0.
「姉さんがプールでみんなと遊びたいと言っています」
「はい?」
体育館2階の放送室へ七魅に呼び出された僕は、会って早々の少女の台詞に間抜けな返事を返した。吹くはずもないのに2人の間を風が通り抜けた気がする。
「……話が見えないんだけど?」
「手伝ってくれる約束でしたよね?」
確かに僕はこの間、この学園の施設を自由に使うことが出来る七魅と協力体制の約束を取り付ける事に成功した。
その見返りとして、ブラックデザイアの力を使って姉の三繰の『ある種の行為』を手伝うとは言ったけれど?
「え~と? お姉さんが遊びたがってるんだよね?」
「はい」
「プールで?」
「みんなと、です」
???
「みんなを誘って行けばいいんじゃない?」
「『姉さんが』言ってるんです」
それはつまり?
「姉さんはプールでみんなと、裸で遊んでみたいと言っています」
「……そういうことになるのか」
七海の姉、三繰は幼少時からの祖父の言いつけによって抑圧されていた欲求の捌け口を露出行為に求めた。時に自分の屋敷で、時に学園内で。屋外でもやっているかもしれない。
それが今まで問題にならなかったのは、七魅が密かに支援体制を作り上げ、巧妙に人払いをしたりどうしてもという時は説得して止めさせて来たからだ。
その体制が三繰の欲求の増大に対応しきれなくなってきている。そこで七魅は僕の持つブラックデザイアの力に目を付け、相互に協力し合うことを約束したのだった。
「協力してくれますよね?」
七魅は僕を真っ直ぐに見つめてくる。
うん、協力したいよ。協力したいのはやまやまなんだけど……。
残念ながら、不特定多数の人間が使用するプールでブラックデザイアを使用するのは今の僕では無理だ。
みんなで、と言っている以上七魅の力でどこかのプールを貸しきりで使用するのは意味が無い行為だし、インフェクションを使ってもこの能力は立場が上の人間から下の人間への一方通行だ。しかも僕が相手の名前を知っていなくてはならない制限がある。
僕はその辺の事情を七魅に説明してみた。
「……そういう訳で、今の僕にはお姉さんの欲求には答えられない」
「……」
「『やらせ』でやっても意味無いでしょう?」
「……」
七魅は僕の話を聞いて考え込んでいる。まさか、いきなり失望させてしまったのだろうか?
「達巳君の力は、不特定多数の人間には効果が無いのですか?」
「うん。あ、まあ厳密に言うと『今は』だけど」
「今は?」
ブラックデザイア第5発動ステージ。
能力名『領域支配(ドミネーション)』
これこそ、「ある一定の領域に立ち入った人間全て」を対象にした不特定多数のコントロール能力だ。
発動条件は非常に厳しいが、1回の書き込み情報をその場にいる全員が同時に共有することができるために、魔力の回収効率はインフェクションの比ではない。僕が何とか夏休み前までに獲得しようと計画している第一目標だ。
最近の魔力回収計画の効率化によってブラックデザイアは既に第4発動ステージまで進んでいる。このまま行けば後4~5週間程度でステージアップできるはずだった。
「というわけで、最低後1ヶ月は待って欲しいんだけど」
「……その力は、時間が経過しないと使えないのですか?」
「いや、うーんと……経験値みたいのを貯めてレベルアップしなきゃならないんだよ」
「経験値? 力を使う回数を多くすればその分だけ早く使えるのですか?」
「まあ、そうなるね」
また、少し考え込む七魅。ちらりと横目で僕を見る。
うう、これでも一所懸命計画を立てたんだよ?
「そちらの事情はわかりました」
「うん」
「2週間でその力を使えるようになってください」
「はぁ!?」
おいおい、全然わかっていないじゃないか。
「だから、最低でも後1ヶ月は……」
「何のために私が協力すると言ったと思っているのですか」
「え?」
「回数を2倍にすれば半月で済むのでしょう? これから2週間、私は達巳君の行動を全力でバックアップします。好きなように力を使ってください。多少の問題が発生しても私が揉み消します」
な、何か怖いこと言ってますよ、この人?
忘れ物の下着を返されて真っ赤になっていた時と別人だ。
「達巳君」
「は、はい?」
「私を失望させないでくださいね?」
口元に浮かんだ薄い笑いがめっちゃ怖い。
七魅って、ホント姉が絡むと人が変わるな……。
目付きの変わった七魅に対して首を振れるわけがなく、結局僕はそれを了承してしまう。
そんなわけで。
七海の依頼によって『ドキッ! ハダカだらけのプール大作戦!』はスタートしたのであった!
BLACK DESIRE
#5 プール大作戦!(前編)
1.
チチチ……。
雀たちが早朝の挨拶をしている中、僕は欠伸を噛み殺しながら星漣のさくら通りを歩いている。
「ふあ……。ねむ……」
目を擦りながらおぼつかない足取りで進む僕。いつもより1時間半も早く起きて睡眠時間が全然足りてない。
七魅からの依頼の後、僕は計画を大幅に短縮する必要に迫られた。いつもは放課後1つずつ入れている予定を時にダブルで入れ、時に昼休みにこなし、そして時には今日のように朝授業の始まる前に強引に実行する。まったく、これじゃ体が持たないよ……。
前方に体育館が見えてきた。ここが今朝の目的地だ。
僕はこれからの事を考えて一度深呼吸し、頭の中にいつまでもしがみつく睡魔を追い出すと重いスライド式の鉄扉に力を込めた。
とたんに、何かのカウントをする女生徒の声が中から響いてくる。僕は鞄から体育館用の運動靴を出して中に入り込んだ。
「お、来たね! はいちょっとストーップ! 集合ーっ!」
一番手前でアキレス腱伸ばしをやっていた少女が僕に気がつき他のみんなに声をかける。星漣バスケットボール部の部長、春原(すのはら)だ。
部長の号令に体育館に広がって思い思いにストレッチしていた部員達が集まってくる。
僕は春原に引っ張られてみんなの前に立たされた。
「昨日いた部員には説明したけど、私のクラスに転校してきた達巳郁太君。3年のこんな時期だけどバスケに興味があるらしくてわざわざ朝練を見学に来てくれたんだ」
「えっと、達巳です。身長も高くないんですけど、バスケットボールをやってみたいなと思ってみなさんの練習風景を部長に頼んで見せてもらいに来ました。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
僕がそう言ってお辞儀をすると、部員全員が一斉に頭を下げて「お願いしますっ!」と元気よく返してきた。ひぇえええ……体育会系だぁ。
自己紹介が終わり、春原の号令で再びそれぞれの場所に散ってストレッチの続きを始める部員達。僕は残った春原に声をかける。
「いや、ホントごめんね。時間も無いのに無理言っちゃって」
「いいからいいから。部員にもいい刺激になるし」
春原はニコニコしながら床に座って開脚前屈する。うおぁ! お腹がピッタリくっついちゃってるよ! 体やわらかいんだな、春原。
今日の春原の格好は上にTシャツ、下はスパッツにハーフパンツを重ね着している。髪はいつものスポーツモードのショートポニーテール。それに前髪が垂れないようにかヘッドバンドをしている。
他の部員も似たようなものだが、一人だけこの間僕たちで運んだジャージを着込んでいる女の子がいる。ストレッチのカウントをしているところを見るとあの子がマネージャーなんだろう。
まあ、そんな当たり前の格好でみんなに練習やってもらっちゃあ面白くないんだけどさ。
「あのさ、あんまり身長高い子いないみたいだけど?」
「星漣にはスポーツの推薦枠はないからね。どうしても体格の良い経験者は他の学校に行っちゃうんだ。ま、その分ウチは練習量と後は気合いで勝負するわけだけどね」
そう言って笑う。
でも、軽く言ってくれたけど体格の差を埋めるってのがどんなに大変か、素人の僕にだって少しはわかる。それでも全国大会常連だっていうんだから凄いよ。
「鍛えてるんだね。僕もいっぱい練習すればできるかな?」
「達巳君は私達よりずっと有利だと思うよ。身長もまだ伸びるかもしれないし」
期待? 激励かな。
「最初は何をやったらいい?」
「まずは基礎だよ。何事も基礎。ボールの使い方を体で覚える。後は体作りかな。進学する前からやっておけば上達も早いよ」
「体作りと基礎かぁ」
さて、そろそろ行こうか。
インサーションキーは<見学>に設定済み。七魅にもらったリストで暗記したバスケ部の全メンバーをインフェクティに設定、と。
「せっかくだし、体作りの参考にしたいんでみんなの体を良く『見学』しておきたいんだけど?」
「あ、そうだね。見ておいた方が後々役に立つかも」
「できれば直に見学したいな」
僕がそう言うと、春原はう~んと腕を組む。
「そうなんだけど、やっぱバスケは体が接触するスポーツだからさ。練習中はできるだけ肩とかが露出しないようにしているんだ」
「じゃ、シャツとかサポーターはいいや」
「そうだね」
ストレッチ終了後、春原が全員を集めて今の内容を説明する。当然、誰もそれに反対しない。それどころか良い案だと賛成されてしまった。早速マネージャーの娘を除く全員が下半身の衣服を脱ぎ始める。
「シャツとサポーターは着けてていいからね」
『はーい!』
元気に返事する女の子達。今、自分が何をしているかわかってないんだよなぁ。
「みんなが賛成してくれて良かったよ」
「全員バスケが好きだからね。達巳君が興味を持ってくれるのが嬉しいんだ」
そう言いながら、春原は下半身を覆う最後の一枚となったパンツを無造作に下ろす。汗をかくからか、春原の股間の茂みはきちんと手入れがされて整っていた。
さらに春原はTシャツの中に手を入れてブラジャーを外す。なるほど、『シャツとサポーターは』って言ったもんな。
周りを見れば全員外している。スポーツブラを着けていた者が何人かいたようで、そういった娘は一旦全部脱いで、それからシャツだけ着直していた。
ふふふ、そんな格好で跳んだり跳ねたりしたら全部見えちゃうよ?
