第二幕 その3
カンディスは双子の令嬢にマレーネと同じ事を言い含んだ後、再びホテルに向かっていた。
「次は・・・夫が仕事人間で家庭を顧みない、良家の人妻と二人の姉妹か。・・・次はこの『紅玉の首輪』とラメラとキャナルの出番だが」
懐から出したのは、紅い宝石が埋め込まれた三つの首輪。・・・別に三つ一組で効果を発揮する道具ではなく、ただ単に同じ道具を三つ作っただけだ。
「問題はこの首輪、加減が難しいのだよな。・・・香水なら打ち消すための道具もあるのだが、これははずしても効果が消えん。
・・・まあ、なるようになるか」
考えることを放棄して、カンディスは獲物の元に向かう。
ユリシアは二人の娘・・・イリスとシーリスを連れて、遅めの夕食を済ませ、部屋に向かっていた。
ホテルの食事はいまいちだった。豪華な料理は充分にユリシア達の舌を満足させたが、この場に居ない夫の空白を埋めるには、力不足だった。
ユリシア自身も二人の娘も、夫の仕事の大切さは理解しているが、それで全てが納得できるわけではない。特に今回の旅行は、今まで家庭を顧みなかった夫がお詫びにと企画し、出発直前になって仕事で企画した当人がすっぽかしたのだから、納得のしようが無い。
むしろ今回の旅行で夫の不在による空白を、より三人に印象付けただけだった。
表面上は楽しそうに話しながら三人が部屋に向かう途中でおかしな三人組が目の前を横切った。
二十を少し過ぎたくらいの女性に、まだ幼さを残した少女。それによれよれのスーツを着た美形。家族には見えないし、夫婦とその娘では確実に無いだろう。共通しているのは、三人が三人とも紅い宝石のはめられた首輪をつけている事だけだ。
三人組は、ユリシア達を見ようともせずにそのまま近くの部屋に入っていった。
不審な三人組だが、それだけと言えばそれだけだ。しばらくは記憶の片隅に残るだろうが、逆にしばらくたてば忘れる程度でしかない。
だがユリシアは思わず足を止めて、三人が消えた扉を見つめた。
「・・・お母さん、あたしあの部屋に入りたい」
上の娘のイリスの言葉に、ユリシアの心臓はどきりと跳ね上がった。・・・自分もそう思っていたからだ。
「・・・いけません。他人の部屋に勝手に入るなんて」
そう言うユリシアの言葉に、力は無い。良識と常識では、今言った自分の言葉が正しいことはユリシアも解っているが、この扉に入りたいとどうしても思ってしまう。
「でも、あのお姉ちゃん達がうらやましいよ」
シーリスの言う通りだった。あの扉が魅力的だから入りたい訳ではない。あの三人が入った扉だから、あの三人が羨ましいからユリシアはあの扉を開いて、部屋に入りたいのだ。
ユリシア達が良識と常識の足枷から解放されたのは、それからすぐだった。
ユリシア達が入ってくるまでの間、カンディスは部屋のセッティングを確認していた。
と言っても、大した物はない。部屋のリビングから無用な家具を退け、この部屋に元々あった椅子を並べて客席を作る。
ステージは幾つかあるベッドからマットをはずして、並べて敷いただけと言うお粗末なもの。
しかしこの場合重要なのは、役者と観客、そして今カンディス自身もつけている首輪なので何の問題も無い。
「・・・カンディス様、ここであたしの処女を頂いてくれるんですか?」
このステージでの主役であるキャナル。その横には従妹のラメラ。
「そうだ。ここでこれから部屋に入ってくる観客に、お前の処女喪失を目玉にしたショーを見せるのだ」
「はい・・・あたしの処女を役立ててくれるだけでなく、目玉にしてくれるなんて。あたし幸せです」
夢見るような様子のキャナルの中には、カンディスも予想外だった嬉しい誤算が働いていた。
カンディスがキャナルを注文し、無事支払いを済ませた今自分はカンディスの物、所有物である。なら、所有者であるカンディスに使われ、命令され、それを果たし役立つ事こそが自分の幸せである。そうキャナルは考えるようになったのだ。
