第四話 ニャルフェスの謎(前編)
『かびたの場合』
「う~ん」
かびたが思いっきり背伸びをする。
すがすがしい朝だった。
いつもだったら、押しつぶされそうな悪夢に起こされてるのだけど。
でも、今朝は実にさわやかに目覚めることができた。
今日は一日いいことがありそうな、そんな予感がする。
かびたの予感だった。
あたるはずがない。
かびたは、部屋を見渡す。
いつものかびたの部屋だった。
けっこうかたずいてる……っていうより、散らかるようなものがない部屋だ。
少し前まで(お猫さまがくるまで)は、ゲーム機とかソフトとか漫画の本とかがそれなりに散らかってたのだけど、そういったものはいつのまにか姿をけしてしまっていた。
いったん姿をけしてしまったものは、二度と却ってくることはなかった。
だから自然とかびたの部屋は綺麗にかたずくことになる。
その部屋が、今朝はやたらと広く感じられた。
なぜか?
「あれ? ニャルフェスさま……」
いない?
毎晩かびたの体をお布団代わりにして、悪夢を提供してくれていたニャルフェスさまがいない!
ちょっとかびたの頬がゆるみかける。
でもかびたは、それをがまんする。
“まだだ……”
そう、かびたにはまだやるべきことがある。
ネコパンチやネコキックの洗礼をうけたくないからだ。
かびただって、ちょっとは学習するのである。
「ニャルフェスさま?」
そういいながら、かびたは部屋の中をあちこちさがしてみる。
おしいれの中。
ベッドの下。
タンスの引出しの中。
ごみ箱の中。
ポケットの中……。
いない。
ニャルフェスさまの姿は、かびたの丹念な調査にもかかわらず、どこにもなかった。
「こほん……」
かびたは咳払いを一つする。
これから、正式に喜ぶのだ。
「うっわぁぁぁっははははは!」
かびたは、部屋中を駆け回った。
不思議な踊りを踊りながら駆け回った。
泥人形やパペットマンみたいに踊った。
見ている人がいたなら、きっとレベルが下がっていたことだろう。(*注1)
「ふいぃぃぃっ」
およそ三分後、かびたはそんな声を洩らしながら踊るのをやめる。
ぜへぜへいっていた。
どうやら疲れたらしい。
けれど、顔は思いっきりへにゃへにゃになっている。
かびたの頭は、まだ喜びの園にいるらしい。
でも、そこまでだった。
かびたの至福の時は、わずか三分間で終わりを告げる。
カップメンみたいな至福のひと時だった。
「ういっ?」
それは机の上にあった。
ど真ん中、他に一切何も乗っていない(それでも学生か?)机の上に堂々と。
白い皮の上から、ピンクの中身がすけてみえる。
どうやら、いちご大福のようだ。
横からみてみる。
やっぱり、いちご大福だった。
今度は上からみてみる。
どうみても、いちご大福だった。
最後に斜めからみてみる。
断固として、いちご大福だった。
「う~ん」
かびたは腕を組み、むつかしそうな顔をしながら結論づけるしかなかった。
どうやらそれは、“いちご大福”であると……。
なにやってんだか……。
かびたはその恐ろしそうな(かびたにはなぜかそう見える)いちご大福を、ツンツンしたりペチペチしたりしながら手にとってみる。
ぐりぐりと手にしたいちご大福を動かしながら、それがいちご大福であることに確信を深めていった……っていつまでやるつもりなのか?
まあ、そんなんでとりあえずこれは“いちご大福”であると結論をだす。
かびたは、いちご大福が乗せてあった紙になにか書いてあることに気づいた。
なんだろう?
そう思いながら、いきなり目をそらすかびた。
どうやら、あんまし見たくないらしい。
でも、かびたの右手はしっかりその紙をつかんでいた。
かびたの体が勝手に動いていた。
ニャルフェスさまのことがチラッと頭をよぎったから。
条件反射になっていた。
ぢつに哀しい性(さが)だった。
「ふぅぅぅぅっっ~~」
ふかい……、それこそおばぁちゃん家の井戸よりも深いため息をついて、手にしたいちご大福を置いた。
かびたも年貢の納め時だってわかったのだろう。
本能的に。
紙にはこう書かれていた。
“ニャーニャはかびたのために、これを残しておくのニャ。だからかびたは、これをきっちり使いこなせるようになるのニャン”
どうみても、それはいちご大福のことらしい。
でも、かびたに残したって、一体なんで?
