序章
東京の季節は2月も下旬近く。
不夜城と化した大都会の歓楽街も5時を過ぎる頃になると、表通りを往来する人の流れも劇的に波が引いていく。もう少しで夜の帳も明けるだろう。
日の出までは30分も無いだろうか。一段と冷え込む季節ともなれば歓楽街の路地裏に来るのは、このエリアを受け持った不運な新聞配達君か野良猫かネズミぐらい。
そんな夜明け目前の歓楽街の迷宮の奥に、一陣の微風と共に季節はずれの生暖かい湿った空気が漂いだした。
チカチカと点滅を繰り返す年期の有りそうな雑居ビルの外灯。その僅かな光を頼り生ゴミを漁っていたネズミ達が敏感に反応する。何かが来ると本能で気が付いたのだろう。
しゅぅぅぅぅぅ…….
乾燥した冬の東京には不釣り合いな潮風の様な粘っこい空気は、不意に緩かに動きだすと小さな旋風となり中心に小さな水溜まりを作って静かに消滅した。
一呼吸おいて水溜まりは虚空に向かって淡い紫色の光の束を解き放ちだすと、その水面から一つの小さな人影が淡い紫色の光の束に包まれ静かに浮かび上がってくる。
淡い紫の光の中に映し出されたのは、背中にまで伸びてる豊かな栗色の毛に黒い布を鉢巻き状に左耳の上で結びつけた、小麦色の様な美しい褐色の肌の小柄な子供だった。
すぅぅぅぅ……
ゆっくりと垂直に浮かび上がってきた小さな人影は、心持ち顎を上げ真っ直ぐな姿勢でせり出てくる。
面影は中性的で幼さは残るが十二分に整った顔立ち、両頬に一筋走る緑のフェイスペイントが肌の色とあいまって野生的な雰囲気を醸し出している。そして前髪が僅かに掛かった猫科を思い起こさせる様な、気の強そうな釣り目気味の大きな両目と華奢な身体にスラリと伸びた手足。なにより南国でも歩いていたかの様な季節離れの服装をしていた。
しゅぁぁぁぁぁ…….
やがて、だらんとしている足首に固定用ストラップが巻き付いた草履状のサンダル履きの足先が水溜まりの水面を抜けて10cm程も浮き上がると、包んでいた光も薄れ小さな人影は ぴしゃん! と、水溜まりに水飛沫を上げ着地した。いつの間にか路地奥の一角を占めていた粘り気のある空気も霧散している。
謎めいた子供は両足で自分の重さを実感すると、ゆっくりと周囲に視線を振って現状を確認した。そして小さく頭を垂れニッコリと可愛らしい笑みを浮かべる。
遂に来たのだ。一人前に成る為の『試練』の世界へ!
ココが人間の世界♪
初めての人間狩り…
小さな人影は物珍しそうに辺りを見回すと、元気にテクテク歩み始めた。
上手く出来るカナ…♪
第Ⅰ章(その1)
夕暮れの都心。
権勢を謳歌する父母達が好んで子女を入学させたがる名門女子高校。その中でも有数の格式と伝統を誇る北条女学院は、東京渋谷に程近い並木の大木に囲まれた小高い丘陵地の一角に学舎を構えている。
「それでは皆様、ごきげんよう♪」
「うん! また明日ね!!」
ワインレッド地にスノーホワイトが彩られた襟無しワンピースは、裾が丈の短いフレア・スカート状に加工されていて、同じ色調のセーラー型の襟のボレロ(スペインの闘牛士が来てる丈の短い上着)を上に羽織り黒いオーバー・ニーソックスを加えてコーディネートされた制服は、可愛いデザインの女子制服が多い渋谷周辺でも異彩を放ち人目を惹く。
「お疲れ様! じゃあね♪」
「は~い、さようならぁ!」
既に時計は17時を回っている。寒々しい冬の空の下、正門前は下校しだした女子生徒達の制服や嬌声で、日に2回おこる華やいだ時間帯に差し掛かっているのだ。ちなみに彼女らは冬服とはいえ殆どの女子生徒が外套やマフラーなどしていない。
「皆さん、お先に失礼いたしますわ♪」
「あら!? クスクス、ねえ見てみて…不思議な子…」
「失礼しますぇ…? あら、素足に草履履き…寒ぅないンやろか?」
だいたい生徒の4人に一人は、家族が用意した出迎えのリムジンやスポーツカーに乗り込んでいく。残りの生徒も歩いて至近の高級ホテル並みの専用寄宿舎か学校近くの家族名義の高級マンションに一人やルームメイト数人で住んでいるので、彼女らは殆ど歩かずに帰宅出来るのだ。
「さような…あら、何かしら…あの子?」
「んっ? へぇ~、可愛いじゃん。でも変なカッコ…♪」
バスや電車等の公共交通を利用して通学する生徒は1割に満たなく、北条女学院の『お嬢様御用達』の二つ名の程が伺える。
「肌も小麦色みたいですし、外国の子ではないかしら?」
「ええ確かに…南洋の方みたく頬に緑色の模様しを入れてますものね♪」
そんな北条女学院の正門前に、下校中の女子生徒達の注目を惹く存在が現れたのは17時15分に差し掛かりだした頃からだった。
「なんや、キョロキョロしてはるし…誰ぞ待っておるンやろか…?」
