ドールメイカー・カンパニー3 第2幕(4)

(4)美咲の誤算(後編)

「わっ・・・凄いっ。もう効いてきたよっ」

 若い男のその声が、美咲が最初に耳にした言葉だった。
 ボンヤリしていたのはホンの一瞬である。
 すぐに事態を思い出すと、美咲はパッと目を見開いた。

「こんばんわっ。大丈夫ですか?体」

 目の前で見た事のない男が美咲を顔を覗き込んでいる。
 美咲はその顔をしっかりと記憶に刻みつけながら、ゆっくりと体を起こした。
 そして自分の体を確認するように動かしてみる。
 すると両手が後ろで拘束されている事にはすぐに気付いた。
 両足も一纏めにして括られている。
 けれどどちらも素人くさい縛り方であり、美咲にとっては縄抜け可能なものだった。
 後はタイミング次第である。

「誰?私、どうして縛られてるの?」

 美咲はだから混乱したふりをして相手の出方を探った。
 しかし目の前の男の答えは、そんな美咲の目論見を吹き飛ばしてしまうほど衝撃だった。

「僕?“きつね”っていいます。諒子達2人のご主人様ってとこかな」

 呆れるほど呆気なく男は、“きつね”くんはそう答えたのだ。
 思わず目を見張った美咲は、そのリアクションでもう誤魔化しは効かない事を覚悟した。

「で、貴女はどなたでしょう?」

 ソファのローテーブルに腰掛けた“きつね”くんは、面白そうに美咲を見詰めて訊く。
 けれど、その苦労知らずのボンボンのような若い男の顔を見返した美咲は、内心拍子抜けした気分だった。
 蘭子を手玉にとった相手だと聞いていたので警戒をしていたが、これでは只のチンピラだと思ったのだ。

「私?夕日生命の雪野っていいます」

 美咲はだからシレッとした口調でそう返したのである。

「保険をお勧めにお邪魔したんですけど、いきなりそちらの方に酷い事されてしまって」
「あら?最近の外交員はお客さんを昏倒させてから説明するって訳なの?」

 “きつね”くんの背後に立った諒子は冷たい視線のまま美咲を見据えて言った。

「妹さんの事ね?なんだか気分が悪そうでしたから、きっと私の説明を聞きながら寝てしまったんじゃないかしら?」

 美咲は諒子を挑発するように言った。
 美咲の中では目の前の“きつね”くんより、諒子の方がよっぽど厄介な相手なのである。
 さっきの体術は教官クラスをも超えていると思っていた。
 脱出するには、だから諒子を怒らせて隙をつくしかないというのが美咲の考えである。
 しかし、その諒子は美咲の挑発など歯牙にも掛けず、背後から“きつね”くんの体を抱きしめると、その耳に囁くように言った。

「あんな事、言ってますよぉ・・・したたかですわぁ。私じゃ一晩かかってもきっと埒が明きませんわ」
「それって、僕にさっさと片づけろって言ってる?」
「えぇ?とんでもないですぅ!ただ、私の手に負える相手じゃないなぁ・・って」

 にっこりと微笑み、諒子は上目遣いで“きつね”くんの瞳を覗き込んだ。
 普段の真面目一筋の諒子を知っている者には信じられない媚態である。
 どんな男でもこの笑顔の為なら喜んでその身を差し出すだろう。
 悔しいが美咲の目にもその引力は明らかだった。
 しかし、逆に美咲はこの1シーンで諒子のウィークポイントを悟った。
 どうすれば挑発出来るかは一目瞭然である。

「何、ぐずぐず言ってんだかっ!男を嗾けて様子を見ようって魂胆でしょっ?ぅわぁ・・陰険っ」

 美咲は肩を竦めるようにしながらそう言った。
 すると、途端に諒子の目つきが変わった。

「なんですってっ!!」

 その瞳から稲妻が迸りそうな迫力である。

「あっ、あたしがっ、“きつね”さまをっ?この・・・私が?・・・」

 言葉はそれ以上続かなかった。
 代わりに特殊警棒を引き延ばす音が美咲の耳に届いた。
 効果覿面・・・といえるだろう。
 しかし明らかに美咲の予想以上だった。
 まるで中身が入れ替わったように、諒子の瞳には冷たい氷の意志が現れている。
 それはこの熾烈な世界に身を置いている美咲をして初めて目にするほどの圧倒的な迫力だった。

