指と玩具 第十話

第十話

・・・・・私の側にはいつからか一人の少女がいました。
弱虫で、体がちっちゃくて、人見知りが激しくて、自分一人では何も出来なかった私の側に。

もうずっと遠い昔のことで彼女と初めて出会ったのがいつのことかはっきりと思い出せないけれど、はっきりと覚えているのは幼い彼女の笑顔。
人見知りの私が拒絶してしまったのにもかかわらず微笑んでくれた彼女の微笑だけがとても印象的でした。

――――――友達。
それだけの言葉と差し伸べられた小さな、丸い手のひら。
だから私は泣きました。
急に胸の内から熱くなって、そして――――――――たまらなく嬉しくて。

それからとても長い時間が経ちました。
その時間の中で私は彼女を知り。
彼女のおかげで私は強くなり。
彼女のおかげで笑えるようになり。
彼女のおかげで初めて・・・・・・自分を好きになれた。

そんな時間の全ては私にとって、とてもかけがえのなく決して忘れることの出来ない大切な時間でした。
ずっと彼女は私の理解者でいてくれたし、私は彼女のために出来ることをいつも探し続けていました。
いつも胸の中にある思いは一つだけ。

―――彼女が笑ってくれるなら私は何だってする。
それだけでした。

・・・でも彼女との別れは唐突。
ある日を境にして彼女は、私の記憶の中にある彼女と一致しなくなった。
外見はいつもの彼女でも、中身は全く違う赤の他人になっていたのです。
彼女が私に見せる笑顔は考えられないほどのぞっとする妖艶な微笑みに変わりました。
彼女が私にかける言葉には、もう彼女らしさが残されていませんでした。

手のひらから水が零れていくような錯覚。
呆然と、目の前に映る全てのものが全て嘘のように感じられて。
何かをしてあげたいと思っていた彼女はもうそこにはいなくなっていて。

涙が溢れました。
何も出来ない自分が恨めしくて。
何の力もなかった自分が悔しくて、歯がゆくて。

惚けた彼女の表情に見惚れてしまった自分の存在に気づいて―――――――。

目を覚ます。
頬を指でなぞると水滴が指に付着した。

夢の中で見たあの子の妖しげな微笑。
別人のような、娼婦のような微笑を思い出す。

パジャマの下の下着に違和感を覚え手を伸ばしてみる。
伸ばした手に触れて分かったのは湿った感触。

「・・・・・くぅ・・・ふっ・・・・・・・」

別に何を思ったわけではなく、ただむず痒くて下着越しに軽く擦り上げてみる。

「・・・・・ふぁあっ」
ただそれだけの事に自分でも驚くくらいの大きな声が上がってしまう。

目覚めたばかりで何をしているのだと自分を問い詰めるが、指は止まることを知らないように怖がりながらも自分を慰めようと勝手に動いてしまう。

「んっ・・・駄目、私、何をっ・・・・・」

濡れた下着が気持ち悪かったのか、腰の辺りから広がる疼きに耐えられなかったのか私は下着を下にずらしていた。
自分自身に対する嫌悪感と、このまま自慰を続けることへの甘い期待。

「んあっ・・・」

最初はただ指で擦る程度の拙い自慰。
けれどもそれだけでは十分な性感は得られないと分かったのか、次は控えめながらも爪で壁を軽く擦り上げる。

「ひぃんっ」

甘い陶酔。
爪が内壁を掠める度にえもいわれぬ甘い陶酔に陥る。
一擦り一擦りに全身から力が抜け、代わりにもっと欲しいというくすぶっていた欲情の炎が激しさを増していく。

もう弱い刺激では満足できるほどの性感は得られない。
一本の指だったのが数を増し今となっては三本。
奥に眠る快楽の元を探り当てるようにして指を奥まで潜り込ませ、その過程にある内壁から少しでも快楽を得ようとして捏ね繰り回し。

「・・・ぅ・・・ああぅ・・・んああ」

本格的な自慰を始めて早数十分。
激しい指の動きは自分を限りなくオルガズムへ近い場所へ導いていくが、それはあくまで限りなく近いだけ。

「・・・イケないっ・・・んんああっ、どう、してっ」

全身の疼きを沈められない今、ふやけた指が生み出す快楽も、掬い上げるようにして揉む胸から得られる快感も一種の苦痛であった。
行われる行為の一つ一つは脳を蕩けさせながらも自らを決してたどり着けない場所へと誘っていく。

「ほ、欲しいのっ・・・あれが、欲しいのっ」

グチョグチョと卑猥な音を立てて蜜を漏らすそこを嫌悪しながらの自慰は何に換えられることなく気持ちが良いもの。
さらに”見たこともない”ものに心を馳せ自分の指を”それ”と想定して行う行為。
・・・それで登りつめられないのは自分からすれば嘘だった。

トントン。
外からドアをノックする音が聞こえ、その音が麻痺していた脳を一瞬だけ正常に戻す。

『久須美、どうかしたの?』

その言葉に背筋が凍りつく。
―――私の声が聞こえて、いた?

「な、何でもないのっ」
私は自分でもはっきりと分かる、動揺した声で返事を返した。
返ってくるだろう返事を、死刑を宣告された囚人の気分で祈るように待つ。

『・・・・・そう?じゃあ朝ごはんはテーブルの上に用意しているから。学校へ行く前に食べて行きなさいね』

・・・今度こそ全身から力が抜けた。
はぁと大きく息をつき呼吸を整える。

「・・・分かった。ありがとうお姉ちゃん」

●●●●●●●

辺りは薄霧がかり細かな水滴に、雲の隙間からわずかに射し込み始めた光が反射する。
そんな登校路には俺以外の誰の姿、犬一匹として見当たらない。
昨日は日曜だったため疲れは残っていないが眠いものは眠く、俺は一人生欠伸をかみ殺す。

まぁ、それはともかくどうしてそんな時間にこんな所をうろついているかと言うと・・・。

【明日、五時半、いつもの体育倉庫で友美と一緒に待ってます】
                              From:秋穂。

昨日の夜に受信した一通のメールの内容がこれだ。
正直俺としてはこういう形で一方的に呼び出されるというのは気に食わないのだが”友美と一緒に”という言葉が気になってしまった。
わざわざ友美と一緒にと書いたのは友美の調教がある程度進んだからなのだろうと思うが・・・・・。

