GGSD 第1話《Aパート》

第1話「PはペニスのP」《Aパート》

【10月14日[火]10時09分、U県】
 抜けるような青空の下、わずかに緑の混じる濃い藍色の川がゆったりと流れている。
 空と川、色味の違う二種類の青が、まばゆく輝く白いラインで隔てられている。
 境界線を描いているのは、人工の建造物だ。
 水面から天空を目指して、高さの異なる複数の塔が垂直に突き出し、シンメトリに並んでいる。塔の先端はケーブルで繋がれ、滑らかな弧を描く。横に伸びる壁面には、反射する川面のきらめきが揺れていた。
 ──優美な曲線で川の両岸を繋いでいるのは、巨大な吊り橋だ。
 U県をほぼ東西に流れる狭間(はざま)川。その河口近くにかかる狭間大橋(はざまおおはし)は、県庁所在地のS市とその北側のN市とを結んでいる。主要幹線道路の一部として、県内でも最も交通量が多い場所のひとつだ。

 だが、この日は違った。
 昼過ぎだというのに、橋の上には一台の車も見えない。時折聞こえてくるけたたましい音は、低空で旋回するヘリのものだ。
 橋はS市側で完全に封鎖されていた。
 現場の指揮は警察がとっている。
 しかし、橋の手前でハの字型に道を塞いでいる四台の車両は、陸上自衛隊のWAPC(96式装輪装甲車)だ。やや離れて六輪装甲の82式指揮通信車、その後方にはNBC偵察車や除染車が停車している。
 さらに200メートルほど離れた製紙工場の敷地内には、10式主力戦車が待機していた。だが、戦車の配備は想定される最悪のケースにおいて、しかも基本的には警告を目的としたものだ。今はまだ人目につかぬよう倉庫の影に隠されている。
 そして、さらに敷地の奥では、自衛隊を中心に白いドーム型の建物が建設中だった。

 自衛隊の出動はそれ自体が事件だ。
 領空侵犯に対する空自のスクランブルは、頻繁に行われている。治安維持のための出動が検討されたことも、これまでに何度かある。
 しかし、海外派遣はともかく、民間協力を除き日本国内に災害救助や不発弾処理以外の出動が発令されたのは、自衛隊創設以来初めてのことだった。

 検討はすでに何日か前から始まっていた。
 だが、他国から攻撃されたわけではなく、大規模なテロがあったわけでもない。「止むを得ない事態」かどうかも定かではなかった。
 そもそも自衛隊の出動には慎重論が多い。法的な解釈も含め常に議論の別れるところだ。今回の派遣についても、マスメディアの多くが「権力の乱用や人権を脅かす治安維持法への足がかり」、あるいは「法整備がないまま拡大解釈を続けることの容認になる」と批判的だった。
 しかしその一方で、民意は出動を支持、ないしは容認へと傾きつつあった。自衛隊出動の検討が公表された途端、各地で反対の声が上がったが、昨日発表された世論調査では「出動に賛成」が「反対」を6ポイント上回っている。

 そうした世論の後押しを待つことなく、国家公安委員会は協議を重ねていた。三日前には県知事も県公安委員会との協議を済ませている。そして、昨日ついに防衛大臣の出動待機命令が下った。
 県知事の要請を受け、防衛大臣によって「国民保護等派遣」が発令されたのは昨夜のことだ。
 満を持しての自衛隊の出動である。
 だがそれが、まさかこんな形で実現するとは、数日前まで誰も予測していなかった。

 川の向こう岸に、一台のバンが姿を現した。
 道路に設置された車止めをよけながら、ゆっくりと橋を渡ってくる。
 警察のラウドスピーカーが一瞬ハウリングを起こし、すぐに大音量で警告を流し始めた。

「この道路は封鎖されています。直ちに転回し封鎖線より離れてください。N市から外へ出ることは禁止されています」

 バンが速度を落とす。
 だが方向を変えることはなく、橋の5分の1ほどの位置に築かれたバリケードぎりぎりでようやく停車する。
 車の扉が開き中から出てきたのは若い女だ。胸元にはピンマイクがつけられている。彼女の後ろから現れたジャンパー姿の男は、業務用のカメラを担いでいた。さらにもう一人、小柄な男が荷物を担いで車を降りてくる。
 スコープで様子を窺っていた若い警官の一人がかすれた声でつぶやく。

「お、おい、あれ……ハラランじゃ?」

 警官の言う通り、その女はハラランの愛称で親しまれている原田若菜(はらだわかな)だった。キー局のお天気お姉さんとしてブレイクし、今ではレギュラー番組を複数抱えるTVリポーターである。
 非常線の内側にいる警察官や自衛隊員たちに、微かな動揺が走った。
 自衛隊員が二人、隊長の下に駆けつける。
 小隊の指揮をとるのは30代後半の陸尉だ。
 若い隊員から耳打ちをされ、精かんな隊長の顔に、苦々しい表情が浮かんだ。

「中継してるのか?」

「そのようです」

 そう答えたもう一人の隊員が差し出すタブレットには、テレビ映像が映し出されていた。
 画面の中心に立っているのは、まさしく原田若菜その人だ。
 離れた場所にいる当人と画面の中の彼女を見比べ、陸尉の顔がさらに険しくなる。

 原田若菜が、──その甘い顔立ちに似合わぬ固い口調で、リポートを始めていた。

「ごらんください、これが狭間大橋です。
 昨年2月に完成したばかりのこの橋は、両側二車線の自動車道に加え、鉄道も通るU県随一の巨大な吊り橋です。ですが、現在は車も電車も走っていません。
 ご覧の通り、橋の途中にバリケードが設置され、警察と自衛隊によって完全に封鎖されています。……たった今、私たちもこれ以上近づかないよう言われました」

 原田若菜の声に、徐々に熱がこもる。
 ワイドショーの生中継のようだった。
 タブレットを確認しながら陸尉が部下に訊く。

「どういうことだ?」

「たまたま仕事でU県を訪れていたところ、事件発生時にTVクルーと共にN市へと入り、そのまま閉じこめられた模様です」

 隣に立つ若い隊員が横から説明を追加する。

「ハララン、いえ……その、この女性は以前、雑誌のインタビューで『報道の仕事につきたい』と語っていましたっ。推察ですが、その夢を掴むチャンスと考えたのだろうと思われますっ」

 警察のラウドスピーカーが再び警告を発した。

「直ちにカメラを止めて戻りなさい。従わない場合は拘束します」

 先程よりも強い口調だ。
 だが、若菜は微かに眉間にしわをよせ、真剣な表情でカメラを見つめる。

「N市は今、前代未聞の出来事に混乱を極めています。市内に閉じこめられた人々は、事態の全容も解決の時期もわからぬまま、不安な日々を送っています。
 ですが……、この物々しい警備をご覧ください。こんなふうに、何の罪もない人びとを隔離するしか他に方法はないのでしょうか? 私たち国民の権利はどうなるのでしょう?」

 警官隊の後ろ側で、苦虫を潰したような顔の警視が部下に指示を出す。
 封鎖線の奥、カメラが映し出すことのない位置で、警察の狙撃班がライフルの準備を始めていた。

 その時──。
 バリケードの近くで任務にあたっていた警官、そして日本全国で放送を見ていた人びとが、揃って不思議な打撃音を耳にした。

 ガツンッ!

