部屋の中の人形

(1)

 不愉快な一日だった。
 汗が滴り落ちるような暑い日、というだけではない。そんな日に限って、血の匂いの充満した部屋に足を踏み入れなければならなかったからだ。時間が経って黒ずんだ血溜りは、大きく床に広がっていた。避けて歩いていたつもりだったが、いつの間にか血痕を踏んでしまったらしい。靴にはべっとりと血が付いていた。まったく忌々しい。買ったばかりだったのに。まだ汚れていないカーテンで、俺は靴を拭う。
 遠慮する必要はない。どうせこの部屋の持ち主は旅行中だ。行き先が天国か地獄かは知らないが。

 腰に差した剣の柄に肘を置いて、ため息をつく。俺は街の治安を預かる警備隊の騎士だ。職業柄、こうした自殺の現場には何度も足を踏み入れている。だが、未だに慣れるという事は無い。しかも死んだのは俺が追っていた犯罪者だ。潜伏先がようやくわかった矢先の事だった。勇んでやって来てみれば、出迎えてくれたのがこの死体、というわけだ。
 今までの地道な努力が徒労に終わった事で、どっと疲れが押し寄せる。まさかあの世まで追っていけるわけでもないしな。

 ここの住人は、自分の体を短剣でめった刺しにして死んでいた。命を絶つにしても、どうしてこんな壮絶な方法を選ぶのか。俺には理解しかねるな。死んで尚、すごい形相で睨んでいた。そんな顔するなよ。泣きたいのはこっちなんださからさ。

「遺留品は全て押収する。部屋には何も残すなよ」

 苛立ちを紛らわせるように、部下の隊員達に命令していた。少し口調が荒くなっていた。

「グレイ!グレイ!」

 癇に障る金切り声が響いてきた。部屋の外からだ。

「やれやれ」

 はき捨てる。小声で。そろそろお呼びがかかる頃だと覚悟していたが、それでもあの声を聞くとうんざりとした気分になる。

「はい!今行きます」

 早く行かないと怒られるだけだ。気を取り直してそう答えると、俺は重い足取りで部屋の外へと向かった。

 まったく今日は不愉快な日だ。その元凶である人物は、廊下で腕組みをしたまま俺を待ち構えていた。廊下は隊員達が忙しそうに行き来していた。その様子を野次馬が遠巻きに眺めている。

「これはどういう事なの?グレイ」

 棘のある言い方だった。もう分かっているくせに聴いてくる。尋問だな。これは。

「自殺のようです。隊長」

 直立不動で、努めて冷静に俺は報告した。

「どうやら我々は一歩遅かったようです」

「我々?」

 俺の発した言葉尻を捕らえて、整った細い眉が吊り上がる。

「あなたは自分が情報を掴むのが遅かった事を棚に上げて、まるで私まで悪いような言い方をするのね」

「いえ、そんなつもりでは……」

 俺は口を濁したが、内心釈然としなかった。汗を流して地道な捜査をやってきたのは、副隊長であるこの俺だ。こいつは警備隊の詰め所から一歩も外へは出ていない。こいつがした事と言えば、俺に嫌味を言ったぐらいのものだ。今、この時のように。

「まったくあなたが愚図でノロマだから、こんな失敗を犯すのよ。それでも騎士と言えて?」

『失敗?俺のか』

 怒りをかみ殺して、俺は無言で頭を下げた。我慢だ。我慢するしかない。

「何か言いたそうね。騎士グレイ・マフリー」

 平静を装っていたつもりだったが、つい顔に出てしまっていたようだ。
 この街の警備隊隊長マリア・デ・ラ・トリニダートは、緑色の瞳に憤怒の色を浮かべたまま俺の名前を呼んだ。
 俺より十も若いが、その年よりも幼く見える童顔だ。細く折れそうな小柄な体躯と相まって、まるで小娘に罵倒されているかのような錯覚を覚える。宮廷を飾る美しい姫君達の中にあっても、なお美人として通用する器量の持ち主だ。もちろん、それは黙って立っていればの話だが。
 マリアは『騎士は』とか『騎士道は』とかいう言葉が口癖だ。こいつに騎士の何たるかを教えてもらおうとは思わないがね。

「いえ、隊長。申し訳ありませんでした」

 俺はさらに頭を下げた。隊の中の階級差は絶対だ。上司が白と言うならば、下は黙って従うしかない。マリアに頭を下げる様子を、作業中の若い隊員達がちらちらと見ている。同情と好奇心の混じった視線が突き刺さる。仕方ない。このじゃじゃ馬のお守りは、副隊長やっている俺の仕事のようなものだ。

「ふん、分かればいいのよ。言い訳や嘘なんて騎士道に反する行為よ。いつでも騎士としての誇りを忘れないようにしなさい」

「…それであの、隊長」

 おずおずと俺は話を切り出した。

「何よ?」

 マリアは俺に向き直る。淡く青い長髪がなびく。その言葉には、まだ棘が残っていた。

「ここの場所を知らせてきた情報屋に、私は金子を支払っているのですが……。隊の経費で出してもらうわけにはいかないでしょうか?」

 マリアは俺を一瞥する。緑色の切れ長の瞳に、自分の姿が映っていた。

「それはあなたが勝手にやった事でしょう。私は知らないわ」

「いや、しかし」

「犯人を死なせておいて金子だなんてずうずうしい。これだから下賎の生まれの者は……」

 何やら不愉快な事をマリアはぶつぶつと呟いている。取り付く島も無いとはこの事だ。やれやれ、これで今月は赤字だな。酒場のツケも払えやしない。

「私はもう帰るから、明日の朝までに報告書を作っておきなさい」

 そう言い残して、マリアは足早に帰っていった。結局、自殺の現場には入ろうともしなかったな。汚れ仕事は部下の役割というわけか。

 それにしても、明日の朝までに報告書を作れだと。今からやっても朝まではかかる。今夜は帰れそうにもない。やっぱり今日は不愉快な日だ。俺は、もう一度深くため息をついた。

(2)

 黄色く濁った蝋燭が、小さな明かりを灯していた。安物の蝋燭だ。火は小さく、燃え尽きるのも早い。深夜の詰め所で、俺は書類と格闘していた。隊長のマリアに命令された報告書だ。
警備隊の詰め所には、もう誰も残っていない。隊員たちは家に帰ったか、酒場に繰り出したか、どちらかだ。なのに、俺は。こんな目に合うのも、こいつが自殺なんてしやがったからだ。忌々しげにトンと書きかけの報告書を指で叩く。

 死んだ男は魔術師だった。古代魔術を研究する『古典派』という一派に属していた。それなりに優秀な奴だったらしいが、ある時禁じられた黒魔術に手を出した。それは魔術師としての禁忌であるだけではなく、この国の法律に反する行為だ。それがばれて破門、そして犯罪者に。
 馬鹿だな、こいつ。それなりにうまく立ち回っていれば、それなりの生活は送れたものを。それこそ騎士と同じようにだ。正義感や知的好奇心など何の役にも立ちはしない。所詮は職業なのだ。
もっとも魔術師になんてなりたがる奴は、どこか頭のネジが緩んでいたりするものだ。理解しがたい猟奇殺人の犯人を捕まえてみれば魔術師崩れだった、なんて話は掃いて捨てるほど転がっている。

 俺は粗末な丸椅子から立ち上がると、遺留品の整理に取り掛かった。男の血がべっとりと付いているものもあり、あまり触りたくはないがこれも仕事だ。一つずつ手に取る。それにしてもさすが魔術師と言うべきか。使い道もわからない不思議な物がごろごろと出てくる。

