超越医学研究所HML イブの悲劇

イブの悲劇

 ――被験者、猿楽一郎。超越医学研究所研究員。身長170センチ、体重59キロ、やや猫背、近視ぎみ……。
 ――目標補足。猿楽研究員です。
 
「よっしゃ悦っちゃん、ランチャーかまえ、や!」
「はい、先生!」
「ねらえ! ……て――――っ!!」
 ズドン!!
 ランチャーから発射された猛獣捕獲用のネットは、空中でパッと花開くと、何も知らない哀れな犠牲者、猿楽一郎の頭上から襲いかかった。
 
「きぃ―――ッ! きぃ―――ッ! じたばたじたばた!」
「ほんまの猿か、おまえは?! おとなしゅう観念しさらせ!」
「あ……! あなたは超越医学研究所の研究員で、ニュー香港出身の女医にして、中国秘伝の蟲術を得意とするドクター江錦華! それに腹心の部下、須田悦子ナース!」
「説明ご苦労さん。……暴れるようやったらこっちもそれなりの手ぇを使わせてもらうで」
「あ、何かいま首筋のところにチクリときたんですけど……」
「即効性の睡眠効果があるデングリ虫や。いい夢見たってや」
「がくり……」
「悦っちゃん、人目につかんうちに、うちの研究室に運ぶで!」
「はぁい、先生」
 
 ここは東京都内某所にあると噂される超越医学研究所――。
 欲望うずまくHMLでは、今日も今日とて怪しげな実験、研究、臨床治療、健康診断その他もろもろが展開される。
 さて、企業内拉致の憂き目にあった研究員の猿楽一郎……。今しも地下実験室のベッドの上に、全裸にされて大の字に縛り付けられていた。
 四肢をベッドに皮ひもで厳重に拘束された猿楽一郎は、目を覚まし、自分の置かれた状況に気づいてがく然とした。
 
「錦華先生いいい! いったい何のためにこんなことをぉおおお?!」
「これも世のため人のため、人類のための実験や、しばらくの辛抱やで」
「じ、じ、じ、実験て何を?! まさかまた妙な虫を?!」
「あ~~、今日は虫とちゃうねん。安心したってや。ただな、猿楽が熟睡しとる間に、薬を処方させてもらったで」
「ゴクリ……。い……いったい何の薬を?」
「うふふ、ここんとこ残業続きでお疲れの猿楽君に、疲労回復、滋養強壮、健康増進、精力絶倫のための秘薬……中国秘伝の金萬丹や!」
「その、最後の『精力』なんとかいうのが、ものすごく気になるんですけど……。もしかして僕、ものすごく恥ずかしい目に会わされるのでは?」
「さすが察しがええなあ、猿楽く~~ん。それえでは、ちぃ~~っとばかし、あんたの性的興奮を喚起させてもらうでえ」
 ニヤリと笑った江錦華は、「フンフ~~~ン、フンフ~~~ン」と妙な鼻歌まじりに、白衣の前をはだけた。
 ――江錦華先生は、研究所内では真っ赤なチャイナ・ドレスの上に白衣をはおるという珍なるいでたちで、白衣を脱ぐとからだの線がくっきり出てるんだけど、あのドレスの下は裸なんだよなあ……。
 とかなんとか言って、妄想を膨らませる暇もないうちに、錦華はドレスのあわせを開いて、形のいい胸をぽろりとむき出しにした。そのまま、するするするっとドレスを下ろすと、きゅっとくびれた細いウェストと、うっすらとした茂みが目に飛び込んできて……。
 
 あああああああああ……! これではまるでストリップ! しかもかぶりつき!
 何を考えているかイマイチわからないが、彼女の思う壺にはまってしまえばロクなことにならないことは、過去の経験から立証済み……!
 ここはひとつ目を閉じて、雑念を払おう……! 無念無想、心頭滅却、色即是空、空即是色……!
「おやあ? おやおやおやあ? どないしてん、一郎ちゃ~~~ん。ムリしよってからにい~~」
 ――何も見えない、何も聞こえない! 怨霊退散! 怨霊退散!
「うちとヤリたいんやろ? 正直にゆうたらどないや?」
 江錦華が、馬乗りになって、顔の上のかがみこんでいる。長い黒髪が、猿楽の鼻をくすぐった。
 ――いい匂いがするなあ~~~。しかも彼女は、裸……!
 そういえば、前にもヤラせてもらったよなあ……(遠い目)。あとでひどい目にあったけど。でも、いがったぁ~~~~!
 うわ! いかん! ついつい淫らな妄想が……!
 