 橋の上で、そしてテレビ画面の中で、原田若菜が小さくよろめいた。
 片足を踏み出し何とか倒れずに済んだが、一瞬何が起きたかわからないようだった。
 だが、呆然としたその顔は、すぐに驚きの表情へと変わった。

「……き、来ましたっ、ガツンですっ! たった今、後頭部に衝撃を感じました。ついに私もガツンにやられたようです。……いえ、大丈夫です。今のところ理性は失っていません。いつまで正気を保てるかわかりませんが、可能な限りリポートを続けますっ」

 まっすぐカメラのレンズを見つめる顔は、真剣そのものだ。興奮気味に早口で話す彼女の後ろ、バリケードの奥では、警官たちの動きがさらに慌ただしさを増していた。

<オープニング・タイトル>
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脳内ホルモンのバランスが崩れると、異常な性欲を示すことが我々人間の場合にもあります。
そうです。ここは、全てのバランスが崩れ去った恐るべき世界なのです。
これからの数十分、あなたの目はあなたの身体を離れて、この不思議な時間の中に入っていくのです。
─────────────────────────────────
<オープニング・テーマ>

GGSD[ガツン・ゴールデン・スーパー・デラックス]
第1話「PはペニスのP」

※『ガツン』は、ジジさんの作品です。
※この物語は、ジジさん、こばさん、みゃふさん、Panyanさん、一樹さん、パトリシアさん、bobyさん(発表順)が書かれた『ガツン』シリーズを元に書かれています。ただ、一部設定が異なる部分があるかもしれません。ご了承ください。
※各『ガツン』は、「E=MC^2」に収録されています。

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<CM挿入>

 ある日突然、それはやってくる。
「ガツンッ!」という激しい音と共に、後頭部をいきなり強く殴られたような衝撃が走る。
 実際に物理的な力が加わるわけではない。一瞬くらっとなるが、意識を失うことはない。
 だが、特異な症状がある。
 数時間、理性あるいは認知が歪んでしまうのだ。
 とんでもなく非常識なこと、異常としか言いようのない行為を、したくて仕方なくなったり、しなければならないと思い込んだりする。
 その衝動に逆らうことはできないし、大抵は逆らおうという気すら起きない。結局、理由もわからぬまま実行に移す。
 その多くが性的な逸脱行為だ。
 ただひたすら意味不明な行動に出る場合もあるが、大抵は激しい欲情を伴う。あるいは欲情していないにもかかわらず、何かに取り憑かれたように猥褻な行為に及ぶ。
 ──しかもそれが、他の者に伝染するのである。

 この現象が公式に報告されてから、すでに数年が経過していた。
 にもかかわらずこれまでは、さほど大きな問題にならなかった。
 ガツンはその現象自体があまりに非常識な上に、被害を訴える者が皆無に近い。多くは、「脳震盪を起こして一時的に錯乱した」などと答えるだけで、激しい逸脱行為に及んだにも関わらず、深刻に語る者がいなかった。
 たとえガツンに遭っても、言語や運動、感覚などに障害が残らないことはすでに判明している。断続的に行われた聞き取り調査で、ガツンはトラウマにならないということも、ほぼ確実と思われた。
 症状は、通常3~4時間で消失する。記憶は残っているが、自らの行為を悔やむ者はほとんどいない。被害者の中には、ガツンで初めての性交渉を体験する者もいたが、そんな彼らでさえ、悩んだり引きずったりするケースは稀(まれ)だった。

 淫らで不条理な夢を見たからといって、それが現実の生活に影響を及ぼすことは少ない。同じように、ガツンは疑似的な体験として記憶され、精神や人格、あるいはその後の生活にほとんど影を落とさないようだった。
 逆にガツンを目撃した人、巻き込まれた人の中には、自分でも気付かなかった淫らな性癖に気付かされ、思い悩む者もいる。しかしそんな彼らも、すぐにガツンに遭遇した事実そのものを否認もしくは抑圧してしまう。
 そうでなくても、大声で話しにくい事件だ。通報されずに終わることがほとんどだった。
 何が起きたのかはっきりとしない。被害者からも、それを目撃した者からも正確な情報が得られない。原因はもちろんのこと、被害の実態も掴めない。
 ──情報の不確かさ故に、きちんと議論することさえかなわないというのが、偽らざる実情だった。

 だが、G7の席上で諸外国からガツン対策についての質問がなされるに至り、事態は一変する。
 これまで、ガツンの発生はほとんどが日本国内に限られていた。だが伝染性がある以上、他国も黙っているわけにはいかなかった。国際社会からの要請で、日本政府は早急な対応を求められた。

『国民の安全とこの国の秩序回復のために、ガツン撲滅に向け速(すみ)やかな対策を講じます』

 新内閣発足時に語られた首相の所信表明は、──どこまで実効性があるかはともかく──国内世論の支持を得た。
 半年後、「ガツン対策基本法」が制定され、罰則はないもののガツンの通報は国民の義務となった。

 そして、5日前──。
 U県で大規模なガツンが発生した。
 N市のほぼ全域で同時多発的にガツンが起き、しかも断続的に繰り返されるという前代未聞の事件であった。
 政府は緊急対策本部を設け、これを「スーパーガツン」と命名した。
 翌日にはN市が封鎖され、さらに数日後、自衛隊の出動も発令された。

 ──しかし。
 ガツンの原因や意味を正確に理解している者など、どこにもいなかった。何が起きたのか、これから何が起きるのかも……。

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「人類は混沌たる自然=『闇』から自らを弁別し、『闇』を排除することで安全な都市環境を築いてきた。しかしそこでは、時折噴出する他者あるいは自己の衝動や欲望こそが、人の理解とコントロールを拒む最後の『闇』となる。
(……中略……)
 ガツンはそれら『荒ぶる神』に新たな名を冠する現代のフォークロアであり、その存在を秩序の内側へと回収する共同体保全のための装置であるとも言えるだろう」
 ──民俗学者、清水雄司『日本の民間伝承・その変質と継承』(筑紫書房版)より 
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◆ ◆ ◆ ◆

【10月14日[火]10時53分、東京、新橋】
 JR新橋駅の烏森口から伸びる商店街には、様々な飲食店が軒を連ねている。さらに細い路地を入ると、格安で満腹になれる昔ながらの食堂がまだいくつか残っていた。
「まどか」も、そんな食事処のひとつだ。年季の入った布のひさしは陽に焼けて色褪せている。赤地に白の太文字で「中華と定食」と書かれているのがかろうじて読める程度だ。
 だが、客の入りは悪くない。
 ラーメン、チャーハン、レバニラ炒めや八宝菜などの中華はもちろん、ハンバーグに生姜焼き、トンカツやミックスフライといった定食の定番がほとんど揃っている。さらにはカツ丼、天丼、カレーにハヤシ、スパゲッティと、メニューはバラエティに富んでいた。しかもボリューム満点、ほとんどが味噌汁つきで5~700円前後と、リーズナブルな値段も人気だった。
 昼前だから混雑はしていない。それでも外回りに出た営業マンや、混むのを嫌って早めに会社を抜け出してきた者たちで、席は半分以上埋まっている。