「こんなのは売り捌いてもいくらになるかわからんな」

 おっと。思わず本音が口をつく。俺はこうした遺留品をたまにくすねては、売り払って金に替えていた。ちょっとした副業のようなものだ。どうせ保管庫は俺が管理しているんだし、ばれるはずもない。倉庫で腐らせるより、まだ有益な方法と言えた。こうした役得でもなければ、犬のような警備隊の仕事なんてやっていられない。

 ふと一つの小箱が目に入った。血が付着した木製の小さな箱だった。シンプルな作りで、模様も何も描かれていない。持ってみる。軽い。鍵はかかっていないようだ。俺は蓋を掴んで開けてみた。

「なんだ?」

 箱の中には木彫りの人形が入っていた。粗末な作りで顔もなければ指も無い。ただ背中の部分がずれるような仕掛けになっており、そこを外すと小さな窪みが見えた。箱にはもう一つ、小さな紙片が入っていた。広げてみると、この人形の事が書いてあった。

「マジックドールか」

 どうやらこの人形には魔力が込められているらしい。背中の部分に人の髪の毛を入れると、その人そっくりの姿になるのだそうだ。しかも人形は、髪の毛を入れた人を主として仕えてくれるらしい。最後に人形が壊された時の事が書いてあったが、その先は男の血で滲んで読めなかった。だがしかし、面白そうな代物である事はわかった。こいつは、売るより自分で使ってみたい。髪の毛か。誰にするかな。

「そうだ。どうせなら……」

 脳裏にある人物の姿が浮かんだ。俺にこんな事をやらせている張本人だ。人形がそいつそっくりになるのなら、いろいろと楽しめそうだ。
 俺は自分の考えが気に入って、思わず笑みを浮かべていた。

(3)

 騎士道精神だかなんだか知らないが、警備隊の朝は自分達の詰め所を掃除する事から始まる。単に掃除する小姓を雇う金をケチっているだけだと思うのだが。マリアが隊長に就任して以来、この為に早起きしなければいけない事は苦痛だった。だけど今朝だけは別だ。徹夜明けにも関わらず、俺の機嫌は良かった。子供じみた企てに夢中になっていた。

「副隊長おはようございます」

「おはようございます。副隊長」

 掃除を始めていた若い騎士達が、俺に気付いて声をかける。

「おはよう」

「昨夜は泊まりだったんですか?ご苦労様です」

 若い騎士達は、昨日の俺とマリアのやり取りを知っている。その顔には同情の色が浮かんでいた。

「ああ、ようやく報告書が出来上がったよ……。隊長は?」

「まだだと思いますよ。いつものように遅いんじゃないですか?」

 朝の用意に時間がかかるのか、マリアの出勤はいつも昼近い時間帯だった。

「そうか。それじゃあ机の上に置いておくかな」

 そう言うと、俺は隊長の部屋に向かった。隊長には個室が与えられている。若い騎士は不審に思う事もなく、清掃作業に戻っていった。
 扉を開け、中に入る。そっと扉を閉めると、周囲の様子を窺った。人の気配は無い。大丈夫だ。俺は床に這いつくばって、丹念に調べ始めた。仕事上こういう事は慣れている。するとすぐにそれは見つかった。特徴的な青く長い毛髪。間違いなくマリアの物だ。それを摘まみ、そっと懐に入れた。

(4)

 俺の机の上に、不細工な人形が置かれている。顔も無ければ指も無い。子供に作らせても、もう少し愛想のいい物を作るだろう。こんな人形一つで俺は楽しんでいる。これが本当に魔法の人形でなければ、俺はとんだ道化だ。

 俺は人形の背中を広げ、持って来たマリアの毛髪を丸めて入れる。後は窓際に置いて、一晩月の光にあてればいい。俺は机の上に人形を横たえると、ベッドの脇に腰掛けた。

 独身の俺は、詰め所近くのアパートに部屋を借りて住んでいた。ここなら誰も邪魔する人間はいない。幸い明日は非番だ。酒場に繰り出す金も無いし、今夜は部屋で酒でも飲むつもりだった。人形でも肴にしながら。

 今の所、人形には何の変化も無い。買い置きしていた酒を手にして、俺は一気に飲み干した。もしあの人形が本物で、マリアそっくりの姿になったら何をしよう。今までのマリアの仕打ちにふさわしい対応をしなければな。それを考えるだけで楽しかった。

「あんな美人の副官なんて、羨ましいな」

 同僚の騎士には、そう言って冷やかされていた。実際、俺も満更ではなかった。平民出身の俺は、騎士と言っても身分の低い警備隊が関の山だ。それも隊長になれるのは、貴族出の者だけだ。どうせこれ以上出世できないのなら、今を楽しく生きるしかない。隊長格の貴族のお守りをやらなければいけないにしても、美人の方がまだやりがいがあるというものだ。

 初めてマリアの姿を見た時は、身分もわきまえず胸がときめいた。家柄も良く凛々しく可憐な女騎士。そして並び立つ自分。悪くない姿だった。本来なら満足に口をきく事も適わない存在だが、隊長と副隊長の関係ならば別だ。やがて山猫のように激しいマリアの気性を知り、そんな幻想はしぼんでしまったが。

 口元がニガ笑いにも似た形に歪む。また一口、酒を口に含んだ。

 俺は懸命にがんばって、警備隊の副隊長が精一杯だ。それ以上は蓋がされている。しかし何の努力もしていないマリアは、警備隊の隊長が騎士としての出発地点だ。ゆくゆくはもっと格式の高い近衛隊へと出世していく事だろう。そう思うと、やるせない気分になる。

 いや、違う。

 俺は頭を振った。
 出世や身分など、どうでも良いのだ。そんなものはずっと昔に諦めている。そうじゃない。マリアが俺をおいて手の届かない所に行ってしまう事が許せないのだ。なぜなら、俺は。

 グラスに残った酒とともに、残りの言葉を飲み欲した。

 机の上に鎮座した人形は、虚ろな目で俺を見つめていた。
 黒魔術は、悪魔がそれを欲する者に授けるという。俺が欲したのだろうか。この人形を。或いは、俺は人形に選ばれたのか。

「ふん。光栄だな」

 俺は人形を見つめながら、自嘲気味に呟いた。

(5)

 俺は空の酒瓶を手にしたまま、ベッドに突っ伏していた。いつの間にか寝てしまったようだ。既に部屋が明るい所を見ると、もう朝になってしまったらしい。まだ頭には少し酒が残っている。
 ぼんやりした目で窓の方を見ると、何か大きな丸い物が机の上に横たわっていた。

「あっ……!」

 思わず驚きの声を上げて、俺は飛び起きた。酔いも眠気も一度に覚める。それは猫のように体を丸め、机に上に横たわっていた。その特徴的な青い長髪には見覚えがあった。

「驚いたな」

 感嘆混じりの声が洩れる。思わず髭の伸び始めた頬を撫でていた。俺は近づいてまじまじと観察した。毎日会っているからこそわかる。それはマリアそのものだった。裸のマリアが机の上に横たわっていた。まだ眠っているように、その瞳は閉じられている。いくらそっくりになると言っても、ここまで同じ姿になるものなのだろうか。
 俺の気配を感じたのか、人形は目を開けた。同時にゆっくりとその身を起し、床の上に立ち上がった。

 全裸のマリアとしか見えない人形は、俺と向かい合うように立っていた。生気がなく、いかなる感情も浮かんでいなかった。無表情な顔だけが、こいつが人形である事を悟らせてくれた。羞恥心もないのか、体を隠そうともしていない。やや小ぶりな乳房は、丸みを帯びて熟れた果実のようだ。その下に目を移せば、薄い繊毛に覆われた茂みがあった。
 まだ少し青さを残しているが、それは成熟した女性の体だった。