―――気になる。

それが俺の最終的に下した判断だった。
気に入らないのは気に入らないのだが、もとより俺は娯楽のためここに潜り込んだ。
だから無碍に断る必要など微塵もない。
言い訳のように自分に言い聞かせ、返事に【分かった】と一言だけ返しておいた。

・・・まぁ所詮は素人の調教であるわけで期待を満たすほどの成果を挙げているとは思えんと頭では分かっていても、友美のマゾッ気の方が俺の予想を上まっていることも考えられると思うわけで。
そんな浅はかな期待を抱きながら今に至るわけで。

やがて長い校門の塀も終わりを見せ始めた頃、急に俺の脚が行動を停止する。

「なっ・・・・・・・・門が・・・・・開いて、ない」

気温が上昇しているためか、それとも他の嫌な理由でもあるのだろうかこめかみから一筋汗が流れ落ちる。
ーーー全くの予想外の出来事。
仮にここが普通の学校であるならば門を乗り越えることで事は成る。
・・・普通の学校ならば。

だが門に堂々と監視カメラを備え付けられている手前乗り越えるということをしたくはない。
事務か警備の人間くらいは居るだろうが、時間が時間だけになぁ・・・。
数百メートル進んだ教師専用の裏門に行く、というのも選択外の答え。
かと言ってこのまま此処でじっとしておくというのも癇に障る話だ。

「・・・・・・・・・・・むぅ・・・・・・・・」

自らの中で問答を重ねること数分。
ただ門の前で立ち尽くす姿は我ながら情けなく感じる。

(そもそも・・・・・・)

そもそも秋穂達は学園内にいるのだろうか?
あいつ等が入ったのならここの門は開かれているはずで俺がここに佇む道理はない。
と言うもののあいつ等が校内にいないとは思えない。
・・・・・・・・とすると考えられるのは、秋穂達は門が閉められる前からずっと校内に留まり続けている、か。

むぅ、と唸る。

「・・・・・まだ開いてないのねー」
「・・・・・ええ」

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?)
不意打ち。
いや、不意打ちと言うか完全に気配はなかった。
俺は完全の予想外の発現に飛び退き、後ろを振り返る。

(・・・・な・・・・・・・)

神楽坂――――――?

薄いベージュ色のブーツカットパンツ。
内にキャミソールとアイボリーのカーディガン。
それから肩に掛けたバッグ。
学校勤務と言うよりかは遊びに行くOLと言ったほうが正しそうな服装。

不思議そうに微笑む表情にも大人の女性っぽさが溢れ、窮屈そうに押し上げる胸の突起。
俺が見たジャージ姿とは印象がかなり違うが目の前の女性はまさしく――――――。

「おはよう、折笠君」
「・・・・お、おはようございます」
少しだけ上ずった、警戒するような挨拶を返す。

「門が開いてなくて困ってたんでしょ?」
「え、ええ。まぁ」
「そっか。転入してきたばっかだもんね。・・・ほら、そこの機械。あそこに生徒証明書―――私の場合はカードだけど―――を差し込んで本人かどうかチェックしたら門が自動的に開くようになってるの。知らなかった?」

(・・・・・・・・・・・・・初耳だそんなの)

「ふふ、初耳だって顔してるわね?・・・まぁ六時半ごろになったら常に開かれてる状態に変わるから知らなくても仕方ないか」
そう言いながら神楽坂は自分のカードを機械に差し込む。

ガラガラ。
数秒後、俺の侵入を拒み続けていた門は面白いほどたやすく身を引く。

(・・・・・・・・・・・・・堪らなく悔しい)

「さ、入っても良いわよ?」
俺の心のうちを見透かしたような神楽坂の笑顔が癇に障る。

「・・・・・・・・・・・・・どうも」

●●●●●●●

なんとなく悔しい思いでグラウンドを横切っていく。
門を過ぎてからも神楽坂の「何故今日はこんなに早いのか?」とか以前も聞かれた「クラブに入ってみるつもりはないか?」とか余計な質問に答える羽目になったし、ついでだから職員室でお茶でも飲んでいかないかなどという誘いを受けたり、それが実は溜め込んでいた書類の整理を手伝う布石だったりと。

まぁ確かにあれほどの美人と話し合う機会があったと言うのは悪い気はしない。
しかしいつ頃から書類を溜め込んでいたのだろうか神楽坂の溜め込んでいた書類と言うのは半端な数ではなかった。
その数数え切れず。
全ての整理が終わった頃には約束のはずだった五時半をとうに過ぎてしまっていた。

(くそ・・・・・・・秋穂め・・・・・・・)

生半可な調教の成果など見せてみろ。
その時こそ目に物を見せてやる。

キィっと錆びた間抜けな音を響かせながら体育倉庫の扉が開き、開いた扉の向こうからむわっとした熱風とカビ臭い匂い。
そして――――――よく知った女の匂いが流れ出してくる。

「・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・」

外の光で馴れた目が薄暗い倉庫の中を視覚出来るようになるまでに僅かな時間を要し、そしてその中の光景が映し出され俺は―――――息を呑む。

目の前には魅せ付けるようにして大きく股を開かされている一人の女。
下着も何も身につけていないために秘所があらわとなり、蹂躙の痕跡が残るそこからは女の匂い漂う蜜が流れる。
ほんの数時間前まで蹂躙を続けられていたにもかかわらず性器は物欲しげにヒクヒクと蠢き男を怪しく誘い立て脳を妬く。

「ぶ・・・ぶぁあ・・・・・」

ポールギャグを咬まされた口から時折漏れる声に意思はなく、黒い皮のアイ・マスクの奥の視線もおそらく焦点を定めてはいないだろう。

「・・・・・驚きましたか?御主人様」

その女―――友美―――を背中から抱いている女、秋穂の声が狭い体育倉庫に響き渡る。

「・・・いや、正直驚いた。お前の声がするまで目の前の女が誰だか分からなかったくらいだ」
「私も友美がここまで従順になってくれると思ってなかったんですよ」

秋穂は目を閉じくすりと笑うと慣れた手つきで真っ赤に腫れ上がった友美の淫核を爪で撫で上げる。

「う゛~~~!!う゛う゛ぅ~~~~」

ポールギャグを咬まされている為まともな喘ぎ声を上げられず、秋穂に抱きしめられているため身動きも取れず。
苦しそうな喘ぎ声を響かせ、次第に力をなくしたように友美の頭が垂れ下り、唇の端から漏れた涎がマットの下に落ちていく。

