第七話 堕ちし者
ゴポ・・・・ゴポポ・・・・・・
円柱状の水槽の底から気泡が上がる。
その水槽には無色透明の液体が満たされ、その中には裸の小野 七緒がいた。
浮力と重力の均衡した点なのか水槽の真ん中に七緒は浮かび、静かに目を閉じている。
そして、その水槽を諏訪 直子は眺めていた。直子はそのまま目を下のディスプレイに移し、コンソールを叩く。
カタカタという打鍵音が部屋に響き、ディスプレイに表示されているパラメータが次々と変更されていく。
「蒸留機関―――オフ」
「特殊唾液腺―――オフ」
「特殊汗腺―――オフ」
「特殊体液分泌腺群オールカット。以上、処理終了。No.0070、目覚めなさい」
ゴポ・・・・・
七緒の口から空気が漏れる。
徐々に水槽から液体が抜けていき、少なくなった浮力と共に水槽の底に七緒の足がつく。
ウィィィィンと言う音と共に水槽のガラス面が下がっていく。
ガラスが全て下がりきった後に七緒は目を開いた。
手を何度か握ったり開いたりして自らの調子をみる。
そんな七緒に直子はタオルを差し出した。
「今回の調整は終わったけれど、どうかしら? 何かおかしいところはない?」
「いえ、特に違和感は感じません」
七緒はタオルを受け取り、体に残った液体を拭き取っていく。体中の水気を拭き取ると近くの脱衣籠に入れてあった服をてきぱきと身につけていく。
「とりあえず、これで様子を見ましょう。次の調整は一週間後よ。忘れないようにね」
「はい」
「ああそれと」
出ていこうとする七緒。その後ろ姿に直子は思い出したように声をかける。
七緒は貌だけで振り返り、睨むような感じで直子を見る。
「No.0069を見つけたら、まず私に連絡しなさい。開発者として、私の責任なの」
「・・・・了解」
数秒、直子を見つめた後、ぼそりと言って七緒は研究室を出て行く。閉じられた扉を眺め、一人残された直子はにやりと笑みを浮かべた。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴る。ショートホームルームが終わると、教材の詰まった鞄を持って教室を出た。
生徒達で溢れている廊下を歩く。だが、ここにはあれは存在しない。
実験体No.0069。組織の研究所を脱走した実験体。私はあれを捕獲するためにここにいる。
既に私の知識レベルは大学生のものだ。今更学校に通う必要などないのだが、私の任務は学生間に流れる情報収集とNo.0069捕獲の実行。現在、No.0069が見つかってない以上、私は情報収集をするしかない。
それぞれの部活へと散っていく生徒達を横目に眺め、私は校門へと歩いていく。
今日は駅の方にでも行ってみようか? それとも、住宅街?
そんなことを考えながら校門を抜ける。
ギョッとした。
隣にいた人物。校門を出て左に曲がっていった人物に見覚えがあったからだ。思わず鞄から写真を取り出し、何度も何度も遠ざかっていく相手と見比べる。
間違いない。
鞄から通信機を取り出し、命令通りに博士に連絡する。
「博士、諏訪博士。こちらNo.0070」
『こちら諏訪。何? No.0070』
「No.0069を捕捉しました。これから追跡、応援願います」
『了解』
ぶつっと言う耳障りな音を残して通話が途切れる。通信機と写真を鞄に戻すと、私はNo.0069の後を追っていった。
自分が追われている自覚がないのか、堂々と歩いていくNo.0069。気取られないように距離を離してついて行く。
『了解』
七緒の声が言ってぶつっと通信が途切れる。
七緒が直子に行っていた通信。それをかずいは傍受していた。かずいの耳には小型の通信機。これは組織のもので、かずいは直子から渡されていた。
そして、再びぶつっと言う音が響き、直子から通信が入る。
『かずい様。No.0070の処置は既に終わっております。どうぞ、No.0070をかずい様のお好きなようにしてください』
その通信を聞いたかずいは七緒が尾行しやすいように歩き、そして徐々にかずいの望む方向へと誘導していく。
人の少ないところ、道の狭いところ、一本道。
そして、かずいが袋小路に辿り着いた時に七緒は出口を塞ぐようにかずいへと姿を見せた。
「待ちなさい、No.0069」
袋小路に伝わる七緒の声。その声にかずいはゆっくりと振り返る。その顔にはにやにやと嘲るような笑みが張り付いていた。
「私はNo.0070。No.0069、年貢の納め時よ・・・覚悟なさい」
言うと同時に七緒は鞄をかずいに向けて投げる。勢いよく飛んできた鞄をかずいが弾くと、目の前に七緒がいた。
ヒュンと言う風切り音。勢いよく飛んでくるハイキックを間一髪でよける。
しかし、その後に飛んできた蹴りを避けきれず、かずいは吹っ飛ばされた。
ガンと激しい音とともに壁に叩きつけられるかずいの体。その衝撃にかずいの肺から残らず空気が漏れだした。
痛みで動けないかずい。七緒はかずいの前に立ち、かずいを見下ろす。
かずいはそんな七緒の視線を受け、逆ににらみ返した。
「終わりよ、No.0069。これからあなたを研究所へと移送します。処分命令は出ていますが、こんなところに機密であるあなたの情報を微塵たりとも残しておくことはできません」
これで終わりか。七緒の頭にそんな思いが走る。自分の任務は脱走したNo.0069の破壊。既に実験が終了したNo.0069には確保や奪回の指令は出ない。破壊後の回収は組織の者がやるが、奇数ナンバーの持つ特殊能力故に相手は偶数ナンバーがしなければならない。
とはいえ、奇数ナンバーの特殊能力には物理的な戦闘能力になるものもあるから、その点では他の偶数ナンバーよりも楽だっただろう。
だが、その先は・・・
そこで七緒は思考を切った。
考えてはいけない。考えてはいけない。考えてはいけない。
その先に待っているもの。それは自由とは違う。その先は闇だ。目の前のものはそれを拒否したのではなかったか?