2年C組の浅野岬(ミサキ)も新体操部の部活が担当講師の都合でお休みになり、普段より2時間早く下駄箱で下校の支度をしていた。だが脱いだ上履きを中腰に身を屈めて革靴と入れ替えようとした時、久しぶりにブービートラップに引っかかってしまった。ある意味それは仕掛けワイヤーの切れた対人地雷よりも厄介なもの。
「あ~、参っちゃうなぁ。ボクは後で返事するの嫌なんだよな…」
その肩口までフワリと滑り降り、両肩近くで内巻きに弧を描き斜め上に内跳ねした艶やかな黒髪を耳元に掻き揚げ、柳眉を八の字に寄せるて溜め息をこぼすと慎重に下駄箱の中を覗き込む。案の定、革靴の上に淡いパステル調の封筒がちょこんと載っている。
「むぅ。バレンタインデーは過ぎたから、暫くは無いと思ってたのになぁ…」
不意に後ろの物陰から嬉しそうな嬌声が響くと、パタパタと複数の走り去る気配があった。どうやら差出人は介添人と共に岬が想い文を受け取る処を確認していたらしい。健気というか迷惑というか…
ピリピリピリ…カサカサ…え~とっ『(前略)今度の国際大会の選考会も頑張って下さいネ…(後略)』なあんだ、ラブレターじゃなくてファンレターかぁ。
「おっ!? 岬、また下級生から恋文を貰ったなぁ♪」
「岬センパイ、相変わらずモテモテですね♪」
「あ~ん。センパイは新体操部の皆のモノなのにぃ!」
岬と前後して下駄箱に来た新体操部の先輩や後輩達が、岬の状況を察してはやし立てる。もともと獲得タイトルの多い新体操部のエース格というだけで下級生からは羨望を集めるのに、岬の容貌は淑やかな大和撫子や美しき深窓の令嬢だらけの北条女学院でも秀麗さで抜きん出た容姿と肢体をもっていた。
「まぁ~た、純真な下級生を、岬はフェロモンで魅了しちゃったのかぁ?」
「先輩! ち、違うよ。ただのファンレター。ファ・ン・レ・ター!」
その肢体と肌に1/4づつドイツ人とフィンランド人の血が流れてる岬は、日本人離れした腰の高さと長く美しく伸びた脚や造形美で溢れんばかりのメリハリがきいたプロポーションで、本人の意思とは全く無関係に異性は言うに及ばず同性までも十二分に魅了していたのである。
「え~? でも岬センパイ…応援なら最後に『私の愛しいミサキお姉様』な~んて書き添えませんよぉ♪」
「あ~あ、やっぱりィ!」
「えっ!? ドコドコ?」
なにより眉目秀麗をキャンパスに描いた様な凛々しくシャープな容姿は、釣り目気味の目元が気の強そうな麗しの『お姉様』そのもので、サッパリとした飾らない性格や容姿に似合わぬ中性的な物言いが、その長身も相まって同性の中の異性を北条女学院の閉鎖された空間で意識させてしまうのだ。
「本当だ… まぁ、いいや。ボクが後でチャンと言うっきゃないかぁ…」
同性嗜好に理解が無い岬は整った顎の線に人差し指を添えると、もう何度目かの憂いた溜め息をつく。まぁ、『岬お姉様』こんなアンニュイな表情されては周囲の下級生達や同性嗜好な女子生徒はメロメロになっちゃう筈である。案の定、岬を取り巻いていた新体操部の先輩・同輩・後輩は揃って岬の曇った表情に惹き付けられていた。
無意識に不安を感じて我に返る岬。
「じゃ、じゃあ、ボク下校するね! それじゃ!!」
岬は足の甲に脱げ落ちを防ぐストラップの付いた学校指定の踵の低い黒革製パンプスをストラップで固定してから爪先でトントン馴染ませると、顔見知りに笑顔で別れの挨拶を交わしながら懐古主義的なデザインの正門を目指し歩き出す。
「うん、じゃあねぇ岬ィ♪」
「お先ィ!また明日ねぇ~♪」
岬の父親は欧州在留中の外交官で東京には岬が独りで住んでいる。北条女学院に程近いセキリュティの高い高層高級マンションの1LDKが岬の住まいだ。独り暮らしも2年目、もう慣れたものである。
さぁ~て、今日は部活が休みだったし…帰ったらシャワー浴びて1時間だけVサ○ーン(V社製SE◇Aサ○ーン)で『ガ○グリフォンⅡ』しよっかなぁ♪ それから晩御飯を食べて、課題を済ましたら…やっぱり寝るまで『ガ○グリフォンⅡ』の続きしよ♪
先日、東京から海外に転勤した仲の良い叔父から処分代わりに1世代前のゲーム機1式を貰った岬は、『ガ○グリフォン』とその続編が面白くてしかたなかったのだ。わざわざ通信対戦したくて級友の兄弟が放り出したグレー色のサ○ーン筐体を、小遣いを渡して買い取った程である。
「誰かボクと(ガ○グリフォンⅡで)協力対戦モードの相手してくれないかぁ…」
聞き手によっては赤面しちゃうような台詞を鼻歌混じりに呟きながら、岬は最近ハマッたマイナータイトルに想いを巡らせていると、正門を出た辺りで下校する生徒達の歩みがスローダウンしている事に気付いた。
「あん…何だろ?」
岬は背負い用のバンドが付いた革製学生鞄を左手ごと肩越しに背中へ預けると、周囲のささやき声が気になり視線の集まる方向に顔を向けてみた。
なんだろ…あの子の噂をしてたのかなぁ?