「良かったじゃない、キャナル。あたしは添え物みたいなもんだけど、あんたを引き立てられるようにがんばらせてもらうよっ」
そう言ってキャナルの肩を叩くラメラも、キャナルと同じ考えだ。それでキャナルが主役であることに不満が無いのは、自分がカンディスの所有物であると言う認識が強いからだ。道具の使い方は所有者が決める。道具は使われていれば幸せ。
これが『搾取のメニュー表』と香水の原液を併用したことの副作用なのか、ただ単に、二人が思い込みの激しい性格だっただけなのかは不明だ。
「それを言うなら・・・」
我輩も添え物だがっと、続けようとしたところで扉がノックもされずに開いた。
「す、すみません。失礼します」
扉を開いて入ってきたのは、イリスだった。その後ろをユリシアが、最後にシーリスが後ろめたそうに続く。
まだ解放されきってはいないらしい。
「ようこそ」
『いらっしゃいませっ!』
なので、カンディスの歓迎の言葉とキャナル達の営業スマイルによる出迎えに、見ていて愉快なほど面食らった顔をした。
「あっ、あの・・・?」
「実は我々はこれからここで即興劇の練習をするところだったのです」
わざわざホテルの部屋で? っと、言う疑問をイリスが口に出すより早くカンディスは言葉を続ける。
「しかし練習と言っても、観客の立場で観てもらった方がこちらも気合が入ります。そこで、誰かに見てもらおうと思っていたところに貴方達が丁度来てくださったわけで。
・・・いかがです? 見ていきませんか」
「いえ、私達は・・・」
ただこの部屋に入りたかっただけでと続けようとしたユリシアの言葉を、ラメラが遮った。
「それとも・・・あたし達がこの部屋にいるのに部屋から出て行きます?」
なんとも奇妙な言葉だ。だが、そう言われるとユリシアはこの部屋から出て行きたくなくなった。別にこれから予定がある訳ではないし、自分達は歓迎されている。なら、別に彼らの即興劇とやらを見ていっても構わないだろう。
「では、拝見させていただきます」
「私たちもっ!」
娘達もユリシアと同感だったらしい。彼女達が席に着くと、カンディス達の即興劇は始まった。
始まった即興劇は・・・教育的には、とても不適切な物だった。その上、ユリシアには目の前のこれが劇なのかどうかすら疑わしく思える代物だった。
劇の開始と同時に、男がイリスと同じ年頃の娘の唇に濃厚なキス。もう一人の女は男の前に跪くと、何かを始めたようだ。ユリシア達からは女の後頭部しか見えないが、おそらく男の性器を取り出そうとしているんだろう。
即興劇どころか、内容はいかがわしい酒場のショーそのもの。とても年頃の娘に見せられるものではない。
しかしユリシアは席から立つ事もせず、ショーを熱い視線で見つめている。
「・・・いいなぁ」
そう呟いたのは、シーリスだった。彼女は、熱い視線をキャナルに注いでいる。
「あたしも、あんなふうにキスされたいなぁ」
「あたしは逆にキスしたいな。あの娘みたいに可愛い女の子に、キスするの。キスって言っても、唇が触れ合うような幼稚なものじゃなくて、今あの男の人がしてるみたいな、濃厚なやつよ」
彼女達の年頃なら、こういった事に興味があるのは自然なことだが、それを親の前でまったく恥ずかしそうな素振りも見せず口にするのは、少々おかしい。
本来ならそれを注意すべきユリシアは、自分を抑えるのに必死でそれどころではなかった。彼女は視線を目の前の猥褻なショーから、引き剥がせずにいた。
そのユリシアの目の前で、赤黒い肉棒が姿を見せる。ラメラがカンディスの男根をズボンから取り出したのだ。
物心ついてからは始めてみる男性器に、娘達の視線が釘付けになる。その視線から男性き隠そうとした訳ではないだろうが、ラメラは熱い視線で愛おしそうに見つめた直後、その唇に勃起して天をついているペニスを含んだ。