「ご主人様、これ何だか分かりますか?」

秋穂が取り出したもの・・・それは。

(バイブ・・・とアナルビーズ?それもまだ開発し切れていない友美が使うべきサイズではないな・・・)

「こんなに大きいの友美ったら飲み込んじゃうんですよ?抜くときだって”抜かないでください”なんてはしたないお願いだってしたし」

秋穂は、意地の悪そうな笑顔を浮かべ続けて淫核に刺激を与え続ける。
その笑顔の中には友美に対する嫉妬のようなもの、そして秋穂自身それを悦んでいるような妖しさが含まれているように感じた。

友美の口からギャグが外され自由になった口からはクリアに喘ぎ声が漏れ始める。

「んふっ、ふああ・・・んんむぅ!!」

「はしたない声を上げちゃ駄目じゃない友美」

声を上げる友美の口内に滑り込む秋穂の白い指。
友美は口内に入り込んだ異物を従順に吸い上げ、舌を絡ませ、まるで男性器を愛撫するように愛しげに舌を這わせる。
その喜びの伴った表情は数日前の、反抗の意を示していた友美のそれとは大きく異なった――――――別人のものだった。

指に付着した友美の涎を、固く勃起しているさくらんぼ色の擦り付け愛撫を始める。
その加減ももはや熟知しているのか秋穂は友美をイかせないように、それでいて性感を高めるように愛撫を繰り返していく。

「あ・・秋穂、様・・・くだ、ください・・・もぅ、もぅ・・・」

とうとう我慢の限界が来たのか。
何処か悦びに満ちた虚ろな表情のまま友美の口から弱々しく言葉が漏れる。

「だぁ~め」

「あ、秋穂様・・・も、もぅ我慢できません・・・・・」

友美の言葉は真実なのだろう。
先ほどまでは湿っていた程度のマットも流れ出した愛液によって今は小さな水溜りを作っている。

そして。
我が子を愛しむように目を閉じて微笑を浮かべていた秋穂がうっすら目を開く。
見つめる先は俺の眼。
何かを伝えるように媚びた笑顔を浮かべ目配せを一つ。

(・・・・・・・・・・・く・・・くくく・・・はははははははははははははははははははは)

なるほど。そういうことか。
それで目隠し、か。

「そんなにイきたいの?友美」

秋穂が問いかけると今までは絶望のような表情を浮かべていたのを一変し友美は顔を綻ばせる。

「ああっ、い、イかせてっ、イかせてくださいっ」
「じゃあ、もう私は友美の御主人様じゃなくなるからね?」
「んぁっ・・・秋穂、様・・?」

怪訝そうな表情を浮かべる友美の耳元に秋穂は口を近づけ、囁く。

「これからはもう私が御主人様じゃないの」

唇と耳たぶとがくっ付き合うほど接近して尚、秋穂は友美にしか聞こえないような小さな声で友美に語りかける。

「あ、きほ・・・様・・・?」
「友美、私の言うことは絶対でしょう?」
「あ、ああ・・・・ああぅ・・・」

一言一言、友美の心に浸透していく言葉。

「友美の御主人様は友美を気持ち良くさせてくれるヒト。友美を満足させてくれるヒト。・・・・・どう?私は”本当に”友美を満足させられていた?」
「・・・ぅあ・・・ああああ・・・」

秋穂の問いかけ。答えられない。

「満足していなかったんでしょう?」
「・・・んうう・・・んあああ」

・・・違う。気持ちよかった。何物にも代えられないくらい。
でも違う。

「―――でも、目の前のヒトは、本当の友美の御主人様は友美を満足させてくれる」
「・・・ご・・・しゅじんさま・・・」

目の前は真っ暗。何も見えない。
なにもかんじられない。
いままでのできごとがぜんぶうそだったように。

言葉を拒絶できない。
心は真っ暗。
耳元で怪しく囁きかける言葉は自分を新しい色に塗り替えていく。

―――光が目を覆い、視界がぼやける。
ぼんやりと描かれ始めるヒトの姿。

「・・・んむっ・・・・ぷはっ」

ねっとりと交された口づけ。
絡まりあう舌と舌。
虚ろな瞳が目の前の男性の姿を鮮明に映し出していく。
そして新しく生まれていく絶対認識。

唾液が糸を引き離れていく口元を自分から追いかけ、また口づけを交す。

「んはぁ・・・んちゅうっ、ごひゅじんさまっ」

濁った瞳に移すのは目の前の新しい主人の姿だけ。
秋穂の姿は元から存在しなかったように消えている。
真っ白になった頭で貪るようにただ目の前の主人と口づけを交す。

「・・・友美、マットに手をかけて後ろをこっちに向けろ」

そう言うや否や友美は媚びた笑みを浮かべ俺の言葉に直ちに従う。
散々焦らされた秘裂からはどろりとした蜜が流れ、太ももまで垂れ流れる。
―――既に立場を理解しているのか物欲しげに尻を揺らすことはあっても催促の言葉は友美の口から漏れることはない。

「くっあああああああああああ、ああっ、ああっ」

いきなりの挿入に堪らず友美が声を上げる。
そのまま止まることなく友美の腰に手を当て前後に揺さぶり立てる。

「ひうっ、あ、あああ、太くて気持ちいいです、ああんっ御主人様ぁ」

数日前まで素人だったと思えないほどのキツイ締め付け。
そして腰を使い自らの肉壁に擦り付けさせる娼婦のような動き。
きつく締め付けられながらの何度もの前後のストロークに俺の性感も否が応にも高められていく

「・・・・・・・・・っ・・・・・くっ」

その予想を超えた動きに俺も堪らなくなる。

「あぁああ、もぅイク、イっちゃいますっ、ご主人様ぁっ」

息を荒げ潤んだ瞳を俺に向け、友美は絶頂を迎える許可をねだる。
俺は友美のその言葉を受け、返事をするように体の動きを早め、今まで以上に強く友美の腰に打ち付ける。

「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

一番深い所に差し込まれたとき、玉の汗を浮かばせた背中を弓なりに逸らし友美は絶頂を迎える。
収縮する膣内に痛いほど締め付けられ俺も友美の中に精を吐き出す。
ああぁと小さな声を漏らし、脱力したままマットに倒れこむ友美。

