降魔ヶ刻 第五話

第五話

「先生、ちょっと失礼しますっ」
「あら、どうしたの?」
「コイツ、練習中に思いっきり転んで。足が器具に当たって、切れたんです」
「――結構、深いわね。まずは、とにかく止血して。その後で、病院に行った方が良いでしょうね」

 放課後の保健室。カーテン越しに、養護教諭のつかさと、運動部員と思われる男子生徒の話し声が、章司の耳に届いてくる。
 怪我を負った生徒がつかさの治療を受けている、まさに同じ部屋の中。カーテン一枚を挟んで隔離されたベッドの上では、よもや学校で行われているとは信じられない、淫らな光景が展開されていた。

「ん……ちゅ」
「はあ……、ぇあ」

 二人の少女が、ベッドの上で全裸になり、少年の隆々と勃起したペニスに、競い合うようにして唇を這わせている。

 ひとりは、この学校の三年生、水原夏美という女生徒だった。陸上部に在籍する彼女は、県大会でも活躍しており、将来有望な美少女選手として、校外の関係者にも有名だ。
 その彼女が、歳下の男子生徒の股間にひれ伏すようにして、顔を真っ赤にし、口元を唾液といやらしい粘液で汚しながら、卑しい行為に耽溺している。

 もうひとりの渡辺弥生は、小柄な少女だ。学園に入学したばかりの一年生で、まだ子供らしさが抜けない、柔らかな可愛らしさで人気のある生徒である。それが今では、無邪気そうな顔を淫らな色に染め、年上の少女と共に醜くそそり立った男性器に、口で奉仕していた。

 二人の股間からは、章司が注ぎ込んだ白濁液と、彼女達の愛液、そして弥生に至っては、ついさっきまで処女だったことを示す赤い一筋の液体が垂れ流され、内股を汚していた。

(まあ、なんていうか。さすがに、疲れたかなあ)

 女生徒達に、自分達の純潔を奪った肉塊を口で舐めて綺麗にさせながら、そんなことを考えていた少年に、“声”が応じた。

『女性を抱き続けている限りは、体力に限界は無いはずだけれど』

(いやあ、ほら、さすがに食い疲れてきたって言うか……)

 一昨日から昨日の朝にかけては、大島姉妹を抱き続けた。それから学校に来て、養護教諭のつかさ。その後も、つかさを奴隷としたことをいいことに、授業時間から放課後にかけて、何人もの少女達を保健室に連れ込んで犯した。
 夜は、少女達のうち外泊できた娘二名と女教師のマンションに移動し、彼女たちに面倒な影響が出ない程度に生命力を貪った。

 そして、今日もまた、朝から同様の行為を続けていたのである。

(そろそろ、家にも帰らないとヤバイし)

 二晩続けて、家に帰らなかった。昨日と今日は授業にも出ていないため、同じ学校に通っている姉に、電話でしこたま注意を受けたところだ。
 現在、自宅のことのほとんどを取り仕切っているのは、彼の姉であった。食事や洗濯など、何から何まで彼女に頼っている章司にとっては、一番の頭が上がらない存在だ。

『そうね……』

 何かを考えているような沈黙の後、声は話しかけてきた。

『そういうことなら、提案があるの』

(なに? 言ってくれれば聞くけど)

 献身的な行為を続ける少女達の髪を撫でながら、先を促す。

『この三日間で、貴方はそれなりに、女達から生命力を得たわ。――ココは、確かに良い狩り場ね。それなりに社会から隔たれた環境で、しかも若い娘達が、こんなに集まっている』

 学校に行動の起点を置くことを考えついたのは、章司の方だった。そして実際に、今のところは順調な成果を上げていると思っている。

『喰い集めた生命力がそれなりに溜まってきたし、そろそろ、私に“姿”を与えて欲しいの』

(それって、俺とキミの分、十分な生命力を集められたってこと?)

『いいえ、さすがにまだ、二人分にはほど遠いわ。でも、形を与えられたわたしがいれば、今よりももっと安全に、事が進められると思うの』

 安全に――彼女のその言葉に、章司は思い出す。

(例の、キミを封印したヤツらが、また現れたのか?)

