後編
「服部さんも、昨日から出てるムロイの広告、ご覧になりました?僕、朝の新宿駅で、腰を抜かしちゃいましたよ。あの滋野井セリさんが、ですもんね。」
「五十嵐さんはご存知なかったんですか?あれは新宿ムロイデパートと月刊シフォンのコラボ広告で、実は先週からインターネットなどで若い女の子たちの間では噂になってたんですよ。今、人気沸騰中のブランド、ケンキチ・エモリの新作告知なんです。お正月のプレミアショーで発表されたんですよ。」
朝、通勤通学の時刻に流れる総合情報報道番組。ベテラン司会者の五十嵐学が、当局の人気ナンバーワン女子アナの服部未央と世間話をする。「サラリーマンの天使」、あるいは「お茶の間の天使」とまで称される、未央のチャーミングな笑顔はこの時間帯の視聴率稼ぎ頭だ。
「いや・・・、ご存知も何も、時代がここまで進んでるとは思いませんでしたよ。コピーがまた、過激だよね。『エロはしたない・でいこう』だったっけ?売り出し中の女優さんが全裸でお股から何か垂らしちゃって・・・、こりゃ、なんでもありなのかねぇ・・・。まったく、ケンキチさんって人の、やることなすこと全部が新しいっていうのは何となくわかるんだけど。オジサンには完全には理解できないね。」
テレビを見て、驚愕したのは、当の江森健吉だった。ケンキチ・エモリ・ブームが、彼の知らないうちにも拡大していることに気がついたのだ。
新春プレミア発表会でハシャギすぎた彼は、全身筋肉痛でボロボロ。手の握力がゼロになり、唇はカサカサ。腰も少し痛めてしまったので、バイトを休んで数日自宅に籠もっていたのだ。通常オトコの一人暮らしで療養しようとすると、中々不便が生じるものだ。しかし彼の場合は「ザーメン待ち客のリスト」から、プロフィールや写真を見て気に入った娘をピックアップして連絡を入れるだけで、何でもしてくれるメイドさんを同時に何人でも確保することが出来た。しかも彼女たちへのお礼として、温かいアソコにピュッと精を放出してあげれば、彼女たちは大喜びで大金を払おうとするのだから、彼にとっては一石二鳥どころの話ではなかった。そんな快適「安静」生活を満喫していた彼が、ふと久しぶりにテレビをつけてみたら、見慣れた面々が自分の話題で盛り上がっている。ブームの力というものを実感した瞬間だった。
「ちょっと、五十嵐さん。『股から何か垂らしちゃって』じゃないです。今をときめくケンキチ・エモリその人のザーメンですよっ!供給量が少ないから今ウェイティングリストが凄いことになっちゃってるんですよ。『ケンイチ・ザーメン』とか『ゲンキチ・ザーメン』とか、偽ブランドが早くも出回っちゃってるぐらいです。テレビの前の皆さんも類似品にご注意下さいね。」
独り者の男性諸氏を癒して包み込む、『未央スマイル』を放ちながらも、キワドイ言葉を遠慮なく口にする彼女。ブームの前と最中とでは、社会の許容レベルも大きく変わってしまうのだろうか。
「ちょっと未央ちゃん。妙に、ケンキチ・ブランドの肩を持つよね。まぁ若い女性の間でカリスマ的な人気らしいから、未央ちゃんも・・・。あっ、ひょっとして未央ちゃんも?」
五十嵐が軽い口調で、からかうように訊いてみると、服部アナは笑顔のまま大きく頷いて、なんとおもむろにチャコールブラウンのタイトスカートを胸元まで捲り上げてしまった。
「そうです。私もケンキチ・ガールでーっす。この鈴、お友達に売ってもらったんですーぅ。」
優しい笑顔のまま、ダイナミックに腰をグラインドさせる服部未央アナウンサー。五十嵐の恐れた通り、スカートの下はノーパン。意外と濃い陰毛を束ねて鈴を括りつけ、激しく振り鳴らしていた。
「ちょっと、未央。駄目だっ。カメラ、向こう。ロケ先の宮原さーん!」
「私もケンキチさんのザーメン。おマ○コから垂れ流したいですーっ。お願いしまーっす。」
本来「生放送」と言っても、放送事故をとっさに回避出来るように、オンエアには微妙なタイムラグを設けている。しかし、バラエティ志向だったこの番組のプロデューサーは、時流を敏感に察知して、このシーンも全国ネットで放送。結果としてこのTV局は、報道番組としては開局以来の視聴率を記録してしまった。
テレビ画面を食い入るように見つめていた江森健吉。独身男性のご多分に漏れず、服部未央のファンだった彼は、自宅療養中だったはずの体で、飛ぶように起き上がり、ソワソワと電話番号を探し始めた。
。。。
「おはようございます。服部未央です。今日は私、いつものスタジオを離れて、外部の撮影所よりレポートをさせて頂いています。こんな綺麗な、ウェディングドレスまで着させて頂いて、今朝はちょっとだけ、お姫様気分でおります。はい、すみません。」
カメラの前で「未央スマイル」がいつにも増して大放出されている。純白のドレスに身を包んだ服部アナは、少し照れくさそうに敬礼をしてみせた。
「なんとですね。昨日私が、ケンキチ・エモリブランドの大ファンだと番組の中でお伝えしましたところ、あの謎の新進デザインアーティスト、江森健吉さんご本人から、局へじきじきにお電話を頂きました。そして今日、私にもあの、滋野井セリさんと同じ服装をさせて頂けると伺いまして。取材も兼ねてお邪魔させて頂くことになったんですね。」
マイクを腕が、いつもよりも肘を張っている。鼻息がマイクに強くかかるほど、アイドルアナウンサーは興奮気味に喜びのレポートをしている。後方にチラチラと写っているのは、妙に大きいサングラスを不慣れな様子で身につけた、あまりパッとしなさそうな若い男だった。
「あー、あの、どうも。江森です。あの、インタビューとか、詳しい話は後にして、さっそく新作意匠をトライしてみましょうか?長話はその後で・・・。」
世慣れない雰囲気の健吉がボソボソと話すが、服部未央はそれを、アーティストならではの気難しく厳しい性格なのだと勝手に解釈して、緊張気味に従った。
「は、はいっ。何でも仰る通りにしますので、モデル経験はゼロですが、どうぞよろしくお願いいたします!」
