MIND VAMPIRE 第二章 「悦び」

 その男、マリク・マーキスは強力なマインドヴァンパイアである。
 かつては地上で人間の魂を好きなだけ貪った彼であったが、ある日突然、地中深くにその身を隠してしまった。
 確かに地上では食事に困らない。だが煩わしい人間達は敵討ちだと言わんばかりにその首を求めてくる。実際、彼の首には多額の賞金が懸けられていたと聞く。
 そんな落ち着きない生活に嫌気がさしたマリクは、ダンジョンにやってくる命知らずの愚かな冒険者達を糧として慎ましいながらも充実した暮らしを送っていった。

「こんな静かな生活も悪くはない」

 だが、やがてそんなことも言っていられなくなる。糧となる人間が彼の元にやって来なくなったのだ。何年も食事にありつけない日々が続いた。

(再び地上に戻ろうか……)

 エイダ達の一行が『戻らずの宮殿』に足を踏み入れたのは、ちょうどマリクがそんなことを考えていた頃であった。

第二章 「悦び」

― 1 ―

「さあ、ご主人様……何なりとご命令を………」

 セシルは懇願するかのようにマリクに求めた。
 そう急くな、マリクはそう言って制し彼女を見る。
 セミロングのブロンドの髪。まだどこか少女の面影が残りながらも理知的な雰囲気を漂わせる顔立ち。汚れの目立つ白のローブ。きつく抱きしめれば折れてしまうのではないか、と思わせる華奢な体。

「……着ている物を全て脱げ」

 しばらくの観察の後、マリクはそう命じた。
 マインドヴァンパイアに魂を抜かれた人間は忠実な下僕と化してしまう。今のセシルも例外ではない。

「はい……」

 少しためらいがちではあったがセシルは頷いた。
 ベッド上でゆっくりと身に纏っているローブを脱いでいく。その頬は羞恥の為かうっすら赤みを帯びていた。しかし、少し前までの彼女であったら死んでもこんなことには従わなかっただろう。
 ローブを脱ぎ終わり、純白の下着があらわになる。下着ごしに胸の膨らみが見て取れた。小さすぎず、かといって大きすぎてもいないソレは下着が取り除かれて、ありのままの姿をマリクの前にさらす。垂れずにピンと上向きに張った乳房、綺麗なピンク色の乳首。
 
「は……はあぁぁ………」
 
 人前で一糸纏わぬ姿になどなったことがないのだろう。セシルはいくら精神が支配下にあるとはいえ、堪らずため声を漏らしてしまった。そして胸と秘所を両手で隠そうとする。

「動くんじゃない」

 マリクの一言にビクンと大きく体を震わせ、動きかけた両手がピタリと止まる。羞恥の色がわずかに浮かんでいた顔から表情は消え、腕がダラリと垂れた。

「そうだ、それでいいんだ。何も隠す必要などない。」
「申し訳ありません……」
「まあいい、それよりベッドで横になれ」
「はい………」

 言われた通り、セシルはベッドで仰向けになった。

「セシル、お前は処女だったな?」

 ベッド脇まで来たマリクはセシルの股間部分に手をやり、陰毛の手触りを楽しみながら尋ねる。この質問は先刻『魔眼』によって催眠状態に落とした時にもされたものだった。

「………はい」

 少し間を置いてから先刻と同じ答えをするセシル。その歳で未経験と言うのだから、きっと堕ちる前は貞操観念が強かったのであろう。
 マリクの空いている方の手が胸にのび、乳房を掴んだ。

「あぁん……」

 小さく悶えたセシルを尻目に乳房をこねまわし始める。

「あ、ああぁ……」
「では誰かにこうやって胸を触られたことはあるのか?」

 これは先刻にはなかった質問だ。

「いいえ………ありませ…ふあぁっ!」
「フフフ……感じているのか?」
「は、はいぃ……あ、あ、あぁ………」

 額に玉のような汗が浮かんでくる。次第にセシルの声は大きくなっていった。

― 2 ―

 ハァ、ハァと荒い呼吸が室内に響く。
 胸を揉みしだく動きが止まり、セシルはようやく一息ついた。
 だがそれも束の間、すぐに下半身に置かれた手が秘所をまさぐり出す。