「はぁ、はぁ・・・あ・・・あぁ、あり・・・がとうございます。中に出してくださって・・・嬉しいです・・・」

友美は息も絶え絶えに搾り出すようにそう小さく呟くと気を失った。

「ふふ・・・どうでしたか?御主人様ぁ」
媚びたように甘い声を上げる秋穂。

「ああ、正直ここまで堕ちるとは思っていなかった」

(正直ここまで秋穂が調教に向いているとも思いもしなかったしな)
最後に関しては調教というより”洗脳”という表現の方が正しかったし、友美を焦らしているときの妖しげな表情の中にも自分が喜んでいたようにも感じられる。
ーーーーーもしかしたら俺と出会わずして秋穂と友美は今と同じ関係になっていたかもしれないな。

「・・・あはっ・・・じゃぁ御主人様ぁ、私のココにも・・・くださぁい」
そう言いながらブルマーの秘所を覆っている部分を横にずらし、二本の指で湿り立つそこを広げる。
数日も焦らされ続けている秋穂のそこは先ほどの友美と同じように男を誘いヒクヒクと妖しく蠢く。
そしてそこからはじんわりと男を吸い付かせる花の蜜が零れ出す。

先ほど大量に出したばかりのモノが疼く。
加えての秋穂の扇情的に唇を舐めるという仕草に完全に俺の情欲は掻き立てられる。

「・・・・・ねぇ・・?」

情欲に酔った虚ろな瞳。
妙に艶っぽい唇。

(・・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・!!)

このまま焦らし続けたらどうなるかという楽しみと今性欲を満たしたいという欲求との葛藤。

(しかし・・・拒絶しようにも・・・)
友美の調教は完璧だった。
その見返りとして抱くことを認めたため拒絶する理由が―――――――――。

「御主人様ぁ・・・語褒美、下さぁい・・・」

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・あった・・・・)

「秋穂、確かに友美の調教は完璧だった」
「・・・・じゃあ・・・」

「だが、呼び出す時間が悪かったな」
「・・・・・?」

「実はな、俺が来たとき学園の正面門は締め切られていたんだよ。・・・・・これはお前が罰を受けるに値するとは・・・・・思わないか?」
秋穂の顔が面白いほどに青白く染まっていく。
「で・・でもっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・でも?」

冷たい瞳。
その表情には一切の感情は無い。

「・・・・・・・なんでも・・・ありません・・・・・・・」
今にも泣き出しそうな顔をして秋穂は顔を伏せる。

「次は頑張れ」
俺はそう言い残し、背を返して体育倉庫を後にする。

それから体育倉庫の扉を閉じると同時くらいにまた中から気絶したはずの友美の嬌声が響いてくる。
・・・おそらく秋穂が八つ当たり半分で調教を開始したのだろう。

俺は体育倉庫から遠ざかりながらククっと喉を鳴らして笑う。

あんなに生意気だった友美はもうすっかり俺の奴隷になった。
別にもうこれ以上調教を加える必要はないだろうとも思っている。だが秋穂を抱く気はない。
次は秋穂がどれくらい耐えられるかというのを見たくなったからだ。

・・・あぁそれから朝っぱらからの労働の八つ当たり。

(・・・・・・・・くく、意地の悪い主人を持つと大変だな秋穂。・・・・・・・・くく・・あっははははははははは)

●●●●●●●

――――――真っ白な部屋。
その部屋はとにかく広かった。それは覚えている。
まぁ自分の背丈は小さかったし今からすればさほど広い部屋でもなかったかも知れん。

それはともかくとして、それは真っ白な部屋だった。
正方形の部屋には窓一つ無く、あるのは真っ白なシーツがかかったベッド一つ。
それから中からは決して開くことの無い真っ白な扉。

与えられたのは一本の黒鉛筆だけでそれ以外の何も無い。
考えたことを口に出せなかった俺はその分絵や文を白い部屋に記した。
―――少しずつ黒く染まっていく部屋。
床にはもう描けるスペースが無くなり、背の届く範囲で今度は壁に描き始めた。
やがてそれも適わなくなると今度はベッドのシーツ。
―――黒くなっていく世界と心。
そして自分の手を出せる世界は無くなった。

だからただ呆然と、自分が届かない世界に一人手を伸ばす。
その手には短くなった一本きりの黒鉛筆。

『惜しかったねぇ。もうちょっとだったのにね』

見上げるとそこには女の人がいた。
以前の部屋と同じで真っ白な白衣を着た女の人。

『言っても分からないかな?』

その女の人は俺の体を抱き上げる。
小さな体は軽がると持ち上げられて、とうとう女の人を見下ろすまでに高度を増した。

彼女は俺に微笑を向けていたようだが俺は彼女を見ていない。
やっと届くようになった真っ白な壁にひたすらに手を伸ばすだけ。

『分類分けすると貴方は必要の無い分類』

そのとき初めて俺は彼女の顔を見た。
つりあがった眼鏡の奥の、高純度のガラス玉のような瞳。
表情には笑顔を浮かべていても、無機質な瞳は冷たい光しか浮かべていない。
薄いピンク色の唇が続けて言葉を紡ぎだすがその言葉は俺には聞こえない。

【分かった。もう、いいわ。・・・貴方は必要ない・・】
(・・・・何処かで聞いたな)

最後に彼女は言葉を紡ぎだす。
当然その言葉は耳には入ってこない。

「・・・・・・・・・・・く・・・・・・・・・ん」

――――――白い世界が黒く塗り潰されていく。

「・・・・・・・・・・やく・・・ん・・・・・・」

そして最後の瞬間、確かに俺は聞いた。
残酷に放たれた”最後の”言葉を。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・”バイバイ”』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!?」
はっと目を覚まし体を起こす。
八時二十分。
太陽の光もいつの間にかすっかりと強くなり、誰もいなかった教室にも生徒達が揃いつつある。

「もう。もうすぐHRが始まるよ聖夜君。何度も起こしたのに!」
俺の隣にはあずさの姿。
言葉どおりあずさは何度も俺を起こそうとしたらしく少し拗ねたそぶりをしている。

(・・・・・・そうか・・・・・・夢か・・・・・・)
だんだんと記憶がはっきりとしてくる。
あの体育倉庫を出たのが七時前で、そこから光を探しに職員室へ向かった。
だがあいにく職員室には光の姿は無く、することもないので教室へ来て、更にすることもないので机に突っ伏していた、と。

「聖夜君、汗かいてるよ。・・・・・何か嫌な夢でも見た?」

(・・・・・・・・・・・夢・・・・・・?)