 ぞっとして、慌てて問う彼に、声はそれを否定した。

『いいえ。でも、用心に越したことはない。いくらこの学園が良好な狩り場だとしても、避けられる危険は、避けた方がいい。
 姿形を得れば、わたしは今より多彩な力が使えるようになる。そうすれば、隠れながら生命力を得るのにも、ずっと有利になるわ』

(そうか……まあ、そういうことなら)

「くっ」

 声と会話しながら、我慢できなくなって、章司は射精する。隆起した肉棒の先端から放たれたザーメンが、奉仕していた少女達の顔や髪に降り注いで汚していく。
 熱い精液に可愛らしい顔を灼かれながら、それでも夏美と弥生はうっとりとした表情でそれを受け止める。

「ああ……」
「うんっ、勿体ない……」

 頬から顎へと垂れ落ちていく白濁液を、夏美が指ですくって唇に含む。それを見て、弥生も上級生に倣う。まるで甘味を口にするかのように、精液を舌で舐め始めた。

『まったくよ。勿体ないわ』

 突然、声に叱られた。

『顔に出したところで、媚薬としての効果はあるけれど、生命力を吸い取ることはできないわ。出すなら、ちゃんと体内に出さないと』

(ああ、悪かったよ)

 章司は苦笑いしながら応じると、互いの顔にかかった精液を舐め取り合う二人の美少女を残して、ベッドから立ち上る。
 怪我人の治療を終わらせたつかさに、濡れタオルで簡単に下半身を拭わせると、服を身に着けて保健室を後にし、帰宅した。

 二日ぶりに自宅へと帰り、カギを開け、誰もいない家の中に入る。
 章司の両親は、仕事の関係で現在は海外に行っている、妹は全寮制の学園に通っているので、月に一度くらい週末に帰ってくるだけだ。
 唯一人、ひとつ歳上の姉だけが一緒に暮らしているが、受験生である彼女は塾に通っていて、火曜日の今日は遅くまで帰ってこない予定だった。

 とりあえずシャワーを浴びてすっきりすると、飲み物を片手に居間のソファーに座る。一息つくと、章司は『声』に話しかけた。

「なあ、さっきの話なんだけれど」

『私に姿を与えてくれる話の事かしら』

「そう。それって、一昨日から集めてきた力を、それなりに消費するんだろう?」

『ええ、そうね』

 つばを一つ呑み込むと、彼はこの話が出てからずっと疑問に思っていたことを、口に出した。

「これでキミに姿を与えたとして、キミが『ありがとう。じゃあね』とか言ってどこかに行っちゃったら、俺はどうなるんだ? まだ、身体も不安定なんだろうし」

『ああ、なるほど。そんなことを心配していたのね』

 クスクスと、彼女が笑う気配が伝わってくる。それは本当に親しみを感じさせる笑い声で、章司も少しだけ安心した。

『大丈夫よ。わたしはもともと、人間に取り憑くことで、力を手に入れる妖魔なの。確かに姿形を得れば、自由に歩き回ることが出来るようになるわ。でも、貴方がわたしにとって必要であり続けることも、本当よ』

「そうか……なら、いいんだ」

 ほっと息をつく、章司。

『姿形を与えてもらうのは、契約の手順の内でもあるわ。貴方はわたしに形を与え、そしてわたしを抱くの。そうすれば、わたしは正式に、貴方に取り憑いた“魔”となれる』

「分かったよ。それで、姿を与えるには、具体的にはどうすればいいんだろう」

『簡単よ。貴方がわたしに与えたい姿を、思い浮かべればいいの』

 それは、本当に随分と簡単に聞こえる。

『ただし、猫とか犬とか、そういうのはやめてね。さっきも言ったけれど、貴方は、姿を与えたわたしを抱くんだから。
 いちばん良いのは、貴方が今、最も求める相手を思い浮かべることね』

「求める相手、ねえ……」

 つまりは、誰でもいい訳だ。知り合いでも良いし、グラビアやテレビの中に出てくる女優やモデルでも良い。よりどりみどりだ。

 そこで、ふと考える。
 ここ数日で、学校で目を付けていた女は、女生徒達から教師であるつかさまで、片っ端から抱き続けてきた。となれば、学校や町で見かける美人を選択して、その姿を採らせるのは、あまり面白くない。本人に手を出せばいいのだし。