 店の一番奥、カウンター席に小池博文(こいけひろふみ)がいた。
 久しぶりに訪れた新橋で、昔よく入った「まどか」のことを思い出し、遅い朝食をとることにしたのだった。
 朝食といっても、食べているのはカツカレーだ。ルウの染み込んだ衣を噛みしめながら、彼は突然込み上げてくるものをぐっと堪えた。
 妻と別れてから、もう5年が過ぎている。離婚の直接の原因は度重なる博文の不倫だ。
 妻もまた浮気をしていたため、慰謝料はたいして払わずに済んだ。だが離婚が決まった途端、愛人の久美子までが冷たくなった。会社の部下でかつての不倫相手であった友里恵も、いつの間にか彼を遠ざけるようになった。
 それから半年もしないうちに、追い討ちをかけるように会社からリストラされ、久美子とはそれきりだ。しばらくして次の仕事を見つけたが、3ヶ月前に今度はその会社が倒産し途方に暮れていた。
 今は失業保険で食いつないでいるが、貯金はほとんど残っていない。
 博文の年齢では求人も限られていたし、ハローワークで見つけたところは面接にこぎつける前に全て断られた。エージェント会社の面接も受けて登録したが、連絡は入ってこない。

 以前勤めていたオフィスのある新橋に足を運んだのは、かつての同僚・今川(いまがわ)に会うためだった。
 取引先の小さな会社に紹介してもらうことくらいなら、引き受けてくれるかもしれない。──藁にでもすがる思いで、元同僚を頼るつもりだった。
 だが、会う約束はとりつけていない。
 何度も連絡しようと思ったのだが、その度に汗が噴き出し、電話はもちろんメールすら送れずにいた。
 アポなしで会社に押しかけるのは無理がある。しかし何年も連絡をとらずにいた相手に、今更何をどう話せばいいのか、それがわからない。

 ──ここのカレーは相変わらず辛いな。

 小さく洟(はな)をすすり上げ、博文はコップの水をがぶりと飲んだ。
 その時、隣の席で話す若いサラリーマンの声が聞こえてきた。

「……けど課長、これじゃあN市への出張は、しばらく延期っすね」

「ああ、まいったな。しかしまさか、ガツンとはなあ」

 どうやら、封鎖されたN市に仕事の予定があるらしかった。
 博文はガツン経験者だ。浮気現場を妻に発見された際に、咄嗟にこれはガツンだと言い訳をしたことがある。その時は嘘だったが、しかしすぐにその後、本物のガツンに遭遇した。
 とはいえ、彼が注意を引かれたのはガツンの話だったからではない。
 若いサラリーマンが発した「課長」という言葉に引っ掛かった。
 今でもその言葉を聞くと、反応してしまうことがある。昇進して1年もたたずにリストラされ、しかも今は無職だというのに、一瞬自分が呼ばれた気がした。

 ちらっと横目で窺うと、課長と呼ばれた男は、ちょうど自分と同じくらいの年齢に見える。
 あるいは当時の博文もそうだったのだろうか。どこかに無自覚な尊大さを漂わせながらその男が言った。

「いくらなんでも自衛隊はやり過ぎだろ。戦争でもテロでもないんだぞ」

「でも、スーパーガツンですよ? ただのガツンじゃありませんからね。N市内じゃ警察もほとんどやられたらしいし、他にどうしようもなかったんじゃないっすかね?」

「まあそりゃそうなんだけどさ。それにしたって自衛隊って……」

「当然だと思いますけど? だってマジ、災害レベルじゃないすか」

「だったら何で『災害救助』にしなかったんだ? 『国民保護等派遣』だぞ? 有事法制の実効性を示すという目論見が見え見え、とか」

「てか、有事に自衛隊出せない方がマズくないっすか?」

「いや、まあ、N市に限定されてる上に相手がガツンだから、さすがに『治安出動』ってわけには行かなかったみたいだけどな。例によってギリギリの選択ってコトなんだろうが、でもなあ……」

 二人の話を聞くでもなく耳にしながら、博文はまたカレーを口に運ぶ。
 今の彼には、国家の安全や政治に関心はない。自分の行く末を憂うことで精一杯だ。
 しかし、頭の片隅を古い記憶がかすめる。それはほろ苦く、同時にどこか甘かった。

 ──ガツンか、何もかもみな懐かしい。

 彼の感慨をよそに、若いサラリーマンが突然楽しげな声を張り上げた。

「おっ、ハラランだ。相変わらず頑張ってんなあ……」

「N市に残ってるテレビ関係者って、このコだけなんだって?」

「おかげで今、凄い人気っすよ。いや、もともと人気はあったんスけど」

 博文が顔を上げると、店の隅に置かれたテレビに、警察と自衛隊のものものしい警備の様子が映っている。
 その手前でリポートしているのは、お天気キャスターの原田若菜だ。

『……ご覧ください。こんなふうに、何の罪もない人びとを隔離するしか他に方法はないのでしょうか? 私たち国民の権利はどうなるのでしょう?』

 原田若菜は、愛くるしい顔に真剣な表情を浮かべている。
 そして次の瞬間、博文は聞き覚えのある音を耳にしていた。

 ガツンッ!

 テレビ画面の中で、彼女の身体が揺れた。

『……き、来ましたっ、ガツンですっ!』

 カレーをのせたスプーンを口元まで運んでいた博文の手が止まった。
 彼だけではない。「まどか」にいた客全員が一斉に動きを止め、画面にくぎ付けになっていた。

 カメラがズームし、原田若菜の顔をアップにした。
 彼女は微かに首を傾け、怪訝そうな表情を浮かべている。

「何故なんでしょう? 普通ならすぐに発症する筈なのですが、ガツンの影響が現れません。……淫らな気持ちにもなっていませんし、おかしな行動をしなければならないという考えも湧いてきません。……今のはガツンではなかったのでしょうか? いえ、でも、確かに頭の後ろをガツンとやられました。えーと、……ちょっとお待ちください」

 そういって彼女は自分の身体を見下ろし、胸元につけてあったピンマイクを外す。
 深く首を曲げて自分の胸を見下ろし、それから再びカメラに向き直ると、意を決したように真剣な表情になる。

「身体の方に異常がないか調べてみます」

 カメラがズームアウトし、バストショットに変わる。
 彼女はクリーム色のジャケットの前を開き、右手の指先だけで器用にブラウスのボタンを外し始めた。
 真剣な表情は崩さず、細い指先ですぐに全部を外し終える。スカートの中からブラウスの裾を引きずり出すと、そのまま左右に大きく開いた。
 形よく膨らんだ胸を包み込む茶色のブラと、中央の白い谷間が全国のテレビ画面に映し出された。

「……あ、音声お願いします」

 そう言って彼女は少しカメラに近づき、ピンマイクを差し出した。
 画面の左側からアシスタントの手が伸びて、マイクを受け取りすぐにまた消える。
 その時にはすでに、原田若菜が両手を背中にまわしていた。
 次の瞬間、ブラのホックが外され、柔らかそうな乳房がふるんとこぼれ出た。
 すかさずカメラが寄っていく。
 乳房の先には、薄いピンク色をした乳輪が丸く浮かんでいる。中心にあるはずの突起は見当たらない。微かな隆起とその内側に縦に伸びる亀裂が見えるだけだ。

