人生における無上の幸福は、自分が愛されているという確信である。 by ユーゴー
第一幕 「現世 ウツシヨ」
この時期、朝は冷えこむ。
午前6時前―――。
習慣でこの時間には目が覚め、目覚し時計を止める。
カーテンからもれる朝日。
新調した枕。
この世の誰よりも恋しいベッドの温もりが、私を放そうとしてくれない。
ん~~~、たまらないね。
布団の外がシベリアか何処かだとするなら、布団の中はさしずめハワイだろうか。
いやいやハワイだと暑すぎるだろう。
とにかく、今この一時が至福という時間なのだ。
一部だけ外気に触れ、肌が締まる感じがする顔をそっと掛け布団に向けてみる。
一見、布団のふくらみは一人分に見えるのだが・・・実はもう一人―――正確には一匹―――この布団の中で綾音と同じ感覚を味わっている者が居る。
綾音は腕をもぞもぞと動かし、それを捜す。
さわ・・・
「居た」
手に柔らかな毛並みが触れる。
綾音はそれを起こさないよう、そっと胸に抱きしめた。
全裸の体にそれの体温が温かく伝わり、一定の間隔で上下しているのが解る。
「うんうん・・・なんて気持ちいいのかしら」
もう少し上の方へ抱き上げると、布団からちょこんとそれの頭が出てきた。
狐である。
銀色の毛並みに包まれ、鼻と耳の先っちょが黒い。閉じた瞼と鼻との間から黒い髭が3対生えていて、呼吸の度に綾音の体をくすぐる。
名前は・・・
「・・・・・・ん・・・」
「・・・おはよ、シコウ」
四番目の妖狐、シコウといった。
綾音の優しいモーニングコールに、シコウはうっすらと目をあける。
「・・・・・・うん・・・おはy」
二度・・・三度と眠い目で瞬きを繰り返すうちに、だんだんと眠気が抜けてゆく。
そして・・・シコウは自分の状況に気がつき、一目散に綾音の胸から逃げ出した。
「きゃっ!」
突然の事に声をあげ、何が起こったのかよく分からなくて、綾音は目を白黒させる。
体を起こして部屋を見渡すと、シコウが勉強机の下で机の柱にもたれかかっていた。
はたから見ても、明らかに落ち込んでいるのが判る。
「ど・・・どうしたの?」
「見られた」
「は?」
人の言葉を発する狐と会話できるという、人生でも指折りのビッグイベントであるのだが、この際どうでもいいことだ。
「この姿・・・見られた」
「えと・・・何か問題でも?」
「唯でさえ綾音には耳と尻尾まで見られていたのに、本性まで見られたぁ!!もうやだぁ!!」
駄々をこねる狐も珍しいと思ったり。
「??・・・え?なんで?」
「だって恥ずかしいじゃないか!好きな人に恥ずかしい姿見られて平然としてられるなんて僕にはできない!!」
今一理解できない。
「ね、ねぇ。どうして恥ずかしいの?」
「普通それを聞きますか?」
「狐の普通なんてわかんないもん」
「・・・デリカシーがない」
「あー!あー!あー!!そういうこと言うんだ。ひどぉ!」
「僕達にとって本性を見せるのは屈辱的なことで、それにッ!・・・・・・・・・毛の色・・・僕だけ銀色なんだ。姉さんたちは金色なのに・・・」
前足で自分の尻尾を器用に撫でるシコウ。
「銀色?」
彼に姉さんがいるっていうのにも驚いたが、それ以上に出会ったときのあの自信の塊みたいなシコウにコンプレックスがあったという方が驚いた。
当のシコウはいまだ部屋の壁の方を向いてうなだれている。まるで影でも背負っているかのようで、火の玉が出てきそうだ。
・・・・・・なんだろう。実におもしろい。
でも、そろそろフォローした方が良いかな?
「・・・・・・格好いいよ」
気分同様にうなだれていたシコウの耳が両方ピンと天に突き立った。
「・・・え?」
ゆっくりと顔をこちらに向ける。
ぱぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!
そんなに嬉しそうな顔してくれなくても・・・
嬉しそうだ。シコウは実に嬉しそうな顔を綾音に向けた。
「銀毛の毛並みなんて、最高にイカスと思うよ?」
あんまり嬉しそうなので、こっちも誉めるのが楽しくなってくる。
「そ、そう・・・かな?」
「うん、私が保証するよ」
「・・・あ、ありがとう。誉めてくれたの・・・綾音が、初めてだ」
「別にそんな・・・前から思っていた感想を、率直に述べたまでです」
ピシッ!!
狐の笑顔が凍った。
「?・・・シコウ?」
「前にも・・・この姿を・・・見た・・・ことが・・・?」
途切れ途切れにそう聞いてくるシコウ。
「え・・・う、うん。昨日の朝に一度。・・・その時も、湯たんぽ気分で抱きしめたり、頬りして肌触りを楽しんだり・・・って、あれ?」
「死のう・・・いっそ」
1207年の人生・・・最大の不覚であった。
彼と彼女が出会ってから4日目の朝だった。
その間、綾音の知らないうちにシコウは忙しく動き回っていたりする。
まずは柴田誠司と言う人間の抹消から。
最初にして最大の問題であり、可及的速やかに事を運ばねばならない。
誠司の家族は母親と弟が一人いる。父親は消防士であったが、消火活動中の事故で他界していた。だが、一人でも家族に欠落があったことは、誠司には悪いが幸いであった。人間の記憶を消すというのは、とにかく妖気を使うからだ。まして肉親ともなれば血の繋がり・・・そうそう消えるものではない。
シコウは柴田家を中心に誠司という記憶を抹消していった。誠司の記憶を無くした人間が他の誠司を知る人間と接触すると、その人間からも誠司は消える。ある種、コンピュータウィルスのようなものを、柴田家の人間に植え込んだのだ。あとは放っておけばいい。じきにこの世から柴田誠司と言う人間は完全に消え失せるだろう。
もちろん、誠司本人の私物や、官公庁等の物理的な存在は直接破棄して回った。
これでシコウの妖気はほぼ空に等しくなってしまったが・・・仕方がない。
そして、それと平行して進めたのが・・・新たな存在の構築。
「何処の馬とも知れない人間が同棲していたら、すぐに怪しまれてしまう。そこからほころびが生じてしまう・・・」
綾音から妖気を補充しつつ、水面下で作業は進んでいった。
そして・・・
「御山・・・四郎?」
「そう、御山綾音の双子の兄」
何だかんだで、いつの間にやら自分に双子の兄が出来上がっていたことを綾音が知ったのは、今日の朝だった。
「・・・・・・」
「あれ?気にいらない?」
食堂のテーブルについている綾音に、シコウが訊いた。
学生服の上にオレンジ色のエプロンをして、綾音の前に手際よく料理を並べていく。
「違うわよ・・・呆れてるの」
「・・・ふむ、じゃあ四郎というネーミングに問題が?シコウだけに四郎というのは安直過ぎたかな?」
「それも違うッ!!」
顎に手を当て唸るシコウに、テーブルを叩きながら綾音は叫んだ。
勢いよく立ち上がったので、目玉焼き隣のたこさんウィンナーが踊っている。
「綾音・・・朝から大声を出すのは良くないと思うよ」
「・・・はぁぁ」
どこか論点のずれている会話に思わず溜め息が漏れた。
「昼間どこかへ出かけてて、帰ってきたかと思えば酷く疲れてて・・・何してるんだろうなぁって思えば、そういうこと?」
「ごめんね。昼間とか気だるかったでしょ。あれさ、実は、僕がちょっと精気を貰過ぎたからなんだ」
今日は月曜日。
直にテストが始まるが、この土日は勉強なんて手につかなかった。
金曜の夜・・・誠司は殺され、綾音は妖狐と出逢った。
次の日は何もする気になれず、ただぼぅっと過ごしていたし、日曜日も似たようなものだった。
「・・・何の話?」
「夜の営みの話」
しかし・・・夜はすることがあった。
シコウが「おいで、綾音」と呼べば、体が反応してしまう。考えただけでも変な気分になり、火照って、そして疼く。別に嫌いな感じではないのだが、どこか後ろめたい。でも抗えない。そのせいか、昨日の晩などは、どっちから求めたのか判らなかった。
「・・・あぅ」
みるみる綾音の顔が赤くなる。もしかしたら湯気が出るかもしれない。
「フッ・・・さて、じゃ、朝ごはんにしよう」
「・・・ぅ、うん!」
シコウはエプロンを取ると綾音の向かいの席に座った。
「いただきます」
「はい、いただきます」
本日の朝食はトースト、ホットミルク、目玉焼きにサラダ。ジャムは苺とマーマレード。
作ったのは誰あろう、シコウである。
妖孤のくせに妙に洋風な朝ごはんだなぁと綾音は思っていた。
トーストに苺ジャムをのせ、口に運ぶ・・・のを、シコウが厳しい目つきで見ている。
「・・・・・・・・はひ?(なに?)」
「・・・おいしい?」
「ん――――・・・」
綾音は目を閉じ、たっぷりと時間をかけて噛んだ後、トーストを飲み込んだ。
「うん・・・おいしいよ」
「そ、そう・・・よかったぁ。初めて作った料理だから自信なくて。というか、そもそもオーブントースターって言うのも始めて使ったし、電子レンジのボタンの多さには覚えるのに苦労したし、電磁調理器は熱が出てるのか見てもわからないから火傷するしで、もう大変でさ。包丁がとても崇高な調理器具に見えてきたよ。いや本当、時代は進んだなぁって思ったね、うん」
「・・・あなた、本当に狐?」
「もちろん!文明の利器は使ってこそその真価を発揮するんだ。道具を使わないなんて猿のする事だね」
「そのわりには、随分とオーソドックスな朝ごはんよね。この料理の何処で電子レンジを使うのかしら?」
「それは・・・アレだよ。たまたま。そう、たまたま」
「・・・・・・プッ、アハハ」
「ほ、本当だよ!!」
