SAIMIN GOで遊ぼう! 第1話

第1話

「礼ッ」

 日直の声と同時に、静かだった教室に活気があふれかえる。

「ひ~かりっ、帰りにスタバよってこーよ。前に気になるって話した秋新作のラテ、今日からだって!」

 教科書を鞄につめる小笠原光莉(ひかり)のもとに、クラスメートの桑原茉(まつ)理(り)が駆け寄ってきた。

「まつり……今日の宿題けっこうヤバくない? 今日はスタバやめよ?」

「えー平気だよぉ~」

 茉理は口をとがらせるが、そう言って結局毎回光莉の宿題を写させてくれと頼み込みにくるのだ。

「だ~め」

「けちー」

 ここでちゃんと断っておかないと、この小学校からの友人の為にならないのだ。そう思って光莉は心を鬼にする。正直に言うと、自分もスタバの新作ラテには非常に心惹かれるのだが。

「でも確かに今日の英語の宿題やっばい……二章まるまる和訳はないっしょ。だってあそこめっちゃ長くない?」

「だね。専門用語も結構入ってるし……」

 授業が終わったばかりで、廊下は部活に向かう生徒でごったがえしている。ジャージ姿の男子たちがわいわい喋りながら、小走りで光莉達を追い越していった。

 光莉たちの通う、私立昭府学園は都内では中堅よりやや上の進学校といった位置づけだ。クラスに何人かは、有名国立レベルにいく生徒もいる。とはいえ、そこまでバリバリ勉強命!という校風ではないし、 部活もそこまで厳しくはない。二年に上がったばかりの光莉達は帰宅部ということもあり、都内で遊ぶ場所に困ることもない学生生活を満喫していた。

「明日、体育長距離走だよね……やだなー」

「まつりは運動得意だからいいじゃない。わたしのほうが憂鬱だよぉ」

 階段を下りながら光莉はため息をついた。光莉は昔から身体が強くなく、長時間の運動を医者からは止められていて、体育の時間は見学していることも多い。

「え゛―っ、見学の方がいいじゃん!」

「そんなことないよー」

 天真爛漫な茉理の言葉に、光莉は苦笑いした。

 医者の診断書があってなお、大人達からの不理解は根強い。繊細な光莉は、見学ばかりの自分に向けられる視線や言葉の端々に、辛辣なものが含まれているのを感じてしまう。

「応援してるから明日は頑張ってね」

「よっしゃー光莉の応援があるならウチ頑張っちゃうぞー」

 そう言って後ろからおもいきり光莉にだきつく茉理。

「ひゃあっ、ちょっとまつり、胸に手が当たってる!」

「よいぞよいぞ~」

「よくないよッ」

 二人のスキンシップ(?)を、野球部員たちが何とも言えない顔つきでチラ見しながらすれ違っていく。

「ほらもう、思いっきり見られたじゃん、ばかー!」

「ぎゃーかんべんしてー」

 そんな馬鹿なやりとりをしながら、光莉達は帰路についた。

「ただいまー」

「おかえり。今日は早かったわね」

 光莉が家に入ると、居間から母親の瞳の声が返ってきた。

「うん、今日は宿題多いから。茉理の誘いも断って帰ってきちゃった」

 廊下から居間を覗くと、瞳は難しい顔をしてクロスワードと格闘している。それを尻目に、光莉は階段を上がって自分の部屋に入った。

 光莉の部屋は、全体が柔らかい色で統一された、いかにも女の子という感じの部屋だ。ベッドの枕元にいろいろな動物のぬいぐるみが置いてある。

「さーて、夕ご飯までにすませよう……って、あれ?」

 鞄を勉強机に置いて、制服を着替えようとした光莉は、部屋の小物の位置が微妙に変わっているのに気付いた。

 それを見た光莉は、一目散に部屋を出て、廊下の向かいの部屋のドアをノックした。

「ちょっと、ヒロ!」

「な、なんだよっ」

 部屋の中から聞こえてきたのは少年の声。

「またわたしの部屋に勝手に入ったでしょ。やめてって言ってるじゃん」

「なっ……は、入ってねーよ!」

「なにか借りたいものあるなら言ってよ。別にかしたげるからさ」

「別に借りたいものなんかねーよクソ姉貴! ばーか! しね!」

 不機嫌そうな声。三つ下の弟の月浩はいつもこの調子だ。去年までは怪しい仲だとからかわれるくらい、仲の良かった姉弟なのに。どうしてこうなってしまうのだろう。光莉はため息をついた。

「へー月浩がねー」

「そうなんだよー。はぁ……」

 翌日の学校、光莉は茉理にむかって愚痴っていた。

「もぉー、意味わかんない。わたしに文句があるならはっきり言えばいいのに」

「いやぁー、言えないと思うよ」

 茉理はにやにやと笑っている。

「どういうこと?」

「そうですかー、月浩くんもお年頃ってやつですな、うんうん」

「意味わかんない」

「光莉は鈍感だからねー。そういえば一昨日、C組の竹中君からLINE交換してくれって言われたんでしょ? どうしたの」

「え? うん、交換してほしいって言われたからしたけど」

 冷やかす茉理の言葉に、光莉はあっけらかんと言った。その答えに茉理はこれ見よがしにテーブルに突っ伏して見せた。

「これだよ。ふー、なまじっか美人がこうニブチンだと弟君も大変じゃのう。いや、ニブチンだから救われてるのかにゃ?」

「なにそれ、意味わからないよ」

 言いながら、茉理の頭をノートでパシっと叩く。うにょ、とよくわからない声を上げる茉理。

「それより宿題。やったの?」

「あ」

 突っ伏していた茉理の手がゆっくりと両側に持ち上がり――そのまま合わさって拝むポーズになる。

「光莉」

「えー、やだ」

「そこをなんとかっ! 神様光莉さまっ!」

「んーどーしよっかなー」

 光莉はポンと手を叩いた。

「そういえば、スタバの新作ラテ」

「え゛」

「飲みたいなー」

「ま、まさかそれを奢れと申すかお主……」

「飲みたいなー」

 すがすがしいほどの棒読み。茉理はそれを見てギリギリと歯を食いしばった。

「くっ……わ、わかりました……」

「やったー」

 手を上げてよろこぶ光莉と、燃え尽きたジョーのごとくうなだれる茉理。教室の机を挟んでくっきりと勝者と敗者が分れた瞬間だった。

「あれ、なんだろこのアプリ」

 昼休み。光莉が昼食を終えてスマホをいじっていると、アプリストアのアプリ一覧に、見たことのないアプリが目に入ってきた。

「ん、どしたの。面白そうなのあった?」

「なんか見たことないアプリが……。さいみん、GO?」

 ストアの端に、SAIMINN GOと名前の付いた、目玉のようなアイコンが写っている。茉理が横からスマホを覗き込んで、すっとんきょうな声を上げた。

「ほほーどれ……うわキモっ」

 茉理の言葉の通り、そのアイコンは不気味なイメージを与えるものだった。見ていると、心がざわざわする。

「説明のとこなんて書いてるの?」

「えーと……『このアプリは、人の精神をマインドボールの中に捕まえて、言うことをきかせるゲームアプリです』だって」

「へー…………うさんくさっ」

 全くである。

「『注意! このアプリは決して悪用しないでください』」

「そう書かれるとちょっと気になっちゃうよね。あたし入れてみよっかな」

 そう言ってスマホを操作した茉理だが、すぐに怪訝な顔になった。

「あれ? そのアプリどこにあんの?」

「どこって、『さ』行だよ。ほら」

「……んぅー? あたしのスマホの画面には表示されないんだけどそのアプリ」

「うそ、ここに……ない?」

 茉理の言葉の通り。彼女のアプリストアには催眠GOは表示されていない。

「あたしの機種、最新なのに。っかしーなー」

「このアプリ古くて、新しいのに逆に対応してないんじゃない?」

「そんなことあるのかなぁー?」

 光莉はすぐにこのアプリから興味を失い、話題は毎週見ている話題のドラマに移っていった。

「マロンローズマキアート美味しかったね」

「おそろしい飲み物だった……財布にも腹の肉にも……」

 二人は学校が終わり、家路についていた。

「あれ一杯でカロリーいくつあるんだろうね」

「言わないで! それNGワードだから!」

「茉理全然太ってないじゃん」

「太ってるの! お腹と脚にきてるの! それが人間なの! あんたにはわからないだろうけど!」

「あはは、わたし食べても太らないタイプだから」

「うっわ腹立つ……それでいておっぱいめちゃ大きいくせに……神よ、願わくばこの女に天罰を与えたまえ……」

「そんなこと神様は聞き届けてくれないと思うよ」

「神は死んだのだ……もはやこの世に希望は……あ、ドラマの録画セットし忘れてる。走って帰るわ。じゃね」

「うん、また明日」

 光莉と茉理は、家が数百メートルの近さである。なので普段は互いの家につくぎりぎりに別れることになる。茉理はかろやかな足取りで遠ざかっていく。

「ほんと走るの早いなあ」

 茉理が角の向こうに消えるのを眺めていた光莉は、スマホに茉理からのLINE通知がきたのに気付いて立ち止まった。鞄からスマホを取り出して確認する。

『さっき飲んだマキアート、写メとるの忘れてた。送って!』

 メッセージの後に猫のマスコットのスタンプ。

(走りながらこれ打ったのかなあ)

 歩きスマホなどしようものなら、間違いなく電柱にぶつかる自信のある光莉は、メッセージを見ながら変な感心の仕方をした。

「送信、っと。……あれ?」

 LINEを閉じた莉は、自分のスマホのホーム画面にアプリが増えているのに気付いた。

(これってSAIMIN GO?)