そこには長い豊かな栗色の毛にヘアバンドみたく黒いバンダナを横で結んだ小麦色の肌をした子供が、正門の斜め前の並木の前に立ってキョロキョロと通りすぎていく下校中の女子生徒達の顔を覗き込んでいた。その両頬には緑色のフェイスペイントが1筋が走っている。
「ふ~ん。誰かの知り合いかなぁ…しかし季節外れなカッコだよね♪」
あの服装…何処かの映画でみたよね? なんだっけなぁ?
上は淡いベージュ色に彩られた詰め襟&半袖のワンピース状の上っ張り一枚、上っ張りは腰から下は膝上まであり、両脚に添って長いスリットが2本入っている。どうやらスリットは後ろにも1本はしっているようだ。丁度チャイナドレスのデザインに極めて近い。
あれぇ、通り過ぎる娘の顔ばかり覗き込んでる…誰かを探してるのかな?
上着の上には黒い布にくるまれた荷物らしき物を右肩から左脇の下にかけてタスキ状に背負い込み胸の前で結びつけていた。
上っ張りの下は、脚の線に添った黒い木綿地っぽい細身の膝下まで隠れる程度の丈の、一見するとスパッツにそっくりな履き物をしている。そして足先には、東南アジアで良く見掛ける足首に固定用のストラップが巻き付いた草履みたいなサンダルを素足に直履き。
「もしかしたら近所の子かな、近くに大使館も多いし…」
さすがに外交官の娘である。周囲の女子生徒達とは着眼点が違う。実は岬自身も両親と海外で暮らしてた幼少の時に、視線の先にいた異国風情の子みたくおのぼりさんみたいな真似をしていたのだ。
あっ! そうだ、カンフー映画とかで良く拳法家が羽織ってる奴だよ。Vサ○ーンの格闘ゲームにも、あんなの着込んだ奴が出てきたっけ。
と、その時、岬は急にゾクッとする悪寒を感じた。気が付くとさっきまでキョロキョロしていた異国風情の子供が、自分の事を値踏みする様に岬の顔に視線を固定している。
!!? なんだろ…この子?
どう背伸びしても背格好が12~13くらいまでにしか見えない少年(?)に気後れしながら、刺す様な視線を向ける主の脇を通り抜ける岬。その視線は じぃ~ っと追いかけてくる。
「喜べ! ナギ…お前に決めた!!」
その子供は透き通る様な奇麗な発音で奇抜な宣言を口にすると、小麦色の顔に真剣な表情を浮かべて小さいながらも長く伸びた左手の一指し指を頭2つ近く背の高い岬の顔に向けた。
「最初の奴隷(エモノ)…とても名誉な事! お前…今からナギの奴隷(モノ)!!」
…はぁ?
いかに響きの良い声で言われても不意の理不尽な申し出に、岬は耳を疑い慌てて声の主へ振り替える。
「嬉しく…ないのか?」
「な、何よ…やぶからぼうに…変な子だなぁ…」
素っ頓狂な表情で自分を指差す異国風情な子供を見下ろして、正直な感想を口にする岬。そりゃあ初対面の相手に、こんな理不尽な物言いをされる覚えは無い。
ナギと名乗る子供の方も岬の反応は予想外だったらしく、可愛らしく小首をうなだれると懐から何やらしたためた物をカサカサと広げる。
「おかしい…ナギの告白(シメイ)は名誉な事なのに、全く喜ばない…」
まるで自身満々に答えを黒板に書いたのに、先生に×を出された小学生の様な困った表情でしたため物に目を通す。ドコを間違えたか検討がつかない。
「長老の教え、ドコか違う? ナギ困る…」
むぅ~!