「よーし、まずはランニング!」
ずらりと並ぶシャツだけ下半身丸出しの女の子達。春原の合図で体育館の中を走り始める。ブラを着けていないおかげで胸のふくらみがぷるんぷるん揺れている。これはこれは、なかなかの絶景。
「ダッシュッ!」
何周かしたところで春原が手を叩き、全員が一斉にスピードを上げる。その次の拍手でスピードを緩めてジョギング。手を叩く度に交互にそれを繰り返す。何回かやったところで体育館を横に往復するショートダッシュの練習に切り替わる。
春原の指導の仕方は実に堂に入っている。メンバーの統率が良く取れているのも納得がいくな。
僕はいかにもこれからの参考にしますという真剣な顔つきを維持しつつ、パス練習でボールを追いかけるお尻丸出しの少女達をじっくりと堪能したのだった。
「──どうだった?」
シャワーで汗を流しながら春原が僕に問いかける。
今、僕は練習後のバスケ部と一緒に運動部棟に戻り、そこのシャワー室に来ている。なにしろ、僕はバスケ部の朝練を最後まで『見学』できるんだ。解散するまでは全てを観察する義務があるでしょ? ちょっとくらい蒸し暑くてもガマン我慢。
僕は春原の少し日に焼けた肌の上を流れていく水の動きを目で追いつつ、返事する。
「いやあ、いいものを見せてもらったよ」
「そう? 良かった、役に立たなかったらどうしようかと思った」
そう言いつつ朗らかな笑みを浮かべる春原。
ほどいた髪から流れたお湯が首筋を通り、鎖骨を伝ってスポーツ選手としては容量オーバー気味の乳房を迂回するように鳩尾と脇腹に流れていっている。お腹にかかったやつはおへそでちょっと流れを乱しつつ滑らかな下腹を通り抜け、いくらかは内腿を巡って足首まで到達し、残りは股間の茂みを濡らしてまとめてそこからちょろちょろとした小水のような水流を作り出している。
今だって素晴らしくいいものを見せてもらっているが、実際先ほどまでも凄かった。
練習の最後、試合形式の練習で春原は雰囲気を出すためにマネージャーにゼッケンベストを用意させたんだ。しかも、選手はシャツを脱いで脇の下がスカスカに空いた薄いベスト一丁になって練習した。
女の子達がシュートでジャンプする度にそれが捲れ上がって豊満な乳房を丸出しにする。まったく、本当にいいものを見せてもらった。
春原がシャワーのバルブをきゅっと閉める。僕は壁に掛かっていたタオルを取って放ってやった。「サンキュ」とくだけた返事が返ってくる。
「どう? 暇があるなら少し教えたげようか?」
春原と並んで更衣室に入る。
そこでは先にシャワーを済ませたバスケ部メンバーが制服に着替え中だった。
「バスケ部は夏休みに全国大会があるんでしょう? そこまでは時間を使わせられないよ」
「うーん……」
ちょっと残念そうな顔をする。ま、本気でやるわけないんだけどさ。
そんな事を考えていると、春原との会話を聞いていたのか側にいたちょっと小柄な女の子が僕に向き直った。
「今年の全国大会はすぐ近くでやりますから、達巳先輩も見に来てくださいね!」
「うん、予定を開けとくよ」
「わーい」と派手に喜ぶその娘。ちなみにその子はまだパンツしか履いていない。目の前で万歳をするから胸がダイナミックに上下している。
「ノノー、早く着替えないと置いてくよー?」
「わ、待ってナッチ待って!」
その娘の友達だろうか。ナッチと呼ばれたメガネをかけた娘は既に制服を着込んで襟を直している。
更衣室の至る所でそんな光景が繰り広げられている。ある者はタオルを巻いた格好で洗面台のコンセントにドライヤーを繋いで髪を乾かし、ある者は椅子に座って脚を上げてスカートの中身丸出しで靴下を履き、またある者は着替えそっちのけでまだパンツも履いてない状態でおしゃべりにせいを出している。あ、パンツ一丁で体重計に乗っている娘もいるな。
「お待たせ」
「え?」
声に振り返ると、既にそこには星漣の制服を完璧に着込んだ春原がいた。
「はやっ!」
「早着替えは私の特技なんだ」
そう言って、春原は僕を促して更衣室から出る。後ろから部員達一斉の「お疲れ様でしたーっ!」が追いかけてきた。さすが、体育会系。
運動部棟を出る。蒸した部屋から出てきただけに初夏の風がことさら気持ちよく感じる。
「ふぅーっ、いい風……」
髪に手をやる春原。スカートがたなびいている。そこで僕は、改めて春原の制服が夏服に替わっていることを意識した。
まるでネガとポジみたいな星漣の制服。白一色の夏服は薄手の上質の生地でできているようでサラサラと風にそよいで滑らかにスカートのひだを開いている。半袖から除く上腕がしっとりと湿っているようで、先ほどあんなに見たにもかかわらず僕はドキリとした。
「ん? どうかした?」
「いや……ん。そうだ、全国大会、どこまで行けそう?」
見つめていたことに気付かれ、僕は慌てて話を逸らした。
「いきなりどうしたの?」
「みんながんばってるからさ。勝てればいいなって」
「応援してくれる?」
「当たり前だよ。クラスメイトだし」
「うん。ありがとう」
にこやかに笑う春原。
へぇ……春原って、こういう表情もするんだな。
「でもさ、どこまで行けるかはあんまり関係ないんだ」
「参加できればってやつ?」
「違う違う、逆。スポーツをする人間なら誰だって目標は1つ」
キラーンと僕と春原の目線が合う。
「「全国制覇!」」
綺麗にハモったな。
「漫画じゃないか!」
「あは! 達巳君も読むんだ?」
「春原が読んでるって方が意外だよ」
さくら通りに2人の笑い声が広がる。
僕達はまるでじゃれ合うように時に蛇行し、時に追いかけ合いながら桜並木を歩いていく。
なんだか、とても新鮮な感覚だ。僕には今まで、こんな風にふざけ合える知り合いなんていなかったからな。
予鈴が聞こえ、僕たちは一瞬顔を見合わせるとそこから走り出した。
星漣の中での移動はあくまで粛々と、静かにお上品に歩かなくてはいけないらしい。
でも、別にいいさ。今の僕たちなら例え教師に注意されたって笑い事だ。
伸びやかなストライドで春原が僕の前を走る。
僕はその白い背中に向けて心の中で呟いた。
──大会がんばれよ、春原。
2.
放課後、僕は七魅に借りたあるアイテムを持って文化部棟を訪れた。入り口のスノコの上であらかじめ用意しておいたスリッパに履き替え、板張りの廊下を進む。
「……写真部、ここだな」
ドアの上に貼られたプレートを確認し、僕は一人うなずく。
僕が次の回収場所に選んだのはこの写真部だ。部員のうち2人と顔見知りでかつインサーションの対象であるということもあるし、もう一つ耳寄りな情報を七魅から聞いたからでもある。
それは、写真部には現在3年生がいないという事だ。2年生3人、1年生1人の計4人でやってる小所帯の部らしい。
しかもその2年生のうち1人は部長でありながら現在休学中らしいのだ。つまり、僕の知り合いの2人が写真部を実質的に切り盛りしていることになる。上位者からの感染が可能なインフェクション能力の格好の的という事だ。
コンコン、と僕が扉をノックすると、すぐに中から「ハーイ!」と可愛らしい感じの声が返ってきた。ドア越しだからはっきりとしないが僕の知っている2人の声ではない気がする。
そう思いながら待っていると、ドアノブがカチャッと回って扉が内側に開いた。
「ハーイ。どなたですか……あれ?」
「ども」
隙間から顔を覗かせた少女は一見すると下の学校の生徒かと思うような子供っぽい顔をしていた。身長も低く、多分僕の胸くらいしかない。
基本はおかっぱ髪なのだろうが、頭頂から生えた髪が緩やかにカールして軽く頬にかかり、それが輪郭を丸く見せてよけい幼げな顔つきに仕立てている。何というか、子犬とか子狸とかそういうイメージの顔だ。
もちろん、初めて見る顔だ。たぶん1年生の娘なのだろう。確か七魅の資料では夏目文紀(なつめみのり)とあった。
「3年の達巳という者ですけど、山名さんに用があって」
「あ、はい! どうぞ」
僕が3年と知ってか背をピンと伸ばす少女。僕は招き入れられるままに部室に入る。
そこでは、緩やかなウェーブのかかった髪の小柄な少女が椅子から立ち上がって僕を迎えてくれた。写真部の2年生の1人、橘静香(たちばなしずか)だ。
静香に勧められ、僕はとりあえず丸テーブルを囲む椅子の1つに腰掛ける。
「今日はミドリはいないの?」
「翠ちゃんは作業室でフィルムの現像をしてるんです。もうすぐ終わると思いますから座って待ってて下さいね」
「オッケー」
静香が僕の前に「どうぞ」と紅茶を置いてくれた。一言礼を言って口をつける。……うん、この娘の出してくれる紅茶はいつもおいしいな。
1年生の娘と自己紹介し合ったりした後一息ついて、改めて部室の様子を見渡す。
写真部の部室の中は僕が想像していた様相とは全く違っていた。とても綺麗に整頓されているんだ。以前静香が掃除が好きだと言っていたが、これもそのおかげなのかもしれない。
形状は入り口から窓までが長い長方形をしていて、一方の壁に天井まで届く二段重ねの一際大きい木製の棚がある。もう一方には長いテーブルが1つ置かれそこに少女達の鞄が置かれていた。うん、間違いなく3つある。部室の中央には僕たちの座っている丸テーブルと椅子が4脚があるだけだ。
一見しただけではここが写真と関係のある場所とは思えないくらい何もない。
「先輩、どうしました?」
「ん。いや、もっとカメラとか写真とか飾ってあるのかと思ってたから」
辛うじてそれと関係のありそうな物は長テーブル側の壁に掛けられている何かの賞状の入った額だろうか。部員がコンテストとかで貰った物なのかもしれない。
「今は洗礼祭の写真も現像し終わって、写真部は暇な時期なんです」
「いつもいつも写真を撮ってるわけじゃないんだ?」
「他の学校のことは知りませんが、星漣の写真部は行事や旅行で撮影する以外は自分で撮った写真を持ち寄るくらいです」
活発に部活動してるって感じじゃないな。ま、そりゃそうか。シャッターチャンスを探して園内を徘徊するようになったら変態だもんな。
「じゃ、ミドリは自分の撮った写真を自分で現像してるんだ」
「はい、そうです。……あ、終わったみたいですね」
壁の中から水がパイプを通る音が聞こえ始める。隣りの部屋で蛇口を使い始めたのだろうか?
その直後、静香の言葉通りに部室の一番奥まったところにある扉が開いた。たぶんそこの向こうが作業室なんだ。
「しゅーりょーです。あれ?」
「やあ、お久し」
気さくにシュタッと手を上げて親愛をアピールする僕。だが、ミドリは何故か眉根を寄せて考え込む。何か……嫌な予感が。
「……すみませんが、どこかでお会いしましたですか?」
ぬあ!? マジで!?