 (な・・・何なんだっ・・この女っ)

 美咲は一睨みで完全に呑まれてしまった。
 まさに『蛇に睨まれた蛙』状態である。
 もしも諒子が真剣を持っていれば、素直に首を差し出すしかなかった。
 けれど、意外にもその美咲を救ったのは、“きつね”くんだった。

「ちょっと、諒子ぉっ!ダメでしょ、そんなに簡単に相手の挑発に乗っちゃ。ホント、キミは生真面目なんだからっ」

 “きつね”くんはそう言って諒子の尻をポンと叩く。
 するとたったそれだけで氷の女神がビックリするほど動揺した。
 まるで空気が漏れるように張りつめた諒子の気力がみるみる萎んでいく。
 そして一瞬にして叱られた小学生のようにしょんぼりして俯いたのだった。

「ご免なさい・・・」

 口調まで幼くなっている。
 そんな諒子に“きつね”くんは軽く微笑んで言った。

「このお姉さんには僕が事情を訊いておくよ」

 そして美咲に向き直る。
 一方、美咲も相手が“きつね”くんであれば勝機があると踏んでいるので、この展開は願ったり叶ったりだった。
 極度の緊張が一気に解消される。
 そしてその心の間隙を狙いすましたように、“きつね”くんの言葉がその時美咲の耳に届いたのだった。

「さぁ、目が離せない・・・」

 何気ない、呟くような声である。
 しかし美咲はこの瞬間、驚愕に体を強張らせた。
 まるで吸い寄せられるように、目が“きつね”くんの瞳に引き寄せられるのだ。

 (こいつっ!)

 自分の油断を美咲は悔やんだ。
 蘭子とためを張る催眠術師というレポートに嘘はなかったのだ。
 物凄い引力を美咲は感じた。
 しかし・・・

 (大丈夫っ!この程度の催眠なら私は耐えられる筈っ!抗催眠試薬は伊達じゃないんですからねっ)

 美咲は気力を振り絞ってその視線を逸らそうとする。
 強く引きつけられるその瞳を強引に引き離すのだ。

「へぇ・・・驚いたっ。それって訓練?それとも何か薬でも使ってるわけ?」

 美咲のその反応に一番目を輝かせたのは、瞳を覗き込んでいたその“きつね”くん本人である。
 興味津々の口調だが、それもその筈だった。
 明らかに普通の反応ではないのだ。
 そもそも“きつね”くんが相手の瞳を覗き込むのは、別に催眠光線を出して暗示に掛ける為ではない。
 視線の僅かな動きで自分の意思を伝え、また相手のリアクションを読むためなのである。
 けれど美咲のその視線の動きはまるでタールに浸かっているように重たげな動きなのだ。
 普通のリズムで催眠に引き込もうとしてもまるでタイミングが合わないだろう。
 ちょうど磨り減った歯車のように言葉が上滑りしてしまうのである。

「お前のっ・・・お前の催眠など通用しないのだよっ。お判りっ?」

 “きつね”くんの言葉に薬の効果を確信した美咲は、勝ち誇ったように宣言する。
 けれど“きつね”くんは、そんな美咲の言葉など何も聞いていないように、その瞳を再び覗き込んだ。
 まるで新しいゲームを買い与えられた子供のように、ワクワクするような視線が美咲の脳裏に注がれるのである。
 しかし美咲は瞳に力を込めてその視線を跳ね返した。

 (馬鹿な奴・・・薬はもう完璧なのよ。付け焼刃の工夫など何の役にも立たないわっ)

 ジッと瞳を覗き込む相手が哀れに思えた。
 所詮、専用に開発された薬品に勝てる訳がないのだ。
 けれどその思いと同時に、『不意』にひとつのアイディアが浮かんだ。

 (そうだわ・・・いっそのこと、掛かった振りをしようかしら。これならあの女の油断もつける)
 “きつね”くんの淡く光る瞳をジッと見上げながら、美咲はそう考えていた。