「お見苦しいものを放送してしまい、申し訳ありません。す、凄く恥ずかしいのですが、自分の身に振りかかったガツンについて出来る限りお伝えしようと思います。
 あ、でも、変ですね……。今のところ、身体には何の異常もありません。ガツンによる変化は何も起きていないようです」

 僅かに上ずった声でそう言って、原田若菜は両手を自分の胸に滑らせた。
 指先がすぐに乳房の先端に届く。

「あっ、あの、すみません。説明不足で失礼しました。この、先が凹んでいるのは、ガツンのせいではありません。……その、私、普段からこうなんです」

 彼女の親指と人さし指が左右から乳房の先端をつまみ、しごくような動きを見せた。

「こうすると少しは起き上がらせることができる筈なんですが……」

 彼女の指先が、ひっかくような動きに変わっていた。
 乳輪の中心にある窪みの上を、小刻みに指先が往復する。

「あっ。……こ、これは、もしかするとガツンの影響でしょうか? その、……少し敏感になっているみたいです。今、ちょっと感じてしまいました」

 せわしなく動く指で隠れてよくはわからないが、窪みの左右がぷっくりと膨らんでいるように見えた。その奥にひとまわり濃い肉色をした隆起がわずかに顔をのぞかせ始めている。

「んんっ、……ご、ごめんなさい。また感じてしまいました」

 彼女は突然、羞恥に耐えられないように後ろを向いた。
 だがすぐに腰をひねり、上半身を横に向けた状態で、真っ赤に上気した顔だけこちらに戻した。
 潤んだ目でじっとカメラを見つめている。
 唇が微かに動き、少し遅れて小さく囁いた。

「あ、あのっ、カメラさん。……胸を、映してください」

 すかさずカメラが動いた。
 背中を逸らして突き出された胸の膨らみを、真横から舐めるように辿り、美しい半球形を描く乳房の頂点にズームする。
 テレビ画面いっぱいに、いくつか小さな粒のようなものが浮かぶ乳輪と、その中心でピンク色に凝った突起が映し出された。
 内側から弾き出されたように、乳首がぴんと勃ちあがっている。
 若菜の白い指先がそこを弾いた。

「いっ、……やっぱり、凄く感じますっ」

 再びカメラがズームアウトした。
 バリケードを背景に、原田若菜がくねくねと腰を揺らしながら、自分のバストを揉みしだく姿が映し出される。指先は相変わらず小刻みに乳首をひっかくような動きを見せていた。

「日本全国の皆さんっ、見てっ、いえっ、……ご覧くださいっ。その、あんっ。こ、これが今回のガツンの影響なんでしょうか? ……乳首がとても敏感になっています。それに、ああっ、こんなに飛び出してますっ!」

 口の端に微かに泡まで浮かべながらレポートを続ける彼女の手が、いつのまにか腰に回されていた。
 紺色のスカートが、音もなく滑り落ちた。
 パンストの下に、ブラと同じ濃いブラウンの下着が透けて見えた。小さめのヒップは、ゆらゆらと左右に動かされている。
 そして、指先が下着の縁にかかった。

「んんんっ、あ、いやっ、失礼しましたっ、変な声出して……。凄く恥ずかしいんですっ。けど、ああっ、でも、実況は続けます。……と、とにかく下の方も、頑張って調べてみますっ」

 上ずった声でそう言うと、ゆっくりとパンストごと下着を降ろしていく。
 滑らかな腹部が見えたその途端、がくんと画面が揺れた。
 カメラがあらぬ方向へ動き、一瞬、青い空とそこに浮かぶ白い雲が映った。
 だがすぐにそれも消え、次に映ったのは蒼然となったスタジオだった。

「……以上N市より、ハラランこと、原田若菜さんのレポートでした」

 そう言って局アナの男性が、真面目腐った顔で頭を下げる。
 だが、その声はひどくしわがれていた。口の端には笑みにも似た緩んだ表情が残り、しかしそれを隠すように、頬がひきつったように痙攣していた。

「ハラランって、陥没だったんだ……」

 ぼそっと、若いサラリーマンがつぶやいた。
 それが合図だったように、静まり返っていた定食屋の店内が、突然騒がしくなった。

「しかし、よくあそこまで流しましたね。放送事故……、ですよね?」

「ですね。とは言え、……いや、絶対わざとでしょ」

「そうそう。──『まさかあそこまでやるとは思わなかった』とか、後からなら何とでも言えるし」

「確かに、ギリギリ限界まで待ったって感じでしたねえ」

 友人でも知り合いでもない客同士が、何故か親しげにそんな会話を交わしている。
 どこか、共犯めいた一体感が漂っていた。

「惜しかったなあ、もう後少しだったんだけどなあ」

「テレビじゃさすがにあれが限界でしょうが……」

「だけど原田若菜、この先大丈夫なんですかね?」

「平気平気、なにしろガツンだし。それに当人はいたって真面目だったし、清純さも保ててたと思う。……逆に好感度アップじゃないかと」

「なんといっても、あの乳首。いやあ、眼福とはこのことですか」

「ああ、くそっ、録画しときたかったなあ……」

「なあに、一時間もすればネットに流れますって。すぐに消されるでしょうが……。おっと、こうしちゃいられない。さっさと戻って、ダウンロードの準備しないと」

 興奮気味に語り合う男たちの会話を聞きながら、博文もしばし自分の窮状を忘れていた。
 胸の内に、どこかに無くした筈の熱を感じた。同時に、怒りを含んだ焦燥感が湧いてくる。
 携帯を取り出し電話をかけた。

「今川さん? ご無沙汰しております、小池ですが……。おお、俺だ、ひさしぶり。……実は今新橋にいてさ。いや、たまたまこっちに用があって。ああ、そうだ。もしよければ、……ん? ああ、そうだけど。……そうか、そりゃ大変だな。いや、ダメモトで電話しただけだから、気にしないでくれ。いや、……うん、まあ俺もぼちぼちだ。ああ、そうだな。……じゃあまた、近いうちに。それじゃあ、また」

 電話を切って博文は深い溜め息をついた。何かを睨みつけるように、じっと宙を見つめている。
 だがすぐに我に返ると、食べかけのカツカレーを慌ただしく口へ運ぶ。
 相変わらずの辛さに、また洟をすすり上げる。
 しかしその目には、微かに決意のようなものが浮かんでいた。

◆ ◆ ◆ ◆

【10月13日[月]21時44分(現地時間)、アメリカ合衆国ニューヨーク】
 コロンバスサークルから道幅の狭くなるブロードウェイを南下し、55番通りの角を右折したところでタクシーが停まった。
 降りてきたのは、白人女性だ。
 夜だというのに、薄いアンバーのサングラスをかけていた。見事な身体のラインを浮かび上がらせているのは赤いドレス。肩からシルクのショールをかけ、ブラウンゴールドの髪の上に小さな花飾りのついた帽子をかぶっていた。
 女は優雅な動きで車を降り、角の店へ向かう。
 建物から突き出した庇(ひさし)には、「アップルジャック・ダイナー」のロゴが白く輝いている。
 いつものように店内はにぎわっていた。
 店先は同じロゴの描かれた柵で囲われ、そこにもテーブルが並んでいる。明るい店内の光に照らされてはいるが照明はそれだけで、外席は落ち着いた雰囲気だ。
 そこも、客で埋まっている。

