**********4th-day Vol.9**********
【4th-day あらすじ】
陣内瑠璃子の操り人形となった深田茶羅は、明智祐実への捜査報告を装って2人きりになると、いきなり彼女を襲い始める。彼女は陣内瑠璃子の暗示により桁外れの力をもって祐実を犯そうと詰め寄る。一方、チームの一員である飛鳥井園美は『セルコン』の手におち、当夜警察の捜査の手が迫る『セルコン』の営業拠点のひとつである「FOREST」に操られたまま現われ、ショーを演じる操り人形にされていた。
【 赤坂 FOREST 】
満足げに弛緩しきった表情で横たわる園美の耳には割れんばかりの拍手は届いてはいなかった。
園美は『FOREST』の店内中央にあるお立ち台の上で全裸のまま、息も絶え絶えに昇天していた。
今も時折ぴくん・ぴくんと体が反応して痙攣を繰り返している。
スポットライトに照らされたお立ち台の周りを取り囲む暗がりの観客席には多くの観客が惜しみない拍手を続けていた。
「みなさんに喜んでいただけて光栄ですわ。『オンナを思うがままに操る快感コーナー』ご堪能いただけましたでしょうか。そして園美の内なるココロの代弁者としてマイクと電話をお持ちいただき暗示を与えてくださったお客様方に感謝いたします。若干、『園美自身のココロの代弁』というお題目をお外しになった暗示をおっしゃられたお客様もいらっしゃいましたが、それはそれで共感を覚えられたお客様方の拍手がありましたので、まあ『良し』といたしましょう」
スピーカーから流れるママの声に拍手はゆっくりと静まっていった。
「どんな女であろうとも、自室の密室というシチュエーションを与えてやれば、結局一皮向けばただの淫乱なメス。性欲の「タガ」を緩めてやればこのとおり」
ママの言葉に再び拍手が沸き起こった。
「ご説明したとおり、このコは今我々の企画するイベントやパーティの邪魔をするLS(レディースワット)のメンバーの一人です。肉体的、精神的にも鍛えられた特別な人間であることをお忘れのないように。いくら催眠に堕としているとはいえ、いつ今のように些細な疑問から自我を取り戻し我々に反抗してくるかわかりません。捕獲してから深々度のトランス状態に反復的に堕としていない荒削りのままですので」
「ママ、時間がおしてるよ。踏み込まれたらどうすんの」
クラッカーが腕時計をママに向けて指で叩いた。
「クラッカー、お客様の非難口は?」
「大丈夫、今も確認してきたところさ」
「ありがとね」
暗がりのカウンター脇で小さな会話を交わした後、ママは再びマイクをONにした。
「それでは皆様、引き続き第2部とまいりましょう。このコは実父に犯された貴重な経験の持ち主です。それが今のこのコの生き方を決定づけたといっても過言ではありません。深い心の傷と憎しみ、そしてトラウマ、この3つの素晴らしい形成の中に彼女の今があります。第2部ではそれを弄んでまいりましょう」
周囲からの会話が消え、皆再び息を呑んで舞台に横たわる園美に注視した。
《園美、目を覚ましなさい》
ママのマイクからの声に園美はすぐに反応してゆっくりと目を開いた。
《寝ていたら失礼じゃないの、あなたは今、大事なヒトと体を重ねている真っ最中なのよ》
ママの暗示に園美はいもしない隣の男に猫なで声を出す。
「いやん、タカシ怒らないで。寝ていたんじゃないわ、ちょっとボーっとしてたの」
上体を起こして居もしない男の腰に両腕をまわして男に抱きつく仕草を見せる。
《感じているわ、もう十分にあなたは溢れてる。彼があなたと一緒になりたがっている》
「いいよ・・・タカシ、来て・・・・入れて・・」
足が大きく開かれて園美はいもしない男の背中に両手を回した。
『おおおおおおおーっ』再び観衆からパックリ割れた園美の露を帯びてライトに光る秘唇に歓声とどよめきが起こる。
《ゆっくりと彼のものが入ってくる、感じる、いつも以上に感じてる》
「あっ・・・・・いい・・・・・・いい・・・・タカシ・・・・・タカシの・・・あったかいね・・・・」
《彼がゆっくりと動き始めた、あなたはとても気持ちいい、声が止まらない》
「いい・・・いい・・・あん・・・・いい・・・いいっよぉっ・・・・・・・あああああああああああああああああ」
《もっと感じたい、もっと、もっと、もっと、もっともっと》
「タカシぃぃぃぃ、もっと、もっと・・・もっっっトォォォォ」
男にしがみつくように虚空にまわした腕に力が入る、濡れそぼって開ききった秘唇を中心に園美のくびれた腰がグルグルと弧を描くようにグラインドを続けている。
淫らな光景だった。
舞台の袖から仮面をつけた男がゆっくりと園美に近づいた。
一瞬場内が騒然となる。実態のある男の体に園美の手が触れると強引に引きよせるように男を招きいれた。
『舞台のお客様、戸惑っておいででしょうが、ご心配なく、そのまま園美に体を任せてくださいませ』
促されて仮面の男が園美に体を重ねる。
仮面の男は園美の貪欲なまでの淫乱さと背後から注がれる観客の妬ましい嫉妬の視線により緊張してしまっていた。
園美だけが意に介せず悶え狂っていた。
『これからは、ご来場のお客様の中から私どもがお尋ねしたお客様のご趣味とご寄付の金額を元に選出いたしました幸運な方々に舞台演出の一部をお願いいたしました』
聞かれてない、俺も出たい、寄付ならいくらでも・・・そんな声が闇の観客席から飛び交う。
『ご静粛に。選出はすでに終了、残念ながら選に漏れたお客様はお静かに舞台をお楽しみください』
「もっと、もっと、もっと、もっともっと・・・・・いい・・・いい・・・あん・・・・いい・・・いいっよぉっ」
園美の両足が男の腰を挟んで離さない。園美の腰が別の生き物のようにクンクンと跳ね上がる。
「さて・・・そろそろね」
ママが合図をすると新たに5人ほどの仮面の男たちが舞台に上り、遠巻きに園美と本番さなかの男を取り囲んだ。
何が始まるんだ?