もはや夢の内容は記憶に無い。
だが胸は思い出せない夢に対して驚くほど早く、強く波打っている。

「・・・・あ、いや。多分そんな夢なんかじゃなかったと思うよ」
そう言い俺はいつもの作り笑顔をあずさに返す。

「そう?・・・うん、それだったらいいんだ」
あずさも納得したように頷き微笑を見せる。

「あずさちゃんはどう?」
「・・・?どうって、どう?」
「―――――――――夢は見てる?」

俺がそう尋ねるとあずさの眉がぴくんっと反応し、瞳も一瞬霞がかったように変化する。

「ゆめ・・・見ました・・・ちゃんと」
意思のない声で小さく呟いた後、すぐさまあずさは一瞬のまどろみから開放される。

「あ・・・あれ、私何やってんだろ。あはは、これじゃあ寝てたのはどっちか分からないね」
「はは、そうかもね。夜はちゃんと寝たほうが良いよ」
「・・・うん。そうだ、ね。・・・じゃあそろそろ先生が来るから」

独り言のようにそう呟くとあずさは夢遊病者のような不安定な足取りで自分の席まで戻っていく。
そしてあずさが席に付くのとほぼ同時に光がHRを始めるために教室の扉を開けた。

また、一日が始まる。
楽しくて楽しくて仕方が無い一日が―――――――――。

●●●●●●●

「え~それじゃあ今日はここまで」
野太い声の物理教師がそう言って自分の教科書を閉め、日直に挨拶をするよう促す。
そしてお決まりの予定調和を終え、教師が教室から出た瞬間俺は力を失い机にぶっ倒れる。
(・・・・・・・・・ほんの数時間前までの興奮が・・・・・・・体力が・・・・・・)

黒い欲望に身を焦がし、最大限までに高められた興奮もここでは形無しだった。
つまりは俺はここを甘く見ていた、ということだ。

一時間、二時間、三時間、と時間が経つごとにここでは著しく俺の精神力は削られていく。
さらには容量オーバーしてしまった極度のストレスが次に肉体を蝕んでいく。
そりゃあ最初は例の”違うことを考えて時間を潰す”ということを行っていた。しかし高まりきった興奮は他世界に身を置くことを許さない。
だが”その”現実の世界は酷く退屈でつまらないものだし、かといって他世界に飛ぶことも出来ん。・・・つまり悪循環。

机に額をくっつけながら閉じていた目を開く。
自分自身に活力を与えるように手のひらを堅く握り締め、瞳に力を込める。

(よしっ、昼休み・・・・・・・!!)

あずさでも誘って食堂へ向かう。
そこで一気に体力と精神力の回復を図る。
俺は力強く席から立ち上がる。

(さあ――――――――――――)
「さあ帰ろっ。聖夜君」

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?)
完全に不意打ちなあずさの発言に俺の思考が一瞬だけ停止する。

「あれ?どうしたの聖夜君」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・もしかして今日から四時間授業だって知らなかった、とか?」
「な、何で四時間授業なのかな・・・?」
「だって、テスト一週間前だから。・・・あれ、知らなかった?うちの学校はテストの一週間前になるとその日から四時間授業に変更なんだけど」

確かに。
辺りを見回すと帰り支度を始めている生徒や既に教室から出ようとしている生徒しか目に入らない。
少なくとも机を寄せ合い鞄から弁当箱を取り出そうとしている生徒の姿など――――――皆無。
その瞬間体から力が抜け、俺は膝から崩れ落ちる。

「ど、どうしたの聖夜君っ。大丈夫!?」
「はは・・・ははは。・・・うん、ちょっとお腹がすいただけだよ・・・はは」

「・・・う~ん。それじゃあ帰りに何か食べて・・・それとも学食で何か買っていく?」

ぴくっ。
その言葉に再び力なく机に突っ伏していた肩が敏感に反応する。

「・・・学食?」
「あーでも四時間の日ってあまり品揃え良くないし、来ているのもクラブの”女の子”ばっかで買い辛いかも」
「・・・女の子ばかり?」
「うん。うちの学校って男の子の比率が極端でしょ?だからクラブに入っているのはほとんど女の子ばっかなの」
「・・・・・・・・・」
「だから少ないパンを争っての時間だからすっごく混んでると思うよ?」

がたっ。
俺は無言で席を立つ。

「聖夜君?・・・・・・・・・・・・きゃっ」
そうと聞けばもう考えるまでも無い。
強引にあずさの手を掴み、俺は食堂のほうへと駆け出した――――――――――――。

・・・がや・・・がや・・・・。

「ひゃあ・・・いつにも増してすごい人だね・・。聖夜君、これじゃとても買えないよ・・・」
・・・確かにあずさの言葉通りそこはいつにも増して錯雑としていた。
しかしいつもと違ってここの数を占めているのは引き締まった体を持つ運動部員達。
大きいものや小さいもの、中ぐらいのものの柔らかそうな胸。
ぴっしりと引き締まった美しい曲線を描く桃・・・・もとい尻。
スカートからのぞく余計な脂肪を感じさせない太もも。

(・・・・・・・素晴らしい・・・・・・・・)

「ね、聖夜君。ここじゃ買えないだろうから何処か違うところで―――」
「愚問だよあずさちゃん」
「え?」
「登山家は何故苦労をしてまで山に登るか知ってる?」
「・・・え~と・・・そこに、山があるから・・・・・?」
俺はこくんと頷くとまるで引き寄せられるようにその”桃源郷”あるいは”理想郷(アルカディア)”へと足を踏み込む――――――――――――。

伝わってくる熱気と生命力。
流れる叫び声はまるで天上の音楽のよう。

むぎゅう、ぎゅうう。
身に触れるは柔らかな肉の感触。
布越しにでもその柔らかさは変わりはしない。

『ひゃんっ、だ、誰よ胸を揉んだのはーー!!』

そんな声が聞こえたとしても誰も気には留めない。
ここにいる者達の目的は一人を除いて購買で食料を買うこと。
少し油断すれば食料はもう残されてはいない。
したがって他人のことを気に止める余裕は微塵も残されてはいない。

(・・・まぁ仮に気に留めたとしても俺の姿は遠く離れた場所に移動しているが、な)

ぷにぷに・・ぎゅううう。
糞くだらん授業ですり減らされた活力はカウンターに付く頃にはもうすっかり元に戻りつつある。
そして並ぶパンやジュースを適当に手に取り手早く金を払い釣りを受け取りまた花園の中に戻っていく。

