3
王宮を抜け出し、僕は酒場でひとり、ちびちびと飲んでいた。
2時間ほど前に、リスフィから自分の父親が国王ではないことを、僕は聞かされた。
その事実が、僕を躁鬱の沼に浸らせていた。
親、というものに対して、僕には人並み以上のコンプレックスがある。
かつて母に、よく呪いの言葉をかけられた。
”お父さんみたいに、立派な大人になれ”と……。
父はもう、この世にはいない。物心つくはるか前に死んでしまった。だからこそ余計に、母の言葉は幼かった僕への説得力を持っていたのかもしれない。
母の言葉に従って勉強に励み、人に優しくしようと勤めた。食べ物の好き嫌いもしなかったし、とにかく必死に努力した。
僕を養うため、僕を学校に通わせるため、母が自分の身体を売っていることを知っていたから――
母の理想どおりの大人になることが僕の生き方で、母が喜ぶと僕もまた嬉しくなった。
その母も、僕が10の頃に死んでしまった。
数年間、この世の地獄を彷徨った。
金が無く、稼ぐ手段もない。そんな条件を満たした弱者が突き落とされる、奴隷としての地獄を。
だが、誇りだけは失わなかった。
しつけと称して殴られて前歯が折れ、十分な食料を与えられず、肺炎になって死にかけたときも。
媚びることだけは、しなかった。
”お父さんみたいに、立派な大人になれ”
呪いの言葉が、耳にこびりつく。
立派な大人にならなければ、僕には生きる価値がないらしい。だからこそ、死にかけようとも魂を手放すつもりはなかった。
しばらくして、僕は王子様として迎えられた。
笑えるほどに、突然な話だ。
同時に納得し、安心した自分もいた。
生活環境が激変したことにではない。命が助かったことにでもない。
安心したのは、自分の父親に対して。
僕の父親は国で一番偉い、王様なのだ。
なるほど、それならば納得できる。
お父さんみたいに立派な大人になれ、そう言った母親の言葉が。
ところが。
ところがだ。
国王は、僕の本当の父親ではなかった。
「今さら、ヘコむよなぁ………」
くっくっ、と自虐的な笑いを浮かべ、酒を口に含む。
僕は、空っぽだ。
くだらないことで揺らぎ、くだらないことで死にたくなる。
それでも、幸せにしてやりたいと思っている女がいる。幸せにしてやれるはずだと、時々思い上がる自分がある。
「馬鹿が。実力もないくせに」
彼女達にぶちまけられれば、どれほど楽だろうか。
自分は立派な大人になれないということを。
自分は、愛するに足る男ではないと。
言いたい。だが、言えない。
肝心な時に、誇りが邪魔をする。
投げかけられる信頼が重くのしかかり、信頼を裏切れなくさせる。
一体、どうすればよいのだろう。
どうすれば、幸せを与えられるのだろう。
「いらっしゃい」
と、酒場のマスター。
ドアが軋み音を立て、誰かが店に入ってきた。
振り向かずに、僕はぐいと酒を飲んだ。苦い。
「隣、よろしいですか?」
「…………どうぞ」
若い女の声。本当は1人で飲みたい気分なのだが、断るのも面倒だった。
女が、座る。
「ご注文は?」
「お酒以外の飲み物で何か甘いものを。それとできれば、お店を貸切にしていただきたいのですが」
聞きなれた声と共に、無造作に金貨を数枚置く。ちなみに金貨1枚で、庶民なら1年間は3食昼寝付の暮らしができる。
カウンターの木目をぼんやりと見つめていた僕の視界に、サラサラとした金の髪の端がうつった。
視線を上げ、隣に座った者の顔に向けた。
ふにっ
頬に深く、指がめりこむ。
「ふっふっふ、勝ちました」
ルフィが、してやったりとした顔で言った。
***
無言で、僕はルフィが置いた金貨を掴んだ。
「すまないけどマスター、今のこの娘の言葉は忘れてくれ」
言って、頬を突っつくルフィの手を掴み、どかす。
「にい、さま………?」
険しい僕の顔に、ルフィの笑顔が凍りついた。
「気持ちはわかる。でも安易にわがままを通そうとするんじゃあない」
「はい………ごめんなさい」
ルフィはしゅん、となってうつむいた。
「何に対して怒ったか、分かるかい?」
表情を和らげ、聞く。
「私は今、お金を使って、気持ちよく飲んでいる方を追い出そうとしました」
「分かっているならいい」
ルフィが出したうちの金貨を1枚だけ、カウンターに置く。残りはルフィの手に戻した。
「彼女の注文を頼む」
「かしこまりました」
恭しくマスターが言った。
「それで、何でここに?」
言いつつ、優しく頭を撫でてやる。それで安心したのだろう、ルフィの顔と身体から緊張が抜けた。
「リスフィから事情を聞いてからにいさまの様子が気になって、仮病を使ってパーティから抜け出してきましたの。騎士の方々と衛兵さん達に協力していただいて、にいさまの所在の聞き込みをしました」
と、ルフィが言っている間に3名ほど客が入り、入り口近くのテーブルに座った。
3人ともチェイン・メイルを着込み、腰に剣を引っさげている。隆々とした筋肉は、女であるのに僕よりもたくましい。王女付親衛騎士団の団員であろう。
「ご命令通り、リスフィーナ様に伝令を向かわせました」
「あい。ご苦労様です」
王女としての硬質な顔で団員に言い、ルフィは僕に向き直るとすぐさま本来の表情に戻す。
僕に見せる時の顔は、子猫が甘える時のような、少し勝気で、それでいて見るものを和ませる表情だった。
「なんだ、リスフィは一緒じゃないのか」
「……えーとですね、まずにいさまが徒歩で向かえる範囲の酒場をいくつか調べあげまして、そのうちで私は南に、リスフィは北に向かうという形で騎士の方と一緒に捜索していました。たぶんまだ、ハズレの方面を駆け回っていると思います」
「………ちちう……陛下は外出を許したのか?」
「さぁ?」
茶目っ気たっぷりの顔で、ルフィは肩をすくめた。
「…………信じられないことをするな」
「ご迷惑でしたか?」
「いや………全く。1人だと陰気臭くて困っていたからさ」
「よかった……」
心底からほっとしたように、ルフィが言う。
「お待たせいたしました」
マスターは丁寧に音を立てぬよう、コップを置いた。
砂糖をたっぷりと入れたホット・ミルク。あまり上品な酒場でないだけに、ノン・アルコールで甘いものとなるとこういう品に限られるのだろう。
ふー、ふー、と熱いそれに息を当ててさまし、おそるおそる口をつけた。
「ん、おいしい」
にっこりと笑う。
「ね、にいさま。手を握っていいですか?」
「ご自由にどうぞ、お嬢様」
別にうかがいを立てる必要はないのだが………。
「にゃー」
子供っぽく喜びを示し、僕の右手にその白い手を添える。猫が毬を弄ぶように、ルフィは僕の人差し指をにぎにぎとしたり、爪のあたりに指の腹を押し当てて感触を確かめたりと、やりたい放題にじゃれた。
その動作が……おそらく狙っていないのだろうが、妙に上手い。
愛撫されているようで、おかしな気分になってしまうではないか。
しかも、
「誰もいなかったらおひざの上に乗せていただきますのに」
とんでもないことを言う。
「ルフィ、もしかして酔ってるか?」
「うに。そういえばパーティでかなり飲まされたかも」
言いながら、甘えるようにしなだれかかってくる。改めて見るとルフィの頬は赤みが差し、身体はいつもより汗ばんでいた。
うなじのあたりが艶かしく、えもいえぬ香りがする。子供の頃は全く感じなかったルフィの色香に、鼓動が高鳴るのが分かった。
「馬鹿どもがよってたかって私に丁寧な挨拶をしつつ下心丸出しの微笑を浮かべながらお酒を勧めるんですよ~。いったいあの人たちは私を酔い潰して何をするつもりだったのやら………」