「身体は正直やな。ちんちんおっ立ててしまいよってからに……。どないや悦っちゃん?」
「はぁい、被験者の男性器に著しい硬化が見られます! 海綿体への血液の流入は限界を超えています!」
「おお! 見てみい悦っちゃん! 計測開始以来の最大値を記録やで」
「すごおおい! びくん、びくんと脈打ってまふぅ……!」
「悦っちゃん、声が上ずっとるで」
 
 あああああああ! 身体中の血液が、血液が下半身に集まっていくぅ……!!
 あ、あ、頭の中が真っ白にいいいい!
 もうダメ……! もうガマンできないいいい!
 抜きたい! でも、抜けない!
 抜いて欲しい! して欲しい! でも、口に出して言うのはちょっとおおおお!
 
「……てください」
「ん、何や? 何かゆうたか?」
「ヤラせてください……! お願いしますぅ」
「何をどうしてほしいんや? はっきり言わなわからんやないか?」
 言わなきゃダメかな? やっぱり。
 ダメなんだろうな……。
「ぼ……ぼ、ぼ……ぼっ、ぼっ、ぼっ……」
「九州地方のエロ話かい? 男らしゅうしゃっきり言わんかい!」
「……ぼ、ぼ、僕のおちんちんを、錦華さんの……な、な、膣内(なか)に……い、い、挿れたいです~~~っ!!」
 錦華はやれやれというようなポーズを取って、
「なんちゅうデリカシーのない……。サイテーやな。人にモノ頼む時はそれなりの頼み方っちゅうもんがあるやろ?」
「た、頼み方って……?」
「このうちが、哀れみをこめて相手したろうかっちゅうとるんやで。立場をわきまえんかい。なんやこんなちんちん、こういうんは汚らしいモノっちゅうんや! それに錦華さんなんて馴れ馴れしゅう呼ばわるな! 錦華先生やで!」
「ひ……ひどい」
「ほな、このままちんちん立たせて狂い死にするんやな。うちはいっこにかまわんでえ」
「お、お、お、お願いしますう~~~~~っ!!」
「はなっから口に出して言わんかい。心の底からお願いするんやでえ。ほれ、『僕のこの汚らしいモノを』や……」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕のこの汚らしいものを……ど、ど、どうか、錦華先生の……ゴクリッ……膣内(なか)に……い、い、挿れさせてくださあああい! 一生のお願いです~~~~っ!!」
 
「ほんまに言いいよった……。しっかしこの、カウパー腺液(作者注・医学用語。いわゆるガマン汁のこと)の量は何事や? ションベンたれとるみたいや」
「は、早くぅ~~~っ! お、お願いですぅ~~~っ!」
 猿楽は身をよじって哀願した。
「あっ、何や? ほんまにシてもらえると思うとったんかいな? ほんの冗談やて、冗談」
「?!」 
「だってぇ、猿楽のちんちんて、赤黒くっててらてらしとるしぃ、何やションベン臭いしぃ、血管浮きまくりで気色悪いしぃ……。うち、こんなん、イ・ヤ・や!!」
「そ、そんな今さら……! だったら、せめて手を、手を使わせてええ!」
「べかこ――っ! あんたのオナニー・ショーなんぞ見たないわい!
 なあ、悦っちゃん、猿楽のアホなんぞほっといて二人でええことしよか?」
 錦華は、激しく勃起したままの猿楽一郎をベッドに残し、須田悦子のかたわらに立つと、グラマーな彼女の身体を抱きしめた。
「悦っちゃんの乳、大きゅうてやわこいなあ……。ほうれ、乳くり乳くり……」
「いやん、先生。ステキぃ……」
 須田悦子の淡いピンク色の看護服につつまれた、豊かな乳房を揉みしだく。ほんのりと頬を染めた看護婦の唇から、切ない吐息がもれる。
 錦華の唇が、悦子の唇を割り、二人の舌先がチロチロとからみ合った。
「ああん、先生……」
「悦っちゃん、好っきゃで」
 生殺し状態の猿楽は、刺激的な女同士の愛のかたちを見せつけられ、ますますナニはエレクトし、どくんどくんと脈打つばかりで、目には涙さえ浮かんでいた。
 