観客は息を呑む。
園美の喘ぐ声だけが響く。
スポットライトに照らされた園美の裸体は汗で瑞々しく光沢を放っていた。
(園美、目を開けてよく御覧なさい。今お前が抱いているのは飛鳥井全幸、お前の父よ)
ママの声がスピーカーから流れた。
その瞬間、今までとけるような表情でいた園美の顔に一瞬のうちに恐怖で歪みあがる。
「ひっ・・・・・・・い、いやーーーーーーーーーーーーーっ!」
男をしっかりと抱きしめて放さなかった園美の手が男の両肩を掴んで突き放すように上へと持ち上げた。
「イヤ!イヤイヤ!やめて!やだ、やめて、離して!何するの、やめて、やめてよ!パパ!」
ヒステリックに騒ぎ出して男の胸をポカポカと叩き出した園美の態度の豹変に観客は固唾を呑んだ。
仮面の男は起き上がり逃げようとする園美を押さえつけて両頬を平手で2度叩いた、そうするようにママに言われていた。
その2発のビンタで園美は無抵抗になりぐったりと横たわる。
表情は精気を失い、目から涙がこぼれている。
「フフ、思ったとおり。園美は父に対して無抵抗・無感情になることで懸命に自己保存を図った、中学高校の女の子じゃそれが精一杯だったのね」
舞台の上の園美の反応を見ながらママは呟いた。
「でも、もう違うわ。あなたはもうオトナよ」
ママはマイクのスイッチをONにする。
《園美、なにを我慢しているの。今のあなたには『力』があるわ。あなたは強いの!立ち上がるのよ!今こそ弱かったあなたを食い物にしてきた父、飛鳥井全幸にあなた自身が教える時が来たのよ。これは復讐じゃない、道を過った者を諭すあなたの使命なの。あなたの父に対する『愛』だわ。園美、『汝、隣人を愛せよ』》
「ぐぅわぁーっ」
苦悶の悲鳴を上げて仮面の男が舞台の中央で蹴り倒された。
園美の鍛え上げられた右足が男の鳩尾にヒットしていた。スワットとして鍛え抜かれている園美の一蹴は大の男がもんどりうって動けなくなるほどだった。
「許さないわ、パパ。園美がパパを正してあげる」
男は苦しみにのたうち回っている、園美の言葉を聞くほどの余裕は残っていなかった。
「私を見くびらないで。私は強いのよ」
《そうよ、園美。あなたは今レディスワットの勇敢な隊員、戦いなさい、スーツをまとって!》
スピーカーからの声に疑いもなく手近にあったスーツを手に取る。
おおぉぉぉぉっっと歓声があがる。
園美のいでたちは、あの『QeenBee』でコーディネートされた黒光りするボンデージスーツだった。
それを園美はためらいもせず身にまとっていく。
淫靡なコスチュームは全裸でいるときより妖艶で、丸出しになった乳房と秘部が愛液に濡れ、周囲のエナメル地と共にダウンライトに照り映えている。
ツカツカっと園美は苦しみもがく仮面の男に近づくと表情も変えもせず平手で頬を張り始めた。
「あっ・・・・い、いたい・・・・わぁううう」
先ほどの淫らな時とも、パニックになった時とも違う、氷のように怜悧、ナイフのように鋭利で危険な表情が浮き出ていた。
両腿の内側が愛液で光り輝いている。
「さぁ、ほかのゲストの皆様もどうぞ園美のほうへ。フフ、女王様の方へと言ったらよろしいかしら?」
園美を取り巻いていた5人の仮面の男たちも園美の元に近づいてくる。
《園美、その男たちもすべてお前の父よ。あなたは強い、強くなった。ここはあなたの部屋、あなたの今までの辛さや憎しみ全部吐き出してしまいなさい》
園美の目は釣りあがり、先ほどとは比べ物にならない凶悪な表情が浮かび上がる。
「私に触るんじゃない!私に触れるな!このゲス野郎!」
そう聴いた瞬間、園美の実戦さながらのキックとパンチが炸裂する。
鍛え上げられた無駄のない動きは、まるで完成されたダンスでも踊るかのように観客は酔いしれる。
「パパが私を奪った代償を、この場で今返して貰うわ!私の受けた痛みを思い知りなさい!」
天井から垂れてきたお約束のような鞭を園美は握り締めるとまるでサーカスの猛獣使いのように勢いよく振り上げた。
「痛いか!痛いか!痛いかっ!もっと苦しめ!もっと!もっと!もっともっとォーっ!アハハハハハ」
苦しみもがく男の数はあっという間に6人になった。
みんな、苦悶にのたうちながら喜びの表情すら浮かばせている。
わざと園美に触れて追撃を食らって楽しんでいるものすらいる。
「なるほど。そういったご趣味の方たちを選りすぐって舞台に上がって頂いたってワケね」
クラッカーがつぶやいた。
「まったく、『パンプキン』のヤツ!しっかり園美の性格までいじくってる!でも素質あるわぁ、このコ」
「店の最後にはうってつけのシチュエーションだと?」
クラッカーは苦笑した。
「まあね。クラッカー、そろそろフィナーレよ。扉を開けておいてちょうだい、避難誘導お願いね」
「OK」
クラッカーは秘密の非常口へと移動した。
「皆様、本日最後はこの美しいファイターの華麗な演舞を見ていただきました。そろそろ最後となりました。今日はこの『FOREST』最後の日。今日この店は警察の手入れを受けて間もなく完全閉店となります。手入れはあと30分後、事前にお知らせしたプログラムのメインイベント時間です」
急に店内がざわついた、聞いてない、捕まるのか!など怒号が飛び交う。
「ご心配なく、皆様の退路は私どもが確保しております。その前に最後のショーをご覧にいれましょう。警察の突入にハラハラしながらのスリルのあるショーをこの店の『グランドフィナーレ』といたしましょう!」
『グランドフィナーレ』の言葉が出たその瞬間、観客の中から8人ほどの男が立ち上がった。
「う、動くな!赤坂中央署の者だ!全員その場を動くんじゃない!」
すでに客として潜伏していた捜査員が手帳をかざして出入り口付近を包囲していた。
「この店の違法営業行為は確認した!全員を署まで連行する。逃げても無駄だ!出入り口は我々が包囲している!」