いちご大福をつかうったって、どうやって?
で、
「むむむ……」
かびたが悩む。
「むむむむむむ……」
めいっぱい悩んだ。
でも、悩んだだけだ。
結論なんてでやしない。
かびただから、とーぜんである。
あげくに……。
「そーだ、はやく学校行かないと遅刻しちゃうな」
現実逃避ってやつだった。
「それに、学校に行けば、誰か教えてくれるかも……」
責任転嫁も、しっかり加わってたりする。
でもまぁ、かびたにしては悪くない考えだった。
(*注1)
泥人形とパペットマスターのことがわからないひとは、ドラクエシリーズをプレイしてみるぺし。
ちなみに(*注2)はないので、探しても無駄である。
『さやかの場合』
「なんにも知らないくせに!」
源さやかはそう心の中で叫んでいた。
うわさになっていることは知っている。
どれほど隠そうと、もうすでに隠し切れなくなっていることくらい十分に理解していた。
別にさやかはそれでもよかった。
いや、むしろそのことを誇りに思っていた。
でも、そいつらはいうのだ。
“あんな気持ちの悪い男にくっつくなんて、趣味わっる~い”と。
さやかがマジギレしそうになるのは、かびたさまを気持ち悪い男よばわりすること。
言った連中を探し出して、その口の中に石を詰め込んでやりたい気分にさせられる。
「おまえらなんかに、かびたさまの何がわかるの!?」
そういってやりかかった。
でも、それはできない。
できるわけがない。
そんなことをしたら、かびたさまがきっと哀しむから。
じぶんのために、誰も傷ついてほしくない。
そのためなら自分がどれほど傷ついても、それを苦痛と感じないような方だ。
だからこそ、さやかは慎重に行動しなければならない。
かびたさまを哀しませないように。
かびたさまを傷つけないように。
でも……。
はたして、そんなことができるのか?
そう考えたると、さやかは胸がしめ付けられそうになる。
かびたさまの匂いを、手を、唇を、そしてりっぱなあそこのことを想うだけで、さやかの体はあさましく火照りだす。
どれほどがまんしよう、どれくらい耐えようとしても、そうすればするほどその火照りは強力な業火となって燃え広がってしまうのだ。
そうなったら、じぶんの意思ではどうしようもなくなる。
全身がかびたさまを欲する。
それこそ、爪の先までかびたさまのことを求め狂う。
かびたさまは、限りなくおやさしい。
そうなったさやかのことをこばんだことは、ただの一度もない。
常にさやかが求める以上の快楽へと、導いてくださる。
淫らしく、あさましいさやか。
そんなさやかのことをかびたさまは、いつでもどんなときでも迎え入れてくだされる。
もったいない……。
ほんとうに、自分にはもったいないようなご主人さま。
何ができるのだろう?
かびたさまのために、自分は一体なにをしてさしあげることができるのだろう?
さやかは、いつもそれを考えている。
でも、まだその答えはみつからない。
だから、さやかは人知れず涙を流す。
それは、けしてかびたにだけは見せることのできない涙。
それを見てかびたさまがどれほど心を痛めるのか、さやかには手にとるようにわかるから。
かびたさまのことを悪し様に言われるのは許せない。
でも、一番ゆるせないのはかびたさまのためになんにもできないでいる自分自身だった。
さやかは微笑んだ。
かびたさまが近づいてくるのが見えたから。
もちろん作られた微笑ではない。
心のそこから、ほんとうにうれしい。
毎朝通学途中のかびたさまを、この場所でお待ちする。
もちろんかびたさまがそうしろ、なんておっしゃったわけではない。
少しでも早くかびたさまにお会いしたい。
だから、ここで待っている。
ここは通学路の中で、かびたさまのお家に一番近い場所。
あの日、かびたさまがお亡くなりになられて、そして復活をはたされた、まるで悪夢のようだったあの日。
かびたさまの守護神であるニャルフェスさまの張られた結界。それが、ここより先にさやかが近づくことを拒絶していた。
だからここなのだ。
ここでかびたさまがいらっしゃるのを待っている。
待っているのは苦痛などではない。
毎日遅刻ぎりぎりの時間になるけど、全然気にならなかった。
ていうか、その待っている時間も楽しい。
かびたさまにお会いすることができる。
そのことが単純にうれしい。
夜の間、づっとかびたさまにお会いしたくて、ほんとうにつらくて悲しい思いをあじわっている。
けれど、それがあとわずかでむくわれる。
その思いこそ喜びだった。
そしてけさも、むくわれる時がきた。
かびたさまのお姿が見えた。
かびたさまが近づいてくる。
どうして微笑まずにいられるだろうか?