『マリアの全裸姿を見てしまった』

 予想していた姿より女を感じさせる肉体に、俺はすっかり舞い上がってしまっていた。
 人形のマリアは、じっとこちらを見ていた。俺が見えているのは間違いないようだ。

「えっと、俺がわかるか?」

 恐る恐る俺は尋ねた。マリアの細い顎が、ゆっくりと縦に動く。俺の言葉がわかったようだった。

「口がきけるか?返事はちゃんと口に出して言ってみろ。俺が誰だかわかるか?」

 あの紙に書かれた事は、ここまでは正しい。ならば髪を入れた俺の事を主人だと思っているはずだった。

「あなたは……、私のご主人様」

 たどたどしい口調だったが、それは間違いなくマリアの声だった。俺は有頂天になっていた。マリアとしか思えない人形が、俺を主人だと認識している。これならいろいろと楽しめそうだ。ずっと秘めてきたマリアへの歪んだ欲情が、体の奥からわき上がってくるような感覚があった。

「そうだ。俺がお前の主人だ。では、お前は俺の何だかわかるか?」

 それは確かに黒魔術の類のものだ、この人形は俺の暗い部分を刺激し、呼び覚まそうとしている。ドス黒い欲望が噴き出してくる。麻薬のような歓喜とともに。

「……」

 マリアは答えない。答えられないのも当然だろうが。それでも『人形だ』と言わないだけ上出来だ。

「知らないなら教えてやろう。お前は、俺に絶対の忠誠を誓う、淫乱な牝奴隷だ」

「牝…奴隷……」

 マリアはかわいらしく首を横に傾けて、俺の言葉を反芻している。言葉の意味を正確に理解しているとは思えない。

「そうだ。セックスを知っているか?いやらしい事をして、主人である俺を気持ち良くする事だけを喜びとする、卑しい最低の奴隷の事だ」

 俺はとんでもない事を口にしていた。マリアの仕打ちに耐えている俺は、いつしかマリアを支配し、その心と体を弄びたいという欲望を秘めてきたのだ。もちろん、そんな事は絶対に適う事がない夢だと思っていたが。

「セックス…ご主人様と…喜び……」

 わかっているのかどうか、相変わらずマリアは俺の言葉を繰り返していた。だが俺には一つの確信があった。あの魔術師は、この人形をこんな使い方をする為に作ったとしか思えないのだ。色々教えて自分の好み通りの性格になるようにしてあるとしても、最低限の性的な知識がなければどうしようもない。根気よくやれば、理解できるはずだ。

「お前の名前は『マリア』だ。マリアは俺の牝奴隷だ。それはわかったな?」

「はい……。マリアはご主人様のメスドレイだ」

 マリアは頷きながら肯定した。

「よし。では牝奴隷であるマリアに、いくつか教えておく事がある。言うまでも無いが、俺の言葉には絶対服従だぞ」

「はい。マリアはご主人様に従う」

 言葉遣いはおかしいが、マリアの声が俺に従属すると告げている。それだけで、俺は興奮を押さえきれなかった。

「よ、よし。まず、マリアにとって主人である俺は、この世でもっとも大切な人間だ。いかなる場合でも丁寧に接しなければいけない。常に敬語を使え。理解できたら俺の言葉を繰り返してみろ」

「ご主人様は、マリアにとってこの世でもっとも大切な人間…です。いかなる場合でも丁寧に接して、敬語を使い…ます」

マリアは俺の言葉を繰り返した。

「この部屋からは俺の許可無く出てはいけない」

 こいつに外を出歩かれてはトラブルの元だ。

「はい。マリアはご主人様の許可なくこの部屋を出ません」

「自分と俺を決して傷つけてはいけない」

「マリアは、自分とご主人様を決して傷つけたりしません」

「もし俺が誰かに攻撃されようとした時は、お前は俺を助けるんだぞ」

 これは念の為だな。

「もしご主人様が誰かに攻撃されようとした時は、マリアはご主人様を助けます」

「それではそろそろ楽しませてもらおうか。まずはその体がどこまでそっくりなのか調べてやる……。隅から隅までな」

 俺の言葉が理解できないのか、マリアは立ち尽くしたままだった。

「背筋を伸ばして胸を突き出せ」

 マリアは従順に俺に向かって乳房を突き出した。小ぶりな硬さの残る胸は丸みを帯び、上に向いても形が崩れなかった。その胸に手を伸ばす。柔らかく、張りがある。優しく俺の手に馴染み、そっと押し返してくる。これが、あの木彫りの人形なのか。そのリアルな感触には驚きを禁じえなかった。唯一感じた違和感は、ひんやりとした冷たい体温だった。それも執拗に愛撫を繰り返しているうちに、だんだんと手に馴染んでくる。

 俺は夢中になって、マリアの胸を揉んでいた。次第に大胆になってくる。マリアの乳房は俺の手で自由自在な形を変えた。淡い紅色の乳首を摘み、軽く押しつぶしたりしていた。

「……」

ふと、マリアと目が合った。無表情な目で、興奮している俺を見下ろしていた。これでは興ざめだな。

「マリア。お前は雌奴隷なんだぞ」

「はい」

「雌奴隷はご主人様に触られると、すごく気持ちいいんだ」

 マリアの反応が変化し始めた。顔は高揚し、息遣いは荒くなる。

「はぁ…んん…ふぅ…はぁ……」

 言われたから演技しているようには見えない。うっとりするほどの快感に、本当にその身をくねらせるようだった。俺の言葉によって、スイッチが入ったようだ。やはりこの人形は、こういう目的の為に作られたものなのだ。

「気持ちいいか。マリア」

「はぁ…ふぁ…はぁん…は、はい。ご主人様の手、とっても、気持ちいい、です」

 マリアは、牝奴隷という役に慣れてきたようだ。雄に従属する牝奴隷の快楽。それに浸りきっているように見えた。誰がこれを人形だと思うだろうか。俺の中で、本当のマリアを屈服させたかのような感動が生まれる。

「おら、牝奴隷の分際で、いつまでご主人様に愛撫してもらっているんだ?俺への奉仕はどうした」

 言葉遣いが荒くなる。俺もまた、牝奴隷のご主人様という役に馴染みつつあるのだ。

「奉仕、ですか?」

 間が抜けたマリアの返事に、俺は強く乳首を摘む。

「い、いたっ」

「牝奴隷のご奉仕と言ったらフェラチオに決まっているだろうが。チ○ポしゃぶりだ」

 自分でもひどい言いようだと思うが、その乱暴さが心地よかった。一人の人間を完全に征服した達成感と言っていい。俺自身、こんなに尊大な所がある人間だとは思わなかった。

 マリアは慌ててしゃがみこんで俺の着衣に手を伸ばす。すでに固くなっていた俺の分身は、戒めを解かれ鎌首をもたげていた。おずおずと、口を近づける。むず痒いような快感が、背筋を登ってきた。あのマリアが、目の前に膝をついて俺のモノを舐めている。ただ、俺の快楽の為に。その牝奴隷としての立ち振る舞いは、俺を激しく興奮させていた。