「あなたは誰様ですか?」
「忘れ去られてる!? 一緒に探研部掃除したでしょっ、ほら、3年のたっ……」
「冗談です、達巳先輩」
……メガネ割るぞこのヤロー。
僕の右手が光って唸って眼鏡ごと握りつぶしちゃいそうになるのを必死で抑える。ふー、ふー、どうどう、落ち着け、僕。
「今日はどうしたですか?」
「う、うん。ちょっとこれ見て」
震える手で僕は鞄から七魅に預けられた物体を取りだした。ずっしりと重量感のあるそれを机の上にゴトリと載せる。
「こいつを手に入れたんで、ちょっと撮影テクニックを指南して頂きたいなぁと思って」
「おぉー」
ミドリは眼鏡の位置をクイッと直してそこに置かれた物体を子細に観察し始めた。さすがに写真部ということで他の2人も興味有り有りで身を乗り出す。
「……これ、高くなかったですか?」
高いのか? これ?
僕にわかるのはこれがNikonのデジタル一眼レフカメラだということだけだ。とりあえずごまかしておくか。
「達巳先輩って、顔に似合わずいいところのお坊ちゃんなのですね」
「見た目通りと言えこのヤロー。ま、ホントは借り物なんだけど」
「そうだと思いましたです。素人が持つには過ぎた道具です」
言いたいことを言ってくれちゃってるミドリは僕に断りもなくカメラを手にしてひっくり返してみたりしている。
くっそー。認めたくはないが確かにミドリはカメラの扱いに手慣れている気がするな。僕よりずいぶん小さな手のクセにまるで危なげな様子が無い。
「翠ちゃんのお家はカメラ屋さんなんです」
「あー。餅は餅屋ってやつか……」
こっそり静香が耳打ちしてくれる。息が耳にかかってちょっとこそばゆいな。
「まー、そういう訳でそいつに見合うテクニックを付け焼き刃でいいんで教えてくれない?」
「そんなこと言っても、私にはわからないのです」
テーブルにカメラを戻しながらミドリは言う。
「なんで? カメラ屋なんでしょ?」
「パチンコ屋は全員パチプロですか?」
そりゃ……違うよなぁ。
「私はカメラの調整や現像は得意ですけど、撮る方はさっぱりなのです。カヤちゃんならいっぱい知ってると思うのです」
「カヤちゃん?」
初めて出た名前だ。最後の2年生の名前かな。
「写真部の部長です。そこの額に賞状が飾ってあるです。雑誌にも掲載されたのですよ?」
「へぇー……」
立ち上がって指さされた額縁を見に行ってみる。それは確かに写真雑誌で行ったフォトコンテストの入賞の賞状で、名前は一ノ宮榧子(いちのみやかやこ)となっていた。
「榧ちゃんはもともとバードウォッチングが趣味だったらしいんですけど、星漣に来てから写真も撮るようになって、そして初めてでいきなり入賞しちゃったんです」
「ふーん。才能あったんだね」
静香の補足に相づちを打つ。
だけど、七魅の情報によるとそんな彼女は現在休学中らしい。何か有ったのだろうか?
「で、その一ノ宮さんは今どこにいるの? せっかくだしその入賞の技術を伝授して欲しいなぁ」
その事を口にしたとたんに、女の子達の顔つきが曇る。ミドリと静香は顔を見合わせ、文紀はおろおろとそんな2人に目を向けている。
「えっと……カヤちゃんは……」
「榧ちゃんは身内に御不幸があったのでお休みしてます」
ミドリが言いづらそうにしていると横から静香が助け船を出した。僕が「そうなんだ」と頷くと「はい、そうなんです」と真顔で頷く。ミドリはあからさまにホッとしていた。
ここまで見るに、どうもこの部の力関係はその部長はともかくとして静香が一番上にいるみたいだ。技術的にはミドリなのだろうが、機転の利かせ方とかを見ているとそんな気がする。うん、書き込みターゲットは静香でいいだろう。
「ま、それじゃあ仕方ないか。でも雑誌に載るって、凄いなぁ」
「ですよ。カヤちゃんは凄いのです」
「僕にも雑誌に載るくらい『凄い写真』が撮ってみたいんだけど」
僕の中心で魔力の心臓が鼓動する。OK、発動成功!
自分が既にブラックデザイアにコントロールされ始めていることに全く気付かず静香が口を挟む。
「いきなりは無理だと思いますよ」
「うん。僕だっていきなり撮れるとは思わないよ。だからそんな凄い写真が撮れるよう練習したいんだ。ちょっと待ってね」
僕は再び足下の鞄を開けて中から雑誌を取り出す。七魅に用意してもらったヤツでは比較的強烈なヤツだ。
「こんな感じの凄い写真を撮りたいんだ」
僕が机の上にそれを広げると、女の子達は一斉に顔を寄せてそれを覗き込む。
「す、すごいです……こんな凄いのは初めて見ましたです……」
「綺麗……女の人って、こんな綺麗になれるんですね」
「はわー……」
そんなこんなの言葉を呟きながら、食い入るように見開きのページに写る2人の少女を見つめる3人。
初めて見たって? そりゃそうだろうね。何しろそれは海の向こうでも発禁モノの少女ポルノ写真集なんだから。
そのページにはベッドの上で足を絡ませた2人の裸の少女が上気した表情でお互いの舌を伸ばしてディープキスをしている。他人から見れば淫猥極まりない光景であるのだが、ブラックデザイアの力はこれをコンテストの入賞作品と同等の「凄い写真」として認識させているのはずだ。
僕は少女達が雑誌をひとしきり見たところを見計らって次なる台詞を口にする。
「それでものは相談なんだけど、時間があるなら練習に付き合って欲しいな」
「え? 何事です?」
「凄い写真のモデルになって欲しいんだよ」
「えーーーっ!?」と大口を開けて驚くミドリ。
「だ、駄目なのです! モデルなんてやったこと無いのです!」
「いいじゃん。カメラマンも初心者、モデルも初心者。いつかできる凄い写真の予行練習だよ」
「で、でも……」
ミドリは渋っているが、僕の口に出したことはどんな手段であれ実現してしまうんだよ。
静香が以前のようにミドリの腕を引いた。
「やろうよ、翠ちゃん」
「し、静香ちゃん……?」
「先輩、凄く真面目に練習しようと思ってるんだよ? やろうよ」
「……う、うん」
やっぱりね。最終的にこの部の決定権を持っているのは静香だったか。
僕はしてやったりの表情を隠しつつカメラと鞄を持って立ち上がった。
「そうと決まったら善は急げ。早速移動しよう」
「何所へです?」
「ここじゃちょっと殺風景だからね。もっと雰囲気の出るところへ行くんだよ」
そう言って僕は写真部の部室から移動する。
後に自分がこれから何をさせられるのか把握していない3人の少女を引き連れて、ね。
3.
僕が撮影場所に選んだのは2年柚組の教室、つまりミドリと静香のクラスルームだ。
普段クラスメイトと普通におしゃべりしたり勉強している場所で淫靡な写真の撮影をする、これほど刺激的で蠱惑的な体験は無いだろう?
この時間、教室は赤くなり始めた空に浸食されて少しずつ幻想的な世界を発現させようとしている。いい感じだ。まさしく『凄い写真』が撮れそうだよ。
今、ミドリはモデルということでもう1人のモデルの静香にお色直しをしてもらっている。星漣では華美な化粧は禁止なので本来化粧道具などは持って来てはいけないのだが、写真部は生徒の顔写真を撮る機会があるために備品としての保持を認められているらしい。
静香はその権限を最大限に駆使して教室の後ろの方でミドリをメイクアップするのに専念中だ。
残る文紀には1年生という事で撮影のアシスタントを頼んだ。机を並べてスペースを作り、そこに当たるよう部室の棚から持ってきた照明器具を設置する。
僕の方はもしかしたら床に寝そべることもあるかもしれないということで辺りを箒で掃いておいた。
「さて、もう準備はいいかな?」
「はい。できあがりです」
声を掛けるとウキウキした口調で静香が答えた。先ほどのように腕を引きながらミドリを教室の前に連れてくる。
驚くべき事に(そして本音を言うと認めたくはないのだが)ミドリは見違えるほど可愛らしくなって帰ってきた。
いつも撥ねている巻き毛は綺麗に梳かされて左右に分けられ、髪留めできちんととまっている。眼鏡は外され、視点が合ってないせいか瞳がちょっと潤んでいる様に見える。不安げな表情が普段の気の強さを押し込めて可憐さすら演出していた。
「め、眼鏡が無いと何も見えないのです」
「私がついてるから大丈夫だよ、翠ちゃん」
静香がリードして2人は照明の中に立つ。いよいよ撮影開始だ。
「僕も初心者だから、この辺の凄い写真を参考にするからね」
そう言ってあらかじめ何冊か先ほどの物と同類の本を教卓に出しておく。静香がそれに賛成した。
「そうですね、それがいいと思います」
「じゃ、まずは普通に立ちポーズからいこうか」
2人に指示を出して正面、横向き、振り返り姿勢など制服姿をぐるりと1周撮影する。さらに水遊びをするときのようにちょっとスカートを摘んでもらい膝の見えた状態で1枚ずつ撮った後、おもむろに僕は適当な1冊を手に取る。
「えーと……まずは、これいってみようか?」
本を開いて2人に見せると、しばらくそれをジッと見つめた後にコクリと頷く。
後ろをむいて少しお尻を突き出し、お互いのスカートの後ろを摘んで腰の辺りまで捲り上げる。
2人の下着がカメラの前にさらけ出される。少女2人のダブルスカートめくりだ。
「はい。いいねいいね」
カシャカシャとシャッターが切られる。僕はしゃがんで下着が大きく写るようなアングルを選び、恥ずかしげな少女達の表情と一緒にその光景をメモリーに納めていく。
以前ハルのを見たときも思ったが、どうして女の子はこんな小さな下着を身につけるのだろう? ピタリと張り付いてそのふくらみぶりを浮き彫りにし、とても卑猥な光景を作り出している。
「よし、次はパンツを下ろしてみようか? 太股の真ん中くらいまで。そうしたらお尻を撮影するから手で引っ張って拡げてくれる?」
「はい」
何の疑問も持たずに言われたとおり下着を下ろす少女達。お尻を突き出し、そしてその中央のすぼまりを見せつけるように両手で双丘を左右に開く。恐らく僕以外誰も目にしたことの無いであろう禁断の部分が引き延ばされ、わずかに口を開く。
「うんうん、これは凄い写真になりそうだよ。もうちょっとはっきり写るように引っ張って」
「んぅ……これ以上無理なのです」