「馬鹿どもねぇ……」
「これだから、にいさま以外の殿方は嫌いですわ」
苦笑するほかあるまい。ああいう場で、男が妙齢の美女を前に下心が出るのは当然であろう。ルフィは買いかぶってくれているが、僕とて例外ではない。おそらく、行動に移せたか移せなかったかの違いだけだ。
「………ふぅ」
ホットミルクをすすり、小さく息を吐く。
そうしてぎぎぎぎっと身体を動かし、ルフィはもたれかかるのをやめ背筋を伸ばした。
「くだらないことを言ってすみません。にいさまをお慰めするつもりで参りましたのに……」
「いや、もうお腹いっぱいだよ」
「…?」
「僕を見つけてくれただけで十分ってこと」
「そう………なのですか」
「うむ。男は総じてアホなのだ。悩みなど時間が経てば収まる」
冗談めかして言いながら、手を伸ばし、先ほどしたようにルフィの髪を撫で付ける。ルフィは日向ぼっこ中の猫のように目を細め、気持ちよさそうに頭を寄せた。
そうこうしていると――
きぃぃぃぃ……ばたん
「ようやく見つかったぁ」
すでにへろへろになったリスフィが、酒場へと入ってきた。
***
そうやって、リスフィと合流してから。
僕らは3人でささやかな飲み会をし、王宮の一角にある自室へと戻った。僕が、レミカと2人きりで暮らしている場所だ。
ちなみにルフィとリスフィも一緒にいる。これは2人の熱い要望からのもので、遅くとも夜明け前にはたたき起こして帰ってもらうことを条件に承諾した。
女の子をたたき起こすなど酷薄の極みだが、仕方ない。
男が深夜に王女を自室へ引きずり込んだ、なんて知られれば、僕が殺されるのはともかくとしてルフィとリスフィにも何かしらのお咎めがくる。そういった事情を考えれば、誘うのは軽率以前の問題である。
だが、
「私たちへの叱責など気になさらないで下さい。ご迷惑でなければ、にいさまと一緒にいたいです」
と、ルフィが頑なに主張した。リスフィもまた、言葉にはせぬが姉の言葉に強く頷いていた。
無下には、断れぬ。
アリバイ作り等の偽装工作は親衛騎士の面々がしてくれるという。僕も僕でお抱えの密偵等に工作を依頼したので、これ1度きりならば十分隠し通せるとの計算も働いていた。
だが正直、殺されても構わないという気分がないでもない。
自分の出生のことが尾を引いているせいもあり、酔っているせいもあっただろう。
1人でいるのが、無性に寂しかった。
現在、僕はベッドに仰向けに寝そべり、その上にのしかかる形で、ルフィが遺憾なく酔っ払いぶりを発揮している。
ルフィが酒に酔うと、”猫さんモード”が発動するらしい。
「うにゃ~。すりすりすりすり」
柔らかい頬をこすりつける。金色の髪から、得も言えぬ香りが僕の鼻腔をくすぐる。はっきり言って、このままでは理性を押し留める自信がない。
ちなみにリスフィは、ベッドに身を預けたとたんに静かに寝息を立てていた。
王宮でのパーティと、その後の捜索活動がよほど疲れたらしい。
「はあぁ……しあわせぇ…」
妹が寝るすぐ隣で、ルフィは僕の胸板にぷにぷにとした頬を擦りつけ、時々顔を上げてはキスをせがむ。
答えてやりながら、ルフィの背中をさするように身体をまさぐると……、互いのテンションがだんだんと高くなってきた。
気分が妙になる。
呼吸が乱れた。
動悸が速くなってゆく。
身体が、相手に触れたところが、火傷しそうなほどの熱を持つ。
「んふふ……ずっとこうするのが夢だったの………にいさまと会えなくなってから、ずっと………」
ルフィのドレスははだけていた。胸元と腰のあたりが苦しいらしく、紐を緩めたせいもあるだろう。
視線を少し下に向けると、10年前には有り得なかった谷間と、さきほどからの”すりすり”によってはだけた下着が目に映る。
喉にいつの間にか唾が溜まり、僕はごくりと飲み干した。
「そうか………」
背中に手を回し、抱きしめる。抱いてみると分かる、驚くほど華奢な身体。それでいて、触ったところはどこもかしこも柔らかくて、胸や腰、尻はすっかりと年頃の女の子の丸みを帯びている。
「ね………これから私達をさらってどこか遠い国で3人で暮らしませんか?」
ルフィが、微笑と共に言う。その瞳には、冗談ととらえるには真剣にすぎる光が灯っていた。
「本気で言っている?」
「ええ、もちろん。一緒ならきっと、うまくいくはずです」
その言葉は幼稚で、何の根拠もない。
だが………やってできないことはないのかもしれない。
現実は甘くはない。だが、僕とて子供の頃のままではない。生きるための知識も経験も、自分ひとりの命すら支えられなかった昔とは格段に違う。それにお互い、多少の蓄えがある。
追っ手から逃げつつ数年は食いつないで………どこか安楽の地を見つけて腰を落ち着け、適当な仕事を探して………何人か子供を作り、平凡な家庭を築いていけたら。
どれほど幸せだろうか。
「それも――」
それもいいな、と言おうとした途中で、レミカのことが頭に浮かんだ。
途端に、胸が苦しくなる。
「ごめん。この国に、まだやり残したことがある」
「女性………ですか?」
女の勘が働いたのか、ルフィは即座に言い当てた。
「ああ」
肯定した僕に、ルフィは首をかしげ、少しの間考えた。
「なら、その方も連れていけば万事解決ですね」
「怒らないのか?」
「確かに、嫉妬はありますけれど………うゅ」
奇妙な声をあげると、ルフィは頭を抱えた。
数秒間うなった後に、ぽむ、と手を叩く。
何かを合点したらしい。
「にいさまは、私とリスフィを比較して序列をつけたことはありますか?」
「ない」
それは断言できる。でなければ、2人とも娶りたいなどと思うわけがない。
「そーいうことですよ。私は、にいさまが誰を愛しても、私を愛している部分は常に残っていて、それは誰にも侵すことができないと信じていますから。だから、私以外の誰かを愛しても受け入れられます。………確かに心中、複雑ですけれど」
「……ふつう、軽蔑のまなざしを向けたり頬をひっぱたいたりするものだと思うが」
「………えーとね、にいさま」
ルフィは顔を上げ、僕の目をしっかりと見る。
口調がやや改まったものになっていた。
「にいさまは、思うままにしたいことをなさってください。私はにいさまのことが大好きですけれど、もしにいさまが私に嫌われることを想像して怯え、自分の意志を放棄してしまったら………それは、私の周りにいるくだらない方々と同じになってしまいます」
言外に、彼女はこう言っている気がした。
自分が愛するに足らない、くだらない奴らと同じようになってしまったら、捨てると。
「……………」
ふと浮かんだ想像に、僕はぞっとした。
それは、僕が年とともに卑屈になっていき、やがてルフィに捨てられるという未来。
………恐ろしいこと、この上ない。
「そんなことはありません!」
僕の心を読んだかのように、ルフィは大きな声で否定した。
「私はにいさまが大好きで、ずっと一緒にいたいです。たとえにいさまがどれほど卑屈で、つまらない男になっても、きっと私達はにいさまのそばにいます。でも………それではお互い、傷を舐めあう犬のようにただ情けなく擦り寄っているだけではありませんか」
ルフィは必死になって、つたない言葉で自分の意中を伝えようとする。
その声に、その表情に、少しだけ心が和らいだ。
「ご期待に沿えるように努力する、としか今は言えないよ」
立派な答えではないから、はき捨てるような口調になった。
それでもルフィは、僕の答えに口元をほころばせた。そしてあろうことか、手を伸ばし僕の頭を撫でた。