 頭の中を、雑誌や映画の中でしか見ることの出来ない美女達が、通り過ぎていく。

(手が届かない、誰か……俺が、本当に求める……)

 そのとき、ひとりの少女が章司の脳裏に浮かんだ。
 ずっと惹かれてきた、なのに想いをけっして伝えられない、最愛の……

『わかったわ。その娘が、求める相手ね』

「え……、いやっ、ちょっと待て……っ!」

 自分が、思い浮かべてしまった女性の姿。その意味に気づいて、章司は慌てて“声”を止めようとする――が、既に遅かった。

 彼の中から、全身の毛穴の一つ々々を通って、何かが溢れ出す感覚。それが黒い霧のように部屋の中を渦巻き、やがて一点に収束していく。
 塊となった霧は、胴の輪郭を持ち、首、頭、髪、腕、脚とヒトの形をとって凝縮し、ついにはそこに、ひとりの少女の姿が現れた。

「あ……」

 軽くウエーブがかかった、肩まで掛かる髪。華奢で、綺麗な輪郭に囲まれた、整った顔立ち。
 僅かにつり上がった瞳は、しかし優しい曲線を描く眉のおかげで、きつくは見えない。繊細な鼻梁と、柔らかな紅色をした唇。
 全体的にほっそりとした印象を与える体型であるが、それは手足が長いせいであって、ブラウスを押し上げる胸元の膨らみは、同世代の少女達を羨ましがらせるだろう。

 すれ違えば誰もが振り返るような、そんな美少女。

「いかがかしら、章司?」

“彼女”がにっこりと、少年に微笑みかけた。

「なるほど、可愛らしい女の子ね」

 鏡を覗きながら、彼女はご機嫌な様子だ。

「封印の中からでも、近くの街の様子は観ることが出来たわ。もちろん、目で見る、というのとは少し違うけれども。
 だからその間、化粧や服装の流行が時代と共に変わっていったのは、よく知っているの」

 白いシンプルなデザインのブラウスに、チェック柄のスカート。首元を飾るネクタイに、面白そうに指を這わせる。章司も通う高校の、女子生徒用の制服だ。

「綺麗な姿をくれて、ありがとう。章司」

 少女の姿で、可憐な口元をほころばせながら礼を言う彼女だったが、少年の反応はあまり芳しい物ではなかった。顔を赤くしたり、青くしたりしながら、困った顔で、彼女を見返す。

「どうしたの? どこか、おかしいところでも」

 鏡を見直し、顔の形や服装を確認する彼女。

「いや、おかしいところはないけど……その格好は、マズイよ。できれば、他の姿になってくれないか? いま、雑誌か何かで、ちょうど良さそうな女の子を捜すから」

「あら、お気に召さなかったかしら。貴方の心の中に、確かに、この女の子に対する欲求を感じたのだけれど」

 小首を傾げるその仕草は、愛らしい姿とも相まって、素晴らしく魅力的に映る。そんな彼女の姿に、自分がどんな立場にいるのか忘れてしまいそうになってしまい、章司は慌てて頭を振った。

「とにかく、頼むから、別の人間になってくれよ」

 汗をかきながら懇願する章司に、しかし彼女は肩をすくめて応えた。

「すぐには、無理ね。姿を変えるには、それなりの力が必要よ。今の私たちには、そんな余裕なんて無いもの。それに……」

 章司の視野いっぱいに、少女の顔が広がる。慌てて身を引こうとしたが、ソファーの背もたれがそれを阻んだ。彼を追い詰めるように、彼女は覆い被さるようにして彼に顔を寄せる。