ユリシアはゴクリと生唾を飲み込んだ。あんなふうに自分が夫のペニスを口に含んだのは、一体何時以来だろう。
あの娘のしているように、自分は精一杯夫に気持ち良くなってもらおうとがんばった。・・・いや、あの娘以上にがんばったはずだ。
あの娘のように唇と舌で陰茎を扱き、舌の先で尿道を刺激して・・・。
そのうち、男の腰と娘の口に入りきっていない部分のペニスがビクビクと痙攣したかと思うと、娘がゴクゴクと何かを飲んでいく。二人の娘はいまいちなにが起こったのか良くわかっていないようだが、ユリシアは当然わかった。
男が射精した精液を、あの娘が飲み干したのだ。
自分も夫が口内で射精したら、あの娘のように精液を飲み干した。苦くて青臭くて、慣れても美味しいとは思えなかったけれど、その方があの人は、夫は喜んでくれたから。
「・・・お母さんは、あの人のオチンチンをしゃぶりたいわ」
思わず、ユリシアの唇から内心思っていたことが飛び出す。しかもそれは、どんどんエスカレートしていった。
「いいえ、あの人のじゃなくてもいいの。あの男の人のように、太くて固そうな、逞しいオチンチンをしゃぶって精液を口の中に出されれたい」
一度欲望の決壊を許した理性は、脆かった。元々自分どころか家庭すら顧みてくれない夫に対して、ユリシアの抱いている欲求不満は大きかった。
ユリシアが落ち始めたのを確認して、カンディスが筋書きを書いた即興劇は次のステップに進んだ。
ラメラとキャナル、そしてカンディス自身も服を脱ぎだしたのだ。劇の内容が内容だけに、逆に自然な流れと言えるだろう。
しかし、それを見たユリシア達の様子が変わったのは自然な流れとは言いがたい。異性の裸体を見たからと言うようにも見えない。
裸になったカンディスやキャナルを熱い視線で見つめながら、服のボタンに指が伸びては、それを躊躇うかのように指を元の位置に戻す。それの繰り返しだ。
次にカンディスはキャナルを後ろから抱きしめると、キャナルの性器を愛撫し始めた。スリットに合わせて指を上下に動かし、クリトリスを緩やかに刺激する。ラメラもキャナルの薄い胸をさわさわともみ、乳首を吸う。
「あああっ! カンディスさまぁ、早く私の処女貰ってくださいぃっ! これじゃ生殺しですっ」
「慌てちゃだめだよ、キャナル。まだ前座なんだから。せっかくカンディス様が時間をかけてあんたの処女を貰ってくれるんだから、大人しくまってな」
そう言いながらラメラはキャナルをたしなめるためか、乳首をきゅうっと強めに摘んだ。
乳首を摘まれて声を上げるキャナルを見ながら、ユリシアは唇を噛んでいた。悔しがっているのではなく、こうでもしていないと、自分が思っていることを実行してしまいそうだからだと、自分に言い聞かせながら。
まず、この汗に濡れた服を全て脱ぎ捨ててしまいたい。そして、自分の裸を娘達に、そしてあの男性に見せてしまいたい。そして娘たちにも裸になってほしい。
そして・・・あの娘のような若い女の、例えば娘達の乳首を揉み、吸いたい。
イリスは自分に似て発育がいいから、きっと揉み心地がいいだろう。シーリスはまだまだ発育途上だから、あまり感触は良くないかもしれないけど、きっと喜んでくれるはずだ。
気を抜くと、こんな母親にあるまじき事を口に出してしまいそうで、ユリシアは動けなくなっていた。が、視界の隅でシーリスが何か動き出したのに気がついて目をやると、驚いたことに服を脱ぎだしていた。
「シーリスっ! あなた何をっ!?」
「だってずるいんだもの」
ユリシアの驚きに、シーリスは頬を膨らませて応えた。
「だってあの人達だけ脱いで、あたし達が脱いじゃいけないなんて不公平じゃない?」
「あなた、何を言って・・・」
「それもそうよね」
理解不能の理屈を持ち出す娘に戸惑うユリシアの言葉を遮って、イリスはそう言って頷くが早いか服を脱ぎだしていた。
「イリスッ、あなたまでっ!」