 入れた覚えのないアプリに困惑した光莉だが、こんなことをする悪い人間は一人しかいない。

(もー、茉理また人の携帯勝手にいじったな)

 スタバにいる時、手洗いに離席したところをやられたのだろう。光莉はため息をついた。

 その時、光莉の前を通り過ぎたサラリーマンがタバコをポイ捨てした。咄嗟に注意をしようとした光莉の目に、スマホ画面の端に居座るSAIMIN GOのアイコンが飛び込んできた。

『言うことを聞かせるゲームアプリです』。

(……まさか、ね)

 光莉は半信半疑な心持でSAIMIN GOを立ち上げる。すると、白衣を着た中年男性のイラストが画面に表れて喋り出した。

『やあ、わたしはヒュプノス博士。きみが、新しい催眠マスターだね』

「……やっぱ変なアプリ」

『ものは試しだ。手近な誰かに催眠をかけてみたまえ。なるべく他に人のいないところを狙うんだぞ』

 中年男性が消え、スマホ画面がカメラに切り替わった。画面の真ん中にカーソルが出ている。

『催眠をかけたい相手をカーソルと重ねるんだ。そうするとその相手のマインドが現れるぞ』

「……こうかな」

 光莉はなんとなしに、遠ざかるサラリーマンの背中にスマホを向けた。すると、カーソルの形が変化してふわふわしたもやの様なものに変わる。

『よし、マインドが現れたぞ! 画面下のボールアイコンをスワイプして、マインドを捕まえろ!』

「えいっ」

 画面下のボールアイコンに、矢印が出てきた。光莉はそれに従って指を滑らせる。すると指の動きに従ってボールが飛び、もやに命中する。そして数回ボールが揺れたのち、画面に派手な演出が露われた。

『おめでとう、君はマインドをゲットしたぞ!』

「マインドをゲットしたって、何も起こってな――」

 言いながらスマホから目を離した光莉は、息をのんだ。歩き去ろうとしていたサラリーマンが、棒立ちになっている。

「えっ!?  こ、これって」

『さあ、命令タブを開いて、捕えたマインドに命令したまえ』

「え……ええと、『いま捨てたタバコの吸い殻を拾ってください』」

 言われるがままに、おそるおそる文字を打ち込む光莉。そして実行ボタンを押す。

 すると、サラリーマンがこちらを振り向いた。光莉は驚いてスマホを取り落としかけた。

「すっ、すいません」

 気づかれたのだと思って謝る光莉。しかしサラリーマンは光莉に見向きもせず、ふらふらとした足取りで自分が捨てたタバコの元まで歩いていくと、それをポケットに突っ込んだ。そしてまた棒立ちになる。

『SAIMIN GOで捕えたマインドは、‘にがす’ボタンを押すか、一定時間が経つと自動的に開放されるぞ』

 光莉は慌てて、にがすと書かれた画面上のボタンを押した。

「……ん? あ、あれ?」

 サラリーマンの目に光が戻る。彼は困惑したように周囲を見渡すと、怯えた目で自分を見つめる光莉と目があったのに気付き、誤魔化すように咳ばらいをすると、足早に去っていった。

 光莉が言葉もなく立ち尽くしていると、手に持ったスマホから陽気なメロディーが鳴り響いた。

『おめでとう! 君の催眠レベルが2にあがったぞ! レベルが上がると、いろいろなわざを使えるようになるだろう。これからも頑張ってマインドを捕まえてくれたまえ』

 そしてアプリは、またカメラモードに切り替わった。光莉は呆然として自分のスマホを見つめていた。

「えっ、SAIMIN GO使ったの? どうだった?」

 次の日。光莉はアプリを使ったことを茉理に話した。

「え……マジ?」

 ネタ用のパーティーグッズアプリだと思っていただろう。にやにやして光莉の話を聞いていた茉理は、話が終わるころには胡散臭げな顔つきになっていた。

「光莉、あたしを騙そうとしてないよね?」

「してないよ! ほんとにほんとだって」

「ふーん」

 それでもなお信用しきっていない顔つきの茉理だったが、なにかを思いついたようで、手をポンと打った。

「そだ! ねぇねぇ、こうしてみようよ……ごみょごにょ」

「ええー……やだ」

「いいーじゃん! できたら光莉の言うことを信じるからさ!」

「……しかたないなあ」

「えー、ここの公式がこうなって……、その結果をXに代入――」

 その日の四時間目は数学Ⅱの授業だった。気だるげな雰囲気が教室に漂う中、教師の田辺の声とチョークが黒板を打つ音が響いている。

(そろそろかな……)

 光莉はちら、と時計を見た。授業終わりのチャイムまでもう一分をきった。

 田辺は毎回授業時間を五分近くオーバーすることですこぶる生徒からの評判が悪い。その延長率は驚異の100%だ。

 光莉が横を見ると、茉理が催促するような視線を投げかけてくる。

(はいはい、わかりましたよーだ)

 光莉はスマホを取り出して、なるべく目立たないように教科書の間からレンズを田辺の背中に向けた。SAIMIN GOを起動すると、サラリーマンの時と同じように、カーソルがもやに変わる。スマホを構えたまま光莉はチャイムを待つ。胃にじりじりとした感覚を覚えて、光莉は無意識に唇を軽くかんだ。

 キーンコーンカーンコーン――

(きた!)

 全員の注意がチャイムに向いた一瞬。光莉はすかさずマインドボールをスワイプして、田辺のマインドを捉えた。チョークを持っていた田辺の手が、だらりとたれさがる。光莉はすばやく命令をうち込んだ。

(『今日は延長しない』、えいっ!)

 そして直後に、にがすボタンを押す。傍から見ると、田辺が一瞬手を止めたようにしか見えないだろう。

「えー、そしてXの二乗が――」

 田辺がそこで言葉を切る。そして続けた。

「今日はここまでにしとくか。次回はここの続きから」

 その言葉に教室がざわめく。誰もが延長を覚悟していたのだ。B組の生徒全員にとって、これは小さな奇跡といってよいレベルの出来事だった。

 光莉は勝ち誇って茉理のほうをちらっと見た。茉理は手で口を押え、目をまん丸にしている。

 田辺が去った瞬間、教室は喧騒に溢れた。

「タナベ今日延長しなかったね、どうしたんだろ」「おなか痛かったんじゃん?」「今日雪でも降るんじゃない!?」

 生徒たちはいぶかりながらも、思いがけぬ幸運に喜びながら、それぞれの昼休みに散っていく。

「すごいじゃん! マジじゃん!」

 机を寄せてきた茉理が、興奮した面持ちで食いついてきた。

「だから言ったじゃん。本当なんだって」

 光莉は弁当箱を鞄から出しながら言った。

「もしかしてそれスゴいアプリなんじゃないの!? ああ~なんであたしのスマホは対応してないかなあ。それさえあれば、お母さんがハンバーグにグリーンピース入れるのをやめさせられるのに……ぎゃー、またお弁当にグリーンピース入ってる!」