とてもゆっくりと・・・そして確かに時間が過ぎてゆく。綾音は久しぶりに、朝ごはんを誰かと一緒に食べる喜びを、少し焦げたトーストと一緒に噛み締めていた。
テーブルにはまだ一つ席が開いている。その席を綾音は遠い目で眺めていた。
「綾音?」
「ん?何?」
「どうかした?」
「え?別に・・・どうもしないけど?」
「そう・・・」
「ところでさ・・・さっきから気になってたんだけど、どうしてうちの男子制服着てるの?」
「フフン、そんなのきまってるじゃない」
キーンコーンカーンコーーーーン・・・
「妖怪って皆こんなにもバイタリティに溢れてるの?」
朝のホームルーム・・・綾音は机に突っ伏していた。
「じゃ、自己紹介な」
「はい!」
クラス担任に促がされ、紺にオレンジのラインがトレードマークの制服に身を包んだ青年が一歩前に出た。
「御山四郎です!今日からお世話になります!!」
黒板に書かれた偽名の前で、シコウは元気よく挨拶した。
「キャ―――ッ!!」
「美形だっ!!」
いわゆる黄色い声が女子から上がった。
無理も無いだろう。
転校生は雑誌でもテレビでもめったに居ないほどの美形なのだ。一見華奢だが、引き締まった筋肉を容易に想像させる均整のとれたフォルム。女性とも取れる中性的な顔立ちに、男子ですら見惚れている。
『歩くフェロモン散布機ね、あれは』
綾音は頬杖をつきながら、照れた表情を浮かべているシコウを眺めていた。
「ンンッ!!では・・・まぁ、なんだ。質問タイムと行きますか」
「質問タイム?」
逆に担任へ質問をする前に、シコウへ矢のような質問がクラス中から飛んできた。
「何処から来たの?」
「えと、インド、ミャンマー、中国と回って日本にきました」
「帰国子女ってやつかよぉ!!」
「趣味は何ですか?」
「国家転覆と不純異性交遊です」
「美しい物には棘があるってことね!」
「特技とかってあります?」
「変装と情報操作、あと詐欺と催眠術です。最近も公文書偽造を実践するなかで、現代の社会情勢とその成り立ちに深く興味を持ち、いつの時代も変わらない高官達の腐った政治に大変魅力を感じました。ここは本当にいい国です」
「犯罪抑止力と経済復興への研究に余念が無い!何て頼もしいんだ!!」
綾音は青筋を立て、絶対に気のせいではない頭痛を感じていた。
『何をいってるのよあのスカポンタンはっ!明らかにおかしいでしょ!!てか、何で誰も疑問に思わないのよ!!どうしてみんなそんなにも心が広くて理解ある人間なの!!そっちの方が理解できないわよ!!』
そんな綾音を置き去りに、質問タイムは続いてゆく。
さっきまで頬杖をしていた右手は、いつのまにか頭を支えていた。彼女に同情してくれるのはペンケースに括り付けられている卵のマスコットキャラクター『ベヘ君』だけらしい。
「じゃあ、じゃあ!!好きな食べ物は何ですか?」
「あぁ、それはもちろん、妹の綾音です!!」
ドキャッ!!
綾音のペンケースがシコウの顔面にクリーンヒットした瞬間、一時限目開始のチャイムが校舎に響き渡った。
「とぉぉぉっても面白いお兄さんだね」
「あーどーもー、ありがとーございますー。」
「もうっ!せっかく褒めてるのに。その態度は何ですか?綾音ちゃん」
ちょっと早めに終った一時限目の後、友人が綾音の周りにやってきた。
「家での姿を知らないからそんなこと言えるのよ」
「そりゃそうよ・・・アイドルは私生活を見せないものなんだから」
「はいはい。・・・で?当のアイドルはここじゃなくてあっちに居るんじゃないの?」
綾音は視線だけシコウの席に向ける。
「あはは、アレに突っ込むのはちょっとね」
シコウの周りにはクラスの女子どころか、近所のクラスの女子までもが殺到していた。男子の姿もチラホラ見受けられる。まるで教えを説くキリストのようだ。違うのはキリスト役の趣味が国家転覆ということだろう。雑音に邪魔されて聞き取れないが、シコウは女子からの質問を律儀に答えていた。
その姿に・・・少し・・・・・・
「ところでさ、あれから妹さんの方は元気してる?」
「え?」
妹―――。
突然の言葉に綾音は心臓を掴まれた気がした。顔から血の気が引いていく。突っ伏していた体を起こして、下を向いてしまった。
「・・・あ、ごめん。聞かないほうが良かった?」
その姿に友人がおたおたと謝罪の言葉を書ける。
「うぅん・・・大丈夫。ちょっと、今は会えないんだけどね」
「そう・・・ぁ、本当、ごめんなさい」
くすっと笑って、綾音は顔をあげた。
「謝る事なんて無いよ、心配してくれてありがとう」
「綾音ちゃん・・・」
昼休みになると、シコウが昼食のお弁当を片手に綾音を屋上へ誘った。
流石にお昼休みまで質問を答えたり、眺められたりするのは勘弁して欲しいらしい。
屋上は普段は締め切りで、天体観測などで教師同伴でないと立入禁止だ。天体観測も夏場は良いが、冬の観測は拷問に近い。遮るものがないため風が吹き晒しなので、もっぱら屋上の天体望遠鏡ドームの中でやるのだが、ともかく、二人だけになるにはうってつけだった。
「それは良いけど・・・寒いね」
「あ、ちょっと待って」
というと、シコウは懐から柏の葉を二枚取り出した。
「はい、これを下に敷いて座ってみて。温かいよ?」
ドーム入り口にある短いコンクリートの階段に柏葉を敷き、その上にシコウは座って見せる。綾音は怪訝な顔を浮かべた。
「おまじないか何か?」
「うん、まさにそれ。おまじない」
「プッ、なにそれ」
シコウに倣って、半信半疑ながらも柏葉の敷かれたシコウの隣に腰掛けた。
「うそ」
頬を触れる風が温かく、腰掛けたコンクリートも冷たくない。春のそよ風といった感じだ。
「すごいすごい!本当に温かい!」
「よかった」
「すごい妖術じゃないですか、旦那」
「じゃあ、今度はこっちも褒めて欲しいな」
と言って、シコウは持ってきたお弁当を広げた。風呂敷に包まれたそれは重箱の本格的なものだった。出汁巻き卵からはじまって、一口コロッケ、煮物、漬物、ポテトサラダにシュウマイまで入っている。尚、ご飯は別の箱に詰められていて、他料理の汁または臭いに侵食されない仕様だ。
「ちょっと・・・凄いじゃない。どうしたのよ、これ?」
「いや、どうしたと言われても、僕が作ったとしか」
「信じられない」
世界の崩壊を知ってしまったような顔で、綾音は妖孤の作ったお弁当を見下ろした。
「だから朝ごはんは本当にたまたまで・・・」
「いただきます」
ヒョイ、パク
「あ」
シコウが言い終わる前に、綾音の手は電光石火のごとく、櫛の刺さった大学芋を口へと運んでいた。外はさっくり、中はふっくら。蜜のたっぷりついた大学芋の甘さが、口いっぱいに広がる。
「これ、おいしい!」
おもわず親指を立て、満面の笑みを返す。綾音のその言葉に、シコウは何もかも報われた気分になった。
「ありがとう、うれしいよ。あ、煮物は作り立てで、まだあんまり味が染みてないんだけど」
「そんな事ないよ、おいしいってば」
これが証拠だと言わんばかりに、綾音は煮物をヒョイヒョイ摘まんでゆく。
ニンジンと里芋の硬さ、竹の子のシャクシャク感、椎茸のしなり具合。どれも一品だと思う。
『ちぇ、私も結構な腕前だと思ってたのにな』
頭と体は別物らしく、そんな事を思ってはいても、箸はどんどん進んでいく。
「はい」
どこからだしたのか、給湯ポットと急須がお弁当の傍に置いてあり、シコウがホット麦茶を差し出した。
「そんなに急がなくても誰も取らないよ。それに、水分も一緒に取らないと消化系に悪い」
「・・・ありがと」
また彼に差をつけられた。綾音はだんだん自分が情けなくなってきた。
自分より料理が上手で、顔も綺麗で、おまけに妖術まで使える。
『相手は妖狐だ。人間の私よりも優れていても、それは仕方のないこと』
そうやって割り切れない部分が、綾音に劣等感を抱かせた。それは人間として、自分よりも大人な相手に抱く感情だ。それこそ、彼は自分よりも年を取っているのだからしょうがないかもしれない。でも、今の彼の肉体は『彼』なのだ。
「かなわないね・・・あなたには」
「ふぇ?何が?」
当の本人はのんびりと春巻きを葉巻のようにくわえている。多分、判っていないだろう。
やめやめ、考えるだけ馬鹿ね。
「別に、なぁぁぁ、痛ッ!」
「どうしたの?」
『なぁぁぁんでもありませんよ』と言おうとしたのだが・・・
「つつつ・・・あぁ、やってしまった」
唇を押さえながら綾音がうめく。
「唇割れちゃった。今日リップ塗るのも、持ってくるのも忘れちゃってて、はぁ、気を付けてたのに。もうやだ」
口を大きく開けたのがまずかったようだ。柏の葉も乾燥した空気まではさえぎってくれなかったらしい。
今日はもう何をしても駄目だ。一日の活力を使い果たしてしまったのか、だんだん自分に自信がなくなってゆく。別に、自分に心酔していたとかそんな事は全くないが、隣に居るこの人と比べると自分がちっぽけに感じられる。
「はぁ・・・」
沈んだ気分がますます重くなり、溜め息になって吐き出された。
「綾音」
「なんですか?」
指先で唇の割れ具合を確かめていた綾音が、呼ばれた方に顔を向けると―――
「んっ!」
唇に触れていた手はどかされて、代わりに最近覚えた感触が唇に訪れた。
それがキスだと気付くのに、随分、時間が掛かった。
身を寄せる様なシコウのキスが、綾音から力を抜いてゆく。
―――だめ、だよ・・・ここ、学校で・・・こんなこと・・・―――
思考回路も停止し、心臓が激しく胸を叩いている。期待感と罪悪感が入り混じった瞳は次第に閉じてゆき、綾音はシコウに抱きつこうと、空いた手を伸ばした・・・が。
スカッ!