 外の一番端のテーブルに、男が一人で陣取っていた。
 歳は30前後、褐色の肌をした大柄の男性だ。
 イタリア製らしいダークグレーのスーツは、よくプレスが効いて皴ひとつない。鴇色(ときいろ)のネクタイは滑らかな光沢を放ち、靴もよく磨かれていた。
 テーブルの上には白ワインのグラスと、食べかけのリングイネが残っている。男は物思いに耽るかのように、静かに街を眺めていた。
 その視界を遮るように赤いドレスの女が立ち、何も言わずに向かいの椅子に腰を下ろした。
 男は顔を上げじろっと女を見ると、少し遅れて低い声を漏らす。

「いつまで待たせる気だ」

「NSAがピリピリしててね。エシュロンのシステムに一部障害が出てる……」

 囁くように女はそう答えた。
 その途端、苦虫を噛みつぶしたような男の表情がさらに険しくなる。

「場所をわきまえろ」

「あら、それを私に言う? そういうセリフは、私なんかより彼らに言って欲しいんだけど?
 例の亡命事件以来、『PRISM(プリズム)』なんて何度『化粧直し』したって追いつきゃしない。『メイク』で誤魔化せるレベル、とうに超えてるっていうのに」

「でも、だからこそジャパンも、独自に動こうと思い始めたんじゃないか?」

「何? 動かすのが目的? あるいはそう思わせておきたい、とか?」

「さあ、その辺は俺にもわからん。わかる必要もないしな。少なくとも俺は関わってないぞ。ただ……」

「ただ、何?」

「ガツンは常軌を逸している。何もないのに殴られたような衝撃が生まれ、しかも音まで聞こえるっていうじゃないか」

「それが『HAARP(ハープ)』のせいだなんて、……まさか本気でそんなこと考えてるんじゃないでしょうね?」

「いや、それはないな。恐らくジャパンにもその可能性について考えているヤツがいるだろうが。
 しかし、何も発情させる必要はない筈だ。場所やタイミングだって綿密に調整するのが妥当だし、そもそもあそこまでおおっぴらにやる意味が不明だ。実験だというなら余計に」

「リスクが大き過ぎる、わよね」

「それに、何といってもあれだけクレイジーな現象だ。意図した通りの結果と考えるには無理がありすぎる。そもそも既存のテクノロジーの範疇をはるかに超えているしな。
 何らかの因果関係があったとしても、──少なくともそれ以外に、俺たちの知らない別の何かが関わっている筈だ……」

「何か、って?」

「それがわかれば『何か』などとは言わないさ」

 真剣な表情で男はそう呟いた。
 その顔を見つめ、女は小さく笑う。

「わかる必要はないとか言ってるくせに、随分熱心ね。突然エシュロンに潜らせたりHAARPの情報欲しがったり、一体どういうつもり?」

「何らかの形でこの国の別の機関が関与している可能性があるなら、知らずに済ますわけにもいかないんでね」

 その時、ウエイターが注文をとりにやってきた。
 女は、男が飲んでいるのと同じ白のグラスワインを頼んだ。
 ウエイターが下がると、男の目をじっと見つめ、探るような声で尋ねた。

「……もしかして、地球外案件が絡んでる、とか?」

「安心しろ、そっち方面に首つっこむつもりはない。元々関心もないし、常識の通用しない相手は苦手でね。
 生憎俺は、ロマンチストじゃないんだ。ディズニーはもちろん、実はスピルバーグも見ていない。……1本もね」

「ふーん、面白い人ね。あ、今のは悪口じゃないわよ? これまで、どれだけの国家予算がハリウッドに注ぎ込まれたことか。
 ……ロマンチストは、多額のお金が何かを得るために、──あるいは夢を実現するために使われると思ってる。自分が支払う時ですら、実際に何を買っているのか考えたりしない」

「そのおかげかどうか知らないが、未だにこの国は世界一の経済大国だ。何が不満だ?」

「別に不満はないわ。
 でも、本当のところお金って、額が増えれば増えるほど、結局はそれを動かす人が自分たちの利益とステイタスを守るために使われるでしょう? 政府が秘密裏にプロジェクト立ち上げるのも、企業が環境保護や人権活動に寄付するのも。
 ……もちろん金額は違うけれど、私が新しい靴を買ったりクルーズに出るのも、ね。
 わかるでしょ、私の言ってること」

「ああ、多分そうなんだろうさ。いつも遅れてくる君を俺が待つことになるのも、こうしてワインを飲んでいるのもな」

「じゃあ、はい。自分がリアリストだと信じてる人たちが喜びそうなヤツ」

 そう言って女は、テーブルの上にメモリカードを滑らせた。
 男は静かにそれを手のひらで隠す。一瞬渋い顔になったが、女の発言に反論はしなかった。

「──それで、ジャパンは今どうなってる?」

「どこまで掴んでるの?」

「それを確認するために聞いているんだが」

 女はきつい目で男を睨みつけた。だが、男は何もいわない。
 彼女は小さく溜め息をつき、説明を始めた。

「警察に通報が入ったのは、日本時間の9日深夜。N市のほぼ中央にある駅でガツンが発生したということだった。
 その後、市内の別の場所からも多数の通報。そのすべてがガツンで、救急の電話も鳴りっぱなし。
 ……あっちじゃあ911じゃなくて119だって。知ってた?」

「話を続けてくれ」

「翌朝には警察と消防の電話がパンク状態。県にも苦情や救助要請、事態確認の電話やメールが殺到。
 電車やバスなどの輸送機関は、早朝からN市を出ようとする住民で混雑し、幹線道路では交通事故も発生してる。
 しばらくして、市外に通う会社員や学生の大半が何の連絡も無く欠席していることが判明。逆に外から市内へ向かった者の3分の1も、連絡が途絶えた」

「市内の警官もかなりの数がガツンに見舞われたと聞いたが?」

「市警だけでなく、昼前には県警や市外の消防がN市に入ったんだけど、半数以上がガツンにやられたみたいね。正確な被害状況については、現在調査中……」

「公式発表よりも、事態は深刻なようだな。想定はしていたが」

「普通のガツンなら数時間で収束するのに、繰り返し起き続けている。これまでの何十倍、何百倍の頻度で発生しているのは確かね。しかも、範囲がケタ外れ、……N市全域だもの。
 で、その日の午後には政府の対策本部が設置され、警察が非常線を張ってN市への進入を制限したってわけ」

「相変わらず、あの国は対応が遅いな」

「ハリケーン・カトリーナのこともあるから、他人のことどうこう言えないと思うけど?」

「現地の調査はどうなってる?」

「そっちはフクシマや地下鉄サリンの教訓もあって、早々に自衛隊がNBC偵察車を出したわ。医療・疫学チームもすぐに派遣されたし。ただ、今のところ何の痕跡も見つかっていない」