数人が無理に逃げようとして捜査員と揉みあいとなる。
さすがに武道の心得さえある捜査員には客もかなわない。
店内は更に騒然となった。
「おだまりっ!静かにおしっ!」
突き刺すようなママの声に一瞬にして静まり返る。
「お客様、私ども「セルコン」のお客様としての品位を欠くことなく、心をお平らにお保ちくださいますよう!ご安心くださいと申しあげたはずですよ」
部分的に騒ぎの収まらない客たち、今日はじめて店に誘い入れられた一見の客だった。
「今日はじめての方、『ご新規さんにご命令』させていただきます、席に戻りお静かに」
『ご新規さんにご命令』その言葉を聴いた途端、客は一瞬にパニック状態から落ち着きを取り戻し、まるで夢遊病者のように整然と席に戻った。
一見客たちは来店時に自分ですら気づかぬうちに意志の根の部分をママにおさえられていた。
「出て来い!お前も動くんじゃない。お前がこの店の主人だとすでに調査済みだ!署でたっぷりと話を聞こうか、チンクシャ女!」
どこにママの所在があるかわからないまま捜査員はあちこち見回しながら叫んだ。
「な、なんですって!キーっ!もう許さない、『警察の犬ども!』武器を捨て舞台へお上がり!」
次の瞬間、観客を取り押さえていた捜査員や出入り口を固めていた捜査員がまるで引っ張られるように舞台の方へ歩き出した。
「な、なんなんだ!あ、足が勝手に・・・・・・」
「お、俺もだ!だ、ダメだ・・・・と、止まらない」
「うあっ・・・・と、止めてくれ!だ、誰か!」
8人の男たちは抵抗も空しく次々と舞台へと上がっていく。
それを見て客たちも落ち着きを取り戻し、舞台へと目を凝らした。
「さあ、お前たち、彼女の前に跪きなさい。園美、この人たちもあなたのお父様よ」
体が自由にならない捜査員の顔に焦りの色が浮かぶ。
「懲りないようね、パパ。でもいいわ、私のパパに対する憎しみはまだまだ尽きるモンですか!」
ぴくっと園美の眉の端が吊り上る。次の瞬間、風切る音とともに8人の体に鞭が打たれた。
「うあっ!」
「痛っ!や、やめろーっ」
捜査員からうめき声がもれる。
立ったまま打ち据えられた捜査員達は、床に倒れ伏しても体は自由にならなかった。
追い討ちかけるように操られた園美は狂気の笑みを浮かべながら鞭をふるった。
「フフフ、気づかないうちにお前たちは店内に入った時から私の手の内にあったのよ。いえ、今この中にいるお客様すべて。ご心配なく、皆様には何もいたしませんわ。いつものように、ここの秘密を他言できないようにはいたしますが、いつものことですからご安心を」
「チクショウ!なぜ俺たちが警察だとわかったんだ!」
「アハハハ、あなたたちが無意識のうちに自分で名乗り出たのよ。それに私には情報を伝えてくれる忠実な『仔猫』がいるわ。さあ第2幕いくわよ。『グランドフィナーレ!』」
その瞬間、倒れていた捜査員8名が一斉に立ち上がり声をあげる。
「う、動くな!赤坂中央署の者だ!全員その場を動くんじゃない!」
すでに客として潜伏していた捜査員が手帳をかざして出入り口付近を包囲していた。
「この店の違法営業行為は確認した!全員を署まで連行する。逃げても無駄だ!出入り口は我々が包囲している!」
男達はママのキーワードをきっかけに再び警告を発する、まるでビデオの再再生のように。
「な、なんだ、口が・・口がが勝手に・・・・」
「お、オレ達になにをした!」
「どう、まだお分かりにならないかしら?ある一定の言葉を聴いたら、我々に悪意を持って鑑賞以外の目的で来ている者は自らの身分を明かし、立ち上がるように暗示が与えておいたのよ。この店内にいるスタッフ以外全員にね」
「そんな馬鹿なことあるか!何かのトリックだ!」
「トリック?そうね、『催眠』というトリックかもね。でもそのために立ち上がってしまったお前達は、結局は予定より早く行動を起こしてしまった」
ママは余裕の表情でほくそ笑む。
「くっ!ば。バカな!」
「そうでしょう?一斉検挙と店外を包囲している仲間達の突入はショーのクライマックスが終わった瞬間に開始されるハズだったのでは?」
「ど、どうして・・・どうしてそこまでお前が知っている?」
「フフン、私達は何でもお見通しよ!あなた達このコの所属から何の情報提供ももらってないの?私たちには警察の動きを知らせてくれる『子猫』を飼っているの。あなた達の動きなんてバレバレなのにね」
「あんた、あんたが教えたのか・・・・チッ、コレだから女のスワットなんて」
「広告塔だけでいいんだよ、あんたみたいなキレイどころはよ!お前みたいなヤツがいるから折角の捜査が・・」
男達は口々に園美を恨めしく睨んで罵倒した。
男達の言葉に園美は鋭く睨みつけた後、黒光りする長いエナメルの黒手袋の腕で思い切り殴り上げた。
「ぐあぉ・・・・うおぇぇぇ・・・・」
「うううう・・・・・・・・・・・・・・・・・」
2人の男はその場に倒れこんだ。
「気に入らないわ、パパ。捕まった時くらい、しおらしくしたらどうなの。女だと思って甘く見ないで。ワケの分からないこと言ってんじゃないわよ!」
園美は鼻先であざ笑う。
まるで別人、さっきまでの姿からは想像できない豹変だった。
「まったく、あなた達の組織っていつまでたってもいがみ合い、横の連絡がつかない使えない組織ね。まあ、私たちはそのほうが好都合だけどね」
ママは真っ赤なワインを一口啜って、まるで楽しむように男達が苦痛に歪むのを暗がりから見ていた。
「そのコは何も知らないわ。ただのプレイドール、操り人形よ。・・・・・・・・・・園美!」
「なぁに?」
天井につけられたスピーカーから流れるママの声に園美は応える。
「肉体はフリーズしたまま、あなたのココロを解放するわ。園美、『SWITCH OFF』」
キーワードとともにカクンっと園美の首が眠るように垂れた。
再び、ゆっくりと顔が起き上がる。