 (そうだわ、だったらもっと相手に付き合わないと・・・掛かったように反応しないと・・・)
 (もっとリラックスが必要ね・・・弛緩させるの・・・だらしないほど)
 (ゆっくりと息を吸って・・・そう・・・またゆっくりと吐くのよ)
 (ほ~らぁ・・・私は段々催眠に掛かった『ふり』が出来てきた・・・)
 (体が段々温まってくるわ・・・体が軽くなる・・・まるで雲の上にいるみたいに)
 (ほ~ら、体から力が抜けるわ・・・段々催眠に掛かった『ふり』が上手くなってくる)
 (三つ数えましょ・・・そうすれば私は完全に催眠に掛かった『ふり』を完成できる)
 (さぁ、・・・1・・2・・3っ)

 美咲は心の中で3つ数え、そして満足そうに微笑んだ。
 そして“きつね”くんもまた、その笑顔を覗き込み小さく微笑んだのだった。

「お見事です、ご主人様」

 ゆっくりと体を起こした“きつね”くんに諒子が横から労う。
 けれどニッコリと微笑む“きつね”くんから、意外なセリフが出た。

「うん、ありがと。でもね、残念ながらこの人は催眠に掛からなかったんだよ」

 そして美咲に向き直ると、改めて訊いた。

「ね、そうなんでしょ?」

 すると美咲は夢見るような口調でそれに答えたのだった。

「・・・えぇ・・・わたしは・・・催眠に掛かった・・『ふり』をしています・・・どんな命令にも・・・従います・・・『ふり』がばれない・・ように」
「ね?」

 “きつね”くんは諒子を振り向いてパチッとウィンクしたのだった。

 美咲は有頂天だった。
 遂に目の上のたんこぶのような存在だった催眠に打ち勝ったのだ。

 (馬鹿な奴っ。私が演技しているのも見破れないなんてっ)

「さぁ、裸になろう。キミは催眠に掛かってるんだから僕の言葉には全部従う筈だよね」

 (そう、私は催眠に掛かっていないから、ばれないようにこの男の言葉には全部従わなきゃ)

 理知的な人間ほど、理屈がとおってしまえば余計な事は考えない。
 美咲は何の躊躇いもなく全裸になった。
 メガネ越しにトロンとした眼差しが色っぽい。

「うん、いいスタイルだ。さぁ、足を大きく開いてみようか」

 (そうね、足を大きく開いてこの人にアソコを見せれば信用されるわ)

「自分の指で開いてごらん」

 (いいわぁ・・・こっ、こんな所まで見せれば、絶対に信用されるっ)

 開ききった肉の割れ目に“きつね”くんの指がゆっくりと沈められる。
 そこから美咲の脳に突き抜けるような快感が走った。

「あうっ・・・んっ」

 トロッと熱い粘液が湧き出てくる。
 信じられない快感だった。

「催眠に掛かってなかったら敵の愛撫でこんなに乱れる訳ないよね?」

 上気した美咲の顔を見上げながら、“きつね”くんはニヤッと笑う。

 (そ、そうよっ・・・バレないためには、私はもっと感じるのっ!もっともっと感じるわっ!)

 まるで堰を切ったように肉溝の奥から粘り気のある粘液が溢れ出す。
 “きつね”くんはそれを指先で掬い陰唇にゆっくりとまぶしていく。
 すると忽ち濡れ光る淫らなスリットとなり、そしてそのつなぎ目にプックリと充血した肉の芽が姿を現すのだ。

「さぁ、今度は敵のペニスを愛撫するんだ。催眠に掛かってなきゃ絶対に出来ないよね」

 “きつね”くんはそう言って美咲を跪かせその顔の前に自らの股間を持ってくる。
 すると美咲は、まるで飢えた餓鬼のようにズボンのジッパを引き下ろすと、もどかしげにパンツごとズボンをずり降ろした。
 そして目の前に突き出されている勃起しかかったペニスにむしゃぶりついたのである。
 たっぷりと唾液を載せた舌が肉棒に絡みつく。
 両手で“きつね”くんの太ももを痛いほど掴み、その股間を飲み込むような勢いで吸い込んでいた。