健吉が適当に頷くと、スタッフに手で指示をする。未央は憧れの新ブランド最新作を身にまとうためなら、どんな指示にも従う覚悟を決めて、「気をつけ」の姿勢で待った。手袋、ベール、光沢のあるシルクのドレスが、少しずつ、脱がされていく。局アナとして4年前にカメラの前に初めて立って以来、肌を露出することもあまりない彼女だった。特に看板アナウンサーとして品位を求められるようになってからは、スカート丈もあまり短くないものを選んできた。それが今日、3台のカメラに生中継されながら、ほぼ全裸を晒すことになる。本来だったら当然あるであろう、彼女の抵抗や葛藤、躊躇の一切を弾き飛ばしてしまっているのが、時代の先端を走る新ブランドへの、全面的な崇拝だった。メディアの世界で激しい視聴率競争の中に身を置いてきた彼女の、敏感なアンテナが、過剰なまでに健吉の電波をキャッチしてしまったのかもしれない。
スカートが外され、パニエが下ろされると、ストッキングとショーツ。コルセットにブラジャーだけの、下着姿をカメラに下から上から舐められてしまう。耳まで赤くなった未央だったが、顔をアップにされると、気丈に微笑んで見せた。内気な健吉は未央の耳元で指示を囁く。
「えー、あの、ただいま、かの『セリちゃんファッション』をするために、準備するようにと、ケンキチさんから指示がございましたので、ちょっと失礼して、ブラジャーを外させて頂きます。」
一瞬目で着替え室を探そうとした未央だったが、健吉が少しだけ不機嫌になったような気がして、慌てて空気を読んで、その場で背中のホックに手をかけた。しかしこれまで一緒に仕事をしてきた、同僚のカメラマンたちが近づいてくると、思わず羞恥心が先に立ってしまう。
「やっ、・・・、カメラさん・・。あの、これはファッションなんですから、エッチに撮らないで下さいね。」
白いブラジャーのみの上半身を両腕で隠す仕種をしながら、未央が照れ笑いを浮かべる。今朝この番組を見ている男性視聴者は皆、会社や学校を遅刻して、録画設定をした上でテレビ画面に噛りついているに違いない。
恥じ入る未央に、信奉するファッションリーダー、健吉が近づいてまた囁きかける。未央は両手を胸の前でクロスさせたまま、肩をすくめて聞いていたが、何度か頷いて、意を決した。
「カメラさん。その、ケンキチブランドにとっては、エロさ、イヤラしさは大事な本質ですから、やっぱり未央を、・・・本当はどスケベな未央を、どんどんイヤらしく写して下さい。」
少し酔ったような、赤く潤んだ目でカメラをねめつけながら、アイドルアナはブラジャーのストラップから腕を抜き取り、ゆっくりとブラを下ろしていく。鎖骨から胸元にかけてうっすら静脈が浮き出ているような白い肌。おわんのように丸くて形のいいバストがアップで写される。新人の頃から「美形美乳アナ」とゴシップ誌に書かれてきた服部未央の生オッパイのアップに、視聴率は昨日の開局史上最高を早くも超えた。
「あれ?未央ちゃん。乳輪の色は薄くて綺麗だけど、ちょっと乳首の形・・・。」
健吉が意外そうな声を上げる。首筋まで赤らめて、未央は少し下を向いた。
「そうなんです。私・・・。ちょっと乳首が陥没気味で・・・。これじゃ、モデルさん、無理ですか?・・・。でも、指で刺激すればすぐ・・・。」
カメラが3台回っている前で自分の乳首を弄くろうとした看板局アナに、健吉からストップがかかる。ボソボソと彼が指示を出すと、未央はまた素直に頷く。彼女にとって健吉の声は時代の声。この声に従っている限り、彼女は視聴者たちからも、絶対的な支持を受けるはずなのだ。「これは今を生きる女の子だったら、皆が憧れる行為。」そう思うだけで、未央の全身には、既存のどんな道徳観念や一般常識、職業意識をも打ち破る勇気が満ちてくるのだった。
「テレビの前の皆さん。これまで未央が陥没乳首だったことを隠してきてゴメンなさい。どうか、皆さんも力を貸して、一緒に未央の乳首を綺麗に勃起させて下さい。」
一礼した彼女がメインのカメラの前へと駆け寄る。カメラマンがピントの調整に焦っている間に、彼女は右のオッパイをレンズにグッと近づけていって、じかに密着させてしまった。服部未央の乳房が、生中継中のカメラに密着。この前後数分間、日本の経済活動自体が停止しかけてしまっていた。
「乳首が立ちます。ツンツンの綺麗な乳首になーれ。」
子供をあやすような、子供が親に甘えるような、甘い声を出しながら、未央が上半身を円を描くように回転させるとレンズに密着している乳輪はよじれる。その刺激で、少しずつ陥没乳首が内側から顔を出してくる。その様子が日本列島に生中継されていた。あるところを超えると、あっけないほど勢いよく、右の乳首がプルッと顔を出す。そのまま乳首を中心にオッパイが円を描きながら押し付けられていると、挟まれた乳首が変形しながらどんどん硬く、精一杯大きくなるのが画面にハッキリと写される。日本全国の地上波デジタル未対応の男性視聴者が泣いた。
右も左も、乳首がツンと露出した未央は、嬉しさで緩む口もとを手でおさえながら、焦らすようにゆったりとした動きでガーターベルトを、ストッキングを脱いでいく。純白純潔の花嫁姿から、艶やかな姿態に変貌を遂げた彼女が、悪戯っぽい笑みを浮かべてカメラを挑発しながら、白いショーツをスルスルと下ろしていく。牛乳のように白くて潤いのある未央の肌は、ほんのりと赤く色ずく。予想よりも黒くしっかりと密集したアンダーヘアは、下着に抑えられてきたかのよように固まって絡み合っていた。つい先ほどまで何かが結わえられていたかのように、陰毛が絡み合っている。小ブリの乳首は、今も懸命に硬く突き出していた。すっかり妖艶なモデル気分になっている未央が、指示も受けないうちにゆっくりとカメラの前で一回転して、可愛らしい裸を見せびらかす。