「ひいっ!」

 セシルは敏感な部分を擦られ悲鳴を上げる。マリクの指は割れ目を上下になぞった。ピクンと太腿に緊張が走るのが分かる。手の動きはどんどんと激しくなっていった。愛液が溢れ出し、ねっとりとした感触が指に絡み付く。

「あっ……ああ…くぅん………」

 まるで子犬のような声で鳴いたセシルを愉快そうに眺めたマリクは、掴んでいた胸を再び揉み始めた。柔らかい弾力が心地いい。もちろん下の方の動きも止まってはいない。指が奥の部分に向かって進んでいく。

「あひゃあっ!!」
「どうだ、今の気分は」
「は、はい……な、なんだか変な……気分…です………」
「そんな気分は始めてか」
「は、は、はいぃ……は、始めて……ですぅっ!!」

 埋没した指が激しく抜き差しし、セシルをさらに刺激する。指を咥えこんだセシルの秘所からは淫らな音が流れ出していた。
 
「あ~、あ、あぁっ……うぁっ!」
「気持ちいいか、セシルよ」
「き、気持ち……いい……はぁっ……」
「フフフ…イヤらしい娘だ」
「ご、ご主人様……ご主人様ァ………ヒッ!」
「なんだ?」
「わ、私に……私にご主人様のモノを…く、ください……」
「モノ…?」
「そ、その……ご主人様の…はぁっ……股間にある……んっあ、ぁぁ!」

 これにはさすがにマリクも驚いた。いくら下僕になったとはいえ、この処女であるセシルがいきなり自分の肉棒を求めてくるなど思いもしなかった。さっきも自分の乳房や秘部を隠そうとしたくらいである。

「指では不満か」
「い、いえ……そんなわけでは………」
「では何だ?」
「わ、私は貴方様の下僕……どうか私に…処女を……ハァンッ……し、処女を…奉げさせてください……」
「なるほど……そういうことか」
「どうか……ンッ…どうか……」
「フフフ、なかなか見上げた心がけじゃないか」
「アウッ……ア、アグゥ!!」
「いいだろう。そんなに欲しいのならくれてやる」

 まだまだ遊び足りなかったが、マリクはどちらの手を止めベッドに上がった。セシルが早くしてくれと言わんばかりの潤んだ眼差しで見つめてくる。激しい動悸のせいで乳房が上下していた。

「足をもっと開け」
「はい……」

 セシルは言われた通りに足を開き、愛液が溢れ出す秘所を見せつけた。その従順さは、さっきまでマリクを殺そうとしていた者の物とはとても思えないくらいだ。
 マリクはそのそそり立つ肉棒を恥裂に擦りつける。セシルは快感と拡張される傷み、両方を予感して背筋を震わせていた。 

 ズ、ミシリ…ヌジュッ、ズズ……

「んはぁっ!!」

 マリクは深くまでえぐり込むように挿入運動を開始する。セシルの喘ぎ声に苦痛のものが混じり出した。プチプチと何かが破れる音が肉越しに響く。

「っく……ぐうぅぅっ………」
「痛いか?」
「い、いえ……あぐぅっ!」
「大丈夫だ、お前は痛みなど感じない。お前が感じるのは快感だけだ。」

 セシルは言われたことをオウムの様に繰り返す。

「痛みは…感じない……感じるのは……快感……」
「お前は気持ちがよくて仕方がなくなる」
「……き、気持ちが……よくなる……」
「そうだ、何も怖がることはない」

 魂の消え失せたセシルにとって、仕えるべき主人の言うことが全てである。どんどん彼女の感覚が変わっていった。これはある意味、暗示をかける行為にも似ていると言えるだろう。
 すっかり痛みを快感に、快感をさらなる快感に刷りかえられ、セシルは今ではうっとりした表情で自分から腰を振りはじめている。

