いたんです。

「ごめんなさい。私のわがままに巻き込んでしまって。こうしなければ、日那子は幸せになれないのです。こんな女でごめんなさい、……さん」

 彼女にどんな事情があるのかは聞きませんでした。僕以外の誰かに謝っているようでした。でも、この女人を最後まで愛し抜かねばならぬ、と、その時思い定めました。

 僕は大学へ進むつもりですが、日那子さんを捨てたりはしません。きっと幸せにします。そう彼女に約束しましたから。

 他の生徒と日那子さんの間にも肉体関係があったですって?

 そんなはずはありません! 刑事さん、中学の連中に担がれているんですよ。

 日那子さんの居場所、ご存じなんでしょう? 教えて下さい。僕が話します。きっと何かの間違いなんです。愛し合っている僕になら、きっと真実を話してくれます!

 ……死ん、だ? 日那子さんが……そんな、まさか。

 え? 僕と関係を持つ前から、婚約者がいたですって? あなたが……。

 嘘だ。嘘だ嘘だっ! 警察も、学校の連中も、僕を騙そうとしているんだな! 日那子さんは生きている! 僕が迎えに行くのを待っているんだ!

 離せ、離せよ! 日那子さんを探すんだ! 日那子さん、日那子さんっ!

 右、聴取候なり。
 その後、右の者激昂いたし、以上のほか聴取するあたわず候。この上新しき情報引き出し得ざるべく候間、以後、接触差控えおり候。
静川県警察部特別高等課
課長 畠山重矩

――――――

調書
昭和八年九月八日午前九時
特別高等課に於て
静川第二中学校生徒・治安維持法違反容疑にて検束中  千葉 常敏

 やっと課長さんのお出ましですか。特高というのは失礼な組織ですね。僕はこれでも、静川第二中学校きっての革命家ですよ。低学歴の警部補風情の相手ばかりさせられて、不愉快です。

 内務省出身のあなたなら御承知のはずだ。日本の下層階級がいかに悲惨な生活をしているか。もう革命しかない。あなただって帝大卒業でしょう? それくらいの理屈、理解できるでしょう?

 え? 梶原日那子? 上総広信? 知っていますが、それが何か?

 梶原日那子が死んだ? 変死だったって? 一寸待って下さい。まさか僕や仲間たちを疑っているんじゃないでしょうね。

 いいでしょう。お話しします。悪いのはあの女の方なのですから。

 どこでかぎつけたのか、梶原日那子が突然僕らのアジトを訪ねてきたのです。僕らが検束される、一週間一寸前ですね。びっくりしましたよ。

「私の言うことを聞いて下さらなければ、このアジトのことを警察に話します」

 なんて、僕らを脅してきたのです。

 で、何を要求してきたと思います? 年下の僕らの身体ですよ。全員と寝たいというのです。

 もちろん、最初は断りました。上総広信とできていることは知っていたし、全員で穴兄弟になるなんて気持ち悪くて……けど、断れませんでした。あの頃はまだ、警察が怖いと思っていましたから。僕らを拷問するしか能のない組織とは知りませんでしたからね。

 だからやむを得ず、アジトで抱きました。アジトに常駐していたのは……もう全員検束されているから話してもいいでしょう、十人ほどです。

 それは、僕らだって嵌まりましたよ。みんな童貞だったし。

 あの女はすごい美人だし、体もすごくいいんです。経験の少ない僕らなんて、何分も保たずに達してしまいます。

 それでも最初の二日くらいは、ほとんど休みなく交代で抱いていました。あの女の性欲は無尽蔵で、ほとんど寝ないで気をやり続けていました。途中からは、尻の穴や口にも肉棒が欲しいと要求してきました。

 おかげで、アジトの仲間の中には、やりすぎて倒れる奴まで出てきてしまいました。

 三日目からは、同志じゃない連中まで呼んで、抱かせてやりましたよ。彼女から、他の連中も誘えと唆してきたのです。僕らも彼女との関係は続けたい、でも、まともに相手をしていては干からびてしまうから、必死で穴兄弟を募りましたよ。何時間も両穴に男を咥え続けて、気をやり続けても、あの女、気絶もしないんです。