行きとは違い、帰りでは向こうから俺に体を擦り付けるようにして女達が進んでくる。
たとえ尻を触ろうが胸を揉もうが今度は向こうから遠くに行ってくれるというわけだ。

さわさわ・・・さわさわ・・・。
一応顔も見られないように、というよりにやけた顔を見られないように顔は伏せながら波に逆らい進んでいく。

(本当にいつまでもここにいたい・・・・・・)

そう思っていてもいつの間にか俺の体は波の外に出てしまう。そして夢心地名気分でついさっきと同じ声を聞く。

『いや~んっまた胸ぇ~~~~~~~~!!!!』

「・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・」
名残惜しむように手のひらに残る感触を想定し、何度も手のひらを握ったり開いたりする。

「お帰り・・・聖夜君。・・・・大丈夫?」
「ああ、うん。全然なんともないよ。・・・・あずさちゃんの分も買ってきたから良かったら一緒に食べない?」
「あ、じゃあお金・・・」
俺はそう言ってポケットから財布を取り出すあずさに「いいよ」といって制止する。

「あ、でも・・・」
「いいって。僕が勝手にしたことだしね」
微笑むその表情の裏に感悪い姦計の光を宿らせ俺はあずさに聞こえるか聞こえないか位の声で「それに―――」と続ける。

「それに・・・どうせ食べたことなんて覚えちゃいなくなるしね・・・・・・・」
「・・・え、何?」
「あはは、何でもないよ。じゃあいつもの場所に行こうか」

●●●●●●●

いつもの場所。
あずさが俺に教えた普段でさえほとんど人の来ない、校舎から少し離れた庭園の端っこ。
周りには木々が多すぎないほどに生い茂り、風が吹くたび緑の柔らかな匂いが鼻をくすぐる。
そこは一つだけベンチが置いてあるだけの何を意図して作られたか分からない場所だったが、あずさの紹介どおり人は全く来なかった。
四限授業が終わり、放課後となった今では人の姿は皆無と言うほどに。

「どんなパン買ったの?」
すっかり申し訳なさそうな態度が一変し、好奇心旺盛に嬉々とした目で俺の膝の上の袋を眺めるあずさ。
「餌」
「・・・・・・・え?」
「だから餌だよ」
「・・・餌って・・・・・何の?」
最初は笑顔で聞き返していたあずさの顔がだんだんと怪訝な顔つきに変わっていく。

「あはは。実は僕少し前からペットを飼い始めたんだ」
”餌”の入った袋に視線を落としながら俺がそういうとあずさの表情が幾分か落ち着いたものになる。
「あ・・・・そうだったんだ。・・・それじゃもしかして・・・聖夜君のペット学校に連れてきてるの?」
「連れてきてはないね。学校には来ているけど」
「・・・・?」
「残念ながら見せることは出来ないけどね。・・・見せちゃったら精神崩壊しそうだし」

あずさが何か言おうとする前に袋に落としていた視線をあずさに向け、正面から真っ直ぐにあずさの顔を見つめる。
「・・・・・・あ・・・・・・・・」
あずさから見える俺の表情にはもう笑顔などなく、そこにあるのは―――――――――彼女の”夢の中”の飼い主の顔。

「あ・・・ああ・・・・・・・・」
本能的に何かを感じ取り、がたがたと奥歯を震わせながらあずさの顔から血の気が消えていく。

意識下で感じているのだろう。
――――――――――――俺が自分の”主人”なのだ、と。

「・・・・鞄の中に持っているんだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・嫌・・・・・・・・・・止めて・・・・・・言わ、ないで・・・・・・・」
耳を塞ごうとも体は全く動かず、手は膝の上で震えながら堅く握りしめられている。
無意識上で、まるでそうしなければならないかのようにあずさの目は俺の口に釘付けになり次の俺の言葉を待つ。

楽しげに釣りあがった俺の口が開く。
「―――――――――――――――首輪」

そしてあずさの心は――――――沈む。

「・・・・・ん、んう・・・・ぴちゃ、ぴちゃ」
俺はベンチに座ったまま。あずさは犬そのもののように四つん這いになり俺の手のひらに乗る餌に口を運ぶ。
与えられるパンのひとかけらを食べるごとにあずさは丁寧に俺の指の一本一本まできちんと舌を這わせる。

「・・・はっはっ・・・はっはっ」
その動作が終わるとまた舌を出したまま俺を上目づかいで見上げる。
その喉元には俺が与えた真っ赤な首輪が太陽の日を受けて光沢を放つ。

「ほら・・・食べろ」
俺は最後のひとかけらを手のひらに乗せるとあずさの目の前に持っていく。

「きゅんっ、はむっ・・・・・ん・・・・」

「よく噛んで食べろよ」
そう言うとあずさはワンっと元気よく吠え何度も餌を噛み、嚥下していく。
ごくりと飲み込むとまたあずさは俺の手の平を綺麗にしようと舌を出し舐めあげていく。

その表情には以前のあずさは無く。
目の前にいるのは一匹の牝犬。
陶酔した表情で貪るように指を飲み込み、舌を絡めつかせる。

だが彼女の主人は彼女の姿を眼には映してはいない。
まるで遠くの地に住む恋人を待ち焦がれる一人の男性の瞳。
ちんけな罠を仕掛け、目標が罠に掛かるのを息を潜めて待つあどけない少年のような瞳。

(・・・・・まだ・・・・・出てこない、か。くく、そうでないと面白くない)

出て来ないのならこっちから仕掛けてやる。
そのための暗示でもあるからな。

「あずさ――――――――――――」

●●●●●●●

たった一つ、選択を誤った。
今思えばそれが油断だった。
自分の慢心が、自分の弱さが導き出した結果。
それは最悪の形で終わる。

―――人気の無い庭園。
それはいつもと変わらない偵察のはずだった。
今の自分の生活の一部とも言うべき偵察。

少しだけあの子の面影を見せる、あずさという名前の女の子と隣り合って座るアイツ。
女の子はアイツの正体を知らずに楽しそうに話しかけている。
そしてアイツは作った笑顔で返事を返す。
あたかも恋人のように会話をする二人の姿はどこか虚飾じみていて茶番だった。

「・・・・これが・・・・アイツの手口・・・・」

アイツの言葉の一つ一つに笑顔を浮かべて返す女の子の姿はまるで昔のあの子のようだった。
私のつたない言葉の一つ一つを逃さず聞いてくれて、考えて返事を返してくれた彼女。
迷惑に違いなかったはずなのに、私の前では必ずとびっきりの笑顔を用意してくれていた彼女。