「男のさがっちゅうのは哀しいもんやなあ。この期におよんでますますちんちんおっ立てよったからに。ほんまにおもろい見せもんやで! あ――っはっはっはっはっ! わ――っはっはっはっはっ!!」
 ――悪夢だああ! 僕は悪い夢を見てるんだあああ!
「ウワアァン! あんまりだああ! おまえら、あんまりじゃないかああ!!」
 とうとう恥も外聞もなく、大の字のまま泣き出した。
「せいぜいそこで吠えたりや。どうせあんたに自力でその拘束をはずすのはムリや!」
 
 ごムリごもっとも、なんて言ってはいられない。こんな屈辱にはとても耐えられぬ。この恨み、晴らさでおくべきや!
 どろどろした性欲の深みの底から、怒りのパワーがふつふつと湧きあがってきて、猿楽一郎の中で、理性のタガがけしとんだ。
「うおおおおおおおお!!」
 この身体の奥から満ち満ちてくる力はいったい何なのか?!
 あろうことかあるまいことか、猿楽の裸の肉体に、鋼鉄のような筋肉が隆起し、得体の知れないパワーが全身にみなぎった。
 ブチン! バキン!
 彼の両腕を拘束していた、人間の力では絶対に切れないはずの、皮のベルトがぶち切れ、金具がふっ飛んだ。
「な、なんやて?! そんなアホな!」
 猿楽はベッドからのっそりと起き上がった。
 ふしゅ――っ、ふしゅ――っ、と大きく肩で息をつく。その身体からは、まるで力のオーラが立ち上っているかのようであった。
 異常に膨れ上がった筋肉、信じられないほどのキングサイズの男性器は赤黒く輝き、そして、その目には怒りの炎がメラメラと燃えていた。
「よくも……よくもよくも! おまえらどうしてやろうか……!」
 凶悪な敵意をむき出しにした猿楽が、錦華と悦子に向かって歩みを進めた。
 
「ちょこざいな! 悦っちゃん、いてもうたれ!」
「はぁい! 先生!」
 懐に隠し持っていたトンファー(作者注・45センチほどの木の棒に、握りをつけた武道具、両手二本を一組として用いる。熟練した使い手によれば、攻守多彩な技が可能である)を振りかざして、気合もろとも猿楽一郎へと踊りかかった。
「うりゃああああああああ!!」
 須田悦子が繰り出すトンファーの、右からの水平打ちから、下段払い、左からの上段突きの連続攻撃を、あっさりとはねのけた猿楽が、悦子のさらなる捨て身の正面蹴りをかわして、正拳で当て身を入れると、「うぐっ!」とうめき声を残し、看護婦は悶絶した。
 
