幻市 第六章

第六章

 雨の日曜日。金沢はこれからのシーズン、太陽を見ることはぐっと少なくなる。11月から3月にかけて重苦しい曇りの日が続く。

 いつもであれば少々の雨ならレインウェアを着て走り込みをする《シンイチ》だが、期末試験も近いため今日は朝から勉強机に向かっていた。

 勉強に一区切りがついたのでベッドに横になる。くつろぐと《シンイチ》の脳裏に女性の裸が浮かんで来る。野杖医師・・・・身体を小さく丸めてオナニーをしていた先生の姿。佐伯看護婦の血にまみれた・・・。トイレのレイ。・・・忍の柔らかい身体。・・・・鼻から熱い息が漏れる。下の茂みを見せたままマネキンのように立っている恵の姿。溜息・・・。

 《シンイチ》は布団に潜り込むとズボンを下げていきり立つモノを慰め始める。

 突然ふすまの外で真純の声がする。

「信ちゃん、・・・チョットいい?」

「シンイチ》は慌てて布団から両手を出す。

「何?」

 ふすまが開いて真純が中を覗く。

「いい?」

「うん、何?」

 真純が入ってくる。《シンイチ》はベッドの上で体を起こし腰をずらすとベッドのヘッドボードに寄りかかる。

 《シンイチ》のズボンとパンツは膝下まで下がっている。それがばれないように布団の位置を調整する。真純が《シンイチ》の勉強机の椅子に腰掛け《シンイチ》の方に向き直る。

「何?」

「寝てたん?」

「いや、休憩してただけ」

 手元に置いていたアリバイ用の文庫本を眼で示す。

「大したことやないんやけど・・・信ちゃん、狙う高校決めたん?」

「いや、まだ。・・・いくつかには絞ったけど」

「やっぱり、東京に戻るんやろ」

「うん、オヤジも東京に戻るし、いつまでも世話になるわけにもいかないし・・・」

「そやね」

 布団の中のモノは屹立したまま快感を待っている。普通の会話をしながらモノを屹立させる・・・何か変な気分だ。でもスリルがあって少し楽しい。

 《てん》はイライラし始めた。まさに自慰を楽しもうと言うときに邪魔が入ったのだ。《シンイチ》の眼を通して真純の良く動く口元を見つめる。紺色のハイソックスの細い足首を見つめる。

「私、北海道に行こうかと思うてるんや」

「北海道?」

「うん、北大の農学部」

「へえ、農業に興味あったなんて知らなかった」

「ううん、獣医さんになりたいなって・・・」

 それなら解る。前にもそんな話をしたことがあった。

「おばさん、何て言ってた?」

「うん、・・・」

 チョット口ごもる。反対されているのだろうか?

 今日の真純は紺のスカートに紺のハイソックス。丸首のグレーのセーターを着ている。今日はコンタクトをしていないようだ、縁なしの眼鏡をかけている。髪を後ろに束ねているため一層顔が小さく見える。

 