「あ、あれ?」
抱きしめるはずの相手はいつの間にか、また自分の弁当を食べ始めていた。
「何してるの?」
フォークに刺したハンバーグを口に入れながら、シコウが不思議なものを見るような目で見ていた。
綾音は空を抱きしめようとしていた自分の情けないポーズに気が付き、顔を真赤に染め上げた。
「あ・・・あはは、あはははははははははっ!なんでもない!なんでもないの!!」
手をバタバタさせながらすぐに姿勢を正して、麦茶を一気飲みする。
『何期待してるのよ、私!そうよ、ここ学校なんだから、いくらシコウでもその辺の分別とか判ってるだろうし。だだだだ、大体ね、キスされたぐらいで直にキス→Hに結びつけるような考え自体が』
「唇、まだ痛い?」
「ブツブツ・・・って、え?」
「く・ち・び・る」
自分のそれをフォークで指すシコウに倣って、綾音も、もう一度唇を触れてみる。
麦茶で湿ったせいか、潤いが戻っている。しかし、それ以前に・・・
「あれ、治ってる?」
少しだけ血も出ていたはずの唇の割れは跡形もなく消え、湯上り時のような弾力を持っていた。間違いない。確かに傷があったはずだ。証拠にさっき触れた指先には血の跡が残っている。
「シコウが治してくれたの?」
「うん、今みたいに体に触れれば、大抵の怪我は治せるよ。まぁ、でも病気はちょっと畑違い。キスで治したのは役得のつもり」
ドクン―――。
『大抵の怪我は治せるよ』
その台詞が綾音の心を鷲掴みにする。そして、同時に彼女の事が頭に浮かんだ。
先ほどとは全く異なる期待が不安と一緒に言葉に現われた。
「それってどんな酷い怪我でも元通りにできるってこと?体の何処でも直せるの?例えば目とか!!」
カラン!
手にしていたカップが地面に落ちた。たった今まで赤面して照れていたとは思えないほどの形相で、シコウの襟を掴み、食って掛かる。
これにはシコウもたじろぐしかなかった。
「ちょっと!落ち着いてよ綾音」
「どうなの?ねぇ、答えて!」
麦茶が入っていたプラスチックのカップが、カコンカコンと、コンクリートの階段を転がっていく。殺風景な屋上がますます寂しく感じられた。
「・・・出来るよ。治すって言うより復元って行った方が適切かもしれない」
「つまり、治せるのね?」
その答えをきいた綾音は、掴んでいたシコウの襟を放し、うつむく。
「綾音・・・どうしたの?」
今日、何度目かの同じ質問。何かを悩んでいる綾音が、シコウには小さく見えた。腰を浮かしたためか、下に敷いていた柏の葉はどこかに飛んで行ってしまったようだ。心なしか、肩が震えている。
・・・見かねたシコウが抱き締めようとしたとき、綾音は呟くように言った。
「お願いがあるの」
綾音は初めて狐に願い事をした。
第二幕 「幽世 カクリヨ」
学校が終わりを告げると、生徒はそれぞれ課外活動へと精を出す。
部活動、生徒会、そして帰宅部―――。
今日の部活には出られないことを同じ部の娘に伝え、そのままシコウと校門を出た。
行き先は、ある総合病院の3階西棟。
「3217号室・・・ここ?」
「うん」
御山綾香・・・そう書かれた個室のネームプレートの前にくるまで、綾音は一言もしゃべらなかった。これからの事を思うと、正直悩んだ。いや、怖かった。
「震えてるよ」
「ッ!」
指摘されるまで気が付かなかった。確かにカタカタ震えている。他の事を考えていたのだから、しょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。
「・・・大丈夫。もう、これ以上綾香と関係が悪くなる事もないし」
「・・・・・・」
「むしろ、スパッと嫌われた方が良いかもしれないしね」
痛々しい。綾音の作り笑いがシコウには重い。
「・・・そう。綾音がそれで良いなら、何も言わない」
コンコン・・・
病室の扉を叩いた、乾いた音が綾音に覚悟を決めさせる。唾を飲み込んでドアノブを回し、扉を開けた。
「・・・・・・」
何かを言うでもなく、綾音は病室に足を踏み入れた。
続いてシコウも中へと入る。・・・・・・窓から差し込んだ夕日が、ベッドの上の少女を照らしていた。
この病室の主、御山綾香。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言、静寂、沈黙・・・。
扉を閉めたシコウだけが物珍しそうに病室を見回している。ドアの向かいにはベッドをはさんで窓があり、照明はまだついていない。部屋にはベッドとパイプ椅子が一つ。あとはカーテンがあるくらいだ。
「何しに来たの?」
「あっ、わかった?」
「馬鹿にしてるつもり?私を」
「ち、違う!・・・ごめん、そんなつもりじゃなくて」
「どうだか」
それっきり、また病室を静寂が包む。
深山綾香・・・彼女は目に一生消えない傷を負って、包帯が顔を何周もしていた。
「あ、あのね・・・綾香」
「・・・・・・」
「今日はね、あなたの目を治しに来たの」
「・・・・・・あぁ、やっぱり馬鹿にしてるんだ?」
「本当よ!聞いて。あなたの目、治せるんだって。また見えるようになるって」
「いいかげんにしてよ!!」
「ッ!」
「誰のせいで失明したと思ってるのよ!いうにことかいて、何?私の目が治る?冗談にも程があるわ!」
「冗談じゃないの!お願い聞いて。本当に」
「眼球が引き裂かれたのよ!治るわけないでしょ!涙腺も潰されて涙も出ないのよ!無くなった物はもう元には戻らないのよ!あなたのせいで!!」
「違う!私は」
私は―――。
その続きを綾音が発する前に、傍観していた狐が綾香に歩み寄った。
「だ、誰よ?」
足音、空気の変化、何より、視覚以外から伝わる気配。綾香は初めて綾音のほかに誰かがその場に居た事に気がついた。
「人の思い人が罵倒されるのはこんなにも腹が立つものなんだね。どうもありがとう。貴重な体験だったよ」
嫌味を一つ述べる。我ながら随分と大人になったものだと、空白のうん百年に思いをはせた。
「思い人・・・って、まさか、その声、誠司さん?」
「残念だけど、君の目を治すことになったんだ。本当に残念ながらね」
「誠司さんまでそんなこと言うの?お医者さんが・・・手術のしようがないってさじを投げたのに」
「彼らは物理的な手段で治療をするだけだよ。それ自体は間違っていないし、尊敬に値する。でも僕の場合、それは違う方法だから比べるのはお門違いかな。論より証拠。今すぐに君に、もう一度光を見せてあげる」
「?・・・な、何を言って」
シコウの人差し指がベッドの上からこちらを見ていた綾香の首下に埋没した。
何が起こったのか、綾香にはわからない。だが、突然声が出なくなった。
「・・・!・・・ッ!!」
「だ、大丈夫!シコウがすぐに治るって。また目が見えるようになるって。」
シ・コ・ウ―――?