流石にカチンときた岬は、左肩に預けていた学生鞄を握っていた左手を腰の脇に移動させ添えると、目前で困った表情を浮かべしたため物に目配せしてる子供を覗き込む。
「こらっ少年! イキナリ何よ変なこと言って、失礼だゾ」
まるで、年少者に『め~~~』をする様に前屈みに目線を下げると、岬は右手の一指し指を自分の顔の脇で ひょいひょい と左右に振って子供を諭す。
子供の方は岬の反応が予想を越えていた様で、キョトンとした表情で岬を見あげ返す。どうにも岬の反応が理解できないらしい。子供の頭の周りには?マークが幾つも浮かんでいる様だ。
「ナゼ怒る? ナギの奴隷(モノ)になるの…嫌か?」
「あたりまえじゃない!」
流石に語尾が強くなる岬。言ってから強く言いすぎた事に少し後悔する。
だが子供は悪びれず困った表情で自分の主張を繰り返す。まるで自分の正当な主張に理解を示さない岬に理由を問う様に。
「名誉な事、そんなに嫌か? ナギ解らない…」
う~~~ん、困ったなぁ…なんか悪い子じゃないみたい、なンだけど…
柳眉を額中央に寄せながら勝手の違うナギと名乗る目の前の子供を、どうやって諭すか思案に更ける岬。だが、変化は不意に岬を襲った。いつの間にかしたため物を懐に戻した目の前の子供は、その小ぶりな小麦色の両手を伸ばすと岬の両頬に添えて凛々しくシャープな眉目秀麗な顔を スゥ… と静かに自分の前へ引き寄せる。
えっ!?
いきなりの展開に抵抗するのも忘れ、不覚にも岬は子供の誘導に身を任せてしまった。
「なっ…何が?! ちょ、ちょっと!!」
我に返る岬。その彼女の目の前には、猫科を想像させる釣り上がった大きな両目と漆黒に染まった真摯な雰囲気で岬を見つめる2つの瞳が迫ってくる。
「ひぃ…」
その時になって初めて岬は人間にそぐわない子供の特徴に気が付いたのだ。子供の瞳が爬虫類の様に上下に細長く伸びている。
「ナギ…お前に決めた! 絶対に欲しい!!」
射抜く様な視線を岬の瞳に放つとナギと名乗る子供は、決意に満ちた表情で自分の小さな唇を岬の唇に重ねる。そして、硬直してる岬の唇や舌を可愛らしい舌で嘗め回す。
岬のファースト・キスは津波の様な快感だった。思わず左手に握っていた学生鞄を取り落とす程に。
「あっ?! 嫌だ、ボクは今、何を…」
岬は慌てて子供の拘束を払い退けると、凛々しくシャープな眉目秀麗な顔を真っ赤に染め、釣り上がった両目に半べそを浮かべて不埒な真似に及んだ小さな犯人を睨みつけた。
「ボクに何するの!? 幾ら子供でも怒るからね!!」
半べそで怒鳴る岬。この様な痴態を見せる事など家族の前でも殆どない。
その成り行きを偶然に居合わせた女子生徒達は、その展開に息を呑み足を止めて見守っている。しかし、北条女学院が誇る人気者の美少女もナギを名乗る異国情緒あふれる子供も周囲の視線を無視して、否、感じないで対峙していた。
だが、岬は次の言葉が続かなかった。急に下腹部が疼き出したからである。
「う…あっ!?」
下着で覆われた股間の付け根が電極を繋いだ様に ビクッ! ビクッ!! と、痺れているのだ。思わず制服のフレア・スカートの上から両手で股間を押さえてしまう岬。
「んくっ!!!」
~~~~っく、急に疼き出して…どうして?
パニックに陥りかけた岬は、周囲のざわめきで急速に我に返る。今、自分が何処に立っていて何をされ、どの様な痴態を晒しているか…
「…ねぇ、あの方、2年の…」
「まぁ『岬お姉様』が…」
ある程度に事態を掌握した岬。彼女は半べその両目を大きく見開くと、これ以上ないまでに顔を赤くした。
あ…あ~~~っ! ひゃ~~~、校門の前だったよぉ、どうしよ!
慌てて足元の学生鞄を左手で拾い上げると恥ずかしさの余り、脱兎の如く猛然とその場を逃げ出した。岬は恥ずかしくて顔を上げる事も出来ない。
サイテー!!