そう、それこそ心の底からの微笑みだったのだ。
けど……。
「かびた、さま……?」
さやかは、声をかけようとして思わずいいよどんでしまう。
かびたさまの様子がおかしい。
いつもならどこかぼーっとして歩いてるのに、今日はいつになく深刻そうな表情で歩いている。
気になる。
「あっ? さやかちゃん!」
さやかのことに気づいたかびたが、すぐにいつものうれしそうな笑みを浮かべて手を振った。
近づいてくるかびたに、さやかは恐る々々ではあるけれど、それでもはっきりとたずねる。
「かびたさまぁ、いったいどうされたんですぅ? なにかおなやみですかぁ?」
「う~ん?」
聞かれたかびたが、ふしぎそうな表情を浮かべて、
「すごいや、さやかちゃん。 なんでわかったの?」
そうたずねかえす。
なんでももなにも、かびたの表情が力の限りそういっていたのだ。
だけど、
「ちょっと気になっただけですぅ……」
さやかは言葉を濁す。
「ふぅ~ん? ま、いいや。それよりさ、さやかちゃんこれ何に見える?」
かびたはあんまし深くつっ込まずに、手にしたものをみせながらそうたずねる。
「いちご大福……ですぅ」
それは、どこから見てもいちご大福にしか見えなかった。
でも、かびたがあれだけ深刻そうになやんでいたのだ。
ただのいちご大福であるはずがない。
さやかは、そう思った。
さすがにそれは、かびたのことを買いかぶりすぎってものだが。
「う~ん、だよねぇ」
かびたもそれに同意する。
かびたにも、そうとしか見えなかった。
めったに動かさない頭は、さかんに回転していた。
まぁ、たんに空回りしてるだけなんだけど。
でも……。
「かびた、さま?」
表情を硬くしたかびたを、さやかが心配そうに覗き込む。
「う~ん……」
かびたは気づかない。
かびたの脳みそはマルチタスクな処理はできないのだ。
「……かびたさま……」
さやかが、そっとつぶやく。
かびたさまが悩んでいらっしゃる。
さやかはこころを痛めた。
なにもできないの?
また……。
ただ、こうして見ていることしかできないの?
他の女性(ひと)たちなら、かびたさまのために何かしてさしあげられるのだろうか?
たとえば、使徒となった高島由利亜あたりならば、かびたさまのためにお力になってさしあげられるのだろうか?
わからない。
でも、それならそれでかまわなかった。
それでいつもの能天気なかびたさまに戻っていただけるのなら、じぶんから彼女に頭を下げてお願いしてもかまわない。
かびたさまが、これ以上なやみ苦しむ姿など見ていたくなかったから。
しっかし、かびたにしてもさやかにしても、いちご大福一つでここまでマジになれるなんてたいしたものだった。
ほんっとに……。
ここで、さやかを計算外のできごとが襲う。
ズキンッ!
体を衝撃にも似た衝動が襲う。
ドクンッ!
鼓動がいきなり高鳴った。
「ううっ……」
さやかの口からは、そんな声が漏れてしまう。
強大な性衝動・
あまりにさやかはかびたのことを真剣に見つめ過ぎたのだ。
普段でも耐え切れなくなることがある。
でも今日のかびたの様子はあまりにもおかしかった。
だから、よけいにさやかの心はかびたへと強く向けられることになってしまった。
ダメダ!
さやかの心が軋みながら、必死でその衝動への抵抗を試みる。
ダメダ、ダメダ、ダメダ、ダメダ!