「はーぁ・・。アナウンサー、クビになっちゃうかも・・。皆さん。これが、服部未央の生まれたままの姿です。いつもは皆さんに服の上からご覧頂いていますが、その下はこうなっています。どうぞよろしくお願いします。」
いつもの癖か、笑顔で45°の綺麗なお辞儀をしてみせたフルヌードの彼女は、期待感に胸を躍らせて健吉を見た。健吉も、そろそろ我慢の限界だった。カメラをほとんど無視して、押し倒すように服部アナに抱きついた健吉を、彼女も至福の笑みで受け入れる。夢中で彼がオッパイをしゃぶりつくすと、未央は声を漏らしてアゴを上げた。
テレビでお馴染みの有名人である未央のオッパイを、ムニュムニュとゴム鞠のように容赦なく揉みしだく。未央も(先週から)熱狂的に信奉しているアーティストの求めには何でも応じる思いで、剥き出しの乳房を自分からも健吉に押しつけた。口一杯に彼女の乳房を頬張る健吉。思い切り吸い込んだ後で、ジュパッと派手な音を立てて口を離す。すると未央の白い乳房が彼の口の形に赤くなっていた。
彼女の贅肉の薄い脇腹から、脇の下へと、健吉が舌を這わせる。脇の下を舐めると、少し酸っぱい匂いと、しょっぱい味。働く女性の味がする。未央が脇を隠して恥らう。手を払いのけようとする健吉。すっかり発情した顔で「イヤイヤ」と顔を左右に振る未央。彼女が脇のことに気をとられている間に、健吉はおもむろに彼女の両足首を取って、「まんぐり返し」の体勢にしてしまった。
ようやくカメラのことを思い出した健吉が、未央の足を、開いたり閉じたり、玩具にしてカメラにサービスしてみる。しばらく手を止めたかと思うと、急に大開脚させる。カメラがグッと寄ってくる。AVの撮影現場そのもののようだ。しかし、そこに大写しになっている女性器は、プロのAV女優のものではない。色素の薄い遠慮がちなビラビラと、ヌラヌラ光り始めているサーモンピンクの内粘膜。ぷっくりした肉の中に包まれてゴマ粒のように顔を半分出したクリトリス。これらを今、全国中継されているのは、国民的人気を誇る、女子アナウンサー。服部未央なのだった。
「スタッフさん。・・・服部アナのマイク。」
健吉が出した右手に、すぐに手渡された未央のマイク。青いスポンジ部分からそのマイクを未央本人の秘密の場所に押しつける。「ゴゴゴソ、ガサッ」という摩擦音の後で、「ッチュッ、クチュッ」という粘性の高い摩擦音が全国のTVスピーカーから流れ始めた。
「あぁっ・・・、私・・・、恥ずかしい音がっ・・・。全部っ・・・。」
未央の両手は顔を隠したり、耳を覆ったりと忙しい。
「そうだよ。未央のマン汁の音を、皆が聞いちゃってる。こんなアナウンサー。聞いたことないよ。・・・すっごくオシャレだね。」
言われた途端に、未央の膣口から垂らし出される愛液が、目に見えて増えてくる。顔に目をやると、健吉にオシャレを誉められたという快感で、未央は失神しそうなくらいの悦楽の中にいた。
「オシャレ・・・ウレヒい・・・。」
うわごとのように口にすると、口を開けたまま昇天してしまう。顔が横に傾くと開いた口から涎が床に垂れた。
(十分過ぎるぐらい、準備万端だな。)
健吉が未央の腰を持ち上げて、ヌルヌルと温かく濡れる彼女のナカに、自分のイチモツを押し込もうとする。少し上付き気味の彼女のアソコが、柔らかい抵抗のあとでズプリと彼を受け入れた。プツプツした内壁の一つ一つが、彼のモノを愛撫してくるような妖しい感覚。カメラがあらゆる角度から撮影していることも忘れて、激しくピストン運動を繰り返す。快楽に身狂いしている未央がここで世間に聞かせた声は、これまで出したことのないような、ダラシのない「アヘアへ声」だった。
それほど辛抱強くない健吉は、もうイキそうになる。もうすこし我慢しようと彼女の顔を見ると、「お茶の間の天使」がその美貌を緩ませきって、知性のかけらもない喘ぎ声を漏らしている。いっそう興奮してしまった彼は、ここで待望のプレミアムザーメンを彼女にプレゼントしてあげることに決める。未央の腰もキツく手繰り寄せて、数回、名残を惜しむように腰を振る。6回ほどに分けて断続的に、熱い精液を思いっきり、彼女の中でぶちまけた。
「う・・・ウレヒぃ・・・。皆さん・・・見てください。未央・・。綺麗ですか?」
健吉が体を離した後も、服部アナは足を閉じようともしない。むしろ目一杯股を開いて、カメラに秘密の穴を見せつけた。極大アップになった彼女のヒクヒクしている膣口は、一度「ブブブッ」と音を立てて空気を吐き出してから、ドロリとした健吉のザーメンを垂らしていく。
未央はモデルとして、立ち上がって決めポーズをとりたかったのだが、腰が抜けてしまったのか、立つことが出来ない。仕方なく、寝転がったままで形だけ、格好の良いポーズをとってみた。
「みなはま・・・。現場より・・・、服部未央がおおくりいはしまひた。」
涎も拭こうともせずに、惚けたような表情のままの未央が、とりあえずそのコーナーを結んだ。直後にまた、彼女のヴァギナが「ブプッ」と音を出し空気と精液を吐き出した。
。。。
「えー、日本には道徳も善悪もないんじゃないかって思ったりする時がありますね。全部トレンド、全部スタイルですよ。なかには『時流に流されないで自分を持ってる』っていうスタンスで語る人もいますけど、結局それもそういうスタイルが受け入れられるかどうか、必死で周りの様子を伺いながら、空気を読んで立ち振る舞っているだけじゃないですか。この日本っていう国は、結局右にならえで、みんなが流行に流されるのを求めているんじゃないかと思うんです。」
テレビの討論番組にサングラスをかけて出演し、偉そうに語る、話題のトレンドセッター、江森健吉。
「それは、全くの誤解です。っはっ、日本にも・・・、守るべき、秩序や・・・はんっ、良識が・・・、ぁあんっ。」