どこかの国の、聞いたことのない言葉のように、綾音の言葉はパニック状態の綾香には聞こえても理解できなかった。
だが、それは仕方がなかった。何せ、声が突然でなくなったのだから。
綾香の胸中に絶望が訪れる。
それはあの時、暗闇の中で数人に手足を押さえられ犯された挙句、抗う事も出来ずに両目を奪われたあの時の恐怖と同じだ。
泣き叫べど、聞こえてくるのは名も知らぬ男たちの歓喜の声。
下腹部から伝わる、何度も何度も異物が体内を出入りする感覚。
そして・・・目隠しの上から宣告もなく訪れ、火傷と錯覚した激痛。
封印していた記憶が、傷口からわきでる膿みのように蘇った。
「・・・か・・・あ・・・か!・・・やか!!」
助けて!誰か助けて!!・・・誰カ―――
「綾香ッ!!」
「ッは!!」
気が付くと涙を流して自分の名前を呼ぶ姉の顔があった。
ここは・・・病院?あぁ、そうか病室。
「綾香、私がわかる?」
「綾音、まだ意識がはっきりしていないんだよ」
シコウが綾音の肩に手をかけようとしたが、綾音は少々乱暴に妹の肩にて両手をかけた。
「ねぇ、綾香、私が見える?」
「え?あ・・・」
見える?お姉ちゃんが見える?
だんだんと、意識が形をなしてゆく。
病室、姉、首に引っかかっている包帯、そして、その包帯を濡らしている涙。
涙?泣いてるのは、私?
「大丈夫。ちゃんと見えてるよ。涙がその証拠」
「よかった!」
シコウが言う事だ。間違いないだろう。それになにより、当の綾香の顔に以前のような、澄んだ瞳が再生している。病院で見たときのあの、切り刻まれ、血だらけだった傷は本当に跡形もなく消え去っていた。
「きゃっ」
感極まった綾音が、病院生活での生活を物語る華奢な綾香の体に抱きついた。
「よかった、よかったね綾香。治ったんだね」
「離れてっ!!」
「きゃっ!」
「おっと」
綾香に突き飛ばされた綾音の体をシコウが受け止める。その綾音の顔には、やはり驚きと困惑が映っていた。
シコウは「大丈夫?」と、綾音を立たせ顔を綾香に向けた。
「嘘よ・・・だって、私の目・・・もう治るはずがないって・・・そんな」
目が、治った?本当に?・・・夢なの?
確かに見慣れない病室は、頭での想像とほとんど同じで、そこにはお姉ちゃんと・・・・・・誠司さん?
目が治ったという事態が未だに実感できないでいた綾香は、「これは夢ではないか」と疑った。反面、「夢でも構わない」とも感じている。そう、できるならば『決して覚めないで欲しい夢』と。
「誠司さん、どういうことですか?これ」
「あ、綾香。この人は」
スッと、説明を始めようとした綾音の前に立つと、シコウは綾香の頬を叩いた。
パン!!
「痛っ!!」
乾いた音が病室に聞こえる。
「ちょっと、シコウなにするのよ!!」
「目が覚めた?」
学生服にすがりつく綾音を無視して、綾香にそう尋ねた。
「その痛みがどういうことかわかるよね?君の目は現実に治ったんだ。君のお姉さんのおかげでね」
「シコウ・・・」
シコウと呼ばれる柴田誠司を、綾香は何か神聖なものを拝むように見上げる。
訳が判らない。何もかも、今時分が生きているのか死んでいるのかすらわからなくなったように。
「綾香?・・・えと、紹介するね。この人はシコウっていって、私の・・・えと、その・・・な、なんて言えばいいのかな?」
紹介するといっておきながら、紹介するべき本人に聞いてしまった。
仕方がないといえばそれまでなのだが・・・。
どこか呆れた顔でシコウが見返してくる。
「・・・まぁ、いいか。綾香、混乱してるみたいだけど、説明するよ?僕の名前はシコウ・・・は言ったか。今は御山四郎って名乗ってて、綾音の双子の兄って事にしてる。だから、君のお兄さんだね。」
「・・・・・・ど、どういう意味ですか?それ」
「結論から言おうか。君の知っている柴田誠司という人間は、もう死んだよ。」
「し、死んだって・・・誠司さん、何を言ってるんですか?」
自分は死んだと真顔で言う、柴田誠司本人。正直、自分をからかっているのかとも思った。
「綾香」
「え?」
涙をぬぐった姉が、何かを覚悟したように話し掛けてきた。
「全部・・・話すね」
その後・・・綾音はシコウとであったあの晩から今までの経緯を話した。
誠司が巻き込まれ、そして死んだこと。
シコウという妖狐のこと。
一つ一つ、綾香がしっかりとついてこられるように話した。
二十分くらい話しただろうか・・・
説明の終る頃、窓から刺す夕日はまだその顔を見せている。
パイプ椅子に腰掛けた綾音のうしろで、シコウは目を瞑り、ドア横の壁に寄りかかっている。
「・・・だから、もう大丈夫だって言うの?」
ベッドの上で上半身だけを起こして話を聞いた綾香は、・・・俯いてそういった。
「結局・・・誠司さんもあなたのせいで死んだんじゃない!!」
「私は・・・ご、ごめんなさい・・・」
「ッ!!」
綾香はとっさに、枕を投げつけた。
「あなたはいつもそう!!あやまれば良いとでも思ってるの?謝るだけなら只だとか思ってるんでしょ!!」
綾香の言葉が胸に突き刺さるのを、文字通り痛いほど感じた。
「違う!!私、そんなつもりじゃなくて」
「じゃあ、何だって言うのよ!!」
「そ、それは・・・」
どういうつもりだったのか・・・判らないよ、私にも。
自分の周りで次々に起こる不幸。そのどれもが自分にではなく、自分に関係のある人々にだけ起こっているのだ。
しかし、そのどれにも責任の一端は綾音にある。
自分の責任で自分にペナルティが課せられるなら、どんなに楽か。
綾音はどう責任をとればいいのかわからず、謝る事しか出来ないでいた。
「お母さんや、私だけじゃ飽き足らず、最後は誠司さんまで担ぎ出して!みんな不幸になってるのに、あなただけそんな妖怪に守られてるなんて・・・最低よっ!!」
「わ・・・私は・・・私だって・・・」
「そんなの知らないわよ!何も無くさずに、無傷なのはあなただけじゃない!」
「私だって先輩を殺されたわ!!」
「そうよ、あなたのせいで!」
「ッ!」
もう何も言えなかった。何を言っても、起こってしまった現実はもう元には戻らないのだから。
「私はあなたを許さない」
いいよ・・・それで。綾香の気が済むならそれでいい。だからお願い。・・・うらむなら私だけにして。
重く感じた肩に、誰かの手の重さが加わった。
「綾音」
ゆっくり振り返ると、シコウが寂しげな表情でこちらを見ている。
「何?」
綾音に学校の屋上で、綾香の目を治して欲しいとお願いをされて、この病院まで来たシコウ。用は済んだのだから、帰ろうという合図だと思ったのだが・・・
「脱いで」
彼の口から出た台詞は予想と違うものだった。
「僕は約束を果たしたよ。だから今度は綾音の番」
「ちょ、ちょっと待って!!ここで?」
シコウにすがりつく綾音の顔をしっかりと見返しながら
「うん」
シコウが告げる。
「家に帰ってからでいいでしょ?」
「約束わすれたの?脱いで」
「で、でも、病室でするなんて一言も」
「しないとも言っていないよ」
「ッ!・・・あ、あなたねぇ・・・」
パチンッ!