「あんっ、あふぅっ、んんあっ、ああっ、いいっ、ああっ」

 ジュポッ、ジュポッと湿った音が途切れない。
 荒い息が静まらないっ。
 半分ずれたメガネが息で曇っている。
 理知的な表情が蕩けきっていた。

「ああっ、こ、これっ、あぁっ、これっ」
「これが欲しい?」

 夢中で肯く美咲。

「ふぅん・・・さぁて、どうしようかなぁ?もしもキミが催眠に掛かってなかったら入れた途端にキミの仲間に撃たれちゃうかもしれないしぃ」
「だ、大丈夫っ・・・私、掛かってるから、貴方の催眠の虜だからっ」
「え~っ?なんだか信用できないなぁ。きっと向かいのビルから狙撃の準備をしてるんでしょ」
「ちっ、ちがう・・・く、車なのっ、ふ、2人とも」

 思わず毀れた言葉に“きつね”くんは諒子を振り返って小さく肩を竦めた。

「ホントかなぁ・・・じゃぁキミが催眠に掛かってる証拠に何か秘密を教えてもらおうかな」

 自らのペニスを美咲の肉のスリットの間にゆっくりとこすり付けながら“きつね”くんは囁いた。
 それだけで美咲の性感は燃え上がる。
 硬く熱い肉棒を求めて自然に腰が浮き上がった。
 けれど意地悪くその矛先は逸らされる。

 (あぁっ、拙いっ、ひっ、秘密を言わないと、信用されないっ、入れてもらえないっ、でもっ、あぁっ、どうしたらっ)

 催眠で蕩かされた脳の中で、淫欲と打算がモラルと戦っていた。
 するとそこに助け舟を出すように“きつね”くんの言葉が齎される。

「先ずは・・・そう、名前から言ってもらおうか」

 もっと核心的なことを訊かれると思っていた美咲はその問いに救われたように心を開いた。
 モラルの抵抗が瞬時に消え去る。
 淫欲が美咲を支配する。
 頬が上気し、縺れたような舌で言葉を紡ぎだそうとした。
 その時、その一瞬・・・

 “きつね”くんの目が妖しく輝いたのである。

 まるで目には見えぬ光は、しかしその時確かに美咲の脳を焼いた。
 まるで時が止まったかのように美咲の表情が抜け落ちる。
 何かが囁かれた。
 それは確かだ。
 けれどそれはまるで脳を通り過ぎるように消え去った。
 だから美咲にはそれが何であったか、まるで判らなかった。
 そして気付いてみれば、更に増した肉欲がもう脳の全体を支配しようとしていた。

「さ、言ってごらん。キミの名を・・・」

 促す言葉はさながら地獄に下りてきた蜘蛛の糸だ。
 美咲は全てを捨ててそれに縋りついた。

「わ、わたっ、わたっし、の、な、名前はっ、な、名前ぇ」

 言葉に押されるように求める肉棒がスリットに押し付けられる。
 あともう少しだ。

「な、な、名前、名前、なまえっ、えっと、えと、えとえとっ、私、えっと、ちょっと待って、ねぇっ、あれっ、どうしてっ、なんでっ、私、何よっ、えとっ、なんなのっ、何でよっ!!」

 美咲は泣きそうになりながら視線を廻らした。
 けれどどういう訳か自分の名前が浮かんでこなかった。
 今まさに突き入れられようとした肉棒がスッと引かれる。
 覆い被さっていた“きつね”くんが肩を竦めて体を起こした。

「やっぱりキミは催眠に掛かってないんだ」

 爆発しそうなほど淫欲が渦巻いている美咲にとって、それは気が狂いそうな事態だった。

「ち、違うっ、違うのっ、思い出せないのっ、言いたいのに消えてしまったのぉっ」

 美咲は涙をボロボロと溢しながら訴えた。
 目の前の男に縋りつきたかった。
 けれどまるで体に力が入らない。
 まるで人形になったように全身から力が抜けていた。
 そしてそんな美咲の横に“きつね”くんは寝そべって、痛いほど勃起した乳首の先を軽く愛撫していた。
 触るか触らないかの微かな刺激は、しかし美咲の燃え上がった淫欲に無限の飢餓を与え続けているのだ。