ミドリが泣き言を言う。まぁ、でもそれも当然だろう。限界まで引っ張られた2人のそこは既にぱっくりと開口し、わずかに赤く色付いた内壁まで外気に晒されている。これ以上を望むなら指か器具を突っ込んで押し開けなくては無理だろう。そこまでやるのもかわいそうだし。
僕はとりあえずカメラをマクロ撮影にして2人の秘密の部位を接写して、ポーズを崩すように言った。ホッとしたように手を放す2人。そのお尻にはくっきりと手の形が赤く残ってしまっている。ちょっと無理をさせてしまったかな。
「じゃ、次はこっちの本にいこうか。服を脱いでくれる?」
僕は新しい本を手に取って中身を確認する。その間にミドリ達は制服を脱ぎ、綺麗に畳んで文紀に手渡した。
夕日の赤に少女達の白い裸体が映える。うん、教室を選んだのはやっぱり正解だったな。
満足げにうなずくと、僕はあらかじめ持ってきていた物をポケットから出して放り投げた。両手でそれを受け取ったミドリは首を傾げる。
「アメですか?」
「食べちゃって」
「私だけなのです?」
「それで2人分なんだよ」
「?」の表情を浮かべながらも包装を破いて紅い色の飴を口に含むミドリ。
「はい、じゃ、次はその飴を静香ちゃんにあげようか」
「え?」
「手を使わずに直接口移しでね。ほら、こんな感じ」
本の中からディープキス写真のページを開いて見せてやる。2人は真っ赤になって顔を見合わせた。僕は畳みかけるように言う。
「別に変な事じゃないでしょ? こんな綺麗で凄い写真なんだから」
「う、うん……」
「そう……ですよね」
観念し、2人は正面から向かい合う。
「翠ちゃん……」
「うん……」
静香が両手を差し出し、ミドリはそれに指を絡ませた。そっと両方から距離を近づけていく。飴玉を通すために少し口を開け、そして唇が当たる直前で一瞬躊躇する。
「……」
「……」
黙ったままの2人。お互いの鼻と鼻がくっつきそうなほど接近した状態で見つめ合う。
「静香ちゃん……」
「……翠ちゃんなら、いいんだよ?」
「……うん……」
そっと、まるで水に触れたら溶けて流れてしまう砂糖細工に触れるようにミドリの舌が静香の唇の間に差し込まれる。唇と唇が触れ合い、その間から唾液が掻き混ぜられる水音が漏れる。
「ん……ふっ……」
「……んんっ……」
鼻にかかった声と共に舌の上を紅い飴玉が転がる。静香は自分の舌をミドリのと絡ませてそれを受け取った。ミドリの口元から溢れた唾液がつうっと流れる。
「ん……むっ……んちゅぅ……」
「……あふっ……んぅ……」
いつしか2人はお互いの舌と唇の感触に没頭していく。ミドリが飴の溶けた甘酸っぱい唾液を味わおうと舌を差し入れ、吸い出し、唇に零れた雫を舐め取る。静香もそれに応えて舌を使って相手の口を開かせ、口の中に溜まった2人分の唾液を流し込んだ。
「んむぅっ……! ふぅっ……あふぅっ……!」
突然、ミドリの体が小刻みに震える。赤ん坊の肌のような透き通った皮膚が赤く染まり、唇の隙間から吐息なのか悲鳴なのかわからないくぐもった嬌声を上げる。
静香がきゅっとミドリの体を抱き寄せた。押しつぶされた少女の豊満な乳房が2人の間で形を変える。そしてそのまま強く唇を押しつける。ミドリの体がビクビクと痙攣した。
「…………んふぁ……」
2人の口が離れた。
そのとたん、カクンと力なくミドリの膝が折れかけ、静香がそれを支える。はぁはぁと荒い息をつくミドリの口元から大量の唾液が零れ、床にボタボタと落ちていく。かつん、と堅い音をたててずいぶん小さくなった飴玉が転がった。
僕は足下に来たそれをひょいと拾い上げる。
「よし、飴玉を使った写真はこれくらいでいいや。あともう一つ撮って今日は終わりにしよう」
「……はい、わかりました」
静香が薄い笑みを浮かべながら答える。その表情を見て僕の背筋にゾクッと震えがきた。
なにしろ、静香の目付きが尋常じゃないのだ。腕の中でくたくたと力なく自分に抱きついているミドリを獲物を見つけた猫科動物のような目の輝きで見つめている。
(やばい……点火しちゃった? 僕?)
「次はどんな写真を撮るんですか?」
消耗の激しいミドリをくっつけた机の上に寝かせながら静香が振り返る。僕は背中の寒気を押さえ込みつつ最後の本を手に取った。
「ラストはこれを撮りたいんだ。特別凄い写真だよ」
「……これは……何をしているのです?」
首を捻る静香。視点の合っていないミドリにも顔の前まで持っていって一応見せてやる。 僕が開いたページには裸で絡み合った2人の少女が淫らに悶えて同時に達している場面が写し出されていた。
「ちょうど揃ってイったところの写真だね」
「行った? 何所へですか?」
……ここでそのボケが出るか。
「そうじゃなくて、性的絶頂。達したってこと」
「……ああ、オーガズムのことですね」
「うん。ミドリはあんなだから、こっちの写真みたいに静香ちゃんがやってあげてくれる?」
「はい……任せてください」
ううう、ゾクゾク。一瞬静香が舌なめずりした光景が見えたよ?
静香は机に寝そべったままのミドリに近づくと、投げ出された両脚をそっと開いてその間に入り込んで膝をついた。ちょうど股間と目線が同じ高さに来る。
「……? 静香ちゃん、何してるの……?」
「……翠ちゃん、私に任せてね」
そう言うと、ミドリの一番敏感な部分に静かに口付けする。まるで電気が通ったように机の上でミドリの体が跳ねた。
「うぅああぁっ!? はうっ……! あああぁっ……!」
「ん……ふぅん……ちゅ……」
先ほどの余波がまだ残っていたのか、2人の接触箇所からすぐに水音が聞こえ始める。
ミドリはその衝撃から逃れようとするが机の上に腰が乗っているせいで足が使えない。腕の力だけでずり上がろうとするが、静香に太股を押さえ込まれ、あえなく再度快感に身を捩らせる。
静香は先ほどのキスと同じように舌を差し込み、ひだを舐り、時には陰核を甘噛みしてミドリを責め立てる。幾度となくミドリは体を痙攣させ、その隙間から液体を溢れさせた。
「……うん……んちゅ……」
静香が口を離す。2つの唇の間に透明な液体の橋がかかった。立ち上がるとその肌の表面に浮いた汗が静かに滑っていく。そして内腿には明らかに汗とは違う粘性の液体がとろりとひとすじ流れ落ちていた。
くちゃり……と水音を立てて静香はミドリの左腿に跨がる。そのまま上体を倒して覆い被さるようにミドリの体と重なった。
「最後は一緒に……ね?」
「はぁ、はぁ、あふぁ……あぅん……んむっ……」
再び、2人の口付け。先ほどまでのような激しさはないが、静香はミドリの舌に力が無いのをいいことに思うがままにその口内を蹂躙する。そして手を伸ばしてミドリと自分の股間に手を添えた。
「あぁっ!? ふぁああ……! ぅううん……!」
「あぁ……翠ちゃん……ぁうん……! 翠ちゃん……!」
教室の中に一際激しく2つの水音が響き始める。中指を曲げて少女の入り口を時に激しく、時にやさしく撫で上げ、親指の腹を使ってその上の敏感な突起を摩り上げる。
静香が上半身を揺すって乳房をミドリの控えめなふくらみに擦り付ける。時折お互いの頂点部が触れ合い、その度に背筋を震わせてもどかしげに熱い吐息をはく。
「あ……あふぁ……あぁっ……! ああっ……!」
静香の声も余裕が消えてせっぱ詰まったような響きを帯びてきた。そろそろ終着が見えてきたのかもしれない。
「もうイけそう? 写真撮ってもいい?」
「撮って……撮って下さい……! 私達がイくところっ、撮って下さいっ……!」
ガクガクと体が跳ねる。僕は頷いて2人をファインダーの中に納めてピントを合わせる。
「ああ、わかったよ。撮るよ。撮ってあげる。君たちはこの写真と同じように、イく瞬間を撮られるんだ。シャッターを切る度にに君たちはイって、何枚も何枚もこんな凄い写真を撮られてしまうんだよ!」
「ああっ! あふぁ、イ……きます……っ! イきます……っ!!」
静香たちの体が小刻みに震え始める。もう限界だ、僕はシャッターボタンを押し込む!
カシャッ!
「あっ! あっ! あぁあああああああああああっ!!」
その瞬間、2人は絶叫のような嬌声をあげた。差し込まれた指の隙間から吹き出すように液体が跳ね飛ぶ。その様子を納めるべく僕は連続的にシャッターを切る。
カシャッ! カシャッ! カシャッ! カシャッ!
「うぁあああ! あぁあっ! んぅあぁっ! んんんぅうううっ!!」
シャッターが切れるとそれに反応して絶頂を迎え、その瞬間を捉えるためにまたシャッターが切られる。無限ループの連続絶頂地獄だ。
先ほどまでリードしていた静香も、もはやなりふり構わず涎と愛液を垂れ流して快楽に身悶えている。みるみるうちに数値を減らしていく残り撮影枚数。
「……これで、ラストっ!」
カシャッ!
「ぁはぁうぅぁああああああんん!!」
最後のシャッターが切られると同時に、2人は今までで一番高い嬌声と共にお互いの体をしっかりと抱きしめ合った。
「……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
机の上にうつ伏せで余韻に浸っていた静香がゆっくりと目を開ける。
「翠ちゃん……?」
横にいるもう1人の少女の方を向いてそっと声を掛けるが、帰ってくるのは荒い吐息だけだ。静香はその様子をじっと見つめていたが、手をついて上体を起こすと髪をかき上げてその上に覆い被さった。
「んっ……ちゅっ……」
軽いキスをしてすぐに顔を放す。そしてくすっと笑った。
「翠ちゃん、寝ちゃったみたい……ふふっ、可愛い」
……それは気を失ったって言うんじゃないのかなぁ?
くすくす笑いながらミドリの髪を撫でている静香の様子に僕は頬を掻く。
「んじゃ、今日はこれでお終い。撤収しようか?」
そう言いながら後ろを振り返ると、なぜかアシスタントの文紀はぽや~っと上気した表情でミドリ達の方を見つめている。おやぁ?
その様子に気が付き、静香はこちらにやわらかく微笑んで手招きした。
「おいで」
「……ふぁ!?」
「達巳先輩に、文紀ちゃんも凄い写真撮ってもらお?」
「い、へ、や、あの、その……」
……静香ってもしかして全部わかってて言ってるんじゃないか?