「いいぃ……はぁ……き、気持ちいい………」
「どうだ、今の気分は」
「す、すご……ハァンッ…すご…い……です……」

 マリクはさらに強く激しく突き上げた。もうセシルは快感の渦に飲み込まれている。

「ああぁぁっ!ひっ!いいぃっ!!あぅん!」
「フフフ、いいぞ。もっと、もっと腰を振れ」
「は、はひっ……ひあぁっ!んっ!ご、ごしゅじんさまぁぁぁっ!!」

 セシルはほとんど絶叫に近い声をあげる。そんな彼女が絶頂に達するまでそう時間はかからなかった。

― 3 ―

 魔物の絶叫が迷宮内にこだました。
 倒れこむ音。そして、静寂。
 アンナは魔物に近寄り、その眉間に刺さった矢に手をかける。
 だが、矢は思ったより深く突き刺さっていてなかなか抜けない。力をこめて引っ張るがまだ抜けそうになかった。魔物は目をカッと開きアンナを見据えていて、今にもまた動き出しそうだ。そんなわけはないとは思いながらも、動作に焦りが見え始めてくる。アンナは思いっきり引っ張った。
 ズポンッ!
 今までの抵抗が嘘だったかのように矢が抜け、勢い余って尻餅をつく。放心状態であるかのように、アンナはそのままの姿勢でしばらく動かなかった。

 太い一本の三編みにした赤い髪と、おとなしいそうな顔立ち。アンナは冒険者というイメージから、おおよそ掛け離れた外見を持った少女である。弓使いとしてエイダ達のパーティーで腕を振るう彼女は容姿、そして十六歳という年齢とは裏腹に、並外れた弓の腕前を持っており十分な戦力として活躍していた。
 もともとは森の中で猟師の父親と二人でひっそりと暮らしていた彼女だが、ある日、森に住む魔物に父親を殺されてしまう。それも一緒に猟に出ていた彼女の目の前で。
 命からがら逃げ帰ったアンナはしばらくの間、生きた屍も同然だった。父親を目の前で殺されたショック。自分の非力さ。何もかもに絶望し、自分もいっそ父親の後を追って……とぼんやり考えていた頃にエイダ達と出会った。
 森に住む凶悪な魔物の噂を聞いてやってきたエイダ達の一行が、たまたまアンナの家を訪れたのだ。
 その少女の有様に最初は驚いた彼女達であったが、自暴自棄気味のアンナを手厚く看護し、励まし続けた。その甲斐あってアンナは生きていく自信を取り戻したのである。

「私も連れていってもらえないでしょうか……?」

 アンナは立ち去ろうとするエイダ達に精一杯勇気を出し、尋ねた。このままここにいて暮らしていても辛いことを思い出すだけだ。それに何とか自分を助けてくれた恩返しをこの人達にしたい。アンナの気持ちはそんな想いで一杯だった。
 今にも泣き出しそうなアンナに温かい歓迎の言葉が返ってくる。その後エイダ達とともに父の敵討ちを果たした彼女は、晴れてパーティーの一員となった。同時にその時からアンナの第二の人生が始まったとも言えるだろう。

―――――今より一年前のことである。

「あの時と同じみたい……」

 座り込んだアンナはボソッと呟く。彼女の脳裏に一年前の記憶が蘇っていた。あの日、自分の前で殺された父。何もできなかった自分。
 そう、まるであの時の再現ではないか。
 そんな声がアンナに囁きかける。
 あの時は父、そして今はエイダ。どちらも自分にとって大切な人だった。この一年間の冒険で強くなった気でいたが、何のことはない。自分は全然成長していないではないか。
 声は激しく責めたてる。

「違う!私は……」

 私は強くなった。あの時より強くなった。そう叫びかけ、口を閉じる。

「……強くなってないじゃない」

 アンナは吐き捨てるように呟いた。
 今にも絶望の渦に飲み込まれてしまいそうな儚げな彼女の精神。しかしもう彼女をそこから救い出してくれる人はもういないのだ。いや、救いの手を差し伸べられるのを待っていてはいけないのだ。

(確かに私は強くなってはいなかった。でも……でも、それなら今から強くなればいい)

 エイダのことを忘れようと思ったのではない。エイダのことを忘れずに生きよう、そう思ったのだ。その誓いを胸にアンナは立ち上がった。そして再び歩き出す。その目にはさっきまでの戸惑いは見られなかった。

 アンナが立ち去るのと同時に、天井近くの闇の中に赤い二つの光が浮かび上がる。この二つの光の主はアンナの姿が完全に見えなくなるのを確認すると、ゆっくりとその翼を広げ飛び立った。その身体はまるで深い闇が溶け込んだような漆黒。彼が目指すのはもちろん、主人の元である。