「く…いいぞ、マリア。もっと激しく舐めしゃぶるんだ。舌を使え。下品な音を立てろ」

「ふぁ、ふぁい……。チュ…パ…レロレロ…チュ…チュパチュパ……」

 俺の下腹部から、ひっきりなしに淫らな音が鳴り響く。マリアの口は吸盤のように俺のモノに吸い付いていた。頭を動かす度に音を立てる。その分快感は強くなった。

「目を瞑るんじゃない。上目遣いに俺を見ろ。どうやれば俺が気持ちよくなるのか、自分で研究するんだ」

 マリアは俺の肉棒を咥えたまま、俺を見た。肉棒を頬張ったマリアの顔は、いやらしく歪んでいた。

「メス奴隷はな、ご主人様のナニを咥えているだけで激しく興奮する生き物なんだぞ」

マリアの瞳が、興奮と快感にじんわりと潤み始めた。見ているだけで犯したくなるほどの色気を発していた。

「ふ、ふん。まあまあだな」

 興奮を隠して、あくまでも偉そうに俺は言った。

「お前は俺に奉仕するしか能が無いんだ。これからは、言われなくてもそれぐらいやるんだぞ」

「んふぅ…チュ…はぁ……。は、はい。ご主人様」

 顎に垂れる唾液を拭いもせずに、マリアは従順に頷いた。

「そうだな……。こうやってお前は自分の左耳を触られれば、即座に奴隷としての本分を思い出すんだ。いつでもどこでも、無条件に奉仕を始めろ」

 俺は牝奴隷の左耳を触った。マリアは即座にフェラチオを再開した。

「フフ。じゃあもっと熱心に奉仕してみろ。ねっとりと愛情と忠誠心を込めるんだ……。あと4分30秒で俺をいかせてみろ。それより1秒でも遅かったらおしおきだぞ」

 反論するわけでもなく、淫らな奉仕が熱を帯びる。よく動く舌が、蛇のように絡みついてきた。マリアを完全に俺好みの奴隷にする調教は、まだ始まったばかりだった。

(6)

「ちょっと。何よ、この報告書は!」

 顔面に、作ったばかりの報告書が投げつけられる。顔を背けて、平然と受ける。隊長の怒声は、詰め所中に響いていた。辺りは静まり返る。部下達は、わざと聞こえないふりをしていた。

「すいません。隊長」

 俺は頭を下げた。マリアが怒るのも無理はない。最近は仕事に身が入らないのだ。この報告書にした所で、適当にでっち上げた代物だ。
マリアがため息をつく気配があった。

「グレイ。あんた最近変よ。まるでやる気を感じない。それでも騎士と言えて?」

 実を言うとその通りだ。俺は自分の人形を相手にするのが楽しくて、仕事が手に付かない状態が続いていた。入り浸っていた酒場からも、めっきりと足が遠のいた。

「やる気が無いんだったら、いつ辞めてもらってもいいのよ。あんたの代わりなんて、他にいくらでもいるんだから」

「すいません。隊長」

 謝りながら、俺は内心舌を出していた。何偉そうにしているんだ。こいつ。お前は俺の部屋ではただの牝奴隷でしかないんだぞ。つい今朝だってちょっとした粗相を俺に咎められ、泣いて謝ったのはどこの誰だったか。
そう言ってやりたい気持ちを、ようやく押さえ込む。どうも最近、人形とこいつが重なって見えてしまう。

「…まあ、いいわ」

 俺の煮え切らない態度に呆れたのか、マリアは意外なほどあっさりと引き下がった。

「もう一度報告書を作り直しなさい。今日中に、よ」

「はい。わかりました。失礼します」

 敬礼して、部屋を出て行く。マリアが何やら複雑そうな目で俺を見ているが、無視してやった。今晩、『マリア』にどんな復讐をしてやろうかという事で、頭の中は一杯だった。

 夜中になって、俺は自分の住まいに戻ってきた。石造りの三階建てのアパートが俺の住居だ。部屋には向かわず、裏庭に向かう。部屋に明かりはついていない。まるで誰もいないかのようだった。俺は息を吸い、一度鋭く口笛を吹いた。辺りは静かなままだ。それから俺はアパートの正面に向かうと、ゆっくりと階段を登り始めた。部屋は三階だ。部屋の前に立つと、中を窺う。

「はぁ…ああん…あン…ああ…ふぁ……」

 部屋の中から微かに色っぽい声が聞こえてきた。俺の顔に、満面の笑みが浮かぶ。鍵を開けて扉を開けた。

 牝奴隷のマリアは床に座り、足を大きく広げたまま俺を出迎えた。買ってやった服ははだけられ、乳房も秘所も見えている。右手は己の股間に差し入れられ、激しく情熱的に動いていた。

「あふぅ…ご主人さまぁ…おかえりなさい…はぁ…ませぇ……」

 快感に呆けた声で俺に言う。最近は、マリアにオナニー姿で出迎えさせる事にしていた。マリアは俺の口笛を聞くと、瞬間的に欲情する。どうしても自慰したくで我慢できなくなるように躾ていた。

「フフ。今帰ったぞ」

 もぞもぞと、マリアが床を這って俺に近づいてくる。慣れた手付きで着衣を脱がせると、下腹部を露にした。硬さが増した肉棒を大切そうに両手で持ち上げると、顔を近づける。これも調教した通りだ。そろそろ次の段階に進むか。

「ああ…ご主人様……」

 マリアは口を開いてペニスを受け入れようとしていた。突然、俺は軽く蹴飛ばした。

「きゃっ」

 短い悲鳴を上げて、マリアは床に倒れこんだ。

「マリア、ご主人様である俺を先に裸にするのか?奴隷が裸になるのが先だろう!」

「す、すいません。ご主人様」

 床に頭をこすりつけるように土下座をして、マリアは俺に許しを請う。それから慌てて服を脱いでいく。白く瑞々しい肌が、暗闇に浮かび上がる。全裸になると、マリアは媚びを売るように俺の肉棒をしゃぶりついた。慣れた快感が、下半身に広がっていく。

「フン。これからは奉仕がしたければ、まず自分が先に全裸になるんだぞ」

 肉棒を咥えたまま、コクコクとマリアは首を縦に振った。
 こうしてマリアはまた一つ雌奴隷として成長していくのだった。

(7)

 今日の俺は、特にマリアに意地悪だった。昼間の復讐のつもりなのかもしれない。しかし当のマリアは、そんな俺の態度に涙を流さんばかりに喜んでいる。俺に苛められる事が嬉しいのだ。マリアは俺の手で、最低のマゾヒストになりつつあった。

 ベッドで横になった俺と重なるように、マリアはその身を横たえていた。すべすべした触り心地の良いこの肌が、人形のものだなんて信じられない。マリアはねっとりと、俺の肉棒にしゃぶりついていた。最近は暇さえあれば俺の分身を口に含んでいる。うっとりと、とろけるような顔をして。

「そんなに俺のチ○ポをしゃぶれてうれしいのか?」

 楽しそうにマリアは頷く。フェラチオはマリアにとって、使命であり、娯楽であり、快感でもあるのだ。今は口に含んだ亀頭を、遊ぶように舌で転がしている。射精したくなるような強い快感ではない。しかし弱いからこそ長く続く快楽だった。。

 そろそろ本格的にマリアを抱きたくなってきた。吸盤のように下半身に吸い付いたマリアを引き剥がし、ベッドの上に組み敷く。

「マリア。お前は一体何者だ?」

 濃い緑の瞳の奥を覗き込みながら、俺は尋ねた。答えなんて決まっている。それでもマリアの答えが聞きたくて、何度も何度も尋ねてしまう。

「はい……」

 淫らな期待にマリアの目が潤む。マリアもまた、隷従の言葉を言いたくて言いたくて仕方ないのだ。

「私ことマリア・デ・ラ・トリニダートは、グレイ・マフリー様に心も体も差し出した、いやらしくも哀れな牝の奴隷でございます……」

 うっとりとした表情で、マリアは隷従の言葉を口にする。牝奴隷としての服従は、マリアにとってこの上ない美酒と同じだ。完全に酔ってしまっていた。俺の熱心な調教によって、マリアは完全に俺好みの性格になっていた。絶対服従の淫らな性奴隷に。