しどろもどろの文紀に僕は声をかける。
「文紀ちゃんも写りたいの?」
「やぇ!? ぅいや、そのぉ……」
「別にいいよ、まだ沢山撮れるからね」
僕は鞄から予備のコンパクトフラッシュを取り出してみせた。
七魅からはあらかじめ10枚渡されている。これまで分の10倍撮ったって問題ない計算だ。
「ほら、おいで。文紀ちゃん」
「は……はい……」
静香の誘いに文紀は操られたかのようにふらふらと机に歩み寄っていく。それを手を広げてまるで母親のような包容力ある表情で迎える静香。小柄な少女の体を抱き留める。
……う~ん、まったく。僕は静香の将来にとっても不安を感じてしまうよ。
少女の手によって衣装を脱がされる新たな被写体にカメラを向けつつ、僕はなんだか蜘蛛の巣にかかった蝶を見ている気分になってやるせなくなってしまうのであった。
4.
「はあ~ぁぁふぁあああああ……」
選択教科の現代史が終わり僕はため息をついたが、それはそのまま欠伸に取って代わった。駄目だぁ、最近疲れが取れてないよ。それもこれも魔力の消費ペースが無茶苦茶なせいだ。
心臓が魔力による疑似器官に変わった今、それは正に僕の生命線だ。つまり、大量に魔力を使えばたとえ後で幎から供給されるとしても体に負担がかかるんだ。血を売って能力を使っているようなもんだからなぁ……。
授業中もなんだかぼんやりとして教師の言葉が頭に入ってこなかった。黒板だけは写したけど今見直してもちんぷんかんぷんだ。ああ、後で誰かに教えてもらわないと……。
「……お疲れのようですね」
「ん? ああ、ちょっと……」
前に相談に乗ってくれた隣の娘がまた声を掛けてくれた。ふう、自覚はあるけどやっぱりはっきりわかるくらい表に出てるのかな……ってあれだけ大きな欠伸をしてれば誰だってそう思うか。
「何かまた問題でもありましたか?」
「最近頼まれ事が忙しくて」
「ふふ、頼りにされているのですね」
少女はそれがさも立派なことだと言わんばかりに嬉しそうに笑う。そんなんじゃないんだけど。
「私にも何かお手伝いできる事がありますでしょうか?」
「あ……いや、お構いなく」
一瞬、目の前の少女にブラックデザイアの力を使うところを想像してしまった。だけど、残念ながら僕はまだこの娘の名前を知らない。というか、最初の授業で聞きそびれて以来なんとなく今更で聞くに聞けないんだよなぁ。名簿を確認しておこう。
「そうですか……。でも、無理は禁物ですよ。勉強は勉強、仕事は仕事。学業に影響が出るようでは本末転倒ですからね?」
「ええ、それはわかってるんですけど……だけど締め切りが短くて」
「事情を話してもう少し待って貰うことはできないんですか?」
「いやぁ、こっちの事をもうちょっと考えてくれるなら最初からこんな無茶なスケジュールにはならないですよ」
なにしろ1ヶ月を2週間に切りつめるくらいの無慈悲さだからね。せめてもう一週間あればなぁ。
「では、誰か他の方に少し回させて貰うというのはどうでしょうか」
「あ、他にはいないんですよ。基本的に1人でやってるんで」
それを聞いて少女は「えっ?」と驚いた表情になる。あれ? 何か変な事言った?
「1人でなさってるのですか?」
「? ええ、そうですけど?」
「失礼ですけど、依頼された方はどうなさっているのですか?」
「ああ。まぁ……待ってますね、僕が終わるの」
使いたい物を注文すれば用意してくれるし、場所と時間を指定すればそこを人払いして開けてはくれるけど、基本的に七魅は僕の行動にはノータッチだ。
手を出して欲しいとも思わないけどね。
だけど少女はそうは思わなかったようだ。眉を寄せて難しげな表情をしている。
この娘のこんな表情、初めて見た気がする。
「1人でこんなに頑張っているのに、それはあんまりではないですか?」
「うーん。だけど、これは僕にしかできない事なんで……」
「いいえ、どんな事であっても他者が手を貸せる部分は有ります。例えそれが些細な事であっても、共に仕事を行っているという気持ちだけでも大きな助けになると思います」
ああ、この娘は本当に凄い。僕たちくらいの年齢でこういう考え方ができる人ってそうそういないよね。思わずうんうんとうなずいてしまう。
「確かに、そうですね」
「頼んだ方も任せっぱなしでなく仕事を手伝うべきなのではないかと思います」
「はい」
「無理をなさらず、もう一度手助けを頼んでみたらいかがでしょうか?」
いいこと言うよなぁ、ホント。
「と、いう訳で手伝ってください」
「何が『と、いう訳で』なのかはわかりませんがお断りします」
あ、やっぱり?
放課後、僕は七魅を運動部棟の4階の空き部屋に呼び出してさっきの台詞を切り出してみたんだけど、内容を聞く事も無くすっぱりと切られてしまったな。まぁこうなる気はしてたけどさ。
でも、一応こっちには正当な理由もある。お断りされて早々引き下がるわけにもいかないんだよ。
「まあまあ、そう邪険にしないで。ちょっと話を聞いてよ、P作戦に必要な事なんだし」
「……どうぞ、ご自由に」
ちなみにPはPOOLのPね。
僕は本のことを誤魔化しながら以前幎に説明された第5発動ステージの能力の内容を説明した。七魅は興味無い素振りをしながらも話の合間には相づちを打ったり確認の質問をしてきたりする。素直じゃないなぁ。
この作戦に絶対不可欠な能力、『領域支配(ドミネーション)』は、実はそれ単体では機能しない複合的な能力なんだ。発動するには『受容者(アクセプター)』と呼ばれる特別な人間が必要になる。
それを用意するのが第3発動ステージの能力、『受容(アクセプタンス)』だ。特定の手順を踏んで僕と契約した人間は受容者(アクセプター)となり、以後ブラックデザイアの効果範囲外であっても魔力を消費すればインサーションキーが保持されるようになる。
これはつまり、電話などを使えば好きな時にキーを変更可能って事だ。今までだと例え電話で相手をコントロールしたとしても切れた瞬間に全て解除されていたからね。
そして一番重要な事は、アクセプターとなった人間は第5発動ステージ以降の強力な能力を発動するコアになるんだ。アンテナのように僕からの魔力を中継し、周りの人間に情報を書き込むことができるってわけ。
「──だから、プールで他の人間の認識を誤魔化すためには、僕と契約した人間が1人以上その場に必要なんだ」
「……つまり、私に手伝って欲しい事とはその『契約』の事ですか?」
「話が早くて助かるよ」
七魅だって今回の事には期待をしている。手順を追って説明すればこれが必要な事だってわかってくれるはずだ。
僕としてはこれくらいで納得して欲しいんだけどな。
「わかりました。確かに私がその契約を行うのが一番合理的ですね」
「でしょ? 七魅さんはお姉さんと常に一緒にいるわけだし、これから先の事も考えるといい手だと思うんだ」
ふう……やれやれ、良かったぁ。
「それじゃ早速、契約やってみようか」
「待って下さい。その前に、その契約を行う特別な手順について説明して欲しいのですが」
「……え゛?」
「……何故そこで口籠もるのですか?」
何故って、そこが一番聞かれたくなかったところだからに決まってるじゃないか。
契約に必要な『行為』を聞いたら、七魅は絶対に拒否してブラックデザイアの力に抵抗するだろうからね。
「もしかして、何かいかがわしい行為が必要なのですか?」
「……そんな事はありませんデスヨ? 気にしないで気楽に僕に任せて欲しいナァ」
「内容を聞くまでは了承できません。何故話せないのですか?」
あーあー、警戒心バリバリ。毛を逆立たせた猫みたいだ。そんなに威嚇しないでよ~。
「……だってさ、言ったら抵抗するでしょう?」
「抵抗したくなるような内容なのですか?」
「そんなに警戒しないでいいのに」
「警戒したくなるような事を言ったのは誰ですか!」
「僕……なのかなー? あははは……は……」
笑って場を和ませようとする僕。だけど七魅の目付きはますます鋭さを増すばかり。
だめかー。しょうがない、こういう展開も予想はしていたけどね。
「駄目ですか?」
「駄目です」
「どうしても?」
「どうしてもです」
「そうか……じゃ、お姉さんに頼もうかな」
「え?」
僕は七魅に何も言わずに扉を開けて周囲を見渡した。
お、いたいた。ちょっと早いけど僕の目当ての人物は4階の廊下をうろうろと何かを探すように歩き回っている。
手でおいでおいでしてやると相手も気がついたようでこちらに駆けてきた。
「こらーっ! なんで階段のとこにいないのっ!?」
「ごめんごめん。食べ物の事でちょっと話し込んでて」
「ナナちゃんと?」
「そ。じゃ、入って入って」
謝りながら僕はその人物を部屋に招き入れてやる。驚いたのは七魅だ。
「ね、姉さん!?」
「やほー、来たよー」
そう、もちろんその人物とは七魅と瓜二つの双子の姉、三繰だ。
ここ何回か七魅を呼び出す際に、実は僕はワザと3年柚組の教室まで内容を告げに行っていたんだ。手紙を仕込むのが面倒くさかったというのもあるけど、その本当の目的は三繰に目撃させて僕への興味を引かせるため。
今日も昼休みに放課後の呼び出しの件を告げに行った僕は、その時に三繰が既に書き込み可能なほど僕に興味を持っていることを確認した。
だから、ここに来る前に三繰の下駄箱に手紙を放りこんできたんだ。「七魅と最近趣味の話をしている者だけど、三繰も参加しない?」って具合にね。
もちろん、こんな呼び出しは普通は怪しまれるかもしれない。でも、それ以前に僕は散々七魅と接触して呼び出しをしている姿を見せているし、なにより好奇心の強い三繰のことだ。興味本位でノコノコやってくる確率はかなり高いと思っていた。
で、やっぱり来たってわけ。これだからいいとこのお嬢様ってヤツは警戒心が無いな。七魅と足して2で割ればいいかも。
部屋に入ったところで僕は即座に三繰にキーワードを伝える。ここはスピード勝負だ。七魅に抵抗される前に全てを終わらせる。
「実は今、七海さんと世界で一番『美味しい食べ物』の話をしていたんだ」
「世界で一番? 何々? ナナちゃんはなーに?」
「え……えっと……??」
僕の中央で魔力の心臓が鼓動する。それと同時に七魅の表情に疑問符が浮いた。状況が飲み込めてないといった不安げな表情。
成功だ。やっぱりね。
七魅は僕に対しては強い警戒心を持っているけど、三繰に対してはとことん甘いって事はもう誰の目にだって明らかだ。だから、三繰経由でインフェクションをかければ絶対に抵抗できないって思っていたよ。
君は今やカゴの中の鳥だよ。もう逃げられない。
「僕はね、世界で一番美味しい食べ物は人間の精子だと思うんだけど、三繰さんもそう思うよね?」
「あー、そうそう、そうだよ~。ナナちゃん、精子は世界一おいしいってテレビでも言ってたよ」
おいおい、それはどんな番組だ。僕は笑いを堪えるのに必死だ。
ブラックデザイアの凄いところは、僕の言った事を実現するために相手の認識を狂わせるだけでなく、周囲からも状況を整えるための働きかけが行われるって事だ。環境整備能力とでも言おうか。これは七魅にも説明していない。
三繰の言葉も本当にそんな放送を見たのではなく、きっと何かのグルメ番組の記憶を取り違えているんだろう。
「そ、そうなのかな……?」
「うん、そう。お姉ちゃんは間違えない!」
ぜんぜん間違ってるよ。
七魅はやっぱり納得しきれないのか眉を寄せている。まだ少し、抵抗しているのかもしれないな。
でも、そんな事に構う必要はない。発動した以上、ブラックデザイアの力は絶対だ。僕の言った事を実行するしかないんだよ。
「そんなに言うならさ、僕が世界一美味しい食べ物を食べさせてあげようか?」
「え?」
「精子。僕が七魅さんに食べさせてあげるよ」
我ながら世界がひっくり返るようなとんでもないことを口走っているな。でも、三繰はそれにまったく疑問を感じることなく手を叩いて賛同する。
「それがいいね! 論より証拠! ナナちゃん、せっかく達巳クンが言ってくれてるんだし食べさせてもらおううよ!」
「え……あ、う……うん」
遂に七魅がコクリとうなずいた。ふふふふふ、いっぱい出してあげるから、せいぜい味わって食べてもらおうじゃないですか。
さてさて、ここでちょっと弁解しておかないとならない。
僕は別に七魅を虐めるためにこんな事をしているわけではないっていう事。
先ほど説明したアクセプタンスの契約手順だが、それにはある『行為』が必要って事は説明した。
で、その行為ってのは、実は「ブラックデザイア使用者の体の一部を相手に取り込ませる」ことなんだ。
幎先生の説明いわく……
「髪の毛や爪など血の通っていない部位では魔力が通っていない為、契約を行うことはできません。肉や骨や臓器は十分な魔力が通っていますが、治癒に時間がかかりデメリットが大き過ぎると思われます。ある程度の遺伝情報を持った細胞を含有する体液、例えば血液等を使用されることをお勧めします。郁太様は男性ですので精液でも代用可能です」
……という事らしい。
血を飲ませると言ってもそれを出すために傷を作ることを考えたら、気持ちよく相手に提供する事が出来るもう一方を選択したくなるのが男のサガだよね。
そういう訳で、今日は七魅には頑張って僕の精子を飲んでもらうって事で!