ぎりっと奥歯を噛み締める。

―――あの子はもういない。
自分を自分と決別したあの日から、もう存在しない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」

様子がおかしい。
女の子から笑顔が消えて・・・それどころか顔面蒼白に・・・。

―――まさか指を使う気!?
いや、有り得ないことではないがアイツは使うどころか指を動かす素振りさえ見せない。
まるで、その必要が無いみたいに。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか」
まさか、本当に必要が無いのだとしたら。
もう、手遅れになっていたとしたら。

がちがちと女の子が歯を鳴らしている音が聞こえてくる。
何かを拒絶するように小さく首を横に振っているけれども、それが精一杯の抵抗と知っているように。

そして女の子は、大きく見開いた目に映すものの正体に気づき、静かに意思を失った。

次に女の子が目を覚ました時、女の子は別人に代わっていた。
犬用の真っ赤な首輪を身に付け、お尻を振って与えられる食事に舌を這わす。

あの日のあの子と同じ微笑を浮かべながら女の子はアイツに”奉仕”する。
作り物のはずの、作り物とは思えない陶酔した表情。

飼い主に与えられる食事を嚥下しては飼い主の手をきれいに舐め上げる。
そんな動作の繰り返しに目を離せない自分がいる。
あの子の面影を移した女の子の姿に失意を感じているのか、それともあまりにも嬉しそうなその女の子の表情に欲情しているのか。

「・・・・・・・ん・・・・ぅ・・・・・」

朝のように腰の辺りがむず痒い。
否、今はそんな程度では済まされない。
ーーーでも、今なら何とか我慢できる。

なら、私はどうすれば良いのか。
このままこの狂った光景を見続けるなんて正気の沙汰じゃない。
―――あの女の子を置いてここを離れる?
それこそ正気を疑う考えだ。
だったら私が出来るのはあの子を助けることだけ。

見たところあの女の子は何かの言葉をスイッチとして意識変化を付けられている。
折笠里香や吉沢光、剣持秋穂と暮井友美。
彼女達のように洗脳されていないなら、それなら今アイツを殺せば彼女だけは助けることが出来る。
彼女も毒牙に掛けられているとは知らなかったけれど、それでも彼女は・・・。

アイツが座るベンチから実に数十メートル。
私の手には飛び道具の類は無し。・・・まぁ持っていたとしても私は飛び道具は専門外だし。
ぎりぎり死角を取っているこの場所からならばアイツがいきなり襲いかかってくる私に気づくまで3秒かからないと言ったところ。

―――余裕。
その時間なら攻撃して尚おつりが来る。

ふっと自らの意識を内に沈め、目を薄く開く。
体は持久力を持たない代わりに絶大な瞬発力を得たヒョウのように身を屈ませ獲物を狙う。
その工程のどこにも殺気は出さないように細心の注意を払って。

まるで他人の視点から見るように感情を持たない瞳で覗くアイツの姿。
食事を終え自分の手を清めだす、従順な自分のペットに酔いしれるようにアイツは喉を鳴らして笑う。

そして呟いた。

「あずさ――――――――――――ミルクだ」

どくん。

何か得体の知れないものに体の内部が蹂躙されるような感覚。
自分には無関係のはずなのに嘔吐感が込み上げる。
それでも狩人の瞳は隙を探そうと目に映る光景から目を離さない。

犬のようにわんっと嬉しそうに吼える女の子。
その口をアイツのズボンへと向け、手を使わずに口だけで器用にチャックを下ろす。
何かを期待した、いやらしい牝犬の目つき、発情したような惚けた顔。

その仕草の一つ一つがスローモーションのようにゆっくりと目に映る。

荒い息をしながら、嗅ぐように顔をうずめる仕草を。
舌を突き出してアイツのズボンから何かを取り出そうとする仕草を。

―――逃げろ。
自分の中の何かが叫ぶ。
・・・無理。足も手も動かない。
獲物を狩り詰める興奮ではなく、小動物が自分より大きなものと出会ってしまった恐怖に近い感覚のせいで手足が震える。

女の子ははぁあ、と羨望のような荒い息を吐く。
そして、全ては手遅れ。

姿を現したアレ。
涙が頬を伝い、記憶が蘇る。
アイツに負け、”自分”に負けた屈辱的な記憶が。

「・・・・・・・・・・は・・・・あぁぁあ・・・・・・・・・・・・」

漏れる吐息は熱く甘い。
体を駆け巡る刺激は甘美的でまるで全身を舐め回すよう。

脳裏に蘇る屈辱的な光景の数々。
どんなに打ち消そうと瞼を閉じてもその内側に鮮明に映し出される嫌忌な光景。
惚けきった笑顔を浮かべ、目の前の女の子のようにアイツに奉仕する自分。
吐き気がするほど顔を背けたい感情と、このままずっとこうしていたいと思っていた自分の記憶。

「ふぅっ・・・・・あぅ・・・・・やだぁ・・・・・」

頭の中は真っ白に。
”自分”が侵食されていき、新しい自分が顔を出そうとしている。
強制発情された体は刺激を求め、指は知らず知らずのうちに自分を慰めようとスカートに伸びていく。
もはや意志の力では自分を律することが出来なくなっていた。

・・・これは自分の選択が生んだ結果。
自分の慢心が、油断が生んだ結果。

言うことを聞かない自分の指が体を慰める。
朝と同じように、今度は邪魔をする者がいないこの場所で――――――。

●●●●●●●

「・・・あずさ」
俺が呼びかけると、今まで奉仕に夢中になっていたあずさが顔を上げて不思議そうな顔で俺を見つめる。

「きゅ~ん?」
視線を俺の顔と俺のモノに交互に映らせながらはっはと荒い息をつくあずさの頭を撫ぜ、その首に繋がる綱を手に俺はベンチを立つ。

「散歩だ」
「・・・・・・・・・・・・わんっ」

あずさは俺の後ろに続き、早すぎないよう遅すぎないよう歩調を合わせて付いてくる。

俺が見据える先の茂みの奥。
数十メートル離れたその茂みの奥から漏れる小さな喘ぎ声。
聞き慣れたそのかわいらしい声の主はもちろん。緒方―――久須美。

がさっ。

茂みをかき分けた先には俺の期待通りのもの。
屈辱に濡れた瞳のその実、甘い声を上げながら自らを慰める。
時折漏れる喘ぎ声に含まれる悔しげな感情。
半ば倒れるようにして尻だけを突き出す形で久須美は現れた俺の顔を見据える。