内跳ねした長く艶やかな黒髪とフレア・スカート状の制服の裾をリズミカルに躍らせながら、岬は黒いオーバー・ニーソックスに包まれたスラリと伸びた両脚で、踵の低いストラップ付きの黒革製パンプスに猛スピードで地面を蹴らせる。
?・?・?… 逃げちゃった…
先ほど岬に破廉恥な事をしでかしたナギと名乗る子供も、ポカンと右手を差し出しかけた姿勢で、急速に視界から遠ざかる彼女を呆然と見送っていた。
しかし、猛然と立ち去る岬は完全には周囲を把握していなかった。その場に居合わせた女子生徒達は、なぜか伝統と格式に富んだ名門女子高校にそぐわない反応をしていた事に駆け出した彼女は全く気が付いていない。
「クス…なんとも微笑ましかったですわね♪」
「そうね。2年C組の浅野さんでしょ?」
そう、ちょうど居合わせた女子生徒達は、当たり前の出来事を好意的に見守っていただけなのである。なぜだか理由は分からない。が、別段、岬が逃げ出さなくても悪意ある中傷や蔑みで彼女を見たり評価する者は、見守っていた女子生徒の中には一人もいなかった。いや、岬自身を除いては。
「うち、てっきり良い返事をしはるンかと、ドキドキしながら見てましたぇ」
「あ~あ麗しの『岬お姉様』も手の届かない存在になちゃうんだ…」
「アカンなぁ、そないに逃げンでもエエのにナ♪」
「うふふ…確かにネ」
岬より後に下駄箱を出た新体操部の顔見知り達も事の成り行きを途中から見ていたたのだが、彼女達でさえ青春ドラマでも見るように暖かく見守っていたくらいなのである。まるで何かがこの場の常識だけを書き換えた様に。
「あ~みえても、岬は奥手で純情だからなぁ♪」
「そうそうミサキ先輩って皆からはモテモテだけど、あ~いうのには弱そう♪」
「うん。誰かに恋したとか無さそうだもんネ♪」
この場に立ち会わなかった岬の信奉者達が聞いたら卒倒しそうな内容の話を、居合わせた女子生徒達は声を弾ませ楽しげに会話しているのだ。
事実、この場に居なかった岬の信奉者なら当然卒倒したろうし、他の女子生徒や教職員が知ったら嫌悪や蔑みの反応を示した事だろう。だが居合わせた誰もが、この場に居合わせなかった者には決して話すつもりなどなかった。理由は分からないが、それが名門北条女学院に学ぶ生徒としての最低限のエチケットに思えたから。
こんな素敵な出来事を、誰が教えてあげるものですか♪
愉快で微笑ましい逸話を、他の方に教える訳には参りませんもの♪
居合わせた全員が、優しい笑みを浮かべて暗黙のエチケットを確認しあう。
「………」
先程までキョロキョロと下校中の女子生徒を値踏みしていたナギと名乗っていた小さな人影は、周囲の華やいだ嬌声で我に返ると手持ちぶたさに揚げかけた右手の一指し指を唇に当てて、岬との接吻の名残を感じていた。
えへへ…
「やっぱりナギ、最初の奴隷(エモノ)、お前が良い…♪」
周囲を囲み咲き誇っていた淑やかな大和撫子や美しき深窓の令嬢達の一団は、ひとしきり会話を弾ませると ぽけぇっ としてるナギの頭を撫でたりナギに礼儀正しい挨拶を交わすと一人また一人、小麦色の可愛らしい子供の前から離れていく。中にはエールを込めたウィンクや投げキッスを飛ばす女子生徒までいた。
「それじゃあ、ごきげんよう♪」
「ほな、頑張って攻略するンですぇ…」
「岬は手強いからナ!」
「ミサキ先輩の事、宜しくネ♪」
「私達は君を応援してるからね!」
その場に居合わせ一部始終を見ていた、空気や時間を共有していた20人ばかりの女子生徒達は、ナギと名乗っていた幼い子供に自然と絶対的な好意や好感を抱いてしまっていた。彼女達にとってはナギと名乗る幼い子供の存在や行為は、何故か知らずのうちに当たり前の存在や行為と化していく。
「クスクス…私もあんな可愛らしい告白(シメイ)を受けたいものですわ♪」
「本当に。浅野さんが羨ましくってよ♪」
そう、この子は大事な身内。助力を求められたら素直に応じてしまう存在。
「ねえねえ、何があったの?」
「宜しければ、私達にも教えて下さいません?」
怪しげな子供に挨拶を交わしたり話が見えない会話に声を弾ませる様子を、怪訝そうに見ながら岬とナギの痴態を目撃しなかった後発の下校組は、見知った知り合いや級友を見つけて何があったか尋ねていたが、異口同音に応じられ人だかりの原因や経緯を上手く逸らかされていった。
「心暖まるエエもん見せてもろうてたんですぇ♪」
「う~んとねぇ…やっぱ、内緒ぉ♪」
「えっ? 何でもないって。只の青春ドラマだって♪」
人だかりが自然消滅するのに左程時間はかからなった。そのうち人だかりの原因やナギに挨拶をしていた事が話題から静かに薄れていく。
「あれっ? さっき、正門の前に変な子が立っていなかったっけ?」
「さぁ、何の事かしら?」
「今さっき、栗色の髪した子の頭を撫でてらしたでしょ?」
「ふふふ…教えて差し上げません♪」
いつの間にか並木道の街燈が点滅しだす。懐古主義的なデザインの正門の門扉に付いた外燈にも灯が入り辺りを照らすが、ナギと名乗っていた異国情緒あふれる幼い子供の姿は既に消えていた。
北条女学院の正門から徒歩7分。(全力で駆けて約2分と少々)
はぁ! はぁ!! はぁ!!!