なんとも言えぬ気分だ。
これでは普段の逆ではないか。
「よしよし。それで十分です」
無邪気な笑みに、毒気が抜かれてしまう。
自分の悩みが、如何にちっぽけなものなのかを証明されたような気がして。
「なんだかなぁ………」
「私は、悩んで深いところを彷徨っているにいさまも、私に怒ってくれたにいさまも、普段の優しいにいさまも、全部大好き」
なんのてらいもなく、ルフィは言う。
ちょっと、困った。
ルフィは、僕を喜ばせすぎる。
夜の寝室に、男と一緒にいるというこの状況。
少しは考えて欲しいものだ。
「あっ」
今まで僕が仰向けになり、ルフィに組み敷かれていた。その体勢を、身体を回して逆転させる。
細い腕を掴み、普段よりも荒っぽい動作で抱きしめる。
ちゅ………じゅく………ちゅく………
口付けし、舌を差し入れる。驚き、縮こまっているルフィの舌を捕らえ、からめる。
ねっとりと口腔を犯しながら、唾液を送り込む。ルフィの口はしから唾液が垂れるのも構わず、僕はルフィの口を味わい、淫らな水音を立て続ける。
「はぁっ……」
荒く、ルフィが息を整える。頬が赤いのは、酒のせいだけではないだろう。
「抱きたい」
僕は、衝動に身を任せた。
耳元で、囁くように言う。
ルフィはうつむき、小さな声で言った。
「存分に、ご賞味ください」
ちらりと見たルフィの顔は、紅潮していたがとても嬉しそうだった。
***
肩をむき出しにし、胸元の開いた紺のドレス。スカートと上着が一体になったそれは、背中のところに着脱のための紐がついている。
交差した紐の、蝶々結びの部分をほどく。
儀礼用に特化したドレスは、とてつもなく着脱が面倒なつくりになっていた。
背面で、さまざまな色の紐が交差している。そのリボンの一部はドレスの下にあるシルクの中着と結びつき、それ自体が装飾であるかのように鮮やかな文様を織り成していた。
大勢の手で行うならともかくレオン1人の手で脱がすには、寝そべられたままでは不可能だ。一度立ってもらわなければならない。
「え………と、今外した大きな紐だけではなくて、背の両脇にそれぞれ小さな紐があるはずですので……はい、そこです。そこを解いてください」
ぎこちなく服を脱がそうとするレオンに、ルフィーナはなるべく平静な声で助言する。
もちろん心中は、穏やかではない。
当然だ。男に服を脱がせられるなど、初めてに近い。
近い、というのは10年以上も昔、レオンと一緒に風呂に入ったことがあるためだった。
その時にも、今のようにレオンに服を脱がしてもらった。だから厳密には初めてではない。ないのだが、そのときとは状況が違っている。お互いに子供ではないのだから。
今は違う。心臓がばくばくと胸を打っている。恥ずかしいやら嬉しいやらで、頭がぐちゃぐちゃだ。
衣擦れの音が緊張を高め、レオンの手や指が時折素肌に当たり、当たったところが火傷しそうに熱い。
「へんな……気分です」
上擦った声。知らず、喉に唾が溜まっていた。
頭がおかしい。思考がまとまらない。
好きな相手に脱がされるのが嬉しくて恥ずかしくて、精神が高揚している。
その反面、不安で、怖い。
初めての時は、とても痛いと聞く。だが、それは別に構わなかった。
問題は、レオンが満足してくれるかどうかだ。
生涯、身体を許す男は後にも先にもレオン1人であるのだから、できるなら末永く愛でられたいし、何よりレオンに満足して欲しい。その為には身体の相性が良い方が………というと下世話だが、とにかく自分の身体で気持ちよくなってもらいたい。
「深呼吸してみて」
「は、はい」
レオンの声に従い、すぅ、はぁ、と何度か繰り返す。呼吸と共に胸が上下し、そうしているうちに落ち着いてきた。
と、腰の圧迫が取り払われ、ドレスがとさりと床に落ちた。
服を脱がせるこの最後の動作を悟らせなかったあたり、レオンは結構器用な男である。
「………っ」
覚悟はしていた。予想もしていた。それでも羞恥に堪えかねて、ルフィーナは胸元を必死に隠した。
これでもう、身を隠すものはわずかな布地しかない。
小さな、薔薇の花をかたどった刺繍が入った白いブラと、無地のパンティ。白いハイソックスと、それを吊り上げるための白いガーターベルト。
背中越しなのに、死にたいほど恥ずかしい。レオンの視線にさらされているあたりが熱くなっている。
「ほぅ」
感嘆ともとれる声が、レオンの口から漏れる。
ルフィーナは顔をうつむけた。とても、彼の顔を見られそうにない。
「あの………どこか変でしょうか?」
「いや…………と、いうかなんというか」
やはり何か、おかしい所があるのだろうか。
「すごく、いい」
「あ……」
背中から抱きすくめられる。いやらしい動きではない。壊れ物を扱うような、いつでも逃げ出せるような抱き方だ。
触れ合った肌のところに、身体中の血が集中している。
お腹のあたりに回された男の腕に、ルフィーナは自分の腕を添わせた。
酒場でしたように手を這わせ、体温や触感を確かめるかのように動かす。
「にいさま……」
うっとりと目を閉じ、背に意識を向ける。
不思議なことに、肩に入っていた力は抜けていた。
レオンにもたれかかるように、体重を預ける。すると、肌の触れ合う面積が少しだけ増えた。
それが、とても嬉しい。
「にいさまの音がする」
触れ合う背中から、ばくばくと規則的に脈打つ鼓動が伝わってくる。
「落ち着いた?」
「どう………でしょう」
確かに、脱がされた直後よりも余裕はあると思う。しかしどうしても、背中にいる男を意識すると気持ちがざわめく。
首を回し、レオンの顔を見た。
目線でキスを促し、意を察したレオンが顔を近づける。
「んっ…あ、……ちゅっ……ちゅく……ぐちゅ………」
ルフィーナにしてみれば、触れるだけの口づけのつもりだった。
だが、レオンはそのままルフィーナの顔に手を添えると、舌をさしこみ、ルフィーナの口を蹂躙した。
始めは驚いたものの、ルフィーナは抵抗せず、むしろできるかぎり身体の力を抜いてレオンを受け入れた。
舌を絡めあう深いキス。
男とするのは初めてだったが、夜、お遊びで妹と何度かしたことがある。だから、すぐに対処することができた。
口付けをしながらも身体を回し、背中を向けていた身体を口付けしやすいように正面に向ける。
舌が絡まりあい、淫らな水音を立てる。
唾液をかき混ぜ、飲み込み、飲み込ませる。酒場で飲んだお酒の匂いがした。しかし、汚いとは思わない。
飲み込みきれなかった唾液がルフィーナの細い顎をつたい、ぽたりと胸の上に落ちる。
レオンの手が持ち上がり、ルフィーナの胸を、下着の上からまさぐりはじめた。
再び緊張したのか、ルフィーナの身体に力が入る。
レオンは右の腕で強く抱きしめ、左手のひとさし指でルフィーナの乳首をやわやわと擦り上げ、押す。
それは下着ごしにも分かるほどに、いやらしく尖り、自己主張をしていた。
胸をもてあそびながら、唇はルフィーナを捕らえ、その口腔を思う様に犯していた。
「ぢゅ……ぴちゃ……」
頭がぼぅっとなる。気を抜けば、意識があちら側の世界へと旅立ってしまいそうだった。
気持ちいい。
胸と、背筋にに甘酸っぱい痒みが広がり、太股の間を何かぢゅくぢゅくとした、それでいてもどかしい感覚が支配していた。
愛撫された胸が熱く、初めて触れさせる男の手のひらが温かい。
また、唾液が流し込まれた。
「ちゅ……にい……しゃま……んっ……はぁ……ちゅる……」
息苦しさを覚えつつ、ルフィーナは従順に唾を嚥下(えんげ)した。