 マリアの成長に満足しながら、最近少し引っかかるものを感じ始めていた。マリアは素直だ。しかし素直すぎる。一言で言えば不自然なのだ。それがなぜかと言えば、元々心を持たない人形だからに他ならない。そうでなければこれ程俺にとって都合のよい人格にはならないだろう。人形に人格なんてものは無いのだろうが。

「どうかなさいましたか。ご主人様?」

 俺の態度を不思議に思ったのか、マリアが尋ねてきた。

「いや。何でもない」

 埒も無い事だ。こいつは所詮人形にすぎない。本物のマリアと同じ姿というだけだ。そんな事は最初からわかっていて、わかった上でこうして遊んでいるのではなかったか。

 俺はマリアの下腹部に手を伸ばした。奉仕しているだけで、マリアは発情して漏らしたかのような状態になる。つまり一日の大半がそんな状態というわけだ。愛撫の必要すらなく、犯したい時に犯せばいい。俺はマリアの足を持って広げた。ズブズブと腰を沈めていく。

「ああ~~~!!」

 甲高い声を上げてマリアはよがる。入れただけで数度、達したようだ。ビクビクと、その小柄な体が痙攣する。その度に俺のものが複雑に締め上げられる。

「ご、ご主人様。動かないでください。マリアは、気持ちよすぎておかしくなりそうです……!!」

 そうなるようにしたのは俺自身だがな。

「そんな事、俺の知った事ではない」

 冷たくそう言うと、俺は乱暴に腰を動かした。マリアは不平を口にするどころか歓喜の混じった声を上げる。

「ご、ご主人さま……。そんな乱暴に、しないでください……!」

「あん?興が冷めるような事言うんじゃねえ。乱暴にされるのが気持ちいいんだろ?気持ちいい時はどんな事を言えばいいんだ?教えただろ」

「…マ、マリアは、ご主人様の淫乱な…奴隷、ですぅ。乱暴に、犯されるのが大好きな、牝犬…です……」

 おずおずと、だがしっかりとした口調で、マリアは淫らな言葉を紡いでいく。

「もっと、激しく、犯して、ください……!はしたなく、すぐアクメを晒す、恥知らずなマリアを、メチャクチャにしてぐださい」

 マリアは俺に犯されると、快感に悶えながらもひっきりなしに淫らな言葉を口走る。犯している最中も俺が楽しめるように、奴隷をそのように調教したのだ。そしてマリアもまた、自ら発する言葉に酔っているようだった。次第に熱を帯びてくる。

「ああ……!気持ちいいです!ご主人様ぁ!!マリアは、めすいぬのマリアは、ご主人様に犯されて、泣きたいぐらい、幸せですぅ……!!」

 半狂乱になってマリアは叫ぶ。次第に俺も昂ぶって来た。

「くっ…そろそろ出すぞ。マリア」

 途端にマリアの目が輝く。まるで大好きな餌を前にした飼い犬のようだ。

「中に、どうか中に出してください!お願い、します!!」

「どうしてそんなに中に出されるのが好きなんだ?」

「そ、それは」

 珍しくマリアが口篭もる。

「最低の牝奴隷のマリアは、中に出されると、必ずはしたなくイクように、ご主人様に調教された、から……」

「ふふっマリアは俺にアクメ顔を見てもらいたいんだな?」

「はい。はい!そうです。めす奴隷のマリアは、ご主人様に間抜けなアクメ顔を見て欲しくて仕方ないんです!!」

「よし。中に出してやる。その、間が抜けたアクメ顔とやらを俺に見せてみろ」

そう言うのと、達するのは同時だった。腰が溶けるような熱いものが迸る快感があった。同時にマリアもビクビクと体を痙攣させる。

「~~~~~!!」

 言葉にならない声を上げて俺に抱きつく。やがてゆっくりと力が抜けていく。宣言通りアクメ顔を俺に見せたマリアは、俺にはこの上なく幸せそうに見えた。

(8)

 ドンドン。

 ドアをノックする音で目を覚ました。汚れたペニスをマリアに口で清めてもらいながら、ついうたた寝をしていた所だった。至福の時間を邪魔された事で、俺は少し不機嫌になっていた。

「誰だ?」

 返事は無い。ただ再度、ノックする音。
 どうせ隣の部屋の婆さんだろう。声がうるさいとすぐ文句を言いに来る。俺はマリアをシーツで隠し、服装を整えた。近づいて扉に手をかける。いい機会だ。今夜は少し婆さんに文句を言ってやるつもりだった。

「!」

 ドアを開けた途端、俊敏な何かが部屋の中に滑り込んできた。体に触れる硬い感触。それは鎧だった。しまった。油断した。何者かに部屋の中への進入を許してしまった。

「誰だ」

 俺は身構えながら注意深く言った。影は部屋の中央に立っていた。消えかけた蝋燭の明かりに照らし出されたのは、意外な人物だった。

「隊長……?」

 青い長髪を後ろで束ねた小柄な女騎士。それはマリア・デ・ラ・トリニダートその人だった。一体なぜ隊長が。無数の疑問が俺の頭の中に湧き上がる。

 俺があっけに取られている間に、マリアはずかずかと寝室に足を踏み入れると、ベッドのシーツを引き剥がした。まったく同じ姿をした二人のマリアが、お互いを見つめ合う。その心情は窺い知れない。

「……」

 突然、本物のマリアは腰に差したレイピアを抜くと、すぐ後ろに立っていた俺に向き直った。呆然としていた俺は、易々と首筋に剣を突きつけられて、身動きを封じられてしまった。

「う……」

 首筋に触れる冷たい刃の感触に恐怖しながら、俺は呻いた。

「…こんな事だろうと思ったわ」

 初めてマリアは口を開いた。

「あの自殺した魔道士が、いかがわしい人形を作っていた情報を私は掴んでいた。もっとも言ってはいなかったけどね。そして騎士グレイ・マフリー。貴公には前から押収品を横流ししている噂があった。最近の奇妙な様子から、もしやと思っていたが……」

マリアの目に、軽蔑の色が浮かぶ。

「くっ」

俺は人形にマリアの姿を写し、それを弄んで楽しんでいた。その恥ずべき秘密を本人に知られてしまった。思わず顔が熱くなると同時に、冷たい汗が背中から噴き出す。

「それでも騎士か。恥を知れ。お前にまだ騎士としての体面があるのなら、この場で潔く自害してみせてよ。そうすれば、この件は秘密にしておいてやる」

情を感じさせない冷徹な声だった。
そう言えば、供の者はいない。マリアは一人で俺の部屋に乗り込んできた。こんな深夜にマリアが一人でやって来た事は疑問だった。俺が抵抗するかもしれないのだから、部下達を連れてくるのが普通だろう。今更だがその疑問に合点がいった。
もし部下がこれだけの不始末を仕出かしたのだとしたら、隊長であるマリアの体面にも傷がつく。それをマリアは恐れているのだ。だからこうして一人でやって来て、決着をつけようと考えたのだ。俺が抵抗しても、自分一人でなんとかなるという自信もあったのだろう。
これで俺が命を絶ちさえすれば、この事を知っている人間は誰もいない。この場に至っても自分の事しか考えていないマリアに、俺は筋違いの憤りを感じていた。