「隠したって、無駄。貴方がこの娘を欲望の対象として求めたからこそ、わたしはこの姿になったのだから」

 少女の冷たい掌が、章司の頬に添えられた。唇が唇に、押しつけられる。はじめは、そっと。そのあとで、もっと強く、深く。

「ん……んんぅ」

 唇が唇をむさぼり、挟み、なぞりあげる。舌先が章司の唇を割り、彼の口内に入ってきた。例えイミテーションだとはいえ、“この少女”と口づけを交わしていることに、少年は陶然とする。
 侵入した舌が、彼の舌に絡みついてくる。気が付けば章司は、夢中になってそれに応えて舌を絡み返していた。トロリと流れ込んできた少女の唾液を嚥下すると、腹の奥の方から熱がこみ上げてきて、下腹部をジリジリと灼いた。

「……っはぁ。フフ……こうやって人と触れ合うのは、本当に久しぶり。やっぱり、素敵ね」

 いったん顔を離し、彼女が嫣然と微笑む。
 章司は思わず手を伸ばし、彼女の頭を抱え込んだ。そのまま、今度は彼の方から、唇を重ねる。

「ぁん……ん、ちゅ…」

 嬉しそうにそれに応えながら、少女は手を下の方へと伸ばしていく。手の平で少年の胸を撫でさすり上げた後、さらに下へと移動させる。ほっそりとした指が、かちゃかちゃと小さな音を立てながら、章司のベルトを解き、ズボンの前を開けていった。

「はぁ……ねえ、“教えて”。この娘の名前は、何というの?」

「……香織、だ」

「カオリ……香織、…良い名前ね」

 彼女の手が、章司の下着の中に入り込む。既に熱く隆起した強ばりが、ひんやりとした柔らかい感触に包まれ、少年は小さくうめき声を上げる。そんな彼の表情に目を細めながら、少女は掌にくるんだペニスをやわやわと愛撫し始めた。

「ねえ、『香織』って、名前で呼んで。私は、香織よ……」

 彼女の手によって心地よい刺激を受けた肉棒は、あっという間に限界まで張りつめる。焦らすようにその部分を弄びながら、少女は章司の耳元に熱い息を吹きかけた。

「ああ……、気持ちいいよ、香織」

「うれしい……んっ」

 少年の耳朶を舌でなぶってから、唇を彼の首筋へと移動させる。舌先で皮膚をちらちらとくすぐるように舐めながら、徐々に鎖骨の方へと降りていく。
 章司はただ荒い息をつきながら、身動きも取れずにその愛撫を受けていた。肉茎に指を絡みつけただけで、彼女は彼の動きを全て封じてしまっているのだ。

「ねえ、章司。香織に、何をしたいの? 想像の中で、私に、何をさせていたの? 貴方が望むなら、その全部をかなえてあげる」

 耳から流し込まれる、あまりに甘い誘惑に、少年は全身に鳥肌が立つ思いだった。身体はますます熱くなっていき、浅ましいほど勃起したペニスは、少女の手の中でドクドクと脈打っている。

 少女は身をすり寄せながら、床に腰を下ろす。ちょうど目の高さになった彼の腰の前で指を蠢かせ、器用に章司のモノを服の間から取り出す。
 いきり立ったソレは、既に滲み出た先走りの液で、亀頭がぬらぬらと濡れていた。

「もちろん、こういう想像もしていたわよね。章司、お口が大好きだし」

「う……ぉ」

 小さくついばむように、少女が先端にキスをする。清純さを感じさせる小ぶりな唇が、醜く突っ張った性器に触れ、尿道孔に盛り上がっていた滴をそっと啜る。
 たったそれだけで、章司は腰を震わせ、うめき声をもらしてしまった。

「ふふ……んぅっ、…ちゅ」

 唇の間から赤い舌が覗き、ちらちらと動いて少年の敏感な部分――先の窪みや、カリの凸部、裏筋など――をくすぐった。
 射精を煽るのと、ただゆったりとした快感を愉しませるのと、そのちょうど中間程度の絶妙の力加減。章司の性欲を際限なく昂めようとする、そんな愛撫だ。

 全身を支配する疼きに、章司はたまらず香織のカタチをとった妖魔に問いつめた。

「お前……俺のこと、操ってるだろう……っ」

 少年の問いに、彼女はペニスを弄する手は休めずに、笑みを浮かべたまま答えた。

「ええ。その通り。わたしの唾液は、人間にとっては媚薬の作用があるの。貴方はそれを、さっきの口づけの時にも飲み込んだし、今もココの粘膜から浸透して体内に吸収されてる。
 でも、いいじゃない。おかげで気持ちがいいでしょう? それに……」