 同時に三、四人も相手にしますから、男が何人いても足りません。みんなが倒れ込んでしまうと、日那子が僕に近づいてきて囁くのです。

「常敏さん、まだできますよね? 私、常敏さんのが一番いいのです。日那子の中に頂戴。もっとどろどろにして、壊して欲しいの。常敏さんに壊されたいの」

 なんて、ね。身体中精液塗れで気持ち悪い女ですが、そう言われて悪い気はしません。犬みたいに這わせて、ぶちこんでやりましたよ。

 僕、これでも射精は遅い方なんですよ。日那子もしきりに褒めてくれました。へへ。

 けれど、日那子には敵わない。僕のあれが元気を無くすと、日那子はアジトから出て行くこともありました。他の男を漁りにいったのでしょう。上総のところへも帰っていたかもしれませんね。あの二人の関係が切れたという噂は聞きませんでしたから。

 日那子がアジトに転がり込んで、一週間くらい経ってからです。発禁本を所持していたとかで、何人か引っ張られました。そこからは、御承知の通り。僕たちまで芋づる式に検挙されて、この様です。

 だけど、諦めませんよ。僕らがこの国を正すんだ。あなたたちは血税を使って、僕らの邪魔をしているだけなんだ。

 日那子? あれ、アジトにいたはずなのに、なんで一緒に検挙されていないんだ? そうだ、急に出て行くとか言い始めたのだっけ?

 そう言えば、僕が検挙される一寸前に、他の女が訪ねてきて……あれ? 思い出せない。確か、その女が日那子と話して……ええと、記憶違いかな?

 え? 日那子以外の女が訪ねてきたですって。僕、そんなこと言いましたか?

 そうだ、検挙される前に、日那子が急にこう言ったのは覚えています。

「精液が足りません。もっと汚れたい、壊されたいのです……汚れなければ、あの方のお嫁さんになれないのです」

 ああ、もう取調は終わりですか。今日は日那子のことがありましたから仕方ありませんが、次からは革命家としての処遇を求めます。大いに論争しましょう。

 僕は選良として、市内随一の革命家として、悪しき警察と対峙する覚悟はできていますから。

右、聴取候なり。
なお、右の者、党員にあらず、全くの使い走りに過ぎざるため、本日中に釈放の由、部下より報告これあり候。
静川県警察部特別高等課
課長 畠山重矩

――――――

調書
昭和八年九月十五日午後八時
舟場町遊郭に於て
自称静川紡績株式会社幹部  ソガ スケクニ

 げっ。警察? 勘弁してくださいよ。大人しく公娼を買っているだけの庶民ですよ、あっしは。身元だって確かだ。ほら、静川紡績って会社あるでしょ? あそこの幹部なんだな、これが。すごいでしょ?

 へ? 女ですかい? 女なら、今抱いてきたところですが……。

 女学生風の、若い女? それも映画女優のような美人ですか? 公娼ではなくて、タダでやらせるような女? そんな都合が良い女、いるわけがないでしょう。いたら、とっくに世話になってます、はい。

 ……ああ、一人だけ、この町で見たことがあります。確かにとんでもない美人だったが、気持ち悪い女でしたよ。とても抱こうとは思わなかったな。

 あれは、一ヶ月ほど前でした。

 ほら、この町の西の端に堤防があるでしょう。飲み過ぎたときは、よくあそこで夕涼みをするんです。

 堤防の近くに竹藪があります。そう、あそこです。その日、あそこから女のうめき声が聞こえたんだ。

 外でやってるのか、それとも病人か知らないが、興味をそそられてそっと覗いてみたんです。

 すると、セーラー服姿の女が四つん這いになって、ケツを振っていやがった。うす暗闇の中でも分かるような美人で、みずみずしい白い肌をしていましてね。いい声で喘いでいたんだ。