 嫌な女だ。やはり人形ではだめだ。人形ではこいつの代わりにはならない。こいつ自身を床に這わせて、屈服させてやりたい。
 いつの間にか、俺はマリアを睨みつけていたようだ。俺の視線に気付いたマリアは、不敵に鼻で笑ってみせた。

「何?その目は。自害する気概も無いのなら、私が手伝ってあげましょうか」

 そう言うと、持っていた剣をさらに首筋に近づけた。マリアが少し剣を引けば、俺の首からは容易に血が吹き出すだろう。
 その時視線の端に、ベッドを上に横たわっていた人形のマリアが、バネ仕掛けのように立ち上がるのが見えた。

『?』

人形のマリアは、本物のマリア目掛けて突進してきた。

「何よ!こいつ!!」

 意表を突かれた本物ともみ合いになった。剣から開放された俺は、人形への命令を思い出していた。

『もし俺が誰かに攻撃されようとした時は、お前は俺を助けるんだぞ』

 人形は俺が攻撃されたと思ったようだった。同じ姿をした二人のマリアは、不思議な格闘を繰り広げた。その奇怪な光景に、思わず見入る。

「ええい!」

 人形の力がどれほどのものかわからないが、本物のマリアは鎧を身につけ剣で武装している。勝敗は明らかだった。本物のマリアは気迫を込めると剣で人形の胴を薙いだ。鮮血が迸るかと思ったが、人形の体からは血の代わりに黒い煙が噴き出した。

「ゴホゴホ……何?これは」

 マリアは口を押さえて少し咳き込む。これが人形に篭められた魔力なのだろうか。煙は部屋を覆い尽くすほど充満すると、すぐに霧散してしまった。気がつくと、床の上に胴体を真っ二つに切断された人形だけが残った。最初の時と同じように、木彫りの粗末な物に戻っていた。

「まったく、こんな物に私の姿を写すなんて」

 人形の残骸を見ながら、吐き捨てるようにマリアは言った。再び俺に剣を向ける。

「さあ、さっきの続きよ。自害するの?それとも私の手にかかる方がいい?」

 不愉快な二択だ。どちらも選びたくない。言葉に困って黙ってしまった。どうすればいいのか、途方に暮れる。ふとマリアの剣を見ると、先端が細かく揺れているのに気付いた。マリアの手は震えていた。

「……?」

 そう言えば、マリアは俺に近づこうとはしていない。かなり距離を取って、俺に剣を向けているだけだ。先ほどのように、剣を俺の首筋に突きつけようとはしなかった。そのマリアの顔は、ひどく混乱しているように見えた。

「ま、まあいいわ」

 まるで誤魔化すようにマリアは言った。

「どちらも選びたくないというのなら、このまま詰め所に連行します。自らの行いに相応しい罰を受けるがいいわ」

 そう言うと俺の背後に回る。やれやれ、これで俺も罪人か。黒魔術の使用は死罪だ。今この場で殺されなかったとしても、結局死が少し先に伸びただけか。
 急き立てられるのかと思ったが、マリアは部屋の中央に立ち尽くしたままだ。後ろを見ると、ひどく混乱した顔をしていた。

「ど、どうして……?」

 俺に言うわけでもなく、呟いていた。先ほどからマリアの様子はおかしかった。不審に思ってマリアを眺めていると、その視線に気付いたようだった。むきになって俺に言った。

「な、何でもない……です。さっさと行って……ください」

 耳を疑った。マリアが俺に敬語を使ったのは初めてだ。それも何だか無理やり使っているといった様子だった。

「出て行ってもいいわよね?そうでしょ?」

「は?」

「な、何でもない…です」

 なぜそんな事を聞くんだ?まるで俺の許可を求めているようだ。
不意に、本物によって斬られた人形の残骸が目についた。人形のマリアに似ている……?

『敬語を使え』

『この部屋からは俺の許可無く出てはいけない』

 そんな事を俺は人形に命令していた。そう言えば、人形と一緒に入っていた紙には、人形が破壊された時の事が書いてあった。血で汚れてその先は読めなかったが、ひょっとして人形は破壊されると、元になった人間に影響するのではないだろうか。剣先が震えているのも、俺を傷つけてはいけない、という命令と心の中で抵抗しているからかもしれない。よし。

 俺は後ろを振り向いた。そしてマリアに向かって一歩近づく。もし予想が間違っていれば、俺は剣に貫かれる。これは賭けだった。するとマリアは、怯えたように少し遠ざかった。

「……」

「な、何よ」

 これは当たっているかもしれない。俺の心が、どす黒い歓喜で満ちてくる。今マリアの心の中では、本来の人格と俺が作り上げた人形の人格が激しく衝突しているのだ。だからどうして良いがわからず、混乱してしまう。
 俺は両手を上げ、マリアに逆らう気がないふりをした。一瞬、マリアの剣から緊張感が抜ける。その時を逃さず、俺は口笛を吹いた。マリアに向かって、叩きつけるように。

「な、何……?」

 一瞬、マリアの体が硬直したように見えた。そして心の底から湧きあがる不思議な欲求に、すっかり混乱しているようだった。落ち着きが無くなり、手にした剣は所在無く上下に動いている。

「そんな……。こんな時に。ど、どうして……?」

 ぶつぶつと小声で呟いている。そんなマリアの様子を、俺はニヤニヤ笑いながら眺めていた。俺にはマリアが何をしたがっているのか、手に取るようにわかった。マリアは、今この場で自慰をしたくなるのを必死に我慢しているのだ。そうなるように、俺が人形に課していたからだ。

 マリアは俺に剣を向けたままだった。しかし頬は上気し、呼吸は荒く乱れていた。発情しているのだ。右手は剣から離れ、所在無く宙をさ迷っている。心の中の葛藤を示すように、閉じたり開いたりしていた。

『どうした。遠慮する事は無いぞ。その手で自分のアソコを思いっきり弄ったらどうだ』

 こうして見ると、人形に課した命令は、かなり深くマリアに影響しているらしい。そうでなければ騎士として鉄の精神力を持つマリアに、こんな異常な事をさせようだなんてとても無理だ。
 俺は急き立てるようにもう一度、強く口笛を吹いた。マリアの中で『命令』を防ぎ続けた自制心は、再度の口笛を機に決壊した。

 カランと乾いた音がして、手にしていたレイピアが床に落ちた。同時にマリアは床に倒れこみ、自らの体を弄り始めた。

「ああ…そ、そんな…どうして……。我慢、できない……」

 絶望と快感の入り混じった声が、その口から洩れ始めた。

(9)

「ちょ、ちょっと見ないでよ……。見ないで…お願い……」

 そう言いながら、マリアは自慰を続けていた。俺に見せつけるように、足を大きく開いて。マリアは鎧の隙間に指を入れるようにして、自らの体をいじっていた。服の上からの刺激では、そう強い快感は望めない。トロ火のような弱い心地よさが、かえって強い性欲を呼び覚ます。鎧や服を脱ぎ去ってしまいたい欲求に駆られながら、それを必死に押さえつけていた。それはそれで面白い。

「どうして…こんな…はぁ…ン……」

 なぜこんな事をしているのか。マリア自身理解していない。それでもその身を焦がす強烈な性欲には逆らえない。マリアは火が出るほどの屈辱を味わいつつ、その麻薬のような快楽に溺れようとしていた。

 俺はすっかり余裕を取り戻し、椅子に腰掛けるとオナニーショーを眺めていた。視覚的には物足りないショーだが、あのマリア隊長が自慰に耽る様子は、それだけで俺を楽しませてくれた。