「動物のお医者より人間のお医者になったらって」

「そりゃそうだ。真純ちゃんならK大の医学部でも狙えるんでしょ?・・・おばさん、病院勤めだし」

「私、あんまり人の生き死にに関与したくないちゃ。・・・そんな人間が合格圏内にあるからっていう理由だけで医学部受けたらマズイっしょ?」

「そういうものかなぁ?」

 《てん》はしびれを切らせ始めていた。

「それに・・・これまだ私から聞いたって言うたらアカンがよ、まだ秘密って言われとるんやから・・・あのね、お母さん、再婚するげんちゃ」

「えっ?」

「再婚。農協病院のお医者さんなんげんて」

「へえ、本当?」

 これは意外だった。

「でも、まさかそれで北海道に・・・?」

「違うけど・・・でもここにおったら邪魔かなっていう気持ちがないわけでもないねんな」

「いつ?・・・再婚て?」

「春先やと思う。・・・な、キリがエエやろ?・・・年明けには信ちゃんもおらんがになるし、春には私は北海道。・・・な?」

「な?って言われても・・・?」

 真純が黙り込む。《シンイチ》はさっきから下半身がそろそろ限界に近づいていることに気がついていた。やばいよ・・・真純ちゃん。

「真純ちゃんの好きにすれば良いんじゃない?」

「そがいな意見聞きとおて信ちゃんに相談したんと違うっ」

 早くうち切りたくて言った言葉が真純を怒らせてしまったようだ。椅子を立ってベッドの《シンイチ》に詰め寄る。

「こがいな事、誰にも相談できんと悩んどったがんに」

 ベッドの脇に腕を組んで仁王立ちだ。スカートの裾が《シンイチ》の目の高さで揺れる。

 もうダメだ。漏れてしまう。《シンイチ》は布団の上から股間を押さえた。

「解った、解った・・・所詮、信ちゃんには人ごとやさけな。子供に相談した私がダラやった。・・・何しとん?」

 突然、《シンイチ》は全身に震えが走るのを感じた。痙攣だ。

「信ちゃ・・・?あ、あ・・・」

 《シンイチ》の様子に真純が慌てる。真純は《シンイチ》の病気を知っている。

「た、大変。・・・待っててな、お母さん呼んでくっし」

 僕の上にかがみ込んでいた真純が叔母を呼ぼうと体を起こす。《シンイチ》が真純の腕を掴む。ギョッとして《シンイチ》を見る真純。「あ゛・あ゛~あ゛~

 真純が身体を反転させながら《てん》の上に倒れてくる。《てん》が真純を抱き止める。布団をはねのけながら真純と身体を入れ替えて組み敷く。

 今日の《てん》には余裕がなかった。今にも暴発しそうだ。

 身体をずらすと真純のスカートをめくり上げる。尻の下に手を入れると一気にショーツを引き下げる。足首に引っかかるショーツをうなり声を上げながら取り去る。ショーツが裂けハイソックスをはいた真純の足が跳ね上がる。

 真純の足を膝を折り畳むように押しつけながら、《てん》はいきり立つモノを押し込む・・・と同時に発射した。

 《シンイチ》は足を持ち上げた真純の股間に体重をかけたまま茫然としていた。息が荒い。

 その日初めて《シンイチ》は《てん》の行為を見たのだ。

 

 状況が良く掴めていなかった。自分の身体が痙攣を始めたのは意識していた。叔母を呼びに行こうとする真純を止めようとして真純の腕を掴んだ。布団の中のパンツを下ろした下半身が気になり叔母を呼びに行かれたら困ると思ったのだ。

 その後が・・・真純が倒れてきたのは何故だ。自分の身体が勝手に動いて・・・確かに勝手に動いた・・・真純を抱きしめた。・・・身体が勝手に。

 そして真純のパンツを下ろしていきなり、・・・確かにあれは自分だ。でも、身体が勝手に・・・。《シンイチ》はベッドに座り込んだ。重しの取れた真純の長い足が伸びて大きく拡がった。拡がった足の中心部に眼がいく。《シンイチ》は慌てて目を逸らす。

 その時、廊下で叔母の声がした。

「真純、・・・真純ちゃんっ。・・・おらんがけ?」

 階段の下から2階に声をかけているようだ。《シンイチ》は慌てた。掛け布団と一緒に真純の身体をベッドと壁の間の隙間に落とし込む。ズボンとパンツを直して勉強机に飛びつく。

「信ちゃん、・・・真純、知らんがけ?」

 ふすまが開いて叔母が顔を覗かす。危機一髪、勉強中を装う。

「いや、部屋じゃないの?」

「おらんみたいちゃ。・・・三河屋さんまで行って貰いたかったんに・・・」

「買い物?・・・僕、言って来よか?」

 ベッドの脇に真純の破れたショーツが落ちている。心臓が跳ね上がる。

「エエがよ。・・・信ちゃんは勉強しときまし。・・・しょうがないなぁ、おばさん、ちょこっと買い物行って来るさけね。・・・全くどこ言ったんやろ、あん子は・・・」

 叔母がぶつぶつ言いながらふすまを閉める。ふすまに近づき気配を伺う。叔母は2階に上って行き真純がいないのを確認して買い物に出た。溜息。

 壁の隙間から真純を引っ張り出す。三河屋まで行って戻るのに要する時間は15分くらいだ。さっきの自分の行動を分析している暇はない。これをナントカしなくちゃ・・・下半身を剥き出しにしている真純を見る。