美人市会議員と評判の先生。社会派ジャーナリストと言われる真面目そうなキャリアウーマン。みんなお尻を突き出して、時代の寵児、ケンキチと討論する。『若い女性のパネリストは全員、後背位でディベート相手とまぐわいながら討論すること』という新しいスタイルが急速に浸透した今では、良識派の女性たちも討論番組で劣勢に立ってしまう。口下手だった健吉も、「ケンキチ・ブランド過激すぎ」論争が巻き起こったところで、マスコミから姿を隠す必要がなくなった。
討論相手さえ選ばせてもらえるのなら、いつなんどきでも相手をしてやる。プロレスラーのようにそう豪語するようになった健吉にはもはや、怖いものなどないようであった。以前の江森健吉は既にいなくなってしまったように見える時さえあった。実際、このところ、彼の発信する流行が、少しずつ嗜好の変化を見せている。シンプルでストレートにエロを求めるのに飽きた彼は、女性を弄んで笑うことに、いっそうのめり込みつつあるようだった。
。。。
今日も朝の情報番組が始まる。お茶の間のアイドル、服部未央が笑顔でニュースを紹介する。その後で今朝は、新人アナが新流行の特集を張り切って説明するコーナーだ。人気急上昇中のニューフェイス、由良咲枝アナが、服部先輩に迷惑をかけないよう、必死にレポートをしている。しかし残念ながら、少しタレ目でキュートな顔立ちが魅力の新人アナは、この時すでに、健吉のお下劣な暇潰しを「受信済み」だった。
「皆さんは今、巷で『静かなブーム』になりつつある、『ナチュラルフン』というものをご存知ですか?大都会で自然な生き方を取り戻すために、あえて自分の一番プライベートな姿をパブリックな場所で剥き出しにしようという、とても新しいパフォーマンスなんです。クールで洗練された都会の秩序を、あえて揺さぶる若者の反骨のパフォーマンス。今日は私がスタジオで挑戦してみたいと思いまーっす。」
笑顔でバスローブを脱いだ由良アナが身につけていたのは、粗い網目の黒タイツと白い手袋、真っ赤な蝶ネクタイに足もとはハイヒール。小ぶりで乳輪の小さなオッパイと、スレンダーな体はほとんど隠されていなかった。すでに五十嵐アナは硬直した笑顔で画面の端に移動する。このところ、この人は苦笑ばかりしてこの情報番組を仕切っている。
「はい。私も野外の、あえて人通りの多いところでウンチをしちゃう美人ヌーディストが最近増えたっていう噂は聞いたことがあるのですが、どんなものなのか楽しみです。サッキー、頑張ってね。」
服部アナは、ずいぶん前に葛藤など突き抜けたようで、笑顔で巷のニュートレンドを紹介する手伝いをしている。まだそこまでプロとして腹が座っていない新人の由良咲枝は、やや弱気の笑顔で、自分を奮い立たせるように半裸のまま背筋を伸ばした。
実はお嬢様育ちの彼女は、服部未央ほど流行を追いかけることに熱心ではない。それでも、取り残されるわけにはいかない。女心は複雑な構造をしているようだ。
「はい。未央さん。ナチュラルフンは、ただのノ・・・。ただのノグソとは違います。美人だけに許される。パフォーマンスとしての屋外自然排泄なんです。隠れて用を足そうとするから、どんどん人と距離を置かなきゃいけない。だからあえて、自分を曝け出すんです。だから・・・こうやって、自己紹介代わりに披露するんですよ。」
少し困ったような弱々しいスマイルを見せながらも、由良アナは右手でプラカードを掲げた。
「看板には自分の名前、年齢、職業、携帯番号やセ、セックス経験。性癖などを全部書き留めて、掲げます。公衆の面前で派手に排泄行為をしちゃうわけですから、最低限のマナーが守られるよう、記名性を上げる必要があるんですね。それ以外に持参する必要があるのは、新聞紙とトイレットペーパー。消臭スプレーとペット用の消臭殺菌加工されたトイレ砂です。人通りの多い場所では、人目にはつきやすくても、交通の迷惑にはなりにくい場所を選びましょう。」
恐る恐る持ち上げたプラカードには、『由良咲枝(23) 女子アナウンサー。脱糞します。悪臭注意』と大きく書かれ、下に小さな字で詳細な個人情報が列挙されていた。
「あれっ、サッキー。男性経験2人だけなんですね。花の女子アナとしては少ない方ですね。」
「まだ大学を出たばかりですしねー。いや、その分、オナニーの頻度は高めじゃないですか?やっぱりストレスもたまる職場なんでしょうね。」
後のテーブルで着席しているコメンテーターの大学教授やコラムニストのオジサンが、訳知り顔で、求めてもいないコメントを口にする。眉を「ハの字」にして、困った笑顔を見せる由良咲枝は足から指先まで全身真っ赤になっていた。それでも尊敬する服部未央が嬉しそうに頷いているので、抗議する素振りも見せず、震えながらパフォーマンスの紹介に徹する。プラカードを両手で持って、両足はスクワットの途中のように開いて大きな声を出した。
「それでは皆さんご覧下さい。アナウンサーの由良咲枝。ナチュラルフン参ります!脱糞3秒前、2秒前、1秒前!」
カメラが前と後からズームする。咲枝が眉を潜めて唇を噛む。
・・・しかしそこから数秒たっても何も起こらない。緊張の中、深い溜め息をついた由良アナはもう一度大きく息を吸って、下腹部に目一杯力を入れた。何度か小さな破裂音がして、汚物が砂と新聞紙の上に落ちていく。いくつかの塊を出していく様子を、朝食時の情報報道番組が大写しに放送していた。
「ブラボーッ。素晴らしいですね。今回はスタジオの中なので少し、クサい匂いがこもってしまっていますが、これも屋外だったら気にならないと思います。新しい時代の行動様式を、サッキーが頑張って、いえフンバってヒネり出してくれたという感じですね。」
服部アナは拍手をしながら、真剣に誉める。後輩の由良アナは肩を下ろして、今度は安堵のため息をついた。先輩の、匂いについてのコメントを思い出して彼女が密かにグサリとくるのは、緊張が完全に解ける、番組終了後のことだ。
「は・・・、はい。ありがとうございます。そして大事な後始末です。ウンチはペットのものと同様に、きちんと持ち帰りましょう。そして汚れたお尻は・・・。スキンシップも兼ねて、近くを通りがかった異性にお願いして、拭き取ってもらいましょう。」