「ぺっ」
淡々という七緒にかずいは唾を吐きかける。七緒は頬に付着した唾を無造作にぐいと拭うと何事もなかったようにかずいをみる。
そして思う。自分は何なんだろうと。
機械。命令に従うだけの人形。組織に開発された奇数ナンバー。その力を封じるだけのもの。ならばこんな形をしている必要はなかった。意志を持つ必要はなかった。
余計なことを考えてしまうから。
考えるな。頭の隅で何かが叫ぶ。
お前は機械だ。その声は頭の中に広がっていく。
命令を実行すればいい。ガンガンと鳴り響く苦痛に、七緒は余計な思考を切り捨てた。
「正常な判断もできなくなった様ですね。私はNo.0070。つまり、No.0069、おまえの能力は私には―――」
ドクン。
七緒は自らの体を走った感覚に言葉を切る。その感覚は七緒がこれまで感じたことのないものだった。がくんと思わず膝を突き、頭に手を当てる。
「な・・・・・に・・・・」
ビクン。
七緒の体が跳ねる。呼吸は荒く、汗が徐々に増えていく。
これまで感じたことのない感覚に惑乱する七緒。かずいはよろよろと立ち上がり、そんな七緒を見下ろした。
「どうした? No.0070。さっきまでのご高説は」
ぺろりと自らの指にたっぷりと唾液をつけると、その指を七緒の顔へとすりつけていく。
それと共に七緒に伝わる感覚が倍増した。
「ま、さか・・・・なん・・・・で・・・・」
ビクンビクンと七緒の体が震える。その体を両手でぎゅっと抱きしめて怯えたようにかずいを見上げた。
「私は・・・No.0070なのよ・・・・連番の奇数ナンバーである0069の能力は効かないのに・・・・効かない・・・はず・・・・なの・・・・に・・・・・」
語尾がしぼんでいく。そして、七緒の手が自らの手に、股間に伸びていく。
「くふぅ・・・・なんで・・・・こんな・・・・・」
ハアハアと乱れる呼吸。体を伝わる汗の感触。かずいの目の前で七緒は体を慰める。しかし、その瞳はじろりとかずいを睨んでいた。
そんな七緒の視線を意に介さず、かずいは七緒を押し倒していく。
「あ・・・やぁ・・・・・」
七緒の頭は混乱していた、その中で覆い被さってくるかずいを押しのけようとする七緒の手。しかし、その手には力が入らず、かずいを押し返すことなどできない。
かずいの手が七緒の胸を這い、かずいの舌が七緒の頬を舐め上げる。
「ーーーーーーっ!」
頬から伝わってくるおぞましい感触に七緒は何度も首を振る。しかし、次の瞬間には違う感覚が七緒の内側から湧き上がってくる。
「はぁっ!!」
七緒の胸がふにと揉み上げられ形を変えていく。そこから伝わってくる快感に七緒は体を震わせ、声を上げた。
びっと制服を引きちぎり、七緒の胸をはだけさせる。そして、その胸をぺろりと舐め上げた。
ビクン。
目に見えるほど七緒の体が硬直し、何かに耐えるように目をぎゅっと瞑っている。
「んんっ」
七緒の目が開かれる。
かずいの唇が七緒の唇と重なる。そして、かずいの舌が七緒の唇を侵略していく。ぺろりと七緒の歯茎を舐め上げ、とろとろと唾液を流し込んでいく。
弱々しく開かれた歯の間から強引に舌をねじ込ませる。ぐちゅぐちゅという音を鳴らし、七緒の口の中を蹂躙していく。かずいは自らの唾液をたっぷりと飲ませ、そして七緒の唾液を自らに取り込んでいった。
じりじりとした感覚が七緒の頭を灼いていく。
「ぁぁぁ・・・・・だめぇ・・・・・どうして・・・・こんなぁ・・・」
かずいは七緒の下着を下ろし、そのしとどに濡れている秘裂へと舌を埋める。
「ぁ! ぁ! ぁぁぁぁぁぁっ!!」
ビクビクと七緒の体が震える。ピンと七緒の足が伸び、大きく体が反らされた。
かずいの舌が動くたびに七緒の体も跳ね回る。秘裂から溢れていた体液の量が増した。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
七緒の内から快感が押し出され、頭は灼かれていく。