「感染の拡大は?」

「封鎖で市内に収まってる。調査や救助に入った者も出られなくなったけどね。消防、所轄の警察、市の行政機関、それに住民の殆ども電話やメールで連絡がとれ、無事が確認されてる。
 事故による死傷者は出てるけど、事態の深刻さを考えれば奇跡的といっていいほど被害は小さいわ」

「──ガツン対策は現政権の公約だったんじゃないのか?」

「まあ、確かに遅れをとっている部分もあるけど、よくやってる方じゃない? 今回は、これまでのものとは規模も継続時間もケタ違いだからね」

「まさか、『自衛隊の出動は快挙だ』とかいうつもりじゃないだろうな?」

 男が疑り深そうな目で女の顔を見た。
 女はニヤっと笑って、男の目の奥を覗き込む。

「あれは表向き、というか、仕事をしやすくするため。……例の組織が本格的に動いてる。自衛隊や警察とも連携してね」

「──ようやく意味のある情報を聞けたな」

 男はそう言って、初めて小さな笑みを口の端に浮かべる。
 ウエイターがワインの入ったグラスを運んできた。
 女はグラスを掲げて乾杯のポーズを作り、男がそれに応える前に口元に運んだ。
 一口咽喉を潤し、唐突に女が立ち上がった。

「ごちそうさま」

 軽く右手を上げ、背を向ける。
 だがすぐに腰から上を緩やかにひねり、男の方を振り返った。

「言い忘れてた。あの女科学者、半年前に日本に戻ってるわよ。NASAから何人か引き抜いて……。去年、彼女がこの国に戻ったのはそのためだったみたいね」

「言っただろう、常識の通用しない相手はごめんだ。ガツンに地球外、……マッド・サイエンティストもな」

「あら、あなたの古い知りあいじゃなかったかしら?」

「関わるつもりはない」

「……だけど、チエとはたまに連絡とってるんでしょ?」

「どこでその名を聞いた?」

 男の顔が、再び険しいものに変わっていた。
 だが女は意に介さないようで、小さく笑みを浮かべたままだ。

「あの2人、頻繁にメールしてるわよ? 内容まではチェックしてないけど。何度か会ってもいる。
 ……あ、今のは仕事のついでに得た情報だから、個人的なサービスってことにしておくわ」

「そりゃどうも」

「それと、──もしディズニーを見る気になったら、連絡して。一緒に行ってあげる。あなたはきっと気に入ると思う。
 ……じゃあね、マイク。シーユー」

 女は小さく笑い声をあげながら再び背を向け、にじむネオンの間にその姿を消した。
 テーブルの向こう側に、ほとんどワインの減っていないグラスが残されていた。グラスの縁には、ダークチェリーに似た色で口紅の跡がへばりついている。
 男はしばらく黙ってそれを見ていたが、やがて小さく溜め息をつき、自分のグラスに残ったワインを飲み干した。

◆ ◆ ◆ ◆

【10月14日[火]12時18分、U県N市北部、字嶺(あざみね)】
 その日は朝から、抜けるような青空が広がっていた。
 透き通った日差しが、障子越しに柔らかな光となって室内を照らしている。
 先日換えたばかりの畳が、清々しい芳香を放っていた。
 だが、い草の香りに混じって、どこか淫靡な匂いが漂っている。
 部屋の中央に敷かれた布団の上に、寝巻き姿の老人が仰向けに横たわっていた。
 老人の股間では、固い怒張が天を向いて着物をつきあげている。
 熱のこもった目で、それをじっと見降ろす女がいた。
 セーターを着ているが、下半身は裸だ。ジーンズと下着は、布団の脇に丁寧にたたまれている。
 女は立ったまま股間に右手の指先を差し込み、小刻みに動かしていた。

「ああ……」

 女の膝が左右に開き、わずかに腰が落ちる。大きく尻を前後に揺らし、その度に熱い喘ぎが上がった。
 やがて彼女は手を離すと、よろよろと枕元に歩み寄る。
 潤んだ目で老人の顔を見つめ、大きく足を開いて彼の顔を跨いだ。
 そのままゆっくり腰を降ろし、畳の上に膝をつく。
 立膝になった。
 股間は老人の顔の真上だ。両膝は老人の頭を挟むようにしている。
 彼女は再び自分の股間に手を伸ばし、濡れた襞をゆっくりと指先で開いて見せた。
 じっとそこを凝視する老人の喉仏が、大きく動く。
 女の指が襞の中心をなぞった。
 つっと、熱く潤んだものが滴り落ちた。
 老人は唇でそれをうけとめ、さらに求めて首を反らす。
 だが、リハビリを続けても麻痺が消えない身体は、思うように動かなかった。

「あ、明日奈(あすな)さん、そのまま顔へ押し付けてくれ……」

「あああっ、ごめんなさいっ。そんなことしたら、息ができなくなってしまいますっ。私、お義父(とう)さんに元気になって欲しい……だからっ」

「私はもう十分生きたよ。あんたにも散々迷惑をかけてきた。もう命など惜しくはない。だから、頼む。さあ……」

 そう言って老人は、比較的麻痺が軽い左手をゆっくりと伸ばした。
 皺だらけの指が襞を撫で上げ、先にそこをまさぐる女の指先に触れた。
 老人はそのまま、震える自分の指をずらし、蜜壺の奥深くに埋めていく。
 一瞬止まった女の指が、再び突起を擦っていた。その速度が徐々に上がり、びくびくと何度も太ももが震えた。

「んんんっ、本当は私だって、舐めて欲しいですっ……」

 襞の内側からぐちゅっと愛液が噴きだし、老人の手を伝って滴り落ちる。
 一滴も逃すまいといわんばかりに老人は自分の手を口へと運び、舌で舐めとった。

「ああ、頼む。頼むから、もっと吸わせてくれっ」

 悲痛な声が響き、女は熱い喘ぎをあげた。
 女の膝がずるっと畳を滑り、腰が落ちた。
 老人の口をふさぐには至らなかった。だが、鼻先が襞の内側を撫で上げた。

「ああっ!」

 その刺激で耐えられなくなったのか、さらに腰がずり落ちた。
 くぐもった老人の声が消え、かわりに女の熱い喘ぎが尾を引いた。

「あああああ、だ、駄目っ、こんなことっ。……息できなくなっちゃうっ」

「んむぐぐぐ……」

 意味不明の声が股間に響いた。
 その震えが、さらに女の官能を刺激する。

「ああああ、気持ちいいっ……。で、でもっ、でももう終わりにしないと。ああ、ほ、本当に、もう後、……少しだけっ」

 そう言って女は顔を左右に、腰は前後に振っていた。
 老人の顔に、熱い粘膜が擦り付けられる。
 こんこんと湧き出る体液が、鼻の穴から奥に入り込む。
 それでも老人は顔を背けようともせず、すぼめた口で吸い続ける。
 布団の上に投げ出された麻痺の強い右手が、ひくひくと何かを掴むような動きを見せた。