レオンの匂いが、口内に満ちてゆく。
レオンの手が、いやらしく胸を這い回る。
レオンの舌が、自分の口を犯す。
彼がもたらす快楽、そのひとつひとつに、ルフィーナの手が小刻みに震える。
嫌悪感はない。
それどころか精神的な充足感から、危うく達してしまいそうになる。
彼のなすがまま、自分の身体が征服されようとしているこの状況に、信じられぬほど精神が高揚していた。
まだ、きちんと”抱かれた”わけでもないのに、このまま死んでもいいとすら思った。
「んっ」
レオンは妹から唇を離し、代わりに首筋にキスをした。さすがの彼も息が苦しくなっていた。
ルフィーナはレオンに必死にしがみつきながら、呼吸を整えた。
と…………
そこで、ぐったりとベッドに横たわっている妹の姿が、視界に入った。
そのときに何か、目に見えない思念でも働いたのであろうか――。
妹が薄目を開けてこちらを見ていることに、ルフィーナは気づいた。
うかつ、というべきであろうか。
妹が寝ているすぐ傍で、姉が男に抱かれようとしている。普通ならば、部屋を替えるなりするだろう。
だが、彼らは普通の関係ではなく、思考もまた普通とは違っていた。
その証拠に、ルフィーナは焦らない。弁解の言葉もなければ、弁解しようという考えすら浮かばない。
『くる?』
遊びに誘うかのように、ルフィーナは目で妹に問いかけた。
リスフィーナは、静かに首を振った。
『今は、ルフィの時間だから』
流石に、妬心がないわけではない。だが、刺し殺したいという衝動が起こるわけでもない。
納得していた。
自分の好いた男が、自分の姉に愛の言葉を囁くことも、自分の好いた男が、自分の妹に愛の言葉を囁くことも。
何故、そういう感情を持ちえたのか。
彼女達以外には、分かるはずがない。
彼女達自身、他人に説明する言葉を持ってはいないのだ。
何故、自分の姉や妹を殺したいと思わないのかということを。
こじつけた言葉ならば言える。
愛している部分、見ている部分が違うから、などという説明ならばできる。
しかし実際のところは、言葉にすればするほどに、彼女らの本質からずれてゆく。
自分ではない女がレオンに愛されるという事実。
その中で、レオンが愛する相手への憎しみはない。
かといって、レオンを殺したいとも思わない。
ただ、1つだけ、確実なことがある。
現在の彼女達の世界は、レオンを中心に回っている。
『今は、ルフィだけで愛してもらって』
『ん……ありがと』
そこで、いたずらを仕掛けた子供のようにリスフィーナは笑った。もちろん声は出さぬし、微妙に唇を動かしただけだ。レオンに気づかれれば、いらぬ気を使わせてしまう。
『そのかわり、あとでいっぱいに甘えるから』
互いに、声に出さず意を交換する。
この間、およそ3秒ほど。レオンはこのやりとりに気づかなかった。あるいは、気づかないフリをしていたのかもしれない。彼もまた、浮気の現場を見られようが構いはしなかった。
唇へのキスを再開する。
レオンが舌先で、ルフィーナの桜色の唇をつついた。
彼の舌の進入を受け入れるように、口を開く。
レオンは舌を差し込まずに、ルフィーナの下唇をねっとりと舐める。唇のシワひとつひとつの形を確かめるようにゆっくりと動かし、十分に堪能すると今度は上唇に同じことをする。
先ほど、口腔を犯された感覚を思い出し、知らず知らずのうちにルフィーナは太股をすり合わせた。
じれったいと、思ってしまう。
さきほどのようにして欲しい。
はしたないと思いつつも、レオンに征服されていた感覚を味わいたかった。
そんなルフィーナの反応を確かめながら、レオンは徐々にキスから愛撫に切り替えてゆく。
下着の上から、胸の形を確かめるようになぞってゆく。
10年前は全くなかったその部分は、今では女の子らしい豊かなふくらみを備えている。とても、さわり心地が良い。
指が乳首の真上を通り過ぎる、その瞬間ごとに、ルフィーナは身体をぴくんとふるわせた。
「ちゅう……ぢゅ………ちゅる…くちゅ………」
何も言わせず、ルフィーナの口を味わい、胸への執拗で優しい愛撫を繰りかえす。
若い乳房は弾力と柔らかさを備え、押したと同じ強さでレオンの手を押し返した。
そうこうするうち、次第にルフィーナの身体から力が抜けていった。
いや、より正確には力が入らなくなったというべきか。
身はすでに、レオンに任せていた。ところが今は、彼と口付けをしやすいように体勢を微調整するのすらままならない。
「脱がすよ」
「ぁぃ………」
荒くなった息を整えながらも、なんとかうなずく。
出した言葉はろれつが回っていなかった。
我ながらブザマだ、と思う。
もっときちんとして、レオンに悦んでもらいたいのに。
興奮のためか、身体が火照っていた。
レオンにされたことが嬉しいのに、目から涙がこぼれそうになっているのが分かる。
スリ、スリと……衣擦れの音がした。
布に肌がこすられ、ぴくりと身体が反応した。
「……………むぅ」
抗議と羞恥の入り混じった、うなり声。
狙ったかのように、いや、間違いなく狙って、レオンは動いていた。
下着を脱がすといいながら、完全に脱がさずに弄んでいる。
胸の先に……はしたなくもレオンの愛撫で尖った乳首にぎりぎりひっかかる位置に、わざとブラジャーのふちを残していた。
「……んっ」
刺激が与えられ、また、身体が震える。レオンの指が動くたびにブラの布地のふちが上下し、弾くように桜色に色づく可愛らしい先端に刺激を加える。普段ならばくすぐったいだけの行為も、執拗な口腔愛撫によって高められた身体は敏感に反応した。
「中々脱がせられません、お姫様」
レオンがおどけて言う。
こんな時にお姫様という呼び方をするのが、なんとも小憎らしい。
「にぃ…さまの、うそつき……ふ、あっ!」
鋭い声と共に、みたび身体が反応する。
今度は布地でひっかいた刺激ではない。男の無骨な人差し指と親指とが、乳首に添えられていた。
くすぐるように指を回し、かと思うと痛いと気持ちいいの中間くらいの強さでつねってくる。
「嘘? いやいや、僕は小心者だから、いざその時を迎えると思ったら緊張に手が震えて上手く動かせないんだよ」
「ぁんっ」
言っているそばから、乳首に爪が立てられる。これも、痛みを与えることを目的とした強さではない。痛みのかわりにルフィーナの背筋にぞわぞわとしたものが走り、恥ずかしい声が瞬間的に口からこぼれる。レオンが自分に危害を加えないのは分かっていても、急所を手にされて、本能的な恐怖を感じてしまう。
その一方で、意識が否応にも乳首に集中してしまい、非常に敏感になっているのが自分でも分かる。
「そういう困った顔が見たくて、理不尽にいじめたくなる」
「その言い方、ずるいですぅ……」
全く弁解にならぬ言い訳をしながら、いじめるのをやめない。
卑怯である。
そんな風に言われては、怒ることができないではないか。
「では、リクエストを聞いてみようかな。胸をどういう風にいじめられるのがいい?」
「どんな…風にって……」
答えようがない。
羞恥心云々以前に、どういう愛撫の仕方があるのかすら分からないのだ。
「………ああ、ごめん」
相手が初めてであったことに気づいて、レオンは素直に謝った。
「なら、優しく苛められるけど凄く気持ちいいのと、全く焦らさないけどその代わり最初から終わりまでかなり気持ちいいのと、どっちがいい?」
「他に、選択肢はないのですか?」
「あるんじゃないかな。今のは僕がしたいことを言っただけだから」