シコウが指を鳴らすのを合図に、綾音の体から力が抜けていく。そして入れ替えに体に熱がこもり始めた。
崩れ落ちる綾音を抱え、パイプ椅子に座らせる。
「い、いや・・・お願い止めて。」
「だーめ」
「?」
綾香には、いったい何を話しているのか判らなかった。訝しげに二人を見ているうちに、姉の様子がおかしくなってゆく。
息づかいが短くなり、顔が赤く染まるのがわかった。
「よく見ておいてね」
綾香の視線に気がついたシコウが、両手で綾音の髪を前から後にすきながら言った。
「お姉さんが君のために、僕に何を差し出したか」
「なに?どういうこと?」
「綾音は話さなかったけど・・・」
「やめてシコウ!綾香が知る必要なんてない」
少ない力を振り絞って、パイプ椅子の上から懇願する。
しかし、シコウは薄笑いを返すだけだ。
「優しいね、綾音は本当に。僕はそういうところがたまらなく好きだよ。綾音みたいに、自分よりも他人が傷つくのが絶えられない人間の味は、何にも置いて本当においしいから。」
「それが目的で、ここでするっていうの?」
綾音の顔が強張る。シコウは更に綾音の耳に口を近づけ、小声で告げた。
「教えてあげる。自分が本当は、どんなにマゾで、スケベで、変態女かってことを」
「そ、そんなっ!」
シコウが姉に何を告げたのか、綾香には聞こえなかったが、少なくともそれを聞いた姉が見る見る青ざめ、肩を落とした様子から彼女にとって良くないことである事は判った。
「ちょっと、何をするのよ?」
綾香がシコウを睨みつけながら聞いた。シコウはそれに視線だけを向けて返すと、すぐに屈めていた体を起こして病室のドアに近づいた。
「ねぇ!聞いてるの?」
「暫く、邪魔をしないで貰いたいから」
「は?」
おもむろに懐から銀杏の葉を一枚取り出し、逆さまにしてドアに貼り付ける。すると、葉が紫色に縁を光らせた。
「結界を張った。もう誰もこの病室には入れない」
「け、結界って・・・そんなことして何を」
シコウは振り返って、いま一度指を鳴らす。乾いた音が病室に響き、その音が違和感として綾香の心に残った。
「君にも見せてあげる、綾音があの晩から何を無くしたか。いや、何を手にしたか」
シコウの言葉を綾香は半分も聞いていなかった。何故なら、シコウを追っていた、シコウに治してもらった目の端で、自分の姉がスカートの奥に手を入れ、ぎこちなく何かを始めたのだ。
「・・・何してる・・・の・・・」
「はぁ・・・はぁ、・・・」
スカートが太股まで捲れ上がり、露になった白いパンツには染みまで確認できる。
喉を鳴らして綾香が驚愕の顔を浮かべるのもおかまいなしに、次の作業へと移行する。
綾音は左手でスカートを押さえたまま、右手をおずおずとパンツの中へ進入させた。
陰毛を越えて、背の高い中指が秘部へと触れる。
クチュ。
「ぅん!・・・はぁはぁ・・・」
もうそこは明らかに湿っていた。ビショビショと言えるかもしれないほどに。
「フフ・・・綾音、布越しを通り越して、いきなり直に始めるなんて・・・そんなにオナニーしたかったの?」
「・・・・・・ぁ、はい」
「お、お姉ちゃん!」
「あぁ、嬉しい・・・はぁ・・はぁ、また、お姉ちゃん・・・て・・んん!・・・呼んで・・くれたね・・・あぁ・・・んッ!」
「あっ!」
しまったと思ったのか、綾香はとっさに口元を押さえた。
だが下を向いて自分の秘部を見下ろしている綾音は気が付かなかっただろう。
「うっ・・・あぁ・・・あうぅぅ・・・」
パンツに隠れて判らないが、綾音の指はその動きを次第に巧みになっているようだ。
ゆっくりと、シコウが再び綾音に近づく。
「綾音はね・・・もう僕のものなんだ。当の綾音のものでもない。僕の操り人形なんだよ」
「嘘・・・」
「嘘じゃないよ、ほら」
そういうと、シコウは綾音の顎を指で上に上げた。
「あぁ・・・はぁ・・・はッ・・・んあぁ・・・」
そこには顔を紅く染め、虚ろな目をした姉の姿があった。
「さっきの説明では敢えて話していなかったけど、彼女は、僕が一言命令すれば何処でだってオナニーを始めるスケベな変態奴隷に成り下がったんだ。・・・ね?綾音」
「・・・・は、はい・・・そう・・んん・・・・・・ですぅ・・・」
いい子いい子と、シコウが綾音の頭を撫でた。その行為に綾音の顔が笑みに変わり、顔を更に紅くする。
「・・・だ、だって・・・誠司さんはこの人を守って・・・欲しいって・・・あなたに自分の体を差し出したんでしょ」
「だから守ったじゃないか・・・あの晩、強姦されそうになってた綾音を。命約は果たしたんだから・・・あとはどうしようと、誰も僕を止める事は出来ないさ」
「そんなのってない!詐欺よッ!」
「でもさ・・・ほら、僕は狐なんだから、それが本業な訳だし」
何かを言い返そうと思ったが、開いた口がふさがらなかった。
その間も綾音は指を動かす事を止めず、むしろ激しくなっていく。
「それに、これは君が望んだことだろ?」
「えっ!」
「君は望んでいたじゃないか。綾音にも同じ不幸が訪れればいいって」
「・・・そ・・・そうよ・・・」
「ならさ・・・」
シコウは綾音の顎をさらに上に上げ、唇にキスをした。
「んぅぅ!!」
舌を綾音のそれと絡ませ、唾液を綾音の体内に侵入させた。
「・・・んん・・・んはぁ・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」
唇が離れると、お約束のように唾液の糸が引かれる。
「君のお姉さんがどうなろうと、君の知ったことでは・・・ないだろ?」
唾液が・・・媚薬が綾音の体内で、油となり肉欲の火に注がれた。
ギシッ・・・ギシッ・・・・・・
パイプ椅子が小刻みに揺れ出す。
「あああぅ・・・あぁ・・・あ、あうっ・・!くうぅぅぅ・・・!」
喉の渇きを訴えるように、綾音の口は閉じる事無く、喘ぎ声を洩らす。
クリュッ・・・クチュゥッ・・・・・・
パンツの中からいやらしい音が部屋の端にも聞こえ始めた。
「うああッ・・・はぁぁん・・・はぁ、んはぁ・・・はぁ・・ああああああぁッ!!」
ぴく・・・ぴく・・・と、・・・胸が動いている。
「綾音・・・我慢しなくてもいいんだよ?」
「・・・はぁ・・・、あ・・・はい・・・」
そして、綾音はスカートを押さえていた左手を、今度はセーラー服の中に入れた。
セーラー服を首下まで押し上げ、前に付いていたブラのホックを指で外す。それと同時に、既に上を向いた乳首が露になった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
綾音は腫れ物を触るように、ためらいながら自分の乳首を摘まむ。
キュッ・・・
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!・・・あぁん、ああぅあぁぁぁぁぁ・・・・!!」
ビクッビクッ!!
自らの指から沸きあがる快感が、綾音の羞恥心を犯し始める。
その間も、下で秘部を弄くる事は止めず、溢れた愛液がパンツから漏れ、パイプ椅子とその床をも濡らしていた。
細い指には不似合いな動きで、綾音は淫核や花弁をなぞり回す。
「凄い寝れ方してるね・・・やっぱり妹に見られてると興奮する?」
「そ・・・そんなことは・・・ない・・・ないですっ!!」
火照ったからだから、吐息交じりに言葉を吐き出す。
「でも・・・僕の前でしてくれてる時よりも、感じてない?どう?」
息がかかるほどの耳近くで、諭すように訊ねる。
「・・・んくっ、んん・・・んんぅ・・・」
「答えたくない?・・・だから大好きなんだ・・・そういうところ」
シコウは嬉しそうに・・・実に嬉しそうに、綾音の耳のふちを噛んだ。
ビクゥゥゥッ!!
「ああああぁぁっぁあぁっぁぁああ!!・・・それ・・・それだめぇぇ!!」
軽く噛んだだけで、綾音は悲鳴を上げる。
「でも、感じてるみたいだよ?ここ・・・いつもそうだよね」
「はっ・・はっ・・・はっぁぁ・・・ひ、ひどい・・・」
ひどい・・・か。何がだろう?
そう言いながらも、綾音は涙を流して、快楽のままに胸を揉みしだく。
「ひっく・・・ああぁぅっ・・・はぁ・・ぁん、ああああぁぁぁぁ!!」
涙声が喘ぎ声に混じる頃には、綾音は中指の腹をクリトリスに擦り付け、若干前かがみになっていた。
ガタッガタッガタッ!!
パイプ椅子が前後に揺れ始めた。
「腰・・・動いてる」
シコウの言葉など知った事かといわんばかりに、綾音は物足りない自分の指からの快楽を少しでも得ようと、知らず腰を前後に振っていた。
ぬちゃっぬちゃぬちゃっ・・・
「んふっ・・・あん、あん・・・はっああぁぁぁんっ!!」
シコウからは隠れて見えないが、綾音は指を二本、秘裂に出し入れしていた。
イヤッ・・ダメ・・・もっと・・もっとぉ・・・!!
三本・・・指の付根まで入れ始める・・・
少女は誰かに見られているという事も忘れ、一心不乱に快楽を求めていた。
「はぁ、ああぅ・・・ああッ、はぁぁうん・・・あぁっ」
頬には涙に引き寄せられた髪の毛がくっ付いていたが、それもすぐに取れてしまうほど、綾音の前後運動は激しさを増し・・・やがて、
「ああ、ああああぁっ!!・・・んあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・っ!!」
いったらしい・・・。
強張った体をこれでもかと小さくし、ビクッビクッ・・・と体が小さく震えていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「自分がどんなにHな体か解った?」
「はッ・・・!!」
綾音は今の自分の状況を思い出した。
病室、しかも・・・しかも・・・
綾音は・・・表現しがたいほどの恐怖をもって、顔をあげた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・あ・・・綾香・・・」
最愛の妹が目に入った。・・・恐怖に彩られた妹が、そこにいた
しかし・・・彼女は何も声を掛けようとはしなかった。
いや、正直彼女自身にも何を言えばいいのか判らなかったのだ。
「・・・ぃやぁ・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!見ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
だがそれを軽蔑と受け取った彼女の姉には、最早絶望以外の何者でもなかった・・・。
「・・・・・・プッ・・・くくく・・・ははは、あははははははははははっ!!」
悲鳴の後、病室に笑い声が木霊す。
綾音と、そして綾香はぜんまいの外れたブリキ人形のようにその笑い声の主を見た。
「ひぃひぃひぃ・・・ぷっ・・・クハハハハ・・・アハハハハハハハハハッ!!」
シコウが、胸を抱えて笑っていた。
その姿には最早、柴田誠司の面影は無かった。
「はぁはぁはぁはぁ・・・ひぃひぃ・・・あはははは、あぁ。くふふふ・・・ごめんごめん。いやぁ、あんまり面白いんでつい・・・あははは・・・・」
オモシロイ―――。
おもしろい―――・・・面白い・・・・・・!!!!