ADの若い男性が、咲枝の汚れてしまった部分を、トイレットペーパーでガサガサと拭き取ってくれる。咲枝はその間、一度プラカードを寝せて、両手で大きく開いた両足首を握って、臀部を拭き取りやすい体勢になっていた。一連の様子を後方からカメラがアップで写す。内気な性格で生放送に合わないかという声も局内で聞かれた新人アナが、後に「日本一の行動派アナ」として大きくブレークする契機になったワンシーンであった。
「はい。サッキー。体当たりのニュートレンド紹介、ありがとうございました。それではCMの後は、まだなくならない、自転車の迷惑駐輪。低下する公衆モラルについて、怒りのレポートです。」
軽快な音楽が流れ始めると、カメラがズームアウトしていく。由良咲枝アナはまだ、ADに肛門を拭いてもらっている途中だ。真っ赤な顔を少し上げて、何とか笑顔でカメラに手を振った。
そして翌週には同じ番組で、「ナチュラルフン」ブームによる、ペット用トイレ砂の品切れが報道されたのだった。
。。。
健吉の個人的な好き嫌いから、一部の美女たちは生活様式をがらりと変えられてしまう。
時代遅れのダサいオンナにだけはなりたくないと思う女性たちにとっては、例えどんな酷いブームが到来しても、自分のアンテナにビンビン届いている限り、飛びつく他にはないようだった。お上品で「お高い」ファッションや生活ぶりで庶民の憧れの的になっていたはずの高級住宅街には先月から、「人情大衆居酒屋」が、雨後の竹の子のように増殖している。白い捻りハチマキに赤いハッピと白フンドシだけの姿で身を粉にして働いているのは、近所で優雅な生活を満喫していたはずの有閑マダムたちだ。
噂を聞いた外回りの営業マンが二人、店の暖簾をくぐると、髪を夜会巻きまとめたハイソサエティのヤングミセスたちが、赤いハッピからバストがこぼれ出ているのも構わずに、威勢の良い掛け声で迎え入れてくれる。生ビールを頼んでも、枝豆を頼んでも、大急ぎで出してくれるのが気持ちいい。
しかし、乾杯のあとで営業マンたちがやっと周りの客席の様子を伺ってみると、どこの席でも、風俗店のようなサービスを嬉々として提供していることに気づく。
「んー。外寒かったから、とりあえずパイズリでもいっとこうかな・・・。」
隣の席のオジサンがオシボリで顔を拭きながら注文すると、ムッチリとした体つきの美人妻は、一言、「へい、喜んでっ!」と叫んで、豊満な乳房を両手ですくい上げる。有閑マダムの公開パイズリが酒のつまみにされているようだ。
「チンポひとつ入りまーす!」
「ありがとうございまーっす。」
店の隅の席からうら若い女性の声が上がると、店内のいたるところから店員さんたちのお礼が聞こえる。営業マンが振り返ると、テーブルの上でお得意先のIT社長夫人が、騎乗位で体を揺らしていた。
「僕も・・・ああいうの、いいですか?」
通りかかった若妻を引き止めて、遠慮がちに注文してみる。ハーフのように彫りの深い、ゴージャスな婦人は「へいっ、合点。セックス一発、喜んでっ!」と威勢良く、景気のいい大声を張り上げるのだった。
。。。
鵜川サトミが住んでいるのは関東地方とは言っても、首都圏から車で2時間離れた「地方」。しかも彼女は受験勉強まっしぐらの特進コースなので、あまりテレビを見る暇もなく、流行には疎い方だと自分でも思っていた。そんな彼女が時の流れのスピードに驚いたのは、クラスメイトから流行のゲームに参加するよう、もちかけられた時のこと。
「4組の女子たちと、クラス対抗で競争するの。サトミも参加してよ。」
「んっと・・・。私、テレビゲームもやらないし、携帯もシンプルなものしかお母さんが持たせてくれないから、流行のゲームとか、わかんないよ。聞いてすぐ出来るような、簡単なものなの?」
「ったく、サトミはいつまでイイ子ちゃんしてるのよ。可愛い顔してるし、ちょっとでもオシャレしたら、男子がほっとかないような素材なのに・・・。もったいないなー。ほら、さっさと来る!」
級友たちにセーラー服の袖を引っ張られて、鵜川サトミが辿りついたのは4組の教室。特進コースと一般4組の女子たちが、2列に分かれて並んでいた。列の先頭には、なぜか1人ずつ、相手の組の男子生徒が立っている。
「ほら、今一番盛り上がる、フェラ・リレー競争だよ。サトミの参加でやっと人数が合ったわ。ルールは簡単。4組で人気投票最下位だった男子がうちのクラスの列の前に、4組の列の前にはうちのクラスの嫌われ者がいるから、先頭の子がそいつにフェラをして精液を出させるの。後は列に並んだ女子たちが、口移しでその精液をリレーして、どっちが早く最後尾まで精液を運べるかで勝負。サトミはどうせ初めてだろうから、最前列は勘弁してあげるね。」
友人の美沙が、余りにも当たり前のように話すので、サトミは一瞬、自分の頭がおかしくなったのかと、不安になってしまった。
「フェ・・・、精・・・って、ちょっと待ってよ。そんなの流行るわけ・・。」
「ほら、さっさと始めないと、放課時間終わっちゃうわよ。よーい、スタート!」
4組の女子生徒が、勝手に競技開始を宣告してしまう。特進コース先頭にいる委員長も、慌ててメガネをとって、4組男子の前に跪いた。激しく振られる委員長の頭・・・。ダラシなくニヤける、少し不潔そうなニキビ面の男子。サトミは顔を背けて、見ないようにした。頭脳明晰で尊敬できる委員長が、なんであんなことを・・・。サトミが目をつむって首を振っていると、前のクラスメイトから肩を叩かれた。
「ハヤフ・・、ハホヒッヘハ!」
「み・・、美沙ちゃん。こんなの、流行ってたって、駄・・ムグッ。」
拒もうとしたのに、親友に無理矢理唇を奪われてしまった。ファーストキスの相手が同性・・・。そんなショックを噛み締める間もなく、サトミの口の中にはドロリとした青臭い粘液が押しつけられてきた。
「ムーッ・・・、ンーーーンッ!」
(お母さーん!)