「……にいさま、ちょっと自己中心的ですぅ」
「どうやらルフィーナ君は苛められたいらしい」
触れるだけのキスと共に睦言が終わり、セックスが再開される。
レオンの手が、優しく、じれったいほどに優しく、ルフィーナの胸を揉み始めた。
「ぁ……んっ…く……」
口を閉じ、声を抑えようとしても漏れてしまう。
切ない。
太股をすり合わせても、得られる快楽は満足とはほど遠い。
パンティは粗相をしたかのように湿っていた。股の間が、ぬるぬるとして気持ち悪い。
「………ッ…はぁっ……」
レオンの指が、乳首を弾いた。
ぶるり、と身が震える。だがその先を、レオンはしようとしない。再び優しく胸の上に手を滑らせ、触れるか触れないかの愛撫をする。
せめてキスをしてくれれば、気を紛らわせることもできたのかもしれない。
レオンの愛撫は、気が狂いそうなほどに弱々しく、長い間続けられた。そして弱い愛撫に身体が慣れる寸前を見計らって、一瞬だけれども強い刺激を与えてくれる。
「やだ……」
声は、快楽による疲労と精神的な飢えによってかすれていた。
言葉遣いも、幼くなっている。
レオンに対して、敬語を使う余裕がなかった。
ルフィーナはレオンの背に手を回し、レオンの首筋に顔をうずめた。
女らしくたわわに実った双乳がレオンの胸板でつぶれ、ずれかけていた下着がぽとりと落ちる。
さっきからずっと、レオンのなされるがまま身体を弄ばれ、ぐにゃぐにゃと力が入らない状態だった。それでもルフィーナは、気力を奮い立たせて自ら動いた。
「もっと、ちゃんとして……」
目に涙を溜めながら、哀願する。
男の支配欲が満たされる、至福の瞬間。
いや、至福という表現を使うのは早いであろう。
ルフィーナを、まだ抱いてはいないのだから。
「分かった」
ベッドにうつぶせにさせ、正上位の形に組み敷く。
ルフィーナの胸は重力に逆らい、先端はツンと引っ掻けばこぼれるかと思えるほどに自己主張していた。
そろりと、桜色の部分を舐めあげる。
びくっ
「あんっ」
海老のように、ルフィーナの身体が瞬間的に跳ねた。弱い愛撫によって散々に焦らされた身体は、かすかな刺激にも敏感に反応する。
レオンはくすりと笑った。
「ルフィは感じやすいな」
「だって、にいさまがえっちなことをするから……」
「もともとの素質は大きいと思うよ。だって、こんなに濡れてる」
「むぎゅ…」
レオンが指摘すると、ルフィーナは悔しさと羞恥と情けなさが入り混じった――なんとも言えない顔をした。
大人にやり込められた子供が、言い返したいけど言い返せない、あえて表現するならそんな感じだ。
レオンは頭を撫でてお姫様のご機嫌を伺うと、愛液によって変色したパンティに手をかける。
アイコンタクトが、脱がす側と、脱がされる側とで交わされる。
少しだけ、ルフィーナは脱がせ易いように腰を上げた。
つぅぅ………
愛液が、パンティと股の間で糸を引く。
ルフィーナの身体から出たそれは、粘度が見た目にもわかるほど高かった。
「……………」
羞恥心に耐えかねたのか、ルフィーナは無言で自分の顔を隠した。
ルフィーナの秘部は、年齢のわりに幼く見えた。もちろん、10年前に風呂に入った時よりは成長しているが。
あの当時目にうつったものは、単に縦一本筋が入っているだけであった。ところが今は金色の若草――飾り気と言うに相応しいほど、ほんの少しだけしか生えていない――が芽吹いている。レオンが息を吹きかけると、興奮によって充血しかすかに露出した小陰唇がうごめき、膣の奥から新たな愛液を排出されてくる。かなり、濡れやすい体質らしい。
ルフィーナと違い、これが初めてというわけではないが、レオンは男としてはまだかなり若い。
我慢がきかなくなってきた。
手早く、自分の衣服を脱ぎ捨てる。
がちがちに勃起したモノが飛び出し、モノから脳髄へと伝えられる疼きは、ルフィーナの身体を早く征服しろとレオンの心をせかしている。
「あっ」
ルフィーナの濡れた秘部にモノをそえ、何度か往復させて蜜を絡ませる。
太股の間にもたらされた感触に驚き、自分のそこがどうなっているか見た後、ルフィーナは若干、顔を引きつらせた。
「そ、そそ、そんなものを入れるのですか?」
男の生殖器など、幼い頃のレオンのモノを見たきりだ。だから比較する相手がいるわけでもないが、いざ自分の中に入れられるとなると実際以上に大きく感じてしまう。
それでも、レオンのモノである。嫌悪はない。ないが、自分の身体を引き裂かれる恐怖は当然ある。別荘で”花嫁修業”をさせられていた頃、ほとんど性知識は与えられなかったが、それでも初めては非常に痛いということは聞いていた。
「怖いなら、やめようか?」
「いえ………だいじょーぶです。でも少し………深呼吸をさせてください」
すぅー、はぁー、すぅー、はぁー
呼吸と共に、ルフィーナの胸が上下する。弾力と張りを兼ね備えた若い乳房が、レオンの目の前で上下する。
ふと悪戯心を起こしてしまい、レオンは指でルフィーナの乳首の先をきゅっとつまんだ。
「ぁっぅ!」
驚きと、胸への鋭い刺激とで、ルフィーナが詰まった悲鳴をあげる。
「にいさまぁ……」
潤んだ瞳をして、困ったような、うらめしいような声でレオンを呼ぶ。
こんな可愛らしい顔をされると、さらにいじめたくなるというのに。
「ああ、可愛いなぁ」
抱きしめ、ルフィーナの顔にところ構わず口付ける。
「うにゅ」
今さっき、いきなり胸の先をつまんだことを怒っているんですからね、と目で訴えながらも、キスするごとにルフィーナの表情が自然と緩んでく。
分かりやすい娘だ。
レオンは調子に乗り、ひとさし指でルフィの女の子の部分をいじめることにした。
少女の最も敏感な部分を探り当て、包皮の上から細心の注意を払いつつくにくにと刺激する。
十分に溢れたルフィの蜜によって、レオンの指はすぐにべとべとになった。
膣口全体に広げるように指を動かし、少し、ほんの少しだけ強く、ルフィの陰核をノックする。
「にゃぁっ!」
ルフィーナの腰が浮き、大量の愛液が噴き出した。軽く達してしまったのかもしれない。膣から分泌される液に、白くにごったものが混じっていた。
女の経験が浅いうちは、往々にして身体の外側の快楽の方が内側からもたらされるものよりも強い。
より詳しく言うなら、処女のうちからしばらくは膣内よりも陰核によって快楽を感じるように出来ている。身体に男の異物が何度か挿入され、処女地が蹂躙されるうちに、陰核による快楽が退化し、逆に膣粘膜を刺激されることによる快楽が開発されてゆく。もちろん、始めての挿入でも感じてしまう例外的な女性もいるらしいが。
――閑話休題
レオンは、セックスによってルフィを感じさせられるとは思っていなかった。
おそらく、いやほぼ間違いなく、ルフィはこれが初体験だ。
男だけが気持ちよくなるのは不公平だから、なるべく痛みが和らぐように気を遣う。しかし、気を遣っても痛いものは痛いだろう。血もたぶん出るであろうし、傷口を肉棒で擦られて気持ちいいと思えるわけがない。
もっとも、感じさせる方法はある。
アリエサスの王族の男は、他人の感覚を操る能力を持つ。
レオンには王族の血は一滴すら混じっていないのだが、王族に似た力を備えていた。
彼の持つ魔道の技を用いれば、初体験であろうとなかろうと、脳が認識する限りの凄まじい快楽を与えることはできるだろう。
だがこの時点では、レオンに使うつもりはなかった。
「いくよ」
自分の手をどけ、たぎった剛直の照準をルフィーナの秘部へあわせる。
「はい」