なんども、なんどもそう繰り返しながら、さやかはその場にしゃがみこむ。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅ」
さやかの口からは、うめき声が漏れていた。
あからさまにおかしな行動だったけど、さやかが耐えるためにはそうするしかなかったから。
「さやかちゃん!」
さすがにかびたでも、これではさやかの様子に気づく。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅ」
さやかは、そううなることしかできない。
ほんとうは、それ以上近づかないようにお願いしたかったのだけれど、今のさやかにはとても不可能なことだ。
これ以上近くにこれらたら、自分を抑えておける自信がない。
いや、きっとかびたのことを襲ってしまうだろう。
かびたのことなど考えもせずに。
でも、さやかはかびたのことをちょっち甘く見ていた。
かびたは、ひとの痛みとか苦しみとかにはかなり敏感なほうだ。
ましてやさやかのように、常にかびたのもっとも身近にいる女の子の苦しみをほっておけるはずがない。
こうもあからさまに衝動に耐えようとした時点で、さやかはかびたに決心を固めさせたことになる。
「きょうは、1時限目はお休みしようね」
しゃがみこんださやかの肩をやさしく抱きながら、かびたがいった。
その瞬間さやかの脳裏から、すべての理性は消えうせた。
「うあぁうぅぅぅ」
言葉にならない声をあげながら、さやかはかびたに抱きつく。
往来のど真ん中で、人目をはばかることなくかびたの口を求めた。
もちろんねとねとのディープキスである。
かびたのキスはすさまじく、魂そのものがすいだされそうになる。
軽くだけど、確実に何回かはイッていた。
「ちょっとよってこう……」
そういってかびたがさそったのは、通学途中にある誰も住んでないお屋敷の中。
まるで幽霊屋敷にしか見えない大きな洋館である。
バブル崩壊とともに住んでいた人たちは何処ともなく姿を消し(夜逃げともいう)、その後あまりの高値に買い手もつかず、溢れる不良資産の一角をになっていた。
つまりここはかびたが子供のころからすでに廃屋で、ろくに管理もされずにほったかされたこの場所は絶好の遊び場でもあった。
だから、この屋敷の中のことは自分の家同然にくわしい。
かびたがキスだけで意識が朦朧となったさやかを連れてきたのは、この屋敷の一番隅にある一番小さな一室だった。
そこには昔かびたが持ち込んだ毛布が置いてあった。
ほこりをはらって、ふたりはその上で絡み合う。
さやかは、もう頭の中は真っ白になってしまい、ひたすらかびたの体をむさぼった。
かびたの体に夢中になって舌をはわせながら、かびたのものを自分の中へ導く。
挿入には、なんの問題もなかった。
すでにさやかの中は、限界以上に濡れていたし、彼女の精神はこれ以上挿入を遅らせることには耐え切れなかった。
かびたの体を押さえつけるようにして、のしかかる。
かびたの方が小さいし、はたから見たらさやかがかびたをレイプしてるようにもみえてしまう。
はげしく動いた。
さやかの腰は、もう別の生き物だった。
欲望という名の病に冒されている少女。
それを治療するのは、かびた。
治療方法はイかせること。
欲望のすべてがはきだされるまで。
さやかかがイきつかれるまで。
「ふぅあああぅぅぅぅぅ!」
さやかの声が部屋中に響きわたる。
「ヒイッぅぅぅぅぅ!!」
続けてさやかは、絶頂を迎えていた。
もちろんこれが最初ではないし、また終わりでもない。
まだまだこんなことくらいでは、さやかの中にたぎっている欲望はおさまらない。
かびたは、身に付けたテクニックを駆使してさやかの快感を押し上げてゆく。
さやかはいつのまにか、それにただ身をまかせるだけになっていた。
なにも考えず、なんの悩みもない。
ただ至福の世界にひたっていた。
こうしてる瞬間だけは、さやかがかびたのことで悩むことはない。
でも、かびたは……。
「う~ん……。なんなのかなぁ~……」
なんと、悩んでいた!
かびたがHしながら、いちご大福のことで悩んでいた!
かびたはレベルアップしたのだ!
そして、Hしながらいちご大福のことで悩むという特技をみにつけたのである。
『亜里沙の場合』
「はぁ~っ」
一体何度目のため息だろうか?