サトミが体をよじり、足をバタバタさせて抗議する。それでも、これが今、一番流行っているゲームなんだから・・・。みんなが盛り上がっているのを私が邪魔するわけには・・・。必死で胸のムカツキや吐き気と格闘しながら、サトミは健気に全てを口におさめて、後を振り返る。後にいたのは図書委員の真紀。しかし、意を決してその真紀とクラスメイトと唇を重ねようとしたその時・・・。
「ウッ、ウエーェェ。苦い。気持ち悪いよー・・・。」
サトミはつい我慢できずに、口にふくんでいたネバネバしたおぞましい白濁液を、吐き出してしまった。
「あーっ。サトミ。何やってんのー!」
「キャーッ。負けちゃう。サトミ継ぎ足してーっ。」
(継ぎ足すって・・・、どういうこと?)
サトミがただ立ち尽くしてオロオロしている間に、意を決した真紀が四つん這いになる。なんとサトミが床に吐き出した精液を、真紀が舐め取って口にふくもうとしている。サトミはその姿を見た瞬間。自分でも意外なほど素早く行動していた。
「あっ、サトミ凄い。ガンバレー。」
フェラチオの余韻を放心状態で楽しんでいた、4組で1番不人気の男子。その男子のあまり清潔そうでない生殖器に、サトミは必死で食らいついた。乏しい知識を総動員させて、懸命に口で奉仕を始めるサトミ。彼女と同じように真面目な少女のはずの真紀が、床から舐め取ってまでして繋ごうとした精液。自分が吐き出してしまったリレーのタスキは、自分で取り返さないといけない。サトミがチームワークの重要さに目覚めた瞬間だった。
(真紀。私、自分のことばっかり考えて、精液を嫌がってた。馬鹿だね私。でももうこれ以上、みんなに迷惑かけられないから。見てて!)
今のサトミにとっては、それは清らかなクラスメイトの絆の証のように思えた。委員長の口に出してくれた、大事なリレーのタスキ。なんとかしてもう一度、今度は自分の口に出して欲しい。サトミはたどたどしい舌つきだが、懸命に男子のアソコを愛撫する。クラスの女子たちの、一つになった応援の中、若いイチモツがゆっくりと、彼女たちの希望に応えるかのようにムクムク起き上がってくる。感動して泣き出す級友もいる。まだ異性とのファーストキスも経験していない乙女が、同性と口を重ね、好きでもない男子生徒のイチモツを激しくストロークしているその様は、それを見守る誰の胸をも打った。
そしてついに彼女の口一杯に放出された、熱い粘液。サトミにとって今度は青春の味がした。
しかしそこで、あっさり笛が鳴る。
「はい4組ゴール。特進コースは罰ゲームとして、明日は女子みんな、アソコにオロビタンGの空き瓶を突っこんで登校してきてね。あと、今精液を口にしてる子は、次の放課まで、ずっと口の中で保管ね。一応遅くても、ちゃんとゴールするまでやるのがルールだから。」
4組のリーダーがあっさりクールに宣告する。とたんに特進コースの女子たち全員の高揚したムードが暴落した。サトミが一瞬、青春の味とまで感じた精液も、すぐにホロ苦く、青臭く感じられるようになった。
(はぁ・・・。受験勉強も流行のゲームも、どっちも楽じゃないのね・・・。)
ザーメンを口にふくんだまま、次の授業を受けることになった鵜川サトミ。級友たちと一緒に、ションボリと自分の教室に戻って、英文法のテキストを開いた。青臭く、ホロ苦い後味は、その日の夜まで口の中に残るのだった。
。。。
近頃、エコが流行っているらしい。ナチュラルフンなんて過激な流行を追うほど、自分の美貌に自信があるわけではないOL、日下部菜穂は、バス停で次のバスを待っている間、自分が試してもヒンシュクを買わなささそうな、穏当な流行にこっそり手を出してみた。
ウールのコートの下に手を入れて、スカートの下からそっと自分に触れる。携帯電話やゲーム、音楽プレーヤーなどの電気を使わなくてもよい時間潰し。最近、エコロジー・セルフサービスといって、ちょっとした休み時間や待ち時間に、オナニーに励む女性が増えてきたらしい。適度な性的刺激は美容や健康にもいい。色っぽい声を出して、周囲の男性に聞かせることも、ちょっとしたヒーリング効果があって、社会全体が明るくなる・・・。雑誌で読んだ記事のことをふと思い出して、菜穂も挑戦してみたくなったのだ。
「あっ・・・。はぅっ・・・。んっ。クリトリスのまわりが気持ちいい。直接・・触らなくても、恥骨の上のところから回すように押すと、気持ちいいの。」
気持ちよくなったら、出来るだけ詳細に、解説をしながらセルフサービスするのが、今風らしい。日下部菜穂だって、今を生きる、都会のOLだ。容姿だってなかなかイケている。今年で28歳になるとは言え、トレンドから完全に取り残されるには、まだ早すぎる。
バス停で一緒に並んでいるオバサンが、いぶかし気な顔でこちらを見ている。男子中学生が体を「くの字」に曲げて固まってしまっている。まわりの反応を意識しながら、日下部菜穂は次第に手の動きを激しくしていった。
(どんなリアクションでも、まわりに反応されたらどんどんエスカレートさせちゃうのが、今っぽいでしょ?・・・このバス停。10人近く人がいるのに、セルフサービスしてるのは今、私だけ。まだみんなこういうのが流行ってるって、知らないのかな?ウフフ。みんな遅れてるのね。)
流行の先端に乗って、古き一般常識を無視しているという、背徳感と恍惚感。自分が今、ここで一番新しい人間だということを、もっと多くの人たちに知ってもらいたくて、彼女はあからさまな喘ぎ声をあげながら、股間をより激しくより大げさに弄り始める。北風が吹くなか、服をはだけ、腰をクネらせて大声で悶える日下部菜穂。
次第に、同じような喘ぎ声が、大通りの反対側からも響き始める。初めは自分自身の声の反響かと思ったが、声がもう少しだけ若い。見ると、通りの反対側のバス停でも、OLと女子大生がエコロジー・セルフサービスをしていた。
(今の若い子はみんな、人前でエコっちゃうのが大好きね。でも私だって、まだまだ負けないんだから。)