「だってお母さん、ここはあたし達とあの人達だけなのよ? それともあの人達は裸になっても良くて、あたし達はだめなんて、シーリスの言うとおり不公平だわ。あたし達も自由に服を脱ぐべきよ」
そう強く言われて、ユリシアは揺れた。たしかに、自分も服を脱いでしまいたい。だがそれは・・・・・・。
いや・・・。いやいやいやいやいや。それはおかしい。不公平だ。あの人達は服を脱いで良いのに、自分たちが服を脱いじゃいけないなんて、たしかにおかしい。理不尽だとすら感じる。
むしろ脱ぐべきだ。そうすれば、娘の胸を揉み乳首を吸いたいなんて言う望みを抑えられるかもしれない
ユリシアは服を脱ぐための免罪符を急いで作り出すと、自分も服を脱ぎだしていた。
その間にも即興劇は進む。今度はカンディスとキャナルは向かい合うと、キャナルが自分の処女幕をこれから貫く勃起した男根に、自分の性器を擦りつけていた。その後ろではラメラがキャナルの肛門に人差し指をいれ、ズプズプと出し入れをしている。
「まだ処女だっているのに、お尻の穴に指を入れられて気持ち良さそうにしちゃって。・・・カンディス様、何ならお尻の穴の処女からどうです?」
「そっ、そんなぁ」
「いやいや、観客の皆様も劇の目玉であるキャナルの処女喪失をご覧になりたいだろうから、やはり前の処女から頂こう」
「えいっ!」
突然響いた上の娘の掛け声は、ユリシアの後ろで聞こえた。
何事かとユリシアが振り向く間もなく、横で劇を見ていたはずのイリスが後ろから覆いかぶさり、その秘所に手を伸ばしてきたのだ。
「イリスッ!?」
「ごめん、お母さんっ。でもあたし、誰かのあそこを弄りたくてたまらないのっ! もう我慢できないのぉっ!」
ごめんと誤るわりに、イリスの瞳の中にあるのは熱に浮かされたような欲望の輝きと、それを満たせる事への満足だけだ。罪悪感など、欠片も見つける事は出来ない。
「あなたなにを考えて・・・わたひぃっ!?」
言葉の途中で悲鳴が混じる。イリスの爪がつりシアのデリケートな粘膜を引っ掻いたのだ。
「い、痛かった? あの男の人みたいに上手くいかないなぁ」
女同士だから相手の感じる場所が解ると言うレズビアンはいるし、その言葉に間違いはないだろうが、無条件で正しいとは限らない。特に、愛撫する側に性経験がほとんど無い上に、興奮で冷静と言う言葉が頭の中から吹き飛んでいる時は。
しかし、イリスはユリシアが感じていようがいまいがお構い無しで、お手本であるカンディスの愛撫を思い出しながら試行錯誤を続ける。
実の娘の乱暴な愛撫で、ユリシアの理性はどんどん混乱していく。最良の行動は、今すぐイリスを跳ね除け、この狂った空間からシーリスを連れて、イリスを引きずってでも出ることだ。しかし、それも考え付かない。
「お母さん」
はっと顔を上げると、切なげな声で自分を呼ぶシーリスが視界に映った。
混乱し、助けを求めている。そうユリシアは最初思ったが、違うことにはすぐ気がついた。娘の瞳の中には助けを請う色は無く、あるのは欲望のギラつき。
「おかぁさん。お願い、あたしのおっぱいとあそこを弄ってぇ」
薄い胸の二つの頂点は早く早くと急かすように勃起して、毛も生えておらずぴっちりと閉められていた大陰唇を指で開いて、シーリスは母親に懇願した。
「お姉ちゃんはお母さんのあそこを弄るので忙しそうだから、お母さんがあたしのあそこやおっぱいを弄ってよぉ」
一緒に遊ぶことをリクエストするような気軽さで、とんでもないことを要求する娘の姿に、ユリシアの頭はパンク寸前だ。
パニック寸前の頭の視界に、不意に即興劇を続けるラメラの姿が映った。ラメラは混乱するユリシアの目が自分に向けられているのに気がつくと、二マリと笑った。そして、見せ付けるようにキャナルの胸に手を伸ばすとコリコリと乳首を指に挟む。
そこまでがユリシアの限界だった。
何故私は我慢しているんだ? 同姓の胸を触り、吸いたいという欲求が異常だからか? その欲求を満たせる相手が実の娘だけだからか? それがどうした。目の前でシーリスは、自分の胸どころか性器を弄ってほしいと言っているじゃないか。