目つきが鋭く高圧的な表情は影をひそめ、不安げな少女のような面立ちが現れていた。
「あっ・・・・わたし・・・・・・・?・・ここ・・は・・・」
「お初にお目にかかるわ、飛鳥井園美さん。本当はもう数時間前から会ってるんだけどね」
マイク越しの大音量で響くママの声に園美は驚いて、慌てて周囲を見渡した。
「こ、ここは・・・・・キャアーっ!な、なんで?なんで、私、なんでこんな格好なの!い、いやーっ、ど、どうしてっ!か、体が、手が、う、動かない」
「ちょっと、ヒトの話を聞きなさいよ!」
「だ、誰なの?あなた!ここは一体どこ!何なのこの人たちは!」
自由にならない体で園美は首だけママの方へ向けた。
「あんた・・・本当に今までのコト、覚えてないのか?」
正面にいる捜査員の一人が驚いた表情で言った。
「あ、あなた達は・・・・・?」
「あんた、本当にLS(レディースワット)の隊員なのか?」
「ど、どうして、それを」
園美は驚きを隠せなかった。
周囲の観客は警察に踏み込まれ自分達が危険に晒されるのではないかとのスリル半分、これからの展開に興味半分で息を呑む。
「本当に何も覚えていないんだな・・・・・・・・」
捜査員の問いに園美はうなずいた。
「俺達は赤坂中央警察署の捜査員だ」
「LSのチーム6所属、飛鳥井です。・・・・ここは赤坂署の管内なんですか」
「飛鳥井さん、あんた本当に今まで自分が何をしたのかもどこに居るかも覚えていないのか?」
園美は考え込んだ後、ふさぎこんだ表情で「すみません」とだけ言った。
「自己紹介は終わって?園美?」
「あなたに呼び捨てにされる覚えはない。あなた、誰なの?顔を見せなさいよ!」
「知る必要はない。私が想像したとおりだわ。シラフのあなたは好かない。これだけ身の回りにおきた理不尽な事態にもあなたは落ち着き払ってる。訓練された人間とはいえもう少し取り乱して可愛げのあるところ見せてくれれば、こっちだって手加減してあげるのに!」
「嫌なヤツ!」
「フフフ、光栄だわ。いいこと?あなたは私の完全な支配下にあるわ」
「支配下?私に何をしたの?」
「フフ、あなたを含めて、この店の中にいる人間はすべて私の手のひらの上、催眠の虜囚」
「私にいつ催眠をかけたって言うの!」
「ナ~ンセンス!心理学を専攻し、一級の心理療法士として催眠を治療技術として体得しているあなたらしくもない、飛鳥井園美サン」
「ど、どうしてそんな・・・・・・・・・」
「あなたに催眠をかけることはいつだってできる。かけたことすら忘れさせてしまえば今のあなたのように催眠に堕とされた記憶すらない」
「催眠状態に導入されるには、相応の環境と相手との対峙が必要だわ。私なら、その状況を察知して催眠状態に堕とされる前に脱するはずよ」
「フフ、自信過剰じゃない。お馬鹿さん?だったら、今のあなたは何なの?舞台上にいることを自宅と錯覚し、オナニーして、父と錯覚して客とSMショーを演じたのは誰」
「そ、そんな・・・・そんなこと私してない」
「覚えてないだけでしょ?聞いてみたらどう?お仲間に・・・・・不自由そうだから首から上だけは自由にしてあげる」
ママの声と指をパチン!と鳴らす音とともに、園美は自由になった視線を捜査員の方へ向ける。
「残念だが・・・・・・・・・・事実だ」
捜査員の一人が言った。
「そんな・・・・・・・・」
園美の表情がこわばる。
「思い出させてアゲル」
再びママの声と指をパチン!と鳴らす音とともに、園美の表情は驚愕と羞恥に襲われて渋い表情になっていく。
「うっ・・・・」
園美の表情は苦悶へと変わった。
「あら?期待外れ、もっと取り乱して欲しいわね。でないとイジメ甲斐がないわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
園美は悔しさに目を潤ませながら唇を噛んでママのいるであろう暗がりを睨む。
「おぉ、コワ!その表情ス・テ・キよ」
(落ち着くの、落ち着くのよ!周囲をよく観察して、なにか捜査の手がかりになるようなものを・・・)
園美は周囲をぐるっと見回した。
舞台に向けられたスポットライトのせいで周囲は暗く、反射で見える舞台近くの卑しい男達の色情に満ちた顔だけが浮かんでいた。
「冷静ね、自分がどこで私の手に落ちたか思い出しているのかしら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
園美は終始無言のまま、とにかく冷静になるよう努めた。
「あなたのスゴイところは敵意を抱いた相手に対する復讐心を瞬時に自分の行動力に変えられるところよ。これサービスに教えてあげる分析結果、あなたはすでに過去の父親のトラウマを克服しきっている。残っているのはそういうことをする男性全般に向けられた軽蔑のココロ」
「なんですって!」
「少しだけ教えてあげる、あなたは感染したのよ」
「感染?」
思いがけない言葉に園美は思わず声を出した。
「そう感染。あなたは今日保護した陣内瑠璃子に会ったのでしょう?」
「ま、まさか・・・・・」
「そう、そのまさか。あなたは陣内瑠璃子を解して堕とされた。簡単な催眠暗示を刷り込まれたあなたは彼女から囁かれた電話番号に連絡を入れて私の元へ来たの」
「そ、そんな。そんな馬鹿なことあるわけない!」
「催眠にもいろいろなテクニックがある。瞬間催眠や驚愕法だって・・・あなたなら知識があるんじゃない?」
「俺達をどうする気だ。周囲は仲間達が完全に包囲している、逃げ切れないぞ」
体の自由が利かない捜査員が口を挟んだ。
「そうかしら?」
「フン、余裕じゃないか、観念したか。俺達がこんなでも外にいる大勢の仲間まではお前の自由にはならない」
「あなた達は自分の心配をなさいな。ホラ、園美を見てごらんなさい、いいカラダしてるでしょ。お前達男はこの女に対して抑えきれない劣情に襲われる」