「お母さんにアプリ使うより、自分がグリーンピース食べれるようにしようよ」

 苦笑しながら光莉は自分の弁当箱を開けた。昨日の残り物の鮭、プチトマト、卵焼き。これは光莉が自分自身で作った弁当だ。

「無理だって~……こんなの人間の食べ物じゃ――そうだ!」

 茉理はぽん、と手を打った。

「ねえねえ、あたしにSAIMIN GO使ってよ。そうすればグリーンピース食べれるようになるじゃん!」

「えぇ~……」

 光莉は呆れて箸を置いた。

「往生際が悪いよ、まつり……」

「そこを何とか! またラテ奢るから! 神様光莉さま~!」

 光莉は苦笑した。茉理はグリーンピース嫌いを一向に克服しないものの、弁当に入れられた分を決して捨てたりしようとはしない。

「試すだけだからね」

 光莉はアプリを起動して、レンズを茉理に向けた。茉理は流石に少し緊張したように、背筋を伸ばして手を膝にやって身構えている。カーソルが、マインドを表すもやに変わる。

「よし……それっ」

 茉理のマインドに向けて、ボールを投げた。

 すると、ボールがマインドから弾かれてしまう。

「……あれ? もう一回」

 またもや弾かれる。

「もうっ、えいっ」

 また弾かれる。固唾を飲んで見守る光莉の視線が痛い。

(なんで? サラリーマンの時も、田辺先生のときも上手くいったのに)

 また投げるが弾かれてしまった。その時光莉は気づいたが、画面下の小さなボールのアイコンの横に数字が表示されている。それは現在「1」だ。

「……どったの?」

 茉理がいぶかし気に身を乗り出した瞬間、光莉がスワイプしたボールが茉理の精神を捉えた。

「あ」

 小さく声を上げて、茉理が脱力した。目から光が消えて、人形の様な虚ろな表情になった。

「やった! えーと……『グリンピースが嫌いじゃなくなる』でいいかな。えいっ」

 命令を送ろうと、実行ボタンを押したが反応しない。その横に赤い文字で【レベルが足りません!】と出ている。

「あれぇ? ……じゃあ『グリーンピースを食べる』でどうか、なっ」

 実行ボタンを押すと、今度はキラキラエフェクトが現れ、命令が送られた。

「はい……グリーンピース……食べます」

 光莉が抑揚のない声で言い、そして機械的な動きで弁当箱に入っているグリーンピースを口に入れていく。見る間にグリーンピースは無くなってしまった。

「えーと、『にがす』」

 にがすボタンを押した瞬間、茉理が目をぱちくりさせた。

「あ、あれ? 今あたしなにしてたの?」

「ほら茉理、お弁当箱見なよ」

「え……うおぉっ! 無くなってるぅ! これもしかしてあたしが食べたの!?」

「そうだよ。やったね」

「うわー……すご、全く覚えてないよ。これならあたしもグリーンピースを……って、だめじゃん! ハンバーグは自分でどうにかしなきゃじゃん! ああ~どうすればいいの~」

「やっぱり苦手を克服するしかないね」

 頭を抱える茉理を見て、光莉は苦笑した。そしてアプリ画面に目をやる。

(やっぱり、ボールの数字がゼロだ)

 使い切ってしまったということらしい。もうマインドボールは使えないのだろうか。

(まあ――それならそれでいいか)

 そう思いつつ、光莉はアプリを終了した。

 ガっ!

 背中に衝撃が走った。息がつまって、短い声が漏れ出る。それでも俺は必死に身体を丸める防御姿勢を崩さなかった。頭を抱え込み、目をきつくつむって歯をくいしばる。

「ケンちゃん、もうこんな豚ほっといていこうぜ」

「……そうだな。おいキモブタ、おめーもう学校くんじゃねーぞ。今度見かけたらぶっ殺すかんな」

 足音が遠ざかっていく。完全に静かになってからもしばらく俺は防御姿勢を崩さずにいた。そして完全に安全を確信すると、身体を起こし、のろのろと立ち上がる。

 身体の状態をチェック。集中的に蹴られていた背中を中心に節々が痛むが、骨に異常はないだろう。口の中が切れているらしく、血の味がした。

「ちっ、暴力に訴えるしかない低能DQNどもが……」

 そう精いっぱいの強がりを言って、制服についた土ぼこりを掃った。

――俺は豚田 総介。まあどこにでもよくいる冴えない根暗なオタクだ。いわゆるイジメグループに目をつけられており、クラスでも浮いた存在だ。まあ俺自身もあんな低能どもとつるみたいとは思わないが。群れるのは雑魚の証だ。

 ここは学校の校舎裏だ昼休みに、人のいない場所を探し求めていたら運悪くあのDQNどもがタバコを吸っているところに出くわしてしまったというわけだ。

「明日からここは避けよう」

 そう言いながら、俺は落ちている鞄を拾った。俺は自分の鞄を常に持ち歩いている。特に大事なものが入っているわけではないけど、教室に置いておくと何をされるかわかったものじゃないからな。

 鞄の中からランチパックを取り出し、もそもそと食った。わざわざ学校と反対方向のコンビニまで足を運んで行って買った。なぜならそこでバイトに入ってる女が俺のどストライクだからだ。

 好みの女がバイトをしてる時間を狙ってコンビニに行き、会計をさせながら頭の中でめちゃめちゃに犯してやる。それが俺のささやかな娯楽の一つだ。まあ楽しみは他にもあるが、日常のささやかなことにも喜びを見つけ出すのが、人生をエンジョイする秘訣だ。

 俺はその後も校舎裏でスマホをいじりながら時間を潰して、午後の授業ギリギリに教室に戻った。

 俺が教室に入ると、周囲の男子も女子も俺を汚物のような目で見る。……気に入らない。俺は妄想の世界で、こいつらを破滅させてうさを晴らすしかないのだ。

 俺は机に戻り、突っ伏した。はやく授業が終わることを念じながら。

「……んご」

 俺が目を覚ますと、とうにホームルームは終わり解散した後だった。掃除が終わったあとずっと寝ていたのだ。窓から西日が差し込んでいる。

 教室にいたのは、俺と女子の鹿木廸子だけだった。教室の前の方に座っている鹿木のブラウスが夕日を映してオレンジ色に染まっている。

 鹿木はいつも一人で残って本を読んでいる、根暗な女だ。しかし顔はまあまあだから、よく妄想の中でめちゃめちゃにしてやる。

(やれやれ、帰るか。……ん?)

 スマホを開くと、見慣れないアプリが入っていることに気付いた。一瞬ウイルスでも拾ったかと思ったが、そうでもないようだ。

(SAIMIN GO?)

 いかにも胡散臭げなアイコンを俺はなんとはなしにタッチした。少しでも暇つぶしになればラッキーってもんだ。

(『このアプリは、人の精神をマインドボールの中に捕まえて、言うことをきかせるゲームアプリです』、か。そういう設定のゲームなのね)

 俺はその後の説明をろくに読まずにタップを連打する。ほどなくカメラ機能が立ちあがり、真ん中にカーソルが出現した。

(人間をとらなきゃいけないのか。めんどくせえな)

 そう思ってアプリを終了しようとすると、視界に鹿木の背中が入った。

(……背中でもいけんのか?)

 本を読む背中にカーソルを向ける。すると、そのカーソルがもやのような形に変わった。

(んで、このマインドボールとやらを投げる、ね)

 もやに向かってボールを投げると、なんなくマインドボールはそのもやを中に収める。

(おめでとうって……なんじゃそりゃ。それだけかよ)

 よくわからんが、これでマインドに命令できるようになったらしい。

(意味わかんねえ。はいはい、『立ち上がれ』)

 そして俺は実行ボタンを押した。

 ガタン。

 前で椅子の音がして、顔を上げた俺は一瞬目を疑った。

 鹿木が立ちあがっている。椅子が後ろに倒れたままだが、鹿木は微動だにしない。

「……マジ、かよ」

 俺の口の中がカラカラに乾いていく。心臓が早鐘を打っているのが感じられた。

「え……えと……『両手を上げろ』」

 震える指で命令を打ち込んで、実行ボタンを押す。するとキラキラしたエフェクトが現れ、間をおかず鹿木が両手を上げた。

(やべえ! これ……本物だ!)

 意味もなく走り出したくなる衝動を抑えて、俺は柚木の前に回り込む。柚木の瞳はなにも映していなかった。

「えーと……しかき、さん?」

 反応はない。もう一度呼んでみたが、全く聞こえていないようだ。手を伸ばして軽く腕に触ってみる。やはり柚木は嫌がりもせず、人形のように固まっている。

(ど、どどどどうする!? これやべえぞ!)

