帝都狂躁曲 6

-6- 救出された紀子の豹変 

 服部紀子救出の報せが、篠宮文仁探偵に届いたのは、誘拐から三日後の事でした。帝都警察の池上警部が電話をしてきてくれたのです。
「篠宮さん、紀子さんが無事保護されました。すぐに来てくださいますか。彼女も貴方に逢いたがっていますよ」
「そうですか・・・」
 篠宮探偵は助手の救出にホッとしつつも、どこか附におちない表情で、親友の池上警部を問い質します。
「紀子君は自分で脱出してきたのですか」
「ええ、相当恐い目には遭った様子でしたが、自分で五十面相の配下の隙をついて、逃げ出してきたようです」
「フム、申し訳ありませんが、紀子さんを警察署で足止めしておいてくれませんかね? できれば鍵の付いた取調室などに・・・」
「え、紀子さんをですか? そりゃまたいったいなぜです」
 池上警部はこれまた附に堕ちない様子でしたが、長年の付き合いのある名探偵の頼みとあって聞いてくれる様子でした。
「いくら紀子君が快活な娘とはいえ、五十面相に誘拐された女の子が自分の力だけで脱出できるとは思えない・・・。これには何か裏があるはずだ」
 さすがは名探偵です。紀子の脱出にはなにがしかの罠があると睨んだ様子です。
 
 ここは帝都警察本部地下にある一室です。保護された服部紀子は御淑やかな性格そのままに、じっと静かに想い人との再会を待ちわび、楚々として座っておりましたが、池上警部が姿を見せると、思いのたけををぶつけるように口を開きました。
「篠宮先生はッ、先生はいらっしゃいましたの? 紀子ッ、一刻も早くお会いしたいのです」
「まぁ、まぁ、紀子さん、落ち着いて。じきいらっしゃいますよ・・・。それよりも、誘拐されていたときの事を少しお聞かせいただけませんか」
 すると、紀子は急に悲しげに美貌を歪め、大きな瞳に涙をため始めるではありませんか。
「それをお聞きになるのね・・・。池上さんは御存知ないからそんなことをお聞きになれるのよッ。わたくし、あの大悪党に捕まってどんな酷い仕打ちを受けたことか・・・」
「そ、それは申し訳ない」
 職務に忠実な池上警部も、日頃から可愛いと気にかけている紀子の涙にたじろぎ、可憐な少女が受けた仕打ちを想えば稀代の大怪盗逮捕のためとはいえ、それ以上問い質すことはできなくなってしまいました。そんな無骨で初心、言い換えれば純な青年である池上警部を責めるような口調で紀子は言います。
「それに、ここは取調室でしょ? やっとの思いで悪い人たちから逃れてきたわたくしが、なぜここに閉じ込められなければならなくって? ひどいわッ、池上さんひどいッ」
 紀子は拗ねたような口調で続けます。
「篠宮先生もわたくしに逢いに来てくださらない理由が分かったわッ、池上さんはわたくしが五十面相に酷い目に遭わされて、先生を裏切ったかもしれないってお思いなのでしょ? 先生にそう告げ口をしたから、篠宮先生はわたくしを信用してくださらないんだわ。嗚呼、紀子は哀しいわッ!!」
 と、さめざめと泣くのです。

「違うんだ、紀子さん。先生はお忙しいだけだよ。大事な紀子さんという助手を信用しないはずはないじゃあないか。僕だって君を疑ったりするもんか。誰よりも可愛いと思っているし、紀子さんが五十面相にさらわれた時にはどれだけ心配したことか。上司は替え玉とはいえ、帝都貴族を誘拐されたなどとは警察の名折れだからと、紀子さんの拉致を伏せていた。でも僕は命令に逆らってでも、君を捜索したいくらいだった」
 日頃、紀子に抱いている思慕の情を思わず吐露する純情な池上警部。すると、紀子はぴたと泣き止み、少々恥じらうような眼差しで上目遣いに、警部を見つめます。
「ホントに心配してくださったの・・・? 嬉しいわぁ」
 紀子は熱っぽい潤んだ瞳を向けて、感激に白い貌を紅潮させています。そんな可憐な乙女に心臓を高鳴らせる警部。ああ、やはり彼は純情です。
「ねぇ、池上さん・・・。紀子も貴方に頑張って五十面相を逮捕していただきたいの。ですから、勇気を振り絞って五十面相の隠れ家で起こったことを、池上さんにだけお話しますわ・・・」
 紀子は意味深に微笑すると、すっと椅子を立ち上り、水色のワンピースの胸のボタンに指をかけるではありませんか・・・。
「の、紀子さん、な、何をするつもりかな?」
 突然の出来事に狼狽する池上警部でした。