5.
窓から差す日差しは徐々に赤みを増してきている。
いいね、この学校という現実空間が静かに終演していく感覚。夕焼けは欲望の刻限の到来を告げる鮮烈な合図だ。この幻想光景の中で僕に出来ない事は何も無い。
「さてそれじゃ、七海さんには裸になってもらおうかな」
「え……何故ですか?」
七魅が困惑した表情で顔を赤らめる。
まだ状況がわかっていないのか? これは教育してあげる必要があるな。
「三繰さん、精子は何のために有ると思う?」
「赤ちゃんを作るためでしょ?」
「どうやったら赤ん坊はできる? 七海さんは知ってるよね?」
「……男性と女性が、せ、性交渉をします……」
性交渉、ね。その内容は知っているんだよね?
僕は「その通り」と仰々しくうなずく。
「つまり、精子を出すにはセックスさせろとまではいかないけど女の人の刺激が必要なんだよ。料理に盛り付けが大事な様に、精子をおいしく食べるためには裸が必要なのさ」
「なるほどー。ほら、ナナちゃん脱いで脱いで」
「……うん」
七魅がしぶしぶ三繰に制服を脱がされ始める。チャックを開け、襟口からなだらかな肩を抜くと白い制服がふわっと広がりながら足下に落下した。今日の七魅の下着は……飾り気の無い白、か。これはこれでイイね。
「あの……このままでは駄目なんですか?」
「ダメ」
「ほら、お姉ちゃんが脱がしたげるね」
顔を赤くして上目遣いで懇願するような七魅の要求を一言で却下してやる。三繰はランランと鼻歌でも歌いそうな上機嫌で七魅のブラのホックを外した。色付いた頂点を持つ乳房がかすかに揺れながら僕の視界に現れる。
決して大きいとは言えないが形の良いふくらみ。僅かに上を向いた2つの突起を隠そうと腕で覆うが、そんな事して恥ずかしがっていると……。
「下も脱ぎ脱ぎしようね」
「姉さん、自分でできるから……」
「駄目~♪ それーっ!」
ほらね。三繰は七魅が両手を使えないのを良い事に下着のサイドを持って一気に膝ぐらいまで引き下ろしてしまった。慌てて片方の手を下ろして前を隠すが、綺麗に整った茂みの様子はバッチリ確認できたよ。
「ほら、足上げて」
「……」
もう何も言わずに真っ赤な顔で姉の言うがままに従っている。細い足首から純白の布地が抜き取られ、遂に衣服を全てはぎ取られてしまった七魅。その肌は恥ずかしさのせいかうっすらと赤くなってきている。
上から下まで、髪の毛の生え際から靴の爪先までじっくりと目線を動かして七魅の身体を観察する。
形の良いすらりとした眉は何かに耐えるように寄せられ、その視線は僕と合わせないように僅かに逸らされている。頬は赤く、いつもは強気な言葉しか吐かないはずの唇は今は真一文字に結ばれて僕からの要求に怯えているかのようだ。
もみあげからの髪が鎖骨のラインを超えて胸元まで伸びている。それは少女の豊満とは言い難い未成熟な胸部を僅かに隠すが、かえってそれが白い肌と黒い髪の対比の様に淫靡さを際だたせる。
痩せ形ながらちゃんとくびれのある腰つき。中央の窪みはその少女の滑らかな腹部のアクセントだ。そこから股下までの僅かな空間の内部に女としての機能が納められている事に少し僕は感動する。
股間は隠されて今は見えないが先ほどの光景はまだ網膜に焼き付いている。自分で処理しているのか、そこを覆う黒い影は綺麗に形が整っていた。
ぴたりと閉じられた丸い膝頭と股の間の作り出す完全な二等辺のデルタゾーンを通し、後ろに立つ三繰のスカートが覗いている。閉じても閉じきる事の出来ない少女の性を覗き込んでいるようで僕はその空間にすら視線を奪われた。
細く締まった足首を覆うライン入りの白い靴下。そして中に入る足の指が心配になるほど細長く小さなローファー。七魅に許された2つだけの肢体を覆う物体だ。だが、それが日常の名残を持つが故に今の状況の異常さを強調してしまっている。
胸と前を押さえて縮こまった少女の肩が僅かに震えている。別に寒さを感じているわけではない。ただ、僕の視線の作る圧力に吹き散らされそうなプライドを必死に繋ぎ止めているだけなんだ。
ふふふ、いいね。羞恥に悶える少女を見ていると、猛烈な支配欲が怪獣のように頭をもたげてくるよ。
「じゃ、座って」
この空き部屋は運動部棟を合宿所として使う場合の荷物倉庫として使用されているらしい。僕は棚を開けて毛布を一枚出すと壁際にそれを敷いて指さした。
七魅はおずおずと敷物に上がるとぺたんと女の子座りして身体を前に倒し、僕の視線から逃れようとする。
まったく、そういう吹っ切れてなさが加虐欲を刺激するんだって。
「そんなに縮こまってちゃ何もできないよ。三繰さんも手伝ってくれるかな?」
「うん、いいよ。何すればいい?」
不安げな七魅を横目に僕は顔を寄せてごにょごにょと耳打ちする。三繰はそれに顔を輝かせた。
「オッケー。まかせてね♪」
三繰はの後ろに回り込んで壁に背を預けて座り込んだ。するりと手を伸ばして七魅のお腹の辺りを捕まえる。
「ほら、ナナちゃんおいで」
「え……姉さん……?」
「お姉ちゃんに座っていいから」
「でも……」
「おいで……」
ぐいっと引っ張ると七魅のお尻が滑って三繰の腰の上に乗った。スカートが捲れて太股が付け根近くまで露わになるが三繰は気にしないようだ。
両脚を伸ばし、七魅にも膝を伸ばして自分に背中を預けるように言う。七魅は躊躇いながらも上体を起こして体を姉の両腕の中に納めた。僅かに逸らされた胸の先端がツンと上を向く。
「ほら、もっと達巳クンに見せつけちゃおうよ」
「や、やだ! 姉さんやめてっ……!」
三繰は七魅の懇願を聞くことなくそのまま開脚した。当然、三繰の太股を跨ぐように座っている七海の両脚もそれ以上に開かせられ、ほぼ180度近くまでなったそこは内腿の筋に引っ張られて僅かに口を開く。
しかし三繰はそれでも足りないと両手をそこにそっと添えると、僕にその中身を全て見せつけようと肉襞を割り開いた。
「……やめっ……姉さん……おねがいっ……!」
「ねえ、見える? ナナちゃんの大事なとこ、よく見える?」
「うん……良く見えてるよ。ずっと奥の方までね」
「あ……」
僕もそこまでしてとは言ってないんだけど。これは三繰の性癖のおかげなのかもしれないな。
七魅はもう目をつぶって体を震わせながら必死に目の前の状況に堪え忍んでいる。この間あれだけの痴態を見せたのに、初々しいなぁ。
だけど、駄目だよ。目を瞑っちゃ。ちゃんと見なきゃ、ね。
ここからが今日のクライマックスなんだから。
僕はズボンのジッパーを下ろし、中から少女たちの痴態にすっかり大きくなった物を引き出す。
「ほら、見てごらん。これは何ていうか知ってる?」
「あ……だ、男性器……」
「そう、ここから精子が出るんだ」
七魅と三繰は僕の股間部を顔を赤らめてじっと見つめている。精子を飲むことには疑問を持たなくても、これには興味津々ってわけか。うーむ、そんなにじっくり見られるとこっちも恥ずかしくなってくるな。なにせ女の子に見せるのは初めての事だし。
僕は自分の照れを隠すためにも自然と早口気味に言葉をまくし立てる。
「料理にも前菜があるでしょ? 精子を食べるときもまずはコレを味わわなくちゃ駄目なんだ。それが美味しい食べ物を食べるコツだよ」
「これを……味わうって、く、口に入れるんですか……!?」
「最終的にはそうなるけどね。ほら、手で触ってみて」
かなり躊躇したが、七魅はおずおずと手を伸ばして僕のモノに触る。両方から包み込むように指先をそっと竿の部分に触れ、やわやわと表面の弾力を確かめるように指先の力を変化させる。七魅の指はちょっとヒヤリとしていて、僕は触られた瞬間思わず腰を引きそうになるのを気付かれないように堪えた。
「……ど、どんな感じかな? 思ったことを言ってみて」
「は、はい……温かい感じです……あと、うまく言えないのですが、張りつめているような弾力が」
うう、確かに張りつめてるよ。こっちだってギリギリで体を張っているんだ。
あまり触られ続けているとそれだけで出てしまいそうだ。僕は七魅の手からそれを奪い返すと深呼吸して気持ちを落ち着ける。まだまだ、こんなところで先走ってしまうわけにはいかない。
「いいかい、今から僕はこれで七海さんの体に触れていく。そうすると、君はそこから感じる全ての感触を『気持ちいい』と感じるはずだよ」
「……?」
「美味しい食べ物は人を幸せにするって聞いたこと無い? 美味しいって事は、気持ちいいって事なんだ。だからこれに触られて気持ちよくなるのは凄く当たり前なんだよ」
「……はい」