「思い出せない・・・か。うん、そうね、確かに偶に名前って出てこないことがあるよね」

 言葉は優しげだが、しかし口調はそっけない。

「それはね、焦って記憶の一番下に『名前』を入れちゃったんだよ。だから他の記憶を掘り起こしてるうちに不意に思い出すと思うよ。ま、時間は有るんだし。そこでゆっくりと思い出してて」

 それだけを言うと、“きつね”くんは無情にもベッドから降りてしまった。
 縋るような視線で美咲はその姿を追う。
 すると途端に殴られたような表情となった。
 全裸の“きつね”くんの前に、まるでビーナスのような美女が同じく全裸で立っていたのだ。
 そして美咲の見詰める目の前で二人は抱き合い、ゆっくりと口付けをした。

「あぁっ、いやぁっ、わ、私のなのっ、私のなのぉっ」

 裸の体を密着させお互いウットリしたような表情で見詰めあう2人に美咲は気が狂うほどの嫉妬を感じる。

「はっ、離れなさいっ、離れるのよぉっ!私のなんだからっ、私の男よっ、盗るんじゃないわよぉっ!」

 けれど2人はまるで聞く耳を持っていないように抱き合っては口づけを続けている。

 (はやく名前を思い出さないとぉ・・・)

 脳裏に囁く声が聞こえた。
 けれど最早それが誰の声であるか判断できない。
 ただ盲目的にその声に導かれ、記憶の再生に突き進む美咲だった。

「記憶、記憶ぅっ、あぁっ、何を思い出せばいいのっ!どうすれば名前を思い出せるのっ」

 (そう、先ずは住所から思い出そうか)

「住所っ!住所は、わっ、判るわっ!と、東京都世田谷区○の○○の8っ」

 (そう、それで名前は思い出せた?)

「な・・・名前っ、名前っ、あぁっ!ダメ、まだダメッ」

 (じゃ、順番に思い出そうか。先ずはここに来た時のこと。誰と来たっけ?)

「誰とっ!ひ、独りよっ、独りで追ってきたのっ!馬鹿でノロマな部下はまだ到着してなかったわっ」

 (そうだね。では部下の名前は?思い出せる?)

「かっ、川瀬っ、それに木之下っ」

 (うん、そのとおりだね。その調子だ・・・)

その脳裏に響く声とともに突然美咲の乳房が握り締められた。

「ひぃ、んはぁぁっ、あ゛~っ」

 気付けばいつの間にか男が美咲のもとに戻ってきていたのだ。
 渦巻く官能のエナジーが男の手によってかき乱される。
 はち切れんばかりの欲望が脳を焼いた。

「あ゛~っ、はやぐっ、はやぐぅ」

 いっぱいに開いた下肢からまるでお漏らしのように濡れ光る粘液が毀れだす。
 そしてその体に待ちに待った男が覆い被さった。
 もう頭は何も考えられない。

 (部下たちは今何処に?)

「くっ、車ぁっ、たぁ~、た、待機っ、ああ゛~っ!!」

 遂に美咲の胎内に熱い肉棒が侵入した。
 そしてそれは期待どおりの、いや期待以上の快感を美咲に植え付けた。

「きぃぃぃいいいいいいいいいいっ」

 子宮を押し上げる力強いストロークに、それだけで美咲の全身は痙攣した。
 絞め殺されるような声とともに両目が見開かれ、大きく開いた口から涎が頬を伝う。
 嘗て経験したことのないレベルの快感が、美咲のあらゆる規範を吹き飛ばすのだ。
 上辺の意識を通り越し、本能のレベルに“きつね”くんへの恭順が植えつけられる。
 体中の細胞に性の欲望を植えつけたのだ。

 (部下とは手筈を決めていたよね。何だったかな?)

「ひぃっ、とっ、突入っ、1時間っ、連絡つかないとぉ、突入ぅっ!!」

 脳が煮立つような快感に、美咲の思考は消滅した。
 意地もプライドも何もかも燃え尽き、後に残ったのは唯快感だけを追い求める肉体だけだった。

 準Aクラス・エージェント雪野美咲が自らの肉体に屈した瞬間である・・・。

< つづく >

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