7階建ての高層高級マンションの5階。
恥ずかしい! 恥ずかしい!! 恥ずかしい!!!
その美しく整った顔に恥辱と悔恨の表情を浮かべたまま、開きかけのエレベーターを飛び出す岬。マンションの共用通路に カッ! コッ! カッ! コッ! と、乾いたパンプスの音を乱暴に響かせながら、岬は一番奥まった部屋…自分の砦に駆け込んだ。
ガチャガチャ!
表札に『M.Asano』と書かれた角部屋の1LDKが浅野岬の住まいだ。元々は一昨年に北条女学院を卒業した父方の従姉の為に、彼女が入学した当時の祖父母が下宿に使う様にと道楽で買い与えたマンションである。入れ違いに入学した岬の為に従姉が権利ごと譲ってくれた物件なのだ。ちなみに従姉は帝都医大に入学を決めた後、東京本郷に3LDKの高層高級マンションを祖父母から新たに買って貰っていた。なんとも贅沢な話である…
ガシャ~ン!
名門『お嬢様』女子高校として知られ、美少女が咲き乱れる事で有名な北条女学院の中にあっても類希な造形美を輝かせ、その秀麗な容貌と性格で校内でも5指に入る人気者の『岬お姉様』は、半べそ混じりの真っ赤な顔のまま分厚い金属製の扉を力一杯に閉じると、ドアノブの鍵をひねり補助錠を下ろしバー状の補助ロック(チェーンロックの強化版)の留め金までも乱暴にスリットへ流し込んだ。
はぁ! はぁ! はぁ!
「~っ! ボク…ボク、もう信じられない!」
岬はひとしきり扉の全ての鍵を掛けた事を確認すると、胸の前に抱きかかえていた学生鞄を ずるずるっ と太股の上に引き降ろす。そして玄関で立ったまま分厚い金属製の扉に背中から寄り掛かって、踊り出している鼓動を静めようと呼吸を整える。
はぁ、はぁ、はぁ…
紅潮し苦しそうだった岬の顔は、段々といつもの凛々しくシャープな眉目秀麗さを取り戻していく。その顔は未だピンク色に上気して大粒の汗を浮かべていた岬だったが、ハンカチ代わりの『お祭り』ロゴが散りばめられた愛用の日本手ぬぐいで拭きとるぐらいの余裕は回復したらしい。だが、落ち着いてくるにつれ先程の校門でのやり取りを思い出す。
「~~~っ! 何でボクが、あの子の奴隷(モノ)なのよ!!」
岬は黒い皮製パンプスのストラップの留め金をむしり取るように外すと、乱暴に玄関に脱ぎ捨てる。いつもなら部活でも私生活でも自分の道具や物を大事に使い、手入れする岬だったが今日に限ってはそこまで気が回らなかった様だ。
カチン! カチン!!
「あ~~っ、もう、やんなっちゃうなぁ!」
入り口近くに集中してる室内照明のスイッチをなぞる様に入れていくと、手にしていた学生鞄を玄関脇のシューズクローク上の天板に載せながら、器用に汗を拭った手ぬぐいを洗濯篭にポイッと放り込む。
グスン…恥ずかしくて、明日は学校に行けないよ…
心の中で呟く。と、思わず先程までの痴態を思い出す岬。
しかも、校門の前で急に疼き出した下腹部の刺激は小さくなっていたものの、未だに股間の付け根を規則的に刺激している。オナニーすら殆ど経験してない岬にとっては、性欲の処理と知識に疎すぎ手の施しようがなかった。とにかく制服を脱ぐより先に汗(と愛液)まみれの下着を取り替えようと決意する。
ごそごそ…もぞもぞ…
岬は高い腰にまとわりつくフレア・スカートをたくし上げると、伸縮性に富んだコットン製の淡いグレーの下着の縁に両手を掛けた。
うひゃあ! 湿ってるよ…
声にならない悲鳴を上げた丁度その時、岬の背後に淡い光が柱が現れ前後して透き通る様な声が寂しげに語り掛けてきたのだ。
「…どうして…ナギから逃げる?」
そんなバカな!? 驚いた岬はスカートをたくし上げた格好のまま、首だけ捻って背後を振り返る。と、そこには公衆の面前で岬のファーストキスを奪った小さな不埒者が先程の姿格好で心配そうに彼女を見守っているではないか。
「えっ!? ちょっと…?」
そう、数分前にいきなり自分に屈辱的な要求を突き付け、あまつさえ岬の唇を奪った異国情緒あふれる子だ。おまけに土足のまま上がり込んでいる。玄関の鍵は確かに掛けた筈なのに…?