 足を大きく拡げる。股間にびっちゃりと大量の精液がついている。でも深くは挿入していない・・・自分のモノの先端の感触を思い出す。触れるなり暴発したと思う。薄い肉色を見せる真純のクレバスを震える指でそうっと開いてみる。溜息も震える。・・・よく解らない。でも多分、中を洗わなくても大丈夫だろう。

 床に落ちていたショーツで前から後ろまで丁寧に拭き取ってやる。

「真純ちゃん、これから僕が《はい》と言ったら僕の言うとおりにするんだ。自分の部屋に行って新しいパンツを持ってくるんだ。トイレに行って用を足せ。それからウォッシュレットのビデを使え。それからここに戻ってくる。いいか。・・・はい」

 急いで真純を部屋から押し出し、その後の手はずを考える。

「ちゃんと、おしっこをした?・・・真純ちゃん」

「うん、おしっこした」

「洗った?」

「洗った」

「パンツはちゃんと履いた?」

「うん」

 《シンイチ》が帰ってきた真純に尋ねる。スカートをめくって下着を確認する。・・・OK。・・・あっ、メガネ。ベッドと壁の間に落ちていたメガネを拾ってかけてやる。急がないと叔母が帰ってきてしまう。

 本屋に行かせることにする。暗示をかける。素直に指示を聞いている真純。

 《シンイチ》は突然、真純を抱きしめた。已むに已まれぬ後始末の行動ではない《シンイチ》として初めての肉親への情欲。静かに胸の膨らみに手をやる。

 本屋に行きかけた真純を呼び止める。

(・・・今日は時間がない。叔母が帰ってきてしまう。でも、僕がこれから真純に教えるキーワードを言ったら君はいつでも今の状態になるんだ。)

 キーワードを教え込む。波動砲でのトランス状態にキーワード催眠が効果を持つのかどうかは解らない。だけど《シンイチ》は真純を失いたくなくなっていた。

「真純、どこ行っとったん?」

 昼飯の準備が出来て食卓に着いたところに真純が帰ってきた。叔母の声がとがっている。

「本気堂まで、参考書を見に・・・」

「言うて出んさいよ、あなた。・・・大体、ご飯時やろ、もう」

「ほうかて、しょうがないがやき、急ぐ本やったんやもん」

「全く・・・」

 真純が白いダウンジャケットを脱いで洗面所に向かう。《シンイチ》が後ろ姿を目で追う。

 《シンイチ》は勃起していた。肉親への肉欲。《てん》ではない、《シンイチ》の・・・・肉欲、肉親への。

美紀、鼻水が出てる。さっき泣いたからかな?

ちょっと待ってね。ティッシュ持ってくるから。

さあ、チンしてごらん。ほら、いやがらないっ。鼻をかむのにも波動砲が必要なのかい?

そう、最初から素直にかめば良いの。はい、お終い。

どうした?どこか痛いの?・・・肩?

あぁ、さっきからずっと後ろ手に縛られてるんだから痛くなっちゃったのかも知れないね。

ちょっと運動しようか?

ふっ?何、身体を強ばらせてるの?

・・・あぁ、大丈夫。エッチな事をしようと言うんじゃないよ。大体、君が今日駄目な日だって言うことは知っているし・・・大丈夫、僕にそういう趣味はない。

ただの運動。

ラジオ体操覚えてる?

やってみようか?

あっ、暴れないで。大丈夫・・・落ち着け。波動砲は使わない。だから大丈夫。

さっき君にキーワードを教えて置いたんだ。真純に教えたのと同じキーワードだ。だからもうその言葉を言うだけで大丈夫なんだ。最初は失敗して催眠状態にするために言ったキーワードで相手が痙攣してしまうような事もあったけど、最近は練習を積んだから大丈夫。

そのキーワードはね、・・・ふふっ、大きく見開いた君の目はきれいだね。

そのキーワードは

『てんかん小僧』

はは、できあがりっ。美紀、立ちなさい。君は手も足も自由だ。猿轡も外した。はい、立って。

僕を見て・・・微笑んで・・・僕にキスをしてご覧。そう、ここに。

・・・ちょっと汗くさくなってるね。後でお風呂に入れてあげよう。

その前に運動。

そのワンピースは脱いじゃおう。背中のボタンを外してあげよう、後ろを向いてご覧。

こんなフェミニンなワンピースがよく似合うって事を初めて知ったよ。いつもカッチリした服を着てたじゃないか。

あっ、待て。もしかしてこの服はあいつからのプレゼントかい?返事してごらん。

[編集部注:「はい。」という女性の声]