「・・・・・くっ・・・・・」
気丈にも俺の顔を睨み付ける、その悔しそうな表情に俺の情欲が掻き立てられる。

「・・・気分はどうだ?」
「・・・・・・巫山戯ないで・・・・・・」
「俺は真面目だ」

俺は屈みこみ久須美の首に指を這わす。
・・・たったそれだけで面白いように漏れる久須美の喘ぎ声。

「・・・ふぁんっ・・・や、やあ・・・」

「久須美。俺のものになってみないか?」
「・・・んぁ・・・・・・誰が」

あの子の人生を奪ったコイツだけは絶対に許さない。
それだけは許してはいけない。
先ほどまでの甘い感情が切り替わる。
私はーーーーーー屈しない。

「・・・・・・・・・・・・ふう。まぁそう簡単にはいかないだろうな。・・・あずさ」
名前を呼ぶとすぐに、後ろに控えていたあずさが前へ歩いてくる。

「きゅん?」
「・・・さっきの続きだ。舐めろ」
「・・・・・・わうっ!!」

再び繰り広げられる悪夢のような光景。
大きく怒張した男性器に愛しげに舌を這わせ始める女の子。

「ん・・・ふぅっ、ちゅぷっ・・・ぷぁっ」

唾液をまぶし、鼻を擦り付けるようにしながら彼女は根元から舌で舐め上げていく。

「・・・・・あぁ・・・・ぷちゅっ・・・はむぅっ・・・んんんむぅ」

あの子と同じ面影を持った彼女が嬉しそうに、アイツに・・・。
あの時の彼女と変わらない、見惚れてしまいそうな美しい表情を浮かべて・・・。

――――――羨ましい。
そう考えただけでまた愛液が下着を濡らす。

先っぽから出てきた汁を美味しそうに舐めとる女の子。
甘噛みを加え、自分の主人を喜ばせようと奉仕する女の子。

いやらしい私が涎を唇の端から垂れさせながらその行為を凝視する。
目の前で主人に奉仕している女の子の姿を自分と想定し、また本当にしたいと望んでいる。

私は、私は屈し、ない。
あの、女のこのためにも。

自分の口から漏れるのは恨み言ではなく甘い吐息。
顔を少し近づければ届く距離。

アイツが、あの人が刺激に声を漏らす。
・・・その声が愛しくて、気づきたくない所でその声を受けたいのは私だと気づいてしまう。

「ちゅぱっ・・・んん、んあ」

女の子の動きが激しさを増す。
このまま自分の主人を上り詰めさせようとしているのだろう。
そして、その褒美を身に受けようとしているのだろう。

「・・・・あぁ・・・・だ、め・・・・」

駄目、と私は小さく、無意識に呟いた。
それを身に受けたいのは私。
ご奉仕で、主人に褒められたいのは、私。

・・・でも、それは駄目。
それだけはしてはいけない。
あの子の為に私はここにいて、目の前の男を殺さなければならない。

「・・・ちゅっ、んちゅ、ちゅう・・・・・・ん・・・・はぁっ」

それ――――――なのに。
目の前の女の子はあの子と同じ顔で、嬉しそうに微笑む。

「あずさ、止めろ」
アイツがそう言うと女の子は不思議そうな顔で自らの主人を眺めた。

アイツはお尻を上げたまま動けない私の後ろへ回り込む。

「ひゃんっ」
濡れた下着が下に落ち、膣口に触れるアイツの指。

「今からお前の中に入れてやる。・・・だが安心しろ。お前が俺を認めていないならイクことは出来ん」
「・・・・・ふぁ?・・・うぁあ・・・・んっ・・・うぁぁあああんっ」
言葉も理解できない間に入り込んでくる初めてのモノ。

「ひ、ひぁぁぁぁあああああああああああ!!」
今アイツが行っているのはテクニックも何もない粗雑な前後のストローク。
が、何でもないような前後のストロークは膣壁を抉り、子宮口に届かんばかりに私を攻め立てる。

「あ、あふぁ!!・・・んぁあっ、うんっ」
私の中に初めて入ってきた異物は痛いほど大きく、確実に私の脳を妬いていく。
あまりに大きな快感に私の頭は真っ白になっていく。
一突き一突きが、私を、消していく。

「ふぁっ!!・・・や、止めてっ、おかしくなっちゃうぅぅっ」
今ここで止められたらそれこそ私はおかしくなってしまうだろう。
けど、けどここで止めないと、私がきえちゃう・・・・・。

「・・・・・・・・・・・んむぅっ・・・んちゅっ、んはっ」
突然口内に押し込められる温かい何かが私の口内を妖しく蠢く。
それが先刻までアイツに奉仕していた女の子の舌だと気づく前に私自身、その舌に唾液をまぶしつけ自らの舌を絡みつかせていた。
女の子の下を通して広がるアイツの味。
その味を少しでも得ようと自分から積極的に女の子の唇を貪る。

もう腰の辺りから広がっていく甘い疼きは私には止められはしない。
人の与えるものとは思えない甘美的な快楽を拒むことなど私に出来はしない。

舌から唾液の糸を引いて離れていく女の子の顔。
その瞳に映った自分の顔は、あの日あの女の子が見せたものと同じ妖艶な笑顔だった。

「あふっ、うぁ・・・あふぅ・・・んあぁ・・・!!」

夢と現実が入れ替わる。
後はただ、堕ちていくことの更なる悦びに身を任せるだけ。

「あぁっ、あああんっ、あぁぁあっ」
喜びに溢れた表情で、愛欲に満ちた虚ろな瞳で喘ぎ声を漏らす。
自分から下腹を擦り付けて、愛しい主人のモノを感じようと濡れた膣肉で”聖夜様”のモノを擦りあげる。

肉と肉がぶつかり合う定期的な音が流れ、波の一番高くに上る。
「ふぁああ!!・・・んんぅああああああああああああああああああ!!!」
燃えるような熱い精液がどくどくと子宮に叩き付けられる。
永遠とも思われるような長いオルガズムを迎え、肢体をぴくぴくと痙攣させ私は倒れ込む。

「あは・・・ふふふ・・・気持ち・・・良い・・・気持ち・・・・・・・・・」
完全に憔悴しきった表情を浮かべながら、うわ言の様に何度もそう繰り返した後、闇の中に私の意識は沈んだ。

次に目が覚めたとき、きっとそこには私はもう――――――――――――いない。

< 続く >

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