「ねぇ、池上さん、わたくしが五十面相から受けた仕打ち、お分かりかしら?」
 憐憫且つ哀しげ、そして微かに淫靡な声音の紀子は、真っ白なパンティ以外をすべて取り去り、大きな乳房だけを両手で隠し、恥じらうように池上警部の前に立ちます。その白い肌のところどころには、残酷な鞭打ち刑に処された赤い痣が蛇のように刻み込まれているではありませんか。
「あの稀代の大怪盗は、わたくしを鎖で繋いで鞭で打ち据えましたの。・・・とても怖くてつらかったわぁ・・・。でもわたくし、絶対、篠宮先生・・・そして池上さんたち帝都警察を裏切りたくなかった・・・。ですから痛みで何度も何度も気を失いながら必死に耐え忍びましたわ」
 紀子は潤んだ瞳で、何かを訴えかけるように警部を見つめます。
「そ、それは受難でした。もっと早く助けてあげられなくて・・・申し訳ない。本官痛恨の極みです」
 といいつつ、憧れの乙女のほとんど全裸に近い見事な肢体を見せつけられた池上警部は生唾を飲み込みます。
 
 そんな純情ぶりを隠し立てする術もない警部を紀子が「襲い」ます。いきなり彼を抱きしめた紀子は、素足の踵をぐっと持ち上げると、ピンク色の唇を初心な警部の口に重ね、あろうことか彼のファースト・キッスを奪ったのです。
「んんぐッ、の、のりこ、さん・・・い、いけないッ、こんなところで、むむちゅぅ・・・」
 しばしの静寂の後、唇を離した二人の間に唾液の糸が橋を架けます。
「ぷはぁ~~。警部さんの初接吻、戴いちゃいました」
 艶めかしく、そして悪戯っぽく微笑む紀子に対し、無骨警部は放心状態でした。賢明な読者の皆様ならお判りでしょう。池上警部は女性と交際した経験がありません。これは別に恥ずかしい事ではありません。帝都では職業男子は皆真面目一徹、ほとんどはお見合い等で初めて異性に触れあうのです。ここでは、純粋可憐な少女とはいえ、オトナの男性に囲まれている7歳年下の少女の方が、遥に優位なのです。しかも、紀子は以前の紀子ではありません。そう、五十面相の魔の洗礼で心身を操られているのですから・・・。

 内側から鍵をかけ直した取調室は、魔性の乙女と化した紀子の独壇場でした。
「の、紀子さん・・・君は何をしているかわかっているのかい・・・」
 そういう池上警部も紀子の魔性と、以前とは異なる清楚さとは裏腹の淫乱ともいえる行為に疑心暗鬼になっています。ですが、ただでさえ、恋い慕う紀子の魅惑の姿に『完落ち』してしまった警部は、彼女を疑う思考すら途中で停止してしまったかのように翻弄されるばかりです。手錠を後ろ手に架けられパイプ椅子に括りつけられた警部。その脚の間にしゃがみこんだ裸同然の紀子は、制服のチャックを愉しむように微笑みながら下ろします。
「よ~~く、わかっておりますわ。わたくし、池上さんの【男性】をこれからもっともっと逞しくして差し上げるんですもの」
「馬鹿なッ、あぁッ、正気か、紀子・・・さ・・・ん」
 紀子は微笑を続けながら、警部の男性自身を取り出し、しげしげと見つめ続けるではありませんか。

「や、止めてくれ、紀子さん・・・」
「うふふふ、かわゆいわ。やめてっておっしゃるけど、どんどんおっきくなってくる」
 好きなレディに性器を眺められるという痴情の行為に、不覚にも勃起を抑えられない警部は、既に紀子の魔手に堕ちたと言えましょう。紀子は弄ぶように、その男性自身を優しく愛撫し続けるのです。女性経験を持たない警部は敢え無くよがりました。
「・・・ねぇ、池上さん。貴方って初めて? 外国ではチェリー・ボーイとも言いますけども・・・」
 紀子は上品さを失わない態度で問い質します。無言の警部から、そのプライドを気遣う様子で満足げに頷くと紀子はふっと甘い吐息を、その猛り勃ったイチモツの先端に吹きかけ囁きます。
「まぁッ・・・湧き出てますわ。良いでしょう、け・い・ぶ。わたくしが貴方を【取り調べ】てさしあげますわ」
 紀子の魔性の笑みの美しさに、既に警部は公人としての矜持を喪失していました。
「貴方を気持ちよ~~くして差し上げる代りに、わたくしの命令通りに動くの・・・良い? 絶対よ」
 微かに冷徹な響きを匂わす紀子の命令口調。それに弱々しく頷く池上警部。
「の、紀子さんッ、す、好きだ・・・君の命令ならもう・・・この池上・・・なんでも・・・ハウアアァッ!!」
 紀子の濃厚なフェラティオに、池上警部のヨガリ狂う声がいつまでも続くのでした・・・。

< 続く >

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