・・・そうか。

脱がすのは中止。切り取ってあげよう。

美紀、ハサミを持ってきなさい。洋裁バサミがあればベスト。

・・・・

OK!それで良い。こっちに持ってきて。

サンキュウ。はいっ、気を付け。

まず、胸に穴を二つ・・・と。中のブラもチョッキン。はい、こっちもチョッキン、チョッキン、チョッキンナ・・・と。

OK。

スカートの前と後ろにも丸い穴を・・・結構切りづらいな・・・裏地が柔らかいから・・・よしっ・・・ほらっ、スカートの前の穴から君のパンツの間を通して後ろが見えるようになったよ。もう少し足を開いて、・・・そう。

面倒くさいな。超ミニにしちゃおうか?待ってね。

はいっ、うん、この方が良いや。・・・まあ、ダメだと言っても、もう元には戻せないけどね。・・・足のラインは一層磨きがかかってるね。

はいっ、袖を開きます。

うん、君は腕の形がきれいなんだからそうやって腕を出してる方がきれいだ。

よし、コレでイイや。

ラジオ体操第一、やってみよう。

待った。ストップ。・・・はは、良いこと思いついた。

美紀、僕が「はい」って言ったら君は元に戻ります。君は見ることも聞くことも話すことも動くことも自分の意志で出来るようになります。

でも僕が『ラジオ体操第一』って言ったら君はラジオ体操を始めなくては行けません。大きな声で伴奏を歌いながら元気良くラジオ体操を始めます。それ以外出来なくなります。

はいっ。

美紀、美紀・・・。

ははは、震えてしゃがんでて良いのかい?

そうだ、逃げろっ。ふはっ。

・・・・・

はい、ラジオ体操第一。

[編集部注:女性の声でタンタータタンタンタタというラジオ体操の伴奏が始まる。]

ははは、・・・は、はははは。

そう大きな声で元気良く。

ははは、・・・うまい、うまい。

さすがにスポーツキャスターをやっていただけあって体操は得意みたいだね。

でも泣き顔と大きな声がアンマッチだぜ。

はい、もう一回行ってみよう。

ラジオ体操第一。

・・・ははは。

・・・・・・・

ああ、笑い疲れた。

体操の時間はお終い。

『てんかん小僧』

よし、身体に着けているボロ切れを取って、ここに戻ってこい。

そうパンストだけで良い。パンストも邪魔なんだけどそれを取っちゃうとしたくなると困るからね。今日は、美紀ちゃん、駄目な日なんだから

座って。

縛り方を代えようか?

本当に縛っているわけじゃないからどんな縛り方だって出来るんだし。

そうだ。縛らないで動けなくすればいいんだ。

美紀、僕が「はい」と言ったら君は元に戻る。催眠からさめるんだ。でも君は動けない。しゃべれない。身体を動かせないんだ。

動かせるのは、眼、そう、眼だけ。いいかい?

はいっ。

はい、眼が引きつってるよ、美紀ちゃん。

急に裸になってるんでビックリした?

それとも身体を動かせないんでビックリした?

心配しなくて良い。落ち着いて。・・・抱きしめてあげる。大丈夫・・・落ち着いて。

わあ、急に汗が噴き出してる。ちょっと待ってね、今、タオル持ってくるから。

・・・

ちょっと冷たいけど我慢して。お湯がなかったんだ。

額が玉の汗。・・・脇の下も拭いてあげよう。

暑い?

やっぱりパンストも脱ぐ?

・・・

はい、すっぽんぽん。ははは、糸が一本出ています。

このまま僕の膝の上で僕の話を聞いてね。アト少しだから・・・。

そしたらお風呂に入れてあげる。きれいになった後で着替えさせてあげよう。

そうだ、ウェディングドレスを着た美紀を見てみたいな。

< 第七章へつづく >

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