 突然、ずざっと音をたてて、障子が開いた。
 透明なガラス窓を通り抜けた日差しが、女の下半身を白く照らす。
 次の瞬間、振り返った女の肩が横から押されていた。
 何が起きたのか気付く間もなくバランスを崩し、布団の向こう側に転がり倒れる。
 慌てて身体を起こすと、目の前に黒いセーラー服を着た少女が立っていた。
 少女は厳しい顔で女を睨んだ。

「殺す気かっ?」

「えっ? ああ、まさかっ。そんな気はありませんっ」

 丸めた背中を震わせながら、女はいやいやをするように首を横に振る。
 老人は荒い息をぜいぜい言わせ、まっすぐ天井を向いていた。だがその瞳に、突然の闖入者の姿は映っていないようだった。
 そんな老人を見下ろし、少女が女に尋ねる。

「……父親か」

「ぎ、義理の父ですっ。でも、でも、ガツンだからっ。お義父さんも私もガツンなんですっ。少しでも気持ちよくなって欲しくて。私が元気にしてあげないとっ」

 老人の身体を庇うように抱きつこうとする女を制し、少女は布団の脇にしゃがみこむ。老人の顔をじっと見つめた後、薄く目を閉じると、何やら口の中で小さくつぶやいた。
 手のひらを老人の額にあて、反対の手でその肩を揺する。
 彼はまだ荒い息をしていたが、わずかに目の焦点が合う。
 少女が静かに告げた。

「この人は、あなたの回復を望んでいる。その気持ちに応えて生きる気はあるか?」

「わ、私は別に死にたいわけじゃない。……ただ明日奈さんを悦ばせたいだけだ」

 少女は小さく頷いて、左手を差し出した。
 指先に、銀色のメダルがあった。その中心にはうずらの卵ほどの大きさの青い石が輝いている。
 二人の手をとり、メダルの上に重ねた。
 右手の小指と薬指を折り、静かに腰の脇へ腕を開いていく。

「……おいきなさい、その愛の下に」

 微かに石が光ったように見えた。
 女が一瞬驚いたような顔になり、すぐに眉間にしわを寄せ、苦悶に似た表情を作った。
 石に重ねられたのとは逆の手が、強く股間を押さえ込んでいた。
 老人の皴だらけの手も、きつく握りしめられる。

「うおおっ、何っ?! ……おおおおっっっ」

 仰向けに横たわったまま、老人は手足を痙攣させながら呻いた。
 その脇で身体を丸めた女も、激しく全身を震わせている。

「ああいぃっ、お父さんお父さんお父さんっ、あああああ」

「あ、明日奈さんっ、明日奈、明日奈ぁぁっ!」

 老人の着物の前が、みるみる染みになっていった。
 うずくまった女の身体の下で多量の体液が迸り、真新しい畳に吸い込まれていく。
 二人は、ほぼ同時に絶頂を向かえていた。

 少女が立ち上がった。
 ぐったりと弛緩した二人を見下ろし、部屋を後にする。
 玄関から外に出た。
 よく晴れた空に、白い雲がひとつふたつ浮かんでいる。
 だが、彼女の目には、ゆらゆらと漂う靄(もや)が見えていた。
 丘陵に並ぶ住宅地の南西に連なる山のあたりで、その靄が濃くなっている。
 四方を見回し周囲の “脈” を窺い、彼女は庭へ向かう。
 どこに隠し持っていたのか、20センチほどの長さの針を手にしている。
 庭の隅にしゃがみ込み、指先を滑らせ地面に円を描いた。
 さらにその円の内側に接するように、一筆書きで五芒星を描く。そして星の中心に、銀色に輝く針を突き刺した。
 半分ほど地中に埋めたところで、針の尻に左手の人さし指を置き、目を閉じて静かに息を吐き出す。
 右手は身体の外に軽く開き、人さし指と中指をまっすぐ揃えて伸ばしている。
 数回深呼吸を繰り返した後、彼女は瞼を開いて小さく唇を動かした。

「虎よ! 虎よ! 我が闇の左手で、風の十二方位をここに刻まん。ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」

 少女は20分程かけて敷地の四隅で同じことを行ない、それから老人と女のいる部屋に戻った。
 女は服を身に着け、老人の着物とシーツを取り換えていた。
 すでにガツンの影響下から抜け出している二人が、礼を言う。
 少女は小さく会釈してそれに答えた。
 よく見ると、黒いセーラー服のスカートには皺が目立ち、美しい顔に疲労の色が浮かんでいる。だが彼女は、女が何を尋ねても自分のことを語ろうとはしなかった。
 すすめられた茶を、静かに礼を述べて口に運ぶ。

「これでしばらくガツンは起きません。この家の中は安全です。外は相変わらずガツンの嵐だけど、ここにいる限り問題ない」

「でも、買い物とかもあるし。……街中でガツンに遭うのは困るけど、かといって外に出ないわけにもいかないのよ」

「宅配サービスとかも使える筈です。
 ご存知だと思いますが、ガツンの症状は3~4時間で消えます。このあたりでは繰り返しガツンが起きてるけれど、それ以外は普通に生活できる。やってるお店もあるでしょうから、配達してくれるところを探してください。
 ……デリバリの人が来たら、玄関の外に置いて行ってもらえばいいんです。念のため鍵をかけて。中に入れなければ大丈夫だから」

 小さく微笑みを浮かべて話す彼女に、先程までの険しい表情はない。顔には疲労がうかがえるが、笑うとできる笑窪や、黒目がちの大きな瞳は歳相応に可愛らしかった。
 だが唇が閉じられた途端、再びその顔から表情が消え、急に大人びて見える。何か大きな秘密を隠しているようでもあった。
 そんな彼女に、横になったままの老人がしわがれた声で言った。

「すっかりお世話になりました。……どうやらお嬢さんは大変な仕事をされているようだが」

「誰でも、大変なことってあると思います。私の場合、それがちょっと他の人と違うだけ。おじいさんもお身体、大事になさってください……」

「この通り私は、息子の嫁に迷惑をかけ通しでね。年甲斐もなくあんな醜態まで晒してしまい、恥ずかしい限りです。いっそあのまま往生すればよかった……」

 そういって老人は自嘲気味に笑った。
 辛そうな表情を浮かべ、女が割って入る。

「お義父さん、そんなこと言わないでください。家族なんですから当然じゃないですか。それに、さっきのだって、その、ガツンなんだから。……仕方ありません」

 そう言って彼女は、微かに顔を赤らめる。
 少女は小さく頷き、老人に尋ねた。

「『死にたいわけじゃない』、そう言いましたよね?」

「それはそうだが、……でも、この身体だからね」

「弱気にならないでください。……あなたが元気で長生きすることが、ご家族には一番嬉しい筈です」

 隣で聞いていた女が大きく頷き、そっと老人の手をとった。
 それを見て少女はまた小さくほほ笑み、立ち上がった。
 小さく会釈して二人に背を向ける。
 玄関までついてきた女が心配そうに声をかけた。

「あの、……もう少し、休んで行ったらいいのに」

「ありがとうございます。でも、もう行かなければ……」

「凄く疲れた顔してるわよ? あなたが来なければ、今ごろどうなっていたか。そうだ、ご飯くらい食べていきなさいよ。よければ泊まっていったら? 夕方には主人も戻るし。
 ……この数日、ガツンで暮らしは滅茶苦茶だけど、それでも毎日仕事に行って、夜にはちゃんと帰ってくるのよ」