 楽しそうに、揶揄するように。少女は振る舞う。唾液と先走りの液で濡れた肉棒に、嬉しげに頬ずりしながら、悪戯っぽい表情を浮かべて、快感に耐える章司の顔を見る。

「それに貴方も、わたしを操っていいのよ?」

「……え?」

「貴方の力を、わたしに使ってもいいの。やってごらんなさい」

 少女の顔を、見下ろす。
 優しく整った顔を、男の欲望の象徴である、グロテスクな肉塊に沿える、彼女。柔らかそうな頬を、先ほどの頬ずりの所為で、先走りの粘液が糸を引いて汚していた。

 章司が数限りないほど妄想の中で犯してきた『彼女』。その少女が、まさしくそのままの姿で、彼の目の前にいるのだ。

 燃え上がるような欲望が、視線を通して、少女の瞳へと流し込まれる。

「ああ……ぁっっ」

 彼女によって煽り立てられた少年の情欲が、そのまま彼女へと注がれる。少女の全てを犯すことへの渇望。沸騰した熱い滾りが、彼女を悦楽の波に飲み込み、溺没させようとしていた。

「……んっ、すごい…章司の欲望が流れ込んで……あぁっ、こんなに……っ」

 ぶるぶると、少女の華奢な肩が震える。彼を見上げる瞳は熱く潤み、頬は赤く染まった。身体を襲う疼きに形の良い眉を歪めて堪えながら、淫魔の少女は章司にしがみつく。
 まるで奴隷が主人に媚びるように、脚に縋り付きながら、泣きそうな顔で懇願する。

「そう……それでいいの。もっと……もっとわたしのことを求めて。貴方の“魂”で、わたしを犯して……っ」

「……ああ、分かったよ」

 下半身を脈動させる荒々しい欲望のままに、章司は少女の躰を引き上げると、ソファーへと押し倒した。
 襟元を飾るタイをもどかしげな手つきでほどくと、ブラウスのボタンを外しにかかる。
 ブラウスと下着を外すと、白いふくよかな乳房と、その頂上で色づく小粒な乳首が彼の前に晒された。

「はぁっ、はあっ……」

 以前、偶然見てしまった、彼女の乳房。目に焼き付いていたそれが、眼前にある。
 そっと、まるで壊れてしまうのを怖れるかのように、胸の膨らみに手を伸ばす章司。だが、ひとたび手の平に柔らかな感触を確認すると、我慢の限界から、一転して激しい手つきで愛撫し始めた。

「ああっ…いい、……そう、乱暴なくらいが、すごく気持ちいい…はあっ!」

 細い喉を反り返らせながら、官能の歓喜にむせぶ少女。彼の行為に声を上げる彼女の淫らな姿は、男ならば誰でも持つ女に対しての征服欲を、章司の中に掻き立てる。
 静脈がうっすらと浮き出て見えるほどに白い首筋に顔を埋めると、唇で強く吸いついた。

「ふ……ぅ、や…跡が……」

 それだけでは飽き足りず、なおかつ軽く歯を立ててから、顔を離す。少女の頚、彼が口づけしたその場所には、僅かに赤い跡が残った。白い肌に浮かぶ、はっきりとコントラストを感じさせる赤い色に、章司は興奮した。

「香織……もっと、“俺のモノになるんだ”」

「くぁ……っ、はあ……」

 声に『言霊』を乗せながら囁くと、少女の躰がびくびくと反応するのが伝わってくる。
 両の手で左右の乳房を揉みしだきながら、少女のうっすらと汗が浮いた肌に、何度も口づけた。首筋、肩、鎖骨の上、胸元……何度も、何ヶ所にも、所有権を主張するかのように、夢中になって小さな赤い痣を残していく。

「……っく、そう……香織は、貴方のモノよ。もっと、わたしにシルシをつけて……ぁあ」

 少女の声は、けっして大きなものではない。なのにそれは、章司の頭の中に鳴り響く。彼の股間では、膨張しきった肉棒に過負荷を掛けるほどの血流が流れ込み、ズキズキと脈打っている。

(コイツ……、まだ俺を操ろうと……!?)