車通りの多い、片側2車線の道路を隔てて、若い女性たちがオナニー合戦を始める。この、今時の緩んだ世情が許していなければ、絶対に見られないような異常な光景。それがすっかり市民権を得つつある昨今だった。
「あのー・・。ちょっといいですか?」
若い男性の声が聞こえて、菜穂は閉じていた目を開ける。くたびれたパーカーに身を包んだ、冴えない感じの男性が、立っている。
「オナニー。ひょっとして、まだ一人でやっているんですか?もし、今流行の手伝いオナニーを待っているけど、異性の申し出がなくて困っていた・・・とかでしたら、僕、手伝いますけど。」
言われて、急速に菜穂は世間の移り変わりを理解した。そうだ。もうセルフサービスの時代なんかじゃない。見ず知らずの男性にされるがままに、オナニーを手伝ってもらうのが、これからの「旬な時間の過ごし方」じゃないか・・・。
。。。
今年の初めに、大ウケしはじめた一発ギャグ。それは映画の試写会でスクリーンスターが突然披露した『新ネタ』ギャグがきっかけとなった。
「イヤ~ン。恥ずかしい~ん。ここ見られるほど、恥ずかしい~。」
恥ずかしがりながら、服を剥ぎ取って、おもむろに乳首の立ったオッパイや、濡れたアソコを見せつけるという、自己矛盾したような体を張った一発ギャグ。それは、突然やり始めた女優の、普段の大人しい性格とのギャップから、大爆笑をさらった。しだいにそのギャグは、普段奥ゆかしく、大人しい性格の美女ほど、ついやってしまう、感染性一発ギャグとして、アッという間に、職場や教室で大流行した。
上司や同僚のセクハラ的な質問に困った内気なOL。誘われたコンパでのキワドイ話題に戸惑うウブなお嬢様。ギラギラした男子生徒の悪ノリ質問をかわそうとしていた真面目な女性教師。普段のキャラと正反対の下ネタギャグで突然返してくるその姿は、本家の国民的人気女優が初めて披露した時と同様のインパクトと「笑撃」を、職場や宴席、教室に与えるのだった。意図しなくても思わず口をついてしまうものこそ、真にブレークしている、本物の流行語というものかもしれない。その意味でもこのギャグは、披露した本人も驚いてしまうような、条件反射的な大流行ギャグだったようだ。
「ここ見られるほど恥ずかしい~。」
教卓の上に立って、滑稽なポーズをとりながら、アソコを開いてみる。
クラスメイト全員。担任の教師までが、腹を抱えて、床を転げて笑い泣きしている。流行りと無縁のはずだった鵜川サトミが、ブレーク中の一発ギャグでクラス中を笑わせるなんて、今の今まで、誰も思いも寄らないことだった。たまたまサトミのアンテナど真ん中に入ってしまったのか。それとも彼女のような、生真面目な乙女を狙い撃ちしたブームなのか。サトミ自身も急に、止めたくても止められないほど、このギャグにハマってしまっていた。フェラチオリレー競争に負けて、流行を追うなんてコリゴリだと思ったはずのサトミが、今、ノリにノッていた。
男子生徒に下らなくて品のない言葉を投げかけられるだけで、もはや無意識のうちに身を捨てたギャグを繰り返す。いつのまにかサトミは、クラス随一のギャグマシーンになりつつあった。これまで流行りに乗ったことなんてほとんどなかった、優等生。意外とこうした普段堅い性格の人間ほど、いざ真正面からハマってしまうと、普通の子たちよりも流行から抜けられなくなってしまうものなのかもしれない。
(私が・・・。みんなをお腹の底から笑わせてる・・・。こんなことあるなんて、夢にも思わなかった・・・。)
彼女の体中を、不思議な快感が駆け巡っている。文系教科では校内成績トップのお笑い芸人が誕生した瞬間だった。
「ここ見られるほど・・・キモチイイーィィッッ!」
有頂天のサトミが、開いたままの若くて硬い女性の部分から、ジュブジュブと潮を噴く。まだ処女の彼女が、熱い汁を断続的に噴出しながら、教卓で果ててしまった。教室はまだ、爆笑の渦の中にあった。
。。。
人の行動様式、道徳観念にも流行り廃りがあると、健吉が実感し始めてから、日本の風景は様変わりしつつあった。美貌に任せて男を何人も手玉に取っていた「魔性の女」たちは、ある日を境に、これまで弄んだ男たちにかしずいて、股間の垢や肛門の汚れを舐め取って懺悔する。懺悔巡礼に没頭するようになった。街角の社会人女性たちは待ち時間を自慰行為や、赤の他人とのヘビーペッティングでやりすごすようになり、内気で控えめな美少女たちは多少お下劣な一発芸に菱で体を張る。ナチュラルフンブームは未だに盛況で、今では華やかなグルメレポーターたちも、紹介番組で名物料理を口にした後で、店外で下から出すまでを、スルーで披露するようになりつつある。当初は日本の珍風景を笑いのタネに紹介していたはずの外国メディアまで、最近は「世界への新たな流行発信か」と肯定的に書き立てるようになったのは、近年の日本のコンテンツ産業隆盛の影響だろうか。現に成田や関空のロビーでは、フライトアテンダントたちが披露するナチュラルフン・パフォーマンスに、一眼レフを抱えた外国人観光客が、日本の最後の思い出にとフォトを求めて群がる光景が一般化していた。
ブームに染まりきっていない、地方や遠隔地からは、東京の新名所めぐりツアーとして、若くて美しい女性たちの繰り広げる痴態と狂態を、バスで見物するツアーが組まれるようになった。しかし、ブームとして日本中が認識する頃にはすでに、観光バスルートにて観光客相手にパフォーマンスをしているのは、8割方、ブームを追いかけてやって来た、地方出身というのが実態となっていた。
。。。
美女たちを両脇に「抱き枕」として抱えて、ゴージャスな夢を見ていた江森健吉の目が覚めたのはまだ夜も明けていない、午前4時半のこと。余りの寒さに、目が覚めてしまったのだった。両脇にいたはずのミスユニバース日本代表とレコード大賞受賞アイドル歌手が、いつの間にか、いなくなっている。妙に嫌な予感を与える静けさ。健吉は、なぜこんなに静かなんだろうかと、自分の周囲を隈なく見回してみた。