まあ、そんなのはどうでもいいことだけど。
「はぁぅ~っ」
ちょっと違うため息にしてみた。
やっぱり、どうでもいいことだった。
「ふひゅぅ~っ」
今度は大胆に変えてみた。
もっとどうでもよくなった。
御厨亜里沙(みくりありさ)は、そのため息の理由(わけ)を知っていた。
少なくとも、ため息のつき方を変えてみたところで、どうにもならないことくらいには知っていた。
亜里沙以外に誰もいない研究室。
様々に並べられた道具や材料。
ここは、亜里沙にとって理想郷だったはずだ。
様々な実験と実証結果から、新たな薬品を完成させる。
それこそが亜里沙の人生の中核を占めていたはずだ。
すべてが新たな薬品を作り出すことにあったはず。
なのに……。
「ふぃぃぃぃっ」
また、ため息をつく。
それも、新バージョンで。
なにもやる気が起こらない。
実験道具や様々な薬品を目の前にしても、以前みたいに心躍るようなことはなくなってしまっていた。
なぜかはわかっている。
ただ、認めたくないだけだ。
自分の心が一人の男……それもひどく見た目の悪い、ちんけな男に占められてしまっていることを。
おまけにその男は、自分の勤めている学校の生徒だったりする。
まぁ、そんなの亜里沙には関係ないけど(って、それでいいのか?)。
問題なのは、その彼に敬遠されてるんじゃないかってこと。
ありていに言えば、嫌われてるっぽかった。
研究にしか興味がなかった時は、まるでそんなことなんて気にもならなかったのだけれど……。
でも最近は毎日ため息が絶えることがない。
犬……。
そう、犬になれば悩むことなどないのに……。
ただ、あのひとに周りにじゃれついて、あのひとのことを舐めまわして、あのひとに気持ちよくしてもらう……。
なんの……一切なんのこだわりもなく、それができてしまう。
「うんっ……」
声が漏れた。
甘い声。
それは、小さかったけどけしてため息などではない。
しぶんのあそこに左手をもっていってみる。
「いやらしい……」
濡れていた、パンティの中はもう洪水状態になっている。
ただ、思っただけなのにこれだ。
考えるより先に左手はパンティの中に差し込まれ、その動きははげしさを増してゆく。
あたまの中にはあのひとの姿が浮かんでいる。
もう、とめられない。
もっとも、とめる気もなかったけど……。
「ふぁぁうぅぅっ!」
声が漏れる。
今度は、はっきりとした声だ。
このままひとりHの快感に身を任せよう……。
そう、亜里沙が決心したときだった。
トントン。
音が聞こえた。
トントントントン。
ドアをノックする音だ。
いま、とてもいいとこなのだ。
当然亜里沙はその音を無視することにする。
トントントントン、トントントントン。
そしつはしつこかった。
でも、亜里沙はほっとく。
返事をしなければ、そのうちどっかいくに違いない。
トントントントン、トントントントン。
トントントントン、トントントントン。
甘かった、ノックの回数はどんどん増えてゆく。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」
今までで一番大きなため息をついた後、自分の服の乱れを直す。
一応これでも、教師としての良識(かなりゆがんでいるけど)くらいあるのだ。
入り口のドアに掛けてあったカギをはずし、扉をあける。
「ひいっ?」
うそかと思った。
信じられなかった。
立ち尽くす亜里沙。
「やは」
そこにはまぬけな顔をして、まぬけな言葉をかけるかびたがいた。
「あっあっあっ!」
でも、亜里沙のほうが、もっとまぬけだったりだったりする。
「せんせー、はいってもいい?」
おそるおそるっていった感じでかびたが聞いた。
うんうんうんうん。
亜里沙は何度もうなずく。
うなづきすぎて、頭がちぎれてしまいそうなくらい。
「じゃあ、しつれいしまぁーす」
そういいながら、かびたが亜里沙の横をすりぬけてゆく。
かびたの髪の香りが亜里沙の鼻をくすぐった。
犬になってから、遥かに匂いに敏感になっている。
うっとりとする亜里沙。
それだけで、イッてしまいそうだ。
この世の中で最高の香り。
どんなに高級な香水でも、亜里沙の官能をこれほど刺激することはできやしないだろう。
それを、こんなに近くで嗅いでしまった。
もう、抑えることができない。
かびたが中に入ったことを確認すると、いきなりドアを閉めてカギをかける。
それが、最後の理性だった。
「うぅぅぅぅーっ」
亜里沙の口から漏れている声は、もはやうなり声だった。
「せ、せんせい?」
亜里沙の変化に気づいたかびた。
でも、もう手遅れだ。
「ヲン!」
亜里沙の口からもれたのは、すでに人の声ではない。
手ではなく前足となった両手をかびたに掛けると、貧弱なかびたは体重を支えきれずにあっさりと床の上に倒されてしまう。
(ちなみに亜里沙の体重は、43キロそこそこだ。これは亜里沙の名誉のためにいっておく。倒れたのは、ひたすらかびたの肉体の貧弱さが原因である)
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」
荒い息をしながら亜里沙犬がかびたの顔を舐めまわす。
すぐにかびたの顔は、亜里沙犬の唾液でベロベロになった。
「ち、ちょっとせんせーってば……」
かびたがどうにか体勢を整えようとするけど、亜里沙犬はびくともしない。
それどころか、口で服を剥ぎ取り始める。
こりは、やばい!