「え、えと……とりあえず『手を下ろして俺についてこい』」

「はい……ついていきます」

 抑揚のない声で鹿木がつぶやいた。

 俺は教室を出た。柚木もふらふらとついてくる。俺たちは、校舎の最上階の機械室の扉前の階段までやってきた。ここなら誰もこない。俺は改めてまじまじと柚木を見た。そしておそるおそる、胸に手を伸ばした。

「……ごくっ」

 思わず生唾を飲む。そして数回深呼吸して、一瞬胸に触れた。

「……大丈夫、だよな」

 鹿木の反応がないことを確認して、改めて胸を揉んだ。

「おおっ……これが、女の胸っ……!」

 俺はスマホをポケットから取り出し、せかせかと命令をうち込んだ。

「よし、『おっぱいを見せろ』」

 そして実行を押す。

「……ん?」

 命令は送られたはずなのに、鹿木は動かない。

「っかしーな……。もう一度、『おっぱいを見せろ』、ほれっ」

「わかりました……胸を、見せます」

(よっしゃ!)

 鹿木はのろのろとブラウスのボタンを外し始めた。白い地味なブラジャーが見える。

「おおっ……ブラジャー!」

 もはやこの時点で限界がきそうなテンションを、俺は必死に押しとどめた。まだこんなもの序の口――俺はこいつを好きにできるのだ。

 鹿木の手で留め金が外され、ブラジャーが落ちる。柚木の少し控えめな、しかし形のいいいっぱいが露わになった。ピンク色の乳首がこちらを向いている。

「こ、これが……」

 軽くおっぱいを揉んでみる。……やばい。

(よ、よし、こうなったらこいつで童貞卒業するしかねえ!)

「『まんこを見せろ』……実行!」

 渾身の命令を送ろうとすると、赤い文字が現れた。

「あ? レベルが足りないだと?」

 よく見ると、確かに画面の隅に『レベル1』と表示されていた。

「レベルってなんだよ、クソ」

 調べようとしたが、ヘルプとかが全く用意されていない。なんて不親切なアプリだ。

「んじゃ『フェラしろ』」

 これも駄目。

「ッ……い、いや、落ち着け俺」

 いら立って声を上げようとした自分を制する。

(全然慌てる必要はない……落ち着いて考えろ、俺。レベルがあるってことは、上がるはずだ。どうしたら上がる?)

 ゲームなら敵を倒すとか、ミッションをこなすとか……。

(……まずはこのアプリを研究することが大事だ。ここで無理に鹿木とヤる必要はないはずだ)

 ここはこれからの人生で大事なところだ。このアプリがあれば、ゆくゆくは全てが思うままになる可能性があるのだ。こんな小さいエサ相手にリスクを冒す必要はない。とりあえず、俺は鹿木と教室に戻り、鹿木をアプリ使用前と同じ状態に戻した。

(うし、『にがす』と)

 ボタンを押すと、鹿木の身体がピクっと震えた。そして困惑したようにきょろきょろと辺りを見回す。後方に座っている俺にも目を向けたが、俺は一人スマホをいじって、彼女の視線に気づかないふりをした。

 そしてスマホの中では、俺が期待していた通りのことが起こっていた。

(『おめでとう、君の催眠レベルは2に上がったぞ』か)

 やはりこのアプリは、使用するほど経験値が溜まるらしい。

(まずは危険のない範囲……鹿木でいろいろ試してやるぜ)

 俺はにんまりとほくそ笑んだのだった。

 次の日、俺は放課後まで時間を潰して、首尾よく教室で柚木と二人きりになった。

 そして柚木にSAIMIN GOを使う。そして俺たちは第二技術室に入った。ここは部活動でも使用されていないし、拠点とするにはうってつけの場所だ。

「よし、『椅子に座って大きく足を開け』」

 俺の指令の通り、鹿木は椅子に座って足を開いた。パンティーが丸見えである。

「ごくっ……よし、『パンツを脱げ』」

 鹿木は動かない。

「もう一回だ。『パンツを脱げ』」

「はい……パンツを脱ぎます……」

 鹿木はそう言うと、スカートのすそに手を差し込み、ゆっくりとパンティーを脱いだ。俺の前に鹿木の女性器が露わになる。ひっちりと閉じた割れ目の上に陰毛が茂っている。

「こ、これが本物の、まんこ……」

 俺はおそるおそるまんこに指を伸ばした。そして割れ目をなぞる。鹿木は全く反応しない。

「もちろんこれで犯すのも味気ないな。よし……『感じろ』」

 俺が命令を送ったとたん、鹿木の反応が目に見えて変わった。

「っ……!」

 僅かに眉をしかめ、顔に赤みがさす。

「お、濡れてきた」

 指を入れてもいいだろう。俺はまんこに指を差し入れた。

「んっ……!」

 鹿木の身体がぴくりと震える。

「おおっ……きっつ……ここにチンコはいんのか?」

 童貞の悲しさである。俺は半信半疑のまま、まんこを指でいじくった。次第に愛液の量が多くなり、鹿木の声も荒くなってくる。

「えーと、エロ本ではここらへん触るといいって――」

 まんこの奥の上あたりを指でひっかく。次の瞬間、鹿木が笛の様な声を漏らし、のけぞった。指が締め付けられる。

「うわっ! こ、これってイったのか……? そうか、本人に聞けばわかるよな。『イったのか答えろ』」

「はい……イき、ました……」

 まだ肩を上下させながら答える鹿木。口からよだれが垂れており、マジでエロい。

(やった……! 現実に女をイかせたぞ! 俺が!)

 模試で一位をとるよりもはるかに大きな達成感に、俺は酔いしれた。

「よし……今日はここまでにしとくか。もっとレベル上げたいしな」

 俺は成果に満足して、鹿木を連れて教室に戻った。

「よし、‘にがす’」

 ボタンを押すと、昨日と同じように鹿木の身体が震え、そして辺りを見回す。そこまでは同じだったが、今日は少し反応が違った。

「ッ……?」

 背中越しだから詳しくはわからないが、鹿木は自分の股間に目をやったようで――そのあと慌てたように席を立ちあがり、教室を出て行った。それを見て、俺は危機感を覚えた。

「……そうか、マインドを捕まえてる間のことは覚えてなくても、パンツが濡れてることとかには気づくもんな。もうちょっと工夫しないと駄目だなこれは」

 考えを巡らせる俺の手の中で、SAIMIN GOがレベルの上昇を告げていた。

「ただいまー」

 光莉は家に帰ってくると、自分の部屋に戻って室内の様子をチェックした。光莉に怒られたからか、目に見えて変わったところはないが、また月浩が部屋に入ってきたようだ。姉弟ともなれば、なんとなくわかるものである。

「もー……」

 光莉は月浩の部屋に行こうとして、思い直した。怒ってもなおさらへそを曲げるだけだろう。

(お父さんに鍵を外からかけるように頼もうかなあ)

 そう思いながらスマホを手に取った光莉は、SAIMIN GOに通知が来ていることに気付いた。

「なんだろ?」

 光莉がアプリを開くと、ボールアイコンの上に通知マークがあり、数字が1になっている。

「あ、回復してる」

 なんとはなしにSAIMIN GOの画面を見ていた光莉だったが、ふとひらめいた。そして部屋を出て月浩の部屋の前に立った。

「ヒロー」

「んだよ!」

 やはり不機嫌そうな声。光莉は気にせず続けた。

「お母さんがちょっと来てってー」

 少しの沈黙の後、ガタガタと椅子が動く音が聞こえ、そしてドアが開いた。

「! ねえちゃ――」

 ドアの前でスマホを構えていた光莉に驚いた様子の月浩。その隙を逃さず、光莉はボールを投げた。茉理の時と違い、一発でボールは月浩のマインドを捉える。

(やった!)

 胸をなでおろした光莉は、命令を打ち込む。

「えっと……『お姉ちゃんの部屋に入らないで』、と。実行っ」

「……わかりました。姉貴の入りません……」

「姉貴ってやだ……そうだ、これも追加しちゃえ。『昔みたいにお姉ちゃんって呼ぶこと』。実行っ」

 実行ボタンを押したが、反応がない。

「あれ? もう一回、実行っと」

 三回目でようやく月浩は返事をした。

(電波が悪かったのかな?)