 勝ち誇ったように、猿楽は仁王立ちになった。もちろんナニも仁王立ち……。しかし、それで終わりではなかった。
 猿楽はぐったりした須田悦子の身体を持ち上げると、ナース服の前あわせを引きちぎった。ボタンがとび、布地が引き裂かれ、看護婦の真っ白な下着につつまれたグラマーな肉体があらわになった。
「いや―――っ!!」
「きさま! 悦っちゃんに何さらす!」
 猿楽はブラジャー、パンストと、怪力にまかせて引きちぎり、いやがる女をあっという間に裸にしてしまった。
 これはいかんとばかり、江錦華は実験室の片隅にあった、実験動物用の檻を開け、3匹のマングースを解き放った。
「行け! アホの猿楽を食い殺したれ!」
 錦華の命を受けたマングースが牙をむいて、いっせいに猿楽一郎に襲いかかる。ああ、猿楽の運命やいかに?!
「俺様のキング・コブラにはマングースってか?! 笑わせるんじゃねえ! こんな小動物!!」
 パワーアップした猿楽が徒手空拳を一閃させると、あわれなマングースはなすすべもなく、けしとんだ。
 そして、猿楽が3匹の獣のしっぽ束ねてつかみ、ぐるんぐるんと風車のようにぶん回して手を離すと、まるで弾丸のように放たれた物体は、あ然とする江錦華の脳天を直撃した。
 ズドン! ドシン! バキッ!
「うぎゃ!」
 ――江錦華の攻撃力はマイナス50。彼女は、戦闘不能におちいった。
 
「へっへっ……ざまあねえぜ、サナダムシ女! さあ、来な、悦っちゃん! 俺が可愛がってやるぜ!」
「いやっ! いやっ! やめてぇっ! 先生、助けてぇっ!!」
「このデカパイ! おとなしくしな! もう、ガマンできねえ……。そうだ……このオッパイちゃんに俺のチンコをくわえさせて、と」
 猿楽は女の上にのしかかると、悦子の巨乳の谷間に自分のムスコをこじ入れた! 男の欲望丸出しのパイズリ攻撃!
 猿楽の、常識はずれにいきり立ったシロモノは、須田悦子のヒマラヤ山脈のような谷間を突き抜けて、そのきっ先が彼女の口にまで達する巨大ぶり!
 ピストン運動につれてぶるんぶるんと揺れる、悦子の真っ白な乳房は、たちまちのうちに、汗とよだれと、猿楽が分泌する透明なおツユとで、ぬめぬめとてかり始めた。
「ほぅれ、自分でおっぱいを押さえて、はさみつけるようにしやがれ、悦っちゃん!」
「んぐッ……うむッ……うう~~~~ん!」
「あうッ……い、イキそうだ! イキそう!」
「んむぅ~~~~~~~ッ!!」
 ドピュ! ビュルッ! ビュッ!
 大量に吐き出された異常に濃厚な白濁液が、須田悦子の口腔からあふれ出し、顔面から首筋から、胸の谷間まで、ところかまわず汚しまくった。
「ごほっ……! ごほっ……! げえっ……!」
 悦子はたまらずに悶絶した。
 しかし、猿楽のナニは、大量の精をはなったにもかかわらず、いっこうに萎える気配を見せず、天井を向いたまま、ビクンビクンと脈打っている。
「おおお! みなぎってる! 力がみなぎってるぞおおお!!」
 
 猿楽は、裸のままぐったりしている江錦華に目をつけた。
「ど~~れ! 女医先生にも俺のナニをはさんでもらおうか!」
 乱暴に彼女の腕をつかむと、引きずるように身体を起こした。
「堪忍して……! うちはムリやて……」
「あ~~ん? 手のひらサイズの美乳ってかあ? ……ただの貧乳じゃねえか!
 どーれ、俺が揉んでやりゃちったあ大きくなるかな?!」
 モミモミモミモミモミモミ……。
「いやん……! ああん、あふん……!」
「感度はいいようだな。乳首がたってきやがった。ほんとに淫乱な女だな、おまえは。
 さて、パイズリがムリなら、下のお口でご奉仕してもらおうか」
 