 章司は悟る。おそらくは彼女の声もまた、聞く者を縛り付ける効果を持つのだ。もしかしたら、さっきから彼が舌で舐めとっている少女の汗にも、催淫の効果があるのかもしれない。

「く……そぅっ」

 しかしそういった認識は、少年に身を引かせるものではなく、むしろいっそう彼女を責め立てようという欲望に転換されていく。
 少女の柔らかい肉を喰らおうとでもいうかのように、掌の中で形を歪ませる乳房に、唇全体でむしゃぶりついた。

「ふっ……あ、あぁ…」

 彼女が上げる声を心地よく耳にしながら、ツンとしこった乳首を、口も使って愛撫して刺激する。唇で強く挟み付け、吸い、あるいは舌でころころと転がす。
 そんな行為に耽る彼の頭に、少女の腕が回された。更なる愛撫を求めるかのように、少年の顔を自分の胸に押しつける。

「…っ、いい……章司、気持ちいいのっ」

 章司を胸の中に抱きしめながら、少女が喘ぐ。

「して……お願い、わたしを……香織を犯して…ああっ!」

 本物の“彼女”が、そんな台詞を彼に囁くなど、あり得なかった。
 しかし、少年にとっての最愛の姿で、声で、少女が彼を求めている。――そんな誘惑に、彼女とお互いを操り合い、興奮を際限なく高め合った今の章司が、逆らうことなど不可能だった。

「いいよ、すぐに……犯してやるよ」

 少女の手を振りほどいて、彼は顔を上げる。もう一度、亢奮を彼女の瞳に流し込んでから、制服のスカートをまくり上げた。
 胸と同じく白いレース飾りの付いた下着に包まれたその部分は、ショーツだけでなく内股まで湿らせるほどに、濡れていた。指でつついてやると、それだけで『クチュ……』と淫らな音が聞こえたようだった。

「なんだ、こんなに濡らしてやがったのかよ」

「んぅ……うん、わたし、もう我慢できない……」

 ショーツに手を掛け、脚から抜いていく。つい先日まではしたこともなかったこんな動作も、この数日間に何人もの女と関係を結んできた所為で、だいぶ慣れた。
 そのまま、脚の間に身を割り込ませる。

「ああ……章司ぃ」

 うっとりとした表情で見上げる少女の顔を見つめながら、章司は熱く猛りきった肉槍を突き込んだ。

「く、ぅ……ううっ」

 薄い背を反らして、彼のモノを受け入れる少女。彼女がもらす快楽のうめき声に、章司は全身に鳥肌が立つ思いだった。
 男を迎え入れるために十分に潤んだ肉洞の感触を味わいながら、少年は腰を使い始める。ぞわぞわと彼を締め付ける柔肉が与える快感に、彼は歯を食いしばった。

「すげぇ……香織の、絡みついてくる…っ」

 濡れた肉壁が、彼の起立を温かく包み、締め付ける。突き入れるときには誘うように、引き抜くときには逃すまいとするように、肉棒の凹凸にまとわりつく。まるで、無数の柔らかな指に扱き上げられているようだ。

 腰が挫けそうになる快感に耐えながら、さらに深く、さらに大きな快感を汲み上げようと、章司は夢中で腰を振った。

「ん……ああっ、いい…章司の、とっても気持ちいいの……」

 そんな自分勝手な彼の動きに、しかし少女の腰が蠢きながら応える。少しでも彼を深く受け入れようと、白尻が淫猥な舞を演じる。
 やがて二人の動きは同調していき、部屋の中にリズミカルな水音が溢れた。

「はぁっ、はぁっ……!」
「ふ…ぁあ、ああ……くぅ…んっ」

 ふと、再び章司と少女の視線が絡み合う。お互いが抱える興奮、相手への所有欲、原始的な性衝動――それらが二人の瞳を通じて、浸食し合い、呪縛し合う。

「「――――っっ!!」」

 覆い被さる者と、組み敷かれる者。突き立てる者と、抉られる者。
 少年と、少女――二人の立場は相反する物であったが、それでも彼等は、確かにお互いを喰らい、貪り合っていた。