「な・・・・・・うっ・・・」
「おぉっ・・・・・・な、なんだ・・・」
捜査員達が短い呻き声をあげて腰を曲げて冷や汗をかき始めた。
「ど、どうしたんですか?」
自由にならない体で園美が声をかける。
「はっ・・・・・はっ・・・・・・・っ・・・・」
捜査員達は一様に息荒く、園美のカラダを舐めるような一種異様な視線を向け始めた。
股間が膨れ上がり、勃起していることは見えみえだった。
「園美、ゆっくりと服を脱ぎなさい。そこにいる男達を誘惑するように。腰を振り、アソコをパックリと開いて見せるの」
「ふざけないでよ、あんたのいうことなんか・・・・・・えっ!」
園美の意思に反して、カラダはゆっくりとボンデージスーツを脱ぎ始めた。胸を揉み上げて、腰をゆっくりと振り、上目遣いで唇を舐める。
「か。カラダが勝手に・・・・・・いやっ・・・・ヤダ・・・・・・・・」
「無駄よ。あなたのカラダは私のいうとおり。さあ、お前達、目の前にいる女に我慢できなくなった。性欲がまるで火山のように勢いよく湧き上がって抑えられない。私が指を鳴らすと目の前の園美をモノにしたいという欲求だけに支配されるわ。フフ、マスでも掻いたらどう?それは許してあげる」
ママは軽やかにパチンっと指を鳴らした。
「うがぁぁぁぁ、も、もう我慢できない」
「お、俺も・・・・・」
「おれもだぁ・・・・・・・」
「フフフ、なら少し自由にしてあげるわ。マスターベーションなさい」
捜査員達は我先にとズボンを下ろして一様に同じポーズをとりしごき始めた。
「い、いやぁーっ、皆さん、なにするんですかーっ!」
園美は目の前の男達の仕草を直視できずに顔を逸らす。
「ダメよ、園美。あなたのカラダはすべて私の手の中。目を逸らさずに、表情も誘惑すること以外は許さないわ」
園美は見えざる手に引き戻されるように顔を正面に戻すと目を細めて唇の周りをゆっくりと舌で嘗め回し始めた。
「止められない。が、我慢できないんだよぉーっ」
「あ、飛鳥井さん、やめてくれ・・・・・・あんたにそんな恰好されたらこっちこそどうにかなってしまいそうだ」
「わ・・・・私だってイヤなんです!でも、でもカラダが・・・・カラダが言う事きかないんです・・・・」
園美も泣きそうな表情で叫んだ。
「フフフ、お互いイヤイヤっていうのも見ているほうが楽しめないわね。最後を盛り上げてもらわなきゃね」
「これ以上、私達になにをさせるっていうのよ。悪あがきはやめておとなしく投降しなさい!」
「アハハハ、私に支配されて思い通りに動けないあなたから『悪あがきはやめておとなしく』ですって?笑わせるわ!」
「くっ・・・・・・・・!ちくしょう!あなただけは絶対に許さないんだから!」
「勝手に言ってなさい。誰だってそうよ、初期の肉体支配の段階では10人が10人とも自分が支配から抜け出せると思ってる。加納美香がそうだったわ。でも結局は堕とされて、カメラの前では痴態をさらけ出したわ。見たでしょ。美香のDVD」
「お前達ががあのディスクを・・・・・・お前が美香を!」
「もう、そんなコトどうだっていいでしょう?どう、園美、下半身が疼いてきたでしょう、今までに経験したことのないくらい」
「あぅっ・・・・・・・・・」
園美の下半身が股間を中心に小刻みに震え始めた。
「ジンジン、ジンジン疼いて疼いて我慢できなくなる。したい、したい、SEXがしたくて堪らない、男のモノを突き刺したくてたまらない」
「く、くぅ~ん、ふぅぅぅぅぅ、うぅぅぅ」
園美の表情は自分自身にふりかかる欲情の渦に巻き込まれまいとする必死の形相になる。
「フフフ、さっきまでのカラ元気はどこにいったのかしらね、喋ることも出来ないの?さぁ、男達、お前達にもエキストラとして役にはまってもらわなきゃね」
「うぅぅぅ何のことだ、やめろ!やめてくれぇーっ」
「ダメよ。お前達は私が指を鳴らすと『警官であることを忘れ、女を犯したくてたまらない性欲に狂った1匹の狼になる』」
「やめろぉーっ」
Click!・・・・・・・・・あっさりとママは指を鳴らした。
男達の苦悶に満ちた表情が一瞬のうちに吹き飛んだ。
やがてドロドロとした獣の眼つきに変っていく。
「どう?お前達、目の前に欲情して身悶えている女、いいオンナだと思わない?言って御覧なさい、言えば楽になる。『むしゃぶりつきたくなるいいオンナだ』・・・・・・・・・・さあ、言うのよ。言った瞬間にお前達の自制心は消えうせる」
「あ・・・・う・・・む、む、むしゃぶるつきたくなるほどいいオンナだぜ!」
抗いも空しく捜査員達は程なく獣のような目で園美を見る捜査員が口々に叫びはじめる。
「フフフ、いいわ。ホラ、ほかの者達もお言い!」
「犯りたい、犯らせてくれぇーっ!」
「食ってやる、食らい尽くしてやるっー!」
「いいわ。いいわよぉ~、オスはこうでなくっちゃ。お前達は猛り狂うイチモツを持て余す色狂いのオス、アハハ。さて・・・・・・・・・園美の番よ」
「はっはぁはぁはぁ・・イヤよ!あんたなんかの思い通りになんかなりたくない!」
「アソコをヌレヌレにして愛液をしたたらせて言う台詞じゃないわね」
「お願い・・・・・・・もう許してっ」
「あら?反抗的な態度で毒づいたと思ったら今度は一転して泣き落とし?LS隊員たる者、いかなる時も動揺せず冷静沈着にして行動し、危機に瀕しても最後まで望みを捨てず可能性を信じ任務遂行に全力を傾ける・・・あなたはすでに服務違反を犯し、負けを認め、勝ちを諦め、私にひれ伏している」
「・・・・・・・・・・・言わないで!」
「生まれ変わりなさい、つまらない矜持を捨て去るのよ、園美!『汝、隣人を愛せよ』」
「いやーぁーっ!!!!!!!!!!!!!あっ、あ・・・・あ・・」
キーワードとともにかっと目を見開いた園美の表情はやがてゆっくりと変化を見せていった。