それに・・・あの人がやっている事を私が我慢しなくてはならないなんて、もう耐えることができない。
さわりと、シーリスの胸に触れた。ほとんど膨らみは無いが、きめ細やかな肌の感触が心地良い。
「んんっ」
シーリスの洩らした声がきっかけになったように、ユリシアは貪るようにシーリスの胸を求めた。
発育途上の敏感な胸が痛みを覚えるには充分な強さで揉み、乳首を口の中で舌を使い転がし甘噛みする。
「んくぅ、あはぁぁっ。おかあさんっ、あそこっ、あそこもいじってよぉ」
「んんんっ、ハァ、だめぇ。お母さん、あなたの胸を触ったり吸ったりすることで、頭が一杯なのぉ」
「すごぉい。お母さんのあそこ、シーリスのおっぱい吸い始めてから、どんどん濡れてくるよっ!」
家族揃って理性と言う止め金が壊れたユリシア達を見ながら、カンディスは胸を撫で下ろした。どうやら、自分の作った未完成品が何とか効力を発揮したらしいと確認して。
カンディスの作った、そしてユリシアたち母娘に使用した道具は『羨望の首輪』。今現在、キャナルとラメラ、そしてカンディス自身がつけている首輪がそれだ。
効果は『首輪をつけている者がしている行為、受けている行為を羨ましく思い、自分もやりたい、受けたいと思うようになる』と言うものだ。この道具の影響下にある人物は、首輪をつけている人物が固いパンを食べていれば、ステーキよりも硬いパンを求め、過酷な肉体労働をしていれば、何の見返りも求めず自分も同じ事をしようとするようになる。
カンディスを不安にさせた未完成な部分は・・・首輪一つにつき、一人にしか効かないという欠陥と、効果の甘さの二つ。前者はカンディス自身も首輪をつける事で何とかなったが、後者の問題はどうにもならなかった。
本来なら、ユリシアは『キャナルの胸を弄り、吸いたくなる』はずだったが、『自分よりも若い女の胸を弄り、吸いたくなって』いる。イリスについては、キャナルではなく『女のあそこを愛撫したい』となってしまっている。
そのため、本来の予定ではユリシア達が劇の間どうにもならない欲求と嫉妬に身を焦がされるはずだったが、微妙に劇とは違うシチュエーションで、母娘で乱交と言う行為に走ることになった。
「まあ、それはそれで良いか」
そう頭の中を切り替えて、カンディスがぐにゃっと床に手をつく。
「・・・ぐにゃ?」
手の感触の奇妙さに眉をしかめて見てやると、そこには自分の手と床に挟まれて奇妙な生き物が苦しんでいた。
「こ、小人さんっ?」
「違うって、あれは・・・・・・何?」
驚きで思わず動きが止まっているキャナルとラメラ。欲求を満たすのに夢中で、気がついていないユリシア達。
二対の腕と、一対の脚。茶色の肌に頭から生えている一本の角。そして羽虫の物によく似た羽。
「・・・小悪魔の類か」
ザジとは種族が微妙に異なるようだが、そうであることぐらいは一目でわかった。しかし、普通小悪魔の類はカンディスのような上級以上の悪魔には自分からは近づかない。万が一機嫌を損ねたりしたら致命的だからだ。
「にもかかわらず我輩に近づいてきたということは・・・他のプレイヤーの使い魔か」
おそらく、ザジのように事前に地上に放され、情報収集を命じられていたのだろう。
っと、言う事はこの小悪魔を生かしておくと情報が敵に漏れる事を意味している。なら、このままつぶしてしまうのが得策だが・・・それは少々もったいない。
「貴様、誰の使いだ? 喧嘩好きのディムか、それとも慇懃なカズ―ト? いや、策士気取りのアリタだろう?」
「ギ、ギィィィ」
カンディスの質問に、小悪魔は答えられない。骨が軋む苦しさに、口が悲鳴の他はきけなくなっているのだ。
「誰の使いでも良い。主人に伝えるがいい、我輩がこうしてポイントを貯めていることを。そして、この一月の間に準備万端整えてお前達を待っているとな。