綾音の中を今日一日のシコウの姿が走馬灯のように流れる。
プツンッ・・・
何かが切れたのを・・・綾音は感じた。
「ぅ・・うぅぅ・・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ガタタッ!!
パイプ椅子が勢い良く倒れるのと同時に、綾音はシコウに殴りかかった・・・が。
拳はシコウに触れる前にその威力を無くした。
か・・・体が・・・動かない!!
「無駄だよ?綾音。残念だけど、自慢の空手はまた今度見せてね」
綾音を抱きしめながら、シコウが諭すようにいう。
「悔しい?それとも憎い?でもね・・・そんな綾音が僕は大好きだよ」
「・・・なんで・・・どうして・・・あんなに優しかったのに・・・信じてたのに・・・あなたのこと好きになりかけてたのに・・・・どうしてよっ!!」
怒りはいつの間にか深い絶望と悲しみに変わっていた。
「優しかった?僕が?信じてた?僕を?・・・そんなの、全部気まぐれだよ」
「嘘よ・・・こんなの嘘よ・・・先輩は何のために・・・・・・」
「あいつも馬鹿な奴だよね、ちょっと媚売ったらあっさりと騙されて」
「ああああああああああ!!」
綾香は怒りで我を忘れた。
「あんた殺してやるわ!!絶対に許さない!!絶対殺してやるッ!!!!」
「どぉうぞぉ?でも、どうかな?今の君にそれが出来ると思う?」
「あぁぁぁぁ!!ああ!!あああああああああああああ!!!!」
「あははは・・・威勢だけじゃ殺せないよ?」
ザクッ!!
一瞬・・・そう・・・何事も起こるときは一瞬だ。
綾音の体の自由が戻ったのと、シコウがその場に崩れ落ちたのは同時だった。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ・・・」
「ガハッ!!」
吐血し、床を血に染めるシコウを、息づかいの荒くなった綾香が見下ろしている。パジャマを返り血に染めながら。
「あ・・・あや・・・か・・・」
綾音の声が聞こえても、綾香は倒れたシコウを見下ろし続けていた。
その視線の先には・・・
「あぁ・・・そ、そんな・・・」
空手でいえば水月あたりだろうか・・・果物用のナイフが一本、シコウに突きたてられていた。
「ああ・・・ああぁぁぁぁ・・・」
許せなかった・・・誠司さんとお姉ちゃんの気持ちを知りながら、それを利用したこいつが。
とっさのことだ。気が付いたら人を刺していた。
その事実が・・・次第に綾香に襲い掛かる。
「ああああ、ああああああ」
後ずさり、腰がベッドに当たると、その場に崩れ落ちて尻餅をつく。
「綾香!!」
姉は妹に寄り添った。朱に染まった妹の手を、自分の愛液でべとべとになっていた手で握り締める。
「しっかり!しっかりして、綾香!!」
「お姉ちゃん・・・私、わたし!!」
「立てる?急いで!!ここから逃げないと!!」
「逃げる?・・・無理よ・・・何処に逃げるって言うの」
涙を浮かべ、自分のした事がいかに罪深いかを自覚する。妖怪とはいえ・・・人の体を、ましてその体は元々柴田誠司のものだったのだ。
体に脱力感が充満しているのが、綾香にはわかった。
「・・・ッ!立ちなさい!!大丈夫、私が何とかするから」
「なんとかって・・・」
「いいから急いで!!」
「う・・・うん」
どうするかなんてもちろんわからない。自分にはあの人のような妖術なんて使えないし、まして今の自分にかつてのような権力も無い。
しかし、だからといって妹を放ってはおけない。
大丈夫・・・何とかなるよ・・・そうですよね・・・先輩・・・
二人は立ち上がると、倒れた人を避けて、病室のドアへと向かった・・・だが。
「ど・・・どうして・・・」
ドアはびくともしなかった。いや、それ以前にドアノブすら回らない。
叩いても、そして押しても引いても、ドアは無言のままだった。
そのとき、綾香の脳裏をフィードバックするものがあった。
「あ、まさか・・・これが結界・・・」
「え?」
綾音が後の綾香の言葉で振り返ったとき・・・・・・
「あぁぁぁ・・・・・・・」
「お姉ちゃん?・・・ひッ!」
そして、綾香もゆっくりと後ろに顔を向ける。
床に転がっている血に濡れたナイフの隣に、血溜りが出来ていた。
窓から見えていた夕日はいまやすっかりと落ちきって、病室の中は外灯の灯りがうっすらと照らすだけだ。だが、その光すら二人の姉妹を照らしてはくれない。そう、彼が遮っているから・・・。
はだけた紺色の学生服が、薄暗い世界で彼を黒く染め、人型の影が姉妹に覆い被さっている。
影でうかがい知れない表情から、赤い眼がこちらを見ていた。
「あぁぁぁぁぁぁ・・・」
ガタガタ震えながら、二人の姉妹はお互いを抱き合い、その場で後ずさりをする。
とん・・・
しかし、その後退もすぐにドアが邪魔をしてしまい、ズルズルと膝を折っていった。
「ア・・・ヤ・・・・・・ネ・・・?」
「ひっ!!」
背筋が凍った。生きた心地がしなかったかもしれない。
コツ・・・コツ・・・
闇の主が歩を進め、近づいてきた。ゆっくり・・・そう、それはとてもゆっくりと。
バクンバクンバクンバクン!!
心臓の音が頭に響く・・・口から出てしまうかもしれないほどに、心臓が恐怖に追い立てられ胸を叩く。
逃げなきゃ逃げなきゃ!!
そう思ったところで、視線は彼から離すことすらできない。赤い瞳は恐ろしく、とてもとても澄んでいた。
姉妹に近づいた彼は膝を折り、ガチガチと歯を鳴らす姉妹に顔を寄せる。
震える綾音の頬を血だらけの手が流れるように触れた。
そのラインをたどって、涙が頬の血を洗う。
あぁ・・・そう・・・もう、逃げられないのね・・・・・・私たち・・・
そう理解したとき、自然に肩の力が抜けていった。
もう、抗うことは無く、綾音はシコウのキスをすんなりと受け入れた。
どう・・・して・・・・・・
目を閉じて自然にキスを交わす二人を、綾香は呆然と眺めていた。
「んんっ・・・んむ・・・フゥフゥ、はんっ・・・ん・・んんッ」
「ぅん・・・ん」
唇の間から時折、絡む舌と、擦れ合う白い歯が見える。
シコウの唾液は人間には媚薬だから、飲みすぎると大変・・・そういえば、そんなことを昨日のHのときに注意したが、どうでもいい。
綾音はただ、これからの行為に思いを馳せていた。
「立って?」
「うん・・・」
シコウに言われるまま、綾音はゆっくりと立ち上がり、ドアにもたれ掛かる。シコウは再びキスをして、そのまま首筋へと移動させた。不思議とシコウに愛撫されたところが温かい。
シコウがセーラー服の中に手を入れ、胸をほぐす。
むにゅっ・・・もみゅっ・・・むにゅぅ・・・
「あッ、あぁ・・・・・んくッ・・・」
ゆっくりと、暗闇の中で時間をかけた愛撫が進んでゆく。
それに呼応し、綾音の口から甘い溜め息が漏れ始めた。
綾音は敏感になった身体を震わせ、胸から送られる快楽を受け止める。
「・・・ちゅ」
セーラー服を捲り上げ、直接胸にキスをする。
綾音の紅くなった顔では、口が半開きのまま閉じようとしない。
胸を揉むシコウの掌から綾音が、じっとりと汗ばむのが伝わってきた。
もみゅっ、・・・むにゅ、むにむにッ・・・
「はぁ・・・はくッ、んあぁ・・!んくッ!・・・んん・・・・・・」
ぬちゃっ・・・・・
「ひぁッ!!んあぁぁぁぁぁ!!・・・あうっ、あふぅぅぅぅ!!」
胸ほかから、何の宣告もなく突然、快楽が走った。シコウの冷たい手に秘裂が触れられ、綾音の爪がドアを引っ掻く。
胸を攻められながらも、秘部は愛撫を求めていた為か、既に濡れていた。
そして、すんなりとシコウの指を受け入れる。
「・・・・・・」
シコウは愛液で最早意味をなさなくなったパンツを太股のあたりまで下ろすと、勿体つけるように包皮の上から指で淫核を撫でる。
ぬりゅ、ぬりゅぬりゅッ・・・・・・
「はんっあっ!!ああッぁぁッぁあああ・・・あう、んあああああああぁぁッ!!」
綾音の口から切なげな喘ぎ声が漏れた。
まだ、指は中に入れていないが、それでも愛液が溢れてくる・・・。
綾音はシコウの指を擦り付けたいのか、クイックイッと、指の動きを腰で追いかけた。
しかしシコウは決して、秘裂に入れてはくれない。
「ああっ!!ど、どうして・・・お願い入れて、弄ってぇ!!」
「どうしよう・・・かな」
随分・・・久しぶりにこの人の言葉を聞いた気がする。どこか子供っぽくて小馬鹿にしたようで、でも憎めなくて・・・優しい声音。
「もうちょっと・・・お仕置きしたいんだけどなぁ・・・」
綾音は、堪えきれずにシコウに抱きついた。
「ごめん、なさい・・・ゆるして・・・あなたの奴隷でも何でもなるから、・・・淫らしい事いっぱいしてぇ・・・」
切なくて・・・悲しくて・・・そして、寂しかった。いつも感じていたあの隙間を埋めてくれたのは、この人だった。たとえそれが嘘でもかまわない・・・この人だけが私を満たしてくれたのだから。
不器用だ・・・。あぁ・・・不器用だ。綾音はこんなにお前を求めていたのに・・・それに気がついても、お前は何もしなかったんだからな。本当に不器用だよ・・・なぁ?誠司。
シコウは綾音を離すと、口付けをして望みどおり、濡れそぼった秘部の中を攻め始めた。
じゅぷッ!!じゅぷぷぷッ!!・・・・・・にゅぷッ!!