 ともあれ、これで悩みは解決できたはずだ。

「にがす、っと」

 にがすボタンを押すと、意識をとりもどした月浩がぎょっとしたように光莉を見た。

「あ、あれ? 俺……なにしてたんだっけ?」

「お母さんがお買い物行ってきてって」

「あぁ? めんどくせーなー」

 そう言いながら階段を降りていこうとする月浩に向かって光莉は声をかけた。

「ねー、ヒロ」

「んだよ、お姉ちゃん」

 その言葉に光莉はにんまりと笑って、思わず月浩に抱き付いた。

「わぁっ! なっ、なんだよ!」

「ふふーん、弟よー」

「やっ、やめろよっこの、お姉ちゃんっ!」

 月浩は光莉を乱暴に引きはがして階段を駆け下りていった。

「やっぱお姉ちゃんって呼ばれ方が一番いいよねっ。SAIMIN GOすごいっ」

呼ばれ方が変わっただけで、まるで仲がよかったころに戻ったようだ。光莉は上機嫌で部屋に戻っていった。

 

「でさー、お姉ちゃんって呼ばれると嬉しくって」

「へー……」

 光莉の話を微妙な表情で聞いている茉理。

「なにその反応」

「いやー若さの行き場を封じられる弟君がかわいそうだと思って。そういや今日はボール回復してんの?」

「うん、さっき見たらまた一個になってた」

「そうなんだ。時間で回復すんの?」

「ううん、触ってたら気づいたんだけど、地図と連携してて、いろんなところにボール貰えるポイントがあるみたい。ほら」

 光莉はSAIMIN GOを立ち上げ、マップ画面を開いて見せた。するとそこに学校のマップが表示される。

「あっほんとだ、ボールのアイコンが出てる! えーと……学食?」

「だね」

「じゃあ今日のお弁当学食で食べようよ」

「うん、わかった」

「でさー、あたしいいこと思いついたんだ」

 昼休みの学食。大勢の生徒でごった返す中、光莉達は隣り合って弁当を広げていた。茉理が、顔を近づけ声を潜めて話しかけてきた。

「いいこと?」

 その言葉に、茉理は大げさに頷く。

「うむ。そのアプリを使えば、世の中をよくすることができるんじゃないかって思って」

「よのなかを、よくする?」

 光莉は首を傾げた。

「そう! SAIMIN GOを使えば、いろんな問題をあたしらで解決できちゃうんじゃない? 正義のお助けヒーロー!」

 またこの幼馴染はよくわからないことを言い出したと、光莉はあいまいな笑顔を浮かべた。

「えぇー、たとえばどんな問題?」

「え」

 光莉の言葉に、茉理が固まる。

(やっぱり何も考えてなかったんだ)

 茉理は昔からノリだけで発言することが多いのだ。

「ほ、ほら、斎藤さんの件!」

「斎藤さん?」

 突如クラスメートの女子生徒の名前が出てきて、光莉は要領をえない返事をした。

「うん、斎藤さんずっと高木のこと気にしてるじゃん。でも斎藤さん引っ込み思案だし、このままじゃ卒業まで何もできないじゃん?」

 同じクラスの斎藤さんは、一年の時から隣のクラスの高木という男子のことをずっと想っている。これは女子の間では、もう周知の事実だ。

「だからあたしたちで二人をくっつけるってこと?」

「そこまででなくても、高木の考えてることだけでも知れれば斎藤さんを応援できるじゃん! いいことじゃん!」

「……そう、なのかなあ?」

 光莉は腑に落ちない気がして首を捻った。

「聞くだけなら何の問題もないし! やろーよやろーよ!」

「……わかった。聞くだけだからね?」

「ねえ高木君」

「あん? ……小笠原か。なに」

「ちょっとこっち来てくれないかな」

「……いいけど」

 放課後、光莉は高木に声をかけて、廊下の隅まで引っ張ってきた。

「うん、ここらへんなら人いないよね」

「……で?」

 少し緊張した様子の高木。

「あ、あれ見えるかな?」

「え?」

 後ろを指さした光莉のわざとらしい誘導にひっかかって高木が後ろを向く。

(今だっ)

 光莉は素早くボールを投げて、高木のマインドを捕獲した。

『うまくいったよー』

 LINEを受けて茉理が小走りでやってきた。

「光莉、ナーイス! よっ、仕事人!」

「もー、はぁ緊張した……それでどうすればいいの?」

「とりあえず、斎藤さんのことをどう思っているか聞いてみようよ!」

「えーと、『斎藤さんのことをどう思ってるか言って』」

 光莉の命令を受け、マインドを捉えられた高木が口を開く。

「はい……斎藤さんは……隣のクラスメートの女子……。目立たない地味な女子だと思ってます……」

「あちゃー、このままだと脈ナシか。……高木って今好きな人いるのかな」

「『好きな人がいるか応えて』」

 少しの沈黙の後、高木の口から出た答えは二人の意表をつくものだった。

「はい……俺はクラスメートの小笠原光莉さんが……好きです……」

「「(えーっ!!!!)」」

 光莉達は声を押し殺して叫び声を上げた。

「ちょっと、マジで!?」

「ええっ、これって、高木君がわたしのこと、ええっ!?」

 光莉は半ばパニックになって頭を抱えた。まさか自分の名が出るとは、予想外にもほどがある。

「いやー……これは衝撃の事実ですわ……さすが光莉様、大人気でいらっしゃる」

「わけのわかんないこと言ってないで。どーするのこれ! わたし明日から高木君にどういう顔すればいいのかわかんないよー」

「うーむ。光莉は高木のこと好きなの?」

「そんなわけないじゃん!」

「うわ、即答」

「だって、好きとかよくわかんないよー。わたしなんて運動できないし美人でもないし、なにもいいところない女になんで……」

「うーんこの無自覚。大学で悪い男に引っかからないか今から心配だよあたしゃ」

 そう言って茉理は、光莉の肩を抱え込んだ。

「そんな心配しなくても、あたしたちにはコレがあるじゃん」

「え……?」

「だからさ、SAIMIN GOで、高木を斎藤に惚れさせればいいんじゃないの」

 茉理の言葉に、光莉は驚愕した。

「えっ! 駄目だよそんなの!」

「なんで?」

「だって人を好きって気持ちは、大事なもので他人にどうこうされるものじゃ……」

「じゃああんた、高木と付き合いたいの?」

 光莉はぶんぶん首を振った。

「冷静に考えなよ。このままじゃ、斎藤さんも高木も報われないし、光莉も変に意識してすごさなきゃいけなくなるじゃん」

「それはそうだけど……でも……」

「高木が斎藤さんを好きになれば、誰も不幸な人がいなくなるんだよ」

「……そう、なのかなあ」

「そうだよ!」

 その言葉と、なにより自分が想いを寄せられているということに対する本能的な怯えから、光莉はしぶしぶ茉理の案を飲んだ。

「『あなたは小笠原光莉ではなく、斎藤ほのかのことが好きになります』」

「はい、俺は斎藤ほのかが好きになります……」

 いたたまれなくなった光莉は、あわてて‘にがす’ボタンを押した。高木がきょろきょろと辺りを見渡す。

「あ、あれ? 小笠原さん、桑原?」

「よっ、高木どったの? こんなとこでぼーっとしてると部活遅れるよ」

「げっマジか。いかなきゃ。んじゃな」

「う、うん、さよなら」

 連れてこられた時とはうってかわってカラっとした挨拶を残し、高木が教室へ戻っていく。それを見送った後、茉理は少し興奮した様子で、光莉は未だに罪悪感から逃れきれない冴えない心持ちで校舎を出た。

「うんうん、これで近いうちに二人は結ばれるであろう」

「……本当によかったのかなぁ」

「もっと胸を張ろうよ! あたしたち、人を幸せにしたんだよ!」

「そんな簡単には思えないよ……あれ?」

 光莉は、一瞬廊下の窓に人の姿を捉えて立ち止った。

「どったの、ひかり?」

「ううん、なんでもない」

「んじゃ、世直し隊の初ミッション成功を祝ってスタバいきますか!」

「ええ~……まだこれやるの?」

「あたりまえじゃーん!」

 歩きながら、光莉はさっきの人影のことを頭に思い浮かべた。

(あれって隣のクラスの鹿木さんと、豚田くんだよね……めずらしい組み合わせ)