さ、伝言は以上だ。失せろ」
カンディスの手から自由になった小悪魔は、一目散に壁をすり抜け飛んでいった。
「これで誰だか知らんが、挑発は出来た・・・と。
さ、続きをするぞ」
「え、はい。でも・・・」
「して欲しくないの? だったらキャナルちゃんの替りにあたしが・・・」
「しましょうっ! どんどんしましょう!」
視線を目の前から観客席に向けてみると・・・乱交は相変わらず続いている。
「お姉ちゃんっ! お姉ちゃんのあそこに何でオチンチンはえてないのっ?」
おそらく、キャナルと同じように自分の性器をこすり付けたいのだろうが、もちろん姉のイリスにはえているはずはない。仕方ないので姉の性器にこすり付けて、買い合わせをしているシーリス。
「あたしもほしぃ、オチンチン欲しいよぉっ!」
言葉だけならただ淫靡なだけだが、その実かなり異常な願いを口にするイリス。
「フフ、二人ともそのままじっとしているのよ」
ユリシアはそう言いながら、娘達の返事も待たず自らの唾液で濡らした人差し指を、二人の肛門に突き刺した。
「ひぎっ!」
「ぎゃひぃっ!?」
突然肛門に異物を混入され、姉妹が悲鳴を上げる。だが、それからの対応は違っていた。
「おしりぃぃぃっ、もっとグリグリしてぇぇぇっ!」
「抜いてっ! お母さんそんな所に指入れないでよぉぉぉっ!」
肛虐をねだる妹と、拒否する姉。しかし、どっちにしろ母親は止めるつもりはないらしい。自分の指が娘達の肛門をグリグリとかき回すのを、うっとりと見つめている。
以上の様子からわかるように、シーリスはキャナルの、イリスはカンディスの、そしてユリシアはラメラの首輪の影響下にある。
そして、その事から当然予測できるが、彼女達は自分達だけではその欲求を完全には満足させる事は出来ない。三人とも女性なのだから。
「さてキャナル、いよいよ劇の目玉をお見せする時だ」
「はい・・・」
うっとりと頬を赤く染めて、キャナルはカンディスの腕が導くままに、まだ未成熟な肢体を任せる。
亀頭がキャナルの膣口に当たり、そしてキャナル自信の体重でズブズブと男性器がめり込んでいく。
「うっ、ぐぅ、ヒギィィィィッ! や、破れました、処女膜破れましたぁぁぁっ!」
嬉しそうに、自分の処女喪失を報告するキャナル。報告されなくてもそれはわかっているカンディスも、ここまで嬉しそうにされればただただ満足なだけだ。
「そうか、では記念だ。お前にプレゼントをやろう」
グルリと、体位を正常位からバックに変える。
「んあぁぁっ、ラメラさん? 何をして・・・」
キャナルの目の前には、自分に尻を向けたラメラがいる。
「何ってプレゼントだよ。このあたしのお尻の穴にあんたが指を出し入れするたびに、同じ回数だけカンディス様があんたのオマンコの中のオチンチンを動かしてくれるんだよ。
それだけじゃなくて、あたしをイかせればイかせただけ、中出ししてくださるんだ。嬉しいだろ?」
ゴクリと、キャナルが生唾を飲み込んだ。もちろん、期待のためだ。
「ほら、あたしの淫乱マゾケツ穴をかき回さないと、カンディス様はいくら待っても動いてくれないよ。早く・・・あぐぅぅぅっ、そう、そのちょうしぃいぃぃっ!」
キャナルはラメラの言葉が終わるのを待たず、ラメラの肛門に指を二本突っ込んだ。直腸深くの指を、引き抜こうとすると、それと大体同じような速さで、カンディスが腰を動かし始める。
それだけ理解できれば彼女にとっては、何の問題も無い。姉のように慕っているラメラの直腸をえぐりかき回す事に、キャナルは何の躊躇も覚えなかった。
「あっぐぅぅうぅぅぅっ! もっとぉ、もっとオチンチンくださいぃっ!」
「ひぃぃぃぃぃっ! 激しすぎるぅぅぅっ、お尻切れるぅぅぅぅぅっ!」
二人の嬌声とキャナルの性器とラメラの肛門の水音が、淫靡な不協和音を奏でる。