ルフィーナはしっかりと目を開け、レオンのモノと自分の膣とを見た。
怖い、という感覚はあったが、おあずけにつぐおあずけによって恐怖感にはかなり慣れていた。
羞恥心なのか、それとも興奮のためなのか本人にすら分からなかったが、ルフィーナは自分の頬が真っ赤になっているのが分かった。
今はただ、早くレオンに自分の身体を征服して欲しい。
彼のことを、ずっと慕って暮らしていたのだから。
ぐっ………ぷちんっ
「っく!」
身体を引き裂かれ、何か膜のようなものが身体の中で引き裂かれた。
痛い。
痛いが、引き裂かれる痛み自体は一瞬のものだった。
むしろ、自分の身体を埋める肉棒の圧迫感が辛い。
焼いた鉄の棒を挿入されたかと思うほど、継続的な痛みがじんじんとルフィーナの身体を襲っていた。
その反面、頭のどこかで痛みすら心地よく感じている自分がいる。
陳腐な表現だが、心が満たされていた。
「一度、抜こうか?」
気遣いの言葉を嬉しく思いつつも、ルフィーナは首を振った。
「いえ。このままで……」
「分かった」
レオンは言われた通りに、じっとしていた。
ルフィーナとは違った意味で、彼もまたかなり辛かった。
非常に気持ちが良いのだ。
おそらく、処女だからというだけでもなく、強く締めつけ、膣の襞1つ1つがまるで生き物であるかのように絡みついてくる。
加えて、ずくん、ずくんと、互いの心臓が鼓動するごとに血が送り込まれ、微妙な振動が刺激となって伝わってくる。
動いていないうちから、ルフィの身体は素晴らしい快楽を与えてくれた。
この中で存分に動くことができたら、どれほど気持ちよいだろうか。
「う……」
レオンは、歯を食いしばった。
股間のモノはまどろっこしいと主張しているのだが、それでも痛がっているルフィーナをさらに痛がらせるのはレオン的にはどうも――という心理が働いている。
しかし抜くわけにも行かず、またこのまま終わらせてしまうにはあまりにも気持ちよすぎて、レオンは現状を維持した。このまま引き抜いた後、自慰行為で欲望を収めるのも男として非常に情けないというものだ。
「にいさまも痛いんですか?」
「いや、ルフィには悪いけど、気持ちいいんだ。………気持ちよすぎて、ちと辛い」
「気持ちいいのが辛い………ですか?」
「うむ」
「どうすれば辛くなくなりますか?」
「……………」
腰を動かして、射精することができれば。
と、すぐさま答えられない自分が恨めしい。言えば、ルフィーナは自分の望みどおりにしてくれると分かっていたから。
ルフィーナは、そんなレオンをじっと見た。
洞察力を超えた魔道の能力が、王族に生まれついた女には備わっている。
ルフィーナもその例外ではなく、幼い頃から、相手の瞳を見るとほぼ正確に察することができた。
相手が、何を望んでいるのかを。
「こう………ですか?」
たぶんこうして欲しいのだろう、という感性を元に、おずおずと身体をくねらせてみる。
傷口が擦れ、鈍痛がルフィーナの子宮から脳髄へと肉体の悲鳴を伝えてくる。
その中で、微妙にだがむずむずした感覚があった。
「………っ」
予想外の刺激に、レオンは声を抑えた。
男が快楽にもらすあえぎ声など、気持ち悪いだけだと自覚していたから。
ところがその表情に、ルフィーナはがぜんやる気が出てきたようであった。
「にいさま、気持ちいいですか?」
自ら動いたはしたなさを誤魔化すために、問いかける。その問い自体がはしたないものであるということも忘れて。
「ああ、すごくいい」
ルフィーナの動きはぎこちない。だが、彼女は経験不足を補ってあまりあるほどの名器を持っていた。
ただでさえキツい締め付けの中、動くごとにレオンのモノに襞がにゅくにゅくと絡みつき、射精を促してくる。
「嬉しい」
痛みは感じていたが、精神的な充足感に後押しされ、ルフィーナは必死に腰を動かす。
時折、顔をしかめつつも、ルフィーナは微笑んでいた。
「ね………にいさまも、我慢しないで……」
まるで、経験豊富な女のような言葉。
だが、根源に流れるものは微妙に違う。
レオンに気持ちよくなって欲しい。
ルフィーナには、この一念しかない。
なんとなく、声をかけるのが照れくさくて、レオンは身体を動かすことでルフィーナの想いに答えた。
「んっ」
レオンの方から動かした瞬間、ルフィーナが声を漏らす。
上下に突き、引く。膣壁をこするように回転もさせる。
レオンはまだルフィーナを気遣う余裕があり、動きはこなれてはいるが速い動作ではなかった。
「ぅあ………」
ルフィーナの口から、苦痛とも悦びとも取れる声が断続的に聞こえてくる。
血と、愛液が混じった液の中、にゅくにゅくとルフィーナの襞がレオンのモノに絡みついていた。
彼のモノにぴったりと吸い付き、締め付けてくる。
限界を感じるまで、長い時間は必要としなかった。
「くっ」
慌てて引き抜く。
びくん、びくん、びくん、と肉棒が爆ぜ、白濁が勢いよく放出された。
ルフィーナの下腹から、胸にかけてまでの広範囲が白く汚れる。
「はぁ……」
数秒間、放心した状態で、ルフィーナはレオンをそんな見上げていた。
レオンの様子から、気持ちよくなってくれたらしいことが分かり、何となく自分が誇らしくなる。
「にゅ……?」
ルフィーナは、不思議そうな顔をして自分の胸にかかったものをすくい、まじまじと見つめた。
性知識がかなり不足しているのだろう、男が気持ちよい時に出したそれが何であるのか、全く分かっていないようだった。
「………すまん。汚してしまった」
「…これは、汚いものなのですか?」
目をぱちくりとしながら、ルフィーナはレオンに問うた。
「……それが女の子のそこに注がれると、赤ちゃんが出来たり出来なかったりする。汚いか汚くないかは分からないが、男にとってはあんまり綺麗なモンじゃないことは確かだ」
「なんと」
時間と共に、ゲルから液体へと変わり始めたレオンの精子を、ルフィーナは熱のこもった瞳で見つめた。
「にいさまの赤ちゃんかぁ……」
「子供を作るのは、結婚してからでも遅くはないと思うが」
苦笑してレオンが言うと、ルフィーナはゆっくりと頷いた。
とはいえ、話は聞こえていなかった。
「赤ちゃん……私と、にいさまの………」
心、ここにあらず。
言わずと知れているが、ルフィーナは王女である。
いずれ誰かと結婚し、赤子を産むのが王族に生まれついた女の仕事であり、最高の到達点だという価値観を植えつけられて育ってきた。
だからルフィーナには、市政の一般人よりもさらに大きな、子供を産むことへの感慨がある。
身も知らぬ男の子供を身ごもるなど吐き気がすることこの上ないが、相手がレオンの子供ともなれば、想像するだけで十分にルフィーナをトリップさせてくれた。
「……………」
なんとも、形容しがたい生暖かい気分になり、レオンは無言でベッドの傍に備え付けられているタオルを取った。
未だあちらの世界を彷徨っているままの、ルフィーナの身体をぬぐってやる。
男はアホだと、常々レオンは思っていたのだが。
別なところで、女もアホであるのかもしれない。
***
精液と破瓜の血と、ルフィ自身の体液で汚れた少女の肢体をぬぐう。
ルフィはまだ、ぽーっと視線をうつろにさせていた。
「それにしても」
いい身体をしている。
身体を目当てに惚れたわけではないが、かといって魅惑的な裸体を前に欲を抱かないわけではない。さきほど射精したわけだが、それを差し引いてもまだ体力的にも限界というわけではなかったし。
始めは汚れをふき取るともりだったが、知らぬうちに手つきが撫で回すようなものに変わっていた。