「いやあ! そんなんおっきなの挿れられたら、うち壊れてまう! 堪忍してえ!」
「ビール瓶平気で咥えこんでるような女が何言ってやがる!」
「う、うち、そんな女と違う!」
「ほれ、四つん這いになってケツ向けな」
「痛っ! こ……こんなカッコいやや」
「ほんとは好きなくせに、澄ましてるんじゃねえ! ……さあ、おねだりしてみな」
 錦華が恨みがましい目で猿楽を見上げた。
「おどれ……増長しくさって……。こんなことしてただで済むと……」
「ただで済まないのはてめえの方だッ!」
「ひィッ!!」
 猿楽の指先の強力が、錦華の敏感な部分を攻めた。アヌスと、膣口に指を突き入れ、ぐりぐりとかき回す。
「痛い! 痛あい! やっ……やめてぇっ! 堪忍……堪忍してぇっ!!」
「このまま肛門から直腸引きずり出されてぇかっ?!」
「いやあああ――――っ!! ゆ、許してぇ――――っ!!」
 猿楽が力を抜くと、江錦華はがっくりと崩れ落ちた。
「おまえの虫食いの腐ったマ×コに、俺の立派なモノを挿れてさしあげようってんだ。しっかりお願いしないともっとひどい目にあわすぜ! それに猿楽猿楽と猿回しみたいに気安く呼ぶんじゃねえっ! 猿楽先生と呼べ! 先生と! ……ほれっ、きっちりと口に出して言ってみな!!」
「さ……猿楽先生の……」
「先生の?」
「……立派なモノを、ど……どうかうちの、くッ……虫食いの、腐れオ×コに……ぐすんっ……」
「おっ、泣いてるのか? よく聞こえねえぞ」
「猿楽先生の、立派なモノを……! どうかうちの、腐れオ×コに……! い、挿れたってくださあああい!!」
 
「ちゃんと言えるじゃねえか。それじゃあ、ご褒美に……」
「ひぎぃッ!!」
 猿楽は、錦華の腰を後抱きに捕まえると、彼女の膣口に自分の巨大なペニスの先端をあてがうと、一気に突き入れた。
「うぎゃ――――――ッ!!」
 すでに十分に濡れているとはいえ、金萬丹の効力で、非常識なまでの大きさに勃起した猿楽のイチモツを突き入れられた錦華は、まるで内臓が喉元まで押し上げられるような感覚に、悲鳴をあげた。
 猿楽はかまわず、錦華の中を、思うざまかき回した。
 突いて! 突いて! 突いて!
「いやッ……! あひッ……! ひぎぃッ……!」
「うっ……! うおおっ……! いいぞ……! いいぞぉ~~~っ!!」
「ひぃっ……! 子宮までえぐられとるぅ~~~~! えぐぅ~~~~!」
 ズポ! グチュ! ズブ! ジュポ!
「そおおおれ! こみあげてきたああ! 錦華の中に出すぜえええ!!」
「ひぃッ! お願い……! 中は……中は、堪忍したってぇ~~~~っ!!」
「お約束な哀願してんじゃねえ~~~ッ! そおれ、イクぞおお!」
 ドクン! ドクン! と、まるで音が聞こえたかのような膣内射精。
 熱くたぎったマグマの奔流が、子宮まで一気に流れ込んだような感覚に、江錦華は、のけぞって悶絶した。
 
 バックで結合したままの二人に浮かぶ、悦楽の表情。行為のあとの、しばしの余韻。
 猿楽がずるりん、とペニスを抜くと、錦華の膣口から、今放ったばかりの大量の精液がどろ~~りと流れ出した。
 ややあって、錦華の肉襞が収縮し、ブリュッ、と卑猥な音がすると、身体の奥まりまでとどいていたはずの白濁液が排出された。
「ハア、ハア……。射精したってのに、まだ勃起したまんまだぜ。すげえ効き目……」
 ――つまりこのままでは終わらないってことか。
 こっちもこれで終わらせる気はないけどな……。
 
「錦華! こっちに来な!」
「何するん……?」
「決まってるだろ?! 淫乱女医と巨乳看護婦と、まとめて面倒見てやろうってんだ!」
 長い髪の毛をつかんで、まだ足元のふらついている錦華を無理やり引っ張ってきて、
「痛いっ! あんっ……!」
 仰向けになってのびている須田悦子の上に、重ねてしまった。
 つまり、悦子が下で、錦華が上、お互いに抱きしめあうかっこうで、肌を密着させ、太腿をからめあうと、大きな二つのヒップの谷間に、二人の女の肉の花弁が、たてにふたつ並んで、卑猥で、肉感的な眺めがそこに……。
 錦華も猿楽が何を考えているのか察しがついて、顔色を変えた。
「この……ケダモノ」
「いいカッコだぜ。さあ、どっちのオマ×コちゃんから味わわせてもらおうか」
 