処女故の痛みと、事前に増幅された性感。この二つでキャナルの頭は塗りつぶされた。もう自分がラメラの直腸をかき回すのが先なのか、カンディスにペニスを出し入れされるのが先なのか解らなくなっている。
獣じみた悲鳴を上げながら、ラメラが達する。
「イきましたっ、ラメラさんお尻でイきましたぁっ! せーし、せいし中にくださいぃっ!」
キャナルの叫びに応えるように、カンディスの精子が子宮めがけて流し込まれた。
「・・・ああ、苦しいやら気持ち良いやらで大変だった」
カンディスはそう言いながら、失神しているキャナルの膣からペニスを引き抜いた。普段から出し惜しみせずに性欲のままに動く癖に、変な条件をつけたのは彼だから自業自得だ。
その条件の通り、ラメラがキャナルの指でイった回数(キャナルが失神した後も)膣内射精を行ったのだから奇妙な所で律儀な悪魔である。
「ラメラは・・・起きてはいるようだがしばらく駄目か」
キャナルの指を肛門に突き刺したまま、放心している。カンディスの声も聞こえているかどうか疑わしい。
「さて、我輩以外の役者がダウンしたので、ここで即興劇は幕だが・・・見た感想はどうかね? 観客諸君」
ユリシア達観客は満足していないようだった。もちろん、劇の内容そのものにではなく、自分達が劇の内容を再現できないからだ。
ユリシアに限っては再現可能だったが、娘二人はそれに(おそらく、劇の順序や構成が異なってしまうために)強力しなかった。
じりじりと欲求と嫉妬に身を焦がしている三人の母親は、カンディスの質問にはそっちのけでどうすれば自分達の望みが叶うのか考えている。特にイリスは深刻だ。何せ生物的な問題をクリアしなくては、彼女の欲求は叶えられないのだから。
「・・・もしよければ、彼女達の変わりにこの劇をやってみるかね?」
そこにカンディスが手を差し伸べてみせる。今のユリシア達の状態はラメラやキャナル、そしてカンディス自身への嫉妬と行為を模倣したいと言う欲求を植えつけられ、増幅され、そしてほとんど支配されている。まともな思考能力は期待できない。
だから、普段なら決してかからない罠にも容易くかかる。
「もしやってくれるのなら、我輩達が行った劇の内容を・・・いや、それ以上の劇を君達に演じさせてあげよう。
開発された肛門に指を挿入され、直腸をかき回され何度もイかされる役」
ゴクリと、ユリシアがつばを飲み込む音がカンディスの耳に届く。
「処女を献上した相手に、年上で同姓の直腸をかき回し多分だけ膣内のペニスを出し入れされ、イかせた回数だけ失神してからも膣内射精される役」
シーリスが夢を見ているように、瞳をうっとりとさせる。
「じゃあ、初めての女の子のあそこに何度も射精する役も出来るのっ!?」
イリスが期待に満ちた声でカンディスに質問する。その質問にはカンディスも思わず答えが詰まった。
『羨望の首輪』が未完成であったが故に自身もつけているのだから、この質問が来る事も当然カンディスは予想していたが・・・肉体を変化させる薬の類は未完成。しかも、女性に男性器を生やす薬なんて、元々研究していない。
「・・・今すぐは不可能だが、近い将来必ず」
っと、言う歯切れの悪い答えになった。
「そのかわりに、君達には私の物になってもらう。キャナルとラメラのようにな。私の求めるままに、私の書いた脚本で、私の考えた演出で演じてもらう。アドリブは歓迎するがね」
「それは・・・」
カンディスの言っている条件が、ただ劇団に入団する事ではないことぐらいは、思考能力が低下したユリシアでも察することが出来た。
「なりますっ! あなたのものになりますっ!」
「何でもやりますから、あたしにオチンチン生やしてくださいっ!」
母親のためらいには一切かまわず、イリスとシーリスはあっさりと自分を売り渡した。イリスは普通なら叶えられない欲求のために。シーリスはキャナルに対する嫉妬も手伝って。
「娘さん達は我輩のものになったわけだが・・・貴女はどうする?」
