繋ぎ

「ば、ばかぁ!!」
 何気ない日常。教室内に響き渡る声。
「な、なんで私があんたと一緒に買い物しなきゃなんないのよ」
 こいつの名は朱音(あかね)。俗に言う幼馴染。
「だってさ、一人で買い物行っても面白くないじゃん。だからさ・・・」
「やだからね。あんたと一緒に買い物行くぐらいなら家にいるほうがましなんだから」
 何時もの事だが、俺の誘いに朱音は全く乗ってこない。
 そのくせ、朱音の要求に俺は逆らえない事になっている。
 いつものお決まりの台詞
「あんたに拒否権はないんだからね」
 これを言われると、何故か反抗する気を失ってしまう。
 ははは・・・俺はちょっと気が弱いのかもな。
「じゃ、お前が無理なら俺はもう帰るわ」
 そう言って、俺は下駄箱へと向かった。
 そうすると、いつも朱音は何だかんだ一緒に帰ろうとする。
 まぁ、俺も朱音と一緒に帰るのは嫌じゃないからな・・・むしろ嬉しい。
 だけど、俺はいつまでもこんな関係でいたくはない。
 幼馴染から恋人へとステップアップをしたいのだが・・・
 どうも、こいつは俺のことを好きではないみたいだ。
 他の奴と話すときには、結構好感を持った話し方をするのだが、
 俺と話すときは常に悪態、暴言、非難の雨嵐だ。
 そこまで、嫌いなら俺と一緒にいなければいいのになと思うときもある。
 だが、朱音にも色々事情があるのだろう。俺の知ったことではないがな。
 そして、いつも朱音と別れる交差点。俺はいつものように
「また、明日な~」
 そう言うと朱音はいつもこう返してくる。
「今日は最悪な一日だった。明日こそ顔合わせないでね」
 だから、それなら俺に近づかなきゃいいだろと・・・この発言を聞くたびに俺はへこむ。
 まだ、日も落ちていなかったので家に帰らず、ちょっと近所をぶらぶらしようと思った。
 そうこうしているうちに見たことのない場所に来てしまった。
 あ…あれ?ここはどこだろう・・・
 目の前には古本屋があった。俺はここがどこなのか聞こうと思いその本屋へと足を運んだ。
 古本屋独特の匂い、埃まみれの本…店内を見渡したが人っ子一人いない。
 出ようかと思ったが、ふととある本に目を奪われた。
 『あなたも催眠術やりませんか?』
 俺は興味を持ちページをめくり、本を読み進めていく。
 半分ぐらい読み終えたところで、誰かに声を掛けられた。
「そろそろ閉店時間ですが、その本どうなさいます?」
 その声に驚き、後ろを振り返ると老人が立っていた。
「えっと・・・」
 財布の中身を思い出す。本の値段と照らし合わせて・・・買うか。
「買います」

 本屋を出ると、いつも見慣れた町並みに戻っていた。
 ふと、振り返るとあったはずの本屋は姿形もなかった。
 家に帰った俺はご飯を食べるのも忘れてその本を読んでいた。
 ちょうど、その本を読み終えたころ、激しい空腹を覚え時計のほうへ視線を向けた。
「げぇ!もう、3時かよ」
 時計の針は3時を指していた。
 俺は、猛烈な勢いでご飯を食べて、すぐに床に就いた。
 朝、俺は寝ぼけ眼で授業を受けていた。
 朱音から散々罵倒を受けたが、眠くて頭の中には何も入っていなかった。
 もう・・・だめだ・・・
 俺は夢の世界へと堕ちていった。