たんに脱がされるだけならいいけど、咥えて力任せに引っ張るもんだから……。
ビィリィィィッ!
カッターシャツがやぶけた。
亜里沙犬はせっせと下着を剥きにかかった。
あせるかびた。
犬を止めるのはどうしたらいいんだろう?
そう考えて出た結論が……。
「おすわり!」
だった。
そんなのが通用……………………していた。
なんと! 亜里沙犬は、はあはあしながらちょこんと床の上におすわりをしている!
かびたは、なんかうれしくなってしまった。
ちょっと他のもためしたくなる。
「おて!」
ぴょこっとかびたの手の上に、亜里沙犬の前足が乗った。
「おかわり!」
今度は、反対側の手だった。
「ふせ!」
ぺたん。
「ほえて!」
「ヲン!」
「おまわり!」
ぐるぐる。
「ころがれ!」
ごろごろ。
かびたは楽しくなって、思いつく限りのことをひととおりさせてみた。
そして亜里沙犬はかびたにかまってもらうのがとってもうれしいらしく、づっとにこにこしている。
でも……。
「うわっ! こら、せんせーってば!」
ちょっとでも命令が途切れると、すぐにかびたを押し倒して服を剥ぎ取りにかかる。
はっきりいってヤバイ。
さすがにかびたとしても、いつまでもこんなことつづけてられないので根本的な解決を試みることにする。
ようは“えっち”だ。
“えっち”で思う存分いかせてあげれば、きっと満足する……はずだ。
かびたの体以上に貧弱な頭でも、それくらいのことはわかっていた。
だから、これ以上被害がひろがらないうちに、自分が着てるものを脱ぎすてる。
もちろんパンツまでぜ~んぶだ。
「ふぃ~~~っ……」
とりあえずこれで一安心……
「ういっ?」
ではなかった。
亜里沙犬は、今度は自分の着ている服が邪魔になるらしく、噛み破りはじめる。
あわててかびたは、亜里沙犬の服を脱がせてやる。
現れたのは、犬と人とのキメラの姿。
でもその姿はとても美しかった。
少なくとも、かびたはそう思う。
服を脱がされたとたん、亜里沙犬はかびたに飛び掛ってくる。
またもあっさりと押し倒されてしまうかびた。
でも、すでに主導権はかびたのものだった。
亜里沙犬の胸、そしてあそこにはかびたの手が張り付いている。
「うっっっっヲんっっっ」
一瞬のうちに亜里沙犬は快感の渦に飲み込まれていた。
かびたは愛撫をつづけ、それだけで亜里沙犬を何度か絶頂に導きながら自分は背後に回りこむ。
もちろん、じぶんの一物を亜里沙犬の淫らしい場所にぶちこんで、とどめをさすためである。
「ヲッウゥンッッッ!」
突き入れた瞬間に亜里沙犬は絶頂を迎える。
でも、かびたが動くたびにさらにその上へと導かれた。
涎が亜里沙犬の口から滝のようにあふれでる。
あそこの涎は、かびたが突き入れるたびに飛沫となって飛び散った。
かびたが、その中に放つよりだいぶ先に……、
「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲゥゥゥゥゥンッッッッ!!!!!」
そう高い声を放ち気を失った。
亜里沙はもう犬ではなくなっていた。
かびたも、さすがに今度は戻し方を覚えていたらしい。
「ねぇ、かびたクン。どんな用できたの?」
たっぷりと満足して、おはだつやつやになった亜里沙がかびたにたずねる。
「これ……」
ちょっと疲れたような感じで、言葉少なにかびたが差し出したもの……。
「うん? いちご大福なんて……どうしたの?」
不思議そうに亜里沙が聞くと
「……これ、なに?」
かびたが聞くと。
「だから、いちご大福でしょ?」
亜里沙が答える。
「どうして、そう思うの?」
しつこくかびたが聞くと。
「中にいちごが入ってて、あんこも入ってて、それをもちの皮でくるんある食べ物のことをいちご大福って呼ぶのよ」
亜里沙はきっぱりと断定した。
なんかつかれた……。
かびたはちょっとだけ、休んでいこうと思った。
< つづく >