躊躇い揺れるユリシアに、カンディスはそう声をかけながら壁際に置いておいた天秤を手に取った。
この黒い天秤は、『傲慢の天秤』と言うカンディスの作品だ。
その効果は・・・。
「ユリシアの欲求とそれに対する抵抗」
カンディスが呟くと、『傲慢の天秤』の秤が僅かに動いた。よく見ると、右が僅かに下がっている。
「・・・僅かながらに抵抗が勝っているのか」
このように、指定した人物の特定の感情の大きさや価値感、そしてそれに相対する心理を計る事が出来る。そしてもちろん、それ以外の機能もある。
「ではこうすると・・・」
そう言いながら、カンディスは右の天秤・・・抵抗の方を、指をかけて下げていく。その途端、まだ迷っていたユリシアが顔を引き締めて言った。
「お断りしますっ! そんな事できるはずが無いわっ!」
さっきまで迷っていたのが幻のように、怒りすら滲ませてユリシアはきっぱりと断った。
それを確認するとカンディスは右から指を離し、今度は反対側の天秤を下に下げていく。
その途端、鮮やかな程見事にユリシアの顔から血の気が引いた。
「あっ・・・い、今のは、今のは嘘ですっ! なりますっ! あなたのものになりますっ!」
土下座せんばかりの勢いでそう言うと、カンディスの腰にすがりつく。
「何でもしますっ! あそこでもお尻でも好きにつかってくださいっ! メス犬でもメス豚でも、好きにお呼びくださいっ!」
「・・・調節が難しいな」
ユリシアを見ながら、カンディスは眉に皴を寄せた。ほんの少し天秤を動かすだけでこの始末だ。カンディスとしては、微妙に加減しながら楽しもうと思っていただけに、失望が大きかった。
「・・・価値観の操作は、面白いのだがこれでは少し趣にかけるな」
今のユリシアなら、カンディスが要求すれば裸のまま町に出ることも、それこそ夫の目の前でカンディスに抱かれる事すらも、喜んで受け入れただろうが、元々そんな事を要求する気は無かったカンディスは締めにかかった。
「ではお前たちは明日の朝、この町から出て我輩のいる修道院に来てもらおう。・・・夫へ手紙を残してな。
いいか? 文面は・・・」
家庭を顧みない夫に疲れた母と娘が、置手紙を残して修道院に入る。
スキャンダルだが、悪魔とは結びつかないシナリオをカンディスは用意していた。
カンディスが修道院に帰ってきてから、三日がたった。
ザジの報告と町で手に入れた獲物を、研究とセックスをしながら待っていれば良いので、気楽な日々であった。
肉体操作の薬品の研究も順調である。
「・・・この草のエキスを少々・・・・・・」
カンディスが自室の研究室で微妙な材料の分量を慎重に測り、薬品に加えようとしたところで、事件は起きた。
「ダンナーッ! ていへんだっー!!!」
弾丸のような勢いで、ザジがそう叫びながら窓から突っ込んできたのだ。
当然のようにすべる手元、割れたガラスとザジの起こした風で飛び塵、砕ける材料や薬品の瓶。
「なっ、何だっ!? ハルマゲドンでも始まるのかっ!?」
ぎょっとするカンディスに、ザジは首をブンブンと大きく振って答えた。
「ダンナが目をつけてた村で、水神を鎮めるために祭りをするって事になったんだっ!」
その言葉に、カンディスは顔を紙のように真っ白にする。
カンディスが目をつけた村は、クロス教の教区の外の辺境。そこで神を鎮めるための祭りといったら、一つ。
「生贄の祭りかっ!? ・・・我輩の獲物がっ!」
生贄に捧げられるのは、清らかなものや美しいものがポピュラーだ。カンディスが目をつけるような美少女達などは、真っ先に候補に挙げられるだろう。
「いくぞザジっ! 我輩の獲物を水神とやらへの賄賂などに使われてなるものかっ!」
机の上の薬品を幾つか引っつかみ、カンディスはザジが破った窓から飛び出すと、弾丸のように飛んでいった。
「ダンナッ! 村は逆ですぜーっ!」
慌ててそれを追いかけて行くザジ。
やはり悪魔は、気楽な日々とは無縁のようだ。
< 続く >