 起きたときには、学校が終わっていた。
 誰も起こしてくれないのか。薄情な奴らめ。
 幸い、午前中で終わりだったので、授業にはそんなに遅れなくてもすみそうだ。
「所で・・・なんで朱音がいるの?」
 時計を見ると、もう1時を指している。
 授業が終わるのが12時30分のはずだから…かれこれ30分ほど待っていた?
「な・・・なんでって、あんた一人置いていったらかわいそうじゃない」
「だから、責任持って、私がそばにいたのよ!」
「なら、起こしてくれればいいのに・・・」
 朱音は顔を真っ赤にしながら、
「は・・・早く帰るわよ!」
 俺はふと昨日読んだ本の内容を思い出した。
 やはり、覚えたての事は試したくなるって言うのが人間の性。
 ちょうど今、俺と朱音の二人っきりだし、朱音相手にやってみるかな。
「なぁ、朱音。お前催眠術って興味ない?」
「催眠術?あははっ。あんたそんなもん信じているの?もしかしてオタクとか?」
「いやさ、ちょっと昨日本で読んでみてさ。できるかなって・・・迷惑?」
 朱音は困惑していたが、やがて何かを決心したようで
「わ、わかったわよ。ただし、できなかったら、明日一日私の奴隷だからね」
 明日一日奴隷って・・・出来ない事前提で話をしているな。それに明日日曜じゃん。
「いいよ。じゃあ、まずはそこの椅子に腰掛けて」
 素直に言うことを聞く朱音。
「じゃ、まずは目をつぶって」
「い、言っておくけど、変なことしたらぶん殴るからね」
「わかったわかった。俺も痛い目にはあいたくないしな」
「次はどうすればいいの?」
 段々乗り気になってきたな。朱音に急かされ、少し驚いた俺。
「まず、肩の力を抜いて…首をゆっくり回して、ほ~ら段々気持ちよくなってきた」
「ゆっくり、ゆっくりと。今度は眠くなってきた。眠く、ねむ~くなる」
 首を上下に大きく揺さぶりながら、朱音は懸命に寝ようとしまいとしている。
 だが、寝なければ暗示がかかりにくいって書いてあったから、俺も必死だ。
「ほら、段々まぶたが重くなる。視界がぼやけていく、何も考えたくなくなる」
「ねむ~く、ねむ~くなる」
 どうやら、朱音は寝たようだ。これだけでも催眠術にはかかっているのだが、
 このまま起こしても朱音はどうせ信じないだろう。ちょっといたずらでもしてみるか。
「朱音。寝たままでいいから聞くんだ」
「朱音は俺のことどう思っている。素直に話して」
「・・・き・・・」
 き?よく聞こえなかった。俺はもう一度、聞いてみた。
「・・・すき・・・」
 好き?ば…馬鹿な、あれだけ俺に悪態をついていた朱音が俺のことを?
 でも、素直に答えろって俺が言ったし…これって両思いって奴か。
「じゃ、なんで俺に悪態ばかりつくんだ?」
「だって・・・その、恥ずかしいから」
 恥ずかしいって・・・それだけの理由で俺は散々暴言を皆の前で吐かれたのか・・・
 ちょいと、ムカついてきた。
「うん、わかった。じゃあ、3つ数えると、朱音は目覚めるよ」
「でも、素直に話すことが出来ないんだ。偽りのない言葉だけだよ。じゃ、3つ数えるね」
 ひとつ、ふたつ、みっつ
「う・・・う~ん」
 大きな伸びをして、朱音は目覚めた。
「ほ~ら、やっぱり催眠術なんていんちきなのよ。これで、あんたは奴隷決定ね」
 俺はニヤニヤしながら、ふとこう問いかけた。
「で、奴隷って言っても何するんだ?」
「えっとね、まず荷物もちと言ってデートでしょ。それに、一緒に映画館行ったりとか・・・」
 朱音は自分で自分を信じられないという顔でみつめていた。
 顔は青ざめており、目は開いたままだった。
 だが、朱音の口は止まらなかった。
「そして、帰りに一緒にお泊りとかしちゃって」
「へ~朱音はそんなこと考えていたんだ。でも、朱音って俺のこと嫌いじゃなかったっけ?」
 朱音は口を手で懸命に押さえているが、やがて声が漏れてきた。
「ううん、私はあなたのことが好き。ずっと、前から好きでした」
 朱音の目からは涙がこぼれていた。頬を伝い、涙の水溜りと表現してもいいぐらい流れ落ちた。
 さすがにやりすぎたかと反省をして、朱音にかけた暗示をといた。