「あはぁァァンッ!!ああっいいっ、いいのぉっ!!気持ちいいっ・・・!!」
待ちわびた快感が綾音の体を駆け巡る。
「ああっ!熱いぃ・・・気持ちいいよぉッ!!」
シコウが神経操作をするまでも無く、淫核が擦れる度に愛液が滴り落ちてくる。
ずぷぅ・・・
さっきの自分の指よりは太い、シコウの三本指が中に潜り込んで来た。
「ああ、んあッ、あんッ・・・あああああああぁ!!」
綾音の体が大きく仰け反り、シコウの前で胸が上下に揺れる。
「・・・・・・良さそうだね?」
「う、うんッ・・・気持ち・・・いい、んあっ・・・よぉ」
「何処が気持ちいのか・・・いつもみたいに教えて」
きゅうっ!
とたんに綾音の秘壷が狭まれ、シコウの指を締め付ける。
「・・・・・・・・・」
いつもと違うが、今のが答えかと思ったが・・・
「お・・・おま○こです・・・」
シコウは笑みを浮かべると・・・指でクリトリスを直接擦った。
「んああぁぁ!!」
「もっと聞きたいな・・・」
「ああッ!!いい、気持ちいいです!!おま○こがぐちゃぐちゃで、気持ちいいですッ・・・!!」
ぬちゃぬちゃと、シコウの指が愛液の泡ができるほど激しく動く。
いやらしい音が部屋中に響いた。
「きゃっ!きゃふぅぅ・・・あ、んあああぁぁぁぁあああっ!!」
「イきたい?」
シコウに耳元でそう聞かれ、綾音は首を縦に振った。
さっきから幾度となくイきそうだったのだが、いつも通り綾音は自由にイかせてはもらえなかった。下腹部から自分の体に埋没しているシコウの腕が、綾音の絶頂を妨げていたから。
綾音は涙を流し、拷問かもしれない快楽の中で、頭がイカレそうなほど気持ちのいい愛撫に堪えていた。
「えい」
シコウはパッと、楔を放った。
「ああああああああああぁっ!!イクぅ、イクぅぅッ!!うあぁッ、ああっぁぁああ、イクぅぅっ!!」
ぷしゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!
「あああああああっ!!だめっ、あはぁ、ああああああああああぁッッ!!」
堪えきれず・・・綾音は絶頂と放尿の快感を浴びてしまった。
ビクッ、ビクンッ!!
その姿を、綾香は呆然と見つめるしかなった。実の姉が、目の前で指に弄ばれ、そして放尿している・・・。
だが、綾音は至福のような顔を浮かべ、何処を見ているのか判らない眼差しで排尿を続ける秘部を眺めながら、余韻を噛み締めていた。
シコウはといえば、綾音の尿まみれになった手をぺろぺろ舐め、シコウのスカートを律儀に揚げていてやっていた。
ちょろろろろろろろろろろぉぉぉ・・・・
やがて、放尿は収まり、勢いをなくして、綾音の脚を伝わり始める。
それを見計らったように、シコウが耳元で次の指示を告げる。
それに頷いて、綾音は後ろを向いて、ドアに諸手をついた。
となれば、当然・・・
「あっ・・・」
ドアの前でしゃがんでいた綾香が見上げると、髪を垂らした綾音の顔と向きあった。
「綾香?・・・私の・・・犯されるところ・・・しっかり見ていてね・・・」
「そ、そんな・・・」
パサッ・・・
綾香の言葉を待たずにシコウが綾音のスカートを下ろすと、薄明かりに照らされて白いお尻が闇夜に浮かび上がった。
「いい?」
「ぅ・・・うん、して・・・」
背後からの声に綾音が震えながら、そう答える。
じゅぷっ、ズぶぶぶッッ!!
静寂の中にあっては、その音は綾香にも聞こえた。
「んあああああああああああああああああ!!!」
病室・・・いや、隣の部屋にも聞こえそうなほどの声で綾音が泣いた。
「大きぃ!はぁっ、おおきいぃっっ・・・・!!」
シコウの肉棒に一気に子宮まで貫かれ、目がチカチカする。
ずぶ、ずぶぶッずぶぶぶッ!!
「うあっあぁぁぁあ、い、いいですっ!気持ちい・・・気持ちいいれすぅっ!!」
シコウの腰が容赦なく綾音を突き上げと、綾音はガクガクと身体を震わせている。
「んあッんああッ、んああああっ!はぁ、はっ・・・んんああぁぁぁん!!」
じゅぷじゅぷという音が、綾香にもしっかりと聞こえていた。
「ひっく・・・ひっく、んっ・・・なんで・・・なんで・・・」
何で目を瞑れないの・・・
綾香は当然こんな光景は見たくなかった。
あのときの自分を見ているようで、綾音が喘ぐたびに吐き気が込み上げてくる。
しかし、体が動かなかった。
顔を背けることも、目を瞑る事さえ出来ないでいた。
「せっかく・・・目を治したのに、君はそれを放棄するの?」
突然、シコウが動きを止めた。
「ああっ・・・やだ、止めないで!!もっと・・・もっと突いて、動いてッ!!」
綾音は中断されて、綾音は哀れみを請うように訴える。
「だめ。綾香ちゃんがつまんないって言ってる」
「そ、そんな事言ってない!!」
「うんにゃ、僕には聞こえた。僕にはそう聞こえたんだ、綾音?」
目を瞑って、激しく息をする綾音を綾香が見上げる。
「見て・・・くださぃ・・・」
「綾音。音は絶対に漏れないから、もっと大きな声で言っても構わないよ」
優しい口調だが、綾音の中では「もっと大きな声で言え」と命令されているのと変わらない。すると、綾音の指が恐る恐る秘部へと近づいた。
「笑って、綾香。そしたら・・・見て。私のおま○こが・・・シコウのチ○ポを咥えてるの判る?凄く気持ちよくて、それで・・・だから、もっと奥まで見て。」
人差し指と中指でシコウの肉棒を咥えている秘部を開いてみせる。
「いや、い・・・やぁ・・・止めてぇ」
しかし、綾音は嬉しそうにじゅぶじゅぶと自ら腰を蠢かして、そこから快楽を得ることに必死だった。
「・・・・・・うん」
シコウは綾音の腰骨あたりに手をかけると、
「ご褒美、あげなくちゃね」
といって、再び腰を打ちつけ始める。
奥を突き上げられるたびに、綾音は身体を仰け反らした。
ずぶっずぶぶッ!ズプゥッッ!!
「ああああああああッ!!いいっイイです!気持ちいいっ、ですぅぅッ!!」
シコウに突かれ、綾音は幾度となく身体を躍らせ、嬌声をあげる。
秘裂からじゅぶじゅぶと愛液が流れ、シコウの肉棒から飛び散り、綾香の顔を犯していた。今や綾香の顔は姉の涙と、唾液と、愛液で彩られ、最早自分の涙が顔の何処を流れているのか判らなかった。
涙で曇った世界では、光は何処にも無く、姉が犯されているだけなのかもしれない。
しかし・・・その姉の顔は・・・嬉しそうだった。
目は虚ろで、自分の姿が映っている気配は感じられない。あるのは、肉欲にのみ彩られた官能の目だけだった。
「あああっ・・・い、イきますッ!!イきそうですッ!!お、おま○こイ・・イきそうですッ!!」
綾音の言うとおり、絶頂に近づいた淫穴がぎゅうぎゅうとシコウの肉棒を締め上げる。
「まだ、だめ」
「そ、そんなっ!!」
やはり綾音の体に浸入しているシコウの腕が、綾音をイかせてはくれなかった。
「ダメぇ!!本当に、ほんっ!!んああぁっ!ダメぇぇぇ!!」
ひきつるように身体をくねらせて、悲鳴を上げる。
あのときのように、頭の後ろがずきずきと痛み始め、次第にそれすらも快感へと変わる。
「ひぅひぅひぅひぅっ、ひぁあああああっ!!」
綾香は耳を塞ぎたかった。綾音の喘ぎ声は次第に、絶叫に近いものになっていったからである。
「もう許して!!お姉ちゃんを壊さないでぇ!!」
「なんで?」
しかしシコウは、腰を動かす事は止めようはしない。
「知ったこっちゃないんだろ?君がそういったじゃないか」
「こんなの酷すぎるわ!!唯の拷問じゃない!!あのときと・・・、お姉ちゃんをあのときの私にしないで!!」
「じゃあ、君が退院したら綾音の身代わりになってもらおうかな?そうしたら、綾音を放してあげる」
「だめぇぇぇっ!!」
綾音が叫んだ。
「シコウには私がいるからいいの!!私は、私はシコウのものなの!!」
もう意識なんてどこかに行ってもおかしくなかった。だが、綾音は泣きながら、吐き出すようにそう言いきった。
あ、やばいかも・・・。
シコウがそう思った瞬間―――。
「いいわよ!!」
今度は、綾香が叫んだ。
「どうせもう汚れた身体よ!!好きにすればいいじゃない!!」
「ひゃあぁああああああ!!あああッイクッ!!イクゥッ!!んっく、きゃああぁぁぁんっ!!」
びゅく!!びゅるッびゅるうぅぅッ!!