七緒の抵抗がほとんどなくなってきているのを確認すると、かずいは自らのズボンを下ろす。下着の下から堅く屹立した肉棒が飛び出す。七緒の足を肩にかけると、既に準備万端なそれを七緒の秘裂へと差し込んだ。
「ああぁぁぁぁぅぅ」
ずぶずぶと抵抗なく中へと入っていく。その感覚に、七緒は自分を取り戻していく。
「いやっ、ああぁっ、やめてぇぇっ!!」
何とかかずいを引きはがそうと七緒は暴れるが、既に体に力は入らず、かずいを止めることができない。
奥まで届くかずいのモノ。そしてそのまま、前後運動に移行していく。
「あくぅぅ、くぁぁぁ、ふぁぁぁっ」
かずいのモノが七緒の中を掻き回す。かずいのモノが七緒を一突きする度に七緒の口からは喘ぎ声が漏れ、ビクンビクンと体が震える。
七緒の膣は本人の意思に反して収縮し、かずいのモノを刺激していく。
「はっ、嫌だとか言いながら体は正直だな。欲しい欲しいと体は言っているぜ」
「ちがっ、ああぁっ! そんなんじゃっ! あぅっ」
七緒は否定の声を上げようとするが、かずいの動きがそれをさせない。
ズンと深く押し込み、絡みついてきた肉壁ごとえぐり取らんばかりの勢いで腰を引く。
その繰り返しが七緒に深い快感を与えていく。
かずいによって与えられる快感。その快感が七緒の中に溜まっていき、七緒を乱していく。
徐々にしかし確実に絶頂へと持ち上げられていく感覚に、七緒は翻弄されていく。
「ぁっ、なっ、はっ、くっ、ぅぅっ! だめ、だめぇっ」
「ほら、体が欲しがっているモノをやるぜっ」
かずいの腰の動きが速くなり、パンパンという音があたりに響く。
切羽詰まっていく七緒の声。かずいの腰の動きに合わせて、かずいも七緒も上へ上へと昂ぶっていく。
「はっ、あっ、ぁっ、っ、ぅぁっ、やっ」
「さぁっ、いくっ、ぞっ!」
宣言と共にかずいのモノが七緒の奥深くへと突き立てられた。
そして、次の瞬間、七緒の中へとかずいの白濁液が爆発した。
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
どくっどくっと七緒の中へと流し込まれていくかずいの体液。その感触に七緒は絶頂へと押し上げられた。
絶叫が終わり、七緒は思い出したかのように痙攣を始める。かずいはずるりと七緒の中から萎えたモノを引き抜くと七緒の服からハンカチを取り出し、自らのモノを拭う。そして、そのハンカチを七緒へと落とすと、ズボンをはいた。
びくんびくんと震える七緒。ふわりとハンカチがその胸に舞い落ちる。目からは涙、口からは涎、そして秘裂からは白濁液がこぼれ落ち、絶望に満ちた表情を浮かべていた。
「No.0070。起きろ」
かずいの命令に従って、七緒の体が起きあがる。
その事実に七緒は愕然とした。自らの手のひらをじっと見つめる。
「気分はどうだ?」
「なんで・・・・・こんな・・・・・」
「答えろ」
「・・・・最悪」
かずいの命令に、七緒の口から言葉が零れる。
そして、睨もうと七緒がかずいを見上げた瞬間、それは起きた。
「あ・・・・・・・・・」
七緒の瞳がかずいに釘付けになる。目は見開かれ、瞬きするのも忘れてじっとかずいを見続ける。
かちかちと歯が打ち鳴らされる。その表情は畏怖から尊敬へと変化していき、憧憬に近いところまで達していた。
「あぁ・・・・」
その瞬間に七緒は理解していた。目の前の存在は自分を闇から解き放ってくれるものだと。先程まで殺そうとしていたのがばからしくなる。彼について行けば、自分も闇に捕らわれなくなる。そんな簡単なことだったのだ。
まぶしいモノを見るように目を細めてかずいをみる七緒。そんな七緒を見下ろしてにやりと笑うかずい。
二人の間に断ち切れない絆が生まれた瞬間だった。
「お前はこれから俺に従っていきていくんだ。俺の言うことは絶対、逆らうことなど許されない。そうだな?」
「はい。もちろんです」
< 続く >