「よし……今日の躾をはじめるか」

 技術第二室。俺は今日も鹿木を連れてここにやってきていた。

 俺はこの作業を躾と呼ぶことにした。捕えたマインドを躾て従順な俺のペットにしたてあげてやるのだ。

 鹿木をひざまづかせ、その目の前にペニスを出す。まだ命令を出していない鹿木は、ペニスに何の反応も示さない。

「『お前の前にあるのは、お前の大好物だ。お前はそれを舐めしゃぶるのがなにより大好きだ』。実行」

 そのとたん、鹿木の顔がとろんと潤み、熱っぽく目の前の一物を見つめた。唇から吐息が漏れる。

「あ……」

 そして、鹿木はやおら亀頭を口に含んだ。

「お、おおっ……」

 敏感な部分が粘膜に包まれる感触に、俺は思わず声を漏らした。鹿木の舌がペニスを這いずり回る。おそらく上手ではないのだろうが、オナニーしか経験のない俺には相当な刺激だ。

「んむっ……ちゅぷ」

「くぉぉっ、カリ裏はやばいっ」

 オナホと違って、その動きを予測できないというのが一番大きい。そしてフェラをさせているということ自体の優越感と背徳感。もう限界だ。

「よっしゃ、出すぞっ!」

 そう言って、俺は鹿木の口に射精した。鹿木が喉を鳴らしてザーメンを飲み込む。口の端からザーメンがこぼれおちた。

「……ふぅ……よし、『パンツを脱いで、四つん這いになっ、俺にケツを向けろ』」

 ペニスを口から吐き出すと、鹿木は言われた通り高々と尻を上げた。この抵抗感のなさは、俺の催眠レベルが上がったおかげだろう。フェラチオで興奮したのだろう、わずかに愛液が垂れている。

「よし……じゃあぶち込んでやるぜっ!」

 俺は鹿木のまんこを一気に貫いた。

「ぐっ……きつっ」

 俺はもはや童貞ではないわけだ。同学年の男子のほとんどより先をこしてやったのだ。鹿木の膣がペニスをぎちぎちと締め上げた。指を入れた時に気付いていたが、鹿木はどうやら処女ではないようだった。大人しそうに見える女ほど遊んでいる、というのは本当だ。

 俺がいっぱいいっぱいで腰を動かしているのに、鹿木がほとんど無反応なのは癪に障る。

「よし、『感じまくれ』!」

 反応の変化は劇的だった。

「ふあぁっ!」

 鹿木がぴん、と背中を反らせる。

「どうだ、俺のペニスは! おらっ!」

「ひあっ、んんうっ! ああっ!」

 一突きごとに、鹿木が上げる嬌声が俺の興奮を増幅させる。

 鹿木の尻と俺の下腹部がぶつかってぱんぱんと音を立てた。

(どうだっ! 妄想でもエロ動画でもない! 本当に女を征服してるぞ!)

 夢に見た、この状況。俺はひたすらに鹿木を突いた。接合部から愛液が飛び散り、床に水溜りをつくる。本日二度目の限界を迎えようとしていた。

(普通の人間なら妊娠を気にするが、俺はそうじゃない。なにせ支配者なんだからな!)

 俺は限界までペニスを深く突きいれ、膣奥にザーメンを放った。

「ッくぅぅぅぅぅッッ!!!」

 鹿木が顎をのけ反らせ、絶頂する。

 どくっ、どっ、どっ……

「ふぅ……っ」

 最後の一滴まで出しおえ、ペニスを引き抜いた。まんこから精液がぼたぼたとあふれ出た。

「ふっ、しょせんセックスなんてこんなものか」

 誰に向けるでもなく、俺は見栄を張ってみたのだった。

 俺は鹿木に後始末をさせ、教室に戻ってきた。もうだいぶ暗く、強制下校が近い。

「よし……これでいけるか?」

 俺は一つ工夫をしてみることにした。

『解放されたあと、自分の身の変化に気付かない』という命令を与えることにしたのだ。

(もしこれが駄目でも、ボールがあと一個あるからまたすぐに捕獲して対処すればいいからな)

「よし、‘にがす’」

 ボタンを押すと、鹿木がぴくっと震えた。そして彼女は顔を上げ、周りを軽く見渡した後、時計を見て帰り支度をはじめた。鞄に本を詰めると、立ち上がる。俺は鹿木のスカートの裾からザーメンが一筋垂れているのに気付いたが、彼女はそれを気にした様子もなく教室を出て行った。

 鹿木が去り、一人きりになった教室で、俺はガッツポーズをした。

「っしゃ! やっぱりそうだ! SAIMIN GOの力は、アプリを起動している時だけじゃない!」

 まさにSAIMIN GOは神の如き力。

その時、手にしているスマホから音が流れる。そう、レベルアップしたのだ。

「……また、ブラジャーきつくなってる」

 光莉は服を脱ぎながら、不平を漏らした。

(これ以上大きくなると、ブラジャー可愛いのなくなるから困るな)

 そう思いつつ、下着を選択籠に放り込んで、風呂場に入ると、シャワーの蛇口をひねった。

 頭から順に身体を洗っていく。

(……ん?)

 シャワーを頭から浴びている光莉は、扉の向こうで影が動いているのに気付いた。

「だれー? お母さんー?」

 その声に、影はびくりと動きそそくさと扉から離れた。洗面所の水が出る音が聞こえる。

「ヒロー?」

「そ、そうだけど」

「どうしたのー?」

「どうもしねーよ! 顔洗おうとしただけだよ!」

「そっかーまだ出ないから大丈夫だよー」

 そう言えば昨日も自分が風呂に入っている時に、月浩が顔を洗っていた。

(わたしが入ってないときに洗えばいいのに)

 視界のはしで、洗いおとされたキラキラ光るボディソープの泡が、排水溝に流れ込んでいった。

 脱童貞から数日。俺は鹿木廸子を完全に支配すると同時に、SAIMIN GOの機能をほぼ把握していた。このアプリは、対象の精神に強力な暗示を与えるものらしい。そして俺の催眠レベルが上がるごとに、影響を及ぼせる範囲が拡大していく。今の俺のレベルは14。俺が催眠マスターになる日も近いだろう。

 一つここで大事なのが、マスク(表には出ない)データとして、マインド自体にレベルが存在しているらしいということだ。なので、催眠がかかりづらい人間もいる。そういった人間は、いきなりは突拍子もない行動をとらせづらい。だがどんな人間でも、マインドを何回も捕獲して、躾を繰り返せば結局は俺の思うがままの生き物になる……はず。

 このアプリ分析は、十数人に試してみた結果だ。犯すところまでやったのは、鹿木とコンビニ店員の女くらいだが、俺のレベルが上がったおかげだろう、どの人間も初回でまんこを出させるまでは実行させられることを確認した。

(ようするに、どじを踏まなければ、操れない相手はいねえ!)

 それが俺の結論だった。

 ただ一つ、問題だったのは、ボールの回復の遅さだ。慣れれば二、三人のマインドを一気に捕獲することも容易だが、肝心のボールが一日二個程度しか回復しない。

(これも何かコツがあるはずだ。なんせアプリだしな)

 ボール数の問題はともかく、今日の俺にはやることがあった。

(藤堂麗華。誰もが憧れる生徒会長様を手に入れるぜ)

 いきなりトップの首をとる。古今東西これが戦術に置いて、最も効果的な方法なのだ。

 俺は生徒会室の前にやってきた。小窓から、中に明かりがついているのが見える。

 この日のこの時間は、‘獲物’一人しかいないはずだ。

 コンコン。

「失礼します」

 左手にアプリを起動したスマホと、プリントを持って俺は部屋に入った。

 部屋の中は狭く、ファイルが並んだ本棚に囲まれていた。その最奥で、一人の女子生徒がこちらを怪訝そうに見ていた。

 長い髪と切れ長の瞳をもったとびきりの美人。この女が、生徒会長である藤堂麗華だ。

「えーと……君は?」

 麗華が問いただしてくる。わずかに低めの、聞いているだけで股間に響く声だ。

「えー、二年C組の豚田です。この書類に決裁をいただきたくて」

 と適当なプリントを見せる。

「……わかった。どれどれ――」

 麗華の視線が俺からそれたタイミングを狙って、SAIMIN GOの画面で彼女を捉える。

「ん?」

 さすがと言うべきか、俺の動きに気付き顔を上げる麗華。だが、遅い。

(――ボール、投擲!)

 俺の放ったボールが、麗華のマインドを捉えた。彼女のマインドを抑えたボールは二度三度揺れた後、動きを止める。

(――やった!)