 解いたあとも、朱音は泣き続けた。
「うっ・・・ひどい・・・ずっと、ずっと自分から言おうと思っていたのに」
「なのに・・・なのに・・・催眠術で言わされるなんて…ひどいよ…ぐすっ」
 なんか、すごく悪いことをしたんだな…俺は。
 よし、ここで俺が男をみせなければいつ見せるんだ。
「あのな、朱音。実はさ・・・こういうタイミングで言うのもなんだけど、俺・・・朱音の事が好きです」
「俺と、付き合ってくれませんか」
 朱音は驚いた顔で俺の方を向き
「う・・・うそ。だって、私あんなに酷いこと一杯言ったんだよ。酷いこともしたんだよ」
「だから、この想いは伝えても無駄だと思って、ずっと心の中にしまっておいたのに」
「ううん、それを含めてお前が好きなんだ。
 催眠術って言うのも、お前が俺のことどう思っているのか知りたかったんだ」
「そ・・・そうなの。こ・・・こちらこそお願いします。私と付き合ってください」

 二人はやがて笑いあい、自然と愛を深める行為へと導かれていった。
「胸、きれいだね」
「や・・・やだ。そんなにじろじろみないで。それに小さいし・・・」
 俺が初めて見た異性の体。それはまるで天使のようで、妖精のようであった。
「大きさとか関係ない。朱音のってのか重要なんだよ」
「ひゃぅ、舐めないで。感じちゃう」
「いいじゃん。俺は朱音にもっと感じてもらいたい」
 胸を中心に、首筋、耳、お腹、太ももと順番に舐めていく。
 その度に、朱音はかわいらしい声と体をくねくねし、その行為が又俺を燃えさせる。
 そして俺は朱音が守ってきた貞操へと手を伸ばした。
「み・・・見ないでぇ・・・」
 そう言いながらも朱音は早くさわって貰いたくてしょうがないみたいだ。
 ショーツを脱がすと、そこはもう濡れていた。
「これだけ濡れていれば、十分かな?俺もそろそろ挿れたいんだけど…」
 朱音は間髪いれずに
「ぅん・・・はやく・・・いれて・・・」
 こんなにしおらしくなる朱音を見て、俄然興奮した俺。
「じゃあ、いくよ」
 お互い初めてだからか、勝手が良くわからず苦戦するが、やがて先のほうが入り始めた。
「っ・・・」
 朱音が苦しそうな顔をしている。確か、最初って女の子は痛いんだよな。
「大丈夫か?痛いのなら、やめてもいいんだぞ?」
「ぅぅん・・・せっかく夢が叶ったんだし、我慢する」
 我慢するって言ってもなぁ…そうだ。催眠術で痛みを和らげることって出来ないのか。
「朱音、少しの間我慢してくれ。催眠術を使ってみる。それで少しでも痛みが和らげば」
 だが、朱音はそれを拒否した。
「駄目・・・辛い痛みじゃないし、幸せの痛みなら私はそれでいいよ」
「それに、好きな人とのはじめてなんだから、痛みも一生覚えていたいもん」
 朱音の覚悟。俺もできるだけ痛みを和らげるため優しく、ゆっくりと奥へと挿れていく。
 やがて、俺のが全て朱音の中へ包まれた。
「大丈夫か?」
「うん・・・もう大丈夫だよ。ぃぃよ。動いても」
 正直、俺も快楽を貪りたかった。だけど、朱音の事を思うと・・・ゆっくりと動き始めた。
「ぅ・・・ん」
 だけど、俺も所詮男だ。やっぱり誘惑には勝てず…
「はぁ・・・はぁ・・・もう、駄目だ。逝っちゃうぞ・・・」
「やぁん・・・あっ・・・だめぇ・・・はやぁ・・・んやぁ!あぁ!あああああぁぁぁぁぁぁ」
 俺は朱音と共に絶頂へと達した。
「ば、ばかぁ・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・ん・・・はぁ・・・はぁ・・・」
 その後、二人とも着替えを済ませ、いつもの様に帰っていった。
 違う所と言えば、お互いに手を繋ぎながら、帰っていったって所かな。
 所で、あの後催眠術の本がどこにも見当たらないんだ。
 俺と朱音を繋ぎ合わせてくれたあの本。きっと、もとの古本屋へ戻っていったんだろうな。
 俺たちと同じように誰かと誰かを繋ぎ合わせるために・・・

< おわり >

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