ルフィの綺麗な金の髪を手の中に収め、毛の先をブラシのように束ねてルフィの身体をくすぐる。
へそから北上し、胸のラインをさわさわとなぞった後、円を描くように胸の頂へと移動してゆく。
「ぁ……んきゅ………」
髪の毛がさわさわとなぞるごとにルフィは悶え、時折小さなあえぎ声が漏れる。それでもまだ、ルフィはあちらの世界から戻ってはこなかった。
その顔がとても可愛くて、身体を綺麗にしてやるという当初の目標も忘れ、僕はしばらくルフィの身体をくすぐることに熱中した。
すると。
「………にいさま」
いつ頃から気づいたのか、ルフィは僕をじとっとした目で見ていた。
「手つきがエッチです」
「うむ。ルフィがエッチな身体をしているからだ」
「……むぅ」
開き直って言うと、軽くはたかれてしまった。
いかんな。
あまり良くない傾向である。
お兄ちゃんは、反抗するような妹に育てた覚えはない。もっともルフィとは別々の暮らしだったので、育てられた覚えもなかろうが。
というわけで、教育的な指導をくれてやることにする。
「ルフィ、目を閉じて」
「…? はい」
首を傾げつつ、素直に目を閉じるルフィ。
唇を重ね合わせ、両腕を掴む。
逃げることができないように。
「ルフィはまだ、気持ちよくなってないだろ?」
破瓜の後、処女肉をえぐられた痛みのせいで、ルフィは達することができぬまま快楽の熱が引いていた。
それでは不公平だ。
僕だけ気持ちよいのは、申し訳ない。
……後で思い返してみると、この時の僕は明らかにおかしかった。
小さな目的に執着し、視野が狭くなっていた。
気づくと僕は、ルフィに魔道の技を用いていた。
「目を開けて。僕の目をじっと見て」
気を、中心に集わせる。
ここで言う中心とは、心の中点という意味。
気を中心に集わせるとは、集中するということ。
精神をある1点へと定め、意志を練り上げていく。
身体の力を抜き、呼吸をゆるく、深くして。
ルフィの瞳を捉える。
「今から僕が数を数えるから、その数に合わせて、ゆっくりと呼吸してみて。そうすると、すごく安心して、力が抜けていくから」
「は………い」
ルフィの瞳孔は開き、普段、蒼い虹彩に占領されていた部分を黒い部分が侵食していた。
瞳に意志の光は消え失せ、虚ろな視線を僕に返している。
「いーち、にーい、さーん、しーい………」
僕の声と共にルフィの肩が上下し、ルフィは言われた通りに呼吸を繰り返す。
数えるごとに、すぅ、とルフィから力が抜けてゆく。
僕を抱き返そうとしていた腕がくてんと下に落ち、指先は筋肉が本来持つ引っ張り力に従い、微妙に曲がった状態になった。
己の瞳に意識を集中させ、その視線を相手の瞳に注ぐことにより、相手の思考力を奪う。
思考力を奪われた相手は、精神的に全くの無防備になる。
つまり、暗示が効きやすくなる。
この能力を手に入れたのは、記憶から逆算するにルフィ、リスフィと出会った直後のことらしい。
王侯暮らしというのは奇麗事では済まないため、師であるサリアの指導の下、能力を磨いた。
使う理由はたいてい自衛のためであったが、個人的な欲望を満たす為に使ったことも何度かある。
レミカを壊した時や、今、この時のように。
「きゅーう、じゅーう」
そこで数えることを中断し、ルフィの脱力具合を確かめてから、暗示の言葉を刷り込む。
ルフィの身体はどこもかしこもふにゃふにゃになっていて、意識があるうちならば返ってくるはずの力は、面白いほどに吸収された。
脱力させることそれ自体には、あまり意味があるわけではない。
ただ、人間というものはリラックスした状態のとき、他人の言葉を受け入れやすくなる。
今までのやりとりで、その素地を創り上げたというわけだ。
「僕が次に数を数え始めると、ルフィから抜けた力が元に戻る。その代わり、僕が数えるごとに、ルフィは身体の全部が敏感になって、僕に触られるととても気持ちよくなってくる。僕に触られない時も、僕がキスしたり、胸やルフィの大事なところをいじめた時みたいに、とても気持ちよくなってくる。この感覚は、僕が手を叩くまで続く。手を叩いたら、ルフィは元に戻る」
「はい………ルフィはにいさまが数を数えるごとに、ルフィは全身が敏感になって、にいさまに触られるとすごく感じます。にいさまに触られない時も、エッチなことをされた時みたいに、とっても気持ちよくなります。にいさまが手を叩くと、ふだんの私に戻ります」
虚ろな瞳で、抑揚のない声で言う。
それでも、ルフィは僕の言った言葉を自分なりに解釈し、判断している。
僕の言った言葉をオウムのように返さず、ほぼ同じ意味の言葉を返したのその証拠だ。
当然だ。思考力を完全に奪ったわけではないのだから。
だから、上で言った複雑な暗示にも、きちんと自分で考え、従うことができる。
「いくよ。じゅーいち、じゅーに、じゅーさん、じゅーよん………」
「…あっ………や………ふぁ……んっ……」
ぴくん、ぴくん、とルフィは、身体を小刻みに震わせ、身悶えた。
「じゅーろく、じゅーしち、じゅーはち………」
ゆっくりと数えながら、ルフィのサラサラとした髪を優しく撫でる。
何度触っても、いい手触りだ。
「に、にいさま…っ、ん……変………変なの…っ…あたま、が………」
おかしくなる、とでも続いたのだろうか。
自分自身から出る快楽の声にかき消され、ルフィはそれ以上意味を持った言葉を紡ぐことが出来なかった。
僕はルフィの頭から手を離し、頬を指先で文字を描くようになぞる。
ルフィは襲ってくる快楽の波に耐えるように、小刻みに震えた。
「力を抜いて、楽しむといい」
20までで、僕は数えることをやめた。
レミカを壊したことで研ぎ澄ました勘が、働いたのかもしれない。
これ以上の深入りは危険だと、頭の冷静な部分が囁いた。
実際、ルフィの頬は薔薇の色に染まり、僕の指が唇をそっとなぞるだけで、
「んきゅっ」
くぐもった声を出し、愛液がにじみ出る。
多量に分泌されたルフィのシーツが、まるで粗相をしたかのように円形のシミを形作っている。
ルフィは、快楽のあえぎの合間に呼吸をしながら、救いを求めるかのように僕に瞳を投げかけた。
舌を伸ばし、胸にある桜色の頂点をそろりと舐める。
「ふぁっ」
ルフィは反射的に手を伸ばし、僕の頭を抱きかかえるような体勢になった。
顔が、ほどよく育ったルフィの胸に押し付けられる。
乳首を、甘噛みした。
「~~~っ」
もはや声にもならない声をあげ、ルフィは胸を突き出すように大きく背後にのけぞった。
かなり、大きな波を迎えたのだろう。
数秒の間、僕が胸をもてあそぶ刺激にも反応せず、ルフィは放心したていで僕をぼんやりと見ていた。
しかしながら、ルフィにとってはきっと迷惑であろうことに、僕もまた火がついてしまっていた。
正上位から、2度目の挿入をする。
じゅく………と
水音が鳴り、僕のモノがルフィの膣へと沈んでゆく。
さすがに1度目よりは若干マシであったものの、侵入はすんなりとはいかなかった。十分に濡れそぼり、また暗示の効果であるのかほぐれてもいるが、構造自体が小さめなつくりで、容赦なく締め付けてくる。
「……ぃ…さま……」
ルフィが、目尻を涙で濡らし、僕へと手を伸ばす。
その手をぎゅっと掴むと、ルフィは安心したかのように微笑んだ。
唇、頬、首筋、まぶた、ところ構わずキスの雨を降らせながら、抜き差しをする。
「あ、ん………ふあっ、あふ……」
ルフィはあえぎながらも、僕の動きに追随するように腰を動かした。