「いったい、どこから入って…」
正常な思考が麻痺しかけていた岬は、自分が下着を脱ぎかけていた事を思いだす。
「わっ?! きゃ~~~! とっ、とにかくボクの家から出てって!!」
だがナギと名乗っていた子供は、岬の抗議の悲鳴や怒りを含んだ要求を無視して彼女の脇の下から細く締まったウエストに両手を回し ギュッ! と抱き着くと、まるで大型犬でも甘える様に嬉しそうに岬の胸の膨らみに栗色の髪に覆われた頭を預けてきた。
「娘(オマエ)…最初の奴隷(エモノ)! ナギ…決して、逃がさない♪」
「ちょっ…!」
ギュッ! と、しがみつかれてしまった岬。慌てて ぐぐぐっ… っと、ナギの顔を押し戻そうとするが両手を腰に回されてるので、少しくらい押し放してもナギの小さな頭はすぐに元の位置に戻ってきてしまう。
む~~~~~!
「と、とにかくボクから離れ…離れろォ!」
ナギにとって岬の一連の反応は未だ理解が出来ないらしく、小麦色の頬を むにぃぃ と押し放そうとされてる時も、栗毛頭の周りには幾つも?マークを浮かべていた。
「ナギ… 名前まだ、聞いてない…」
「見ず知らずの相手(キミ)にボクが名乗る訳ないでしょ!」
相手が年下の為か彼女の子供好きな性格の影響か、思う様に相手に対し自分の要求や感情が伝えられない。岬は完全に相手(ナギ)のペースにハマッている。
「 ナギ、名前、知りたい…名前…?」
「不法侵入なんだゾ! お巡りさんに捕まっちゃうンだゾ!!」
怒ってるのか諭してるのか自分でも分からなくなっている岬。だが端から見ていれば、学校でも有名な美人の姉が悪戯ざかりの幼い弟に、困らされたあげく半べそかきながら癇癪をおこした程度の、低次元な姉弟喧嘩ぐらいにしか映らないでもない。
とにかく無茶苦茶な言葉を並べて『ボクは本当に怒ってるンだぞ』と伝えようと躍起になっていく。そして遂に岬は怒鳴ってしまった。
「出てって!!」
さすがにナギもカチンと来たのだろう。言う事を聞かない奴隷(エモノ)に、多少なりともナギのルールを教え込む必要性を認識したのだ。ナギの瞳がひときわ縦に細長くなる。
「出ていく? 駄目、今度は逃がさない…」
「あっ!」
ナギは二回りも大きな魅惑の奴隷(エモノ)に、爬虫類の様な瞳で一瞥をして暴れていた相手を射すくめると、一時的に大人しくなった岬のスカートの裾から小麦色の小ぶりな右手を滑り込ませた。
「あ~~~っ! ちょ、ドコ触って…」
これで動けない!
「っ痛ぅ~~~!!」
ナギは下着越しに右手の指先を岬の生殖器がある股間の上に添えると、バチッという響きと共に強い静電気にでも触れた様な、強い痛みを伴ったショックを岬に放った。岬の股間はショックと共に ビクン! と痙攣を起こし始める。
痛った~い! この子…ボクに何したの? まるで感電したみたいに…
「あっ!? うぁぁぁぁ… きゅう~~~」
再び始まった股間の痙攣による痺れと快感は、校門で唇を奪われた時とは比較にならない程の強烈で性的な疼きだった。岬の蜜壷は熱源の様に火照りだすと粘り気のある愛液を湧き出し始める。その量は簡単に下着から滴り出す程だった。
「これ…ナギのチカラの一つ♪」
ナギはニコニコしながら細く括れた腰に抱き着いてた両手を離すと、えっへん と自慢すような表情で岬の正面に向き直る。
「身体の自由…ナギ、奪った。もう逃がさない♪」
下腹部の強烈な疼きに苦悶していた岬は、柳眉を歪ませ釣り上がった両目に涙を浮かべたままキツく閉じながら、股間から脳髄へ駆け上がる性的衝撃を必死に堪えていた。歯を食いしばる口元からは怪しく涎が滴りだしている。しかも首から下の自分の身体が思うように動かない。まるで岬は苦悶の表情を浮かべるだけのマネキンだった。
「…ひゃう! …んくっ…うっぁぁぁ…」
岬の眉目秀麗な顔が苦悶に歪むのを嬉しそうに見上げてナギは勝利を確信すると、右手を右肩近くまで揚げて可愛らしくパチンと指を鳴らしてみせる。
あっ!!
ナギの指パッチンを耳にした岬は、信じられないといった様子で涙を浮かべた両目を大きく見開いたまま、予想外の展開に羞恥に満ちたまま表情を凍りつかせる。
「そんな…嘘でしょ!?」
そう、先程までフレア・スカートの上から股間に押しつけられ石像の様に動かなかった岬の両手が、本人の意思とは無関係に自分のスカートの裾を摘まむと、ナギに対して静かにマクり揚げ始めたのだ。
や…何で!? 身体が勝手に? 何故?! …ぁぁぁ…あああ!