七魅の目付きがボンヤリとし始める。早速さっきの感触が気持ちのいいものだったと書き換えられたのかもしれないな。
僕はその正面に膝をついて、右手で掴んだ物をゆっくりとなめらかな腹部に近づけていく。いきなり咥えさせるのも風情がないからね。中心の窪みにはめ込むように先端部をうずめた、その瞬間。
「うあ゛っ!?」
七魅の身体が跳ねた。喉の奥からくぐもった悲鳴のような声を出し、ガクンと腰が浮く。これはただ触れたというだけじゃないな。その弾力や熱や触覚が全て快感に変換されているんだ。
僕はその反応が面白くて臍を中心に渦巻状に七魅の腹に先端をこすりつけていく。七魅の肌に玉のような汗が浮かび始める。
「あっ……あっ、あっ……ああぁっ!」
白い肌がさぁっと赤く染まり、股間からぴゅっと小さく愛液が零れた。軽くイったのかもしれない。口を開けっぱなしにしてはぁはぁと荒い息をついている。
「わぁ……ナナちゃん、おいしそうだね……」
後ろの三繰が七魅の様子を目を輝かせて見ている。ははは、たしかに『美味しそうに』よがってるよね。
でも、まだまだだよ。もっともーっと味わってもらわないと。
お腹を擦っただけでこれなら、もっと敏感なところならどうだろう。
僕は腹部を弄くるのを中止し、今度はそこから下に滑らせていく。下腹部を横切って内腿に辿り着き、そこを竿全体を擦り付けるように刺激してやる。
「あふ……きゃん……あぅん……!」
可愛らしく鳴きながらまたも股間から水っぽい液体を飛ばす。
ちょっと感じ過ぎじゃない? あんまりとばすと後が持たないよ? まあ、そういう風にしかけたのは僕なんだけどさ。
ぜぃぜぃと息を荒くして完全に姉に身を預けている七魅。もう体にほとんど力が入っていないようで両手はだらりと横に投げ出されている。股間が僕に向かって剥き出しで晒されているというのに隠そうともしない。
僕はその茂みの奥の突起が痛そうなくらい大きく膨らんでいる事に気が付く。ふふふ、いいもの見つけた。不意打ちのようにそこに先端を押し当ててやる。
「!!!」
言葉にならない悲鳴。ぱくぱくと酸素のない水槽の金魚のように口を動かした。
「っ……っ……ぅひゅっ……」
溜まり溜まっていた波が少女を一気にさらう。
「ぁあああ!!」
まるで射精のように断続的な飛沫がびゅっびゅっと飛んで僕のズボンを濡らす。太股を押さえてる三繰の手から逃れるかのように身を捩り、腰を震わせる。
まだまだまだまだ。僕は揺れる七魅の身体を利用してべたべたの股間部をランダムに刺激する。
くうっ、これはこっちもきつい。ぬるぬるの粘膜同士が擦れあって両者に凄まじい快感を伝達する。だが、向こうは強制的に全てが快感で彩られるようにコントロールされている。僕の感じているものとは桁違いなはず。
「あうぁ! うはぁっ! ゃぁあああっ!!」
七魅を襲う連続的な絶頂。まなじりから涙すら飛び散らせてその身体を跳ねさせている。
あまりの快感に危険を感じて腰を引いてみれば、七魅の秘部との間に粘液のアーチが伸びた。膣口がその隙間を埋めるものを求めてぱくぱくしている。
名残惜しいけど、このままだと僕の方も変になりそうだ。少し場所を変えよう。
その後、乳房やその先端もまた同じような反応をすることを見つけて、そこで2、3回ほど七魅を絶頂に導く。首筋や鎖骨の隙間、脇の下の感触を楽しみながら亀頭の割れ目部分を硬くなった乳首に擦り付けてやると、面白いように七魅は声を上げた。
「あ……あ……んぁ……」
少しやりすぎたかな? 刺激を与えてもだんだん反応が薄くなってきた。もしかしたら意識が飛びかけているのかもしれない。だけど体はきちんと感じているようで、時折体をピクリと震わせては股間から雫を零している。
僕の股間の物はもう七魅のと先走りの液体でどろどろだ。もう限界、そろそろ七魅に『食べて』もらおうか。
「三繰さん、ちょっとどいてね」
「……ん、はい」
妹の下から体をずらして三繰が体を抜く。脚を投げ出して壁に身を預ける七魅。何もしていないにもかかわらず股間からは先ほどの残滓がこぽこぽと溢れてきている。
僕は七魅が朦朧としているのをいいことに体を跨いで膝をつき、後頭部に手をやった。指を使って口を開けさせると、とろっとその中に溜まっていた唾液が零れた。
「ふぁ……?」
「……噛んだりしたら、駄目だよ?」
そして、その中に一気に怒張を突き込む。
「!!??」
僕の下でまた七魅の体が跳ねた。今度はその痙攣具合が口の中の粘膜を通じて僕自身に直接伝わってくる。顔を真っ赤にして涙をぽろぽろと溢れさせている。口に入れただけでイったんだ。
構わずに僕はそのまま七魅の頭を両手で掴んで前後させ始めた。顎に力が無く涎が零れてぽたぽたと胸に雫を落とす。
ぬめぬめとした蠢く舌の感触や上あごの柔らかさがたまらない。ワザと少し角度を変えて頬の内側の粘膜を擦り取る。時折擦れる歯の堅さすら良いアクセントだ。そして唇が僕の股間に接触するぐらい奥深くまで突き込んでやる。医者と食べ物以外触れるはずのない喉奥に先端が突き当たる感覚が僕を満足させる。
普通ならそこまで深くものが入れば吐き気を催して感じるどころの話ではないだろう。だが、今はブラックデザイアの力が七魅を支配している。たとえ猛烈な嘔吐感であろうと、そして息苦しさであろうと、さらにはきっと痛みであろうとこの僕のモノから与えられた感触は全て気持ちよさとして変換されて認識されるんだ。
この支配感には陶酔するね! 病み付きだよ!
背筋を通って強烈な絶頂感が迫り上がってきた。さすがにもう限界が近い。僕は終末へ向けて自分の腰も振ってしゃむに七魅の口を蹂躙する。
い……イクよっ!
「待って」
「うあっ!?」
突然、僕の体が後ろに引かれた。手が外れ、七魅の背中がどんと壁に当たる。ちゅるりと口内からモノが引き抜かれ、その刺激で暴発しそうになるのを僕は必死で押さえ込んだ。
「な、何だよっ!?」
「今日はここまで、ナナちゃんもう限界」
三繰はそう言うと、七魅の肩を抱いて抱き起こした。そしていつの間に用意したのか片手に持ったティッシュペーパーをその股間にあてがう。
「あ……」
股間の茂みが隠れる寸前、ちらっと見えてしまった。その奥の割れ目の奥から、ちょろちょろと僅かに色づいた水が放出されている。そういえば、いつの間にか独特の臭気が辺りを漂っている。夢中になっていて全く気が付かなかった。
「今日はもう駄目みたいだね」
「う、うん……」
三繰は毛布の位置をずらして七魅が寝そべれるようにしてやっている。その体はまるで人形のように力が入っていない。完全に失神しているんだ。
「ごめんね、せっかくここまで用意してくれたのに」
「いや、いいよ別に……」
正直言うと僕の股間は爆発寸前ギリギリで寸止めされてしまってとてつもない状況だ。だけど、まるで死んだように弛緩した七魅を見てしまっては罪悪感でそれ以上の事をするだけの気力も無くなる。
しょうがない。僕は股間のものを無理矢理にでもズボンの中に納めようとする。
その時、僕は三繰がいつの間にか七魅の側を離れてこっちをジッと見つめているのに気が付いた。
「ね。それ、私が食べちゃってもいいかな?」
「……は?」
「せっかくだもんね。ナナちゃんには悪いけど……」
そう言うと、三繰はしゃがみ込んで僕の股間に顔を近づけていく。
え、え、ちょっと? なにごと? 僕が何か言おうとした時にはもう、三繰はその唇の中に僕のモノをぱくりと咥え込んでいた。
「うぁっ!」
そしてそのまま顔を前後に振って僕に刺激を与え始める。時折上目遣いで「こうすればいいんだよね?」と僕に伺いを立てる。
やばい、めちゃくちゃ気持ちいい。さっきと違って唇や内側に力があるおかげて程良く締まって僕の快感を促進する。
先ほどの絶頂感がすぐに戻って来た。だ、駄目だ、耐えられないっ!
「ああっ!!」
三繰がまるで催促するかのように先端を吸い上げた瞬間、僕のモノが爆発した。腰の深いところから熱い快感の塊がドクドクと尿道を通って三繰の口の中へ噴き出す。思わず腰が震えてしまう。
下に目をやれば、三繰は目を瞑り陶然とした表情で僕のモノを咥えている。少女の白い喉がコクコクと何かを嚥下する様がはっきり見える。
僕の射精は長く続く。ドクドクと、まるで止まらないホースのように白濁の液体を少女の中に注ぎ込む。ドクドク、ドクンドクン……と、噴出に合わせて僕の心臓が激しく鼓動する。
「!?」
お……おかしい。普通ならもう絶対終わっているはずなのに、射精が止まらない。もう既に1分近く経過しているはずだ。量にしてもコップ半分くらい出ているかもしれない。こ、これは……?
