願はくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ 西行法師 其の三 鬼が復活して、さらに二ヶ月近くが過ぎ……。 ――太政大臣・藤原良房の邸宅にて。 「兄上、叡山に、相応(そうおう)という僧がおります
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目を閉じれば、心に浮かぶのは、桜の花舞う中、佇む自分と姫様の姿。笛を吹く自分の傍らで、姫様は、穏やかな笑みを浮かべて笛の音に耳を傾けている……。
その日々が、永く続く事はないと、わかっていた。ずっと共にいるのは叶わぬ事であると。
そして、今となってしまっては、もう取り戻すこともできない……。
花びらを散らす風が、自分にとって大切なものまで散らしてしまったかのように……。
愛欲の鬼 其のニ
今は昔、東の方より、栄爵(えいじゃく)尋ねて買わむと思いて、京に上りたる者有けり。 其の妻も、「かかるついでに京をも見ん」と云いて、夫に具して上りたりけるに、宿所の違いて無かりければ、忽ちに可行宿き(ゆきやどるべき)
もっと読む愛欲の鬼 其の一
而る間、此の鬼の魂、后を惚らし狂はし奉りければ、后いと吉く取り繕い給ひて、打ち笑て、扇を差し隠して、御帳の内に入り給ひて、鬼と二人臥させ給ひにけり。 女房など聞ければ、只日頃恋しく侘しかりつる事共をぞ鬼申しける。后も
もっと読む愛欲の鬼 序
今は昔、染殿后(そめどののきさき)と申すは、文徳天皇の御母也。良房(よしふさ)の太政大臣と申しける関白の御娘也。形ち美麗なる事、殊に微妙(めでた)かりけり。 而るに、此の后、常に物の気に煩(わずら)ひ給ければ、様々の
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