「フフ。部下の、それも罪人の部屋で、どうしてそんなにはしたない事をなさっているのですか?マリア隊長」

「くっ…ふぅ…いや…そんな…はぁ…ああ…はぁ……」

 顔を真っ赤にして、恥辱に耐えている。しかしそれでも自慰は止めようとしなかった。もう疑う余地は無い。俺が人形に課した調教は、マリア本人に強く影響しているのだ。余りに異質な性格に、マリアの自制心が悲鳴を上げている。だがその自制心も、快楽には弱い。つまり俺がマリアを欲情させ、性欲に溺れさせるとそれだけ人形の人格が強くなる。これは見物だ。

「はぁ…ハァ…ふぅ…うふぅ…あ…はぁ……」

 マリアのオナニーショーは、次第に熱を帯びてきた。そろそろ次の段階に進むか。俺は椅子から立ち上がると、マリアに近づいた。

「ひい…嫌!こ、こないで…ください……」

あのマリアは怯えていた。体を弄ばれると思ったのだろう。しかし抵抗する術はない。せいぜい体を固くするぐらいだ。しかし俺が触ったのは、意外にもマリアの左耳だった。

「えっ……?」

 呆けた表情。しかし次の瞬間、新たに沸き起こる淫らな欲求に、マリアは再び混乱していた。それは今までの人生で、感じた事のない異常な欲望のはずだった。

 ちらちらと盗み見るように、マリアは俺に視線を向ける。正確には俺の股間を見ている。口は少し開き気味になり、熱い吐息が洩れる。口の中で、舌が怪しく蠢いていた。マリアは、俺の性器を舐めしゃぶりたいという奇妙な欲求に支配されつつあった。

「私に、何をしたの?こ、こんな……」

「こんなって?」

「……」

 マリアは黙ってしまった。まさか俺のチ○ポをペロペロしたい、なんて言えるはずがないか。それでも磁石に引き寄せられるように、少しずつ俺に近づいてくる。自慰を続けて緩んだ自制心では、人形に課していた命令に逆らう事はできなかった。床に座り込んだマリアの顔と同じ高さに、俺の下半身があった。

「ああ、だめ…だめよ……」

 そう言いながら、マリアの手はそろそろと俺の性器に伸びていた。俺はまったく動かない。撫でるような軽い接触があった。

「ああ……」

 いざ触れてしまえば、今度は吸い付くように離れようとはしない。マリアは顔を背けたまま、両手でズボン越しに俺の肉棒を愛撫していた。その手付きは次第に激しく、淫らになっていく。サオを握るように掴むと、前後にこすり上げ始めた。

 俺はマリアを蹴飛ばした。

「きゃっ」

 短い悲鳴を上げて、マリアは床に倒れこむ。

「奉仕の時はどんな格好するのか。ちゃんと教えただろう!」

「あ……」

 教えたのは人形に、だ。しかしそれでマリアは悟ったようだった。
マリア隊長を俺専用のセックス奴隷にする。長年のその夢に、俺はあと一歩の所まで来ていた。信じられない幸運だった。その為にも俺は厳しいご主人様に徹した方がいい。俺が人形に接していた時のようにだ。
 フェラチオする時は全裸にならなければならない。それは今夜、俺が教えた奉仕のルールだ。マリアの顔が羞恥と屈辱で赤く染まる。

「で、でも」

「舐めたくないのか?俺のチ○ポを」

「そ、それは……」

 さすがに抵抗が大きいのか、マリアを逡巡していた。しかし否定もできない。フェラチオ中毒だった人形の性癖が、マリアに濃く影を落としているのだ。もう一押しだな。再度左耳を触る。それで決まった。

「うう~~~」

 マリアは呻き声を上げると、乱暴に鎧を外し始めた。よく見ると、目に涙を浮かべている。それでも俺のチ○ポ舐めたくて、服を脱ぐのを辞められない。鎧を脱ぎ捨てると、次は服に手をかけた。マリアの白い肌が、次第に露になっていく。
 マリアは全裸になると、俺の着衣を剥ぎ取り、泣きながら俺の男根にむしゃぶりついてきた。

「フン。そんなに俺のチ○ポを舐めたかったのか。とんだ淫乱女だな。え?隊長さんよ」

「ぐすっ…チュボ…うう…レロ…ちゅ……」

 屈辱の余り、マリアは再び泣き出した。泣きながら、それでも美味しそうに、俺の肉棒に舌を這わせていった。ひっきりなしに卑猥な音を立てるやり方も、俺が教えた通りだった。

(10)

「見てなさい…チュバ…絶対、ただじゃおかないんだから…ちゅ……。私の手で、あなたを殺してやるんだから……」

 物騒な言葉を聞きながら、俺は存分にマリアの奉仕を楽しんでいた。マリアは俺を睨みつけていたが、肉棒に舌を絡ませながらでは迫力も何も無い。

「俺は何もやってないですよ。隊長が勝手にやっているんじゃないですか」

 ニヤニヤ笑いながら、俺は言ってやった。

「う、うるさい!ごしゅ…あなたが私に何かしているのよ」

 憎まれ口を聞きながらの奉仕も悪くは無いが、そろそろ食傷気味になってきたな。そろそろ俺の奴隷である事を骨の髄まで悟らせてやるとするか。

「なあ。騎士道ってのは正直でなければいけないんだよな?」

「ちゅ……あ、当たり前じゃない」

「だよな。マリア隊長は騎士らしく嘘や言い訳は決して口にしない。一度口にした事は絶対の真実」

「そ、そうよ」

 いい考えが浮かんだ。マリア。お前は自分で自分を縛ってもらおうか。
 俺はマリアを立たせると、ベッドの上に押し倒した。

「何をする……ですか?」

「交代だ。今度は俺が気持ちよくしてやるよ」

 そう言うと、俺はマリアの体に覆い被さっていった。最初マリアは弱い抵抗をしていたが、少し愛撫してやると大人しくなった。それどころか、快感にその身を振るわせ始めた。

「はぁ…はぁ…んふぅ…はぁ…どうして、こんなに気持ちがいいの……」

「そりゃ俺の手だからに決まっているだろ」

「……」

 マリアは否定せずに黙ってしまった。俺は健康的な弾力に富むマリアの体の到る所を愛撫し、その秘所に手を伸ばした。すでにそこは熱く潤っていた。人形のマリアと比べると、一番違うのは体の温かさだろうか。本物のマリアの体は、まるで火のように熱かった。

「おら。黙ってないで、気持ちいいならそう言えよ」

「そんな事……」

 マリアは首を左右に振る。

「嫌なら止めようか?いいのか。止めても」

 擦り付けるように性器を愛撫しながら、マリアを追い詰めていく。

「…イイ」

 耳を澄まさないと聞こえないような小声だったが、マリアは間違いなくそう言った。

「んん?聞こえないぞ」

「いい。いいです。キモチイイ。」

「いいぞ。もっともっと叫ぶんだ」

 俺の言葉を誘い水にして、マリアの口から奔放な言葉が溢れ出した。

「いい、です!アソコが、ジンジンして、頭まで痺れちゃう。腰が、浮いちゃう。止まらない!」

 俺はマリアの陰核に指を這わせた。それだけでマリアは半狂乱になる。

「だめですぅ。そこは!こ、怖い。そこは、感じすぎちゃう!!」

 既に俺の分身は固く、そろそろ我慢できなくなってきた。マリアの中に突き入れたかった。俺はマリアの手を掴み、男根を握らせる。マリアは素直に俺の分身を掴むと、命令されたわけでもないのに優しく上下にしごき始めた。