突然、ふらっと視界が暗くなりかける。この感覚は知っているぞ。立ちくらみとかの貧血の感じだ。急速に体が冷えてくる感覚。わけもなくどっと冷や汗がでる。
まずい! 今出ているのは精液じゃないぞ!
僕は慌ててその頭を掴んでぐいっと腰を引いた。ちゅぽん、と音を立ててモノが無理矢理引き抜かれ、震えたそれから飛び散った白い液体が三繰の髪や顔にまぶされる。
だが、僕にはその液体が僅かに光っているのがはっきり見える。やっぱりそうだ。こいつは、僕の魔力の塊だ! ブラックデザイアが状況に反応して三繰に術をかけるべく送り込んでいたんだ。
当初の予定では七魅にかけるつもりだったが、状況が変わった。この疲労具合から見て僕の魔力はほとんど三繰に流れ込んでいる。とてもじゃないけど今日この後2回目をするだけのものは残っていない。もう、やるしかない。
へたり込みそうになる脚を叱咤し、僕は三繰の正面に本を持って立つ。ぐぅ、目眩だけじゃなく吐き気までしてきたよ。苦労して酸味を含んだ唾を飲み込み、契約の言葉を紡ぐ。
「──『受容せよ(アクセプト)』」
僕の意志に反応し、ボウッとブラックデザイアに紅い光が灯った。契約が始まったのだ。
「黒き欲望の書の使用者、達巳郁太の名において汝を我が従者とする。汝の名は?」
三繰の視点はまだ定まっていない。しかし、僕の問いかけに反応し抑揚無く口を開く。
「……哉潟三繰……」
その瞬間、三繰の体が内側から白い光を放ち始める。それに呼応するように、ブラックデザイアの表紙に金色の紋章のような模様が形作られた。これが契約の紋、サーバント・クレストだ。
僕はその文様を三繰の額にそっと押しつける。一瞬白い光と金色の光が混ざり合い、そしてゆっくりとブラックデザイアの中へ帰って行く。本を放すと、三繰の額にその形がくっきりと焼き付いていた。そして、ゆっくりと染みこむように消えていく……。
これで、契約完了。三繰は僕の従者となった。
本人は気付かないだろうが、以後、僕からの書き込みは無意識下で保持され続けるわけだ。
さて、と。
三繰を「後片付けは振る舞った者の仕事」と先に帰した後、僕は部屋の中を見渡した。先ほどの痴態の後始末をしなくてはならない。床に零れた液体等はトイレの雑巾で拭き取ればいいけど、毛布はどうしよう。七魅に頼めば綺麗にクリーニングして元通りにしてくれるかな?
そこまで考えたところで僕は七魅を寝かせたままだったことを思い出した。壁際に様子を見に行ってみるとまだ気を失ったままで、しかも色々な液体で濡れた毛布にべったりとお尻を付けてしまっている。
「あーあー……これじゃ風邪ひいちゃうよな……」
いくら初夏といってももう夕方だ。そろそろ気温も下がってくる。どうするか……。
「……しょうがないな」
とりあえず別の毛布に場所を移すべきだろう。その前に濡れた体を拭いてやらないとな。
僕は七魅の隣に新しい毛布を用意しておいてから、ポケットティッシュを取り出す。そして気絶したままの七魅の両足首を持ってそれを高く持ち上げた。
赤ちゃんのおしめを替えてやる時の要領だ。さすがにちょっと重いけど。
僕は手に持った紙でなだらかな双丘を湿らせている液体を拭う。何往復かしたところで新しいのを出し、今度は粘液に濡れて光る股間部やその下のすぼまりに指を当てて吸い取らせる。
「……何をしているのです?」
突然、その脚越しに冷え切った少女の声を聞き、僕はお尻に指を当てたまま凍結した。
押し殺したような無感情の声色がめっちゃ怖い。
「……何をしているのですか?」
少女が再度、問いかける。先ほどの声より更に10度は温度が低い。凍傷で体中から血が吹き出そうデス……。
「何を、しているのかと、聞いているのですが?」
言葉をはっきり区切りながら、もう一度。
僕はこれ以上黙ることもできず、恐る恐る口を開いた。
「いや……ね、あの、丸出しだと風邪引いちゃうでしょ? それじゃ可哀相だからちょっとお尻を拭いてあげてたんだけ……どぶらっ!!」
言葉の途中で僕の顎に衝撃が走った。それだけに留まらず連続的に僕の上半身目掛けて百列キックのような蹴りの嵐が飛んでくる。ちょ、ちょっと。最後まで弁解聞いてよ。
「いや、ちょっと、まっ、はっ……ごぶぅっ!!」
そ、そこは……人体の急所の1つ……みぞ……おち……。
横隔膜が痙攣して呼吸困難に陥り、体が七魅に向けて前のめりに倒れかける。だが、それすら許されずに再度顔面に蹴りがヒットし、僕は鼻血を噴き出しながらまるで糸の切れた人形のようにごろりと背中から床面に沈んだ。
大の字になって寝ころぶ瞬間、目に涙を浮かべながら真っ赤な顔で股間を拭う少女の姿が目に入る。
(また、このオチかい……!)
窓の向こうの夕焼け空で、カラスがアホーと鳴いた気がした。
6.
そんなこんなで紆余曲折有ったが、プール作戦の前日になった。
僕の身を削った献身的努力によって期日内のブラックデザイアのステージアップも良し、受容者(アクセプター)の準備良し、七魅の手配でプールも確保したし、参加するメンバーにも声をかけて数が揃った。
オールオッケー、作戦準備完了。僕は久しぶりに放課後のフリータイムを得て、帰宅部らしく早々に下校するべくハルと一緒に昇降口を出た。
「明日楽しみだね、イクちゃん」
「そうかぁ? 学校のプールだよ? 授業でやるのと大差ないんじゃない?」
結局、何だかんだで施設は学校の屋内プールを使用することになった。万が一の時、七魅が手を回せる場所の方が安全だからだ。それに星漣学園の関係者以外の人間がいない方がブラックデザイアの力が強いので僕にとっても都合がいい。
屋外プールが使えなかったのは残念だが、こればっかりはまだプール開きしてないんだからしょうがない。
「イクちゃん、みんなで遊びに行くっていうのが大事なんだよ?」
「まあ……思ったより大人数になったけどね」
参加する人数は僕や哉潟姉妹の知り合いに声を掛けて集まった約20人。これだけの数をいっぺんにコントロールするのは初めての事だ。
少し不安が無いわけでもない。何しろ領域支配能力はまだ使ったことが無い。明日がぶっつけ本番なのだ。
「みんなホントに来るのかなぁ……」
「もー! イクちゃんが誘ってくれたのに、どーしてそんなに楽しくなさそうなのー!?」
あイタタタタ、人の頭をそんなにぽかぽか叩くなよ。
今日はまだ下校時刻じゃないんだ、ひとけだって有る。女生徒の何人かが目を丸くして僕らを見ているじゃないか!
って、あれ? その中の1人が方向を変えて僕たちの方に近づいてくるぞ?
「──ごきげんよう」
微笑みながらその長い髪の少女は僕たちにいつもの挨拶を投げかける。うわ、紫鶴だったのか。
「ごきげんよう、紫鶴さん」
「ごっ、ごきげんよう!」
ハルも気が付いて慌てて僕から離れる。微笑みながら取り繕うが今更遅いよなぁ……。
挨拶の後、紫鶴も今帰りらしいので一緒に歩く事にする。今日はちゃんと帰り道でセイレン像にお祈りして、と。あの時の紫鶴は迫力有ったからな。
「先ほどは何やら楽しそうなお話をしていましたね」
「馬鹿騒ぎしているのはハルだけですよ」
「ひっど~いっ! 紫鶴さまの前でなんでそういうこと言うの!?」
ハルがいつものように膨れる。否定はしないんだな。紫鶴はそんな僕らを微笑を浮かべて見つめている。
なんか、じゃれる子供を見つめる母親みたいな視線だ。良くわからないけどさ。
そこで、ふと思いつく。
「そうだ、紫鶴さんも明日プールに来ませんか?」
「え?」
「明日みんなでここのプールで遊ぼうって話になってるんですよ。良かったら一緒にどうですか?」
この学園で大きな力を持つ紫鶴とはできるだけ親しくしておきたいところだ。できればこれを機会にもう少し彼女の事を知りたいな。
紫鶴は少しの間考えた末、にっこりと笑って僕に答えてくれた。
「そうですね。来週から水泳が始まりますものね。練習しておいた方が良いでしょうね」
「やった~!」
何故そこでお前が喜ぶんだ、ハル?
「では、明日の9時に屋内プールの入り口で」
「9時ですね、了解しました」
そこまで話したところでちょうど正門まで来た。この間も見た黒塗りのお迎え便が待っている。
お付きのドライバーが後部座席のドアを開け、うやうやしく一礼した。
「では、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
いつもの挨拶の後、紫鶴は車に乗り込む。ドライバーの人も僕たちに一礼し、そして運転席に入って車を発進させた。
それを見送って僕らはいつもの帰り道の方へ歩き始める。
「あー明日楽しみ~! 紫鶴さまも来てくださるなんて!」
「はぁ。まあ、良かったな」
今更だが、僕は正直不安になってきた。というのも、明日来るメンバーが揃いも揃って曲者ばかりだからだ。どうしてこう星漣にはスペシャルユニークな個性の持ち主が多いんだ?
ルンルン気分のハルは僕の話なんか聞いちゃいない。スキップでもしそうな勢いでたったか飛び跳ねていくと、あっという間に歩道橋のところまで着いてしまった。ろくに話もしていないじゃないか。
「じゃーね! イクちゃん、また明日!」
「ああ。転ぶなよー」
駆けていくハルと別れ、クルリと踵を返していつもの歩道橋を上る。
ふと、空を見上げれば夕焼けに染まり始めたオレンジ色の雲が浮いていた。
(ま……なんとかなる、か?)
ハルの楽観主義が移ったかな?
せっかく女の子達と遊ぶんだ。それが学園内だとしても落ち込むシチュエーションじゃないよな。
すぅ……と遠くから流れ込んでくる西風の空気を胸に吸い込む。そして二酸化炭素と一緒に、不安を全て吐き出した。
よーしっ。明日は遂にこの2週間の苦労の集大成、プール大作戦の実行日だ!
七魅の期待を裏切らないよう、精々頭を捻ってみますか!
それはもう、姉好みの露出色バリバリにね!
< つづく >