 その女も相手の男も露出狂の変態に違いない。これはいい見ものだと、その場で飲みなおそうと徳利を取り出したんだが……。

 急に女の動きが止まった。男がいったらしい。だが、二人はいつまで経っても動かない。抜きもしないし、二発目を始めるわけでもない。

「そうです、もっとください。日那子の身体、破裂させてもいいから」

 なんて、女のほうがねだってやがる。何度も身体を震わせていたから、ずっといき続けてたんでしょう。男のほうがずっと射精しているらしいんだ。

 不審に思って、竹に隠れた男を見た。

 どんな男だったと思います? 犬ですよ、犬。その美人、犬としてやがったんだ。

 思わず、徳利を落としちまった。もったいないことをしましたよ。あんな変態女のために。

 その音で気付いたのか、女と目が合った。で、女が犬を相手に気をやりながら言うんです。

「まだ足りない。精液が足りないのです。この方が射精を終えたら、次はあなた様の精液を恵んではいただけませんか?」

 ケダモノの相手をしていた女のアソコになんか、入れられるもんですか。唾を吐きかけて立ち去りましたよ。てめぇの腐れマ〇コなんぞに入れる一物はねぇ、ってね。

「お願いします。精液が欲しいのです。あなた様がお嫌なら、お友達を紹介してくださるだけでもよいのです。人が駄目なら、馬や豚でも結構ですから……もっと汚れないと、重矩様の許へ戻れないのです。お願い、行かないで。日那子を助けてくださいっ」

 なんて懇願していましたが、もちろん無視しましたよ。いくら言葉が上品な美人でも、あんな狂女と関わっていてはろくなことがありませんから。

 ああ、美人と言えば、その後にも一人、すごい美人とすれ違いました。犬とやってた変態女とよく似たいい女で、少し若いというか、まだ幼い感じがしましたね。変態女の身内ですかね。そいつは正気らしかった。竹藪の方へ向かっていたから、あの変態女を迎えにいったのかもしれませんね。

 あっしが知ってるのは、それだけです。外であれだけ派手によがって、男を誘惑していたんだ。目撃者は、他にいくらでもいるんじゃないですか。

右、聴取候なり。
なお、右の者、会社役員なりと自称せしところ、窃盗にて翌朝逮捕せられたる由、刑事課より申し来たり候。
静川県警察部特別高等課
課長 梶原重矩

――――――

調書
昭和八年九月二十三日午後六時
梶原男爵邸に於て
男爵梶原景広次女  梶原 津紀子

 ずいぶんお痩せになりましたのね。津紀子は心配でございます。さ、お座りください。今、何か美味しいものを作って参りますから。

 そんな、ご遠慮なんてなさらないでください。

 ……そう、ですか。残念です。これでもずいぶんお料理の勉強をしたのですよ。日那子姉様に負けないように。

 まあ、姉様が失踪した後のこと、お分かりになったのですか。さすがは重矩様ですわ。

 日那子姉様は娼妓のような真似をなさっていたのですか? ひどい。重矩様という婚約者がありながら。

 え? 何者かに操られていたようだった? まさか。そんな物語のようなこと、あるわけがないではありませんか。日那子姉様は、きっと生まれついての変態でいらっしゃったのです。そうに違いありません。

 日那子姉様をお信じになりたいというお気持ちはわかります。けれど、姉様は重矩様を裏切って、あげく死んでしまったのです。それに重矩様のお話では、ひどい女人だったというではありませんか。きっぱりお忘れになってください。

 ……女の私から申し上げるのは、はしたないですが、はっきり申します。津紀子は重矩様のことをお慕いしております。あんな女のことは忘れて、私と夫婦になっていただけないでしょうか? 父母もああいう状態ですし、とても心細いのです。

 ……そんな。日那子姉様が忘れられない? 哀れでならない? どうしてそんなこと……あんな淫乱女のこと、重矩様が気に病むことなんてありません。

 遊郭で私と日那子姉様が会っていた? 何かを吹き込んでいた? まさか。人違いでございましょう。

 そう……そこまでお調べになったのですか。

 御安心なさってください。私、処女は重矩様に捧げると決めております。汚らわしいことをなさっていたのは、日那子姉様お一人でございます。

 そんなことはどうでもいいですって? 私にはご興味がないということですか? ひどい。どうして皆、姉様ばかりを愛するのですか!? 父様も、母様もそうでした! だから私、父様を、母様を……っ! それなのに、重矩様まで……嫌……嫌っ!