 猿楽は、二つの大きな尻をなで回すようにしていたが、やがて下になった悦子の太腿をおもむろにガバッと持ち上げると、有無を言わさずに男性器をえぐり込んだ。
 ぬぶぶぶぶ……。
「いやッ……!」
「ひッ……!」
 バランスを崩した錦華が、つんのめる。
 悦子の小山のような乳房の上から、錦華の小ぶりな乳房が圧しつけられた。
 無理な体勢での結合だったが、尋常でないサイズのペニスがそれを可能にした。猿楽は、二人のヒップを同時に抱えるようにして、激しく腰を振りはじめた。
「すっ……すごいいっ! 先生に犯されてるみたいぃ……!」
 ジュプッ……! グチュッ……! ジュボッ……!
 硬く巨大なイチモツが、悦子の中を出たり入ったりするたびに、錦華の会陰部をぬらぬらとこすり上げる。
「悦っちゃん……あっ……ふんっ……動かんといて……! うち……うち……!」
「先生っ! 先生っ! いいっ……! いいのぉっ……!」
「さて、こっちのマ×コの具合はどうだ?」
「いやっ! 抜かないで……!」
 猿楽は、ペニスを悦子から引き抜くと、上になっている錦華の肉襞の奥まりに向けて、バックから挿入した。
 ずにゅ~~~~~っ。
「ひああああああああっ……!!」
 反射的に錦華が逃れようとすると、その動きが下になっている悦子の性感帯を刺激した。
「あひいいぃん……!」
 悦子がのけぞって、切なそうな声をあげる。
「いやっはぁアアアん……!!」
 錦華もたまらずに大きくあえいだ。
「せ……先生の中で、動いてるのがわかるぅ……! すごい……すごおおい!!」
 二人の女と一人の男は、肉体どうしが完全につながって、ひとつのかたまりとなった。
 お互いの結合部からあふれ出た体液が、すべりをよくしていた。
 激しい動きに、思わずブルンッ、と飛び出したペニスを、男は遮二無二突き入れた。
 腰が密着し、女性器どうしが合わさった肉の隙間に、赤黒い肉棒が割り込んで、女のいちばん敏感な部分を刺激する。性器の挿入感とはまた異なる、肉のこすれ合う感覚に、二人の女は抱き合ったまま悲鳴をあげた。
「いいッ! そこっ……いい――――ッ!!」
「か……硬いのんが、あたっとるう―――――ッ!!」
 
 挿れて、抜いて、また挿れるという際限のない交わりの果てに、猿楽にはこの日何度目かの射精感がこみ上げてきた。
「ううッ……出るぞぉっ! 出るぞぉっ……!!」
「中に出してぇっ……! あたしの中に出してぇっ!」
「うちの中や……! うちの中に……!」
 切ないあえぎ声をあげながら、おねだりする二匹のメス――。
 オスは、絶頂への高まりの中で、ええいめんどくさいとばかりに、破裂寸前のペニスを引き抜くと、シャケのオスがメスの産んだ卵に精子をふりかけるように、二つの尻に向けて、思うざまザーメンを発射した。驚くほどの大量の白濁液が吐き出され、錦華と悦子の尻肉の上にふりそそいだ。
「ああん……」
「うふん……」
 ぜえぜえと肩で大きく息をつき、最後の一滴までふり絞ったかのような猿楽だったが、まだイチモツには硬さを残しているような感覚があった。おそるべき金萬丹の効力……。
 しかし、愉しい時間は長くは続かない。その時、猿楽の身体に異変が起こった。
「うげぇっ……!」
 猿楽はがっくりと膝から崩れ落ちた。口からは涎を垂れ流し、床につっぷした。
「?????!」
 四肢がつっぱり、目がくらみ、喉が異常に渇いた。頭が割れるように痛かった。
 いったい何が起こったのか?! 突然の身体の変調の原因は何なのか?!
 猿楽は何もわからないまま、床に転がって、反吐を吐きながらのたうちまわった。
 