観客が息を呑む中、長く思える沈黙と静寂が訪れる。
叫んでいきり立っている獣に堕ちた捜査員達の声すら気にならない。
全員が園美の展開に注視した。
「フ、フフフフフ、フフフフフフ、アハハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハ。したい・・・したいわ・・・・・」
「ウフ!どうしたの?園美」
「あん!うずくのよぅ。私のアソコがジンジンと疼いて疼いて仕方がないの。男が欲しいわ!堅くて大きな男のモノを今すぐ突き刺してめちゃくちゃにして!ねぇ~、しよ!わたしと一緒に、ね、しよぉぉぉぉぉ~っ」
「フフフ、いいわよ園美。ホラ、目の前にオスがいるじゃない」
「あらぁ~、いいわぁ、男、男がいる」
「入れさせてくれぇーっ!させろぉー!」
「オレだ!オレが先だー!」
「いや、俺だ!俺の方だー!」
「男達!お前達のココロに刻め!園美の中に突き刺した瞬間、お前達は園美様の下僕となる。そして、お前達と園美様の楽しみを奪う外部からの侵入者はすべて敵よ、殺しなさい、叩き潰すのよ、顔見知りも何も区別なくね。さあ、カラダを自由にしてあげる、スキになさい!」
「オンナーっ!」
「やらせロー!」
8人の獣と化した男達が自らの服を破り捨て、全裸になって園美を奪い合うように駆け寄っていく。
ママの暗示は捜査員と園美の正気を根こそぎ消し去っていた。
「きてぇ・・・ウフ、ちょうだい。気持ちよくしてぇ~」
床に座りM字に大きく開脚して両手を広げて迎え入れようと誘う妖艶なメスの表情の園美には、すでにスワットの一員としての矜持も鋭さも失われていた。
「園美、聞くのよ。外部からの侵入者はすべてお前の憎むべき敵だ。お前はお前のココロのままに楽しむ、その楽しみを奪うヤツラを許さない。園美の奴隷となったその男達とともに敵を叩きのめすのよ!」
すでに9体の絡み合った肉体の山はまるで獣のごとく絡みあっている。すでに周囲への注意などなくなっている。
ママがゆっくりと姿を現した。
「それでは会員の皆様、本日の『FOREST』フィナーレ、そして来るBLACK X’masの前夜祭をお開きにいたします。この後の展開はネット上で映像としてご覧いただけますのでご心配なく。それでは誘導いたします、あちらの出入り口から押し合わず速やかにご退席ください。『ご新規さん』はショーから目が離せない。熱中しなさい、心ゆくまで自分のイヤらしい淫らな心を満たすために。そして「警察だ」という言葉を聞いた瞬間にあなた達は睡魔に襲われて気持ちよく眠りにつくのよ。次に目が覚めたとき、あなた達は店であったすべてのことをすっかり忘れている。2日間は自分が『アントニオ猪木』であることを疑わない」
「ママ、何それ!」
クラッカーが顔をしかめる。
「遊びよ、あそび。メインイベントが済むまではどんな手段を使ってもここでの情報を仔細もらさぬようにしないといけないじゃない。一見客の催眠はかかりが浅いからここで見聞きしたことを手繰られやすいのよ」
「だからって何も猪木にすることないじゃんか。オレ、猪木好きなんだけど」
「いいじゃない。一見客は今日明日2日間は、皆、『元気ですかー』と「1・2・3・ダァーっ!」を繰り返すか、事情聴取の捜査員に気合を入れるかだわ。イメージの強いキャラになぞらえれば、暗示が浅くても皆が持ってる強烈な猪木さんの印象から逃れることは出来ないわよん」
「なんだかなぁ・・・・・」
「さぁ、早く、クラッカー、大事なお客様を退路にご案内して」
会員である者はママの誘導に従い、クラッカーに伴われ、園美と男達の絡みを脇目で見ながら波が引くように姿を消していく。
「そろそろ予定突入時刻、さあ共食いの始まり。そこのお前!命令を聞きなさい、外に待機している番犬どもを中に呼び込むのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
指をさされた捜査員は夢遊病者のようにそろそろと脱ぎ捨てた自分の着衣まで這いずり歩くと携帯に手をかける。
「内偵班より連絡、予定通り突入願う」
「いい子ね、さあご褒美よ。あなたにはこのコをあげるわ」
去りかけていたフロアガールの一人の頭をちょんとママが指で押した。
「あっ・・・・・・・・・・・・・」
「さあ、あの男がお前のご主人様よ。尽くしなさい」
「は・・い、ママ」
フロアガールは店内に向き直るとレースクイーンのコスチュームを脱ぎ捨てていく。
「どう?気に入った?まだ大学生よ!オマエの好きにしていいわ」
欲情した男は息を荒げてその場を動けずにいた。
「まだよ、まだ!おあずけ!」
まるで飼い犬をしつけるように手で男の行動をさえぎる。
「よし!お食べ!」
主人の許しをもらって飼い犬が餌にありつく・・・・まさにそれを再現するかのように捜査員は全裸になった女に絡みついた。
女もそれを喜んで受け入れる獣になっていた。
「お前の楽しみを邪魔するやつらが外から侵入してくる。お前のオンナを奪い取るために。許すんじゃないわよ、命がけで守りなさい。このオンナはオマエのモノ!」
隠し扉をママが閉めた瞬間、間髪いれずに赤坂中央警察署の捜査員が一気呵成になだれ込んだ。
「『警察』だ!全員その場を動くな!」
まるで観客がウェーブを起こすかのように『警察』というキーワードに反応してバタバタと睡魔に襲われ眠り込んでいく。
舞台にいた獣たちが一斉に侵入者に襲いかかる。
次のの瞬間、阿鼻叫喚の凄惨な惨劇が幕を開けた。
翌朝の各誌新聞には「FOREST」での事件は首都圏版にわずか数行、風営法違反の店が摘発を受けたことだけが記される程度だった。
事件の悲惨な失敗は組織の沽券にかかわる事として公にはされなかった。
【 チーム6 チーム室 】
「ウッフフフフフフ、ステキなカラダをしていますね。ゆ~みさんっ」