だんだん頭が冴えてきて、彼に違和感を与えていた静けさの意味がわかる。これまで常に低い作動音と、ピコピコと電子音を出してきた、かの流行発信機が、すっかり静かになってしまっている。今年の年初以来、片時も自分のそばから離したことのなかったタワー型の流行発信機。それは夏本番を前にして、ひっそりと一切の作動音を止めてしまっていた。
大慌てで、六本木のド派手なペントハウスから、田町駅の古いアパートに駆け戻った健吉は、うっすらと埃を被った自分の部屋をひっくり返して、分厚い説明書を探し出す。
『故障かな?と思ったら』
というページを探し出して、読み込んでみた。
『電源が入らない。コンセントに接続しても、一切反応がない。 ⇒ 限界量を超えた発信過剰による、破損かも。
個人の趣味使用を用途として設計されている家庭用流行発信機は、家庭用電源で作動しています。限界量を超えて、広範囲に強力な流行を発信し続けると、機械の寿命を縮めますので、十分ご注意下さい。発信機が破損し、一度流行が去ってしまいますと、それまで流行っていたものは、ブーム以前よりも評価を落としてしまいます。使用上の注意をよく読み、機械の能力にあった範囲で長期間当機をお楽しみ下さい。』
ヘナヘナと畳の上に崩れ落ちてしまう健吉。
「ブーム・・・もう終わりか。・・・早いなぁ・・。」
一時異常にチヤホヤされた、おかしな時期が去り、元に戻っただけだと自分を慰めてみても、なぜかその、自分の「元に戻った生活」が必要以上にミジメに感じられてしまうのだった。
「流行が一つ去ったって、だけなんだけど・・・。寂しいもんだなぁ。」
空が白み始めている。少しずつ明るくなっていく半年前のアパートで、江森健吉はまるで一気に5歳も歳をとったような表情で、一人長い息を吐いた。
。。。
一大ムーブメントの最中に流行にノッて踊った人ほど、いざブームが去ると、ケロリとこないだまでの狂騒のことを忘れて、新しいトレンドに対応して生活している。ケンキチ・ブランドブームの世間への影響は、意外なほどあっさりと、かき消されていった。しかし、思わぬ痛手を受けた場所もいくつかはある。書店「アラメゾン」は、若い女性垂涎の聖地として持て囃されたがために、ブームが去って以降は急に女性たちに見向きもされなくなってしまった。
気落ちする店長を支えようと、ここで必死に奮闘したのが、意外なことにしばらくバイトを休んでいたはずの、江森健吉だった。若い女性の足がパッタリ途絶えたことを逆手にとって、女性を苦手とする、モテない若い男子をターゲットに品揃えを変更。数ヵ月後にはコアなラインナップが評判になって、ディープな趣味の男性客が増え始めた。その年の冬を待たずに、書店「アラメゾン」は経営危機を脱却、見事に復活した。
店長とマスターの水川夫妻から、正社員にならないかと誘われている江森だが、今日もまだ、バイトのチーフとしてカウンターに立っている。
「それでね。彼氏が、世間も不況だし、就活厳しくなりそうだから、今から準備する。誠子とのデートも減らさないと、とか言うんですよ。どう思われます?清人先輩、まだ2年ですよ?」
大学生活にも慣れ、バイトの合間に元気よく彼氏の愚痴をこぼすようになった柊誠子。後輩アルバイターたちの面倒を見るのも、バイト統括である今の健吉の仕事だ。
「うーん。今は就活すごく大変っていうのは本当だし・・・。2年の終わりで準備始めるのも、早すぎるってわけじゃ・・・。ま、僕は定職についたことないから、何とも言えないけどね。でも、そうやって彼氏が先々のことを見据えて、ちゃんと人生設計とか考えてるのも、実は誠子ちゃんに対して真剣にお付き合いしていきたいからかもしれないよ?」
「えーっ。キャーッ。どうしよ。江森先輩・・・。大人ですねー。なんだかここ数ヶ月で、グッと大人っぽくなりましたよね・・・。」
「そ、そうかな?自分では、わかんないけど。」
お客さんに聞こえない程度に、控えめに会話しようとする健吉を無視して、誠子は一人盛り上がっている。今年の初めにはまだ不慣れな新人バイトだった彼女も。だいぶ快適に仕事が出来るようになったようだ。
「はーぁあ。私が卒業する頃、景気とか就職とか、どうなってるのかなぁ?女子の就職なんて、世の中の状況に振り回されてばっかりなんだろうな~。」
大きな溜め息をつく誠子。同意を求められているような空気を感じたが、健吉はあえて違う視点を出してみた。
「そうでもないんじゃない?・・・そりゃ、一人で生きていくわけにはいかないから、世の中の移り変わりに絶対影響は受けるんだろうけど・・・。とりあえず、世間の浮き沈みとか流れとかにばっかり気をとられていないで、置かれた状況の中で自分に出来ることを、一つ一つ丁寧にこなしていったら・・・。いつかは、いいこと・・・。ね。」
お客さんが近くを通ったので、柊誠子は直立する。どうもこの江森先輩は、最近急激に成長してしまったようだ。一言一言に妙な重みがある。彼女は少し、この江森という男のことを考えてみる。
「先輩。正社員にならないで、また資格の勉強始めるんですか?誠子、先輩がいないと、こういう相談も出来ないし、寂しいですー。」
「ん・・・。実はまだ、勉強するか、正社員になるかも、ちゃんと決めてないんだ。仕事しながら勉強って方法もあるにはあるしね。まだ、結論は出さなくてもいいかな。お店がもうちょっと安定したら、僕も本当にやりたいこと・・・。まわりに流されずにきっちり見据えようかな。なーんて、思ってるんだ。」
流行り廃りに振り回されたり、振り回したりして、大騒ぎするのはもう沢山。世間は不況でも、キレず、クサらず、気を抜かず。地道にコツコツと自分の生活を組み立てていきたい。心底そう思えるようになった江森健吉だった。
しかし、残念ながら彼の人生は、彼が望むような安定して落ち着いたものにはならないようだ。彼が「流行発信機」の分厚い説明書を全て読みきっていなかったからだ。
『使用上のご注意18.
一旦、地域レベル、国レベルで浸透してしまった流行というものの多くは、数年後から十数年後程度のスパンで、リバイバルブームとして復活します。広範囲での過激な流行発信については、くれぐれもご注意下さい。』
< おわり >