「どうやら活動限界か……。まあ、こんなもんやろ」
 ゆっくりと身体を起こしたのは、普段どおりのクールな江錦華だった。
 この女、いつものことながら、この変わり身の速さはいったい……。
「金萬丹は、単なる精力増強の薬やない。
 人間の潜在的な筋力を高める効能があるんやが、その原動力となるのにいっちゃん手っ取り早いのんが『怒り』ちゅう感情や。
 怒りのエネルギーに触発されて、言うてみりゃ火事場の馬鹿力を発揮するちゅうわけやが、あんた単純やからうまいこと効いてくれたで」
「ごほっ! ごほっ……!」
「怒り心頭に達することによって、理性のタガがはずれる……。それといっしょに筋力にかかっとるリミッターも解除されるんやな。理性をかなぐり捨てて、その人間本来の正体を表した、と言えんこともないな。くっくっくっ……。
 まあ、しかし、何や……。効き目は長続きせえへんかったっちゅうことでな。あとは一気に副作用がきた、とまあこういうわけや」
 
 ――その時、僕は彼女に向かって何か言おうとしたのだが、猛烈な吐き気に襲われて、とても言葉にはならなかった。
「いろいろとあんたの本音は聞かせてもろたが……ま、よしとしとこ」
 彼女は何事もなかったかのような淡々とした口調で、そう言った
 薄れゆく意識の下で、僕の目に映ったのは、長い黒髪を掻きあげて、居ずまいを正す江錦華の姿だった。
 

―――――
 
「雪やな……」
「雪……ですね」
 研究所のラウンジルームはドーム型の大きな天窓が、空に向いていた。
 深い闇の彼方から、真っ白な雪が、まるで桜の落花のように降ってくる。
 江錦華は、強化ガラスの向こうの夜空を見上げながら、煙草に火をつけた。
 ラウンジルームの微細な照明を浴びて、彼女の長い黒髪は艶やかな光を放ち、真紅のチャイナ・ドレスの上にはおった白衣さえ、輝いて見えた。
 ドレスのスリットからのぞく、長く、白い脚が、野生のカモシカを思わせた。
 
「気分はどないや?」
 江錦華が、背後にいるはずの猿楽一郎に問いかけた。
「まだ少し頭痛が……。でも、だいじょうぶです」
 ほんの数時間前の、あの狂態がまるで嘘のように、錦華は冷静で、そして毅然としていた。
 しばらくの沈黙ののち、彼女が口を開いた。
「なあ、猿楽」
「何です?」
「猿楽は気にならんか? 神保主任の患者や」
「キャシー竹橋のことですか?」
「ときどき極端な鬱状態に陥るが、メンタルな部分を除けばまったくの健康体や。
 ま、それよりも特筆すべきはあの化け物じみた体力や」
 ずいぶん唐突な話題だな、と猿楽は思った。
 でも確かに、キャシー竹橋の症例については、研究所でこのところ密かな話題になっていた。
「キャシー竹橋のフィジカル・テストの結果は見たやろ?」
「はい、見ました」
「オリンピックの金メダリストどころのレベルやないで」
「凶暴化したキャシー竹橋を力で取り押さえられるのは、水道橋所長だけですね」
「あれはいわゆる気の力……キャシーの力を逆に利用して、所長が彼女を押さえ込んどるんや。筋力で所長がキャシーにまさっているというのとはちゃう」
 錦華の言うとおりだろう、と猿楽は思った。
「キャシー竹橋の場合、確かに幼い頃からの訓練の成果が大きい。せやけどそれだけでは説明できんほど、彼女の運動能力は群を抜いとる」
「筋肉増強剤の類では?」
「いわゆるドーピングの可能性も考えてみた。しかし、ホルモン系の筋肉増強剤を常用した結果やったら、彼女の身体はもっと男性的なものになっとるはずや。
 確かに女性としてはごっつい筋骨やが、キャシー竹橋の肉体はあくまでも『女性的』や。あのフェロモン出しまくり、悦っちゃんや神保主任をはるかにしのぐ巨乳、デカ尻をどう説明するんや?」
「………………(赤面)」
「これは仮定やが、むしろ脳運動野の機能の活性化、神経系の興奮作用が根本にある気ぃがする」
「興奮剤とか?」
「それやったら、金萬丹は現段階で考えられる限り、最高の精神高揚・興奮をもたらす薬品や。けど結果はさっきのとおりや。一時的に目覚しい効果はあっても、持続力はあらへん」
「僕は背反実験の実験台ということですか?」
「フフフ……まあそう怒りないな。それなりの対価は払うたつもりやで」
「…………」
 ――対価って……何言ってるんだ、この人。
 猿楽の表情が曇ったのを、錦華は気づいていたのか。
 