 そういって女は声を出して笑った。
 少女は固い表情になり、毅然とした声で答えた。

「すみませんが、行かなければならない場所があるので。
 ……それと、お帰りになったご主人を家に入れれば、結界が破れます。また、ガツンがやってきます」

「でも、うちの人を入れないわけにはいかないじゃない?」

 女はそう言って小さく微笑む。
 その顔を見つめ、少女は声を潜めて答えた。

「おじいさん、今は生きる気持ちが戻ってきています。でも、気力も体力も落ちている……。ガツンで死ぬようなことは普通はないんですが、その人の衝動を大きくする可能性はあります。
 死への欲求が強いところにガツンが来たら、今度こそ本当に危ないかもしれない」

「そんな!」

 女は言葉を失い、目の前の少女をじっと見つめる。
 少女は小さく頭を下げ、靴を履いた。

「ご主人には別の場所で休むよう言ってください。ちゃんと理由を説明して、しばらく、……そう、ガツンが収まるまでの間です」

 そう告げて玄関の扉を開け、燦々と降り注ぐ日差しの中へ少女は足を踏みだす。
 明るい光が黒いセーラー服を包み込んだ。
 ゆっくりとドアが戻され、隙間が細い線になっていく。

「収まるまでって、……いつまで待てばいいの?」

 その質問に少女は答えない。そのかわり小さいがはっきりした声が聞こえた。

「お茶、ごちそうさまでした」

 その時にはすでに、扉は完全に閉まっていた。
 女は不安げに少女の残像を目で追い、しばらく玄関で立ちすくんでいた。

◆ ◆ ◆ ◆

【10月14日[火]13時43分、U県S市、蔵人(くろうど)】
 狭間大橋のS市側に位置する蔵人は、海沿いの町だ。
 江戸時代後期から物流の拠点となった場所で、現在も多くの倉庫が立ち並んでいる。1998年以降、取引は減少したが、それでも普段は多数のトラックが出入りしている場所だった。
 だが今は、橋を封鎖する警察と自衛隊の部隊が道路を占拠している。
 そこへ新たに4台の車両が到着した。
 化学・生物装甲に加え電磁防御が施されたSUVが2台、後続の2台は同じ防御システムに加え、各種の計測機器を装備したワンボックスのバンだ。
 車列は、道を塞ぐ自衛隊車両の数メートル手前で停車した。

 ドアが開き、クルーが降り立った。
 総勢8人、全員がフルフェイスの黒いヘルメットをかぶっている。シールドが陽光を反射し、顔はよく見えない。
 だが、首から足先までをカバーする黒いスーツは、胸や腰が豊かな曲線を描き、光沢を放っている。くっきりと浮き上がったそのボディラインは全員女だ。腰にまわされたベルトには小型のバッグと電子機器がつけられている。
 しなやかな黒豹のようにも見える女たちは、すぐさま一列に並んだ。
 一番端の女がヘルメットを脱ぎ、現場を統括している県警の警視の前に歩み出る。
 髪をかき上げ、端正な顔には何の表情も浮かべずに、女が小さく会釈した。

「お疲れさまです。CGA、姫野真琴(ひめのまこと)です。ヒトサンマルマルの報告は車上で確認しました。その後、何か変化は?」

 警視は目を細めた。
 女はまだ若い。恐らく20代半ば、あるいはもう少し上かもしれないが30にはなっていないだろう。警視からすれば自分の娘と同じ年代の小娘に過ぎない。
 だが、その美貌に押されたのか、あるいは職務上の規律に忠実な故か、彼は姿勢を正し敬礼をして彼女の問いに答えた。

「県警の山下(やました)です。状況は特に変化なし、新しい被害報告は入っていません。市内の防犯カメラ、市警からの連絡ともに、混乱は確認されず。ここ数時間は、屋外でのガツンの発生の報告なし。
 ……TVリポーターとカメラマンの2名は麻酔で眠ったまま、移送完了。当然ですが、銃の使用については一切放映されていないことを確認済みです」

「わかりました。では、引き続き警備と現場の統括、よろしくお願いします。準備ができ次第Gエリアに入ります」

「了解」

 山下は再び敬礼を返した。
 Gエリア、つまりガツンが発生するエリアに入れば、限りなく被害に遭う可能性が高い。
 もちろん、CGAがガツン対策に特化した機関であることは、上層部から知らされている。
 これまでガツンの調査や対策にあたってきた専門家がほぼ漏れなく関わっていることや、公安や防衛省、CIRO(内閣情報調査室)や国家安全保障会議とも横断・連携する形で組織されているということも耳にしている。
 だが、山下にわかっているのはそこまでだ。
 警視の立場にありながら、それ以上の情報は渡されていない。
 今回の作戦行動についても、はっきり告げられたのは、彼らが必要な訓練を受け、有効な装備をしているということだけだった。
 CGAがより正確にガツンの実体を把握しているのは恐らく間違いないし、あえてGエリアへ向かうというなら、何らかの対処法もあるのだろう。──山下にそれ以上詮索をするつもりはない。
 だが彼はすでに何度か、ガツンの被害者や発生現場を見ていた。
 N市警からの連絡で市内の状況もおおよそ掴んでいる。市内の警察署や交番にいた同僚や部下、彼の命令で出動した警官たちは、全員がガツンにやられていた。
 その非常識で唐突な現象は、理屈では捉えきれない。有効な対策は依然見つかっていないし、肉体の鍛練や強い精神力なども、ガツンの前では全く意味をなさないように思える。
 だが、姫野真琴は表情一つ変えることなく、自らそこへ赴くと言う。
 実際に会うまで、現場の指揮官が若い女であるとは想像もしていなかった。さらに、クルー全員が女であることにも面食らった。恐らく皆、姫野と同年齢か、あるいは下に思えた。
 彼女の美貌や肉感的なボディラインについ目がいく。
 さすがにそれ以上想像を巡らすようなことはしないが、この女がガツンに感染したらどうなるのか、何の興味も湧かないといえば嘘になる。

 しかし、すぐに娘たちのことが思い出された。
 山下の自宅はN市にあった。二人の娘はすでに実家を出ていたが、同じ市内のアパートに姉妹で暮らしている。スーパーガツン発生時、彼自身は仕事で市外にいたが、娘二人は封鎖されたN市に取り残されたままだ。
 長女は父と同じ道を選び、地元の警察に勤める警察官でもある。大学生の次女とともに無事は確認されているし、電話で話した時には、二人とも被害にあっていないと言っていた。
 しかしそれが、親を心配させまいとしてついた嘘である可能性は多分にある。二人ともすでに成人しているとはいえ、それでもガツンの餌食になっているかと思うと心中穏やかではない。

 姫野真琴とその後ろに並ぶ女たちに、娘たちの姿がだぶって見えた。
 不安と怒りを胸に押し込み、山下は無言のうちに、うら若きCGAクルーの無事を祈った。

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<CM前アイキャッチ>
<CM挿入>
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< 「PはペニスのP」《Bパート》へ続く >

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