 こんなことはしたくなかったのだけど、仕方ありませんね。

 きゃっ、何をなさるのですかっ!?

 ふふ、触ってしまいましたね。手間が省けました。重矩様は、私とずっと一緒にいたい。そうですね?

 この脇差、何だと思いますか。御一新の折に、曾祖父がお城の蔵から盗み出したものなのです。人の記憶を書き換えてしまう呪われた脇差。悪用されないように、ずっと当家で封印していました。御承知のとおり、当家は、静川藩主の一門にして、代々家老を輩出しておりました。けれど、廃藩によってそのお役目を免ぜられました。この呪われた脇差を隠し通すのが、最後のご奉公だと、曾祖父は申していたと聞き及んでおります。素敵でしょう? けれど、今回ばかりは呪いの力を借りずにはいられませんでした。日那子姉様から重矩様をお救いするために。

 あら、そんな怯えた顔、なさらないで。日那子姉様みたいに壊したりはいたしません。ただ、私を愛していただきたいだけなのです。

 そうだわ。重矩様。姉様の事件のことは、もうどなたかに報告なさいまして? まだ、でございますか。それはようございました。

 この事件のことは忘れていただきましょう。捜査記録は、近日中にすべて私にお渡し下さい。日那子姉様と重矩様の思い出は、津紀子がお墓まで持って参ります。

 本当は、日那子姉様の狂態を知って、思いを絶っていただきたかったのですけれど、逆効果でしたわね。

 そうですね。こういたしましょう。重矩様はずっと以前から津紀子と両思いでございました。ところが、日那子姉様に強引に迫られ、結婚の約束をさせられてしまいました。

 日那子姉様は肉棒なしでは眠れない淫乱女でした。重矩様には指一本触れさせないくせに、自分は男漁りばかりしていました。

 日那子姉様が淫乱というのは、本当でございますよ。この脇差が変えてしまったのは、姉様の記憶だけ。他の殿方や動物に抱かれて感じてしまったのは、きっと姉様の心身が淫らだったからですわ。

 生来の淫蕩な性質と、奔放な生活が災いして、気でも触れてしまったのでしょう。姉様は、犬や馬にまで肉棒をねだるような狂女に成り下がってしまいました。

 でも、そのおかげで重矩様は、日那子姉様、いえ、あの変態女の呪縛から解放されました。もともと大好きだった私の許へ帰っていらっしゃいました。

 きゃっ。うふふ、そんなに強く抱きしめなくても、津紀子は、重矩様の前から消えたりはいたしません。日那子姉様のような尻軽女とは違うのです。

 嬉しい。やっと、重矩様と結ばれるのでございますね。

 津紀子は日那子姉様とは違います。津紀子はすべてを重矩様に捧げます。処女も、お口も、お望みならお尻だって。

 そして、重矩様に近づく汚らわしい女は、津紀子が許しません。

 だから、津紀子をずっと愛してください。お慕いしております。重矩様。

右、聴取候なり。
静川県警察部特別高等課
課長 畠山重矩

――――――

華族令嬢変死事件捜査中止の件

標記の件、独断にて取調おり候ところ、見るべき成果これなく候間、捜査中止いたし候。なお、本捜査は特別高等課の権限あい越え候あいだ、追て関連書類処分いたすべく候。
昭和八年九月二十三日
静川県警察部特別高等課
課長 畠山重矩

< 以上 >

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