「MCウルトラって、知っとるか?」
「聞いたことありますね」
「1970年代まで、米国の軍隊で実験が行われていたという記録が残っとる。
 詳しくはわからんが、戦場での恐怖を克服する兵士をつくりあげるために、被験者に強力なマインド・コントロールを施し、一種の超人に変えようとしたらしい。しかし……」
「実験は失敗、計画は中止されたはずでは?」
「せやな。被験者の多くが狂死……。民主国家の枠の中では、それ以上の、人道を踏み外した実験を続けることはムリやったんや。
 しかし、世界のどこかで、細々と実験が続けられていたとしたら?」
 
 ラウンジルームに、重苦しい空気がただよっていた。
 今日の江錦華は、なぜかしゃべり過ぎる……。
「キャシー竹橋のメンタル・テストの結果は神保主任が握っとる」
「神保主任は出張中です。おかしな気は起こさない方がいいですよ」
「くっくっくっ……うちに忠告してくれるんか?」
 江錦華の背中がかすかに笑っていた。
 この人はいつもそうだ。皮肉で、人を小馬鹿にしたような態度を取る。
 
「妙な噂を 聞きましたよ、錦華さん。あなたは生まれ故郷である中国政府の……」
「言わんとき!」
 鋭い視線で、錦華は猿楽をにらみつけた。
 気まずい沈黙が二人の間に横たわった……と、思った瞬間、江錦華ははじかれたように笑い出した。明るく、乾いた、短い笑いだった。
「うちは両親に死に別れ、兄弟姉妹もおらん天涯孤独や。国家やなんやっちゅうしがらみには興味あらへん」
 そうだったのか……。そういえば、彼女の家族や、生い立ちの話なんて聞いたことがなかったけれど。
「さあ、この話はここまでや」
 錦華は、話をさえぎるように、大げさな身振りで手を振った。
 
「さて、と」
 江錦華は、この時ようやく猿楽に正面から向き合った。
「今日はもう上がりやろ? 世間ではクリスマスっちゅうことらしいやないか。
 どや? うちを誘うて、お台場のお洒落なワイン・バーにでも連れてってんか?」
 
 ――彼女の瞳は、僕の目を直視していた。
 その時、彼女の顔に浮かんだ微笑が、ひどく優しいものに見えて……。彼女とイブを過ごせたら、とても素敵な夜になりそうな気がして……。
 でも、でも……やっぱり、そんな気分にはなれなくて
「すっ……すみません! 用事があるんで、失礼します……!」
「そうか、残念やったな……。ほな、また別の機会にな」
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 逃げよった……意気地なしが。
 いっつもこうや……。
 人間、たまには優しゅうしてもらいたい時かてあるもんや。
 せっかくのクリスマスやで。今夜一晩ぐらい、可愛い女を演じてやってもええと思うてたのに。
 せっかくのチャンスを、あんた逃したんやで、猿楽……。
 
 残念……やったな。
 
 江錦華は、一人きりになったラウンジルームで、もう一本、煙草に火をつけると、大きく煙を吐いて、夜空を見上げた。
 雪は、やむ気配すら見せなかった。

< 終わり >

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