その人の良さが災いした岬。そして旺盛な好奇心と子供好きが災いした岬。なにより抜きん出た秀麗さが災いした岬…
「いやぁぁぁぁぁ! 嫌だ…嫌ぁぁぁ!! ボク、ぁぁぁ…ボクに何もしないでぇ!!」
この時になって岬は遂に、目の前の子供が『人間ならざる者』だと確信した。元々オカルトや幽霊などの存在を全く信じてなかった岬。その為、爬虫類みたいな縦に伸びた瞳を見た時も無意識の内に錯覚だと思い込んでいたのだ。しかし…
「ナギ…名前が知りたい…?」
「あっ?! ひぃぃぃ…嫌だ…嫌だ嫌だ! 止め…ひゃん!」
ナギは子供ながら長く伸びた形の良い右手の人差し指を、スカートが捲られ丸見えになった痙攣し続ける陰部目前に持っていくと、その指先を既に汗と愛液でぐっしょり湿った下着越しに女陰のスリットに爪が隠れるくらい押し付けると、縦に割れたスリットに沿って グググッ と、摩り上げていく。
つつつ…くにくにくに…ぐちゅ!
形の良い突き出たヒップを包んでいた伸縮性に富んだ淡いグレーだったコットンの下着は、もう殆ど汗と愛液まみれで全体が黒ずんでいる。
「くぅぅぅ! 駄目…駄目だよ! もう赦してぇ…」
「ナギに名前、教えて…?」
岬はポロポロと大粒の涙を頬に流しながら ふるふるふる… と、僅かに動く首から上を長い豊かな内跳ねした黒髪と共に左右へ振り続ける。
「やぁ…嫌ぁ…駄目ェ…赦してぇ…ボク…言いたく…ないのぉ…」
ナギは執拗に名前を尋ねるが、岬の理性と本能が『自分から教えてはいけない』と訴えつづけているのだ。自ら教えたら最後なのだと。名乗ったら自分の全てを目の前の子供に取り上げられてしまうのだと、荒れ狂う快感の中で岬は恐怖混じりに自覚していた。
「…名前を言わない…ナギ、困る…」
まるで陰部を弄ぶ様に快感で苦悶する相手に尋問を続けるナギ。最初の内は悪戯っ子みないた表情で岬の反応を楽しんでいたのだが、相手が頑なに質問に応じないので段々と小さな尋問官は機嫌を損ねていく。
むぅ…ナギの質問(コトバ)…まだ無視する…
やがて摩り上げていた右手の指先をシコリだした突起の所で止めると、親指を添えてチカラを込めて岬のクリトリスを捻り上げた。
「!!!!!!」
思わず息を呑む岬。その痛さと快感で頭の中が一瞬ホワイトアウトし、強烈な刺激を受けた身体が1回ビクンと大きく痙攣する。岬は生まれて初めて…しかも幼い子供の手でイかされた瞬間だった。
「あっあっあ~~~~!」
岬は唯一自由に動く首から上を思いっきり仰け反らせると整った口元とパクパクさせる。もう木綿の下着は吸収しきれない粘り気がある液体を滴らせて、内股に添って垂れ降ちた分泌液は黒いニーソックスの足首近くにまで達していた。
「名前!」
「うぁぁぁぁ!!」
再びクリトリスを絞り上げると強い口調で自分の要求を伝えるナギ。岬は身体全体で痙攣し、痛みと快感で朦朧とする頭で思わず相手の質問に応じてしまった。
「――っミ、ミサキ…浅野、岬(ミサキ)…で…す」
岬の声は上ずっていたものの朽ち果てた様に精気が無かった。
えへへ…ミサキ…ミサキ!
ナギは目の前で髪を振り乱したまま惚けてる制服姿の岬を満足そうに見上げる。彼が見初めた極上の奴隷(エモノ)は、気の強そうな釣り目の半ばまで二重瞼を下げて、瞳の輝きを濁らせたまま口元から一条の涎を垂らしている。
ミサキ…ミサキ…うん、良い名前♪
岬は初めて経験する爆発的な絶頂と強烈な恐怖心のせいで、意識に負荷が掛かりすぎ自意識を司るブレーカーが飛んだらしい。
「ふう…ナギ、ミサキの調教(シツケ)に入れる。うん…嬉しい♪」
黒いニーソックスに履いたスラリと伸びた長い脚の足元には、いつのまにか愛液と共に刺激臭のする水溜まりが広がっていった。
えへへ…これから本番。ナギ、最初の奴隷(エモノ)…大事に育てる♪
決意とヤル気も新たな異界の幼い少年は、にぱぁ と可愛らしく笑顔を浮かべて岬の顔を覗き込む。
「ナギ、ミサキの為に頑張る♪」
ナギは魂の抜け殻みたいになった岬の右手を嬉しそうに両手で握ると、自分よりも二回りは背の高いTopモデルばりの奴隷(エモノ)を、誘う様に部屋奥のベットの上へと引っ張り上げる。
その一部始終を見守っていた枕元の目覚まし時計の針は、もう18時20分を少し回った処に差し掛かっていた。
< つづく >