「香織……かおりっ!」

「う、んっ……激しく、て…ぁああ」

 少女を犯す章司の顔に浮かんだ汗が、顎を伝わり、目の前の乳房に水滴となって落ちる。
 吸い寄せられるように顔を寄せると、彼女はほっそりとした両手を章司の頚に絡めてきた。柔らかな白丘に顔を埋めながら、少年は下腹部の圧力が、堰き止められる限界に近づいてくるのを感じた。

「んあぁ……っ、ねえ、章司…」

 それを察したのだろう。少女が、胸の中に抱いかれた彼に、囁く。

「お願い…香織の中に……、胎内にちょうだいっ」

 彼女の声に、魂が震える。刻々と水位を上げる射精への衝動に耐えながら、章司はより高い快感を求めて少女を貫き続ける。
 だが、いくら唇を噛んで抑え込もうとしても、それももう保ちそうにない。

「香織……イク、ぞ……っ!」

「うん、来て……お願い、ちょうだいっ」

 頬に乳房の柔らかさを感じながら、章司は温もりの中に、全てを解放する。

「ぐ……う…香織ぃっ!!」

「イ……クっ、ああ……はあぁぁっっ!」

 ドクッドクッと腰ごと拍動させながら、胎内に精液を打ち込んでいく。ギュッと、彼の頭を抱える腕に、力が入った。そのことで、彼女もまた達していることを知る。
 息をぐっと止め、歯を食いしばりながら射精しつづける、そのとき。

“――ドサッ!”

 彼の耳に、何かが床に落ちるような音が聞こえた。

(なんだ、今の音は?)

 だがザーメンを吐き出し続けている最中の彼には、音の方向を確認する余裕など無い。ただ圧倒的な開放感に、身体を戦かせるだけだ。
 高めるだけ高め、そのあと溢れ出した奔流は、呆れるほど何度も何度も脈打ちながら、白濁液を吐き出していく。その度に、下半身の全ての力を奪ってしまうほどの痺れが、快感となって背筋を駆け上がる。

「っっくう……、…はあっ、はあっ」

 どれほどの量の精液を放ったのか。やっと、呼吸が戻ってくる。早鐘を打つような鼓動は、未だドクドクとうるさいほどだったが、ここに至りてようやく、少年は周囲の状況を確認しようという余裕を取り戻した。

「はぁっ…はぁ、……なんだ?」

 気怠い身体に鞭を打って、白い乳房の間から顔を上げる。

 最初に目に入ったのは、床に落ちたカバンだった。一見地味なデザインではあるが、実は凝った作りのグレーの布製のそれ。……章司にとっては、見慣れた品だった。

「え……?」

 カバンは、黒のソックスを履いた、すらりと長い女の脚の、すぐ脇に落ちている。
 チェックのスカート、白いブラウス。襟元を飾るネクタイ。そして更に視線を上げれば、肩にかかるウエーブのついた髪。瞳はつり目がちだが、優しい曲線を描く眉のおかげで穏やかな印象を与える、整った顔立……

 彼が組み敷いた少女と、まったく同じ顔。
 鏡に映したようにそっくりな顔をした、別の娘がもう一人、呆然とした表情を浮かべながらドア口に立っていた。

「あ、……」

 ザ――と、自分の顔から血の気が引いていくのを、章司は感じた。
 何か台詞を口にして場を誤魔化そうとしても、この状況でどんな言い訳をしたらいいのか。驚きで真っ白に染まった彼の頭では、何も思いつかなかった。

(なんで……っ)

 何故、彼女がここにいるのか。
 今日は、塾の日で帰りが遅くなるはずなのに。まだ、いつも帰ってくる時間には、かなりの余裕があるはずだ。

 しかし、現実として、少女はそこに立っている。

 錯乱と、羞恥と、悲観――そういった感情がぐちゃぐちゃに混濁した声が、章司の口からこぼれ落ちた。

「………姉さん…っ」

< 続く >

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