全裸にペニスバンドをつけただけの茶羅が薄ら笑いを浮かべ舌なめずりをする。
ゆっくりと間合いを詰めていた。
すでに上半身がはだけ、スーツパンツも切れ切れにまるで深いスリットの入ったチャイナドレスのように無残な姿になっていた。
「あなたは狂わされている」
「そうですよぉ~。祐実さんがいけないんですよ、わたしをこんなHなコにしたんですから。ウフフ、きゃははは」
茶羅の表情に攻撃的で淫靡な不敵な表情が浮かぶ。
「私が、このまま黙って犯されると思う?」
「そりゃあ思いませんよ。だってスワットになる為のテストですもの。祐実さん、私を食べるときに言ったじゃないですか。私がどれだけ抵抗しようとも、犯してみせろって」
「・・・・・・・・・・・・・」
「だから瑠璃子様は私に力をくれた。すごいんですよ、何だって出来ちゃう」
茶羅は軽々と重厚な祐実のデスクチェアを片手で投げつける。
「一度、祐実さんを組み伏せたら、私、一気に祐実さんをイカせてあげます。めいっぱい感じてくださいね」
「いくらなんでも騒ぎを聞きつけて皆が動くわ。あなたに私を犯す時間はない」
「フフフフ、大丈夫です。そんなこと気になさらないで下さい。それに私が何も考えずに物を動かしてたとお思いですか」
茶羅の声にはっとなった祐実はスタッフルームと廊下に続く2箇所の出入り口に視線を投げる。
そこには祐実の大きなデスクと、大振りのソファが扉の開放を阻むように無残にも倒れていた。
「分かってくれました?私の今の力があれば、祐実さんにこれを挿れて差し上げるのに十分な時間がありますよ。フフフ」
茶羅の言葉に悔しさを隠しきれずに祐実は握った拳で疲れの出てきた右の腿を叩いた。
「あっ・・・・・・・・」
その叩いた拳から伝わった感触に祐実の頭脳がすばやく反応する。
「いいわ。わかったわ。無駄な抵抗はしない。好きになさい」
祐実は構えを解いて棒立ちになった。
無抵抗を示すポーズのように祐実は両手をポケットに突っ込んだ。
「ウフフ、嬉しいです。わかっていただけたんですか」
「えぇ、優しくしてね。キスも前戯もナシはイヤよ」
「心を込めた、キスをして差し上げますよ。祐実さん・・・・。あなたが教えてくれたように」
そういうと茶羅は祐実が逃げられないように両手を祐実の背中に回してグイっと引き寄せた。
まるで蟷螂が餌を抱え込んで逃がさないように。
祐実は手をポケットから引き抜いて、不自由なまま茶羅の頭を撫でながら口元でとめた。
祐実は自分から積極的に唇を茶羅に重ねた。
祐実自らがすすんで茶羅へ舌を入れてきたとき、祐実は刺すような視線で茶羅を見た。
やがて茶羅の表情に変化がおとずれる。
【 チーム6 スタッフルーム 】
「緊急性が高いと判断するのなら、ためらわずに最速の手段を考えるの!」
奈津美は手動でも開かないドアのロック部に廊下から持ち出した防災斧を打ち込んだ。
奈津美の振り下ろした斧は3振り目で扉を壊し、ドアを無理やりこじ開けた。
蹴破ってドアを開けると目の前にドアの枷となっていた祐実のデスクが視界に入る。
「どうしたって言うの!」
奈津美が言うまでもなく全員が驚きを隠せない。
部屋の中は見る影もなく、まるでハリケーンの後のように物が散乱していた。
「はぁ、はぁ、はぁ。はぁ、うぅぅぅぅっっ」
部屋の片隅で上半身半裸で体中擦り傷だらけの祐実が壁にもたれ息も荒く立ち尽くしていた。
時折、祐実は荒い息のまま嘔吐するがすでに何もでない。
「祐実!どうしたの、一体何があった!」
奈津美が駆け寄る。
「別に。なんでもないわ。あなたには関係ない」
駆け寄った奈津美に睨みつけるような鋭い表情で祐実が言った。
唇が切れて流れた血が口元から垂れて固まりがかっている。
頬や額にも争った痕の様な擦り傷が痛々しく残っていた。
「さ、茶羅!」
崩れたソファとデスクの間で倒れる茶羅を雪乃が見つけて叫ぶ。
茶羅は目を見開いたまま、まるで捨てられた人形のようにピクリとも動かない。
しかも全裸でキズだらけの彼女を見て、皆が言葉を失った。
「一体なにがあったっていうの」
床に無造作に落ちていたベルトの切れたペニスバンドを見て奈津美が呆然とする。
「なんでもないって言ってるでしょ。あなたには関係ない。PEでもいいし、強姦に対する対応訓練とでも言っとくわ。それでいいでしょ」
「祐実、何を隠しているの。正直に言いなさい。彼女に何をした」
「別に、見たままよ。なんでもないわ。彼女は私の依頼した捜査の報告に来ただけ。時間があったし、見込みもある素材だったからPE(緊急実践と呼ばれる訓練:plactice emergency《造語:2nd-day参照》)をしたまでよ」
表情を変えずに祐実は言った。
だがその表情には明らかに失意と疲労が見え隠れしている。
「私がそんな報告信じると思う?」
「信じるも信じないもあなたの勝手。茶羅は死に物狂いで一生懸命やった、見込みあるかもね」
そういうと手に持ったスタンガンを床に放り投げた。
「疲れたわ。私は少し休ませてもらう。茶羅は医療室で経過観察。目を覚ましたら誰か連絡して」
「拘束帯は・・・・・」
部屋の惨状を見て異常さを感じ取った涼子が思わず言った。
「拘束帯?何を言ってるの、彼女も私も正常よ。なにを拘束する必要があるって言うのよ、バカ!」
「すみません」
涼子は謝罪するしか言葉を見つけられなかった。
「涼子、あなたは今の発言のバツとしてチーフ室の片づけを命じる」
「えっ、そ、そんな・・・」
「2時間以内に元に戻しておきなさい」
それだけ言うと部屋を出ようとする。
「祐実!いい加減にしなさい。このまま作戦に望むのは危険だって言うことがまだ分からないの!茶羅もあの陣内瑠璃子と遭遇して取り込まれたのでしょう。違って?」
祐実は奈津美の言葉を無視した。