― 4 ―

 セシルは獣のような悲鳴をあげ大きく仰け反った。が、すぐに浮いた身体をドシンと落とし、脱力する。すでに三度目の絶頂を迎えた彼女は全身を小刻みに震えさせていた。

「ハァ……ハァ……」

 呼吸は乱れ、胸が激しく上下している。その焦点の定まらない目はぼんやりと天井を見つめていた。
 マリクはすでにベッドから下り、放心しているセシルを笑いを噛み殺したような表情で眺めている。いい玩具を手に入れた、彼はそんな思いだった。このままずっと遊んでいてもいいのだが、自分の空腹感のことを考えるとそうはいかない。セシルの魂くらいではまだまだ彼は満たされてはいないのだ。
 ちょうどその時である。わずかに開いたドアの隙間から一つの黒い塊が室内に飛びこんできたのは。それはマリクの頭上まで来ると、差し出された腕に静かに着地する。蝙蝠であった。
 その蝙蝠はおおよそ人間には理解できない音を発し、何やらマリクに伝えている。マリクはそれを黙って聞いていた。
 報告が終わると蝙蝠は再びその羽をはばたかせ部屋から出ていった。室内に静寂が戻る。

「ご主人様……今のは……?」

 ようやく意識がはっきりしてきたセシルが尋ねる。

「ああ、私の使い魔だ。この迷宮の到る所に配置してある」
「では……今のは何かの報告ですか……?」

 マリクはそこでフフッと笑い、セシルの問いに答えた。

「お前の仲間を見つけたそうだ」
「…………」

 セシルは一瞬ピクリと反応をする。

「正確にはお前の『かつての』仲間だがな」

 マリクは愉快そうに続けた。まるでセシルの反応を楽しんでいるかのように見える。一方のセシルはすでに平静を取り戻していた。

「どうなさるのですか……ご主人様……?」
「どうするも何も決まっているだろう」
「……と仰いますと?」
「魂を戴くまでだ」

 ああ、やっぱり。セシルの予想通りの返答であった。しかし、予想通り、そう思っただけである。決して、仲間を助けてやりたい、などとは思いもしなかった。

「見てみろ、こいつだ」

マリクの開いた手のひらの上に、ヴゥゥン…と鈍い音とともに映像が浮かび上がる。どうやら使い魔からはその記憶も受け取れるらしい。その映像に映し出されたのは赤い髪の少女。間違いなくセシルのかつての仲間、アンナであった。

「アンナ……」

 無意識のうちに少女の名を口に出していた。

「ほう、アンナというのか……なかなか美味そうな魂の持ち主ではないか」

 その言葉を聞きセシルの胸にわずかながら嫉妬の炎が燃え上がる。ご主人様の気持ちが自分ではなくアンナに向いている、そんな疎外感が彼女を苛立たせた。それはアンナが仲間に加わってからの一年の間、一度も抱いたことのない感情だった。

「ご主人様……私に何かできることはございませんか………?」

 嫉妬の炎がどんどん大きく燃え盛っていくのが感じられる。

「もちろんだ。お前には働いてもらうと言っただろう?」
「はい……何でもいたします………」
「例えそれがかつての仲間を落とし入れることでもか?」
「はい…私はご主人様の下僕……お望みのままに………」
「フフフ、よろしい……」

 マリクは指示を与え始めた。セシルは黙ってそれを聞いている。そして指示が終わり、実行を促される。
 その裸体にローブを纏い、部屋から出ようとしたセシルはドア近くまで行くと急に振りかえって口を開いた。

「ご主人様……」
「どうした、早く行かないか。他の魔物に獲られてしまう」
「は、はい……申し訳ありません……ただ………」
「ただ?」
「ただ……ご主人様は…ずっと私のご主人様でいらっしゃいますよね……?」

 潤んだ瞳でセシルが尋ねた。一瞬、唖然としたマリクであったが、すぐに真顔に戻る。

「当たり前だ」
「よかった………」
「お前は私の忠実な下僕だ。お前が下僕である限り、私はお前のマスターであることに変わりはしない」
「……嬉しい」
「フフッ、余計なことは考えないでいい。お前はただ私に従ってさえいればいいのだよ」

 そう言いながらセシルに近寄り、唇を重ねた。

「ふむぅ……」

 予想外のことでセシルの口から思わず声が漏れる。だが大きく見開いた瞳はすぐにトロンとしたものに変わり、涙を浮かべる。頬がうっすら紅く染まると、自ら激しく舌を突き出して相手の舌にからませた……

< To be continued … >

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