 俺は大きく息を吐いた。まず大丈夫だと思っていたが、実際に生徒会長ほどの意志の強そうな相手のマインドを捕えるとなると、緊張する。

「くっくっく、生徒会長様もこうなったら可愛いもんだな。たっぷり躾てやるよ」

 俺は生徒会長の頬をぴたぴた叩いた。マインドが捕えられて抜け殻になったその顔は、作り物めいて整っている。

「さて、昨日思いついた方法を試してみるか。『首から上だけ正気に戻れ。ただし大声は出せない』、実行」

「ッ!?」

 麗華の目に石の光が戻った。そして身体が動かないことに気付くと、目だけで俺を睨み付ける。

「……このふざけた真似は、君の仕業か?」

 身体が全く動かないというのに、すこしも怯えた様子を見せない。大した女だ。

「ええ、そうですよ。会長の身体は俺の意のままにしかなりません」

 俺はもはやこの女の主人なのだからわざわざ敬語で話す理由もないのだが、俺はあえて敬語を使う。

「……今すぐ戻せば、不問にしてやろう。早く戻すんだ」

 人に命令し慣れた人間の口調が、俺の神経を逆なでする。

「まだわかってないみたいですね?『おっぱいを見せろ』」

「……? 何を言って――なっ!?」

 麗華の腕が勝手に動き、リボンをほどくとブラウスのボタンを外していく。

「くっ……これはどういうこと……やめっ」

 麗華の抵抗の意志もむなしく、フリルで飾られた白いブラジャーが露わになる。

「うおっ、でけえ」

 おもわず声に出てしまった。麗華のバストは90を超えているだろう。すさまじい巨乳だ。それがブラジャーの紐に支えられ、たわわに揺れているさまは壮観ですらある。

 そしてすぐにブラジャーが外れ、押し込められていた二つの肉塊が外に飛び出す。

「って……こりゃ」

「ッ……言うなっ」

 歯ぎしりが聞こえそうな表情で、麗華が唸った。

「こんなデカ乳のくせして、見事な陥没乳首ですねえ会長どの」

「黙れッ!」

 そう、麗華の胸の先端、胸のサイズに比して大きめの乳輪があり、その中央には本来鎮座しているはずの乳首が完全に姿を隠している。

「いやぁすべてにおいて完璧な生徒会長の乳首がこんなことになってるとは、人には必ずなにかしら欠点があるもんなんですね」

「……こんなことをしてただですむと思うなよ」

 あまりの恥辱に涙目になっているが、麗華の意志はかけらも衰えていないようだ。そうでなければ面白くない。

「しっかしでかい乳ですね。牛会長」

 そう言って俺は麗華の後ろにまわり、胸を鷲掴みにする。

「さわるなっ! 警察を呼ぶぞ」

「どうぞどうぞ、よべるもんならね」

 麗華は口を大きく開いた後、目を白黒させた。

「???」

「叫べないでしょ? 俺がそう命令してるんで」

 そう言いながら、胸を根元からしぼりあげるように揉む。

「はぐっ……! 卑怯者っ! 男子のくせに、誇りはないのか」

「誇りぃ? そんなもん持ってませんよ」

 執拗に胸を揉みしだくと、だんだんと麗華の肌が汗ばんできているのがわかる。

「会長、牛みたいな乳のくせに敏感なんすねぇ」

「だま、れっ……」

 吐く息も荒くなってきている。俺は両手にすいつくようななめらかな肌の感触を存分に楽しんだ。

 麗華の身体が小刻みに震えはじめる。胸だけでイきそうなのだ。

「さて、そろそろ……」

「……飽きたのならさっさと話してもらおうか」

「違いますよ。‘こいつ’に出てきてもらおうと思って」

 俺は胸の先端を軽くつついた。

「なッ!? や、やめろっ」

 麗華の声が焦りを含む。

「それじゃあ乳首ちゃんのお目見え~っと」

 俺はにゅうっりんに走る肉の切れ目に指を突っ込んだ。そして乱暴に乳首をほじくりだす。

「ふぐうぅぅっ!」

 麗華の身体がびくびくと震える。

「立派な乳首じゃないすか。隠すなんてもったいない」

 掘り出された大きな乳首が充血してしこり立っている。これが埋まるとか、女の身体は不思議なものだ。

「はぁー、二年の豚田といったな……ゆるさん、ぞっ」

「まだ減らず口を叩く元気があるんですね。そんな悪い乳首にはお仕置きをしなきゃ」

 俺は両手を「デコピンの構え」にして、乳首の前に持っていく。

「なっ、まっ、まてっ!」

「まちませえ~ん」

 そう言って、俺は溜めていたエネルギーを解き放った。指がいきおいよく乳首を叩く。

「~~~~~ッッ!!!」

 麗華の身体がびくびくと激しく震えた。乳首を弾かれてイったのだ。

「いやぁ、会長マゾの素質ありますよ」

 俺は会長からいったん身体を離した。

「……も、もういいだろう、解放してくれ」

 さすがの麗華の口調にも弱気なものが混じっている。だがまだまだこれからだ。

「何を言ってるんです。今からが本番なんですよ。『パンツを脱いだ後、テーブルに昇って大きく脚を開いて』」

 その命令を麗華の身体はすぐに実行に移す。

「まっ、やめっ」

 ほどなく俺の前に、脚をおっぴろげて女性器をさらす麗華の姿ができあがった。

「会長、マン毛は結構濃い目なんですね」

 俺はしげしげと麗華の女性器を観察した。鹿木よりも肉厚な大陰茎がぽってりとした存在感を放っている。成熟した雰囲気だが、割れ目はぴっちり閉じている。さっきの絶頂の余韻だろう、いい感じに湿っている。

「会長はどうやら処女みたいですね。違いますか?」

「……答える義務はない。それより――」

「『答えろ』」

「……処女です。――っ!?」

 自分の口が勝手に動いて、答えたことに麗華は驚いたようだ。

「なっ、一体何をした? 違法薬物か?」

「違いますよ。俺は神様みたいなもんなんです」

 そう言いながら、俺はペニスをとりだして膣口にあてがった。亀頭がわずかにめりこむ。

「ま、待て、わかった、今日のことは誰にも言わないから――」

 麗華のセリフ終わりをまたず、俺は一気に麗華を貫いた。処女膜を破る感触があった。

「ッぐぅーっ!」

 痛みに顔を歪める麗華。一方俺は快感に顔を歪めていた。

(こ、これはすげえッ、今までの誰も比較にならんっ)

 うねるように全体が痛いほどしめつけ、奥のイボイボがペニスの敏感な部分を刺激する。

(完璧生徒会長は、まんこも完璧ってわけかよっ)

 俺は夢中になって腰を動かした。

「ぐっ、い、痛いッ、やめてくれっ」

 麗華が懇願する。この高飛車女の哀れっぽい姿もいいが、俺は慈悲深いので麗華も楽しませてやることにした。

「『感じまくれ』」

「な、なにを――あひいっ!」

 麗華の声のトーンが変わる。

「なっ、なにこれっ、んあっ」

「どうです? 俺のチンコ最高でしょ?」

「きっ、きひゃま何をしひゃ……んぅっ!」

 全校生徒の憧れの生徒会長が、一突きごとにこんな情けない声を上げる姿を誰が想像できるだろうか。これを楽しめるのは、神である俺だけだ。

「それっ、おらっ!」

「ひっ、あんっ! やめっ、はぅっ!」

 そろそろ限界がきそうだ。俺は遺伝子を麗華の奥深くに注ぎ込むべく、麗華の足を持ち上げた。

「よっしゃ、出すぜっ」

「まっ、まってっ、私は今日危ない日なんだっ!」

 思わぬ言葉。だが悪い意味ではない。

「ほぉ、それはよかったじゃないですか。ご主人様の子供を孕めるチャンスがきたってことだ」

「まって、お願いしまひゅっ」

「うるせぇッ、孕めっ!!!」

 俺はことさら深くペニスを突きこみ、麗華の膣内に思い切り射精した。

「ぐぅぅーッ!!!!」

 麗華の目が裏返り、下を突き出して情けないアヘ顔をさらしながら、完全無欠の生徒会長は初体験レイプで膣内射精されて絶頂したのだった。

「ふぅ……」

 俺はズボンのチャックを締めなおすと、机の上でだらしなく伸びている麗華を見た。白目をむいたその情けない面を見ていると、それだけで今までの屈辱の日々が報われるような気がしてくる。

(まあ、この学校の女どもはどいつもこいつも俺を馬鹿にしてたし、破滅してもらうんだけどな)