声に、苦痛の色はない。自分の気持ちよいところを探るかのように、ルフィは僕の動きを追いかけ、快楽に身体を震わせる。
何度も往復させる。先ほど一回出していなければ、確実に耐えられなかっただろう。
だが、抜き差しを繰り返すうちに、限界は確実に近づいてゆく。
対して、挿入してからルフィはずっと、軽い絶頂を感じているようだった。膣内が、射精を促すように蠕動を繰り返し、僕のモノを。
あと数回の往復が限度だろう、自分自身をそう計った時、ルフィの身体の中で、何か他のところとは感触が違う部分があることに気づいた。
気になり、エラの部分を使って、擦りたてる。
「んああああああっ」
ルフィは、一際大きな喘ぎ声を出し、身体をのけぞらせてブリッジの体勢になた。
腰が密着し、ルフィの奥に当たる。予想外の刺激が僕を襲う。
「……………っ!」
やばい。
限界が来た。
と思ったのとほぼ同時に、僕はモノを引き抜いた。
2度目とは思えぬほどの量と、濃さをともなった精子が、醜悪なモノから放出される。
それは放射線を描き、再び、ルフィの身体を白く汚した。
***
手を叩き、暗示をといても、しばらくの間ルフィは呆けていた。
「ルフィ、……ルフィ?」
ぺちぺちと、頬を軽く叩く。
「うにゅ」
鋭い声を発し、ルフィはむにむにと自分の頬をさすった。
それから僕をじぃぃっと見つめ、みるみるうちに目に涙を溜めた。
「にいさまぁ」
力の限り、抱きつかれる。とはいえ今まで室内で大切に育ててこられた女の力なので、苦しくはなかった。
「身体がおかしくなって、気持ちよすぎて、身体がバラバラになりそうで、凄く怖かったです……」
ややおかしな言葉遣いでまくし立てると、そのまま、泣き出してしまった。
「すまん」
やりすぎてしまったようだった。確かに、セックスを覚えたばかりで文字通り、気が狂う手前の快楽を味あわされれば、気持ちよさよりも恐怖を覚えるのは当然なのかもしれない。
落ち着かせるように軽く背中を叩き、髪を梳くように撫でる。
「…………」
やがて、涙が止まったかと思うと、ルフィはすぅすぅと寝息を立てていた。
悪い意味ではなく、お姫様らしいと思う。
まだ夜明けには時間がある。一度、抱きしめていた身体を離し、寝付かせようとした。
と、まだルフィの身体についた、自分の体液をぬぐっていないことに気づいた。
身体を離すと、案の定、ぬるぬると気持ちの悪い精子がべっとりとついている。
ルフィに抱きつかれたために、僕の腹も自分の出したモノで汚れていた。
「あはは」
そんな情けなさが可笑しくなり、僕は少しだけ笑うと、タオルに手を伸ばした。
自分の身体をぬぐい、次いでルフィを起こさないように注意しながら、汚れを取り払ってゆく。
仕上げに、ルフィの肩にまで布団をかけた。
「ふぅ」
ひと仕事終えて、思わずため息が漏れた。
どさり、と身を預けるように僕はベッドにうつぶせになった。
さすがに、疲れた。
相手が初めてなだけに手加減はしたつもりだが、最後はほとんど欲望のままに進めていた。ここのところ女肉に溺れることを自省し続けた反動があったかもしれない。
なんとなく視線を横に向けると、ルフィは腰の抜けた身体を動かし、ベッドの上を這って僕のすぐ傍らにまで近づいていた。
起こしてしまったらしい。
「ちゅ」
僕の頬に口付けし、そのままルフィは胸を肘のあたりに押し付けるように僕に寄り添う。
その仕草、温もり、表情がどれも愛しく、愛しさに突き動かされるように頭を撫でていた。
「ああ……いいなぁ……こーいうの」
と、ルフィ。
日向ぼっこ中の猫のように目を細めて、うにゃうにゃとつぶやくように言う。
まどろみかけた瞳の焦点を、僕に合わせた。
「ね………出会ったばかりのころのこと、覚えていますか?」
「うん?」
「初めてでした」
と、そこで言葉を切り、表情を隠すかのように僕の胸に顔をうずめる。
「人を殺したいと思ったのは、にいさまが初めてでした」
「………ああ」
当時の”事件”を思い出し、僕はただただ苦笑するしかなかった。
出会った頃、僕はルフィに――正確にはルフィに命令された護衛騎士に――鼻の骨を折られたことがある。今は亡きルフィの姉、エイフィーナがいなければ、”無礼打ち”という名目でそのまま殺されていたかもしれない。
当時、ルフィ、リスフィは王女で、僕は死にかけた乞食だった。
だから当然、身分の差に伴って様々な偏見と、明らかな差別があった。
「でも仲直りして…………それから、にいさま以外には考えられなくなっていって………」
僕に抱きつく腕に微かに力を込めて、うっとりと言う。
今、彼女が僕に抱く思慕も、かつて僕に抱いた殺意や憎しみも、どちらも嘘ではない。
仲直り
そのたった3文字の言葉の中に、僕らが争い、憎しみ、そしてその中でお互いを知っていった濃密な時間が横たわっている。
「私は、イヤな女だったでしょう?」
じわり………と。
ルフィの目に、みるみるうちに涙が溜まっていった。
僕はルフィの目尻にキスをし、口こぼれそうになった涙をぬぐう。
「僕だってイヤな男だっただろう。でも、今は間違いなく、ルフィを愛してる」
なんのてらいもなく、僕は自然にくさい言葉をかけていた。
頭に手を回し、砂金でできたかのような髪を優しくなでると、ルフィはぎこちなく微笑んだ。
「大好き……」
ルフィはぷにぷにとした頬を、僕の頬にこすりつける。
しばらく、かなり長い間、そうしていた。
胸に何か熱いものがこみ上げてくる。
嬉しいのに、嬉しさが募るほどに胸がむかつく。
それは、浮気をした自分に対する嫌悪感。
僕は、大きく息を吐き出した。
「僕は浮気者だぜ」
最悪のタイミングを見計らったかのように、僕は口に出していた。
ルフィの心の傷を利用して慰め、好意を抱かせるやり方に我ながら吐き気がしていたせいかもしれない。
そしてそれ以上に、レミカのことが心にわだかまっている。
遊びで付き合った女ではない。
だから余計に、タチが悪い。
ルフィはずっと僕のことを考えていてくれた。
その間、僕は何をしていたのだろう。
「………。にいさま」
静かに、諭すような声音で、ルフィは僕を呼んだ。
うっとりした表情は収まり、凛とした顔がそこにあった。
「それは、お気になさることではありません。他の女性とのことなど、私には関係ありませんから。もしも本当に我慢できないことならば……にいさまを殺して私も死んでいます」
「……………」
どう答えればよいか分からず、沈黙した。
下手なことを言えば、本当に殺されかねない。
ルフィの瞳が、僕に剣呑な光を向けていた。
僕らが、出会ったばかりの頃のように。
「なんて、冗談ですよぅ」
うふふ、と表情を和らげ、また微笑を浮かべる。しかし目だけは、相変わらず笑っていなかった。
「にいさまは、にいさまのお好きなようになさって下さい。私が何かを強要しても、本当にしたくないことならばしないでしょう? ならば、早いうちにぶちまけた方が、お互いに傷がつかないはずです」
「簡単に割り切るような男は嫌いだろう?」
「いえ。それよりも、愛しい人がうじうじする姿なんて、見ていて楽しくはありませんから」
ルフィは自分の金の髪を指に巻きつけ、その指を胸の上に滑らせた。
「でも、もしも私がにいさまを嫌うかもしれない、なんて考えに取り付かれたのなら………」
ルフィは僕の口はしに、自分の唇をつけた。
「私を支配して、にいさまの色で私の全てを染めてください。……にいさまが傍にいるのなら、それだけで私は幸せですから」
< 続く >