「どうだ。入れたくはないか?お前の中に」

 既にかなりの部分を人形の人格に侵食されていたマリアの瞳に、淫らな期待感が浮かぶ。

「だけど、それはお前が俺の質問にちゃんと答えてからだ。そうしたら、お前を犯してやるよ。…マリア。お前は俺の何だ?」

「うう…それは……」

 マリアは言葉に詰まった。それは、頭の中である答えが浮かんでいるからに他ならない。しかしそれを認めてしまう事は、今までの自分を捨てる事だった。
 マリアは答えない。そうしている間でも俺の性器を握り締める手は、一時も止まりはしなかった。

「おい。答えろ。お前は俺の何だ?答えなければ犯してやらないぞ」

 牝奴隷は、ご主人様の命令には逆らえない。無限とも思える時間が過ぎ、マリアの口が決定的な言葉を告げ始めた。

「わ、私は…ドレイ。あ、あなたの…ドレイ……。なぜだかわからないけど、そ、そういう事になっているのよ!」

 乱暴な口調だった。しかしマリアが今まで築き上げてきた精神は、崩壊寸前まで追い詰められていた。

「よく言えたな。そうだ。お前は俺の奴隷だ。普通の奴隷は金品で売買されるが、お前は違う。お前はセックス奴隷だ。俺とのセックスの虜なのだ。俺とセックスする為なら、どんな恥知らず事でもやってのける淫乱女。それがお前だ」

「……」

 マリアは否定しない。できない。無言で俺の言葉を聞いている。

「牝奴隷だと素直に認めたから、ご褒美をあげないとな」

 軽く手で押し広げると、従順にマリアは足を開く。手が離れても、そのまま閉じようとはしなかった。丸見えになった局部は、これ以上ないほど濡れ細っていた。性器をあてがい、ズブズフに沈めていく。

「あ~~~~!!」

 マリアの中は熱く、抵抗無く俺のものを飲み込んでいった。入れただけでマリアはその身をよがらせていた。どうやら立て続けに何度か達したらしい。

「どうだ?ご主人様のモノは」

「はぁ…はぁ……」

 マリアは俺の肉棒の味に浸りきっていた。押し寄せる強烈な快感に耐えるだけで、精一杯といった様子だった。マリアを完全に屈服させる絶好の機会だ。

「マリア。お前は『本当の事』しか言わないんだろ?もっともっと叫んでみろ。『本当の事』を!」

 俺は小刻みに激しく腰を動かし始めた。

「あっあっあっあっ……」

「お前は俺の奴隷だ。その言葉に間違いないな?」

「は、はい!私は、奴隷です。ああ…めす、奴隷ですぅ!!淫乱な、牝奴隷なんです!!」

 一旦淫らな言葉が出始めると、次から次に溢れ始めた。それは調教の通りだった。

「ああ、私は何を言っているの……?ご主人様に、犯してもらう為なら、何でもする。してしまう、卑しい奴隷なんです!!…嫌、口が勝手に喋っちゃう」

 混乱しながらも、淫らな言葉は止まらない。

「俺の命令には絶対服従するな」

「もちろんです!!い、嫌よ。そんな事。どうか、メスイヌのマリアに、いやらしい命令を、いっぱいしてください!いやらしい命令されると、マリア感じちゃうの!!ああ、私一体どうしちゃったの?変。こんなの変よ」

「何を言っているんだ?マリアは『本当の事』しか言わないのだろ?嘘や言い訳をしない、立派な騎士だもんな。お前が口走っている事は、心の奥で望んでいた『本当の事』なんだよ」

「そ、そんな…ああ……。そうです。その通りですぅ。私は生まれた時からセックスで調教される、恥知らずな牝奴隷になりたくてなりたくて仕方なかったのぉ!!」

 それは面白い光景だった。『犯されると隷従の言葉を口にする』『自分は嘘を言わない』二つの命令が合わさって、俺に従属する言葉を真実だと思い込み始めていた。誇り高い騎士としての精神が原因となって、自らを卑しい牝奴隷に塗り潰していく。犯されて狂う度に、あのマリアが俺のものになっていくのだ。それは今まで感じた事の無い強烈な快感と興奮だった。俺は獣のようにマリアを犯した。

「そろそろ出すぞ。マリア!」

「ああ。精液!せーえき!!ど、どうかマリアの中にたくさん出してください。ドクドクってぇ、臭い液を!!マリアはぁ、変態だから、精液を注がれるとアクメ顔晒しちゃうんです!」

「アクメ顔?アヘ顔だろ」

 身も心も奴隷に落ちつつあるマリアは、すぐに俺の汚い言葉に迎合する。

「そうです!色呆けした、間抜けなアヘ顔!!アヘ顔をご主人様に見てもらうのぉ!!」

「よし、たっぷり見てやるぞ!」

 そういうと、俺は腰を奥に突き入れて、マリアの深い部分に精を放った。

「あああああ~~~~~!!」

 途端にマリアが絶頂を迎える。人形に施した調教はマリア本人に暗示として作用し、肉体はその命令通りの動きをするようになっていた。
 マリアは宣言通り、俺にアクメ顔を晒していた。天国をさ迷っているかのようなその顔は、身も心も俺に捧げ尽くした幸せそうな奴隷の顔、そのものだった。

(11)

 俺の目の前を着飾った騎士達が通り過ぎていく。派手な羽飾りのついた鎧に身を包んだ彼らは、近衛隊の連中だ。まったく同じ騎士とはいえ、こうも違うもんかね。俺は自分の着ている飾り気の無い茶色の鎧に目を落した。
 今日は年に一度の閲兵式の日だった。パレードを行うのは近衛隊や戦士団だ。ただの街の警備隊は参加しない。俺はただの来客の一人として式典に参列していた。

 不思議な物で、今でも俺は警備隊の騎士をやっていたりする。上司である隊長は、俺の横に並んで立っていた。青い長髪をなびかせて。
 警備隊隊長マリア・デ・ラ・トリニダートが、近衛隊への昇進を辞退した事はちょっとしたニュースになった。さまざまな憶測が飛び交ったが、真実を知るのは俺ぐらいのものだ。いずれにしても、もうマリアが昇進する事は無いだろう。

 俺はそっと、マリアのマントの下に手を入れた。この人込みだ。俺のしている事に気付く奴なんていやしない。マリアはちょっと驚いた顔をして、俺を見た。

「こんな時に……」

 小声で俺をたしなめるように言う。しかし、俺は気にしない。

「いいから。少し足を開けよ。俺が触りやすいようにな」

「……」

 すっかり従順になったマリアは、俺の命令に従う。マントの下で少し足を開く。俺の手はやすやすとマリアの秘所に辿り着いた。やはりというべきか、マリアのそこは既に濡れ始めていた。何食わぬ顔で平然を装ってはいたが、その頬は赤く上気している。すっかり可愛らしい女になったものだ。俺だけが知る、マリアの本当の姿だった。

「騎士がこんな場所でオ○ンコ濡れ濡れにするのはいいのか?」

 わざと意地の悪い事を聞いてやる。

「私は…騎士である前にご主人様の奴隷ですわ」

 マリアは騎士らしく、凛々しい口調で俺への隷従を誓った。雌奴隷としての興奮と、騎士のしての誇り高さが同居した、不思議な魅力に満ちていた。俺は今すぐにでもマリアを犯したい欲求に包まれる。

「これが終わったら、俺の部屋に来いよ」

 俺はマリアに耳打ちする。

「はい…どうか、雌犬奴隷のマリアをいっぱい可愛がってください……。ご主人様」

 マリアは幸せそうに微笑んだ。歓声が上がる。ちょうど戦士団の一行が目の前を通り過ぎようとしていた。
 この人形遊びに、俺はまだ当分飽きる事がないだろうと悟っていた。

< 終わり >

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