筋肉が強張った膣の一番奥で、熱い精液が吐き出された。
びゅくッ、びゅるるうぅぅぅうッ・・・・・・!!
「んくはぁぁぁぁ、ひっく・・・あぁ、だめぇ・・・、だめ、なのにぃ・・・・・・あぁ、奥であたってる・・・」
何がだめなのか判らないまま、それでも綾音は逃がすまいとシコウにお尻を擦り寄せてくる。
子宮の中でまだ、精液が出ているのが判る。最近知ったこの瞬間の感覚が、綾音はたまらなく好きだった。
綾音は恍然とした表情で、幸せそうに喘いでいた。
ずるっ・・・
シコウが引き抜くと、綾音はそのまま、ズルズルと崩れ落ちて、綾香が抱きかかえた。
「あや・・・か、・・・だめ、だめだよ」
うわ言が、少なくとも姉の意識はほとんど無いようだった。その中であっても、彼女は私のことを心配してくれていた。
綾香は、愛しさが沸きあがり姉を抱き締めた。
「それで?」
声の主は向こうを向いて、服の乱れを正したあと、再び姉妹の前に立ちはだかった。
「さっき言ってた事は本気?」
「えぇ、もちろん!」
負けるもんか、こんな奴に!
そんな意気込みが綾香の目に宿っているのが、薄暗い中でもはっきりと窺い知れる。
シコウは刺された辺りを確かめながら、「ふーん」と興味無さ気に答えた。
やれやれ・・・まさか刺されるとは・・・本当ならもう少しスマートに・・・
「ちょ、ちょっと聞いてるの?」
「え?・・・あぁ、ごめん。あれ嘘、無し、ノーカン」
「はぁ?」
シコウは悠然と綾香が抱えている女性を指差して言い放った。
「だって、僕は綾音が好きだから操り人形にしたんだよ?他の人間なんて全く興味ないね」
「なっ!!」
だ、騙された!!
と思ったところでもう遅い。
「クックックッ!退院を心待ちにしているよ、操り人形二号(予定)さん?」
「・・・・・・最低」
シコウは怒るどころかとてもとても嬉しそうに笑みを浮かべると、綾香の頭を撫でた。
「触らないでよ!!」
「ははは・・・・・・さて、と。綾音?」
ビクン!!
死んでいたかのように動かなかった綾音の体が、シコウに呼ばれて反応したかと思うと、脚に力が蘇って自分の足で立ち上がった。
だがしかし、表情はやはり虚ろなままで、精気が見受けられない。辛そうといっていい。
「随分長居しちゃったけど、そろそろ帰ろう」
「・・・だめ、だよ・・・綾香は」
「判ってる、でも今日はもう帰ろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅん」
「お姉ちゃん大丈夫?しっかりして!」
綾香は自分より背の高い姉の双肩を支えた。
「大丈夫、大丈夫だよ。だから心配しないで、それより」
「それこそ、こっちは大丈夫だから・・・」
「そう・・・ありがとう、それから、18禁だったね。ごめんなさい・・・」
「あ・・・そ、そうだね・・・あははは・・・・・・」
「あぁ、綾香の笑ったところ、久しぶりに見たわ」
「!」
こんな状況なのに、姉は私を元気付けようとしていた。自分の行為を見られた事を羞じるでもなく、それでも私のことを・・・・・・
綾香の胸に去来する想いがあった。あんなに罵倒しても、少しも怒らず、いつも謝っていた姉の姿。どんなに突き放しても、何度も何度も世話を焼きたがっていた姉の姿。そして、自分がボロボロになっても私の事を心配している姉の姿・・・。
それに比べ・・・私は・・・わたしは・・・・・・
「お姉ちゃん、わたし、あの・・・」
「はい」
「えぇ?」
綾香が何を言おうとしたかは、容易く予想できたが、それをシコウはあっさりと遮った。綾音と綾香が見詰め合っているその間に、シコウが何かを割り込ませたのだ。
「はい、スカートとパンツ。これ穿いたらさっさと帰って晩御飯にしよ」
「あ、あ、あ、あ、あ、ああああ!!」
綾香は堪忍袋のおが切れた。まぁ、当然といえばそれまでだが。
「うん、帰ろう。晩御飯にしよう」
「よし」
「お、お姉ちゃん!!」
「うぅ・・・パンツむずむずして気持ち悪い」
「じゃあノーパンで帰る?」
「そんなことしたらすぐに襲ってくるでしょ、シコウ」
「お姉ちゃんってば!!」
パチッ!
スカートのフックを止めると、服に若干の乱れは残るが、何とかバレずに帰れそうだった。
「綾香、シコウはね、あなたが思っているよりも優しい人なの」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん、自分が何されたか解ってて言ってるの?」
出来の悪い弟子を見るような目で、慈しみのこもった目で綾香に笑顔を見せる。
「シコウはね、私と綾香の」
「さぁさぁ!!帰るよ!!はいはい!!」
「あん」
ガチャッ!!
シコウは何かに焦るように、綾音の腕を引っ張って、ドアをあけた。
その瞬間、窓から夕日が差し込み、床を汚していた血と、汗と愛液、そして尿を消し去った。ナイフも元の位置に戻っている。唯一、枕だけが、部屋の隅っこで不平をもらしていた。
「な・・・なによ、これ・・・」
「僕が結界を張った時間の状態に戻ったんだ。ただ、それだけさ」
「綾香、あなたにもそのうち判ってもらえると思う。この人のことを」
「え・・・それって」
バタンッ!!
『それってどういう意味?』そう聞こうと思ったが、病室のドアは閉められ、綾香だけが取り残される。
綾香はツカツカと枕に近寄り、
「・・・・・・・・・もう!!」
といって、罪の無い枕を蹴り上げた。
終幕 「それぞれの優しさ」
ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・
電車の中は随分、閑散としていた。
乗車しているのは綾音とシコウ、それから老人が一人と、白いコートの男性が一人。
「・・・・・・ありがとう」
「別に、契約だったんだからお礼なんかいいってば」
二人とも顔をあわせるでもなく、窓の外の流れていく田園風景を見ていた。
「ううん。私が言っているのは、サービスの方」
「・・・・・・・・・何のことかわからないけど?」
綾音はシコウの手をそっと握る。
「?」
「方法はどうあれ、私と綾香の中を繕ってくれたんでしょ?また、仲良くなれるようにって・・・」
「・・・考えすぎだよ」
「あんなことして、もしも私に嫌われたらどうしようって思わなかった?」
「・・・・・・・・・・・・・」
シコウの顔を見たが、聞いていないように、目線は窓の外だ。
「好きな人に嫌われるって、凄く辛いものよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
シコウの手が、綾音の手を握り返した。少し、痛い。
「ありがとう」
< おわり >
あとがき。
これを呼んでくださっているという事は、夜狐を全部読んでくれたという、お釈迦様のような方ですね?本当に本当に、ありがとうございました!!
初めまして、お久しぶりです、どうも鳴沢ワヤです。
まずはお詫びから。前回の初登場から随分とお待たせし、本当に申し訳ありませんでした。実は前回の投稿のあと思ったよりも続編書けと言われ(ありがとう、内輪の方々)て、書き始めたのが去年の11月とかその辺りでした。ですが、進路とか就職とかいろいろとバタバタして、おまけにネットも使えないというアクシデントに陥りました。ちなみに、最近某社に拾っていただき、就職することができました。やるぞー、おー!どっかで私の名前を見かけたときは指差して笑ってください。そんなこんなで、忙しい中ではありましたが、何とか書き上 げる事が出来ました。これも皆さんのおかげです、ありがとうございました。
あと、学校卒業しちゃったので誰も編集作業をしてくれる人がいなくなり、誤字脱字が多数あるかもしれません。そのときはご指摘くださると大変助かります。あと今回もフェラがねぇ!!どういうことか、説明を求める!!はい、すいません、ごめんなさい・・・。
追伸
今、本業が洒落にならないほど忙しくて、もうだめポ。
参考資料。(ざくそん様ごめんなさい、本当に)
ス○ラ○ド・ジャ○ア○ト○ボ・新○紀エ○ァ○ゲ○オン・ほ○のこえ・ヘ○シング・マ○ア様が○てる・フ○メタ○パニ○ク!・幽○白書・う○われ○もの・2003年度F○(サ○マリノとモ○コグランプリ)