「何を寝ぼけたコト言ってる馬鹿がいるの。これは訓練よ、実戦モードのね。誰かあとで茶羅に言ってやって、『課題はクリア』だと。十分一緒のやっていける素質はあるわ」
そう言って祐実はユニフォームを羽織ってあらわになった胸を隠すと部屋を出ようとする。
そのとき、瓦礫と化したソファの間から急に上半身だけを起こした茶羅が全員の視界に現れた。
部屋に居合わせた全員が茶羅へ視線を向ける。
「ウフフフ、アハハハ。アハアハハハ、ごきげんよう「明智祐実」チーフ!やっほー、私が誰だかわかるかなぁ」
壊れた人形が何かの衝撃で急に動き出すように茶羅が首だけを機械的に祐実に向け不気味な笑い声を上げた。
祐実はおろか全員が茶羅をとりまきつつ、一歩後ずさりした。
「もちろん、茶羅でないことは承知してるわよね」
茶羅は一直線に祐実を指差した。
「あんたが悪いんだよ、明智祐実!私のことをあれこれ詮索しようとするから。どうだい少しは思い知った?気に入ってくれたかな、お気に入りの茶羅はあんたを可愛がってくれたかい。これに懲りたら、もう私のことは詮索しないでくれない?じゃないとまたこんな目にあわせちゃうからね。アハハハ、アハハハ」
茶羅の表情のない顔から、やがて、にいーっと不気味な笑みを浮かべる。
疲れきった表情の祐実はそれをただ無表情に見下ろしたまま、何も言わず部屋を出て行こうとする。
茶羅は止むことのない笑いを続けていた。
「ウフウフッフフフ、アハはは、アハハハはハッは、ウフフフフフ・・・・・・・・・・あれ・・・・」
やがて茶羅の表情から不気味な憑物のじみた笑みが消えていく。
急に茶羅は周囲を恐る恐る見渡した。
「あ、奈津美さん・・・・涼子さん・・・麻衣子さん・・・・えっ?此処って・・・・」
茶羅はそう言いながら変わり果てたチーフ室に呆然とした。
「茶羅!茶羅!あなたなの?」
「えっ?いやだなぁ~、私が茶羅じゃなけりゃ誰だって言うんです?あ、あれ?キャーッ!な、なに、わ、わたし、裸、なんで裸なんです!それに・・キャーッ!なんなんですか!このキモイ物体わぁーっ」
ペニスバンドに全裸、自分の状態に茶羅は大声で悲鳴を上げた。
「痛い!なんなの!全身が、全身がいたぁーい!」
それを聞いて我に返った涼子たちが茶羅を助けに駆けつける。
「茶羅、あとで私のところへ来なさい。私は着替えた後、会談室1にいる」
「はい」
茶羅は人形のような無表情のまま、おとなしくうなずいた。
祐実は奈津美の視線が刺すように自分に向けられているのを承知しながら、無視したまま部屋を出ようと足を進める。
すれ違い様、視線を合わすことなく、奈津美の前で歩くペースを緩めた。
奈津美ははっとして祐実に向くが、祐実本人はまるで誰もいない正面に奈津美がいるかのように、すぐ左にいる奈津美には目もくれずに囁いた。
「別になにも言うことはないわ。それにあなたに聞かれる筋合いもない。今の茶羅は脳震盪による一種の錯乱、あなたにはそれについても反問はさせない」
すれ違い様、奈津美の脇で立ち止まってそれだけ言うとそのまま去って行った。
奈津美は祐実の後姿を扉が閉まってもなお険しい顔で睨み続けた。
「あ、あの・・・・・・」
去りかけた祐実に奈那が言葉をかける。
「なにかっ!」
祐実の語気は荒い。
「これが、落ちていました」
奈那が手にしていたのは紛れもない、探しても見つからなかった『あの薬』のタブレットの束だった。
祐実は奈津美からの視線をかわすようにして、薬を奈那から受け取るとすぐさま制服の内ポケットに隠してその場を去った。
ロッカールームに向かう廊下を歩きながら祐実は苦虫を潰したような顔で、幾度となくチッと舌を鳴らして壁を思い切り拳で叩く。
すれ違う他のレディースワットチームの隊員たちが立ち止まって敬礼しながらも、制服をまとっただけでブラもせず胸が時折はだけて見える祐実に一様に驚き、通り過ぎたあと振り返っていく。
「チッ!」
そんな第三者の視線を気にすることもなく、祐実は脇にあったゴミ箱に、薬が入っていたであろう空になった銀色のタブレットの殻を投げ捨てた。
そのタブレットは、部屋を出がけに、奈那が見つけたと渡したものと同じものだった。
「許さないわ陣内瑠璃子、あの女。しかも私の可愛がってた『モノ』を刺客にしてまで私を嵌めようなんていい度胸してるじゃない。だけど・・・・くたばるもんか!私はもっともっと上に行くのよ、あんたのようなクズに構っているヒマはない。先々の障害になる要素がある以上、あなたには消・・・・」
そこまで口にした途端、祐実の思考回路は再び高回転で動き始めた。
壁のカードリーダーに身分証をかねたIDカードをかざし、会談室の扉を開錠する。
祐実が入室するとドアはすぐに閉まった。
「だけど、今度は私が攻める番よ。自分だけは平気と慢心してるんだったら、なおのこと吠え面かかせてやる。フフフ、フフフフ」
収まらぬ怒りの炎に祐実は声を荒げるばかりだった。
「茶羅には可哀想なことをしたけれど、私と一緒にいたいのなら、いずれあのコがたどる道は決まっていた。それが早まっただけのことだわ。それに・・・ウフフ、思いもよらず薬が見つかるなんて、まだ私にツキがあるってことよね」
祐実は自らに言い聞かせるように言った。
失くしたものと落胆していた『薬』の再発見は祐実にすれば茶羅に襲われたことも、災い転じて―そのものだった。
「ただ・・・・、アイツが茶羅を操る力と私のクスリが茶羅を支配する力のどちらが強いのか。少なくなったLD(薬物:レディードール(1st-Day))を使わされた分、陣内瑠璃子、あなたも私の道具になってもらうか、消えてもらうかだわ」
疲れきった体を椅子にどかっともたれさせる。
「陣内瑠璃子、あなたが人を操ることが本当に出来るんだったら、私はあなたが欲しいわ。そして、この薬はそれを叶えることができる夢の薬、フフフフ」
< To Be Continued. >