 危険日だとか言っていたが、妊娠するならそれはそれでいい。このお嬢様にとって致命的だろうし、手間が省けるというものだ。

「さて。この後の設定は……俺は生徒会を臨時で手伝っているっていう記憶を植え付けておこう。今日セックスした後の身体の異変にも気づかないように……」

 SAIMIN GOはかなり複雑な命令も対応するが、スマホを手打ちの為時間がかかる。こればかりはしょうがないのだ。

「よし、入力完了。あとは『椅子に座れ』」

 すると気絶していた麗華がむくりと起き上がり、のろのろと椅子に座った。

「服は……このままでいいか。気づかせずに帰らせてちょっとした騒ぎになるのも面白い」

 俺は‘にがす’ボタンを押した。麗華の身体が弛緩する。まだ意識がもうろうとしているようだ。

「……会長? 大丈夫ですか?」

 俺は『手伝いに呼ばれた気弱な後輩』を装いながら、麗華の肩を揺すった。

「はっ!? あ……豚田くんか。すまない、少しぼんやりしていたみたいだ」

「じゃあ僕はそろそろ帰りますね」

「ああ、ありがとう。今日はとても助かったよ」

 そう言って微笑む麗華。乳は丸出しだし、礼を言う相手は処女を奪った男ということで、馬鹿そのものだ。まんこから俺のザーメンが漏れて、股のところはびたびたのはずだ。

「失礼します」

 俺は麗華が下校するときのことを想像して、ほくそ笑みながら学校を後にしたのだった。

 

『みんな今日は楽だって喜んでたよー! (^^)v』

 光莉は部屋で茉理とLINE会話をしていた。

 光莉達は、あれから茉理の言っていた“世の中をよくする活動”をちょくちょく行っていた。

 たとえば、掃除をさぼる男子を真面目に掃除させるようにしたり、長距離走をトラック一周ぶん減らしたり。些細なことばかりだ。

 光莉も最初は乗り気ではなかったが、誰も傷つかないならいいかもしれない、と思うようになっていた。なにより、自分が世の中の役に立っているというのがうれしい。

(このアプリで、もっとたくさんの人を幸せにできるといいな……)

 ベッドに寝転びながらスマホを眺める光莉の視線の先で、SAIMIN GOのアイコンがくるくる回っていた。

「知ってる? 藤堂先輩の話?」

 昼休み。光莉と茉理は、グラウンドに面した木の下で弁当をひろげていた。

「藤堂先輩って……生徒会長? ううん、知らない」

 首を振る光莉に、茉理が小声でささやいた。

「あの人が昨日の放課後、半裸で校内歩いてたって」

「ええっ!?」

 光莉はおもわずすっとんきょうな声をあげてしまい、慌てて周囲を見回したが誰もいない。世の中を良くし隊(茉理命名)の秘密会議のために、わざわざ人気のない場所を選んだので当たり前なのだが。

「嘘でしょ?」

「それがどうも本当らしいよ。だって部活してた大勢の生徒が、おっぱい丸出しで帰ろうとしてる藤堂先輩を見たって」

「はぇ~」

 光莉はあまりのインパクトに、弁当を食べる手を止めて口をあんぐりあけてしまった。

「それで、先輩は今日休んでるって」

「そーなんだー……なにがあったんだろうね」

 生徒会長の藤堂麗華は、成績優秀で見た目も超のつく美人だ。その立ち居振る舞いとカリスマ性は抜群で、女子の憧れである。その彼女がそのような奇行に及ぶというのは、よほどのことがあったに違いない。

(……ん?)

 食事場所を探していた俺は、木の根元に座る二人組を見つけた。

(あれはB組の小笠原と桑原じゃねえか)

 片方の小笠原光莉は、学校全体でも1,2を争う美少女として有名だ。当然俺の躾の最有力候補の一人として名が挙がっている。隣の桑原茉理も、小笠原ほどではないものの、上位に入る容姿と男子にも屈託なく絡むさばっとした性格で、やはり男子からの人気は高い。

 俺は二人からは見えない位置でSAIMIN GOを起動した。手持ちのボールは三個だ。いける。

(カモが二匹、首をそろえてるし、ほっとく理由はねえよな)

 とはいえ今は昼休みである。本格的に躾けるのはまた別の機会になるだろう。最低限の仕込みと、サービスだけ置いといてやるか)

 方針を決めた俺は、二人の後ろに回り込んだ。何を話してるのかは知らないが、喋りかけてるのは茉理なので、先に光莉を捕えることにする。

(カーソルを合わせて――投擲!)

 捕獲成功。画面の先で、光莉が箸をとり落とすのが見えた。茉理に反応させる暇を与えず、投擲。これも捕獲成功。俺はゆうゆうと二人の前に回り込んだ。とっときの美少女がふたり、目を虚ろに座っている。

「よし、いい眺めだ」

 俺は光莉の側にかがみこんだ。肌が透き通るようなきめ細かさだ。

「やべーな、こいつ」

 そう言って、俺は光莉の顎を持ち上げて、唇を吸った。意識のない光莉の、舌や口腔内を嘗め回す。唇を十分愉しむと、たっぷりと口の中につばを落としてやった。

「うまそうな弁当だな。こいつは心からのサービスだ」

 光莉から離れた俺は、ペニスを出してしごき始めた。そしてほどなく弁当の上に射精する。大量の黄ばんだ汚液が、二人の弁当箱を覆った。

「んでこっちも」

 二人の水筒の中身を捨て、かわりに中に小便をしてやった。

「出したて熱々の特製ドリンクだ。味わえよ」

 俺はその後、二人が異変を認識できないという命令と、それと別にいくつか‘宿題’を出して、その場を離れたのだった。

「なんだろう、疲れてひゃのかな」

 そう言いながら、光莉は気づかないうちに、口の中に大量にたまっていた唾を飲み込んだ。そして弁当から卵焼きを箸で取った。大量にかかっているザーメンがねっとりと糸を引く。

「あむっ……」

 ザーメンが下におちないよう手を添えて、光莉は卵焼きを口に入れた。歯でザーメンまみれの卵焼きを噛むと、ぶちゅりとした触感と、アンモニア臭が口いっぱいに広がる。

(うん、今日は焼き加減上手くいった)

 もちゅもちゅと卵焼きを味わいながら、光莉は一人頷いた。そして水筒から‘お茶’を飲む。にがしょっぱいエグみのある液体が、喉を流れ落ちていく。

「どーだろー。疲れたってだけで、そんなことするかなぁ……おっとと」

 茉理が、弁当箱から持ち上げたおにぎりからザーメンが滴り落ちたのを手で受け止めた。そしてそれを舌で舐めとる。

「ぺろっ……でもやっぱり生徒会長って大変なのかなぁー。帰宅部のあたしたちには想像もできないや」

「うん、そうだね」

 光莉は、小さめに握っているおにぎりがザーメンで型崩れして、リゾットみたいになってしまったのを箸で掬うのに苦労しながら頷いた。

「あ、スプーンあるよ、使う?」

「ほんと? 使う使う」

 光莉は借りたスプーンで、ザーメンリゾットを口に運びながら、アプリを開いた。

「そう言えばさ、ボールの増やし方見つけたよ」

「ほんと? どうやんの?」

「うん、学食にポイントあったじゃない」

「あったあった」

「他にも、マインドボールって人の多いところにポイントが出やすいみたい。だからいつもわたしたちが言ってるスタバとか、渋谷とかきっといっぱいポイントがあると思う」

「なるほどぉー! じゃあ週末とか出てみる?」

「うん、それもいいかも」

 そうこうしている間に、二人は弁当を食べ終わった。弁当の底に溜まったザーメンを弁当箱を傾けて飲む光莉。横では、まつりが‘お茶’を飲み干して、おじさんのようにお腹を叩いていた。

「いやぁ食べた食べた」

「お行儀悪いよ、ひかり」

 光莉も弁当箱をしまった後、‘お茶’を飲みきる。

「なんだろー、今日のお昼ご飯、なんか胸やけする」

「わたしも。二時間目の体育のせいかな」

「珍しくひかりも頑張ってたもんね。……身体を動かしてご飯が胸やけって、これが年ってやつ?」

「たぶん違うと思うな」

 二人はたわいもない会話を交わしつつ、水筒を洗うために水飲み場に向かった。

 今日の午後の授業中の間ずっと、二人の周りに座っている女子の間で「教室の中、なんかアレの臭いしない?」「するする、ザー……」という会話が交わされたのを、当の光莉達は知る由もないのであった。

< 続く >

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